(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】再圧縮グラファイトワームのカソードを有する多価金属イオン電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20230831BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/44 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20230831BHJP
H01M 10/38 20060101ALI20230831BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230831BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230831BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
H01M10/36 Z
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/583
H01M4/38 Z
H01M4/42
H01M4/44
H01M4/46
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M10/36 A
H01M10/38
H01M4/587
H01M10/054
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2019551671
(86)(22)【出願日】2018-03-02
(86)【国際出願番号】 US2018020556
(87)【国際公開番号】W WO2018175086
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-12-07
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0301096(US,A1)
【文献】特表2013-516037(JP,A)
【文献】特開平06-124708(JP,A)
【文献】特表2016-536743(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302697(US,A1)
【文献】特表2016-513354(JP,A)
【文献】特開2011-198600(JP,A)
【文献】特開2014-093192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36
H01M10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードと、カソードと、前記アノード及び前記カソードを電気的に分離する多孔性分離体と、前記アノードにおけ
るBe、Mg、Ca、Ba、La、Ti
、Zr、Nb、Mn、V
、In又はその組合せから選択される多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するための前記アノード及び前記カソードとイオン接触する電解質とを含む、多価金属イオン電池であって、
前記アノードが、アノード活物質として前記多価金属又はその合金を含有し、且つ前記カソードが、はく離グラファイト又はカーボン材料のカソード層を含み、
前記カソード層が、再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の活性層を含み、前記活性層が、前記電解質と直接接触し且つ前記多孔性分離体に面する又は接触するグラファイトフレーク縁部平面を有する様式で配向され、
前記はく離グラファイト又はカーボン材料が、相互連結したままの、はく離されたが、大部分が分離されていないグラファイトフレークの集合であり、個々のグラファイトフレーク(それぞれ、一緒に積層した1~数百のグラフェン平面を含有する)が、互いから間隔を置いて2.0nm~10μmの間隔を有するが、物理的に相互連結したままであり、
前記多価金属イオン電池が、1.5ボルト以上の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高いカソード比容量を有する
ことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項2】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記カソード活性層中の前記
再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料が、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボン繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せの製品から選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項3】
請求項
1に記載の多価金属イオン電池において、
前記再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の前記活性層が、0.5~1.8g/cm
3の物理的密度を有し、且つ、フレーク間細孔として、2nm~50nmの細孔径を有するメソスケール細孔を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項4】
請求項
1に記載の多価金属イオン電池において、
前記再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の前記活性層が、1.1~1.8g/cm
3の物理的密度を有し、且つ、フレーク間細孔として、2nm~5nmの細孔径を有する細孔を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項5】
請求項
1に記載の多価金属イオン電池において、
前記再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の前記活性層が、
20~1,500m
2/gの比表面積を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項6】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記多価金属又はその合金を支持するアノード集電体をさらに含むか、或いは
前記はく離グラファイト又はカーボン材料の前記カソード層を支持するカソード集電体をさらに含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項7】
請求項
6に記載の多価金属イオン電池において、前記アノード集電体が、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントの集積ナノ構造を含有し、前記フィラメントが500nm未満の横断寸法を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項8】
請求項
7に記載の多価金属イオン電池において、前記フィラメントが、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項9】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、水性電解質、有機電解質、ポリマー電解質、溶融塩電解質、イオン液体電解質又はその組合せから選択されることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項10】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、NiSO
4、ZnSO
4、MgSO
4、CaSO
4、BaSO
4、FeSO
4、MnSO
4、CoSO
4、VSO
4、TaSO
4、CrSO
4、CdSO
4、GaSO
4、Zr(SO
4)
2、Nb
2(SO
4)
3、La
2(SO
4)
3、BeCl
2、BaCl
2、MgCl
2、AlCl
3、Be(ClO
4)
2、Ca(ClO
4)
2、Mg(ClO
4)
2、Mg(BF
4)
2、Ca(BF
4)
2、Be(BF
4)
2、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh
2Bu
2)
2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu
3)
2)又はその組合せを含有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項11】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項12】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、ベリリウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、窒化物、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項13】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項14】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電解質が、前記カソードにおけるカチオン、アニオン又は両方を含むイオンの可逆性のインターカレーション及び脱インターカレーションも支持することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項15】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、
前記はく離グラファイト又はカーボン材料の前記カソード層が、分離体又は追加のカソード集電体を含まない前記多価金属イオン電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体として機能することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項16】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、
前記はく離グラファイト又はカーボン材料の前記カソード層が、前記
はく離グラファイト又はカーボン材料を一緒に結合してカソード電極層を形成する結合剤材料をさらに含むことを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項17】
請求項
