(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】トンネル施工方法および空隙探査システム
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20230831BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20230831BHJP
G01V 3/12 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
E21D9/06 301Z
E21D11/00 A
G01V3/12 C
(21)【出願番号】P 2019201342
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591075630
【氏名又は名称】株式会社アクティオ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】福田 隆正
(72)【発明者】
【氏名】足立 英明
(72)【発明者】
【氏名】岩下 篤
(72)【発明者】
【氏名】秦野 淳
(72)【発明者】
【氏名】宗像 国義
(72)【発明者】
【氏名】古土井 孝史
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-040118(JP,A)
【文献】特開平07-012548(JP,A)
【文献】実開平01-164389(JP,U)
【文献】特開平06-240983(JP,A)
【文献】特開2001-082905(JP,A)
【文献】特開2004-060282(JP,A)
【文献】実開昭56-077598(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
E21D 11/00
G01V 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機から地山に向けて貫入部材を押し出して前記シールド掘削機の周囲の空隙の深さを実測する貫入探査作業と、
前記シールド掘削機から電磁レーダを発信するとともに前記電磁レーダの反射データを受信するレーダ探査作業と、
前記貫入探査作業による探査結果に基づいて、前記レーダ探査作業による探査結果を校正し、校正後の探査結果に基づいて、前記空隙の大きさを推定する空隙推定作業と、
前記空隙の大きさに応じた量の裏込め材を前記空隙に充填する充填作業と、を備えることを特徴とする、トンネル施工方法。
【請求項2】
前記空隙推定作業では、前記貫入探査作業を実施した位置におけるレーダ探査作業により得られた空隙の深さが前記貫入探査作業の実測値になるように逆算することで、その他の位置におけるレーダ探査作業により得られた探査結果に乗ずる係数を設定することを特徴とする、請求項1に記載のトンネル施工方法。
【請求項3】
シールド掘削機内から当該シールド掘削機の周囲の地山に向けて発信した電磁レーダにより前記シールド掘削機の周囲の空隙の大きさを計測する電磁レーダ探査装置と、
前記シールド掘削機から周囲の地山に向けて貫入部材を押し出すことで前記シールド掘削機の背面の空隙の大きさを実測する貫入探査装置と、
前記貫入探査装置による探査結果に基づいて、前記電磁レーダ探査装置による探査結果を校正するとともに、校正後の探査結果に基づき前記空隙の大きさを推定する処理装置と、を備える空隙探査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル施工方法および空隙探査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法では、シールド掘削機により地中に形成された空隙に、セグメントリングを連設することにより覆工を形成する。シールド掘削機による地山の切削は、シールド掘削機およびセグメントリングよりも大きな断面となるように、余掘り部分を含めた形で行う。余掘りにより形成される覆工と地山との間の隙間には裏込め材を充填して、地山の崩落などを抑制する必要がある。
一方、シールド掘削機の外周上部に崩落や土砂取り込み過多などによる大きな空隙が形成されていると、設計時に設定された裏込め材の量では裏込めが不十分になるおそれがある。裏込め材による充填が不十分だと、覆工の背面に空隙が残存してしまい、地盤沈下の原因になるおそれがある。そのため、トンネルの施工では、覆工の背面の空隙を適切に把握し、裏込め材の注入を適切に行う必要がある。
