(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】1,2-ジクロロエタンから塩化ビニルを製造するための方法およびプラント
(51)【国際特許分類】
C07C 17/25 20060101AFI20230831BHJP
C07C 21/06 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/06
(21)【出願番号】P 2021564845
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020061201
(87)【国際公開番号】W WO2020221638
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102019206155.9
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】504043934
【氏名又は名称】ティッセンクルップ インダストリアル ソリューションズ アクチェンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】521476355
【氏名又は名称】ヴィンノリット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンジットゲセルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンジ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】カマーホーファー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クレイチ,クラウス
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-7407(JP,B1)
【文献】西独国特許出願公開第1468827(DE,A1)
【文献】特開昭52-111524(JP,A)
【文献】特開2016-142272(JP,A)
【文献】Steven Koning,Molten Salt Systems other Applications link to Solar Power Plants,NREL Trough Meeting 2007,2007年,<URL:http://www.nrel.gov/csp/troughnet/pdfs/2007/koning_molten_salt_applications.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/25
C07C 21/06
B01J 8/00-8/46
B01J 10/00-12/02
B01J 14/00-19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造する方法で、当該接触熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給される方法において、前記熱伝達媒体(4)が、少なくとも一時的に、および/または少なくとも部分的にまたは完全に電気的に加熱され
、前記液状の熱伝達媒体を加熱するために、少なくとも一種の燃料の燃焼により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)と、さらに、電気的に作動される少なくとも一つの第二加熱装置(7)が使用されることを特徴とする、塩化ビニルの製造方法。
【請求項2】
反応に必要な前記の熱が、少なくとも一時的に、前記熱伝達媒体を電気的に加熱することによってのみもたらされることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1,2-ジクロロエタンが、前記熱伝達媒体(4)によって予熱および/または蒸発および/または過熱されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記熱伝達媒体が、少なくとも一種の燃料を燃焼させることにより少なくとも一時的に、および/または部分的に、および、電気加熱によって部分的に、加熱されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱伝達媒体(4)が循環路内を流れており、少なくとも一つの前記第一加熱装置(6)と、電気的に作動される少なくとも一つの前記第二加熱装置(7)が、前記循環路内に組み込まれていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの前記第一加熱装置(6)と、電気的に作動される少なくとも一つの前記第二加熱装置(7)が、循環路内に直列または並列で接続されていることを特徴とする、請求項
