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  • 特許-光活性化アデニル酸シクラーゼ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】光活性化アデニル酸シクラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/88 20060101AFI20230831BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C12N9/88 ZNA
C12N15/60
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019129374
(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公開番号】P2021013322
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】平野 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】松永 茂
(72)【発明者】
【氏名】建部 益美
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007949(JP,A)
【文献】国際公開第2019/071048(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/140456(WO,A1)
【文献】OHKI, M. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci.,2016年,Vol. 113,pp. 6659-6664, Sup pp.1-23
【文献】Accession No.YP_007087096,Database GenBank [online],2014年,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/YP_007087096.1?report=genpept,[retrieved on 6-Apr-2023]
【文献】CRASNIER, M. et al.,Mol Gen Genet,1994年,Vol. 243,pp. 409-416
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光活性化アデニル酸シクラーゼ活性を有するタンパク質であって、
(i)3~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列、又は
(ii)前記(i)3~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、ただし、配列番号1のアミノ酸配列の348番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基よりもC末端側のアミノ酸残基の数は、前記(i)3~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列における348番目のアミノ酸残基よりもC末端側のアミノ酸残基の数と同じである、アミノ酸配列
からなる、タンパク質。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失されたアミノ酸残基の数が5~7である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタンパク質をコードする、核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターが導入された、形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光活性化アデニル酸シクラーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光遺伝学を用いて、生体機能を光によりコントロールする手法が、医学及び生理学の分野で盛んに利用されている。この手法では、光照射により生体内で生理機能を発揮する光プローブ(例えば、酵素又はイオンチャネル)を生体内の標的部位(例えば、特定の組織中又は細胞中)に配置し、光プローブに光を照射して生体機能を人為的にコントロールする。
【0003】
光プローブとして、光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)が知られている。光活性化アデニル酸シクラーゼは、光により活性化されて環状アデノシン一リン酸(cAMP)を産生するタンパク質であり、BLUF(sensor of Blue Light Using FAD)ドメイン及びシクラーゼ触媒ドメインを有する。BLUFドメインは、FAD又はFMNが結合するドメインであり、FADを利用した青色光の感知に関与する。シクラーゼ触媒ドメインは、ATPをcAMPに変換するドメインである。PAC遺伝子は様々な生物において見つかっている(例えば、非特許文献1)。藍色細菌のユレモ属に由来する光活性化アデニル酸シクラーゼ(OaPAC)は、ヒト細胞において容易に発現させることができるホモ2量体であり、かつその結晶構造が開示されており、加えて哺乳類細胞系との発現の相性が良いことから、メディカル応用に適するcAMP調節用光プローブである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Isekiら、Nature,VOL.415,pp.1047-1051、2002年2月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
