(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】煤処理および摩擦低減のためのエンジン油
(51)【国際特許分類】
C10M 133/16 20060101AFI20230831BHJP
C10M 141/10 20060101ALI20230831BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20230831BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20230831BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20230831BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C10M133/16
C10M141/10
C10M137/10 A
C10N40:25
C10N30:04
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2021541469
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 US2019064934
(87)【国際公開番号】W WO2020149958
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-10-11
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ローパー、ジョン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-206684(JP,A)
【文献】特開2013-040332(JP,A)
【文献】特表2011-518925(JP,A)
【文献】特開2015-227448(JP,A)
【文献】特表2012-513495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0224948(US,A1)
【文献】特公昭41-013032(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン油組成物であって、
前記エンジン油組成物の総重量に基づいて、50重量%超
~99重量%の基油、およびA)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、B)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であって、C)芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理されている反応生成物である、分散剤を含み、C)のすべてのカルボン酸または無水物基が、芳香環に直接結合しており、前記ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物のヒドロカルビル部分が
、100
~5000g/molの数平均分子量を有するポリアルケニル置換基であるか、または5,000g/mol未満の数平均分子量を有するエチレン-アルファオレフィンコポリマーであり、
成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子との0.9~1.3のモル比が、前記分散剤を作製するために使用され、前記分散剤が、少なくとも0.4の成分C)と成分B)とのモル比を有し、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比が1.0~1.6であり、
前記エンジン油組成物が、前記エンジン油組成物の総重量に基づいて少なくとも0.1重量%の前記分散剤を含む、エンジン油組成物。
【請求項2】
成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子との前記モル比が1.0~1.3である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項3】
成分C)が1,8-ナフタル酸無水物である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項4】
成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、前記A)とB)とのモル比が1.0~2.0である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項5】
成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、前記A)とB)とのモル比が1.1~1.8であり、成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、前記A)とB)とのモル比が1.1~1.8である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項6】
前記A)とB)とのモル比が1.2~1.6である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項7】
成分C)と成分B)とのモル比が0.1:1~2.5:1
、0.2:1~2:1または0.25:1~1.6:1である、請求項3に記載のエンジン油組成物。
【請求項8】
前記ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物A)が、ポリイソブテニルコハク酸または無水物を含
み、
C)が、ジカルボキシル含有縮合芳香族化合物またはその無水物であり、ならびに
前記ポリアミンB)が、ヘキサエチレンヘプタミン、ペンタエチレンヘキサミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、エチレンジアミン、およびこれらのポリアミンのうちの2つ以上を含む混合物から選択される、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項9】
前記ポリアミンB)がテトラエチレンペンタミンである、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項10】
前記分散剤が、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように
、500g/mol未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されていない、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項11】
成分A)がポリイソブテニル置換無水コハク酸であり、前記分散剤が、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合を除き、1.0~2.2の範囲のA)ポリイソブテニル置換無水コハク酸とB)ポリアミンとのモル比を有し、前記A)とB)とのモル比が1.0~1.6である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項12】
成分A)がポリイソブテニル置換無水コハク酸であり、前記分散剤が、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合を除き、1.1~2.0の範囲のA)ポリイソブテニル置換無水コハク酸とB)ポリアミンとのモル比を有し、A)とB)との前記モル比が1.1~1.8である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項13】
成分A)がポリイソブテニル置換無水コハク酸であり、前記分散剤が、1.2~1.6の範囲のA)ポリイソブテニル置換無水コハク酸とB)ポリアミンとのモル比を有する、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項14】
成分A)~C)に由来する前記分散剤の量が、前記エンジン油組成物の総重量に基づいて、0.1~5.0重量%
または0.25~3.0重量%である、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項15】
洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、防錆剤、粘度指数改善剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、無灰アミンリン酸塩、消泡剤、および流動点降下剤ならびにこれらの組み合わせのうちの1つ以上をさらに含む、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項16】
少なくとも1.0重量%の煤を含む、請求項1に記載のエンジン油組成物。
【請求項17】
請求項1に記載のエンジン油組成物でエンジンを潤滑することを含む、エンジンを潤滑するための方法。
【請求項18】
エンジン油組成物の煤またはスラッジ処理能力を維持するための方法であって、前記エンジン油組成物に、A)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、B)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であって、C)芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理されている反応生成物である、分散剤を添加する工程を含み、C)のすべてのカルボン酸または無水物基が、芳香環に直接結合しており、前記ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物のヒドロカルビル部分が
、100
~5000g/molの数平均分子量を有するポリアルケニル置換基であるか、または5,000g/mol未満の数平均分子量を有するエチレン-アルファオレフィンコポリマーであり、
成分C)からのカルボキシル基と前記A)とB)との前記反応生成物からの窒素原子との0.9~1.3のモル比が、前記分散剤を作製するために使用され、前記分散剤が、少なくとも0.4の成分C)と成分B)とのモル比を有し、
前記エンジン油組成物が、前記エンジン油組成物の総重量に基づいて少なくとも0.1重量%の前記分散剤を含む、方法。
【請求項19】
請求項1に記載のエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含
み、
前記境界層摩擦の改善が、前記分散剤の非存在下での同じ組成物と比較して決定される、前記エンジンの境界層摩擦を改善するための方法。
【請求項20】
請求項1に記載のエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含
み、
前記薄膜摩擦の改善が、前記分散剤の非存在下での同じ組成物と比較して決定される、前記エンジン内の薄膜摩擦を改善するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン油組成物中の分散剤の処理速度を低減または最小化しながら、摩擦特性を改善し、および/またはエンジン油組成物の煤またはスラッジ処理特性を維持するためのエンジン油組成物および分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン潤滑剤組成物は、エンジン保護の向上、ならびに燃費の向上、および排出量の削減を提供するように選択することができる。しかし、燃費の向上および排出物の削減という利益を得るためには、エンジン保護と潤滑特性のバランスが必要である。例えば、潤滑剤中の摩擦調整剤の量を増加させることは、燃費の向上のためには有益であり得るが、水を処理するための潤滑剤組成物の能力の低下につながり得る。同様に、潤滑剤中の摩耗防止剤の量を増加させると、摩耗に対するエンジン保護を向上させることができるが、排出物を削減するため触媒性能に有害であり得る。
【0003】
分散剤が潤滑剤組成物に添加される理由の1つは、煤および/またはスラッジを懸濁状態に維持し、それによってこれらの汚染物質が表面に沈降および/または付着するのを防ぐためである。潤滑剤組成物中の分散剤の量が増加するにつれて、典型的には、潤滑剤の煤およびスラッジ処理特性が改善される。重負荷ディーゼルエンジンでは、効果的な煤およびスラッジ処理に必要な分散剤処理速度が非常に高くなる場合がある。ただし、分散剤処理速度が高いと、腐食が増加し、シールに害を及ぼす可能性がある。
【0004】
分散剤および/または分散剤の処理速度もまた、エンジン油組成物の摩擦特性に影響を及ぼし得る。より具体的には、エンジン油の薄膜および/または境界層の摩擦特性は、分散剤および/または分散剤の処理速度によって影響を受ける可能性がある。結果として、エンジン油の分野では、分散剤の煤および/またはスラッジ処理特性と、分散剤を含むエンジン油の薄膜および/または境界層摩擦特性とのバランスをとる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、比較的低い分散剤処理速度で潤滑剤組成物に満足のいく煤および/またはスラッジ処理特性を提供し、ならびに許容できるまたは改善された薄膜および/もしくは境界層の摩擦特性をエンジン油組成物に提供できる分散剤または分散剤の組み合わせが必要とされている。このような潤滑剤組成物は、現在提案されているおよび将来の潤滑剤性能基準を満たすかまたはそれを超えるのに適しているべきである。
【0006】
本開示は、分散剤を含むエンジン油、エンジンを潤滑するためにこれらのエンジン油を使用する方法、ならびにこれらの分散剤およびエンジン油の使用に関する。
第1の態様では、本開示は、エンジン油組成物の総重量に基づいて、50重量%~約99重量%の基油、およびA)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、B)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり、C)芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理されている反応生成物である、分散剤を含む。後処理に使用されるC)のすべてのカルボン酸または無水物基は、芳香環に直接結合している。分散剤は、成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子との0.9~1.3、または1.0~1.3のモル比、C)のモルとB)のモルとの少なくとも0.4のモル比を使用して作製され、成分B)1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は1.0~1.6である。エンジン油組成物は、エンジン油組成物の総重量に基づいて、少なくとも0.1重量%の分散剤を含む。
【0007】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分A)およびC)からのカルボキシル基と、成分B)からの窒素原子とのモル比は、1.0~1.3であり得る。
【0008】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、C)は、ジカルボキシル含有縮合芳香族化合物またはその無水物であり得る。
【0009】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分C)は、1,8-ナフタル酸無水物であり得る。
【0010】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は、1.0~2.0であり得るか、または、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は1.1~1.8であり得、成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は、1.1~1.8であり得る。
【0011】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分C)対成分B)のモル比は、0.1:1~2.5:1、または0.2:1~2:1、または0.25:1~1.6:1であり得る。
