(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】連続培養における細胞コントロール灌流
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230831BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C12N5/071
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2017561773
(86)(22)【出願日】2016-05-27
(86)【国際出願番号】 US2016034570
(87)【国際公開番号】W WO2016196261
(87)【国際公開日】2016-12-08
【審査請求日】2019-05-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-06
(32)【優先日】2015-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503385923
【氏名又は名称】ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヒラー,グレゴリー・ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン,マシュー・ポール
(72)【発明者】
【氏名】オヴァル,アナ・マリア
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】藤井 美穂
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0042253(US,A1)
【文献】Biotechnol. Bioeng.,2011年,Vol.108, No.6,p.1328-1337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-1/38
C12P21/00-21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
(a)pHセンサで
哺乳類細胞培養液におけるpHをモニターすること、
(b)pHが所定の値を超えるとL-ラクタートを含む新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び
(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化すること
を含む、
哺乳類細胞の連続灌流培養プロセス。
【請求項2】
L-ラクタートが、0.1g/L~7.0g/Lの量である、請求項1記載のプロセス。
【請求項3】
L-ラクタートが、L-乳酸ナトリウム又はL-乳酸カリウムである、請求項1又は2記載のプロセス。
【請求項4】
新鮮培地が、以下:
(a)グルコース、
(b)L-ラクタート、及び
(c)アミノ酸
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
(a)グルコースが0.5~40g/Lであり、
(b)L-ラクタートが0.1~7g/Lであり、及び
(c)アミノ酸がアミノ酸1モルに対して0.25~1.0モル グルコースの比である、請求項4記載のプロセス。
【請求項6】
アミノ酸及びグルコースが、70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース 5.3グラムに等しい量で、又は60:4.2、90:8、100:12、120:13、240:42及び380:70mM アミノ酸:グラム/L 培地1リットルあたりグルコースからなる群より選択される比で供給される、請求項4又は5記載のプロセス。
【請求項7】
所定のpHの値が、6.8~7.4である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
以下:
(a)pHセンサで
哺乳類細胞培養液におけるpHをモニターすること、
(b)pHが所定の値を超えるとL-ラクタートを含む新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び
(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化すること
を含む、連続灌流培養プロセスにおいて迅速な
哺乳類細胞の細胞成長を成し遂げるための方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の連続灌流培養プロセスを第一培養プロセスとして含む、ハイブリッド培養プロセス。
【請求項10】
連続灌流培養プロセスの後に、流加プロセスが続くか又は第二連続灌流培養プロセス、好ましくは、以下:
(a)濃縮培地を添加すること、及び
(b)希釈剤を添加すること
の工程を含む第二連続灌流培養プロセスが続く、請求項9記載のハイブリッド培養プロセス。
【請求項11】
以下:
(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の
哺乳類細胞培養液におけるpHをモニターすること、
(b)pHが所定の値を超えるとL-ラクタートを含む新鮮培地を灌流バイオリアクタに送達し、透過物を除去すること、及び
(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化すること
を含む、灌流培養プロセス。
【請求項12】
L-ラクタートが、0.1g/L~7.0g/Lの量である、請求項
11記載の灌流培養プロセス。
【請求項13】
L-ラクタートに加えて、
(a)pHが所定の値を超えると、好ましくは利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、炭酸ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される、
請求項
11又は12記載の灌流培養プロセス。
【請求項14】
以下:
(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の
哺乳類細胞培養液におけるpHをモニターすること、
(b)pHが所定の値を超えるとL-ラクタートを含む新鮮培地を灌流バイオリアクタに送達し、透過物を除去すること、及び
(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化すること
を含む、灌流培養プロセスにおいて迅速な
哺乳類細胞成長を成し遂げるための方法。
【請求項15】
以下:
(a)関心対象のタンパク質をコードする遺伝子を含む
哺乳類細胞を、関心対象のタンパク質を生成させる条件下で灌流
哺乳類細胞培養バイオリアクタにおいて以下:
i.pHセンサで細胞培養バイオリアクタにおけるpHをモニターすること、
ii.pHが所定の値を超えるとL-ラクタートを含む新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び
iii.pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化すること
を含めて培養すること、
(b)
哺乳類細胞培養バイオリアクタから関心対象のタンパク質を回収すること
を含む、関心対象のタンパク質の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2015年5月29日に出願された米国仮出願第62/168,297号;2015年7月31日に出願された第62/199,388号、及び2015年10月27日に出願された第62/246,774号の優先権の利益を主張する。前記出願の各々の内容全体は参照により、本願明細書にすべて示すかのように援用したものとする。
【0002】
[技術分野]
本発明は、バイオリアクタ中で連続灌流細胞培養を用いる、培養動物細胞、好ましくは哺乳類細胞におけるタンパク質生成の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
微生物又は多細胞種の単細胞は、回分(バッチ)、流加(フェッドバッチ)、連続培養、細胞保持を伴う連続培養(灌流)又はこれらの組み合わせを含め、種々の方法で生育される。回分培養は、微生物又は細胞、例えば、酵母、細菌又は真菌の播種物が、限定量又は一定量の生育培地で閉鎖培養系において生育されることを必要とする。回分培養では、培地中の栄養素の消費と、毒性の代謝産物の生成とにより、細胞死の前にその微生物が通るいくつかの増殖相がある。回分培養が生育培養液又は生育生成物を除去せずに発酵槽(ファーメンタ)又はバイオリアクタにおいて栄養素培地が流加されるものであることを除いて、流加培養は回分培養方法と類似している。予期されるとおり、バイオリアクタ中の培養流体の容量は経時的に増加するが、典型的には回分培養と比べこの培養方法にて高細胞密度が成し遂げられる。連続培養では、バイオリアクタ容量が一定に保たれ新鮮培地が添加されて培養流体は連続的に除去される、別の作業モードである。このような培養では、特にバイオリアクタからの細胞の連続除去があれば、付加的な細胞分裂が起こりやすい。連続培養では、全て又はほぼ全ての細胞をバイオリアクタ内に保持する細胞保持デバイスも採用可能である。細胞保持が採用されると、細胞流失のリスクがない、バイオリアクタへのより高い培地流入速度とより高い流出速度(より高い灌流速度)に伴い、細胞密度がバイオリアクタ中でより一層高くなることが可能である。バイオリアクタ作業のモードを組み合わせることも可能である。
【0004】
流加容量添加の限界及びアミノ酸対イオンの問題、雑多なオスモライト、並びに細胞成長インヒビター蓄積のために、タンパク質治療薬の細胞生成、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞生成のバイオリアクタ作業の流加モードは、得られる生産性及び細胞密度に関して元から限られている。乳酸は、細胞成長の間に分泌される成長インヒビターであり、とりわけ問題になる。乳酸は、細胞におけるグルコースの分解によって生成され、その濃度の増加につれてバルクpHの低下を引き起こす。細胞培養中に塩基滴定剤を添加してラクタートは中和され得るが、塩基の添加の結果、イオン蓄積に起因して生育培地の浸透圧強度に大きな変化が起こる。ラクタート蓄積に起因する浸透圧強度と、乳酸イオン自体との両者の上昇は、最終的に細胞成長を遅くし得、細胞生産性のロスを引き起こし得る。乳酸形成を低減するの他の努力は、グルコース濃度を限定すること、グルコースに替えてガラクトース、フルクトース、若しくはマンノースなどの代替の炭糖(C6糖)を代用すること、及び/又は細胞培養中に特定の酵素又基質膜運搬装置を操ることを含む。さらに最近、グルコースのハイエンドpHコントロール送達(pHでコントロールされた高エンドの送達)が、流加培養中の乳酸分泌を限定することが示されている(Luan et al., US Patent 7,429,491 B2 and Gagnon et al., Biotechnol. Bioeng., 2011; 108: 1328-1337)。
【0005】
細胞保持を伴う連続又は灌流培養は、これらの限界のいくつかを克服できるが、大容量の培地が消費されること、ピーク細胞密度に達するのに長時間かかること、及び細胞保持デバイスを用いる煩雑さ、という不利益に見舞われる。それゆえ、流加及び/又は従来の連続灌流培養に伴う限界を克服する代替的な培養方法が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、連続灌流細胞培養における現在の限界を克服して、細胞成長及び生存率を至適化する代替方法を提供することである。
【0007】
以上に概略説明した限界の多くを克服する連続培養の方法が記載され、その方法は、連続フィードバックで、細胞にそれら自体の灌流の速度をコントロールさせる(すなわち、自己レギュレーションする細胞)独特の技術を利用する。「灌流のハイエンドpHコントロール、又はHIPCOP」の用語は、それにより細胞が自体の灌流の速度をコントロールするプロセスをいうのに用いられる。適度な特異的生産性細胞系のため、約1グラム/L/日又はそれ以上の容量生産性が、非常に適度の培地容量、比較的簡易なバイオリアクタ作業、及び標準流加ウインドウにおいて適合するバッチ長さで成し遂げられる。成し遂げられる容量当たり生産性は、至適化された流加培養において同じ細胞系で成し遂げられるかもしれない容量当たり生産性の二倍を上回る。
【0008】
