(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びそれを用いた生体モデル
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20230831BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20230831BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/60 20060101ALI20230831BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L91/00
C08K5/00
A61L27/16
A61L27/40
A61L27/50
A61L27/50 100
A61L27/50 300
A61L27/60
A61L27/44
(21)【出願番号】P 2020555956
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041865
(87)【国際公開番号】W WO2020095715
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018210479
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】見山 彰
(72)【発明者】
【氏名】松本 睦
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-323552(JP,A)
【文献】国際公開第2015/162976(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/097311(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/117212(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
B65D 65/00-65/46
C08J 3/00-3/28;5/00-5/22;99/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)MFR(温度230℃、荷重2.16kg)1g/10min.以下の水添ブロック共重合体100質量部に対して、
成分(B)オイルを350質量部以上800質量部以下、及び
成分(C)潤滑剤を0.01質量部以上100質量部未満含有し、
成分(A)が、芳香族ビニルから導かれるブロック重合単位(X)と共役ジエンから導かれるブロック重合単位(Y)とを含む芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の水添物(水素添加物または水素化物)を1種以上含み、
成分(B)オイルが、パラフィン系及び/又はナフテン系のプロセスオイルを含み、且つ成分(B)オイルの37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~15mm
2/sであり、
成分(C)潤滑剤が、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を含む、
人工血管用及び/又は人工皮膚用である樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)MFR(温度230℃、荷重2.16kg)1g/10min.以下の水添ブロック共重合体100質量部に対して、
成分(B)オイルを350質量部以上800質量部以下、及び
成分(C)潤滑剤を0.01質量部以上100質量部未満含有し、
成分(A)が、芳香族ビニルから導かれるブロック重合単位(X)と共役ジエンから導かれるブロック重合単位(Y)とを含む芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の水添物(水素添加物または水素化物)を1種以上含み、
成分(B)オイルが、パラフィン系及び/又はナフテン系のプロセスオイルを含み、且つ成分(B)オイルの37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~15mm
2
/sであり、
成分(C)潤滑剤が、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選ばれる1種以上を含む樹脂組成物を用いてなる、生体モデル。
【請求項4】
人工血管又は人工皮膚である、請求項
3に記載の生体モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びそれを用いた生体モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の各部位を模した生体モデルは、樹脂組成物を用いて形成されており、生体内への移植の他、外科的な治療又は検査の手技の習得に用いられているとともに、ロボットや人体模型等の素材として広く用いられている。生体モデル用の樹脂組成物は、得られる成形品が、見た目だけでなく、重さ、触感、切開感なども人体の各部位になるべく近くなるよう種々の工夫が行われている。特許文献1には、ポリウレタン系素材からなる少なくとも三層構造を特徴とする縫合練習用人工皮膚が提案されている。この技術によれば、皮膚表面にシリコン製品のようなベタツキ感がなく、かつ縫合後にリアルな表面形態が得られるとされている。特許文献2には、所定のパラメータを満たす人工外皮用シリコーンエラストマー組成物が提案されている。この技術によれば、シリコーンエラストマーに皮膚に類似する触感を与えることができるとされている。特許文献3には、水添ブロック共重合体と所定の動粘度を有するオイルとを所定量で含有するコンパウンド樹脂及び人体模型が提案されている。この技術によれば、比重が人体に近く、人肌や内臓に近い質感を有しさらに高い耐久性を有するコンパウンド樹脂及び人体模型にできるとされている。特許文献4では、所定のMFRを有する水添ブロック共重合体、オイル、及び所定の比表面積を有するポリオレフィン系樹脂を所定量で含有する樹脂組成物を提案している。この技術によれば、オイルを高充填することができかつブリードアウトを抑制することができる、より軟質な樹脂組成物にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/177926号