地山状況を把握する方法として、例えば特許文献1には、シールド掘削機の外殻から発信された超音波の往復時間によりシールド掘削機の外周囲の空隙の大きさを計測する空隙検出方法が開示されている。また、特許文献2には、地山に向けて発信した電磁レーダの反射レーダを受信することにより、地山状況を把握する探査方法が開示されている。ところが、地山に対して発信された電磁レーダ等は、地質や破砕帯の有無等に応じて反射状況(反射速度や反射方向等)が変化する。そのため、特許文献2の探査方法では、本坑の掘削に先立って施工された先進導坑等の掘削時に得られたデータに基づいて地質状態の均一性や連続性を仮定し、これを電磁レーダによる探査結果に適用して地山状況を推定している。ところが、先進導坑を有しないトンネル施工では、予め地質状態を把握することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平07-012548号公報
【文献】特開2000-346956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、シールド掘削機の外周囲の空隙状況を適切に把握したうえで、裏込め材を充填するトンネル施工方法および空隙探査システムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明のトンネル施工方法は、シールド掘削機から地山に向けて貫入部材を押し出して前記シールド機の周囲の空隙の大きさを実測する貫入探査作業と、前記シールド掘削機から電磁レーダを発信するとともに前記電磁レーダの反射データを受信するレーダ探査作業と、前記貫入探査作業による探査結果に基づいて前記レーダ探査作業による探査結果を校正し、校正後の探査結果に基づいて前記空隙の大きさを推定する空隙推定作業と、前記空隙の大きさに応じた量の裏込め材を前記空隙に充填する充填作業とを備えるものである。
また、本発明の空隙探査システムは、シールド掘削機内から当該シールド掘削機の周囲の地山に向けて発信した電磁レーダにより前記シールド掘削機の周囲の空隙の大きさを計測する電磁レーダ探査装置と、前記シールド掘削機から周囲の地山に向けて貫入部材を押し出すことで前記掘削機の背面の空隙の大きさを実測する貫入探査装置と、前記貫入探査装置による探査結果に基づいて、前記電磁レーダ探査装置による探査結果を校正するとともに、校正後の探査結果に基づき前記空隙の大きさを推定する処理装置とを備えるものである。
【0006】
かかるトンネル施工方法および空隙探査システムによれば、レーダ探査結果と貫入探査結果とに基づいてシールド掘削機周囲の空隙の大きさを推定するため、レーダ探査のみで推測する場合に比べてより正確に空隙の大きさを推定することができる。すなわち、貫入部材を用いて空隙を実測するため、空隙と地山との境界を適切に把握することができる。そのため、空隙の実測を行った位置におけるレーダ探査結果を参照することにより、空隙と地山との区別が可能となり、この結果に基づいてシールド掘削機周囲の空隙の大きさを推定することができる。
前記空隙推定作業では、前記貫入探査作業を実施した位置におけるレーダ探査作業により得られた空隙の深さが前記貫入探査作業の実測値になるように逆算することで、その他の位置におけるレーダ探査作業により得られた探査結果に乗ずる係数を設定するのが望ましい。このようにすれば、空隙部に堆積する土砂の状況や土質等が不明な場合であっても、実測値に基づいてレーダ探査結果を校正できるので、より正確な計測を行うことができる。また、貫入探査作業は、シールド機が推進している間は、実施できないため、貫入探査結果は、断片的なデータとなる。そのため、貫入探査による測定が行われていない区間については、シールド機が推進している間も連続して計測を行うレーダ探査結果により補完することで、精度よく空隙量のデータを計測する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のトンネル施工方法および空隙探査システムによれば、シールド掘削機の外周囲の空隙状況を適切に把握したうえで、適切な充填量による裏込め材の充填が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るトンネル施工方法を示すフローチャートである。
【
図3】空隙探査システムの概要を示す模式図である。
【
図4】(a)は電磁レーダ探査装置の取付状況を示す縦断図、(b)は電磁レーダ探査装置の拡大図である。
【
図5】電磁レーダ探査装置および貫入探査装置の配置図である。
【
図7】(a)は貫入探査装置の取付状況を示す縦断図、(b)は貫入探査装置の拡大図である。
【
図8】開口寸法決定試験における実験概要を示す断面図である。
【
