(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】乗員保護システム
(51)【国際特許分類】
B60R 21/0134 20060101AFI20230831BHJP
B60R 21/264 20060101ALI20230831BHJP
B60R 22/195 20060101ALI20230831BHJP
B60R 22/48 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B60R21/0134 310
B60R21/264
B60R22/195 104
B60R22/48 106
(21)【出願番号】P 2019181692
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 征幸
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-049718(JP,A)
【文献】特開平08-198044(JP,A)
【文献】特開2013-141950(JP,A)
【文献】特開2011-201412(JP,A)
【文献】特開2013-121784(JP,A)
【文献】特表平10-511061(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0182139(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00-21/38
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両内に設けられた保護装置により、前記車
両内の乗員を保護する乗員保護システムであって、
着火信号により点火する点火器を含み、該点火器の点火の作動に起因してガスを発生させるガス発生器であって、該ガス発生器により発生されたガスが、前記保護装置を作動するように構成された、ガス発生器と、
前記車両と、その周囲に存在する障害物との衝突を予測する予測部と、
前記予測部による予測結果に基づいて、前記点火器への着火信号の供給を制御する制御部と、
を備え、
前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが、該保護装置における所定空間に送り込まれることで、該所定空間に作用させる圧力を介して該保護装置を作動するように構成され、
前記制御部は、
前記乗員を保護するために前記保護装置により前記乗員に作用
する圧力であって前記乗員を保護する観点から好ましい保護圧力と、該保護圧力が該乗員に対して作用する保護タイミングと、を算出する算出部と、
前記算出部によって算出される前記保護圧力と、前記着火信号が前記点火器に供給されたときの前記所定空間におけるガスによる圧力推移に関連する圧力データに基づいて、前記保護装置により前記保護圧力が前記保護タイミングで作用するように、前記予測部により予測された衝突タイミングより早い作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる作動制御部と、
を有する、乗員保護システム。
【請求項2】
前記圧力データは、前記着火信号が前記点火器に供給された後に、前記所定空間内でのガスの圧力がピーク値を迎えるピークタイミングと、該ピークタイミング以降の該所定空間内の圧力推移に関連するデータを含む、
請求項1に記載の乗員保護システム。
【請求項3】
前記圧力データは、前記ガス発生器の温度に対応する形で、前記所定空間におけるガスの圧力推移に関連するデータとして形成され、
前記作動制御部は、前記ガス発生器の温度に基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる、
請求項1又は請求項2に記載の乗員保護システム。
【請求項4】
前記算出部は、前記乗員の体重に基づいて、前記保護圧力を算出する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の乗員保護システム。
【請求項5】
前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが供給されて所定の膨張形状に膨張するエアバッグ装置であって、
前記所定空間は、前記エアバッグ装置内の膨張空間であって、
前記圧力データは、前記膨張空間におけるガスの圧力推移に関連するデータであって、
前記算出部は、前記エアバッグ装置が前記所定の膨張形状に膨張して前記乗員に接触した際に該乗員に作用する前記保護圧力と、該エアバッグ装置が該乗員に接触する前記保護タイミングと、を算出し、
前記作動制御部は、前記保護タイミングと前記圧力データとに基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の乗員保護システム。
【請求項6】
前記作動制御部は、更に、前記車両の進行速度に基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる、
請求項5に記載の乗員保護システム。
【請求項7】
前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが供給されてシートベルトを引っ張ることで乗員をシートに対して拘束するシートベルト装置であって、
前記所定空間は、前記ガスにより圧力を付与して該シートベルトが前記乗員に対して拘束力を作用させるための圧力空間であって、
前記圧力データは、前記圧力空間におけるガスの圧力推移に関連するデータであって、
前記算出部は、前記ガスの圧力付与により前記シートベルトが前記乗員を前記シートに拘束した際に該乗員に作用する前記保護圧力と、該シートベルトが該乗員を拘束する前記保護タイミングと、を算出し、
前記作動制御部は、前記保護タイミングと前記圧力データとに基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の乗員保護システム。
【請求項8】
前記乗員保護システムは、更に、所定の膨張形状に膨張するエアバッグ装置により前記乗員の保護を行うように構成され、
前記乗員保護システムは、第2着火信号により点火する第2点火器を含み、該第2点火器の点火の作動に起因してガスを発生させる第2ガス発生器であって、該第2ガス発生器により発生されたガスが、前記エアバッグ装置内の膨張空間に送り込まれることで、該膨張空間に作用させる圧力を介して該エアバッグ装置を作動するように構成された、第2ガス発生器を、更に備え、
前記制御部は、前記予測部による予測結果に基づいて、前記点火器への前記着火信号及び前記第2点火器への前記第2着火信号の供給を制御し、
前記算出部は、更に、前記エアバッグ装置が前記所定の膨張形状に膨張して前記乗員に接触した際に該乗員に作用する第2保護圧力と、該エアバッグ装置が該乗員に接触する第2保護タイミングと、を算出し、