16に記載の多価金属イオン電池において、前記結合剤材料が、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体から選択される導電性結合剤であることを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項18】
請求項1に記載の多価金属イオン電池において、前記電池が1.5ボルト以上の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、300mAh/gより高いカソード比容量を有することを特徴とする多価金属イオン電池。
【請求項19】
多価金属イオン電池の製造方法であって、当該方法が、
(a)Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In若しくはその組合せから選択される多価金属又はその合金を含有するアノードを供給するステップと;
(b)再圧縮
はく離グラファイト又はカーボン材料の層を含有するカソードを供給するステップであって、前記はく離グラファイト又はカーボンの成分グラファイトフレークを整列するために、湿式圧縮を使用して、はく離グラファイト又はカーボンを圧縮するステップを備え、前記湿式圧縮が、液体電解質中に分散されたはく離グラファイト又はカーボンの懸濁液を圧縮又はプレスするステップを備えるステップと;
(c)前記アノード及び前記カソードを電気的に分離する多孔性分離体、並びに前記アノードにおける前記多価金属の可逆性堆積及び溶解、及び前記カソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給するステップと
を備え、
前記電解質と直接接触し、且つ前記分離体の平面と面するか、又は接触するグラファイト
フレーク縁部平面を前記層が有する様式で再圧縮
はく離グラファイト又はカーボン材料の前記層が配向されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の方法において、前記アノードにおいて多価金属又はその合金を支持するための導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給するステップをさらに備えることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項
19に記載の方法において、カソードを供給するステップが、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せから選択される膨張処理と、それに続いて、100℃~2,500℃の温度における熱的はく離をカーボン又はグラファイト材料に受けさせるステップを備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によって本明細書に組み込まれる、2017年3月20日出願の米国特許出願第15/463,555号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、再充電可能な多価金属電池(例えば、亜鉛、ニッケル、マグネシウム又はカルシウムイオン電池)の分野、特に、はく離グラファイト又はカーボンワームの高容量カソード活性層、及び多価金属イオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
歴史的に、今日最も好まれている再充電可能なエネルギー貯蔵デバイスであるリチウムイオン電池は、アノードとしてリチウム(Li)金属及びカソードとしてLiインターカレーション化合物(例えば、MoS2)を使用する再充電可能な「リチウム金属電池」から実際に発展した。Li金属は、その軽量(最軽量金属)、高い電気陰性度(-3.04V対標準水素電極)及び高い理論的容量(3,860mAh/g)のため、理想的なアノード材料である。これらの秀逸な特性に基づき、リチウム金属電池は高エネルギー密度応用のための理想的なシステムとして40年前に提案された。
【0004】
純粋なリチウム金属のいくつかの安全性における問題点のため、現在はリチウムイオン電池を製造するために、リチウム金属の代わりにアノード活物質としてグラファイトが導入されている。これまでの20年間、エネルギー密度、レート能力及び安全性に関してLiイオン電池において絶え間ない改良が見られている。しかしながら、Liイオン電池でのグラファイトベースのアノードの使用には、いくつかの重要な欠点がある:低い比容量(Li金属に関する3,860mAh/gとは対照的な372mAh/gの理論的容量)、長い再充電時間(例えば、電気自動車電池に関して7時間)を必要とする長いLiインターカレーション時間(例えば、グラファイト及び無機酸化物粒子内及び外のLiの低いソリッドステート拡散係数)、高いパルス電力をもたらすことが不可能であること、並びにプレリチウム化カソード(例えば、酸化コバルトに対してリチウム酸化コバルト)を使用することが必要であること。それによって利用可能なカソード材料の選択が制限される。さらに、これらの一般に使用されるカソード活物質は、比較的低いリチウム拡散係数を有する(典型的にD約10-16~10-11cm2/秒)。これらのファクターは、現在のLiイオン電池の1つの主要な欠点、中程度のエネルギー密度(典型的に150~220Wh/kgセル)であるが、非常に低い電力密度(典型的に<0.5kW/kg)に寄与している。
【0005】
電気自動車(EV)、再生可能なエネルギー貯蔵及び現代のグリッドアプリケーションに関して、スーパーキャパシタが考えられている。(電解コンデンサよりも10~100倍高い)スーパーキャパシタの比較的高い体積容量密度は、多孔性電極を使用して、拡散二重層電荷の形成を補助する大きい表面積を作成することから生じる。この電気二重層容量(EDLC)は、電圧が印加される時に固体電解質界面において自然に生じる。これは、スーパーキャパシタの比容量が、電極材料、例えば活性炭の比表面積に正比例することを意味する。この表面積は電解質が接近可能でなければならず、且つ得られる界面の区域はEDLC電荷を受け入れるために十分大きくなければならない。
【0006】
このEDLCの機構は表面イオン吸着に基づくものである。必要とされるイオンは液体電解質中に前もって存在し、そして反対側の電極から到達しない。言い替えれば、陰極(アノード)活物質(例えば、活性炭粒子)の表面で堆積する、必要とされるイオンは、陽極(カソード)側から到達せず、そしてカソード活物質の表面で堆積する、必要とされるイオンは、アノード側から到達しない。スーパーキャパシタが再充電される場合、局所的な陽イオンが陰極の表面付近に堆積し、それらのマッティング陰イオンが(典型的に局所的分子又は電荷のイオン分極によって)並列して付近に留まっている。他の電極においては、陰イオンが、この陽極の表面付近に堆積し、マッティング陽イオンが並列して付近に留まる。再び、アノード活物質及びカソード活物質間のイオンの交換はない。
【0007】
いくつかのスーパーキャパシタにおいて、貯蔵されたエネルギーは、いくつかの局所的電気化学反応(例えば、酸化還元)による擬似容量の効果によってさらに増大する。そのような擬似コンデンサにおいても、酸化還元対に関与するイオンは、同一電極に前もって存在する。再び、アノード及びカソード間のイオンの交換はない。
【0008】
EDLCの形成には化学反応又は2つの対電極間のイオンの交換を伴わないため、EDLスーパーキャパシタの充電又は放電プロセスは非常に速く、典型的に数秒であり、非常に高い電力密度(典型的に3~10kW/kg)をもたらすことが可能である。電池と比較して、スーパーキャパシタはより高い電力密度を提供し、維持管理を必要とせず、より高いサイクル寿命をもたらし、非常に単純な充電回線を必要とし、そして一般により安全である。化学的というよりもむしろ物理的なエネルギー貯蔵は、それらの安全な作動及び極めて高いサイクル寿命の主要な理由である。
【0009】
スーパーキャパシタの肯定的な特質にもかかわらず、種々の工業的応用のためのスーパーキャパシタの広範囲にわたる実行には、いくつかの技術的な障壁がある。例えば、電池と比較した場合、スーパーキャパシタは非常に低いエネルギー密度を有する(例えば、鉛酸電池に関して10~30Wh/kg及びNiMH電池に関して50~100Wh/kgであるのに対して、市販のスーパーキャパシタに関しては5~8Wh/kg)。現代のリチウムイオン電池は、セル重量に基づき、典型的に150~220Wh/kgの範囲のより高いエネルギー密度を有する。
【0010】
リチウムイオンセルに加えて、他の異なるタイプの電池:アルカリZn/MnO2、ニッケル金属水素化物(Ni-MH)、鉛-酸(Pb酸)及びニッケル-カドミウム(Ni-Cd)電池が社会で広く使用されている。1860年のそれらの発明から、アルカリZn/MnO2電池が高度に一般的な一次(再充電不可)電池となった。酸性塩電解質が、塩基性(アルカリ性)塩電解質の代わりに利用される場合、Zn/MnO2対が再充電可能な電池を構成することができることが今や知られている。しかしながら、アルカリ二酸化マンガンの再充電可能な電池のサイクル寿命は、深放電におけるMnO2と関連する不可逆性及び電気化学的に不活性な相の形成のため、典型的に20~30サイクルに限定される。
【0011】
さらに、放電の間のヘテロライト(haeterolite)(ZnO:Mn2O3)相の形成によって、ZnがMnO2の格子構造を貫入する場合、電池サイクルが逆転不可能となる。Znアノードも、内部の短絡を起こして、再充電の間のZn活物質の再分配及び樹枝状結晶の形成のため、サイクル寿命に限界がある。Ohらによって[S.M.Oh及びS.H.Kim、「Aqueous Zinc Sulfate(II)Rechargeable Cell Containing Manganese(II)Salt and Carbon Powder」、米国特許第6,187,475号明細書、2001年2月13日]、並びにKangらによって[F.Kangら、「Rechargeable Zinc Ion Battery」、米国特許第8,663,844号明細書、2014年3月4日]、これらの問題のいくつかを解決する試みがなされている。しかしながら、長期サイクル安定性及び電力密度の問題が解決されなければならない。これらの理由のため、この電池の商業化は制限されている。
【0012】
Xuらの米国特許出願公開第2016/0372795号明細書(12/22/2016)及び米国特許出願公開第2015/0255792号明細書(09/10/2015)には、カソード活物質として両方ともグラフェンシート又はカーボンナノチューブ(CNT)を利用するNi-イオン及びZn-イオンセルがそれぞれ報告された。これらの2つの特許出願は、カソード活物質重量に基づいて789~2500mAh/gの異常に高い比容量を主張するが、これらの2つのセルと関連していくつかの重大な問題がある:
(1)典型的なリチウムイオン電池とは異なり、充電又は放電曲線(電圧対時間又は電圧対比容量)における平坦域部分がない。電圧曲線平坦域のこの欠如は、出力電圧が一定ではない(非常に変化する)ことを意味し、そして一定レベルのセル出力電圧を持続するために複雑な電圧調節アルゴリズムが必要とされるであろう。
