(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】バイオプロセシングのための音響分離
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20230831BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C12N1/02
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2022045615
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2018564946の分割
【原出願日】2017-04-28
【審査請求日】2022-04-21
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591016976
【氏名又は名称】ザ・チャールズ・スターク・ドレイパ・ラボラトリー・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】フィーリング,ジェイソン,オー.
(72)【発明者】
【氏名】コッツ,ケイネス
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/046605(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/062975(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/128795(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/138739(WO,A1)
【文献】特表2007-504446(JP,A)
【文献】特表2012-513287(JP,A)
【文献】特表2019-527536(JP,A)
【文献】Cytometry,2014年,Vol.85A,p.933-941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
C12Q
G01N
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合細胞を含む生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するインビトロの方法であって、
少なくとも1つの添加剤の所定容量を前記生物流体に導入して前処理した生物流体を生成することにより、前記標的細胞のサイズ、前記非標的細胞のサイズ、前記生物流体の圧縮度、前記標的細胞の圧縮度、前記非標的細胞の圧縮度、前記標的細胞の凝集能、および前記非標的細胞の凝集能の少なくとも1つを変化させることと、
前記前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させることと、
前記標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し、前記非標的細胞が前記分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積するように前記マイクロ流体分離チャンネル内の前記前処理した生物流体に音響エネルギーを加えて前記標的細胞を前記非標的細胞から分離することと
を含
み、
前記少なくとも1つの添加剤が、長鎖ポリサッカライドである細胞凝集剤を含む、方法。
【請求項2】
前記添加剤を、細胞凝集剤、脱イオン水、デタージェント、界面活性剤、前記生物流体の塩分を調節する溶液、前記生物流体の張度を調節する溶液、前記生物流体の粘度を調節する溶液、前記生物流体のモル浸透圧濃度を調節する溶液、前記生物流体のイオン濃度を調節する溶液、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞凝集剤が100~500kDの分子量を有する長鎖ポリサッカライドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞凝集剤が0.5%~25%(w/v)の濃度で存在する長鎖ポリサッカライドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞凝集剤が非標的細胞と結合して凝集させる抗体を含む溶液であるように選択することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞凝集剤が血小板活性化因子または細胞接着分子であるように選択することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
添加剤を導入して、前記生物流体の密度、前記標的細胞の密度、および前記非標的細胞の密度の少なくとも1つを変化させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤を密度勾配メディウム、密度添加剤、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記密度添加剤が非イオン性ヨウ素化化合物であるように選択することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記添加剤を導入して、前記流体の前記密度を1.00~1.15g/mLの密度に調節することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記生物流体を血液バフィーコート、白血球アフェレシス産物、末梢血、全血、リンパ液、滑液、脊髄液、骨髄、腹水、およびこれらの組み合わせまたは下位成分から選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記標的細胞が単核球、リンパ球、単球、顆粒球、無顆粒白血球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、これらのサブクラス、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される白血球であるように選択することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生物流体がドナー被験体から得られる生体試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの主流を後処理して治療用に後処理された主流を生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記後処理された主流がレシピエント被験体への送達のために生理学的に許容されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの主流に試薬を投与して投与懸濁液を調製することをさらに含み、前記試薬が細胞活性化を生物化学的に誘発するように構成される抗原または活性化試薬から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記生物流体に隣接する第二流体を前記マイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させて、前記生物流体および前記第二流体が実質的に並行して実質的に層化流で流れることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記前処理流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に0.03~0.5mL/分の流速で流入させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
添加剤を導入して前記非標的細胞の凝集能を調節することを含み、前記非標的細胞が赤血球または血小板を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記標的細胞および前記非標的細胞の少なくとも1つが、生きた細胞、凍結細胞、保存細胞、または細胞培養で増殖された細胞である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される態様および実施形態は、細胞の分離のためのシステムおよび方法に関する。特に、本明細書で開示される態様および実施形態は、生物流体における標的細胞の生物流体における非標的細胞からの分離のためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの態様により、生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離する方法が提供される。本発明は、生物流体を前処理し、前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに流入させ、マイクロ流体分離チャンネルに音響エネルギーを加えて標的細胞を分離チャンネルに沿った主流内に蓄積させ、分離チャンネルに沿った副流内に非標的細胞を蓄積させることを含み得る。いくつかの実施形態では、生物流体を前処理することは、添加剤を生物流体に導入して標的細胞のサイズ、非標的細胞のサイズ、生物流体の圧縮度、標的細胞の圧縮度、非標的細胞の圧縮度、標的細胞の凝集能、および非標的細胞の凝集能の少なくとも1つを変化させることを含む。本方法はさらに、添加剤を導入して、生物流体の密度、標的細胞の密度、および非標的細胞の密度の少なくとも1つを変化させることを含み得る。いくつかの実施形態では、音響エネルギーは分離チャンネルを通って流れる流体の方向を横断して加えられ得る。
【発明の概要】
【0003】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、生物流体を血液バフィーコート、白血球アフェレシス産物、末梢血、全血、リンパ液、滑液、脊髄液、骨髄、腹水、およびこれらの組み合わせまたは下位成分から選択することを含む。
【0004】
いくつかの実施形態により、本方法はさらに、白血球である標的細胞を、単核球、リンパ球、単球、顆粒球、無顆粒白血球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、これらのサブクラス、ならびにこれらの組み合わせから選択することを含む。このため、一つの実施形態により、白血球を非標的細胞から分離する方法が提供される。特定の実施形態により、リンパ球を非標的細胞から分離する方法が提供される。いくつかの実施形態により、本方法は幹細胞である標的細胞を選択することを含む。
【0005】
生物流体はドナー被験体から収集され得る。主流は後処理されてレシピエント被験体に送達され得る。いくつかの実施形態では、レシピエント被験体はドナー被験体と同一である。本方法は、生物流体が被験体から収集され、標的細胞が本明細書で説明される方法によって生物流体中の非標的細胞から分離され、標的細胞が豊富化された流体が後処理され得、後処理された流体が当該被験体に送達して戻され得るようなラインで実施される。いくつかの実施形態では、ドナー被験体およびレシピエント被験体は同一被験体ではない。標的細胞が豊富化された流体が収集されて、後でのレシピエント被験体への送達のために保存され得る。
【0006】
本方法はさらに、標的細胞を含む流体を、一連で配列されたマイクロ流体分離チャンネルに通して流し、各分離チャンネルに音響エネルギーを加えることを含む。いくつかの実施形態では、標的細胞を含む生物流体は第一マイクロ流体分離チャンネルに通して流され、標的細胞が豊富化された主流を生じ得る。そして主流は第二マイクロ流体分離チャンネルに通して流され、標的細胞のより高い豊富化度を有する第二主流を生じ得る。
【0007】
例えば、いくつかの実施形態では、本方法はさらに、少なくとも1つの主流に試薬を投与して投与された懸濁液を生じることを含む。試薬は細胞活性化を生物化学的に誘発するように構成された抗原または活性化試薬から選択され得る。投与された懸濁液は第二マイクロ流体分離チャンネルに通して流され、活性化細胞が豊富化された主流を生じ得る。
【0008】
例えば、本方法のいくつかの実施形態では、主流における標的細胞はリンパ球であり得、本方法は主流において活性化リンパ球を非活性化リンパ球から分離することをさらに含み得る。本方法はさらに、リンパ球主流に試薬を投与して、投与懸濁液を生じ、投与懸濁液を第二マイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させ、第二マイクロ流体分離チャンネルに音響エネルギーを加えることを含み得る。活性化リンパ球は第二分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し得、非活性化リンパ球は第二分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積し得る。
【0009】
