(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】トルクリミッタ及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 7/02 20060101AFI20230831BHJP
F16F 15/139 20060101ALI20230831BHJP
F16F 15/14 20060101ALI20230831BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20230831BHJP
F16D 13/70 20060101ALI20230831BHJP
F16D 13/64 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
F16D7/02 A
F16F15/139 D
F16F15/14 Z
F16F15/134 A
F16D13/70 A
F16D13/64 A
(21)【出願番号】P 2019181988
(22)【出願日】2019-10-02
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】上原 宏
(72)【発明者】
【氏名】萩原 祥行
(72)【発明者】
【氏名】前田 昌宏
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223401(JP,A)
【文献】特開2011-226572(JP,A)
【文献】特開2005-133859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 7/02
F16D 11/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部と、前記環状部の内周側に形成された収容部と、を有するフライホイールに固定されるとともに、前記フライホイールへの固定部を除いて前記収容部の内部に配置されるトルクリミッタであって、
前記フライホイールからのトルクが入力される第1プレートと、
前記第1プレートと軸方向に対向して配置された第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとの間に配置された摩擦ディスクと、
前記第2プレートを前記摩擦ディスクに押圧するための押圧部材と、
前記第2プレートとの間に前記押圧部材を圧縮された状態で支持するための第3プレートと、
を備え、
前記第3プレートは、
前記押圧部材を支持する支持部と、
前記支持部の外周部に、前記摩擦ディスクの外周面を覆うとともに前記フライホイールの環状部の内周面に対向して軸方向に延びて形成され、円周方向に並べて配置された複数の第1開口部を有する筒状部と、
を有
し、
前記フライホイールの環状部は円周方向に並べて配置された複数の取付部を有し、前記取付部は、径方向内方に突出する突出部を有しており、
前記第3プレートの第1開口部は、前記第3プレートと前記突出部との干渉を避けるように前記突出部に対応する位置に配置されている、
トルクリミッタ。
【請求項2】
前記第3プレートの筒状部の外周面の径は、前記突出部の最小内径よりも大きい、請求項
1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記押圧部材は、コーンスプリングであり、前記第3プレートの筒状部の内部に配置されている、請求項
1又は2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記第1プレートと前記第2プレートとは相対回転不能である、請求項1から
3のいずれかに記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記第2プレートは、外周部に前記第1プレートに向かって軸方向に延びる複数の爪を有しており、
前記第1プレートは、前記第2プレートの複数の爪が係合する複数の孔を有している、
請求項
4に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記第3プレートは、外周部に前記第2プレートの複数の爪が通過可能な第2開口部を有している、請求項
5に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載のトルクリミッタと、
前記トルクリミッタの出力側に設けられ、伝達される回転変動を減衰するためのダンパユニットと、
を備えたトルクリミッタ付きダンパ装置。
【請求項8】
フライホイールと、
前記フライホイールからのトルクを出力側部材に伝達する請求項1から
6のいずれかに記載のトルクリミッタと、