前記作動制御部は、前記衝突タイミングの後であって前記第2保護タイミングより前の前記保護タイミングで、前記シートベルトにより前記保護圧力が前記乗員に作用するように、前記圧力データに基づいて前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させ、更に、前記第2保護タイミングで該エアバッグ装置と該乗員とが接触し前記第2保護圧力が該乗
員に作用するように、前記第2着火信号が前記第2点火器に供給されたときの前記膨張空間におけるガスの圧力推移に関連する第2圧力データに基づいて第2作動タイミングで前記第2ガス発生器を作動させる、
請求項7に記載の乗員保護システム。
【請求項9】
前記作動タイミングと前記第2作動タイミングは、ともに前記衝突タイミングの前のタイミングであって、前記作動タイミングは、前記第2作動タイミングより早いタイミングである、
請求項8に記載の乗員保護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内の乗員を保護する乗員保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、衝突の衝撃から乗員を保護するため、各種エアバッグ等の保護装置を用いることが知られている。例えば、ステアリングホイール、インストルメントパネル等から乗員の前方側へ展開する前面衝突エアバッグや、ステアリングコラム下部で展開する膝部保護エアバッグ(ニーバッグ)、シート側部から乗員側方へ展開する側面衝突エアバッグ、サイドドアガラスに沿って展開するカーテンエアバッグなどの各種エアバッグ装置が普及している。また、エアバッグ装置以外でも、衝突を検知すると乗員がシートに好適な姿勢で拘束されるように、シートベルトのテンションを高くするシートベルト装置も、保護装置として知られている。
【0003】
ここで、保護装置により衝突の衝撃から乗員を保護するためには、その保護装置の保護態様に応じて乗員に対して適切な保護圧力が作用している必要がある。当該保護圧力が所定の圧力範囲を逸脱している場合、乗員を好適に保護できなかったり、乗員に対して過剰な衝撃が作用したりするおそれが生じる。そこで、例えば、特許文献1に示すガス発生器では2つの点火器が備えられており、衝突を検知した後においてこれらの点火タイミングを調整し発生するガスによるエアバッグ内の圧力を調整することで、エアバッグが乗員に作用する保護圧力が調整される。また、特許文献2に示す技術では、衝突を検知した後において2つのガス発生器の作動を制御することで、同様にエアバッグ内の圧力が調整される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3965050号公報
【文献】特開2013-256227号公報
【文献】特表2009-520628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
保護装置により衝突の衝撃から車両内の乗員を保護するためには、適切な保護圧力にて乗員を拘束する必要がある。従来技術によれば、車両と障害物との衝突をトリガーとして、1つのガス発生器に含まれる2つの点火器、もしくは2つのガス発生器の作動が制御される。このような形態では、エアバッグ展開のためのガスの生成タイミングが、衝突の検知から一定時間経過した後になるため、必ずしも適切な圧力でエアバッグを乗員に対して作用(接触)させることができるわけではない。すなわち、2つの点火器等で生成されるガスを組合わせて乗員に対してエアバッグによる圧力を作用させているため、作用可能な圧力の範囲が限られている。
【0006】
また、2つの点火器等を必要とする構成であるため、保護装置として機械的に複雑な構成となったり、装置が大型化しやすくなったりする。そのため、コスト的な観点からも好適な保護装置を提供することが難しい。
【0007】
本明細書では、上記した問題に鑑み、保護装置により衝突の衝撃から車両内の乗員を保護する際に、より簡便な手法により、乗員に対して適切な保護圧力を作用させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本明細書で開示する実施形態は、車両と障害物との衝突が予測される場合に、保護装置の作動によって乗員に作用する保護圧力とその作用タイミングが、当該乗員において好適なものとなるように、予測される衝突タイミングより早い作動タイミングでガス発生器を作動する。このようなガス発生器の作動制御を行うことで、ガス発生器の数が1つであっても、保護装置により適した圧力を適したタイミングで、乗員に対して作用させることが可能となる。
【0009】
具体的には、本実施形態は、車両内に設けられた保護装置により、前記車内の乗員を保護する乗員保護システムであって、着火信号により点火する点火器を含み、該点火器の点火の作動に起因してガスを発生させるガス発生器であって、該ガス発生器により発生されたガスが、前記保護装置を作動するように構成された、ガス発生器と、前記車両と、その周囲に存在する障害物との衝突を予測する予測部と、前記予測部による予測結果に基づいて、前記点火器への着火信号の供給を制御する制御部と、を備える。そして、前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが、該保護装置における所定空間に送り込まれることで、該所定空間に作用させる圧力を介して該保護装置を作動するように構成される。また、前記制御部は、前記乗員を保護するために前記保護装置により前記乗員に作用する保護圧力と、該保護圧力が該乗員に対して作用する保護タイミングと、を算出する算出部と、前記着火信号が前記点火器に供給されたときの前記所定空間におけるガスによる圧力推移に関連する圧力データに基づいて、前記保護装置により前記保護圧力が前記保護タイミングで作用するように、前記予測部により予測された衝突タイミングより早い作動タイミングで前記ガス発生器を作動させる作動制御部と、を有する。
【0010】
本実施形態の乗員保護システムは、車両内の乗員を、保護装置により保護するシステムである。当該保護装置は、特定の形態を有するものに限られるものではないが、ガス発生器により発生されたガスが、保護装置に設けられている、もしくは保護装置が有している所定空間に送り込まれることで、その所定空間に作用するガスの圧力を介して作動するように構成される。保護装置の一例としては、ガス発生器により発生されたガスが供給されて所定の膨張形状に膨張するエアバッグ装置が例示でき、その他の例としては、ガス発生器により発生されたガスが供給されてシートベルトを引っ張ることで乗員をシートに対して拘束するシートベルト装置が例示できる。このような保護装置では、所定空間でのガス圧力が乗員に伝わることで、車両と障害物との衝突時における衝撃から当該乗員を保護することが可能となる。
【0011】