特定の実施形態により、本発明はさらに、生物流体に隣接する第二流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させることを含む。第二流体は別の流入口を通ってマイクロ流体分離チャンネルに導入され得る。生物流体および第二流体は実質的に並行して実質的に層化された形態で分離チャンネルを通って流れ得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、標的細胞および非標的細胞の少なくとも1つは、生きた細胞、凍結細胞、保存細胞、または細胞培養で増殖された細胞である。いくつかの実施形態では、マイクロ流体分離チャンネルは熱可塑性材料から形成される。マイクロ流体分離チャンネルは使い捨てであり得る。
【0011】
別の態様により、マイクロ流体細胞分離のためのシステムが提供される。システムは生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するように構成され得る。いくつかの実施形態では、システムは、少なくとも1つの流入口、第一流出口、および第二流出口を含む少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネル、マイクロ流体分離チャンネルと流体接続される生物流体供給源、生物流体供給源と流体接続されて少なくとも1種類の添加剤を生物流体に導入するように構成される添加剤供給源、ならびにマイクロ流体分離チャンネルの壁に接続される少なくとも1つの音響トランスデューサーを含む。音響トランスデューサーは、マイクロ流体分離チャンネルを横断して定常音響波を加えるように配置され得る。2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルを含むシステムは、各マイクロ流体分離チャンネルと接続される1つの音響トランスデューサー、またはマイクロ流体分離チャンネルの集合と接続される1つ以上の音響トランスデューサーを含み得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、システムは少なくとも2つのマイクロ流体分離チャンネルを含む。少なくとも2つのマイクロ流体分離チャンネルは並行配列で配置され得る。システムはさらに、生物流体を少なくとも2つのマイクロ流体分離チャンネルに分配するように構成されるマニホルドを含み得る。いくつかの実施形態では、マニホルドはシステムで流入生物流体量に反応して生物流体を分配するように構成される。システムはさらに、システムで流入生物流体量を測定するように構成されるセンサーを含む。センサーはマニホルドと電気的に接続され得、これによってマニホルドは流入生物流体量の測定に反応して生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに分配し得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、システムはさらに、生物流体の密度、生物流体のヘマトクリット(HCT%)、生物流体における標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度の少なくとも1つを測定するように構成される少なくとも1つのセンサーを含む。システムはさらに、生物流体センサーと電気的に接続されたコントロールモジュールを含み得る。コントロールモジュールは添加剤供給源と電気的に接続され、生物流体の密度あるいは標的細胞または非標的細胞の濃度の測定に反応して、生物流体に添加剤の所定容量を導入するように構成され得る。特定の実施形態では、添加剤の所定容量は生物流体を変化または調節して所望の密度、HCT%、あるいは標的細胞または非標的細胞の濃度を有するように決定される。
【0014】
特定の実施形態により、システムはさらに、流出懸濁液のパラメータを測定するように構成される少なくとも1つのセンサーを含む。センサーは、主流におけるHCT%、標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度を測定し得る。システムはさらに、流出懸濁液センサーと電気的に接続されるコントロールモジュールを含み得る。コントロールモジュールは、音響トランスデューサーと電気的に接続され、音響トランスデューサーの少なくとも1つの入力パラメータを変化または調節するように構成され得る。例えば、コントロールモジュールは流出懸濁液のパラメータの測定に反応して音響トランスデューサーに送達される出力、電圧、または周波数を変化または調節し得る。例えば、コントロールモジュールは流出懸濁液におけるHCT%、標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度の測定に反応して作動するように構成され得る。流出懸濁液センサーと接続されるコントロールモジュールは、生物流体センサーと接続されるコントロールモジュールと同一または異なり得る。
【0015】
システムはさらに、少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と流体接続される第二流体供給源を含み得る。第二流体供給源は第二流体を生物流体に導入するように構成され得る。いくつかの実施形態では、生物流体および第二流体は、実質的に並行して実質的に層化流で流れる。
【0016】
いくつかの実施形態では、システムはさらに、マイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流出口と流体接続される第一および第二収集チャンネルを含み得る。収集容器が第一および第二収集チャンネルと流体接続され得る。システムはさらに腔内ラインと接続可能であり得る。例えば、システムはドナー被験体から生物流体を取り出して、これを生物流体供給源にプロセシングのために送達するように構成された腔内ラインと接続可能であり得る。システムは流出懸濁液、例えば標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体をレシピエント被験体に送達するように構成される腔内ラインと接続可能であり得る。
【0017】
特定の実施形態により、システムはさらに再循環ラインを含む。再循環ラインは流出懸濁液を第二通過分離のために生物流体供給源に送達して戻すように構成され得る。流出懸濁液は標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体であり得る。いくつかの実施形態では、システムは一連で配列された2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルを含む。
【0018】
別の態様により、標的細胞の非標的細胞からの分離のためのキットが提供される。キットは、音響トランスデューサーと接続される少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネル、マイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と流体接続可能である添加剤供給源、および使用のための取扱説明書を含み得る。
【0019】
キットは、生物流体を収集し、所定容量の添加剤を生物流体供給源に導入することによって生物流体を前処理し、前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに通して流して、分離チャンネルに音響エネルギーを加えるための取扱説明書を含み得る。いくつかの実施形態では、キットは生物流体の密度、あるいは標的細胞または非標的細胞の濃度を変化または調節するために添加剤を導入するための取扱説明書を提供する。
【0020】
特定の実施形態により、キットはさらに、収集チャンネル、収集容器、マニホルドシステム、センサー、コントロールモジュール、または腔内ラインを含み得る。
【0021】
添付の図は尺度に従って描くことは意図されていない。図では、様々な図で説明されるそれぞれの同一またはほぼ同一の構成要素が、同様な番号によって表される。簡明化のため、すべての構成要素がすべての図で表示されてはいないことがある。図は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一つの実施形態による、マイクロ流体分離チャンネルの概略を示す図である。
【
図2】別の実施形態による、代替マイクロ流体分離チャンネルの概略を示す図である。
【
図3】スイッチオフの音響トランスデューサーと接続されるマイクロ流体分離チャンネルの顕微鏡写真を示す図である。
【
図4】スイッチオンの音響トランスデューサーと接続されるマイクロ流体分離チャンネルの顕微鏡写真を示す図である。
【
図5】一つの実施形態による、マイクロ流体細胞分離のためのシステムを概略的に示す図である。
【
図6】別の実施形態による、マイクロ流体細胞分離のための代替システムを概略的に示す図である。
【
図7】生物流体においてリンパ球および白血球を他の細胞から分離する方法の一つの実施形態による分離後における、白血球アフェレシス流体、バフィーコート、および全血からのリンパ球および他の白血球細胞に関する回収率のグラフを示す図である。
【
図8】生物流体においてリンパ球を他の細胞から分離する方法の一つの実施形態による分離後における、白血球アフェレシス流体、バフィーコート、および全血からの全白血球の割合としてのリンパ球純度のグラフを示す図である。
【
図9】生物流体において細胞を分離する方法の一つの実施形態による分離後に収集された分画における、全白血球の中のリンパ球の相対的集団のグラフを示す図である。
【
図10】生物流体において細胞を分離する方法の一つの実施形態による分離後に収集された分画における、赤血球、白血球、または側流に対するリンパ球の分離比のグラフを示す図である。
【
図11】生物流体において細胞を分離する方法の代替実施形態による分離後に収集された分画における、赤血球、白血球、または側流に対するリンパ球の分離比のグラフを示す図である。
【
図12】生物流体において細胞を分離する方法の一つの実施形態による、分離後に収集された分画における、単球に対するリンパ球の分離比を比較するグラフを示す図である。
【
図13】生物流体において細胞を分離する方法の一つの実施形態による、密度勾配メディウムによって前処理されたサンプルと比較した、細胞凝集剤によって前処理されたサンプルからのリンパ球分離比および赤血球除去の比較グラフを示す図である。
【
図14】別の実施形態による、代替マイクロ流体分離チャンネルの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
細胞療法およびバイオプロセシングの分野において、新興医療技術は患者から血液または組織の取り出し、続いてサンプルからの特定細胞型の精製を含み得る。いくつかの適用では、特定の細胞型は治療のために調製または操作されてから患者に再注入される。本明細書で開示される態様および実施形態は、混合細胞型の液体懸濁液からの所望の細胞型の分離に関する。特に、一つの適用は、血液細胞からの白血球、または白血球サブクラスの分離である。
【0024】
本明細書で開示される態様および実施形態は、細胞療法用の細胞のプロセシングにおける使用のための方法およびシステムと関連し得る。本明細書で説明される実施形態のいくつかにおける他の多くの使用はまた、特に特定の細胞型が細胞懸濁液または天然サンプルから収集されることが望まれる場合に想定され得る。いくつかの非限定的な例には、診断または環境モニタリングアッセイ、組織工学、インビトロモデル、およびエネルギー応用のようなバイオ製造システムが含まれる。
【0025】
以前では、バイオプロセシングに適用するための細胞選別は、1回以上のバッチ遠心分離、連続遠心分離、磁気分離、またはこれらの組み合わせによって実施されている。遠心分離は粒子を密度によって分離できるだけであり、白血球サブクラスを白血球の他の型と分離するその能力は制限されている。密度メディウムの添加は白血球階層化を改善し得るが、小バッチ処理のみであり、技術的に習熟した操作者を必要とする。さらに、遠心分離の形式では、T細胞のようなリンパ球のサブクラスをB細胞から分離することができない。
【0026】
磁気分離は高度に選択的であり得るが、抗体のようなアフィニティーリガンドを用いた常磁性捕捉粒子の細胞との結合に依存する。粒子は患者に注入される場合、安全性のリスクを引き起こし得る。従って、磁性粒子は最終的な治療製剤から取り除かれなければならない。磁気分離の効率は、干渉する細胞の量によって、あるいはアフィニティーリガンドと特異的または非特異的に結合し得るサンプルに含まれるバックグランドタンパク質の濃度によって変動する。さらに、アフィニティーリガンドを通した特定の磁性粒子の細胞との結合は、不可逆的であり得る。この場合、1回の分離のみが全体的な磁力を用いて実施される。これらの理由から、磁気分離は複雑な処理であり、バイオプロセシングのワークフローにおいて通常不適当である。
【0027】
本明細書で開示される態様および実施形態は、例えば、いくつかの実施形態では所望の細胞の精製を連続的に実施することができ、いくつかの実施形態では、システムおよび方法がサイズおよび密度の両方による分離をもたらしてさらに細胞分離を高め、いくつかの実施形態では、分離工程は小さいまたは大きいサンプル容量に容易にスケール化し得、いくつかの実施形態では、高度な精製が抗体、リガンド、免疫化学、または他の異質粒子の使用なくして達成でき、そしていくつかの実施形態では、さらなる精製が安全に注入可能な生理学的に許容可能な添加剤の添加によって達成でき、そのため従来の細胞分離を超えて効果的であり得る。
【0028】
