(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】色素製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09B 61/00 20060101AFI20230831BHJP
C09B 23/08 20060101ALI20230831BHJP
C09B 67/44 20060101ALI20230831BHJP
A23L 5/44 20160101ALI20230831BHJP
【FI】
C09B61/00 A
C09B23/08
C09B67/44 Z
A23L5/44
(21)【出願番号】P 2019192122
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】519378506
【氏名又は名称】神戸化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110722
【氏名又は名称】齊藤 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100213540
【氏名又は名称】鈴木 恵庭
(72)【発明者】
【氏名】久仁 尚平
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-023736(JP,A)
【文献】特開平10-191840(JP,A)
【文献】特開2011-168649(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02580966(EP,A1)
【文献】特開2014-025039(JP,A)
【文献】特開2008-136432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 61/00
C09B 23/08
C09B 67/44
A23L 5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロセチンと、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、増粘多糖類と、を含み、pHがアルカリ性である色素液を調整するステップと、
前記色素液をさらに中性に調整するステップと、
を含み構成されてなることを特徴とする色素製剤の製造方法。
【請求項2】
水とポリグリセリン脂肪酸エステルの混合液であって、pHがアルカリ性である混合液を調整するステップと、
アルカリ性に調整された前記混合液にクロセチン及び増粘多糖類を加えて色素液を調整するステップと、
を含み構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の色素製剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素製剤の製造方法に関し、さらに詳しくは、クチナシやサフランなどを原料とする黄色の色素成分を主成分とする色素製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色系の食品用色素としては、例えば、クチナシ黄色素、ベニバナ黄色素、マリーゴールド色素、リボフラビン、β-カロテンなどがある。クチナシ黄色素はアカネ科のクチナシの果実に含まれるクロシンや、クロシンを酸又はアルカリや酵素等を利用して糖を加水分解することにより得られるクロセチンを主成分とする。クロシンは他にもアヤメ科のサフランの雌しべの先端である柱頭などに含まれている。クロセチンはクロシンと共に黄色素として、例えば、菓子・パン・中華麺・デザート・水産加工品・漬物などの食品の着色に広く利用されている。クロセチンとクロシンの色調を比較するとクロセチンはクロシンに比べて明るい鮮明なレモンイエローを呈するので食品への利用に際しては有用性が高いといえる。
【0003】
しかしながら、クロセチンは難水溶性であることから、クロシンよりも色調的に優れているにもかかわらず、飲料などの水性食品に対し、容易に利用することができなかった。また、クロセチンはpH6以下になるとやや褐色を呈すると共に凝集・沈殿が生じるという問題があった。
【0004】
従来、クロセチンを水性食品の着色料として使用可能とするための色素製剤の製造方法がいくつか提案されている。例えば、クロセチンを、糖類を含有する水溶液中に分散液を調整する際に、該分散液の粒子径をメジアン径で0.5μm未満とすることを特徴とするクロセチン製剤の製造方法(特許文献1)、クロセチンを、糖類を含有する水溶液中に分散してその平均粒子径を0.5~5μmとし、得られた分散液を乾燥することを特徴とする粉末状クロセチン製剤の製造方法(特許文献2)である。
【0005】