1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱伝達媒体(4)が、反応器(1)が組み込まれた循環路内を流れ、当該反応器内にて1,2-ジクロロエタンの接触熱分解が行われ、前記反応器(1)の反応媒体と前記熱伝達媒体との間で熱交換が起こることを特徴とする、請求項
1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱伝達媒体(4)が、予熱および/または蒸発および/または過熱のための装置(8)と、さらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解が行われる前記反応器(1)が組み込まれた循環路内を流れ、前記反応媒体と前記熱伝達媒体との間で熱交換が起こることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱伝達媒体(4)が、前記反応器(1)を通る前記反応媒体の流動とは逆の流れで前記循環路内を流れることを特徴とする、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
電気的に作動される前記第二加熱装置(7)が、再生可能資源から得られた電気エネルギーによって少なくとも一時的に作動されることを特徴とする、請求項
1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
電気的に作動される前記第二加熱装置(7)が、
待機モードで作動されることを特徴とする、請求項
1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記1,2-ジクロロエタンの熱分解が、200℃~400℃の温度範囲にて行われることを特徴とする、請求項
1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造するためのプラントで、前記熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、前記熱分解が起こる少なくとも一つの反応器(1)と、当該反応器内の反応媒体への熱の供給が液状または凝縮熱伝達媒体(4)によって起こる少なくとも一つの第一加熱装置(6)を含むものにおいて、前記プラントがさらに、前記反応媒体を加熱するための少なくとも一つの第二の電気加熱装置(7)を含むことを特徴とする、塩化ビニルの製造用プラント。
【請求項14】
前記反応器が、前記熱伝達媒体(4)の循環路内に組み込まれており、さらに少なくとも前記第二の電気加熱装置(7)が、前記循環路内に組み込まれていることを特徴とする、
請求項13に記載のプラント。
【請求項15】
前記熱伝達媒体(4)の前記循環路内に、燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)と、少なくとも一つの第二の電気加熱装置(7)、および、出発原料である1,2-ジクロロエタンの加熱および/または蒸発および/または過熱のための少なくとも一つの装置(8)が組み込まれていることを特徴とする、請求項
13に記載のプラント。
【請求項16】
前記熱伝達媒体(4)の前記循環路が、配管システム内に組み込まれたポンプ(5)と、燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)と、少なくとも一つの第二の電気加熱装置(7)と、前記反応器(1)を含み、前記反応器(1)を通って流れる反応媒体に前記熱伝達媒体(4)からの熱を伝達するための手段が設けられていることを特徴とする、請求項
13~15のいずれか1項に記載のプラント。
【請求項17】
燃料により作動される前記第一加熱装置(6)と、前記の第二の電気加熱装置(7)が、前記熱伝達媒体(4)の循環路内に直列または並列で配置されていることを特徴とする、請求項
15または16のいずれか1項に記載のプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解(catalytic thermal cleavage)によって塩化ビニルを製造するための方法に関するものであり、当該方法においては、熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給される。本発明の対象はさらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造するためのプラントであって、当該プラントにおいては、1,2-ジクロロエタンを先行して予熱、蒸発および任意に過熱するのに必要な熱だけでなく、熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、熱分解が起こる少なくとも一つの反応器と、少なくとも一つの第一加熱装置とを含み、それにより、反応器内の反応媒体への熱伝達が、液状または凝縮熱伝達媒体によって起こる。
【0002】
特にポリ塩化ビニルを製造するために必要とされる塩化ビニルを製造するための1,2-ジクロロエタンの熱分解は、以下に示す反応式(1)に従う:
C2H4Cl2 → C2H3Cl+ HCl
