IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 協和ファインテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-低粘度流体の移送方法 図1
  • 特許-低粘度流体の移送方法 図2
  • 特許-低粘度流体の移送方法 図3
  • 特許-低粘度流体の移送方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】低粘度流体の移送方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/10 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
F04C2/10 341A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022186191
(22)【出願日】2022-11-22
【審査請求日】2022-11-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592253404
【氏名又は名称】協和ファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】長光 保志
(72)【発明者】
【氏名】平岡 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 航輝
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-162734(JP,A)
【文献】特開2004-162548(JP,A)
【文献】特開2012-030165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/08
F04C 2/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動される駆動歯車と、
駆動歯車と噛み合って従動回転する従動歯車と、
駆動歯車及び従動歯車を収容するケーシングと
を備え、
駆動歯車の側面とケーシングの内壁面とのサイドクリアランス、及び、従動歯車の側面とケーシングの内壁面とのサイドクリアランスが、30μm以下に設定されるとともに、
駆動歯車の歯先とケーシングの内周面とのトップクリアランス、及び、従動歯車の歯先とケーシングの内周面とのトップクリアランスが、30μm以下に設定されたギヤポンプ
を用い、
粘度100mPa・sec以下の低粘度流体を、そのギヤポンプに接続された押出機内の高粘度流体に対して5MPa以上の圧力で移送し、
押出機内で低粘度流体と高粘度流体とをブレンドする
ことを特徴とする低粘度流体の移送方法。
【請求項2】
ギヤポンプとして、出口圧を5MPaとしたときの容積効率が90%以上のものを用いる請求項1記載の低粘度流体の移送方法。
【請求項3】
ギヤポンプとして、吐出流量が100cc/rev以下のものを用いる請求項2記載の低粘度流体の移送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度流体を高圧で移送できる低粘度流体の移送方法と、それに用いるギヤポンプとに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池におけるセパレータフィルム等は、図1に示すように、原料Mを、ホッパー51を通じて押出機52に導入し、ダイ53でフィルムFに成形した後、そのフィルムFを、冷却装置54にて冷却し、縦延伸装置55及び横延伸装置56で所定の方向に延伸させ、巻取機57で巻き取ることで製造されている(例えば、特許文献1を参照。)。原料Mは、ポリプロピレン等の樹脂材料を加熱して溶融させた高粘度流体の状態で、押出機52に供給される。
【0003】
ただし、セパレータフィルム等のフィルムFは、1種類の原料のみで製造されることは少なく、複数種類の原料をブレンドして製造されることが多い。例えば、高粘度流体からなる原料Mに、低粘度流体からなる原料M(有機溶媒等)をブレンドすることがある。高粘度の原料Mに対して低粘度の原料Mをブレンドするには、原料Mの圧力を高めて供給する必要がある。この点、従来では、プランジャーポンプ59を用いて、原料Mを押出機52に供給している。