野生型のOaPACタンパク質の光活性効率は低く、OaPACタンパク質の光活性化には強い光の照射が必要である。そのため、野生型のOaPACタンパク質を発現させた生体は、光照射により光障害を生じる可能性がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、野生型のOaPACタンパク質と比べて高い光活性化効率を有する、新規の光活性化アデニル酸シクラーゼを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
検討の結果、本発明者らは、野生型のOaPACタンパク質のC末端からアミノ酸を特定数欠失させることにより、OaPACタンパク質の光活性化効率が向上することを見いだし、本発明を完成させるに至った。OaPACタンパク質のC末端は、PAC活性の発揮のために重要であると考えられてきたBLUFドメイン及びシクラーゼ触媒ドメインとは全く異なる部位であることから、OaPACタンパク質のC末端及びその近辺が光活性化効率に影響を与えるとの本願発明者らの知見は、驚くべきものである。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[5]に関する。
[1]光活性化アデニル酸シクラーゼ活性を有するタンパク質であって、1~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列、又はこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、タンパク質。
[2]配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失されたアミノ酸残基の数が5~7である、上記[1]に記載のタンパク質。
[3]上記[1]又は[2]に記載のタンパク質をコードする、核酸。
[4]上記[3]に記載の核酸を含む、ベクター。
[5]上記[4]に記載のベクターが導入された、形質転換体。
【0009】
また、本発明は、以下の[6]及び[7]にも関する。
[6]上記[5]に記載の形質転換体を培養することを含む、上記[1]又は[2]に記載のタンパク質の製造方法。
[7]1~18のアミノ酸残基を光活性化アデニル酸シクラーゼのC末端から欠失させることを含み、上記光活性化アデニル酸シクラーゼはユレモ属に由来する、アデニル酸シクラーゼの光活性化効率を向上させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、野生型のOaPACタンパク質と比べて高い光活性化効率を有する、新規の光活性化アデニル酸シクラーゼが提供される。
【0011】
また、本発明によれば、広いバリエーションの光活性化効率を有する光活性化アデニル酸シクラーゼが提供される。光活性化に用いられる照射光の望ましい光強度は光活性化アデニル酸シクラーゼの利用の仕方により異なるため、光活性化効率にはバリエーションが求められる。例えば、光活性化アデニル酸シクラーゼを導入した培養細胞を、通常の実験室においてシャーレ上で扱う場合、光活性化アデニル酸シクラーゼの光活性化効率が高すぎると、所定の光源で光照射を行う前に室内の天井灯でアデニル酸シクラーゼが光活性化されてしまう可能性がある。一方、光が届きにくい、生体深部の細胞に光活性化アデニル酸シクラーゼを導入した場合、光活性化アデニル酸シクラーゼの光活性化効率が低いと、光活性化に十分な強度の光が細胞まで届かず、光活性化アデニル酸シクラーゼを活性化することができない可能性がある。本発明によれば、様々な状況に対応できる広いバリエーションの光活性化効率を有する光活性化アデニル酸シクラーゼが提供されるため、上記のような様々な状況に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】OaPAC(Oa-366)タンパク質と、硫黄細菌ベギアトア(Beggiatoa sp)由来の光活性化アデニル酸シクラーゼ(bPAC)と、ミドリムシ(ユーグレナ・グラシリス(Euglena gracilis))の光活性化アデニル酸シクラーゼのα鎖の一部(PACαC)と、のアミノ酸配列のアライメントである。赤枠で囲まれた白字のアミノ酸残基は、種々の生物の光活性化アデニル酸シクラーゼにおいて保存されたアミノ酸残基である。
図2】野生型及び変異型OaPACタンパク質の光活性化効率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係るタンパク質は、光活性化アデニル酸シクラーゼ活性(以下、PAC活性という。)を有し、1~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列、又はこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる。本明細書における光活性化アデニル酸シクラーゼ活性とは、光照射により発揮される(すなわち、活性化される)アデニル酸シクラーゼ活性を指す。配列番号1のアミノ酸配列は、藍色細菌オスキラトリア・アクミナータ(Oscillatoria acuminata)の野生型のOaPACタンパク質(Oa-366タンパク質)のアミノ酸配列である。本明細書において、C末端とは、タンパク質の両末端のうちフリーなカルボキシ基で終端している側の、最末端を指す。例えば、366アミノ酸残基からなる配列番号1のアミノ酸配列のC末端のアミノ酸残基は、366番目のアミノ酸残基であるロイシン残基である。
【0014】