を備えた動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタ、特に、収容部を有するフライホイールと出力側部材との間に配置されるトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン及び電動機を備えたハイブリッド車両では、エンジン始動時等において出力側から過大なトルクがエンジン側に伝達するのを防止するために、特許文献1に示されるようなトルクリミッタ機能を有するトルク変動吸収装置が用いられている。
【0003】
特許文献1のトルク変動吸収装置は、1対のプレート及び複数のトーションスプリングを有するダンパ部を有しており、このダンパ部の外周側にトルクリミッタが設けられている。トルクリミッタとダンパ部とは、フライホイールに形成された収容部に収容されている。フライホイールの収容部の外周側には、環状部が形成されており、この環状部に、トルクリミッタのプレートがボルトによって固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のトルク変動吸収装置は、収容部の外周側に形成された環状部に、複数のボルト取付部が設けられている。このボルト取付部は所定の肉厚(径方向厚み)が必要である。このため、収容部の外周側にさらに径方向に所定の厚みを有する環状部が必要となり、装置の径方向寸法が大きくなる。また、装置全体の径方向寸法を抑えようとすると、トルクリミッタのトルク容量が小さくなり、さらにはダンパ部のトルク変動吸収性能が低下する。
【0006】
本発明の課題は、フライホイールの収容部に配置されるトルクリミッタにおいて、トルクリミッタのトルク容量を確保しつつ、フライホイールを含めた装置全体の径方向寸法を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るトルクリミッタは、フライホイールに固定される。フライホイールは、環状部と、環状部の内周側に形成された収容部と、を有する。そして、トルクリミッタは、フライホイールへの固定部を除いて収容部の内部に配置される。このトルクリミッタは、第1プレートと、第2プレートと、摩擦ディスクと、押圧部材と、第3プレートと、を備えている。第1プレートはフライホイールからのトルクが入力される。第2プレートは第1プレートと軸方向に対向して配置されている。摩擦ディスクは第1プレートと第2プレートとの間に配置されている。押圧部材は第2プレートを摩擦ディスクに押圧する。第3プレートは、第2プレートとの間に押圧部材を圧縮された状態で支持する。
【0008】
また、第3プレートは、支持部と、筒状部と、を有している。支持部は押圧部材を支持する。筒状部は、支持部の外周部に、摩擦ディスクの外周面を覆うように設けられている。また、筒状部は、フライホイールの環状部の内周面に対向して軸方向に延びて形成され、円周方向に並べて配置された複数の第1開口部を有する。
【0009】
このトルクリミッタは、押圧部材によって、第1プレートと第2プレートとの間に摩擦ディスクが挟持されている。押圧部材は、第3プレートによって支持されている。
【0010】
フライホイールからのトルクは、第1プレートを介して摩擦ディスクに伝達され、出力される。フライホイールから過大なトルクが入力されると、第1プレートと第2プレートとの間に挟持された摩擦ディスクが滑り、出力側に過大なトルクが伝達されるのを防止する。
【0011】
ここで、第3プレートは、環状部の内周面に対向する部分に筒状部を有している。この筒状部は、摩擦ディスクの外周面を覆っている。すなわち、筒状部は、トルクリミッタにおいて、フライホイールの収容部に収容される部分の最外径部分に位置している。そして、筒状部には複数の第1開口部が形成されている。したがって、この第1開口部の外周側にフライホイールのボルト締付け部等の取付部を配置すれば、取付部を、肉厚確保のために径方向内方に突出させても、取付部と第3プレートとが干渉するのを避けることができる。このため、トルクリミッタのトルク容量を確保しつつ、装置全体の径方向寸法を抑えることができる。
【0012】
(2)好ましくは、フライホイールの環状部は円周方向に並べて配置された複数の取付部を有している。この取付部は、径方向内方に突出する突出部を有している。この場合、第3プレートの第1開口部は、第3プレートと突出部との干渉を避けるように突出部に対応する位置に配置されている。
【0013】
(3)好ましくは、第3プレートの筒状部の外周面の径は、突出部の最小内径よりも大きい。
【0014】
ここでは、第3プレートの筒状部の外径が比較的大きいので、筒状部の内周側に配置されている摩擦ディスクの径を大きくすることができる。したがって、トルクリミッタのトルク容量を大きくすることができる。
【0015】
(4)好ましくは、押圧部材は、コーンスプリングであり、第3プレートの筒状部の内部に配置されている。
【0016】
(5)好ましくは、第1プレートと前記第2プレートとは相対回転不能である。
【0017】