また、乳化剤を使用せず水に溶解する方法として、pHをアルカリにしてカロチノイド色素であるクロセチンを一旦溶解し、その溶液にサイクロデキストリンを混合後、pHを中性にすることによってクロセチンを可溶化し、必要に応じて増粘剤を添加して粘性を持たせることにより安定した液剤を調整する可溶化方法(特許文献3)が提案されており、さらに、光や各種薬剤に対する耐性を賦与するために、少量の水を加えてペースト状としたα-サイクロデキストリンに、水酸化ナトリウムに溶解したクロセチンを添加し、激しく攪拌した後遠心分離してα-サイクロデキストリン包接クロセチンを得る方法(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
しかし、上記したこれらの技術においては、より沈殿が生じやすい酸性飲料への添加は想定されておらず、中性域の水性食品には使用が可能であっても、酸性域においては凝集や沈殿が生じうる点において満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-29585号公報
【文献】特開2006-335859号公報
【文献】特開平7-23736号公報
【文献】特開平6-248193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意検討を行ったところ、アルカリ条件下において、ポリグリセリン脂肪酸エステルとアラビアガムとクロセチンを混合することにより得られた色素製剤を用いて酸性飲料に着色した場合にはクロセチン本来の黄色の色調を維持しつつ、凝集・沈殿が抑制されることを見出した。そして、さらに種々検討を行うことによって本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
本発明は、クロセチンを酸性下、例えば、酸性飲料などの着色に使用した場合であっても凝集や沈殿の発生を抑制し、黄色の色調で着色することが可能な色素製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
より好ましくは、本発明は、クロセチンをアルカリ条件下において、乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルとアラビアガムのような樹液由来の増粘多糖類と共に混合し、さらに色素液を中性に調整することにより、酸性下、例えば、酸性飲料などの着色に使用した場合であっても凝集や沈殿の発生を抑制しつつ、黄色の色調で着色することが可能な色素製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため請求項1に記載の本発明は、クロセチンと、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、増粘多糖類とを含み、pHがアルカリ性である色素液を調整するステップと、前記色素液をさらに中性に調整するステップとを含み構成されてなることを特徴とする色素製剤の製造方法を提供する。
【0012】
上記課題を解決するため請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の色素製剤の製造方法において、水とポリグリセリン脂肪酸エステルの混合液であって、pHがアルカリ性である混合液を調整するステップと、アルカリ性に調整された前記混合液にクロセチン及び増粘多糖類を加えて色素液を調整するステップとを含み構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る色素製剤の製造方法によれば、水への溶解性が高く、酸性飲料に着色した場合においても凝集や沈殿を抑制し、しかも、クロセチンが本来有する黄色の色調で着色することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明に係る色素製剤の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る色素製剤の製造方法について好ましい実施例に基づき詳細に説明する。
【0017】
初めに、クロセチンは、クチナシ黄色素の主成分であるクロシンを加水分解することによっても得ることができるが、その他にもクロシンを酵素処理することによって調製することもできる。本発明においては、クロセチンの製造方法の如何を問わず、いずれのクロセチンであってもよく、製造方法に限定されるものではない。また、本発明において使用するクロセチンはクロシンとの混合物であってもよい。
【0018】
1.[混合液の調整]
本発明に係る色素製剤の製造方法は、例えば、以下のステップに従って調整される。初めに、pHをアルカリ性にした水と乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルの混合液を調整する(ステップS1)。利用可能なポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、デカグリセリンステアリン酸エステル、デカグリセリンミリスチン酸エステル、デカグリセリンオレイン酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン重合度が10、エステル化度が1のポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