(2)実際に、Ni-イオンセルの放電曲線は、放電プロセスが開始するとすぐに、そして放電プロセスのほとんどの間、1.5ボルトから0.6ボルト未満への電圧の極めて急激な低下を示し、セル出力は0.6ボルト未満であり、これは非常に有用ではない。参照として、アルカリセル(一次電池)は1.5ボルトの出力電圧を供給する。
(3)放電曲線は、イオンインターカレーションと反対に、カソードにおいて表面吸着又は電気めっき機構の特徴を示す。さらに、電池放電の間にカソードにおいて生じる主要な事象が電気めっきであるように思われる。Xuによって報告された高い比容量値は、グラフェン又はCNTの表面上で電気めっきされたNi又はZn金属の高い量を単に反映するものである。アノード中に過剰量のNi又はZnがあるため、放電時間が増加すると、電気めっきされた金属の量は増加する。残念なことに、アノード及びカソードの間の金属量の差異が減少し続けるため(より多くのZn又はNiがアノードから溶解し、そしてカソード表面で電気めっきされる)、アノード及びカソードの間の電気化学ポテンシャルの差は減少し続ける。これは、おそらくセル出力電圧が減少し続ける理由である。2つの電極における金属の量が実質的に等しくなるか、又は同一となる時、セル電圧出力は本質的にゼロになるであろう。この電気めっき機構の別の意味は、カソードの大表面上に堆積可能な金属の全量が、セル作成時にアノードに導入された金属の量によって規定されるという概念である。カソードにおけるグラフェンシートの高い比容量(最高2,500mAh/g)は、アノードで提供されるZnの過度に高い量を単に反映する。グラフェン又はCNTがなぜそれほど多くの金属を「貯蔵する」ことが可能であったかという他のいかなる理由又は機構もない。Xuらによって報告される異常に高い比容量値は、非常に低い電圧値で残念なことに生じ、そしてほとんど有用性値を有さないカソード材料表面上に電気めっきされたNi又はZnの高い量に基づいて不自然に得られたものである。
【0013】
明らかに、多価金属二次電池に関して(放電の間に高い平均電圧及び/又は高い平坦域電圧を有する)適切な放電電圧プロフィール、(低レートのみならず)高及び低充電/放電レートの両方における高い比容量、並びに長いサイクル寿命を提供する新規カソード材料に関する切迫した必要性が存在する。願わくは、得られる電池は、スーパーキャパシタのいくつかの好ましい特質(例えば、長いサイクル寿命及び高い電力密度)並びにリチウムイオン電池のいくつかの好ましい特質(例えば、中程度のエネルギー密度)を付与することが可能である。これらは本発明の主要目的である。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、アノードと、カソードと、アノードにおける(Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択される)多価金属の可逆性の堆積及び溶解を支持するためのアノード及びカソードとイオン接触する電解質とを含む多価金属イオン電池において、アノードがアノード活物質として多価金属又はその合金を含有し、且つカソードが、細孔径2nm~10μmのフレーク間細孔を有するはく離グラファイト又はカーボン材料のカソード活性層を含む、多価金属イオン電池を提供する。多価金属合金は、好ましくは、合金中に少なくとも80重量%(より好ましくは、少なくとも90重量%)の多価元素を含有する。選択可能な合金元素の種類に制限はない。
【0015】
カソード活性層中のはく離カーボン又はグラファイト材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せの熱的にはく離された製品から選択されてもよい。これらのカーボン/グラファイト材料に、膨張処理(例えばインターカレーション、酸化及び/又はフッ素化)を受けさせることが可能であり、続いて熱的はく離によってはく離グラファイト/カーボンワームを得ることができる。
【0016】
はく離グラファイト/カーボンワームを好ましくは再圧縮して、(電解質からのイオンを容易に収容し、そして電解質中にイオンを放出するように)電解質と直接接触し、且つ(多孔性分離体を通して貫入するイオンが縁部平面付近のフレーク間の間隔に容易に入ることができるように)分離体と面するか、又は接触するグラファイト縁部平面を層が有する様式で配向される再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料のカソード活性層を形成する。
【0017】
特定の実施形態において、再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の層は、0.5~1.8g/cm3の物理的密度を有し、且つ2nm~50nmの細孔径を有するメソスケール細孔を有する。いくつかの好ましい実施形態において、再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料の層は、1.1~1.8g/cm3の物理的密度を有し、且つ2nm~5nmの細孔径を有する細孔を有する。特定の実施形態において、はく離グラファイト又はカーボン材料は、10~1,500m2/gの比表面積を有する。再圧縮ワームの比表面積は、典型的に10~1,000m2/gであるが、より典型的に、且つ好ましくは、20~300m2/gである。
【0018】
我々は、選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga、In又はCr)が、(好ましくは再圧縮された)本発明のはく離グラファイト又はカーボン材料の層と組み合わせた場合、約1.0ボルト以上(最高3.7ボルト)において放電曲線平坦域を示すことができることを観察した。放電電圧対時間(又は容量)曲線のこの平坦域レジームによって、電池セルが有用な定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルトより有意に低い電圧出力が一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g~600mAh/gより高くまでである。
【0019】
この多価金属イオン電池は、アルミニウム金属又はアルミニウム金属合金を支持するアノード集電体をさらに含むか、或いはカソード活性層を支持するカソード集電体をさらに含むことができる。集電体は、電子伝導路の3Dネットワークを形成するグラフェンシート、カーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維、炭化ポリマー繊維又はその組合せなどの導電性ナノフィラメントから構成されるマット、紙、布、箔又は発泡体であることが可能である。そのようなアノード集電体の高い表面積は、金属イオンの急速且つ均一の溶解及び堆積を促進するのみならず、交換電流密度を減少するようにも作用し、したがって、さもなければ内部短絡を引き起こす可能性のある金属樹枝状結晶を形成する傾向を減少するように作用する。
【0020】
カーボン、又はメソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張グラファイトフレーク、人工グラファイト粒子、天然グラファイト粒子、高度に配向された熱分解グラファイト、軟質カーボン粒子、硬質カーボン粒子、マルチウォールカーボンナノチューブ、カーボンナノ繊維、カーボン繊維、グラファイトナノ繊維、グラファイト繊維及び炭化ポリマー繊維などのグラファイト材料は、化学的又は物理的膨張処理の前に0.27nm~0.42nmの初期面間隔d002を有し、且つ面間隔d002は膨張処理後、0.43nm~2.0nmまで増加する。
【0021】
膨張処理としては、グラファイト又はカーボン材料の酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せが含まれる。この膨張処理の後に、熱的はく離及び再圧縮が続く。膨張処理のため、カーボン又はグラファイト材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素又はホウ素から選択される非炭素元素を含有することができる。
【0022】
制限のない熱的はく離によって、典型的に20nm~50μm(より典型的に100nm~10μm)の平均径を有するフレーク間細孔を有するはく離グラファイト又はカーボン材料ワームがもたらされる。次いで、はく離グラファイト/カーボンワームを圧縮し、電解質と直接接触し、且つ分離体と面するか、若しくは接触するグラファイト縁部平面を層が有する様式で配向される再圧縮はく離カーボン又はグラファイト材料の層又はブロックが製造される。再圧縮はく離カーボン又はグラファイト材料は、典型的に0.5~1.8g/cm3の物理的密度を有し、且つ2nm~50nmの細孔径を有するメソスケール細孔を有する。
【0023】
電解質は、水性電解質、有機電解質、ポリマー電解質、溶融塩電解質、イオン液体電解質又はその組合せから選択されてよい。本発明の多価金属イオン電池において、電解質は、NiSO4、ZnSO4、MgSO4、CaSO4、BaSO4、FeSO4、MnSO4、CoSO4、VSO4、TaSO4、CrSO4、CdSO4、GaSO4、Zr(SO4)2、Nb2(SO4)3、La2(SO4)3、BeCl2、BaCl2、MgCl2、AlCl3、Be(ClO4)2、Ca(ClO4)2、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2、Ca(BF4)2、Be(BF4)2、トリ(3,5-ジメチルフェニルボラン、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボラン、アルキルグリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せを含有し得る。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、電解質は、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0025】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、ベリリウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物又は過塩素酸塩から選択されて少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0026】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0027】
特定の実施形態において、はく離カーボン又はグラファイト材料の層は、分離体又は追加のカソード集電体を含まない電池の放電の間に電子を収集するためのカソード集電体としても機能する。
【0028】
はく離グラファイト/カーボンのカソード活性層は、はく離グラファイトフレークを一緒に結合してカソード電極層を形成する、結合剤材料(好ましくは導電性結合剤材料)をさらに含んでもよい。導電性結合剤材料は、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、導電性ポリマー、ポリマーカーボン又はその誘導体から選択されてよい。非導電性材料(例えば、PVDF、PTFE、SBRなど)も使用されてよい。