ここで、上記乗員保護システムは、予測部を有する。予測部は、公知の技術を用いて車両と障害物との衝突に関する予測、例えば障害物との衝突が生じる衝突タイミングや、その障害物との衝突の回避の可否等の予測を行うことができる。例えば、予測部は、車両の進行方向を撮像するカメラや、近赤外線等の短波の電磁波を用いたLIDAR技術等を利用して検知される、車両とその周囲の障害物との相対距離や相対速度等に基づいて、衝突予測を行い得る。そして、上記乗員保護システムでは、当該予測部による予測結果に基づいて、保護装置を作動するための点火器への着火信号の供給が制御部により制御される。
【0012】
ここで、上記制御部は、点火器への着火信号の供給制御のために、算出部と作動制御部を有する。算出部は、乗員保護のために保護装置により乗員に作用する保護圧力、すなわち、ガス発生器により発生されたガスに起因して乗員に作用する圧力と、その保護圧力が乗員に作用する保護タイミングを算出する。保護装置により乗員保護を図るためには、乗員に対して危害を与えず且つ乗員を好適に保護し得る圧力を、その保護に適したタイミングで乗員に作用させることが重要である。そして、この保護圧力と保護タイミングは、保護装置による乗員保護の形態に応じて異なってもよい。更には、衝突時における乗員の動
きに関連する物理パラメータ、例えば、進行方向に働く慣性力に関連するパラメータ(車両速度や乗員体重等)や、乗員の身体が接触し得る車両内の設備との距離やその配置等に応じて、保護圧力と保護タイミングは調整され得る。
【0013】
そして、作動制御部は、事前に保持されている所定空間でのガスの圧力推移に関連する圧力データを用いて、保護装置による乗員保護が、算出部より算出された保護圧力で、且つ、保護タイミングにおいて行われるように、衝突タイミングより早い作動タイミングで、点火器に着火信号を供給しガス発生器を作動させる。すなわち、予め想定されているガス発生器で発生されたガスによる所定空間での圧力作用の推移を考慮して、作動制御部が点火器の好適な作動タイミングを決定し、その作動タイミングにおいて着火信号を供給する。このような構成によれば、衝突タイミングより早いタイミングにおいて、1つの点火器の作動タイミングを前後に調整することで、所望の保護圧力を所望の保護タイミングで乗員に作用することができ、以て、簡便な手法により、乗員に対して保護装置を介して適切な圧力を作用させることが可能となる。
【0014】
ここで、上記の乗員保護システムにおいて、前記圧力データは、前記着火信号が前記点火器に供給された後に、前記所定空間内でのガスの圧力がピーク値を迎えるピークタイミングと、該ピークタイミング以降の該所定空間内の圧力推移、より具体的には圧力の下降推移に関連するデータを含んでもよい。すなわち、少なくともこれらのデータを含むことで、ガス発生器を作動させる作動タイミングを好適に決定することができる。
【0015】
また、上述までの乗員保護システムにおいて、前記圧力データは、前記ガス発生器の温度に対応する形で、前記所定空間におけるガスの圧力推移に関連するデータとして形成されてもよい。そして、前記作動制御部は、前記ガス発生器の温度に基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させてもよい。このような構成によれば、ガス発生器の周囲の温度が変動しても、その周囲温度に応じて作動タイミングが好適に決定され、ガス発生器の作動が行われる。特に、ガス発生器のガス発生特性が、その周囲温度の影響を受けやすい場合には、このように周囲温度に基づいたガス発生器の作動が行われることで、乗員の好適な保護を行うことができる。
【0016】
また、上述までの乗員保護システムにおいて、前記算出部は、前記乗員の体重に基づいて、前記保護圧力を算出してもよい。衝突時に乗員に作用する慣性力は、乗員の体重の影響を大きく受ける。そこで、好適な乗員保護を図るためには、乗員の体重を考慮して保護圧力を決定するのが好ましい。
【0017】
ここで、上述までの乗員保護システムにおいて、保護装置として様々な形態の装置が採用でき、その装置形態に応じた形で、上記制御部によるガス発生器の作動制御が行われ得る。以下に、その形態を例示する。先ず、第1の装置形態として、前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが供給されて所定の膨張形状に膨張するエアバッグ装置であってもよい。その場合、前記所定空間は、前記エアバッグ装置内の膨張空間であって、また、前記圧力データは、前記膨張空間におけるガスの圧力推移に関連するデータである。そして、前記算出部は、前記エアバッグ装置が前記所定の膨張形状に膨張して前記乗員に接触した際に該乗員に作用する前記保護圧力と、該エアバッグ装置が該乗員に接触する前記保護タイミングと、を算出し、前記作動制御部は、前記保護タイミングと前記圧力データとに基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させてもよい。
【0018】
このような装置形態では、エアバッグ装置の所定空間にガスが供給されることで膨張したエアバッグ装置と乗員との接触時の保護圧力が、衝突時の衝撃から乗員を保護するのに適切なタイミングで作用するように、制御部によるガス発生器の作動制御が行われる。この結果、簡便な手法によって、乗員を安全に且つ確実にエアバッグ装置の膨らみで保護す
ることが可能となる。
【0019】
また、このようなエアバッグ装置を利用する形態において、前記作動制御部は、更に、前記車両の進行速度に基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させてもよい。車両の進行速度が速くなるほど、衝突後に乗員が膨張したエアバッグ装置と接触するまでの時間(以下、「接触到達時間」という)が短くなる。そこで、接触到達時間を考慮して作動タイミングを決定することで、より好適な乗員保護を図ることができる。
【0020】
次に、第2の形態として、前記保護装置は、前記ガス発生器により発生されたガスが供給されてシートベルトを引っ張ることで乗員をシートに対して拘束するシートベルト装置であってもよい。その場合、前記所定空間は、前記ガスにより圧力を付与して該シートベルトが前記乗員に対して拘束力を作用させるための圧力空間であって、前記圧力データは、前記圧力空間におけるガスの圧力推移に関連するデータであってもよい。そして、前記算出部は、前記ガスによる圧力付与により前記シートベルトが前記乗員を前記シートに拘束した際に該乗員に作用する前記保護圧力と、該シートベルトが該乗員を拘束する前記保護タイミングと、を算出し、前記作動制御部は、前記保護タイミングと前記圧力データとに基づいて、前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させてもよい。
【0021】