(6)好ましくは、第2プレートは、外周部に第1プレートに向かって軸方向に延びる複数の爪を有している。この場合、第1プレートは、第2プレートの複数の爪が係合する複数の孔を有している。
【0018】
(7)好ましくは、第3プレートは、外周部に第2プレートの複数の爪が通過可能な第2開口部を有している。ここでは、第2プレートの外径を大きくしても、第2プレートの爪が第3プレートと干渉を避けることができる。
【0019】
(8)本発明に係るトルクリミッタ付きダンパ装置は、前述のトルクリミッタと、ダンパユニットと、を備えている。ダンパユニットは、トルクリミッタの出力側に設けられ、伝達される回転変動を減衰する。
【0020】
(9)本発明に係る動力伝達装置は、フライホイールと、フライホイールからのトルクを出力側部材に伝達する前述のトルクリミッタと、を備えている。
【発明の効果】
【0021】
以上のような本発明では、フライホイールの収容部に配置されるトルクリミッタにおいて、トルクリミッタのトルク容量を確保しつつ、フライホイールを含めた装置全体の径方向寸法を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態による動力伝達装置の断面図。
【
図4】ノックピンとノックピン係合用孔との位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態による動力伝達装置1の断面図である。この動力伝達装置1は、フライホイール2と、トルクリミッタ付きダンパ装置3と、を有している。また、
図2はフライホイール2を除く動力伝達装置1の正面図である。
図1において、動力伝達装置1の左側にエンジンが配置され、右側に電動機や変速装置等を含む駆動ユニットが配置されている。
【0024】
[フライホイール2]
フライホイール2は、図示しないエンジン側に部材に固定されている。フライホイール2は、
図1~
図3に示すように、円板状の部材であり、環状部4と収容部5とを有している。なお、
図3はフライホイール2の正面図である。
【0025】
環状部4は、フライホイール2の最外周部に設けられている。環状部4の駆動ユニット側(
図1の右側)の表面には、
図2及び
図3に示すように、複数のネジ穴4aが形成されるとともに、複数のノックピン6が固定されている。複数のネジ穴4aは、円周方向に所定の間隔で配置されており、所定の深さを有している。また、複数のノックピン6は、円周方向に所定の間隔で設けられ、
図4に示すように、胴部6aと、テーパ部6bと、を有している。胴部6aは、円柱形状であり、高さ(フライホイール2の環状部4の表面からの突出長さ)Hを有している。テーパ部6bは、胴部6aの先端から徐々に外径が小さくなるように、延びて形成されている。
【0026】
環状部4のネジ穴4aの周囲は、ボルト締付け部4b(取付部の一例)となっている。このボルト締付け部4bは、環状部4の内周面4cから径方向内方に突出する突出部4dを有している。このため、ネジ穴4aの周囲は所定の肉厚を有しており、ボルト締付け部4bは十分な強度を有している。
【0027】
環状部4には複数の凹部4eが形成されている。凹部4eは、ボルト締付け部4bが形成されていない部分において、環状部の4の内周面4cから径方向外方に凹むように形成されている。
【0028】
収容部5は、環状部4の径方向内方に形成されている。収容部5は、環状部4の取り付け表面からエンジン側に所定の深さを有している。また、
図3に示すように、収容部5の内周部には、フライホイール2をエンジン側の部材に固定するための複数の孔5aが形成されている。
【0029】
[トルクリミッタ付きダンパ装置3]
このトルクリミッタ付きダンパ装置3(以下、単に「ダンパ装置3」と記載する場合もある)は、フライホイール2の環状部4に固定され、エンジンと駆動ユニットとの間で伝達されるトルクを制限するとともに、回転変動を減衰するための装置である。ダンパ装置3は、トルクリミッタユニット10と、ダンパユニット20と、を有している。
【0030】
[トルクリミッタユニット10]
トルクリミッタユニット10は、フライホイール2とダンパユニット20との間で伝達されるトルクを制限する。
図5及び
図6に拡大して示すように、トルクリミッタユニット10は、ダンパカバー11(第1プレートの一例)と、プレッシャリング12(第2プレートの一例)と、摩擦ディスク13と、コーンスプリング14(押圧部材の一例)と、ダンパリング15(第3プレートの一例)と、を有している。
【0031】
ダンパカバー11は、環状のプレートであり、摩擦部11aと、固定部11bと、複数の係合孔11cと、を有している。
【0032】
摩擦部11aはダンパカバー11の内周部に形成され、固定部11bは摩擦部11aの外周部に形成されている。固定部11bには、それぞれ複数の固定用孔11d及びノックピン用孔11e(
