(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】動植物組織由来材料の乾燥方法および乾燥品の製造方法
(51)【国際特許分類】
F26B 3/34 20060101AFI20230831BHJP
A23L 3/40 20060101ALI20230831BHJP
A23L 3/54 20060101ALI20230831BHJP
A23L 5/30 20160101ALI20230831BHJP
A23B 7/015 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
F26B3/34
A23L3/40 B
A23L3/54 Z
A23L5/30
A23B7/015
(21)【出願番号】P 2019038025
(22)【出願日】2019-03-01
【審査請求日】2022-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505126610
【氏名又は名称】株式会社ニチレイフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】折笠 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】高木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山田 嵩寛
(72)【発明者】
【氏名】山影 航也
(72)【発明者】
【氏名】青木 仁史
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 潤一
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-518039(JP,A)
【文献】特表平09-510867(JP,A)
【文献】特開2010-268711(JP,A)
【文献】特表2014-518083(JP,A)
【文献】特開2008-107065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 3/34
A23L 3/40
A23L 3/54
A23L 5/30
A23B 7/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形状の動植物組織由来材料を加熱処理する加熱処理工程、
前記加熱処理された固形状の動植物組織由来材料をパルス電界処理するパルス電界処理工程、および
前記パルス電界処理された固形状の動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行う乾燥処理工程
を含む、固形状の動植物組織由来材料の乾燥方法。
【請求項2】
前記パルス電界処理工程が、パルス電界処理装置の電極間内に配置された固形状の動植物組織由来材料にパルス電界を直接的に印加する工程である、請求項
1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動植物組織由来材料の乾燥方法および乾燥品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥処理は食品の加工・保存方法として冷凍・冷蔵などと並び多用されている。
【0003】
食品の乾燥処理方法としては風乾(自然乾燥)、熱風乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥、スプレードライなどが挙げられ、長時間または多くのエネルギーを必要とする(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
乾燥食品の一つとしてエアドライ野菜や果実が知られている。フリーズドライに比べシャキシャキ感が維持できるなどのメリットがある。しかしながら、収縮が強いため、湯戻りが悪かったり、熱風乾燥することによるエネルギーコストの増大や、加熱による栄養成分含量の低下などのデメリットもあることから、より効率的で素材の品質への影響の少ない乾燥方法が求められていた。
【0005】
一方、パルス電界処理は飲食品に付着または飲食品が含有する微生物の殺菌を目的として食品に対して行うことが広く知られている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、パルス電界処理を食品などの動植物組織由来材料の乾燥促進のために利用することは現在まで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-142221号公報
【文献】特開2014-204738号公報
【文献】特開平6-105661号公報
【文献】特表2014-518083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、動植物組織由来材料の乾燥効率を向上する方法を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、動植物組織由来材料にパルス電界処理を施した後に乾燥処理を行うと、乾燥効率を大幅に向上しうることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行うことを特徴とする、動植物組織由来材料の乾燥方法。
