(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合体集合線、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法、及び、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20230831BHJP
H01B 5/08 20060101ALI20230831BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230831BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C01B32/168
H01B5/08
H01B13/00 501Z
H01B1/04
(21)【出願番号】P 2020541171
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2019033995
(87)【国際公開番号】W WO2020050142
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018164909
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤森 利彦
(72)【発明者】
【氏名】日方 威
(72)【発明者】
【氏名】大久保 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳一
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/099975(WO,A1)
【文献】特開2011-138703(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136826(WO,A1)
【文献】特開2002-361599(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106935855(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105261487(CN,A)
【文献】国際公開第2018/070653(WO,A1)
【文献】特開2014-231446(JP,A)
【文献】特開2003-146634(JP,A)
【文献】特開2006-213569(JP,A)
【文献】特開2004-299986(JP,A)
【文献】特開2012-127043(JP,A)
【文献】特表2018-512355(JP,A)
【文献】国際公開第2005/102924(WO,A1)
【文献】Advanced Functional Materials,2018年,Vol.28, No.1707284,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01B 1/00- 1/24
H01B 5/00- 5/16
H01B 13/00-13/34
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカーボンナノチューブ複合体を備えるカーボンナノチューブ複合体集合線であって、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、一のカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを被覆するアモルファスカーボン含有層とを含み、
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向して
おり、
前記アモルファスカーボン含有層の厚みは0.05μm以上25μm以下である、カーボンナノチューブ複合体集合線。
【請求項2】
前記アモルファスカーボン含有層は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.5以上である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法であって、
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下である、請求項4に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法。
【請求項6】
前記第2工程は、前記複数のカーボンナノチューブを炭化水素系ガス中で950℃以上1100℃以下の温度で熱処理する工程を含む、請求項4又は請求項5に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法。
【請求項7】
前記第3工程は、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を溶媒に分散させてカーボンナノチューブ複合体分散液を得る第3a工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流すことにより、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を前記特定の方向に配向させる第3b工程と、
前記第3b工程の後に、前記カーボンナノチューブ複合体分散液から前記溶媒を除去して前記カーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3c工程と、を含む、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法。
【請求項8】
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより前記アモルファスカーボン含有層を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得る第4工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下である、請求項8に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ複合体集合線の径をP1とし、前記カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径をP2とした場合、前記P1と前記P2とが下記式1の関係を示す、
100≦P1/P2≦10000 式1
請求項8又は請求項9に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程は、前記複数のカーボンナノチューブを炭化水素系ガス中で950℃以上1100℃以下の温度で熱処理する工程を含む、請求項8~請求項10のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項12】
前記第3工程は、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を溶媒に分散させてカーボンナノチューブ複合体分散液を得る第3a工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流すことにより、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を前記特定の方向に配向させる第3b工程と、
前記第3b工程の後に、前記カーボンナノチューブ複合体分散液から前記溶媒を除去して前記カーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3c工程と、を含む、請求項8~請求項11のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項13】
前記第4工程における熱処理は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線を酸化条件下で、400℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程を含む、請求項8~請求項12のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【請求項14】
前記第4工程における熱処理は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線を酸化条件下で、560℃以上690℃以下の温度で熱処理する工程を含む、請求項13に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノチューブ複合体集合線、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法、及び、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法に関する。本出願は、2018年9月3日に出願した日本特許出願である特願2018-164909号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
炭素原子が六角形に結合したシートを円筒状にした構造のカーボンナノチューブは、銅の1/5の軽さで鋼鉄の20倍の強度、金属的な導電性という優れた特性を持つ素材である。このため、カーボンナノチューブを用いた電線は、特に自動車用モータの軽量化、小型化及び耐食性の向上に貢献する素材として期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブは、例えば、特許文献1(特開2005-330175号公報)に示されるように、鉄などの微細触媒を加熱しつつ、炭素を含む原料ガスを供給することで触媒からカーボンナノチューブを成長させる気相成長法により得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
[1]本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線は、
複数のカーボンナノチューブ複合体を備えるカーボンナノチューブ複合体集合線であって、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、一のカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを被覆するアモルファスカーボン含有層とを含み、
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向している、カーボンナノチューブ複合体集合線である。
【0006】
[2]本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、
上記[1]のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物である。
【0007】
[3]本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法は、
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法である。
【0008】
[4]本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法は、
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより前記アモルファスカーボン含有層を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得る第4工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の代表的な構成例を説明する図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の光学顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態で用いられるカーボンナノチューブ複合体の代表的な構成例を説明する図である。