本明細書で説明されるシステムおよび方法を用いて実施され得る細胞療法の一つの非限定的な例は、血液癌の治療のためのCAR-T療法である。本療法はウイルス形質導入または従来技術で知られている他の遺伝子編集法によるT細胞における工学処理によるキメラ抗原受容体を含み得る。CAR-T処理では、血液は一般的に患者から収集される。血液は全血、または白血球アフェレシス産物であり得る。白血球アフェレシス産物は、全血と比較して赤血球の濃度が低下している主に白血球および血小板の収集物である。この収集された血液サンプルから、白血球の特定のサブクラスがさらなるプロセシングから選択され得る。CAR-T療法では、細胞の所望のクラスが変化し得るが、一般的に単核細胞、リンパ球、T細胞、あるいはCD4+またはCD8+のようなT細胞のサブクラスを含む。そして選択された細胞は遺伝子工学処理によって改変(形質導入)されて、悪性腫瘍細胞を攻撃するこれらの能力を高め得る。遺伝子工学処理には、これらの量を増加するためにインキュベーションし、洗浄または精製して、品質管理のために試験し、任意に患者に注入することを含み得る。
【0029】
本明細書で開示される態様および実施形態は、所望の細胞を選択するための方法を改善し得、また細胞の洗浄、または形質導入後のサンプルの精製のような工程における他のステップでの適応を有し得る。
【0030】
音響分離はまた音響泳動とも呼ばれ、バイオプロセシングワークフローの一部として所望の細胞を分離または豊富化するために使用され得る。生物流体における粒子の音響分離は、例えば、米国特許出願公開第2016-0030660号、第2016-0008532号、および第2013-0048565号、ならびに米国特許第9,504,780号に記載されており、このそれぞれが本明細書に参照することによってその全体が組み込まれている。本明細書で開示される態様および実施形態は、所望の細胞型の分離を提供し、例えば、標的細胞を他の非標的細胞型を含む混合細胞型の液体懸濁液から分離する。より具体的には、本明細書で開示される態様および実施形態は、細胞型間の選択的な分離を、アフィニティーに基づいた捕捉粒子の使用を必要とすることなく提供する。
【0031】
音響分離では、混合懸濁液は外部の機械的発振器による超音波周波数で振動される導管を通って流れ得る。導管は共鳴後を形成し得、例えば、超音波圧力波が発生され、導管を通る流れと接触する。例えば、超音波は流れに対して角度をもって発生され得る。超音波は流れと実質的に直角方向に発生され得る。懸濁液における細胞または他の粒子は、圧力波からの力を受け、生じる圧力場における節に移動され得る。細胞が移動する速度は一般的に粒子サイズ、密度、および圧縮度に依存する。例えば、より大きく密度が高い細胞が圧力節に移動し、小さいまたは中立的に浮揚する細胞がゆっくり移動する、移動しない(実質的に軸上に留まる)、またはノッドと反対に移動することによって分離が促進され得る。例えば、一般的な遠心分離工程では、圧力節は導管の軸に沿って確立され、特定の粒子がこの圧力節軸に移動して、それに沿った濃縮流で流れ、一方、他の細胞は分散したまま、または圧力腹軸に移動し得る。
【0032】
CAR-T療法の適用の例を再度示すと、リンパ球は好ましくは血液サンプルから抽出され得る。療法は、細胞懸濁液または懸濁液における細胞の特定クラスの特性を変えることを含み得、リンパ球は、例えば赤血球および他の白血球クラスよりも音響エネルギーに対する感受性が低くなる。従って、細胞懸濁液、例えば血液が音響分離装置を通過するとき、リンパ球は望まない細胞よりも多い量で側流に残り得る。側流はプロセシングのために収集され得、中心流は廃棄され得る。
【0033】
一つの態様により、生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離する方法が提供される。より具体的には、混合細胞型の懸濁液を含む生物流体から所望の細胞の選択的な示差的分離のための方法が提供される。懸濁液における混合細胞型から選択的に分離され得る標的細胞には、白血球、単核細胞、リンパ球、単球、顆粒球、非顆粒白血球、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞、これらのサブクラス、およびこれらの組み合わせが含まれる。例えば、いくつかの実施形態では、標的細胞はT細胞のサブクラスであり、限定されないが、CD4+、CD8+、TH、TCM、およびTFH細胞が含まれる。いくつかの実施形態では、標的細胞は幹細胞から選択される。
【0034】
非標的細胞は標的細胞として選択されないいずれか、およびすべての細胞を含み得る。非標的細胞は、赤血球、血小板、顆粒球、単球、マクロファージ、白血病細胞、および標的細胞として選択される白血球以外の白血球を含み得る。いくつかの実施形態では、非標的細胞は血小板および赤血球である。赤血球はリンパ球とほぼ同じサイズである。生物流体において赤血球をリンパ球から分離するため、効率は生物流体の少なくとも1つのパラメータを変化または調節する添加剤を含むことによって大きく増加され得る。例えば、添加剤は非標的細胞の凝集能および/または生物流体の密度を変化し得る。特定の実施形態により、添加剤はリンパ球の密度とほぼ同じである流体の密度を調節するのに十分な容量で導入される。
【0035】
特定の実施形態により、標的細胞は非標的細胞から分離されて標的細胞豊富化流体を生じ得る。標的細胞および/または非標識細胞は、生きた細胞、凍結細胞、保存細胞、または細胞培養で増殖された細胞であり得る。標的細胞豊富化流体は、流入生物流体または前処理生物流体と比べて高い濃度の標的細胞を含み得る。
【0036】
一般的に、生物流体、例えば全血は、高濃度の赤血球を含む。標的細胞豊富化流体を得るため、赤血球を選択的に枯渇化することが望まれ得る。
【0037】
生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離する方法は、生物流体を提供することをさらに含む。いくつかの実施形態では、生物流体はドナー被験体から得ることができる。ドナー被験体の生物流体は、下流プロセシングが直接的に加えられ得、または後でのプロセシングのために収集および保存され得る。本明細書で使用されるとき、「直接的に」は、生物流体が長期保存期間にさらされることがない生物流体のプロセシングを意味する。例えば、生物流体は数分または数時間以内にインライン配置内で直ちにプロセシングされ得る。生物流体は1日以上保存され得る。いくつかの実施形態では、生物流体はドナー被験体から腔内ラインを通して収集される。従って、本方法はさらに、生物流体をドナー被験体から腔内ラインを通して得ることを含み得る。本明細書で使用されるとき、「腔内」ラインは、被験体の腔に接続可能な輸液ラインを意味する。より具体的には、腔内ラインは静脈、動脈、膀胱、または小腸のような、体内の体腔、管状構造、または器官と接続可能であり得る。例えば、輸液ラインは被験体の循環系または胃腸系と接続可能であり得る。腔内ラインには、例えば、静脈内ライン、中心静脈ライン、血管内ライン、組織内ライン、カテーテル、および輸液ラインが含まれる。腔内ラインカテーテルは、例えば、末梢留置カテーテル、静脈内カテーテル、または中心静脈カテーテルであり得る。
【0038】
本明細書で使用されるとき、用語「被験体」は、ヒトおよび非ヒト動物、例えば、脊椎動物、大型動物、および霊長類を含むことが意図される。特定の実施形態では、被験体は哺乳動物被験体であり、特有な実施形態では、被験体はヒト被験体である。ヒトにおける適用が明らかに予測されるが、例えば非ヒト動物における獣医的適用も本明細書において想定される。本発明の用語「非ヒト動物」は、すべての脊椎動物、例えば、非哺乳動物(ニワトリなどの鳥類、両生類、爬虫類など)および哺乳動物を含み、非ヒト霊長類、愛玩用および家畜用動物が挙げられ、他の中にあって例えばヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ラットなどである。
【0039】
特定の実施形態では、生物流体は標準的な血液処理装置から得ることができる。例えば、生物流体は血漿交換装置から得ることができる。生物流体は標準的な血液処理装置から直接的に得られ、さらに例えばインライン配置で直ちに処理され得る。他の実施形態では、生物流体は標準的な血液処理装置から得られて、マイクロ流体分離チャンバーに導入される前に1日以上保存され得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、生物流体を血液バフィーコート、白血球アフェレシス産物、末梢血、全血、リンパ液、滑液、脊髄液、骨髄、腹水、およびこれらの組み合わせまたは下位成分から選択することを含む。生物流体は細胞懸濁液を含む合成メディウムを含み得る。例えば、生物流体は細胞培養培地を含み得る。いくつかの実施形態では、生物流体は生物流体の下位成分を含み得る。例えば、生物流体は、細胞豊富化生物流体、細胞枯渇化生物流体、希釈化生物流体、濃縮化生物流体、ろ過生物流体、精製生物流体、またはこれら以外で処理された生物流体を含み得る。
【0041】
本明細書で使用されるとき、白血球アフェレシス産物は血漿交換分離工程を実施している血液産物を意味する。血漿交換分離工程は、白血球を枯渇化または豊富化するために実施されている可能性がある。このため、白血球アフェレシス産物は、白血球豊富化血漿交換産物または白血球枯渇化血漿交換産物を含み得る。いくつかの実施形態では、白血球アフェレシス産物は合成生物流体を含み得る。いくつかの実施形態では、白血球アフェレシス産物は製造業者から購入され得る。いくつかの非限定的な実施形態では、白血球アフェレシス産物はAllCells(アラメダ、カリフォルニア州)によって供給されるLeukoPak(商標)白血球アフェレシス産物である。
【0042】
生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離する方法は、さらに生物流体を前処理することを含み得る。いくつかの実施形態では、生物流体を前処理することは、添加剤を生物流体に導入して、標的細胞のサイズ、非標的細胞のサイズ、生物流体の圧縮度、標的細胞の圧縮度、非標的細胞の圧縮度、標的細胞の凝集能、および非標的細胞の凝集能の少なくとも1つを変化させることを含む。本方法はさらに、生物流体に添加剤を導入して、生物流体の密度、標的細胞の密度、非標的細胞の密度の少なくとも1つを変化させることを含み得る。添加剤は細胞に適したものであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、生物流体に導入される添加剤の濃度は被験体への腔内注入において一般的に安全である。いくつかの実施形態では、添加剤は生理学的に許容可能であり、被験体への腔内注入において一般的に安全である。
【0043】
全般的に、本方法は添加剤を導入して生物流体または細胞化学を改良して、標的細胞の非標的細胞からの分離を高めることを含み得る。例えば、生物流体の電解質濃度(すなわち、塩分または張度)は、所望の細胞型が反応して拡張、膨張、円鋸歯状、球状、または硬化されるように調整され得る。所望の細胞型は標的細胞または非標的細胞であり得る。細胞型の1つ以上の物理的特性における変化は、マイクロ流体分離チャンネル内に加えられる音響力に対する細胞の反応に影響を及ぼし得、生物流体内の所望の細胞型と他の細胞型の間の示差的分離を可能にする。本方法は、細胞凝集剤、脱イオン水、デタージェント、界面活性剤、生物流体の塩分を調節する溶液、生物流体の張度を調節する溶液、生物流体の粘度を調節する溶液、生物流体のモル浸透圧濃度を調節する溶液、生物流体のイオン濃度を調節する溶液、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することを含み得る。
【0044】
本方法は添加剤を導入して標的細胞または非標的細胞のサイズまたは形状を変化させることを含み得る。前述のように、所望の細胞型は、生物流体における添加剤の導入に反応して膨潤、円鋸歯状化、球状化、または硬化され得る。サイズまたは形状における変化は、分離工程における細胞型間の識別を促進し得る。添加剤はまた、所望の細胞型を活性化するために導入され得、これによって活性化されたT細胞は非活性化T細胞よりも大きくなり得る。このため、生物化学的に導入された活性化または自然細胞周期による本来的な形態学的変化が標的細胞を非標的細胞から分離するために活用され得る。
【0045】
本方法は添加剤を導入して生物流体のナトリウムまたはイオン濃度を変化させることを含み得る。例えば、濃縮した塩化ナトリウム溶液が導入されて、浸透作用によって赤血球および他の非標的細胞を円鋸歯状化および/または収縮し得る。特定の理論に拘束されることは望まないが、赤血球内に含まれるヘモグロビンは細胞の容積の低下と同時に密度の増加をもたらすと考えられる。このため、赤血球の密度を、これらのサイズを低下させることによって選択的に増加して、標的細胞の非標的赤血球からの高められた分離を促進することが可能であり得る。
【0046】
いくつかの実施形態では、本方法は添加剤を導入して、生物流体、標的細胞、または非標的細胞の圧縮度を変化させることを含む。例えば、デタージェント/界面活性剤を加えて、細胞膜機構を変化させ、所望の細胞型が圧縮度の変化を受け得る。いくつかの実施形態では、デタージェントまたは界面活性剤は細胞膜を変化させ、これによって所望の細胞型は生物流体におけるイオン濃度の変化により感受性になる。例えば、非イオン性デタージェントは、Tween(商標)系のデタージェント、Brij-35(商標)デタージェント、またはPluronic(商標)系のデタージェントを含み得る。このようなデタージェントは膜透過性および膜生物機構に、デタージェントの0.05%重量/容量割合未満の非常に低い濃度で影響を及ぼすことが知られている。このため、特定のデタージェントを加えることによって、細胞密度、形状、サイズ、またはイオン含量の細胞機構特性に示差的に影響を及ぼして、標的細胞の非標的細胞からの増強された分離を促進することが可能であり得る。
