(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】異常検出装置、異常検出方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20230831BHJP
G06F 16/90 20190101ALI20230831BHJP
【FI】
G05B23/02 V
G05B23/02 T
G05B23/02 302T
G06F16/90
(21)【出願番号】P 2020553912
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042252
(87)【国際公開番号】W WO2020090770
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018204515
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【氏名又は名称】沖田 壮男
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(72)【発明者】
【氏名】堤 誠司
(72)【発明者】
【氏名】平林 美樹
【審査官】早川 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-191556(JP,A)
【文献】特開2018-081523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0270579(US,A1)
【文献】国際公開第2014/034273(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G06F 16/00-16/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された複数の前記検出結果のそれぞれに対して、異常の性質に応じた特徴を抽出する複数のモード情報取得処理を行って得られた複数のモード情報に基づいて、前記複数のセンサのうち、異常の可能性がある特定センサを推定する推定部と、
前記取得部により所定時間毎に取得された前記検出結果の時系列情報を時間構造によって前記センサ毎の多変量データに再構成し、再構成した前記多変量データを多変量解析手法によって解析することにより、前記複数のモード情報を取得する解析部と、
を備
え、
前記推定部は、前記解析部によって取得された前記複数のモード情報に基づいて、前記特定センサを推定する、
異常検出装置。
【請求項2】
前記解析部は、滑走窓法によって前記多変量データに前記時間構造を導入する、
請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記滑走窓法の窓幅を、所定値以上にすることにより、前記多変量データのノイズを除去する、
請求項2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記解析部は、2つ以上の前記センサを選択したセンサグループ毎に、前記センサグループの同一時刻の検出結果を検出時刻毎に組み合わせることで、前記検出結果を多変量データに再構成し、再構成された前記多変量データを多変量解析手法によって解析することにより、前記複数のモード情報を取得する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記解析部は、2つ以上の前記センサを選択したセンサグループ毎に、時間構造の導入によって前記センサ毎に再構成した前記多変量データから多変量解析により得られたモード情報を検出時刻毎に組み合わせることで、前記センサ毎のモード情報を多変量データに再構成し、再構成された前記多変量データを多変量解析手法によって解析することにより、前記複数のモード情報を取得する、
請求項4に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記複数のセンサの中で、所定の数のセンサについて、所定の種類のセンサについて、又は互いに相関関係にあるセンサについて、前記モード情報を取得する、
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記モード情報を2つ組合せ、一方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ、2次元の位相平面の第1軸上の値とし、他方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ前記位相平面の第2軸上の値とし、同時刻の要素を座標とした軌道を導出する導出部を更に備え、
前記推定部は、前記導出部によって導出された前記軌道に基づいて、前記特定センサを推定する、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項8】
前記モード情報の計測時刻に係る情報を、座標平面の第1軸とし、前記モード情報の計測値に係る情報を、前記座標平面の第2軸とする2次元平面上の軌道を導出する導出部を更に備える、
請求項1から請求項7のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項9】
前記導出部は、
相関関係のある前記センサに関して前記軌道を導出する、
請求項7又は請求項8に記載の異常検出装置。
【請求項10】
前記推定部は、前記導出部によって導出された前記軌道の形状が、通常状態の軌道の形状と異なる場合、前記軌道に係る前記センサを、前記特定センサとして推定する、
請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項11】
前記軌道の形状に基づいて、非類似度を算出する非類似度算出部を更に備え、
前記推定部は、前記非類似度算出部によって算出された前記非類似度が通常時のデータ相互間の非類似度と比して大きい場合、当該非類似度に係る前記センサを、前記特定センサとして推定する、
請求項7から請求項10のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項12】
前記非類似度算出部は、クラスタリング手法によって複数の通常データと検出対象データを前記非類似度に基づいて分類し、
前記推定部は、検出対象が通常データと異なるクラスタに分類された場合、前記センサを、前記特定センサとして推定する、
請求項11に記載の異常検出装置。
【請求項13】
相関関係がある前記センサを示す相関関係情報を生成する相関関係情報生成部を更に備え、
前記相関関係情報生成部は、前記非類似度算出部によって算出された相関関係にあるセンサの組合せがつくる位相面軌道形状と相関関係の判定をするセンサの組合せがつくる位相面軌道形状を非類似度によりクラスタリングした結果に基づいて、相関関係の判定をするセンサの組合せが、前記推定部により相関関係のあるセンサグループに分類されていると推定された結果を、前記相関関係情報として生成する、
請求項12に記載の異常検出装置。
【請求項14】
前記推定部は、前記センサの組合せ毎に、前記センサ、及びセンサの組合せが異常値を示しているか否かを推定した要素を有する
状態のマトリクスを生成し、生成した前記
状態のマトリクスに基づいて、前記特定センサの推定、特定センサに係る異常の原因、又は異常の種類を推定する、
請求項7から請求項13のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項15】
前記推定部は、前記
状態のマトリクスにおいて、前記センサ間の相関関係の破綻の有無に基づいて、前記特定センサに係る異常の原因、又は異常の種類を推定する、
請求項14に記載の異常検出装置。
【請求項16】
前記推定部は、前記
状態のマトリクスに異常値を示している要素があり、且つ当該要素に係るセンサと相関関係にあるセンサの要素が異常値を示していない場合、センサ間の相関関係が破綻していると推定し、異常値を示している要素に係るセンサが故障していると推定する、
請求項14又は請求項15に記載の異常検出装置。
【請求項17】
前記推定部は、前記
状態のマトリクスに異常値を示している要素があり、且つ当該要素に係るセンサと相関関係にあるセンサの要素が異常値を示している場合、センサ間の相関関係が破綻していないと推定し、前記センサの検出対象のシステムが故障していると推定する、
請求項14から請求項16のうちいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項18】
コンピュータに、
複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得させ、
取得された複数の前記検出結果のそれぞれに対して、異常の性質に応じた特徴を抽出する複数のモード情報取得処理を行って得られた複数のモード情報に基づいて、前記複数のセンサのうち、異常の可能性がある特定センサを推定させる、
プログラム
であって、
所定時間毎に取得された前記検出結果の時系列情報を時間構造によって前記センサ毎の多変量データに再構成させ、再構成された前記多変量データを多変量解析手法によって解析することにより、前記複数のモード情報を取得させ、
取得された前記複数のモード情報に基づいて、前記特定センサを推定させる、
プログラム。
【請求項19】
複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記検出結果の時系列情報を時間構造によって前記センサ毎の多変量データに再構成し、再構成した前記多変量データを主成分分析法によって解析することにより、前記センサ毎に特徴が抽出された主軸上のスコアの時系列情報であるモード情報を取得する解析部と、
前記解析部で取得された複数のモード情報から選択した2つのモード情報について、一方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ、2次元の位相平面の第1軸上の値とし、他方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ前記位相平面の第2軸上の値とし、同時刻の要素を座標とした軌道を導出する導出部と、
前記導出部によって導出された前記軌道の形状が、通常状態の軌道の形状と異なる場合、前記軌道に係る2つのセンサを、異常の可能性がある特定センサとして推定する推定部と、
を備える異常検出装置。
【請求項20】
前記導出部は、前記複数のセンサそれぞれについて、当該センサに係るモード情報および他のセンサに係るモード情報に基づく軌道を導出し、
前記推定部は、前記導出部によって導出されたそれぞれの軌道に基づいて、当該センサおよび他のセンサを特定センサとして推定し、
前記複数のセンサそれぞれについて、当該センサと他のセンサの組合せ毎に、前記センサの組合せが特定センサとして推定したか否かを示す要素を有する
状態のマトリクスを生成し、
生成した前記
状態のマトリクスに基づいて、異常の可能性のある1のセンサを推定する、
請求項19に記載の異常検出装置。
【請求項21】
複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された複数の前記検出結果のそれぞれに対して、異常の性質に応じた特徴を抽出する複数のモード情報取得処理を行って得られた複数のモード情報に基づいて、前記複数のセンサのうち、異常の可能性がある特定センサを推定する推定部と、
前記モード情報を2つ組合せ、一方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ、2次元の位相平面の第1軸上の値とし、他方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ前記位相平面の第2軸上の値とし、同時刻の要素を座標とした軌道を導出する導出部と、
を備え、
前記推定部は、前記導出部によって導出された前記軌道の形状が、通常状態の軌道の形状と異なる場合、前記軌道に係る前記センサを、前記特定センサとして推定する、
異常検出装置。
【請求項22】
複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された複数の前記検出結果のそれぞれに対して、異常の性質に応じた特徴を抽出する複数のモード情報取得処理を行って得られた複数のモード情報に基づいて、前記複数のセンサのうち、異常の可能性がある特定センサを推定する推定部と、
