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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ルータービット
(51)【国際特許分類】
   B23C 5/10 20060101AFI20230831BHJP
   B26D 1/00 20060101ALI20230831BHJP
   B27G 13/12 20060101ALI20230831BHJP
   B27C 5/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
B26D1/00
B27G13/12
B27C5/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023514115
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2022033001
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022112388
(32)【優先日】2022-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522281327
【氏名又は名称】高橋刃物工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史晶
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 真二
(72)【発明者】
【氏名】張 剣華
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-053794(JP,A)
【文献】特開平02-083109(JP,A)
【文献】実開平06-046816(JP,U)
【文献】特表2008-511465(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163677(WO,A1)
【文献】特開2014-210324(JP,A)
【文献】特公昭25-001599(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0120777(US,A1)
【文献】特開2000-246728(JP,A)
【文献】実開平07-017413(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B27G 13/12
B27C 5/00
B26D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属材料である被切削材料(20)を加工するルータービット(10)であって、
超硬合金からなる本体部と、
前記本体部の一端側を研削して形成され、刃部(14)を備えたボディ(12)と、を備え、
前記ボディ(12)は、前記被切削材料(20)の切屑を排出する主フルート(18)および副フルート(19)を含み、
前記ボディ(12)の全体有効刃長(L)における空隙率Rが、52%≦R≦75%に設定され
前記主フルート(18)のリード角θが、前記ボディ(12)の刃先側に比べて、前記ボディ(12)のシャンク(16)側が大きくなるよう設定され、
前記ボディ(12)の前記全体有効刃長(L)に対応する部分が、軸方向に沿って複数の領域(A1~A3)に区分けされ、
前記リード角θは、前記ボディ(12)の刃先側の領域(A1)から前記ボディ(12)のシャンク(16)側の領域(A3)にかけて、段階的に大きくなっており、
前記主フルート(18)は、ルータービットの回転方向前方の前側エッジ(18a)と、ルータービットの回転方向後方の後側エッジ(18b)とによって規定され、
前記複数の領域(A1~A3)は、第1領域(A1)と、前記第1領域(A1)に対して前記ボディ(12)のシャンク(16)側に隣接する第2領域(A2)とを備え、
前記第1領域(A1)での前記前側エッジ(18a)に対して、前記第2領域(A2)での前記前側エッジ(18a)が拡開している
ことを特徴とするルータービット。
【請求項2】
前記刃部(14)は、超高圧焼結体から形成されて前記ボディ(12)に接合されている請求項1記載のルータービット。
【請求項3】
前記刃部(14)は、前記本体部を切削加工することで形成された無垢刃である請求項1記載のルータービット。
【請求項4】
前記刃部は、正のひねり角を有する底刃(14b)と、負のひねり角を有する外周刃(14a)とを備える請求項1記載のルータービット。
【請求項5】
前記第1領域(A1)での前記前側エッジ(18a)と前記第2領域(A2)での前記前側エッジ(18a)とを接続する段状の接続部(22)が形成されている請求項記載のルータービット。
【請求項6】
前記刃部は、底刃(14b)と、外周刃(14a)とを備え、
前記ボディ(12)の複数の領域(A1~A3)は、前記底刃(14b)を含む前記第1領域(A1)と、前記第1領域(A1)に対して前記ボディ(12)のシャンク(16)側に隣接する前記第2領域(A2)とを含み、
前記第1領域(A1)での主フルート(18)のリード角θ1は一定とされ、
前記第2領域(A1)での主フルート(18)のリード角θ2は、前記第1領域(A1)での主フルート(18)のリード角θ1よりも大きく、かつ、前記第1領域(A1)側から前記ボディ(12)のシャンク(16)側に向けて連続的に大きくなっている請求項記載のルータービット。
【請求項7】
前記主フルート(18)のねじれ展開角αが、180°以上に設定されている請求項記載のルータービット。
【請求項8】
非金属材料である被切削材料(20)を加工するルータービット(10)であって、
超硬合金からなる本体部と、
前記本体部の一端側を研削して形成され、刃部(14)を備えたボディ(12)と、を備え、
前記ボディ(12)は、前記被切削材料(20)の切屑を排出する主フルート(18)および副フルート(19)を含み、
前記ボディ(12)の全体有効刃長(L)における空隙率Rが、52%≦R≦75%に設定され、
前記刃部は、底刃(14b)と、外周刃(14a)とを備え、
前記ボディ(12)の前記全体有効刃長(L)に対応する部分が、軸方向に沿って複数の領域(A1~A3)に区分けされ、
前記主フルート(18)の周方向の幅Wは、前記ボディ(12)の前記外周刃(14a)による有効刃長(l)内において、前記ボディ(12)の刃先側の領域(A1)に対して、前記ボディ(12)のシャンク(16)側の領域(A2,A3)が大きくなっており、
前記主フルート(18)は、ルータービットの回転方向前方の前側エッジ(18a)と、ルータービットの回転方向後方の後側エッジ(18b)とによって規定され、
前記複数の領域(A1~A3)は、第1領域(A1)と、前記第1領域(A1)に対して前記ボディ(12)のシャンク(16)側に隣接する第2領域(A2)とを備え、
前記第1領域(A1)での前記前側エッジ(18a)に対して、前記第2領域(A2)での前記前側エッジ(18a)が拡開しているルータービット。
【請求項9】
前記第1領域(A1)での前記前側エッジ(18a)と前記第2領域(A2)での前記前側エッジ(18a)とを接続する段状の接続部(22)が形成されている請求項記載のルータービット。
【請求項10】
前記刃部は、底刃(14b)と、外周刃(14a)とを備え、
前記ボディ(12)の前記外周刃(14a)による有効刃長(l)内において、主フルート(18)によるフルート空隙率rが、前記ボディ(12)の刃先側に比べて、前記ボディ(12)のシャンク(16)側が大きくなるよう設定されている請求項1~4の何れか一項に記載のルータービット。
【請求項11】
前記主フルート(18)の溝深さDが、前記ボディ(12)の刃先側に比べて、前記ボディ(12)のシャンク(16)側が大きくなるよう設定されている請求項1~4の何れか一項に記載のルータービット。