より具体的には、本実施形態に係るタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列のC末端から、1~18、2~18、3~18、5~18、6~18、8~18、9~18若しくは5~7のアミノ酸残基を欠失させて得られるアミノ酸配列、又はこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなってよい。配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失されたアミノ酸残基の数は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又はそれ以上であってよく、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2又はそれ以下であってよい。C末端から欠失されたアミノ酸残基の数が8~18である場合、タンパク質の光活性化効率は特に高い。一方、C末端から欠失されたアミノ酸残基の数が5~7である場合、タンパク質の光活性化効率は、欠失されたアミノ酸残基の数が8~18又は1~4である場合と比べて中程度である。中程度の光活性化効率を有する光活性化アデニル酸シクラーゼは、従来、他の生物でも知られていないため、5~7のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列、又はこれと90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質の有用性は極めて高い。
【0015】
本実施形態に係るタンパク質は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、又は配列番号7のアミノ酸配列からなってもよい。これらのアミノ酸配列は、配列番号1のアミノ酸配列からそれぞれ364番目~366番目、361番目~366番目、358番目~366番目、355番目~366番目、352番目~366番目、及び349番目~366番目のアミノ酸を欠失させて得られるアミノ酸配列である。本実施形態に係るタンパク質は、配列番号2~配列番号7のいずれかのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなってもよい。配列番号1~配列番号7のアミノ酸配列の詳細を表1に示す。以下、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、及び配列番号7のアミノ酸配列からなるタンパク質を、それぞれOa-366タンパク質、Oa-363タンパク質、Oa-360タンパク質、Oa-357タンパク質、Oa-354タンパク質、Oa-351タンパク質、及びOa-348タンパク質ともいう。
【0016】
【表1】
【0017】
上記配列同一性は、具体的には、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又はそれ以上であってもよい。本実施形態に係る上記1~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列は、野生型のOaPACタンパク質と比べて高い光活性化効率(すなわち、PAC活性の効率)を損なわない範囲で、より具体的には、Oscillatoria acuminataに由来する野生型の光活性化アデニル酸シクラーゼと比べて高い光活性化効率を損なわない範囲で、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、及び付加からなる群より選ばれる1以上の変異を有してもよい。例えば、配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失させたアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基をC末端に付加する変異は、C末端からアミノ酸を欠失させたことによる光活性化効率の向上を打ち消してしまうため、そのような変異は好ましくない。1~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列の348番目のアミノ酸残基より後のアミノ酸残基の数と、1~18のアミノ酸残基がC末端から欠失された配列番号1のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列の、上記348番目のアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基より後のアミノ酸残基の数とは、一致してもよいし、一致しなくてもよい。
【0018】
図1は、OaPAC(Oa-366)タンパク質と、Beggiatoa spの光活性化アデニル酸シクラーゼ(bPAC)と、Euglena gracilisの光活性化アデニル酸シクラーゼのα鎖の一部(PACαC)と、のアミノ酸配列のアライメントである。図1において、赤枠で囲まれた白字のアミノ酸残基は、種々の生物の光活性化アデニル酸シクラーゼにおいて保存されたアミノ酸残基である。保存アミノ酸残基はPAC活性を発揮するうえで重要であるため、本実施形態において、これらのアミノ酸残基は変異されていない。すなわち、本実施形態に係るタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列のLeu4、Tyr6、Ile7、Ser8、Ser15、Ile22、Asn30、Asn34、Thr36、Gly37、Leu39、Leu40、Gly44、Phe46、Gln48、Leu50、Glu51、Gly52、Tyr61、Ile64、Asp67、Arg69、His70、Arg85、Glu99、Pro107、Leu112、Ser118、Leu122、Glu123、Tyr125、Glu137、Asn139、Pro140、Pro145、Val148、Glu149、Asp156、Ile157、Phe160、Glu165、Lys166、Glu171、Val172、Asn177、Cys183、Thr184、Ile187、Gly191、Gly192、Glu193、Val194、Lys196、Ile198、Gly199、Asp200、Cys201、Val202、Ala204、Phe206、Asp212、Ala214、Ile221、Leu228、Arg229、Gly244、Gly246、Leu247、Gly250、Val252、Ile253、Gly258、Ser259、Gly269、Glu279、Ala280、Leu281、Thr282、Arg283、Ala288、Val295、Gly315、Tyr323、Leu337、及びLeu347に対応するアミノ酸残基に、変異を有さない。