前記モード情報を2つ組合せ、一方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ、2次元の位相平面の第1軸上の値とし、他方のモード情報に含まれる要素をそれぞれ前記位相平面の第2軸上の値とし、同時刻の要素を座標とした軌道を導出する導出部と、
前記軌道の形状に基づいて、非類似度を算出する非類似度算出部と、
を備え、
前記推定部は、前記非類似度算出部によって算出された前記非類似度が通常時のデータ相互間の非類似度と比して大きい場合、当該非類似度に係る前記センサを、前記特定センサとして推定する、
異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムに関する。
本願は、2018年10月30日に、日本に出願された特願2018-204515号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種システム(原子炉、航空機のエンジン、鉄道網、生命維持装置等)において、異常がもたらすダメージを最小限に抑えるために、システムに設けられたセンサの検出結果を取得し、取得した検出結果が示す値が、予め設定した閾値を超えた場合に異常として検出する手法がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、運転条件や環境の変化に対応して閾値が変化することなどから、異常を検出することが難しい場合があった。また、閾値の設定が困難である場合には、異常の発生を予兆の段階で判定することが難しかった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、閾値を予め設定することなく、異常の可能性があるセンサを推定することができる異常検出装置、異常検出方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、複数のセンサの各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を取得する取得部と、前記取得部によって取得された複数の前記検出結果のそれぞれに対して、異常の性質に応じた特徴を抽出する複数のモード情報取得処理を行って得られた複数のモード情報に基づいて、前記複数のセンサのうち、異常の可能性がある特定センサを推定する推定部と、を備える異常検出装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、閾値を予め設定することなく、異常の可能性があるセンサを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の異常検出装置1の構成の一例を示す図である。
【
図2】検出結果情報300の内容の一例を示す図である。
【
図3】相関関係情報202の内容の一例を示す図である。
【
図4】参考情報206の内容の一例を示す図である。
【
図5】「第1種モード情報取得処理」の一例を示す図である。
【
図6】「第2種モード情報取得処理」の一例を示す図である。
【
図7】通常状態におけるセンサ計測値の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図8】通常状態における位相平面上の軌道の形状の一例を示す図である。
【
図9】異常状態におけるセンサ計測値の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図10】異常状態における位相平面上の軌道の形状の一例を示す図である。
【
図11】非類似度算出部108によって分類された複素パワーケプストラム距離Dcの一例を示す図(デンドログラム)である。
【
図12】推定部109によって生成された状態遷移マトリクスの一例を示す図である。
【
図13】異常検出装置1の処理の一連の流れを示すフローチャートである。
【
図14】ステップS102に係る特定センサの推定処理の一連の流れを示すフローチャートである。
【
図15】ステップS302に係る特定センサの推定処理の一連の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
以下、図を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[全体構成]
図1は、実施形態の異常検出装置1の構成の一例を示す図である。異常検出装置1は、異常検出対象の装置やシステムにおいて生じた異常を検出する。異常検出装置1は、例えば、制御部100と、記憶部200とを備える。制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサが記憶部200に記憶されるプログラム(ソフトウェア)を実行することにより、取得部102と、解析部104と、導出部106と、非類似度算出部108と、推定部109と、出力部110とを機能部として実現する。また、これらの構成要素のうち一部又は全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0011】
記憶部200は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)により実現されてもよく、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)により実現されてもよく、ドライブ装置に装着される記憶媒体であってもよい。また、記憶部200の一部又は全部は、NAS(Network Attached Storage)や外部のストレージサーバ等、異常検出装置1のアクセス可能な外部装置であってもよい。記憶部200には、例えば、相関関係情報202と、軌道形状情報204、参考情報206とが記憶される。各種情報の詳細については、後述する。
【0012】
取得部102は、異常検出対象の装置やシステムに配置された複数のセンサ(不図示)の各々が検出対象の状態を所定時間毎に検出した複数の検出結果を示す情報(以下、検出結果情報300)を取得する。検出対象は、例えば、異常検出対象の装置やシステムにおいて、変化が生じる物理量であり、検出対象の状態は、例えば、物理量の値である。この物理量は、例えば、機械的性質、電磁気的性質、熱的性質、音響的性質、化学的性質等のうち、少なくともいずれかを示すものであってもよく、或いはそれらで示される空間情報や時間情報であってもよい。この物理量は、例えば、圧力、流量、弁開度、大気圧、外気温、水温、血圧、脈拍等を含む。異常検出対象の装置やシステムは、例えば、ロケット(例えば、再使用ロケットのエンジンシステム)、交通システム、発電装置、生命維持装置等である。異常検出対象のシステムがロケットのエンジンシステムである場合、複数のセンサは、ロケットに搭載され、エンジンシステムの状態を知るための検出対象(物理量)を検出する。
【0013】
なお、異常検出対象の装置やシステムは、これらロケットのエンジンシステムや発電装置等に限定されず、検出対象である物理量が取得可能な装置やシステムであればよい。また、取得部102は、検出結果情報300の他、必要に応じて、異常検出、又は異常の種類や原因の推定に必要な情報などを取得する構成であってもよい。
【0014】
取得部102は、例えば、異常検出装置1に接続される複数のセンサから検出結果情報300を取得してもよく、ネットワークを介して情報の送受信が可能な接続されたセンサから検出結果情報300を取得してもよく、動作を完了した異常検出対象の動作履歴(例えば、ログ情報)に含まれるセンサの検出履歴を、検出結果情報300として取得(抽出)してもよい。以降の説明では、取得部102が、データロガーに記憶されるログ情報から検出結果情報300を取得する場合について説明する。センサは、「検出部」の一例である。
【0015】
図2は、検出結果情報300の内容の一例を示す図である。検出結果情報300には、例えば、物理量を計測しているセンサを識別可能な情報(図示するセンサID)と、センサ名と、当該センサが所定時間毎に検出対象である物理量を検出した検出結果とが互いに対応付けられた情報が、センサ毎に区別して格納される。
図2において、センサIDが「0001」であり、センサ名が「A」のセンサは、検出対象が異常検出対象の時系列情報であり、検出結果には、センサが測定(検出)した計測値(例えば、温度、圧力、流量等)が示される。
【0016】
図1に戻り、解析部104は、取得部102によって取得された複数の単変量の検出結果を、多変量解析に用いる行列分解法(例えば、主成分分析)によって解析することにより、異常の特徴に応じた複数のモード情報を取得する。
【0017】
導出部106は、例えば、解析部104によって取得されたモード情報に基づいて、位相平面上、又は位相空間上における軌道を導出することにより、モード情報を可視化する。非類似度算出部108は、導出部106が導出した可視化情報に基づいて、推定部109が特定センサを推定する際に用いる指標(以下、非類似度)を算出する導出部106と、非類似度算出部108の詳細については、後述する。
【0018】
推定部109は、例えば、取得部102から取得された検出結果情報300、又は解析部104によって取得されたモード情報のうち、少なくとも一方に基づいて、導出部106によって導出された軌道、又は非類似度算出部によって算出された非類似度の少なくとも一方に基づいて、各検出結果を検出したセンサが、異常な値を示しているセンサ(以下、特定センサ)であるか否かを推定する。検出する異常には、例えば、通常時には発生しない周期性の変化、不定期ノイズの混入、計測値の振動等の多様な異常が含まれる。また、異常の種類には、例えば、異常検出対象の装置やシステムの異常(以下、システム異常)と、センサの異常(以下、センサ異常)とが含まれる。
【0019】
出力部110は、推定部109によって特定センサであると推定されたセンサに係る情報を出力する。出力部110は、例えば、異常検出装置1に接続される表示装置(不図示)に特定センサを示す画像を表示してもよく、ネットワークを介して接続される他の装置に特定センサを示す情報を出力してもよく、記憶部200に特定センサを示す情報を記憶させてもよい。なお、出力部110は、取得部102によって取得された検出結果、解析部104によって取得されたモード情報、導出部106によって導出された軌道を示す情報、非類似度算出部108によって算出された非類似度等を記憶部200に記憶させてもよい。また、記憶部200は、異常検出装置1と別体に構成されていてもよい。
【0020】
[解析部104の処理]
以下、解析部104の処理の詳細について説明する。まず、解析部104は、例えば、取得部102によって取得された検出結果に、公知の技術である滑走窓法などを利用して単変量の時系列情報を部分時系列とよばれる近傍の計測値を要素とするベクトルの集まりに変換する。これにより、解析部104は、検出結果を近傍の計測値を変数としてもつ多変量データとして再構成する。滑走窓法により再構成された検出結果に対して、複数のモード情報取得が可能な行列分解法を用いて多変量解析を行う場合、解析部104は、主成分分析結果に時間構造(ラグ構造)を取り込むことができるだけでなく、且つ窓幅の数だけ、検出結果から複数のモード情報を取得することができる。滑走窓法の詳細については、後述する。このようにして得られた複数のモード情報には、それぞれ異なる性質の異常(周期性の変化、不定期ノイズの混入、計測値の振動等)が示されており、推定部109は、解析部104によって取得された各モード情報に基づいて、多様な異常を判定する。
【0021】
以降の説明において、解析部104が行う処理であり、単一のセンサの時系列情報を、ラグ構造を利用してベクトル化することによって多変量データに再構成し、複数のモード情報取得が可能な多変量解析法(例えば、主成分分析)を利用して行うモード情報の取得処理を、「第1種モード情報取得処理」と記載する。これに対し、解析部104が行う処理であり、2つ以上のセンサの時系列情報を時間毎に集めてベクトル化することによって多変量データに再構成し、これを複数の独立した多変量データとして扱うことにより実行される一般的な時間領域での多変量解析法(例えば、主成分分析)を利用して行うモード情報の取得処理を「第2種モード情報取得処理」と記載する。
【0022】
