(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子、その製造方法並びに眼用装置への応用
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20230831BHJP
A61F 2/16 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/42 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/56 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G02C7/04
A61F2/16
A61L27/02
A61L27/52
A61L27/16
A61L27/42
A61L27/54
A61L27/56
A61L27/34
(21)【出願番号】P 2021205625
(22)【出願日】2021-12-19
【審査請求日】2021-12-19
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】504117165
【氏名又は名称】逢甲大學
(74)【代理人】
【識別番号】100185694
【氏名又は名称】山下 隆志
(72)【発明者】
【氏名】▲頼▼俊峰
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2018-0033063(KR,A)
【文献】特開2017-172076(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140316(WO,A1)
【文献】特表2016-519339(JP,A)
【文献】国際公開第2018/229909(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/038004(WO,A1)
【文献】特表2008-546715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
A61F 2/14-16
A61L 27/02
A61L 27/52
A61L 27/16
A61L 27/42
A61L 27/54
A61L 27/56
A61L 27/34
A61K 31/569
A61P 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が100m
2/g以上であり、平均細孔径が1nm以上であることを特徴とする、有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法であって、
p-トルエンスルホン酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、トロラミン、及び純水を混合し、50℃に加熱し、1時間撹拌する工程と、
60℃に昇温して維持しながらオルトケイ酸テトラエチルを加えて合成する工程と、
生成物を精製し、550℃で6時間燒成することで、ナノ粒子を得る工程と、を有することを特徴とする、有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ナノ粒子は、シリカであることを特徴とする、請求項1に記載の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子の表面にヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アクリロイル基、チオール基又はそれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性官能基を有し、
生体細胞又は生体組織との反応性を有する有効成分を担持し、
前記有効成分の分子量は、20,000~400,000g/moleであることを特徴とする、請求項1に記載の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有効成分は、薬物、気体、ビタミン、グリコサミノグリカン、又は生体高分子であることを特徴とする、請求項3に記載の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子をさらに表面修飾することで、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アクリロイル基、チオール基又はそれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性官能基を前記ナノ粒子の表面に修飾することを特徴とする、請求項1に記載の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
修飾された前記ナノ粒子に生体細胞又は生体組織との反応性を有する有効成分を担持し、