(2)前記動植物組織由来材料が植物組織由来の材料である、(1)に記載の方法。
(3)前記動植物組織由来材料が食品または食品廃棄物である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記食品が野菜類、海藻類および果実類からなる群から選択される少なくとも1種を含んでなる、(3)に記載の方法。
(5)前記乾燥処理が熱風乾燥処理である、(1)~(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行う工程を含む、動植物組織由来材料の乾燥品の製造方法。
(7)パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行うことを特徴とする、動植物組織由来材料の乾燥処理時間を短縮する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、食品などの動植物組織由来材料の乾燥効率を向上することができる。また、本発明によれば、乾燥処理時間を短縮することができる。また、本発明によれば、動植物組織由来材料の乾燥品の製造に要するエネルギーコストを低減することができる。また、本発明によれば、動植物組織由来材料の乾燥品における収縮を軽減し湯戻りを改善することができる。また、本発明によれば、動植物組織由来材料の乾燥品における栄養成分含量の低減を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】SiC-MOSFETを使用した容量エネルギー蓄積型パルス生成回路の回路図を示す。
【
図3】平板対平板電極リアクタ内における被処理動植物組織(ホウレンソウ)の配置例を示す。
【
図5】パルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)の乾燥過程におけるホウレンソウの含水率変化を示す。
【
図6】パルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)の乾燥過程におけるホウレンソウの乾燥速度を示す。
【
図7】パルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)における乾燥過程におけるホウレンソウの葉の表面積変化を示す。
【
図8A】供試材料がバジルである場合のパルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)における乾燥処理工程中の含水率変化を示す。
【
図8B】供試材料がリンゴである場合のパルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)における乾燥処理工程中の含水率変化を示す。
【
図8C】供試材料がワカメである場合のパルス電界処理区(PEF)と無処理区(Control)における乾燥処理工程中の含水率変化を示す。
【
図9A】湯煎後電解処理区(HW+PEF)、湯煎のみ区(HW)および無処理区(Control)について、乾燥処理工程における含水率変化を示す。
【
図9B】湯煎後電解処理区(HW+PEF)、湯煎のみ区(HW)および無処理区(Control)について、乾燥処理工程における乾燥速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理することを特徴とする、動植物組織由来材料を乾燥する方法が提供される。
【0014】
(動植物組織由来材料)
動植物組織由来材料は、動物組織または植物組織から取得しうる材料のことをいい、検体(植物体全部等)、材料又は画分を包含する。動植物組織由来材料は、好ましくは固形または半固形の構造体である。動植物組織は、動植物を構成する所望の組織の全部、またはその一部を切断処理などにより取得することができる。
【0015】
動植物組織由来材料は、好ましくは動物組織または植物組織から得られた細胞含有組織試料である。理論に拘束されるものではないが、細胞含有組織試料にパルス電界を印加すると、細胞膜内外に電位差が生じ、マクスウェル応力により細胞膜が圧縮することで細胞膜の破壊が生じ、細胞内の水分を乾燥処理により効率的に除去しうると考えられる。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、動植物組織由来材料は、食品または食品廃棄物である。
【0017】
食品は、特に限定されないが、ホウレンソウ、キャベツなどの葉物野菜や大根、ニンジンなどの根菜などを含む野菜、オレンジ、アセロラなどの果実、大豆、コメ、ムギ、トウモロコシなどの穀物、ワカメ、昆布などの海藻類、シイタケ、エリンギなどの子実体を形成する菌類、牛肉、豚肉、鶏肉などの肉類、サーモン、イワシ、ホタテ、シジミなどの魚介類などが挙げられるが、好ましくは、野菜類、海藻類または果実類である。食品の好適な例としては、個々の食品素材の他、それらの混合物、食品を切断、凍結、粉砕、再成型などした加工品、加熱や蒸煮などした調理品なども挙げられる。また、食品廃棄物としては、食品の生産や摂取の過程で廃棄された動植物組織由来のものであれば特に限定されないが、廃棄された食品、動物組織または植物組織の非可食部位、茶がらなどが挙げられる。
【0018】
(パルス電界処理)