図9】電磁波レーダ試験における試験概要を示す断面図である。
【
図10】電磁波レーダ試験の周波数毎の試験結果を示す図であって、(a)は2600MHz、(b)は1600MHz、(c)は900MHzである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、シールドトンネルによるトンネル施工方法について説明する。本実施形態のトンネル施工方法は、
図1および
図2に示すように、シールド掘削機1による掘進工程S1と、シールド掘削機1の内部においてセグメントSを組み立てる覆工工程S2とを備えている。シールド掘削機1およびセグメントSと地山Gとの間に形成された空隙Cには裏込め材Fを充填する。空隙Cの大きさ(深さ)は、空隙探査システム2を利用して推定する。空隙探査システム2は、
図3に示すように、電磁レーダ探査装置3と、貫入探査装置4と、処理装置5とを備えている。
【0010】
掘進工程S1では、シールド掘削機1により地山Gの掘削を行う。シールド掘削機1は、
図2に示すように、スキンプレートにより筒状に形成された本体部11を備えており、本体部11の前面にはカッターヘッド12が配設されている。本体部11の前部には、隔壁13が形成されている。カッターヘッド12と隔壁13との間には、チャンバー14が形成されている。シールド掘削機1による掘進は、カッターヘッド12により地山Gを切削するとともに、掘削土砂をチャンバー14に取り込む。チャンバー14に取り込まれた土砂は、チャンバー14内において泥水や加泥材等と混合された後、坑外へ搬出する。
【0011】
掘進工程S1では、
図1に示すように、シールド掘削機1による掘進に伴い、空隙探査システム2の電磁レーダ探査装置3を利用して空隙(隙間)Cの計測を行う(レーダ探査作業S11)。レーダ探査作業S11は、
図2に示すように、シールド掘削機1に設けられた電磁レーダ探査装置3から電磁レーダを発信するとともに電磁レーダの反射データを電磁レーダ探査装置3により受信する。電磁レーダ探査装置3による空隙Cの探査は、シールド掘削機1の掘進中に常時行うものとする。電磁レーダ探査装置3による探査結果は、処理装置5に送信される(
図3参照)。
【0012】
電磁レーダ探査装置3は、シールド掘削機1内から当該シールド掘削機1の周囲の地山Gに向けて発信した電磁レーダによりシールド掘削機1の周囲の空隙Cの大きさを計測するものである。
電磁レーダ探査装置3は、
図4(a)に示すように、シールド掘削機1の前部に形成された隔壁13の近傍に設けられている。本実施形態では、
図5に示すように、電磁レーダ探査装置3をシールド掘削機1の上半に六基装備する。電磁レーダ探査装置3は、本体部11の頂点から中心角が約15°、約35°、約55°になる左右の位置にそれぞれ配設する。なお、電磁レーダ探査装置3の配置および数は限定されるものではなく、シールド掘削機1の大きさや想定される地山状況などに応じて適宜決定すればよい。
【0013】
電磁レーダ探査装置3は、
図4(b)に示すように、電磁レーダ本体31と、シールド掘削機1の本体部(スキンプレート)11の内面に固定された取付台32と、電磁レーダ本体(電磁波アンテナ)31と取付台32との隙間に介設された緩衝材33と、電磁レーダ本体31の表面(地山G側の面)に設けられた防護材34とを備えている。
シールド掘削機1の本体部11には、電磁レーダ探査装置3の設置個所に応じて貫通孔15が形成されている。電磁レーダ本体31は、防護材34を介して貫通孔15に面した状態で設置する。防護材34は、貫通孔15を遮蔽するように設ける板材であって、取付台32にボルト接合されている。防護材34は、電磁レーダ本体31から発信された電磁レーダおよび反射レーダが通過可能で、かつ、シールド掘削機1の掘進時における地山Gとの摩擦に対して十分な耐力を有した材質であるのが望ましい。このような材料として、本実施形態ではガラス繊維強化プラスチックを使用する。なお、防護材34として使用可能な材料は、ガラス繊維強化プラスチックの他に、例えば、超高強度繊維補強コンクリート(UFC)、ガラス長繊維入り硬質発泡ウレタン樹脂等がある。
【0014】
取付台32は、貫通孔15に面して開口する凹部35を有した断面視コ字状の箱型部材からなる。貫通孔15の周囲には土台36が固定されている。取付台32は、ボルト37により固定する。取付台32は、電磁レーダ本体31と防護材34の一部を凹部35に収納した状態で、貫通孔15を覆っている。凹部35は、電磁レーダ本体31よりも大きな形状を有している。電磁レーダ本体31と凹部35との隙間には緩衝材33が充填されている。緩衝材33にはシリコンを使用する。緩衝材33は、電磁レーダ本体31が、シールド掘削機1の振動により脱落することがないように、凹部35との隙間に充填されている。また、緩衝材33は、取付台32内に地下水が浸入した場合であっても、電磁レーダ本体31に水が浸透することを防止する。なお、緩衝材33を構成する材料はシリコンに限定されるものではないが、収縮性のないものが好ましい。
