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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】顕微鏡試料を作製する装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230831BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20230831BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20230831BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230831BHJP
   H01J 37/317 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
G01N1/28 W
G01N1/28 F
G01N1/28 G
H01J37/20 A
H01J37/20 C
H01J37/20 D
H01J37/28 C
H01J37/305 A
H01J37/317 D
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019112119
(22)【出願日】2019-06-17
(65)【公開番号】P2020016640
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】10 2018 212 511.2
(32)【優先日】2018-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512158505
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコーピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Microscopy GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100205833
【弁理士】
【氏名又は名称】宮谷 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ニコレッティ
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼフ ビバーガー
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0074320(US,A1)
【文献】特開2008-305794(JP,A)
【文献】特開2012-146659(JP,A)
【文献】特開2007-129214(JP,A)
【文献】特開2008-026312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
H01J 37/20
H01J 37/28
H01J 37/305
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡試料を受け入れかつ作製するレセプタクル装置(5、21、34、64、914)であって、試料ステージ(6)に取付可能なレセプタクル装置(5、21、34、64、914)であり、
-前記試料ステージ(6、37、91、912)が、顕微鏡システムの試料チャンバ内に配置され、回転要素または回転要素および並進要素の開放運動連鎖により移動可能であり、前記開放運動連鎖の最後の回転要素が、軸Rを中心に回転可能であるように配置されており、
-前記レセプタクル装置(5、21、34、64、914)が軸Rを有し、それを中心に、前記レセプタクル装置(5、21、34、64、914)が回転可能であるように配置され、前記軸Rが、前記軸Rに対して角度αに配置され、前記角度αが10°~80°の範囲の値をとり、
-前記レセプタクル装置(5、21、34、64、914)が、少なくとも第1位置および第2位置を採用することができ、
-前記レセプタクル装置(5、21、34、64、914)が、軸Rを中心とする回転により1つの位置から別の位置に移動可能である、レセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項2】
前記角度αが、40°~60°または20°~30°の範囲の値をとる、請求項1に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項3】
前記角度αが、実質的に45°の値をとる、請求項1に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項4】
ユーセントリック式に具体化されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項5】
作動可能なスイッチング素子(35)を備え、前記スイッチング素子(35)の作動により、前記第1位置から前記第2位置に、かつ/または前記第2位置から前記第1位置に移動可能である、請求項1~4のいずれか一項に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項6】
前記スイッチング素子(35)が、作動素子(36)との相互作用により作動する、請求項5に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項7】
前記スイッチング素子(35)と前記作動素子(36)との前記相互作用が、前記スイッチング素子(35)および前記作動素子(36)が互いに対して移動することにより具現化される、請求項6に記載のレセプタクル装置(5、21、34、64、914)。
【請求項8】
顕微鏡試料を作製するための試料ホルダシステム(33)であって、顕微鏡試料が抽出されるように意図されている試料ブロックを受け入れるレセプタクル装置(32)を備え、請求項1~7のいずれか一項に記載の、抽出された試料を受け入れるレセプタクル装置(34)もまた備える、試料ホルダシステム(33)。
【請求項9】
ロック(39)を介して前記顕微鏡システムの試料チャンバ(31)内に移送可能であるように具体化されている、請求項8に記載の試料ホルダシステム(33)。
【請求項10】
電子ビームを発生させる電子ビームカラムと集束イオンビームを発生させるイオンビームカラムとを備えるマルチビーム装置を利用して、顕微鏡試料を作製し、前記電子ビームカラムおよび前記イオンビームカラムが各々光軸を有する、方法であって、
