(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】金属水素化物コンプレッサ制御装置および金属水素化物コンプレッサ制御方法
(51)【国際特許分類】
F04B 15/00 20060101AFI20230831BHJP
F04B 37/02 20060101ALI20230831BHJP
F04B 37/18 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
F04B15/00
F04B37/02 Z
F04B37/18
(21)【出願番号】P 2020554371
(86)(22)【出願日】2018-11-16
(86)【国際出願番号】 EP2018081628
(87)【国際公開番号】W WO2019120800
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-10-21
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520222911
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル ドゥ ローザンヌ (イーピーエフエル)
【氏名又は名称原語表記】ECOLE POLYTECHNIQUE FEDERALE DE LAUSANNE (EPFL)
【住所又は居所原語表記】EPFL-TTO, EPFL Innovation Park J, 1015 Lausanne, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100217434
【氏名又は名称】万野 秀人
(72)【発明者】
【氏名】ガランダ・ノリス
(72)【発明者】
【氏名】ズッテル・アンドレアス
【審査官】落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-217782(JP,A)
【文献】特開昭60-218458(JP,A)
【文献】特表2004-534928(JP,A)
【文献】Noris Gallandat 他,Small-scale demonstration of the conversion of renewable energy to synthetic hydrocarbons,Sustainable Energy & Fuels,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY ,2017年07月27日,1,p1748-1758
【文献】Volodymyr A. Yartys 他,Metal hydride hydrogen compression: recent advances and future prospects,Applied Physics A,Springer,2016年03月17日,122,415(p1-18)
【文献】Andreas Zuttel,Hydrogen storage methods,Naturwissenschaften,Springer,2004年03月17日,volume 91,p157-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変の出力圧力P_desired_outputを生成するための金属水素化物コンプレッサの制御方法であって、
一定の温度下で金属水素化物の区画に水素ガスを流入させ、前記水素ガスの前記流入を停止する第1ステップと、
所望の前記出力圧力P_desired_outputにおいて前記金属水素化物がアルファ+ベータフェーズを通過してベータフェーズになった温度に相当する所定温度まで前記金属水素化物を加熱する第2ステップと、
前記コンプレッサの出力接続を開放し、前記金属水素化物がアルファ+ベータフェーズを完全に脱してアルファフェーズに入るまで前記出力圧力P_desired_outputを一定に保つために、前記温度を調節することによって前記コンプレッサの前記出力接続を一定の圧力下に保つ第3ステップと、を含み、
前記第1ステップが、アルファ+ベータフェーズとベータフェーズとの境界に達するまで継続することを特徴とする、
金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項2】
前記第1ステップは、さらに、前記金属水素化物の温度を一定に保持するために、前記金属水素化物の冷却を含むことを特徴とする、
請求項1に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項3】
前記温度の調節は、PID制御、MIMO制御、または、任意の数の入出力および異なる検出装置を用いる制御、を含むグループから選択された制御方法で行われることを特徴とする、