このような装置形態では、シートベルト装置の所定空間にガスが供給されることでシートベルトに圧力が付与されてシートベルトが動き、乗員の拘束が行われる。そして、そのシートベルトにより乗員がシートに拘束されたときの保護圧力が、衝突時の衝撃から乗員を保護するのに適切なタイミングで乗員に対して作用するように、制御部によるガス発生器の作動制御が行われる。この結果、簡便な手法によって、乗員を安全に且つ確実にシートベルト装置で保護することが可能となる。なお、シートベルト装置の一例として、上記所定空間は、シートベルトの端部に摺動可能に接続されたピストンに対してガスにより圧力を付与して該ピストンを摺動させるための圧力空間であってもよい。
【0022】
また、上記の乗員保護システムは、更に、所定の膨張形状に膨張するエアバッグ装置により前記乗員の保護を行うように構成されてもよい。そして、前記乗員保護システムは、第2着火信号により点火する第2点火器を含み、該第2点火器の作動に起因してガスを発生させる第2ガス発生器であって、該第2ガス発生器により発生されたガスが、前記エアバッグ装置内の膨張空間に送り込まれることで、該膨張空間に作用させる圧力を介して該エアバッグ装置を作動するように構成された、第2ガス発生器を、更に備えてもよい。その場合、前記制御部は、前記予測部による予測結果に基づいて、前記点火器への前記着火信号及び前記第2点火器への前記第2着火信号の供給を制御し、そして、前記算出部は、更に、前記エアバッグ装置が前記所定の膨張形状に膨張して前記乗員に接触した際に該乗員に作用する第2保護圧力と、該エアバッグ装置が該乗員に接触する第2保護タイミングと、を算出してもよく、前記作動制御部は、前記衝突タイミングの後であって前記第2保護タイミングより前の前記保護タイミングで、前記シートベルトにより前記保護圧力が前記乗員に作用するように、前記圧力データに基づいて前記作動タイミングで前記ガス発生器を作動させ、更に、前記第2保護タイミングで該エアバッグ装置と該乗員とが接触し前記第2保護圧力が該乗員に作用するように、前記第2着火信号が前記第2点火器に供給されたときの前記膨張空間におけるガスの圧力推移に関連する第2圧力データに基づいて第2作動タイミングで前記第2ガス発生器を作動させてもよい。
【0023】
すなわち、上記の乗員保護システムは、保護装置としてシートベルト装置とエアバッグ装置の両者を含むものである。このような形態においては、シートベルト装置とエアバッグ装置のそれぞれの作動が制御部により制御される構成となっている。詳細には、それぞれの装置による圧力(上記の保護圧力と第2保護圧力)が、それぞれの装置による乗員保護に適したタイミング(上記の保護タイミングと第2保護タイミング)で乗員に対して作
用するように、作動制御部が、上記のガス発生器及び第2ガス発生器の作動制御を行う。この結果、簡便な手法によって、乗員を安全に且つ確実にシートベルト装置とエアバッグ装置で保護することが可能となる。
【0024】
なお、上記の乗員保護システムにおいて、前記作動タイミングと前記第2作動タイミングは、ともに前記衝突タイミングの前のタイミングであって、前記作動タイミングは、前記第2作動タイミングより早いタイミングであってもよい。この結果、乗員は、シートベルト装置によって好適にシートに対して拘束された状態で、エアバッグ装置による保護を享受することになり、以て、乗員の安全の確保に資する技術を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本明細書に開示の実施形態によれば、保護装置により衝突の衝撃から車両内の乗員を保護する際に、より簡便な手法により、乗員に対して適切な圧力を作用させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】車両に搭乗している乗員の状態を示す第1の図である。
【
図2】車両に設置されている乗員保護システムに関連する機能ブロックを示す図である。
【
図3】車両に搭乗している乗員の状態を示す第2の図である。
【
図4】車両に搭乗している乗員の状態を示す第3の図である。
【
図5】エアバッグ装置におけるエアバッグ内のガス圧力の推移を示す第1の図である。
【
図6】乗員保護システムで実行される乗員保護のための点火器の作動制御に関連するフローチャートである。
【
図7】
図6に示す作動制御において、エアバッグ装置の点火器を作動させるタイミングの決定プロセスを説明するための図である。
【
図8】エアバッグ装置におけるエアバッグ内のガス圧力の推移を示す第2の図である。
【
図9】シートベルト装置の概略構成を示す図である。
【
図10】エアバッグ装置の点火器とシートベルト装置の点火器を作動させるタイミングの決定プロセスを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して本実施形態に係る乗員保護システムの形態について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本実施形態はこれらの開示の構成に限定されるものではない。
【0028】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る乗員保護システムについて説明する。
図1は、車両1に搭乗し運転を行っている乗員70の状態を示す。また、
図2は、乗員保護システムとして車両1に備えられた制御装置100に形成されている、エアバッグ装置10の作動制御のための機能ブロック図である。エアバッグ装置10が、本願における保護装置に相当する。
【0029】
図1に示すように、乗員70がシート40に着席した状態で車両1の運転を行っている。シート40は、乗員が着席するシートクッション41に対してシートバック42が傾倒可能(リクライニング可能)に構成されている。また、シートバック42にはヘッドレスト43が接続されている。
図1に示す状態では、乗員70は、ヘッドレスト43に自己の頭部を載せて、更にシートバック42及びシートクッション41に自己の体の大部分を載せた状態で、ハンドル2を介して車両1の運転を行っている。そして、乗員70による車
両1の運転中に生じた事故等で、乗員70の安全を確保するためにシートベルト装置50が設けられている。シートベルト装置50はショルダーストラップ52とラップストラップ53とを有する、3点式のシートベルトとして形成され、これらのストラップが通された金属製のタング54が、バックル51に対して接続されることで、運転中の乗員70の身体がシート40に対して拘束された状態となる。
【0030】
そして、車両1において、乗員70の安全を図るために、ハンドル2の内部にエアバッグ装置10が配置されている。エアバッグ装置10は、点火器121を含むガス発生器122を有し、ガス発生器122におけるガス発生剤の燃焼で生成されるガスが供給されてエアバッグ123が膨張するように構成されている(