-顕微鏡試料を受け入れる第1レセプタクル装置を提供するステップであって、前記第1レセプタクル装置が、前記マルチビーム装置の試料ステージ上に取付可能であり、前記試料ステージが、前記マルチビーム装置の試料チャンバ内に配置され、回転要素または回転要素および並進要素の開放運動連鎖により移動可能であり、前記開放運動連鎖の最後の回転要素が、軸Rを中心に回転可能であるように配置され、
前記第1レセプタクル装置が軸Rを有し、それを中心に、前記第1レセプタクル装置が回転可能であるように配置され、前記軸Rが、前記軸Rに対して角度αに配置され、前記角度αが10°~80°の範囲の値をとり、
前記第1レセプタクル装置が、互いに異なる少なくとも第1位置および第2位置を採用することができ、
前記第1レセプタクル装置が、軸Rを中心とする回転により1つの位置から別の位置に移動可能である、ステップと、
-前記第1レセプタクル装置内に顕微鏡試料を受け入れるステップと、
-前記試料が、前記電子ビームカラム及び前記イオンビームカラムの前記光軸のそれぞれに対して第1空間的向きで保持されるように、前記第1レセプタクル装置を前記第1位置で保持するステップと、
-前記電子ビームを利用して前記顕微鏡試料の処理対象の表面を撮像するステップと、
-前記顕微鏡試料が、前記電子ビームカラム及び前記イオンビームカラムの前記光軸のそれぞれに対して第2空間的向きを採用するように、前記第1レセプタクル装置が前記第2位置を採用するまで、前記軸Rを中心に前記第1レセプタクル装置を回転させるステップであって、前記第2空間的向きが前記第1空間的向きとは異なる、ステップと、
-前記集束イオンビームを用いて前記顕微鏡試料を処理するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記第1レセプタクル装置内に顕微鏡試料を受け入れるステップの前に実行される複数のステップをさらに含み、該複数のステップは、
-第2レセプタクル装置内に、前記顕微鏡試料が抽出されるように意図されている試料ブロックを受け入れるステップであって、前記第1レセプタクル装置と前記第2レセプタクル装置とは同じ試料ホルダシステムに設けられている、該ステップと、
-前記試料ブロックから顕微鏡試料を自由に作製するステップと、
-前記試料ブロックから前記顕微鏡試料を抽出するステップと、
-前記抽出された顕微鏡試料を前記第2レセプタクル装置から前記第1レセプタクル装置に移送するステップと、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
電子ビームを発生させる電子ビームカラムと集束イオンビームを発生させるイオンビームカラムとを備えるマルチビーム装置を利用する、顕微鏡試料の作製およびSTEM検査方法であって、前記電子ビームカラムおよび前記イオンビームカラムが各々光軸を有し、前記マルチビーム装置がSTEM検出器をさらに備える、方法であって、
請求項10または11に記載の方法に含まれる各ステップを含み、
-前記作製された試料を前記第1レセプタクル装置内で保持し、前記試料を通して前記電子ビームを放射するステップと、
-前記STEM検出器を用いて、前記試料によって透過された電子を検出するステップと、
をさらに含む方法。
【請求項13】
電子ビームを発生させる電子ビームカラムと集束イオンビームを発生させるイオンビームカラムとを備えるマルチビーム装置を利用して、裏面薄化により顕微鏡試料を作製する方法であって、前記電子ビームカラムおよび前記イオンビームカラムが各々光軸を有し、
顕微鏡試料を受け入れるレセプタクル装置もまた有し、前記レセプタクル装置が、前記マルチビーム装置の試料ステージ上に取付可能であり、前記試料ステージが、前記マルチビーム装置の試料チャンバ内に配置され、回転要素または回転要素および並進要素の開放運動連鎖により移動可能であり、前記開放運動連鎖の最後の回転要素が、軸Rを中心に回転可能であるように配置され、
前記レセプタクル装置が軸Rを有し、それを中心に、前記レセプタクル装置が回転可能であるように配置され、前記軸Rが、前記軸Rに対して角度αに配置され、前記角度αが10°~80°の範囲の値をとり、
前記レセプタクル装置が、互いに異なる少なくとも第1位置および第2位置を採用することができ、
前記レセプタクル装置が、軸Rを中心とする回転により1つの位置から別の位置に移動可能である、方法であって、
-前記イオンビームを用いる処理によりすでに薄化されている顕微鏡試料を提供するステップであって、前記試料がこの第1処理段階中に前記イオンビームに面していた側を有する、ステップと、
-前記試料が前記マルチビーム装置の前記光軸に対して第1空間的向きを採用するような、回転軸を中心とする前記試料の第1回転ステップと、
-前記試料を前記レセプタクル装置に移送するステップと、
-前記第1処理段階中に前記イオンビームに面していた前記試料の側が、このとき、前記イオンビームから離れる方向に面するように、前記試料が前記光軸に対して第2空間的向きを採用するような、前記レセプタクル装置が軸Rを中心として回転することによる、前記試料の前記光軸に対する前記試料の第2回転ステップと、
-前記イオンビームを用いて前記試料を処理するステップと、
を含む方法。
【請求項14】
前記顕微鏡試料が、マイクロマニピュレータのマイクロマニピュレータ針の先端部に提供され、前記マイクロマニピュレータが、1回転自由度を有するように、回転軸Rを有し、前記第1回転が、前記試料が装填された前記マイクロマニピュレータ針が回転軸Rを中心として回転することにより具現化される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記顕微鏡試料が、それが前記レセプタクル装置内に受け入れられることにより提供され、前記第1回転が、前記レセプタクル装置が前記軸Rを中心として回転することにより具現化される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
顕微鏡システムに対し請求項10~15のいずれか一項に記載の顕微鏡試料を作製する方法を実行させる制御コマンドのシーケンスを含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡で検査されるように意図されている、たとえばTEM薄片等、顕微鏡試料を作製する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顕微鏡試料を生成するために、通常、顕微鏡システムが同様に使用される。たとえば、電子顕微鏡、イオンビーム顕微鏡、2ビームまたはマルチビーム装置等、荷電粒子のビームで動作する顕微鏡システムの場合、作製対象の顕微鏡試料は、通常、可動試料ステージの上に保持される。
【0003】
2ビーム装置は、電子ビームカラムおよびイオンビームカラム(集束イオンビーム、FIB)の両方を備える組合せ装置である。2ビーム装置は、電子ビームカラムを利用して試料を観察し、イオンビームカラムを利用してこれらを処理するように使用されることが多い。例として、2ビーム装置において、断面を生成することができ、またはTEM薄片を作製することができる。