【0047】
添加剤は生物流体に導入されて、標的細胞または非標的細胞の凝集能を変化させ得る。本明細書で使用されるとき、「凝集能」は、所望の細胞型が凝集、膠着、接着、または細胞などと複合体を形成する機構を意味する。いくつかの実施形態では、凝集能は所望の細胞型が異なる細胞型の細胞と凝集する能力を意味する。例えば、添加剤が導入されて赤血球または血小板の凝集能を変化または調節し得る。一般的に、多くの生物流体は高濃度の赤血球および/または血小板を含む。赤血球および/または血小板を凝集することによって、他の細胞からのより効率的な分離が達成され得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、凝集能は所望の細胞型が結合、凝集、膠着、接着、あるいは同様または異なる細胞型と複合体を形成することを妨げる添加剤によって変化または調節される。例えば、凝集能は抗凝固剤によって変化または低下され得る。他の実施形態では、凝集能は細胞凝集剤によって変化、増強、または調節され得る。本明細書で使用されるとき、「細胞凝集剤」は、結合、凝集、接着、膠着、または所望の細胞型と複合体を形成し得る添加剤を意味する。「細胞凝集剤」はまた、結合、凝集、接着、膠着、または同様または異なる細胞型と複合体形成を生じ得る添加剤を意味する。細胞凝集剤は、天然生物化学的経路を活性化することによって、細胞機構を変化させることによって、あるいは前処理した生物流体における細胞間の静電障壁を低下または排除することによって、細胞に凝集を生じさせ得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、長鎖ポリサッカライドである細胞凝集剤を選択することを含む。長鎖ポリサッカライドには、限定されないが、デキストラン、ポリスクロース、ヘタスターチ(ヒドロキシエチルデンプン)、およびGEヘルスケア(シカゴ、イリノイ州)によって供給されるFicoll(商標)メディウムが含まれる。長鎖ポリサッカライドは約100~約500kDの分子量を有し得る。いくつかの実施形態では、長鎖ポリサッカライドは、約250~約500kD、約200~約400kD、約300~約400kDの分子量を有する。長鎖ポリサッカライドは、約100kD、約200kD、約250kD、約300kD、約400kD、および約500kDの分子量を有し得る。いくつかの実施形態では、細胞凝集剤は約0.5~約25%(w/v)の濃度で存在する長鎖ポリサッカライドを含む。いくつかの実施形態では、細胞凝集剤は、約1.0~約20%(w/v)、約5.0~約15%(w/v)、約8.0~約12%(w/v)の濃度で存在する長鎖ポリサッカライドを含む。例えば、細胞凝集剤は、約0.5%(w/v)、約1.0%(w/v)、約2.0%(w/v)、約5.0%(w/v)、約8.0%(w/v)、約10%(w/v)、約12%(w/v)、約15%(w/v)、約20%(w/v)、約24%(w/v)、約25%(w/v)で存在する長鎖ポリサッカライドを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、本方法はさらに、血小板凝集剤または細胞接着分子(CAM)であるように細胞凝集剤を選択することを含む。CAMは活性化血小板顆粒から放出され得る、または得ることができる。このようなCAMは既知の自然機構によって血小板を凝集する。血小板活性化は、血小板が顆粒を放出するように誘発し、細胞の外側で血小板顆粒の内容物を暴露し得る。そしてCAMは血小板-フィブリンおよび血小板-血小板結合を通して血小板凝集を促進する。CAMは活性化血小板顆粒から放出され得、例えばトロンビン、II型コラーゲン、またはアデノシン二リン酸の添加による活性化を通してこれらの放出を生物化学的に誘発することによって、または生物流体に供給者から得られる天然または合成CAMを導入することによってである。活性化血小板顆粒から放出または得られるCAMには、限定されないが、P-セレクチンおよびフォンヴィルブランド因子が含まれ得る。血小板活性化因子には、限定されないが、アデノシン二リン酸、トロンビン、II型コラーゲン、およびリストセチンが含まれる。
【0051】
添加剤は生物流体に導入されて生物流体の密度を変化し得る。いくつかの実施形態では、添加剤は密度勾配メディウム、密度添加剤、およびこれらの組み合わせから選択される。密度勾配メディウムは細胞分離のためのメディウムであり、一般的に遠心分離の実施で使用される。密度勾配メディウムは従来技術で良く知られており、例えば、シグマアルドリッチ(セントルイス、ミズーリ州)によって供給されるACCUSPIN(商標)メディウム、Histodenz(商標)メディウム、OptiPrep(商標)メディウムおよびHistopaque(登録商標)メディウム、GEヘルスケア(シカゴ、イリノイ州)によって供給されるFicoll-Paque(商標)メディウムおよびPercoll(商標)メディウム、STEMCELL Technologies(バンクーバー、カナダ)によって供給されるRosetteSep(商標)メディウムおよびLymphoprep(商標)メディウムが含まれる。密度勾配メディウムのリストは単に例としてのものであり非排他的である。密度添加剤は生物流体と異なる密度を有する、あるいは生物流体の密度を調節または変化させるように構成される試薬を含み得る。例えば、密度添加剤は純水、脱イオン水、塩、生理食塩緩衝化溶液、または非イオン性ヨウ素化化合物を含み得る。非イオン性ヨウ素化化合物は、限定されないが、ジアトリゾ酸、ジアトリゾ酸メグルミン、およびイオジキサノールを含む。特定の実施形態により、密度添加剤は細胞に適するように選択され、生物流体のモル浸透圧濃度を細胞に有害となる程度まで増加しない。例えば、密度添加剤は塩化セシウムまたはスクロースを含まないように選択され得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、添加剤が導入されて、生物流体の密度を標的細胞または非標的細胞の密度の範囲内であるように変化または調節する。例えば、密度は標的細胞が生物流体において中立的音響浮揚に近づくように調節され得、これらに作用する音響力を非標的細胞に作用する力と比べて低下させる。生物流体の密度は、約1.00~約1.15g/mLの密度に調節され得る。いくつかの実施形態では、生物流体の密度は約1.00~約1.10g/mL、約1.10~約1.15g/mL、約1.02~約1.09g/mL、約1.03~約1.08g/mL、約1.04~約1.07g/mL、および約1.045~約1.065g/mLの密度に調節される。具体的に、生物流体の密度は約1.00g/mL、約1.01g/mL、約1.02g/mL、約1.03g/mL、約1.04g/mL、約1.05g/mL、約1.06g/mL、約1.07g/mL、約1.08g/mL、約1.09g/mL、約1.10g/mL、約1.12g/mL、および約1.15g/mLの密度に調節または変化され得る。
【0053】
生物流体を前処理することは、添加剤を導入して標的細胞または非標的細胞の密度を変化させることをさらに含み得る。添加剤は導入されて生物流体および互いの範囲内にある細胞の密度を変化または調節し得、例えば、流体内で細胞を中立的音響浮揚に近づかせる。希釈剤、塩、または生理食塩水が導入されて標的細胞または非標的細胞の密度を変化または調節し、所望の細胞型から特定の反応を引き起こし、または生物流体の密度の範囲内の密度を有し得る。例えば、ナトリウムまたはイオン濃度が、例えば脱イオン水による希釈によって低下され得、赤血球を浸透によって膨潤させるが、一方、リンパ球は既知の自然機構を使用してこれらのサイズを調節し、2つの細胞型間のサイズによる区別を高める。別の非限定的な例では、白血病細胞は健康な白血球よりも容易に膨潤し、添加剤は白血病細胞の除去を促進し得る。
【0054】
本方法は、添加剤を導入して、生物流体の密度および非標的細胞の凝集能の両方を変化させることを含み得る。いくつかの実施形態では、密度添加剤と細胞凝集剤の併用は相乗効果を生じ、これによって本方法は標的細胞の非標的細胞からのより効率的な分離、および両効果の取り合わせから予測されるよりも標的細胞豊富化流体における標的細胞の高い濃度を生じる。例えば、リンパ球を他の白血球および赤血球から分離する方法では、添加剤または添加剤併用が導入されて生物流体の密度を変化させ、赤血球を凝集させ得る。密度添加剤は標的細胞、または本例ではリンパ球の、非標的細胞(本例では白血球)からの分離を高め得、一方、細胞凝集剤は非標的細胞の音響散乱半径を、リンパ球または他の標的細胞を超える非標的細胞の増強された分離まで効果的に増加し得る。個別添加剤は別々に使用されるとき、リンパ球の非標的細胞からの十分な分離をもたらさないが、併用は標的細胞の非標的細胞からの増強された効果的な示差的分離を促進し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、添加剤はさらにアフィニティーをベースとした捕捉粒子を含み得る。一般的に、アフィニティーをベースとした粒子は、被験体への腔内注入において安全である。例えば、添加剤は標的細胞または非標的細胞と結合する抗体のような生物化学的部分を含む。細胞凝集剤は標的細胞または非標的細胞と結合して凝集させる抗体を含む溶液を含み得る。いくつかの実施形態では、抗体は所望の細胞型と結合して凝集させる。添加剤はエマルション液滴、ゲル粒子、または脂質カプセル化オイルベシクルを含み得る。いくつかの実施形態では、アフィニティーをベースとした捕捉粒子は腔内注入において安全である。アフィニティーをベースとした捕捉粒子は、それを低密度または高密度で設計することによって「反集束性」または「高集束性」であるように工学処理され得る。低密度である「反集束性」捕捉粒子は、標的細胞または非標的細胞として反対方向で音響泳動力を受け得る。高密度である「高集束性」捕捉粒子は、圧力腹への移動を受け得、一方、標的細胞または非標的細胞は圧力節に向けて移動する。いくつかの実施形態では、磁気分離に対する音響アナログは、「高集束性」捕捉粒子を含み得る。例えば、「高集束性」捕捉粒子は所望の細胞型を捕集するために使用され得、選択された細胞は分離チャンネルに保持されたままだが、他の細胞は通って流れる。保持された細胞型は後に放出され得る。いくつかの実施形態では、大型捕捉粒子分子は所望の細胞型の表面で多く地点と結合し得、その効果的な直径を変化させることによって粒子で示される音響泳動力を変化し得る。
【0056】
標的細胞を非標的細胞から分離する方法はさらに、生物流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入することを含み得る。例えば、本方法は前処理された生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに流入することを含み得る。生物流体は約0.03~約0.5mL/分の流速を有し得る。いくつかの実施形態では、生物流体は約0.05~約0.4mL/分、約0.1~約0.3mL/分のマイクロ流体分離チャンネルを通る流速を有し得る。生物流体は、約0.03mL/分、0.05mL/分、0.08mL/分、0.1mL/分、0.2mL/分、0.3mL/分、0.4mL/分、0.5mL/分、またはこれらの間のいずれかの範囲のマイクロ流体分離チャンネルを通る流速を有し得る。
【0057】
本方法はさらに、マイクロ流体分離チャンネルに音響エネルギーを加えることを含み得る。いくつかの実施形態では、音響エネルギーは音響波の形態で加えられる。音響波は分離チャンネルを通る流体の流れに対して角度をもって加えられ得る。音響波の角度および強さは、デバイスのサイズ、チャンネルのサイズ、またはチャンネルを通る流体の流速に基づいて工学処理され得る。いくつかの実施形態では、音響エネルギーはマイクロ流体分離チャンネルを通って流れる生物流体に対して実質的に横断する方向で加えられ得る。音響波は定常音響波であり得る。いくつかの実施形態では、音響エネルギーはマイクロ流体分離チャンネルに連続して加えられ得る。音響エネルギーの連続的な適用は、分離のより高い効率を可能にし得る。代替の実施形態では、音響エネルギーはマイクロ流体分離チャンネルに間欠的または時間スケジュールに基づいて加えられ得る。間欠的なエネルギー適用は、妨害物がある場合に、細胞がチャンネルを自由に通って移動することを可能にし得る。
【0058】
加えられる音響エネルギーは生物流体内の細胞および粒子に作用して、サイズ、密度、および/または圧縮度に従ってこれらを動かし得る。いくつかの実施形態では、本方法は分離チャンネルに沿って主流内に標的細胞を蓄積することを含み得る。いくつかの実施形態では、本方法は分離チャンネルに沿って副流内に非標的細胞を蓄積することを含み得る。分離チャンネルに沿った所望の流れ内における細胞型の蓄積は、波長、周波数、振幅、出力レベル、または加えられる音響エネルギーの他の調整のような調整パラメータによって工学的に処理され得る。