【請求項12】
非金属材料である被切削材料(20)を加工するルータービット(10)であって、
超硬合金からなる本体部と、
前記本体部の一端側を研削して形成され、刃部(14)を備えたボディ(12)と、を備え、
前記ボディ(12)は、前記被切削材料(20)の切屑を排出する主フルート(18)および副フルート(19)を含み、
前記ボディ(12)の全体有効刃長(L)における空隙率Rが、55%≦R≦72%に設定されている
ことを特徴とするルータービット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切削材料を切削加工するルータービットに関する。
【背景技術】
【0002】
木質系または樹脂系の有機材料や、その複合材料、および窯業系などの無機質材料(すなわち、非金属材料)の被切削材料を切削加工する工具として、ルータービットが知られている(特許文献1参照)。従来のルータービットでは、炭素鋼や工具鋼などを基材とした本体部に、超硬質焼結体を接合した刃部を備えて構成されている。そして、ルータービットは、NCルータなどの切削加工機に装着されて、被切削材料の穴あけ加工(Z方向)や引っ張り加工(X,Y方向)に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-146713号公報
【発明の概要】
【0004】
このようなルータービットでは、ボディにフルートと呼ばれる溝状の切屑経路が形成されることが一般的である。例えば、被切削材料である木質系ボードを切削する場合、切削時(特に穴あけ加工)に生じた切屑がフルートに案内されてZ方向である上方に排出される。しかしながら、ルータービットによる加工は、通常、被切削材料を穴あけした後に引っ張り加工を行うため、ルータービットは、常に密閉状態または半密閉状態で切削を行う。そのため、切屑がフルート内で停滞し易くなり、フルート内で切屑が詰まってしまうことがあった。特に、木質系や樹脂系の材料では、切屑が大きく(体積の約3倍)膨張し易く、フルート内で詰まりが生じ易い傾向にある。
【0005】
この結果、フルートによる切屑の排出が阻害され、切削に要する電力、より正確には、切屑の排出に必要な電力が増大してしまう問題があった。また、切屑の排出が阻害されると、切削面が摩擦により高温となって、いわゆる「やけ」が生じることがあった。このようなやけが生ずると、切削品質が低下したり、最悪の場合には切削面が高温となって切屑や粉塵に着火し、火災が発生することもあった。また、切屑の排出が悪くなると、切削時の騒音が大きくなる難点もある。
本開示が解決しようとする課題は、切削時に生ずる切屑の排出能力を顕著に向上させたルータービットを提供することにある。
【0006】
上記課題に鑑み、本開示の一側面によれば、非金属材料である非金属材料である被切削材料(20)を加工するルータービット(10)であって、
超硬合金からなる本体部と、
前記本体部の一端側を研削して形成され、刃部(14)を備えたボディ(12)と、を備え、
前記ボディ(12)は、前記被切削材料(20)の切屑を排出する主フルート(18)および副フルート(19)を含み、
前記ボディ(12)の全体有効刃長(L)における空隙率Rが、52%≦R≦75%に設定され
前記主フルート(18)のリード角θが、前記ボディ(12)の刃先側に比べて、前記ボディ(12)のシャンク(16)側が大きくなるよう設定され、
前記ボディ(12)の前記全体有効刃長(L)に対応する部分が、軸方向に沿って複数の領域(A1~A3)に区分けされ、
前記リード角θは、前記ボディ(12)の刃先側の領域(A1)から前記ボディ(12)のシャンク(16)側の領域(A3)にかけて、段階的に大きくなっており、
前記主フルート(18)は、ルータービットの回転方向前方の前側エッジ(18a)と、ルータービットの回転方向後方の後側エッジ(18b)とによって規定され、
前記複数の領域(A1~A3)は、第1領域(A1)と、前記第1領域(A1)に対して前記ボディ(12)のシャンク(16)側に隣接する第2領域(A2)とを備え、
前記第1領域(A1)での前記前側エッジ(18a)に対して、前記第2領域(A2)での前記前側エッジ(18a)が拡開している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第一実施形態に係るルータービットを示す斜視図である。
図2】第一実施形態に係るルータービットを示す側面図である。
図3】ルータービットの底刃および外周刃の機能を概念的に示す説明図である。
図4】木質系ボードを穴あけ加工および引張り加工する様子を概念的に示す説明図であって、引張り加工時に、アップカットとダウンカットが同時に行われることを示す。
図5】(a)は、木質系ボードをアップカットする様子を概念的に示す説明図であり、(b)は、木質系ボードをダウンカットする様子を概念的に示す説明図である。
図6】実験例1の実験結果であって、切屑排出電力と空隙率との関係を示すグラフである。
図7】ルータービットのボディを拡大して示す側面図である。
図8】ボディを概略的に示す展開図である。
図9】ボディの断面図であって、(a)は、図7のIX(a)-IV(a)線断面図、(b)は、図7のIX(b)-IV(b)線断面図、(c)は、図7のIX(c)-IV(c)線断面図である。
図10】ボディの第3領域における断面図である。
図11】第一実施形態に係るルータービットと比較例に係るルータービットとを比較して示す断面図であって、(a)は第一実施形態に係るルータービットを示し、(b)は比較例に係るルータービットを示す。
図12】第二実施形態に係るルータービットのボディを概略的に示す展開図である。
図13】第三実施形態に係るルータービットのボディを概略的に示す展開図である。
図14】第四実施形態に係るルータービットのボディを概略的に示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第一実施形態)
次に、第一実施形態に係るルータービット10について、以下図面を参照しながら説明を行う。図1は、第一実施形態のルータービット10を示す全体斜視図、図2は、ルータービット10の側面図である。このルータービット10は、超硬合金からなる柱状(丸棒)の本体部を焼結し、本体部の一端側の表面を砥石により研削加工することで形成されている。より具体的には、本体部の一端側を研削加工することでボディ12を形成し、該ボディ12に複数の刃部14(より詳しくは、3つの外周刃14aおよび底刃14b)が取り付けられている。なお、以下の説明では、底刃14bに最も近い外周刃14aから順に第1~第3外周刃14aと指称する場合がある。また、本体部において、ボディ12以外の部位はシャンク16とされて、NCルータなどの切削加工機(図示せず)にシャンク16が装着されるようになっている。
【0009】
図7に示すように、ルータービット10の有効刃長Lは、底刃14bからシャンク16に最も近い外周刃14a(すなわち、第3外周刃14a)までの軸方向の距離と定義される。以下の説明では、このルータービット10の底刃14bから第3外周刃14aまでの有効刃長を全体有効刃長Lと称する。また、全体有効刃長Lのうち、3つの外周刃14aがなす有効刃長を外周刃有効刃長lと定義する。本実施形態では、3つの外周刃14aを設けることで、全体有効刃長Lが大きくなっている。より具体的には、ルータービット10の全体有効刃長Lは、刃径(ルータービット10の回転中心から刃部14の刃先までの径方向の長さ)の約2倍となっている。ただし、ルータービット10を超硬合金から形成することで、全体有効刃長Lの長さを、刃径の約3倍まで大きくすることが可能である。
【0010】