【
図4】
図4は、
図3のカーボンナノチューブ複合体のX-X線における断面図である。
【
図5】
図5は、カーボンナノチューブの代表的なラマンスペクトルを示す図である。
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のGバンドのラマンマッピング像を示す図である。
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のDバンドのラマンマッピング像を示す図である。
【
図8】
図8は、カーボンナノチューブ製造装置の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本開示の一実施形態で用いられるカーボンナノチューブの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示が解決しようとする課題]
現在のカーボンナノチューブの作製技術で得られるカーボンナノチューブは、その径が約0.4nm~20nm、かつ、長さが最大で約550mmである。カーボンナノチューブを電線として用いるためには、より長いカーボンナノチューブが必要であり、カーボンナノチューブを長尺化できる技術が検討されている。
【0011】
カーボンナノチューブを長尺化する方法の一つとして、複数のカーボンナノチューブを長手方向に揃えて集め、集合線とする方法が考えられる。
【0012】
しかし、上述の通り、個々のカーボンナノチューブは径が約0.4nm~20nmと非常に小さく、光学顕微鏡で観察することができない。特に高結晶性のカーボンナノチューブであるほど径が小さく、ハンドリングが困難である。このため、複数のカーボンナノチューブをそれらの長手方向に揃えて集め、集合線とすることは困難であった。
【0013】
そこで、本開示は、複数の高結晶性のカーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合したカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得ることのできるカーボンナノチューブ複合体集合線、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法、及び、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
[本開示の効果]
上記態様によれば、複数の高結晶性のカーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合したカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を提供することが可能となる。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線は、
複数のカーボンナノチューブ複合体を備えるカーボンナノチューブ複合体集合線であって、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、一のカーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを被覆するアモルファスカーボン含有層とを含み、
前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向している、カーボンナノチューブ複合体集合線である。
【0017】
このカーボンナノチューブ複合体集合線によれば、複数の高結晶性のカーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合したカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得ることができる。
【0018】
(2)前記アモルファスカーボン含有層は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.5以上であることが好ましい。これによると、熱処理により、アモルファスカーボン含有層のみを除去することができる。
【0019】
(3)本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、
上記(1)又は(2)に記載のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物である。
【0020】
このカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、複数の高結晶性のカーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合して形成されている。
【0021】
(4)本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法は、
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法である。
【0022】
この製造方法によると、ハンドリングが容易なカーボンナノチューブ複合体を作製し、該カーボンナノチューブ複合体を用いてカーボンナノチューブ複合体集合線を作製するため、カーボンナノチューブ複合体集合線を得ることが容易である。
【0023】
(5)前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0024】
これによると、カーボンナノチューブ複合体集合線は高結晶性のカーボンナノチューブを含むことができ、かつ、ハンドリング性が向上する。
【0025】
(6)前記第2工程は、前記複数のカーボンナノチューブを炭化水素系ガス中で950℃以上1100℃以下の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。これによると、カーボンナノチューブの結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブの表面に、所定のD/G比を有するアモルファスカーボン含有層を形成することができる。
【0026】
(7)前記第3工程は、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を溶媒に分散させてカーボンナノチューブ複合体分散液を得る第3a工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流すことにより、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を前記特定の方向に配向させる第3b工程と、
前記第3b工程の後に、前記カーボンナノチューブ複合体分散液から前記溶媒を除去して前記カーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3c工程と、を含むことが好ましい。
【0027】
これによると、効率的に複数のカーボンナノチューブ複合体をそれらの長手方向に配向して集合させることができる。
【0028】
(8)本開示の一態様に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法は、
複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、
前記複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより前記アモルファスカーボン含有層を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得る第4工程と、を備える、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法である。
【0029】
この製造方法によると、ハンドリングが容易なカーボンナノチューブ複合体を作製し、該カーボンナノチューブ複合体を用いてカーボンナノチューブ複合体集合線を作製し、該カーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得るため、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得ることが容易となる。
【0030】
(9)前記カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であり、
前記複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0031】
これによると、カーボンナノチューブ複合体は高結晶性のカーボンナノチューブを含むことができ、かつ、ハンドリング性が向上する。更に、カーボンナノチューブ複合体集合線も高結晶性のカーボンナノチューブを含むことができる。
【0032】
(10)前記カーボンナノチューブ複合体集合線の径をP1とし、前記カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径をP2とした場合、前記P1と前記P2とが下記式1の関係を示すことが好ましい。
【0033】
100≦P1/P2≦10000 式1
このカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物においては、カーボンナノチューブ同士が互いに接触、又は、結合しているため、導電性が優れている。
【0034】
(11)前記第2工程は、前記複数のカーボンナノチューブを炭化水素系ガス中で950℃以上1100℃以下の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。これによると、カーボンナノチューブの結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブの表面に、所定のD/G比を有するアモルファスカーボン含有層を形成することができる。
【0035】
(12)前記第3工程は、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を溶媒に分散させてカーボンナノチューブ複合体分散液を得る第3a工程と、
前記カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流すことにより、前記複数のカーボンナノチューブ複合体を前記特定の方向に配向させる第3b工程と、
前記第3b工程の後に、前記カーボンナノチューブ複合体分散液から前記溶媒を除去して前記カーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3c工程と、を含むことが好ましい。
【0036】
これによると、効率的に複数のカーボンナノチューブ複合体をそれらの長手方向に配向して集合させることができる。
【0037】
(13)前記第4工程における熱処理は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線を酸化条件下で、400℃以上800℃以下の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0038】
これによると、カーボンナノチューブの結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブ複合体からアモルファスカーボン含有層のみを除去することができる。
【0039】
(14)前記第4工程における熱処理は、前記カーボンナノチューブ複合体集合線を酸化条件下で、560℃以上690℃以下の温度で熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0040】