【0003】
これは吸熱反応であり、上記の熱分解は1~3MPaの高圧下、450~600℃の温度で気相中にて触媒なしで、あるいは、熱分解がより低い温度で起こることを可能にする触媒法のいずれかで実施することができる。触媒法においてもまた、この反応は主に、気相中で実施される。
【従来の技術】
【0004】
例えば、1,2-ジクロロエタンの熱分解によって塩化ビニルを製造する方法は、EP 264 065 A1に記載されており、この方法では、1,2-ジクロロエタンが第一の容器内で加熱され、次いで、第二の容器に移され、そこでは第一の容器内よりも低い圧力下でさらに加熱することなく、塩化ビニルと塩化水素への分解が起こる分解炉内に、気体の1,2-ジクロロエタンが供給される。1,2-ジクロロエタンの温度は第二の容器を出るとき、220℃~280℃である。この分解炉では、1,2-ジクロロエタンが熱分解されるパイプが、化石燃料により加熱される。ガス状の1,2-ジクロロエタンは、分解炉の放熱ゾーンにて525℃または533℃に加熱される。
【0005】
また、EP 264 065 A1には、液体である新鮮な1,2-ジクロロエタンを予熱するために、温度制御媒体が使用できることが述べられており、この温度制御媒体は、分解炉を加熱するバーナーによって生成された煙道ガスと共に、分解炉の対流ゾーンにて順次加熱される。鉱油、シリコーン油または溶融ジフェニルなどの加熱された高沸点液体が、温度制御媒体として適している。しかしながら、このようにして150~220℃の温度までの予備加熱だけが起こり、一方では、上記の熱分解は530℃付近の温度で起こる。それゆえ、このような公知の方法においては、300~400℃の範囲の温度で実施される上記の熱分解や、液状の熱伝達媒体の助けを借りて実施される必要なすべての熱供給についての規定は全く存在していない。
【0006】
通常、塩化ビニルを製造するためのプラント複合体は、
‐エテンと塩素から1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラント(「直接塩素化」)、
‐エテン、塩化水素および酸素から1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラント(「オキシ塩素化」)、
‐蒸留による1,2-ジクロロエタンの精製のためのプラント、
‐蒸留によって精製された1,2-ジクロロエタンの、塩化ビニルおよび塩化水素への熱分解のためのプラント、および
‐塩化水素および未反応の1,2-ジクロロエタンの蒸留分離および塩化ビニルの精製のためのプラント
からなる。
【0007】
1,2-ジクロロエタンの熱分解によって得られた塩化水素は、オキシ塩素化プラントに戻すことができ、そこでエテンおよび酸素と再び反応させて1,2-クロロエタンを生成することができる。
【0008】
塩化ビニルおよび塩化水素への1,2-ジクロロエタンの分解についてのDE 102 52 891 A1に記載された方法では、吸熱分解の間に運転温度を低下させることを可能にする触媒が使用される。しかしながら、この方法においても、管状反応器は、油またはガスのような一次エネルギー源で熱せられ、この際、炉は放熱ゾーンと対流ゾーンに分けられる。放熱ゾーンでは、熱分解に必要な熱が、バーナーによって加熱される炉壁からの放熱によって主に反応管に伝達される。対流ゾーンでは、放熱ゾーンから出てくる高温煙道ガスのエネルギー含有量が対流熱伝達によって使用され、それによって、熱分解反応の出発材料としての1,2-ジクロロエタンが予熱され、蒸発され、または過熱され得る。
【0009】
1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラントにおけるエネルギーおよび/または熱回収を節約するための種々の方法が、先行技術から公知である。このような対策は運転コストの大幅な削減をもたらし、これによって、プラントの収益性およびプラントのCO2排出量の削減に大幅に寄与する。これらは、例えば、プロセス中のヒートシンク(heat sink)を加熱するために、発熱反応工程からの反応熱を使用する方法である。WO 2014/108159 A1には、塩化ビニルを製造するためのプラントにおける熱回収のための様々な公知の方法が列挙されており、対応する参考文献が挙げられている。
【0010】
EP 0 002 021 A1には、1,2-ジクロロエタンの塩化ビニルへの触媒脱ハロゲン化水素のための方法が記載されており、この方法では、ルイス酸で処理されたゼオライト触媒が使用される。このような触媒を使用する場合、200℃~400℃の範囲の高圧および高温で反応を実施することができ、これにより、1,2-ジクロロエタンの従来の熱分解よりもかなり低い温度で実施できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、運転コストの低減、CO2放出の大幅な削減、制御電力の供給が達成される、1,2-ジクロロエタンの熱分解による塩化ビニルの改良された製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題についての解決は、請求項1の特徴を有する、上記タイプの1,2-ジクロロエタンの接触熱分解による塩化ビニルの製造方法によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】1,2-ジクロロエタンから塩化ビニルを製造するための本発明のプラントの簡略構成図である。