一実施態様によれば、本発明の方法においてはパルス電界処理された動植物組織由来材料を準備する。パルス電界処理は、電極間に動植物組織由来材料を配置し、電極間に電圧をパルス状に印加することにより行うことができる。
【0019】
パルス電界処理においては、動植物組織由来材料の性状や求める乾燥状態に応じて電圧、パルス幅、周波数などを適宜調整して、動植物組織由来材料に印加するエネルギー量を調節することが好ましい。
【0020】
パルス電界処理における動植物組織由来材料への印加エネルギーの範囲は、好ましくは1J/g~1kJ/gである。
【0021】
パルス電界処理において、パルス電界の範囲は、特に限定されないが、例えば、0.1~10kV/cmである。パルス電界の範囲を10kV/cm以下とすることは、放電を回避する観点から好ましい。
【0022】
パルス電界処理において、パルス周波数の範囲は、処理時間を適切な範囲に調整する観点から、好ましくは1~10kHzである。
【0023】
パルス電界処理において、パルス幅の範囲は、好ましくは100ns~10μsである。
【0024】
パルス電界処理の実施期間は、動植物組織由来材料の性質、印加するエネルギーなどに応じて適宜設定してよいが、例えば、1分間以上であり、好ましくは5~30分間であり、より好ましくは5~20分間である。
【0025】
動植物組織由来材料に対するパルス電界処理は、電極間に動植物組織由来材を配置して処理するが、電極間が水などの溶液に満たされた状態で行うこともできる。パルス電界処理を実施する上記環境としては、例えば、大気雰囲気下の閉鎖環境などが挙げられる。また、パルス電界処理は、例えば、室温で行うことができる。
【0026】
(乾燥処理)
一実施態様によれば、上記パルス電界処理を実施した後、パルス電界処理した動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行う。パルス電界処理を行った後に乾燥処理を行うことは、パルス電界処理のない場合と比較して、乾燥時間を大幅に短縮する上で有利である。
【0027】
乾燥処理方法は、特に限定されないが、天日干しなどの自然乾燥法、熱風乾燥、加熱乾燥、フライ乾燥、凍結乾燥などの人工的乾燥法が挙げられるが、好ましくは熱風乾燥である。パルス電界処理に要する電力は上記のような人工的乾燥法に要する電力と比較して非常に小さくできるため、パルス電界処理と、上記人工的乾燥法とを組み合わせることは、乾燥に要する電力を削減する上でも有利である。なお、乾燥処理の実施の際には、減圧処理やマイクロ波照射などを併用してもよい。
【0028】
乾燥処理の時間は、選択する乾燥方法や動植物組織由来材料の種類、所望の乾燥状態などに応じて適宜決定してよい。自然乾燥法の場合は、例えば、半日~数日、人工的乾燥法の場合は、例えば、1分間以上1日以下であり、好ましくは30分~6時間であり、より好ましくは30分間~3時間である。
【0029】
パルス電界処理後に乾燥処理を行うことは、乾燥処理中に加熱される程度を緩和したり加熱状態に置かれる時間を短縮して、加熱に起因する栄養成分の減少を低減する上で有利である。かかる栄養成分としては、糖、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB、アスコルビン酸など)などが挙げられる。
【0030】
また、パルス電界処理後に乾燥処理を行うことは、乾燥処理中の動植物組織由来材料の収縮を軽減する上で好ましい。また、パルス電界処理後に乾燥処理を行うことは、動植物組織由来材料の形態を維持し、湯への浸漬などによる戻りに要する時間を短縮する上でも有利である。
【0031】
一実施態様によれば、上記方法により得られた、動植物組織由来材料の乾燥品が提供される。かかる乾燥品としては、例えば、乾燥肉、乾燥野菜、乾燥果実などが挙げられる。
【0032】
一実施態様によれば、上記動植物組織由来材料の乾燥方法は、食品廃棄物の乾燥にも有利に利用することができる。いわゆる生ごみ処理機は家庭用、業務用に広く用いられているが、その機構としては、微生物による分解を利用したバイオ方式、熱風乾燥などを伴う乾燥方式、それらのハイブリッド方式が挙げられる。中でも、乾燥方式とハイブリッド方式は通常、加熱するためエネルギーを多く消費する場合がある。しかしながら、本発明の上記方法を、乾燥方式またはハイブリッド方式の生ごみ乾燥機における生ごみ乾燥に使用する場合には、生ごみ乾燥における乾燥処理時間の短縮とそれに伴う使用電力量の削減、異臭の軽減などを効果的に実施することができる。
【0033】
一実施態様によれば、上記パルス電解処理工程の前後において、動植物組織由来材料の所望の性質、運搬などを勘案して、ブランチング(酵素失活)、殺菌、保存などを目的として、加熱処理(熱湯浸漬処理、蒸煮処理など)または凍結保存処理を行ってもよい。
【0034】
一実施態様によれば、動植物組織由来材料はパルス電解処理工程前に加熱処理することが好ましい。加熱処理の条件は、動植物組織由来材料の乾燥品の必要とされる品質等によって適宜設定してよいが、温度は、例えば、40℃~105℃、好ましくは60~100℃である。また、加熱処理時間は、例えば、30秒~1時間、好ましくは30秒~3分である。
【0035】