【0029】
典型的に、本発明の二次電池は、典型的に1ボルト以上(より典型的に、且つ好ましくは>1.5ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、200mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>300mAh/g、より好ましくは>400mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。いくつかのセルは、比容量>600mAh/gを有する。
【0030】
好ましくは、二次電池は、2ボルト以上(好ましくは>2.5ボルト、より好ましくは>3.0ボルト、最も好ましくは>3.5ボルト)の平均放電電圧、及び全カソード活性層重量に基づき、100mAh/gより高い(好ましくは、且つより典型的に>200mAh/g、より好ましくは>300mAh/g、最も好ましくは>500mAh/gの)カソード比容量を有する。
【0031】
本発明は、多価金属イオン電池の製造方法も提供する。この方法は、(a)(Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In若しくはその組合せから選択される)多価金属又はその合金を含有するアノードを供給すること;(b)再圧縮はく離カーボン又はグラファイト材料(再圧縮グラファイト/カーボンワーム若しくは再圧縮膨張グラファイトフレーク、グラフェンシートではない)の層を含むカソードを供給すること;及び(c)アノードにおける多価金属の可逆性堆積及び溶解並びにカソードにおけるイオンの可逆性吸着/脱着及び/又はインターカレーション/脱インターカレーションを支持することができる電解質を供給することを含み、電解質と直接接触し、且つ分離体の平面と面するか、又は接触するグラファイト縁部平面を層が有する様式で再圧縮はく離カーボン又はグラファイト材料の層が配向される。典型的に、このグラファイト縁部平面は、多孔性分離体に対して実質的に平行であり、したがって、分離体を通して移行するイオンを容易に収容することができる。好ましくは、電解質は、水性電解質、有機電解質、溶融塩電解質又はイオン液体を含有する。
【0032】
この方法は、アノードにおいて多価金属又はその合金を支持するための導電性ナノフィラメントの多孔性ネットワークを供給することをさらに含む。
【0033】
この方法において、カソードを供給するステップは、好ましくは、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せから選択される膨張処理と、それに続いて、100℃~2,500℃の温度における熱的はく離をカーボン又はグラファイト材料に受けさせることを含有する。
【0034】
特定の好ましい実施形態において、カソードを供給する手順は、はく離グラファイト又はカーボンの成分グラファイトフレークを整列するために、湿式圧縮又は乾式圧縮を使用して、はく離グラファイト又はカーボンを圧縮することを含む。この手順によって、最小抵抗で分離体細孔からフレーク間の間隔中へのイオンの直接移行を可能にする、分離体に対して平行なフレーク縁部平面を有するグラファイト構造の層又はブロックを生じることが可能である。好ましくは、カソードを供給する手順は、はく離グラファイト又はカーボンの成分グラファイトフレークを整列するために、湿式圧縮を使用して、はく離グラファイト又はカーボンを圧縮することを含み、湿式圧縮は、多価金属イオンセル中での使用が意図される液体電解質中に分散されたはく離グラファイト又はカーボンの懸濁液を圧縮又はプレスすることを含む。上記電解質のいずれも、この懸濁液中で利用することができる。電解質は、後に、意図された多価金属イオン電池の電解質の一部となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1A】
図1(A)は、インターカレート及び/又は酸化されたグラファイト、その後のはく離グラファイトワーム、並びに単純に凝集されたグラファイト又はグラフェンフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルム及び膜を製造するプロセスを例示する略図である。
【
図1B】
図1(B)は、はく離カーボン(はく離カーボンワーム)のSEM画像である。
【
図1C】
図1(C)は、グラファイトワームのSEM画像である。
【
図1D】
図1(D)は、熱的にはく離されたグラファイト構造の製造アプローチを例示する略図である。
【
図1E】
図1(E)は、2つの逆回転ローラーの対の間の間隙又はローラーのいくつかの対の間の間隙に乾式はく離グラファイトワームを供給することを含む、圧縮はく離グラファイトを製造する連続プロセスである。
【
図1F】
図1(F)は、高度に圧縮され、且つ配向されたグラファイトフレークの層を形成するための(ピストン又はラム308を備えたモールドキャビティセル302を使用する)圧縮及び固結操作の一例を例示する略図である。
【
図1G】
図1(G)は、高度に圧縮され、且つ配向されたグラファイトフレークの層を形成するための(ピストン又はラムを備えたモールドキャビティセルを使用する)圧縮及び固結操作の別の例を例示する略図である。
【
図2A】
図2(A)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、熱的にはく離されたグラファイト/カーボンの層を含有する多価金属二次電池の略図である。
【
図2B】
図2(B)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、熱的にはく離されたグラファイト/カーボン、(図示されない)任意選択的な導電性添加剤及び(図示されない)任意選択的な結合剤から構成される多価金属二次電池セルの略図である。
【
図3A】
図3(A)は、3つのZn箔アノードベースのZn-イオンセルの放電曲線であり;第1のものは、初期のグラファイト粒子のカソード層を含有し、第2のものは、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(わずか軽度のみの再圧縮;20nm~3μmの細孔径)を含有し、且つ第3のものは、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(重度の再圧縮;約2nm~約20nmの細孔径;分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触する縁部平面を有する)を含有する。
【
図3B】
図3(B)は、2つのCaイオンセルの放電曲線であり;一方は、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(重度の再圧縮;分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触する縁部平面を有する)を含有し、他方は、分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触するグラファイトフレーク表面を有する。初期の人工グラファイト粒子のカソードを含有するセルは、チャートには示されないが、非常に短い放電曲線(<30mAh/g)を示す。
【
図4】
図4は、2つのNiメッシュアノードベースのセルの放電曲線であり;一方は、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、熱的にはく離されたMCMBワームのカソード層を含有する。
【
図5】
図5は、(圧縮はく離MCMBのカソード層を含有する)Zn-MCMBセル及び(はく離及び圧縮された気相成長カーボンナノ繊維のカソードを含有する)V-CNFの比容量であり、両方とも、充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされている。
【
図6】
図6は、重度に再圧縮され、好ましくは配向されたはく離MCMBのカソード層を含有するMg-イオンセルの比容量、及び軽度に再圧縮されたはく離MCMBのカソードを含有するMg-イオンセルの比容量であり、両方とも、充電/放電サイクルの数の関数としてプロットされている。使用された電解質は、モノグリム中1MのMgCl
2:AlCl
3(2:1)であった。
【
図7】
図7は、Mg-イオンセル(電解質=テトラヒドロフラン中1Mのトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、25℃)及びCa-イオンセル(電解質=80℃におけるEC:PC中0.45MのCa(BF
4)
2)のRagoneプロットであり;アノードは、それぞれCNT及びグラフェンフォームによって支持されたか、又は支持されていないMg又はCa金属であり、且つカソードは、再圧縮はく離人工グラファイトである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1(A)の上部に概略的に例示されるように、バルク天然グラファイトは、粒子境界(非晶質又は欠陥区域)が隣接するグラファイト単結晶を仕切っている状態で、それぞれのグラファイト粒子が複数の粒子(グラファイト単結晶又は結晶子である粒子)から構成されている3-Dグラファイト材料である。それぞれの粒子は、互いに平行に配向される複数のグラフェン平面から構成されている。グラファイト結晶子中のグラフェン平面又は六角炭素原子平面は、2次元の六角格子を占有する炭素原子から構成される。所与の粒子又は単結晶中、グラフェン平面は、(グラフェン平面又は底面に対して垂直である)結晶学的c方向のファンデルワールス力によって積層及び結合される。天然グラファイト材料中のグラフェン間の面間隔は約0.3354nmである。
【0037】
人工グラファイト材料も成分グラフェン平面を含有するが、それらは、X線回折の測定によると、典型的に0.32nm~0.36nm(より典型的に0.3339~0.3465nm)のグラフェン間の面間隔d002を有する。多くのカーボン又は準グラファイト材料も、それぞれ積層グラフェン平面から構成される(グラファイト結晶子、領域又はクリスタル粒子とも呼ばれる)グラファイト結晶を含有する。これらには、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、軟質カーボン、硬質カーボン、コークス(例えば、ニードルコークス)、カーボン又はグラファイト繊維(気相成長カーボンナノ繊維若しくはグラファイトナノ繊維を含む)及びマルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)が含まれる。MW-CNT中の2つのグラフェン環又は壁部の間の間隔は、約0.27~0.42nmである。MW-CNT中の最も一般的な間隔値は、0.32~0.35の範囲であるが、これは合成方法に強く依存しない。
【0038】