図7に示すように、ボディ12は、ルータービット10の全体有効刃長Lに対応する部位が、軸方向に沿って複数の領域に概念的に分けられている。本実施形態では、先端側からシャンク16に向けてボディ12は、第1~第3領域A1~A3に区分けされる。ボディ12には、加工時に生ずる切屑を排出するためのフルート18,19が形成されている。図1および図2に示すように、本実施形態では、単一の主フルート18と、複数の副フルート19とがそれぞれ砥石による研削加工によって形成されている。主フルート18は、ボディ12の先端側(刃底側)からシャンク16に掛けてボディ12の軸方向全体に亘って形成されている。すなわち、主フルート18は、ボディ12の第1~第3領域A1~A3に掛けて1つの溝状に延在している。この主フルート18は、ボディ12を回転中心の近傍までえぐるように形成されており(図9参照)、ボディ12の先端からシャンク16に向けて時計回り方向にらせん状に延びている。後述するように、主フルート18は、加工時に被切削材料から生成される切屑をボディ12の先端側からシャンク16側へ送り出す切屑排出機能を有している。
【0011】
本実施形態の主フルート18は、ボディ12の先端側のリード角θが、ボディ12の先端側(刃先側)に比べて、ボディ12のシャンク16側が大きくなるよう設定されている。より詳しくは、図8の展開図に示すように、主フルート18の第3領域A3におけるリード角θ3は、第2領域A2におけるリード角θ2よりも大きく、第2領域A2におけるリード角θ2は、第1領域A1におけるリード角θ1よりも大きくなっている。例えば、リード角θ1、θ2,θ3は、それぞれ、25°、35°、53°に設定されるが、リード角としては、この数値に限定されるものではない。
【0012】
前述のように、第1領域A1での主フルート18のリード角θ1は、最も小さな値となっている。これは、底刃14bのすくい角を20°以下とするために刃先側(すなわち、第1領域A1)の主フルート18のリード角θを小さくする必要があるからである。底刃14bのすくい角を20°より大きくすると、刃先のチッピングが生じ易くなるからである。底刃14bのすくい角は、主フルート18の刃先側のリード角θ1によって規定される。そのため、底刃14bのすくい角を20°以下とするためには、主フルート18のリード角θ1を最大でも約25°に抑える必要がある。そこで、本実施形態では、主フルート18のリード角θ1を約25°に設定しつつ、シャンク16側に掛けてリード角θ2,θ3の値を段階的に大きくしている。
【0013】
図9(a)~(c)は、それぞれ、ルータービット10の各領域A1~A3における断面図であって、図7のIX(a)-IX(a)線断面図、IX(b)-IX(b)線断面図、およびIX(c)-IX(c)線断面図に対応する。なお、図9(a)のIX(a)-IX(a)線は、第1領域A1であって、かつ外周刃有効刃長l内に位置している。本実施形態では、主フルート18の周方向の幅Wが、ボディ12の先端側(図9(a)参照)に比べて、シャンク16側(図9(c)参照)で大きくなるよう設定されている。より詳しくは、主フルート18の周方向の幅Wは、ボディ12の外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側に比べてシャンク16側で大きくなっている。更に、主フルート18の周方向の幅Wは、ボディ12の外周刃有効刃長l内において、第1~第3領域A1~A3にかけて段階的に大きくなっている。すなわち、第1領域~第3領域A1~A3における主フルート18の周方向の幅をW1~W3とすると、W1<W2<W3となっている。なお、外周刃有効刃長l内において、各領域A1~A3での主フルート18の幅W1~W3は、一定となっている。また、図9に示すように、本実施形態での主フルート18の溝深さDは、全領域A1~A3において一定となっている。
【0014】
ここで、図8に示すように、主フルート18を規定するエッジのうち、ルータービット10の回転方向前方を前側エッジ18a、ルータービット10の回転方向後方を後側エッジ18bと定義する。本実施形態では、主フルート18は、第1領域A1の前側エッジ18aに対して、第2領域A2の前側エッジ18aが回転方向前方へ一旦膨らんだ後に回転方向後方へ延びている。さらに、第2領域A2の前側エッジ18aに対して、第3領域A3の前側エッジ18aが回転方向前方へ一旦膨らんだ後に、回転方向後方へ延びている。そして、第1領域A1の前側エッジ18aと、第2領域A2の前側エッジ18aとの間は、段状の接続部22によって接続されている。同様に、第2領域A2の前側エッジ18aと、第3領域A3の前側エッジ18aとの間は、段状の接続部22によって接続されている。このように、第1~第3領域A1~A3における前側エッジ18aを段階的に拡げ、かつ、主フルート18のリード角θ1~θ3を段階的に大きくすることで、主フルート18の周方向の幅W1~W3を段階的に大きくしている。
【0015】
ここで、第1領域A1での前側エッジ18aおよび後側エッジ18bは、互いに平行に直線的に延びている。同様に、第2領域A2での前側エッジ18aおよび後側エッジ18bや、第3領域A3での前側エッジ18aおよび後側エッジ18bについても、互いに平行に直線的に延びている。また、本実施形態におけるルータービット10では、図10の断面図に示すように、主フルート18の前側エッジ18aは、周方向側へ伸びた形状とされて、逃げ角を有している。このため、切削時に生じた切屑を、前側エッジ18aからスムーズに主フルート18内に収容することができる。一方、主フルート18の後側エッジ18bは、シャープな鋭角状に形成されて、すくい角が付与されている。その結果、主フルート18内に収容した切屑を後側エッジ18bでしっかりと補足し、主フルート18から逃がし難くしている。
【0016】
上記のように、主フルート18のリード角θをシャンク16側に掛けて段階的に大きくすると共に、主フルート18の周方向の幅Wをシャンク16側に掛けて段階的に大きくすることで、主フルート18を周方向に大きく展開(延在)させることができる。その結果、図10に示すように、主フルート18を軸方向から見た場合において、主フルート18がボディ12の周方向に延在する範囲を示すねじれ展開角αを大きくすることができる。このねじれ展開角αは、図8に示すように、ルータービット10の回転中心を中心として、主フルート18におけるボディ12の先端に最も近い始点P1から、主フルート18におけるシャンク16に最も近い終点P2までの角度として定義される。このねじれ展開角αは、150°以上に設定されることが望ましい。より望ましくは、ねじれ展開角αは、180°以上に設定される。本実施形態では、ねじれ展開角αは、約270°に設定されている。
【0017】
図11は、本実施形態のルータービット10および比較例としてのルータービットにおいて、ねじれ展開角αを比較した図である。図11(a)は、本実施形態のルータービット10の領域A1~A3における断面図であり、また、図11(b)は、比較例に係るルータービットの領域A1~A3における断面図である。比較例に係るルータービットは、従来品で一般的に用いられるスチール材からなり、主フルートをボールエンドミルで切削して形成されている。比較例に係るルータービットは、主フルートのリード角が15°で一定となっている。このように、リード角を15°に一定とした場合、主フルートのねじれ展開角αは120°程度となり、本実施形態のルータービット10のねじれ展開角αに比べて小さくなっている。後述するように、主フルート18のねじれ展開角αを180°より大きくすることで、ルータービット10全体の重量バランスを向上させることができる。
【0018】
また、図11(b)に示されるように、比較例のルータービットでは、主フルートの断面が、いずれの領域においても同一の円弧形状をなしている。そのため、比較例のルータービットは、主フルートの幅も一定(W)となっている。さらに、比較例のルータービットでは、主フルートの前側エッジおよび後側エッジはいずれも鋭角な形状となっている。したがって、比較例のルータービットでは、本実施形態のように、主フルートの前側エッジが周方向に伸びた形状(逃げ角を有した形状)をなしていない。