【0004】
顕微鏡試料の作製および/または観察のために、試料は、プロセスステップに応じて、粒子ビームカラムの光軸に対して異なる位置、すなわち、空間的場所および空間的向きで保持されなければならない。多くの場合、試料を回転させることおよび/または傾斜させることも必要である。
【0005】
試料の必要な移動は、たとえば、5軸ステージを使用して具現化することができる。5軸ステージを使用して、空間的方向XおよびYに、かつ空間的方向Zにもまた、的を絞って試料を移動させることができ、その結果、試料と粒子ビーム装置の対物レンズとの間の距離もまた変化する可能性がある。さらに、5軸ステージは2つの回転軸を有し、第1回転軸は、通常、Z軸に対して平行に延在し、さらなる回転軸(傾斜軸)は、第1回転軸に対して直交して向けられる。5軸ステージは、一般に、試料のユーセントリック傾斜が可能であるように構成されている。
【0006】
5軸ステージは、通常、開放運動連鎖(open kinematic chain)で連続して配置された並進運動要素および回転運動要素を備える。
【0007】
しかしながら、試料ステージ上で保持される試料の運動の可能性は、一般に限られている。幾何学的条件により、特に、第2回転軸(傾斜軸)の運動に対する可能性は、いくつかの作製および検査方法には不十分である。
【0008】
したがって、使用される顕微鏡システムの実施形態に応じて、さらなる運動の自由度が必要とされる場合がある。
【0009】
これらの自由度を利用可能とするために、試料ステージにさらなるステージ(いわゆるサブステージ)を取り付けることができる。さらなる運動の自由度を提供するマイクロマニピュレータを使用することも考えられる。
【0010】
関連する先行技術の簡単な説明
先行技術は、試料が軸を中心に回転することができるような、さらなるステージおよび回転ユニットを備える試料ステージを開示し、さらなる回転軸は、ステージのZ軸に対して垂直に向けられる。
【0011】
さらに、試料のさらなる回転運動を可能にするために試料ステージに取り付けることができる、さまざまな取付装置について記載されている。
【0012】
さらに、マイクロマニピュレータが回転軸を有し、この回転軸を中心とする回転により、マイクロマニピュレータに固定された試料を移動させることができる、方法が既知である。
【0013】
以下の文献は、先行技術であるものとみなされるべきである。
(特許文献1)(SchertelおよびZeile)
(特許文献2)(Tappelら)
(特許文献3)(Takahashiら)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】独国特許第102007026847号明細書
【文献】米国特許第7474419B2号明細書
【文献】米国特許第8642958B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、受け入れられる試料に対してさらなる運動の自由度を提供する、試料のためのレセプタクル装置と、試料ホルダシステムとを提案することである。
【0016】
さらに、目的は、本発明によるレセプタクル装置がさらなる運動の自由度を利用可能とするため、試料作製を容易にする方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの目的は、請求項1の特徴を有するレセプタクル装置と、請求項8による試料ホルダシステムとを用いて達成される。有利な構成は、従属請求項によって指定される。
【0018】
本発明は、さらに、本発明によるレセプタクル装置が使用される、請求項10~15による方法と、顕微鏡システムに本発明による方法のうちの1つを実行させる、請求項16によるコンピュータプログラム製品とに関する。
【0019】
本発明は、作製対象の試料が、回転軸Rを中心に回転可能であるように配置されるレセプタクル装置に保持される場合に特に有利である、という洞察に基づく。この場合、レセプタクル装置は、可動試料ステージ上に配置され、回転軸Rは、試料ステージの回転軸Rに対して約45°の角度で向けられる。言及した2つの回転軸の間の角度が、0°~90°、特に10°~80°の異なる値を採用することも考えられる。いずれの場合も、たとえば、マイクロマニピュレータを使用しなければならない等のさらなる補助なしに、空間内で試料を90°回転させることができるように、さらなる運動の自由度が利用可能となる。
【0020】
本発明の例示的な実施形態について、図を参照して後述する。したがって、構成要素について説明するために、それぞれ先行し後続するする説明もまた全体として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明によるレセプタクル装置の1つの有利な構成を概略的に示す。この場合、図1aは、第1位置にあるレセプタクル装置を示し、図1bは、第2位置にあるレセプタクル装置を示す。
図2】本発明によるレセプタクル装置によって保持される試料の第1空間的向きおよび第2空間的向きの例を概略的に示す。
図3】本発明による試料ホルダシステムを平面図で示す。
図4】本発明によるレセプタクル装置を利用して顕微鏡試料を作製する方法のフローチャートを示す。
図5】いわゆる裏面薄化の方法のフローチャートを示す。
図6図5に示す方法に従って作製される場合に試料によって採用される種々の空間的向きを概略断面図で示す。
図7】後続するSTEM検査を含む、本発明によるインサイチュ作製方法のフローチャートを示す。
図8】本発明によるレセプタクル装置を備える顕微鏡システムの一実施形態を概略的に示す。
図9】本発明によるレセプタクル装置を備える顕微鏡システムのさらなる実施形態の概略図を示す。
図10】水平TEM薄片(平面視薄片)を作製する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1aおよび図1bは、本発明によるレセプタクル装置5の1つの有利な構成を断面図で概略的に示す。顕微鏡試料3が、レセプタクル装置5によって保持されている。レセプタクル装置5は、顕微鏡システムの試料チャンバ(図示せず)に位置している。顕微鏡システムは、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)、イオンビーム顕微鏡またはマルチビーム装置等、荷電粒子のビームで動作する粒子ビーム装置であり得る。試料3は、たとえば、事前に試料ブロックから抽出され、レセプタクル装置5内に移送された、TEM薄片の前駆体であり得る。
【0023】
