IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コーア株式会社の特許一覧

特許7340441回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法
<>
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図1
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図2
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図3
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図4
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図5
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図6
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図7
  • 特許-回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/22 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
C25D17/22
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019229611
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021095624
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝上 利文
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274412(JP,A)
【文献】特開2018-178181(JP,A)
【文献】国際公開第2008/081536(WO,A1)
【文献】特開2002-339100(JP,A)
【文献】特開2012-097290(JP,A)
【文献】特開2012-062566(JP,A)
【文献】特表2020-506284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直線軸を中心に回転可能な円板状の底板と、
前記底板の外周側壁に一体的に設けられた円錐台形状の蓋体と、
前記底板と前記蓋体とによって画成されためっき槽と、
前記めっき槽内の略中央に配設されたアノード電極と、
前記めっき槽の内周側に露出すると共に前記外周側壁の一部を構成するカソード電極と、
前記めっき槽内に配設されて前記底板の外周側に向けてめっき液を吐出する吐出部と、を備えていることを特徴とする回転型めっき装置。
【請求項2】
垂直線軸を中心に回転可能な円板状の底板と、
前記底板の外周側壁に一体的に設けられた円錐台形状の蓋体と、
前記底板と前記蓋体とによって画成されためっき槽と、
前記めっき槽内の略中央に配設されたアノード電極と、
前記めっき槽の内周側に露出すると共に前記外周側壁の一部を構成するカソード電極と、
前記めっき槽内に配設されて前記底板の外周側に向けてめっき液を吐出する吐出部と、を備えている回転型めっき装置を用いて被めっき物にめっきを施すめっき方法であって、
前記被めっき物をめっき液に予め馴染ませる液馴染み工程と、
前記液馴染み工程後に、前記めっき槽に前記めっき液を補充し、当該めっき槽を回転させて前記アノード電極と前記カソード電極とを通電することにより前記被めっき物にめっきを施すめっき工程と、を備え、
前記液馴染み工程は、
前記めっき槽に前記被めっき物を収容する収容工程と、
前記めっき槽に前記めっき液を供給する供給工程と、
前記めっき槽を回転させて前記被めっき物および前記めっき液を前記めっき槽の外周側に移動させる移動工程と、
前記移動工程中に、前記めっき液の表面に位置する前記被めっき物に対して、前記めっき液を吐出する吐出工程と、を含んでいることを特徴とするめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばチップ型電子部品の電極等にめっきを施すために使用される回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ型抵抗器等の小型電子部品は、回路基板へのはんだ付け性の向上や電気的導通を確保するため、電解めっきを施して外部電極を形成している。そのような外部電極を形成するめっき装置として、めっき槽内に被めっき物とめっき液を投入し、めっき槽を回転させて外周部に設けられたカソード電極に被めっき物を接触させることにより、被めっき物に電解めっきを行う回転型めっき装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1に開示された回転型めっき装置は、垂直な回転軸を中心に回転可能な円板状の底板と、底板の外周側壁に一体的に設けられた円錐台形状の蓋体と、これら底板と蓋体とによって画成されためっき槽と、めっき槽内の略中央に配設されたアノード電極と、底板の外周側壁に設けられたリング状のカソード電極と、を備え、めっき槽内に被めっき物とめっき液が貯留されるようになっている。