また、別の実施態様によれば、動植物組織由来材料の乾燥品を製造する方法であって、パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行う工程を含む製造方法が提供される。また、別の実施態様によれば、動植物組織由来材料の乾燥処理時間を短縮する方法であって、パルス電界処理された動植物組織由来材料に対して乾燥処理を行うことを特徴とする乾燥処理時間を短縮する方法が提供される。上記方法はいずれも、上述した動植物組織由来材料の乾燥方法の記載に準じて実施することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(パルス電界処理方法および装置)
図1に、SiC-MOSFETを使用した容量エネルギー蓄積型パルス生成回路の回路図を示す。この回路では直流電源 (Pulse Electronic Engineering Co., Ltd.、MODEL-600F) を用いてコンデンサCにエネルギーを蓄積させる。その後、パルス信号を周期的に発信できるようにプログラムしたマイコン(Atmel社、Atmega1248P)を使用し、ゲートドライバーを通してSiC-MOSFET(TPEC)のゲートに信号を送り、スイッチングを行う。ゲートがオン状態の時に、コンデンサに蓄積されていたエネルギーがリアクタに移行し、リアクタ内の試料に対しパルス電界が印加される。使用した各素子の値は充電抵抗Rが200kΩ、コンデンサCが0.218μF、ゲート抵抗RGが1Ωとなっている。
【0038】
図2に、平板対平板電極リアクタの概略図を示す。H.Vは高電圧(High Voltage)を意味する。リアクタは2枚のステンレス平板電極から構成される平行平板電極構造となっている。プレート寸法は約60mm
2である。また、中央を囲うようにアクリル樹脂製のスペーサを設置することでギャップ距離を10mmとした。試料を入れる部分の容積は60mLである。
【0039】
図3に、リアクタ内への被処理動植物組織由来材料(ホウレンソウ)の配置例を示す。図のように、電極内に成形した被処理物を隙間がないように重ねてパルス電界を印加する。印加条件は、例えば印加電圧を3kV、パルス幅を1μs、周波数を1Hz、処理時間を15分とできる。
【0040】
図4に、典型的な電圧電流波形を示す。測定した電圧および電流はそれぞれリアクタに加わる電圧、リアクタに流入する電流である。測定機器は、電圧は差動プローブ(Testec、TT-SI9010)、電流はカレントプローブ(Bergoz、CT-D1.0-B)を使用した。また、出力波形はパルス幅が1μsの矩形波となり、波高値が3kVになるように充電電圧を調整した。
【0041】
例1:ホウレンソウのパルス電界(PEF)処理および乾燥処理
(供試材料)
供試材料は岩手県産のホウレンソウを量販店から入手した。ホウレンソウは入手後4℃の冷蔵庫に保管し、鮮度による品質劣化を考慮し1日以内に使用した。リアクタの大きさに合わせて、ホウレンソウの葉を一辺60mmに成形したものを試料とした。なお、105℃-24時間法(Topuz et al. /LWT-Food Science and Technology 42 (2009) 1667-1673.)で測定した試料の初期含水率は、10.8±0.8(乾量基準含水率(D.B.))(n=16)であった。
【0042】
(パルス電界(PEF)処理)
図3に示される通り、パルス電界処理装置の電極間に、一辺60mmに成形したホウレンソウの葉を隙間がないように8枚重ねてパルス電界を印加した。印加条件は印加電圧を3kV、パルス幅を1μs、周波数を1Hz、処理時間を15分とした。また、無処理区は一辺60mmに成形した葉を印加時間と同じだけ常温で放置したものを使用した。
【0043】
(投与エネルギーの算出)
リアクタ内での総投与エネルギーは、1パルス当たりの投与エネルギーに総パルス回数を乗じたもので算出した。総投入エネルギーの計算式を以下に示す。
式(1):P=∫V・Idt×n
式(1)の各パラメータV、I、nはそれぞれリアクタの印加電圧、リアクタに流入する電流、総パルス回数である。式(1)を使用して求めた本条件の総投入エネルギーは約50Jであった。
【0044】
(乾燥処理)
PEF処理後の試料 (以降、PEF処理区;PEF) とPEF処理をしていない試料 (以降、無処理区;Control) を金網(網目が角1cm)にそれぞれ3枚ずつ乗せて、乾燥機内を50℃に設定した熱風乾燥機 (ヤマト科学株式会社、DKM600) に静置させ乾燥処理を行った。乾燥中、初めの60分は10分間隔、その後30分間隔で取り出し、電子天秤を用いて質量を測定し、30分当たりの質量変化が0.01 g以下となったとき乾燥終了とした。また、減少した質量は蒸発水分量とみなし、乾量基準含水率(D.B.)に換算した。
乾燥速度(-dM/dt)は単位時間当たりに蒸発する水分量を表す。また、実測値から最小二乗法により近似式を求めた。近似式を以下の式で示す。
式(2):-dM/dt=aM+b
式(2)の各パラメータa、b、Mはそれぞれ乾燥速度定数、切片、乾量基準含水率である。
【0045】
(葉面積の測定)
乾燥中における葉の表面積測定は、乾燥機から取り出した際に試料を上部から撮影し、画像解析ソフト (ImageJ) を用い、表面積を計算した。なお、実施例1の試験は3回反復実験を行った。
【0046】
(結果)
図5に、PEF処理区と無処理区の乾燥過程におけるホウレンソウの含水率変化を示す。