請求項1~2のいずれか1項に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項4】
前記水素ガスの発生源への接続は、機械的もしくは電気的な弁、または、他の閉鎖手段であるいくつかの閉鎖手段を用いて閉鎖されることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項5】
前記コンプレッサの出力接続は、弁または他の電気的、機械的もしくは電気機械的システムであるいくつかの開放/閉鎖手段で開放される、
請求項1~4のいずれか1項に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項6】
第3ステップの終了時、H
2が完全に出力された時点で、出力接続を閉鎖し、前記金属水素化物を冷却することを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項7】
前記金属水素化物コンプレッサの周期的な作動において、前の周期における冷却の終期の後にあるさらなる周期における第2ステップにおいて前の周期と異なる温度を選択することを特徴とする、
請求項6に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の金属水素化物コンプレッサの制御方法に従って動作する、
金属水素化物コンプレッサ。
【請求項9】
前記金属水素化物の区画は
、バッチ・モードではなく、連続作動することを特徴とする、
請求項8に記載の金属水素化物コンプレッサ。
【請求項10】
前記金属水素化物コンプレッサは、多数の領域の中での温度調節を用いて可変の出力圧力を生成する多段階金属水素化物コンプレッサであることを特徴とする、
請求項8または9に記載の金属水素化物コンプレッサ。
【請求項11】
前記多段階における各段階は、より高い圧縮比を生成するために、各段階が前の段階からの入力として所望の出力圧力を受け取るように、直列に配置された、他の段階が備える合金とは異なる合金を備える、
請求項10に記載の金属水素化物コンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッサ、特に、圧力の出力が可変な、一段階または多段階金属水素化物コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
金属水素化物は、多数の金属および合金が可逆的に大量の水素の吸着を行う、低圧下における水素吸蔵に一般に使用される。水素分子は、吸着の前に表面において分離され、吐出プロセスにおいて、2つのH原子はH
2に再結合される。水素ガスからの水素化物生成の熱力学的様相は、
図1に示される圧力―組成等温線と、当業者に知られる他の特性とによって説明される。
【0003】
図は、左側に圧力集中温度のプロットを、ならびに、右側に平衡点の対数または温度の逆数に対するプラトー圧を示す。アルファフェーズは、吸収の前のフェーズであり、ベータフェーズは金属がHで一度飽和したフェーズである。アルファ+ベータフェーズ内で、圧力は、温度に応じて指数関数的に変わる。所望のプラトー温度において、脱離プロセスを開始し、所望の圧力下で水素ガスを放出するために、熱が金属水素化物に供給される。
【0004】
水素化物コンプレッサは、異なる構成で開示されている。より高い圧縮比を可能にするために異なる合金が組み合わせられている多段階コンプレッサと同様に、単一の合金で作動する金属水素化物コンプレッサも存在する。連続的に作動するコンプレッサと同様にバッチ・モードで作動するコンプレッサもある。全てのコンプレッサは、固定された圧縮比を持つことを意味するように、1セットの離散的な温度/圧力レベルの間で作動する。
【0005】
例えば特許文献1は、相互に連結し、ガス分配システム、および、加熱および冷却のそれぞれのための熱媒液および冷媒液システムの両方を含む熱伝達システムを備える、1つまたは複数の圧縮モジュールを含む金属水素化物コンプレッサを示す。コンプレッサは、循環ポンプにおけるスイッチと同様に流動系におけるスイッチを作動する制御システムを使用して、熱により運転される。制御システムは、加圧された水素を連続的に流出させるために、反対のフェーズと同時に2つの圧縮モジュールを作動させる。金属水素化物コンプレッサは固定圧縮比で作動する。
【0006】
さらに、特許文献2は、多数の圧縮モジュールが同時に操作される装置に関する。加えて、過剰な熱は、中間の温度レベルにおいて、ヒートシンク側から持続的に取り除かれる。
【0007】
さらに、特許文献3は、連結バルク貯蔵/一段階金属水素化物コンプレッサ、水素吸蔵合金および水素輸送/分配機構を開示している。当該装置は、200℃以下の温度で1500psi以上のレベルへの水素の圧縮と同様に、水素のバルク貯蔵に使用される。