【0004】
このように構成された回転型めっき装置では、被めっき物が収納されためっき槽にめっき液が供給された後に、めっき槽が回転軸を中心に回転し、その回転が維持されて遠心力により被めっき物がカソード電極へ押し付けられている短時間のみ、アノード電極とカソード電極との間に通電がなされて、被めっき物にめっきが施されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-178181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような回転型めっき装置では、被めっき物が投入されためっき槽にめっき液が供給されているときに、めっき液が一部の被めっき物に十分に馴染まなかったことに起因して、めっき不良が発生する虞があった。具体的には、めっき液が十分に馴染まなかった一部の被めっき物はめっき液に浮いてしまい、このような状態でめっき槽を回転させても、当該一部の被めっき物はカソード電極に接触せずに依然としてめっき液に浮いたままであり、めっきを適切に施すことができない虞があった。
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる回転型めっき装置およびこれを用いためっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、第1の発明は、垂直線軸を中心に回転可能な円板状の底板と、前記底板の外周側壁に一体的に設けられた円錐台形状の蓋体と、前記底板と前記蓋体とによって画成されためっき槽と、前記めっき槽内の略中央に配設されたアノード電極と、前記めっき槽の内周側に露出すると共に前記外周側壁の一部を構成するカソード電極と、前記めっき槽内に配設されて前記底板の外周側に向けてめっき液を吐出する吐出部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
このように構成された回転型めっき装置によれば、被めっき物およびめっき液が投入されためっき槽が回転しているときに、遠心力により底板の外周側にめっき液を移動させた状態で、当該めっき液の表面に位置する被めっき物に対して吐出部からめっき液を吐出させることができる。これにより、吐出されためっき液が被めっき物の表面に塗布されるようになり、この塗布されためっき液が被めっき物の周縁部の周りのめっき液と付着することにより、被めっき物がめっき液中に押し込まれて沈んでいく。したがって、めっき液の表面に位置していた被めっき物に対してめっき液を十分に馴染ませることができるので、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる。
【0010】
また、上記課題を解決するため、第2の発明は、垂直線軸を中心に回転可能な円板状の底板と、前記底板の外周側壁に一体的に設けられた円錐台形状の蓋体と、前記底板と前記蓋体とによって画成されためっき槽と、前記めっき槽内の略中央に配設されたアノード電極と、前記めっき槽の内周側に露出すると共に前記外周側壁の一部を構成するカソード電極と、前記めっき槽内に配設されて前記底板の外周側に向けてめっき液を吐出する吐出部と、を備えている回転型めっき装置を用いて被めっき物にめっきを施すめっき方法であって、前記被めっき物をめっき液に予め馴染ませる液馴染み工程と、前記液馴染み工程後に、前記めっき槽に前記めっき液を補充し、当該めっき槽を回転させて前記アノード電極と前記カソード電極とを通電することにより前記被めっき物にめっきを施すめっき工程と、を備え、前記液馴染み工程は、前記めっき槽に前記被めっき物を収容する収容工程と、前記めっき槽に前記めっき液を供給する供給工程と、前記めっき槽を回転させて前記被めっき物および前記めっき液を前記底板の外周側に移動させる移動工程と、前記移動工程中に、前記めっき液の表面に位置する前記被めっき物に対して、前記めっき液を吐出する吐出工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0011】
このように構成されためっき方法によれば、めっき工程の前に液馴染み工程が行われるようになっており、この液馴染み工程では移動工程中にめっき液の表面に位置する被めっき物に対して、めっき液を吐出させる吐出工程を行う。これにより、当該被めっき物の表面にめっき液を塗布させ、この塗布しためっき液と被めっき物の周縁部の周りのめっき液とを付着させることにより、被めっき物をめっき液中に押し込んで沈ませることができる。したがって、被めっき物に対してめっき液を十分に馴染ませることができるので、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明および第2の発明によれば、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態例に係る回転型めっき装置の一部を破断して示す斜視図である。
図2】該回転型めっき装置におけるめっき液等の循環ルートを模式的に示す説明図である。
図3】該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図である。