解析部104は、「第2種モード情報取得処理」によって、2つ以上のセンサをまとめて多変量解析を行う場合、「第1種モード情報取得処理」とは異なる視点によるモード情報を取得することができる。また、解析部104は、主成分分析を用いた「第2種モード情報取得処理」を行う場合、主成分分析を用いた「第1種モード情報取得処理」において滑走窓法を用いた場合において窓幅の数だけモード情報が抽出される場合とは異なり、多変量データの再構成に用いたセンサの数だけ複数のモード情報を取得することができる。また、解析部104は、「第2種モード情報取得処理」において、一度に複数のセンサの検出結果に基づいてモード情報を取得するため、センサ毎にモード情報を取得する「第1種モード情報取得処理」に比べて、異常検出対象が備えるセンサ数が多い場合には、計算を省力化することができる。
【0023】
解析部104は、例えば、検出結果情報300に示される単一センサの検出結果のモード情報取得処理前の検出結果(以下、0次モード情報と呼ぶ)や、当該センサの検出結果に標準化を行ったデータ(以下、標準化0次モード情報)を、「第1種モード情報取得処理」の対象データとする。また、解析部104は、例えば、「0次モード情報」、「標準化0次モード情報」、「第1種モード情報取得の結果である1次から高次までのモード情報」、「標準化された第1種モード情報取得の結果である1次から高次までのモード情報」等を、「第2種モード情報取得処理」の対象データとする。
である。
【0024】
また、解析部104は、前記のように「第1種モード情報取得処理」を行ったデータを用いて「第2種モード情報取得処理」を行うことにより、「第2種モード情報取得処理」で失われるラグ構造の取り込みを可能にすることができる。これは以下のような理由による。滑走窓法を利用して、データを再構成し、多変量解析を行った「第1種モード情報取得処理」データには、ラグ構造が取り込まれる。一方、「第2種モード情報取得処理」の場合、解析部104は、2つ以上のセンサの時系列情報を時間毎に集めてベクトル化することによって多変量データに再構成するため、データ間の時間相関は失われる。解析部104は、ラグ構造が導入された「第1種モード情報取得処理」の結果をセンサの時系列情報として、「第2種モード情報取得処理」に用いることでモード情報取得の際に失われる時間相関を回復することが可能になる。
【0025】
解析部104は、取得部102によって取得された検出結果情報300に基づいて、センサ毎に実行される「第1種モード情報取得処理」、或いは2つ以上のセンサの組合せに対して実行される「第2種モード情報取得処理」を行い、複数のモード情報により、閾値の設定されていない異常や閾値の設定が困難な異常(周期性の変化や不定期ノイズの混入など)など多様な異常の特徴を抽出する。以降の説明において、解析部104が、多様な異常の特徴を捉えたモード情報を取得する手法を、(1)「多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得法」とも記載する。
【0026】
[導出部106の処理]
以下、導出部106の処理の詳細について説明する。導出部106は、解析部104によって取得された複数のモード情報に基づいて、公知の手法(例えば、位相面法)によりモード情報を可視化する。以降は、導出部106は、解析部104によって取得された複数のモード情報に基づいて、位相平面、又は位相空間上に軌道を導出し、モード情報を可視化する場合について説明する。これにより、導出部106は、導出した軌道により検出結果の変化の特徴を拡大し、軌道の観察者に対してわずかな変化でも見逃しなく検知させることができる。更には、導出部106は、導出した軌道により、軌道の観察者に対して多くの物理的な情報を保持したまま視認性良く、異常の検知、異常の種類及び原因の推定などを行わせることができる。また、以降の説明において、導出部106が、解析部104によって取得された複数のモード情報に基づいて、位相平面、又は位相空間上に軌道を導出する手法を、(2)「軌道形状を利用したモード情報の可視化法」とも記載する。
【0027】
[非類似度算出部108の処理]
また、非類似度算出部108は、例えば、導出部106によって位相平面に導出された軌道形状を、複素自己回帰係数に基づいて計算したユークリッド距離、対数尤度比距離、複素パワーケプストラム距離、複素パワーメルケプストラム距離、動的時間伸縮法、或いはニューラルネットワークなどを用いて、通常時との軌道形状の差を数値化する非類似度を算出し、この数値とこの非類似度に基づいてクラスタリングを行うことにより、異常事例と通常事例を分類する。推定部109は、このクラスタリング結果を用いて、閾値によらずに異常の有無を推定するとともに、異常の種類や原因の推定などを行う。以降の説明において、非類似度算出部108が軌道形状を数値化する手法を、(3-1)「モード情報により生成される軌道形状の定量法」と記載する。同じく非類似度算出部108が数値化した軌道形状を複数の通常事例における数値化した軌道形状との非類似度を計算し、これを基にクラスタリングを実行して異常事例と通常事例の分類を行う手法を、(3-2)「軌道形状の数値化情報に基づく非類似度の算出とこれに基づくクラスタリング法」とも記載する。
【0028】
推定部109は、例えば、事前に生成されたセンサ間の相関関係情報202やセンサ部品の交換履歴など異常を判定する際の参考になる情報が格納された参考情報206などを参考にして、例えば、解析結果を統合した状態遷移マトリクスを利用(生成)し、異常の検知やセンサ間の相関関係の破綻の推定、異常原因の判定などを行う。以降の説明において、推定部109が解析結果を統合した状態マトリクスを利用して、異常の有無の推定やセンサ間の相関関係の破綻の推定に基づく異常の種類や原因の推定などを行う手法を、(4)「非類似度算出部の計算結果を状態遷移マトリクスにより統合して詳細な推定を行う方法」とも記載する。
【0029】
図3は、相関関係情報202の内容の一例を示す図である。相関関係情報202は、センサ間の相関関係を示した情報である。相関関係情報202は、例えば、通常時のセンサの検出結果(以下、通常データ)を基づいて、予め生成された情報である。
図3には、互いに相関関係にあるセンサが、センサ毎に示されている。センサIDが「0001」であり、センサ名が「センサA」であるセンサと検出結果が相関関係にあるセンサは、センサIDが「0002」~「0006」であり、センサ名がそれぞれ「センサB」「センサC」「センサD」「センサF」のセンサである。あるセンサと相関関係にあるセンサは、あるセンサ(例えば、「電圧センサ」)の検出対象(例えば、「入口電圧」)の変化に応じて変化する同種の検出対象(例えば、「出口電圧」)を検出するセンサまたは異種の検出対象(例えば、「入口電流」など)を検出するセンサ(例えば、「電流センサ」)である。
【0030】
なお、一方の検出結果が、他方の検出結果の変化に応じて変化するものであっても、設置場所や設置環境に起因して検出結果に相関関係がないと推定されるセンサは、相関関係情報202に含まれていなくてもよい。また、相関関係情報202は、予め生成される情報であってもよく、後述する方法によって、異常検出装置1の機能を用いて、生成されるものであってもよい。この場合、異常検出装置1は、相関関係情報202の生成と同時並行によって異常の検出を行ってもよい。
【0031】
推定部109は、相関関係情報202を参照し、センサが異常値であるか推定する。推定部109は、例えば、解析部104により取得されたモード情報、導出部106により導出された軌道、非類似度算出部108により算出された非類似度等に基づいて、「センサA」と他のセンサの組合せが異常値を示していると推定し、且つ「センサA」と相関関係にあるセンサが他の組合せでは異常値を示してしていないと推定する場合は、「センサA」と相関関係にあるべきセンサとの相関関係が破綻しており、「センサA」は「センサ故障」であると推定する。換言すると、推定部109は、「センサA」をセンサ故障により異常値を示しているセンサであると推定する。一方、推定部109は、解析部104により取得されたモード情報、導出部106により導出された軌道、非類似度算出部108により算出された非類似度等に基づいて、「センサA」と相関関係にある他のセンサの相関関係が破綻していない場合は、「システム異常」と推定する。このとき、例えば、解析部104、導出部106、非類似度算出部108、推定部109等における処理を相関関係のあるセンサだけに絞って行うことで、異常検出に要する時間を短縮することができる。推定部109の処理の詳細は後述する。
【0032】
そして、推定部109で、「システム異常」と推定された場合は、相関関係情報202の他、参考情報206を利用して、異常値を示しているセンサの特定と異常の原因を推定する。推定部109の上記手順の詳細は後述する。
【0033】
図4は、参考情報206の内容の一例を示す図である。参考情報206は、センサを識別可能なセンサIDと、センサ名と、センサの計測点近傍の装置およびシステムを構成する部品名(例えば、センサが管路に設置された流量計ならば、管路を構成する管材など)、その部品の交換日、部品を製造(又は、販売)する業者(メーカー)等の、センサ周辺部品の整備履歴の他、センサ自身を構成する部品の部品名、センサの交換日、センサ製造者など異常検出の原因の推定に用いるために必要な情報などがセンサ毎に互いに対応付けられた情報である。なお、参考情報206の内容は、一例であって、これに限られず、参考情報206に記載しておくことが有用であると考えられる情報を記しておくことができる。
【0034】
以下、上述の異常推定プロセスの一例を(1)「多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得法」、(2)「軌道形状を利用したモード情報取得情報の可視化法」、(3-1)「モード情報取得情報により生成される軌道形状の定量法」(3-2)「軌道形状の数値化情報に基づく非類似度の算出とこれに基づくクラスタリング法」、(4)「非類似度算出部の計算結果を状態遷移マトリクスにより統合して詳細な推定を行う方法」に分けて、その詳細を説明する。
【0035】
[(1)多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得法について]
以下、解析部104が実行するモード情報取得処理の内容について説明する。上述したように、解析部104は、取得部102によって取得された単一センサの時系列情報に対して、例えば、滑走窓法を適用して時系列情報をベクトルの集まりに変換することにより、近傍の時間情報を変数としてもつ多変量データとして再構成することができる。これにより、解析部104は、多変量解析に適用する行列分解法を利用して窓幅の数だけ、複数モードの異常抽出が可能になる。また、解析部104は、同時にモード情報にラグ構造を取り込むこともできる。同時にモード情報にラグ構造を取り込む処理は、上述した「第1種モード情報取得処理」である。
【0036】
図5は、窓幅5の滑走窓法を用いて、単一センサの時系列情報をベクトルの集まりに変換し、多変量データとして再構成し、主成分分析によりモード情報取得処理を行う「第1種モード情報取得処理」の一例を示す図である。解析部104によって再構成されたデータは、多変量解析法を用いて多変量解析を実行することにより、異なる特徴を抽出したモード情報を得ることが可能になる。さらに、解析部104によって再構成されたデータは、各モードにはそれぞれ異なる性質をもった異常の特徴が抽出されるだけでなく、上述の「第2種モード情報取得処理」において複数のセンサの検出結果を集めて多変量データに再構成する際に、「第1種モード情報取得処理」が行われた情報を使うことにより、時間相関を無視して再構成された多変量データを用いて多変量分析が行われることに伴い失われる時間相関を回復することができる。
【0037】
以上述べたように、解析部104は、「第1種モード情報取得処理」において、例えば、ラグ構造を導入することにより、単一センサの検出結果から得られる単変量データを多変量データに変換して、主成分分析法、カーネル主成分分析法、ファジィ主成分分析法、スパース主成分分析法、確率的主成分分析法、ロバスト主成分分析法のような多変量解析手法を適用する。これにより、解析部104は、ことで複数のモード情報を取得する。解析部104が、「第1種モード情報取得処理」において上述の例のように滑走窓法を用いた場合には、窓幅のサイズm(mは、自然数。)だけ、複数のモード情報を取得することができる。複数のモード情報のそれぞれは、異なる異常の特徴が抽出されるため、異常検出装置1は、複数のモード情報を用いて異常検出を行うことで、見逃しのない異常検出が可能になる。
【0038】