前記有効成分の分子量は、20,000~400,000g/moleであることを特徴とする、請求項5に記載の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルを含み、
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法で製造された有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子を有し、
前記ナノ粒子は、前記ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルに分布されることを特徴とする、眼用装置
の製造方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、前記眼用装置の光学ゾーンの外周に環状に分布され、又は前記眼用装置内に均一に分布されることを特徴とする、請求項7に記載の眼用装置
の製造方法。
【請求項9】
前記ナノ粒子は、前記眼用装置の光学ゾーンの外周に環状に分布され、又は前記眼用装置の内部に挟まれてサンドイッチ構造となることを特徴とする、請求項8に記載の眼用装置
の製造方法。
【請求項10】
前記有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子を有する眼用装置に対して高温高圧滅菌を行っても、前記有効成分が前記ナノ粒子から放出又は脱落しないことを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の眼用装置
の製造方法。
【請求項11】
人工の水晶体、コンタクトレンズ、又は眼球インサートであることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の眼用装置
の製造方法。
【請求項12】
前記ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルは、ヒドロキシエチルメタクリレートを含むことを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の眼用装置
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、特に高比表面積及び大孔径メソポーラスを有し、且つ有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子、その製造方法、並びにその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子で目薬又は保湿有効成分を担持し、さらにコンタクトレンズと組み合わせることで機能性コンタクトレンズとして用いることができる。以下、前記応用を詳しく説明するが、留意すべきことは、本発明のナノ粒子は、前記応用に限定されない。本明細書から推知できる応用は、いずれも本発明に含む。
【0003】
眼病の治療方法は主に目薬を利用しているが、目薬を目に入れると、反射的にまばたきをし、又は刺激によって涙が出る場合が多いため、目薬の効果を十分に発揮できない。
【0004】
また、目薬は、その有効成分が眼の表面に短時間しか留まらず、涙道を通って鼻腔に入ったり、角膜透過性が低く、代謝分解される等の原因によって、従来の投薬モードでは生体利用率が低く、頻繁に投薬することが必要であるため、使用の快適性が低く、患者のコンプライアンスが悪い。また、眼内の薬物濃度によって薬液の全身吸収による眼部又は全身の毒性を起こす可能性がある。なお、コンタクトレンズの装着感を向上させるために、レンズの保湿性が非常に重要であるが、市販されているコンタクトレンズレンズは、大抵保存液に保湿成分を添加し、保湿効果が非常に短い。
【0005】
それを鑑みて、保湿活性成分を長期間コンタクトレンズに保存して徐放され、目の快適さを長期間維持するために、より速く、効果的、且つ目の快適さに影響を与えない有効成分の徐放方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明は、有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子、その製造方法、並びにその応用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子は、複数の大孔径メソポーラスを有し、比表面積が100m2/g以上であり、平均細孔径が1nm以上である。
【0008】
一つの実施例において、前記ナノ粒子は、シリカである。
【0009】
一つの実施例において、前記ナノ粒子の表面にヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)、アクリロイル基、チオール基(-SH)又はそれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性官能基を有し、生体細胞又は生体組織との反応性を有する有効成分を担持する。前記有効成分の分子量(Molecular weight)は、20,000~400,000g/moleである。