【0019】
水とポリグリセリン脂肪酸エステルの混合は、水にポリグリセリン脂肪酸エステルを加えて混合するが、混合液の調整は常温(20~30℃)で行ってもよく、必要に応じて水を加熱しながらポリグリセリン脂肪酸エステルを加えるか、或いは予め加温した温水にポリグリセリン脂肪酸エステルを加えて混合液を調整してもよい。加熱温度は40~95℃、好ましくは60~90℃であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルの濃度は0.5~30.0質量%、より好しくは1.0~15.0%である。また、混合液を調整する際には撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌条件は特に限定するものではないが、例えば、撹拌機としてスリーワンモータTYPE-600G(新東科学株式会社製)により約600rpm(例えば、400~800rpm)で撹拌時間約10分間(例えば、5~15分)を例示することができる。
【0020】
また、混合液調整の際に、粘度調整のために、例えば、D-ソルビトール、還元水あめ、グリセリンなどの1種又は2種以上を粘度調整剤として加えてもよい。D-ソルビトール等の粘度調整剤は水に溶解した状態で加えることが好ましい。
【0021】
次いで、混合液にアルカリ剤を加えてpHをアルカリ性に調整する。クロセチンは難水溶性であり、そのままでは水に溶解し難いため、pHをアルカリ性することで溶解しやすくするためである。混合液に加えるアルカリ剤は特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、L-酒石酸水素カリウム、DL-酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、ピロリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどの1種又は2種以上を用いることができ、好ましくは水酸化ナトリウムを用いることができる。調整すべきpHとしては、例えば、pH9.0~14.0であり、好ましくは、pH10.0~12.0である。なお、このpH調整を行う際にも撹拌しながら行うが、例えば、上記のスリーワンモータTYPE-600G(新東科学株式会社製)により約600rpm(例えば、400~800rpm)で撹拌時間約5分間(例えば、3~10分)を例示することができる。
【0022】
ここで、混合液の調整は、上記手順に限定されるものではなく、水にアルカリ剤を加えてから乳化剤を混合してもよい。この場合の混合液のpHや水の加温、撹拌条件等については上記手順と同様である。
【0023】
2.[色素液の調整]
次に、アルカリ性に調整された混合液にクロセチン及び増粘多糖類を加えて溶解し、色素液の調整を行う(ステップS2)。色素液の調整は、混合液にクロセチンを加えて溶解した後に増粘多糖類を加えてもよく、混合液に増粘多糖類を加えて溶解した後にクロセチンを加えてもよい。もちろん、クロセチンと増粘多糖類を同時に混合液に加えることもできる。増粘多糖類としては、例えば、アラビアガム、ガティガム、カラヤガム、トラガカントガムなどの樹液由来の増粘多糖類を好適に使用することができ、これらの樹液由来の増粘多糖類は1種又は2種以上を使用することができる。この中でも、粘性の特性からアラビアガム又はガティガムが好ましくアラビアガム又はガティガムの少なくとも1種類を用いるとよい。
【0024】
混合液に対するクロセチン及び増粘多糖類の溶解方法は特に限定するものではないが、例えば、上記のスリーワンモータTYPE-600G(新東科学株式会社社製)の撹拌装置で600rpm、(例えば、400~800rpm)で撹拌時間約15分間(例えば、10~20分)を例示することができる。
【0025】
また、色素液調整の際に、防腐のために、例えば、エタノールなどの品質保持剤を加えてもよい。
【0026】
[他の手順による色素液の調整]
色素液の調整は上記した手順の他、以下のような手順によって調整することもできる。初めに、水と乳化剤であるポリグリセリン脂肪酸エステルの混合液中にクロセチンを含んだ色素液を調整する。色素液の混合条件(温度や撹拌装置の回転数など)も上記と同様である。また、必要に応じてD-ソルビトールなどの粘度調整剤を加えてもよいことも上記と同様である。そして、この色素液に増粘多糖類を加え、さらにpHをアルカリ性に調整する。混合条件(撹拌装置の回転数など)も上記の場合と同様である。また、必要に応じてエタノールなどの品質保持剤を加えてもよいことも上記と同様である。なお、クロシンはpHがアルカリ性の下ではクロセチン化するので、色素液の調整の際に加えるクロセチンはクロシンを含んでいてもよく、クロセチンを加える代わりにクロシンを加えてもよい。
【0027】