【
図2】1,2-ジクロロエタンから塩化ビニルを製造するための本発明のプラントの簡略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
純粋に熱的(熱分解炉で触媒化されていない)または熱触媒的EDC分解(触媒を使用する場合には熱の供給を伴う)のための方法は、通常、以下のサブステップ(sub-step)からなる:
‐液体1,2-ジクロロエタンを所定の圧力で蒸発温度まで予熱
‐予熱した1,2-ジクロロエタンの蒸発
‐必要であれば、蒸気状の1,2-ジクロロエタンを反応温度の範囲まで過熱(反応温度の範囲で、先の蒸発が起こらなかった場合)
‐熱の供給を伴う(純粋に熱的または触媒を用いた熱的)分解反応。
【0015】
本発明の対象は、液状または凝縮熱伝達媒体による接触‐熱分解反応の加熱に加えて、このような熱伝達媒体によって加熱される1,2-ジクロロエタンの上流予熱、蒸発または過熱を可能にする方法でもある。これらのステップの全てが、熱伝達媒体によって加熱される必要はない。本発明による方法は、上述のサブステップの少なくとも一つから任意の組合せまでの加熱を含み、個々のサブステップは、順次(装置に関して)個々のステップに細分されることが可能である。
【0016】
本発明による方法の文脈における「加熱」とは、熱伝達媒体による出発物質である1,2-ジクロロエタンおよび/または反応混合物への熱の伝達を意味する。出発物質である1,2-ジクロロエタンは、加熱、蒸発、または過熱することができる。反応器中の反応混合物は、一定の温度レベルで熱が供給できる(等温反応手順)。また、反応混合物はさらに加熱することもでき、この際、加熱によって供給される熱は、部分的に反応のために必要な熱をカバーし、部分的に反応混合物をさらに加熱するために使用される。最後に、反応混合物への熱供給は、加熱によって調節することができ、その結果、反応混合物の顕熱(sensible heat)含量が、反応熱要求をカバーするために少なくとも部分的に使用され、反応混合物は、反応器入口温度と比較して反応器内で冷却される。加熱および出発材料である1,2-ジクロロエタンへの熱の伝達は、熱伝達媒体を冷却、またはその顕熱含量を減少させながら液状熱伝達媒体によって、および/または、加熱装置によって予め蒸発させた凝縮熱伝達媒体によって行われる。
【0017】
熱伝達媒体を冷却しながら、または、顕熱量を低減しながら液状熱伝達媒体によって加熱を行うことが特に好ましい。しかしながら、本発明による方法はまた、出発物質である1,2-ジクロロエタンへの熱伝達、および/または熱伝達媒体の潜熱含有量を利用して、加熱装置によって予め蒸発させた熱伝達媒体の凝縮による熱伝達を含む。
【0018】
本発明による方法の文脈における熱伝達媒体のための加熱装置は、一方では加熱油または好ましくは天然ガスなどの化石燃料によって加熱することができる装置(ヒータおよび/または蒸発器、またはヒータと蒸発器機能が組み合わされた装置)である。他方では、これらは、電気伝熱装置(ヒータおよび/または蒸発器、またはヒータと蒸発器機能とが組み合わされた装置)である。このような装置は、当業者に知られている。
【0019】
上記の加熱装置は順番に、幾つかのサブユニットから構成されてもよく、例えば、熱油を加熱するために並列に接続された幾つかのオーブン又は、並列に接続された幾つかの電気ヒータであってもよい。
【0020】
加熱装置の熱出力の調整は、1つ以上のサブユニットの熱出力を変化させることによって、あるいは、1つ以上のサブユニットをオンおよびオフにすることによって、またはこれらの手段の任意の組合せによって達成され得る。
【0021】
1,2-ジクロロエタンまたは反応混合物のための加熱装置は、当業者に公知の任意のタイプの熱交換器、例えば、管束(tube bundle)熱交換器、プレート熱交換器、二重管熱交換器、スパイラル熱交換器、自然循環蒸発器または強制循環蒸発器であってもよく、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明による方法の意味における熱伝達媒体は、例えば、鉱油および合成熱油、シリコーン油ならびに溶融塩であってもよい。
【0023】
本発明によれば、液体(又は凝縮、上記参照)熱伝達媒体は、少なくとも一時的におよび/または少なくとも部分的に又は完全に電気的に加熱される。これにより、熱分解に必要な熱を安価な電気エネルギーから少なくとも一時的に利用可能になる可能性が生じる。例えば、夜などに、好ましくは再生可能資源から安価な過剰電気エネルギーが利用可能である期間の間、または強い風もしくは太陽放射の期間の間に、反応に必要な熱は、電気エネルギーによって迅速に提供され得る。これは、プラントの運転コストを低減し、気候保護に役立つCO2排出量を低減するという利点を有する。同様に、このようにして、バランス電力又は負荷がエネルギー供給者に利用可能となる。