【0010】
一つの実施例において、前記有効成分は、薬物、気体、ビタミン、又は生体高分子である。
【0011】
第2発明の前記ナノ粒子の製造方法は、p-トルエンスルホン酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、トロラミン、及び純水を混合し、50℃に加熱し、1時間撹拌する工程と、60℃に昇温して維持しながらオルトケイ酸テトラエチルを加えて合成する工程と、生成物を精製し、550℃で6時間燒成することで、ナノ粒子を得る工程と、を有する。
【0012】
一つの実施例において、前記ナノ粒子をさらに表面修飾することで、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、アクリロイル基、チオール基又はそれらの組み合わせからなる群から選ばれる活性官能基を前記ナノ粒子の表面に修飾する。
【0013】
一つの実施例において、修飾された前記ナノ粒子に生体細胞又は生体組織との反応性を有する有効成分を担持する。前記有効成分の分子量は、20,000~400,000g/moleである。
【0014】
第3発明の眼用装置は、前記ナノ粒子、又は前記ナノ粒子の製造方法によって得られるナノ粒子を利用する。前記有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子は、ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルに分布される。
【0015】
一つの実施例において、前記有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子は、成形プロセス又はインプリントプロセスによって前記眼用装置に分布固着される。
【0016】
一つの実施例において、前記ナノ粒子は、前記眼用装置の光学ゾーンの外周に環状に分布され、又は前記眼用装置の内部に挟まれてサンドイッチ構造となる。
【0017】
一つの実施例において、前記有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子を有する眼用装置に対して高温高圧滅菌を行っても、前記有効成分が前記ナノ粒子から放出又は脱落しない。
【0018】
一つの実施例において、前記眼用装置は、人工の水晶体、コンタクトレンズ、又は眼球インサートである。
【発明の効果】
【0019】
従来の目薬の投与方法と比べて、本発明は、薬物担持コンタクトレンズを利用し、薬物が眼の表面に留まる時間を大幅に増加する。目薬の生体利用率が1~5%程度であるに対して、本発明によれば、生体利用率が72.5%~100.0%程度に向上し、薬液の全身吸収による毒性を減少できるため、好ましい投与方法であることが分かる。
【0020】
本発明のナノ粒子は、高比表面積及び大きな孔径を有し、有効成分を速くて大量に担持して徐放できるため、担体の徐放性及び利用性を高めることができる。本発明のナノ粒子は、薬物担持コンタクトレンズの他に、有効成分及び薬物の徐放性を利用して人体の治療、ひいては環境への徐放等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1A~
図1Dは、有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図2A】ナノ粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2B】ナノ粒子の官能基修飾を示す模式図である。
【
図6】修飾されたナノ粒子の修飾官能基のスペクトルである。
【
図7A】眼用装置の製造方法の実施例2、3によって製造したコンタクトレンズを示す断面図である。
【
図7B】眼用装置の製造方法によって製造したコンタクトレンズの光学ゾーンの透過率を示す図である。
【
図8B】薬物試験1の吸収率及び徐放率を示す図である。
【
図15】グリコサミノグリカン試験の吸収及び波長を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面及び実施例を開示しながら本発明の目的、技術的な特徴、及び効果を詳しく説明する。しかしながら、下記具体的な実施例は、あくまで本発明を解釈するために開示される。本発明は、それらに限定されない。図面において、同じ符号は、同じ素子又は工程を示す。
【0023】
本明細書に記載の用語「一」、「1つ」、「及び/又は」、「前記」等は、単数及び複数形を含む。また、用語「含む」、「有する」は、特定の素子又は工程を含むことを示すが、他の素子又は工程を含む可能性を排除する意図はない。
【0024】
工程又はフローチャートを利用して説明するが、本発明は、それらに限定されず、順番の交換、同時実行、他の工程の追加、又は一部の省略を行うことができる。
【0025】