これによると、カーボンナノチューブの結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブ複合体からアモルファスカーボン含有層のみを除去することができる。
【0041】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物、カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法、及び、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0042】
本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0043】
[実施の形態1:カーボンナノチューブ複合体集合線]
(カーボンナノチューブ複合体集合線)
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線(以下、CNT複合体集合線とも記す。)10は、
図1及び
図2に示されるように、複数のカーボンナノチューブ複合体1(以下、CNT複合体とも記す。)を備える。複数のカーボンナノチューブ複合体1のそれぞれは、
図3及び
図4に示されるように、一のカーボンナノチューブ2と、カーボンナノチューブ2を被覆するアモルファスカーボン含有層3とを含む。カーボンナノチューブ2は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下である。複数のカーボンナノチューブ複合体1のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μm以下である。複数のカーボンナノチューブ複合体1は、カーボンナノチューブ複合体集合線10の長手方向に配向している。これらの構成を有することにより、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線は、下記(1)から(3)に示される効果を有することができる。
【0044】
(1)本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線は、複数のカーボンナノチューブ複合体を備え、該複数のカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向している。ここで、複数のカーボンナノチューブ複合体がカーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向しているとは、カーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向と、カーボンナノチューブ複合体の長手方向とが略同一の方向となっていることを意味する。換言すれば、複数のカーボンナノチューブ複合体がそれらの長手方向に配向して集合して形成されたものが、カーボンナノチューブ複合体集合線である。なお、略同一の方向とは、カーボンナノチューブ複合体集合線に含まれる異なる2本のカーボンナノチューブ複合体のなす角度が、最大で10°以下であることを意味する。
【0045】
上記の複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、D/G比が0.1以下の高結晶性のカーボンナノチューブを含む。従って、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線において、複数の高結晶性のカーボンナノチューブもカーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向している。
【0046】
カーボンナノチューブ複合体に含まれるアモルファスカーボン含有層は、熱処理を行うことにより除去することができ、これにより高結晶性の精製カーボンナノチューブのみを得ることができる。本明細書中、カーボンナノチューブ複合体からアモルファスカーボン含有層を除去して得られるカーボンナノチューブを精製カーボンナノチューブとも記す。
【0047】
従って、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより、複数の高結晶性の精製カーボンナノチューブを備え、かつ、該複数の高結晶性の精製カーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合しているカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物(以下、CNT複合体集合線の熱処理物とも記す。)を得ることができる。
【0048】
(2)上記(1)に記載の通り、CNT複合体集合線の熱処理物においては、複数の高結晶性の精製カーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合しているため、CNT複合体集合線の熱処理物は高い引張強度と、高い電気導電率を有することができる。よって、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線によれば、高い引張強度と、高い電気導電率を有するCNT複合体集合線の熱処理物を得ることができる。
【0049】
(3)本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線に用いられる複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれは、繊維状であり、その径が0.1μm以上50μmであるため、光学顕微鏡で観察することができ、ハンドリングが容易である。従って、該カーボンナノチューブ複合体を備えるカーボンナノチューブ複合体集合線も、光学顕微鏡で観察することができ、ハンドリングが容易である。
【0050】
カーボンナノチューブ複合体集合線の形状は、複数の繊維状のカーボンナノチューブ複合体がそれらの長手方向に配向して集合した糸形状である。複数の繊維状のカーボンナノチューブ複合体がそれらの長手方向に配向して集合したとは、複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれの長手方向が略同一の方向となって集合していることを意味する。なお、略同一の方向とは、カーボンナノチューブ複合体集合線に含まれる異なる2本のカーボンナノチューブ複合体のなす角度が、最大で10°以下であることを意味する。
【0051】
カーボンナノチューブ複合体集合線の全体の外観は特に限定されず、用途に応じた外観とすることができる。例えば、直線形状や、屈曲した形状とすることができる。
【0052】
カーボンナノチューブ複合体集合線の長さは特に限定されず、用途によって適宜調節することができる。CNT複合体集合線の長さは、例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上が更に好ましい。特に、CNT複合体集合線の長さが1000μm以上であると、マニピュレータ操作により任意の部位にCNT複合体集合線を配置することが容易であり、例えば微小電気機械システム(MEMS)の作製の観点から好適である。CNT複合体集合線の長さの上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、600mm以下が好ましい。CNT複合体集合線の長さは、光学顕微鏡又は目視で観察することにより測定することができる。CNT複合体集合線が直線形状でなく屈曲した形状である場合は、屈曲に沿う長さを測定する。
【0053】
カーボンナノチューブ複合体集合線の径の大きさは特に限定されず、用途によって適宜調節することができる。CNT複合体集合線の径は、例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上が更に好ましい。特に、CNT複合体集合線の径が100μm以上であると、マニピュレータ操作により任意の部位にCNT複合体集合線を配置することが容易であり、例えば微小電気機械システム(MEMS)の作製の観点から好適である。CNT複合体集合線の径の上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、1mm以下が好ましい。本実施形態において、CNT複合体集合線の径の大きさは、CNT複合体集合線の長さよりも小さい。
【0054】
本明細書においてカーボンナノチューブ複合体集合線の径とは、一のCNT複合体集合線の平均外径を意味する。一のCNT複合体集合線の平均外径は、一のCNT複合体集合線の任意の2箇所における断面を光学顕微鏡で観察し、該断面においてCNT複合体集合線の外周上の最も離れた2点間の距離である外径を測定し、得られた外径の平均値を算出することにより得られる。
【0055】
カーボンナノチューブ複合体集合線において、複数のCNT複合体は集合して、1本の糸形状のCNT複合体集合線を形成していればよい。複数のCNT複合体は、少なくとも一部のCNT複合体がお互いに物理的に接触していればよく、全てのCNT複合体が物理的に接触していてもよいし、お互いに接触しないCNT複合体が存在していてもよい。
【0056】
(カーボンナノチューブ複合体)
カーボンナノチューブ複合体は、一のカーボンナノチューブ(以下、CNTとも記す。)と、該カーボンナノチューブを被覆するアモルファスカーボン含有層とを備える。該カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下である。該カーボンナノチューブ複合体は、繊維状であり、その径Rが0.1μm以上50μm以下である。
【0057】
カーボンナノチューブ複合体の形状は、1本の繊維状である。カーボンナノチューブ複合体の全体の外観は、直線形状や、U字形状等の屈曲した形状とすることができる。
【0058】
カーボンナノチューブ複合体の長さは、用途によって適宜調節することができる。CNT複合体の長さは、例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上が更に好ましい。特に、CNT複合体の長さが100μm以上であると、CNT複合体集合線の作製の観点から好適である。CNT複合体の長さの上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、600mm以下が好ましい。CNT複合体の長さは、光学顕微鏡で観察することにより測定することができる。CNT複合体が直線形状でなく屈曲した形状である場合は、屈曲に沿う長さを測定する。
【0059】
カーボンナノチューブ複合体の径は0.1μm以上50μmである。これにより、CNT複合体は光学顕微鏡で観察することができ、ハンドリングが容易である。CNT複合体の径は0.1μm以上5μm以下が好ましく、0.5μm以上3μm以下が更に好ましい。
【0060】
本明細書においてカーボンナノチューブ複合体の径とは、一のCNT複合体の平均外径を意味する。一のCNT複合体の平均外径は、一のCNT複合体の任意の2箇所における断面を光学顕微鏡で観察し、該断面においてCNT複合体の外周上の最も離れた2点間の距離である外径を測定し、得られた外径の平均値を算出することにより得られる。
【0061】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下のものであれば、その構造は限定されない。例えば、炭素の層(グラフェン)が1層だけ筒状になっている単層カーボンナノチューブや、炭素の層が複数層積層した状態で筒状になっている二層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ、底が抜けた紙コップの形をしたグラフェンが積層をした構造を有するカップスタック型ナノチューブなどを用いることができる。