【0024】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、反応に必要な熱は、熱伝達媒体を電気的に加熱することによって少なくとも一時的に独占的に提供される。本発明の方法のこのような好ましい変形例は、反応に必要な熱が一般に、例えば化石燃料によって加熱することができる第一加熱装置を介して利用可能となるが、例えば再生可能資源からの安価な電気が利用可能である場合に、一時的に使用できる電気的に作動される第二加熱装置が存在することを提供する。これらの場合には、第一加熱装置は、流動を絞ることができ、あるいは、ある期間完全に閉鎖することができ、または、流動に関して、第一加熱装置を部分的に又は完全にバイパスするように熱伝達媒体を誘導することができる。
【0025】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、液状熱伝達媒体は少なくとも一時的に、および/または少なくとも部分的に少なくとも一種の燃料の燃焼によって、および電気加熱によって部分的に加熱される。1,2-ジクロロエタンの熱分解に必要とされる反応熱の全てを提供するための、液状または凝縮熱伝達媒体の使用は、適した触媒の存在下での反応を実施することによって可能になり、これにより、触媒を用いない従来の方法と比較して、反応温度を著しく低下させることが可能になる。このような触媒を使用する場合、反応は例えば、約450℃~約530℃のオーダーの従来の方法にて通常の温度から、特に約200℃~400℃の範囲の温度まで低下させることができる。この範囲における液状熱伝達媒体の顕熱含有量による温度への加熱、または、例えば、この範囲の伝熱油の凝縮による熱伝達は、例えば、伝熱油または場合によっては(液相においてのみ)溶融塩を使用する場合に可能である。前記のEP 0 002 021 A1に記載されているような物質が、触媒として考えられる。
【0026】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、少なくとも一つの燃料の燃焼によって動作する少なくとも一つの第一加熱装置と、さらに少なくとも一つの電気的に作動される第二加熱装置とが、液状熱伝達媒体を加熱するため、および/または液状熱伝達媒体を蒸発させるために使用される。安価な電気エネルギーが利用できない場合、熱分解に必要な熱エネルギーは、メタンまたは天然ガスなどの燃料を燃焼させることによって熱伝達媒体を加熱する第一加熱装置により提供することができる。これは、本発明による方法を非常に順応性あるものとする、3つの代替的なプロセス変形例をもたらす。加熱および/または蒸発のいずれかが、第一加熱装置によってのみ実施されるか、あるいは、加熱および/または蒸発が少なくとも一時的に、第二の電気加熱装置によってのみ実施されるか、あるいは、両方の加熱装置が、反応媒体の加熱および/または蒸発のために同時に使用される。
【0027】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、液状熱伝達媒体は循環路内に運ばれ、少なくとも一つの第一加熱装置と、少なくとも一つの電気的に作動される第二加熱装置が、この循環路内に組み込まれる。
【0028】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、少なくとも一つの第一加熱装置と、少なくとも一つの電気的に動作する第二加熱装置が、循環路内に直列で接続される。そして、熱伝達媒体は第一加熱装置を通って最初にライン循環路内を流れ、その後、この第二の電気加熱装置の下流に流れるか、あるいは、これらの2つの加熱装置を、逆の順序で流れる。これに代わるものとして、2つの加熱装置を並列に配置することも可能であり、すなわち、上記の加熱装置が組み込まれたライン循環路が接続され、対応するラインが例えば、バルブを介して遮断されることが可能であり、その結果、熱伝達媒体が、当該熱伝達媒体が第一加熱装置を通って流れることなく、第二加熱装置を通って流れることができ、また場合によってはその逆も可能である。
【0029】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、熱伝達媒体は、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解が行われる反応器が組み込まれた循環路内に運ばれ、この際、反応器の反応媒体と熱伝達媒体との間で熱交換が起こる。
【0030】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、熱伝達媒体は、反応器の他に、反応器に入る前に1,2-ジクロロエタンを予熱、蒸発、および過熱するための装置も設けられた循環路内に運ばれる。