【0019】
本実施形態に係るタンパク質において、配列番号1のアミノ酸配列の349番目~366番目のアミノ残基のうち欠失されなかったアミノ酸残基に対応するアミノ酸残基は、他のアミノ酸残基に置換されていても、置換されていなくてもよく、置換の種類は保存的置換であってよい。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸残基は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン又はイソロイシン残基に置換されてよく、脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸残基は、セリン又はスレオニン残基に置換されてよく、芳香族側鎖を有するアミノ酸残基は、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン又はヒスチジン残基に置換されてよく、塩基性側鎖を有するアミノ酸残基は、リジン、アルギニン又はヒスチジン残基に置換されてよく、酸性側鎖を有するアミノ酸残基は、アスパラギン酸又はグルタミン酸残基に置換されてよく、アミド含有側鎖を有するアミノ酸残基は、アスパラギン又はグルタミン残基に置換されてよく、硫黄含有側鎖を有するアミノ酸残基は、システイン又はメチオニンに置換されてよい。
【0020】
本実施形態に係るタンパク質の光活性化効率は、酵素活性を評価するために通常使用される方法によって、より具体的には、光活性化アデニル酸シクラーゼのPAC活性を評価するために通常使用される方法によって、評価することができる。例えば、本実施形態に係るタンパク質は光活性化によりcAMPを産生するため、光照射により産生されたcAMPの量に基づいて光活性化効率を評価することができる。cAMPの量に基づいて光活性化効率を評価する方法は特に限定されず、光活性化効率は、例えば、本実施形態に係るタンパク質と、cAMPのレポータータンパク質と、を発現する細胞を準備し、細胞内で産生されたcAMPの量をレポータータンパク質の発光量を介してモニターすることにより、評価することができる。cAMPのレポータータンパク質は特に限定されず、細胞の種類に応じて適宜選択することができる。レポータータンパク質は、例えば、pGloSensor 22F cAMP Plasmid(プロメガ株式会社)等の市販品を利用して得られるタンパク質であってよい。pGloSensor 22F cAMPは、ホタルルシフェラーゼの内部にcAMP結合ドメインを挿入した改変型ルシフェラーゼであり、cAMP結合ドメインにcAMPが結合すると構造が変化してルシフェリンと反応し、発光量が増加する。
【0021】
本実施形態に係るタンパク質は、例えば、該タンパク質をコードする核酸を含むベクターを宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を培養することにより得られる。核酸、ベクター、及び形質転換体の詳細は、後述する。培養方法は特に限定されず、培地の種類及び培養条件は宿主細胞の種類に応じて適宜選択又は調整できる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る核酸は、上記実施形態に係るタンパク質をコードする。配列番号8の塩基配列からなる核酸は、野生型のOaPAC遺伝子のコドンを哺乳類に最適化することにより得られたものであり、野生型のOaPACタンパク質(Oa-366タンパク質)をコードする。本実施形態に係る核酸は、例えば、野生型のOaPAC遺伝子の塩基配列又は配列番号8の塩基配列から特定のヌクレオチドを欠失させることにより得られた核酸であってよく、これと90%以上の配列同一性を有する塩基配列からなる核酸であってよい。欠失させたヌクレオチドは、野生型のOaPACタンパク質(Oa-366タンパク質)のC末端のアミノ酸残基から数えて1~18の連続するアミノ酸残基(ただし、C末端のアミノ酸残基を1と数える)をコードするヌクレオチドであってよい。
【0023】
本発明の一実施形態に係るベクターは、上記実施形態に係る核酸を含む。核酸を組み込むベクターは、核酸にコードされているタンパク質を宿主細胞内で発現させることができるベクターであればどのようなベクターであってもよい。ベクターは、例えば、一過性ベクター又は安定的発現ベクターであってよく、プラスミドベクター又はウイルスベクターであってよい。核酸を組み込むベクターは、制限酵素部位、挿入された遺伝子の発現のための制御配列、抗生物質耐性遺伝子、形質転換体の選別のための配列等、種々の配列を含むことができる。核酸を組み込むベクターとしては、例えば、pEBMulti-Hygroベクター(富士フイルム和光純薬株式会社)等の市販品を利用することができる。
【0024】
本実施形態に係る形質転換体は、上記実施形態に係るベクターを宿主細胞に導入することにより得ることができる。本明細書において、形質転換体は、形質転換された原核細胞に限られず、外来遺伝子が導入されたあらゆる細胞を指す。すなわち、宿主細胞は特に限定されず、大腸菌、枯草菌等の原核細胞であっても、酵母、動物細胞等の真核細胞であってもよい。動物細胞は、例えば、哺乳動物細胞であってよく、より具体的には、マウス細胞又はヒト細胞であってよい。ベクターの導入方法は限定されず、遺伝子工学的に常用される、一過性又は安定的なトランスフォーメーション又はトランスフェクションの方法を、宿主細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【実施例
【0025】
(1)OaPAC発現コンストラクトの作製