【0012】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物成分A)は、ポリイソブテニルコハク酸または無水物を含み得る。
【0013】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、ポリアミンB)は、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラアミン、ジエチレントリアミン、およびエチレンジアミン、ならびにこれらのポリアミンのうちの2つ以上を含有する混合物から選択され得る。
【0014】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、ポリアミンB)は、テトラエチレンペンタミンであり得る。
【0015】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分A)~C)に由来する分散剤は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように、約500g/mol未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理することができない。
【0016】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分A)は、ポリイソブテニル置換無水コハク酸であってもよく、分散剤は、1.0~2.2、または1.1~2.0、または1.2~1.6の範囲の、A)ポリイソブテニル置換無水コハク酸対B)ポリアミンのモル比を有し得るが、ただし、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有している場合、A)とB)とのモル比は、1.0~1.6または1.2~1.6になり得る。
【0017】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、成分A)~C)に由来する分散剤の量は、エンジン油組成物の総重量に基づいて、0.1~5.0重量%、または0.25~3.0重量%であり得る。
【0018】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジンンジンオイルは、洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、防錆剤、粘度指数改善剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、無灰アミンリン酸塩、消泡剤、および流動点降下剤ならびにこれらの組み合わせのうちの1つ以上をさらに含んでよい。
【0019】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油は、少なくとも1.0重量%の煤、または約2重量%~約3重量%の煤を含み得る。
【0020】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油組成物は、250℃でASTM D-5800の方法によって測定されるように、15質量%未満または13質量%未満のノアック(Noack)揮発度を有し得る。
【0021】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油は、少なくとも0.05重量%の第2の分散剤をさらに含んでもよい。第2の分散剤は、D)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、E)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得る。この実施形態において、成分D)は、ポリイソブテニル無水コハク酸であり得る。
【0022】
第2の分散剤を使用する前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油組成物は、約0.1:1.0~1.0:1.0、または0.25:1.0~0.75:1.0、または0.4:1.0~0.6:1.0のC)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物に対する第2の分散剤の重量比を有し得る。
【0023】
第2の分散剤を使用する前述の実施形態のそれぞれにおいて、D)のヒドロカルビルジカルボン酸は、ポリイソブテニルコハク酸を含み得る。前述の実施形態において、第2の分散剤は、1.0~2.0、または1.1~1.8、または1.2~1.6の範囲の、成分D)とE)ポリアミンとのモル比を有し得る。
【0024】
第2の分散剤を使用する前述の実施形態のそれぞれにおいて、ポリアミンE)は、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラアミン、ジエチレントリアミン、およびエチレンジアミンから選択され得る。
【0025】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物のそれぞれとは異なる第3の分散剤と、第2の分散剤と、を含み得る。前述の実施形態において、第3の分散剤は、F)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、G)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得る。場合によっては、第3の分散剤を、H)ホウ酸で後処理してもよい。エンジン油が第3の分散剤を含み得る実施形態において、第2の分散剤と、成分A)~C)から作製された分散剤と第3の分散剤との重量比は、約1:5:2~1:6:2、または1:4:2~1:5:2、または1:3:2~1:4:2であり得る。
【0026】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油組成物は、洗浄剤、分散剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、防錆剤、粘度指数改善剤、乳化剤、解乳化剤、腐食防止剤、耐摩耗剤、金属ジヒドロカルビルジチオホスフェート、無灰アミンリン酸塩、消泡剤、および流動点降下剤ならびにこれらの組み合わせのうちの1つ以上をさらに含んでよい。
【0027】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油組成物は、少なくとも1.0重量%の煤、または約2重量%~約3重量%の煤を含み得る。
【0028】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油組成物は、15質量%未満、または13質量%未満のノアック揮発度を有し得る。
【0029】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物も、第2の分散剤も、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように、約500g/mol未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理することができず、あるいは、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物も、第2の分散剤も、無水マレイン酸で後処理することはできない。
【0030】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように、約500g/mol未満の数平均分子量を有する非芳香族ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物で後処理することができず、あるいは、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物は、無水マレイン酸で後処理することはできない。
【0031】
前述の実施形態のそれぞれにおいて、エンジン油は、重負荷ディーゼルエンジンで使用するために配合されたエンジン油であり得る。
【0032】
第2の態様では、本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されているようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンを潤滑するための方法に関する。
【0033】
第3の態様では、本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載の分散剤をエンジン油組成物に添加する工程を含む、エンジン油組成物の煤またはスラッジ処理能力を維持するための方法に関する。
【0034】
第4の態様では、本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの境界層摩擦を改善するための方法に関する。
【0035】
前述の実施形態において、境界層摩擦の改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【0036】
第5の態様では、本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの薄膜摩擦を改善するための方法に関する。
【0037】
前述の実施形態において、薄膜摩擦の改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【0038】
第6の態様では、本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの境界層摩擦および薄膜摩擦を改善するための方法に関する。
【0039】
前述の実施形態において、境界層摩擦および薄膜摩擦の組み合わせにおける改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【0040】
本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために、以下の用語の定義が提供される。
【0041】
本明細書で使用されるとき、用語「油組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑油組成物」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物」、「完全配合潤滑剤組成物」、「潤滑剤」は、同義の完全に互換的な用語とみなされ、主要量の基油と少量の添加剤組成物とを含む完成した潤滑生成物を指す。
【0042】
用語「クランクケース油」、「クランクケース潤滑剤」、「エンジン油」、「エンジン潤滑剤」、「モータ油」、および「モータ潤滑剤」は、エンジン油として使用するのに好適で、主要量の基油に加えて少量の添加剤組成物を含む、完成した潤滑油組成物を指す、同義の完全に互換性のある用語であるとみなされる。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「添加剤パッケージ」、「添加剤濃縮物」、「添加剤組成物」は、主要量の基油ストック混合物を除外する潤滑組成物またはエンジン油組成物の一部を指す、同義の完全に互換性のある用語であるとみなされる。添加剤パッケージは、粘度指数向上剤または流動点降下剤を含む場合も含まない場合もある。
【0044】
用語「過塩基性」は、金属塩、例えば、スルホネート、カルボキシレート、サリチレート、および/またはフェネートの金属塩に関し、存在する金属の量は、理論量を超える。このような塩は、100%超の転化率を有し得る(すなわち、それらは酸をその「標準」、「中性」の塩に変換するのに必要な理論的金属量の100%以上を含み得る)。しばしばMRと略される表現「金属比」は、既知の化学反応性および化学量論に従って、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量との比率を示すために用いられる。標準または中性塩では金属比は1であるが、過塩基性塩ではMRは1より大きい。これらは、一般に、過塩基性、高塩基性、または超塩基性塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、サリチレート、および/またはフェノールの塩であってもよい。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」は当業者に既知の通常の意味で使用される。具体的には、分子の残りに直接結合した炭素原子を有し、主に炭化水素特性を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、炭化水素置換基から独立して選択される。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「重量パーセント」は、他に明確に述べられていない限り、記載された成分が組成物全体の重量に対して表すパーセンテージを意味する。
【0047】
本明細書で使用される用語「可溶性」、「油溶性」、または「分散性」は、化合物または添加剤が可溶性、溶解性、混和性、または油中にあらゆる割合で懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、油が採油される環境において意図された効果を発揮するのに十分な程度に、油中で可溶性、懸濁性、溶解性、または安定に分散性であることを意味する。さらに、必要に応じて、他の添加剤を追加で組み込むことで、特定の添加剤のより高いレベルの配合が可能となり得る。
【0048】
本明細書で採用される用語「TBN」は、ASTM D2896の方法によって測定した場合に、総塩基数をmg KOH/gで表すために使用される。
【0049】
本明細書で採用される用語「アルキル」は、約1~約100個の炭素原子の直鎖、分枝鎖、環状、および/または置換飽和鎖部分を指す。
【0050】
本明細書で採用される用語「アルケニル」は、約3~約10個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、および/または置換の不飽和鎖部分を指す。
【0051】
本明細書で採用される用語「アリール」は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、ならびに/またはこれらに限定されないが、窒素、酸素、および硫黄を含むヘテロ原子を含み得る、単環式および多環式の芳香族化合物を指す。
【0052】
本明細書で使用される場合、すべてのモル比は、分散剤を製造するために反応器に充填される反応物A)~C)の量および種類に基づいて決定される。
【0053】
本明細書の潤滑剤、エンジン油、成分の組み合わせ、または個々の成分は、様々な種類の内燃エンジンにおける使用に好適であり得る。好適なエンジンのタイプには、重負荷ディーゼル、乗用車、軽負荷ディーゼル、中速ディーゼル、または船舶用エンジンが含まれ得るが、これらに限定されない。内燃エンジンは、ディーゼル燃料エンジン、ガソリン燃料エンジン、天然ガス燃料エンジン、バイオ燃料エンジン、混合ディーゼル/バイオ燃料-燃料エンジン、混合ガソリン/バイオ燃料-燃料エンジン、アルコール燃料エンジン、混合ガソリン/アルコール燃料エンジン、圧縮天然ガス(CNG)燃料エンジン、またはそれらの混合物であってもよい。ディーゼルエンジンは、圧縮点火エンジンであってもよい。ガソリンエンジンは、スパーク点火エンジンであってもよい。内燃エンジンはまた、電気またはバッテリ電源と組み合わせて使用してもよい。このように構成されたエンジンは一般的にはハイブリッドエンジンとして既知である。内燃エンジンは、2ストローク、4ストローク、またはロータリーエンジンであり得る。好適な内燃エンジンは、船舶用ディーゼルエンジン(例えば内陸船舶)、航空用ピストンエンジン、低負荷ディーゼルエンジン、およびオートバイ、自動車、機関車、ならびにトラックエンジンを含む。
【0054】
本発明のエンジン油組成物が使用され得る有利な種類のエンジンは、大型車両用ディーゼル(HDD)エンジンである。
【0055】