<有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子>
図1A~
図1Dにおいて、本発明の実施例1~4を示す。本発明の有効成分を担持及び徐放可能なナノ粒子は、異なる孔径を有するメソポーラスを有する外観を呈し、比表面積(BET Surface Area)が100m
2/g以上であり、平均細孔径(Average poredia meter)が1nm以上であり、細孔容積(Pore Volume)が0.10cm
3/g~5.0cm
3/gであり、粒子径(Particle diameter)が10~500nmである。
図1A~1Dにおいて、異なる比表面積を有するナノ粒子を示し、比表面積及びメソポーラスの孔径が
図1A~
図1Dの順で大きくなる。一方、本発明のナノ粒子は、粒子の中心から4方向に延伸されてなる薄片状に重なった構造であって、薄片状に重なった構造に異なる孔径を有するメソポーラスが分布される構造であってもよく、粒子の中心から4方向に延伸されてなる樹枝状に突出する構造であって、樹枝状に突出する構造に異なる孔径を有するメソポーラスが分布される構造であってもよい。
【0026】
前記平均細孔径(Average pore diameter)は、好ましくは2nm~50nmである。前記比表面積は、好ましくは300m2/g以上であり、より好ましくは600m2/g以上であり、さらに好ましくは800m2/g以上である。細孔径は、好ましくは3nm以上であり、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは20nm以上である。即ち、好ましい範囲は、3nmの小孔径~50nmの大孔径である。細孔容積は、好ましくは0.5cm3/g~5.0cm3/gであり、より好ましくは1.0cm3/g~5.0cm3/gであり、さらに好ましくは1.5cm3/g~5.0cm3/gである。前記粒子径は、好ましくは60~150nmである。
【0027】
前記ナノ粒子は、好ましくはシリカからなる大孔径メソポーラスシリカナノ粒子(Large-pore Mesoporous silica nanoparticles、LPMSNs)である。
図1A~1Dにおいて、薄片状に重なった構造又は樹枝状に突出する構造を示す。
【0028】
【0029】
<ナノ粒子の製造方法>
図2Aを参照しながらナノ粒子の製造方法を説明する。
ナノ粒子の製造方法は、工程S21~工程S23を有する。
工程S21:p-トルエンスルホン酸ヘキサデシルトリメチルアンモニウム((Hexadecyltrimethylammonium-p-toluene sulfonate、CTATos)、トロラミン(Trolamine、TEAH
3)、及び純水を混合し、50℃に加熱し、1時間撹拌する。
工程S22:60℃に昇温して維持しながらオルトケイ酸テトラエチル(Tetraethyl orthosilicate、TEOS)を加えて合成する。
工程S23:生成物を精製し、550℃で6時間燒成することで、高比表面積及び大きな孔径を有するメソポーラスシリカナノ粒子を得る。メソポーラスシリカナノ粒子は、そのまま眼用装置、例えばコンタクトレンズの製造に用いられる。
【0030】
工程S21、S22において、先ず、50℃の低温で成分を攪拌溶解した後、60℃に昇温して合成する。それによって、異なる孔径を有するメソポーラスナノ粒子を形成する。工程S22において、TEOSの濃度は、ナノ粒子のサイズに影響を与える。本発明のナノ粒子の粒子径は、10~500nmである。本発明の合成方法(ワンステップ合成法)によって得られるナノ粒子は、3nmの小孔径~50nmの大孔径の範囲の細孔径を有するため、異なる分子量を有する有効成分を担持できる。
【0031】
本発明の前記ナノ粒子又は本発明の製造方法によって製造した前記ナノ粒子は、任意選択的に下記工程S241、工程S242、及び/又は工程S25を経てから後の眼用装置製造工程に利用されてもよい。
工程S241:有効成分をそのまま担持することで有効成分を含むナノ粒子を形成する。
工程S242:活性官能基を前記ナノ粒子の表面に修飾する。
工程S25:前記活性官能基との適合性を有する有効成分を担持する。
前記有効成分は、生体の細胞又は組織に対して生理活性を示す成分であり、薬物、気体、ビタミン、グリコサミノグリカン、又は生体高分子が挙げられ、その分子量(molecular weight)が好ましくは20,000~400,000g/moleである。薬物は、目薬を例として、抗ヒスタミン薬(Ketotifen fumarate salt)、近視治療薬(Atropine、Atropine sulfate salt monohydrate)、眼球乾燥症薬(lifitegrast)、殺菌薬(Chlorhexidine)、解熱鎮痛薬(Diclofenac)、抗生物質目薬(Levofloxacin)、緑内障薬(Timolol maleate salt、Dorzolamide、Pilocarpine)、局所麻酔薬(Lidocaine、Bupivacaine、Tetracaine)、人工合成副腎皮質ホルモン(Dexamethasone)、アレルギー性鼻炎薬(Sodium cromoglicate)等が挙げられ、配合効果及び副作用抑制のために複数の薬物を組み合わせて配合薬としてもよい。