【0015】
処理装置5は、
図3に示すように、記憶手段51と処理手段52と表示手段53とを備えている。処理装置5は、電磁レーダ探査装置3と有線または無線により接続されている。処理装置5は、電磁レーダ探査装置3から受信した探査結果を記憶手段51に保存するとともに、処理手段52によりデータ処理を行う。処理手段52は、受信した探査結果により、地中の空隙Cや地層の変化点などを可視化する。また、処理手段52は、レーダ探査結果に、現地状況や土質等に応じて設定された係数を乗ずることにより、空隙Cの深さを算出(推定)する(空隙推定作業S12)。
【0016】
空隙推定作業S12では、レーダ探査作業S11による探査結果を校正し、校正後の探査結果に基づいて、空隙Cの形状を推定する。空隙Cの形状の推定は、処理装置5の処理手段52により行う。
空隙Cには、地山Gの崩落等により、土砂が堆積している場合がある。一方、レーダ探査による計測結果には、地質により反射状況が変化する。そのため、本実施形態では、予め算出された係数をレーダ探査作業S11により得られた探査結果に乗ずることで、土質や空隙C内の状況(土砂の有無等)による誤差を抑制する。なお、係数は、前回の施工サイクルにおいて実施した貫入探査作業S21の探査結果に基づいて設定する。具体的には、貫入探査作業S21を実施した位置におけるレーダ探査作業S11により得られた空隙Cの深さd1が、貫入探査作業S21の実測値d2と同じになるような係数(=d2/d1)を算出し、その他の位置におけるレーダ探査作業S11により得られた探査結果に乗ずる係数とする。
【0017】
処理装置5は、レーダ探査作業S11の探査結果、空隙Cの大きさ、裏込め注入量等を表示する表示手段53を備えている。管理者は表示手段53によりリアルタイムで確認することができる(
図6参照)。また、処理装置5は、掘削土砂の排土量と裏込め注入量とを比較し、排土量と裏込め注入量との差が一定の値(閾値)を越えた場合に警報を発するようにしてもよい。このようにすれば、排土量と裏込め注入量との差から、未充填箇所の有無を確認することができる。
空隙Cの形状(深さ)を算出したら、セグメントSの背面と地山Gとの隙間(空隙C)に裏込め材Fを充填する(充填作業S13)。充填作業S13において充填される裏込め材Fの量は、空隙探査システム2により推定された空隙Cの大きさに応じて設定する。本実施形態では、シールド掘削機1の外周囲上部またはセグメントSの外周囲上部から裏込め材Fを注入する。なお、電磁レーダ探査装置3による探査の結果、大きな空隙Cが存在すると判断された場合には、シールド掘削機1の胴体注入管16(
図4(a)参照)を利用して直ちに空隙Cへの裏込め材Fの充填を行うのが望ましい。
【0018】
覆工工程S2は、シールド掘削機1の内部でセグメントSを組み立てて、覆工を形成する工程である(
図1参照)。セグメントSの組み立ては、シールド掘削機1により所定長(1リング分)掘進した後、掘進を停止した状態で行う。セグメントSを組み立てることにより形成されたセグメントリングは、既存のセグメントリング(覆工)に連結する。なお、覆工工程S2は、掘進工程S1と並行して(掘進中に)行ってもよい。覆工工程S2では、空隙探査システム2の貫入探査装置4による空隙探査も同時に行う(貫入探査作業S21)。貫入探査作業S21では、シールド掘削機1から地山Gに向けて貫入探査装置4の貫入部材41を押し出してシールド掘削機1の周囲の空隙Cの深さを実測する(
図7(a)参照)。貫入探査装置4により計測した空隙Cの深さは、空隙Cの実測値として使用するとともに、次回の施工サイクルでの掘進工程S1におけるレーダ探査作業S11の探査結果に乗ずる係数を算出する際に使用する。
【0019】
貫入探査装置4は、シールド掘削機1が停止した状態で、シールド掘削機1から周囲の地山Gに向けて貫入部材41を押し出すことでシールド掘削機1の背面の空隙(隙間)Cの大きさを実測するものである。
貫入探査装置4は、
図7(a)に示すように、電磁レーダ探査装置3と同様に、シールド掘削機1の前部に形成された隔壁13の近傍に設けられている。なお、貫入探査装置4の隔壁13からの離隔距離は、電磁レーダ探査装置3の中心から隔壁13までの間隔と同等とするのが望ましい。貫入探査装置4は、