「軟質カーボン」が、2,000℃より高い(又はより典型的に2,500℃より高い)温度まで加熱時にこれらの領域が一緒に容易に統合されることが可能であるように、1領域における六角炭素平面(又はグラフェン平面)の配向及び隣接するグラファイト領域における配向が互いから不釣り合いすぎることがない、グラファイト領域を含有するカーボン材料を意味することが指摘され得る。そのような熱処理は、一般にグラファイト化と呼ばれる。したがって、軟質カーボンは、グラファイト化が可能であるカーボン材料として定義することができる。それとは対照的に、「硬質カーボン」は、より大きな領域を得るために一緒に熱的に統合できない高度に不適合に配向されたグラファイト領域を含有するカーボン材料として定義することができる。すなわち、硬質カーボンはグラファイト化が不可能である。硬質カーボン及び軟質カーボンの両方とも、インターカレートされ、且つ熱的にはく離されることが可能なグラファイト領域を含有する。次いで、はく脱カーボンを再圧縮して、成分グラファイトフレークが整列されるカソード層を製造することができる。
【0039】
天然グラファイト、人工グラファイト及び上記リストの他のグラファイトカーボン材料中のグラファイト結晶子の成分グラフェン面間隔は、グラファイト又はカーボン材料の酸化、フッ素化、塩素化、臭素化、ヨード化、窒素化、インターカレーション、酸化-インターカレーションの組合せ、フッ素化-インターカレーションの組合せ、塩素化-インターカレーションの組合せ、臭素化-インターカレーションの組合せ、ヨード化-インターカレーションの組合せ又は窒素化-インターカレーションの組合せを含む、いくつかの膨張処理アプローチを使用して膨張されることが可能である(すなわち、d002間隔は0.27~0.42nmの初期範囲から0.42~2.0nmの範囲まで増加する)。
【0040】
より特に、平行なグラフェン平面を比較的弱く一緒に保持するファンデルワールス力のため、グラファイトは、グラフェン面間隔がc軸方向における有意な膨張を提供するように増加することが可能であるように処理されることができる。これによって、膨張した間隔を有するグラファイト材料が得られるが、六角炭素層のラメラ特徴は実質的に維持される。グラファイト結晶子の(グラフェン間の間隔とも呼ばれる)面間隔は、グラファイトの酸化、フッ素化及び/又はインターカレーションを含むいくつかのアプローチを経由して増加(膨張)可能である。これは概略的に
図1(D)に例示される。インターカラント、酸素含有基又はフッ素含有基の存在は、グラファイト結晶子における2つのグラフェン面間隔を増加させ、そしてグラフェン平面間のファンデルワールス力を弱め、容易な熱的はく離を可能にするように機能する。
【0041】
膨張したd間隔を有するグラファイト/カーボン材料が、強制されることなく(すなわち、体積を自由に増加することができる状態で)、熱衝撃に(例えば、典型的に800~2,500℃の温度の炉プリセットにこのカーボン材料を急速に配置することによって)暴露される場合、特定のグラフェン平面間の面間隔は有意に増加(実際に、はく離)され得る。これらの条件下で、熱的にはく脱されたグラファイト/カーボン材料は、それぞれのグラファイトワームが、相互連結したままの多くのグラファイトフレークから構成されているワームのように見える(
図1(C)を参照のこと)。しかしながら、これらのグラファイトフレークは、典型的に20nm~10μmの細孔径範囲のフレーク間細孔を有する。
【0042】
図1(A)に例示するように、一プロセスにおいて、天然グラファイト粒子に強酸及び/又は酸化剤をインターカレートしてグラファイトインターカレーション化合物(GIC)又はグラファイト酸化物(GO)を得ることによって、膨張された面間隔を有するグラファイト材料が得られる。グラフェン平面間の隙間間隔における化学種又は官能基の存在は、X線回折によって決定されるグラフェン間間隔d
002を増加するように機能する。それによって、さもなければc軸方向に沿ってグラフェン平面を一緒に保持するファンデルワールス力が減少する。GIC又はGOは、天然グラファイト粉末(
図1(A)中の100)を硫酸、硝酸(酸化剤)及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物に浸漬させることによって最もしばしば製造される。酸化剤がインターカレーション手順の間に存在する場合、得られるGIC(102)は、実際は、いくつかのタイプのグラファイト酸化物(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを水中で繰り返し洗浄及びすすいで、過剰量の酸を除去すると、水中に分散された離散的且つ視覚的に認識できるグラファイト酸化物粒子を含有するグラファイト酸化物懸濁液又は分散体が得られる。
【0043】
水は、本質的に大量の乾燥GIC又は乾燥グラファイト酸化物粒子である「膨張性グラファイト」を得るために、懸濁液から除去されてよい。乾燥GIC又はグラファイト酸化物粒子中のグラフェン間の間隔d002は、典型的に0.42~2.0nmの範囲、より典型的に0.5~1.2nmの範囲である。「膨張性グラファイト」が「膨張したグラファイト」ではないことが指摘され得る(後述でさらに説明される)。グラファイト酸化物は、2重量%~50重量%、より典型的に20重量%~40重量%の酸素含有量を有することができる。
【0044】
約30秒~約2分間の典型的に800~2,500℃(より典型的に900~1,050℃)の範囲の温度への膨張性グラファイトの曝露時に、GICは30~300のファクターで急速な体積膨張を経験し、「はく離グラファイト」又は「グラファイトワーム」(104)を形成する。グラファイトワームは、それぞれ、相互連結したままの、はく離されたが、主に分離されないグラファイトフレークの集合である(
図1(B)及び
図1(C))。はく離グラファイトにおいて、個々のグラファイトフレーク(それぞれ、一緒に積層した1~数百のグラフェン平面を含有する)が互いから高度に間隔を置いて、典型的に2.0nm~10μmの間隔を有する。しかしながら、それらは、物理的に相互連結したままであり、アコーディオン又はワーム様構造を形成している。
【0045】
はく離グラファイトワームは、大量のはく離グラファイトワームを密集化させ、フレーク間細孔径又は間隔を減少させ、そして成分フレークの配向を整列する目的のため、「再圧縮はく離グラファイト」が得られるように機械的に圧縮することができる。(いくつかの工学的用途において、グラファイトワームを極めて重度に圧縮して、典型的に0.1mm~0.5mmの範囲の厚さを有する可撓性グラファイトシート又は箔106を形成する。)本発明において、
図1(D)の右下部分に例示されるように、はく離グラファイトワームは、成分グラファイトフレークが多かれ少なかれ互いに平行になり、且つこれらのフレークの縁部が、得られた再圧縮グラファイトワームのブロック又は層の縁部平面を画定する範囲まで圧縮される。いくつかのグラファイトフレークの主表面(上部又は底部表面)は、(縁部平面と対立する)フレーク表面平面を構成することができる。
【0046】
代わりに、グラファイト産業において、主に100nmより薄いグラファイトフレーク又はプレートレットを含有する、いわゆる「膨張グラファイト」フレーク(108)を製造する目的でグラファイトワームを単純に破壊するために、低強度エアミル又はせん断機を使用することが選択されてもよい(したがって、定義上、ナノ材料ではない)。「膨張グラファイト」は「膨張性グラファイト」ではなく、また同様に「はく離グラファイトワーム」ではないことは明らかである。むしろ、「膨張性グラファイト」は、「グラファイトワーム」を得るために熱的にはく離可能であり、これは次に、さもなければ相互連結したグラファイトフレークを破壊して「膨張グラファイト」フレークを得るために、機械的せん断を受けさせることができる。膨張グラファイトフレークは、典型的に、それらの初期のグラファイトと同一又は類似の面間隔(典型的に0.335~0.36nm)を有する。同様に、膨張グラファイトはグラフェンではない。膨張グラファイトフレークは、典型的に100nmより厚い厚さを有し;それとは対照的に、グラフェンシートは典型的に100nm未満、より典型的に10nm未満、最も典型的に3nm未満の厚さを有する(単層グラフェンは厚さ0.34nmである)。本発明において、膨張グラファイトフレークは、所望の配向を有する再圧縮グラファイトの層を形成するように圧縮されてもよい。
【0047】
さらに代わりに、はく離グラファイト又はグラファイトワームは、我々の米国特許出願第10/858,814号明細書(米国特許出願公開第2005/0271574号明細書)において開示された通り、分離された単層及び多層グラフェンシート(集合的にNGP、112と呼ばれる)を形成するために、(例えば、超音波処理機、高せん断混合機、高強度エアジェットミル又は高エネルギーボールミルを使用して)高強度機械的せん断を受けさせてもよい。単層グラフェンは0.34nm程度の薄さであることが可能であるが、他方、多層グラフェンは100nmまでであるが、より典型的に3nm未満の厚さを有することが可能である(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。製紙プロセスを使用して、複数のグラフェンシート又はプレートレットからNGP紙(114)を製造してもよい。
【0048】
「膨張性グラファイト」又は膨張した面間隔を有するグラファイトは、GOの代わりにグラファイトフッ化物(GF)を形成することによって入手され得ることが指摘され得る。高温でのフッ素ガスにおけるグラファイトとのF2の相互作用によって、(CF)nから(C2F)nへの共有結合グラファイトフッ化物が導かれるが、低温においてはグラファイトインターカレーション化合物(GIC)CxF(2≦x≦24)が形成する。(CF)n中、炭素原子はsp3混成化し、したがって、フッ化炭化水素層は、トランス結合したシクロヘキサンチェアからなり、波状となる。(C2F)n中、C原子の2分の1のみがフッ化され、且つ隣接カーボンシートの全ての対はC-C共有結合によって連結する。フッ素化反応に関する系統的な研究によると、得られるF/C比は、主に、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の部分圧、並びにグラファイト化度、粒径及び比表面積を含むグラファイト前駆体の物理的特徴次第であることが示された。フッ素(F2)に加えて、他のフッ素化剤(例えば、F2とBr2、Cl2又はI2との混合物)が使用されてもよいが、利用可能な文献の大部分には、時々フッ化物の存在下で、F2ガスによるフッ素化が関与する。
【0049】