気体は、水素ガス又は二酸化炭素ガス等が挙げられる。ビタミンは、ビタミンB2(Vitamin B2)、ビタミンB6(Vitamin B6)、ビタミンE(Vitamin E)、ビタミンB12(Vitamin B12)等が挙げられる。グリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸又はトレハロース(Trehalose)等が挙げられる。生体高分子は、コラーゲン等が挙げられる。前記工程において、ナノ粒子の表面に活性官能基を修飾して有効成分と結合し、有効成分を安定に前記ナノ粒子に担持させることができる。そのため、非徐放環境においても有効成分を安定に維持できる。
【0032】
表2において、本発明に適用する有効成分及びその分子量を示す。しかしながら、本発明の有効成分は、それらに限定されない。
【0033】
【0034】
工程S242に記載のナノ粒子を修飾する活性官能基は、好ましくはヒドロキシ基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH
2)、アクリロイル基(Acrylic)、チオール基(-SH)、ジスルフィド結合(S-S)、又は前記官能基を組み合わせる複合官能基等が挙げられ、ナノ粒子に担持する有効成分に応じて選択できる。
図2Bにおいて、1つの実施例を示す。工程S23で得られた大孔径メソポーラスシリカナノ粒子をアルコール(Alcohol)溶剤に添加し、フラスコにて超音波振動分散を行う。その後、3-アミノプロピルトリエトキシシラン((3-Aminipropyl)triethoxysilane、APTES)を添加し、室温で攪拌した後、遠心分離で精製する。その後、アルコール溶剤によって精製することで、アミノ基(-NH
2)を表面に修飾するナノ粒子を得る。他の実施例において、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxysilane、APTES)、無水コハク酸(Succinic Anhydride、SA)、シスタミン二塩酸塩(Cystamine Dihydrochloride、cys・2HCl)の順で処理することで、アミノ基及びジスルフィド結合(S-S)を含む複合官能基をナノ粒子に修飾する。
【0035】
工程S25において、有効成分を担持する。担持方法は、混合法又は浸漬法が挙げられる。以下、抗ヒスタミン薬(Ketotifen fumarate salt)を例として説明する。まず、前記抗ヒスタミン薬の食塩水溶液を調製し、ナノ粒子(又はその担体、例えばコンタクトレンズ及び他の適切な担体)を抗ヒスタミン薬の水溶液に浸漬して8時間以上吸収させることで、有効成分として抗ヒスタミン薬を担持するナノ粒子(又はその担体)を得る。
【0036】
有効成分担持ナノ粒子(又はその担体)は、好ましくは人工涙液環境(pH値は約7.0~7.5)に置いてから有効成分を徐放し始める。
【0037】
<眼用装置>
本発明の眼用装置30は、人工の水晶体、コンタクトレンズ材料、又は眼球インサート(ocular inserts)等にナノ粒子を複合することで製造することができる。以下、
図3A、
図3Bを参照しながら眼用装置30としてコンタクトレンズ31を使用する例を説明する。コンタクトレンズ31の第1実施例において、ナノ粒子(
図3のNP)は、コンタクトレンズの光学ゾーン32の外周に環状に分布される。光学ゾーン32は、コンタクトレンズのベースカーブの範囲であり、屈折力を有するゾーンである。しかしながら、
図3Bに示すように、ナノ粒子NPは、コンタクトレンズ材料31から突出するのではなく、コンタクトレンズ材料31と面一になって平らな表面を有する。本発明の有効成分担持ナノ粒子は、高比表面積及び大きな孔径を有するため、有効成分を大量に担持でき、且つ薬物の徐放率が高い。
【0038】
図3Cに示すように、コンタクトレンズ31の第2実施例において、ナノ粒子は、コンタクトレンズ31全体に均一に分布される。
図3Dに示すように、コンタクトレンズ31の第3実施において、ナノ粒子は、コンタクトレンズ31の内部に挟まれて、
図3Eに示すようなサンドイッチ構造となる。
図3Eにおいて、ナノ粒子NPが同じく光学ゾーン32の外周に環状に分布され、さらにコンタクトレンズ材料で上下から挟んで前記サンドイッチ構造となる。
【0039】
本発明は、コンタクトレンズの眼用装置を製造するための3つの実施例を提供する。まず、第1実施例として、