図7(b)に示すように、貫入部材41と、保持部材42とを備えている。貫入部材41は、棒状部材からなり、保持部材42の内部に進退可能に収納されている。貫入部材41の先端には、圧力計43が取り付けられている。圧力計43は、貫入部材41が地山Gに向けて押し出された際の圧力を測定する。保持部材42は、筒状の部材からなる。保持部材42の中空部分には、貫入部材41が内挿されている。また、保持部材42の後端部には、貫入部材41を押し出した際のストローク長を計測するストローク計44が設置されている。
【0020】
シールド掘削機1の本体部11には、貫入探査装置4の設置個所に応じて貫通孔15が形成されている。貫入探査装置4は、保持部材42の先端部を貫通孔15に挿入した状態で設置する。保持部材42には、フランジ45が形成されている。保持部材42は、フランジ45を貫通したボルト46を本体部11に螺合することにより、本体部11に固定されている。なお、保持部材42は、本体部(スキンプレート)11に対して垂直になるように、本体部11に固定されている。すなわち、貫入探査装置4は、シールド掘削機1の外面の法線に沿って貫入部材41を押し出すことで、空隙Cの深さを測定する。貫入部材41が空隙Cと地山Gとの境界に到達すると圧力が急激に上昇するので、圧力計43で測定された値が急激に大きくなったタイミングでストローク計44によりストローク長を計測し、このストローク長を空隙Cの深さとする。貫入探査装置4による計測結果は、処理装置5に送信されて、記憶手段51に保存される。貫入探査装置4は、
図5に示すように、本体部11の頂点から中心角が約5°、約25°、約45°になる左右の位置にそれぞれ配設する。なお、貫入探査装置4の配置および数は限定されるものではなく、シールド掘削機1の大きさ、想定される地山状況、電磁レーダ探査装置3の配置などに応じて適宜決定すればよい。また、貫入探査装置4は、なるべく電磁レーダ探査装置3に近い位置に配置するのが望ましい。
【0021】
以上、本実施形態のトンネル施工方法によれば、レーダ探査結果と貫入探査結果とに基づいてシールド掘削機1周囲の空隙Cの大きさを推定するため、レーダ探査のみ、または貫入探査のみで推測する場合に比べてより正確に空隙Cの大きさを推定することができる。すなわち、貫入部材41を用いて空隙Cを実測するため、空隙Cと地山Gとの境界を適切に把握することができる。そのため、空隙Cの実測を行った位置におけるレーダ探査結果を参照することにより、空隙Cと地山Gの区別が可能となり、この結果に基づいてシールド掘削機1周囲の空隙Cの大きさを推定することができる。空隙Cの大きさを正確に把握することができれば、裏込め材Fの量を正確に設定することができるため、裏込め材Fの未充填箇所が生じることを防止することや、過剰に裏込め材Fを準備することにより廃棄物が生じることを防止することができる。
【0022】
次に、本実施形態で使用した電磁レーダ探査装置3について実施した実験結果について説明する。
(1)開口寸法決定試験
開口寸法決定試験では、取付台32の凹部35の大きさを決定する。本実験では、コンクリート製の供試体Tの深さ70mmの位置に埋め込まれた鉄筋T
1を供試体Tの表面から電磁レーダ探査装置3を利用して測定する。なお、電磁レーダ本体31は、側部や後部からも微弱な電磁波を発信しているため、鉄板により形成された収納箱(取付台32)により覆われた際に、鉄板によるノイズが発生するおそれがある。そのため、本実験では、
図8(a)および(b)に示すように、電磁レーダ本体31と収納箱の内面との間に2cm以下、2cmまたは5cmのクリアランスを確保した場合におけるノイズの影響を確認した。比較例として、収納箱により電磁レーダ本体31を覆わない状態でも測定を行った。
試験の結果、収納箱の有無による明確なノイズの変化は見られなかった。また、クリアランスが2cmと5cmの場合におけるノイズの変化も確認できなかった。一方、クリアランスが2cm以下の場合は、発信側でのノイズが確認された。
したがって、電磁レーダ本体31を、2cm以上のクリアランスを確保した状態で取付台32を介してシールド掘削機1に固定すれば、空隙探査を実施することに支障は生じないことが確認できた。
【0023】
(2)電磁波レーダ試験
電磁波レーダ試験では、
図9に示すように、深さ0~30cmの土砂(地山G)が収納された容器Bの上において、電磁レーダ本体31を移動させながら電磁波を発信して計測を行った。実験では、電磁レーダ本体31を、対向するように配設された二つの容器Bの上を移動させた。このとき、電磁波の周波数を900MHz、1600MHzおよび2600MHzに変化させて行った。