図3を参照)。すなわち、エアバッグ123の内部空間が、本願における所定空間に相当する。なお、ガス発生剤としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。また、ガス発生器122についても加圧ガスとガス発生剤を併用した公知のハイブリッドタイプや、加圧ガスのみからなる公知のストアードタイプも使用可能である。
【0031】
エアバッグ装置10が作動する前、すなわちシート40上の乗員を保護する必要性が無い場合には、エアバッグ123は折り畳まれた状態でハンドル2の内部にエアバッグ装置10全体が収容されている。そして、車両1と障害物との衝突が予測されると、もしくは衝突が発生すると、その衝突の衝撃から乗員70を保護するために、エアバッグ装置10の点火器121に対して着火信号が供給されてガス発生器122により生成されたガスが、エアバッグ123の内部に送り込まれて膨張する(
図3の状態)。その後、膨張したエアバッグ123により車両1の進行方向に投げ出された乗員70の身体が受け止められる(
図4の状態)。このとき、乗員70に対しては、その身体が更に前方に進まない程度に、且つ、接触時にその身体に対して過度な圧力が掛からない程度に、エアバッグ123が膨張しているのが好ましい。
【0032】
なお、エアバッグ123には内部に供給されたガスを時間の経過とともに排出するためのベントホールが設けられている。そのため、ガス発生器122によりガスが供給されたときの、エアバッグ123内部の圧力は
図5に示すように推移する。
図5の横軸は時間を表し、縦軸はエアバッグ123内部の圧力を表す。そして、タイミングT1は、点火器121に着火信号が供給された時刻である。ここで、点火器121に着火信号が供給されると、点火器121で生じる燃焼生成物により、ガス発生器122内部のガス発生剤が燃焼を開始する。それによって発生する発生するガスによりエアバッグ123が若干膨らみ、その圧力でエアバッグモジュールが破れ、ハンドル2の収容空間から外部にエアバッグが放出(展開・膨張)される。そのため、エアバッグ123の内部圧力は一時的に上昇するものの直ぐに下降する(
図5に示す線L1の推移)。一方で、ガス発生剤の燃焼は継続しており、発生するガスによりタイミングT2でエアバッグ123の内部圧力が再び上昇し始め、その後タイミングT3で内部圧力はピーク値を迎える。このときのピーク圧力が、P1とされる。その後は、ガス発生器122からのガスの供給流量と、エアバッグ123に設けられたベントホールからのガスの排出流量やエアバッグ123内でのガスの冷却との相関によって、エアバッグ123の内部圧力は徐々に下降していく(
図5に示す線L2の推移)。このような圧力推移を考慮して、エアバッグ装置10による乗員70の保護が行われるのが好ましい。
【0033】
ここで、上述した乗員保護システムによる乗員の保護のための制御の詳細について、
図2に戻って説明する。
図2は、乗員保護システムとして車両1に備えられた制御装置100に形成されている、エアバッグ装置10の作動制御のための機能ブロック図である。制御装置100は、例えば、マイクロコンピュータによって構成されており、記憶手段(ROM(Read Only Memory)等であり不図示)に記憶されたプログラムをCPU(Central
Processing Unit)(不図示)によって実行させることで各機能が実現される。
【0034】
なお、
図2には、車両1に設けられた車両情報取得部130、センサ140も示されている。車両情報取得部130は、車両1の速度や現在位置等の、車両の走行状態に関連する情報を取得する手段であり、典型的には速度センサやGPS受信器などを含んで構成される。車両情報取得部130が取得した情報は制御装置100に送信され、車両1の走行に関連する制御、例えば、カーナビゲーション装置でのルート表示や、車両1の走行時における乗員70の保護のための保護制御等に利用される。また、センサ140は、当該保護制御に必要な情報であって、車両の周囲の構造物(障害物)等に関連する情報を取得するためにセンシングを行う手段であり、典型的にはステレオカメラ、可視光カメラ、レーザスキャナ、LIDAR、レーダなどを含んで構成される。センサ140が取得した情報も制御装置100に送信される。
【0035】
ここで、制御装置100が有する各機能部について説明する。制御装置100は、取得部101、状態検知部102、制御部103、予測部106、記憶部107を有する。先ず、取得部101は、走行中の車両1又は車両1の周囲環境に関連する環境情報を取得する機能部である。環境情報は、車両1とその周囲に存在する障害物との衝突に関連する情報であり、例えば、車両1の走行や操舵に関する情報や、車両1に対する障害物の相対位置情報、相対速度情報、車両1と障害物との距離に関する情報等が挙げられる。取得部101は、車両情報取得部130やセンサ140が取得したデータを利用して車両1の周りや車両の置かれた状況についての環境情報を取得する。次に、状態検知部102は、車両1での乗員70の状態に関する情報、例えば、乗員70の体重に関する情報や、シート40に着席している乗員70が、車両1内の構造物(特にハンドル2)に対してどのような相対位置にあるかについての情報を検知する機能部である。具体的には、状態検知部102は、シート40に設けられた重量センサによって乗員70の体重を検知したり、車両1内に設けられたカメラによって乗員70とハンドル2との離間距離を検知したりする。
【0036】
次に制御部103は、後述する予測部106の予測結果に基づいて、エアバッグ装置10に含まれる点火器121への着火信号の供給を制御する機能部である。すなわち、制御部103は、予測部106による予測の結果、乗員70を保護するためにエアバッグ装置10を作動する必要があると判断される場合には、点火器121へ着火信号を供給することでその作動を実現させる。そして、この点火器121の作動のために、制御部103は、算出部104と作動制御部105とを有する。詳細には、算出部104は、エアバッグ装置10のエアバッグ123が膨張したときに乗員70に作用する、乗員保護に適した保護圧力と、当該保護圧力が作用する保護タイミングとを算出する機能部である。また、作動制御部105は、算出部104によって算出された保護圧力と保護タイミングでの、エアバッグ装置10による乗員70の保護が可能となるように、点火器121に着火信号を供給しガス発生器122を作動させる機能部である。このとき、作動制御部105は、後述する記憶部107が記憶している、ガス発生器122が作動したときに想定されるエアバッグ123内部の圧力推移データに基づいて、ガス発生器122の作動を制御する。当該作動制御の詳細については、後述する。
【0037】
また、予測部106は、車両1と障害物との衝突を予測する機能部である。具体的には、取得部101によって取得された環境情報としての車両1の速度情報や、障害物と車両1との離間距離等に基づいて、衝突の可能性を予測する。例えば、車両1の速度と離間距離より算出される、衝突までの時間が短くなるほど、衝突の可能性は高いと予測することができ、その時間が基準値を下回ったときに「衝突の発生」を予測する。その場合、予測部106は、衝突が発生するタイミング(衝突タイミング)も予測し、出力する。また、記憶部107は、