図4参照)が形成されている。固定用孔11dを貫通するボルトを、フライホイール2のネジ穴4aに締め付けることによって、ダンパカバー11はフライホイール2の環状部4の表面に固定されている。また、ノックピン用孔11eは、フライホイール2のノックピン6に対応する位置に形成されている。
【0033】
複数の係合孔11cは、軸方向に貫通しており、摩擦部11aと固定部11bとの径方向間に形成されている。複数の係合孔11cは、円周方向に所定の間隔で配置され、各孔11cは円周方向に長く形成されている。
【0034】
プレッシャリング12は、環状のプレートであり、ダンパカバー11の摩擦部11aと軸方向に所定の間隔をあけて対向して配置されている。プレッシャリング12は、複数の爪12aを有している。
【0035】
複数の爪12aは、プレッシャリング12の外周端に円周方向に等角度間隔で配置されている。爪12aは、プレッシャリング12の外周端から軸方向ダンパカバー11側に延びて形成され、ダンパカバー11の係合孔11cに係合している。したがって、ダンパカバー11とプレッシャリング12とは相対回転不能である。
【0036】
摩擦ディスク13は、ダンパカバー11の摩擦部11aとプレッシャリング12との間に配置されている。摩擦ディスク13は、コアプレート16と、コアプレート16の両側面にリベットにより固定された1対の摩擦部材17と、を有している。そして、一方の摩擦部材17がダンパカバー11の摩擦部11aに当接し、他方の摩擦部材17がプレッシャリング12に当接している。
【0037】
コーンスプリング14は、プレッシャリング12とダンパリング15との間に配置されている。コーンスプリング14は、プレッシャリング12を介して摩擦ディスク13をダンパカバー11の摩擦部11aに押圧している。
【0038】
ダンパリング15は、プレッシャリング12のさらにエンジン側に配置され、プレッシャリング12との間に、コーンスプリング14を圧縮された状態で支持している。ダンパリング15は、
図5に示すように、支持部15aと、筒状部15bと、固定部15cと、を有している。
【0039】
支持部15aは、環状であり、ダンパリング15の内周部に形成されている。支持部15aはプレッシャリング12と軸方向に対向しており、この支持部15aとプレッシャリング12とによって、コーンスプリング14を挟持している。
【0040】
筒状部15bは、支持部15aの外周から軸方向ダンパカバー11側に延びて形成されている。筒状部15bは、摩擦ディスク13の外周面を、所定の隙間を介して覆うように配置されている。筒状部15bは、
図7に示すように、それぞれ複数の第1開口部15d及び第2開口部15eを有している。第1開口部15d及び第2開口部15eは、それぞれ円周方向に所定の角度間隔で配置されている。
【0041】
第1開口部15dは、
図3に示すように、フライホイール2のボルト締付け部4bに対応する位置に形成されている。ここで、前述のように、ボルト締付け部4bの突出部4dは、フライホイール2の環状部4の内周面4cから径方向内方に突出して形成されている。また、筒状部15bの外周面の径は、フライホイール2のボルト締付け部4bの突出部4dの最小内径より大きい。このため、ボルト締付け部4bの突出部4dと筒状部15bとが干渉しないように、第1開口部15dは、ボルト締付け部4bの突出部4dに対応する位置に、突出部4dを避けるように形成されている。
【0042】
複数の第2開口部15eは、前述のように、円周方向に所定の角度間隔で形成されている。この第2開口部15eを、プレッシャリング12の爪12aが通過している。したがって、プレッシャリング12の爪12aと、ダンパリング15の筒状部15bとを径方向において同じ位置に配置しても、互いの干渉を避けることができる。
【0043】
固定部15cは、筒状部15bの先端から径方向外方に延びている。
図7に示すように、この固定部15cに、それぞれ複数の固定用孔15f及びノックピン用孔15gが形成されている。固定用孔15fは、第1開口部15dの外周側に形成されており、この固定用孔15fを通過するボルトによって、ダンパリング15はダンパカバー11とともにフライホイール2の環状部4に固定されている。より詳細には、ダンパリング15がフライホイール2の環状部4に装着され、このダンパリング15をフライホイール2との間に挟むように、ダンパカバー11が装着されている。また、ノックピン用孔15gは、フライホイール2のノックピン6に対応する位置に形成されている。
【0044】
[ダンパユニット20]
図1に示すように、ダンパユニット20は、クラッチプレート21及びリティニングプレート22と、ハブフランジ23と、複数のトーションスプリング24と、ヒス発生機構25と、を有している。
【0045】