図10(a)および(b)に示すように、周波数が2600MHzと1600MHzの場合では、地山Gのラインを確認することができたものの、
図10(c)に示すように、周波数が900MHzの場合では、地山Gのラインがはっきり確認することができなかった。したがって、深さ30cmまでの空隙の探査に対しては、電磁レーダ本体31の周波数は1600MHz以上で行うのが望ましいことが確認できた。なお、レーダ探査における電磁波の周波数は、地山条件や計測範囲に応じて適宜決定する。
【0024】
(3)防護材選定試験
防護材選定試験では、電磁レーダ本体31の表面に設定する防護材34に適した材料の選定を行った。防護材34は、電磁波の送信を妨げることがなく、また、シールド掘削機1の掘進時に地山Gとの摩擦力により破損することがない強度を有した材料であるのが望ましい。本実験では、大深度(高水圧)で、長距離掘進する場合を想定して、防護材34として望ましい材料を選定する。
まず、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンからなる板材(防護材34)に対して、電磁レーダへの影響を調査した。調査は、不純物が埋設された土砂の上から、防護材34が張り付けられた電磁レーダ本体31による試験を行い、不純物を検出できるか否かについて検証を行った。調査の結果、炭素繊維強化プラスチック製の板材を用いると、不純物を検出できず、それ以外の材料は検出可能であることが確認できた。
次に、スキンプレート(SM490)、ガラス繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンからなる板材に対して、テーパー摩耗試験機を使用して摩耗試験を行い、耐摩耗性について検証を行った。テーパー摩耗試験機を利用した摩耗試験の結果を表1に示す。
【0025】
【0026】
表1に示すように、スキンプレート、ガラス繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンの摩耗部分体積は、それぞれ0.04cm3、0.31cm3、0.25cm3、1.21cm3となった。この結果から、ガラス繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンは、スキンプレートに対して、それぞれ7.75倍、6.25倍、30.25倍摩耗すると推測される。そのため、7km掘進してスキンプレートが2.27mm摩耗した場合、ガラス繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンに予測される摩耗量は、それぞれ17.6mm、14.2mm、68.7mmとなる。
防護材34に作用する荷重等から推測される各材料の荷重に対して必要な板厚(対荷重板厚)は、表2に示すように、ガラス繊維強化プラスチックは20mm、超高強度繊維補強コンクリートは70mm、ガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンは50mmであった。これに、予測される摩耗量を加えたガラス繊維強化プラスチック、超高強度繊維補強コンクリートおよびガラス長繊維入り硬質発泡ウレタンの板厚(必要板厚)は、それぞれ37.6mm、84.2mm、118.7mmとなる。そのため、防護材34の設計板厚100mmに対する各材料の必要板厚の安全率は、ガラス繊維強化プラスチック:2.66、超高強度繊維補強コンクリート:1.19、ガラス長繊維入り硬質発泡ウレタン:0.84となる。したがって、大深度で長距離掘進する場合の防護材34には、安全率が最も高いガラス繊維強化プラスチックが最も望ましい。なお、防護材34を構成する材料は、施工条件(深度、掘進距離)等に応じて、適宜決定すればよい。
【0027】
【0028】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、レーダ探査作業S11を常時行う場合について説明したが、レーダ探査作業S11は一定時間毎に行ってもよい。
レーダ探査作業S11、空隙推定作業S12、充填作業S13および貫入探査作業S21の順序は限定されるものではなく、適宜設定すればよい。例えば、レーダ探査作業S11と貫入探査作業S21を実施してから、空隙推定作業S12および充填作業S13を実施してもよい。このとき、レーダ探査作業S11と貫入探査作業S21との順序はどちらを先に実行してもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 シールド掘削機
2 空隙探査システム
3 電磁レーダ探査装置
4 貫入探査装置
41 貫入部材
5 処理装置
C 空隙
F 裏込め材
G 地山