【0059】
本方法によって選択される標的細胞または非標的細胞に応じて、細胞の1クラスが音響エネルギーによって生じる圧力節または腹に反応して蓄積し得る。例えば、標的細胞は圧力節に反応して主流内に蓄積し得、非標的細胞は圧力腹に反応して副流内に蓄積し得る。一般的に、細胞などの粒子は、これらの対比因子に反応する音響エネルギーによって移動される。粒子はこれらの対比因子の大きさおよび正負符号に比例する速度で移動し得る。いくつかの実施形態では、正の対比因子を有する粒子は圧力節に動かされ、一方、負の対比因子を有する粒子は圧力腹に動かされる。より大きい対比因子を有する粒子は、一般的に小さい対比因子を有する粒子よりも速い速度で動かされる。
【0060】
細胞がこれらの音響エネルギーに反応して動かされる速度は、一般的に粒子サイズ、密度、および圧縮度に依存する。簡単に説明すると、対比因子はここでは細胞である粒子の体積弾性係数(K)および密度(ρ)に基づいている。流体に懸濁化されるとき、対比因子(φ)は次の式で計算される。
【数1】
【0061】
いくつかの実施形態では、生物流体における標的細胞を非標的細胞から分離する方法は、標的細胞を含む少なくとも1つの主流を収集することを含む。一般的に、マイクロ流体分離チャンネルに入る生物流体は十分混合された主流であり、分離されていない標的細胞および非標的細胞を含む。音響エネルギーを受けて、標的細胞および非標的細胞は一般的に生物流体の全体的な流れの分画に蓄積し得る。標的細胞が選択的に豊富化されたマイクロ流体分離チャンネルを通って流れる生物流体の分画または複数分画は、主流として定められる。標的細胞が豊富化されたマイクロ流体分離チャンネル内に生物流体の2つ以上の分画があり得る。例えば、標的細胞は一つの実施形態においてチャンネルの中央で圧力節まで動かされ得、標的細胞はこれに代わる実施形態においてチャンネルの周辺で圧力腹まで動かされ得る。チャンネル内における圧力節および腹の配置は、音響エネルギーを配置することによって、または音響波の周波数または波長を選択することによって設計され得る。標的細胞を含む主流は、保存用、直接的な使用、患者への輸液、または研究のために収集され得る。特定の実施形態では、本方法が標的細胞枯渇化流体を生じるように設計される場合、標的細胞を含む主流は廃棄物として廃棄され得る。
【0062】
同様に、いくつかの実施形態では、標的細胞を非標的細胞から分離する方法は、非標的細胞を含む少なくとも1つの副流を収集することを含む。標的細胞が選択的に枯渇化され、非標的細胞が選択的に豊富化された生物流体における分画または複数分画は、副流として定められる。特定の実施形態では、標的細胞および非標的細胞は、反する対比因子を有する。反する対比因子によって、標的細胞および非標的細胞は反対方向に動かされ得、あるいは一つは全体的な流れから離れて、例えばチャンネルの中央または周辺に動かされ得る。他の実施形態では、標的細胞および非標的細胞は大きさが異なるが、同一の正負符号の対比因子を有する。これらの実施形態では、細胞の一つのクラスは他よりも速い速度で離され得、主流および副流を定める。副流は保存のため、さらなる研究のため、または廃棄物として廃棄されるため収集され得る。本方法は生物流体が標的細胞を枯渇化するように設計され、副流は後での使用または患者への輸液のために収集され得る。本方法は標的細胞を含む主流を収集することを含み、さらに非標的細胞を含む少なくとも1つの副流を別々に収集することを含み得る。
【0063】
特定の実施形態により、標的細胞が豊富化または標的細胞が枯渇化流体は、後処理されてレシピエント被験体に送達され得る。例えば、主流は後処理されてレシピエント被験体に送達され得る。流体を後処理することは、流体から毒素、汚染物質、または有害化学化合物を除去することができる洗浄、分離、濃縮、希釈、加熱、精製、またはろ過するような工程を含み得る。一般的に、流体は後処理されて、レシピエント被験体に、例えば前述のように腔内ラインを介して直接的に送達され得る生理学的に許容可能な流体を生じる。後処理された流体は、後のレシピエント被験体への送達のために保存され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、標的細胞が豊富化または標的細胞が枯渇化された流体は後処理されて治療用流体を生じる。流体を後処理することは、ウイルス形質導入、遺伝子導入、または標的細胞の遺伝子編集を含み、前述のように、レシピエント被験体に送達するための治療用の生理学的に許容可能な流体を生じ得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、レシピエント被験体はドナー被験体と同一である。他の実施形態では、ドナー被験体およびレシピエント被験体は同一ではない。ドナー被験体およびレシピエント被験体は一般的に生理学的に適合性であり得る。
【0066】
本方法は生物流体が被験体から収集された直接的に前処理されるようなラインで実施され得、標的細胞は本明細書で説明される方法によって生物流体中の非標的細胞から分離されて標的細胞が豊富化された流体を生じ、標的細胞豊富化流体は後処理され得、後処理された流体は当該被験体に直接的に送達して戻され得る。いくつかの実施形態では、本方法は基本的に前述されたように実施されるが、標的細胞は非標的細胞から分離されて標的細胞が枯渇化された流体を生じ、後処理されて被験体に送達して戻され得る。
【0067】
特定の実施形態により、本発明はさらに、生物流体に隣接する第二流体をマイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させることを含む。流入口はマイクロ流体分離チャンネルの生物流体流入口と離れた流入口であり得る。生物流体および第二流体は実質的に並行な形態で分離チャンネルを通って流れ得る。例えば、両流体はチャンネルの反対の周囲で分離チャンネルを通って流れ得、第二流体はチャンネルの両周囲を通って流れ得、または第二流体はチャンネルの中央で流れ得る。生物流体および第二流体は実質的に層化された形態で分離チャンネルを通って流れ得る。本明細書で使用されるとき、実質的に層化した流れは実質的に順序化した流れを含む。層化した流れは約2100未満のレイノルズ数(Re)を有し得る。特定の実施形態では、層化した流れは約4000未満のレイノルズ数(Re)を有する。
【0068】
特定の実施形態では、第二流体は水、脱イオン水、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を含み得る不活性流体である。第二流体は前処理した生物流体から独立して、密度勾配メディウムまたは密度添加剤によって調整された密度を有し得る。加えられる音響エネルギーは、標的または非標的細胞を生物流体から基本的に並行して流れる細胞を含まない第二流体に最初に移動させ得、そのため第二流体は今度は選択的に分離された細胞を含み、離れた流出口を通ってマイクロ流体分離チャンネルから流出し得る。標的細胞が第二流体に動かされる場合、標的細胞を含む第二流体は基本的に主流である。逆に、非標的細胞が第二流体に動かされる場合、第二流体は基本的に副流である。
【0069】
特定の実施形態により、本明細書で説明される方法は段階的分離または一連で実施され得る。特に標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体は、添加剤で前処理し、第二マイクロ流体分離チャンネルを通して流し、音響エネルギーを加えることによってさらに処理され得る。下流操作において流体に導入される添加剤は、第一通過分離工程で生物流体に導入されるものと同一または異なる添加剤であり得る。さらに、第一通過工程において選択される標的細胞は、第二通過工程において選択されるものと同一または異なり得る。非限定的な例として、生物流体は前処理され、マイクロ流体分離チャンネルを通って流されて血小板枯渇化流体を生じ得る。流出血小板枯渇化流体はさらに第二マイクロ流体分離チャンネルを通って流されて好中球および/または単球を除去し得る。別の非限定的な例として、生物流体はマイクロ流体分離チャンネルを通って流されてリンパ球豊富化流体を生じ得る。リンパ球豊富化流体は、第二マイクロ流体分離チャンネルを通して流され、さらなるリンパ球豊富化流体を生じ得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、第一通過標的細胞豊富化または標的細胞枯渇化流体は、再循環して生物流体または前処理生物流体に再導入されて、混合物としてマイクロ流体分離チャンネルを通って流れる。
【0071】
特定の実施形態により、本方法はさらに、少なくとも1つの主流に試薬を投与して投与された懸濁液を生じることを含む。少なくとも1つの主流は標的細胞豊富化流体であり得る。試薬は細胞活性化を生物化学的に誘発するように構成された抗原または活性化試薬から選択され得る。生物化学的に誘発された活性化は、活性化細胞の形態学的変化を利用することによって、細胞型のサブクラス、例えばリンパ球またはT細胞の選択を可能にし得る。いくつかの例では、活性化細胞は非活性化細胞より大きくなり得、細胞サイズは細胞周期全体を通して変化し得る。サイズにおける差は、音響エネルギーによる示差的分離を可能にし得る。
【0072】
本方法はさらに、標的細胞豊富化流体を1つのマイクロ流体分離チャンネルに通して、または一連で配列されたマイクロ流体分離チャンネルに通して流し、各分離チャンネルに音響エネルギーを加えることを含む。投与された懸濁液は細胞周期の特定の段階で標的細胞の選択を可能にし得る。
【0073】
例えば、本方法のいくつかの実施形態では、主流における標的細胞はリンパ球であり得、本方法は主流中の活性化リンパ球を非活性化リンパ球から分離することをさらに含む。本方法はさらに、リンパ球豊富化流体に試薬を投与して投与懸濁液を生じ、投与懸濁液を第二マイクロ流体分離チャンネルの流入口に流入させ、第二マイクロ流体分離チャンネルに音響エネルギーを加えることを含み得る。活性化リンパ球は第二分離チャンネルに沿った少なくとも1つの主流内に蓄積し得、非活性化リンパ球は第二分離チャンネルに沿った少なくとも1つの副流内に蓄積し得る。
【0074】
別の態様により、マイクロ流体細胞分離のためのシステムが提供される。システムは生物流体において標的細胞を非標的細胞から分離するように構成され得る。いくつかの実施形態では、システムは少なくとも1つの流入口および少なくとも1つの流出口を含む少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネルを含む。少なくとも1つの流出口は分岐化流出口であり得、分離チャンネルから実質的に離れる方向で分岐する。いくつかの実施形態では、マイクロ流体分離チャンネルは第一流出口および第二流出口を含む。少なくとも1つの流入口は生物流体を受容するように構成され得、少なくとも1つの流出口は音響エネルギーにさらされている生物流体を排出するように構成され得る。流体はマイクロ流体分離チャンネルを通って流れるとき、標的細胞および/または非標的細胞をチャンネル内で圧力節および腹に向けて動かす音響エネルギーにさらされ得る。いくつかの実施形態では、第一流出口は標的細胞豊富化流体を排出するように構成され、第二流出口は標的細胞枯渇化流体を排出するように構成される。
【0075】
マイクロ流体分離チャンネルは硬質材料から作製され得る。硬質材料は生物流体に対して高い音響コントラストを有し得る。代替実施形態では、マイクロ流体分離チャンネルは比較的弾性のある材料から作製され得る。弾性が高い材料は生物流体に対して低い音響コントラストを有し得るが、低い音響インピーダンスをもたらし、波伝送において比較的少ない波エネルギー損失をもたらす優れた音響共鳴器を形成し得る。マイクロ流体分離チャンネルを形成する材料は、シリコーン、ガラス、金属、熱可塑性物質、およびこれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、マイクロ流体分離チャンネルは熱可塑性材料から形成され得る。熱可塑性マイクロ流体分離チャンネルは、小型で使い捨てであることができ、例えばガラスまたは金属分離チャンネルよりも比較的安全であり、シリコーン、ガラス、または金属分離チャンネルよりも製造する費用が比較的低い可能性がある。いくつかの実施形態では、熱可塑性マイクロ流体分離チャンネルは射出成型によって製造される。熱可塑性材料は、ポリスチレン、アクリル(ポリメチルメタクリラート)、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ピリプロピレン、環状オレフィンコポリマー、シリコーン、液体結晶ポリマー、フッ化ポリビニリデン、およびこれらの組み合わせを含み得る。マイクロ流体分離チャンネルは使い捨てであり得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体分離チャネルは、約0.2~約0.8mmのチャネル幅を有する。マイクロ流体分離チャネルは、約0.2mm、約0.3mm、約0.4mm、約0.5mm、約0.6mm、約0.7mm、または約0.8mmの幅であり得る。いくつかの実施形態では、マイクロ流体分離チャンネルは、約15~約35mmの長さである。マイクロ流体分離チャネルは、約15mm、約20mm、約25mm、約30mm、または約35mmの長さであり得る。マイクロ流体分離チャネル幅は、各チャネルが音響エネルギーによって生じる圧力節および/または圧力腹を含むように、音響波波長と相互関連され得る。