その最も広義の態様において、本発明は、連続灌流培養プロセスであって、pHコントローラ又はセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターすること、pHが設定ポイント又は所定の値を超えて増加すると新鮮培地を送達する培地灌流ポンプ及びほぼ等容量の透過物(パーミエイト)を除去する透過物灌流ポンプを活性化すること、並びにpHが設定ポイント又は所定の値未満に低下すると培地灌流ポンプ及び透過灌流ポンプを不活性化することを含むプロセスに関する。換言すると、一実施形態では、本発明は、連続灌流培養プロセスであって、(a)pHセンサで細胞培養液におけるpHをモニターすること、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び(c)pHが所定の値未満に低下すると培地送達及び透過物除去を不活性化することを含むプロセスに関する。要するに、細胞培地におけるpH変化は、細胞代謝の結果であり、これが次いで灌流プロセスをトリガーする。あるいは、本発明の方法は、グルコース濃度を測定する必要のない細胞コントロール灌流プロセスとしても記載され得る。灌流ポンプ、新鮮培地及び透過ポンプをオンオフをするためのpHトリガーは、所定の値に設定される。この所定の値は約pH7(例えば、6.8~7.4)である。培地は、グルコース、L-ラクタート及びグルコースに対して特定の比のアミノ酸を含む。本発明によれば、培地灌流ポンプ及び透過灌流ポンプの活性化及び不活性化は、同時に又は独立に起こってもよい。また、透過物は、無細胞でも、又は細胞を含有していてもよい。
【0009】
記載された方法は、連続培養プロセスで使用される新鮮灌流培地にL-ラクタートを添加することも含む。一実施形態では、灌流培地に存在するL-ラクタートの量は約0.1g/L~約7.0g/Lである。より好ましくは、灌流培地に存在するL-ラクタートの量は約1~約4g/L、約1~約3g/L、又は約1~約2.5g/Lである。好ましい実施形態では、L-ラクタートはL-乳酸ナトリウム又はL-乳酸カリウムである。
【0010】
別の実施形態では、灌流培地中にL-ラクタートを含むのではなく、灌流培養液のpHが所定の値(すなわち、pH7、又は6.8~7.4のpH)を超えると付加的な炭酸水素ナトリウムが新鮮培地に、又は灌流バイオリアクタに送達される。典型的な細胞培地は、約1.0~2.5g/Lの炭酸水素ナトリウムを含有する。この実施形態では、しかしながら、細胞培養液のpHが、pH6.8超、若しくはpH7超、若しくはpH7.4超、又は6.8~7.4の範囲の任意のpHを超えると、灌流細胞培養バイオリアクタに添加される灌流培地の1リットルごとにつき、1~3グラムの付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流培地に添加される。pHがいったん所定の値未満に降下すると、炭酸水素ナトリウムの送達が停止又は中断される。他の生理的に許容できる任意の塩基(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、HEPES緩衝液など)で当業者に公知なものが、このような塩基が乳酸として灌流培地からラクタートの消費によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう速度で、且つゆっくりと灌流バイオリアクタに添加される限り、炭酸水素ナトリウムの代わりに使用され得る。例えば、pHが所定の値を超えると、灌流培地に添加されることになる炭酸水素ナトリウムにの代わりに、炭酸ナトリウムをゆっくりと灌流バイオリアクタに添加することができる。例示的な一実施形態では、利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、炭酸ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される。
【0011】
この方法における新鮮培地には、少なくともグルコース及びアミノ酸が必要である。一実施形態では、グルコースの濃度は約0.5~約40g/Lの範囲である。別の実施形態では、新鮮培地はL-ラクタートを含有する。L-ラクタートの濃度は、約0.1及び約7.0g/Lの範囲である。アミノ酸に対するグルコースのモル数の比は、約0.25と1.0の間である。別の実施形態では、新鮮培地は、L-ラクタートに加えて又はその代わりに、さらに炭酸水素ナトリウムを約2~5.5g/Lの量で含有する。別の実施形態では、本発明にかかる全連続灌流期間にわたり新鮮灌流培地は細胞がそれらの灌流速度をコントロールすることができることとなるように、L-ラクタート(約0.1~7g/Lの量)及び炭酸水素ナトリウム(約2~約5.5g/Lの量)の両方を含有する。
【0012】
したがって、一態様において、本発明は、灌流培養プロセスであって、(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターすること、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化することを含むプロセスに関する。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、新鮮培地がL-ラクタートを含む;L-ラクタートが新鮮培地中約0.1g/L~7.0g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~4g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~3g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~2.5g/Lの量で存在する;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、付加的な炭酸水素ナトリウムが約1~約2.5g/Lの量で灌流培地又は灌流バイオリアクタに添加され、培地中の総炭酸水素ナトリウムが約2~約5.5g/Lであるようにし、pHが所定の値を超えると、付加的な炭酸水素ナトリウムは灌流バイオリアクタに送達される;利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの他の任意の生理的に許容できる塩基が、L-ラクタートの添加によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう量で灌流バイオリアクタに添加される;新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート及び/又は付加的な炭酸水素ナトリウム、並びに(c)アミノ酸を含む;新鮮培地が(a)約0.5~約40g/L グルコース、(b)約0.1~約7g/L L-ラクタート及び/又は約2~約5.5g/L 炭酸水素ナトリウム、並びに(c)約0.25~約1.0の、グルコースのモル対アミノ酸のモル比のアミノ酸を含む;新鮮培地がグルコースを、約70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース約5.3グラムに等しい量で含む;新鮮培地が培地1リットルあたり約60~約4.2、約90~約8、約100~約12、約120~約13、約240~約42及び約380~約70からなる群より選択されるアミノ酸(mM)対グルコース(g/L)比でグルコースを含む;所定のpH値が約pH7であるか又は約6.8~約7.4である;細胞培養液中のグルコース濃度の測定、又はグルコースポンプによる細胞培養液へのグルコースの添加が必要とされない。
【0013】
別の態様において、本発明は、灌流培養プロセスにおいて迅速な細胞成長を成し遂げるための方法であって、(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターすること、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化することを含む方法に関する。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、新鮮培地がL-ラクタートを含む;L-ラクタート量が約0.1g/L~7.0g/Lである;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、付加的な炭酸水素ナトリウムが約1~約2.5g/Lの量で灌流バイオリアクタに添加され、培地中の総炭酸水素ナトリウムが約2~約5.5g/Lであるようにし、pHが所定の値を超えると、付加的な炭酸水素ナトリウムは灌流バイオリアクタに送達される;利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの他の任意の生理的に許容できる塩基が、L-ラクタートの添加によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう量で灌流バイオリアクタに添加される;新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート及び/又は付加的な炭酸水素ナトリウム、並びに(c)アミノ酸を含む;新鮮培地が(a)約0.5~約40g/L グルコース、(b)約0.1~約7g/L L-ラクタート及び/又は約2~約5.5g/L 炭酸水素ナトリウム、並びに(c)約0.25~約1.0の、グルコースのモル対アミノ酸のモル比のアミノ酸を含む;新鮮培地がグルコースを、約70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース約5.3グラムに等しい量で含む;新鮮培地が培地1リットルあたり約60~約4.2、約90~約8、約100~約12、約120~約13、約240~約42及び約380~約70からなる群より選択されるアミノ酸(mM)対グルコース(g/L)比でグルコースを含む;所定のpH値が約pH7であるか又は約6.8~約7.4である;細胞培養液中のグルコース濃度の測定、又はグルコースポンプによる細胞培養液へのグルコースの添加が必要とされない;約60×106/mLの生細胞密度が4日以内に成し遂げられる。
【0014】
本発明の別の態様は、ハイブリッド灌流/流加培養プロセスに関する。このプロセスは前記連続灌流プロセスを流加プロセスと組み合わせて用いることを含む。本発明によれば、プロセスは灌流モードで4~6日間行い、その後流加モードに切り替えてさらに4~8日間実行することになろう。このハイブリッドモードを用いることにより、1.0グラム/L/日以上の容量当たり生産性が成し遂げられる。この実施形態では、連続灌流培養プロセスは、(a)pHセンサで細胞培養液におけるpHをモニターする工程、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去する工程、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化する工程を含む。
【0015】
本発明の別の態様は、有意に異なる二相からなる連続灌流バイオリアクタに関する。第一相は、比較的希薄な培地を利用する、先に述べたような初期連続相(HIPCOPを用いる、細胞密度及び灌流速度の立ち上がり)を含み、その後高度に濃縮された灌流培地の利用により灌流速度が有意に低下された灌流の第二相が続く。この二相灌流システムを用いることによって、非常に適度の容量の灌流培地を用いつつも約1.5グラム/L/日以上の容量生産性が成し遂げられる。本出願に示す実施例では、有意な細胞ブリード(バイオリアクタからの細胞の除去)は起こらない。
【0016】
本発明の別の態様は、灌流培養の後期の間、濃縮された灌流培地がバイオリアクタに添加されている際にバイオリアクタに添加される希釈剤液の使用に関する。一つの実施形態では、このような希釈剤液は適切な濃度の生理食塩水の溶液である。液体栄養素培地の長距離輸送は多くの困難(輸送のコスト、無菌性の維持、温度コントロール)を招来し得るので産業の場面で高度に濃縮された灌流培地を用いるのに大きな価値がある。このような培地で、濃縮された灌流培地に対し1日あたり0.05~0.30リアクタ容量という低い灌流速度が可能となる。関連する実施形態において、特に連続する下流プロセスが直接連結され連続的に送達される上流の採取物質(例えば、中空糸(ホロー・ファイバー)細胞保持システムを通過してくる物質)を捕獲するのであれば、また生成されているタンパク質が高度に不安定であるとすれば、このようなバイオリアクタシステムでは生成物質をバイオリアクタから流し出すことが必要である。
【0017】