図3Cに示すように、コンタクトレンズにナノ粒子を複合する方法は、コンタクトレンズを製造するための成分と、前記有効成分を担持する未修飾ナノ粒子とを混合して混合液を作って、型の下型に注入した後、対応する上型で押さえてUV硬化する。コンタクトレンズを製造するための成分は、ヒドロゲル(Hydrogel)又はシリコンハイドロゲル(Silicone Hydrogel)との2つのカテゴリを含む。ヒドロゲルのレシピは、ヒドロゲル(HEMA)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、HMPP(2-hydroxy-2-methyl-1-phenyl-1-propanone)、及びUV吸収剤が挙げられる。そして、型から硬化成形したナノ粒子担持コンタクトレンズ(ドライコンタクトレンズ)を剥がした後、水に入れて水和させる。その後、高温滅菌してかた工程S25に進む。工程S25は、有効成分を担持する工程であり、例えば有効成分を含む保存液に保存して吸着を飽和させる。
【0040】
前記ヒドロゲルは、ヒドロキシエチルメタクリレート((Hydroxyethyl)methacrylate、HEMA)、エチレングリコールジメタクリレート(Ethyleneglycol dimethacrylate、EGDMA)、N-ビニルピロリドン(N-Vinylpyrrolidone)、及びポリメチルメタクリレート(Poly(methylmethacrylate、PMMA)の少なくとも1つの又は複数の高分子モノマーを重合してなり、且つ光又は熱開始剤を含む。前記開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(Azobisisobutyronitrile又は2,2’-Azobis(2-methylpropionitrile)、AIBN)、フェニルアゾトリフェニルメタン(Phenyl-azotriphenylmethane)、tert-ブチルペルオキシド(tert-butyl-peroxide、TBP)、クミルペルオキシド(Cumyl peroxide)、過酸化ベンゾイル(Benzoyl peroxide、BPO)、tert-ブチルパーオキシベンゾエート(Tert-butyl peroxybenzoate、TBPB)、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(2,4,6-trimethylbenzoyl diphenyl phosphine oxide、TPO)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(2-Hydroxy-2-Methyl-1-phenyl-1-Porpanone、HMPP)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1-hydroxy cyclohexyl phenyl ketone)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Phenylbis(2,4,6-trimethylbenzoyl)-phosphine oxide)等が挙げられる。
【0041】
前記シリコンハイドロゲルは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタアクリレート(methyl methacrylate、MMA、アクリルモノマー)、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane、PDMS)、ポリエチレングリコール-ポリジメチルシロキサンメタアクリレート(PEG-PDMS methacrylate)、N-ビニルピロリドン(N-vinylpyrrolidone)、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(tetra(ethyleneglycol)dimethacrylate)、エチレングリコールメチルエーテルメタアクリレート(ethyleneglycol methyl ether methacrylate)の少なくとも1つを重合してなり、且つ開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(Azobisisobutyronitrile又は2、2’-Azobis(2-methylpropionitrile)、AIBN)を含む。
【0042】
図4は、
図3A、3Bに対応する実施例を示す。コンタクトレンズの眼用装置の製造方法の第2実施例は、工程S41~工程S45を有する。
工程S41:コンタクトレンズ金型41を用意する。コンタクトレンズ金型41は、上型411及び下型412を有する。下型412は、底部が眼球の曲面に沿って曲げる弧状構造である。上型411は、下型412に対応する形状を有する。上型411及び下型412を型締めた時にその間にコンタクトレンズ材料31のスペースが残される。
工程S42:有効成分担持ナノ粒子及び液体のコンタクトレンズ材料31を含む溶液を下型412に注入し、コンタクトレンズ金型41の底部にいっぱいまでナノ粒子溶液を充填する。