【0062】
カーボンナノチューブの形状はとくに限定されず、先端が閉じているものまたは先端が開孔しているもののいずれも用いることができる。カーボンナノチューブの一方又は両方の端部に、カーボンナノチューブの作製時に用いた触媒が付着していてもよい。又、カーボンナノチューブの一方又は両方の端部には円錐状のグラフェンからなるコーン部が形成されていてもよい。
【0063】
カーボンナノチューブの長さは、用途によって適宜選択することができる。カーボンナノチューブの長さは、例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上が更に好ましい。特に、カーボンナノチューブの長さが100μm以上であると、CNT複合体集合線の作製の観点から好適である。カーボンナノチューブの長さの上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、600mm以下が好ましい。CNTの長さは、走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
【0064】
カーボンナノチューブの径は、0.6nm以上20nm以下が好ましく、1nm以上10nm以下が更に好ましい。特に、カーボンナノチューブの径が1nm以上10nm以下であると、酸化条件における耐熱性の観点から好適である。
【0065】
本明細書においてカーボンナノチューブの径とは、一のCNTの平均外径を意味する。一のCNTの平均外径は、透過型電子顕微鏡によりCNTの投影像を直接観察することで測定し、算出することができる。または、ラマン分光法を用いてCNT固有のラジアル・ブリージング・モードのラマンシフト値を測定し、CNTの直径とラマンシフト値の関係式から算出することにより得られる。CNTが一方又は両方の端部にコーン部を含む場合は、コーン部を除く場所において測定する。
【0066】
カーボンナノチューブは、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下である。D/G比について、カーボンナノチューブのラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを用いて説明する。
【0067】
Gバンドとは、ラマン分光分析法により得られるラマンスペクトルにおいて、ラマンシフト1590cm-1付近に見られるCNTに由来するピークである。Dバンドとは、ラマン分光分析法により得られるラマンスペクトルにおいて、ラマンシフト1350cm-1付近に見られるアモルファスカーボンや、グラファイト、CNTの欠陥に由来するピークである。従って、D/G比の値が小さいほど、カーボンナノチューブの結晶性が高く、カーボンナノチューブに含まれるアモルファスカーボンや欠陥を有するグラファイトの量が少ないことを示す。
【0068】
本実施形態に係るCNT複合体集合線に含まれるCNTはD/G比が0.1以下であり、アモルファスカーボンやグラファイトの欠陥が少なく、結晶性が高い。よって該CNTは、高い引張強度と、高い電気導電率を有することができる。CNTのD/G比が0.1を超えると、CNTが十分な引張強度と高い電気導電率を有することができない場合がある。更に、CNTのD/G比が0.1を超えると、後述の実施の形態4のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法において、CNT複合体からアモルファスカーボン含有層を除去する際に、CNT自体が劣化するおそれがある。D/G比は0.1以下が好ましく、0.01以下がより好ましい。D/G比の下限値は特に制限されないが、例えば、0以上とすることができる。
【0069】
本明細書中、カーボンナノチューブ複合体集合線中のカーボンナノチューブのD/G比は、下記の方法により測定された値である。
【0070】
まず、カーボンナノチューブ複合体集合線を大気中で、温度650℃で60分間熱処理する。これにより、該カーボンナノチューブ複合体集合線からアモルファスカーボン含有層が除去され、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が得られる。該カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物について、下記の条件でラマン分光分析を行い、ラマンスペクトル(以下、CNT複合体集合線の熱処理物ラマンスペクトルとも記す。)を得る。該CNT複合体集合線の熱処理物ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出する。該CNT複合体集合線の熱処理物のD/G比を、カーボンナノチューブ複合体集合線中のカーボンナノチューブのD/G比と見做す。
【0071】
ラマン分光分析の測定条件
波長:532nm
レーザーパワー:17mW
露光時間:1秒
平均回数:3回
対物レンズ倍率:50倍
本実施形態に係るCNT複合体集合線中のCNTのD/G比を、CNT複合体集合線の熱処理物のD/G比と同一と見做す理由は下記の通りである。
【0072】
本発明者らは、アモルファスカーボン含有層で被覆される前の複数のカーボンナノチューブについてラマン分光分析を上記と同一の条件で行い、ラマンスペクトル(以下、CNTラマンスペクトルとも記す。)を得た。得られた複数のCNTラマンスペクトルのそれぞれにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出した。
【0073】
次に、該カーボンナノチューブをアモルファスカーボン含有層で被覆して、CNT複合体を準備した。複数のCNT複合体をそれらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得た。該CNT複合体集合線を温度650℃で60分間熱処理して、該CNT複合体集合線からアモルファスカーボン含有層を除去してCNT複合体集合線の熱処理物を得た。該CNT複合体集合線の熱処理物について、上記の条件でラマン分光分析を行い、ラマンスペクトル(以下、CNT複合体集合線の熱処理物ラマンスペクトルとも記す。)を得た。該CNT複合体集合線の熱処理物ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出した。
【0074】
上記で算出されたアモルファスカーボン含有層で被覆される前の複数のカーボンナノチューブのD/G比のデータを平均化した値と、CNT複合体集合線からアモルファスカーボン含有層を除去して得られるCNT複合体集合線の熱処理物のD/G比の値とはほぼ同一であることが確認された。これは、アモルファスカーボン含有層で被覆される前のカーボンナノチューブのD/G比が、CNT複合体集合線中のCNT及びCNT複合体集合線の熱処理物中のCNTにおいて維持されていることを示す。従って、本明細書中、CNT複合体集合線中のカーボンナノチューブのD/G比は、CNT複合体集合線の熱処理物のD/G比と同一と見做すことができる。
【0075】
なお、カーボンナノチューブ複合体集合線についてラマン分光分析(波長532nm)を行いラマンスペクトルを得ると、Dバンドのピークが明確に確認される。該Dバンドは、CNT複合体集合線に含まれるアモルファスカーボン含有層に由来するものと考えられる。
【0076】
カーボンナノチューブの製造方法は、上記のD/G比を満たすカーボンナノチューブを得ることのできる方法であれば、特に限定されない。例えば、ナノメートルレベルの直径を有する触媒粒子を用いて、アルコール系、炭化水素系等の原料ガスを加熱炉内で熱分解し、触媒粒子上にカーボン結晶を成長させてカーボンナノチューブとする熱分解法が挙げられる。熱分解法には、塗布等によって基材上に触媒粒子を担持させ、該触媒粒子上にCNTを成長させる方法、気相中に触媒を浮遊させ、該触媒上にCNTを成長させる方法、原料ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間することにより、該複数の触媒粒子間にCNTを成長させる方法等がある。
【0077】
(アモルファスカーボン含有層)
アモルファスカーボン含有層はアモルファスカーボンを含有する層(領域)である。アモルファスカーボンは特に限定されず、従来公知のアモルファスカーボンを用いることができる。アモルファスカーボンとしては、例えば、ta-C(テトラヘドラルアモルファスカーボン)、a-C(アモルファスカーボン)、ta-C:H(水素化テトラヘドラルアモルファスカーボン)、a-C:H(水素化アモルファスカーボン)を用いることができる。中でも、a-Cを用いることがアモルファスカーボン含有層を簡便な手法で形成できるため好ましい。アモルファスカーボンのSP3/SP2の比率としては、例えば0.2以上0.8以下のものを用いることができる。
【0078】
アモルファスカーボン含有層は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.5以上であることが好ましい。これによると、熱処理により、アモルファスカーボン含有層のみを除去することが可能となる。アモルファスカーボン含有層のD/G比は、0.7以上がより好ましく、1.0以上が更に好ましい。アモルファスカーボン含有層のD/G比の上限値は特に限定されないが、例えば2.0以下が好ましい。ここで、アモルファスカーボン含有層のD/G比は、カーボンナノチューブ複合体のD/G比と同一であると見做すことができる。この理由は、CNT複合体において、CNTの体積割合は10-7体積%以下と非常に小さく、CNT複合体のD/G比に対してCNTのD/G比が及ぼす影響は無視できると考えられるからである。
【0079】
アモルファスカーボン含有層のD/G比を算出するために行うラマン分光分析の条件は、上記のカーボンナノチューブのD/G比を算出するために行うラマン分光分析の条件と同一であるためその説明は繰り返さない。
【0080】
アモルファスカーボン含有層中のアモルファスカーボンの含有量は、1体積%以上が好ましく、10体積%以上がより好ましく、50体積%以上が更に好ましい。アモルファスカーボン含有層中のアモルファスカーボンの含有量の上限値は特に限定されないが、例えば100体積%とすることができる。アモルファスカーボン含有層中のアモルファスカーボンの含有量は、熱重量分析法によって測定することができる。
【0081】
アモルファスカーボン含有層は、アモルファスカーボンのみからなってもよいし、アモルファスカーボンに加えて、グラファイト微結晶、タール、その他熱分解により生じた有機化合物を含んでいてもよい。
【0082】
グラファイト微結晶とは、グラファイトからなる結晶粒であり、その体積平均粒子径が1nm以上50nm以下のものを意味する。本明細書において、「体積平均粒子径」とは、体積基準の粒度分布(体積分布)におけるメジアン径(d50)を意味し、アモルファスカーボン含有層に含まれる全てのグラファイト微結晶を対象にした平均粒子径であることを意味する。なお、本明細書において、「体積平均粒子径」を単に「粒径」と記すこともある。
【0083】
グラファイト微結晶の粒径(体積平均粒子径)を算出するための各グラファイト微結晶の粒径は、次の方法によって測定することができる。まず、CNT複合体の任意の断面において、任意の領域のアモルファスカーボン含有層の反射電子像を、電子顕微鏡を用いて5000倍の倍率で観察する。次に、この反射電子像において、グラファイト微結晶を構成する粒子に外接する円の直径(すなわち外接円相当径)を測定し、該直径をグラファイト微結晶の粒径とする。
【0084】
上記で得られた各グラファイト微結晶の粒径に基づき、体積平均粒子径を算出する。
アモルファスカーボン含有層中のグラファイト微結晶の含有量は、99体積%以下が好ましく、90体積%以下がより好ましく、50体積%以下が更に好ましい。アモルファスカーボン含有層中のグラファイト微結晶の含有量の下限値は特に限定されないが、例えば、1体積%とすることができる。アモルファスカーボン含有層中のグラファイト微結晶の含有量は、透過型電子顕微鏡観察、又は、熱重量分析法によって測定することができる。