HDDエンジンは、潤滑剤中に約1%~約3%の範囲の煤レベルを生成することが一般に知られている。加えて、旧型のHDDエンジンでは、煤レベルは、最大約8%のレベルに達する可能性がある。
【0056】
加えて、ガソリン直接噴射(GDi)エンジンもまた、それらの潤滑剤中に煤を生成する。フォードチェーン摩耗試験(Ford Chain Wear Test run)を使用して、312時間の間GDiエンジンを試験したところ、潤滑剤中に2.387%の煤レベルを生じた。製造業者および運転条件に応じて、直接燃料噴射ガソリンエンジンにおける煤レベルは、約1.5%~約3%の範囲内にあり得る。比較のために、非直接噴射ガソリンエンジンも試験して、潤滑剤中に生成された煤の量を決定した。この試験の結果は、潤滑剤中に約1.152%の煤しか示さなかった。
【0057】
HDDおよびGDiエンジンによって生成される高レベルの煤に基づいて、本発明の分散剤は、これらの種類のエンジンと共に使用するのに好適である。HDDエンジンおよび直接燃料噴射ガソリンエンジンでの使用では、油中に存在する煤は、エンジンの年数、製造業者、および運転条件に応じて約0.05%~約8%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、エンジン油組成物中の煤レベルは約1.0%超であり、または煤レベルは約1.0%~約8%であり、または、エンジン油組成物中の煤レベルは約2%~約3%である。
【0058】
内燃エンジンは、アルミニウム合金、鉛、スズ、銅、鋳鉄、マグネシウム、セラミック、ステンレス鋼、複合材、および/またはこれらの混合物のうちの1つ以上の成分を含有してもよい。成分は、例えば、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、潤滑コーティング、リン含有コーティング、モリブデン含有コーティング、グラファイトコーティング、ナノ粒子含有コーティング、および/またはこれらの混合物でコーティングされてもよい。アルミニウム合金は、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、または他のセラミック材料を含んでもよい。一実施形態では、アルミニウム合金はケイ酸アルミニウム表面である。本明細書で使用される場合、用語「アルミニウム合金」は、「アルミニウム複合体」と同義であり、その詳細な構造にかかわらず、顕微鏡レベルまたはほぼ顕微鏡レベルで混合または反応するアルミニウムおよび他の成分を含む成分または表面を表すことが意図される。これには、アルミニウム以外の金属を有する任意の従来の合金だけでなく、セラミック様材料のような非金属性元素または化合物を有する複合または合金様構造が含まれる。
【0059】
内燃エンジンのためのエンジン油組成物は、硫黄、リン、または硫酸灰分(ASTM D-874)含有量とは無関係に、あらゆるエンジン潤滑剤としての使用に好適であり得る。エンジン油の硫黄含有量は、約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下、または約0.3重量%以下、または約0.2重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫黄含有量は、約0.001重量%~約0.5重量%、または約0.01重量%~約0.3重量%の範囲であってもよい。リン含有量は、約0.2重量%以下、または約0.1重量%以下、または約0.085重量%以下、または約0.08重量%以下、またはさらには約0.06重量%以下、約0.055重量%以下、または約0.05重量%以下であってもよい。一実施形態において、リン含有量は、約50ppm~約1000ppmまたは約325ppm~約850ppmであり得る。総硫酸灰分含有量は、約2重量%以下、または約1.5重量%以下、または約1.1重量%以下、または約1重量%以下、または約0.8重量%以下、または約0.5重量%以下であってもよい。一実施形態では、硫酸灰分含有量は、約0.05重量%~約0.9重量%、または0.1重量%もしくは約0.2重量%~約0.45重量%であってもよい。別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.4重量%以下であってもよく、リン含有量は、約0.08重量%以下であってもよく、かつ硫酸灰分は、約1重量%以下である。さらに別の実施形態では、硫黄含有量は、約0.3重量%以下であってもよく、リン含有量は、約0.05重量%以下であり、かつ硫酸灰分は、約0.8重量%以下であってもよい。
【0060】
一実施形態において、エンジン油は、(i)約0.5重量%以下の硫黄含有量、(ii)約0.1重量%以下のリン含有量、および(iii)約1.5重量%以下の硫酸灰分含有量を有し得る。重負荷ディーゼルモータ油(HDEO)用途のためのいくつかの実施形態において、完成した流体中のリンの量は、1200ppm以下、または1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。.乗用車用モータ油(PCMO)用途のいくつかの実施形態では、完成品の流体中のリンの量は、1000ppm以下、または900ppm以下、または800ppm以下である。
【0061】
エンジン油は、少なくとも1.0重量%の煤、または約2重量%~約3重量%の煤を含有し得る。
【0062】
エンジン油組成物は、250℃でASTM D-5800の方法によって測定されるように、15質量%未満または13質量%未満のノアック揮発度を有し得る。
【0063】
一実施形態では、エンジン油組成物は、2ストロークまたは4ストローク船舶ディーゼル内燃エンジンに好適である。一実施形態では、船舶用ディーゼルエンジンは、2ストロークエンジンである。いくつかの実施形態では、エンジン油組成物は、限定されないが、船舶エンジンに動力を供給する際に使用される燃料の高い硫黄含有量、および船舶適用エンジン油(例えば船舶適用エンジン油では約40TBN超)に必要とされる高いTBN、を含む1つ以上の理由により、2ストロークまたは4ストロークの船舶用ディーゼル内燃エンジンには好適ではない。
【0064】
いくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、約1~約5重量%の硫黄を含有する燃料などの低硫黄燃料によって動力を供給されるエンジンでの使用に好適である。高速道路車両燃料は約15ppmの硫黄(または約0.0015重量%の硫黄)を含有する。
【0065】
完全に配合されたエンジン油は、その配合物において必要とされる特徴を供給する分散剤/抑制剤パッケージまたはDIパッケージと本明細書で称される添加剤パッケージを慣用的に含有する。好適なDIパッケージは、例えば、米国特許第5,204,012号および同第6,034,040号に例えば記載されている。添加剤パッケージに含まれる添加剤のタイプの中には、分散剤、シール膨潤剤、酸化防止剤、泡抑制剤、潤滑剤、防錆剤、腐食防止剤、解乳化剤、粘度指数向上剤などがあり得る。これらの成分のいくつかは、当業者によく知られており、一般に、本明細書に記載の添加剤および組成物と共に従来の量で使用される。
【0066】
低速ディーゼルは、典型的に船舶用エンジンを指し、中速ディーゼルは、一般に機関車を指し、高速ディーゼルは、典型的に高速道路車両を指す。エンジン油組成物は、これらのタイプのうちの1つのみまたはすべてのものに好適であってもよい。
【0067】
さらに、本明細書のエンジン油は、ILSAC GF-3、GF-4、GF-5、GF-6、PC-11、CF、CF-4、CH-4、CK-4、FA-4、CJ-4、CI-4 Plus、CI-4、API SG、SJ、SL、SM、SN、ACEA A1/B1、A2/B2、A3/B3、A3/B4、A5/B5、C1、C2、C3、C4、C5、E4/E6/E7/E9、Euro5/6、JASO DL-1、Low SAPS、Mid SAPSなどの1つ以上の業界仕様要件、またはDexos(商標)1、Dexos(商標)2、MB-Approval 229.1、229.3、229.5、229.51/229.31、229.52、229.6、229.71、226.5、226.51、228.0/.1、228.2/.3、228.31、228.5、228.51、228.61、VW 501.01、502.00、503.00/503.01、504.00、505.00、505.01、506.00/506.01、507.00、508.00、509.00、508.88、509.99、BMW Longlife-01、Longlife-01FE、Longlife-04、Longlife-12FE、Longlife-14FE+、Longlife-17FE+、Porsche A40、C30、Peugeot Citroen Automobiles B71 2290、B71 2294、B71 2295、B71 2296、B71 2297、B71 2300、B71 2302、B71 2312、B71 2007、B71 2008、Renault RN0700、RN0710、RN0720、Ford WSS-M2C153-H、WSS-M2C930-A、WSS-M2C945-A、WSS-M2C913A、WSS-M2C913-B、WSS-M2C913-C、WSS-M2C913-D、WSS-M2C948-B、WSS-M2C948-A、GM 6094-M、Chrysler MS-6395、Fiat 9.55535 G1、G2、M2、N1、N2、Z2、S1、S2、S3、S4、T2、DS1、DSX、GH2、GS1、GSX、CR1、Jaguar Land Rover STJLR.03.5003、STJLR.03.5004、STJLR.03.5005、STJLR.03.5006、STJLR.03.5007STJLR.51.5122などの元の機器メーカーの仕様、または本明細書に記載されていない過去または将来のPCMOまたはHDDの仕様を満たすのに好適な可能性がある。
【0068】
他のハードウェアは、開示された潤滑剤とともに使用するのに好適でない可能性がある。用語「機能性流体」は、トラクターの作動流体、自動変速機流体を含む動力伝達流体、連続可変トランスミッション流体および手動トランスミッション流体、トラクターの作動流体を含む作動流体、一部のギア油、パワーステアリング流体、風力タービン、圧縮機に使用される流体、一部の工業用流体、および動力伝達装置の部品に関連する流体を含むがこれらに限定されない様々な流体を含む。自動変速機流体などのこれらの流体の各々の中には、顕著に異なる機能特性の流体を必要する異なる設計を有する様々なトランスミッションのために様々な異なるタイプの流体が存在することに留意すべきである。これは、動力の発生または伝達に使用されない潤滑剤を指す「エンジン油」という用語とは対照的である。
【0069】
例えば、トラクターの油圧作動流体に関しては、これらの流体はエンジンを潤滑させることを除いて、トラクターのすべての潤滑剤用途に使用される汎用品である。これらの潤滑用途には、ギアボックス、パワーテイクオフおよびクラッチ、リアアクスル、リダクションギア、湿式ブレーキ、および油圧アクセサリーの潤滑が含まれ得る。
【0070】
機能性流体が自動変速機流体である場合、自動変速機流体は、クラッチ板が動力を伝達するのに十分な摩擦を有していなければならない。しかしながら、流体の摩擦係数は、運転中に流体が加熱されるので温度の影響により低下する傾向がある。トラクターの作動流体または自動変速機流体は高温で高い摩擦係数を維持することが重要であり、さもなければブレーキシステムまたは自動変速機が故障する可能性がある。これはエンジン油の機能ではない。
【0071】
トラクター流体、例えば、スーパートラクタユニバーサル油(STUO)またはユニバーサルトラクタトランスミッション油(UTTO)は、エンジン油の性能と、変速機、ディファレンシャル、ファイナルドライブプラネタリギア、湿式ブレーキ、および油圧性能とを組み合わせてもよい。UTTOまたはSTUO流体を配合するのに使用される添加剤の多くは機能的に類似しているが、適切に添加されないと有害な影響を及ぼすおそれがある。例えば、エンジン油に使用される特定の耐摩耗性および極圧添加剤は、油圧ポンプの銅成分に対して極めて強い腐食性を有する。ガソリンまたはディーゼルエンジンの性能に使用される洗浄剤および分散剤は、湿式ブレーキの性能に有害であり得る。静粛な湿式ブレーキ鳴きに特有の摩擦調整剤は、エンジン油性能に必要な熱安定性を欠いている可能性がある。これらの流体の各々は、機能性、トラクター性、エンジン性、または潤滑性にかかわらず、特定の厳格な製造業者の要件を満たすように設計されている。
【0072】
本開示のエンジン油は、以下に詳細に記載されるように、1つ以上の添加剤を適切な基油配合物に添加することによって配合し得る。添加剤は添加剤パッケージ(または濃縮物)の形態で基油と組み合わせてもよく、または選択的には基油(または両方の混合物)と個々に組み合わせてもよい。完全に配合されたエンジン油は、添加された添加剤およびそれぞれの割合に基づいて、改善された性能特性を示し得る。
【0073】
本開示のさらなる詳細および利点は、以下の説明に部分的に記載される、かつ/または本開示の実施によって習得し得る。本開示の詳細および利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘された要素および組み合わせによって実現および達成し得る。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は両方とも例示的および説明的なものにすぎず、特許請求される本開示を限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1】分散剤を含まない煤入り油の粘度対ずり速度を示すグラフである。
【
図2】Mack T-11試験を用いて測定した試験油の粘度上昇を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0075】
エンジンの円滑な動作を確保するために、エンジン油は、例えば、ピストンリング/シリンダライナ、クランクシャフトおよびコネクティングロッドのベアリング、カムおよびバルブリフターなどを含むバルブ機構など、エンジン内の種々の摺動部品を潤滑するために重要な役割を果たす。エンジン油は、エンジンの内部を冷却し、燃焼生成物を分散させる役割を果たすこともある。エンジン油のさらなる可能な機能には、錆および腐食の防止または低減が含まれ得る。
【0076】
エンジン油の主な考慮事項は、エンジンの部品の摩耗および焼き付きを防止することである。潤滑されたエンジン部品は、主に流体潤滑状態にあるが、バルブシステムおよびピストンの上死点および下死点は、境界および/または薄膜潤滑の状態にある可能性がある。エンジン内のこれらの部品間の摩擦は、著しいエネルギー損失を引き起こし、それによって燃料効率を低下させる可能性がある。摩擦エネルギー損失を減らすために、多くの種類の摩擦調整剤がエンジン油に使用されてきた。
【0077】
エンジン部品間の摩擦が減少すると、燃費の向上を達成することができる。薄膜摩擦は、2つの表面間の距離が非常に小さい場合に、潤滑剤などの流体が2つの表面間を移動することによって発生する摩擦である。エンジン油に通常存在するいくつかの添加剤は、異なる厚さの膜を形成し、それが薄膜の摩擦に影響を与える可能性があることが知られている。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)などの一部の添加剤は、薄膜摩擦を増加させることが知られている。このような添加剤は、エンジン部品を保護するなどの他の理由で必要になる場合があるが、このような添加剤によって引き起こされる薄膜摩擦の増加は有害となり得る。
【0078】
エンジン潤滑剤組成物に許容可能な煤およびスラッジ処理特性を提供することが望ましい。潤滑剤組成物への分散剤の導入は、特定の種類のエンジンで使用される潤滑剤組成物に所望の煤およびスラッジ処理特性を提供することに成功している。しかしながら、重負荷ディーゼル(HDD)および直噴エンジン(GDiエンジン)、ならびにいくつかの他の種類のエンジンは、多くの他の種類の内燃エンジンと比較して、大量の煤およびスラッジを生成する。この問題に対処するための1つの選択肢は、HDDおよびGDiエンジンの潤滑剤組成物に使用される分散剤の処理速度を増加させることである。
【0079】