電子ビームカラム1および好適な検出器12を使用して、試料3の画像を生成することができる。電子ビームカラム1は、光軸2を有する。さらに、イオンビームカラム8で生成されるイオンビームを利用して、試料3を処理することができる。イオンビームカラム8は、電子ビームカラムの光軸2に対して、たとえば54°であり得る角度βで向けられる、光軸9を有する。
【0024】
レセプタクル装置5は、試料ホルダ7によって構成され、試料ホルダ7は、さらに可動試料ステージ6に取り付けられている。別法として、レセプタクル装置が試料ステージに直接取り付けられることも考えられる。可動試料ステージ6は、少なくとも1つの回転軸Rを有し、それを中心として、試料ステージ6は回転可能に配置されている。
【0025】
試料ステージ6が、複数の運動の並進自由度および回転自由度を有する場合、特に有利である。これは、たとえば、試料ステージ6が、並進軸X、YおよびZと回転軸RとT(傾斜軸)とを備える5軸ステージとして具体化される場合に当てはまる。この場合、言及した並進軸は、各々、互いに垂直に向けられる。回転軸も同様に、概して、互いに垂直に向けられる。
【0026】
したがって、検査対象の試料の空間的場所を変更するために、5軸ステージにより、3つの空間的方向X、YおよびZにおいて試料を移動させることができる。空間的場所は、3次元空間における試料の位置決めを意味するように理解される。試料の厳密な空間的場所は、X座標、Y座標およびZ座標の指示によって記述することができる。
【0027】
さらに、空間的向き、すなわち、顕微鏡システムの1つの光軸/複数の光軸に対する試料の向きは、試料が回転軸により回転しかつ/または傾斜することによって、変更することができる。この場合、試料ステージが、ユーセントリック試料ステージとして具体化される場合に特に有利である。それは、試料ステージによって保持されかつユーセントリック点に配置される試料を、プロセスにおいてそれが横方向に移動することなく、傾斜させることができることを意味する。試料ステージが、6軸ステージとして、すなわち、さらなる軸、いわゆるM軸を有する5軸ステージ(いわゆるスーパーユーセントリックステージ)として具体化されることも考えられる。
【0028】
概して、試料ステージの移動は、開放運動連鎖で連続的に配置されている並進(Z、M、X、Y)運動要素および回転運動要素(T、R)によって具現化され、その結果、運動要素を互いに対して移動させかつ/または方向付けることができる。軸は、たとえば、Z-T-M-X-Y-RまたはZ-T-X-Y-M-Rの順序で配置することができ、検査対象の試料は、各々、連鎖の最後の要素に接続される。これはまた、運動軸の積層(軸積層)とも呼ぶ。
【0029】
開放運動連鎖における配置は、運動要素が、各々、それによって具現化される運動のみではなく、連鎖における前記運動要素の上流に配置されている他の運動要素の運動も受動的に実行することを意味する。したがって、すなわち、連鎖における第1運動要素、たとえばZの運動は、下流に配置された他のすべての軸を(この例では、Z方向に)同時に移動させる。
【0030】
一方、開放運動連鎖において最後に配置された運動要素は、それ以上制御可能な運動の自由度を有していない。したがって、すなわち、最後の運動要素は、それに割り当てられた運動のみを能動的に実行することができる。
【0031】
図1に示す実施形態の場合、軸Rを中心とする試料ステージ6の回転を担当する回転運動要素は、開放運動連鎖において最後の回転運動要素として配置されている。
【0032】
試料3を移動させるさらなる可能性を開くために、レセプタクル装置5は回転軸Rを有し、それを中心に、レセプタクル装置5は回転可能であるように配置されている。これは、試料の空間的向きを変更するために特に有利である。軸Rは、軸Rに対して角度αで配置されている。角度αは、0°~90°の値をとることができる。角度αが、約10°~80°、特に40°~60°または20°~30°の値をとる場合、有利である。角度αが実質的に45°である場合、特に有利である可能性がある。
【0033】
任意選択的に、試料ホルダ7は、試料ブロック11を受け入れることができる、さらなるレセプタクル装置10をさらに備える。顕微鏡試料は、試料ブロック(バルク試料)11から自由に作製し抽出することができる。自由に作製された試料3を、移送してレセプタクル装置5内に受け入れることができ、その後、試料3は、レセプタクル装置5において、薄化および研磨等のさらなる作製ステップを受けることができる。抽出された試料の試料ブロック11からレセプタクル装置5への移送は、インサイチュで、すなわち、試料が試料チャンバから取り除かれる必要も、試料チャンバ内の真空が破られる必要もなしに、実行することができる。
【0034】
図1aは、第1位置にあるレセプタクル装置5を示す。第1位置は、図示するように、たとえば、顕微鏡システムの電子顕微鏡機能を利用して試料3を撮像することができるように、選択することができる。軸Rを中心とするレセプタクル装置の回転により、レセプタクル装置は、図1bに示す第2位置に移動する。第2位置は、たとえば、変更された空間的向きにある試料3を、SEMを用いて観察することができ、または、イオンビームカラム8において発生した集束イオンビームを使用して処理することができるように、選択することができる。
【0035】
試料は、図2に示すように、たとえばTEM薄片20であり得る。TEM薄片20は、通常、平坦な平行六面体の形状を有し、それは、少なくとも1つの領域において、それを通して電子を放射することができるように、薄い。次いで、TEM薄片20を貫通した電子(すなわち、透過電子)を検出して、画像生成に使用することができる。
【0036】
平行六面体試料20は、縁a、bおよびcを有する。最初に、レセプタクル装置21は第1位置に位置し(図2a)、TEM薄片20の検査対象の側面は、第1空間的向きに、たとえば、電子ビームカラムの光軸に対して垂直に保持される。
【0037】
軸Rを中心とする回転運動の結果として、TEM薄片20が、第1空間的向きとは異なる第2空間的向きを採用するように、レセプタクル装置21は、第2位置に移動する(図2b)。第1空間的向きと比較して、TEM薄片20は、縁bに対して平行に延在する軸bを中心に90°回転し、縁aに対して平行に延在する軸aを中心に180°回転する。TEM薄片20の検査対象の側面は、このとき、電子ビームカラムの光軸に対して平行に向けられる。
【0038】
図3は、本発明によるレセプタクル装置34と本発明による試料ホルダシステム33とを平面図で示す。試料ホルダシステム33は、顕微鏡試料を受け入れかつ作製するための第1レセプタクル装置34と、顕微鏡試料が抽出される試料ブロックを受け入れる少なくとも1つの第2レセプタクル装置32とを備える。
【0039】