【0077】
システムはさらに、マイクロ流体分離チャンネルと流体接続される生物流体供給源を含み得る。生物流体供給源は、マイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と流体接続された容器またはチャンバーであり得、生物流体を分離チャンネルに送達するように構成され得る。生物流体供給源は、マイクロ流体分離チャンネルを通して生物流体を流す前に生物流体に導入される添加剤または第二流体を受容するように構成される混合チャンバーであり得る。生物流体供給源は加熱、冷却、または混合され得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、生物流体供給源は腔内ラインの下流と流体接続され、ドナー被験体から直接的に生物流体を受容するように構成される。生物流体供給源はさらに生物流体サンプル、例えば、バッグ、容器、タンク、または他のチャンバーに収集されるサンプルに下流で流体接続され得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、システムは生物流体供給源と流体接続される添加剤供給源を含み、少なくとも1種類の添加剤を生物流体に導入するように構成される。生物流体供給源に含まれる添加剤は、前述のように、標的細胞のサイズ、非標的細胞のサイズ、生物流体の圧縮度、標的細胞の圧縮度、非標的細胞の圧縮度、標的細胞の凝集能、および非標的細胞の凝集能の少なくとも1つを変化または調節することができる添加剤であり得る。添加剤はさらに、生物流体の密度、標的細胞の密度、および非標的細胞の密度の少なくとも1つを変化または調節することが可能であり得る。添加剤供給源は、添加剤を含むチャンバー、容器、またはタンクであり得る。いくつかの実施形態では、システムは2つ以上の添加剤供給源を含み、各供給源は異なる添加剤を生物流体に導入するように構成される。いくつかの実施形態では、添加剤供給源は加熱、冷却され得、または混合装置を含み得る。
【0080】
システムはさらに、マイクロ流体分離チャンネルの壁と連結された少なくとも1つの音響トランスデューサーを含み得る。音響トランスデューサーは、定常音響波がマイクロ流体分離チャンネルを横断して加えられるように配置され得る。いくつかの実施形態では、音響トランスデューサーは細胞および/または粒子を圧力節または腹に動かす音響エネルギーを放出することができる。音響トランスデューサーは音響エネルギーを放出するように構成される圧電式振動構成要素を含み得る。密度が濃く大きい粒子および細胞が、圧電式トランスデューサーによって放出される音響エネルギーに反応して分離チャンネルの中心に向けて移動する。いくつかの実施形態では、音響トランスデューサーは約1.0~約4.0MHzの音響エネルギーを放出するように構成される。例えば、音響トランスデューサーは約1.5~約3.5MHzまたは約1.0~約2.0MHzの音響エネルギーを放出し得る。音響トランスデューサーは、マイクロ流体分離チャンネル幅より2倍長い波長を有する定常音響波をもたらすように構成され得る。
【0081】
マイクロ流体分離チャンネルはさらに、音響トランスデューサーによって生じる熱を消散させるように構成される1つ以上の熱シンクを含み得る。熱シンクは、音響トランスデューサーから生じる熱を十分消散させるように構成され、トランスデューサーが分離チャンネルを通って流れる流体を加温するのを防ぎ得る。いくつかの実施形態では、熱シンクは熱電冷却装置を含む。いくつかの実施形態では、システムは熱シンクに流れて熱シンクに流体冷却させる流体ラインを含む。
【0082】
2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルを含むシステムは、各マイクロ流体分離チャンネルと接続される1つの音響トランスデューサー、またはマイクロ流体分離チャンネルの集合と接続される1つ以上の音響トランスデューサーを含み得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、システムは少なくとも2つのマイクロ流体分離チャンネルを含む。少なくとも2つの分離チャンネルは、生物流体供給源の下流に並行配列で配置され得る。このような実施形態では、システムはさらに、生物流体を少なくとも2つのマイクロ流体分離チャンネルに分配するように構成されるマニホルドを含み得る。マニホルドは生物流体または前処理された生物流体サンプルを受容して、サンプルを下流のマイクロ流体分離チャンネルに均等に分配するように構成され得る。いくつかの実施形態では、マニホルドは流体を連続的に受容して分配するように構成され得、他の実施形態ではマニホルドは流体をバッチで受容して分配するように構成され得る。流体をバッチで受容して分配するように構成されるマニホルドは、規則的なタイマーによるものであり得、あるいはこれが流体を十分受容するときに流体バッチを分配し得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、マニホルドはシステムに加えられる流入生物流体量に反応して生物流体を分配するように構成される。いくつかの実施形態では、流入生物流体量は約1mL~約1Lの流体を含む。いくつかの実施形態では、システムの流入生物流体量は、約0.1~約10mL/分の流速を有し得る。各生物流体分離チャンネルは、約0.1~約0.5mL/分の流速を受容するように構成され得る。システムはさらに、システムにおける流入生物流体量を測定するように構成される少なくとも1つのセンサーを含む。流入生物流体量センサーはマニホルドと電気的に接続され得、これによってマニホルドは流入生物流体量センサーから受容される流入生物流体量の測定に反応して生物流体を2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルに分配し得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、システムはさらに、流入生物流体の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成される少なくとも1つのセンサーを含む。例えば、生物流体センサーは、生物流体の密度、生物流体のHCT%、生物流体における標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度の少なくとも1つを測定するように構成され得る。いくつかの実施形態では、生物流体センサーは所定の光学的波長で生物流体の光学的透過または吸収を測定するように構成される。少なくとも1つの生物流体センサーは、システム流入口に配置されて流入生物流体量からパラメータを測定するように構成され得、あるいは生物流体供給源内に配置されて生物流体または前処理された生物流体からパラメータを測定するように構成され得る。システムはさらに、生物流体センサーと電気的に接続されたコントロールモジュールを含み得る。コントロールモジュールはさらに、添加剤供給源と電気的に接続され、流入生物流体の少なくとも1つのパラメータの測定に反応して生物流体に添加剤の所定容量を導入するように構成され得る。
【0086】
特定の実施形態では、添加剤は生物流体の密度、標的細胞の密度、非標的細胞の密度の少なくとも1つを変化または調節することができ、添加剤の所定容量は標的細胞または非標的細胞の所望の密度または濃度を有するように生物流体を変化または調節するために決定される。例えば、添加剤の所定容量は、標的細胞または非標的細胞が生物流体における中立的音響浮揚に近づくことを可能にするように決定され得る。いくつかの実施形態では、添加剤の所定容量は、前述のように、生物流体の密度を約1.00~約1.15g/mLまたはこの範囲内の密度範囲または値に変化または調節するように決定される。
【0087】
特定の実施形態では、添加剤は生物流体のHCT%、標的細胞の濃度、非標的細胞の濃度の少なくとも1つを変化または調節することができ、添加剤の所定容量は生物流体のHCT%が約10%未満であるように変化または調節するために決定される。例えば、添加剤の所定容量は、生物流体のHCT%を約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満に変化または調節するように決定され得る。
【0088】
特定の実施形態により、システムはさらに、流出懸濁液のパラメータを測定するように構成される少なくとも1つのセンサーを含む。流出懸濁液は、少なくとも1つの流出口を通ってマイクロ流体分離チャンネルを出る標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体、あるいはシステムを出る生成物または廃棄物であり得る。センサーは、流出懸濁液におけるHCT%、標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度を測定し得る。いくつかの実施形態では、センサーは流出懸濁液の密度、標的細胞の密度、非標的細胞の密度、標的細胞のサイズ、非標的細胞のサイズ、流出懸濁液の圧縮度、標的細胞の圧縮度、非標的細胞の圧縮度、および添加剤の濃度の少なくとも1つを測定し得る。いくつかの実施形態では、センサーは所定の波長で流出懸濁液の光学的透過または吸収を測定し得る。
【0089】
システムはさらに、流出懸濁液センサーと電気的に接続されるコントロールモジュールを含み得る。コントロールモジュールは、音響トランスデューサーと電気的に接続され、音響トランスデューサーの少なくとも1つの入力パラメータを変化または調節するように構成され得る。例えば、コントロールモジュールは流出懸濁液のパラメータの測定に反応して音響トランスデューサーに送達される出力、電圧、または周波数を変化または調節し得る。コントロールモジュールは、流出懸濁液のパラメータの測定に反応して音響トランスデューサーをさらにオンまたはオフにし得る。例えば、コントロールモジュールは流出懸濁液におけるHCT%、標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度の測定に反応して作動し得る。流出懸濁液センサーと接続されるコントロールモジュールは、生物流体センサーと接続されるコントロールモジュールと同一または異なり得る。いくつかの実施形態では、いずれかのコントロールモジュールは、システム内のいずれかのセンサーからの測定に反応して作動するように設計され得る。例えば、添加剤の所定容量を生物流体に導入するように構成されるコントロールモジュールは、さらに流出懸濁液センサーまたは流入生物流体量センサーと電気的に接続されて、そこから受容される測定に反応して作動するように構成され得る。別の実施形態では、音響トランスデューサーと電気的に接続されるように構成されるコントロールモジュールはまた、他のセンサーと電気的に接続されて、生物流体量センサーまたは生物流体センサーから受容される測定に反応して作動するように構成され得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、添加剤の所定容量、あるいは音響トランスデューサーに送達される出力、電圧、または周波数は、流出懸濁液のHCT%を調節するために制御される。例えば、システムは約20%未満、約10%未満、または約1%未満の所望のHCT%を有する流出懸濁液をもたらすように制御され得る。いくつかの実施形態では、流出懸濁液のHCT%は、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満であるように制御される。所望の流出懸濁液HCT%は、システムを通って流される正確な生物流体および流入生物流体HCT%に依存する。例えば、流入生物流体が45%のHCT%を有する全血である場合、システムは約5%のHCT%を有する流出懸濁液をもたらすように制御され得る。
【0091】
システムはさらに、少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と流体接続される第二流体供給源を含み得る。第二流体供給源は、マイクロ流体分離チャンネル、生物流体供給源、または生物流体供給源をマイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と接続するラインと流体接続される容器、タンク、またはチャンバーであり得る。第二流体供給源は第二流体を生物流体に導入するように構成され得る。いくつかの実施形態では、生物流体および第二流体は、前述のように、実質的に並行して実質的に層化流で流れる。第二流体は前述のようないずれかの流体であり得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、システムはさらに、マイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流出口と流体接続される第一および第二収集チャンネルを含み得る。収集チャンネルは、流出懸濁液を容器に送達するように構成された流体ライン、再循環ラインであり得、または被験体に流出懸濁液を送達するように構成される腔内ラインと流体接続可能であり得る。収集容器が第一および第二収集チャンネルと流体接続され得る。収集容器は流出懸濁液を保存、凍結、加熱、さもなければ維持するために使用され得る。
【0093】