通常、潤滑剤組成物内の分散剤の処理速度を増加させると、潤滑剤組成物の煤およびスラッジ処理特性が改善される。HDDおよびGDiエンジンによって生成される煤およびスラッジの量が比較的多いため、十分な煤およびスラッジ処理特性を提供するために、潤滑剤組成物に高い処理速度の分散剤が必要とされる。しかしながら、エンジン油組成物中の分散剤処理速度を特定のレベルを超えて増加させることは、エンジン構成要素または性能に対する悪影響をもたらし得るため、望ましくない場合がある。具体的には、分散剤の高い処理速度は、エンジンシールを損傷させ、かつ腐食が促進されることが知られている。
【0080】
煤およびスラッジの処理特性を提供するための潤滑剤組成物中の分散剤の使用は既知であるが、特に、HDDおよびGDiエンジン、および大量の煤を生成する他のエンジンでの使用を目的とした潤滑剤組成物において、そのような分散剤の処理速度を低減することは、ASTM D-6594の高温腐食ベンチ試験(HTCBT)やASTMD-7216のシール適合性試験、ならびにMercedes Benz、MTU、MAN Truck&Bus Companyなどの元の機器メーカー(OEM)シール試験などの重要なベンチ試験でそのような潤滑剤組成物の性能を向上させるために必要である。
【0081】
本発明は、分散剤を含むエンジン油組成物、およびエンジン油組成物を使用してエンジンを潤滑する方法を提供する。これらの方法は、同様の従来の分散剤を含むエンジン油組成物と比較して、境界層摩擦および/または薄膜摩擦を改善すると同時に、それらの有効濃度によって示されるように、満足のいく煤およびスラッジ処理特性を提供する。実際、ある特定の分散剤または分散剤の組み合わせは、予想よりも低い有効濃度を使用して、現在提案されているおよび将来の潤滑剤性能基準を満たすか、または超えるのに適した煤およびスラッジ処理特性を提供する。
【0082】
本発明が最も効果的であり得るいくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、1.0~3.0重量%の煤、または2.0~3.0重量%の煤を含み得る。
【0083】
ある特定の特性を有する分散剤は、エンジン潤滑剤組成物に有益な煤およびスラッジ処理特性を提供すると同時に、良好な境界層および/または薄膜摩擦を提供し得る。
【0084】
多くの場合、これらの特定の分散剤は、潤滑剤組成物中の1つ以上の他の分散剤と組み合わせて、単独で使用した場合の組み合わせの2つ以上の分散剤のそれぞれについて測定された効果に基づき計算された有効濃度から予想されるよりも、低い有効濃度の分散剤の使用を可能にする。特定の分散剤の組み合わせの効果は、分散剤の組み合わせを形成する個々の分散剤の効果の合計であると予想される。
【0085】
有効濃度は、エンジン油組成物のニュートン流体挙動を得るのに十分なエンジン油中の分散剤の濃度として定義される。ニュートン流体の挙動は、レオメーターを使用して測定される。煤を含む油は、1つ以上の分散剤で処理され、レオメーターを使用して、ニュートン流体が得られる濃度が決定される。ニュートン流体は、粘度対剪断速度曲線の勾配がゼロに等しいときに得られる。勾配がゼロになる分散剤の濃度は、その分散剤の有効濃度である。有効濃度を決定するための適切な方法は、米国特許出願公開第US2017/0335228(A1)号に記載されている。
【0086】
理論に拘束されるものではないが、一態様では、分散剤の組み合わせ中の窒素によって生成される極性は、潤滑剤組成物に含まれる煤と相互作用する。さらに、オレフィンコポリマーテール、例えば、ポリイソブチレン(PIB)テール、および、例えば、無水ナフタル酸の芳香族性は、煤が潤滑剤組成物中のより大きな煤粒子に凝集することを防ぐのに役立つと考えられている。これらの態様の組み合わせは、分散剤の組み合わせのより低い有効濃度での潤滑剤組成物中の煤およびスラッジ処理を提供すると考えられている。
【0087】
分散剤
第1の実施形態において、エンジン油組成物は、A)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、B)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であって、成分C)芳香族無水物、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物で後処理されている、反応生成物である、分散剤を含む。成分C)のすべてのカルボン酸または無水物基、芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物は、芳香環に直接結合している。
【0088】
この分散剤は、0.9~1.3の成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子とのモル比を使用して、成分A)~C)から作製されている。
【0089】
この分散剤を作製するために使用される成分A)~C)は、以下でより詳細に記載されている。この分散剤の作製方法は、例えば、JP2008/127435および米国特許第8,927,469号に記載されている。
【0090】
一実施形態において、成分A)は、ポリイソブテニル置換無水コハク酸である。この分散剤は、1.0~2.2、または1.1~2.0、または1.1~1.8、または1.2~1.6の範囲の成分A)、ポリイソブテニル置換無水コハク酸と、B)、ポリアミンとのモル比を有することができる。
【0091】
別の実施形態において、この分散剤は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように、約500g/mol未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されない。
【0092】
本明細書に記載の潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.1重量パーセント~約8重量%の、成分A)~C)に由来する分散剤を含み得る。成分A)~C)に由来する分散剤の量の別の範囲は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.25重量%~約5.5重量%であり得る。分散剤の量のより狭い範囲は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約3.5重量%~約5.5重量%であり得る。
【0093】
成分A)
成分A)は、ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物である。成分A)のヒドロカルビルジカルボン酸またはその無水物のヒドロカルビル部分は、ブテンポリマー、例えばイソブチレンのポリマーから誘導され得る。本明細書での使用に適したポリイソブテンは、ポリイソブチレンまたは少なくとも約60%、例えば約70%~約90%以上の末端ビニリデン含有量を有する高反応性ポリイソブチレンから形成されるものを含む。好適なポリイソブテンとしては、BF3触媒を使用して調製されるものが挙げられ得る。ポリアルケニル置換基の平均数分子量は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって決定されるように、例えば約100~約5000、例えば約500~約5000などの広い範囲にわたって変動し得る。一実施形態において、成分A)のヒドロカルビルジカルボン酸または無水物は、ポリイソブテニル置換無水コハク酸を含む。
【0094】
代替的に、ヒドロカルビル-ジカルボン酸のヒドロカルビル部分または成分A)の無水物は、エチレン-アルファオレフィンコポリマーから誘導され得る。本明細書に記載のコポリマーは、複数のエチレン単位および複数の1つ以上のC3~C10アルファ-オレフィン単位を含む。C3~C10アルファ-オレフィン単位は、プロピレン単位を含み得る。
【0095】
エチレン-アルファオレフィンコポリマーは、典型的に、校正基準としてポリスチレンを使用してGPCで測定したとき、5,000g/モル未満の数平均分子量を有し、またはコポリマーの数平均分子量は、4,000g/モル未満、または3,500g/モル未満、または3,000g/モル未満、または2,500g/モル未満、または2,000g/モル未満、1,500g/モル未満、または1,000g/モル未満であり得る。いくつかの実施形態では、コポリマーの数平均分子量は、800~3,000g/モルであり得る。
【0096】
エチレン-アルファオレフィンコポリマーのエチレン含有量は、80モル%未満70モル%未満、または65モル%未満、または60モル%未満、または55モル%未満、または50モル%未満、または45モル%未満、または40モル%未満であり得る。コポリマーのエチレン含有量は、少なくとも10モル%および80モル%未満、または少なくとも20モル%および70モル%未満、または少なくとも30モル%および65モル%未満、または少なくとも40モル%および60モル%未満であり得る。
【0097】
エチレン-アルファオレフィンコポリマーのC3~C10アルファ-オレフィン含有量は、少なくとも20モル%、または少なくとも30モル%、または少なくとも35モル%、または少なくとも40モル%、または少なくとも45モル%、または少なくとも50モル%、または少なくとも55モル%、または少なくとも60モル%であり得る。
【0098】
いくつかの実施形態において、エチレン-アルファオレフィンコポリマーの分子の少なくとも70モル%が不飽和基を有し得、および該不飽和基の少なくとも70mol%は、末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体に配置され得るか、またはコポリマーの少なくとも75mol%は末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結し、またはコポリマーの少なくとも80mol%は末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結し、またはコポリマーの少なくとも80mol%は末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結し、またはコポリマーの少なくとも85mol%は末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結し、またはコポリマーの少なくとも90mol%は末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結し、もしくはコポリマーの少なくとも95モル%は、末端ビニリデン基または末端ビニリデン基の三置換異性体で終結する。コポリマーの末端ビニリデンおよび末端ビニリデンの三置換異性体は、以下の構造式(I)~(III)のうちの1つ以上を有する:
【化1】
式中、Rは、C
1~C
8アルキル基を表し、
【化2】
は、結合がコポリマーの残りの部分に結合していることを示す。
【0099】
エチレン-アルファオレフィンコポリマーは、
13C NMR分光法によって測定した場合に、2.8未満の平均エチレン単位ランレングス(n
C2)を有している場合があり、また、以下の式によって示される関係も満たす:
【数1】
式中、
【数2】
x
C2は、
1H-NMR分光法によって測定した場合に、ポリマーに組み込まれたエチレンのモル分率であり、Eは、エチレン単位を表し、Aは、アルファ-オレフィン単位を表している。コポリマーは、2.6未満、または2.4未満、または2.2未満、または2未満の平均エチレン単位ランレングスを有し得る。平均エチレンランレングスn
c2も、次の式で示される関係を満たすことができる:
式中、n
C2、実際<n
C2、統計である。
【0100】
コポリマーのクロスオーバー温度は、-20℃以下、-25℃以下、または-30℃以下、または-35℃以下、または-40℃以下であり得る。コポリマーは、4以下、または3以下、または2以下の多分散指数を有し得る。コポリマー中の単位トライアドの20%未満がエチレン-エチレン-エチレントライアドであり得るか、またはコポリマー中の単位トライアドの10%未満がエチレン-エチレン-エチレントライアドであるか、またはコポリマー中の単位トライアドの5%未満がエチレン-エチレン-エチレントライアドである。エチレン-アルファオレフィンコポリマーおよびそれから作製された分散剤のさらなる詳細は、米国受入官庁に提出されたPCT/US18/37116に見出すことができ、その開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0101】
成分A)のジカルボン酸またはその無水物は、無水マレイン酸以外のカルボン酸反応物、例えばマレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、無水エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸無水物、エチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、ヘキシルマレイン酸など(対応する酸ハロゲン化物および低級脂肪族エステルを含む)から選択することができる。好適なジカルボン酸無水物は無水マレイン酸である。成分Aを作製するために使用される反応混合物中の無水マレイン酸とヒドロカルビル部分とのモル比は、広く変動し得る。したがって、モル比は約5:1~約1:5、例えば約3:1~約1:3で変動することができ、さらなる例として、無水マレイン酸を化学量論的過剰量で使用して反応を完了まで促進することができる。未反応の無水マレイン酸は真空蒸留により除去することができる。
【0102】
成分B)
分散剤を調製する際に、多数のポリアミンのいずれかを成分B)として使用することができる。ポリアミン成分B)は、ポリアルキレンポリアミンであり得る。非限定的な例示のポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、アミノエチルピペラジン、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、N-メチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、アミノグアニジン重炭酸塩(AGBC)、およびE100重質アミンボトムスなどの重質ポリアミンを挙げることができる。重質ポリアミンは、TEPAおよびPEHAのような少量の低級ポリアミンオリゴマーを有するが、主に1分子当たり7個以上の窒素原子、2つ以上の第一級アミン、および従来のポリアミン混合物よりも広範囲の分岐を有するポリアルキレンポリアミンの混合物を含み得る。ヒドロカルビル置換スクシンイミド分散剤を調製するために使用されてもよい追加の非限定的ポリアミンは、米国特許第6,548,458号に開示され、その開示の全体が参照により本明細書に組み込まれる。分散剤を形成するための反応において成分B)として使用されるポリアミンは、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチレントリアミン、およびエチレンジアミン、E100重質アミンボトムス、およびこれらの組み合わせの群から独立して選択することができる。別の実施形態において、成分B)として使用されるポリアミンは、トリエチレンペンタミン、トリエチレンテトラアミン、ジエチレントリアミン、およびエチレンジアミンから選択される。別の実施形態において、成分B)として使用されるポリアミンは、テトラエチレンペンタミン(TEPA)であり得る。
【0103】
実施形態において、分散剤は、式(I)の化合物から誘導することができる:
【化3】
式中、nは、0または1~5の整数を表し、R
2は、上で定義したヒドロカルビル置換基である。実施形態において、nは、3であり、R
2は、70%~90%以上などの少なくとも60%の末端ビニリデン含有量を有するポリイソブチレンに由来するものなどのポリイソブチレン置換基である。分散剤は、式(I)の化合物であり得る。式(I)の化合物は、ポリイソブテニル無水コハク酸(PIBSA)などのヒドロカルビル置換無水コハク酸と、ポリアミン、例えばテトラエチレンペンタミン(TEPA)との反応生成物であり得る。
【0104】