次に、撹拌混合された色素液のpHを中性に調整する(ステップS3)。中性にpH調整するのはクロセチンが有する鮮明な黄色の色調を維持するためである。色素液のpHを中性に調整する際に使用する色素液のpH調整剤(酸剤)としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、コハク酸、L-酒石酸、DL-酒石酸、酢酸、乳酸、フマル酸、DL-リンゴ酸等の有機酸や塩酸、硫酸、シュウ酸、リン酸等の無機酸などの1種又は2種以上を用いることができ、好ましくはクエン酸を用いることができる。調整すべきpHとしてはpH6.0~8.0であり、好ましくは、pH6.2~7.2である。尚、ここでいう「中性」とはpH6.0~8.0の範囲をいい、「酸性」とはpH6.0を下回る範囲、アルカリ性とはpHが8.0を上回る範囲を意味する。pH調整剤(酸剤)は急激にpHが変動しないようゆっくりと、30分前後(例えば、15~45分)撹拌混合を行う。尚、pH調整剤(酸剤)は複数回に分けて添加することもできる。
【0028】
色素液の中性へのpH調整は、高速撹拌機を用いて撹拌混合によって行う。高速撹拌機によって撹拌混合することで沈殿の抑制効果をさらに高めることができる。高速撹拌機は、例えば、ホモミクサーMARKII(プライミクス社製)、TKホモミクサー(特殊機化工業社製)またはクレアミックス(エムテクニック社製)などの高速回転式分散・乳化機を用いることができる。撹拌混合の条件としては、回転数4000~12000rpm、好ましくは約5000rpm、撹拌時間15~45分間、好ましくは約30分間を例示することができる。また、例えば、実験室用の小型機の場合には、回転数2000~20000rpm、撹拌時間約5~60分間を例示することができる。なお、同様な動作が可能な機器であれば上記機器に限定されることはない。
【0029】
以上のような本発明の製造方法により得られる色素製剤は、黄色の着色料として広範囲の飲食品に利用が可能であるが、特にペットボトル(PET容器)などの透明容器に充填される酸性飲料の着色に好適に使用することができる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明に係る色素製剤の製造方法について、いくつかの実施例を以下に示す。但し、本発明はこれらの特定の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実験例において、特に記載しない限り、「部」とは「質量部」を、また「%」とは「質量%」を意味するものとする。
【0031】
クロセチンは、ニチノーカラーYK-40(日農化学工業株式会社製:色価440)を使用した。
【0032】
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは以下に示すものを使用した。
[実施例1]:デカグリセリンステアリン酸エステル(NIKKOL Decaglyn 1-SVEX:日本サーファクタント工業株式会社製)
[実施例2,3]:デカグリセリンミリスチン酸エステル(NIKKOL Decaglyn 1-MVEX PN:日本サーファクタント工業株式会社製)
【0033】
また、実施例1,2では増粘多糖類として樹液由来の増粘多糖類であるアラビアガム(アラビックコールSS:三栄薬品貿易株式会社製)を使用した。さらに、実施例3では増粘多糖類として樹液由来の増粘多糖類であるガティガム(ガティコールSS:三栄薬品貿易株式会社製)を使用した。一方、比較例1としてポリグリセリン脂肪酸エステルを使用せずにアラビアガムのみを使用したものを試作した。そして、実施例1~3及び比較例1ではそれぞれエタノールとD-ソルビトール液を使用した。尚、それぞれの配合割合については表1に示すとおりである。そして、実施例1~3及び比較例1について上記実施形態に示す手順に従い混合液の調整を行った。
【0034】
具体的には、水とポリグリセリン脂肪酸エステルとD-ソルビトール液を混合し、70℃に加温し、スリーワンモータTYPE-600G(以下、「撹拌機」という。)を用いて600rpmで10分間撹拌混合を行った。次いで、混合液のpHが12.0となるように水酸化ナトリウムを水溶液にてそれぞれ添加して5分間撹拌を行った。
【0035】
次に、この混合液にクロセチン(ニチノーカラーYK-40)を加え、撹拌機を用いて600rpmで5分間撹拌混合し、次いで、アラビアガム(アラビックコールSS)又はガティガム(ガティコールSS)を加えて撹拌機を用いて600rpmで10分間撹拌混合し、さらに、エタノールを加えて撹拌機で5分撹拌混合した。そして、この色素液のpHが6.8となるように高速撹拌機(ホモミクサーMARKII:プライミクス社製)を用いて5000rpmで攪拌しながらクエン酸を水溶液にてそれぞれ急激にpHが変動しないようゆっくりと添加し、30分撹拌混合を行い、実施例1~3及び比較例1の色素製剤を調整した。一方、比較例2として、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び樹液由来の増粘多糖類等を使用しない色素製剤としてニチノーカラーYK-40をそのまま使用した。
【0036】
[評価方法]