【0085】
アモルファスカーボン含有層の厚みは0.05μm以上25μm以下が好ましい。ここでアモルファスカーボン含有層の厚みとは、CNT複合体の断面において、CNTの外周上の任意の一点から、CNT複合体の外周の任意の一点までの最短距離の平均値を意味する。これによると、カーボンナノチューブ複合体が十分な径を有するため、CNT複合体のハンドリングが容易となる。アモルファスカーボン含有層の厚みは0.05μm以上2.5μm以下がより好ましく、0.25μm以上1.5μm以下が更に好ましい。アモルファスカーボン含有層の厚みは、CNT複合体の任意の2箇所の断面を電子顕微鏡で観察することによりアモルファスカーボン含有層の厚みを測定し、得られた厚みの平均値を算出することにより得られる。
【0086】
[実施の形態2:カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、上記の実施の形態1のカーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理して得られるものである。
【0087】
カーボンナノチューブ複合体集合線を構成するカーボンナノチューブ複合体に含まれるアモルファスカーボン含有層は、熱処理を行うことにより除去することができる。よって、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、複数のカーボンナノチューブ複合体からアモルファスカーボン含有層が除去された複数の精製カーボンナノチューブを備え、かつ、複数の精製カーボンナノチューブが、該CNT複合体集合線の熱処理物の長手方向に沿って配向して集合している。
【0088】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が複数の精製カーボンナノチューブを備え、アモルファスカーボン含有層を含まないことの確認方法について、
図6及び
図7を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のGバンドのラマンマッピング像である。
図7は、
図6と同一のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のDバンドのラマンマッピング像である。
【0089】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物について、実施の形態1と同一の条件でラマン分光分析を行い、Gバンドのラマンマッピング像(
図6参照)、及び、Dバンドのラマンマッピング像(
図7参照)を作成する。ラマンマッピング像は、Renishaw社製inViaラマンマイクロスコープおよびWiREソフトウェアを用い、ポイントマッピング法により1μm間隔でラマンスペクトルを測定することにより得る。
【0090】
図6及び
図7において、中央部分の太線で囲まれた箇所は石英基板上に設置したカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物に関するGバンドおよびDバンド強度の二次元プロファイルを示す。該二次元プロファイルは、バックグラウンドの影響を最小限にするために、ラマンマッピング像に二値化処理を施すことにより得られる。
【0091】
図6に示されるGバンドのラマンマッピング像において、色の薄い部分はGバンドのピーク強度が大きいことを示し、色の濃い部分はGバンドのピーク強度が小さいことを示し、特に黒色部分はGバンドが検出されないことを示している。ここでGバンドとは、CNTに由来するピークである。よって、
図6では、破線で囲まれた部分に、結晶性の高い複数の精製カーボンナノチューブが存在することを確認することができる。なお、精製カーボンナノチューブが複数存在することは、色の薄い部分の大きさが、1本のCNTよりも十分大きなことから確認することができる。
【0092】
一方、Dバンドのラマンマッピング像において、色の薄い部分はDバンドのピーク強度が大きいことを示し、色の濃い部分はDバンドのピーク強度が小さいことを示し、特に黒色部分はDバンドが検出されないことを示している。ここでDバンドとは、アモルファスカーボンや、グラファイトの欠陥に由来するピークである。よって、
図7では、
図6と同一の位置の破線で囲まれた部分に、アモルファスカーボンや、グラファイトの欠陥が存在しないことを確認することができる。
【0093】
すなわち、
図6及び
図7から、破線で囲まれた部分には、結晶性の高い精製カーボンナノチューブが存在し、アモルファスカーボン含有層は存在しないことを確認することができる。
【0094】
上記の通り、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物について、Gバンドのラマンマッピング像及びDバンドのラマンマッピング像を作成し、これらのラマンマッピング像を解析することにより、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が複数の精製カーボンナノチューブを備え、アモルファスカーボン含有層を含まないことを確認することができる。
【0095】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の形状は、複数の精製カーボンナノチューブがそれらの長手方向に配向して集合した糸形状である。カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の全体の外観は特に限定されず、用途に応じた外観とすることができる。例えば、直線形状や、屈曲した形状の外観とすることができる。
【0096】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の長さは特に限定されず、用途によって適宜調節することができる。CNT複合体集合線の熱処理物の長さは、例えば、10μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、1000μm以上が更に好ましい。特に、CNT複合体集合線の熱処理物の長さが1000μm以上であると、複数のCNT複合体集合線の熱処理物を撚り集めて、長い糸状のCNT撚り線を作製することが容易となる。更に、該CNT複合体集合線の熱処理物は、マニピュレータ操作により任意の部位にCNT複合体集合線を配置することが容易であり、例えば微小電気機械システム(MEMS)の作製に好適である。CNT複合体集合線の熱処理物の長さの上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、600mm以下が好ましい。CNT複合体集合線の熱処理物の長さは、光学顕微鏡又は目視で観察することにより測定することができる。CNT複合体集合線の熱処理物が直線形状でなく屈曲した形状である場合は、屈曲に沿う長さを測定する。
【0097】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径の大きさは特に限定されず、用途によって適宜調節することができる。CNT複合体集合線の熱処理物の径は、例えば、0.01μm以上が好ましく、1μm以上が更に好ましい。特に、CNT複合体集合線の熱処理物の径が1μm以上であると、CNT撚り線の作製が容易となる。CNT複合体集合線の熱処理物の径の上限値は特に制限されないが、製造上の観点からは、10μm以下が好ましい。
【0098】
本明細書においてカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径とは、一のCNT複合体集合線の熱処理物の平均外径を意味する。一のCNT複合体集合線の熱処理物の平均外径は、一のCNT複合体集合線の熱処理物の任意の2箇所における断面を走査型電子顕微鏡で観察し、該断面においてCNT複合体集合線の熱処理物の外周上の最も離れた2点間の距離である外径を測定し、得られた外径の平均値を算出することにより得られる。
【0099】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であることが好ましい。これによるとカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が高い結晶性を有することができる。よって、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、高い引張強度と、高い電気導電率を有することができる。D/G比は0.01以下が好ましい。D/G比の下限値は特に制限されないが、例えば、0.001以上とすることができる。
【0100】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のD/G比を算出するためのラマン分光分析の条件は、実施の形態1に示されるCNTのD/G比を算出するために行うラマン分光分析の条件と同一であるためその説明は繰り返さない。
【0101】
[実施の形態3:カーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の製造方法は、複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、該複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、該複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、を備える。
【0102】
(第1工程)
第1工程において、複数のカーボンナノチューブを準備する。該カーボンナノチューブは、実施の形態1に示されるカーボンナノチューブと同様のものとすることができる。
【0103】
カーボンナノチューブの準備方法は特に限定されず、市販のものを用いてもよく、又、従来公知の方法で作製されたものを使用することができる。中でも、結晶性が高く、六員環のみからなるカーボンナノチューブを得られることから、原料ガスの流れの中で密着状態の複数の触媒粒子を離間することにより、該複数の触媒粒子間にCNTを成長させる方法(以下、FB法(FB:Floating Bridge)とも記す。)で作製されたものを準備することが好ましい。
【0104】
FB法は、例えば、
図8に示されるカーボンナノチューブ製造装置20を用いて行うことができる。該カーボンナノチューブ製造装置20は、管状の反応室21と、反応室21の中に反応室21の一方の端部から炭素含有ガスを供給するガス供給機構22と、反応室21内を流れる炭素含有ガス中に、複数の触媒粒子Pを接触状態で放出する触媒供給機構23と、反応室21内に配置され、触媒粒子Pを捕捉する基板Bを保持する基板保持機構24とを備えることができる。
【0105】
<反応室>
反応室21は、触媒供給機構23よりも上流側の助走区間25において炭素含有ガスの流れを層流化し、触媒供給機構23よりも下流側の形成区間26において層流化した炭素含有ガスを用いてカーボンナノチューブを形成する。
【0106】
反応室21には、ヒーター27が付設されている。つまり、反応室21は、ヒーター27によって加熱される。
【0107】
反応室21の形成区間26における内部温度としては、800℃以上1200℃以下が好ましい。このような温度を維持するために、ガス供給機構22から反応室21に加熱した炭素含有ガスを供給してもよく、助走区間25において炭素含有ガスを加熱してもよい。
【0108】
<ガス供給機構>
ガス供給機構22は、反応室21に炭素含有ガスを供給するために、ガスボンベ28と流量調節弁29とを有する構成とすることができる。
【0109】
ガス供給機構22から供給される炭素含有ガスとしては、炭化水素ガス等の還元性を有するガスが用いられる。このような炭素含有ガスとしては、例えばアセチレンと窒素又はアルゴンとの混合ガス、メタン等を用いることができる。