図6は、「第2種モード情報取得処理」の一例を示す図である。について示したものである。「第2種モード情報取得処理」とは、上述のように解析部104が、同時刻の2つ以上のセンサの検出結果を要素にもつベクトルの集まりに変換して、独立なデータセットに再構成することで、多変量解析を利用し、複数モードの特徴抽出を行うものである。
図6(A)~(C)は、「センサA」と「センサB」の先に0次モード情報と名付けたモード情報取得処理前の検出結果で作る位相面の一例を示す3つのグラフである。
図6(A)~(C)に示される通り、0次モード情報では、異常が明瞭ではない。
図6(D)~(E)は、主成分分析を利用した「第2種モード情報取得処理」により抽出した第1主軸上と第2主軸上のスコア(以後、それぞれ1次モード情報、2次モード情報ともよぶ)を示すグラフである。
図6(D)~(E)に示される通り、第2主軸上(2次モード)では、異常の特徴が抽出されていることがわかる。「第1種モード情報取得処理」においても同様に、取得されたモードに応じて異なる異常の特徴を抽出することができる。「第2種モード情報取得処理」では、例えば、一つのデータセットにs個のセンサが含まれているとすると、センサの数s(sは、自然数。)だけ、異なる異常の特徴をとらえた複数モードの特徴抽出を行うことができる。
【0039】
なお、解析部104によって取得された複数のモード情報の中で、どのような異常を検出するのにどのモード情報が適しているかは、対象とする装置やシステムのセンサ情報を用いて、事前に調べておくことが可能である。例えば、閾値が設定された異常は、0次モードが異常を検出するのに適したモードである。また、絶対値が大きく変化するような異常は、1次モードが異常の検出に適したモードである。局所的な変化の大きい異常は、2次モードが異常の検出に適したモードである。また、解析部104が行う「第2種モード情報取得処理」では、センサ間の相関関係が反映されるため、センサ毎にモード情報取得を行う「第1種モード情報取得処理」では抽出できない異常を検出することが可能になる。異常検出装置1は、これらのモード情報や抽出法がもつ特徴に基づいて、事前に異常の性質に応じて使用するモードや抽出方法を選定しておけば、網羅的な解析をすることなく、目的に応じて異常検出や異常の予兆の推定などの処理を迅速に行うことができる。
【0040】
また、参考情報206には、各異常の検出に適したモードを示す情報が含まれていてもよく、解析部104は、当該情報を参照し、各異常を検出する際に適したモードを解析する構成であってもよい。異常検出装置1は、このようにして、複数モードで特徴抽出を行うことで、多様な異常(閾値が設定されていない異常ばかりでなく不定期ノイズの混入のような閾値の設定が困難な異常)を、見逃しなく検出することが可能になる。
【0041】
上述したように、解析部104が「第2種モード情報取得処理」に用いる多変量データは、取得部102によって取得された検出結果(0次モード情報)を複数集めて多変量データに再構成したものでもよいが、「第1種モード情報取得処理」を行った1次以上のモード情報を複数集めて多変量データに再構成したものでもよい。解析部104によって「第1種モード情報取得処理」が行われたデータには、ラグ構造が導入されているため、解析部104は、「第1種モード情報取得処理」を行った情報を用いて「第2種モード情報取得処理」を行うことで、「第2種モード情報取得処理」において、データ間の独立を仮定した多変量解析を行う際に失われる時間相関を回復することできるといった利点がある。
【0042】
なお、解析部104は、「第1種モード情報取得処理」が行われたモード情報を用いて多変量データに再構成する際には、組み合わせるすべてのセンサのモードの種類を統一してもよいし(例えば、すべて1次モード)、センサ毎に0次モード情報も含めて、モードを変えて多変量データに再構成するなど、任意の方法で「第1種モード情報取得処理」情報を利用してもよい。
【0043】
[(2)軌道形状を利用したモード情報の可視化法について]
以下、軌道形状を利用したモード情報の可視化法によって、導出部106がモード情報取得情報を可視化するための処理の内容について説明する。位相面法は、時間を横軸、計測値を縦軸にとった通常のプロットでは見分けることが困難なわずかな変化でも位相面上に拡大する効果があるため、感度よく状態変化を可視化する手法としてよく知られた手法である。導出部106は、位相面法を利用した軌道だけでなく、
図6D、Eに示したような横軸時間、縦軸主成分スコアのような時系列プロットによる軌道生成を行うこともできる。時系列プロットによる軌道でも、位相面法を利用した軌道に用いる検知手順を応用して、非類似度算出部108、推定部109を経て、異常を検知することができる。
【0044】
以降の説明では、可視化対象として「第1種モード情報取得処理」の結果を利用して位相面法により、2次元平面上の軌道情報として異常を可視化する場合について説明するが、導出部106が生成する位相面は2次元に限定されるものではない。高次元では視認が難しくなるが、3次元以上の位相面空間上に軌道を生成し、2次元平面上の軌道に対して実行される処理を応用して異常検出を行うことは可能である。導出部106が「第1種モード情報取得処理」の結果を、位相面法を利用して可視化する場合には、「第1種単変量位相面軌道生成処理」と「第1種多変量位相面軌道生成処理」の2つの方法がある。これらの処理の詳細については、後述する。可視化された結果を最終的に人間が確認する場合には、2次元平面で扱ったほうが、結果を評価しやすい場合が多いが、導出部106は、可視化が困難な高次元の位相面軌道を生成し、以降の処理を行ってもよい。
【0045】
また、導出部106において、位相面軌道を生成する対象は、「第1種モード情報取得処理」の結果に限られない。例えばモード情報取得を行う前の0次モード情報も含めて位相面軌道を生成することができる。導出部106は、窓幅mの「第1種モード情報取得処理」を行った結果を利用した場合は、m個のモード情報に0次モード情報を含めて軌道生成に利用することができ、s個のセンサの検出結果を組み合わせて「第2種モード情報取得処理」を行った結果を利用した場合には、s個のモードに0次モード情報を含めて軌道生成に利用することができる。
【0046】
以下、導出部106が、「第1種モード情報取得処理」の結果を利用して2次元位相面を生成する方法の詳細について述べる。導出部106は、例えば、単一の「センサA」について、横軸に「センサA」の1次モード情報(第1主成分軸上のスコア)、縦軸に「センサA」の2次モード情報(第2主成分軸上のスコア)のように、両軸に同一センサの検出結果に係る情報をプロットする方法によって、2次元位相平面を生成する。以降の説明において、この生成方法を、「第1種単変量位相面軌道生成処理」と記載する。
【0047】
なお、上述したプロット対象の組合せは、一例であってこれに限られない。例えば、横軸に「センサA」の2次モード情報、縦軸に「センサA」の3次モード情報(第3主成分軸上のスコア)をプロットすることもできる。組み合わせは、異常がよりよく検知できるモードを組み合わせることができる。例えば、1次モードと3次モードに異常がよく表れている場合に、横軸1次モード、縦軸3次モードのように組み合わせてプロットすることで、異常の特徴を効果的に可視化することが可能になる。異常の推定に適切なモードは、異常の性質(周期性の変化、不定期ノイズの混入、計測値の振動など)によって異なるので、導出部106は、複数のモードで位相面軌道を生成し、推定部109は、生成した位相面軌道を用いた後述のプロセスを経て、得られた指標(例えば、非類似度)を用い、異常が認められるか否かを推定する。導出部106は、異常の性質がわからない場合には、網羅的にモードを組み合わせて、位相面を生成することになるが、検知したい異常の性質が決まっている場合には、その異常の性質に応じた適切なモードで位相面を生成する。例えば、心電図において、不整脈を検出したい場合、導出部106は、不整脈の種類に応じて、異常の検出に最適なモードで位相面を生成する。したがって、導出部106は、検出したい異常の性質が予め決定されている場合には、生成する軌道に使うモード情報を特定のものに限定するなどして、異常検出に要する時間を短縮することができる。
【0048】
なお、後述において詳細を説明する「第1種多変量位相面軌道生成処理」において、導出部106は、複数センサの変化により、異常検出を行うが、「第1種単変量位相面軌道生成処理」において、導出部106は、単一センサの変化に基づき、上述した例に限定されず、すべての軸に0次モード情報を含む同じモード情報を用いてもよく、適宜モード情報を組み合わせて位相面軌道を生成する。導出部106は、軌道生成を異常の特徴に適したモードに限定することで、異常の検知に要する時間が短縮される。
【0049】
また、導出部106は、「第1種モード情報取得処理」の結果を利用する場合には、両軸に同じセンサから得られた情報をプロットする代わりに、異なるセンサから得られた情報をプロットして、2次元位相平面を生成することもできる。以降の説明において、この生成方法を、「第1種多変量位相面軌道生成処理」と記載する。導出部106は、「第1種多変量位相面軌道生成処理」においても、「第1種単変量位相面軌道生成処理」と同様にプロットするモードの組み合わせを、異常の性質に応じて選ぶことで効果的な異常検出を行うことができる。「第1種多変量位相面軌道生成処理」では、複数のセンサ間の変化に基づいた異常検出により、閾値が設定されていない異常の検知や、異常の原因の推定が可能になる。次に、導出部106が、「第1種多変量位相面軌道生成処理」を行う場合について詳しく説明する。
【0050】
導出部106において、「第1種多変量位相面軌道生成処理」により位相面を生成する方法は例えば以下のようになる。以降の説明では、説明の便宜上、導出部106が「センサA」の1次モード情報と「センサB」の1次モード情報の組合せで位相面軌道を生成する例について説明する。例えば、導出部106は、解析部104で「第1種モード情報取得処理」により取得された「センサA」の1次モード情報を横軸、「センサB」の1次モード情報を縦軸にプロットした位相面を生成する。
【0051】
導出部106は、モード情報取得処理前の0次モード情報を用いて位相面を生成することも可能である。また、上述したように、モード情報の組合せは、これに限られない。異常の性質に応じて異常が抽出されるモードが異なるため、位相面軌道を生成する際に、0次モード情報も含めた最適なモード情報の組合せを選ぶことにより、通常時との違いがより明瞭に表れ、異常検出や異常の種類や原因の推定を効率よく行うことができる。
【0052】
以下では、導出部106が、「第1種モード情報取得処理」で抽出した「センサA」の1次モード情報と「センサB」の1次モード情報を用いて、「第1種多変量位相面軌道生成処理」を行う例を示す。導出部106は、網羅的にすべてのセンサの組合せについて軌道の導出対象とすることも、異常検出の目的に応じて、事前に相関関係情報202を用いて選定したセンサグループのみを軌道の導出対象とすることも、対象とするセンサの組合せを限定し、軌道の導出対象とすることも可能である。導出部106は、正の相関関係にあるセンサ群を対象に軌道を生成すれば、位相面軌道上の異常が拡大して表現することができ、異常の検知や異常の種類の推定が容易にさせることができる。導出部106は、負の相関関係にあるセンサ群を対象に軌道を生成すれば、一方の正負の符号を逆転させるなどプロットを工夫することにより、異常を拡大して表現することができ、異常の検知や異常の種類の推定が容易にさせることができる。また、以降の説明では、すべての組合せのうち、「センサA」の1次モード情報と「センサB」の1次モード情報の組合せを、軌道の導出対象とする場合を一例に説明する。また、以降の説明において、「第1種多変量位相面軌道生成処理」の対象として選定した「センサA」の1次モード情報を、モード1結果xと記載し、「センサB」の1次モード情報を、モード1結果yと記載する。
【0053】
導出部106は、モード1結果xを第1軸(例えば、横軸)とし、モード1結果yを第2軸(例えば、縦軸)とした位相平面上に、モード1結果xに含まれる各要素{x1、x2、…、xn}(nは自然数)と、モード1結果yに含まれる各要素{y1、y2、…、yn}との中で検出タイミングが合致する要素によって示される座標(図示する、座標(x1,y1)、…、座標(xn,yn))をプロットし、時系列順に、直線によって結んで軌道を生成する。
【0054】