哺乳類に最適化されたコドンを有するOaPAC遺伝子(Oa-366遺伝子;配列番号8)を合成した。また、一般的な遺伝子組み換え技術を利用してOa-366の塩基配列から特定のヌクレオチドを欠失させ、変異型OaPAC遺伝子であるOa-363、Oa-360、Oa-357、Oa-354、Oa-351及びOa-348を得た。欠失させたヌクレオチドの位置を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
Oa-366遺伝子を2A及びRFP遺伝子とともにpEBMulti-Hygro(富士フイルム和光純薬株式会社)に組み込み、Oa-366遺伝子及びRFP遺伝子のバイシストロニックな発現コンストラクトpEBMulti-Hygro-RFP-2A-Oa-366を得た。2Aとは、変異型OaPAC遺伝子及びRFP遺伝子を均等に発現させるための2A-ペプチドであり、RFP遺伝子は、赤色蛍光タンパク質の変異種Rudolph-RFP(ATUM社)をコードする遺伝子である。その他の変異型OaPAC遺伝子についても同様に発現コンストラクトを作成した。
【0028】
(2)cAMPレポーター発現細胞株の樹立
GloSensor(商標)-22F cAMP遺伝子(プロメガ株式会社)を哺乳類発現ベクターpEBMulti-Neo(富士フイルム和光純薬株式会社)に組み込んだ。得られたpEBMulti-Neo-GloSensor-22F cAMPプラスミドを、FuGENE(登録商標) HD(プロメガ株式会社)を用いたリポフェクションによりヒト胎児腎臓細胞HEK293(株式会社ケー・エー・シー)に導入し、GloSensor-22F cAMPを安定的に発現する細胞株を樹立した。
【0029】
(3)OaPAC発現細胞の調製
OaPAC発現コンストラクトのそれぞれを、Ingenio(登録商標)Electroporation kit with 0.4cmcuvettes(マイラス・バイオ社)及びGene Pulserエレクトロポレーションシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社、印加条件:260V,950μF)を用いた電気穿孔法によりGloSensor-22F cAMP発現HEK293に導入し、野生型又は変異型のOaPACタンパク質とGloSensor-22F cAMPタンパク質とを発現するHEK293を得た。なお、2A-ペプチドの働きによりOaPACタンパク質の発現の度合いはRFPタンパク質の発現の度合いと等しいため、OaPACタンパク質の発現の度合いは、RFPの蛍光強度により確認した。
【0030】
(4)OaPACの光活性化
OaPAC発現HEK293を、35mm培養皿(BioCoat(商標)コラーゲンI、コーニング社)に播種し、2mLの培地(DMEM high glucose with 10%FBS and 4mM L-glutamine、サーモフィッシャー・サイエンティフィック社)で培養した。細胞に光を照射する数時間前に培地をCO非依存性培地(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社)に交換し、終濃度0.12mg/mLでGloSensor cAMP Reagent(プロメガ株式会社)を添加した。数時間後、EM-CCDカメラ(ImagEM C9100-23B、浜松ホトニクス株式会社)及び青色LED(LXML-PR01-0425、ルクシオン・レベル、フィリップス・ルミレッズ社)を取り付けた倒立蛍光顕微鏡(Eclipse TE-300、株式会社ニコン)を用いて、暗室にて以下の照射実験を行った。
【0031】
OaPAC発現HEK293に、光強度1.5×10μmol/m/s、6.1×10μmol/m/s、1.1×10μmol/m/s、4.5×10μmol/m/s、1.5×10μmol/m/s、及び5.7×10μmol/m/sの青色光をそれぞれ20秒間照射した。次の強度での光照射は、現在の光照射による活性上昇が完全に鎮静化するのを待って実施した。HEK293から発せられたGloSensor-22F cAMPの発光をEM-CCDカメラで捉え、得られた画像から、ImageJ software(http://imagej.nih.gov/ij)を用いて発光強度を定量した。
【0032】
図2は、野生型及び変異型OaPACタンパク質の光活性化効率を示すグラフである。縦軸の数値は、具体的にはGloSensor-22F cAMPの発光量を表すものだが、これは光で活性化されたOaPACタンパク質により産生されたcAMPの濃度に一義的に依存する数値であるので、軸のタイトルは、光で活性化された酵素の活性(相対値)と記した。図2に示されるように、それぞれ9、12、15、及び18のアミノ酸残基を配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失させることにより得られた、Oa-357タンパク質、Oa-354タンパク質、Oa-351タンパク質、及びOa-348タンパク質は、野生型のOaPACタンパク質(Oa-366タンパク質)と比べて特に高い光活性化効率を示した。一方、3つのアミノ酸残基をC末端から欠失させることにより得られたOa-363タンパク質の光活性化効率は、野生型のOaPACタンパク質と比べると明らかに改善されていたものの、上記4つのOaPACと比べると比較的低かった。6つのアミノ酸残基を配列番号1のアミノ酸配列のC末端から欠失させることにより得られたOa-360タンパク質は、変異型OaPACタンパク質の中では中程度の、しかし野生型のOaPACタンパク質と比べると高い、光活性化効率を示した。上述のとおり、光活性化に用いられる照射光の望ましい光強度はOaPACタンパク質の利用の仕方により異なるため、光活性化効率にはバリエーションが求められる。したがって、上記変異型タンパク質のいずれもが有用であるといえる。
図1
図2
【配列表】
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