別の態様において、本発明は、ハイブリッド培養プロセスであって、第二連続灌流培養プロセスが後に続く第一連続灌流培養プロセスを含み、第一連続灌流培養プロセスは、(a)pHセンサで細胞培養液におけるpHをモニターする工程、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去する工程、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化する工程を含み、第二連続灌流培養プロセスは(a)濃縮培地を添加する工程、及び(b)希釈剤を添加する工程を含むプロセスに関する。関連する実施形態において、ハイブリッド培養プロセスは介在する流加工程を任意で含む。この実施形態では、第一連続灌流培養プロセスが先ず実施され、その後に流加工程が続き、次いで第二連続灌流培養プロセスが続く。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、連続灌流培養プロセスが第一培養プロセスである;連続灌流培養プロセスの後に流加プロセスが続く;連続灌流培養プロセスの後に第二連続灌流培養プロセスが続く;第二連続灌流培養プロセスが(a)濃縮培地を添加する工程、及び(b)希釈剤を添加する工程を含む;濃縮培地が600ミリモル濃度 アミノ酸、90グラム/リットル グルコース、0g/L L-乳酸ナトリウムを含む;希釈剤が生理食塩水及び水からなる群より選択される;生理食塩水又は水が培地の浸透圧強度を約0~250及び/又は250~350mOsm/kgに正常化する;生理食塩水が2.0g/L 炭酸水素ナトリウム、2.4g/L ポリビニルアルコール、20mM 塩化カリウム、及び80mM 塩化ナトリウムを含む;ハイブリッド培養プロセスが1グラム細胞/L/日を超える容量当たり生産性をもたらす;ハイブリッド培養プロセスが約50及び約150Lの培養容量で実施される;培養容量が約70Lである。
【0018】
別の態様において、本発明は、連続灌流培養プロセスを行うためのバイオリアクタであって、連続灌流培養プロセスは(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターする工程、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去する工程、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化する工程を含むプロセスに関する。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート、及び(c)アミノ酸を含む;L-ラクタート量が約0.1g/L~7.0g/Lである;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、付加的な炭酸水素ナトリウムが約1~約2.5g/Lの量で灌流バイオリアクタに添加され、培地中の総炭酸水素ナトリウムが約2~約5.5g/Lであるようにし、pHが所定の値を超えると、付加的な炭酸水素ナトリウムは灌流バイオリアクタに送達される;利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの他の任意の生理的に許容できる塩基が、L-ラクタートの添加によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう量で灌流バイオリアクタに添加される;新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート及び/又は付加的な炭酸水素ナトリウム、並びに(c)アミノ酸を含む;新鮮培地が(a)約0.5~約40g/L グルコース、(b)約0.1~約7g/L L-ラクタート及び/又は約2~約5.5g/L 炭酸水素ナトリウム、並びに(c)約0.25~約1.0の、グルコースのモル対アミノ酸のモル比のアミノ酸を含む;新鮮培地がグルコースを、約70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース約5.3グラムに等しい量で含む;新鮮培地が培地1リットルあたり約60~約4.2、約90~約8、約100~約12、約120~約13、約240~約42及び約380~約70からなる群より選択されるアミノ酸(mM)対グルコース(g/L)比でグルコースを含む;所定のpH値が約pH7であるか又は約6.8~約7.4である;細胞培養液中のグルコース濃度の測定、又はグルコースポンプによる細胞培養液へのグルコースの添加が必要とされない。
【0019】
別の態様において、本発明は、関心対象のタンパク質であって、(a)関心対象のタンパク質をエンコードする遺伝子を含む細胞を、灌流細胞培養バイオリアクタにおいて関心対象のタンパク質を生成させる条件下に、(i)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターすること、(ii)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び(iii)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化することを含めて培養することと、(b)細胞培養バイオリアクタから関心対象のタンパク質を回収することとを含む方法によって生成される関心対象のタンパク質に関する。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート、及び(c)アミノ酸を含む;L-ラクタート量が約0.1g/L~7.0g/Lである;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、付加的な炭酸水素ナトリウムが約1~約2.5g/Lの量で灌流バイオリアクタに添加され、培地中の総炭酸水素ナトリウムが約2~約5.5g/Lであるようにし、pHが所定の値を超えると、付加的な炭酸水素ナトリウムは灌流バイオリアクタに送達される;利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの他の任意の生理的に許容できる塩基が、L-ラクタートの添加によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう量で灌流バイオリアクタに添加される;新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート及び/又は付加的な炭酸水素ナトリウム、並びに(c)アミノ酸を含む;新鮮培地が(a)約0.5~約40g/L グルコース、(b)約0.1~約7g/L L-ラクタート及び/又は約2~約5.5g/L 炭酸水素ナトリウム、並びに(c)約0.25~約1.0の、グルコースのモル対アミノ酸のモル比のアミノ酸を含む;新鮮培地がグルコースを、約70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース約5.3グラムに等しい量で含む;新鮮培地が培地1リットルあたり約60~約4.2、約90~約8、約100~約12、約120~約13、約240~約42及び約380~約70からなる群より選択されるアミノ酸(mM)対グルコース(g/L)比でグルコースを含む;所定のpH値が約pH7であるか又は約6.8~約7.4である;細胞培養液中のグルコース濃度の測定、又はグルコースポンプによる細胞培養液へのグルコースの添加が必要とされない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
特許請求された方法、装置、及びシステムの、これら及び他の特徴部、態様、及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むとさらによく理解される。
【
図2A】流加培養における乳酸蓄積を限定するためのHIPDOGコントロールスキームを利用する、バイオリアクタの成長相の期間のバルク細胞培養流体で起こる事象の仮想シークエンスの描画図である。
【
図2B】連続灌流培養における細胞コントロール灌流速度の立ち上がりためのHIPCOPコントロールするスキームを利用する、バイオリアクタの成長相の期間のバルク細胞培養流体で起こる事象の仮想シークエンスの描画図である。
【
図3A】2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系A成長(実施例1に記載のとおり)の結果を示す図である。白抜きシンボルは、HIPCOP技術を用いた際の結果を表す。黒シンボルは、非グルコース限定条件を表す。灌流は、乳酸が先ずバルク培養から除去されてpHの上昇を起こすにつれて培養液のpHが上昇し始める際に「自己開始」される。
図3Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)を示す図である。
図3Bは、経時的(日)な生存率(%)を示す図である。
図3Cは、経時的(日)なグルコース(g/L)を示す図である。
図3Dは、経時的(日)なL-ラクタート濃度(g/L)を示す図である。
図3Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図3B】2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系A成長(実施例1に記載のとおり)の結果を示す図である。白抜きシンボルは、HIPCOP技術を用いた際の結果を表す。黒シンボルは、非グルコース限定条件を表す。灌流は、乳酸が先ずバルク培養から除去されてpHの上昇を起こすにつれて培養液のpHが上昇し始める際に「自己開始」される。
図3Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)を示す図である。
図3Bは、経時的(日)な生存率(%)を示す図である。
図3Cは、経時的(日)なグルコース(g/L)を示す図である。
図3Dは、経時的(日)なL-ラクタート濃度(g/L)を示す図である。
図3Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図3C】2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系A成長(実施例1に記載のとおり)の結果を示す図である。白抜きシンボルは、HIPCOP技術を用いた際の結果を表す。黒シンボルは、非グルコース限定条件を表す。灌流は、乳酸が先ずバルク培養から除去されてpHの上昇を起こすにつれて培養液のpHが上昇し始める際に「自己開始」される。
図3Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)を示す図である。
図3Bは、経時的(日)な生存率(%)を示す図である。
図3Cは、経時的(日)なグルコース(g/L)を示す図である。
図3Dは、経時的(日)なL-ラクタート濃度(g/L)を示す図である。
図3Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図3D】2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系A成長(実施例1に記載のとおり)の結果を示す図である。白抜きシンボルは、HIPCOP技術を用いた際の結果を表す。黒シンボルは、非グルコース限定条件を表す。灌流は、乳酸が先ずバルク培養から除去されてpHの上昇を起こすにつれて培養液のpHが上昇し始める際に「自己開始」される。
図3Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)を示す図である。
図3Bは、経時的(日)な生存率(%)を示す図である。
図3Cは、経時的(日)なグルコース(g/L)を示す図である。
図3Dは、経時的(日)なL-ラクタート濃度(g/L)を示す図である。
図3Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図3E】2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系A成長(実施例1に記載のとおり)の結果を示す図である。白抜きシンボルは、HIPCOP技術を用いた際の結果を表す。黒シンボルは、非グルコース限定条件を表す。灌流は、乳酸が先ずバルク培養から除去されてpHの上昇を起こすにつれて培養液のpHが上昇し始める際に「自己開始」される。
図3Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)を示す図である。
図3Bは、経時的(日)な生存率(%)を示す図である。
図3Cは、経時的(日)なグルコース(g/L)を示す図である。
図3Dは、経時的(日)なL-ラクタート濃度(g/L)を示す図である。
図3Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図4A】灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用いた、2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系B成長の結果を示す図である。
図4Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図4Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図4B】灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用いた、2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系B成長の結果を示す図である。