【0004】
しかし、プランジャーポンプ59は、シリンダ内でピストンを往復動させることで、シリンダ内からシリンダ外へと流体(原料M)を移送するものとなっている。このため、ピストンの動作が切り替わる際には、流体(原料M)の圧力が変動(脈動)し、その脈動がフィルムFに縞状の模様となって現れることがある。セパレータフィルム等は、場所によらず均質であることが要求されるところ、原料Mの圧力の変動(脈動)が、フィルムFの不良の原因となることも多い。
【0005】
また、プランジャーポンプ59の代わりに、ベーンポンプを用いる場合もある。ベーンポンプは、ケーシングと、ケーシング内に収容されたロータと、ロータの外周部に進退可能な状態で設けられた複数の羽根(ベーン)とを備えており、ロータを回転させることで、各羽根の間にある流体を移送するものとなっている(例えば、特許文献2を参照)。各羽根は、その先端がケーシングの内周面に当接するように、ロータの遠心方向に付勢されている。ベーンポンプは、その羽根車を一定の速度で回転させれば、低粘度流体(M)であっても、一定の圧力で移送することができる。
【0006】
しかし、ベーンポンプにおいて、移送する低粘度流体(M)の圧力を高めようとすると、ロータを高速で回転させる必要がある。このため、摩擦熱によって装置が高温になり、それを冷却するための機構が必要になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-095946号公報
【文献】特開2021-102955号公報
【文献】特開2019-196760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、流体を移送するものとしては、上記のプランジャーポンプやベーンポンプ以外にも、ギヤポンプ(例えば、特許文献3を参照。)が知られている。ギヤポンプは、ケーシング内で歯車を回転させることで、その歯車の歯溝(隣り合う歯の間)にある流体を、ケーシングの内周面と歯車の外周面との隙間を通じて移送するものとなっている。このため、ベーンポンプと同様、歯車の回転速度を一定に保てば、流体(原料M)を圧力の脈動なく、一定の圧力で移送することができる。
【0009】
しかし、ギヤポンプは、どうしても、ケーシングの内壁面と、歯車の側面との間に、「サイドクリアランス」と呼ばれる隙間C図4)が生じる。このため、ギヤポンプでは、上記のサイドクリアランスを通じて、流体が逆流(バックフロー)するおそれがある。その逆流は、移送対象の流体が低粘度であればあるほど、生じやすくなる。ギヤポンプは、低粘度流体(原料M)を高圧で移送する用途には向かず、図1に示す用途では、プランジャーポンプ59の代わりに使用できない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、ギヤポンプを用いながら、低粘度流体を高圧で移送することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、
回転駆動される駆動歯車と、
駆動歯車と噛み合って従動回転する従動歯車と、
駆動歯車及び従動歯車を収容するケーシングと
を備えたギヤポンプであって、
駆動歯車の側面とケーシングの内壁面とのサイドクリアランス、及び、従動歯車の側面とケーシングの内壁面とのサイドクリアランスが、30μm以下に設定されることにより、
粘度100mPa・sec以下の低粘度流体を5MPa以上の圧力(出口圧)で移送することができるようにした
ことを特徴とするギヤポンプ
を提供することによって解決される。
【0012】
このように、駆動歯車や従動歯車のサイドクリアランスを抑えることによって、低粘度流体でも、5MPa以上という高い圧力で移送することができる。既に述べたように、ギヤポンプは、低粘度流体の高圧移送には向かないというのが技術常識であるところ、そのサイドクリアランスを抑えただけで、低粘度流体の高圧移送が可能になるというのは、非常に驚きである。加えて、ギヤポンプでは、駆動歯車や従動歯車を一定の速度で回転させれば、移送する流体の圧力の脈動を抑えることもできる。このため、本発明のギヤポンプは、上述した用途(セパレータフィルム等の製造設備において、高粘度流体に対して低粘度流体をブレンドする用途)でも、好適に採用することができる。