【0110】
ガス供給機構22から供給される炭素含有ガスの反応室内での平均流速の下限としては、0.05cm/secであり、0.10cm/secが好ましく、0.20cm/secがより好ましい。一方、反応室21内での平均流速の上限としては、10.0cm/secが好ましく、0.5cm/secがより好ましい。炭素含有ガスの反応室21内での平均流速が上記下限に満たない場合、風圧が不足して触媒粒子P間に形成されるカーボンナノチューブを引き延ばすことができないおそれがある。逆に、炭素含有ガスの反応室21内での平均流速が上記上限を超える場合、カーボンナノチューブを触媒粒子Pから剥離してカーボンナノチューブの成長を停止させることでカーボンナノチューブの形成が阻害されるおそれがある。
【0111】
ガス供給機構22から供給される炭素含有ガスの反応室21内での流れのレイノルズ数の下限としては、0.01が好ましく、0.05がより好ましい。一方、上記レイノルズ数の上限としては1000であり、100が好ましく、10がより好ましい。上記レイノルズ数が上記下限未満とすると、設計が過度に制約されるため、当該カーボンナノチューブ製造装置20が不必要に高価となるおそれや、カーボンナノチューブの製造効率が不必要に低下するおそれがある。上記レイノルズ数が上記上限を超える場合、炭素含有ガスの流れが乱れて触媒粒子P間のカーボンナノチューブの生成及びカーボンナノチューブの延伸を阻害するおそれがある。
【0112】
ガス供給機構22は、反応室21に供給される炭素含有ガスの量を繰り返し変化できることが好ましい。これによって、反応室21における炭素含有カスの流速が増減し、一体化している複数の触媒粒子の離間を促進することにより、得られるカーボンナノチューブの数を増大することができる。
【0113】
<触媒供給機構>
触媒供給機構23は、炭素含有ガスの風圧により崩壊して複数の触媒粒子Pに分割される崩壊性触媒Dを炭素含有ガスの流れの中に保持する機構とすることができる。触媒供給機構23は、例えば帯状、棒状等の長尺に形成される崩壊性触媒Dを保持し、反応室21内に徐々に送り込むものであってもよい。このように、崩壊性触媒Dを用いることで、炭素含有ガスの流れの中で高温且つ接触状態の複数の触媒粒子Pを形成することができる。このため、複数の触媒間にカーボンナノチューブを確実に成長させることができる。
【0114】
崩壊性触媒Dとしては、微細な触媒粒子Pを形成しやすい金属箔が好適に用いられる。崩壊性触媒Dの材質としては、例えば鉄、ニッケル等を挙げることができ、中でも崩壊性及び触媒作用に優れる高純度鉄が特に好ましい。高純度鉄は、反応室21内で高温に熱せられ、炭素含有ガスに晒されることによって、浸炭により表面に鉄カーバイド(Fe3C)を形成し、表面から崩壊し易くなることで、順次触媒微粒子Pを放出することができると考えられる。この場合、形成される触媒粒子Pの主成分としては、鉄カーバイド又は酸化鉄(Fe2O3)となる。
【0115】
最終的に基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径の下限としては、30nmが好ましく、40nmがより好ましく、50nmが更に好ましい。一方、基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径の上限としては、1000μmが好ましく、100μmがより好ましく、10μmが更に好ましい。基板Bで捕捉される触媒粒子Pの平均径が上記下限に満たない場合、触媒粒子により形成されるカーボンナノチューブの径が小さく、延伸率が小さくなることで、カーボンナノチューブを十分に長くすることができないおそれがある。逆に、基板で捕捉される触媒粒子の平均径が上記上限を超える場合、触媒粒子により形成されるカーボンナノチューブを延伸することが困難となるおそれがある。
【0116】
崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さの上限としては、500μmが好ましく、200μmがより好ましい。崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さが上記下限に満たない場合、金属箔が破断して炭素含有ガスに吹き飛ばされるおそれがある。逆に、崩壊性触媒Dとして用いられる金属箔の平均厚さが上記上限を超える場合、崩壊速度が小さくなり、カーボンナノチューブの形成効率が小さくなるおそれがある。
【0117】
<基板保持機構>
基板保持機構24は、触媒供給機構23による触媒供給位置の下方に、炭素含有ガスの流れ方向に沿って下流側に延びるよう基板Bを保持する。基板Bは、炭素含有ガスの流れの中での触媒粒子Pの落下速度を考慮して、触媒粒子Pが落下し得る範囲に広く延在するよう保持されることが好ましい。
【0118】
基板保持機構24は、触媒供給機構23から放出される触媒粒子Pを、基板Bによって捕捉し、炭素含有ガスの流れに抗して、触媒粒子Pを捕捉された位置に保持する。これにより、基板Bに保持されている触媒粒子Pから延びるカーボンナノチューブや、カーボンナノチューブの反対側の端部の触媒粒子Pに炭素含有ガスの風圧が作用することで、基板Bに保持されている触媒粒子Pから延びるカーボンナノチューブが引っ張られ、塑性変形して縮径しつつ長手方向に延伸される。
【0119】
このようなカーボンナノチューブの延伸の間も、触媒粒子P上では元の大きさの径を有するカーボンナノチューブが成長する。このため、当該カーボンナノチューブ製造装置20を用いたFB法で作製されたカーボンナノチューブは、
図6に示されるように、管状のチューブ部Tと、チューブ部の端部から連続して拡径する円錐状のコーン部Cとを備えることができる。
【0120】
つまり、当該カーボンナノチューブ製造装置20は、気相成長法により形成されるカーボンナノチューブをその形成と同時に炭素含有ガスの風圧で引き延ばすことによって、カーボンナノチューブの一部の6角形セルを5角形セルに組み替えて円錐状のコーン部を形成し、再度6角形セルに組み替えてより径が小さいカーボンナノチューブであるチューブ部を形成する。
【0121】
当該カーボンナノチューブ製造装置20は、触媒粒子P上で成長するカーボンナノチューブを引き延ばすため、触媒粒子P上でのカーボンナノチューブの成長速度に比して極めて大きな速度でチューブ部を形成することができるため、比較的短時間で長い力ーホンナノチューブを形成することができる。このため、触媒粒子P上で継続的にカーボンナノチューブを成長させられる条件を維持できる時間が短くても、十分に長いカーボンナノチューブを形成することができる。
【0122】
当該カーボンナノチューブ製造装置20では、炭素含有ガスの風圧により触媒粒子P上のカーボンナノチューブに張力を作用させることで、カーボンナノチューブの成長点における炭素原子の取り込みを促進すると考えられる。これによって、当該カーボンナノチューブ製造装置20は、カーボンナノチューブの成長速度、ひいては得られるカーボンナノチューブの長さの増大速度をより大きくすることができると考えられる。
【0123】
当該カーボンナノチューブ製造装置20では、炭素含有ガスの風圧により触媒粒子P上のカーボンナノチューブに張力を作用させることで、カーボンナノチューブが曲がりにくく、チューブ部Tが六員環の炭素のみからなる直線状のカーボンナノチューブを得ることができると考えられる。六員環の炭素のみからなるカーボンナノチューブは、後述の実施の形態3の第3工程において、高温の酸化性ガス(大気)に曝されても劣化が進みにくく、品質を維持することができる。
【0124】
一方、カーボンナノチューブが六員環の炭素とともに、五員環や七員環の炭素を含有すると、該五員環や七員環に由来する曲りが生じやすくなる。この曲りの部分は、後述の実施の形態3の第3工程において高温の酸化性ガス(大気)に曝された場合、より早く反応が進むために穴が空き、ダングリングボンドが生じるために劣化が進み、品質が低下する。このような品質の低下したカーボンナノチューブは、ラマン分光分析において強いDバンドピークが確認される。
【0125】
基板Bとしては、例えばシリコン基板、石英ガラス等の耐熱ガラス基板、アルミナ等のセラミックス基板などを用いることができる。また、基板保持機構24は、長尺の基板又は複数の基板を炭素含有ガスの流れ方向に沿つて移動させるよう構成されてもよい。このように、基板Bを移動させることによって、当該カーボンナノチューブ製造装置は、基板Bの表面が触媒粒子Pによって埋め尽くされることを防止して、カーボンナノチューブを連続して製造することができる。
【0126】
(第2工程)
第2工程では、第1工程で準備した複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る。
【0127】
従来のカーボンナノチューブの製造方法では、カーボンナノチューブの生成と同時に、アモルファスカーボンやグラファイト微結晶等の副生成物が形成される場合があった。このような副生成物は、カーボンナノチューブ自体の電気伝導性や機械特性に影響を与えるため、カーボンナノチューブの電気伝導性や機械特性等の本来有する特性が低下するという問題があった。このため、従来のカーボンナノチューブに対しては、その結晶性を高めるために、アモルファスカーボンやグラファイト微結晶等の副生成物を除去する技術が検討されていた。
【0128】
また、カーボンナノチューブの生成時に、アモルファスカーボン等の副生成物が形成されず、結晶性の高いカーボンナノチューブを得ることのできるカーボンナノチューブの製造方法も検討されていた。しかし、結晶性の高いカーボンナノチューブはその径が約0.8nm~10nmと非常に小さく、光学顕微鏡で観察することができない。このため、該カーボンナノチューブはハンドリングが困難であった。
【0129】
本発明者らは、高結晶性のカーボンナノチューブのハンドリングを容易とする方法を鋭意検討した結果、カーボンナノチューブをアモルファスカーボン含有層で被覆して径を増大させることにより、光学顕微鏡での観察が可能となり、ハンドリングが容易となることを新たに見出した。結晶性の高いカーボンナノチューブをアモルファスカーボン含有層で被覆してカーボンナノチューブ複合体を形成するという手段は、従来のカーボンナノチューブに含まれるアモルファスカーボンやグラファイト微結晶等の副生成物を除去するという技術的思想とは全く反対の技術的思想に基づくものである。
【0130】
カーボンナノチューブをアモルファスカーボン含有層で被覆する方法としては、カーボンナノチューブを炭化水素系ガス中で950℃以上1100℃以下の温度で熱処理することが挙げられる。ここで炭化水素系ガスとしては、メタンガス、エチレンガス、アセチレンガス、エタノールガス、ベンゼンガス等を用いることができる。熱処理の温度は950℃以上1050℃以下が好ましい。熱処理の維持時間は、熱処理の温度及びアモルファスカーボン含有層の狙い厚みによって適宜変更する。熱処理の維持時間は、例えば、1分以上60分以下が好ましく、5分以上30分以下が更に好ましい。
【0131】
炭化水素系ガスにおけるメタンガス、エチレンガス、アセチレンガス、エタノールガス、及び、ベンゼンガスの合計濃度は、1体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、100体積%が更に好ましい。該合計濃度が1体積%に満たない場合、アモルファスカーボン含有層の形成速度が遅くなるおそれがある。一方、該合計濃度の上限は特に限定されず、アモルファスカーボン含有層の形成速度の向上の観点からは、100体積%とすることが好ましい。炭化水素系ガスは、メタンガスエチレンガス、アセチレンガス、エタノールガス、及び、ベンゼンガスの他に、ヘリウムガスやアルゴンガス、窒素ガス等、アモルファスカーボン含有層の酸化を促進しない不活性ガスや水素ガス等の還元性ガスを含んでいてもよい。
【0132】