クラッチプレート21の外周部には、トルクリミッタユニット10を構成する摩擦ディスク13が連結されている。クラッチプレート21は、円板状に形成され、複数の窓部21aを有している。リティニングプレート22は、クラッチプレート21と軸方向に間隔をあけて対向して配置されている。リティニングプレート22は、円板状に形成され、複数の窓部22aを有している。クラッチプレート21とリティニングプレート22とは、リベット(図示せず)により互いに固定されており、軸方向及び回転方向に相対移動不能である。
【0046】
ハブフランジ23は、中心部に形成された筒状のハブ26と、ハブ26の外周面から径方向外方に延びるフランジ28と、を有している。ハブ26の内周面にはスプライン孔26aが形成されており、このスプライン孔26aに、駆動ユニットの入力軸がスプライン係合可能である。フランジ28は、円板状に形成され、クラッチプレート21とリティニングプレート22との軸方向間に配置されている。フランジ28は複数の収容部28aを有している。各収容部28aは、クラッチプレート21の窓部21a及びリティニングプレート22の窓部22aと対応する位置に形成されている。
【0047】
複数のトーションスプリング24は、フランジ28の収容部28aに収容され、クラッチプレート21の窓部21a及びリティニングプレート22の窓部22aによって軸方向及び径方向に保持されている。また、トーションスプリング24の円周方向の両端面は、それぞれ各窓部21a,22a及び収容部28aの円周方向の端面に当接可能である。
【0048】
ヒス発生機構25は、
図1に示すように、第1ブッシュ31と、第2ブッシュ32と、フリクションプレート33と、コーンスプリング34と、を有している。
【0049】
第1ブッシュ31は、環状に形成され、クラッチプレート21の内周部と、ハブフランジ23のフランジ28の内周部と、の軸方向間に配置されている。第1ブッシュ31は軸方向に突出する複数の係合突起31aを有しており、この係合突起31aがフランジ28に形成された孔に所定の隙間を介して係合している。したがって、第1ブッシュ31はハブフランジ23と所定の角度範囲内でのみ相対回転可能である。
【0050】
第2ブッシュ32及びフリクションプレート33は、リティニングプレート22と、ハブフランジ23のフランジ28と、の軸方向間に配置されている。第2ブッシュ32は、環状に形成され、軸方向に突出する複数の係合突起32aを有している。この係合突起32aはリティニングプレート22に形成された孔に係合しており、したがって、第2ブッシュ32とリティニングプレート22とは相対回転不能である。フリクションプレート33は、フランジ28と第2ブッシュ32との間に、これらの部材28,32と相対回転自在に配置されている。
【0051】
コーンスプリング34は、リティニングプレート22と第2ブッシュ32との軸方向間に配置されている。コーンスプリング34は、第2ブッシュ32及びフリクションプレート33を第1ブッシュ31に押圧するとともに、第1ブッシュ31をクラッチプレート21に押圧している。
【0052】
このようなヒス発生機構25では、クラッチプレート21及びリティニングプレート22とハブフランジ23とが相対回転すると、第1ブッシュ31とクラッチプレート21との間、及び第2ブッシュ32とフリクションプレート33との間で摩擦抵抗(ヒステリシストルク)が発生する。
【0053】
[トルクリミッタユニット10とノックピン6との関係]
トルクリミッタユニット10は、ダンパカバー11及びダンパリング15の各固定部11b,15cを除いて、フライホイール2の収容部5に配置されている。そして、この動力伝達装置1を組み付ける場合、まず、トルクリミッタユニット10とダンパユニット20とが組み付けられ、このダンパ装置3がフライホイール2に固定される。このとき、フライホイール2のノックピン6を、ダンパカバー11及びダンパリング15のそれぞれのノックピン用孔11e,15gに嵌め込むことによって、フライホイール2とダンパ装置3とは径方向に位置決めされる。
【0054】
ここで、フライホイール2のボルト締付け部4bの突出部4dが、ダンパリング15の第1開口部15dを通過して径方向内方に突出している。このため、組付けの際に、フライホイール2とダンパ装置3とが径方向に位置決めされていない場合、第1開口部15dから径方向内方に突出しているボルト締付け部4bの突出部4dが、コーンスプリング14に干渉するおそれがある。
【0055】
そこで、
図4に示すように、コーンスプリング14の収容部5の内部側(エンジン側の面)と、ダンパリング15のエンジン側の面(すなわち、トルクリミッタユニット10のフライホイール2への取付面)と、の間の長さhは、ノックピン6の胴長さHよりも短くなるように設定されている。
【0056】
したがって、トルクリミッタユニット10及びダンパユニット20を含むダンパ装置3を、フライホイール2の収容部5に収容する際には、まずノックピン6がダンパ装置3のノックピン用孔11e,15gに嵌め込まれる。これにより、フライホイール2とダンパ装置3とが径方向に位置決めされ、その後、コーンスプリング14が収容部5に進入する。したがって、フライホイール2のボルト締付け部4bの突出部4dとコーンスプリング14とが干渉するのを避けることができる。