工程S43:有効成分担持ナノ粒子及び液体のコンタクトレンズ材料31を含む溶液を蒸発させると、ナノ粒子は、熱力学の法則によって光学ゾーンの外周に沈澱して環状に分布される。
工程S44:ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルの混合液を含む液体のコンタクトレンズ材料31を下型412に注入し、上型411を型締めして、その後、硬化離型及びバリ除去(任意選択的)等の後作業を行う。
工程S45(任意選択的、図示せず):水合してパッケージした後、高温高圧滅菌を行うことで、市販可能なレベルのコンタクトレンズ製品を得る。
【0043】
図5は、
図3A、3Bに対応する実施例を示す。コンタクトレンズの眼用装置の製造方法の第3実施例は、工程S51~工程S54を有する。
工程S51:コンタクトレンズ金型51を用意する。コンタクトレンズ金型51は、底部が眼球の曲面に沿って曲げる弧状構造であり、コンタクトレンズ金型41と同じように上型511及び下型512を有する。下型512は、底部が眼球の曲面に沿って曲げる弧状構造である。上型511は、下型512に対応する形状を有する。上型511及び下型512を型締めた時にその間にコンタクトレンズ材料31のスペースが残される。
工程S52:環状のインプリント部件52で有効成分担持ナノ粒子を含む有効成分溶液(有効成分を含むアルコール溶液、ケトン溶液、又はエステル溶液が挙げられる)を付けて、環状分布される有効成分担持ナノ粒子をインプリント法で下型512の底部に付着して硬化(例えば光硬化又は熱硬化)させる。
工程S53:ヒドロゲル又はシリコンハイドロゲルの混合液を含む液体のコンタクトレンズ材料31を下型512に注入し、上型511を型締めして、その後、硬化離型及びバリ除去(任意選択的)等の後作業を行う。
工程S54(任意選択的、図示せず):水合してパッケージした後、高温高圧滅菌を行うことで、市販可能なレベルのコンタクトレンズ製品を得る。
【0044】
図3Eに対応する実施例を説明する。ナノ粒子を配置する前に1層のコンタクトレンズ31を形成し、それにナノ粒子を環状に分布させた後、
図4、
図5に示す成形プロセス又はインプリントプロセスを行うことで、
図3Eに示すサンドイッチ構造を形成できる。
【0045】
上記工程S45~S44及び工程S55~S53は、コンタクトレンズの商業的なパッケージ工程を示す。本発明の眼用装置の製造方法は、任意選択的に前記商業的なパッケージ工程を有してもよい。本発明のナノ粒子は、特殊的な構造及びグラフト構造に合う官能基を有し、有効成分に良好に結合できる。そのため、高温高圧滅菌を行っても有効成分が流失せずにナノ粒子に付着する。
【0046】
本発明は、前記コンタクトレンズのレシピ又は製造方法に限定されない。公知のコンタクトレンズレシピ又は成形技術を利用してナノ粒子の複合を行うことができる。本発明に開示のコンタクトレンズがあくまでナノ粒子の担体であり、本発明のナノ粒子は、コンタクトレンズの応用に限定されない。
【0047】
図7Aは、眼用装置の実施例2、3によって製造したコンタクトレンズの断面図である。有効成分担持ナノ粒子は、図の上半分に非常に薄くて均一に分布され、その厚さが約5.9μmである。また、コンタクトレンズ材料本体の厚さは、約100μmである。
【0048】
<有効性実験>
以下、有効成分担持ナノ粒子を利用して製造したコンタクトレンズの担持性及び徐放性等を検証する。
【0049】
図2Bは、ナノ粒子の官能基修飾を示す模式図である。
図6は、修飾されたナノ粒子の修飾官能基のスペクトル(Transmittance(%)-wavenumber(cm
-1))である。
図6から分かるように、本発明によれば、アミノ基(-NH
2)、カルボキシル基(-COOH)、及びジスルフィド結合(S-S)を有する複合官能基を形成できる。
【0050】
図7B及び表3において、
図7Aのコンタクトレンズに対して光学的試験を行った結果を示す。前記光学的試験は、それぞれ、UV-B(280-315nm)、UV-A(316-380nm)、及び可視光(Visible、380-780nm)を利用して光学ゾーンの透過率を求める。表3から分かるように、本発明のコンタクトレンズは、ナノ粒子が付着しても市販のコンタクトレンズと同じレベルの光学性能を有し、ANSI(米国国家規格協会)Z80.20 ClassIIの標準に合う。
【0051】
【0052】
(薬物試験1)Ketotifen fumarate salt
38%HEMAを含むヒドロゲル型コンタクトレンズと、前記プロセスで製造した38%HEMA及び有効成分担持ナノ粒子(細孔径が7nmである)を含むヒドロゲル型コンタクトレンズとに対して有効成分の吸収性及び徐放性の比較試験を行う。前記有効成分担持ナノ粒子は、その薬物濃度が5m-wt%(50μg/mL)であり、3mLに浸漬して担持させ、コンタクトレンズに厚さが約6μmであるナノ粒子層を形成する。サンプルは、いずれも高温高圧滅菌を経てから薬物徐放試験を行う。その結果は、
図8A、