我々は、電気化学的フッ素化から得られる軽度にフッ化したグラファイト、CxF(2≦x≦24)が、典型的に、0.37nm未満、より典型的に<0.35nmのグラフェン間の間隔(d002)を有することを観察した。CxF中のxが2未満(すなわち、0.5≦x<2)である場合のみ、(気相フッ素化又は化学的フッ素化手順によって製造されたフッ化グラファイトにおいて)0.5nmより大きいd002間隔を観察することができる。CxF中のxが1.33未満(すなわち、0.5≦x<1.33)である場合、0.6nmより大きいd002間隔を観察することができる。この重度にフッ化したグラファイトは、好ましくは>1気圧、より好ましくは>3気圧の圧力下で十分長い時間、高温(>>200℃)におけるフッ素化によって得られる。不明確なままの理由のため、グラファイトの電気化学的フッ素化では、生成物CxFは1~2のx値を有するが、0.4nm未満のd間隔を有する生成物が導かれる。グラファイト中に電気化学的に導入されたF原子はグラフェン平面間の代わりに粒子境界などの欠陥中に存在する傾向があり、したがって、グラフェン間の平面間隔を膨張するように作用しない可能性がある。
【0050】
グラファイトの窒素化は、高温(200~400℃)においてグラファイト酸化物材料をアンモニアに暴露することによって実行可能である。窒素化は、より低温で熱水法によって、例えば、GO及びアンモニアをオートクレーブ中に封着し、次いで温度を150~250℃まで増加させることによって実行されてもよい。
【0051】
はく離グラファイトワーム又は膨張グラファイトフレークから、好ましいグラファイトフレーク配向を有する再圧縮はく離グラファイトへの圧縮又は再圧縮は、2つの広範囲のカテゴリーに分類することができるいくつかの手順を使用することによって達成可能である:乾式プレス/ローリング又は湿式プレス/ローリング。乾式プロセスは、液状媒体の非存在下において、グラファイトワーム又は膨張グラファイトフレークを一方向で機械的にプレスすること(一軸圧縮)を必要とする。代わりに、
図1(E)に概略的に例示されるように、このプロセスは、別の2つのローラー(例えば34a及び34b)の間の間隙に材料を向けることによって、さらなる再圧縮はく離グラファイトのより薄い層(整列したグラファイトフレークを含有する)を形成するために、次いでさらに圧縮される「再圧縮はく離グラファイト」のわずかに圧縮された層を形成するために2つの逆回転ローラー(例えば32a及び32b)の間の間隙中に乾燥はく離グラファイトワーム30を供給することを含む。必要であれば、層の厚さをさらに減少させ、そしてさらにフレーク配向度をさらに改善し、比較的良好に整列された再圧縮はく離グラファイトの層38を得るために、ローラーの別の対又は複数の対(例えば36a及び36b)を導入することができる。
【0052】
配向された再圧縮はく離グラファイト構造の所望の数の断片を製造するために、配向された再圧縮はく離グラファイト構造の層(或いは積層及び/又は一緒に結合したそのような構造の多層)を切断して切り開いてもよい。それぞれの断片が立方体又は四角形であると仮定して、
図1(D)の右下部分で例示されるように、それぞれの立方体は、4つのグラファイトフレーク縁部平面及び2つのフレーク表面平面を有するであろう。そのような断片がカソード層として導入される場合、層は、フレーク縁部平面の1つがアノード層又は多孔性分離体層に対して実質的に平行になる様式で配置及び整列されることができる。このフレーク縁部平面は、典型的に分離体層と非常に近く、又は実際に直接接触する。そのような配向は、電極中/電極からの移行及び退出の補助となり、有意に改善された高レート能力及び高い電力密度が導かれることが見出された。
【0053】
同一手順を使用して、出発材料が液状媒体中に分散されたグラファイトワームを含有する、再圧縮はく離グラファイトの湿式層を製造することができることが指摘され得る。この液状媒体は、単なる水又は溶媒であってよく、これはロールプレス手順の完了時に除去されなければならない。液状媒体は、はく離グラファイトワーム又はフレークを一緒に結合することを補助する樹脂結合剤を含有していても、又は含有していなくてもよいが、樹脂結合剤は不要であるか、又は望ましくない。代わりに、そして望ましくは、圧縮又はロールプレスされる前に、(最終多価金属イオンセルの電解質の一部となることが意図される)液体電解質のいくらかの量をはく離グラファイトワーム又は膨張グラファイトフレークと混合してもよい。
【0054】
本発明は、多価金属イオン電池カソード層として使用するための電解質が含浸された再圧縮グラファイト構造の製造のための湿式プロセスも提供する。好ましい実施形態において、この湿式プロセス(方法)は、(a)液体又はゲル電解質中に分散された、はく離グラファイトワーム又は膨張グラファイトフレークを有する分散体又はスラリーを調製することと;(b)懸濁液に強制アセンブリ手順を受けさせて、はく離グラファイトワーム又は膨張グラファイトフレークから、電解質によって含浸された再圧縮グラファイト構造を組み立てることを強制することを含み、電解質は、再圧縮はく離グラファイト中のフレーク間の間隔に存在する。はく離グラファイトのグラファイトフレーク又は膨張グラファイトフレークは望ましい方向に沿って実質的に整列される。再圧縮グラファイト構造は、電解質が除去された再圧縮グラファイト構造の所望の状態において測定される場合、0.5~1.7g/cm3(より典型的に0.7~1.3g/cm3)の物理的密度及び20~1,500m2/gの比表面積を有する。
【0055】
いくつかのの望ましい実施形態において、強制アセンブリ手順は、モールドキャビティセル中で、初期体積V1を有する、はく離グラファイト懸濁液を導入することと、懸濁液体積をより小さい値V2へと減少させるために、モールドキャビティセル中でピストンを運転し、(例えば、モールドキャビティセルの穴又はピストンの穴を通して)過剰量の電解質をキャビティセルの外に流すことと、ピストンの移動方向に対して約45°~90°の角度の方向に沿って複数のグラファイトフレークを整列することとを含む。この懸濁液中で使用される電解質は、意図された多価金属イオンセルのための電解質の一部になることが指摘され得る。
【0056】
図1(F)は、高度に圧縮され、且つ配向されたグラファイトフレーク314の層を形成するための(ピストン又はラム308を備えたモールドキャビティセル302を使用する)圧縮及び固結操作の一例を例示する略図を提供する。液体又はゲル電解質306中にランダムに分散されたグラファイトフレーク304から構成される懸濁液(又はスラリー)がチャンバー(モールドキャビティセル302)に含まれる。ピストン308が下方へ動かされて、モールド壁上の小チャネル312を通して、又はピストンの小チャネル310を通して過剰量の液体電解質が流れるように強制されることによって、懸濁液の体積は減少する。これらの小チャネルはモールドキャビティの壁のいずれか又は全てに存在することが可能であり、且つチャネルの径は、固体のグラファイトフレークを浸透させないが、電解質種の浸透を可能にするように設計することができる。過剰量の電解質は、
図1(E)の右図上で316a及び316bとして示される。この圧縮及び固結操作の結果として、グラファイトフレーク314は底部平面に対して平行であるか、又は層の厚さ方向に対して垂直に整列される。
【0057】
高度に圧縮され、且つ配向されたグラファイトフレーク320の層を形成するための(ピストン又はラムを備えたモールドキャビティセルを使用する)圧縮及び固結操作の別の例を例示する略図が
図1(G)に示される。ピストンはY方向に沿って下方へ動かされる。グラファイトフレークは、(Z又は厚さ方向に沿って)X-Z平面上に、且つX-Y平面に対して垂直に整列される。配向されたグラファイトフレークのこの層を、基本的にX-Y平面によって表される集電体(例えば、グラフェンマット)に接着することができる。得られる電極において、グラファイトフレークは集電体に対して垂直に整列される。そのような配向は、グラファイトフレーク間の間隔中及び外への急速なイオンインターカレーションを補助し、したがって、集電体平面に対して平行に整列されたグラファイトフレークを特徴とする対応する電極と比較して、より高い電力密度を導く。
【0058】
多価金属二次電池の構造をこれより以下に議論する。
【0059】
多価金属イオン電池は、典型的に、陽極(カソード)と、陰極(アノード)と、金属塩及び溶媒を含む電解質とを含む。アノードは、多価金属、又は別の元素とのその合金;例えば、Zn中0~10重量%のSnの薄い箔又はフィルムであることが可能である。多価金属は、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Nb、Mn、V、Co、Fe、Cd、Cr、Ga、In又はその組合せから選択されてよい。アノードは、アノード層を形成するために結合剤(好ましくは導電性結合剤)によって充てん及び結合された多価金属又は金属合金の粒子、繊維、ワイヤー又はディスクから構成されることが可能である。
【0060】
選択された多価金属(例えば、Ni、Zn、Be、Mg、Ca、Ba、La、Ti、Ta、Zr、Mn、V、Co、Fe、Cd、Ga又はCr)は、膨張したグラフェン間の平面間隔を有する本発明のグラファイト又はカーボン材料と組み合わせた場合、放電曲線平坦域又は約1.0ボルト以上(3.5ボルトまで)の平均出力電圧を示すことができることが観察された。電圧対時間(又は容量)曲線のこのような平坦域によって、電池セルが有用な一定電圧出力を提供することが可能となる。1ボルト未満の電圧アウトプットが一般に望ましくないと考えられる。この平坦域レジームに対応する比容量は、典型的に約100mAh/g(例えばZr又はTaに関して)から600mAh/gより高く(例えばZn又はMgに関して)までである。
【0061】
所望のアノード層構造は、電子伝導路(例えばグラフェンシート、カーボンナノ繊維又はカーボンナノチューブのマット)のネットワーク及びこの導電性ネットワーク構造の表面上に堆積された多価金属又は合金コーティングの薄層から構成される。そのような集積化されたナノ構造は、相互連結細孔を含む電子伝達路の多孔性ネットワークを形成するように相互連結している導電性のナノメートルスケールのフィラメントから構成されてよい。このフィラメントは500nm未満の横断寸法を有する。そのようなフィラメントは、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー及びその組合せからなる群から選択される導電性材料を含んでもよい。多価金属のためのそのようなナノ構造化、多孔性支持材料は、アノードにおける金属堆積溶解動力学を有意に改善することができ、得られる多金属二次セルの高いレート能力を可能にする。
【0062】
図2(A)は、アノード層が、多価金属薄コーティング又は箔であり、且つカソード活物質層が、熱的にはく離されたグラファイト/カーボン材料の層を含有する多価金属二次電池の略図である。代わりに、
図2(B)は、カソード活物質層が、再圧縮され、熱的にはく離されたグラファイト/カーボンの層と、(図示されない)任意選択的な導電性添加剤と、構造完全性のカソード活性層を形成するために一緒にワークを結合することを補助する(図示されない)樹脂結合剤とを含有する多価金属二次電池セルの略図を示す。
【0063】