試料ホルダシステム33は、可動試料ステージ37上に取り付けられ、顕微鏡システムの試料チャンバ31内に配置されている。試料チャンバ31は、チャンバ壁38によって境界が定められ、試料チャンバ31内で真空状態を維持することができるように具体化されている。
【0040】
レセプタクル装置34は、作動可能なスイッチング素子35を備える。スイッチング素子35の作動により、(図3の平面図に示す)軸Rを中心とするレセプタクル装置34の回転運動を開始することができる。その結果、レセプタクル装置34は、第1位置から第2位置に、または第2位置から第1位置に移動する。
【0041】
第1位置が、たとえば、集束イオンビームが試料に事実上垂直に突き当たるように試料が向けられる位置である場合、さらに有利である。第2位置は、薄化または研磨を実施することができるように、イオンビームがグレージング入射角で試料に突き当たるように試料が適所に保持されるように、選択することができる。
【0042】
さらに、レセプタクル装置がユーセントリック式に具体化される場合、特に有利である。この目的で、レセプタクル装置の形状は、レセプタクル装置34の上縁が、ユーセントリック傾斜可能性を備えた試料ステージの試料面に実質的に位置するように選択される。次いで、レセプタクル装置は、同様に、ユーセントリック傾斜を可能にし、すなわち、受け入れられる試料をユーセントリックに傾斜させることができる。
【0043】
さらに、レセプタクル装置は、可能な限り平坦であるように、すなわちZ方向にあり得るもっとも小さい広がりで、具体化されるべきである。その結果、レセプタクル装置は、大きい傾斜角を通して傾斜させることができる。これには、粒子ビームカラム間の角度βが54°(図1を参照)である2ビーム装置の具体的な実施形態において、光軸に対して54°を超えて、たとえば最大64°、レセプタクル装置を傾斜させることができる、という利点がある。これは、イオンビームを使用する処理に対して特に好都合である。
【0044】
1つの有利な構成では、顕微鏡システムは作動素子36を備え、それにより、レセプタクル装置34の回転運動を開始するために、スイッチング素子35を作動させることができる。作動素子36は、たとえば、試料ステージ37の上流軸の運動要素に配置することができる。しかしながら、作動素子36は、チャンバ壁38に配置されることも考えられる。
【0045】
作動は、スイッチング素子35および作動素子36が互いに対して移動することによって具現化することができる。例として、スイッチング素子35および作動素子36が互いに触れるかまたは他の何らかの方法で接触するように、試料ステージ37をレセプタクル装置34とともに移動させることができる。これには、レセプタクル装置自体にいかなる駆動装置も設ける必要がないという利点がある。
【0046】
しかしながら、1つまたは複数のアクチュエータにより、レセプタクル装置を回転させることができることも考えられる。この目的で、たとえば電気または圧電駆動装置が使用されることが考えられる。
【0047】
試料ホルダシステム33が、顕微鏡システムのロック39を介して並進可能であるように具体化される場合、特に有利である。試料ホルダシステム33は、ロック39のロックチャンバ30を介して顕微鏡システムの外側から顕微鏡システムの試料チャンバ31内に導入することができる。これは、顕微鏡システムが、真空条件下で試料を検査し処理しなければならない粒子ビーム装置として具体化される場合、特に有利である。本発明による試料ホルダシステム33のロック可能性の結果として、試料を交換するとき、試料チャンバ31内の真空を破る必要がなく、その結果、試料の交換が著しく加速される。
【0048】
図4は、顕微鏡試料を作製する、本発明による一連の方法を示す。第1ステップS41は、(上述したような)試料を受け入れる、本発明による装置を提供することを含む。レセプタクル装置は軸Rを有し、それを中心に、レセプタクル装置は回転可能に配置される。レセプタクル装置は、少なくとも1つの回転軸Rを有する可動試料ステージに受け入れることができ、回転軸Rを中心に、試料ステージは回転可能であるように配置される。回転軸Rは、運動要素の開放運動連鎖において最後の回転運動要素として配置される。
【0049】
軸RおよびRは、互いに対して角度αを形成する。角度αは、0°~90°の値をとることができる。角度αが、10°~80°、特に40°~60°または20°~30°の値をとる場合、有利である。角度αが実質的に45°である場合、特に有利である。
【0050】
続くステップは、レセプタクル装置に処理対象の試料を受け入れることを含む(ステップS42)。試料は、たとえば、垂直TEM薄片(断面、断面薄片)または水平TEM薄片(平面視、平面薄片)であり得る。レセプタクル装置は、顕微鏡試料が作製されるように意図される顕微鏡システムの試料チャンバ内に位置する。これは、たとえば、各々が光軸を有する電子ビームカラムおよびイオンビームカラムを備える、SEM-FIB組合せ装置であり得る。
【0051】
最初に、レセプタクル装置は第1位置で保持される(ステップS43)。この場合、試料は、顕微鏡システムの光軸に対して第1空間的向きを採用する。組合せ装置の粒子ビームカラムのうちの1つにおいて発生する粒子ビームが実質的に垂直に試料に突き当たるように、試料が空間内で向けられている場合、特に有利である。
【0052】
ステップS44は、イオンビームを用いて試料を処理することを含む。しかしながら、ステップS44において、たとえば、粒子ビームが試料に向けられ試料材料と相互作用することにより、試料の画像が生成されることも考えられる。次いで、たとえば、後方散乱電子または二次電子等、生じる相互作用生成物を、検出器を利用して検出し、画像生成のために使用することができる。
【0053】
次のステップS45において、レセプタクル装置は軸Rを中心に回転する。その結果、試料は、顕微鏡システムの光軸に対して第2空間的向きを採用するように移動し、前記第2空間的向きは第1空間的向きとは異なる。レセプタクル装置は、試料が第2空間的向きで保持されるように、第2位置にあり続ける(ステップS46)。
【0054】
任意選択的に、ステップS47において、試料ステージが移動することにより、試料の向きを変更することができる。これに関して、例として、TEM薄片の側面を処理することができるために、2ビーム装置のイオンビームがグレージング入射角で試料に突き当たるように、空間内で試料を向けることができる。
【0055】
ステップS48において、試料の画像が生成され、または、たとえば、集束イオンビームを用いる薄化により、試料が処理される。
【0056】
作製方法の1つの特定の構成では、ステップS42において提供される処理対象の試料は、試料ブロック(バルク試料)からインサイチュで作製され抽出される。この目的で、第1レセプタクル装置のほかに、図3に示すように、試料ブロック(元の試料)を受け入れる第2レセプタクル装置を備える、試料ホルダシステムが提供される。