【0013】
本発明のギヤポンプにおいては、駆動歯車の歯先とケーシングの内周面とのトップクリアランス、及び、従動歯車の歯先とケーシングの内周面とのトップクリアランスも、30μm以下に設定することが好ましい。というのも、移送対象の流体(低粘度流体)の逆流(バックフロー)は、駆動歯車や従動歯車のサイドクリアランスを通じてだけでなく、駆動歯車や従動歯車のトップクリアランスを通じても、生じ得るところ、このトップクリアランスも小さく抑えることで、移送する流体(低粘度流体)の圧力をさらに高めやすくなるからである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によって、ギヤポンプを用いながら、低粘度流体を高圧で移送することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来のフィルム製造設備を説明する図である。
図2】本実施形態のギヤポンプを用いたフィルム製造設備を説明する図である。
図3】本実施形態のギヤポンプを、駆動歯車及び従動歯車の回転中心線L,Lに垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。
図4】本実施形態のギヤポンプを、図3におけるX-X平面で切断した状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のギヤポンプの実施形態について、図面を用いて具体的に説明する。ただし、以下で述べる構成は、飽くまで好適な実施形態に過ぎず、本発明のギヤポンプの技術的範囲は、以下で述べる構成に限定されない。本発明のギヤポンプには、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0017】
1.ギヤポンプの用途
本発明のギヤポンプは、低粘度流体を高圧で移送する各種用途に用いることができる。例えば、シリンダ内に収容されたピストンを油圧で駆動する油圧シリンダでは、シリンダ内に油を高圧で移送する必要があるところ、この油圧シリンダのシリンダ内に油を供給する用途で、本発明のギヤポンプを使用することができる。また、既に述べたように、フィルム(リチウムイオン電池におけるセパレータフィルム等)を製造する際には、押出機内で、高粘度流体に対して低粘度流体をブレンドする場合があるところ、この押出機内に低粘度流体を供給する用途で、本発明のギヤポンプを使用することもできる。以下においては、説明の便宜上、フィルムを製造する場合を例に挙げて、本発明のギヤポンプを説明する。
【0018】
2.フィルム製造設備
図2は、ギヤポンプ10を用いたフィルム製造設備を説明する図である。このフィルム製造設備は、図2に示すように、原料M用のホッパー51と、押出機52と、ダイ53と、冷却装置54と、縦延伸装置55と、横延伸装置56と、巻取機57に加えて、原料M用のホッパー58と、ギヤポンプ10とを備えている。原料Mは、フィルムFの主原料であるポリプロピレンやポリエチレン等の樹脂材料(ペレット等)を加熱して溶融させた高粘度流体であり、原料Mは、有機溶剤等、原料Mに添加される低粘度流体である。原料Mは、ホッパー51を通じて押出機52内に導入され、原料Mは、ホッパー58を通じてギヤポンプ10内に導入され、このギヤポンプ10によって圧力が高められて押出機52内に導入される。
【0019】
押出機52は、スクリュー等によって、原料Mと原料Mとを混合しながら、後段のダイ53へと押し出すものとなっている。本実施形態においては、2本のスクリューを備えた二軸押出機(二軸混合機)を押出機52として用いている。
【0020】
ダイ53は、押出機52から押し出された原料M,M(原料Mと原料Mとの混合物。以下同じ。)をスリットから導出することで、フィルム状に成形するものとなっている。本実施形態においては、ダイ53として、「Tダイ」と呼ばれるT型のものを用いている。押出機52の圧力のみでは、原料M,Mがフィルム状となってダイ53から導出されにくい場合には、押出機52とダイ53とを結ぶ配管に、原料M,Mをダイ53に移送するための流体移送手段(図示省略)を設けることもできる。この流体移送手段としては、ギヤポンプ(本発明のギヤポンプ10である必要はなく、一般的なギヤポンプであってもよい。)等が挙げられる。