図4Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図4Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図4C】灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用いた、2LバイオリアクタにおけるCHO細胞系B成長の結果を示す図である。
図4Aは、経時的(日)な生細胞密度(E5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図4Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図5A】灌流速度をコントロールするためのHIPCOP方法(実施例2に記載のとおり)を用いた、150Lバイオリアクタ(70L作業容量)におけるCHO細胞系A成長の結果を示す図である。
図5Aは、灌流速度をコントロールするHIPCOP方法を用いた、70リットル作業容量パイロットスケールバイオリアクタにおけるCHO細胞系Aの経時的(日)な生細胞密度(E5又は10
5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図5Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図5B】灌流速度をコントロールするためのHIPCOP方法(実施例2に記載のとおり)を用いた、150Lバイオリアクタ(70L作業容量)におけるCHO細胞系A成長の結果を示す図である。
図5Aは、灌流速度をコントロールするHIPCOP方法を用いた、70リットル作業容量パイロットスケールバイオリアクタにおけるCHO細胞系Aの経時的(日)な生細胞密度(E5又は10
5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図5Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図5C】灌流速度をコントロールするためのHIPCOP方法(実施例2に記載のとおり)を用いた、150Lバイオリアクタ(70L作業容量)におけるCHO細胞系A成長の結果を示す図である。
図5Aは、灌流速度をコントロールするHIPCOP方法を用いた、70リットル作業容量パイロットスケールバイオリアクタにおけるCHO細胞系Aの経時的(日)な生細胞密度(E5又は10
5細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図5Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図4Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図6A】HIPCOP灌流技術を用いて第4日まで、次いで流加作業モードに変換して12日間培養の残りの期間、2Lバイオリアクタにおいて生育される、IgG抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンセターゼ(sythetase)発現系CHO細胞系(細胞系A、B、C、及びD)の結果を示す図である。
図6Aは、生細胞密度(E6又は10
6細胞/mL)を示す図である。
図6Bは、トリパンブルー色素排除によって測定された生細胞百分率を示す図である。
図6Cは、経時的なL-ラクタート濃度を示す図である。
図6Dは、経時的な浸透圧強度(mOsm/kg)を示す図である。
図6Eは、経時的な生成物力価(IgG抗体)蓄積を示す図である。
【
図6B】HIPCOP灌流技術を用いて第4日まで、次いで流加作業モードに変換して12日間培養の残りの期間、2Lバイオリアクタにおいて生育される、IgG抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンセターゼ(sythetase)発現系CHO細胞系(細胞系A、B、C、及びD)の結果を示す図である。
図6Aは、生細胞密度(E6又は10
6細胞/mL)を示す図である。
図6Bは、トリパンブルー色素排除によって測定された生細胞百分率を示す図である。
図6Cは、経時的なL-ラクタート濃度を示す図である。
図6Dは、経時的な浸透圧強度(mOsm/kg)を示す図である。
図6Eは、経時的な生成物力価(IgG抗体)蓄積を示す図である。
【
図6C】HIPCOP灌流技術を用いて第4日まで、次いで流加作業モードに変換して12日間培養の残りの期間、2Lバイオリアクタにおいて生育される、IgG抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンセターゼ(sythetase)発現系CHO細胞系(細胞系A、B、C、及びD)の結果を示す図である。
図6Aは、生細胞密度(E6又は10
6細胞/mL)を示す図である。
図6Bは、トリパンブルー色素排除によって測定された生細胞百分率を示す図である。
図6Cは、経時的なL-ラクタート濃度を示す図である。
図6Dは、経時的な浸透圧強度(mOsm/kg)を示す図である。
図6Eは、経時的な生成物力価(IgG抗体)蓄積を示す図である。
【
図6D】HIPCOP灌流技術を用いて第4日まで、次いで流加作業モードに変換して12日間培養の残りの期間、2Lバイオリアクタにおいて生育される、IgG抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンセターゼ(sythetase)発現系CHO細胞系(細胞系A、B、C、及びD)の結果を示す図である。
図6Aは、生細胞密度(E6又は10
6細胞/mL)を示す図である。
図6Bは、トリパンブルー色素排除によって測定された生細胞百分率を示す図である。
図6Cは、経時的なL-ラクタート濃度を示す図である。
図6Dは、経時的な浸透圧強度(mOsm/kg)を示す図である。
図6Eは、経時的な生成物力価(IgG抗体)蓄積を示す図である。
【
図6E】HIPCOP灌流技術を用いて第4日まで、次いで流加作業モードに変換して12日間培養の残りの期間、2Lバイオリアクタにおいて生育される、IgG抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンセターゼ(sythetase)発現系CHO細胞系(細胞系A、B、C、及びD)の結果を示す図である。
図6Aは、生細胞密度(E6又は10
6細胞/mL)を示す図である。
図6Bは、トリパンブルー色素排除によって測定された生細胞百分率を示す図である。
図6Cは、経時的なL-ラクタート濃度を示す図である。
図6Dは、経時的な浸透圧強度(mOsm/kg)を示す図である。
図6Eは、経時的な生成物力価(IgG抗体)蓄積を示す図である。
【
図7】細胞増殖相の期間HIPCOPを用いた、ハイブリッド灌流/流加プロセスの第12日生成物力価(IgG抗体のグラム/リットル)を、12日間流加プロセスの至適化された力価と比較して示す図である。
【
図8】灌流のHIPCOP相の期間に用いられ、
図6A~E及び
図7に示す高細胞密度及び生産性を成し遂げる、適切な容量の灌流培地(灌流培地のリアクタ容量で表す)を示す表である。この表は、培養における任意の時間ポイントにて培養の日の数で割るによって
図7から得ることができる、算出された最高の容量当たり生産性も示す。
【
図9A】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図9B】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図9C】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図9D】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図9E】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図9F】細胞密度、細胞生存率、L-ラクタート濃度、浸透圧強度、生成物力価、及び培養の第6日から終了までの手動で調整された灌流速度と細胞増殖相(1~6日)の期間最初にHIPCOPを使用するIgG抗体生成CHO細胞系Aの2L連続灌流培養に対する時間の関数としての灌流の速度を示す図である。
図9Fでは、総灌流速度が黒菱形で、濃縮された灌流培地は黒四角で、及び生理食塩水希釈剤は白抜き正方形で示される。
【
図10】バイオリアクタの最終的な採取物及び6~17日より収集された透過物から関心対象の生成物すべてが捕獲されると仮定して、プロセスの全長(17日)を除数として用いて算出された全体の容量当たり生産性を列挙する表である。列挙されるのはまた、
図9A~Fの実験で使用される初期灌流培地(1~6日)、濃縮された栄養素灌流培地(6~17日)及び生理食塩水希釈剤(6~17日)の総容量である。
【
図11】ハイブリッド灌流流加作業モード(左から2番目のバー、12日プロセス)または連続灌流作業モード(高強度・低容量灌流、17日プロセス、左から3番目のバー)のいずれかと合わせてHIPCOP技術を用いて成し遂げられることができる、至適化された流加プロセス(左から1番目のバー、12日プロセス)と比較した場合の、全プロセス容量当たり生産性の増加を示す棒グラフである。この図のデータはすべて、前出の図と実施例に記載したような細胞系Aを用いて集められた。全プロセス容量当たり生産性の算出は、透過物中のバイオリアクタシステムを出る生成物と、バイオリアクタに残るものとを利用できると仮定している。バイオリアクタ中の物質はおそらく、プロセス終了時に最終採取工程によって捕獲されるであろう。算出には、比較的希薄な灌流培地を利用しながら増殖相の期間(HIPCOP技術が作業中、ハイブリッド灌流流加プロセスは第0~4日、及び連続灌流プロセスは第0~6日)に透過物流へと喪失された生成物は含まれない。さらに、算出は全バッチ長(播種から採取の終了時点まで)を除数として利用する。
【
図12A】約130kDaのリコンビナントタンパク質を生成している、DG-44由来のCHO細胞系Eの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図12Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図12Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図12Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図12B】約130kDaのリコンビナントタンパク質を生成している、DG-44由来のCHO細胞系Eの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図12Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図12Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図12Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図12C】約130kDaのリコンビナントタンパク質を生成している、DG-44由来のCHO細胞系Eの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図12Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図12Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図12Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図13A】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図13Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図13Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図13Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図13B】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図13Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図13Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図13Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図13C】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、3Lバイオリアクタにおいて成長が起こる。
