(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】餅生地用品質改良剤
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230831BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20230831BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20230831BHJP
【FI】
A23L7/10 102
A23G3/34 104
A23L29/10
(21)【出願番号】P 2019110064
(22)【出願日】2019-06-13
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 晋哉
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163946(JP,A)
【文献】特開2001-069915(JP,A)
【文献】特開2001-149016(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106071724(CN,A)
【文献】特開昭60-083551(JP,A)
【文献】特開昭61-078348(JP,A)
【文献】特開平03-117459(JP,A)
【文献】特開平03-292848(JP,A)
【文献】特開2010-142138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビタンオレイン酸エステルを有効成分と
し、切り餅又は米菓の製造において餅生地の付着性低減及び伸展性保持に用いられる、餅生地用品質改良剤。
【請求項2】
切り餅又は米菓の製造においてソルビタンオレイン酸エステルを餅生地に添加す
る、餅生地の付着性低減及び伸展性保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、餅生地用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
切り餅やあられ、おかき等の米菓は、いずれも餅生地を加工して製造される。例えば、切り餅は、餅生地を成型し、冷蔵して硬化させてから切断し、これを包装して製品とする。また、米菓は、餅生地を成型し、冷蔵して硬化させてから切断し、乾燥後に焼成して製品とする。これら製品の製造では、硬化前の餅生地が手や機械・器具に付着して作業性が悪くなるという問題があった。
【0003】
一方、これら製品の製造においては、餅生地を型に入れて冷蔵し、硬化させてから切断するが、餅生地に適度な伸展性が十分にないと型に収まらず、作業性が悪いだけでなく目的とする形状に整形できない。
【0004】
従って、上記のような製品の製造では、餅生地の付着性低減と伸展性保持の両方を満たすことが求められる。
【0005】
このようなニーズに対し、例えば、餅生地またはその原料を、トランスグルタミナーゼ、ブランチングエンザイム、α-グルコシダーゼ、及び還元剤で処理することを含む、餅生地の製造方法(特許文献1)、粉末油脂を添加することを特徴とする、餅または米菓の製造法(特許文献2)、米菓生地に、ジェランガムを添加してなることを特徴とする米菓生地用素材(特許文献3)、米菓生地主材に、キサンタンガム又はこれとローカストビンガム、グアルガム、タラガム、カラヤガム及び紅藻類抽出物の1種以上とを併せ添加してなることを特徴とする食品米菓生地素材(特許文献4)等が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記の技術は、餅生地の付着性低減と伸展性保持の両方を満たすという点では必ずしも満足できるものではなく、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-171762号公報
【文献】特開平2-156866号公報
【文献】特開昭63-169935号公報
【文献】特開昭52-128262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、餅生地の付着性を低減すると共にその伸展性を保持し得る餅生地用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、ある種の乳化剤を餅生地に添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の(1)及び(2)からなっている。
(1)ソルビタンオレイン酸エステルを有効成分とする、餅生地用品質改良剤。
(2)ソルビタンオレイン酸エステルを餅生地に添加する工程を含む、餅製品の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の餅生地用品質改良剤を添加した餅生地は、付着性が低減されると共にその伸展性が保持される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ソルビタンモノオレイン酸エステルを添加した餅生地1は、うすへの餅生地の付着がほとんどなかったことを示す写真である。
【
図2】
図2は、ソルビタンモノステアリン酸エステルを添加した餅生地3は、うすへの餅生地の付着がややあったことを示す写真である。
【
図3】
図3は、乳化剤を添加しなかった餅生地14は、うすへの餅生地の付着が激しかったことを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いられるソルビタンオレイン酸エステルは、ソルビタンを主成分とするソルビトールの分子内縮合物とオレイン酸とのエステル化生成物である。該エステルは、モノエステル体(ソルビタンモノオレイン酸エステル)、ジエステル体(ソルビタンジオレイン酸エステル)、トリエステル体(ソルビタントリオレイン酸エステル)のいずれであっても良く、又はこれらの混合物であっても良い。
【0014】
ソルビタンオレイン酸エステルとしては、例えば、ソルビタンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)、ソルビタントリオレイン酸エステル(商品名:エマゾールO-30V;花王社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0015】
本発明の餅生地用品質改良剤は、上記ソルビタンオレイン酸エステルを有効成分とするものである。本発明の餅生地用品質改良剤は、上記ソルビタンオレイン酸エステルをそのまま餅生地に添加して用いても良く、又は該ソルビタンオレイン酸エステルを含有する製剤を調製し、これを餅生地用品質改良剤として餅生地に添加して用いても良い。