【0021】
冷却装置54は、ダイ53から導出されたフィルムFを冷却するためのものとなっている。本実施形態においては、冷却装置53を、回転駆動される駆動ローラと、駆動ローラに対して並列に配された複数本のガイドローラとで構成している。ダイ53から導出されたフィルムFは、冷却装置54の駆動ローラ外周面に落とされ、複数本のガイドローラに掛け回された状態とされる。フィルムFは、駆動ローラから複数本のガイドローラまでを移送する間に自然冷却される。冷却装置54には、冷風機等、フィルムFを積極的に冷却する手段を設けることもできる。
【0022】
縦延伸装置55は、冷却装置54から送られてきたフィルムFに対して、縦方向(フィルムFの移送方向)のテンションを掛けることで、フィルムFを縦方向に延伸させるものとなっている。本実施形態においては、縦延伸装置55を、互いに並列に配された複数本のガイドローラで構成している。
【0023】
横延伸装置56は、縦延伸装置55から送られてきたフィルムFに対して、横方向(フィルムFの移送方向に垂直な方向)のテンションを掛けることで、フィルムFを横方向に延伸させるものとなっている。本実施形態においては、横延伸装置56として、フィルムFの両脇に設置したクリップ(図示省略)でフィルムFを横方向に引っ張るものを用いている。
【0024】
巻取機57は、横延伸装置56から送られてきたフィルムFをロール状に巻き取るものとなっている。本実施形態においては、巻取機57を、回転駆動される駆動ローラによって構成している。この駆動ローラ(巻取機57)は、図示省略の電気モータ等によって回転駆動される。巻取機57に巻き取られたフィルムFは、原料Mと原料Mとがブレンドされたものとなっている。
【0025】
このフィルム製造設備においては、押出機52内に、低粘度流体からなる原料Mを高圧で供給する必要がある。押出機52内には、高粘度流体である原料Mが既に供給されているため、原料Mの圧力が低いと、原料Mが押出機52内に入っていかないからである。また、このフィルム製造設備においては、低粘度流体からなる原料Mの圧力変動(脈動)を抑えながら、原料Mを押出機52内に供給する必要もある。押出機52内に供給される原料Mの圧力が脈動すると、フィルムFに縞状の模様が表れるとともに、その模様の箇所では、原料Mの密度が他の部分と変わり、フィルムFが均質にならないからである。
【0026】
本実施形態においては、原料Mを高圧且つ一定の圧力で押出機52内に供給するために、ギヤポンプ10を用いている。既に述べたように、一般的に、ギヤポンプは、低粘度流体を高圧で移送する用途には向かないところ、本実施形態では、後述する工夫をギヤポンプ10に施すことで、これを可能としている。また、ギヤポンプ10を採用することで、発熱を抑えることができるというメリットもある。
【0027】
3.ギヤポンプ
本実施形態のギヤポンプ10の構造について詳しく説明する。図3は、本実施形態のギヤポンプ10を、駆動歯車11及び従動歯車12の回転中心線L,Lに垂直な平面で切断した状態を示した断面図である。図4は、本実施形態のギヤポンプ10を、図3におけるX-X平面で切断した状態を示した断面図である。本実施形態のギヤポンプ10は、図3及び図4に示すように、駆動歯車11と、従動歯車12と、ケーシング13とを備えている。
【0028】
ケーシング13は、図4に示すように、プレート状を為す中間部13aの両側を、プレート状を為す一対のカバー部13b,13cで挟み込んだ構造を有している。図3に示すように、ケーシング13の中間部13aには、流体導入室αと、駆動歯車収容室αと、従動歯車収容室αと、流体導出室αとが連通した状態で設けられている。流体導入室αには、流体導入部INが設けられ、流体導出室αには、流体導出部OUTが設けられている。流体導入部INは、ホッパー58(図2)に接続されており、ホッパー58に投入された原料Mがこの流体導入部INを通じて流体導入室α内に導入されるようになっている。一方、流体導出部OUTは、押出機52(図2)に接続されており、流体導出室αにある流体(原料M)がこの流体導出部OUTを通じて押出機52に送り出されるようになっている。流体導入室α及び流体導出室αは、駆動歯車収容室αと従動歯車収容室αとの境界部分(連通部分)を挟んで反対側に配されている。
【0029】