図7は、通常状態におけるセンサの経時変化の一例を示すグラフである。
図7に示される波形W2は、「センサA」の検出結果の経時変化を示す波形であり、波形W1は、「センサB」の検出結果の経時変化を示す波形である。
【0055】
図8は、通常状態における位相平面上の軌道の形状の一例を示す図である。導出部106は、波形W2の「センサA」の検出結果に基づいて導出されたモード1結果xを横軸とし、波形W1の「センサB」の検出結果に基づいて導出されたモード1結果yを縦軸とした位相平面において、モード1結果xの要素とモード1結果yの要素によって示される座標(図示する、座標(x
1,y
1)、…、座標(x
m,y
m))を時系列順に直線によって結ぶ軌道(図示する軌道Orb1)を生成する。
【0056】
なお、上述では、導出部106が、軌道の導出に際して1次モード情報を利用した例について説明しているが、位相面軌道の縦軸と横軸は、この組合せに限定されない。先に述べたように、解析部104が用いるモード情報は、0次モードから使用可能な高次モード情報まで自由に組み合わせたものを縦軸と横軸に選ぶことができる。
【0057】
推定部109は、導出部106によって導出された軌道の形状と、通常状態における軌道の形状を示す情報である軌道形状情報204との非類似度に基づいて、異常値が検出されているか否かを推定する。例えば、通常状態の軌道形状情報が格納された軌道形状情報204には、検出結果情報300と同様に、ある時刻からある時刻までに取得された全センサ情報を1事例として、取得事例ごとに事例番号が付され、取得時刻情報などとともに、通常時の「第1種多変量位相面軌道生成処理」の結果が記録されている。その中には、例えば、通常時の「センサA」と「センサB」の検出結果を基に0次モードを含む複数のモードで導出した軌道の形状を示す情報が含まれる。具体的には、軌道形状情報204には、
図8に示すような「センサA」と「センサB」の組合せに係る軌道の形状を示す情報が含まれる。
図8の位相面軌道形状を事例番号1(以降事例No.1のように記述する)の「センサA」と「センサB」の1次モード情報を用いて導出された通常状態の位相面軌道形状とすると、軌道形状情報204には事例No.1~事例No.k(kは、自然数。)までの複数の事例を対象にこのような位相面軌道情報が格納されている。推定部109は、非類似度算出部108による、複数の通常状態の軌道形状と検査対象の軌道形状を非類似度に基づいてクラスタリングを行って、検査対象の軌道形状が通常状態に分類されるかどうかを調べた結果に基づいて、閾値が設定されていない異常の検知が可能になる。複数の通常事例のどれとも似ていなければ、通常事例とは違う分類に属すると判定することができるからである。ここでは、連番事例を例に説明しているが、通常事例としてとりあげる事例は、連番である必要はなく、過去の通常事例から適切なものを自由に選ぶことができる。以下では、連番の通常事例を選んだ場合について説明する。
【0058】
非類似度算出部108による非類似度の算出法とクラスタリング手法の詳細については後述するが、例えば、推定部109は、軌道形状情報204に格納されている事例No.1から事例No.kまでの通常事例における軌道の形状の中から、注目するセンサ対に対応するセンサの組合せ(この一例では、「センサA」と「センサB」)に対応する軌道の形状を取り出して、事例No.1から事例No.kまでの通常事例における注目するセンサ対に対応するセンサ対がつくる位相面軌道形状との非類似度を比較することにより、センサが異常値を計測しているか否かを推定する。このように、異常検出装置1は、「モード情報取得処理」による異常抽出と「位相面法」を併用することにより、
図7に示すような一般的な時系列グラフを用いて異常を解析するよりも、
図6Eに示したように異常の特徴を抽出し、さらに
図10に示すようにその変化の特徴を位相面軌道上に拡大して検出できるという利点がある。さらに、導出部106は、2つのセンサが正の相関関係にある場合は、一般的な時系列グラフよりも、その変化が拡大して可視化される位相面軌道を導出することとなり、わずかな異常の兆候も見逃しなく検知することができるような情報(つまり、軌道形状)を提供することができる。そして、推定部109は、注目しているセンサ対の位相面軌道形状が通常時の「センサA」と「センサB」がつくる事例No.1から事例No.kの対応するどの位相面軌道形状と比較しても非類似度が低い場合(すなわちよく似ている場合)、検査対象の「センサA」と「センサB」は異常値を示していないと推定し、非類似度が高い(異なる形状である)場合、検査対象の「センサA」と「センサB」は異常値を示していると推定する。推定部109は、複数の通常事例と比較することで、事前に閾値を設けることなく、通常事例と異常事例の非類似度による分類が可能になる。非類似度による分類法の詳細は後述する。
【0059】
非類似度の推定は、観測者によって定性的に判定することもできるが、ここでは、軌道形状を数値化し、判定を自動化して結果を報告する手法について説明する。なお、軌道の形状の非類似度が低いとは、形状同士が完全一致する場合だけでなく、軌道のずれが所定範囲内にある場合や、観測者がみて同一とみなせる場合も含まれる。非類似度の推定法の詳細は後述する。
【0060】
図9は、異常状態におけるセンサの経時変化の一例を示す図である。
図9に示される波形W4は、「センサA」の検出結果の経時変化を示す波形であり、波形3は、「センサB」の検出結果の経時変化を示す波形である。この一例において、「センサA」は異常な動作をしており(つまり、特定センサであり)、波形W4によって示される通り、変化の周期が速くなり、振幅も小さくなっていることがわかる。
【0061】
図10は、異常状態における位相平面上の軌道の形状の一例を示す図である。導出部106は、
図9に示した波形W4の「センサA」の検出結果に基づいて導出されたモード1結果xを横軸とし、波形W3の「センサB」の検出結果に基づいて導出されたモード1結果yを縦軸とした位相平面において、モード1結果xの要素とモード1結果yの要素によって示される座標(図示する、座標(x
1,y
1)、…、座標(x
n,y
n))を直線によって時系列順に結ぶ軌道(図示する軌道Orb2)を生成する。
【0062】
図10に示される軌道Orb2の形状は、
図8の軌道Orb1の形状とは異なる形状である。軌道形状情報204に格納されている他の複数の通常事例の「センサA」と「センサB」の位相面軌道形状と比較して、どの通常事例とも似ていないとされた時には、推定部109は、軌道Orb2に係る「センサA」と「センサB」のどちらか或いは両方が異常値を示していると推定することができる。上述のように複数の通常事例と比較して総合的な判断をすることで、閾値によらない異常検出が可能になる。推定部109は、非類似度算出部108による位相面軌道形状を数値化し、複数の過去の通常事例の位相面軌道形状から得られる数値との非類似度に基づき、クラスタリングの結果から異常か否かを推定する。
【0063】
推定部109が、複数モードの位相面軌道を利用した多変量解析(この場合、「センサA」及び「センサB」の変化に基づく解析)結果を複数の通常時のデータと比較することにより、異常か否かを推定することで、閾値が未設定、あるいは閾値が設定できないなどの理由で、単一センサの時系列変化の解析では異常か否かの推定が困難な場合でも異常の検知が可能になる。さらに、モード情報取得により異常による変化を大きく取り出し、位相面によりその変化をさらに拡大して可視化することができるようになるため、推定部109は、微かな異常の兆候も見逃しなく検知することも可能になる。導出部106は、複数モードの位相面軌道を利用した解析により、異常検出のみならず、故障の予知も可能にする詳細な解析材料を提供することができる。
【0064】
なお、解析部104、及び導出部106でのモード情報の取り扱い方法と同様に、推定部109で、異常の推定に使うモード情報は、0次モード情報から利用可能な高次モード情報までを組み合わせて網羅的な探索もできるが、検知したい異常の性質に応じた最適モードを予め調べておき、その情報を利用して、特定のモードで得られたモード情報のみについてこれらの処理を実行することができる。また、推定部109は、異常の性質によっては、高次モードの抽出処理の前(あるいはそれが必要であれば、モード情報取得処理の後でも)平均と分散をそろえる標準化処理を行うことにより、検出感度を上げることができる。
【0065】
以上、導出部106が、「第1種モード情報取得処理」結果に基づいて、位相面軌道を生成する場合について説明したが、位相面軌道の生成に用いる情報は、これに限られない。導出部106は、異常の性質によって異常が抽出されるモードが異なるため、周期性の変化や不定期ノイズの混入などといった異常の性質に応じて、適切なモードを用いて位相面軌道を生成し、非類似度算出部108は、導出部106によって生成された軌道に基づいて、非類似度を算出する必要がある。
【0066】
[(3-1)モード情報取得情報により生成される軌道形状の定量法、(3-2)軌道形状の数値化情報に基づく非類似度の算出とこれに基づくクラスタリング法について]
以下、モード情報取得情報により生成される軌道形状の定量法と軌道形状の数値化情報に基づく非類似度の算出とこれに基づくクラスタリング法の例として、非類似度算出部108が算出する複素自己回帰係数によって位相面軌道形状を数値化し、通常時の位相面軌道情報を記憶した軌道形状情報204から算出される通常時の位相面軌道形状の数値と検出対象のデータを用いて生成した位相面軌道から算出した数値を用いて非類似度を算出する処理の内容について説明する。軌道形状情報204には、予め以下に述べる方法で軌道形状を数値化した結果を位相面軌道情報と合わせて記録しておき、この数値情報を読み出して非類似度の算出を行ってもよい。これによって位相面軌道形状の数値化にかかる処理時間を短縮することができる。一例として、非類似度算出部108は、導出部106によって導出された軌道の形状を軌道形状毎に複素自己回帰係数を利用するといった画像抽出手法で数値情報に変換する。以降の説明では、非類似度算出部108が、複素自己回帰係数から計算された複素パワーケプストラム距離を用いて、通常状態との非類似度を算出する方法を説明する。非類似度算出部108は、複素自己回帰係数により軌道形状を数値化した情報を用いて、複数の通常状態の軌道形状を同様に数値化した情報との間で、2つの複素自己回帰係数間の差分(距離)である複素パワーケプストラム距離を算出する。さらに、非類似度算出部108は、算出された複素パワーケプストラム距離に基づいて、クラスタリングを行って、通常事例と異常事例を分類する。複素パワーケプストラム距離は、「位相面軌道形状間の非類似度計算」の一例であり、「位相面軌道形状間の非類似度計算」の手法は、これに限られない。非類似度算出部108は、ユークリッド距離、対数尤度比距離、複素パワーケプストラム距離、複素パワーメルケプストラム距離などの手法を用いて非類似度の算出を行うことができる。
【0067】
非類似度算出部108が、位相面軌道形状の数値化にあたって、導出部106によって導出された位相面軌道から、軌道の形状を抽出する手法の詳細を、複素自己回帰係数をもとに計算する複素パワーケプストラム距離を例に以下に示す。例えば、非類似度算出部108は、導出部106によって導出された位相平面上に示される軌道を所定の大きさ(又は、所定の画素数)の画像に変換し、変換した画像をグレースケールにした場合の各画素の明るさ(画素値)に基づいて、軌道の形状(輪郭線(エッジ))を抽出する。そして、複素自己回帰係数を用いて軌道形状を数値化する場合には、非類似度算出部108は、抽出した軌道の輪郭線を追跡して得られる点列を式(1)とし、その複素表現を式(2)とする場合の、m次の複素自己回帰係数を導出する。m次の複素自己回帰係数は、式(3)に示す通り、輪郭点をm個前までの輪郭点の線形結合で近似するモデルとして定義される。
【0068】
【0069】
非類似度算出部108は、導出部106によって生成された位相面軌道毎に、上記の方法で軌道形状情報を抽出し、抽出した軌道の形状情報を複素自己回帰係数に変換する。さらに、非類似度算出部108は、変換した軌道の複素自己回帰係数z1と、軌道形状情報204に格納された該当する複数の通常時の位相面軌道情報の中から上記と同様の手順で複素自己回帰係数を導出し、通常時の軌道の複素自己回帰係数z2との複素パワーケプストラム距離Dc(z1,z2)を導出する。複素パワーケプストラム距離Dc(z1,z2)は、複素自己回帰係数z1と、複素自己回帰係数z2とのスペクトル包絡の対数の平均二乗距離として、式(4)によって示される。なお、軌道形状情報204に示される軌道が、予め複素自己回帰係数に変換されている場合には、非類似度算出部108は、当該変換された情報を用いて複素パワーケプストラム距離Dcを算出する。