上記実施例1~3及び比較例1,2について耐酸性試験を行った。耐酸性試験はpH3.5、Brix16の酸性飲料様溶液(アスコルビン酸ナトリウム:0.05質量%、クエン酸(結晶):0.07質量%、果糖ブドウ糖液糖:21質量%、精製水:残量分(全量:100質量%))に、上記実施例1~3及び比較例1に示す色素製剤をそれぞれ0.5質量%加えて混合し、さらに60℃に加熱後にPET容器にそれぞれ分注して試験品とした。尚、比較例2についてはクロセチンが実施例1~3及び比較例1と同濃度になるように添加したものを作成し、同様に試験品とした。そして、各試験品を3日間冷蔵保管し、沈殿・凝集の発生と色調を評価した。凝集及び沈殿の発生の有無の評価基準は、「○:沈殿・凝集物の発生が見られない」、「×:沈殿・凝集物の発生がみられる。」とし、色調評価の評価基準は「○:黄色」、「×:オレンジ色ないし無色」とした。その結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1に示すように、実施例1~3の色素製剤はpH3.5の酸性下であっても、沈殿・凝集はみられず、色調もきれいな黄色を示すという結果であった。これに対し、比較例1では色調は黄色を示すものの、凝集・沈殿が見られた。また、比較例2は、酸性飲料様溶液に添加後直ちに凝集・沈殿が発生し、色もほぼ無色となった。
【0039】
次に、上記試験において結果が良好だったデカグリセリンミリスチン酸エステル(NIKKOL Decaglyn 1-MVEX PN:日本サーファクタント工業株式会社製)を用いて色素製剤の好ましいpHの範囲を検討した。すなわち、デカグリセリンミリスチン酸エステルを7.0質量%、樹液由来の増粘多糖類としてアラビアガム(アラビックコールSS)を15.0質量%、D-ソルビトール液を3.0質量%、エタノールを10.0質量%として実施例1~3と同様の手順に従って調整を行い、最終的に色素製剤のpHをそれぞれpH7.2(実施例4)、pH6.2(実施例5)、pH5.2(比較例5)とした。
【0040】
同様に、乳化剤であるデカグリセリンミリスチン酸エステル(NIKKOL Decaglyn 1-MVEX PN)の添加量を検討するために、それぞれ7.0質量%(実施例6)、9.0質量%(実施例7)、11.0質量%(実施例8)の色素製剤を調整した。尚、最終的に100質量%となるように差分については水の量を調整した。尚、実施例8についてはD-ソルビトール液は加えていない。
【0041】
一方、比較例3として、混合液のpHをアルカリに調整することなく、また、中性への調整も行わない(水酸化ナトリウム及びクエン酸(結晶)を加えない)色素製剤と、比較例4として、混合液をアルカリに調整した後、中性へのpH調整を行わない(クエン酸(結晶)を加えない)色素製剤を調整した。そして、実施例4~8及び比較例3~5についても上記実施例1~3と同様の手順に従い色素製剤の調整を行った。実施例4~8及び比較例3~5の配合割合は表2に示すとおりである。
【0042】
実施例4~8及び比較例3~5についても耐酸性試験を行った。耐酸性試験は、上記実施例1~3の場合と同様に、pH3.5、Brix16の酸性飲料様溶液(アスコルビン酸ナトリウム:0.05質量%、クエン酸(結晶):0.07質量%、果糖ブドウ糖液糖:21質量%、精製水:残量分(全量:100質量%))に、上記実施例4~8及び比較例3~5に示す色素製剤をそれぞれ0.5質量%加えて混合し、さらに60℃に加熱後にPET容器にそれぞれ分注して試験品とした。尚、凝集・沈殿の発生の評価基準及び色調の評価基準も上記と同じである。その結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2に示すように、色素液を中性(pH6.2~7.2)に調整した実施例4,5の色素製剤はpH3.5の酸性下であっても、沈殿・凝集はみられず、色調もきれいな黄色を示すという結果であった。また、乳化剤であるデカグリセリンミリスチン酸エステルの添加量も実施例6~7の範囲(7~11質量%)であればpH3.5の酸性下であっても、沈殿・凝集はみられず、色調もきれいな黄色を示すという結果であった。これに対し、色素液を酸性(pH5.2)に調整した比較例5では凝集・沈殿の発生は見られないものの、酸性飲料様溶液への混合時の色調がオレンジ色となった。また、比較例3,4も凝集・沈殿の発生は見られなかったものの、混合時の色調がオレンジ色となり、クロセチンが有するきれいな黄色とはならなかった。
【0045】
以上の結果から明らかなように、本発明に係る色素製剤の製造方法によれば、酸性の飲料に使用した場合でも凝集・沈殿の発生が抑制され、しかもきれいな黄色の色調で着色することが可能という効果が認められるものである。
【0046】
本発明は上述した実施形態又は実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱あるいは変更しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。