駆動歯車収容室αには、駆動歯車11が収容されており、従動歯車収容室αには、従動歯車12が収容されている。駆動歯車11及び従動歯車12の外周部には、それぞれ複数の歯11a,12aが設けられている。駆動歯車11及び従動歯車12としては、平歯車(円柱部材の外周部に複数本の歯を平行に設けた歯車)や、はすば歯車(平歯車を捩じった形状を有する歯車)を用いることができる。本実施形態においては、平歯車としている。駆動歯車11と従動歯車12は、歯11aと歯12aとが噛み合うように、互いに外接する状態で配されている。駆動歯車収容室α及び従動歯車収容室αは、いずれも断面円形状を為しているところ、駆動歯車11及び従動歯車12の外径は、それぞれ駆動歯車収容室α及び従動歯車収容室αの直径よりも僅かに小さく設定されている。
【0030】
これらの駆動歯車11及び従動歯車12のうち、駆動歯車11は、円柱状を為すシャフト14の外周部に一体的に固定されている。シャフト14は、ケーシング13に対して回転可能な状態で軸支されており、このシャフト14には、電気モータ等の回転駆動手段(図示省略)が連結されている。一方、従動歯車12は、円柱状を為すシャフト15の外周部に対して回転可能な状態で軸支されている。シャフト15は、ケーシング13に対して動かない状態で固定されている。このため、上記の回転駆動手段を駆動すると、回転シャフト14及び駆動歯車11が、回転中心線Lを中心として回転する(図3における矢印Aを参照。)とともに、その駆動歯車11の回転に従動して、従動歯車12が回転中心線Lを中心として回転する(図3における矢印Aを参照。)ようになっている。駆動歯車11の回転方向Aと、従動歯車12の回転方向Aは、逆向きとなる。
【0031】
駆動歯車11及び従動歯車12がそれぞれ矢印A,Aの向きに回転すると、流体導入室αにある流体(原料M)が、駆動歯車11の歯溝及び従動歯車12の歯溝に保持されて、駆動歯車収容室αの内周面と駆動歯車11の外周面との間を通って流体導出室αに移送される(図3における矢印Aを参照。)とともに、従動歯車収容室αの内周面と従動歯車12の外周面との間を通って流体導出室αに移送される(図3における矢印Aを参照。)。流体導出室αに達した流体(原料M)は、流体導出部OUTから導出されて、押出機52へと供給される。流体導出部OUTから導出される流体(原料M)の圧力(出口圧)は、駆動歯車11及び従動歯車12の回転速度を速くすることで高くすることができる。
【0032】
ただし、移送対象の流体(原料M)の粘度が低い場合(原料Mが低粘度流体である場合)には、駆動歯車11及び従動歯車12の回転速度を速くしても、駆動歯車11の側面とケーシング13の内壁面(駆動歯車収容室αの内壁面)との隙間(図4における駆動歯車11側のサイドクリアランスC)や、従動歯車12の側面とケーシング13の内壁面(従動歯車収容室αの内壁面)との隙間(図4における従動歯車12側のサイドクリアランスC)を通じて、流体導出室αから流体導入室αに流体(原料M)が逆流してしまい、流体導出部OUTから導出される流体(原料M)の圧力が思ったように高まらないおそれがある。
【0033】
低粘度流体(原料M)は、圧力が高い場所から低い場所に向かって流れるところ、駆動歯車11及び従動歯車12を回転駆動すると、流体導出室αの圧力が流体導出室αよりも高くなるからである。同様の理由で、駆動歯車11の歯先(歯11aの頂点P)とケーシング13の内周面(駆動歯車収容室αの内周面)との隙間(図3における駆動歯車11側のトップクリアランスC)や、従動歯車12の歯先(歯12aの頂点P)とケーシング13の内周面(従動歯車収容室αの内周面)との隙間(図3における従動歯車12側のトップクリアランスC)を通じても、流体(原料M)の逆流が生じ得る(図3における破線矢印A,Aを参照。)。また、流体導出室αから流体導出室αへの逆流は、駆動歯車11と従動歯車12との境界部分でも生じ得る(図3における破線矢印Aを参照。)。低粘度流体(原料M)の逆流は、流体(原料M)の粘度が100mPa・sec以下の場合に生じやすい。低粘度流体(原料M)の逆流は、流体(原料M)の粘度が50mPa・sec以下、40mPa・sec以下、30mPa・sec以下、20mPa・sec以下、10mPa・sec以下とさらに低くなるにつれて、より生じやすくなる。
【0034】