図4】該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図である。
図5】該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図である。
図6】(a)は該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図であり、(b)は(a)において点線で囲まれた領域Aの拡大図である。
図7】(a)は該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図であり、(b)は(a)において点線で囲まれた領域Bの拡大図である。
図8】該回転型めっき装置を用いためっき方法における液馴染み工程の一部を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態について図面を参照しながら説明すると、図1は本発明の実施形態例に係る回転型めっき装置の一部を破断して示す斜視図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態例に係る回転型めっき装置100は、外形がほぼ円錐台形状の蓋体1と、蓋体1の底面を塞ぐように配設された底板2と、これら蓋体1と底板2によって画成されためっき槽3と、めっき槽3内の略中央に配設されたアノード電極(陽極電極)4と、底板2の外周側に設けられたリング状のカソード電極(陰極電極)5と、を備えて構成されている。
【0016】
蓋体1は、傾斜する側面の最下方端の周縁部(最外周部)が外周方向に鍔状に突出した突起部1aを有し、その突起部1aは環状のリング部材6によって覆われている。また、蓋体1の傾斜側面の下方部には、めっき槽3に貯留されためっき液等を排出するための開口部1bが周方向に所定間隔を存して複数設けられている。
【0017】
底板2は、蓋体1の最外周部分の外径と同一の外径を有する円板形状のベース部材7と、ベース部材7の上面側の外周縁部に沿って配置された前記カソード電極5と、蓋体1の突起部1aの下部に位置してカソード電極5と同一径の環状部材であるスペーサリング8と、を有して構成される。めっき槽3において、ベース部材7の外周縁部、カソード電極5、スペーサリング8、および突起部1aによって、外周側壁が形成されている。
【0018】
リング部材6、突起部1a、スペーサリング8、およびカソード電極5には、その周方向に複数の貫通孔が設けられている。そして、これらを重ね合わせた状態で貫通孔にボルト9を挿通し、その先端部分に設けられた雄ネジ部とベース部材7に設けられた雌ネジ部とを螺着することで、蓋体1と底板2とが一体的に固定されるようになっている。なお、これら蓋体1と底板2とにより形成された内部空間がめっき槽3となる。
【0019】
めっき槽3の中心部には、金網からなる箱形状に形成された箱体10内に前記アノード電極4が配置されており、この箱体10の上部には、箱体10(アノード電極4)を保持するアノードキャップ10aが取り付けられている。このアノードキャップ10aの中心部には、アノード電極4へ通電するための支持軸11が挿通・固定されている。また、アノードキャップ10aには水洗水導入管12と処理液導入管13が挿通・固定されており、これら水洗水導入管12と処理液導入管13等により、めっき槽3に対する各種処理液の循環や排出を行うようにしている。
【0020】
さらに、アノードキャップ10aの側方にはスプレーノズル(吐出部)14および液面センサ15が配置されており、これらスプレーノズル14、液面センサ15、および箱体10(アノード電極4)は蓋体1の頂部に設けられた上部開口部1cを貫いてめっき槽3の内部に達している。
【0021】
スプレーノズル14はパイプ状に形成されており、その内部にはめっき液が流されるようになっている。スプレーノズル14の下端部には、めっき液を霧状に噴射(吐出)する複数(本例では2つの)の噴射部14aが形成されている。この噴射部14aの噴射口は、底板2の外周側に向けて配置されている。そのため、めっき槽3を回転させながら噴射部14aからめっき液が噴射されると、底板2の外周側に向かって略均一にめっき液を吹き付け可能になっている。なお、スプレーノズル14の上端部は、後述するめっき液母槽に連通している。
【0022】
液面センサ15は、棒状に形成された複数(本例では3つ)のセンサ部15a~15cを有している。これらセンサ部15a~15cは、その下端部と底板2のベース部材7との間の距離が互いに異なるように配置されており、めっき槽3内に貯留されためっき液の液面の高さに関する情報を取得可能としている。これにより、この回転型めっき装置100においては、常時、めっき槽3内のめっき液を所定量に保つための制御を可能としている。
【0023】
めっき槽3には、チップ型抵抗器等の被めっき物16およびめっき液(不図示)が貯留されるが、微細な被めっき物16が金網からなる箱体10内へ流入するのを防止するために、箱体10は布等のフィルター機能を有するアノードバッグ17によって包囲されている。
【0024】