【文献】国際公開第2008/072517号
【文献】国際公開第2017/042604号
【文献】国際公開第2018/151320号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生体モデルのうち、人工血管及び人工皮膚として用いられるものには、軟質性に加えて、ヒトの皮膚や血管に近い針の挿入感、及び針や糸の通り易さを有することが求められている。しかしながら、従来提案されているポリウレタン系素材やシリコーン系素材を用いた場合は、ヒトの皮膚や血管に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さが得られにくい。
【0005】
本発明は、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さを有する成形品を与えることができる樹脂組成物、及びそれを用いた生体モデルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に関するものである。
[1]成分(A)MFR(温度230℃、荷重2.16kg)1g/10min.以下の水添ブロック共重合体100質量部に対して、成分(B)オイルを350質量部以上1000質量部以下、及び成分(C)潤滑剤を0.01質量部以上150質量部未満含有する、樹脂組成物。
[2]人工血管用及び/又は人工皮膚用である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]成分(B)オイルの37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~100mm2/sである、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]成分(C)潤滑剤が、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選択される1以上を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]熱可塑性である、[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6][1]から[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる、生体モデル。
[7]人工血管又は人工皮膚である、[6]に記載の生体モデル。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さを有する成形品を与えることができる樹脂組成物、及びそれを用いた生体モデルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。なお本発明において、A~Bとは、A以上B以下であることを意味している。
【0009】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、成分(A)として所定の条件を満たす水添ブロック共重合体、成分(B)としてオイル、及び成分(C)として潤滑剤を、それぞれ所定量で含有する。これにより、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さを実現可能な生体モデル等の成形品を与える樹脂組成物にすることができる。
【0010】
<成分(A)水添ブロック共重合体>
成分(A)水添ブロック共重合体は、芳香族ビニルから導かれるブロック重合単位(X)と共役ジエンから導かれるブロック重合単位(Y)とを含む芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の水添物(水素添加物または水素化物)を1種以上含有することが好ましい。
【0011】
このような構成の芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体の形態は、たとえばX(YX)n又は(XY)n〔nは1以上の整数〕で示される。これらの中では、X(YX)nの形態のもの、特にX-Y-Xの形態のものが好ましい。X-Y-Xの形態のものとしては、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレンブロック共重合体、ポリスチレン-ポリイソプレン・ブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体からなる群から選択される1種以上の共重合体が好ましい。
【0012】
このような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体では、ハードセグメントである芳香族ビニルブロック単位(X)が、共役ジエンゴムブロック単位(Y)の橋かけ点として存在して擬似架橋(ドメイン)を形成している。この芳香族ビニルブロック単位(X)間に存在する共役ジエンゴムブロック単位(Y)は、ソフトセグメントであってゴム弾性を有している。
【0013】