【0019】
各副フルート19は、ボディ12の主フルート18が形成されていない部位において、後述する各外周刃14aに対応して設けられている。副フルート19は、主フルート18と同様に砥石によって溝状に研削加工される。副フルート19の溝深さは、主フルート18に比べて浅くなっており、各副フルート19は主フルート18に連通している。そして、副フルート19は、外周刃18aによって生じた切屑を主フルート18へ案内するようになっている。このように、ルータービット10のボディ12(より詳しくは、ボディ12における有効刃長Lに相当する部分)は、研削加工によって主フルート18および複数の副フルート19が形成されることで、大きく削り取られた構造をなしている。換言すれば、深く長い主フルート18と複数の副フルート19とをボディ12に形成することで、ルータービット10に大きな空隙が形成され、その結果、大きな空隙率Rを有すことになる。なお、空隙率Rは、ボディ12の全体有効刃長Lに対応する部位に存在する主フルート18および複数の副フルート19が大きく寄与する。ただし、空隙率Rを規定するものとしては、主フルート18や副フルート19に限られるものではなく、ボディ12を形成するために除去された部分が含まれる。換言すれば、ボディ12の空隙率Rは、刃部14を除く部位を除去して形成された全ての凹部によって規定される。空隙率Rの詳細な定義については、後述する。
【0020】
図2に示すように、刃部14は、複数の外周刃14a(本実施形態では3つ)と、単一の底刃14bとからなる。各刃部14は、焼結ダイヤなどの超高圧焼結体から形成されたチップであり、ボディ12において、各副フルート19の側面(より詳しくは刃体)にロウ付けなどにより接合されている。底刃(芯刃)14bは、ボディ12の先端に接合されており、被切削材料の穴あけ加工に供される。また、底刃14bは、被切削材料の側面加工にも供される。図3に示すように、底刃14bは、正のひねり角を有するようボディ12に設けられている。外周刃14aは、被切削材料の側面加工に供されるものであって、図3に示すように、負のひねり角を有するようにボディ12に設けられている。
【0021】
ここで、底刃14bと外周刃14aが、それぞれ、正のひねり角および負のひねり角を有するように設けられる理由について説明する。例えば、木質系材料である木質系ボード20は、その両面がプリント紙や樹脂フィルム等の化粧シートで被覆されることが一般的である。このような木質系ボード20をルータ加工する場合、図3に示すように、NCルータの定盤(図示せず)上に設置した吸着板32上に木質系ボード20を載置し、木質系ボード20は吸着板32に対して吸着された状態とされる。そして、穴あけ加工時には、ルータービット10は、木質系ボード20を貫通して、その先端が吸着板32に食い込むまで押し下げられる。その状態で、引っ張り加工が行われ、ルータービット10は、その先端で吸着板32を削りながら木質系ボード20を切削加工する。
【0022】
このように、穴あけ加工時および引っ張り加工時には、木質系ボード20は上下面20a、20bがルータービット10によって貫通されるものの、吸着板32によって木質系ボード20の下面20bが常に閉塞された状態にある。そのため、加工時に生じた切屑は、木質系ボード20の下側から排出されることはなく、穴あけ加工時には、木質系ボード20の上側から、また、引っ張り加工時には、木質系ボード20の上側およびルータービット10の送り方向の反対側から切屑が排出されることになる。そこで、NCルータに集塵装置(図示せず)が設けられ、木質系ボード20の加工時に集塵装置から強力な上方向の吸引圧力が木質系ボード20に付与されて、切屑が上方へ吸い上げられるようになっている。
【0023】
ここで、引っ張り加工時の外周刃14aおよび底刃14bの機能に注目すると、底刃14bが木質系ボード20の下面20bを切削すると共に、複数の外周刃14aの1つが木質系ボード20の上面20aを切削することになる。そして、底刃14bに正のひねり角を持たせることで、木質系ボード20の下面20bに対して底刃14bが斜め上向きの力(図3の矢印B参照)を付与しながら切削を行う。このため、木質系ボード20の下面20bを覆う化粧シートのめくり上がりや毛羽立ちが発生するのを防止するようになっている。一方、木質系ボード20の上面20aを覆う化粧シートについては、負のひねり角を有する外周刃14aによって斜め下方の力を受けながら切削される(図3の矢印A参照)。このため、木質系ボード20の上面20aの化粧シートについても、切削時のめくり上がりや毛羽立ちが生ずるのを防止するようになっている。
【0024】
このように、底刃14bについては正のひねり角を付与するとともに、外周刃14aについては負のひねり角を付与することで、仕上がり品質の向上が図られる一方、以下のように切屑の排出が阻害される原因ともなる。上述のように、加工時に木質系ボード20の下面20bは吸着板32によって閉塞されるため、穴あけ加工時には木質系ボード20の上側のみが、また、引っ張り加工時には、木質系ボード20の上側およびルータービット10の送り方向の反対側のみが開放した状態となる。したがって、特に穴あけ加工時には、ルータービット10と木質系ボード20に形成された加工穴との間に隙間はほとんどなく、切屑は主フルート18内に逃げることになる。そのため、切屑は、主フルート18に沿って上方へ送られ、集塵装置の吸引力で上方へ排出されることになる。
【0025】
上述のように、ルータービット10の先端に設けた底刃14bでは、正のひねり角を有することから、底刃14bは切屑を上方へ押し上げる方向に作用する。一方、外周刃14aは、負のひねり角を有することから、切屑を下方へ抑え込むように作用する。そのため、主フルート18に沿って上方へ移動しようとする切屑に対し、外周刃14aから下側の圧力が付与される。その結果、複数の外周刃14aによって切屑の排出が阻害され、主フルート18内で切屑が停滞・集積し易くなり、切削抵抗が増大する要因となる。特に、本実施形態のように複数の外周刃14aを備えることで全体有効刃長Lの長いルータービット10においては、切屑の停滞・蓄積は顕著となる。このような切削抵抗の増大は、切削に必要なパワーの増大をもたらし、ひいては切削に要する消費電力の増加を招いてしまう。また、切削抵抗の増大は、加工時に生ずる騒音の増大をもたらし、主フルート18内に詰まった切屑によって被切削材料にやけが発生する原因ともなる。最悪のケースでは、摩擦抵抗の増大によって切屑や粉塵が着火し、粉塵爆発が発生する恐れもあった。
【0026】
このような問題点を克服するため、本願の発明者らは、主フルート18および副フルート19によるボディ12の全体有効刃長Lにおける空間(隙間)を最大限に大きくすることで、切削時に切屑が逃げるためのスペースを十分確保することを試みた。そして、このように大きな空隙率Rを設けたとしても十分な剛性を確保するため、本願発明者らはルータービット10の基材として、これまで非金属材料用のルータービットで用いられてきたスチール材ではなく、成形加工が困難な超硬合金を敢えて採用するに至った。
【0027】
ここで、本実施形態では、空隙率Rを以下のように定義している。ルータービット10のボディ12の全体有効刃長Lにおいて、主フルート18および副フルート19などを形成することで生じる空間が、主フルート18および副フルート19などが形成されていなかった場合のボディ12の体積(図2の破線部分参照)に占める割合を空隙率Rとする。空隙率Rの具体的な測定方法としては、例えば、水を満たした測定用の容器にルータービット10のボディ12の全体有効刃長Lの分だけ浸漬させて、容器から溢れ出た水の重量を計測する。この溢れ出た水の量は、主フルート18および副フルート19などが研磨により形成された状態でのボディ12の全体有効刃長Lに相当する部分の重量である。そして、主フルート18および副フルート19が形成される前のボディ12の体積(以下、全体ボディ量という)から、溢れ出た水の重量を除くことで、主フルート18および副フルート19など除去部としてボディ12が除去された重量(以下、ボディ12の空隙量という)が求められる。そして、算出されたボディ12の空隙量を全体ボディ量で除することで、空隙率Rが求められる。