【0070】
【0071】
複素パワーケプストラム距離は、検出対象の複素自己回帰係数に複数の通常時の複素自己回帰係数を加えた中から、網羅的に2つずつを組合せて計算される。例えば、「センサA」と「センサB」がつくる通常時の位相面軌道情報が事例No.1から事例No.18まで合計18個ある場合、非類似度算出部108は、この通常時の位相面軌道形状から導出される複素自己回帰係数z1~z18と取得部102で取得した検査対象の「センサA」と「センサB」がつくる位相面軌道に基づく複素自己回帰係数z19の計19個の複素自己回帰係数から、2つずつ取り出して、複素パワーケプストラム距離Dcをそれぞれ算出する。
【0072】
非類似度算出部108は、この複素パワーケプストラム距離Dcを階層型クラスタリングによって異常事例と通常事例に分類する。
図11は、非類似度算出部108によって分類された複素パワーケプストラム距離Dcの一例を示す図である。
図11は、非類似度算出部108によって算出された複素パワーケプストラム距離Dcを基に検出対象を含む全1~19事例のクラスタリングを行った結果を示すデンドログラムとよばれる図である。
図11において、複素パワーケプストラム距離Dcは、樹形図の枝の長さによって示される。一般に、複素パワーケプストラム距離Dcの値が大きいほど、2つの複素自己回帰係数間の違いが大きくなり(つまり、非類似度が大きくなり)、複素パワーケプストラム距離の値が小さいほど、2つの複素自己回帰係数間の違いが小さくなる(つまり、非類似度が小さくよく似た軌道である)。例えば、
図11に示す一例において、推定部109は、取得部102から得られた情報を基に、解析部104、導出部106、非類似度算出部108を経て算出した「事例No.19」と名付けられた位相面軌道形状の複素自己回帰係数と事例No.1~事例No.18までのどの通常時の事例の複素自己回帰係数と比べても複素パワーケプストラム距離Dcが大きいことから、「事例No.19(検出対象)」は通常時との非類似度が大きく通常時とは別のグループに分類されたと判断し、「事例No.19」が対象とした「センサA」と「センサB」の組合せのうち、2つのセンサのどちらかまたは両方が、異常値を示している特定センサとして推定することができる。
【0073】
なお、上述では、非類似度算出部108は、軌道の形状を数値に変換した複素自己回帰係数に基づいて、ユークリッド距離、対数尤度比距離、複素パワーケプストラム距離、或いは複素パワーメルケプストラム距離を算出する構成であってもよい。ユークリッド距離、対数尤度比距離、複素パワーケプストラム距離、及び複素パワーメルケプストラム距離は、「複素自己回帰係数間の差分」の一例である。
【0074】
また、上述で、非類似度算出部108が、軌道の形状の数値化に利用するモデルは、複素自己回帰係数を用いた手法に限定されない。また非類似度を算出する手法も上記に限られない。複素自己回帰係数を用いた手法は、図形の外形のみを抽出する手法であるため、より詳細な判別が必要である場合には、例えば、動的時間伸縮法のような位相面軌道形状の非類似度をラグ構造も考慮して算出することができる方法の他、内部形状抽出することが可能なニューラルネットワークなどの方法を用いることもできる。この結果に基づいて、複素自己回帰係数を用いた場合と同様に、非類似度を算出することができる。
【0075】
上述のように、推定部109は、非類似度算出部108によって算出された軌道形状を定量した数値に基づき、異常検出対象データから得られる数値と通常データから得られる数値との差分(この一例では、複素パワーケプストラム距離Dc)がある通常データと他の通常データ間で算出されるどの差分と比しても大きく、
図11に示すように、異常検出対象データと通常データ群が別のグループとしてクラスタリングされる場合、両者の非類似度が大きいと判断し、異常検出対象データに係るセンサ(この一例では「センサA」と「センサB」)のどちらかまたは両方が異常値を示している特定センサであると推定する。
【0076】
また、モード情報取得法は
図6Eに示すように異常を拡大抽出することができるので、軌道を拡大する効果のある位相面上にこのモード情報取得情報をプロットすることで、時間を横軸、計測値を縦軸にとった通常のプロットでは見分けることが困難なわずかな変化を検出することが可能になる。これによって、推定部109は、異常の発生を予兆の段階で検知することができるようになる。この例で、推定部109が、特定センサとして推定するのは、センサの組合せである。導出部106が、単一のセンサの軌道を導出した場合は、推定部109は、同様の方法でセンサの組合せの異常ではなく、単一センサの異常を検出することも可能である。推定部109が異常検出対象データのセンサの組合せが異常値を示していると推定した場合、異常値を示しているセンサを特定する方法については後述する。
【0077】
[(4)非類似度算出部の計算結果を状態遷移マトリクスにより統合して詳細な推定を行う方法について]
以下、推定部109において、非類似度算出部108の計算結果を状態遷移マトリクスを用いて統合することによって、異常を示しているセンサを特定し、センサ異常かシステム異常かを判定する方法について説明する。推定部109は、非類似度に基づくクラスタリングの結果を用いて、検出対象のセンサの組み合わせが、異常値を示しているか否かを推定した結果を、状態遷移マトリクスを生成して整理することにより、異常値を示しているセンサを特定し、異常の種類や原因の推定をするなどの詳細な分析を行うことができる。例えば、
図12に示すように、状態遷移マトリクスは、センサをそれぞれ縦軸、及び横軸として対応付けて、異常推定結果を書き込んだものである。以下に状態遷移マトリクスの生成法について説明する。
【0078】
図12は、推定部109によって生成された状態遷移マトリクスの一例を示す図である。状態遷移マトリクスは、縦軸と横軸とに示される要素が一致する対角要素をはさんで上下対称であり、本実施例では縦軸「センサA」と読軸「センサB」の組合せと縦軸「センサB」と横軸「センサA」の組合せは区別しないので、
図12に示されているように、対角要素を含む下半分を生成すればよい。
図12に示す通り、推定部109は、状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素(例えば、縦軸「センサA」、横軸「センサA」の要素(図示する領域AR1の要素))は個々のセンサが異常値を計測しているか否かを示す要素である。以後このセンサ名が一致する要素をそれぞれ「横軸のセンサ名-縦軸のセンサ名」として、「センサA-センサA」…「センサF-センサF」のように記述する。閾値が設定されている場合は、閾値により異常値が計測されているか否かを簡単に判定することができる。例えば、当該センサが閾値を超える異常値を示していない場合にはこの当該センサ名が一致する要素に「〇」を付し、当該センサが閾値を超えた異常値を示している場合には当該要素に「×」を付す。閾値を用いて個々のセンサが異常値を示しているか否かを推定することができない場合は、例えば、以下に述べる方法で、2つのセンサ間の変化に注目した多変量解析の結果を利用して個々のセンサが異常値を計測しているか否かの推定を行う。以下の説明では、
図12のように「センサA」~「センサF」までの6個のセンサに関する状態遷移マトリクスを生成する場合を考える。相関関係があるセンサは「センサA」と「センサB」のみであるとする。またここでは、閾値が設定されていないため、単一センサの挙動のみによって異常の推定を行うことが困難なことから、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素(「センサA-センサA」…「センサF-センサF」)の欄が空欄である場合を例に説明を行う。
【0079】
推定部109では、異常値を示しているセンサを特定して上記の空欄を埋め、センサ故障かシステム異常かといった異常の種類や異常の原因の推定などの詳細な解析を行うため、上記(1)、(2)、(3-1)、(3-2)の手順で得られた結果から、推定部109が推定した内容を、状態遷移マトリクスに書き込み情報を整理することができる。例えば、クラスタリングの結果から、推定部109が異常の有無を推定した内容は、状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致しない要素(図示する領域AR2の要素)に書き込む。以後このセンサ名が一致しない要素を「横軸のセンサ名-縦軸のセンサ名」として、「センサA-センサB」…「センサA-センサF」のように記述する。推定部109は、非類似度算出部108によるクラスタリングの結果から、縦軸に示されるセンサと横軸に示されるセンサとの対で生成された位相面軌道形状と通常時の位相面軌道のグループの当該センサ対で生成された位相面軌道形状との非類似度が低く、両者が同じグループにクラスタリングされた場合には、このセンサ対の検出結果は、異常値を示していないと推定して、対応する状態遷移マトリクスの要素に「〇」を付し、通常時の位相面軌道のグループとの非類似度が高く、異常事例として通常事例のグループとは異なる事例に分類された場合は、このセンサ対の検出結果は異常値を示していると推定して対応する状態遷移マトリクスの要素に「×」を付す。
【0080】
推定部109は、上述の処理を状態遷移マトリクス上のセンサ名が一致しない要素における空欄が埋まるまで繰り返す。次に、この中に「×」の要素があれば、異常値を示しているセンサを特定し、状態遷移マトリックスのセンサ名が一致する要素の部分の空欄を以下の手順ですべて埋めて完成させる。ここでは、センサ名が一致しない要素において、「センサB」と他センサを組み合わせた要素がすべて「×」(通常時と異なる)を示し、他の組み合わせがすべて「〇」(通常時と変わらない)となった場合に、センサ名が一致する要素の空欄を埋める方法について説明する。この時点では、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素「センサA-センサA」から「センサF-センサF」の欄)はすべて空欄であるとする。また相関関係情報202に基づいて、「センサA」と相関関係があるセンサを調べ、これが「センサB」のみであり、なおかつ互いに相関関係にあるセンサは「センサA」と「センサB」のセンサ対以外にないことがわかっているとする。この時、「センサB」と相関関係にあるとわかっている「センサA」が「センサB」以外の他のセンサとつくる組合せの要素に「×」がないので、推定部109は、システム異常の場合に表れるセンサ間の相関関係に基づく異常値が検出されていない状況であると判断し、異常は、「センサB」自身であり、他センサは異常値を示していないと結論し、「センサB」の故障であると推定する。この推定に基づいて、状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素である「センサB-センサB」の欄に「×」「センサA-センサA」の欄に「〇」を書き込む。さらに「センサB」を除く5個のセンサ(センサA、センサC~F)の組合せがすべて「〇」であることから、「センサC」~「センサF」も異常値を示していないと推定し、「センサC-センサC」~「センサF-センサF」の要素に「〇」を書き込み、状態遷移マトリクスを完成させる。この時、システム異常と区別して、センサ故障であることを示すために「センサB-センサB」の欄には、「〇」、及び「×」とは異なる符号、(例えば、「#」)などを用いてもよい。この状態遷移マトリクスの結果に基づいて、センサ故障の場合は、センサの交換や修理など必要な整備を行う。センサ故障でない場合は、センサ名とセンサ名が一致する要素の空欄は、以下の手順で埋める。
【0081】