この点、本実施形態においては、上記のサイドクリアランスC図4)及びトップクリアランスC図3)を、いずれも30μm以下に抑えることで、流体(原料M)の逆流を防止している。サイドクリアランスC及びトップクリアランスCは、20μm以下、10μm以下、5μmとさらに小さくすることで、逆流がさらに生じにくくすることができる。サイドクリアランスC及びトップクリアランスCの下限は、特に限定されないが、駆動歯車11や従動歯車12やケーシング13の製作を考慮すると、0.1~1μm程度までであると思われる。
【0035】
以上のように、サイドクリアランスC及びトップクリアランスCを小さく抑えることで、原料Mが粘度100mPa・sec以下の低粘度流体である場合にも、その原料Mを5MPa以上の圧力(出口圧)で移送することができる。駆動歯車11及び従動歯車12の回転速度を速めることで、原料Mの出口圧は、10MPa以上、15MPa以上とさらに高くできることも確認できた。原料Mの出口圧の上限は、特に限定されないが、50~100MPa程度までであると思われる。
【0036】
また、本実施形態のギヤポンプ10では、原料Mの出口圧を高くした場合(例えば5MPaとした場合)でも、高い容積効率(例えば85%以上)とすることも可能である。ギヤポンプ10の容積効率は、90%以上、95%以上とさらに高くできることも確認できた。ただし、ギヤポンプ10の容積効率をあまり高くしなくても、駆動歯車11及び従動歯車12の回転速度を速くすれば、原料Mの出口圧を高くすることができる。
【0037】
さらに、本実施形態のギヤポンプ10では、原料Mの出口圧の脈動が殆ど生じないことも確認できた。具体的には、原料Mの出口圧(目的圧)に対する脈動の比率を5%以下にできる(例えば、目的圧が5MPaの場合で脈動を0.25MPa以下にできる)ことが確認できた。原料Mの出口圧(目的圧)に対する脈動の比率は、4%以下、3%以下、2%以下とさらに小さくすることも可能である。
【0038】
以上で述べた本実施形態のギヤポンプ10に係る構成は、ギヤポンプの能力に関わらず、採用することができる。例えば、吐出流量が1cc/revクラス(0.1cc/revよりも大きく1cc/rev以下)のギヤポンプや、吐出流量が10cc/revクラス(1cc/revよりも大きく10cc/rev以下)のギヤポンプや、吐出流量が100cc/revクラス(10cc/revよりも大きく100cc/rev以下)のギヤポンプのいずれであっても、採用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 ギヤポンプ
11 駆動歯車
11a 歯
12 従動歯車
12a 歯
13 ケーシング
13a 中間部
13b カバー部
13c カバー部
14 シャフト
15 シャフト
16 フランジ部
51 ホッパー(原料M用)
52 押出機
53 ダイ
54 冷却装置
55 縦延伸装置
56 横延伸装置
57 巻取機
58 ホッパー(原料M用)
59 プランジャーポンプ
駆動歯車の回転方向
従動歯車の回転方向
駆動歯車による原料Mの移送方向
従動歯車による原料Mの移送方向
駆動歯車側のトップクリアランスを通じた逆流の向き
駆動歯車側のトップクリアランスを通じた逆流の向き
駆動歯車と従動歯車の境界部分(噛合部分)を通じた逆流の向き
駆動歯車の回転中心線
従動歯車の回転中心線
原料(高粘度流体)
原料(低粘度流体)
駆動歯車又は従動歯車の歯先とケーシングの内周面とのトップクリアランス
駆動歯車又は従動歯車の側面とケーシングの内壁面とのサイドクリアランス
IN 流体導入部
OUT 流体導出部
α 流体導入室
α 駆動歯車収容室
α 従動歯車収容室
α 流体導出室
【要約】
【課題】
ギヤポンプを用いながら、低粘度流体を高圧で移送する。
【解決手段】
回転駆動される駆動歯車11と、駆動歯車11と噛み合って従動回転する従動歯車12と、駆動歯車11及び従動歯車12を収容するケーシング13とを備えたギヤポンプ10において、駆動歯車11の側面とケーシング13の内壁面とのサイドクリアランスC、及び、従動歯車の側面とケーシング13の内壁面とのサイドクリアランスCを、30μm以下に設定する。これにより、粘度100mPa・sec以下の低粘度流体Mを5MPa以上の圧力(出口圧)で移送することが可能となる。
【選択図】 図4
図1
図2
図3
図4