図5に示す、ガス発生器122が作動したときに想定されるエアバッグ123内部の圧力推移データやその他のデータを記憶、格納する機能部である。なお、図
5に示す、圧力推移のうち、実際にエアバッグ123の膨張に関連する圧力(すなわち乗員70拘束に必要な保護圧力の)推移は線L2で示すものである。したがって、記憶部107は、少なくとも、圧力推移L2のうち、ピーク圧力P1を迎えるピークタイミングT3と、そのピークタイミングT3以降の圧力推移に関するデータを記憶すればよい。
【0038】
ここで、
図6に基づいて、エアバッグ装置10の作動制御について説明する。この作動制御は、制御装置100により所定の間隔で繰り返し実行される。先ず、S101では、状態検知部102により車両1での乗員70の状態に関する情報として、乗員70の体重と、乗員70とハンドル2との離間距離に関する情報が検知される。前者は、車両1が障害物と衝突した際に発生する慣性力に関連し、後者は、衝突が発生した際の乗員70とハンドル2との接触到達時間に関連する情報である。次に、S102では、取得部101により環境情報が取得される。上記の通り、当該環境情報は、車両1の走行情報や、車両1とその周囲に存在する障害物との衝突に関連する情報である。
【0039】
そして、S103では、予測部106によって車両1と障害物との衝突の可能性の有無が判定される。なお、本実施形態における衝突の可能性とは、乗員70の操舵によっても障害物との衝突が回避困難な状況にあることを意味する。例えば、車両1の速度と離間距離より算出される、衝突までの時間が、所定の閾値よりも短い時間である場合には、衝突の可能性があると判断されてS103では肯定判定される。このとき、衝突までの時間に相当する衝突タイミングも、予測部106によって出力される。S103で肯定判定されると処理はS104へ進み、否定判定されると作動制御を終了する。
【0040】
続いて、S104では、算出部104によって保護圧力が算出される。当該保護圧力は、
図4に示すように、エアバッグ装置10によって衝突時の衝撃から乗員70を保護する際に、膨張したエアバッグ123から乗員70が受ける好適な圧力である。すなわち、エアバッグ123から受ける圧力が強すぎると、乗員70に対して過剰な衝撃が掛かることになり乗員保護の観点から好ましくなく、また、エアバッグ123から受ける圧力が弱すぎると、衝突時の慣性力によって車両1の走行方向に飛ばされる乗員70を好適に支持することが難しくなり、やはり乗員保護の観点から好ましくない。そこで、算出部104は、乗員保護の観点から好ましい保護圧力を、作用し得る慣性力を踏まえて算出する。乗員70の体重が重くなるほど、また車両1の速度が速くなるほど慣性力が大きくなることから、算出部104は、これらのパラメータのうち少なくとも一方に基づいて保護圧力を算出する。具体的には、乗員70の体重が重くなるほど保護圧力が大きくなるように、算出部104は保護圧力を算出する。
【0041】
続いて、S105では、算出部104によって保護タイミングが算出される。当該保護タイミングは、エアバッグ装置10によって乗員70を保護するのに適したタイミング、すなわち、膨張したエアバッグ123を乗員70に接触させて慣性力で移動している乗員70を支持するタイミングである。したがって、衝突時の衝撃により慣性力で移動される乗員70の身体がハンドル2に接触するまでの接触到達時間を考慮して、保護タイミングの算出が行われるのが好ましい。例えば、状態検知部102によって検知された乗員70とハンドル2との離間距離と車両1の進行速度とに基づいて、保護タイミングが算出されてもよい。保護タイミングが衝突タイミング(予測部106によって予測される)を基準として定められる場合(例えば、衝突タイミングの所定時間後のタイミングを保護タイミングとする場合)、当該離間距離が短いほど、また進行速度が速いほど、保護タイミングが衝突タイミングに近付くようにその算出が行われる。
【0042】
続いて、S106では、作動制御部105によって、点火器121に着火信号を供給してガス発生器122を作動させる作動タイミングが決定される。作動タイミングの決定の流れについて、
図7に基づいて説明する。
図7に示す横軸は時間軸である。この時間軸に
おいて、タイミングT10は、予測部106によって衝突が予測されたタイミング、すなわちS103の処理で肯定判定が為されたタイミングである。また、そのときに予測された衝突タイミングがタイミングT30で表され、S105で算出された保護タイミングが、エアバッグ123が乗員70に接触するタイミングT40とし表されている。そして、ガス発生器122が作動される作動タイミングが、タイミングT20又はT20’として表されている。
【0043】
ここで、
図7の上段(a)は、保護タイミングであるタイミングT40において膨張させたエアバッグ123を保護圧力P11で乗員70(体重を60kgとする)に接触させるために、
図5に示す圧力推移を用いて、衝突タイミングT30より早いタイミングT20において点火器121に着火信号を流しガス発生器122を作動させることが必要であることを説明したものである。すなわち、乗員70の体重が60kgの場合、乗員70を好適に保護するためには、衝突タイミングT30より早いタイミングT20でガス発生器122を作動させることが必要であることを意味する。なお、この上段(a)に示すガス発生器122の作動形態は、事前の実験等を通して事前に決定されており、「標準作動形態」と称する。そして、この標準作動形態に関する情報、すなわち、衝突タイミングT30後の保護タイミングT40(すなわち、衝突タイミングT3からT40-T30後のタイミング)で保護圧力P11を乗員70に作用させるためには、ガス発生器122の作動タイミングをT20とすることに関する情報は、記憶部107に記憶されているものとする。
【0044】
ここで、実際のS106では、乗員70の体重が60kgより軽かったとすると、当該乗員70に作用させる保護圧力はP11より軽いP12と算出される(上記のS104の処理)。また、実際のS105では、保護タイミングは、標準作動形態の場合と同じタイミングとして算出されたものとする。そうした場合、保護タイミングT40で保護圧力P12を乗員70に作用するためには、ガス発生器122を作動させてからより長い時間が経過しエアバッグ123内の圧力がより減衰した時点で、保護タイミングT40を迎える必要がある。そのためには、標準作動形態と比べて、ガス発生器122の作動タイミングをΔTAだけ早めて、作動タイミングをT20’とする必要がある(
図7の下段(b)を参照)。ΔTAは、記憶部107が格納する圧力推移のデータに基づいて、保護圧力P12を踏まえて算出することができる。このように算出されたΔTAに、標準作動形態の作動タイミングT20を考慮して、S106における作動タイミングT20’が決定される。この作動タイミングT20’は、