【0028】
本実施形態に係るルータービット10の空隙率Rは、69%に設定されている。ただし、この空隙率Rとしては、52%~75%に設定されていればよい。より好ましくは、ルータービット10の空隙率Rを、55%~72%に設定するとよい。後述する実験例1および2で示すように、空隙率Rを55%以上に設定することで、切削時に切屑を効率的に排出することが可能となり、切削時の消費電力(より詳しくは、後述する切屑排出電力)を顕著に抑えることが可能となる。一方、ボディ12の空隙率Rを余りに大きく設定すると、超硬合金であってもルータービット10の剛性や強度に影響が出てしまう。そこで、ルータービット10としての実用的な剛性を確保するため、空隙率Rを72%以下とすることが望ましい。なお、現在流通している一般的なスチール基材のルータービット10の空隙率Rは、通常のもので45%程度、最大でも50%程度である。これは、スチール基材のルータービット10において、空隙率Rを50%よりも大きくとると、剛性が小さくなり、ボディの変形により切削性能が低下したり、欠損が生じ易くなるためである。
【0029】
ここで、ルータービット10の空隙率Rには、ボディ12の軸方向全体に亘って存在する主フルート18が大きく寄与している。ルータービット10の空隙率Rのうち、主フルート18による空隙率をフルート空隙率rと定義する。このフルート空隙率rは、ルータービット10の設計モデルから計算によって求めることができる。例えば、フルート空隙率rは、図10に示すルータービット10の断面図において、ルータービット10全体の面積(円の面積)に対して、主フルート18の空間がなす面積の割合を求めることで算出される。前述のように、主フルート18は、リード角αがボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなっている。さらに、主フルート18の周方向の幅Wについては、ボディ12の外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなっている。その結果、主フルート18のフルート空隙率rは、ボディ12の外周刃有効刃長lにおいて、ボディ12の先端側に対して、シャンク16側が大きくなっている。なお、主フルート18は、ルータービット10の先端で大きく形成されている。すなわち、図7に示すように、主フルート18のフルート空隙率rは、底刃14bを含む第1領域A1のうち、外周刃有効刃長lの外側(先端側)において、最大となる。しかしながら、主フルート18のフルート空隙率rは、外周刃有効刃長l内においては、ボディ12の先端側よりもボディ12のシャンク16側が大きくなっている。
【0030】
より具体的には、図9に示すように、主フルート18のフルート空隙率rは、外周刃有効刃長l内において、第1~第3領域A1~A3にかけて段階的に大きくなっている(前述のように、図9(a)は、第1領域A1であって、かつ外周刃有効刃長l内で切断したIX(a)-IX(a)線断面図である)。すなわち、第1~第3領域A1~A3におけるフルート空隙率をr1~r3とすると、外周刃有効刃長l内では、r1<r2<r3となっている。より具体的には、本実施形態では、フルート空隙率r1,r2,r3は、それぞれ、18.2%、20.4%、23.7%となっている。
【0031】
前述したように、切削時に生ずる切屑は、集塵装置による吸引圧力によって主フルート18内を上方へ送られる。したがって、切屑は、主フルート18のシャンク16に近い箇所で詰まりが生じ易くなる。そこで、フルート空隙率rをシャンク16側で大きくとることで、主フルート18のシャンク16近傍においても切屑のスムーズな排出が実現される。その結果、切屑の詰まりや「やけ」の発生を好適に回避することができる。
【0032】
このフルート空隙率rについて、図11で示した比較例に係るルータービットと比較すると、図11(b)に示すように、比較例に係るルータービットでは、主フルートの断面形状は、常に同じとなっている。このため、比較例に係るルータービットのフルート空隙率rは、いずれの領域A1~A3であっても同一である。したがって、比較例に係るルータービットでは、フルート空隙率rがシャンク側で大きくなることはなく、ルータービット全体の空隙率Rもシャンク側で大きくなることはない。
【0033】
(実験例1)
本願発明者らは、空隙率Rを大きくすることによる切屑排出能力への影響を考察するため、実験例1として、空隙率Rと切削時の電力との関係を検証した。表1に示すように、空隙率R52%~72%の範囲で複数のルータービット10(実験例1~7)を超硬合金から形成し、ボディに刃部として複数の焼結ダイヤチップを接合した。そして、各ルータービット10の切削時の電力を計測した。また、従来品であるスチール製のルータービットの標準的な空隙率R45.4%のものを超硬合金から製造し、比較例1として実験を行った。各ルータービット10の空隙率Rは、主フルート18の溝深さやねじり角、副フルート19の数や大きさなどを変更することで調整した。また、木質系ボード20を被切削材料として、各ルータービット10で穴空け加工した後に、所定距離だけ引っ張り加工した場合の消費電力量を算出した。
【表1】
【0034】
ここで、空隙率Rによる切屑排出能力の影響をより正確に測るため、切削時に必要な全電力(以下、切削所要電力という)のうち、切屑の排出に必要な電力(以下、切屑排出電力という)を算出して空隙率Rとの対比を行った。ルータービット10による切削時の切削所要電力は、以下のように分けることができる。
切削所要電力=空転電力+切屑生成電力+切屑排出電力
空転電力とは、ルータービット10を回転させるのに必要な電力であり、切屑生成電力とは、ルータービット10が被切削材料を穴あけ加工および引っ張り加工する際に必要な電力である。また、切屑排出電力とは、穴あけ加工および引っ張り加工する際に切屑を排出するために必要な電力である。空転電力および切屑生成電力は、空隙率Rに依存するものではないため、空隙率Rによる切屑排出効果を反映するものでない。そこで、本実験例では、切削所要電力から空転電力と切屑生成電力を除外することで、切屑排出電力を算出した。なお、本実験例では被切削材料として工業材料としてJIS規格で規定されている密度0.6のMDF(中密度繊維板)を採用した。
【0035】
ここで、空転電力については、ルータービット10それぞれについて容易に得ることができる一方、切屑生成電力および切屑排出電力については、両者を区別することは難しい。そこで、本願発明者らは、以下の方法で、先ず切屑生成電力を推定し、推定した切屑生成電力と空転電力とを切屑所要電力から除外することで、切屑排出電力を求める方法を見出した。前述したように、通常のルータービット10の切削時には、図4に示すように、ルータービット10と木質系ボード20が密着した状態となり、切屑の排出にエネルギーが必要となる(このエネルギーが、切屑排出電力に相当する)。特に、穴あけ加工時(360°切削)には、木質系ボード20の上方以外が全て閉塞された密閉状態となり、切屑を排出するのに大きなエネルギーが必要となる。
【0036】
ルータービット10を引っ張り加工すると、木質系ボード20にルータービット10の送り方向に平行な2つの切削面20A,20Bが形成される。したがって、360°の穴あけ加工をした状態で引っ張り加工した場合(すなわち、図4の状態での加工)、切屑排出電力に加えて、この2つの切削面20A,20Bそれぞれについての切屑生成電力が生ずる。一方の切削面20A(図4では上側の切削面)は、送り方向と切削時の回転方向(図4では一方の切削面20Aに対してルータービット10が左から右へ回転)とが揃っている(いわゆるアップカット)。一方、他方の切削面20B(図4では下側の切削面)については、送り方向と切削時の回転方向(図4では他方の切削面20Bに対してルータービット10の回転方向が右から左へ回転)が対向している(いわゆるダウンカット)。そして、切屑生成電力は、このアップカットによる切屑生成電力と、ダウンカットによる切屑生成電力とを合わせたものである。