図13Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図13Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図13Cは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図14A】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、培養液を3Lバイオリアクタにおいて維持した。
図14Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図14Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図14Cは、経時的(日)な日平均灌流速度(VVD)を示す図である。
図14Dは、経時的(日)な細胞固有の灌流速度(pL/細胞/日)を示す図である。
図14Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図14B】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、培養液を3Lバイオリアクタにおいて維持した。
図14Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図14Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図14Cは、経時的(日)な日平均灌流速度(VVD)を示す図である。
図14Dは、経時的(日)な細胞固有の灌流速度(pL/細胞/日)を示す図である。
図14Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図14C】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、培養液を3Lバイオリアクタにおいて維持した。
図14Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図14Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図14Cは、経時的(日)な日平均灌流速度(VVD)を示す図である。
図14Dは、経時的(日)な細胞固有の灌流速度(pL/細胞/日)を示す図である。
図14Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図14D】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、培養液を3Lバイオリアクタにおいて維持した。
図14Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図14Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図14Cは、経時的(日)な日平均灌流速度(VVD)を示す図である。
図14Dは、経時的(日)な細胞固有の灌流速度(pL/細胞/日)を示す図である。
図14Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【
図14E】リコンビナント免疫グロブリンGを生成している、GS-CHO細胞系Bの結果を示す図である。灌流速度をコントロールするHIPCOP方法(実施例1に記載のとおり)を用い、培養液を3Lバイオリアクタにおいて維持した。
図14Aは、経時的(日)な生細胞密度(E6細胞/mL)又は生存率(%)のいずれかを示す図である。
図14Bは、経時的(日)な代謝産物濃度(g/L)を示す図である。
図14Cは、経時的(日)な日平均灌流速度(VVD)を示す図である。
図14Dは、経時的(日)な細胞固有の灌流速度(pL/細胞/日)を示す図である。
図14Eは、経時的(日)な浸透圧(mOsm/kg)を示す図である。
【0021】
[発明の詳細な説明]
本発明技術は、pH変化を介してバイオリアクタへの灌流培地の添加の速度を細胞に自己レギュレーションさせることによる、連続灌流培養のための方法であって、灌流培地は、グルコース、L-ラクタート(及び/又は炭酸水素ナトリウム)並びにグルコースに対して特定比のアミノ酸を含む方法に関する。本技術の利点は、より少量の液体培地の使用など、プロセス条件を至適化してタンパク質生成を増加させることを含む。
【0022】
本発明は部分的に、L-ラクタート(潜在的に成長を阻害する化合物)は、細胞にとって有利に灌流培地へ添加され得、全連続灌流期間にわたるそれらの灌流速度をコントロールすることができるという意外な発見に基づくものである。
【0023】
定義
「約」の用語は一般的に、測定におけるわずかな誤差をいい、多くの場合特定の信頼レベル内の真の値を含む値の範囲(68%信頼区間(C.I.)に対して通常、±1σ)として提示される。「約」の用語は、整数及びその整数の±20%の値として記載されることもある。
【0024】
「約pH7」の用語は、pH7±1のpH単位をいう。一実施形態では、約pH7とはpH7±0.2のpH単位をいう。別の実施形態では、約pH7とは、6.8~7.4のpHをいう。別の実施形態では、約pH7とはpH7.10±0.025のpH単位をいう。例えば、pH設定ポイント(又は所定の値)及び灌流中の不感帯は、7.10±0.025に設定され得る。この値で、この範囲のハイエンド、例えば、7.125のpHで灌流ポンプがトリガーされる。pHが7.125を超えて上昇すると、灌流ポンプはオンになり、そしてpHが7.125未満に降下すると、ポンプはオフになる。別個のポンプを活性化して、pHがその範囲のローエンド、7.075未満に降下すると、アルカリ溶液を添加してもよい。
【0025】
乳酸又は2-ヒドロキシプロパン酸(CH3CHOHCOOH)は、特定の細胞によって培養の間に生成及び消費される有機酸である。乳酸はキラルであり、2つの光学異性体がある。1つはL-(+)-乳酸(キラル、(S)-乳酸)として公知であり、もう1つはその鏡像異性体、D-(-)-乳酸(キラル、(R)-乳酸)である。両者の当量混合物をDL-乳酸と呼ぶ。
【0026】
L-ラクタートとは、乳酸のエステル又は塩をいう。ラクタートは培養の副産物であり、細胞呼吸中にグルコースが分解するにつれて生成される。乳酸のエステルは、L-乳酸メチル、L-乳酸エチル、L-乳酸ブチル、L-乳酸エチルヘキシル、L-乳酸ラウリル、L-乳酸ミリスチル、又はL-乳酸セチルを含み得るが、これらに限定されない。L-ラクタートの塩とは、L-乳酸カリウム、L-乳酸ナトリウム、L-乳酸リチウム、又はL-乳酸アンモニウムなどのL-乳酸アルカリ金属、さらにはL-乳酸カルシウム、L-乳酸マグネシウム、L-乳酸ストロンチウム、又はL-乳酸バリウムなどのL-乳酸アルカリ土類金属を称し得る。加えて、他の二価、三価及び四価の金属のL-ラクタートは、L-乳酸亜鉛、L-乳酸アルミニウム、L-乳酸鉄、L-乳酸クロム、又はL-乳酸チタンを含み得る。本発明によれば、乳酸の任意のエステル又は塩が使用され得る。
【0027】
「容量当たり生産性」の用語は、容量あたり実行の時間あたりの、物質生成量をいう。哺乳類細胞培養液については、この値グラム/L/日で示され得る。
【0028】
「透過物(パーミエイト)」の用語は、一以上のフィルター、膜又は他の細胞保持デバイスを通過してバイオリアクタを出る液体(消費された培地及び発現されたタンパク質を含む)をいう。それが通過するフィルター/膜又は他の細胞保持デバイスのタイプによって、透過物は無細胞であり得るか、又は残留量の細胞を含有し得る。
【0029】
連続灌流
哺乳類細胞の連続灌流培養の間、細胞マスは細胞保持デバイスによりバイオリアクタ内に含まれたままで、培地は培養液により灌流される(
図1)。懸濁液培養系において、細胞保持デバイスは通常、何らかのタイプのフィルターであるが、完全に「無細胞」にならないかもしれないいくつかのデバイスを含め、多くの他の方法が採用され得る(音波分離、傾斜板沈降、外装遠心分離、回転又は振動などの内装フィルター、外装ハイドロサイクロンなど)。細胞マスが成長し続けて数と重量が増加するにつれ灌流の速度は増加し、代謝副生成物を除去して必要な栄養素を供給する。灌流速度は通常、段階的に増加され、多くの場合に算出に基づき決定されて、細胞数に対する時間あたり灌流培地の特定の比が維持される(CSPR、すなわち細胞固有の灌流速度(多くの場合ナノリットル/細胞/日)、通例0.05~0.5nL/細胞/日の範囲)。Ozturk, Cytotechnology, 1996; 2: 3-16 and Konstantinov et al., Adv. Biochem. Eng/Biotechnol., 2006; 101: 75-98参照。いくつかの例では、灌流速度はグルコース又はL-ラクタートの濃度をコントロールするように設定されるか(Konstantinov et al., Biotechnol. Prog, 1996; Jan-Feb; 12(1): 100-9 and Ozturk et al., Biotechnol. Bioeng., 1997; Feb 20; 53(4): 372-8)、又は酸素取り込み率(uptake rate)測定に基づく。Feng et al., J. Biotechnol., 2006; April 20; 122(4): 422-430参照。
【0030】
同様の量の生成物タンパク質を生成している流加培養と比較すると、連続灌流培養は典型的にはずっと大容量の細胞培地を利用する。栄養素流加は高度に濃縮可能で流加培養におけるように低容量で添加され得るので、より大容量の培地は栄養素を供給するためには本来必要とされない。灌流培養で使用されるより大容量の培地は典型的に、細胞の代謝副生成物を洗い流すのに採用される。灌流培養における細胞は典型的には、より高レベルのせん断及び他の環境的浸襲を受け、死亡する細胞を補うのに細胞の少なくともある程度の成長が必要になる。加えて、長くても10~18日続くかもしれない流加培養と比較して、連続培養は非常に長時間、数週間から数カ月も作業することが予想される。結果的に、連続培養における細胞は、少なくともある程度の細胞分裂を許容する状態に維持されるべきである。その状態では、阻害的な代謝副生成物が特定レベルに満たないように保たれることが必要である。
【0031】
哺乳類細胞によって生成される主な抑制的化合物は乳酸である。これは細胞が速やかに成長するときに特にあてはまる。乳酸はpHを抑制し、細胞成長に適切な範囲にpHを保つことができるように塩基の滴定剤を添加することが必要となる。乳酸はL-ラクタートに中和され、高pH滴定剤に対する典型的な対イオンとしてイオンナトリウム(又はカリウム)が培養液に大量に入る。L-乳酸イオンはそれ自体、充分に高いレベルで成長に阻害的であるが、L-ラクタート及び付加的なナトリウムイオンの単なる存在も、培地の浸透圧強度を280~320mOsmの正常な生理学的な範囲外になるまで有意に高めることにもなる(Gagnon et al., Biotechnol. Bioeng., 2011; 108: 1328-1337参照)。充分に高い浸透圧強度で、細胞成長は遅くなり、最終的には培養の生産性も減少するであろう。
【0032】
従来の連続灌流培養では多くの場合、蓄積されたL-ラクタートを流し出すために灌流速度を立ち上げ、培養の開始時の成長している細胞を保つ。この灌流立ち上がりは、L-ラクタートが生成することがなければ必要とならなかったかもしれない大容量の培地を消費する。
【0033】
培養液において哺乳類細胞が自由に利用可能なグルコース(濃度はおそらく2mM超)に曝されると、それら細胞は典型的には高いレベルの乳酸を生成し、高いグルコース消費率を維持し続ける。しかしながら、グルコースレベルが低い(2mM未満)と、哺乳類細胞は乳酸の生成を止め、代わって消費のために乳酸をバルク培地からそれらの膜を越えて輸送し戻すことになる。バルク流体からの究極的な乳酸の取り込みは、培養液のpHの速やかな上昇を引き起こす。pHの上昇が、例えば、グルコースを含有する栄養液を送達するポンプからのグルコースの培養液の緩徐な添加をトリガーすれば、次いでグルコース(及び可能性として他の栄養素)が培養液に送達されると同時にハイエンドのpHを定常値近傍にコントロールすることができてその結果乳酸の蓄積をもたらし、培養に対するその有害な効果が抑制される。このプロセスは、
図2Aに示すこれまでに記載されたグルコースのハイエンドpH送達(HIPDOG)の基礎である(Gagnon et al., Biotechnol. Bioeng., 2011; 108: 1328-1337、流加培養での実験を開示)。グルコースのハイエンドpHコントロール送達は事実上L-ラクタート蓄積を、例えばCHO流加培養で抑制する。HIPDOGプロセスは、乳酸を取り込み及びpHの上昇をトリガーすることによって細胞が付加的なグルコースに必要性を示唆するので、それらのグルコース消費の速度の細胞自己決定としても示され得る。