特定の実施形態により、システムはさらに再循環ラインを含む。いくつかの実施形態では、再循環ラインは流出懸濁液を第二通過分離のために生物流体供給源に送達して戻すように構成されるラインまたはチャンネルである。再循環ラインは流出懸濁液をマイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口に送達して戻すように構成され得る。再循環される流出懸濁液は標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体であり得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、システムは後処理チャンバーを含む。後処理チャンバーは流出懸濁液を後処理して、前述のような後処理流体、生理学的に許容可能な流体、または治療用流体を生じるように構成され得る。
【0095】
本システムは生物流体をシステムに通して移動させる1つ以上のポンプを含み得る。1つ以上のポンプは生物流体をシステムに通すのに十分な圧力を生じるように構成される注入ポンプであり得る。いくつかの実施形態では、ポンプは腔内ラインを通して流出懸濁液をレシピエント被験体に導入するのに十分な圧力を生じる。
【0096】
システムは、細胞の分離のためのインラインシステムを作製するために、2つ以上の腔内ラインと接続可能であり得る。例えば、システムはドナー被験体から生物流体を取り出して、これを生物流体供給源にプロセシングのために送達するように構成された腔内ラインと接続可能であり得る。システムは流出懸濁液、例えば標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体をレシピエント被験体に送達するように構成される腔内ラインと接続可能であり得る。いくつかの実施形態では、レシピエント被験体はドナー被験体と同一であり得え、生物流体プロセシングはインラインでリアルタイムに実施される。
【0097】
いくつかの実施形態では、システムは一連に配列された2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルを含む。2つ以上の一連のマイクロ流体チャンネルが、連続的な分離チャンネルにおいて標的細胞を非標的細胞から分離して高い標的細胞純度を有する流体を生じるように構成され得る。いくつかの実施形態では、2つ以上の一連のマイクロ流体分離チャンネルが、標的細胞豊富化流体を下流のマイクロ流体分離チャンネルに送達するように構成される。代替の実施形態では、2つ以上の一連のマイクロ流体分離チャンネルが、標的細胞枯渇化流体を下流のマイクロ流体分離チャンネルに送達するように構成される。いくつかの実施形態では、一連のマイクロ流体分離チャンネルは、比較的大きい容量の生物流体を処理するために積み重ねられる。積み重ねられた形状は、分離チャンネルの分岐した流出口を、下流の分離チャンネルの分岐した流入口と容易に接続可能にすることができる。
【0098】
別の態様により、標的細胞の非標的細胞からの分離のためのキットが提供される。キットは、音響トランスデューサーと接続される少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネル、マイクロ流体分離チャンネルの少なくとも1つの流入口と流体接続可能である添加剤供給源、および使用のための取扱説明書を含み得る。少なくとも1つのマイクロ流体分離チャンネルは、本明細書で前述されるように、標的細胞を非標的細胞から分離するように構成され得る。添加剤供給源は、本明細書で前述されるように容器、チャンバー、またはチャンネルであり得、本明細書で前述されるように少なくとも1種類の添加剤を含み得る。キットはさらに、マイクロ流体分離チャンネルと接続可能である本明細書で説明されるシステムのいずれかの構成要素を含み得る。例えば、特定の実施形態により、キットはさらに収集チャンネル、収集容器、マニホルドシステム、センサー、コントロールモジュール、腔内ライン、ポンプ、後処理チャンバー、またはキットの構成要素を流体接続する流体ラインを含み得る。
【0099】
キットはマイクロ流体分離チャンネルの第一流出口および第二流出口の一つと流体接続可能である収集チャンネルを含み得る。キットは収集チャンネルと流体接続可能である収集容器を含み得る。キットは第一流出口と流体接続され、標的細胞豊富化流体または標的細胞枯渇化流体をマイクロ流体分離チャンネルに再循環させるように構成される収集チャンネルを含み得る。キットはマイクロ流体分離チャンネルの1つおよび第一または第二流出口の1つと流体接続可能である腔内ラインを含み得る。キットは生物流体供給源と並行または一連で流体接続可能である2つ以上のマイクロ流体分離チャンネルを含み得る。キットはマイクロ流体分離チャンネルと接続可能である1つ以上のセンサーまたはコントロールモジュールを含み得る。
【0100】
キットは、生物流体を収集し、所定容量の添加剤を生物流体供給源に導入することによって生物流体を前処理し、前処理した生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに通して流し、分離チャンネルに音響エネルギーを加えるための取扱説明書を含み得る。いくつかの実施形態では、キットは生物流体の密度、あるいは標的細胞または非標的細胞の濃度を変化または調節するために添加剤を導入するための取扱説明書を提供する。キットは本明細書で前述されるように、前処理した生物流体の所望の密度を制御するために添加剤の所定容量を導入するための取扱説明書を含み得る。例えば、キットは生物流体を約1.04~約1.07g/mLの密度に制御するために添加剤を導入するための取扱説明書を含み得る。キットはさらに、本明細書で前述されるように、流出懸濁液におけるHCT%、標的細胞の濃度、または非標的細胞の濃度を変化または調節するために音響トランスデューサーの出力、電圧、または周波数を制御するための取扱説明書を含み得る。例えば、キットは流出懸濁液HCT%を約10%未満であるように調節するための取扱説明書を含み得る。キットは、標的細胞を非標的細胞から分離する方法のいずれかのステップまたは一連のステップを実施するための取扱説明書を含み得る。
【0101】
本発明の前述の実施形態および他の実施形態の機能および利点は、本発明の全範囲は例示していないが、本発明の1つ以上のシステムおよび技術の効果および/または利点をさらに説明する、後述の図の説明からさらに理解することができる。
【0102】
図1の例示的な概略図に示されるように、標的細胞18ならびに非標的細胞16および20を含む生物流体は、流入口10を通ってマイクロ流体分離チャンネル28に流される。音響エネルギーが破線で示される長方形内で分離チャンネル28に加えられる。音響エネルギーは、圧電式トランスデューサー(図示なし)を分離チャンネルの1つの壁に取り付けることによって加えられる。標的細胞18は主流32内に蓄積して第一流出口14を通って分離チャンネル28を出る。標的細胞豊富化流体は第一流出口14を出る。非標的細胞16および20は副流30内に蓄積して第二流出口12を通って分離チャンネルを出る。非標的細胞18および20は廃棄流体に含まれる。いくつかの実施形態では、主流32内の標的細胞豊富化流体が収集される。
【0103】
同様に、
図2の例示的な概略図に示されるように、標的細胞18ならびに非標的細胞16および20を含む生物流体は、流入口10を通過してマイクロ流体分離チャンネル28を通って流される。
図2に例示される実施形態では、標的細胞18は基本的に、音響エネルギーにさらされるときに分離チャンネル28の周辺で、2つの主流34および38に蓄積する。非標的細胞16および20は基本的に、中央の副流36に蓄積する。主流34および38(標的細胞豊富化流体)は周辺の第一流出口22および26を通って分離チャンネル28を出るが、副流36(廃棄流体)は第二流出口24を通って分離チャンネル28から出る。この例の実施形態では、非標的細胞16および20は音響エネルギーにより感受性であり、そのためこれらは分離チャンネル28の中央領域(副流36)に素早く移動し、一方、標的細胞18は音響エネルギーから弱い力を受け、分離チャンネル28の周辺領域に残存する(主流34および38)。
【0104】
図3および
図4はマイクロ流体分離チャンネルの下流端の顕微鏡画像である。
図3では、マイクロ流体分離チャンネルは音響エネルギーを受けていない。画像に示されるように、均一な細胞懸濁液が分離されずにチャンネルを通って流れる。
図4では、マイクロ流体分離チャンネルは音響エネルギーを受けている。暗い影で示される非標的細胞は、中央流を通って移動し、一方、標的細胞(画像では個別的に目視できない)は外側流を通って移動することが認められる。
図4に示さられる分離は、
図3で認められるよりも極めて大きい。
【0105】
図5に示されるように、特定の実施形態により、生物流体における標的細胞および非標的細胞のマイクロ流体分離のためのシステムは、生物流体供給源110、添加剤供給源120、および音響トランスデューサー240と接続されたマイクロ流体分離チャンネル140を含み得る。システムはさらに、流入生物流体のパラメータを測定するように構成されたセンサー180および主流のパラメータを測定するように構成されたセンサー360を含み得る。センサーはコントロールモジュール340および160と電気的に接続され得、これによってコントロールモジュール340は音響トランスデューサー240の流入パラメータを変化または調節するように構成され、コントロールモジュール160は添加剤の所定量を生物流体に導入するように構成される。
【0106】
システムはさらにドナー被験体280と流体接続される腔内ライン260およびレシピエント被験体320と流体接続される第二腔内ライン300を含み得る。レシピエント被験体320およびドナー被験体280は同一被験体であり得る。マイクロ流体分離チャンネル140は前処理生物流体を主流および副流に分離し得、標的細胞を含む主流(標的細胞豊富化流体)は主流収集チャンネル200に向けて移動され、非標的細胞を含む副流(標的細胞枯渇化流体)は副流収集チャンネル220に向けて移動される。主流は再循環ライン380を通って生物流体供給源110に再循環して戻され得、あるいは後処理チャンバー400で後処理され得る。いくつかの実施形態では、後処理チャンバー400は腔内ライン300と流体接続される。副流は収集容器420で収集され得る。システムはさらに、マイクロ流体分離チャンネル140と流体接続される第二流体供給源460を含み得る。
図6では、生物流体における標的細胞と非標的細胞のマイクロ流体分離のためのシステムは、さらに2つ以上のマイクロ流体分離チャンネル140を含み得る。示される実施形態では、各マイクロ流体分離チャンネル140は音響トランスデューサー240と接続されるが、システムは2つ以上のマイクロ流体分離チャンネル140と接続される1つの音響トランスデューサー240を含み得る。2つ以上のマイクロ流体分離チャンネル140は、マニホルド440と流体接続され得、センサー500と流体接続または電気的に接続され得る。マニホルド440は、生物流体供給源110の上流の流入生物流体量のセンサー500から受容される測定に反応して、マイクロ流体分離チャンネル140に生物流体を分配するように構成され得る。いくつかの実施形態では、システムはマイクロ流体分離チャンネル140から主流を収集するように構成される、マイクロ流体分離チャンネル140の下流に収集チャンネル200を含む。システムはさらに、収集チャンネル200の下流に収集容器480を含み得る。
【0107】
図14の例示的な概略図に示されるように、第二流体42は前処理生物流体40と基本的に並行流で、マイクロ流体分離チャンネル28を通って流され得る。第二流体42は中央流入口46を通ってマイクロ流体分離チャンネル28に入り、一方、前処理生物流体40は周辺流入口44および48を通ってマイクロ流体分離チャンネル28に入る。第二流体42は分離チャネル28に入るときに細胞を含まない。非標的細胞16および20は加えられる音響エネルギーによって中央流に向けて移動され、廃棄流出口24を通って分離チャンネルを出る。標的細胞18はマイクロ流体分離チャンネル28内で基本的に浮揚しており、中央流に向けて動かされない。
図14の例示的な実施形態で評価された回収率は約70%であると計算される。
図2で例示されたような、第二流体を導入することがない実施形態で評価された回収率は約65%である。
【0108】
実施例
実施例1:リンパ球の精製のための音響分離
ヒトバフィーコートからのリンパ球の分離をマイクロ流体分離チャンネルによって実施した。バフィーコートをヒト全血から分離して収集した。バフィーコートを約1秒の滞留時間でマイクロ流体分離チャンネルに通して流し、超音波をチャンネルに加えて、超音波波長のスケール(~1mm)で断面を有するチャンネルの一部を振動させた。チャンネルでの音響エネルギーは、細胞を軸中央流に向けて動かすように加えられた。
【0109】
リンパ球は赤血球および他の白血球よりも弱い力を受け、代替細胞と比べたときのリンパ球のサイズと密度の間の差によるものである。血液バフィーコートがチャンネルを通して流されて音響エネルギーにさらされたとき、リンパ球集団はチャンネルの外側で主流に沿って蓄積し、例えば
図4に示されるようにリンパ球豊富化流体はチャンネルにおける分岐によって分離された。リンパ球豊富化流体を収集して分析した。
【0110】
最初の流出細胞数は標準的な血液分析装置によって測定した。結果を