式(I)の前述の化合物は、1.0~2.2、または1.1~2.0、または1.1~1.8、または1.2~1.6の範囲で、A)ポリイソブテニル置換無水コハク酸とB)ポリアミンとのモル比を有し得るが、ただし、成分B)が、1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は、1.0~1.6、または1.1~1.6、または1.2~1.6であり得る。成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は、1.0~2.0であり得るか、または、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は1.1~1.8であり得、成分B)が1分子当たり平均4~6個以外の窒素原子を有する場合、A)とB)とのモル比は、1.1~1.8であり得る。
【0105】
特に有用な分散剤は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定した場合、約500~5000の範囲の数平均分子量(Mn)を有するポリイソブテニル置換無水コハク酸のポリイソブテニル基、およびB)一般式H2N(CH2)m-[NH(CH2)m]n-NH2を有するポリアミンとを含み、式中、mは2~4の範囲であり、nは1~2の範囲である。A)はポリイソブチレン無水コハク酸(PIBSA)にすることができる。PIBSAまたはA)は、ポリマー1分子当たり平均約1.0~約2.0のコハク酸部分を有してもよく、A)はポリマー1分子当たり平均2.0のコハク酸部分を有し得る。
【0106】
式(1)のN置換長鎖アルケニルスクシンイミドの例には、ポリイソブチレン置換基の数平均分子量が約350~約50,000、または約350~約5,000、もしくは約350~約3,000の範囲のポリイソブチレンスクシンイミドが挙げられる。スクシンイミド分散剤およびそれらの調製は、例えば、米国特許第7,897,696号または米国特許第4,234,435号に開示されている。ポリオレフィンは、約2~約16個、または約2~約8個、または約2~約6個の炭素原子を含有する重合性モノマーから調製することができる。
【0107】
実施形態において、分散剤は、ポリスチレンを校正基準として使用するGPCによって決定されたときに、約350~約50,000、または約350~約5000、もしくは約350~約3000の範囲の数平均分子量を有するポリイソブチレンに由来する。いくつかの実施形態では、ポリイソブチレンは、含まれるときには、50モル%超、60モル%超、70モル%超、80モル%超または90モル%超の末端二重結合の含有量を有し得る。このようなPIBは高反応性PIB(「HR-PIB」)とも呼ばれる。約800~約5000の範囲にある数平均分子量を有するHR-PIBは、本開示の実施形態において用いることに好適である。従来のPIBは、典型的に、50モル%未満、40モル%未満、30モル%未満、20モル%未満、または10モル%未満の末端二重結合の含有量を有する。アルケニルまたはアルキル無水コハク酸の活性%はクロマトグラフィー技術を使用して測定することができる。この方法は、米国特許第5,334,321号の第5欄および第6欄に記載されている。
【0108】
約900~約3000の範囲の数平均分子量を有するHR-PIBが、好適であってもよい。このようなHR-PIBは、市販されているか、またはBoerzelらの米国特許第4,152,499号およびGateauらの米国特許第5,739,355号に記載されるように、三フッ化ホウ素などの非塩素化触媒の存在下でイソブテンを重合することによって合成することができる。前述の熱エン反応で使用されるとき、HR-PIBは、増加された反応性により、反応におけるより高い変換率、およびより少ない沈殿物の形成量をもたらし得る。好適な方法は、米国特許第7,897,696号に記載されている。
【0109】
成分C)
成分C)は、A)とB)との反応生成物の後処理成分である。成分C)は、すべてのカルボン酸または無水物基が芳香環に直接的に結合している、芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または芳香族無水物である。成分C)は、ジカルボキシル含有縮合芳香族化合物またはその無水物であり得る。
【0110】
このようなカルボキシル含有芳香族化合物は、1,8-ナフタリン酸または無水物、1,2-ナフタレンジカルボン酸または無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸または無水物、ナフタレン-1,4-ジカルボン酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸無水物、ジフェン酸または無水物、2,3-ピリジンジカルボン酸または無水物、3,4-ピリジンジカルボン酸または無水物、1,4,5,8-ナフタレンジカルボン酸または無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸無水物、ピレンジカルボン酸または無水物などから選択され得る。成分C)は、ジカルボキシル含有縮合芳香族化合物またはその無水物であり得る。別の実施形態において、成分C)は、1,8-ナフタル酸無水物である。
【0111】
後処理工程は、成分A)とB)との反応の完了時に行い得る。後処理成分C)は、約140℃~約180℃の範囲の温度で、成分A)とB)との反応生成物と反応させることができる。
【0112】
一実施形態において、分散剤は、ポリスチレンを較正基準として使用するGPCによって測定されるように、500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されないか、または分散剤は無水マレイン酸で後処理されない。
【0113】
好適な分散剤はまた、種々の薬剤のいずれかで、従来の方法によって後処理することができる。これらの中には、ホウ素、尿素、チオウレア、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、無水マレイン酸、ニトリル、エポキシド、カーボネート、環状炭酸塩、ヒンダードフェノールエステル、およびリン化合物などがある。US7,645,726、US7,214,649、およびUS8,048,831は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0114】
炭酸塩およびホウ酸の後処理に加えて、分散剤は、異なる特性を改善または付与するように設計された様々な後処理で、後処理、またはさらに後処理されてもよい。このような後処理には、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,241,003号の27~29欄に要約されたものが含まれる。
【0115】
分散剤は、0.9~1.3、または1.0~1.3の、成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子とのモル比を有する。成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子とのモル比は、分散剤を作製するために使用される成分B)に応じて変動し得る。例えば、テトラエチレンペンタミンが成分B)として使用される場合、成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子とのモル比は、1.0~1.3であり得る。トリエチレンテトラミンまたはポリアミンボトムスE100(1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有する)などのポリアミンボトムスを成分B)として使用する場合、成分A)およびC)からのカルボキシル基と成分B)からの窒素原子とのモル比は、0.9~1.3であり得る。
【0116】
分散剤はまた、少なくとも0.4、または少なくとも0.5、または少なくとも0.6の、成分C)とポリアミン成分B)とのモル比を有することができる。成分B)がトリエチレンテトラミンである一実施形態において、分散剤中の成分C)とポリアミン成分B)とのモル比は少なくとも0.4である。分散剤中の成分C)とポリアミン成分B)とのモル比の上限は2.0であり得る。分散剤中の成分C)のモルとポリアミン成分B)のモルとのモル比は、0.4~2.0、または0.5~2.0、または0.6~ら2.0であり得る。
【0117】
分散剤中の成分C)と成分B)とのモル比は、0.1:1~2.5:1、または0.2:1~2:1、または0.25:1~1.6:1であり得る。
【0118】
いくつかの実施形態において、成分A)は、ポリイソブテニル置換無水コハク酸であり、分散剤は、成分B)が1分子当たり平均4~6個の窒素原子を有している場合を除き、1.0~2.2、または1.1~2.0、または1.2~1.6の範囲の、A)ポリイソブテニル置換無水コハク酸対B)ポリアミンのモル比を有し、A)とB)とのモル比は、1.0~1.6になり得る。
【0119】
分散剤のTBNは、約50%の希釈油を含有する分散剤試料で測定した場合、約5~約30TBNに匹敵する、油を含まない基準で約10~約65であり得る。
【0120】
前述の分散剤に加えて、潤滑剤組成物は基油を含み、摩擦調整剤、追加の分散剤、金属洗剤、耐摩耗剤、消泡剤、酸化防止剤、粘度調整剤、流動点降下剤、腐食防止剤などが挙げられるが、これらに限定されない他の従来の成分を含み得る。
【0121】
任意の追加の分散剤
本発明の潤滑剤組成物は、任意に、上記の分散剤に加えて、1つ以上の追加の分散剤を含んでもよい。第2および第3の分散剤は、存在する場合、エンジン油組成物の最終重量に基づいて、最大約10重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約3重量%~約8重量%、または約1重量%~約6重量%の総分散剤を提供するのに十分な量で使用することができる。いくつかの実施形態において、任意の追加の分散剤は、エンジン油組成物の最終重量に基づいて、0.05~9.9重量%、または0.1~8.5重量%、または0.25~6.5重量%、または1~5重量%の量で使用され得る。
【0122】
したがって、いくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、成分A)~C)から作製された分散剤と第2の分散剤との組み合わせを含む。第2の分散剤は、D)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、E)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得る。成分D)は、上記の成分A)の化合物のいずれかであり得る。成分E)は、成分B)について上に記載されたポリアミンのいずれかであり得る。
【0123】
一実施形態において、成分D)は、ポリイソブテニル置換無水コハク酸である。第2の分散剤は、1.0~2.0、または1.1~1.8、または1.2~1.6の範囲の、成分D)と成分E)とのモル比を有し得る。,
【0124】
エンジン油組成物は、約0.1:1.0~1.0:1.0、または0.25:1.0~0.75:1.0、または0.4:1.0~0.6:1.0のC)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物に対する第2の分散剤の重量比を有し得る。
【0125】
別の実施形態において、成分D)およびA)のヒドロカルビルジカルボン酸または無水物は、それぞれ、ポリイソブテニル置換無水コハク酸を含み得る。第2の分散剤が式(I)の化合物に由来する場合、それは、1.0~2.0、または1.1~1.8、または1.2~1.6、または1.4~1.6の範囲のD)ポリイソブテニル置換無水コハク酸とE)ポリアミンとのモル比を有し得る。
【0126】
代替の実施形態において、3つ以上の分散剤添加剤の組み合わせを使用して、所望の効果を生み出すことができる。第3の分散剤は、成分A)~C)に由来する分散剤および成分D)~E)に由来する分散剤から選択され得るか、または異なる分散剤であり得る。第3の分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸または無水物を含み得る。第3の分散剤は、F)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、G)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得る。場合によっては、第3の分散剤を、H)ホウ酸で後処理してもよい。あるいは、第3の分散剤は、F)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、G)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得、この反応生成物は、I)芳香族カルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、または、すべてのカルボン酸または無水物基が芳香環に直接結合している芳香族無水物、および/またはJ)ポリスチレンを較正標準として使用するGPCによって測定されるような、約500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されている。
【0127】
潤滑剤組成物中に含有される追加の分散剤としては、分散させる粒子と会合することができる官能基を有する油溶性ポリマー炭化水素主鎖を有する任意の分散剤が挙げられ得るが、これに限定されない。典型的には、分散剤は、多くの場合架橋基を介してポリマー主鎖に結合しているアミン、アルコール、アミド、またはエステル極性部分を含む。分散剤は、米国特許第3,697,574号号および同第3,736,357号に記載のマンニッヒ分散剤、米国特許第4,234,435号および同第4,636,322号に記載の無灰スクシンイミド分散剤、米国特許第3,219,666号、同第3,565,804号、および同第5,633,326号に記載のアミン分散剤、米国特許第5,936,041号、同第5,643,859号、および同第5,627,259号に記載のコッホ分散剤、ならびに米国特許第5,851,965号、同第5,853,434号、および同第5,792,729号に記載のポリアルキレンスクシンイミド分散剤から選択され得る。
【0128】
様々な実施形態において、追加の分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸、オレフィン無水マレイン酸コポリマーに由来してもよい。一例として、追加の分散剤は、ポリ-PIBSAとして記載され得る。別の実施形態において、追加の分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフトされる無水物から誘導され得る。別の追加の分散剤は、高分子量エステルまたは半エステルアミドであり得る。
【0129】
追加の分散剤の別のクラスは、マンニッヒ塩基であり得る。マンニッヒ塩基は、より高分子量のアルキル置換フェノール、ポリアルキレンポリアミン、およびホルムアルデヒドのようなアルデヒドの縮合によって形成される物質である。マンニッヒ塩基は、米国特許第3,634,515号により詳細に記載されている。
【0130】
第3の分散剤は、A)ヒドロカルビルジカルボン酸または無水物と、B)少なくとも1つのポリアミンとの反応生成物であり得、この反応生成物は、ポリスチレンを較正標準として使用するGPCによって測定されるような、約500未満の数平均分子量を有する非芳香族ジカルボン酸または無水物で後処理されている。
【0131】
エンジン油組成物が第3の分散剤を含む実施形態において、第2の分散剤と、成分A)~C)に由来する分散剤と第3の分散剤との重量比は、約1:5:2~1:6:2、または1:4:2~1:5:2、または1:3:2~1:4:2であり得る。
【0132】
基油
本明細書のエンジン油組成物に使用される基油は、American Petroleum Institute(API:アメリカ石油協会)の基油交換可能性指針に明記されているグループI~Vの基油のいずれかから選択することができる。5つの基油グループは以下の通りである:
【表1】
【0133】