【0034】
HIPDOG流加プロセスは、以下のように哺乳類又はCHO細胞の連続灌流培養に拡大適用され得る。グルコース濃度が連続培養で不足しすぎると、細胞が乳酸を取り込んでpHの上昇をトリガーする。流加培養において、高度に濃縮されたグルコース溶液を送達するポンプが活性化される、換言すると、流加のグルコース濃度は通常約50~500g/Lの間であるが、連続灌流培養では例えば約4~40g/Lの間のグルコースなど、低濃度のグルコースを含有する灌流培地に送達すべくポンプが活性化され得る。連続灌流培養において、バイオリアクタの容量は一定に維持される。それゆえ、灌流培地の添加はいずれも同時に、バイオリアクタから培地を等容量除去することを伴う。これは例えば、バイオリアクタの重量が風袋重量を超えればいつも、ポンプに透過物を除去するシグナルを送る実験室用秤量器を使用することによって成し遂げることができる。培養液中のグルコースレベルが限定されなくなれば、細胞は再び乳酸を分泌し、これがバルク培養液pHを抑制して、それぞれ培地を培養液に送達及び除去する流加及び透過ポンプを不活性化する。このサイクルは細胞が生育及び代謝するにつれ何度も繰り返される。培養液の細胞密度が増加するにつれ、細胞はより頻繁に灌流ポンプをトリガーしてオンにすることができ、これによりそれらの灌流の速度が一切の手動の介在なく立ち上がる。
【0035】
前記プロセスの間に、バルク培養流体中のL-ラクタートのレベルが経時的に降下することが観察された。その結果、コントロールする手法が機能停止しないようにL-乳酸ナトリウムを、例えば約1~7グラム/L、灌流培地に補給することが必要な場合があった。
【0036】
灌流培地中の栄養素及びグルコースのレベルを選択することに関する付加的な考慮事項が必要であった。例えば、培養の初期相の期間は、速やかに細胞マスを増大し、したがって、高い成長速度を維持することが有利であった。成長速度を高く保つべく、L-ラクタート以外の成長インヒビターを除去するための比較的高い灌流の速度が必要であった。
【0037】
本発明によれば、灌流のハイエンドpHコントロール又はHIPCOPが、細胞にそれらの灌流の速度を決定させるが、これは最終的にそれらのグルコース消費の速度に依存する。いずれの時点においても、培養液に送達される灌流培地の容量は、灌流培地中のグルコース濃度に依存した。灌流培地中のグルコースの濃度がより高いことは、送達される灌流培地の容量がより低いことに対応する。この理由により、高い灌流速度が好ましい場合に灌流培地中のグルコースが低濃度、そして低い灌流の速度が好ましい場合に灌流培地中のグルコースが高濃度であることに価値がある。多くの作業パラメータ(酸素移動、二酸化炭素除去など)が、大規模灌流バイオリアクタにおいて実際的に維持されることのできる最終のピーク生細胞密度を限定するので、初期増殖相の後に細胞成長を制限することには価値があり得る。付加的な細胞分裂を制限することが望ましければ、灌流速度を下げて培養において高レベルの阻害分子を蓄積させるであろう高濃度のグルコースを含む灌流培地を利用することが有効であり得る。
【0038】
本発明によれば、細胞が最初に播種される基礎培地において用いられるグルコース濃度が重要である。初期グルコースレベルが高すぎるとすれば、培養における初期に細胞はラクタートを多く生成しすぎるかもしれない可能性があり、これが灌流を開始できるより前に成長を遅くするであろう。CHO細胞培養液では、本発明の技術で例えば約2~4グラム/Lの範囲の初期グルコース濃度が使用され得る。
【0039】
本願の技術に関する別の考慮事項は、灌流培地中の他の栄養素(主にアミノ酸)に対するグルコースの比の重要性である。細胞成長及び/又はリコンビナントタンパク質生成速度を持続するために、この比は培養液に送達されるアミノ酸の量が高すぎたり低すぎたりしないようにバランスを取らなければならない。細胞バイオマス生成が遅いと、アミノ酸に対するグルコースの異なる(おそらくは低い)比が必要となる可能性がある。あるいは、純粋なアミノ酸又は純粋なグルコースの濃縮されゆっくりとした流加により、灌流培地中のアミノ酸に対するグルコースの適当な比の不正確な概算を補正することができるであろう。純粋なグルコース添加が必要であるとすれば、この添加は灌流培地ポンプと同じようにpHコントローラ/センサにつなぐことを必要とし得る。
【0040】
したがって、一態様において、本発明は、灌流培養プロセスであって、(a)pHセンサで灌流バイオリアクタ中の細胞培養液におけるpHをモニターすること、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化することを含むプロセスに関する。直接的に又は間接的に、本態様に互いに関連する一以上の実施形態では、新鮮培地がL-ラクタート含む;L-ラクタートが新鮮培地中約0.1g/L~7.0g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~4g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~3g/Lの量で存在する;L-ラクタートが新鮮培地中約1~2.5g/Lの量で存在する;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、付加的な炭酸水素ナトリウムが約1~約2.5g/Lの量で灌流バイオリアクタに添加され、培地中の総炭酸水素ナトリウムが約2~約5.5g/Lであるようにし、pHが所定の値を超えると、付加的な炭酸水素ナトリウムは灌流バイオリアクタに送達される;利用される灌流培地1リットルあたり8.7mLの割合で1モル濃度 カーボナートが灌流バイオリアクタに入るように、付加的な炭酸水素ナトリウムが灌流バイオリアクタに添加される;L-ラクタートに代えて又はそれに加えて、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの他の任意の生理的に許容できる塩基が、L-ラクタートの添加によって起こるであろうと同様にpHへ上昇影響を与えるであろう量で灌流バイオリアクタに添加される;新鮮培地が(a)グルコース、(b)L-ラクタート及び/又は付加的な炭酸水素ナトリウム、並びに(c)アミノ酸を含む;新鮮培地が(a)約0.5~約40g/L グルコース、(b)約0.1~約7g/L L-ラクタート及び/又は約2~約5.5g/L 炭酸水素ナトリウム、並びに(c)約0.25~約1.0の、グルコースのモル対アミノ酸のモル比のアミノ酸を含む;新鮮培地がグルコースを、約70mM アミノ酸及び培地1リットルあたりグルコース約5.3グラムに等しい量で含む;新鮮培地が培地1リットルあたり約60~約4.2、約90~約8、約100~約12、約120~約13、約240~約42及び約380~約70からなる群より選択されるアミノ酸(mM)対グルコース(g/L)比でグルコースを含む;所定のpH値が約pH7であるか又は約6.8~約7.4である;細胞培養液中のグルコース濃度の測定、又はグルコースポンプによる細胞培養液へのグルコースの添加が必要とされない。
【0041】
一実施形態では、成長相の期間に、1リットルあたりグルコース5.3グラムに対して70mMのアミノ酸の比、又はそれぞれ60:4.2の灌流培地が使用される。より成長の遅い条件では、90:8、100:12、120:13、240:42及び380:70の比(mM アミノ酸:グラム/L グルコース)が使用される。
【0042】
本発明の「細胞コントロール(細胞でコントロールされた)」灌流システムには、必要とされる灌流培地の容量を低減すること、細胞保持システムの負荷を低下させること(例えば、小フィルター面積、小デバイスサイズ、低流量でのより効率的な分離など)、培養におけるナトリウム及びラクタートイオンの蓄積を最低限にすること又は解消すること、及び浸透圧強度増加を最低限にすること、を含む重要な利点がある。改良された培養条件ではさらに、最高の成長速度により近い、より速い細胞成長速度が可能になる。蓄積されたイオンの低減のための簡易な方法がない流加培養の最終工程で培養が遷移されるべきなのであれば、低浸透圧強度及び低レベルのラクタートが特に有益である。本発明の細胞コントロール態様とは、細胞が灌流を「自己開始」する、さらには灌流の速度立ち上がりを自己コントロールすることになるという意味である。このような「‘細胞でコントロールされた」灌流は、培養の環境における微少な摂動に起因して、望ましい灌流速度の近即時的微少補正を可能とし得る。多くの従来の灌流バイオリアクタにおいて、灌流速度は到達細胞密度、又は所定の濃度に到達していく阻害的代謝産物に基づいて増加される。細胞代謝によって近即時的にシグナリングされるpHの上昇により連続的に灌流速度がコントロールされるため、HIPCOPコントロール灌流システムではバイオリアクタのサンプリングの必要性が低減されるかもしれない。HIPCOPコントロールが長継続期間連続灌流培養のために使用されるべきものであるとすれば、自己補正するこの機会は特に有用である。加えて、グルコースの送達のための至適灌流速度が細胞自体によって決定されることとなるため、このような‘細胞コントロール灌流速度’プロセスは、プロセス開発に必要な時間が短い。
【0043】
あるいは又はさらには、本発明のHIPCOP又は「細胞コントロール灌流速度」プロセスはグルコース測定に依存するところがほとんど又は一切なく、このような値への培養プロセスの依存性を低下させ、したがってプロセスを大幅に簡素化する。さらに、本発明のHIPCOPプロセスは、高度に濃縮されたグルコース溶液をバイオリアクタへ送達するためのポンプを含まない。加えて、HIPCOPプロセスは典型的な従来の灌流プロセスよりも少ない容量の灌流培地(一般的に、細胞増殖相の期間で合計2リアクタ容量未満)を用いるので、これにより本プロセスは従来のプロセスよりもさらに有利なものとなる。
【0044】
したがって、一実施形態では、本発明は、HIPCOP又は細胞コントロール灌流培養プロセスであって、(a)pHセンサで細胞培養液におけるpHをモニターする工程、(b)pHが所定の値を超えると新鮮培地を送達し、透過物を除去する工程、及び(c)pHが所定の値を下回ると培地の送達及び透過物の除去を不活性化する工程を含むプロセスに関する。このプロセスは例えば、pHセンサで細胞培養液におけるpHをモニターすること;pHが所定の値を下回ると新鮮培地を送達し、透過物を除去すること;及びpHが所定の値を超えると培地の送達及び透過物の除去を不活性化することとは異なる。後者のプロセスは、大量の乳酸が生成されておりpHが降下すれば、灌流ポンプがオンにされるという意向に基づいている。入ってくる培地のpHが高ければ、培地の添加は実際に培養液のpHを高く押し上げるであろうが、それは過剰のグルコースの添加も行って、より多くのラクタート生成をトリガーすることになり、最終的に大量の灌流培地を用いてラクタートを流し出して終わるまで「悪循環」を続けることになるであろう。本発明のHIPCOPプロセスには、これらの限界がない。
【0045】
本発明の技術は、灌流を用いて細胞密度を増加させ、生成バイオリアクタに最適の健全状態の高細胞密度播種を提供するN-1(又はシード)バイオリアクタにも使用されることができる。本発明の技術は、連続灌流培養の一部として、又は従来の流加モードの作業に切り換える前の短いタイムスパンの灌流(生成リアクタ内)の間のいずれかの、生成リアクタにも使用されることができる。
【0046】
短期間の灌流(細胞保持を伴う連続培養)を用いて非常に高密度にまで速やかに細胞を増殖させ、次いで簡易な流加バイオリアクタとして生成培養を完遂することが有利である。このような培養液の灌流作業では、細胞密度が増加するにつれて灌流速度がおそらく連続的に「立ち上がる」はずであり、ほぼ指数関数的速度で成長している細胞が保たれる。煩雑さが加わり続けるものの、希薄な培地での短期間の灌流(栄養素を添加し同時に老廃物を除去することになる)し、その後、高度濃縮培地を用いた非常に低速での灌流(インヒビターを「効率的に」流し出すことはもはやないが、関心対象の生成物の生成をサポートするのに十分な栄養素を依然として添加する)を実施することにも価値がある。このような培養は、高密度にまで非常に速い成長を可能にし、そして高い生産性を可能として、一般的には、より従来型の流加培養と同様の長さとなるように、培養の長さを最短にするであろう。
【0047】
したがって、ハイブリッド灌流/流加培養プロセスのために、以下のようにしてプロセスが実施され得る(本例に用いた数は、
図6~8に示すように細胞系Aから示されたプロセスデータより取得)。バイオリアクタ播種生成に際し、およそ5×10