再圧縮はく離グラファイト又はカーボン材料が、カソード活物質として導入される場合、多価金属イオンセルが一定電流密度において得られる放電電圧時間又は電圧容量曲線において電圧平坦域部分を示すことが可能となる。この平均域部門は、典型的に所与の多価金属に本質的な比較的高い電圧値で生じ、そして典型的に、高い比容量をもたらしながら、長い時間続く。典型的に、この平坦域部分の後、スーパーキャパシタタイプの挙動に相当する、低下曲線部分が続く。スーパーキャパシタ型の挙動(EDLC又は酸化還元)は、カソード層で使用されるはく離グラファイト/カーボンワームの高い比表面積による。一般に、ワームの再圧縮度が増加した場合、平坦域部分は増加し、そして低下曲線部分は減少する。
【0064】
充電放電反応のイオン輸送媒体として機能する電解質の組成は、電池性能に重大な影響を与える。多価金属二次電池を実用化するためには、比較的低い温度(例えば、室温)でさえ金属堆積溶解反応が順調に、且つ十分に進むことを可能にする必要がある。
【0065】
本発明の多価金属イオン電池において、電解質は典型的に液体溶媒中に溶解された金属塩を含む。溶媒は、水、有機液体、イオン液体、有機イオン液体の混合物などであることが可能である。特定の望ましい実施形態において、金属塩は、NiSO4、ZnSO4、MgSO4、CaSO4、BaSO4、FeSO4、MnSO4、CoSO4、VSO4、TaSO4、CrSO4、CdSO4、GaSO4、Zr(SO4)2、Nb2(SO4)3、La2(SO4)3、MgCl2、AlCl3、Mg(ClO4)2、Mg(BF4)2、グリニャール試薬、マグネシウムジブチルジフェニル、Mg(BPh2Bu2)2、マグネシウムトリブチルフェニル、Mg(BPhBu3)2)又はその組合せから選択され得る。
【0066】
電解質は、一般に、遷移金属硫酸塩、遷移金属リン酸塩、遷移金属硝酸塩、遷移金属酢酸塩、遷移金属カルボン酸塩、遷移金属塩化物、遷移金属臭化物、遷移金属窒化物、遷移金属過塩素酸塩、遷移金属ヘキサフルオロリン酸塩、遷移金属ホウフッ化物、遷移金属ヘキサフルオロヒ化物又はその組合せから選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含み得る。
【0067】
特定の実施形態において、電解質は、亜鉛、アルミニウム、チタン、マグネシウム、カルシウム、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム、タンタル、ガリウム、クロム、カドミウム、ニオブ、ジルコニウム、ランタン又はその組合せの金属硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、酢酸塩、カルボン酸塩、塩化物、臭化物、窒化物又は過塩素酸塩から選択される少なくとも1種の金属イオン塩を含む。
【0068】
多価金属イオン電池において、電解質は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、酪酸メチル(MB)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)又はその組合せから選択される有機溶媒を含む。
【0069】
本発明は、多価金属二次電池のための高容量カソード材料を含有するカソード活性層(正極層)に関する。本発明は、水性電解質、非水性電解質、溶融塩電解質、ポリマーゲル電解質(例えば、金属塩、液体及び液体中に溶解したポリマーを含有する)、イオン液体電解質又はその組合せをベースとするそのような電池をも提供する。多価金属二次電池の形状は、円筒状、正方形、ボタン様などであることが可能である。本発明は、いずれかの電池形状又は構造に限定されない。
【0070】
以下の実施例は本発明の実施の最良形態についてのいくつかの具体的な詳細を例示するために使用され、そして本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0071】
実施例1:グラファイトの酸化及び酸化グラファイトの熱的はく離
Asbury Carbons(405 Old Main St.,Asbury,N.J.08802,USA)によって供給される、名目上の径が45μmである天然フレークグラファイトをミル加工し、径を約14μmまで減少させた(試料1a)。発煙硝酸(>90%濃度)、硫酸(95~98%)、塩素酸カリウム(98%)及び塩酸(37%)を含む、本研究で使用される化学薬品は、Sigma-Aldrichから購入し、且つ受け取った状態で使用された。次の手順に従ってグラファイト酸化物(GO)試料を調製した。
【0072】
試料1A:磁気撹拌棒を含有する反応フラスコに、硫酸(176mL)及び硝酸(90mL)を装填し、そして氷浴中に含浸させることによって冷却した。酸混合物を撹拌し、そして15分間冷却し、そして凝集を回避するための強力撹拌下でグラファイト(10g)を添加した。グラファイト粉末が十分撹拌した後、温度の急上昇を回避するために、塩素酸カリウム(110g)を15分かけてゆっくり添加した。室温で24時間撹拌された反応混合物からの気体発生が可能となるように、反応フラスコにゆるくキャップをかぶせた。反応完了時、混合物を8Lの脱イオン水へと注入し、そしてろ過した。硫酸イオンを除去するために、HClの5%溶液中でGOを再分散及び洗浄した。硫酸イオンが存在するかどうかを決定するために、ろ液を断続的に塩化バリウムで試験した。この試験が陰性になるまで、HCl洗浄ステップを繰り返した。次いで、ろ液のpHが中性になるまで、GOを繰り返し脱イオン水で洗浄した。GOスラリーを噴霧乾燥させ、使用されるまで60℃の減圧オーブン中に貯蔵された。
【0073】
試料1B:反応時間が48時間であったことを除き、試料1Aと同一の手順に従った。
【0074】
試料1C:反応時間が96時間であったことを除き、試料1Aと同一の手順に従った。
【0075】
X線回折の研究によると、24時間の処理後、グラファイトの有意な割合がグラファイト酸化物に変換されたことが示された。初期の天然グラファイトの0.335nm(3.35Å)の面間隔に相当する2θ=26.3度におけるピークは、24時間の深酸化処理後に強度が有意に減少し、そして(酸化度次第で)典型的に2θ=9~14度の付近にピークが出現した。本研究において、48及び96時間の処理時間に関する曲線は本質的に同一であり、本質的に全てのグラファイト結晶が6.5~7.5Åの面間隔を有するグラファイト酸化物に変換されたことが示される(26.3度ピークは完全に消滅し、そして2θ=約11.75~13.7度におけるピークが出現した)。
【0076】
次いで、試料1A、1B及び1Cに非制限的な熱的はく離(2分間1,050℃)を受けさせ、熱的にはく脱されたグラファイトワームが得られた。乾式圧縮及び湿式圧縮の両手順を使用して、グラファイトワームを圧縮し、約0.5~1.75g/cm3の範囲の物理的密度を有する、配向された再圧縮はく離グラファイトの層とした。
【0077】
実施例2:種々のグラファイトカーボン及びグラファイト材料の酸化及びインターカレーション
出発グラファイト材料が、それぞれ高度に配向された熱分解グラファイト(HOPG)、グラファイト繊維、グラファイトカーボンナノ繊維及び球状グラファイトの一片であったことを除き、試料1Bで使用された手順と同一の手順に従って、試料2A、2B、2C及び2Dを調製した。それらの最終面間隔値は、それぞれ6.6Å、7.3Å、7.3Å及び6.6Åである。それらの未処理の対応物は、それぞれ試料2a、2b、2c及び2dと記載される。その後、処理された試料を熱的にはく離し、そして再圧縮し、種々の制御された密度、比表面積及び配向度の試料を得た。
【0078】
実施例3:修正されたHummers法を使用するグラファイト酸化物の調製及びその後の熱的はく離
グラファイト酸化物(試料3A)は、Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従って、硫酸、硝酸ナトリウム及び過マンガン酸カリウムを用いて、天然グラファイトフレーク(初期径200メッシュ、約15μmまでミル加工されたもの、試料3aと記載される)の酸化によって調製された。本実施例において、各1グラムのグラファイトに対して、22mlの濃硫酸、2.8グラムの過マンガン酸カリウム及び0.5グラムの硝酸ナトリウムの混合物が使用された。グラファイトフレークを混合物溶液中に含浸し、そして反応時間は35℃において約1時間であった。過熱及び他の安全性の問題を回避するために、十分制御された様式で過マンガン酸カリウムを硫酸に徐々に添加するように注意することは重要である。反応完了時に、混合物を脱イオン水中に注ぎ入れ、そしてろ過した。次いで、ろ液のpHが約5になるまで、試料を繰り返し脱イオン水で洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、そして減圧オーブン中60℃で24時間貯蔵した。Debye-Scherrer Xによって、得られたラメラグラファイト酸化物の中間層間隔が約0.73nm(7.3Å)であることを決定した。その後、950~1,100℃にあらかじめ設定された炉中で粉末のいくらかを2分間はく離し、熱的にはく離されたグラファイトワームを得た。湿式及び乾式プレスローリング手順の両方を使用して、グラファイトワームを再圧縮し、配向された再圧縮はく離グラファイトワームを得た。
【0079】
実施例4:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化及び熱的はく離
実施例3で使用された手順と同一の手順に従って、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化によってグラファイト酸化物(試料4A)を調製した。MCMBマイクロビーズ(試料4a)は、China Steel Chemical Co.によって供給された。この材料は、約2.24g/cm3の密度、16μmの平均粒径及び約0.336nmの平面間距離を有する。深酸化処理後、得られたグラファイト酸化物マイクロビーズでの面間隔は約0.76nmである。次いで、処理されたMCMBを900℃において2分間、熱的にはく離し、はく離カーボンを得た。これもワーム様の外観を示した(本明細書中、「はく離カーボン」「カーボンワーム」又は「はく離カーボンワーム」と記載される)。次いで、カーボンワームを種々の範囲までロールプレスし、異なる密度、比表面積及び配向度を有する再圧縮はく離カーボンを得た。
【0080】
実施例5:カーボン繊維の臭素化及びフッ素化
3.37Å(0.337nm)の面間隔及び10μmの繊維直径を有するグラファイト化カーボン繊維(試料5a)を、75℃~115℃の範囲の温度において臭素及び要素の組合せによって最初にハロゲン化し、中間生成物としてグラファイトの臭素-ヨウ素インターカレーション化合物を形成した。次いで、275℃~450℃の範囲の温度において中間生産物をフッ素ガスと反応させ、CFyを形成した。CFy試料のyの値は約0.6~0.9であった。X線回折曲線は、典型的に、それぞれ0.59nm及び0.88nmに相当する2つのピークの共存を示す。試料5Aは、実質的に0.59nmのピークのみを示し、そして試料5Bは実質的に0.88nmのピークのみを示す。粉末のいくらかを熱的にはく離し、次いで再圧縮して、配向された再圧縮はく離グラファイトを得た。
【0081】
実施例6:カーボン繊維のフッ素化及び熱的はく離