図8B、及び表4に示す。ナノ粒子未担持コンタクトレンズの有効成分の吸収性及び徐放性が明らかに本発明より低いため、本発明のナノ粒子によってコンタクトレンズの有効成分の担持性及び徐放性を向上できることを証明する。
【0053】
【0054】
(薬物試験2.1)Atropine sulfate salt monohydrate(ASM)
前記薬物試験1の有効成分をASMに代わって、担持濃度0.1wt%(1mg/mL)で浸漬する。本試験において、シリコンハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。前記ナノ粒子は、表面に-OH官能基が修飾され、メソポーラスの孔径がそれぞれ7nm及び16nmである。その結果は、
図9及び表5に示す。
【0055】
【0056】
(薬物試験2.2)Atropine sulfate salt monohydrate(ASM)
薬物試験2.2において、ASMを利用し、担持濃度0.5wt%で浸漬させ、ハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。しかしながら、本試験において、ナノ粒子の表面に有効成分を担持してからナノ粒子をコンタクトレンズに形成するのではなく、そのままASM溶液に浸漬することで有効成分を担持する。前記ナノ粒子は、表面に-NH
2官能基が修飾され、メソポーラスの孔径が20nmである。その結果は、
図10及び表6に示す。
【0057】
【0058】
(薬物試験2.3)Atropine sulfate salt monohydrate(ASM)
薬物試験2.3において、ASMを利用し、担持濃度0.5wt%で浸漬させ、シリコンハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。しかしながら、本試験において、ナノ粒子の表面に有効成分を担持してからナノ粒子をコンタクトレンズに形成するのではなく、そのままASM溶液に浸漬することで有効成分を担持する。前記ナノ粒子は、表面に-NH
2官能基が修飾され、メソポーラスの孔径が20nmである。その結果は、
図11及び表7に示す。
【0059】
【0060】
(薬物試験3)Trehalose
前記薬物試験1の有効成分をTrehaloseに代わって、50m-wt%(500μg/mL)の濃度で浸漬する。本試験において、シリコンハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。その結果は、
図12及び表8に示す。
【0061】
【0062】
(薬物試験4)Vitamin B2
前記薬物試験1の有効成分をVitamin B2に代わって、1m-wt%(5μg/mL)の濃度で浸漬する。本試験において、シリコンハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。その結果は、
図13及び表9に示す。
【0063】
【0064】
(薬物試験5)Taurine
【0065】
前記薬物試験1の有効成分をTaurineに代わって、1m-wt%(5μg/mL)の濃度で浸漬する。本試験において、シリコンハイドロゲル型コンタクトレンズに厚さが約10μmであるナノ粒子層を形成する。その結果は、
図14及び表10に示す。
【0066】
【0067】
(生体高分子試験)ヒアルロン酸HA3000
前記薬物試験1の有効成分をヒアルロン酸HA3000に代わって、同じ濃度で前記ナノ粒子を浸漬する。その結果は、
図15に示す。比較溶液(純粋な緩衝液(Buffer solution)においてヒアルロン酸の吸収波長の吸収ピークがないことに対しに対し、本発明のナノ粒子を利用すると、ヒアルロン酸の吸収波長の吸収ピーク(206nm、246nm、286nm)が現れる。このことは、孔径が約20nmであるナノ粒子でヒアルロン酸である生体高分子(分子量が3000である)を担持できることを証明する。
【0068】
以上、本発明のいくつの実施例を開示したが、本発明は、それらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ制限される。
【0069】
本明細書において、「約」との用語は、数値又は範囲の±20%、ひいては±30を示す。また、本明細書に記載の数値は、当業者が参考にして本発明を実施できるように開示される近似値であり、需要によって変更できる。
【0070】
本明細書に引用するすべての特許文献及び他の参考文献は、そのまま参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、引用文献と本発明との間に矛盾がある場合、本発明が優先する。
【符号の説明】
【0071】
S21、S22、S23、S241、S242、S25 工程
S41~S44 工程
41 コンタクトレンズ金型
411 上型
412 下型
S51~S53 工程
51 コンタクトレンズ金型
511 上型
512 下型
30 眼用装置
31 コンタクトレンズ材料
32 光学ゾーン
NP ナノ粒子