センサ故障ではない場合について以下の例で説明する。上述と同様に、「センサA」~「センサF」までの6個のセンサに関する状態遷移マトリクスを生成する場合を考える。上述と同様、閾値が設定されておらず、センサ単独では異常の検知が困難な場合であり、状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素(「センサA-センサA」~「センサF-センサF」まで)が空欄となっているとする。また上述と同様に、相関関係情報202に基づいて、「センサA」と相関関係があるセンサが「センサB」のみであり、なおかつ互いに相関関係があるセンサはこの「センサA」と「センサB」のセンサ対以外にないことがわかっているとする。このとき上述と同様に、推定部109は、(1)~(3)までの処理の結果を状態遷移マトリクスに書き込んでいく。ここでは、「センサA」と「センサB」を除く4個のセンサ(センサC~F)の組合せの要素が、すべて「〇」でそれ以外は「×」がついている場合について説明する。この場合「センサB」と相関関係のある「センサA」も異常値を示していることから、因果関係の破綻は認められず、互いに相関関係にある「センサA」と「センサB」のまわりでシステム異常が発生していると推定し、状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素の「センサA-センサA」と「センサB-センサB」の欄に「×」を付す。さらに、「センサA」と「センサB」を除く4個のセンサ(センサC~F)の組合せの欄(例えば、「センサC-センサD」、「センサC-センサF」など)はすべて「〇」となっていることを確認し、「状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素の「センサC-センサC」「センサD-センサD」「センサE-センサE」「センサF-センサF」の要素に「〇」を付し、状態遷移マトリクスを完成させる。次に完成した状態遷移マトリクスを利用して、異常の原因を推定してそれに対する対応を行う。状態遷移マトリクスを利用した異常の原因の推定方法について、以下に例をあげて説明する。
【0082】
上記の手順により、システム異常と推定された場合は、完成した状態遷移マトリクスを利用して、以下に述べるような方法で、異常の原因の推定を行うことができる。上記の例で、「センサA」と「センサB」が2つとも異常値を示していると推定されたとする。このとき、相関関係情報202から「センサA」が因果関係の上流にあり「センサB」が因果関係の下流にあることがわかっていれば、「センサA」の変化により「センサB」が変化したことが推定されるので、原因は「センサA」まわりにあることが推定される。参考情報206も調べ、「センサA」まわりで部品の交換が長く行われておらず、交換時期が近づいていたなどの整備履歴があれば、この部品の劣化が原因である可能性が高いと推定されるため、異常検出の結果を受けて、最初にこの部品の点検を行うべきであるという判断ができる。直接相関や間接相関にあるセンサが複数あるときも同様にして、相関関係情報202、参考情報206などを利用して、状態遷移マトリクスから異常の原因を推定することができる。
【0083】
以上のように上記(1)~(4)の方法によって、閾値の設定が困難でセンサ単独での異常推定が難しい場合であっても、異常値を示しているセンサの推定、センサ故障かシステム異常かの推定、システム異常の場合には、異常の原因の推定が可能になる。
【0084】
[処理フロー]
以下、異常検出装置1の動作の内容について説明する。
図13は、異常検出装置1の処理の一連の流れを示すフローチャートである。例えば、取得部102は、異常検出対象のログ情報から検出結果情報300を取得する(ステップS100)。次に、解析部104、導出部106、非類似度算出部108を経て、取得部102によって取得された検出結果情報300を解析した結果に基づいて、推定部109が異常値を示している特定センサを推定する(ステップS102)。ステップS102の処理の詳細については、後述する。出力部110は、推定部109によって特定センサであると推定されたセンサに係る情報を出力する(ステップS104)。
以下、(1)多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得処理を行って、モード情報取得情報を軌道形状を利用して可視化し、可視化した軌道形状を定量した軌道形状の数値化情報に基づいて非類似度を算出し、算出した非類似度に基づくクラスタリングの結果を利用して状態遷移マトリクスを生成する処理(2)状態遷移マトリクスを用いた詳細判定の順で、ステップS102の処理を実行する方法の一例について説明する。
【0085】
[処理フロー:(1)多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得処理を行って、モード情報取得情報を軌道形状を利用して可視化し、可視化した軌道形状を定量した軌道形状の数値化情報に基づいて非類似度を算出し、算出した非類似度に基づくクラスタリングの結果を利用して状態遷移マトリクスを生成する処理]
図14は、ステップS102に係る特定センサの推定処理の一連の流れを示すフローチャートである。以下、
図14を参照し、解析部104が各センサから得られた時系列情報に対して「第1種モード情報取得処理」により異常の特徴を抽出し、導出部106が「モード情報取得処理」が行われていない0次モードも含めた複数モードの中から適切と思われる組み合わせを選んで2次元位相面軌道を生成し、非類似度算出部108によって軌道形状を数値化し、これに基づいて算出された非類似度に基づくクラスタリングを行った結果を利用して、推定部109が状態遷移マトリクスを生成する場合を例にとって説明する。
図13の一例において、閾値が設定されておらず、単一センサの時系列情報からは、センサが異常値を示しているかどうかの推定が難しい場合について説明する。閾値が設定されていない場合は、縦軸と横軸とに示される要素が一致する対角要素の異常推定は、この対角要素より下の部分の状態遷移マトリクスの完成を待って行われる。なお上述したように、状態遷移マトリクスは、縦軸と横軸とに示される要素が一致する対角要素をはさんで上下対称であり、本実施例では「センサA-センサB」と「センサB-センサA」は区別しないので、
図12に示すように、対角要素を含む下半分だけを生成すればよい。また上記の実施例に示したように、
図12と同じように、「センサA」から「センサF」までの6個のセンサの計測値に対して、異常推定を実施する場合を想定して以下の説明を行う。例えば、「第1種モード情報取得処理」を行うため、解析部104は、取得部102が取得した検出結果情報300を滑走窓法を利用してセンサ毎に時間ベクトルに変換する(ステップS300)。解析部104は、この変換により多変量データに再構成されたデータセットが互いに独立であるとみなして、センサ毎に行列分解法を利用した多変量解析法を用いて、多様な異常の特徴を複数のモード情報として抽出する(ステップS302)。
【0086】
次に、導出部106は、解析部104によって取得されたセンサ毎の複数モード情報を利用して、位相面軌道を導出するために縦軸、及び横軸それぞれに使用するモードを選定縦軸、及び横軸センサの中から2つずつ組み合わせて、2次元位相平面上に2つのセンサ間の変化を表した位相面軌道を導出する(ステップS304)。導出部106が導出する位相面軌道は、例えば「センサA」のモード1結果xを第1軸(例えば、横軸)とし、「センサB」のモード1結果yを第2軸(例えば、縦軸)とした位相平面である。導出部106は、モード1結果xに含まれる各要素{x1、x2、…、xn}と、モード1結果yに含まれる各要素{y1、y2、…、yn}との中で検出タイミングが合致する要素によって示される座標(座標(x1,y1)、…、座標(xn,yn))を、検出時間順に直線によって結ぶことにより、軌道を導出する。
【0087】
非類似度算出部108は、導出された位相面軌道形状を複素自己回帰係数のような定量手法で数値化する(ステップS306)。非類似度算出部108は、数値化した位相面軌道形状と、軌道形状情報204に示される、数値化した複数の通常時の軌道形状との間の非類似度(例えば複素パワーケプストラム距離Dc)を計算して、通常情報との距離の大きさにより測定結果をクラスタリングし、
図11に示すデンドログラムのような可視化手法を用いてクラスタリング結果を可視化する(ステップS308)。推定部109は、この分類結果を用いて検出対象が、複数の通常事例がつくるグループとは、異なる事例として分類されたとき、通常事例に対する非類似度が大きいとして、当該センサ対のどちらかまたは両方が異常値を計測していると推定し、通常事例が創るグループと同じグループに分類されたとき、通常事例に対する非類似度が小さいとして当該センサ対のどちらも異常値を計測していないと推定する(ステップS310)。
【0088】
推定部109では、クラスタリングの結果を
図12に示すような状態遷移マトリクスに記入する。状態遷移マトリクスとは、上述したように、対象とするセンサ対を縦軸、及び横軸それぞれに対応付けて、異常推定結果を書き込んだものである。例えば「センサA」と「センサB」のセンサ対からなる軌道形状が通常時との非類似度が大きい(つまり異常値を示している)と推定された場合には、状態遷移マトリクスの該当箇所(横軸「センサA」、縦軸「センサB」の要素、「センサA-センサB」の欄)に「×」を記入する(ステップS312)。また異常値でないと推定された場合は、状態遷移マトリクスの該当箇所に「〇」を記入する(ステップS314)。
【0089】
推定部109は、ステップS312とステップS314において生成した状態遷移マトリクスが完成したか否かを判定する(ステップS316)。推定部109は、状態遷移マトリクスが完成するまでの間、ステップS304からS316の処理を繰り返す。以降の説明では、異常検知を実施する者が、異常判定を行う際に事前に、状態遷移マトリクス作成に使用するモードを複数種類選定しておき、推定部109が
図12に示すような「センサA」から「センサF」がつくる状態遷移マトリクスを生成する方法を説明する。この場合には、選定されたモード毎にひとつずつ状態遷移マトリクスが生成される。解析部104は、選定したすべてのモードで状態遷移マトリクスが完成したかを判定する(ステップS318)。推定部109は、必要とされるすべてのモードで状態遷移マトリクスが完成されるまでの間、ステップS304からステップS318の処理を繰り返す。状態遷移マトリクスの縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致しない要素のうち、一致する要素を対角要素とすると、この対角要素より下の部分の記入が終わった時点で、状態遷移マトリクスはいったん完成したものと判定し、次のステップS320でこの状態遷移マトリクスを用いて縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する対角要素の異常推定などを行う。上述したように、閾値が設定されておらず、単一センサの時系列情報からは、異常値を示しているかどうかの判定が難しく、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致した対角要素が空欄となっている場合について説明する。もし、検出したい異常が事前に決まっており、調べるべき最適モードが事前にわかっている場合は、必要なモードでのみ状態遷移マトリクスを用意すればよい。
【0090】
状態遷移マトリクスの各要素のうち、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致する要素(例えば、上記で定義した「センサA-センサA」の要素)に関する推定部109の推定は、閾値が設定されている場合は、閾値を超えている場合に異常値(「×」)、閾値を超えていない場合に異常値でない(「〇」)と推定し、状態遷移マトリクスの該当箇所に結果を記入すればよい。一方、推定部109は、閾値が設定されておらず、単独のセンサ情報から、異常値か否かの判定が困難な場合は、状態遷移マトリクスのセンサ名が一致しない要素(例えば、「センサA-センサB」「センサA-センサC」などの要素)がすべて埋まってから、以下のセンサ故障かシステム異常かの総合的な判断とあわせて異常値を示しているセンサを特定する。
【0091】
推定部109は、縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致しない要素の記入が終わった状態推定マトリクスを用いて、相関関係情報202に格納されたセンサ間の相関関係に関する情報や、センサやその周辺部品の整備履歴などの情報が格納された参考情報206などに基づいて、異常値を示しているセンサの特定(縦軸と横軸とに示されるセンサ名が一致した要素の異常推定)や、センサ故障かシステム異常かの判定、システム故障と判定された場合は原因の推定を行う(ステップS320)。
【0092】