図7からも理解できるように、予測部106によって予測された衝突タイミングT30よりも早いタイミングである。
【0045】
そして、S106で作動タイミングT20’が決定されると、続いてS107では、その作動タイミングT20’において、点火器121へ着火信号が供給されてガス発生器122の作動が実現する。このように、車両1が障害物と衝突する場合に、その衝突よりも前にガス発生器122を適切なタイミングで作動させることで、好適な乗員保護の実現を図ることができる。
【0046】
なお、
図7の下段(b)に示す形態では、車両1の走行速度が標準作動形態に対応する場合と同じであったため、その保護タイミングが、標準作動形態に対応する場合の保護タイミングT40と同じであった。仮に、車両1の走行速度がより速かった場合には、実際の保護タイミングは、標準作動形態に対応する場合の保護タイミングT40よりも衝突タイミングT30に近づいたタイミングとされ、その保護タイミングで保護圧力P12が乗員70に作用するように、ガス発生器122の作動タイミングT20’をより早めることになる。
【0047】
<変形例>
ここで、記憶部107に格納される、ガス発生器122が作動したときに想定されるエアバッグ123内部の圧力推移データの変形例について、
図8に基づいて説明する。
図8に示す圧力推移データは、ガス発生器122が置かれた温度に対応して3つの形態の圧力推移に関するデータとなっている。なお、本変形例では、エアバッグ123がハンドル2の内部から飛び出す際の圧力推移L1は割愛され、タイミングT2以降の圧力推移が記憶部107に格納されているものとする。ガス発生器122におけるガス発生剤の燃焼特性は、その周囲温度(ガス発生器122の温度)の影響を受けやすい。すなわち、周囲温度が高くなるほどガス発生剤はより激しく燃焼する傾向にある。そこで、ガス発生器122の温度が、常温、低温、高温にあるときの圧力推移データをそれぞれL20、L21、L22とする。なお、常温の圧力推移L20は、
図5に示す圧力推移L2と同一である。そして、圧力推移L20、L21、L22それぞれのピーク圧力は、P1、P2、P3とされる。
【0048】
このような圧力推移データが記憶部107に格納されている場合、各圧力推移に対応する形で、標準作動形態に関する情報も記憶部107に格納されている。そして、
図6に示す作動制御が行われるとき、S106での作動タイミングの決定処理においては、そのときのガス発生器122の温度に基づいて好適な圧力推移がL20~L22の中から選ばれるとともに、それに対応する標準作動形態を踏まえて、そのときの作動タイミングが決定される。この結果、ガス発生器122の温度の影響を受けずに、好適な乗員保護の実現を図ることができる。
【0049】
<第2の実施形態>
第2の実施形態に係る乗員保護システムについて、
図9及び
図10に基づいて説明する。
図9はシートベルト装置50のショルダーストラップ52の端部に設けられたプリテンショナ機構の概略構成を示す図である。本実施形態においては、上記のエアバッグ装置10に加えてシートベルト装置50も本願における保護装置に相当する。本実施形態のシートベルト装置50にはガス発生器63が設けられるとともに、ガス発生器63はその作動のための点火器を有している。そして、ガス発生器63により生成されたガスが供給される所定空間62を内部に有する、金属製のハウジング60が、その一方の端部でガス発生器63に接続されている。なお、ハウジング60の他方の端部は、開口部を介して外部空間に連通している。そして、ハウジング60の直線部分には、その内部の所定空間62を摺動可能なピストン61が配置されており、ピストン61の端部とガス発生器63、ハウジング60とによって、生成されたガスが放出される所定空間62が画定されることになる。したがって、所定空間62の容積は、ピストン61の摺動に伴って変動する。
【0050】
なお、ガス発生器63からガスが流れ込んだ当初は、所定空間62の内部の圧力は大きく上昇するものの、その圧力上昇に伴ってピストン61が摺動し、所定空間62の容積が大きくなることで、所定空間62の内部圧力は減衰していく。なお、ピストン61の端部にはワイヤ65の一端が接続されている。ワイヤ65は、回転軸64と、ショルダーストラップ52の端部のアンカー66に設けられたフック部66aとに接触した状態で巻かれ、その他端が回転軸64に対して固定されている。したがって、ピストン61がガスからの圧力によって摺動すると、ワイヤ65が引っ張られて、ショルダーストラップ52も同じように引っ張られることになる。このとき、ショルダーストラップ52は、乗員70の肩から胸にかけて襷掛けされた状態となっているため(
図1を参照)、ピストン61の摺動により、ショルダーストラップ52を介して乗員70に対して押圧を掛けて、その身体をシート40に拘束させることができる。
【0051】
このようなシートベルト装置50による乗員70の身体の拘束は、シート40に対する乗員70の姿勢を概ね一定とするため、エアバッグ装置10による乗員保護をより効果的なものとすることに貢献する。そこで、本実施形態においては、このようなシートベルト
装置50による乗員70への押圧を好適に制御するために、上記の第1の実施形態と同様に、シートベルト装置50に設けられたガス発生器63の作動制御を行うものとする。
【0052】
ここで、ガス発生器63が作動したときに想定されるハウジング60内部の所定空間62における圧力推移データも、記憶部107に格納されている。当該圧力推移は、
図10の(A)、(B)に概略が示されている。なお、
図10の(A)が、シートベルト装置
50のガス発生器63における標準作動形態の圧力推移を表している。シートベルト装置50に対応する圧力推移について、その傾向においてエアバッグ装置10に対応する圧力推移と異なる点は、ガス発生器63の作動とともに直ちに圧力が上昇する点である(すなわち、エアバッグ123がハンドル2から展開するために必要な圧力推移L1に相当する推移が含まれていない)。
【0053】
ここで、本実施形態における作動制御について言及する。上記の通り、本実施形態の保護装置として、エアバッグ装置10とシートベルト装置50が含まれる。エアバッグ装置10に関する作動制御については、
図6に基づいて既に説明した通りであるから、その詳細(特に、
図10に示す標準作動形態でのガス発生器122の作動タイミングT20からずらす時間ΔTAの決定についての詳細)な説明は割愛する。シートベルト装置50に関しては、作動制御のS104で、シートベルト装置50により乗員70に掛かる適切な保護圧力、すなわち、乗員70に過剰な衝撃が掛からない範囲でその身体を好適にシート40に拘束できる圧力が算出される。この場合も、衝突の際の慣性力に抗して身体を拘束することを考慮して、乗員70の体重等に基づいてシートベルト装置50における保護圧力は算出され得る。