ブロック重合単位(X)を形成する芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、p-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-ドデシルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの中では、スチレンが好ましい。
【0014】
ブロック重合単位(Y)を形成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン及びこれらの組合せ等が挙げられる。これらの中では、ブタジエン、イソプレン、ブタジエンとイソプレンとの組み合わせ(ブタジエン-イソプレンの共重合単位)からなる群から選択される1種以上の共役ジエンが好ましい。これらのうち1種以上の共役ジエンを組み合わせて用いることもできる。ブタジエン-イソプレン共重合単位からなる共役ジエンブロック重合単位(Y)は、ブタジエンとイソプレンとのランダム共重合単位、ブロック共重合単位、テーパード共重合単位のいずれであってもよい。
【0015】
上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体では、芳香族ビニルブロック重合単位(X)の含有量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量以下であることがより好ましい。この芳香族ビニル単位の含有量は赤外線分光、NMR分光法等の常法によって測定することができる。
【0016】
上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体は、種々の方法により製造することができる。製造方法としては、(1)n-ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物を開始剤として、芳香族ビニル、次いで共役ジエンを逐次重合させる方法、(2)芳香族ビニル、次いで共役ジエンを重合させ、これをカップリング剤によりカップリングさせる方法、(3)リチウム化合物を開始剤として、共役ジエン、次いで芳香族ビニルを逐次重合させる方法等を挙げることができる。
【0017】
水添ブロック共重合体は、上記のような芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体を公知の方法により水添した物(水素添加物または水素化物)であり、好ましい水添率は90モル%以上である。この水添率は、共役ジエンブロック重合単位(Y)中の炭素-炭素二重結合の全体量を100モル%としたときの値である。「水添率が90モル%以上」とは、炭素-炭素二重結合の90モル%以上が水素添加されていることを示す。このような水添ブロック共重合体としては、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック(SEP)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEPS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレン(SEBS)、ポリスチレン-ポリ(エチレン-エチレン/プロピレン)ブロック-ポリスチレン(SEEPS)等が挙げられる。より具体的には、SEPTON(クラレ(株)社製)、クレイトン(Kraton;シェル化学(株)社製)、クレイトンG(シェル化学(株)社製)、タフテック(旭化成(株)社製)(以上商品名)等が挙げられる。
【0018】
成分(A)の水添ブロック共重合体のメルトフローレート(MFR(温度230℃、荷重2.16kg))は、1g/10min.以下であり、好ましくは0.1g/10min.未満である。MFR(温度230℃、荷重2.16kg)とは、JIS K7210に従って、温度230℃、荷重2.16kgの条件下で測定するMFRをいう。MFRが本値より高いと、オイルを添加した際にブリードアウト(オイルのしみ出し)が発生し易くなったり、力学的強度が低下したりしてしまう。水添率は、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)等の公知の方法により測定する。
【0019】
本実施形態では、成分(A)MFR(温度230℃、荷重2.16kgで測定)1g/10min.以下の水添ブロック共重合体として、SEEPSが好ましい。本明細書では、「成分(A)MFR(温度230℃、荷重2.16kgで測定)1g/10min.以下の水添ブロック共重合体」は、単に「成分(A)特定の条件を満たす水添ブロック共重合体」又は「成分(A)水添ブロック共重合体」と記載する場合がある。成分(A)特定の条件を満たす水添ブロック共重合体の形状は、混練前のオイル吸収作業の観点から、粉末又は無定形(クラム)状が好ましい。
【0020】
<成分(B)オイル>
成分(B)オイルとしては、好ましくは、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルや流動パラフィン等の鉱物油系オイル、シリコンオイル、ヒマシ油、アマニ油、オレフィン系ワックス、鉱物系ワックス等が挙げられる。これらの中では、パラフィン系及び/又はナフテン系のプロセスオイルが好ましい。プロセスオイルとしては、ダイアナプロセスオイルシリーズ(出光興産社製)、JOMOプロセスP(ジャパンエナジー社製)等が挙げられる。また、フタル酸系、トリメリット酸系、ピロメリット酸系、アジピン酸系、またはクエン酸系の各種エステル系可塑剤も用いることができる。これらは、単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。成分(B)オイルを含有することで、軟質性を調整して、より軟質な樹脂組成物にすることができる。その結果、ヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に類似した軟質性や物性を有する生体モデルを与える樹脂組成物にすることができる。成分(B)オイルは、事前に成分(A)特定の条件を満たす水添ブロック共重合体にあらかじめ吸収させておくのが作業性の点で好ましい。そのためには、成分(A)特定の条件を満たす水添ブロック共重合体の形状は、オイルを吸収しやすい、前記粉末又は無定形(クラム)状が好ましい。