底板2の下面側中心部には垂直方向に延びる回転軸18が結合されており、この回転軸18には、電解めっき用電源の負側から結線され、カソード電極5へ通電するための導通部材19が接触している。そして、回転軸18に対して不図示のモータ等から回転力を付与することにより、被めっき物16およびめっき液(不図示)が貯留されためっき槽3が、回転軸18を中心に水平方向に回転するようになっている。具体的には、被めっき物16にめっきを施すめっき工程では、図1において白抜き矢印で示すように、めっき槽3は時計方向と反時計方向(正逆方向)の回転により、所定速度で回転および停止を繰り返す。このように、めっき槽3が水平方向に正回転および逆回転を交互に繰り返し、その回転が維持されて、図1に示すように遠心力により被めっき物16がカソード電極5へ押し付けられている短時間のみ、アノード電極4とカソード電極5間に通電されて被めっき物16にめっきが施されるようになっている。
【0025】
これに対して、この回転型めっき装置100では、めっき工程が行われる前に後述する液馴染み工程が行われるようになっており、この液馴染み工程では、めっき槽3は時計方向および反時計方向の何れか一方の回転により、所定速度で回転を維持させる。なお、この液馴染み工程では、アノード電極4とカソード電極5間に通電されないようになっている。
【0026】
本実施形態例に係る回転型めっき装置100によるめっき対象(被めっき物)は、チップ型抵抗器に限定されず、例えば、チップ型インダクタ、チップ型コンデンサ、これらの複数部品、多連抵抗器等、電極端子を有する電子部品のめっき処理にも使用できる。
【0027】
図2は、本実施形態例に係る回転型めっき装置100におけるめっき液等の循環ルートを模式的に示す説明図である。
【0028】
図2に示すように、回転型めっき装置100において、めっき槽3の回転に伴って蓋体1に設けた開口部1bからめっき液が排出されると、それと同時にめっき液母槽20内の新しいめっき液が処理液導入管13を経由してめっき槽3に供給される。また、開口部1bから排出されためっき液は、めっき槽3の外部全体を覆う容器21によって受けられ、処理液導出管22を経由してめっき液母槽20に戻されるようになっている。
【0029】
また、回転型めっき装置100におけるめっき種の変更に伴う処理液の排出時には、めっき槽3を所定方向に高速回転させ、そのときの遠心力を利用して開口部1bからめっき液等を排出して容器21で受けるようにしている。
【0030】
さらに、被めっき物の水洗工程では、水洗水槽23から水洗水導入管12を経由してめっき槽3に水洗水が供給され、水洗後の水洗水の排出も、上記処理液の排出時と同様に、めっき槽3を高速回転してその遠心力を利用して行われる。そして、容器21で受けた水洗水は、水洗水導出管24を経由して水洗水槽23に戻されるようになっている。
【0031】
また、上記した液馴染み工程では、スプレーノズル14(図1参照)に接続されたスプレー用処理液導入管25を経由してスプレーノズル14にめっき液が供給されてめっき液が噴射されると同時に、噴射されためっき液の量に応じて、めっき槽3の回転に伴って蓋体1の開口部1bからめっき液が排出されるようになっている。
【0032】
図3図8は、本実施形態例に係る回転型めっき装置100を用いためっき方法における液馴染み工程を模式的に示す説明図である。液馴染み工程は、めっき工程を行う前に被めっき物にめっき液を予め十分に馴染ませることを目的として行われる工程である。以下、図3図8を参照しながら、この液馴染み工程について具体的に説明する。なお、以下においては、説明の便宜上、回転型めっき装置100の略左半分のみを図示し、アノード電極4の図示は省略する。
【0033】
まず初めに、図3に示すように、めっき槽3に被めっき物16を収容する工程(収容工程)を行う。この場合、蓋体1の上部開口部1cから被めっき物16をめっき槽3内に入れて、底板2のベース部材7上に被めっき物16を適宜載置する。
【0034】
次に、図4に示すように、めっき液母槽20から処理液導入管13(図1参照)を経由して少量のめっき液26をめっき槽3に供給する工程(以下、「供給工程」という。)を行う。この場合、少量のめっき液26が、金網状の箱体10からめっき槽3内に流出し、底板2のベース部材7上に載置されている被めっき物16とともにめっき槽3内に貯められる。この供給工程で供給されるめっき液26としては、例えばニッケル液が用いられる。なお、ここでの「少量」とは、めっき工程を行う際にめっき槽3に供給されるめっき液26の量よりも少ない量であって、被めっき物16をめっき液26中に十分に沈ませることが可能な量を意味している。
【0035】
図5に示すように、めっき液26をめっき槽3に供給すると、めっき液26が大半の被めっき物16の表面に十分に馴染むことにより、当該被めっき物16はめっき液26に沈み込んだ状態となる。しかしながら、一部の被めっき物16aの表面には、めっき液26が十分に馴染むことができず、そのような被めっき物16aはめっき液26に浮いた状態となる。
【0036】