6細胞/mLの高い播種密度を含むバッチを4g/L グルコースの初期培地において培養する。1日及びそれに続く3日間の後、細胞が灌流立ち上がりを「自己コントロールする」連続灌流プロセスにバッチを切り換える。灌流培地中にはおよそ2.5g/L L-乳酸ナトリウムが存在する。灌流はおよそ60Lの作業容量で行うが、それにはおよそ160Lの総灌流培地が必要である。3日後、プロセスを標準流加プロセスに切り換えて、培養の第12日にバイオリアクタが100Lに達するまで流加を継続する。このハイブリッド灌流/流加培養プロセスを使用することによって、1グラム細胞/L/日以上の容量当たり生産性が成し遂げられている。加えて、典型的な従来の灌流立ち上がりが使用されたとすれば、おそらく2~3倍多くの灌流培地が必要となるであろうと考えられ、同様の結果を成し遂げるのに細胞保持システムのためのさらなるフィルター面積も必要となり得る。
【0048】
ハイブリッド灌流/流加培養プロセスに関する一実施形態では、灌流プロセスは先ず細胞培養のために実行され、そして第二に流加プロセスが実行される。別の関連する実施形態では、灌流プロセスは先ず開始して1~12日継続し、その灌流プロセスの後流加プロセスが続いてさらに1~12日継続する。例示的な一実施形態では、灌流プロセスは3~5日間継続し(典型的には播種の24時間以内に自動的に開始する)、その灌流プロセスの後流加プロセスが続いてさらに9~11日継続する。このハイブリッドシステムの利点は非常に高い容量当たり生産性であり、標準流加ウインドウに適合し、そして既存の施設に適合する(例えば、単一採取)。このシステムにおけるHIPCOPは細胞にそれら自体の灌流速度をコントロールさせ、微少なプロセス偏差に調整して、ラクタート、アンモニア、浸透圧が流加の開始直前に非常に低い状態となる。
【0049】
本発明の別の実施形態は、有意に異なる二相からなる連続灌流バイオリアクタに関する。第一相は先に述べたように初期連続相を含み(HIPCOPを用いる細胞密度及び灌流速度の立ち上がり)比較的希薄な培地が利用され、その後高度に濃縮された灌流培地の使用によって灌流速度が有意に低減される、灌流の第二相が続く。
【0050】
本発明の別の実施形態は、灌流培養の後期の間、濃縮された灌流培地がバイオリアクタに添加されている際にバイオリアクタに添加される希釈剤液の使用に関する。一つの実施形態では、このような希釈剤液は適切な濃度の生理食塩水の溶液(例えば、2.0g/L 炭酸水素ナトリウム、2.4g/L ポリビニルアルコール、20mM 塩化カリウム、及び80mM 塩化ナトリウム)である。液体栄養素培地の長距離輸送は多くの困難(輸送のコスト、無菌性の維持、温度コントロール)を招来し得るので産業の場面で高度に濃縮された灌流培地を用いるのに大きな価値がある。このような培地で、濃縮された灌流培地に対し1日あたり0.05~0.30リアクタ容量という低い灌流速度が可能となる。関連する実施形態において、特に連続する下流プロセスが直接連結され連続的に送達される上流の採取物質を捕獲するのであれば、また生成されているタンパク質が高度に不安定であるとすれば、このようなバイオリアクタシステムでは生成物質をバイオリアクタから流し出すことが必要である。加えて、下流が過剰に大きくなるのを防ぐために、下流のプロセスが小さな範囲内に入る生成物の1日あたり質量をコントロールすることも有利であり得る。これは、希釈剤、例えば、生理食塩水の流量を操ることによって円滑化されることもできる。250~350mOsmの生理学的範囲に近いバイオリアクタ環境の浸透圧強度を維持することもまた有利である。細胞は多くの場合、培養液の浸透圧強度を増加させる外来性代謝産物を生成して、培養の健全性と細胞生産性とに対して負の影響を与える可能性がある。加えて、連続培養の最終段階における灌流培地は極めて濃縮され、アミノ酸の細胞取り込み率に可変性があり得るので、いくらかのアミノ酸がバイオリアクタ内に蓄積するかもしれず、毒性に起因して、又は浸透圧強度の増大へのそれらの寄与に単に起因して、やはり培養環境に負の影響を与える可能性がある。これらの目的(生成物質又は蓄積する未消費の栄養素をバイオリアクタ外に流し出すこと、及び適切な培養浸透圧強度を維持すること)は両方とも、生理食塩水の溶液を至適濃度(例えば、約250~350mOsm/kg又は約0~250mOsm/kg)でバイオリアクタへ流加することによって円滑化されるかもしれない。このような希釈剤は、バイオリアクタに連続的に添加されることができ、その生理食塩水含量は、培養における任意の時間ポイントでほぼ至適な培養環境が維持され得ることになるように、滅菌水の添加によって連続的に調整され得るであろう(ここでもまた、大容量の液体を運送/輸送する必要性を潜在的に最低限にすることを目的とする)。浸透圧強度及び生成物濃度のインライン又はオフライン分析を用いたフィードバックコントロールもまた、適切な量及び濃度の塩及び水溶液の添加を円滑化するかもしれない。さらに、生理食塩水又は希釈剤溶液は、塩化ナトリウムでほぼ飽和状態とされるるか、又はより好ましくは、付加的なカリウムを栄養素として培養液に供給できるように、又はより生理的に適切な、ナトリウムイオンに対するカリウムの比が培養液中で維持され得るように塩化ナトリウム及び塩化カリウムの混合物をほぼ飽和状態に含むものとすることができる。
【実施例】
【0051】
実施例1
1~2リットルスケールでのHIPCOP技術の適用
【0052】
HIPCOP(灌流のハイエンドpHコントロール)を用いた多数の試験が実施されている。このプロセスは、細胞密度が増加したので灌流の立ち上がり期間に有利であった。L-ラクタートは低く保たれ、浸透圧強度は至適な範囲に維持された。
図3A~Eは二つの連続灌流培養を比較したものであり、一方はHIPCOPを使用し、一方は限定を意図しないグルコース条件下に維持、すなわち、付加的なグルコースを培養液に加えて約0.5~3.5g/L グルコースに維持した。両方の培養で、pH、溶存酸素、及び温度コントロールにつき設定点及び不感帯が同一であった。HIPCOPバイオリアクタ中のグルコースが低レベルに降下した第2~3日に灌流は自動的に開始し、乳酸が細胞によって取り込まれ、バルクpHが上昇して灌流培地添加及び透過物除去ポンプの起動をトリガーした。二つの培養への灌流培地の添加の速度は同一であり、他の点では同一のHIPCOP培養によってコントロールされた同じ速度で立ち上がった。灌流が起こりながらもHIPCOPバイオリアクタはほぼゼロのグルコース濃度を維持したという事実に関わらず、細胞成長の速度は二つの培養でほぼ同一であった。細胞生存率もまた類似していたが、HIPCOP条件でわずかに低かった(
図3B)。
【0053】
グルコース非限定条件は過剰の乳酸を生成し、塩基性滴定剤が自動的に添加されてpHを維持したので、HIPCOP条件と比較するとわずかにより高い全体容量の流体(9容量%多い流体)が細胞マスを通過していた。細胞密度及び成長速度は非常に類似していたものの、培養が進むにつれグルコース非限定培養でははるかに多くのL-ラクタートが生成され、はるかに高い浸透圧強度に達した(
図3D及び3E参照)。
【0054】
図4A~Cは、別のCHO細胞系(細胞系B)へのHIPCOP技術の適用を明らかにする。ここでもまた、CHO細胞系について最高の成長速度近傍の成長速度で細胞が分裂した。ここでもまた、培養液のL-ラクタート及び浸透圧強度が抑制され、培養環境は継続作業にほぼ最適のものであった。
【0055】
本発明で使用されてもよい新鮮灌流培地の具体的な例は、8g/L グルコース、2.5g/L L-乳酸ナトリウム(すなわち、22mM L-乳酸イオン)及び90mM アミノ酸を含む。
【0056】
実施例2
70リットルスケールでのHIPCOP技術の適用
【0057】
以下のデータは、HIPCOPの技術が70リットルスケールにて、1~2リットルスケールの場合と同様の結果で容易に実行される可能であることを示す。
【0058】
1~2リットルスケールで本発明を開発するのに用いられた技術を、スケールアップされた中空糸濾過モジュール及び再循環ループが取り付けられた150Lステンレス鋼のバイオリアクタシステムにおいて実行した。中空糸モジュールの表面積は2.55平方メートルであり、細孔径は0.2ミクロンであった。液体は1分あたり8~9リットルで外部灌流ループを通って再循環され、バイオリアクタの作業容量は70リットルであった。パイロットスケールで、灌流培地組成は90ミリモル濃度 アミノ酸、8g/L グルコース、及び2.5g/L L-乳酸ナトリウム(すなわち、22mM L-乳酸イオン)であり、最終浸透圧は345mOsmであった
【0059】
図5A~Cに、70リットルスケールで細胞系Aを用いたHIPCOP技術の適用を示す。成長速度及び細胞生存率は1~2L バイオリアクタからの以前のデータと比べ、大規模でわずかに低かった。大規模バイオリアクタの灌流ループにおいて使用される装置の付加的な最適化(細胞せん断損傷を最低にすること)が可能であろう。パイロットスケール実験での播種密度は1~2Lバイオリアクタからの細胞系Aに対する以前のデータよりも有意に高かった。パイロットスケールで到達した最終細胞密度は、小規模で得られたものよりある程度高かった。パイロットスケールでの培養液のL-ラクタート及び結果的に得られた浸透圧は、小規模実験におけると同様にコントロールされた。本発明の方法の結果として予想されるとおり、グルコースレベルは速やかに降下してHIPCOP灌流の間中ずっと非常に低いままであった。パイロットスケールでの実験の間、手動で灌流速度を調整する必要はなかった。唯一の最高ポンプスピードが設定され、ポンプ(流加及び透過ポンプの両方)がハイエンドpHコントローラ/センサシステムによってオンオフされて培養液の灌流速度を事実上立ち上げた。
【0060】
実施例3
ハイブリッド灌流/流加プロセスにおける、さらなる細胞系へのHIPCOP技術の適用
【0061】
モノクローナル抗体を生成している4種の異なるグルタミン-シンテターゼCHO細胞系についてのさらなるデータを
図6、7、及び8に示す。全データがほぼ同一のプロセスで得られ、すなわち4日の連続灌流期間(HIPCOPを使用した灌流立ち上がり)で、その後培養プロセスを12日間培養の残りの期間流加プロセスに切り換えた。こうして、細胞がハイブリッド(すなわち、HIPCOP灌流/流加)プロセス下に培養された。灌流培地組成は、実施例2で使用されたと同一の、90ミリモル濃度 アミノ酸、8g/L グルコース、及び2.5g/L L-乳酸ナトリウム(すなわち、22mM L-乳酸イオン)で、最終浸透圧は345mOsmであった。
図6に示すとおり、このハイブリッドプロセスにおいて、細胞系は第5及び6日に67~85×10
6細胞/mLの最高細胞密度に達し、プロセスの長さ全体にわたりパーセント生存率は約87~約97%と高かった。いくつかのパイロット-スケール(約100L)ハイブリッドプロセスでは、培養細胞は95×10
6細胞/mLを上回る密度に達した(データ図示せず)。4種の異なる細胞系で6からおよそ12グラム/リットルの間の力価に達した結果を
図6Eにまとめる。
図7では、至適化された流加プロセスにおいて4種のCHO細胞系で成し遂げられる力価を、HIPCOPを利用してハイブリッド灌流流加プロセスを適用した際に成し遂げられる力価と比較する。
図8は、ハイブリッド灌流流加プロセスのHIPCOP灌流段階の期間に用いられる培地の非常に適切な容量を示す。リアクタ容量は、バイオリアクタ作業の流加部分の期間に起こる流加を受け入れるのに必要となるであろうバイオリアクタの最終体積に基づいて算出する(流加の容量も
図8に示す)。これらの結果は、至適化された後段階流加プロセスにHIPCOP技術を適用することは、最少の開発努力で生産性を2倍以上に増やすことができることを示す。
【0062】
実施例4
連続灌流プロセスへのHIPCOP技術の適用
【0063】
図9Aは、最初の6日間、HIPCOP技術を用いて灌流をコントロールし、次いで6日を超えると手動でコントロールされるが比較的低い灌流速度での連続灌流に復帰する連続灌流プロセスにおいてCHO細胞系Aを用いた2Lバイオリアクタの生細胞密度を追跡する。最初の6日の間に用いられた灌流培地は、実施例3で用いられたと同一の構成であった(90ミリモル濃度 アミノ酸、8g/L グルコース、及び2.5g/L L-乳酸ナトリウム(すなわち、22mM L-乳酸イオン)、345mOsmの最終浸透圧)。第6日から第17日までは、600ミリモル濃度アミノ酸の高度濃縮灌流栄養液(90グラム/リットル グルコース、0g/L L-乳酸ナトリウム、およそ1300mOsm/kgの最終浸透圧)と、生理食塩水希釈剤(2.0g/L 炭酸水素ナトリウム、2.4g/L ポリビニルアルコール[せん断保護剤]、20mM 塩化カリウム、及び80mM 塩化ナトリウム、7.10のpH、250mOsm/kgの最終浸透圧)とを
図9Fに示すように割合を変えて用いて、培養液を灌流した。その後の実験(データ図示せず)で、生理食塩水希釈剤から炭酸水素ナトリウム及びポリビニルアルコールを除去しても同様の結果が得られることが確かめられた。この場合、250mOsm/kgの同様の最終浸透圧強度を成し遂げるように、希釈剤に対して塩化ナトリウムのレベルを増加させた(20mM 塩化カリウム及び105mM 塩化ナトリウム)。運送されるのに必要であるかもしれない液体の容量を最少にするために、大規模では、およそ1:5のモル比で塩化カリウム及び塩化ナトリウムのほぼ飽和した溶液をそれぞれ使用し、必要に応じて追加の水で希釈するのが至適かもしれない。