【0021】
成分(B)オイルは、37.8℃又は40℃における動粘度が0.1~100mm2/sであることが好ましく、0.1~50mm2/sであることがより好ましく、0.1~15mm2/sであることがさらに好ましい。上記範囲内にすることで、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に類似した物性を有する生体モデルを与える樹脂組成物を容易に得ることができる。動粘度の測定は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ粘度計を用いて37.8℃又は40℃の試験温度で測定することにより行うことができる。
【0022】
<成分(C)潤滑剤>
成分(C)潤滑剤としては、イオン性界面活性剤、ノニオン系(非イオン性)界面活性剤、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、脂肪族アミド系滑剤、金属石鹸系滑剤、エステル系滑剤等を挙げることができる。
【0023】
イオン性界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができる。アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩等を挙げることができる。市販品としては花王株式会社製の商品名「エレクトロストリッパーPC」等を挙げることができる。
カチオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等を挙げることができる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグリセリルエーテル等を挙げることができる、市販品としては、花王株式会社製の商品名「エレクトロストリッパーEA」等を挙げることができる。
【0024】
炭化水素系滑剤としては、パラフィンワックス、合成ポリエチレンワックス、オクチルアルコール等を挙げることができる。脂肪酸系滑剤としては、ステアリン酸やステアリルアルコール等を挙げることができる。
脂肪族アミド系滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレン脂肪酸アミド等を挙げることができる。金属石鹸系滑剤としては、ステアリン酸金属塩等を挙げることができる。
エステル系滑剤としては、アルコールの脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油等を挙げることができる。
【0025】
成分(C)潤滑剤は、上記した潤滑剤から選択される1以上を用いることができる。中でも、ヒトの血管及び/又は皮膚に類似した軟質性や物性を有する生体モデルを与える樹脂組成物の点で、イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選択される1以上を含むことが好ましく、ノニオン系(非イオン性)界面活性剤から選択される1以上の界面活性剤を含むことが好ましい。
【0026】
<含有割合>
樹脂組成物は、成分(A)水添ブロック共重合体100質量部に対して、成分(B)オイルを350質量部以上1000質量部以下、好ましくは400質量部以上800質量部以下、より好ましくは450質量部以上700質量部以下、及び成分(C)潤滑剤を0.01質量部以上150質量部以下、好ましくは10質量部100質量部以下、より好ましくは10質量部以上50質量部以下含有する。上記範囲内にすることで、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さを有する生体モデルを与える樹脂組成物にすることができる。また、成形品のブリードアウトをより防ぐこともできる。
【0027】
<添加剤等>
樹脂組成物は、必要に応じてゴム、可塑剤、フィラーや安定剤、老化防止剤、耐光性向上剤、紫外線吸収剤、軟化剤、滑剤、加工助剤、着色剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、発泡剤等を配合し、用いることができる。これらの含有量は、成分(A)水添ブロック共重合体100質量部に対して0.01質量部以上500質量部以下とすることが好ましい。
【0028】
樹脂組成物は、必要に応じてその他の樹脂又はエラストマーを含有してもよい。その他の樹脂又はエラストマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリルニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、繊維状フィラー等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。その他の樹脂又はエラストマーを含有する場合、その含有量は、成分(A)水添ブロック共重合体100質量部に対して0.01質量部以上500質量部以下であることが好ましい。
【0029】
<樹脂組成物>