[処理フロー:(2)状態遷移マトリクスを用いた詳細判定]
以下、推定部109で状態遷移マトリクスを用いた詳細判定を行うステップS320の処理について説明する。
図15は、ステップS320に係る特定センサの推定処理の一連の流れを示すフローチャートである。
図15に示されるフローチャートにおいて、各種指標値や軌道の算出対象であるセンサが、「センサA」「センサB」「センサC」「センサD」「センサE」「センサF」の6個であり、相関関係情報202によれば、この中で相関関係にあるセンサは、「センサA」「センサB」のみであることがわかっている場合を例に説明する。この例では、複数のセンサ故障は、起きない場合について説明する。推定部109は、センサ名が一致しない要素の記入が終わった状態遷移マトリクス情報を取得し(ステップS400)、「×」の付されたセンサ対があるかどうかを調べる(ステップS402)。推定部109は、「×」の付されたセンサ対がひとつもなければ、異常なしと推定し(ステップS428)、事前に選定された全モードの状態遷移マトリクスで検証を行ったかの判定へすすむ(ステップS420)。ステップS420以降の手順は、以下のステップを合わせて説明する。「×」の付されたセンサ対があれば、そのうちのひとつ選ぶ(例えば、縦軸「センサA」と横軸「センサB」の要素から「センサA」と「センサB」のセンサ対)(ステップS404)。選んだセンサ対の一方(例えば、「センサB」)を特定センサであるか否かを推定する推定対象のセンサ(以後第1センサとよぶ)とする(ステップS406)。このとき、同一の状態遷移マトリクスの同一のペアですでに第1センサに選ばれたセンサは第1センサには選ばない。
【0093】
推定部109は、第1センサを含まないセンサ対にも「×」があるかどうかを調べ(ステップS408)、第1センサを含まないセンサ対に「×」があれば、相関関係情報202に基づいて、第1センサと相関関係のあるセンサ(この例では「センサA」)を調べ、状態遷移マトリクス上で、念のためこのセンサが第1センサ以外のセンサとつくるセンサ対の欄がすべて「〇」であるか否かを調べる(ステップS410)。すべて「〇」である場合は、存在するべき相関関係(あるいは因果関係)が喪失しているので、推定部109は、第1センサの「センサ故障」と判定する(ステップS412)。このとき、推定部109は、判定結果を状態遷移マトリクスの該当欄(第1センサが「センサB」である場合には、状態遷移マトリクスの「センサB-センサB」の欄)に「×」を付し、センサ故障であることを付記する(ステップS414)。または上述のように、センサ周辺のシステム異常と区別して、センサ故障であることを示すために別な符号、例えば、「#」などを用いてもよい。すべて「〇」ではなかった場合は(S408で第1センサを含むセンサ対にのみ「×」があるとしているのでこの場合はないはずであり)、S408のNOに該当するので、ステップS424に合流して詳しい解析を行う。状態遷移マトリクス上で、第1センサ以外のセンサとつくるセンサ対の欄がすべて「〇」で、第1センサが故障していると推定された場合は、S414で状態遷移マトリクスへの記録を終えたあと、ステップS416に進み、S404で選んだセンサ対の両センサを第1センサとして検証したかを確認し、両センサを第1センサとして検証が終わっていなければ、ステップS406に戻って検証を続ける。両センサで検証が終わっていれば、S404に戻り、別な「×」の付されたセンサ対を、選んで検証を続ける。これもすべて終わっていれば、ステップS420に進み、事前に選定した全モードで検証が終わっているかを判定し、終わっていなければS400に戻る。終わっていれば、ステップS422に進み判定結果として完成した状態遷移マトリクスと判定結果を出力部110で出力する。ここでは、単一センサ故障を例に説明したが、複数センサが故障している場合も、推定部109は、同様の手順で推定を行う。
【0094】
この場合、出力部110は、特定センサであると推定されたセンサに係る情報をすべて出力してもよく、特定センサであると推定されたセンサのうち、一部のセンサに係る情報を出力してもよい。
【0095】
ステップS408で第1センサを含むセンサ対以外にも「×」が付されていれば、相関関係情報202に基づいて、その中に第1センサと相関関係のあるセンサが含まれているかを調べる(ステップS424)。第1センサと相関関係のあるセンサと第1センサ以外のセンサがつくるセンサ対の欄にも、「×」が付されている場合は、センサ間の相関関係の破綻が認められないので、センサ故障ではなく、第1センサまわりの「システム異常」であると推定し、ステップS414に移り、状態遷移マトリクスの対角要素の第1センサの欄(第1センサが「センサA」なら縦軸と横軸のセンサ名が一致する「センサA―センサA」の欄)に「×」を付すとともに、センサ故障ではなくシステム故障であることを記録して、ステップS416以降の処理を上述と同様に実行する。
【0096】
上記の処理により、「センサ故障」と推定された場合は、点検作業の際にセンサ故障が推定されるセンサに対してセンサ故障の原因を実際のセンサで確認し、必要に応じてセンサの部品の交換や、センサそのものの交換などの対処がなされる。「システム異常」と推定された場合は、状態遷移マトリクスを利用して、異常値を検出したセンサを特定するとともに、センサ間の相関関係情報202や異常値を示しているセンサまわりの装置やシステムの整備履歴などが納められた参考情報206に基づいて異常原因を総合的に推定することができる。例えば、システム異常と診断され、内部漏洩を測定する圧力センサと流量計が異常値を示しており、参考情報206からシール部品の交換期限が迫っていることがわかった場合には、シールの摩耗による内部漏洩が疑われるため、点検作業において、シール部分の点検から故障個所の特定を進めることで、効率よくシステムの整備を行うことができる。
【0097】
[ステップS102の処理について]
なお、上述では、特定センサを推定するステップS102において、解析部104における(1)「多様な異常の特徴を抽出するためのモード情報取得」(2)「軌道形状を利用したモード情報取得情報の可視化」(3-1)「モード情報取得情報により生成される軌道形状の定量化」(3-2)「軌道形状の数値化情報に基づく非類似度の算出とこれに基づくクラスタリング」(4)「非類似度算出部の計算結果を状態遷移マトリクスにより統合して実行する詳細な推定処理」を順番に実行する場合のフローチャートについて説明したが、本発明の実施例は、これに限定されない。ステップS102では、(1)~(4)の手順のうち、異常検出の目的に応じて、適切な手順を組み合わせてフローチャートを実行することができる。異常の性質によっては、高次モード変換を行わない0次モードの情報を利用して(あるいは高次モード情報と適当に組み合わせて)位相面軌道を生成するほうが適切な場合もある。また必ずしもすべてのモードについて状態遷移マトリクスを生成する必要もない。検知したい異常の特徴が分かっている場合には、適切なモードの組み合わせを選んで、異常検出を行うことで検知にかかる計算処理時間を短縮することができる。また必ずしもすべてのセンサ対について位相面軌道を生成する必要もない。ここで実施例として説明したのは記録された情報をオフラインで解析するのに適した手法であったが、例えば、オンラインでの素早い異常検出による緊急停止が目的であれば、対象とする故障モードを限定し、解析対象のセンサ対を絞ることで、異常検出にかかる時間を短縮することができる。0.01秒を争う検知が必要でなければ効率的な整備を行うための異常検出やその原因の推定、あるいは異常の予兆の検知などが目的であれば、多少時間がかかっても、網羅的に解析を行う方法が望ましい。またモード情報取得処理の前に検出結果の平均と分散をそろえる標準化のようなモード情報取得処理以外の処理を加えてもよいし、モード情報取得処理後にこのような処理を行ってもよい。モード情報取得処理にも上述のように「第1種モード情報取得処理」、「第2種モード情報取得処理」、およびこれらを組み合わせた処理があり、位相面軌道の導出にもどのようなモード情報を選ぶかで任意の情報を組み合わせて軌道を導出できることや、位相面を用いない通常の時系列情報がつくる軌道からも同様の処理で非類似度が計算できることも述べている。
【0098】
[相関関係の推定について]
上記、2つのセンサ間の位相面軌道形状を利用した異常検出の処理フローは、2つのセンサ間の相関関係を推定する際にも用いることができる。例えば、
図11は、複数の通常事例間で「センサA」と「センサB」がつくる位相面軌道の非類似度の判定を行った結果を示したものだが、検出対象と複数の通常事例間の「センサA」と「センサB」のつくる位相面軌道形状の非類似度の比較ではなく、通常事例における全センサの組合せについて、位相面軌道形状を生成し、物理的な関係式などから相関関係が明らかなセンサ対をモデルペアとして、複数のモードでの非類似度を比較することにより、相関関係のあるグループとないグループにクラスタリングすることが可能である。このように上記異常検出装置を用いて解析した結果を、上記状態遷移マトリクス上に相関関係があると推定される場合に「〇」、相関関係がないと推定される場合に「×」を書き込むことにすれば、センサ間の相関関係マトリクスを上記異常検出装置を用いて生成することができる。複数モードで相関関係を調べることにより、ノイズが多く、判断が難しい場合も、相関関係の判定が可能になる。相関関係表の生成は、異常判定と並行して行うこともできるが、予め通常データを用いて実行しておき、相関関係情報202に記録しておいてもよい。
【0099】
[モードの抽出について]
また、上述では、「第1種モード情報取得処理」と名付けた、滑走窓毎の時系列データをベクトルの集まりに変換することにより得られたデータを、近傍の時間情報を変数としてもつ多変量データとして再構成することによって行列分解法を用いた多変量解析を行うことで複数モードにより多様な異常を抽出する例を説明したが、「第2種モード情報取得処理」も含めて、多様なモード情報を抽出する方法は、主成分分析に限られない。導出部106は、因子分析や、スパース主成分分析、ファジィ主成分分析、カーネル主成分分析、確率的主成分分析、ロバスト主成分分析など主成分分析と同様のモード情報取得が可能な行列分解手法を用いた多変量解析により複数モードの特徴抽出ができる方法を適用して、異常の特徴抽出を行ってもよい。また実施例の中で説明したように「第2種モード情報取得」と名付けた公知の時間領域での主成分分析や因子分析の手法に「第1種モード情報取得」の結果を利用することで、ラグ構造を導入できることから、センサの測定値がラグを伴って作用しあうような場合の異常検出にも力を発揮する。周波数の変化や、ラグを伴って発生する異常など検知する異常の性質にふさわしいモードを選定することで、見逃しや誤検知を減らし、正確な異常検出が可能になる。また「第1種モード情報取得処理」には、ラグ構造を導入して多変量データに再構成し、主成分分析をかける一連の処理には、ノイズフィルタのような効果が生まれるため、例えば窓幅などによって決まる多変量データに再構成する際のベクトル化の次元を検出結果に応じて調整することで、ノイズの多いデータからノイズを除去し、誤検知を減らすこともできる。
【0100】
[特定センサの他の推定方法について]
なお、上述では、解析部104、導出部106、非類似度算出部108、推定部109が(1)~(4)の手順によって特定センサを推定する場合について説明したが、本発明の実施例は、これに限られない。解析部104、導出部106、非類似度算出部108、推定部109は、例えば、検出結果情報300のような情報を取得すると、通常時の検出結果と非類似度の高い異常値を計測しているセンサを、特定センサとして出力するように学習された学習モデルに基づいて、特定センサを推定してもよい。この場合、推定部109は、当該学習モデルに検出結果情報300に示される検出結果を入力し、出力として得られたセンサを特定センサとして推定する。
【0101】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0102】
1…異常検出装置、100…制御部、102…取得部、104…解析部、106…導出部、108…非類似度算出部、109…推定部、110…出力部、200…記憶部、202…相関関係情報、204…軌道形状情報、206…参考情報、300…検出結果情報、Dc…複素パワーケプストラム距離、Orb1…軌道、Orb2…軌道、x、y…モード1結果、z1、z2…複素自己回帰係数、z1、z2…複素パワーケプストラム距離