【0037】
一方、図5(a)、(b)に示すように、木質系ボード20の開放した側面に対して、穴あけ加工(180°切削)をした後に引っ張り加工をした場合、図4の場合に比べて、ルータービット10と木質系ボード20との間の閉塞状態は緩和される。そのため、切屑は、ほとんど抵抗なく排出され、図5のような開放した側面を穴あけおよび引っ張り加工する際の切屑排出電力はゼロとみなすことができる。したがって、木質系ボード20の側面を切削した場合の電力を測定することで、切屑生成電力のみを求めることができる。換言すれば、図4のような密閉状態での加工時に必要な電力と、図5のような開放状態での加工時に必要な電力との差が、切屑排出電力となる。
【0038】
ただし、切屑生成電力を正確に推定するため、図5(a)に示すように、木質系ボードの側面20Aをアップカットした場合の電力と、図5(b)に示すように、木質系ボード24の側面20Bをダウンカットする場合の電力とを測定し、その合計値を切屑生成電力とした。そして、切屑排出電力は、切削所要電力から空転電力を減算し、さらに、アップカットおよびダウンカットでの切屑生成電力の合計値を除くことで求められる。
【0039】
次に、実験結果を示す。表2は、各ルータービット10について算出した切屑排出電力を示す。また、図6は、空隙率Rと切屑排出電力との関係を示したグラフである。
【表2】
このように、空隙率Rが大きくなると、切屑排出電力が小さくなることが分かる。特に、空隙率Rが54.8%以上となると、切屑排出電力の減少率が大きくなっていることが分かる。すなわち、本実験例を通して、本願発明者らは、ルータービット10の空隙率Rを55%以上とすることで、切屑の排出能力が顕著に向上し、切屑の排出に要する電力を小さくすることができることを見出した。このように、従来のスチール材などで形成されたルータービット10では、剛性の観点から困難であった55%以上の高い空隙率Rを持たせることで、優れた切屑排出能力を有するルータービット10を提供することができる。また、実施形態のように空隙率Rを69.3%とすると、比較例1の切屑排出電力に比べて50%以上小さくすることができる。
【0040】
(実験例2)
このように実験例1の結果から、空隙率Rを大きくすればするほど、切屑の排出効率が向上し、電力消費を抑えることができるといえる。ただし、あまりに空隙率Rを大きくすると、超硬合金といえども剛性が不足し、切削時の撓みや振動が生じたり、ルータービット10が破損したりする要因となり得る。そこで、本願発明者らは、実用に耐え得る空隙率Rの上限値を探索するため、ルータービット10のたわみ量を計測した。具体的には、実験例1で用いた実施例1~7係るルータービット10に対し、一定の負荷(重さ10.24[kgf])を与え、ルータービット10のたわみ量を計測した。なお、現在流通しているスチール製のルータービットに対して、同一の負荷を与えると、たわみ量は85~90μmの範囲内にあることが分かっている。実験結果を表3に示す。
【表3】
【0041】
このように、空隙率Rを大きくするとたわみ量は徐々に大きくなることが分かる。ただし、空隙率R72%であっても、たわみ量は90μmに抑えられており、従来のスチール系ルータービット10のたわみ量の範囲に含まれる。換言すれば、空隙率Rを72%より大きくすると、たわみ量が90を超えて増加するため、空隙率Rの上限値として72%が望ましいといえる。
【0042】
(実験例3)
次に、主フルート18のねじれ展開角αとルータービット10の重量バランスとの関係を検証した。本実験例では、実験例8として、第一実施形態で示したように、主フルート18のリード角θをボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくすることで、ねじれ展開角αが270°のルータービット10を用いた。また、比較例2として、従来品であるスチール製のルータービットを採用し、主フルート18のリード角θを一定(XX°)として、ねじれ展開角αを約110°とした。さらに、比較例3として、同じく従来品であるスチール製のルータービットを採用し、主フルート18のリード角θを一定(YY°)として、ねじれ展開角αを約130°とした。実験例8および比較例2および3のルータービットを、Haimer社のバランサー測定器に装着して、アンバランス量を測定した。そして、測定したアンバンス量から釣合い良さの等級(G:JIS規格B0905)を求めた。実験結果を表4に示す。
【0043】
【表4】
このように、ねじれ展開角αが180°よりも大きい実験例8では、アンバランス量が8.0であるのに対して、ねじれ展開角αが180°未満の比較例2および3のルータービットでは、アンバランス量が極めて大きくなっている。このように、ねじれ展開角αを180°以上に大きくすることで、ルータービット10のバランスが良好となることが分かる。
【0044】
以上のように、実施形態に係るルータービット10では、超硬合金から形成すると共に、主フルート18および複数の副フルート19を含むボディ12を研削加工することで、ボディ12の空隙率Rが52%≦R≦75%に設定されている。特に、主フルート18のリード角θを、ボディ12の先端側からシャンク16側にかけて段階的に大きくなっている。すなわち、従来のルータービットでは、主フルートのリード角は一定であるところ、本実施形態のルータービット10では、主フルートのリード角θをシャンク16側に掛けて段階的に大きくすることで、第2および第3領域A2,A3での主フルート18の延在長さを大きくすることができる。しかも、主フルート18の周方向の幅Wも、外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくすることで、高いフルート空隙率rが実現されている。結果として、ルータービット10の全体の空隙率Rを52%以上といった従来にはない大きな値とすることができた。しかも、基材として超硬合金を採用することで、従来のスチール材からなるルータービットではなし得なかった52%以上といった大きな空隙率Rであっても、ルータービット10の剛性は十分確保されている。その結果、高い切屑排出能力を有するルータービット10を提供することができ、切削時の消費電力を抑えることが可能となった。
【0045】
切屑は、集塵装置で吸い上げられて主フルート18の上方へ送られるため、主フルート18内においてシャンク16に近い箇所で詰まり易い傾向にある。そこで、本実施形態では、主フルート18のリード角θおよび幅Wをボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくしている。その結果、主フルート18のフルート空隙率rが、外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなっている。このため、主フルート18に沿って切屑を上方(シャンク16側)へスムーズに送ることができ、シャンク16近傍での切屑の詰まりを好適に防止している。なお、従来のスチール材からなるルータービットにおいては、通常、主フルートのフルート空隙率rは、軸方向において一定であるか、シャンク側に向けてフルート空隙率rがむしろ小さくなっていた。これは、超硬合金に比べて剛性の小さいスチール材においては、NCルータに把持されるシャンクの強度を大きくするため、主フルートをシャンク側で浅く形成していたためである。これに対し、本実施形態では、主フルート18のフルート空隙率rをシャンク16側で大きくするといった、これまでとは逆の発想による構造をなしている。このように、シャンク16側でフルート空隙率rを大きくしても、超硬合金からなるルータービット10では、その剛性がしっかり確保されて、安定的な切削が可能となる。