次に、図6(a)に示すように、めっき槽3を回転軸18を中心に一方向に回転させて遠心力によりめっき液26および被めっき物16,16aをめっき槽3の外周側に移動させる工程(以下、「移動工程」という。)を行う。このとき、遠心力によってめっき液26はその表面がベース部材7の上面に対して略垂直となるように底板2の外周側に押し寄せられる。そして、それに伴ってめっき液26に沈んでいた大半の被めっき物16も底板2の外周側に押し寄せられる。これに対して、上記のようにめっき液26に浮いていた一部の被めっき物16aについて着目すると、図6(b)に示すように、X軸の負の方向(めっき液26の方向)に遠心力(mrω[N])を受けている一方で、X軸の正の方向にめっき液26の表面からの表面張力(F[mN/m]×L[m]=FLcosθ[mN](被めっき物16aはその外周縁部の長さLに亘って表面張力を受けている。))及びめっき液26からの液圧(f[N](ただし、ゲージ圧とする。))を受けており、X軸方向において被めっき物16aは力が釣り合った状態になっている(つまり、mrω=FLcosθ+f)。なお、上記においては、被めっき物16aの質量をm[kg]、重力加速度をg[m/s]、被めっき物16aとめっき液26との接触角をθ[rad]、回転軸18の延長線Lと被めっき物16との間の距離をr[m]、めっき槽3が回転しているときの角速度をω[rad/s]とした。したがって、被めっき物16aは、依然としてめっき液26の表面に位置することになる。
【0037】
このように、めっき槽3を回転させてめっき液26および被めっき物16,16aを底板2の外周側に移動させても、上記のようにめっき液26に浮いていた被めっき物16aは、めっき液26中に侵入することができない。また、被めっき物16aの対象は例えばチップ型抵抗器等であり、その質量(m[kg])が非常に小さいので、それに起因して遠心力(mrω[N])も小さくなる。そのため、例え角速度ω[rad/s]を設定可能な範囲内で大きくしても、被めっき物16aをめっき液26中に押し込むことを可能にする程の大きさの遠心力を当該被めっき物16aに与えることは難しい。そこで、本実施形態例に係る回転型めっき装置100では、以下に示すように、移動工程中にスプレーノズル14から底板2の外周側に向けてめっき液26を噴射(吐出)するめっき液噴射工程(吐出工程)を行うようにしている。このめっき液噴射工程で噴射されるめっき液26としては、上記した供給工程で供給されためっき液26と同じめっき液(例えばニッケル液)が用いられる。
【0038】
具体的には、図7(a)に示すように、移動工程中に、めっき液26の表面に位置している被めっき物16aに向けてスプレーノズル14からめっき液26を霧状に噴射させ、この噴射させためっき液26aを被めっき物16aの表面160aに付着させる。ここで、スプレーノズル14は上述したように回転軸18の延長線L上に配置されている箱体10(図1参照)の側方に配設されており、このスプレーノズル14を略中心としてめっき槽3が回転するようになっている。そのため、図7(b)に示すように、被めっき物16aの表面160a全体に次第に略均一にめっき液26が塗布されるようになり、遂には被めっき物16aの表面160a全体に塗布されためっき液26aと、当該被めっき物16aの外周縁部の周りのめっき液26と、が付着するようになる。このときの被めっき物16aに着目すると、図7(b)に示すように、X軸の負の方向に遠心力(mrω[N])および表面張力(FLcosθ[mN])を受ける一方で、X軸の正の方向に液圧(f[N])を受けている。すなわち、被めっき物16aに働く表面張力が、移動工程中においてそれまで被めっき物16aに働いていた方向(X軸の正の方向)とは逆の方向(X軸の負の方向)に働くようになるので、それまで維持されていた力の釣り合いの状態が崩れることになる(つまり、mrω+FLcosθ>f)。こうして、被めっき物16aは、遠心力(mrω[N])および表面張力(FLcosθ[mN])の2つの合力をX軸の負の方向(めっき液26の方向)に受けることにより、めっき液26中に押し込まれていくことになる。
【0039】
その後、被めっき物16aは、X軸の負の方向に遠心力を受けるとともに、垂直方向には重力を受けることにより、めっき液26中を底板2の外周側に移動し、図8に示すように、めっき槽3の底部に落下する。
【0040】
このようにして液馴染み工程を行った後に、回転型めっき装置100を用いて被めっき物16にめっきを施す工程(めっき工程)を行う。この場合、めっき槽3にめっき液26を補充した後に、めっき槽3を回転軸18を中心にして水平方向に正回転および逆回転を交互に繰り返し、その回転が維持されて、遠心力により被めっき物16がカソード電極5へ押し付けられている短時間のみ、アノード電極4とカソード電極5間に通電することにより、被めっき物16にめっきを施すことになる。
【0041】
なお、図示は省略しているが、このめっき工程では、めっき槽3内にダミーボールが投入されている。このダミーボールは、めっき液26の攪拌性を向上させるとともに、めっき液26の導通性を向上させることができる。また、このめっき工程では、常時、液面センサ15によってめっき槽3内のめっき液26の水面の高さに関する情報を取得し、この取得した情報に基づいて、めっき液26の供給量と、めっき液26の排出量と、が同一になるように制御している。これにより、常時、めっき槽3内のめっき液を所定量に保つようにしている。
【0042】