実施例5で得られたCF0.68試料を3時間、250℃及び1気圧において1,4-ジブロモ-2-ブテン(BrH2C-CH=.CH-CH2Br)の蒸気に暴露した。フッ素の3分の2がグラファイトフッ化物試料から失われたことが見出された。1,4-ジブロモ-2-ブテンは活動的にグラファイトフッ化物と反応し、フッ素がグラファイトフッ化物から除去され、そしてグラファイト格子中の炭素原子への結合が形成されることが推測される。得られる生成物(試料6A)は混合ハロゲン化グラファイトであり、おそらく、グラファイトフッ化物及びグラファイト臭化物の組合せである。粉末のいくらかを熱的にはく離し、はく離カーボン繊維を得て、これを次いでロールプレスし、配向された再圧縮はく離グラファイトワームを得た。
【0082】
実施例7:グラファイトのフッ素化及び熱的はく離
200~250メッシュのシーブ径の天然グラファイトフレークを約2時間、減圧下(10-2mmHg未満)で加熱し、グラファイトに含まれる残留湿分を除去した。フッ素ガスを反応器中に導入し、そして200mmHgのフッ素圧力を維持しながら、反応を375℃において120時間続行した。これは、米国特許第4,139,474号明細書において開示される、Watanabeらによって提案された手順に基づくものであった。得られた粉末生成物は黒色であった。生成物のフッ素含有量は次のように測定された:酸素フラスコ燃焼法に従って生成物を燃焼し、そしてフッ素をフッ化水素として水中に吸収させた。フッ素イオン電極を利用することによってフッ素の量を決定した。結果から、経験式(CF0.75)nを有するGF(試料7A)が得られた。X線回折によって、6.25Åの面間隔に相当する2θ=13.5度における主要(002)ピークが示された。グラファイトフッ化物粉末のいくらかを熱的にはく離し、グラファイトワームを形成し、次いでこれをロールプレスした。
【0083】
640℃の反応温度で5時間であったことを除き、試料7Aと類似の様式で試料7Bを得た。化学組成は(CF0.93)nであると決定された。X線回折によって、9.2Åの面間隔に相当する2θ=9.5度における主要(002)ピークが示された。グラファイトフッ化物粉末のいくらかを熱的にはく離し、グラファイトワームを形成し、次いでこれをロールプレスし、再圧縮はく離グラファイト材料を製造した。
【0084】
実施例8:種々の多価金属イオンセルの調製及び試験
実施例1~7において調製したはく離カーボン/グラファイト材料から別々にカソード層を製造し、そして多価金属二次電池に組み込んだ。2タイプの多価金属アノードを調製した。一方は20μm~300μmの厚さを有する金属箔であった。他方は、多価金属又はその合金を受け取るための細孔及び細孔の壁を有する電子伝導路の集積化された3Dネットワークを形成する導電性ナノフィラメント(例えばCNT)又はグラフェンシートの表面上に堆積させた金属薄コーティングであった。金属箔自体又は集積化された3Dナノ構造のいずれもアノード集電体として機能する。
【0085】
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定は、0.5~50mV/秒の典型的な走査速度でArbin電気化学ワークステーションを使用して実行した。加えて、50mA/g~10A/gの電流密度における定電流充電/放電サイクルによって、種々のセルの電気化学的性能を評価した。長期のサイクル試験のために、LANDによって製造されたマルチチャネル電池試験機を使用した。
【0086】
図3(A)は、3つのZn箔アノードベースのZn-イオンセルの放電曲線を示す。第1のものは、初期のグラファイト粒子のカソード層を含有し、第2のものは、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(わずか軽度のみの再圧縮;20nm~3μmの細孔径)を含有し、且つ第3のものは、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(重度の再圧縮;約2nm~約20nmの細孔径;分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触する縁部平面を有する)を含有する。使用された電解質は、水中1MのZnSO
4であった。これらのデータは、初期のグラファイトが非常に低いイオン貯蔵能を有することを示す。ゼロではないが、最小能力は、おそらくグラファイト粒子表面(比容量<5m
2/g)上でのZnの表面吸着又は電気めっきと関連する。それとは対照的に、重度に再圧縮されたワームの層は、適切に配向された場合、おそらく電解質から溶解した他のイオンと一緒に、大量のZnイオンを収容及び貯蔵することができるように思われる。放電曲線は、1.20~1.35ボルトにおける長い平坦域レジーム及びほぼ260mAh/gの比容量を示す。得られたセル-準位エネルギー密度は、リチウムイオン電池のエネルギー密度に非常に近い、約120Wh/kgである。しかしながら、亜鉛はリチウムよりも豊富で、より安全で、且つ有意に高価ではない。(分離体平面に対して)いくらかランダムに配向されたグラファイトフレークを有する軽度に再圧縮されたワームの層は、ただ適度な電荷貯蔵能を与えるのみである。
【0087】
図3(B)は、2つのCaイオンセルの放電曲線を示す。一方は、熱的にはく離されたグラファイトのカソード層(重度の再圧縮;分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触するフレーク縁部平面を有する)を含有し、他方は、分離体に対して平行であり、且つ分離体とイオン接触するグラファイトフレーク表面を有する。初期の人工グラファイト粒子のカソードを含有するセルは、チャートには示されないが、非常に短い放電曲線(<30mAh/g)を示す。これらのデータは、配向された再圧縮グラファイトワームの本発明のカソード層が、グラファイト構造中へのイオンインターカレーションに相当する初期の平坦域レジーム及びグラファイトフレーク表面上でのCaイオン又は他の電解質誘導イオンの吸着に相当する低下曲線部分を示すことを示す。セルは、都合悪く配向された圧縮ワーム(70mAh/g)を特徴とするカソードと比較して、有意により高い比容量(250mAh/g)を有する。後者は、単に、表面吸着又は電気めっき機構によってCaイオンを貯蔵することができるのみである。
【0088】
カソード活物質として膨張d間隔を有する天然グラファイト、人工グラファイト又はグラファイト繊維を使用する広範囲の多価金属イオンセルの放電曲線の典型的な平坦域電圧範囲を以下の表1に要約する。比容量は典型的に100~650mAh/gである。それはと対照的に、それぞれのタイプの電池セルに関して、相当する初期のグラファイト又はカーボン材料は、いずれの有意な電圧平坦域レジームも可能にせず、且ついずれの有意なイオン貯蔵能(典型的に<50mAh/g)を提供しない。
【0089】
図4は、2つのNiメッシュアノードベースのセルの放電曲線を示す。一方は、初期のMCMB粒子のカソード層を含有し、且つ他方は、熱的にはく離されたMCMBワームのカソード層を含有する。再圧縮MCMBワームによって、MCMBが、大量のイオン(最高450mAh/g)を(インターカレーション、次いで表面吸着によって)収容及び貯蔵することが可能となる。それとは対照的に、非膨張面間隔を有する初期のMCMBビーズは、非常に低い電圧準位における電気めっきのため、非常に限定された量のNiイオンを貯蔵する。カソード活物質として未処理の初期のカーボン/グラファイトを有する多価金属-グラファイト/カーボンセルの充電又は放電曲線において、典型的に非常に短いか、又は平坦域がないレジームが存在する。
【0090】
Zn-イオン、V-イオン及びMg-イオンセルのためのカソード活物質として使用される場合、初期のグラファイト/カーボン又ははく離/再圧縮ワームのカーボン又はグラファイト材料のタイプ、それらのそれぞれの面間隔値(熱的はく離の前)、並びに比容量値を以下の表2に要約する。
【0091】
表1及び関連チャート(
図5~
図7)から以下の有意な観測が得られる:
(1)多価金属イオン電池のカソードにおいて使用されるカーボン又はグラファイト材料のいずれの群においても、はく離カーボン/グラファイト材料のカソードの比容量は、それらの初期のカーボン/グラファイト対応物のものよりも有意に高い。
(2)本発明は、多価金属イオン電池に導入されたカーボン又はグラファイトカソード材料の比容量を強化するための強力なプラットホーム材料工学技術を提供する。
(3)
図5に示されるように、(再圧縮はく離MCMBのカソード層を含有する)Zn-MCMBセル及び(はく離され、且つ再圧縮された気相成長カーボンナノ繊維のカソードを含有する)バナジウム-CNFセルは、非常に安定したサイクル寿命を示し、5,000充電-放電サイクル後に20%未満の容量減衰を示す。本発明の多価金属イオンセルのサイクル寿命は、典型的にリチウムイオン電池のサイクル寿命よりも有意に高い。
(5)
図6は、好ましく配向され、重度に再圧縮されたはく離MCMBのカソード層を含有するMg-イオンセルの比容量が、軽度に再圧縮されたはく離MCMBのカソードを含有するMg-イオンセルの比容量よりも有意に高いことを示す。分離体平面に対する縁部平面配向は、充電貯蔵能力を規定することにおいて重要な役割を果たす。
(6)相互連結カーボン又はグラファイトフィラメント(カーボンナノチューブ又はグラフェンシート)から構成されるナノ構造ネットワーク上に(薄膜又はコーティングの形態で)多価金属を支持することによって、金属イオンセルの電力密度及び高いレート能力を有意に増加させることができる。これは、4つのセルのRagoneプロットを提供する
図7に例示される:CNT支持Mgアノードと、再圧縮はく離人工グラファイトを含有するカソード層とを有するMg-イオンセル、Mg箔アノード(CNT支持なし)と、再圧縮はく離人工グラファイトを含有するカソード層とを有するMg-イオンセル、グラフェン支持Caアノードと、再圧縮はく離人工グラファイトを含有するカソード層とを有するCa-イオンセル、及びCaアノード(グラフェン支持なし)と、再圧縮はく離人工グラファイトを含有するカソード層とを有するCa-イオンセル。Mg-イオンセル及びCa-イオンセルの両方ともリチウムイオン電池のものに相当するエネルギー密度を有するが、より高い電力密度を有する。電力密度値はスーパーキャパシタのものに相当する。換言すれば、本発明の多価金属イオン電池は、リチウムイオン電池及びスーパーキャパシタの両世界におけるベストを有する。
【0092】
相互連結カーボンナノ繊維のこのナノ構造化ネットワークは、多価金属を支持して、そしてアノード側面における金属カチオンの迅速且つ均一な溶解及び堆積を促進するために、大きい表面積を提供する。また、この戦略は、一般にMg又はCa金属アノードと関連する不動態化層の課題を克服した。そのようなネットワークを製造するために使用することが可能な他のナノフィラメント又はナノ構造としては、電界紡糸ナノ繊維、気相成長カーボン又はグラファイトナノ繊維、カーボン又はグラファイトウィスカー、カーボンナノチューブ、ナノスケールグラフェンプレートレット、金属ナノワイヤー又はその組合せが含まれる。