【0031】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、熱伝達媒体は、反応器を通って、または、反応媒体を予熱および/または蒸発および/または過熱するための装置を通って、反応媒体の流れに対して逆流にて循環路内に運ばれる。このような変形例は、効果的な熱伝達のために有利である。しかしながら、これに代えて、反応媒体の流れと並流の熱伝達媒体の流れも可能である。
【0032】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、電気的に作動される第二加熱装置は、再生可能資源から得られる電気エネルギーによって少なくとも一時的に作動される。夜などに、好ましくは再生可能資源から安価な過剰電気エネルギーが利用できる期間の間、または強い風もしくは太陽放射の期間の間、またはエネルギー供給者が制御負荷を要求する場合には、反応に必要な熱は、電気エネルギーによって迅速に提供され得る。
【0033】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、電気的に作動される第二加熱装置は、待機モードで作動される。本発明の方法のこのような変形例においては、電気的に作動される第二加熱装置が、好ましくは作動温度にて永久的であることが提供される。例えば、少量の液状熱伝達媒体が、常にこの第二の電気加熱装置を通って流れることができ、または少量の熱伝達媒体が常に蒸発し、再び凝縮することができる。これは、第二加熱装置からの熱の需要の場合に、熱伝達媒体が、加熱装置の動作温度にまで長い加熱段階を必要とすることなく、短時間で所望の温度にて液状または蒸気の形態で利用可能にすることができるという利点を有する。この目的のために、このシステムは例えば、要求があった場合にそれぞれの加熱装置を始動させ、この目的のために必要とされるより高い電力を要求するコントローラを有することができる。しかしながら、制御システムを備えたシステムの代わりに、第二加熱装置の始動と、第一加熱装置の停止を、オペレータを通して行うことも原則として可能である。
【0034】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、1,2-ジクロロエタンの熱分解は200℃~400℃の温度範囲で実施される。これは、液状または蒸気の熱伝達媒体、例えば伝熱油を使用して容易に実施することができる好ましい温度範囲である。
【0035】
本発明の対象はさらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解によって塩化ビニルを製造するためのプラントであって、予熱、蒸発および過熱のため、および、1,2-ジクロロエタンの熱分解のために必要とされる熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、熱分解が起こる少なくとも一つの反応器と、反応器内の反応媒体への熱伝達が、液状または凝縮熱伝達媒体を用いて行われる少なくとも一つの第一加熱装置とを含み、この際、本発明によるプラントは、反応媒体を加熱するための少なくとも一つの第二の電気加熱装置も含む。従来のプラントと比較して、本発明によるプラントは、1,2-ジクロロエタンの熱分解に必要な熱エネルギーが任意に、第二加熱装置によってのみ、または第一加熱装置によってのみ、または両方の加熱装置によって累積的に提供され得るという利点を有する。
【0036】
本発明の好ましい発展形態は、反応器が熱伝達媒体の循環路の中に組み込まれることを提供し、この際、少なくとも電気的に作動される第二加熱装置もまた循環路の中に組み込まれる。
【0037】
本発明のさらなる好ましい発展形態は、反応器の他に、出発物質である1,2-ジクロロエタンの予熱、蒸発および過熱のための装置もまた、熱伝達媒体の循環路内に組み込まれたものである。
【0038】
本発明の好ましい変形例によれば、燃料によって作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、さらに少なくとも一つの電気的に作動される第二加熱装置とが、熱伝達媒体の循環路の中に組み込まれる。
【0039】
本発明の好ましい変形例によれば、熱伝達媒体の循環路は、配管システム(line system)に組み込まれたポンプと、燃料によって作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、少なくとも一つの電気的に作動される第二加熱装置と、反応器とを含み、反応器を通って流れるか、または反応器内に位置する反応媒体だけでなく、予熱、蒸発、および過熱のための装置に熱伝達媒体からの熱を伝達するための手段が設けられる。
【0040】
本発明の好ましい更なる発展形態は、燃料によって作動される第一加熱装置と、電気的に作動される第二加熱装置が、熱伝達媒体の循環路内に直列で、または、その代わりに並列で配置されることを提供する。