I群、II群、およびIII群は、鉱物油プロセス原料である。IV群基油は、オレフィン性不飽和炭化水素の重合によって生成される、真の合成分子種を含有する。多くのV群基油も真の合成生成物であり、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、アルキル化芳香族、ポリリン酸エステル、ポリビニルエーテル、および/またはポリフェニルエーテルなどを含み得るが、植物油のような天然に存在する油でもあり得る。グループIII基油は鉱油に由来するが、これらの流体が受ける酷烈な加工はそれらの物理的特性をPAOなどの一部の真の合成物と非常に類似したものにすることに留意すべきである。したがって、グループIII基油由来の油は、業界では合成流体と称されることがある。
【0134】
開示されたエンジン油組成物に使用される基油は、鉱物油、動物油、植物油、合成油、またはこれらの混合物であってもよい。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製、精製および再精製油、ならびにこれらの混合物に由来し得る。
【0135】
未精製油は、精製処理を行わないか、それ以上の精製処理はほとんど行われない天然油、鉱物油、または合成源から誘導されたものである。精製油は、1つ以上の特性の改善をもたらし得る、1つ以上の精製ステップで処理されることを除き、未精製油と類似である。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸または塩基抽出、濾過、浸透などである。食用品質に精製された油は有用である場合または有用でない場合がある。食用油は、白色油と呼ばれることもある。いくつかの実施形態において、エンジン油組成物は、食用油または白色油を含まない。
【0136】
再精製油は、再生または再加工油としても知られている。これらの油は同一のまたは類似の処理を使用して得られる精製油と類似する。多くの場合、これらの油は、使用済み添加剤および油分解生成物の除去に関する技術によってさらに加工される。
【0137】
鉱油は、掘削によってまたは植物および動物またはそれらの混合物から得られた油を含んでもよい。例えば、かかる油には、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、ダイズ油、および亜麻仁油、ならびに液体石油、パラフィン系、ナフテン系、もしくはパラフィン-ナフテン混合系タイプの溶媒処理または酸処理鉱物潤滑油などの鉱物潤滑油が挙げられるが、これらに限定されない。必要があれば、かかる油は部分的または完全に水素化されてもよい。石炭または頁岩から誘導された油もまた、有用であり得る。
【0138】
有用な合成潤滑油としては、重合、オリゴマー化、もしくは内部重合オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー)などの炭化水素油;ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンのトリマーもしくはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)(そのような材料はしばしばα-オレフィンと称される)、およびこれらの混合物;アルキル-ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル、およびアルキル化ジフェニルスルフィド、ならびにこれらの誘導体、類似体、および相同体、またはこれらの混合物を挙げることができる。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化された物質である。
【0139】
他の合成潤滑油としては、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、およびデカンホスホン酸のジエチルエステル)、またはポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成されてもよく、典型的に、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素またはワックスであってもよい。一実施形態では、油は、フィッシャー・トロプシュガス対液体合成手順ならびに他のガス対液体油によって調製することができる。
【0140】
エンジン油組成物に含まれる主要量の基油は、I群、II群、III群、IV群、V群、および前述の2つ以上の組み合わせからなる群から選択されることができ、主要量の基油は、組成物中の添加剤成分または粘度指数改善剤の提供に起因する基油以外である。さらなる実施形態において、ベースの10重量%以下が、グIV群またはV群の基油であり得る。別の実施形態において、エンジン油組成物に含まれる主要量の基油は、II群、III群、IV群、V群、および前述の2つ以上の組み合わせからなる群から選択されることができ、主要量の基油は、組成物中の添加剤成分または粘度指数改善剤の提供に起因する基油以外である。
【0141】
存在する潤滑粘度の油の量は、100重量%から、粘度指数向上剤および/もしくは流動点降下剤ならびに/または他の上面処理添加剤を含む性能添加剤の量の合計を減算した後に残る残余であり得る。例えば、最終流体中に存在し得る潤滑粘度の油は、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、または約90重量%超など、主要量であり得る。
【0142】
酸化防止剤
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上の酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤化合物は既知であり、例えばフェネート、フェネート硫化物、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール類、ヒンダードフェノール類、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、またはこれらの混合物を含む。酸化防止剤化合物は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0143】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、第二級ブチル基および/または第三級ブチル基を含有してもよい。フェノール基は、ヒドロカルビル基および/または第2の芳香族基に結合する架橋基でさらに置換されていてもよい。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例には、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールまたは4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、または4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールを含む。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、例えばBASFから入手可能なIrganox(商標)L-135または2,6-ジ-tert-ブチルフェノールおよびアルキルアクリレートから誘導される付加生成物を含むことができ、アルキル基は、約1~約18個、または約2~約12個、または約2~約8個、または約2~約6個、または約4個の炭素原子を含有してもよい。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであってもよく、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(商標)4716を含み得る。
【0144】
有用な酸化防止剤は、ジアリールアミンおよび高分子量フェノールを含んでもよい。実施形態では、エンジン油組成物は、ジアリールアミンと高分子量フェノールとの混合物を含み、各々の酸化防止剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約5重量%までを提供するのに十分な量で存在し得る。実施形態では、酸化防止剤は、エンジン油組成物の最終重量を基準にして、約0.3~約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4~約2.5重量%の高分子量フェノールとの混合物であってもよい。
【0145】
硫化されて硫化オレフィンを形成することができる好適なオレフィンの例は、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセンまたはこれらの混合物、ならびにこれらの二量体、三量体、および四量体は特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンのディールス・アルダー付加物およびブチルアクリレートなどの不飽和エステルであってもよい。
【0146】
別のクラスの硫化オレフィンには、硫化脂肪酸およびそのエステルが含まれる。脂肪酸は、しばしば、植物油または動物油から得られ、典型的には約4~約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸およびこれらのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、またはこれらの混合物が挙げられる。しばしば、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、大豆油、綿実油、ヒマワリ種子油、またはこれらの混合物から得られる。脂肪酸および/またはエステルは、α-オレフィンなどのオレフィンと混合してもよい。
【0147】
1つ以上の酸化防止剤は、エンジン油組成物の約0重量%~約20重量%、または約0.1重量%~約10重量%、または約1重量%~約5重量%の範囲で存在し得る。
【0148】
耐摩耗剤
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択で、1つ以上の耐摩耗剤を含むことができる。好適な耐摩耗剤の例としては、限定されないが、チオリン酸金属、ジアルキルジチオリン酸金属塩、リン酸エステルまたはその塩、ホスホン酸エステル、ホスファイト、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、またはアミド、硫化オレフィン、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメートおよびビス(S-アルキルジチオカルバミル)2硫化物のようなチオカルバメート含有化合物、およびこれらの混合物を含む。好適な耐摩耗剤はモリブデンジチオカルバメートであり得る。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第612839号により詳細に記載されている。ジアルキルジチオホスフェート塩中の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケル、銅、チタン、または亜鉛であり得る。有用な耐摩耗剤はジアルキルチオリン酸亜鉛であり得る。
【0149】
好適な耐摩耗剤のさらなる例としては、チタン化合物、酒石酸塩、タルトリミド、リン化合物の油溶性アミン塩、硫化オレフィン、亜リン酸塩(例えば、亜リン酸ジブチル)、ホスホン酸塩、チオカルバメート含有化合物、例えば、チオカルバミン酸エステル、チオカルバミン酸アミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン結合チオカルバメート、および二硫化ビス(S-アルキルジチオカルバミル)が挙げられる。酒石酸塩またはタルトリミドは、アルキル-エステル基を含有することができ、アルキル基上の炭素原子の合計は、少なくとも8であり得る。耐摩耗剤は、一実施形態では、クエン酸塩を含んでもよい。
【0150】
耐摩耗剤は、エンジン油組成物の約0重量%~約15重量%、または約0.01重量%~約10重量%、または約0.05重量%~約5重量%、もしくは約0.1重量%~約3重量%を含む範囲で存在してよい。
【0151】
ホウ素含有化合物
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上のホウ素含有化合物を含有することができる。
【0152】
ホウ素含有化合物の例としては、米国特許第5,883,057号に開示されているように、ホウ酸エステル、ホウ酸脂肪アミン、ホウ酸エポキシド、ホウ酸化洗浄剤、およびホウ酸化スクシンイミド分散剤などのホウ酸化分散剤が挙げられる。
【0153】
ホウ素含有化合物は、存在する場合には、エンジン油組成物の最大約8重量%、約0.01重量%~約7重量%、約0.05重量%~約5重量%、または約0.1重量%~約3重量%を提供するのに十分な量で使用することができる。
【0154】
洗浄剤
エンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上の中性、低塩基性、または過塩基性の洗剤、およびこれらの混合物をさらに含んでもよい。好適な洗剤基質には、フェネート、硫黄含有フェネート、スルホン酸、カリキサラート、サリキサレート、サリチル酸、カルボン酸、リン酸、モノおよび/もしくはジチオリン酸、アルキルフェノール、硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはメチレン架橋フェノールが含まれる。好適な洗浄剤およびその調製方法は、US7732390およびその中に引用されている参考文献を含む多数の特許公報により詳細に記載されている。洗剤基質は、限定されないが、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、またはこれらの混合物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属で塩基化されてもよい。いくつかの実施形態において、洗浄剤はバリウムを含まない。好適な洗浄剤は、石油スルホン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属塩、および長鎖モノまたはジアルキルアリールスルホン酸を含み得、アリール基が、ベンジル、トリル、およびキシリルである。好適な洗浄剤の例には、カルシウムフェネート、カルシウム硫黄含有フェネート、スルホン酸カルシウム、カルシウムカリキサラート、カルシウムサリキサレート、サリチル酸カルシウム、カルボン酸カルシウム、リン酸カルシウム、カルシウムモノおよび/もしくはジチオリン酸、カルシウムアルキルフェノール、カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、カルシウムメチレン架橋フェノール、マグネシウムフェネート、マグネシウム硫黄含有フェネート、スルホン酸マグネシウム、マグネシウムカリキサラート、マグネシウムサリキサレート、サリチル酸マグネシウム、カルボン酸マグネシウム、マグネシウムリン酸、マグネシウムモノおよび/もしくはジチオリン酸、マグネシウムアルキルフェノール、マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、マグネシウムメチレン架橋フェノール、ナトリウムフェネート、ナトリウム硫黄含有フェネート、スルホン酸ナトリウム、ナトリウムカリキサラート、ナトリウムサリキサレート、サリチル酸ナトリウム、カルボン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、モノおよび/もしくはジチオリン酸ナトリウム、ナトリウムアルキルフェノール、ナトリウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、またはナトリウムメチレン架橋フェノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0155】
過塩基性清浄剤添加剤は、当該技術分野において既知であり、アルカリまたはアルカリ土類金属過塩基性清浄剤添加剤であり得る。そのような清浄剤添加剤は、金属酸化物または金属水酸化物を基質および二酸化炭素ガスと反応させることによって調製され得る。基材は、典型的には、酸、例えば、脂肪族置換スルホン酸、脂肪族置換カルボン酸、または脂肪族置換フェノールのような酸である。