【0046】
実施形態のルータービット10では、3つの外周刃14aを備えた長い全体有効刃長Lを有しており、切屑の排出が阻害され易い構造となっている。そこで、ボディ12に大きな空隙率Rを持たせることで、全体有効刃長Lが長いルータービット10であっても好適に切屑の排出効率を高めることができ、消費電力を抑えることができる。特に、近年では、SDGs経営が注目される中、製造過程での電力消費を低く抑えることに多くの企業が注力している。そのようなトレンドの中、実施形態で示した如きルータービットは、切削時の電力消費を効果的に抑える切削工具の1つとして貢献し得るものである。しかも、全体有効刃長Lを大きくすることで、従来、複数回の加工が必要であった厚みのある被切削材料であっても、一度の加工で処理することができ、加工効率の向上を図り得る。なお、このような全体有効刃長Lの大きなルータービット10であっても、剛性の高い超硬合金から形成することで、安定的な加工は担保される。
【0047】
また、実施形態では、切削時における切屑の排出に要するエネルギーに着目し、切屑排出電力を正確に測定した上で、空隙率Rと切屑排出電力との関係を検証した。その結果、空隙率Rが55%以上となったところで切屑排出電力が顕著に減少することを発見した。また、既存のスチール製のルータービットにおいて許容されるたわみ量と比較することで、空隙率Rの上限値を探索した。その結果、空隙率Rが72%以下であれば、既存のスチール製ルータービットと同程度の剛性を確保することが確認された。そこで、超硬合金からなるルータービット10の空隙率Rを55%≦R≦72%とすることで、切削時の電力消費を顕著に抑えた優れたルータービット10を提供することが可能となる。
【0048】
ここで、本実施形態では、主フルート18のリード角θをボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくすることで、上述した大きな空隙率R(フルート空隙率r)の確保に加えて、180°以上の大きなねじれ展開角αを持たせることができる。そして、ねじれ展開角αを180°以上に大きくとることで、ルータービット10の重量バランスが向上するといった利点が得られることを確認した。これは、主フルート18がルータービット10の周方向の180°以上に亘って存在するため、従来のように主フルートが周方向の一部の範囲に偏って存在する場合に比べて、ルータービット10の重心が回転中心からずれるのが抑制されるためと考えられる。そして、このように、重量バランスが向上することで、ルータービット10が安定的に回転することができ、加工品質の向上や加工時の騒音の発生を抑制し得る。
【0049】
本実施形態に係るルータービット10では、主フルート18の前側エッジ18aをボディ12の先端側からシャンク16側にかけて段階的に拡開するように形成した。また、第1領域A1の前側エッジ18aおよび第2領域A2の前側エッジ18a、第2領域A2の前側エッジ18aおよび第3領域A3の前側エッジ18aは、それぞれ段状の接続部22によって接続されている。そして、主フルート18の断面において、この前側エッジ18aを周方向に伸びるように形成して、逃げ角を有した形状とされる。そのため、切削時に生じた切屑が前側エッジ18aから主フルート18内にスムーズに導入することができる。一方、主フルート18の後側エッジ18bについては、鋭角にすることですくい角が付与されている。このため、一旦、主フルート18内に収容した切屑を後側エッジ18bで補足して、主フルート18の外部に逃げてしまうのを抑制し得る。
【0050】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態に係るルータービット100について、以下説明する。以下の説明では、第一実施形態と相違する部分のみ説明することとし、重複する部分については、同じ符号を付してその説明は省略する。図12は、第二実施形態に係るルータービット100の展開図を概略的に示した図である。第一実施形態に係るルータービット10では、主フルート18は、リード角θがボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなる構成とされた。第二実施形態に係るルータービット100では、主フルート18のリード角θがボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて連続的に大きくなるよう構成されている。すなわち、主フルート18は、展開図においてボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて曲線状で、その曲率が徐々に小さくなるように延びている。
【0051】
図12に示すように、各領域A1~A3における主フルート18の任意の点での接線がなすリード角θ1~θ3は、第一実施形態と同様に、θ1<θ2<θ3となっている。また、第二実施形態においては、主フルート18の周方向の幅Wが、外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて連続的に大きくなっている。より具体的には、主フルート18の前側エッジ18aは、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けてルータービット10の回転方向後方へ緩やかに(大きな曲率半径で)湾曲している。一方、主フルート18の後側エッジ18bは、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けてルータービット10の回転方向後方へ比較的小さな曲率半径で湾曲している。このように、主フルート18のリード角θおよび周方向の幅Wをシャンク16側に向けて連続的に大きくすることで、第1実施形態と同様に、主フルート18によるフルート空隙率rが、外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて徐々に大きくなっている。したがって、ルータービット100は高い空隙率Rを確保することができ、第一実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0052】
しかも、第二実施形態に係るルータービット100では、主フルート18のリード角θおよび周方向の幅Wをシャンク16側に向けて連続的に大きくすることで、第一実施形態と同様に、主フルート18のねじれ展開角αを大きくとることができる(例えば、270°)。したがって、第二実施形態に係るルータービット100は、ねじれ展開角αが大きいことで、第一実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0053】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態に係るルータービット200について、以下説明する。以下の説明では、第一実施形態と相違する部分のみ説明することとし、重複する部分については、同じ符号を付してその説明は省略する。図13は、第三実施形態に係るルータービット200の展開図を概略的に示した図である。第一実施形態に係るルータービット10では、主フルート18は、リード角θがボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなる構成とされた。これに対して、第三実施形態に係るルータービット200では、主フルート18のリード角θは、全領域A1~A3において、例えば25°で一定とされている。
【0054】