以上説明したように、本実施形態例に係る回転型めっき装置100によれば、被めっき物16およびめっき液26が投入されためっき槽3が回転しているときに、遠心力により底板2の外周側にめっき液26および被めっき物16,16aを移動させた状態で、めっき液26の表面に位置する被めっき物16aに対してスプレーノズル14の噴出部(吐出部)14aからめっき液26を噴射(吐出)させることができる。これにより、噴射されためっき液26が被めっき物16aの表面全体に塗布され、この塗布されためっき液26が被めっき物16aの周縁部の周りのめっき液26と付着して、被めっき物16aがめっき液26中に押し込まれいくようになる。したがって、被めっき物16aに対してめっき液26を十分に馴染ませることができるので、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる。
【0043】
また、本実施形態例に係る回転型めっき装置100を用いためっき方法によれば、めっき工程前に行う液馴染み工程において、移動工程中にめっき液26の表面に位置している被めっき物16aに対して、めっき液26を霧状に噴射(吐出)させるめっき液噴射工程(吐出工程)を行う。これにより、被めっき物16aの表面全体にめっき液26を塗布させ、この塗布させためっき液26と被めっき物16aの周縁部の周りのめっき液26とを付着させることにより、被めっき物16aをめっき液26中に押し込ませていくことができる。したがって、被めっき物16aに対してめっき液26を十分に馴染ませることができるので、被めっき物に対するめっき液の不十分な馴染みに起因するめっき不良を低減させることができる。
【0044】
なお、上記実施形態例では、液馴染み工程では、めっき槽3は時計方向および反時計方向の何れか一方の回転により、所定速度で回転を維持させるようにしていたが、この構成に限られない。液馴染み工程においても、めっき工程と同様に、めっき槽3は正逆方向の回転により、所定速度で回転および停止を繰り返すようにしてもよい。
【0045】
また、上記実施形態例では、スプレーノズル14の噴射部14aは2つ形成されていたが、この構成に限られず、噴射部14aが3つ以上形成されてもよいし、噴射部14aが1つのみ形成されてもよい。噴射部14aが3つ以上形成されている場合には、スプレーノズル14から多量のめっき液26を噴射させることができるので、めっき液26の表面に位置している被めっき物16aに対して十分にめっき液26を付着させることができ、当該被めっき物16aをめっき液26中に押し込み易くすることができる。一方、噴射部14aが1つのみ形成されている場合には、スプレーノズル14の設計を容易とすることができる。なお、噴射部14aが1つのみ形成された場合でも、底板2自体は回転軸18を中心にして回転するので、1つの噴射部14aからでもめっき液26を被めっき物16aに対して適切に噴射することができる。
【0046】
また、上記実施形態例では、スプレーノズル14に接続されたスプレー用処理液導入管25は、めっき液母槽20まで延びるように設けられていたが、この構成に限られることなく、めっき液母槽20に至る途中で処理液導入管13と接続するような構成であってもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態例では、めっき工程を1回行う前に液馴染み工程を行う例を示したが、これに限られず、被めっき物16aに対して異なる種類(例えば2種類)のめっきを施す場合には、1回目のめっき工程の前に液馴染み工程を行い、この1回目のめっき工程が終了してから水洗工程を行った後に、2回目のめっき工程を行う前に再び液馴染み工程を行うようにすればよい。この場合、例えば被めっき物16にニッケルめっきを形成し、このニッケルめっき上に錫めっきを形成する際には、最初の液馴染み工程ではめっき液26としてNiめっき液を用い、2回目の液馴染み工程ではめっき液26として錫めっき液を用いればよい。
【0048】
また、上記実施形態例では、スプレーノズル14が箱体10(アノード電極4)の側方に配設された状態で液馴染み工程を行う例を説明したが、箱体10をめっき槽3の外に移し、スプレーノズル14が回転型めっき装置100の回転軸18の延長線L上に配設された状態で液馴染み工程を行ってもよい。
【0049】
また、上記実施形態例では、スプレーノズル14をベース部材7から所定の高さに配置した構成であったが、この構成に限られない。例えばスプレーノズル14のベース部材7からの高さを調節可能な調節機構をスプレーノズル14に取り付けた構成であってもよい。こうすれば、液馴染み工程において、めっき槽3に供給された少量のめっき液26の量に応じて、スプレーノズル14の高さを調節することができるので、めっき液噴射工程にてめっき液26の表面に位置している被めっき物16aに対してめっき液26を適切に噴射させることができる。
【0050】
さらに、上記実施形態例では、スプレーノズル14を配置した状態でめっき工程を行っていたが、スプレーノズル14を取り除いた状態でめっき工程を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 蓋体
2 底板
3 めっき槽
4 アノード電極
5 カソード電極
14 スプレーノズル(吐出部)
14a 噴射部(吐出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8