【0057】
この目的で、ステップS401において、試料が抽出されるように意図される試料ブロックが、第2レセプタクル装置内に受け入れられる。
【0058】
次いで、たとえば、集束イオンビームを用いて、関心領域(ROI)を含む試料領域が露出される(ステップS402)。この目的で、白金または炭素の保護層で試料領域を覆うことができる。露出した試料領域は、マイクロマニピュレータ先端部に固定される。これは、イオンビームを利用する溶接によって行うことができる。次いで、ステップS403において、その後、試料として処理され検査されるように意図される露出した試料領域は、試料ブロックから分離され除去される(いわゆるリフトアウト)。
【0059】
ステップS404において、抽出された試料は、最終的に、マイクロマニピュレータを利用して第1レセプタクル装置に移送され、その結果、続けて、ステップS42~S48で方法を実行することができる。
【0060】
本方法のこの実施形態の場合の1つの利点は、リフトアウトと試料のさらなる作製および検査とがともに、インサイチュで、すなわち、顕微鏡システムの試料チャンバ内で実行することができる、ということである。
【0061】
本発明による方法のさらなる特定の実施形態は、粒子ビームのグレージング入射角で処理するために重要である、いわゆる裏面薄化に関する。この実施形態については、図5および図6に概略的に示す。裏面薄化では、処理に使用される荷電粒子のビームの入射方向は、本方法の過程において反転される。その結果、望ましくないカーテニング効果を低減させることができる。
【0062】
図5は、2つの変形可能性(代替案A/A1および代替案B/B1)を有する、概略的な一連の方法を示す。代替案A1およびB1は、各々、マイクロマニピュレータが回転可能なシャフトを有するか、または回転可能な先端部を有することによって実施される。図6は、図5においてワークフローとして示す方法の進行中に試料によって採用される種々の空間的向きを、非常に概略的にかつ正確な尺度でなく示す。
【0063】
最初に、試料60は、集束イオンビームを利用して試料ブロックから作製され、第1処理段階において薄化される。通常、この目的で、最初に、試料において関心領域(ROI)が維持されるように、的を絞って、試料表面に保護層が施される。薄化の目的で、試料は、イオンビームを用いて処理される。この場合、イオンビームは、入射イオンビームに面している試料の第1側62(前側)に突き当たる。試料は、さらに、イオンビームから離れる方向に面する第2側66(後側)を有する。試料の第2側66(後側)の領域において、望ましくないカーテニング効果が発生する可能性がある。
【0064】
薄化の後、試料は、試料ブロックから抽出される(リフトアウト)。この目的でマイクロマニピュレータが通常使用され、露出した試料は、前記マイクロマニピュレータの針先端部に移送される。したがって、ステップS50は、マイクロマニピュレータ先端部61によって保持される、自由に作製された、事前薄化された試料を提供することを含む。図6aは、マイクロマニピュレータ先端部61上の自由に作製された試料60を示す。
【0065】
次いで(ステップS52)、試料は、顕微鏡システム、たとえばSEM-FIB組合せ装置の試料チャンバ内に位置する、本発明によるレセプタクル装置に移送される。レセプタクル装置は、可動試料ステージによって構成され、可動試料ステージは、回転運動要素または並進運動要素および回転運動要素によって移動することができる。試料ステージの運動要素は、開放運動連鎖を形成するように、次々に連続して配置されている。試料ステージの回転軸Rは、それ以上制御可能な運動の自由度を有していないように、開放運動連鎖における最後の回転運動要素である。
【0066】
レセプタクル装置は、試料ステージの回転軸Rに対して角度αで配置された軸Rを有する。この場合、軸RおよびRが互いに対して実質的に45°の角度αを形成する(α=45°)場合、特に有利である。しかしながら、角度αが、0°~90°の他の何らかの値を採用することも考えられる。
【0067】
図6bに示すように、レセプタクル装置63は、顕微鏡システムの光軸67に対して第1位置を採用し、その結果、試料60は、顕微鏡システムの光軸に対して第1空間的向きを採用する。粒子ビームが垂直にまたはグレージング入射角で試料に突き当たることができるように、試料は空間内で有利に向けられる。
【0068】
次いで(ステップS53)、レセプタクル装置は、レセプタクル装置が軸Rを中心に回転することにより、第2位置に移動する。次いで、試料60は、光軸67に対して第2空間的向きを採用し、前記第2空間的向きは第1空間的向きとは異なる(図6c)。
【0069】
後続するステップ(ステップS54)において、図6dに示すように、試料60は、マイクロマニピュレータ針61の先端部61に移送され、固定される。試料は、たとえば、材料がイオンビームを用いて堆積することにより、先端部に固定され得る。
【0070】
方法の代替実施形態(代替案A1)では、(図5において代替案Aとして識別する)ステップS52、S53およびS54は省略される。代わりに、マイクロマニピュレータ先端部61の上に試料が残され、マイクロマニピュレータは回転軸Rを有し、それを中心に試料を回転させることができる。回転軸Rが、マイクロマニピュレータのシャフトの長手方向軸に沿って延在するか、または、マイクロマニピュレータが回転可能な先端部を有し、回転軸Rが先端部の長手方向軸に対応することが考えられる。代替実施形態A1では、ステップS59は、軸Rを中心にマイクロマニピュレータを回転させることを含み、この回転運動の結果として、ステップS53と同様に、試料の空間的向きが変更される。試料の空間的向きの変更を図6hに示す。
【0071】
代替案AまたはA1が実施されたか否かに関わらず、ステップS55は、第1位置に位置する、本発明によるレセプタクル装置を提供することを含む。
【0072】
ステップS56は、レセプタクル装置64に試料を移送することを含む(図6e)。
【0073】
最後に、レセプタクル装置は、第2位置に移動し(ステップS57)、その結果、試料は、図6fに示すように、顕微鏡システムの光軸67に対して異なる空間的向きを採用する。
【0074】
最後に、ステップS58において、試料は、たとえば集束イオンビームであり得る粒子ビームを用いて処理される。これを図6gに示す。第1処理段階中(ステップS50の前)イオンビームから離れる方向に面する試料の側66(後側)は、このとき、入射イオンビーム65の側に位置し、イオンビーム65を用いて処理することができる。したがって、各々入射粒子ビームの方向から見ると、試料の後側66は、前側になる。それは、処理方向が、第1処理段階に対してこの第2処理段階において反転されたことを意味し、試料はこのとき上下逆に処理される。これには、第1処理段階からのカーテニング効果が低減するという利点がある。