図5より、すべての処理区において含水率が時間とともに減少していることがわかる。また、乾燥開始から含水率が平衡に達した時間は、PEF処理区では2時間後、無処理区では3.5時間後となった。したがって、本条件のPEF処理を熱風乾燥加工前に行うことで乾燥時間を1.5時間程度短縮できることが明らかとなった。このことから、PEF処理によっておよそ4~5割程度、乾燥処理に要する時間とコストを軽減できることがわかる。
【0047】
図6に、PEF処理区と無処理区の乾燥過程におけるホウレンソウの乾燥速度を示す。
図6より、乾燥速度は含水率の減少に伴い直線的に減少していることがわかる。また、式(2)によって得られた乾燥速度定数aは、PEF処理区において5.29×10
-2、無処理区において2.90×10
-2である。このことから、本条件においては、PEF処理区の乾燥速度定数aは無処理区と比較して、1.8倍程度増大することがわかる。
【0048】
図7に、PEF処理区と無処理区における乾燥過程における葉の表面積変化を示す。
図7より、乾燥開始から3.5時間後の葉の表面積は、PEF処理区では12.59±0.67mm
2、無処理区では7.32±1.94mm
2となり、PEF処理区は乾燥後の葉の表面積が大きいことがわかった。
【0049】
例2:バジル、リンゴおよびワカメのパルス電界処理および乾燥処理
(供試材料および試験条件)
岩手県内の量販店で購入したバジル、リンゴおよびワカメに対し例1と同様にパルス電界処理および乾燥処理を行った。供試材料とパルス電界処理の条件を表1に示す。
【0050】
【0051】
(結果)
図8A~
図8Cに、PEF処理区(PEF)と無処理区(Control)の乾燥処理工程における各供試材料の含水率変化を示す。いずれの材料においてもPEF処理区では無処理区と比較して短時間で含水率が減少していることがわかる。このことから、様々な動植物組織において、PEF処理を予め行うことにより乾燥処理に要する時間とコストを軽減できることがわかる。
【0052】
例3:ブランチングとパルス電界処理の併用
(供試材料および試験条件)
量販店で購入した岩手県産ホウレンソウ(8g)を熱湯浸漬(100℃、60秒)し、水気を拭き取った後に、処理時間を3分とした他は例1と同条件でパルス電界処理を行った(HW+PEF区)。同様に熱湯浸漬し、水気を拭き取った後に3分間室温で放置したHW区、および、他の区と同じ時間室温で放置した無処理区を比較対象とした。乾燥処理は例1と同様に行った。
【0053】
(結果)
図9Aに、各処理区の乾燥処理工程における含水率変化を示し、
図9Bに各処理区の乾燥処理工程における乾燥速度を示す。HW+PEF区(湯煎後電解処理)はHW区(湯煎のみ)および無処理区(処理なし)と比較して含水率がより短時間で減少した。また、乾燥速度は全ての試験区で含水率減少に伴い低下したが、HW+PEF区は他の試験区と比較して常に高い数値を示していることがわかる。これらのことから、ブランチング(熱湯浸漬)と併用した場合もPEF処理の効果が確認された。
【0054】
例4:栄養成分の分析
例1で得られたPEF処理区の乾燥品に関して、アスコルビン酸、Brix糖度及びカリウムについて、無処理の場合と比較した残存率を以下の手順に従い測定した(各群N=3)。
【0055】
アスコルビン酸残存比
例1で得られたPEF処理区の乾燥品、及び無処理試料をそれぞれ約0.5g用意し、メタリン酸(2%)で希釈倍率が約20倍になるように調整した。得られた溶液をホモジナイズ(8,000rmp,10 min)した。ホモジナイズ後,濾紙を使用して濾過を行い,ろ過後の液体におけるアスコルビン酸量をRQフレックス(関東化学株式会社)を用いて測定した。さらに、各PEF処理区の乾燥品のアスコルビン酸量を無処理試料のそれと除してアスコルビン酸残存比(%)として算出した。
【0056】
Brix糖度及びカリウムの残存比
例1で得られたPEF処理区の乾燥品、及び無処理試料をそれぞれ約0.15g用意し、蒸留水で希釈倍率が約120倍になるように調整した。得られた溶液をホモジナイズ(8,000rmp,10 min)した。ホモジナイズ後,濾紙を使用して濾過を行い,ろ過後の液体におけるアスコルビン酸量をRQフレックス(関東化学株式会社)を用いて測定した。さらに、各PEF処理区の乾燥品のカリウム量、Brix値をそれぞれ、無処理試料のそれと除してカリウム残存比(%)、Brix糖度残存比(%)として算出した。
【0057】
その結果、例1で得られたPEF処理区の乾燥品において、アスコルビン酸残存比は、112.2±16.1(標準偏差)%であり、カリウム残存比(%)は96.0±3.3(標準偏差)%であり、Brix糖度残存比は、96.8±9.7(標準偏差)%であった。栄養成分(アスコルビン酸、カリウム、糖)の量は、乾燥前(無処理試料)と比較してほぼ同などであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、食品など動植物組織由来材料の乾燥効率を向上することができる。また、本発明によれば、動植物組織由来材料の乾燥処理時間を短縮することができる。また、本発明によれば、動植物組織由来材料の乾燥品の製造に要するエネルギーコストを低減することができる。本発明は、各種乾燥食品の製造や効率的な生ごみ処理に有用である。