【0156】
用語「過塩基性」は、存在する金属の量が化学量論的量を超える、スルホン酸塩、カルボン酸塩、およびフェネートの金属塩などの金属塩に関する。このような塩は、100%超の変換レベルを有してもよい(すなわち、これらは、酸をその「標準」「中性」の塩に変換するのに必要な理論的量の金属の100%より多くを含んでもよい)。しばしばMRと略される表現「金属比」は、既知の化学反応性および化学量論に従って、過塩基性塩中の金属の総化学当量と中性塩中の金属の化学当量との比率を示すために用いられる。標準または中性塩では金属比は1であるが、過塩基性塩ではMRは1より大きい。これらは一般に、過塩基性、高塩基性、または超塩基性の塩と称され、有機硫黄酸、カルボン酸、またはフェノールの塩であってもよい。
【0157】
エンジン油組成物の過塩基性洗剤は、約200mgKOH/g超、またはさらなる例として、約250mgKOH/g超、もしくは約350mgKOH/g超または約375mgKOH/g超、もしくは約400mgKOH/g超の全塩基価(TBN)を有してもよい。
【0158】
好適な過塩基性洗浄剤の例には、限定されないが、過塩基性カルシウムフェネート、過塩基性カルシウム硫黄含有フェネート、過塩基性スルホン酸カルシウム、過塩基性カルシウムカリキサラート、過塩基性カルシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸カルシウム、過塩基性カルボン酸カルシウム、過塩基性リン酸カルシウム、過塩基性カルシウムモノおよび/またはジチオリン酸、過塩基性カルシウムアルキルフェノール、過塩基性カルシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性カルシウムメチレン架橋フェノール、過塩基性マグネシウムフェネート、過塩基性マグネシウム硫黄含有フェネート、過塩基性スルホン酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカリキサラート、過塩基性マグネシウムサリキサレート、過塩基性サリチル酸マグネシウム、過塩基性マグネシウムカルボン酸、過塩基性マグネシウムリン酸、過塩基性マグネシウムモノおよび/またはジチオリン酸、過塩基性マグネシウムアルキルフェノール、過塩基性マグネシウム硫黄結合アルキルフェノール化合物、過塩基性マグネシウムメチレン架橋フェノールが挙げられる。
【0159】
過塩基性洗浄剤は、1.1:1から、または2:1から、または4:1から、または5:1から、または7:1から、または10:1からの金属対基材比を有してもよい。
【0160】
いくつかの実施形態では、洗浄剤はエンジン内の錆を低減または防止するのに有効である。
【0161】
洗浄剤は、約0重量%~約10重量%、または約0.1重量%~約8重量%、または約1重量%~約4重量%、または約4重量%超~約8重量%で存在してもよい。
【0162】
摩擦調整剤
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択で、1つ以上の摩擦調整剤を含むことができる。好適な摩擦調整剤は、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアニジン、アルカノールアミド、ホスホネート、金属含有化合物、グリセロールエステル、硫化脂肪化合物およびオレフィン、ヒマワリ油、他の天然に生成する植物油または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールと1つ以上の脂肪族または芳香族カルボン酸とのエステルまたは部分エステルなどを含み得るがこれらに限定されない、金属を含むおよび金属を含まない摩擦調整剤を含む。
【0163】
好適な摩擦調整剤は、直鎖状、分岐鎖状、もしくは芳香族ヒドロカルビル基、またはそれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含んでもよく、かつ飽和であっても不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素および水素または硫黄もしくは酸素のようなヘテロ原子で構成されてもよい。ヒドロカルビル基は約12~約25個の炭素原子の範囲であってもよい。いくつかの実施形態では、摩擦調整剤は長鎖脂肪酸エステルであってもよい。別の実施形態において、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステルであっても、ジエステルであっても、(トリ)グリセリドであってもよい。摩擦調整剤は、長鎖脂肪アミド、長鎖脂肪エステル、長鎖脂肪エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであり得る。
【0164】
他の好適な摩擦調整剤は、有機、無灰(金属不含)、窒素非含有有機摩擦調整剤を含んでもよい。かかる摩擦調整剤は、カルボン酸および無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含み得、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。有機無灰窒素非含有摩擦調整剤の例は、一般に、オレイン酸のモノ-、ジ-およびトリ-エステルを含み得るモノオレイン酸グリセロール(GMO)として知られている。他の好適な摩擦調整剤は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0165】
アミン系摩擦調整剤はアミンまたはポリアミンを含んでもよい。かかる化合物は、直鎖、飽和もしくは不飽和のいずれか、またはそれらの混合物であるヒドロカルビル基を有することができ、約12~約25個の炭素原子を含有してもよい。好適な摩擦調整剤のさらなる例には、アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化エーテルアミンが含まれる。そのような化合物は、飽和、不飽和、またはこれらの混合物のいずれかの直鎖であるヒドロカルビル基を有することができる。これらは、約12~約25個の炭素原子を含有してもよい。例としては、エトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。
【0166】
アミンおよびアミドは、それ自体として、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはホウ酸モノ-、ジ-またはトリ-アルキルなどのホウ素化合物との付加物もしくは反応生成物の形態で使用することができる。他の好適な摩擦調整剤は、全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,300,291号に記載されている。
【0167】
摩擦調整剤は、約0重量%~約10重量%、または約0.01重量%~約8重量%、または約0.1重量%~約4重量%などの範囲で任意選択で存在してもよい。
【0168】
モリブデン含有成分
本明細書のエンジン油組成物は、任意選択で、1つ以上のモリブデン含有化合物を含有してもよい。油溶性モリブデン化合物は、耐摩耗剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、またはこれらの混合物の機能的性能を有していてもよい。油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、ジチオホスフィン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、キサントゲン酸モリブデン、チオキサントンモリブデン、モリブデン硫化物、カルボン酸モリブデン、モリブデンアルコキシド、三核有機モリブデン化合物、および/またはこれらの混合物を含んでもよい。モリブデン硫化物は二硫化モリブデンを含む。二硫化モリブデンは安定な分散液の形態であり得る。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、ジアルキルジチオリン酸モリブデン、モリブデン化合物のアミン塩、およびこれらの混合物からなる群から選択され得る。一実施形態では、油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートであってもよい。
【0169】
使用することができるモリブデン化合物の好適な例には、R.T.Vanderbilt Co.,Ltd.のMolyvan822(商標)、Molyvan(商標)A、Molyvan2000(商標)およびMolyvan855(商標)、ならびにAdeka Corporationから入手可能なSakura-Lube(商標)S-165、S-200、S-300、S-310G、S-525、S-600、S-700、およびS-710などの商品名で販売されている市販の材料、およびそれらの混合物が挙げられる。好適なモリブデン成分は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、US5,650,381、US RE37,363E1、US RE38,929E1およびUS RE40,595E1に記載されている。
【0170】
追加的に、モリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。含まれるものは、水素ナトリウムモリブデン酸塩、MoOCl4、MoO2Br2、Mo2O3Cl6、三酸化モリブデンまたは類似する酸性モリブデン化合物である、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、および他のアルカリ金属モリブデン酸塩および他のモリブデン塩である。代替的に、その組成物は、例えば、米国特許第4,263,152号、同第4,285,822号、同第4,283,295号、同第4,272,387号、同第4,265,773号、同第4,261,843号、同第4,259,195号、および同第4,259,194号、ならびにWO94/06897に記載されている塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体によるモリブデンを用いて、提供することができ、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0171】
別のクラスの好適な有機モリブデン化合物は、式Mo3SkLnQzの化合物などの三核モリブデン化合物およびそれらの混合物であり、式中、Sは硫黄を表し、Lは有機基が化合物を油中に可溶性または分散性にするのに十分な炭素原子を有する独立して選択された配位子を表し、nは1~4であり、kは4~7であり、Qは水、アミン、アルコール、ホスフィンおよびエーテルなどの中性電子供与性化合物の群から選択され、zは0~5の範囲にあり、非化学量論値を含む。すべての配位子の有機基の中に、少なくとも25個、少なくとも30個、または少なくとも35個の炭素原子など、少なくとも21個の総炭素原子が存在してもよい。追加の好適なモリブデン化合物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,723,685号に記載されている。
【0172】
油溶性モリブデン化合物は、約0.5ppm~約2000ppm、約1ppm~約700ppm、約1ppm~約550ppm、約5ppm~約300ppm、または約20ppm~約250ppmのモリブデンを提供するのに十分な量のモリブデンを含む。
【0173】
遷移金属含有化合物
別の実施形態において、油溶性化合物は、遷移金属含有化合物または半金属であってもよい。遷移金属はチタン、バナジウム、銅、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、タンタル、タングステンなどを含み得るがこれらに限定されない。好適な半金属は、ホウ素、ケイ素、アンチモン、テルルなどを含むがこれらに限定されない。
【0174】
実施形態では、油溶性遷移金属含有化合物は、耐摩耗剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、付着制御添加剤、またはこれらの機能の2つ以上として機能することができる。実施形態では、油溶性遷移金属含有化合物は、チタン(IV)アルコキシドなどの油溶性チタン化合物であってもよい。油溶性物質に使用することができる、または油溶性物質の調製に使用することができるチタン含有化合物の中で、開示された技術は、酸化チタン(IV)、硫化チタン(IV)、硝酸チタン(IV)などの様々なTi(IV)化合物、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、チタン2-エチルヘキソキシドなどのチタン(IV)アルコキシド、およびこれらに限定されないが、チタンフェネートを含む他のチタン化合物または錯体、チタン(IV)2-エチル-1-3-ヘキサンジオエートまたはクエン酸チタンまたはオレイン酸チタンのようなチタンカルボン酸塩、およびチタン(IV)(トリエタノールアミナート)イソプロポキシド、である。開示された技術に包含される他の形態のチタンは、ジチオリン酸チタン(例えば、ジアルキルジチオチオリン酸)およびスルホン酸チタン(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸)などのリン酸チタン、または一般に、油溶性塩のような塩を形成するチタン化合物と様々な酸物質との反応生成物を含む。したがって、チタン化合物はとりわけ、有機酸、アルコール、およびグリコールから誘導することができる。Ti化合物はまた、Ti-O-Ti構造を含む二量体またはオリゴマー形態でも存在し得る。このようなチタン材料は市販されているか、または当業者にとって既知の適切な合成技術によって容易に調製することができる。これらは特定の化合物に応じて固体または液体として室温で存在し得る。これらはまた、適切な不活性溶媒中の溶液形態で提供されてもよい。
【0175】
一実施形態では、チタンは、スクシンイミド分散剤などのTi変性分散剤として供給することができる。このような材料は、チタンアルコキシドとアルケニル-(またはアルキル)無水コハク酸などのヒドロカルビル置換無水コハク酸との間にチタン混合無水物を形成することによって調製し得る。得られたチタン酸コハク酸塩中間体は直接使用することが可能である、または(a)遊離の縮合可能な--NH官能基を有するポリアミン系スクシンイミド/アミド分散剤、(b)ポリアミン系スクシンイミド/アミド分散剤、すなわちアルケニル-(またはアルキル-)無水コハク酸およびポリアミンの成分、(c)置換無水コハク酸とポリオール、アミノアルコール、ポリアミンとの反応により調製されるヒドロキシ含有ポリエステル分散剤、またはこれらの混合物などの多種の物質のいずれかと反応させることが可能である。代替的に、チタン酸コハク酸塩中間体をアルコール、アミノアルコール、エーテルアルコール、ポリエーテルアルコールまたはポリオール、または脂肪酸などの他の薬剤と反応させてもよく、その生成物は潤滑剤にTiを付与するために直接用いられてもよく、または上記のようにコハク酸分散剤とさらに反応させてもよい。一例として、チタン変性分散剤または中間体を提供するために、テトライソプロピルチタネート1部(モル)をポリイソブテン置換無水コハク酸約2部(モル)と140~150℃で5~6時間反応させてもよい。得られた材料(30g)を、150℃で1.5時間、ポリイソブテン置換無水コハク酸およびポリエチレンポリアミン混合物(127グラム+希釈油)からのスクシンイミド分散剤とさらに反応させて、チタン変性スクシンイミド分散剤を生成させてもよい。
【0176】
他のチタン含有化合物はチタンアルコキシドとC
6-C
25カルボン酸の反応生成物であり得る。反応生成物は以下の式:
【化4】
(式中、nは、2、3、および4から選択される整数であり、Rは、約5~約24個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基である)、または式:
【化5】
式中、m+n=4であり、nは、1~3の範囲であり、R
4は、1~8の範囲の炭素原子を有するアルキル部分であり、R
1は、約6~25個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から選択され、R