【0075】
方法のさらなる代替実施形態(代替案B1)では、(図5においてBとして識別する)ステップS55、S56およびS57は省略される。代わりに、ステップS54の後、試料はマイクロマニピュレータ先端部に残される。マイクロマニピュレータシャフトまたはマイクロマニピュレータ先端部は、軸Rを中心に回転し(図6h)、この回転運動の結果として、ステップS57と同様に、試料の空間的向きが変更される。
【0076】
マイクロマニピュレータ先端部に試料を取り付けることは重大なステップを構成するため、1つの具体的な方法構成では、(図6a、図6h、図6e、図6f、図6gに対応する)図5からの代替案A1およびBが互いに結合される場合、特に有利である。この方法シーケンスでは、試料は、一度だけ、すなわち、本発明による方法のステップS50に先立つ、試料ブロックからのリフトアウト中に、マイクロマニピュレータ針に移送される。リフトアウトの後、事前薄化された試料は、最初に回転軸Rを中心に回転し(変形A1)、その後、本発明によるレセプタクル装置を利用して、回転軸Rを中心に回転し、その結果、裏面薄化を実行することができる。
【0077】
図10は、平面視薄片を作製する本発明による方法を示し、この方法は、図5に示す方法(代替案A)と同様である。
【0078】
ステップS1000は、マイクロマニピュレータ先端部によって保持される自由に作製されたくさび形試料を提供することを含む。水平薄片を生成するために、最初に、集束イオンビームを使用して、試料ブロックからくさび形試料片が露出される。概して、この目的で、この試料における関心領域(ROI)が保護されるように、試料表面に保護層が施される。くさび形試料は、試料ブロックから抽出され、マイクロマニピュレータの針先端部に移送される。くさび形試料は、たとえば、イオンビーム堆積により、針先端部に固定することができる。
【0079】
次いで(ステップS1001)、試料は、顕微鏡システムの試料チャンバ内に配置されている、本発明によるレセプタクル装置に移送される。レセプタクル装置は、図5に対して記載したように、可動試料ステージに位置する。レセプタクル装置は、試料ステージの回転軸Rに対して角度αに配置された軸Rを有し、角度αは、図5に対して記載した値をとることができる。
【0080】
レセプタクル装置は、顕微鏡システムの光軸に対して第1位置を採用し、その結果、試料は、顕微鏡システムの光軸に対して第1空間的向きに保持される。粒子ビームが試料に垂直に突き当たることができ、試料を処理するかまたは観察することができるように、試料は、空間内に有利に向けられる。
【0081】
次いで(ステップS1002)、レセプタクル装置は、レセプタクル装置が軸Rを中心に回転することにより、第2位置に移動する。次いで、試料は、光軸に対して第2空間的向きを採用する。例として、第2空間的向きでは、粒子ビームは、グレージング入射角で試料に突き当たることができる。それは、たとえば、試料が、第1空間的向きと比較して90°回転したことを意味することができる。
【0082】
ステップ1003は、たとえば集束イオンビームであり得る粒子ビームを用いて試料を処理することを含み、そこから、最終的な薄片形状を加工することができる。
【0083】
図7は、後続するSTEM検査を含む、本発明によるインサイチュ作製方法のフローチャートを示す。STEM(走査型透過電子顕微鏡)検査中、電子は、少なくとも所々で電子を透過する試料を通して放射され、透過電子はその後検出される。
【0084】
最初に、検査対象のTEM薄片71が、試料ステージに接続されているレセプタクル装置72(図7a)に受け入れられる。顕微鏡システムは、有利には、電子ビームカラム75およびイオンビームカラム76を備える。レセプタクル装置72および試料ステージ(図示せず)は、図1に対する記載において言及した特徴を有する。
【0085】
レセプタクル装置は第1位置に位置し、そこでは、TEM薄片71は、イオンビーム73を用いて、処理する、たとえば薄化し研磨する(図7b)ことができるように、保持される。
【0086】
次いで、レセプタクル装置72は、軸Rを中心に回転し(図7c)、その結果、レセプタクル装置72は第2位置を採用し、TEM薄片71は第2空間的向きに動かされる。
【0087】
次いで、STEM検査を実行するために、TEM薄片を通して電子ビーム77を放射するために、TEM薄片の下方にSTEM検出器74を位置決めすることができる。
【0088】
図8は、本発明によるレセプタクル装置を受け入れることができる顕微鏡システムの一例として、FIBシステム80を示す。FIBシステムを利用して、集束イオンビーム(FIB)が生成され、試料89の上に向けられる。作製対象の試料89は、可動試料ステージ91の上でレセプタクル装置90を利用して保持され、粒子ビーム装置の試料チャンバ84に位置する。FIBシステムは、光軸83を有するイオンビームカラム82を備える。イオンビームカラム82は、少なくとも1つの偏向システム85と集束レンズ86とを備える。
【0089】
動作中、イオン源81においてイオンが発生し、前記イオンは、加速され、イオンビームカラム82の光軸83に沿って集束され、その結果、イオンは的を絞って試料89に突き当たる。粒子ビーム装置は、試料の画像を生成することができるように、イオンビームと試料材料との相互作用の相互作用生成物を検出する少なくとも1つの検出器87を備える。さらに、試料89は、集束イオンビームを利用して、処理する、たとえば、薄化するかまたは研磨することができる。
【0090】
顕微鏡システムは、有利には、可動試料ステージ91を備え、その上に、レセプタクル装置90を直接または間接的に受け入れることができる。試料ステージ91は、有利には、ユーセントリック5軸ステージとして具体化される。それは、試料をX方向、Y方向およびZ方向に、すなわち、3つの相互に垂直な空間的方向に移動させることができ、傾斜軸および回転軸を中心に回転させることができることを意味する。
【0091】
動作中、試料チャンバ84内では、真空状態が通常優勢である。したがって、顕微鏡システムはロック装置92を有し、それを介して、試料チャンバの真空がプロセスにおいて破られる必要なしに、試料89が装填されたレセプタクル装置90を、導入しかつ排出することができる場合、特に有利である。
【0092】
さらに、顕微鏡システムは制御装置88を有し、制御装置88に、顕微鏡システムが記載した方法のうちの1つを実行するという効果を有するコンピュータプログラムをロードすることができる。
【0093】
顕微鏡システムが、走査型電子顕微鏡として具体化されることも考えられる。上述したFIBシステムとは対照的に、走査型電子顕微鏡は、イオンビームカラムの代わりに電子ビームを発生させる電子ビームカラムを有する。