【0008】
最後に、特許文献4には、自動車に対して使用されるために開示された、周期的な金属水素化物コンプレッサの周期的な作動が記述されている。それは、金属水素化物で満たされた耐圧力性のタンクを備え、それぞれ放出される水素を周期的に吸着している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012/114229号
【文献】欧州特許出願公開第2391846号明細書
【文献】国際公開第2003/006874号
【文献】独国特許出願公開第102005004590号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの特許文献に開示されている装置の主要な問題のうちの1つは、開示されている装置のいずれも可変圧力を出力することができないということである。
【0011】
この点では、発明の第一の目的は、圧力の出力が可変な一段階または多段階の金属水素化物コンプレッサ、および、その運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の問題は本発明によって解決される。
【0013】
本発明の第1態様は、一定の温度下で金属水素化物の区画に水素ガスを流入させ、前記水素ガスの前記流入を停止する第1ステップと、所望の前記出力圧力P_desired_outputにおいてアルファ+ベータフェーズを通過した温度に相当する所定温度まで前記金属水素化物を加熱する第2ステップと、前記コンプレッサの出力接続を開放し、システムがアルファ+ベータフェーズを完全に脱するまで前記出力圧力P_desired_outputを一定に保つために、前記温度を調節することによって前記コンプレッサを一定の圧力下に保つ第3ステップと、を含む、可変の出力圧力P_desired_outputを生成するための金属水素化物コンプレッサの制御方法である。
【0014】
本発明の好ましい実施例によれば、第1ステップは、さらに、温度を一定に保つための金属水素化物の冷却を含む。
【0015】
好ましくは、第1ステップは、アルファ+ベータフェーズの境界に到達するまで、継続される。
【0016】
有利には、温度の調節は、PID制御、MIMO制御、または、任意の数の入出力および異なる検出装置を用いる制御、を含むグループから選択された制御方法で行われる。
【0017】
本発明の好ましい実施例によれば、水素ガスの発生源への接続は、例えば、機械的もしくは電気的な弁、または、他の閉鎖手段であるいくつかの閉鎖手段を用いて閉鎖される。
【0018】
有利には、コンプレッサの出力接続は、例えば弁または他の電気的、機械的もしくは電気機械的システムである、いくつかの開放/閉鎖手段で開放される。
【0019】
好ましくは、第3ステップの最後において、H2が完全に出力された時、出力接続は閉鎖されており、システムが冷却される。
【0020】
本発明の好ましい実施例によれば、第2ステップにおいて前の周期と異なる温度T3を選択することにより、前の周期と異なる圧力を生成できるように、冷却の終期にさらなる周期が再び開始される。
【0021】
本発明の第2態様は、本発明の第1態様に係る金属水素化物コンプレッサの制御方法による動作に適した金属水素化物コンプレッサである。本発明のこの装置の特別の利点は、本発明の第1態様に係る方法の利点に類似し、それらはここでは繰り返されない。
【0022】
有利には、金属水素化物の区画は連続作動に適する。
【0023】
好ましくは、金属水素化物コンプレッサは、多段階金属水素化物コンプレッサである。
【0024】
本発明の好ましい実施例によれば、コンプレッサの各段階は、より高い圧縮比を生成するために、直列に配置された異なる合金を備える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明のさらなる特別の利点および特徴は、添付の図面を参照する、少なくとも1つの本発明の実施の形態の非制限的な記述から、より明白になる。
【
図1】
図1は、本発明の金属水素化物コンプレッサ制御方法における、ファントホッフプロットで描かれた圧力-組成等温曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な本記述は、実施例のいかなる特徴も、異なる実施例の他の特徴と、有利な方法で結合されるので、非制限的な方法で本発明を説明することを意図している。
【0027】
本発明は、圧縮比が、非固定であり、ユーザによって変更または調節が可能である、一段階または多段階金属水素化物コンプレッサの制御方法に関する。
【0028】