一方、主フルート18の周方向の幅Wは、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなっている。より具体的には、主フルート18の前側エッジ18aが、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて回転方向前方に段階的に拡開するように形成されている。そして、第1領域A1の前側エッジ18aと、第2領域A2の前側エッジ18aとの間は、段状の接続部22によって接続されている。同様に、第2領域A2の前側エッジ18aと、第3領域A3の前側エッジ18aとの間が、段状の接続部22によって接続されている。一方、主フルート18の後側エッジ18bについては、第1~第3領域A1~A3に亘って直線状に延びている。このように、主フルート18の周方向の幅Wをシャンク16側に向けて段階的に大きくすることで、第1実施形態と同様に、主フルート18によるフルート空隙率rが、外周刃有効刃長l内において、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて段階的に大きくなる。その結果、ルータービット11の全体の空隙率Rを大きくすることができ、第一実施形態と同様な作用効果を奏することができる。
【0055】
(第四実施形態)
次に、第四実施形態に係るルータービット300について、以下説明を行う。第四実施形態のルータービット300は、第一実施形態に係るルータービット10の構造と第二実施に係るルータービット100の構造とを組み合わせたものとなっている。すなわち、ルータービット300の主フルート18は、第1領域A1においては、外周刃有効刃長l内でリード角θ1が一定(例えば、約25°)となっている。そして、第2領域A2および第3領域A3において、主フルート18のリード角θ2,θ3がボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて連続的に大きくなっている。
【0056】
主フルート18のリード角θ2は、主フルート18のリード角θ1よりも大きく、また、主フルート18のリード角θ3は、主フルート18のリード角θ2よりも大きくなっている。また、第1領域A1での前側エッジ18aと、第2領域A2での前側エッジ18aとは、滑らかに接続されている。同様に、第2領域A2での前側エッジ18aと、第3領域A3での前側エッジ18aとは、滑らかに接続されている。第1領域A1での前側エッジ18aおよび後側エッジ18bは、ボディ12の先端側からシャンク16側に向けて回転方向後方へ直線的に延びている。一方、第2領域A2および第3領域A3での前側エッジ18aは、ボディ12の先端側からシャンク16側に向けて大きく緩やかに回転方向後方へ湾曲している。また、第2領域A2および第3領域A3での後側エッジ18bは、ボディ12の先端側からシャンク16側に向けて回転方向後方へ湾曲している。
【0057】
このように、第四実施形態に係るルータービット300では、主フルート18のリード角θ1を一定としつつ、主フルート18のリード角θ2,θ3を連続的に大きく変化させることで、主フルート18のフルート空隙率rをシャンク16側で大きくしている。その結果、ルータービット300の空隙率Rを大きくすることができ、第一実施形態と同様な作用効果を奏することができる。なお、リード角θの変化の仕方は、第四実施例に限定されるものではない。例えば、第1領域A1および第3領域A3のリード角θ1,θ3を連続的に大きくさせ、第2領域A2のリード角θ2については、一定としてもよい。
【0058】
(変更例)
第一実施形態では、ボディ12を3つの領域A1~A3に概念的に区分けし、主フルート18のリード角θを3つの領域で段階的に変化させた構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、ボディ12を2つの領域に分けて、主フルート18のリード角θを2段階で変化する構成としてもよい。また、ボディ12を4以上の領域に分けて、主フルート18のリード角θを4段階以上変化する形状としてもよい。
【0059】
第一および第二実施形態においては、主フルート18のリード角θおよび周方向の幅Wをボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて大きくすることで、高い空隙率Rを確保した。しかしながら、主フルート18のリード角θのみをシャンク16側に向けて大きくし、周方向の幅Wについては一定としてもよい。また、第一および第三実施形態においては、主フルート18の前側エッジ18aを段階的に拡開する構成とした。しかしながら、主フルート18の後側エッジ18bを段階的または連続的に拡開する構成としたり、主フルート18の前側エッジ18aおよび後側エッジ18bの双方を段階的または連続的に拡開する構成としてもよい。
【0060】
上述した第一~第三実施形態においては、主フルート18のリード角θおよび/または周方向の幅Wをボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて大きくすることで、ルータービットの高い空隙率を確保する構成とした。これに対して、主フルート18の溝深さDを、ボディ12の刃先側に比べて、ボディ12のシャンク16側が大きくなるよう設定することで、フルート空隙率r、ひいてはボディ12全体の空隙率Rを高くすることも可能となる。すなわち、主フルート18の(1)リード角θ、(2)周方向の幅W、および(3)溝深さDの何れか1つまたはそれらの組み合わせについて、ボディ12の先端側からシャンク16側に掛けて大きくすることで、ルータービットの高い空隙率Rを実現することができる。
【0061】
第一~第三実施形態では、フルートを研削により刃部から除去したが、フルートを放電加工により形成してもよい。また、第一~第三実施形態では、主フルートおよび複数の副フルートを設けた場合を示したが、単一の主フルートのみを有した構成(副フルートを含まない構成)であってもよい。第一~第三実施形態では、刃部は、硬質焼結体からなるチップをボディに取り付けて構成した。しかしながら、超硬合金からなるボディを研削加工して刃部を一体的に形成したいわゆる無垢刃としてもよい。
【0062】
第一~第三実施形態では、焼結した超硬合金からなる丸棒素材の一端部側の表面に、フルートなどの除去部を研削加工して刃部を形成した。しかしながら、半焼結状態とした超硬合金に対して機械加工することで、除去部を形成するようにしてもよい。そして、除去部を形成後に本焼結を行い、刃部を接合することでボディが形成される。
【0063】
第一~第三実施形態では、被切削材料として、木質系ボードを切削する場合を示したが、被切削材料としては、このような木質系の材料に限定されるわけではない。例えば、被切削材料として、プラスチックなどの樹脂系材料を切削する際にも、本発明のルータービットを好適に使用することができる。樹脂系材料についても、木質系材料と同様に、切屑の排出阻害による電力消費量の増大といった課題が従来から指摘されていたためである。
【0064】
第一~第三実施形態では、底刃が正のすくい角を有する一方、外周刃が負のすくい角を有していた。これに対して、底刃および外周刃が、いずれも正のすくい角を有していてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…ルータービット
12…ボディ
14…刃部
14a…外周刃
14b…底刃
16…シャンク
18…主フルート
18a…前側エッジ
18b…後側エッジ
19…副フルート
20…被切削材料
22…接続部
A1…第1領域
A2…第2領域
A3…第3領域
L…全体有効刃長
l…外周刃有効刃長
【要約】
被切削材料(20)を加工するルータービット(10)であって、超硬合金からなる本体部と、本体部の一端側を研削して形成され、刃部(14)を備えたボディ(12)と、を備える。ボディ(12)は、被切削材料(20)の切屑を排出する主フルート(18)および副フルート(19)を備える。ボディ(12)の全体有効刃長(L)における空隙率Rが、52%≦R≦75%に設定される。
図1
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図14