樹脂組成物は、製造コスト、物性バランスの点で、熱可塑性であることが好ましい。本実施形態に係る樹脂組成物は、上記した成分(A)所定の条件を満たす水添ブロック共重合体、成分(B)オイル、及び成分(C)潤滑剤を所定の含有量で含むことから、軟質性が高くかつヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い針刺し挿入感及び針や糸の通り易さを実現することができる。そのため、人工血管及び/又は人工皮膚等の生体モデルとして好ましく用いることができる。
【0030】
(軟質性)
軟質性は、E硬度により評価することができる。E硬度は、5.0mm厚シートを4枚重ね、JIS K7215プラスチックのデュロメーター硬さ試験法に従い、23±1℃の条件にてタイプEのデュロメーター硬度を瞬間値として求めることができる。
【0031】
樹脂組成物は、JIS K7215プラスチックのデュロメーター硬さ試験法に従ったE硬度が、50以下であることが好ましく、0.1以上50以下であることがより好ましい。ヒトを含む動物の血管及び/又は皮膚に近い軟質性とする点で、50以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。特に好ましくは、10未満である。
【0032】
(針刺し挿入感)
針刺し挿入感(針刺し抵抗)は、万能試験機(例えば、島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機)を用いて、23℃±1℃の条件下で管状もしくは短冊シート状の試験片を用いて1000mm/minの速度で穿刺した際の針が貫通した際の第一ピークの荷重値(N)及び変位量(mm)を測定して評価することができる。なお、試験片の厚み及びサイズは、対象とする医療シミュレータの部位により決定する。針のサイズは、注射練習用とするか、縫合練習用とするかによって決定する。
【0033】
樹脂組成物は、上記により測定した荷重値が、0.1N以上1N以下であることが好ましく、0.1N以上0.5N以下であることがより好ましい。変位量は1mm以上50mm以下であることが好ましく、3mm以上20mm以下であることがより好ましい。
【0034】
(針通り抵抗及び糸通り抵抗)
樹脂組成物は、ヒトの血管及び/又は皮膚に穿刺したとき、及び縫合したとき又は糸を通したときと似た手ごたえ(針や糸の通り易さであり、ここでは、「針通り抵抗」、「糸通り抵抗」ともいう。)を有するように構成することが好ましい。
針通り抵抗及び糸通り抵抗は、万能試験機(例えば、島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機)で穿刺した際の穿刺針及び医療用糸に掛かる荷重値(以下、「針通り抵抗」及び「糸通り抵抗」ともいう。)を測定して評価することができる。なお、試験片の厚み及びサイズは、対象とする医療シミュレータの部位により決定する。針のサイズは、注射練習用とするか、縫合練習用とするかによって決定する。糸のサイズは、医療シミュレータの部位により決定する。
【0035】
樹脂組成物は、上記により測定した穿刺針に掛かる荷重値(針通り抵抗)が、0.1N以上1N以下であることが好ましく、0.1N以上0.5N以下であることがより好ましい。
【0036】
樹脂組成物は、上記により測定した医療用糸に掛かる荷重値(糸通り抵抗)が、0.01N以上0.1N以下であることが好ましく、0.01N以上0.05N以下であることがより好ましい。
【0037】
(製造方法)
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の適当なブレンド法を用いることができる。例えば、単軸、二軸のスクリュー押出機、バンバリー型ミキサー、プラストミル、コニーダー、加熱ロールなどで溶融混練を行うことができる。溶融混練を行う前に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、スーパーミキサー、タンブラーなどで各原料を均一に混合しておくこともよい。溶融混練温度はとくに制限はないが、50~300℃、好ましくは70~250℃が一般的である。
【0038】
[生体モデル]
本実施形態に係る生体モデルは、上記した樹脂組成物を用いてなる。上記樹脂組成物は、ヒトの血管及び/又は皮膚に近い軟質性を有しているとともに、針刺し挿入感及び針や糸の通り易さが人体に似ているので、人工血管及び/又は人工皮膚である生体モデルとして好ましく用いることができる。人工血管及び/又は人工皮膚の構造は、特に限定されないが、単層で形成してもよいし、2以上の層(例えば、内層、中層及び外層の3層)で形成してもよい。
生体モデルの製造方法は、特に限定されず、公知の成形方法により製造できる。例えば押出し成形、注型成形、射出成形、真空成形、ブロー成形等、目的の生体モデルに合わせ様々な成形方法を用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。なお、以下において、MFRは、温度230℃、荷重2.16kgの値である。
【0041】
<成分(A)特定の条件を満たす水添ブロック共重合体>
(A-1)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON4033」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%)
(A-2)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON4044」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%)
(A-3)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON4055」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%)