2およびR
3は、同一または異なり、1~6個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から選択される、またはチタン化合物は、次式により表され得る:
【化6】
(式中、xは0~3の範囲であり、R
1は、約6~25個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から選択され、R
2、およびR
3は、同一または異なり、約1~6個の炭素原子を含有するヒドロカルビル基から選択され、R
4は、H、C
6~C
25のカルボン酸部分のいずれかからなる群から選択される)によって表され得る。
【0177】
好適なカルボン酸には、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、ネオデカン酸などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0178】
実施形態では、油溶性チタン化合物は、重量で約0ppm~約3000ppmのチタン、または重量で約25ppm~約1500ppmのチタン、または重量で約35ppm~約500ppmのチタン、または約50ppm~約300ppmを提供するための量でエンジン油組成物中に存在してもよい。
【0179】
粘度指数向上剤
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択的に、1つ以上の粘度指数向上剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤としては、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、またはそれらの混合物を挙げることができる。粘度指数向上剤は星型ポリマーを含んでもよく、好適な例は、米国公開第2012/0101017(A1)号に記載されている。
【0180】
本明細書のエンジン油組成物はまた、任意選択的に、粘度指数向上剤に加えて、または粘度指数向上剤の代わりに、1つ以上の分散剤粘度指数改善剤を含有してもよい。好適な粘度指数向上剤は、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されているエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されているポリメタクリレート、またはアミンと反応したエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーを含んでもよい。
【0181】
粘度指数向上剤および/または分散剤粘度指数向上剤の総量は、エンジン油組成物の約0重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%~約10重量%であってもよい。
【0182】
他の任意選択の添加剤
他の添加剤は、エンジン油に要求される1つ以上の機能を実行するように選択されてもよい。さらに、1つ以上の上記添加剤は多官能性であってもよく、本明細書で記述される機能にさらなる機能を提供してもよく、またはそれ以外の機能を提供してもよい。
【0183】
本開示によるエンジン油組成物は、任意に、他の性能添加剤を含んでもよい。他の性能添加剤は、本開示に明記される添加剤に対する追加であっても、かつ/または金属不活性剤、粘度指数改善剤、洗浄剤、無灰TBNブースター、摩擦調整剤、耐摩耗剤、腐食防止剤、防錆剤、分散剤、分散剤粘度指数改善剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、およびそれらの混合物のうちの1つ以上を含んでもよい。典型的に、完全に配合されたエンジン油は、これらの性能添加剤の1つ以上を含有する。
【0184】
好適な金属不活性化剤は、ベンゾトリアゾール誘導体(典型的にトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール、ベンズイミダゾール、2-アルキルジチオベンズイミダゾール、または2-アルキルジチオベンゾチアゾール、エチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートならびに任意選択で酢酸ビニルのコポリマーを含む泡抑制剤、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、および(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む解乳化剤、無水マレイン酸-スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、またはポリアクリルアミドを含む流動点降下剤を含む。
【0185】
好適な泡抑制剤は、シロキサンなどのシリコン系化合物を含む。
【0186】
好適な流動点降下剤は、ポリメチルメタクリレートまたはそれらの混合物を含み得る。流動点降下剤は、本エンジン油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、または約0.02重量%~約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0187】
好適な防錆剤は、フェラスメタル表面の腐食を抑制する特性を有する単一化合物、または化合物の混合物であってもよい。本明細書で有用な防錆剤の非限定的な例には、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、ならびにトール油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸から生成された二量体および三量体酸を含む油溶性ポリカルボン酸が挙げられる。他の好適な腐食防止剤には、約600~約3000の分子量範囲の長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸、およびテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸などの、アルケニル基が約10個以上の炭素原子を含むアルケニルコハク酸が挙げられる。他の有用なタイプの酸性腐食防止剤は、アルケニル基中に約8~約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸と、ポリグリコールなどのアルコールとの半エステルである。かかるアルケニルコハク酸の対応する半アミドも有用である。有用な防錆剤は高分子量の有機酸である。いくつかの実施形態では、エンジン油は、防錆剤を含まない。
【0188】
存在する場合、防錆剤は、本エンジン油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%を提供するのに十分な量で使用され得る。
【0189】
一般的な用語では、好適な潤滑剤組成物は、以下の表1に列挙する範囲の添加剤成分を含み得る。
【表2】
【0190】
上記の各々の成分のパーセンテージは、最終エンジン油組成物の重量を基準にして、各々の成分の重量パーセントを表す。エンジン油組成物の残りは、1つ以上の基油からなる。
【0191】
本明細書に記載の組成物の配合に使用される添加剤は、基油に個々にまたは様々なサブコンビネーションで混合され得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒のような希釈剤)を使用して、成分のすべてを同時に混合することが好適であり得る。
【0192】
別の態様では、本開示は、本明細書に記載のエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンを潤滑するための方法に関する。
【0193】
本開示はまた、前述の実施形態のそれぞれに記載されるような分散剤をエンジン油組成物に添加する工程を含む、エンジン油組成物の煤またはスラッジ処理能力を維持するための方法に関する。
【0194】
本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの境界層摩擦を改善するための方法に関する。境界層摩擦の改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【0195】
本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの薄膜摩擦を改善するための方法に関する。薄膜摩擦の改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【0196】
本開示は、前述の実施形態のそれぞれに記載されるようなエンジン油組成物でエンジンを潤滑する工程を含む、エンジンの境界層摩擦および薄膜摩擦を改善するための方法に関する。境界層摩擦および薄膜摩擦の組み合わせにおける改善は、C)で後処理されたA)とB)との分散剤反応生成物の非存在下での同じ組成物と比較して決定され得る。
【実施例】
【0197】
以下の実施例は、本開示の方法および組成物を例示するものであって、限定するものではない。本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、当該分野において通常用いられる様々な条件およびパラメータの他の好適な修正および調整は、当業者にとって既知である。本明細書で引用したすべての特許および刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に完全に組み込まれる。
【0198】
煤の分散に有効な濃度を示す実施例
本開示による潤滑剤配合物を評価するために、様々な分散剤を、それらが煤を分散させる能力について試験した。分散剤を含有しない流体を使用して燃焼ディーゼルエンジンから4.3重量%の煤を有する煤入り油を発生させた。次に、プレート上にコーンを備えたレオメーターで剪断速度掃引によって油を試験し、ニュートン/非ニュートン挙動を決定した。
【0199】
未処理の煤入り油の結果を
図1に示す。未処理の煤入り油(分散剤を含まない曲線A)は、剪断速度の関数として粘度の非線形曲線を示し、それが非ニュートン流体であり、煤が油中に凝集していることを示している。より低い剪断で観察されたより高い粘度は、煤の凝集を示している。未処理の煤入り油の曲線の勾配は、約0.00038であった。
【0200】
以下の実施例で使用される潤滑剤組成物は、上で調製されたのと同じ煤入り油の試料を使用して調製された。それぞれの実施例において、単一の分散剤が、様々な濃度で煤入り油に添加された。各潤滑剤組成物で使用された分散剤の量の変動を考慮し、煤入り油の量を変えて組成物の残部を提供した。
【0201】
各潤滑剤組成物にプレート上のコーンを備えたレオメーターで剪断速度掃引を行い、ニュートン挙動を決定し、ニュートン挙動が観察された分散剤の有効濃度を測定した。すべての試験は、100℃の同じ一定温度で実行された。各潤滑剤組成物について、いくつかの濃度の分散剤を試験した。各曲線の勾配を計算した。分散剤の有効濃度は、潤滑剤組成物がニュートン挙動を示したときの潤滑剤中の分散剤の濃度とみなした。したがって、有効濃度は、経時的な剪断速度による粘度の変化を示さない潤滑剤組成物を提供した分散剤の濃度であった。これは、粘度対剪断速度の曲線の勾配がゼロになる分散剤の濃度を見つけることによって決定した。
【0202】
試験は、それぞれ基油と2つの分散剤、以下の表に記載の分散剤、およびポリエチレンアミンと反応したポリイソブテニル置換無水コハク酸である一定量の第2の分散剤を含有する潤滑剤組成物で実施された。以下の表は、潤滑剤組成物中の煤の有効濃度について試験された各分散剤の組み合わせの特徴を示している。
図2および
図3は、表2に示される分散剤の組み合わせを含む潤滑剤組成物の煤有効濃度を示すグラフである。
【表3】
【0203】
比較分散剤1と比較して、分散剤A~Cおよび分散剤H~Lによって提供されるより低い煤有効濃度は、これらの分散剤が改善された煤分散性を提供したことを示している。分散剤D~Gは、許容できる煤の分散性を提供した。
【0204】
Mack T-11試験を使用する実施例
一連の完全に配合されたエンジン油組成物は、Mack T-11 ASTM D7156-17 EGRエンジン油試験に供された。
【0205】
以下の実施例には、分散剤の組み合わせで示された変動を除いて、それぞれ同じDIパッケージを含有していた。以下の実施例の完全に配合されたエンジン油は、それぞれ、表3に記載の分散剤と、一定量の第2および第3の分散剤を含有していた。
【表4】
【0206】
Mack T-11試験の結果は、
図2に見出すことができる。
図2に見られるように、本発明の分散剤の組み合わせを含む実施例1~3は、Mack T-11試験に合格し、比較例Aは、Mack T-11試験に不合格であった。実施例2および3において、この結果は、比較実施例Aで使用されたものよりもそれぞれ18%および36%少ない分散剤を使用して得られた。
境界層摩擦について試験する実施例
以下の実施例では、境界層摩擦レジームの摩擦係数について、完全に配合された様々なエンジン油を試験した。実施例のそれぞれは、示された分散剤の2重量%を含み、残部は基油であった。
【0207】
高周波往復リグ
エンジン油の潤滑油は、高周波往復リグ(HFRR)試験に供された。PCS InstrumentsのHFRRを使用して、境界潤滑領域の摩擦係数を測定した。設定したストローク周波数において、前後に固定荷重下で、温度制御槽において、SAE52100金属ボールとSAE52100金属ディスクとの間の接触部を浸漬することによって、試験試料を測定した。境界層摩擦を低減させる潤滑剤の能力は、測定された境界潤滑領域の摩擦係数によって反映される。値が小さいほど、摩擦が低いことを示している。
【0208】
表4の分散剤は、テトラエチレンペンタミンから調製した。表5の分散剤は、トリエチレンテトラミンから調製した。表6の分散剤は、1分子当たり平均6.5個の窒素原子を有するアミン混合物を用いて調製した。比較例Gで使用した分散剤は、成分A)~C)に基づいており、さらに無水マレイン酸で後処理した。
【表5】
【表6】
【表7】
【0209】
本発明の実施例では、比較例と比較して摩擦係数が改善された。
【0210】
本開示の他の実施形態は、本明細書の考慮および本明細書に開示される実施形態の実施から当業者に明らかとなるであろう。明細書および特許請求の範囲を通して使用されているように、「a」および/または「an」は1つまたは2つ以上を指し得る。他に指示がなければ、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量、パーセント、比、反応条件などの特性を表すすべての数字は、用語「約」が存在するか否かにかかわらず、すべての場合において用語「約」によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載される数値パラメータは本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数および通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。広範囲の開示を記載する数値範囲およびパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いかなる数値も、それらのそれぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる、所定の誤差を本質的に含有する。本明細書および実施例が、例示的なものにすぎず、本開示の真の範囲および趣旨は以下の特許請求の範囲によって示されるものとみなされることが意図される。
【0211】
前述の実施形態は、実際にかなりの変動を受けやすい。したがって、実施形態は上記の特定の例示に限定されるものではない。むしろ、上述の実施形態は、法的に利用可能なそれらの等価物を含む、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内にある。
【0212】
特許権所有者は、いずれかの開示される実施形態を、一般に開放することを意図せず、いずれかの開示される修正または変形が文字通り特許請求の範囲に該当し得ない程度まで、それらは均等論下でこれらの一部であるとみなされる。