【0054】
また、S105では、シートベルト装置50により乗員70に保護圧力を掛ける保護タイミング、すなわち、シートベルト装置50によってその身体をシート40に拘束するタイミングが算出される。シートベルト装置50における保護タイミングは、例えば、予測部106によって予測された衝突タイミングから一定時間後等の基準に従って決定することができる。
【0055】
上述のシートベルト装置50における保護圧力と保護タイミングとに基づいて、シートベルト装置50のガス発生器63の作動タイミングの決定(S106での処理)について、
図10に基づいて説明する。なお、
図10に示す第3段(a)、第4段(b)は、
図7に示す上段(a)、下段(b)と同じである。また、
図10の時間軸において、タイミングT10、T20、T20’、T30、T40については、第1の実施形態で説明したとおりである。更に、上記のシートベルト装置50における保護タイミングが、シートベルト装置50が乗員70をシート40に拘束するタイミングT140とし表されている。そして、ガス発生器63が作動される作動タイミングが、タイミングT120又はT120’として表されている。
【0056】
ここで、
図10の第1段(A)は、シートベルト装置50に関する標準作動形態を示すものであり、事前の実験等を通して事前に決定されている。その条件は、エアバッグ装置10に関する標準作動形態(
図10の第3段(a))の場合と同じように、乗員70の体重を60kgとし、その乗員70の身体をエアバッグ123が完全に膨張する前にシート40に好適に拘束するために、衝突タイミングT30より早いタイミングT120においてガス発生器63の点火器に着火信号を流しガス発生器63を作動させることが必要であることを説明したものである。当該タイミングT120は、エアバッグ装置10における作動タイミングT20よりも早いタイミングである。そして、この標準作動形態に関する情報、すなわち、衝突タイミングT30後の保護タイミングT140(すなわち、衝突タイミングT3からT140-T30後のタイミング)で保護圧力P13を乗員70に作用させるためには、ガス発生器63の作動タイミングをT120とすることに関する情報は
、記憶部107に記憶されているものとする。
【0057】
ここで、第1の実施形態と同じように、実際のS106では、乗員70の体重が60kgより軽かったとすると、シートベルト装置50により当該乗員70に作用させる保護圧力はP13より軽いP14と算出される。また、実際のS105では、シートベルト装置50における保護タイミングは、標準作動形態の場合と同じタイミングとして算出されたものとする。そうした場合、保護タイミングT140で保護圧力P14を乗員70に作用するためには、シートベルト装置50のガス発生器63を作動させてからより長い時間が経過し所定空間62内の圧力がより減衰した時点で、保護タイミングT140を迎える必要がある。そのためには、
図10の第1段(A)に示す標準作動形態と比べて、ガス発生器63の作動タイミングをΔTBだけ早めて、作動タイミングをT120’とする必要がある(
図10の第2段(B)を参照)。ΔTBは、記憶部107が格納する圧力推移のデータに基づいて、保護圧力P14を踏まえて算出することができる。このように算出されたΔTBに、標準作動形態の作動タイミングT120を考慮して、シートベルト装置50のガス発生器63の作動タイミングT120’が決定される。この作動タイミングT120’は、
図10からも理解できるように、予測部106によって予測された衝突タイミングT30よりも早いタイミングであり、且つ、エアバッグ装置10のガス発生器122の実際の作動タイミングT20’よりも早いタイミングである。
【0058】
そして、S106で作動タイミングT120’が、エアバッグ装置10に関する作動タイミングT20’とともに決定されると、続いてS107では、先ず、シートベルト装置50において、作動タイミングT120’でガス発生器63の点火器へ着火信号が供給されてガス発生器63の作動が実現し、その後、作動タイミングT20’で点火器121へ着火信号が供給されてガス発生器122の作動が実現する。このように、車両1が障害物と衝突する場合に、その衝突よりも前にガス発生器63とガス発生器122をそれぞれ適切なタイミングで作動させることで、好適な乗員保護の実現を図ることができる。
【0059】
なお、上記の第1、第2の実施例では、運転席側のシート40に着座した乗員70の保護について説明を行ったが、本実施形態は、例えば助手席側シートに着座した乗員70の保護にも適用することができる。この場合、状態検知部102により車両1での乗員70の状態に関する情報として、乗員70の体重と、乗員70とダッシュボードあるいはウィンドウスクリーンとの離間距離に関する情報が検知される。前者は、車両1が障害物と衝突した際に発生する慣性力に関連し、後者は、衝突が発生した際の乗員70とダッシュボード、ウィンドウスクリーンとの接触到達時間に関連する情報である。さらに本実施形態は車両のほかのシート(例えば後席)の乗員の保護システムにも適用してもよい。
【0060】
<その他の実施形態>
第1の実施形態においては、乗員70を保護する保護装置としてエアバッグ装置10のみが含まれる形態が開示され、第2の実施形態においては、保護装置としてエアバッグ装置10およびシートベルト装置50が含まれる形態が開示されている。これらの形態の他に、保護装置としてシートベルト装置50のみが含まれる形態、またはその他の装置が含まれる形態も、本願明細書の開示範囲に属する。いずれの保護装置においても、当該保護装置を作動するためのガス発生器が設けられており、その生成ガスを利用して保護装置を介して乗員70に作用する保護圧力、およびその保護タイミングについては、当業者であればこれまでの本願での開示に基づき十分に理解し得る。そして、それらの保護圧力と保護タイミングでの保護装置の作動を実現するために、
図7及び
図10に基づいて説明したガス発生器の作動タイミングの決定手法を適用することができる。なお各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。特許請求の範囲の記載によって特定される本発明は、実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0061】
1: 車両
2: ハンドル
10: エアバッグ装置
40: シート
50: シートベルト装置
60: ハウジング
61: ピストン
62: 所定空間
63: ガス発生器
70: 乗員
100: 制御装置
101: 取得部
102: 状態検知部
103: 制御部
104: 算出部
105: 作動制御部
106: 予測部
107: 記憶部
121: 点火器
122: ガス発生器
123: エアバッグ
130: 車両情報取得部
140: センサ