【0057】
[動作]
エンジンからフライホイール2に伝達された動力は、トルクリミッタユニット10を介してダンパユニット20に入力される。ダンパユニット20では、トルクリミッタユニット10の摩擦ディスク13が固定されているクラッチプレート21及びリティニングプレート22に動力が入力され、この動力は、トーションスプリング24を介してハブフランジ23に伝達される。そして、ハブフランジ23から、さらに出力側の電動機、発電機、変速機等に動力が伝達される。
【0058】
また、例えば、エンジン始動時においては、出力側の慣性量が大きいために、出力側からエンジンに過大なトルクが伝達される場合がある。このような場合は、トルクリミッタユニット10によってエンジン側に伝達されるトルクが所定値以下に制限される。
【0059】
ダンパユニット20においては、クラッチプレート21及びリティニングプレート22からトーションスプリング24に動力が伝達されると、トーションスプリング24が圧縮される。また、トルク変動によって、トーションスプリング24は伸縮を繰り返す。トーションスプリング24が伸縮すると、クラッチプレート21及びリティニングプレート22とハブフランジ23との間でねじれが生じる。このねじれによって、ヒス発生機構25が作動し、ヒステリシストルクが発生する。これにより、トルク変動が減衰される。
【0060】
[特徴]
(1)フライホイール2において、ボルト締付け部4bに十分な肉厚が確保されている。このため、フライホイール2にダンパ装置3をボルトによって固定しても、強度不足になることはない。
【0061】
一方で、トルクリミッタユニット10の本体部分の最外周部であるダンパリング15の筒状部15bに第1開口部15dを設け、ダンパリング15とフライホイール2のボルト締付け部4b(突出部4d)の干渉を避けている。このため、ダンパリング15の筒状部15bの外径を大きくすることができる。したがって、外径の大きい摩擦ディスク13を採用することができ、トルク容量を損なうことなく、装置の小型化を図ることができる。
【0062】
(2)ダンパリング15とプレッシャリング12の爪12aとの干渉を避けるために、ダンパリング15に第2開口部15eを形成している。このため、プレッシャリング12の爪12aが外部に露出し、フライホイール2の環状部4の内周面4cに干渉するおそれがある。
【0063】
しかし、フライホイール2の環状部4の内周面4cにおいて、第2開口部15eと対向する位置には、外周側に凹む凹部4eが設けられているために、プレッシャリング12の爪12aがフライホイール2の環状部4に干渉するのを避けることができる。
【0064】
(3)ダンパリング15に第1開口部15dを設けていることにより、フライホイール2のボルト締付け部4bの突出部4dが、ダンパリング15の第1開口部15dを通過して径方向内方に突出している。このため、フライホイール2の収容部5にダンパ装置3を組み付ける際に、第1開口部15dから径方向内方に突出している突出部4dが、コーンスプリング14に干渉するおそれがある。
【0065】
しかし、組み付け時において、コーンスプリング14がフライホイール2の収容部5に収容される前に、フライホイール2のノックピン6がダンパ装置3のノックピン用孔11e,15gに嵌め込まれ、フライホイール2とダンパ装置3とが径方向に位置決めされる。このため、フライホイール2の突出部4dとコーンスプリング14とが干渉するのを避けることができる。
【0066】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0067】
(a)前記実施形態では、トルクリミッタユニット10に加えてダンパユニット20が設けられたダンパ装置3に本発明を適用したが、ダンパユニット20を有していない装置に対しても、本件発明を同様に適用することができる。
【0068】
(b)前記実施形態では、ダンパカバー11及びダンパリング15をフライホイール2に固定するようにしたが、ダンパカバー11とダンパリング15とを固定しておき、ダンパカバー11及びダンパリング15のいずれか一方をフライホイール2に固定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 動力伝達装置
2 フライホイール
3 トルクリミッタ付きダンパ装置
4 環状部
4b ボルト締付け部(取付部)
4c 環状部内周面
4d 突出部
5 収容部
10 トルクリミッタユニット
11 ダンパカバー(第1プレート)
11c 係合孔
12 プレッシャリング(第2プレート)
12a 爪
13 摩擦ディスク
14 コーンスプリング(押圧部材)
15 ダンパリング(第3プレート)
15a 支持部
15b 筒状部
15c 固定部
15d 第1開口部
15e 第2開口部