図9のグラフに示す。リンパ球豊富化流出懸濁液では、リンパ球集団は他の白血球と比べて、34%(初期集団)から87%(流出集団)まで豊富化された。リンパ球はマイクロ流体分離チャンネルを1回通過することによって2.5倍豊富化された。全リンパ球回収率は21%だった。赤血球濃度は50%低下した。赤血球からのリンパ球回収および分離は、添加剤を用いて、装置チューニング(例えば、音響トランスデューサーの入力および/または出力パラメータのチューニング)、および分離チャンネル通過を繰り返し実施することによって増加することができる。
【0111】
一般的に、特定の理論に拘束されることは望まないが、非標的細胞は中央流に向けて集中され、一方、リンパ球は中央流に向けた集中が弱く、周辺流に保持されると考えられる。
【0112】
従って、リンパ球は本明細書で説明されるシステムおよび方法によって、類似細胞(白血球)から選択的に分離することができる。
【0113】
実施例2:密度勾配メディウムによる音響分離
リンパ球および非標的細胞を含む血液バフィーコートを、全般的に前述のように音響エネルギーにさらした。バフィーコートをマイクロ流体分離チャンネルに通して流す前に、バフィーコートサンプルを密度勾配メディウムによって約1.00~1.15(g/mL)の範囲の希釈密度に希釈することによって前処理した。結果は、生成物における細胞の比の定量的測定である分離比(分離効率)で測定する。
【0114】
任意のサブ集団xの分離比は、
【数2】
であり、ここで「side」は主流および「center」は副流である。
【0115】
側部経路(主流)から出る流れの割合はまた分流とも呼ばれ、
【数3】
である。
【0116】
密度勾配メディウムによって希釈された生物流体分離比の結果を
図10のグラフにまとめて示す。示されるように、密度勾配メディウムはリンパ球の他の白血球からの十分な分離をもたらすが、リンパ球の赤血球からの分離に影響を及ぼさず、溶液密度の増加で一定して約1.0のままである。リンパ球の他の白血球からの最大分離は、リンパ球の密度(約1.06g/mL)の近くでもたらされた。特定の理論に拘束されることは望まないが、密度勾配メディウムはこの範囲において赤血球からの細胞の分離に効率的には影響を及ぼさず、これは赤血球の密度が懸濁化流体よりも有意に高いままであるためであると考えられる。
【0117】
従って、生物流体における白血球からのリンパ球分離は、密度勾配メディウムのような添加剤によって生物流体を前処理することによって、優れた結果を伴って実施することができる。特定の理論に拘束されることは望まないが、生物流体の密度、標的細胞の密度、非標的細胞の密度、標的細胞のサイズ、非標的細胞のサイズ、生物流体の圧縮度、標的細胞の圧縮度、非標的細胞の圧縮度、標的細胞の凝集能、および非標的細胞の凝集能を変化することができる添加剤を用いた前処理による細胞分離は、前処理のないものよりも優れた結果をもたらし、これは細胞が移動する速度が懸濁化生物流体の密度および圧縮度と比べて、細胞サイズ、密度、および圧縮度に一般的に依存するためであると考えられる。
【0118】
実施例3:細胞凝集剤による音響分離
リンパ球および非標的細胞を含む血液バフィーコートを、全般的に前述のように音響エネルギーにさらした。バフィーコートをマイクロ流体分離チャンネルに通して流す前に、細胞凝集剤を導入することによってバフィーコートサンプルを前処理した。具体的には、Ficoll(商標)PM300細胞メディウム(GEヘルスケア、シカゴ、イリノイ州)である長鎖ポリサッカライドを生物流体に導入した。細胞凝集剤で前処理されたサンプルは、前述のように密度勾配メディウムで前処理された(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州によって供給されるHistopaque(登録商標)メディウムによる前処理)サンプルと比較した。
【0119】
結果を
図13のグラフにまとめて示す。細胞凝集剤によって前処理されたサンプルは、密度勾配メディウムによって前処理されたサンプルよりも優れた赤血球除去を示した。しかし、細胞凝集剤サンプルは密度勾配メディウムサンプルよりも低いリンパ球回収率を示した。それにも関わらず、細胞凝集剤サンプルおよび密度勾配メディウムサンプルはともに、PBSのみで前処理された対照サンプルよりも改善された赤血球除去およびリンパ球回収を示した。従って、生物流体を細胞懸濁剤で前処理することは、非標的細胞の優れた除去をもたらすが、生物流体を密度勾配メディウムによって前処理するよりも標的細胞回収率が劣る。さらに、生物流体におけるリンパ球の白血球からの分離は、生物流体を密度勾配メディウムまたは細胞凝集剤で前処理することによって、生物流体をPBSのみで前処理するものと比べて優れた結果を伴って実施することができる。
【0120】
実施例4:密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤による音響分離
リンパ球および非標的細胞を含む血液バフィーコートを、全般的に前述のように音響エネルギーにさらした。バフィーコートをマイクロ流体分離チャンネルに通して流す前に、バフィーコートサンプルを密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤を含む添加剤で希釈することによって前処理して、約1.00~1.10(g/mL)の範囲の溶液密度を得た。具体的には、サンプルをHistopaque(登録商標)メディウム(シグマアルドリッチ、セントルイス、ミズーリ州)によって前処理した。
【0121】
結果を
図11のグラフにまとめて示す。グラフは密度勾配メディウム単独と比べて赤血球からのリンパ球の非常に優れた豊富化を示す(
図10)。リンパ球/赤血球トレンドラインは、密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤を含む添加剤が、溶液密度の増加に伴うリンパ球の赤血球からの分離の全般的な増加を示す。これに反し、リンパ球/白血球トレンドラインは、溶液密度の増加に伴うリンパ球の白血球からの分離の全般的な低下を示す。最適な溶液密度はトレンドラインが交差する地点、または約1.06g/mLであり、おおよそリンパ球の密度である。従ってリンパ球は、溶液の密度を約1.06g/mLに変化するように構成される添加剤によって最も効率的に赤血球および白血球から分離することができる。
【0122】
さらに、生物流体における赤血球および白血球からのリンパ球分離は、生物流体が密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤の両方によって前処理されるときにさらに効率的である。データはメディウムの併用が、各メディウム単独による細胞分離と比べて相乗的な結果であることを示す。
【0123】
結論-比較結果
同様なリンパ球分離実験では、長鎖ポリサッカライド(細胞凝集剤)およびPBSによって希釈された生物流体は、優れた赤血球除去を示したが、密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤で希釈された生物流体よりも低いリンパ球回収を示した。高い塩濃度PBS(400mOsm PBS)によって希釈された生物流体は優れた赤血球除去を示したが、密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤で希釈された生物流体と比べたときに低いリンパ球回収を示した。最終的に、等張PBSで希釈された生物流体は、密度勾配メディウムおよび細胞凝集剤で希釈された生物流体と比べたとき、ならびに一般的に他の実験と比べたときに、すべてのマトリックスにわたって低い性能を示した。
【0124】
従って、生物流体を添加剤によって前処理することは、生物流体のみの音響分離と比べて、標的細胞と非標的細胞の間の分離の増加をもたらし得る。
【0125】
実施例5:標的細胞間の比較-リンパ球および単球分離比
リンパ球および単球を含む生物流体をマイクロ流体分離チャンネルに通して流して音響エネルギーにさらした。リンパ球分離比を前述のように計算した。単球分離比をリンパ球分離比と比較した。結果を
図12のグラフに示す。データは、単球とリンパ球の間に示差的分離があることを示唆する。他の分離方法、例えば遠心分離は、リンパ球を単球から分離しないため、結果は意義深いものである。従って、本明細書で開示されるシステムおよび方法は、白血球の種々のクラス間を含め、細胞型間の示差的分離を可能にする。
【0126】
実施例6:生物流体間の比較-白血球アフェレシス産物、バフィーコート、および全血からのリンパ球の精製および回収
生物流体サンプルからのリンパ球の音響分離を、全般的に前述のように実施した。生物流体サンプルは、白血球アフェレシス産物、血液バフィーコート、および全血を含んだ。一般的に、白血球アフェレシス産物は他の細胞に対して白血球の最も高い比を含み、血液バフィーコートは他の細胞に対して中間範囲の比を含み、全血は他の細胞に対して最も低い比を含む。従って予期されるように、リンパ球回収率(生物流体サンプルにおけるリンパ球に対する生成物におけるリンパ球の割合)、およびリンパ球純度(全白血球濃度に対するリンパ球の割合として)は、生物流体が3例の生物流体で、白血球アフェレシス産物であるように選択されるときに最大である。
【0127】
図7および8のグラフにおける結果で示されるように、白血球アフェレシス産物、バフィーコート、および全血からのリンパ球回収率はそれぞれ71%、54%、および18%である。これらのサンプルにおけるリンパ球純度は高く、それぞれ93%、83%、および39%だった。さらに、分離は回収目標に応じて、約94%の赤血球低下(生物流体から低下した赤血球の割合)をもたらした。従って、本明細書で開示される細胞分離のためのシステムおよび方法は、様々な純度の生物流体サンプルを、最初の音響分離工程の通過によって効果的に回収および精製し得る。
【0128】
従来技術の当業者は、本明細書で説明されるパラメータおよび構成が例示的なものであり、実際のパラメータおよび/または構成は開示される方法および材料が使用される特定の適用に依存することを認識すべきである。従来技術の当業者はまた、日常的な実験のみを用いて、開示される特定の実施形態に対する均等物を認識し、または確認することができるであろう。例えば、従来技術の当業者は、本開示による方法およびこの構成要素が、さらにネットワークまたはシステムを含み得、あるいはマイクロ流体細胞分離のためのシステムの構成要素であり得ることを認識し得る。従って、本明細書で説明される実施形態は例による方法によってのみ提示され、添付の請求項およびこの均等物の範囲内において、開示される実施形態が具体的に説明される以外で実施され得ることが理解されるべきである。本システムおよび方法は、本明細書で開示される各個別の特性、システム、または方法に示されている。さらに、2つ以上のこのような特性、システム、または方法のいずれかの組み合わせは、このような特性、システム、または方法が相互に矛盾しない場合、本開示の範囲内に含まれる。本明細書で開示される方法のステップは説明される順序または代替の順序で実施され得、本方法は追加または代替の活動を含み得、または説明が省略された活動の1つ以上によって実施され得る。
【0129】
さらに、様々な代替、変更、および改善が従来技術の当業者によって容易に生じることが認識されるべきである。このような代替、変更、および改善は本開示の一部であることが意図され、本開示の精神および範囲内であることが意図される。他の例では、既存の設備が本明細書で開示される方法およびシステムのいずれか1つ以上の態様を利用または組み込むために変更され得る。このため、いくつかの例では、システムはマイクロ流体細胞分離を含み得る。従って、前述の説明および図は例としてのみのものである。さらに、図面の描写は、本開示を特に説明した表現に限定するものではない。
【0130】
本明細書で使用される専門用語および用語は説明のためのものであり、限定するものとしてみなされるべきでない。本明細書で使用されるとき、用語「複数の」は2つ以上の項目または構成要素を意味する。用語「含んでいる(comprising)」、「含んでいる(including)」、「有している(carrying)」、「有している(having)」、「含んでいる(containing)」、および「含んでいる(involving)」は、記載された説明または請求項などのいずれでも、制限のない用語であり、すなわち「含んでいるが限定されない」を意味する。このため、このような用語の使用は、以下でリスト化される項目、およびこれらの同等物、ならびに追加の項目を包含することを意味する。移行句である「からなる」および「から基本的になる」のみが、請求項と関連してそれぞれ排他的または半排他的な移行句である。請求構成要素を変更する請求項における「第一」、「第二」、「第三」などの順序を示す用語の使用は、それ自体によって、いずれかの優先、先行、または一つの請求構成要素が別のものを超える順序、あるいは方法の活動が実施される一時的順序を含むものではなく、請求構成要素を区別するために、特定の名称を有する一つの請求構成要素を同一名を有する別の構成要素(しかし順序を示す用語の使用)から区別する表示としてのみ使用される。
【0131】
本開示の例示的な実施形態が開示されているが、多くの変更、追加、または削除が、次の請求項に示される、本開示およびその均等物の精神および範囲から逸脱することなくなされ得る。