反応室内での炭化水素系ガスの平均流速は、0.05cm/sec以上が好ましく、0.10cm/sec以上がより好ましく、0.20cm/sec以上が更に好ましい。炭化水素系ガスの平均流速が0.05cm/sec未満であると、アモルファスカーボン含有層の形成速度が著しく低下するおそれがある。一方、反応室内での炭化水素系ガスの平均流速の上限は、10.0cm/sec以下が好ましく、1cm/sec以下がより好ましく、0.50cm/sec以下が更に好ましい。炭化水素系ガスの平均流速が10.0cm/secを超えると、炭化水素系ガスの熱分解温度に到達する以前に炭化水素系ガスが反応室を通過してしまいアモルファスカーボン含有層が形成されないおそれがある。
【0133】
第2工程で得られたカーボンナノチューブ複合体は、径が大きく、光学顕微鏡での観察が可能であり、ハンドリングが容易である。
【0134】
(第3工程)
第3工程では、第2工程で準備した複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る。複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させるとは、複数のカーボンナノチューブ複合体のそれぞれの長手方向が略同一の方向となるように揃えて集合させることを意味する。なお、略同一の方向とは、カーボンナノチューブ複合体集合線に含まれる異なる2本のカーボンナノチューブ複合体のなす角度が、最大で-10°以下であることを意味する。
【0135】
複数のカーボンナノチューブ複合体を集合させる方法は、カーボンナノチューブ複合体をそれらの長手方向に配向して集合させることができる方法であれば特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブ複合体を1本ずつ、所定の方向に揃えて配置してカーボンナノチューブ複合体集合線を得る方法、カーボンナノチューブ複合体を液相又は気相中に分散させた後に、液相又は気相を一定方向に流すことによりCNT複合体集合線を得る方法、基板表面に対して垂直配向したカーボンナノチューブ複合体を乾式で紡績する方法、電界紡糸法を用いることができる。中でも、操作の容易性の観点から、液相を用いる方法が好ましい。
【0136】
複数のカーボンナノチューブ複合体を集合させる方法として液相を用いる場合、第3工程は、複数のカーボンナノチューブ複合体を溶媒に分散させてカーボンナノチューブ複合体分散液を得る第3a工程と、カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流すことにより、複数のカーボンナノチューブ複合体を特定の方向に配向させる第3b工程と、第3b工程の後に、カーボンナノチューブ複合体分散液から溶媒を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3c工程と、を含むことが好ましい。
【0137】
第3a工程において、溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、トルエン、1,2-ジクロロエタン、1,2-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、二硫化炭素、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、純水を用いることができる。
【0138】
第3b工程において、カーボンナノチューブ複合体分散液を特定の方向に流す方法としては、例えば、特定の方向に溝が形成された基板を準備し、該基板の溝の一方向から、カーボンナノチューブ複合体分散液を基板の溝の長手方向に沿って流す方法が挙げられる。これによると、カーボンナノチューブ複合体分散液中の複数のカーボンナノチューブ複合体の長手方向が、基板の溝の長手方向に沿って配向する。
【0139】
カーボンナノチューブ複合体分散液を溝に流す際は、カーボンナノチューブ複合体分散液が、溝から流出しないように、カーボンナノチューブ複合体分散液の流量を調節することが好ましい。
【0140】
基板としては、例えば、石英基板、シリコン、酸化シリコン、アルミナ、窒化ケイ素を用いることができる。
【0141】
基板の溝の大きさは、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の用途によって適宜選択することができる。例えば、基板の表面における溝の幅は100μm以上1000μm以下が好ましく、基板の表面からの溝の最大深さは50μm以上500μm以下とすることが好ましい。
【0142】
第3c工程において、カーボンナノチューブ複合体分散液から溶媒を除去する方法としては、溶媒を自然蒸発又は加熱により蒸発させる方法が挙げられる。加熱により蒸発させる場合は、加熱温度は溶媒の沸点以上とすることが好ましい。これにより、カーボンナノチューブ複合体集合線を得ることができる。
【0143】
[実施の形態4:カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の製造方法は、複数のカーボンナノチューブを準備する第1工程と、複数のカーボンナノチューブのそれぞれをアモルファスカーボン含有層で被覆して複数のカーボンナノチューブ複合体を得る第2工程と、複数のカーボンナノチューブ複合体を、それらの長手方向に配向して集合させてカーボンナノチューブ複合体集合線を得る第3工程と、カーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより前記アモルファスカーボン含有層を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得る第4工程と、を備える。
【0144】
(第1工程、第2工程及び第3工程)
第1工程、第2工程及び第3工程は、それぞれ実施の形態3に示される第1工程、第2工程及び第3工程と同様のものとすることができる。
【0145】
(第4工程)
第4工程において、第3工程で得られたカーボンナノチューブ複合体集合線を熱処理することにより前記アモルファスカーボン含有層を除去してカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得る。
【0146】
本発明者らは、カーボンナノチューブ複合体集合線からアモルファスカーボン含有層を除去する方法を鋭意検討した結果、カーボンナノチューブ複合体を所定の条件で熱処理することにより、カーボンナノチューブの結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブ複合体集合線からアモルファスカーボン含有層のみを除去することができ、以て高結晶性のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得ることができることを見出した。
【0147】
熱処理としては、例えば、カーボンナノチューブ複合体集合線を酸化条件下で、400℃以上800℃以下の温度で熱処理することが挙げられる。これによると、カーボンナノチューブの高結晶性を維持したまま、カーボンナノチューブ複合体集合線からアモルファスカーボン含有層のみを除去することができる。
【0148】
熱処理の温度が400℃未満であると、アモルファスカーボン含有層を十分に除去することができない。一方、熱処理の温度が800℃を超えると、カーボンナノチューブが燃焼されて消失してしまう。熱処理の温度は420℃以上750℃以下が好ましく、560℃以上690℃以下がより好ましく、550℃以上650℃以下がより好ましい。
【0149】
熱処理の維持時間は、熱処理の温度及びアモルファスカーボン含有層の厚みによって適宜変更する。熱処理の時間は、例えば、1分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下が更に好ましい。
【0150】
第4工程により得られたカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、波長532nmのラマン分光分析におけるGバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度との比であるD/G比が0.1以下であることが好ましい。これによるとカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が高い結晶性を有することができる。よって、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、高い引張強度と、高い電気導電率を有することができる。D/G比は0.01以下が更に好ましい。D/G比の下限値は特に制限されないが、例えば、0.001以上とすることができる。
【0151】
第3工程で得られたカーボンナノチューブ複合体集合線の径をP1とし、第4工程で得られたカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径をP2とした場合、P1とP2とが下記式1の関係を示すことが好ましい。
【0152】
100≦P1/P2≦10000 式1
P1とP2とが上記式1の関係を示す場合は、カーボンナノチューブ複合体集合線からアモルファスカーボン含有層が十分に除去され、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物において、複数の精製カーボンナノチューブが互いに接触、又は、凝集していることを示す。これにより、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物は、優れた導電性を有することができる。なお、CNT複合体集合線の熱処理物において、複数の精製CNTが互いに接触、又は、凝集していることは、CNT複合体集合線の熱処理物を透過型電子顕微鏡で直接観察することにより確認することができる。また、このような熱処理物では、X線回折法により、CNT複合体集合線が規則的に配列していることが確認できる。
【0153】
第1工程で準備したカーボンナノチューブのD/G比の値をR1とし、第4工程で得られたカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物のD/G比の値をR2とした場合、R1とR2とが下記式2の関係を示すことが好ましい。
【0154】
-0.2≦(R2-R1)≦0.2 式2
(上記式2において、0≦R1≦0.2及び0≦R2≦0.2を満たす。)
R1とR2とが上記式2の関係を示す場合は、第4工程によりカーボンナノチューブ複合体中のカーボンナノチューブが劣化することなく、高結晶性のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物が得られたことを示す。
【0155】
R1とR2とは、下記式3又は下記式4の関係を示すことが更に好ましい。
-0.1≦(R2-R1)≦0.1 式3
(上記式3において、0≦R1≦0.2及び0≦R2≦0.2を満たす。)
R1=R2 式4
(上記式4において、0≦R1≦0.2及び0≦R2≦0.2を満たす。)。
【実施例】
【0156】
実施の形態1~4を実施例により更に具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0157】
<試料1>
(カーボンナノチューブの準備)
図8に示されるカーボンナノチューブ製造装置20を用いて、カーボンナノチューブを作製した。加熱炉内に内径20mmの石英管を配設し、この石英管の中に、幅10mmの基板と、崩壊性触媒として厚さが10μmで1辺1cmの方形状の純鉄シート(純度4N)とを配置した。そして、石英管にアルゴンガス濃度100体積%のアルゴンガスを60cc/minの速度で供給しつつ、加熱炉内の温度を1000℃まで昇温した後、更に上記アルゴンガスに加えてメタンガスを3000cc/minの速度で15秒供給した後、流量(速度)を3000cc/min未満に変えてさらに1時間供給を継続した。