【0094】
動作中、電子源(陰極)において一次電子が生成され、前記一次電子は、電子ビームカラムの光軸に沿って加速され、集光レンズ系によって集束され、少なくとも1つの開口絞りによって調整される。さらに、電子ビームカラムは偏向システムを備え、それにより、一次電子ビームは、ラスタ型であるように試料の表面上を誘導される。走査型電子顕微鏡は、粒子ビームと試料との相互作用の相互作用生成物を検出する少なくとも1つの検出器を備える。
【0095】
図9に示すような顕微鏡システムが、2ビーム装置900として、すなわち、イオンビームカラム920および電子ビームカラム901両方を有するFIB-SEM組合せ装置として具体化されることも考えられる。電子ビームカラム901は、電子源902、第1集光レンズ系903、第2集光レンズ系905、開口絞り906および偏向システム907を備える。電子ビームカラムの光軸904は、電子ビームカラム901の主軸に対して平行に延在する。さらに、2ビーム装置900は、光軸918を有するイオンビームカラム920を備える。イオンビームカラム920は、イオン源919、集束レンズ916および偏向システム917を備え、偏向システム917を利用して、試料911の上に集束イオンビームを向けることができる。
【0096】
電子ビームカラム901およびイオンビームカラム920は、概して、互いに対して固定角度βを採用し、それは、通常、20°~60°、たとえば54°である。しかしながら、角度βが90°であるように、2つのカラムが互いに対して直交して配置される、2ビーム装置も既知である。
【0097】
2ビーム装置を用いて発生させることができる両粒子ビームは、通常、両粒子ビームの一致点に位置する、試料911の加工場所に向けられる。検査対象の試料911は、レセプタクル装置914に受け入れられる。レセプタクル装置914は、直接または試料ホルダシステム113により可動試料ステージ912上に受け入れられ、前記試料ステージは、排気可能な試料チャンバ908内に位置している。さらに、2ビーム装置900は、相互作用生成物を検出する少なくとも1つの検出器909を有する。さらに、2ビーム装置900は、制御装置910を有する。2ビーム装置900は、試料が装填されたレセプタクル装置または試料ホルダシステムを導入しかつ排出するロック装置915をさらに備える場合、特に有利である。
【0098】
記載した顕微鏡システムのすべてが共通して有するものは、制御装置88、910を有するということである。制御装置88、910は、コンピュータプログラムに包含される制御コマンドのシーケンスを実行することができる。コマンドシーケンスが実行される結果として、それぞれの顕微鏡システム80、900は、試料作製のための本発明による方法のうちの1つを実行することになる。
【0099】
本発明による作製方法は、図示する例示的な顕微鏡システムに限定されない。光学顕微鏡、レーザ顕微鏡またはX線顕微鏡を使用して検査されるように意図される試料を観察しかつ/または処理するときに、本発明による方法を使用することが同様に考えられる。
【符号の説明】
【0100】
1 電子ビームカラム
2 電子ビームカラムの光軸
3 顕微鏡試料
5 レセプタクル装置
6 試料ステージ
7 試料ホルダ
8 イオンビームカラム
9 イオンビームカラムの光軸
10 第2レセプタクル装置
11 試料ブロック
12 検出器
試料ステージの回転軸R
レセプタクル装置の回転軸R
α 回転軸Rと回転軸Rとの間の角度
β 粒子ビームカラムの光軸の間の角度
20 試料(TEM薄片)
21 レセプタクル装置
a 縁a
b 縁b
c 縁c
縁aに対して平行に延在する第1回転軸
縁bに対して平行に延在する第2回転軸
30 ロックチャンバ
31 試料チャンバ
32 第2レセプタクル装置
33 試料ホルダシステム
34 第1レセプタクル装置
35 スイッチング素子
36 作動素子
37 試料ステージ
38 チャンバ壁
39 ロック
S41 レセプタクル装置を提供する
S42 TEM薄片を受け入れる
S43 レセプタクル装置を第1位置で保持する
S44 TEM薄片を撮像する/処理する
S45 軸Rを中心にレセプタクル装置を回転させる
S46 レセプタクル装置を第2位置で保持する
S47 TEM薄片を方向付ける(任意選択)
S48 TEM薄片を処理する/撮像する
S401 試料ブロックを第2レセプタクル装置内に受け入れる
S402 イオンビームを用いて試料を露出させる
S403 試料を抽出する(リフトアウト)
S404 抽出された試料を第1レセプタクル装置に移送する
S50 自由に作製された、事前薄化された試料をマイクロマニピュレータに提供する
S52 試料をレセプタクル装置に移送する
S53 レセプタクル装置を第2位置に移動させる
S54 マイクロマニピュレータに試料を移送する
S55 レセプタクル装置を第1位置で提供する
S56 試料をレセプタクル装置に移送する
S57 レセプタクル装置を第2位置に移動させる
S58 粒子ビームを用いて試料を処理する
S59 代替案A1:マイクロマニピュレータの軸を中心とする回転
S60 代替案B1:マイクロマニピュレータの軸を中心とする回転
60 試料
61 マイクロマニピュレータ先端部
62 試料の第1側(前側)
64 レセプタクル装置
65 イオンビーム
66 試料の第2側(後側)
67 顕微鏡システムの光軸
マイクロマニピュレータにおける回転軸
71 試料(TEM薄片)
72 レセプタクル装置
73 イオンビーム
74 STEM検出器
75 電子ビームカラム
76 イオンビームカラム
77 電子ビーム
80 FIBシステム
81 イオン源
82 イオンビームカラム
83 イオンビームカラムの光軸
84 試料チャンバ
85 偏向システム
86 集束レンズ
87 検出器
88 制御装置
89 試料
90 レセプタクル装置
91 試料ステージ
92 ロック装置
900 2ビーム装置
901 電子ビームカラム
902 電子源
903 第1集光レンズ系
904 電子ビームカラムの光軸
905 第2集光レンズ系
906 開口絞り
907 偏向システム
908 試料チャンバ
909 検出器
910 制御装置
911 試料
912 試料ステージ
913 試料ホルダ
914 レセプタクル装置
915 ロック装置
916 集束レンズ
917 偏向システム
918 イオンビームカラムの光軸
919 イオン源
920 イオンビームカラム
S1000 試料を提供する
S1001 試料をレセプタクル装置に移送する
S1002 レセプタクル装置を第2位置に移動させる
S1003 試料を処理する
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10