【0064】
このシステムにおける生細胞密度は極めて高いレベルに達し、数日間100×10
6細胞/ミリリットル超えを持続した(
図9A)。細胞生存率も、
図9Bに示すように高かった。HIPCOP灌流は
図9Cに示すように作業して、L-ラクタートレベルは良好にコントロールされ、培養の増殖相の期間2グラム/リットル未満のままであった。浸透圧も
図9Dに示すようにコントロールされた。第6日に開始され、実験の終結に向かって濃縮された栄養素灌流培地の灌流速度に対して立ち上げられた、生理食塩水希釈剤溶液の変動割合での添加によって、浸透圧のコントロールは、円滑化された(
図9F)。細胞バイオマスを持続させて関心対象のタンパク質生成させるのに十分な栄養素を同時に添加すること、バイオリアクタから細胞保持中空の繊維濾過デバイスを通過して続く下流プロセスに至る関心対象のタンパク質の除去(妥当に細い総マス/日のバンド内でコントロールされた速度での除去)を円滑化すること、そしてまた培養液の浸透圧強度を250~350mOsmの至適ウインドウ近傍に維持することを目的として、生理食塩水希釈剤及び濃縮された灌流栄養液を添加することによって成し遂げられる灌流の速度を操作した。
【0065】
図9Eはバイオリアクタにおいて成し遂げられる力価、及び中空繊維濾過デバイスを通過してバイオリアクタシステムに残る透過物中の力価を示す。おそらくはミクロ濾過中空繊維モジュールの表面上のタンパク質の累積に起因して、バイオリアクタにおける抗体の濃度は透過物中に残るものよりも高くなる。バイオリアクタ内部における関心対象のタンパク質のこのような選択的濃縮は、連続する下流プロセスが使用されるのであれば望ましくないことがある。この問題を排除又は最低限にするのに使用されることのできる細胞保持システムへの軽微な変更(精密濾過細孔径を大きくする、フィルター面積を大きくする、精密濾過材料の構成の変更、より強引なタンジェント流、フィルターの逆流し出し)があり得、又は生成保持の易発性が低いか若しくは不透性の細胞保持の方法(スピンフィルター、音波細胞沈降デバイス、傾斜面重力細胞沈降デバイス)が採用され得る。
【0066】
図10は、連続灌流プロセス(高強度・低容量灌流)のためのいくつかの重要なパラメータを列挙する。表には、プロセスの全体の容量当たり生産性(リアクタ容量/日のグラム/リットル)、及び全実験の間に利用される種々の灌流培地の総容量(リアクタ容量中)を示す。表中のデータにより証明されるように、容量当たり生産性は非常に高く、また増殖の期間(第0~6日)にHIPCOPを用い、その後は第6~17日に高度に濃縮された灌流培地が利用される際に浸透圧強度をコントロールするための生理食塩水希釈剤を用いる連続灌流プロセスのために、灌流培地の全体容量は非常に適度である。
図11は、ハイブリッド灌流流加(左から二番目のバー)及び連続灌流プロセス(左から三番目のバー)の両方(両プロセスとも細胞増殖相の期間にHIPCOPを使用)と、モデル細胞系Aのために開発されていた、至適化された流加プロセス(左側の一番目のバー)との容量当たり生産性を比較する。図でわかるとおり、増殖相の期間にHIPCOPを用いる連続灌流プロセス(高強度・低容量灌流)は、至適化された流加プロセスに比べると容量当たり生産性がほぼ4倍増加している。
【0067】
高強度・低容量灌流プロセスでは、濃縮された灌流培地が灌流培養の後期の間にバイオリアクタへ添加されている際に、希釈剤液がバイオリアクタへ添加される。例えば、適切な濃度の希釈剤液(生理食塩水の溶液)(例えば、2.0g/L 炭酸水素ナトリウム、2.4g/L ポリビニルアルコール、20mM 塩化カリウム、及び80mM 塩化ナトリウム)を、バイオリアクタに加えた。濃縮された灌流培地と組み合わせて希釈剤液(例えば、生理食塩水)を用いて、濃縮された灌流培地に対し1日あたり0.05~0.30リアクタ容量という低い灌流速度が可能となる。特に連続する下流プロセスが直接連結されて連続的に送達される上流の採取物質を捕獲するのであれば、また生成されているタンパク質が高度に不安定であるとすれば、バイオリアクタの外に生成物質を流し出すのを希釈剤の添加が円滑化することもある。加えて、下流が過剰に大きくなるのを防ぐために、下流のプロセスが小さな範囲内に入る生成物の1日あたり質量をコントロールすることも有利である。これは、希釈剤、例えば、生理食塩水の流量を操ることによって円滑化されることもできる。希釈剤の添加は有利なことに、250~350mOsmの生理学的範囲に近いバイオリアクタ環境の浸透圧強度を上回るようにコントロールするか又はそれを維持することも円滑化できる。
【0068】
実施例5
約130kDaのリコンビナントタンパク質を発現しているDG44由来のCHO細胞系及び灌流培地中で高炭酸水素ナトリウムを用いたHIPCOP技術の使用
【0069】
L-乳酸ナトリウム又D/L-乳酸ナトリウムに変えて灌流培地中に付加的な炭酸水素ナトリウムを用いる方法を、さらなる細胞系、細胞系「E」を用いて試験した。灌流培地は、90ミリモル濃度 アミノ酸、8グラム/L グルコース、10ミリモル濃度 グルタミン、3.87グラム/L 炭酸水素ナトリウム(L-乳酸ナトリウムが2.5グラム/L用いられていれば灌流培地中で想定されるよりもおよそ1.87グラム/L付加的である)を含有し、最終浸透圧強度は330mOsm/kgであった。本実験における初期基礎培地は、120ミリモル濃度 アミノ酸、6グラム/L グルコース、10ミリモル濃度 グルタミン、及び10mg/L リコンビナントインスリンからなっていた。細胞は、およそ10×106生細胞/mlで播種された。細胞成長は非常に速く灌流は播種後およそ23時間で細胞により開始された。灌流はおよそ29時間継続され、この時間全体にわたり合計0.85リアクタ容量の灌流培地が培養に使用された。最後の4時間の灌流における灌流速度は、1日あたりおよそ1.4リアクタ容量であった。
【0070】
前記の実施例の場合におけるように、細胞コントロール灌流のHIPCOP法は、本細胞系で良好に機能した。細胞は、播種後52時間以内に47×10
6生細胞/mlにまで成長した(
図12A)。
図12Bは、本発明の技術を用いてグルコースが速やかに消費され、次いで低濃度で維持されたことを示す。加えて、
図12Bはラクタートが低レベルでコントロールされ、約1.3グラム/リットルで終わったことを示す。
図12Cは、培養液の浸透圧強度もまた、灌流が行われていた時間中ずっと、ほぼ300mOsm/kgの生理的に理想の範囲に非常に近い数値に維持されていたことを示す。
【0071】
実施例6
リコンビナント免疫グロブリンGを発現しているグルタミン-シンテターゼCHO細胞系及び灌流培地中で高炭酸水素ナトリウムを用いたHIPCOP技術の使用
【0072】
L-乳酸ナトリウム又はD/L-乳酸ナトリウムに変えて灌流培地中に付加的な炭酸水素ナトリウムを用いる方法を、さらなる細胞系、細胞系「B」を用いて試験した。灌流培地は90ミリモル濃度 アミノ酸、10グラム/L グルコース、3.87グラム/L 炭酸水素ナトリウム(L-乳酸ナトリウムが2.5グラム/Lされていれば灌流培地中で想定されるよりもおよそ1.87グラム/L付加的である)を含有し、最終浸透圧強度は366mOsm/kgであった。本実験における初期基礎培地は、120ミリモル濃度 アミノ酸、4グラム/L グルコースからなっていた。細胞は、およそ1.2×106生細胞/mlで播種された。灌流は播種後およそ2.3日で細胞により開始された。灌流はおよそ3.7日継続され、この時間全体にわたり合計2.09リアクタ容量の灌流培地が培養に使用された。最後の4時間の灌流における灌流速度は、1日あたりおよそ1.23リアクタ容量であった。
【0073】
前記の実施例の場合におけるように、細胞コントロール灌流のHIPCOP法は、本細胞系で良好に機能した。細胞は、播種後5.8日以内に57×10
6生細胞/mlにまで成長した(
図13A)。
図13Bは、本発明の技術を用いてグルコースが速やかに消費され、次いで低濃度で維持されたことを示す。加えて、
図13Bはラクタートが低レベルでコントロールされ、約1.47グラム/リットルで終わったことを示す。
図13Cは、培養液の浸透圧強度もまた、灌流が行われていた時間中ずっと、ほぼ300mOsm/kgの生理的に理想の範囲に非常に近い数値に維持されていたことを示す。
【0074】
実施例7
リコンビナント免疫グロブリンGを発現しているグルタミン-シンテターゼCHO細胞系及び炭酸ナトリウム流加でのHIPCOP技術の使用
【0075】
「持続可能な」連続灌流バイオリアクタの灌流速度をコントロールするためのHIPCOPの使用の実施例である。この実施例は、HIPCOPを用い近定常状態条件にて作業する灌流リアクタで開始し、細胞に灌流培地中のL-乳酸ナトリウムでそれら自体の灌流速度をコントロールさせる。その後、当該灌流培地の組成を変化させ、L-乳酸ナトリウムを除去する。
【0076】
灌流培地中、L-乳酸ナトリウム又はD/L-乳酸ナトリウムに変えて、別のカーボナート流加を用いる方法を、細胞系「B」を用いて試験した。2つの定常状態についてのデータを示す。定常状態1に対する灌流培地は、110ミリモル濃度 アミノ酸、10グラム/L グルコース、2.6g/L 乳酸ナトリウム、2.0グラム/L 炭酸水素ナトリウムを含有し、最終浸透圧強度は405mOsm/kgであった。定常状態2に対する灌流培地は、110ミリモル濃度 アミノ酸、12.1グラム/L グルコース、2.0グラム/L 炭酸水素ナトリウムを含有し、最終浸透圧強度は403mOsm/kgであった。グルコース及びラクタートに関して総炭素源は、両定常状態の間に使用される灌流培地間でおよそ同じに保たれたことを留意されたい。灌流は細胞により維持され、細胞ブリードは1日1回調整されて40×106生細胞/mlのターゲットの生細胞密度を維持した。細胞が「決定」している連続定常状態灌流速度は、1日あたりおよそ1.0リアクタ容量である。定常状態1の間、カーボナートは添加されなかった。定常状態1の間、バイオリアクタ中のラクタートの残留レベルは灌流培地中よりも低いので、細胞は明らかに、灌流培地中に入るラクタートの有意な画分を消費する。それらはおそらく、ラクタートを乳酸として消費している。乳酸の細胞による消費は培養液のpHに対する連続上昇影響を維持し、そしてHIPCOP技術を適切に機能させる。定常状態2が開始されると、この培養液のpHに対する連続上昇影響は代わって、バイオリアクタ容量1リットルあたりおよそ8.7mLの速度での、1モル濃度カーボナート溶液の半連続添加によってもたらされる(この場合カーボナートは、0.94ナトリウム:0.06カリウムのモル比の、ナトリウムと炭酸カリウムとの混合物である)。それゆえ、1モル濃度カーボナートの添加は、利用される灌流培地の1リットルあたり8.7mLの速度で入る。
【0077】
前記の実施例の場合におけるように、細胞コントロール灌流のHIPCOP法は、両定常状態期間に本細胞系で良好に機能した。各定常状態の期間の平均灌流速度及び細胞固有の灌流速度は、それぞれ1日あたり1.0リアクタ容量及び25ピコリットル/細胞/日であった(
図14C及び14D)。
図14Bは、両定常状態の間、ラクタートが1.5~1.8g/Lの範囲に維持されたことを示す。
図14Eは、培養液の浸透圧強度が、ほぼ300mOsm/kgの生理的に理想の範囲に維持されていたことを示す。定常状態1から定常状態2で、培養の定常状態浸透圧強度のわずかな変化があったが、これはバイオリアクタに入る、灌流培地組成が設計及び調製された際に完全には相応量に該当しなかった、1モル濃度カーボナート溶液中の付加的なナトリウムに起因し得る(灌流培地中の調製に通常使用される塩化ナトリウムの小画分は除外されるべきである)。
【0078】
本実施例では、灌流培地からの乳酸の消費がpHに供給するであろう上昇圧力を与えるために、連続的に添加されるナトリウム及び炭酸カリウムの混合物が使用されたが、もしL-乳酸ナトリウム灌流培地中にあれば、おそらくは、培養液に連続的又は半連続的に添加される任意の適切な、無毒な塩基性物質が、同じ効果を与えることができるであろう。このような塩基の例として、多くの中からとりわけナトリウム又は水酸化カリウムが挙げられる。
【0079】
本発明その具体的な実施形態を参照して詳細に記載しているが、その精神及び範囲を逸することなく請求項に係る発明に種々の変更及び修飾を加えることができるのは当業者に明らかであろう。したがって、例えば、当業者は、日常的な実験を上回るものを用いることなく、本願明細書に記載される具体的な物質及び手順の多くの均等物を認識するか又は確認できるはずである。このような均等物は、本発明の範囲に入り、以下の請求項の範囲に含まれると考えられる。
【0080】
[産業上の利用分野]
本願明細書に開示されるデバイス及び方法は、灌流バイオ製造に有用であり、したがって、リコンビナント、治療的タンパク質を製造するための工業的方法を改善するのに有用である。