【0158】
上記メタンガスの供給により、純鉄シートが崩壊して触媒粒子が放出され、基板上に粒径30nmから300nmの触媒粒子が付着した。該基板を石英管から取出し、走査型電子顕微鏡で観察したところ、基板上に付着した触媒微粒子の一部の粒子間には、カーボンナノチューブがその粒子間を架橋するように形成されていた。
【0159】
得られた複数のカーボンナノチューブについてラマン分光分析によりその径を測定し、走査型電子顕微鏡で観察してその長さを測定した。該カーボンナノチューブの径は1nm以上10nm以下であり、長さは1μm以上3cm以下であった。
【0160】
上記で特定した一のカーボンナノチューブの構造を透過型電子顕微鏡によって確認した。該カーボンナノチューブは、全体の外観が直線形状の二重層のカーボンナノチューブであり、両端に円錐状のコーン部を含むことが確認された。
【0161】
上記のカーボンナノチューブについて、ラマン分光分析を行いラマンスペクトルを得た。ラマン分光分析の測定条件は実施の形態1に示す通りである。ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出したところ、D/G比は0であった。
【0162】
(カーボンナノチューブ複合体の作製)
次に、上記のカーボンナノチューブが付着している上記基板を上記の石英管の中に配置し、石英管にメタンガス濃度が100体積%のメタンガスを0.10cm/secの速度で供給しつつ、加熱炉内の温度を1050℃で30分間維持して該カーボンナノチューブを熱処理した。これにより、該カーボンナノチューブの周囲にアモルファスカーボン含有層を形成し、カーボンナノチューブ複合体を得た。
【0163】
上記で得られたカーボンナノチューブ複合体を透過型電子顕微鏡及び光学顕微鏡で観察してその径及び長さを測定した。該CNT複合体の径は0.1μm以上2μm以下であり、長さは10μm以上3cm以下であった。
【0164】
上記のカーボンナノチューブ複合体の構造を透過型電子顕微鏡によって確認した。この結果、カーボンナノチューブ複合体は全体の外観が直線形状の繊維状であり、各カーボンナノチューブの表面に、アモルファスカーボンを含む層(アモルファスカーボン含有層)が形成されていることが確認された。
【0165】
上記で得られたカーボンナノチューブ複合体は、光学顕微鏡での観察下で、ピンセットで取り出し、所定の位置に配置することができた。すなわち、該カーボンナノチューブ複合体は、ハンドリング性が良好であった。
【0166】
上記で得られたカーボンナノチューブ複合体について、ラマン分光分析を行いラマンスペクトルを得た。ラマン分光分析の測定条件は実施の形態1に示す通りである。ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出したところ、D/G比は0.7であった。
【0167】
(カーボンナノチューブ複合体集合線の作製)
上記で得られたカーボンナノチューブ複合体100μgを99.5%エタノール溶液1mlに分散させて、カーボンナノチューブ複合体分散液を得た。
【0168】
表面に溝の形成された石英基板を準備した。溝の大きさは、石英基板の表面における幅が300μm、石英基板の表面からの溝の最大深さは200μmであり、溝の長手方向に直交する断面形状は半円形状であった。
【0169】
カーボンナノチューブ複合体分散液を、溝の一方向から、溝の長手方向に沿って流すことにより、カーボンナノチューブ複合体分散液中の複数のカーボンナノチューブ複合体の長手方向を、基板の溝の長手方向に沿って配向させた。
【0170】
得られたカーボンナノチューブ複合体集合線を光学顕微鏡で観察したところ、複数のカーボンナノチューブ複合体がカーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向していることが確認された。
【0171】
上記で得られたカーボンナノチューブ複合体集合線を光学顕微鏡で観察してその径及び長さ測定した。該CNT複合体集合線の径(P1)は300μmであり、長さは10mmであった。
【0172】
上記より、試料1のCNT複合体集合線は実施例に該当する。
(カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の作製)
次に、上記で得られたーボンナノチューブ複合体集合線を大気雰囲気中で、温度650℃で60分熱処理して、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物を得た。
【0173】
試料1のCNT複合体集合線の熱処理物を走査型電子顕微鏡で確認したところ、複数の精製カーボンナノチューブが、CNT複合体集合線の熱処理物の長手方向に配向して集合していることが確認された。
【0174】
試料1のCNT複合体集合線の熱処理物を走査型電子顕微鏡で観察してその径を測定した。該CNT複合体集合線の熱処理物の径(P2)は50nmであった。
【0175】
カーボンナノチューブ複合体集合線の径P1と、カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物の径P2とから、P1/P2の値を算出したところ、6000であった。
【0176】
カーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物について、石英基板に載せた状態でラマン分光分析を行い、Gバンドのラマンマッピング像(
図6参照)、及び、Dバンドのラマンマッピング像(
図7参照)を作成した。ラマン分光分析の測定条件は実施の形態1に示す通りであり、ラマンマッピング像の作成方法は実施の形態2に示す通りである。
【0177】
図6及び
図7に示されるラマンマッピング像から、試料1のCNT複合体集合線の熱処理物は、破線で囲まれた部分に存在し、かつ、該CNT複合体集合線の熱処理物には結晶性の高い精製カーボンナノチューブが存在し、アモルファスカーボン含有層は存在しないことを確認することができた。
【0178】
得られたCNT複合体集合線の熱処理物について、ラマン分光分析を行いラマンスペクトルを得た。ラマン分光分析の測定条件は実施の形態1に示す通りである。ラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピーク強度とDバンドのピーク強度とからD/G比を算出したところ、D/G比は0であった。
【0179】
カーボンナノチューブのD/G比の値(R1)及びCNT複合体集合線の熱処理物のD/G比の値(R2)はいずれも0であり、すなわち、R1=R2であった。
【0180】
上記より、試料1のCNT複合体集合線の熱処理物は実施例に該当する。
【0181】
【0182】
<試料2~試料4>
試料2~試料4では、試料1と同様の方法で、カーボンナノチューブを作製した。得られた複数のカーボンナノチューブについて、試料1と同様の方法で、径、長さ及びD/G比(R1)を測定した。結果を、表1の「CNT」の「径」、「長さ」、「D/G比(R1)」の欄に示す。
【0183】
得られたカーボンナノチューブに対して、試料1と同様の方法で炭化水素系ガス中で熱処理を施し、カーボンナノチューブ複合体を得た。熱処理の温度及び時間を、表1の「第2工程」の「温度」及び「時間」欄に示す。
【0184】
得られたカーボンナノチューブ複合体について、試料1と同様の方法で、径、長さ及びD/G比を測定した。結果を、表1の「CNT複合体」の「径」、「長さ」、「D/G比」の欄に示す。
【0185】
試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体の構造を透過型電子顕微鏡によって確認した。この結果、カーボンナノチューブ複合体は全体の外観が直線形状の繊維状であり、一のカーボンナノチューブの表面に、アモルファスカーボンを含む層(アモルファスカーボン含有層)が形成されていることが確認された。
【0186】
試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体は、光学顕微鏡での観察下で、ピンセットで取り出し、所定の位置に配置することができた。すなわち、該カーボンナノチューブ複合体は、ハンドリング性が良好であった。
【0187】
次に、試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体を用いて、試料1と同様の方法でカーボンナノチューブ複合体集合線を作製した。
【0188】
試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体集合線を光学顕微鏡で観察したところ、複数のカーボンナノチューブ複合体がカーボンナノチューブ複合体集合線の長手方向に配向していることが確認された。
【0189】
試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体集合線について、試料1と同様の方法で、径P1及び長さを測定した。結果を、表1の「CNT複合体集合線」の「径P1」及び「長さ」の欄に示す。これらの結果から、試料2~試料4のCNT複合体集合線は実施例に該当する。
【0190】
次に、試料2~試料4のカーボンナノチューブ複合体集合線を大気雰囲気中で熱処理した。熱処理の温度及び時間を、表1の「第4工程」の「温度」及び「時間」欄に示す。
【0191】
熱処理後に試料2を透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブ複合体集合線に変化はなく、カーボンナノチューブの表面にアモルファスカーボン含有層が確認された。このことから、試料2の熱処理条件ではアモルファスカーボン含有層を除去することができないことが確認された。アモルファスカーボン含有層を除去できない理由としては、熱処理時間が短いことが考えられる。
【0192】
熱処理後に試料3を透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの表面にアモルファスカーボン含有層が確認されたが、アモルファスカーボン含有層の量は減少していた。このことから、試料3の熱処理条件ではアモルファスカーボン含有層を十分に除去することができないことが確認された。アモルファスカーボン含有層を十分に除去できない理由としては、熱処理時間が短いことが考えられる。
【0193】
熱処理後に試料4を透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブ及びアモルファスカーボン含有層のいずれも観察することができなかった。このことから、試料4の熱処理条件では、アモルファスカーボン含有層とともに、カーボンナノチューブも消失してしまうことが確認された。アモルファスカーボン含有層とともに、カーボンナノチューブが焼失した理由としては、熱処理時間が長いことが考えられる。
【0194】
試料2及び試料3のカーボンナノチューブ複合体集合線の熱処理物について、試料1と同様の方法で、径及びD/G比(R2)を測定した。更に、(R2-R1)/R1及びP1/P2の値を算出した。結果を、表1の「CNT複合体集合線の熱処理物」の「径P2」及び「D/G比」の欄、並びに、「P1/P2」及び「(R2-R1)」の欄に示す。
【0195】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0196】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0197】
1 カーボンナノチューブ複合体、2 カーボンナノチューブ、3 アモルファスカーボン、10 カーボンナノチューブ複合体集合線、20 カーボンナノチューブ、21 反応室、22 ガス供給機構、23 触媒供給機構、24 基板保持機構、25 助走区間、26 形成区間、27 ヒーター、28 ガスボンベ、29 流量調節弁、C コーン部、D 崩壊性触媒、P 触媒粒子。