より具体的には、水素流出圧力は、本発明の方法による温度の制御により、値の取りうるいくつかの範囲中の要求された水準に調節される。一段階または多段階金属水素化物コンプレッサの制御方法は、例えば、外界の対流によってパッシヴであるか、もしくは、いくつかの液体冷却路を通じて、または、強制された空気の対流によってアクティヴである冷却方法によって、金属水素化物を冷却する間に一定の温度であるT1=T2で、金属水素化物コンプレッサの中に水素ガスが流入する第1ステップを含む。
図1では、このステップは、アルファ+ベータフェーズの境界まで、等温線に沿ってポイント1から移動してポイント2に到達する状態によって表わされる。
なお、温度T1、T2は、それぞれ、ポイント1、2での温度である。また、図1におけるTcは、臨界温度である。
【0029】
例えば、温度は熱電対またはRTDを使用してモニターされ、また、圧力は従来の圧力センサを使用してモニターされる。一旦ポイントT2に到達すれば、水素ガス流入は停止し、水素ガスの発生源への接続は、例えば機械的または電気的な弁、もしくは、他の閉鎖手段であるいくつかの閉鎖手段を使用して閉じられる。
【0030】
このポイントにおいて、第2ステップでは、
図1のポイント3において、金属水素化物は、予め計算された、または、オンラインで計算された、所望の出力圧力P
_desired_outputで、アルファ+ベータフェーズを通過した温度に対応する温度T3まで加熱される。
なお、温度T3は、ポイント3での温度である。図1では、これはポイント3にポイント2をつなぐ垂線によって表わされる。温度T3は、様々なパラメータに依存するが、最も著しいものは、使用される材料および所望の出力圧力P
_desired_outputである。
【0031】
一度所望の出力圧力P_desired_outputが、T3までの加熱によって達成されると、コンプレッサの出力接続は、電気的、機械的または電気機械的システムである、いくつかの開放/閉鎖手段で開放され、システムは、温度を調節することによって一定の圧力下に維持される。事実上、脱離反応は吸熱性であるため、圧力を一定に維持するために、システムに追加の熱が供給されなければならない。
【0032】
この調節は、比例、積分および微分(PID)制御、多入力多出力(MIMO)制御、または、特に1つもしくは 複数の温度検出装置および圧力検出装置を用いる、任意の数の入力および出力と異なる検出装置とを用いる制御を含むいかなる制御アプローチでも行われうる。
【0033】
その後、本システムはポイント3から等温線に沿って移動し、また、いくつかのポイントでは、再びアルファ+ベータフェーズに入る。
【0034】
その後、本システムがポイント4においてアルファ+ベータフェーズを脱するまで、一定の出力圧力P_desired_outputを保証するために、本システムは適正な温度で維持される。
【0035】
後続のステップが終了される場合、つまり、H2が完全に放出された場合、出力接続は閉鎖され、第2ステップにおいて前の周期と異なる温度T3を選択することにより、前の周期と異なる圧力を生成できるように、本システムは周期が再び開始されるポイント1まで冷却される。
【0036】
本発明の別の態様は、上記の方法が実行される一段階または多段階金属水素化物コンプレッサに関する。このような一段階または多段階金属水素化物コンプレッサは、本装置の中の1つまたは多数の領域の中での温度調節を用いて、一定に(またはいくつかの決定された時間関数に従って可変に)保たれる可変の出力圧力P_desired_outputを生成する。
【0037】
好ましい実施例によれば、金属水素化物コンプレッサは、各段階が異なる材料を備え、前の段階からの入力として所望のP_desired_outputを受け取るような、多段階金属水素化物である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
このようなコンプレッサは、可変圧縮比が必要とされ、圧縮された、および/または純化された水素を実験のために供給する研究室での使用のためのコンプレッサに限定されず、産業用水素圧縮応用システムでの使用のためのコンプレッサ、水素ガスステーションでの使用のためのコンプレッサ、および、燃料セルおよび/または電解装置を備える水素または金属水素化物エネルギー貯蔵システムでの使用のためのコンプレッサを含む、応用システムにおいて使用されうる。
【0039】
実施例は、多くの実施例と結合されて記述されているが、多くの代替案、修正および変形例があり、または、本技術が応用可能な分野の当業者にとって当然であることは、明白である。従って、この開示は、この開示の範囲内である全ての代替案、修正、等価物および変形例を包含することが意図される。これは、例えば、特に、使用される正確な温度、使用される材料、モニタリングシステム、段階の数、温度センサ、および、本発明と連結されて使用されるすべての異なる装置に関する場合である。