【0016】
本発明の餅生地用品質改良剤の添加対象である餅生地とは、もち米(糯米)又はうるち米(粳米)そのもの、あるいはそれらを製粉した米粉(例えば、もち米を製粉した餅粉)や単離したデンプン、あるいはそれらの混合物(以下、「餅生地原料」という。)に必要に応じて水を加えて蒸煮及び混練等を施して固形化又はゲル化したものをいう。
【0017】
本発明の餅生地用品質改良剤は、餅生地を加工して製造される食品(以下、「餅製品」という。)の製造において、餅生地に添加して用いられる。この際、餅生地用品質改良剤をそのまま添加しても良いが、餅生地用品質改良剤の水分散液を調製し、これを添加することが、餅生地用品質改良剤を餅生地中に均一に分散させる観点から好ましい。該水分散液の調製方法に特に制限はないが、例えば、水100質量部及び餅生地用品質改良剤15~40質量部を50~80℃に加温し、これを撹拌することができる。
【0018】
本発明の餅生地用品質改良剤の添加のタイミングに特に制限はないが、例えば、餅生地の調製において、蒸煮の前に餅生地原料に餅生地用品質改良剤を加えても良く、混練中又は混練後であって餅生地を硬化する前に餅生地用品質改良剤をこれに加えて更に混練しても良い。
【0019】
本発明の餅生地用品質改良剤の添加量は、製造される餅製品の種類、原材料の種類及び配合、製造方法並びに目的とする餅生地の付着性低減と伸展性保持の効果の程度等により異なるため一様ではないが、例えば、餅生地原料100質量部に対して、0.1~3.0質量部、好ましくは0.5~2.0質量部である。
【0020】
上記餅製品としては、餅生地を加工して製造される食品であれば特に制限はないが、例えば、切り餅や米菓等が挙げられる。米菓としては、あられやおかき等のもち米を原料とする餅生地を用いるものや、煎餅やライスクラッカー等のうるち米を原料とする餅生地を用いるもの等が挙げられる。これら米菓は、焼成したものに限られず、揚げたものであっても良く、例えば、煎餅は、焼き煎餅に限られず、揚げ煎餅も含まれる。
【0021】
上記餅製品は、餅生地用品質改良剤を餅生地に添加すること以外は、通常の餅製品と同様の原料を用い、慣用の装置を用いて、常法により製造することができる。
【0022】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[餅生地の調製]
(1)原材料
1)餅粉(商品名:伊福のもち粉;伊福社製)
2)水
3)乳化剤
3-1)ソルビタンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムO-80V;理研ビタミン社製)
3-2)ソルビタントリオレイン酸エステル(商品名:エマゾールO-30V;花王社製)
3-3)ソルビタンモノステアリン酸エステル(商品名:ポエムS-60V;理研ビタミン社製)
3-4)デカグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムJ-0381V;理研ビタミン社製)
3-5)デカグリセリンモノステアリン酸エステル(商品名:ポエムJ-0081V;理研ビタミン社製)
3-6)ヘキサグリセリンペンタオレイン酸エステル(商品名:SYグリスターPO-5S;阪本薬品工業社製)
3-7)ジグリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;理研ビタミン社製)
3-8)グリセリンモノオレイン酸エステル(商品名:ポエムOL-100H;理研ビタミン社製)
3-9)グリセリンモノステアリン酸エステル(商品名:エマルジーMMスーパーV;理研ビタミン社製)
3-10)グリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB-10;理研ビタミン社製)
3-11)ショ糖ステアリン酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルS-1170;三菱化学フーズ社製)
3-12)ショ糖オレイン酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルO-170;三菱化学フーズ社製)
3-13)酵素処理レシチン(商品名:レシマールEL;理研ビタミン社製)
【0024】
(2)調製方法
餅粉200gと水250gを混合して得た混合物を餅つき機(型式:PFC-M116;東芝社製)に入れ、同機の「むす」キーを押し、25分間蒸した。一方、上記の乳化剤3-1)から3-13)のいずれか2gと水8gとを70℃に加温してスパチュラで撹拌し、乳化剤の水分散液を調製した。次に、同機の「標準/粉ねり」キーを押して混練を開始し、ここに該水分散液を30秒間かけて滴下した。混練開始から13分後に混練を終了して餅生地1~13を得た。また、対照として、乳化剤を添加せずに同様に操作し、餅生地14を得た。
【0025】
[餅生地の評価]
(1)付着性の低減効果の評価試験
餅生地1~14の調製直後、餅つき機内の「うす」(混練のための撹拌翼が底部に設置されたすり鉢状の器)の内面の餅生地の付着状態を観察し、下記基準に従って記号化した。結果を表1に示す。
〇:餅生地の付着がほとんどない
△:餅生地の付着がややある
×:餅生地の付着が激しい
【0026】
(2)伸展性の保持効果の評価試験
餅生地1~14について、長さ50mm、半径20mmの円柱形の治具(セラミックス製)を装着したテクスチャーアナライザー(型式:TA.XT Plus;Stable Micro Systems社)を用いて伸展性を評価した。即ち、先ず、餅生地調製後3分以内に餅生地1gをテクスチャーアナライザーのプレートに乗せ、プレート表面から治具の下端までの高さを30mmに調整した。次に、1mm/sの速度で治具を下降して餅生地に接触させ、餅生地への荷重が20gになるまで同速度で治具を下降した。その後、10mm/sの速度で治具を上昇させ、高さ30mmに戻し、プレートと治具の両方に引っ張られて伸びた餅生地の状態を観察し、下記基準に従って記号化した。結果を表1に示す。
〇:高さ30mmまで切れずに伸び、伸びた状態が3秒以上保持される
△:高さ30mmまで切れずに伸びるが、伸びた状態を3秒以上保持できずに切れる
×:高さ30mmまで伸びずに切れる
【0027】
【0028】
表1の結果から明らかなように、ソルビタンモノオレイン酸エステルを添加して得た餅生地1及びソルビタントリオレイン酸脂肪酸エステルを添加して得た餅生地2は、いずれの評価項目においても「○」の結果を得た。これに対し、他の乳化剤を添加して得た餅生地3~13及び乳化剤を添加せずに得た餅生地14は、いずれかの評価項目において「△」以下の結果であった。以上より、ソルビタンオレイン酸エステルは、餅生地の付着性を低減すると共にその伸展性を保持し得る餅生地用品質改良剤として使用可能であることが確認された。