(A-4)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON-J」、MFR1g/10分、スチレン含有量40質量%)
(A-5)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON4077」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%)
(A-6)SEEPS(株式会社クラレ製「SEPTON4099」、MFR1g/10分、スチレン含有量30質量%)
【0042】
<比較成分(A)>
シリコーン樹脂(シリコーンエラストマー樹脂)
ポリウレタン樹脂(ポリウレタンエラストマー樹脂)
天然ゴム
【0043】
<成分(B)オイル>
(B-1)パラフィン系オイル(出光興産株式会社製「PW-90」)、40℃における動粘度90.5mm2/s
(B-2)パラフィン系オイル(出光興産株式会社製「PW-32」)、40℃における動粘度30.6mm2/s
(B-3)パラフィン系オイル(日油株式会社製「パールリーム6」)、37.8℃における動粘度21.4mm2/s
(B-4)パラフィン系オイル(日油株式会社製「パールリームEX」)、37.8℃における動粘度10.6mm2/s
なお、動粘度は、JIS K 2283:2000の「5.動粘度試験方法」に従って、キャノンフェンスケ粘度計を用いて37.8℃又は40℃の試験温度により測定した値である。
【0044】
<成分(C)潤滑剤>
(C-1)ステアリルアルコール(花王株式会社製「カルコール8098」)
(C-2)オクチルアルコール(花王株式会社製「カルコール0898」)
(C-3)非イオン性界面活性剤(花王株式会社製「エレクトロストリッパーEA」)
(C-4)陰イオン性界面活性剤(花王株式会社製「エレクトロストリッパーPC」)
(C-5)エステル配合界面活性剤(花王株式会社製「カオーワックス220」)
(C-6)エチレンビスステアリン酸アマイド(花王株式会社製「カオーワックスEB-FF」)
(C-7)ステアリン酸(花王株式会社製「ルナックS-50V」)
【0045】
[実施例1]
表1に記載の材料を表1に記載の含有割合で溶融混練して樹脂組成物を得た。溶融混練は、次のように行った。成分(A)水添ブロック共重合体は、無定形の粉末でメーカーより供給される。混練数日前に、成分(A)水添ブロック共重合体に対し、成分(C)潤滑剤を所定量添加してから成分(B)オイルを所定量滴下し十分に染みこませておいた。なお、ここで染み込ませた成分(B)オイル、成分(C)潤滑剤の量は、表1に記載の配合量に含まれる。ブラベンダープラスチコーダー(ブラベンダー社製PL2000型)を使用し、すべての原料を投入した後、150℃、回転速度50回/分、6分間混練し樹脂組成物を得た。
【0046】
[実施例2~14、比較例1~19]
表1,2に示す組成とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0047】
[測定及び評価]
(サンプルの作製)
得られた樹脂組成物を用いて、物性評価用の短冊状シートサンプルを作製した。短冊状シートサンプルの作製は次のように行った。樹脂組成物を加熱プレス法(150℃、時間5分、圧力50kg/cm2)により、後述する各試験方法に記載した各種厚さに成形し短冊状サンプルシートとした。また、参考例1~3として、ブタの大動脈、大静脈及び頸動脈(20mm×20mm×厚さ1.75mm)のサンプルを準備した。なお、ブタの血管は軟質性や触感等の各種物性がヒトの血管に似ていることが知られている。
【0048】
得られた短冊状シートサンプル及び参考例1~3のサンプルを用いて、以下の測定及び評価を行った。また、短冊状サンプル作成の際に、表面にオイルの染み出しがあるか(ブリードアウトの有無)を目視で確認した。測定及び評価結果を表1,2に示した。
【0049】
(E硬度)
50mm×50mm×厚さ5.0mmのシートを4枚重ねた短冊状シートサンプルを用いて、JIS K7215プラスチックのデュロメーター硬さ試験法に従い、23±1℃の条件にてタイプEのデュロメーター硬度を求めた。この硬度は瞬間値である。
【0050】
(針刺し挿入感)
50mm×50mm×厚さ2mmの短冊状シートサンプルについて、島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機を用い、23℃±1℃の条件下で1000mm/minの速度で穿刺した際の針が貫通した際の第一ピークの荷重値及び変位量(針刺し抵抗)を測定し、以下の基準に基づいて針刺し挿入感の評価を行なった。
4:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.1N以上0.3N未満である。
3:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.3N以上0.6N未満である。
2:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.6N以上0.8N未満である。
1:針が貫通した際の第一ピークの荷重値が0.8N以上である。
【0051】
(穿刺針・医療用糸の通り易さ)
島津製作所製オートグラフAG-Xpuls試験機を用い、50mm×50mm×厚さ2mmの短冊シート状の試験片を用いて1000mm/minの速度で穿刺した際の穿刺針(サイズ:17G)、医療用糸(サイズ:ポリプロピレン製4-0)、に掛かる荷重値を測定した。それぞれ「針通り抵抗(N)」、「糸通り抵抗(N)」として表1,2に示した。
【0052】
【表1】
【表2】
表1に示すように、実施例の樹脂組成物を用いた成形品は、高い軟質性を有するとともに、ヒトを含む動物の血管に近い針の挿入感及び針や糸の通り易さを有している。