(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
G01L3/10 301D
(21)【出願番号】P 2022124562
(22)【出願日】2022-08-04
(62)【分割の表示】P 2018108043の分割
【原出願日】2018-06-05
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000112978
【氏名又は名称】ブリヂストンサイクル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】能村 敬英
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-212020(JP,A)
【文献】特開平08-039432(JP,A)
【文献】特開2002-168706(JP,A)
【文献】特開平11-304607(JP,A)
【文献】特開2015-010870(JP,A)
【文献】特開2015-071803(JP,A)
【文献】米国特許第5496651(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10,
B62M 6/00,
C25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アシスト自転車のクランク軸に作用するトルクを検出するために、該クランク軸となる回転軸の外周に磁歪部が形成された電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法において、
前記回転軸の外周に不動態被膜を形成することで耐食性を維持でき、かつ、融点が500℃以上である金属のめっきを施すめっき工程と、前記回転軸の前記磁歪部を形成する位置に磁性材料を溶射する溶射工程と、を有し、
前記めっき工程にて、前記回転軸の回転摺動部に、前記回転軸の外周と同時にめっきを施すことを特徴とする電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法。
【請求項2】
前記めっきが、ニッケル-リンめっきである請求項1記載の電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法に関し、詳しくは、電動アシスト自転車等に好適に用いることができる磁歪式のトルクセンサ軸の製造方法であって、耐食性を有し、かつ、安定した出力感度を有するトルクセンサ軸が得られる電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動アシスト自転車等の電動機付自転車は、クランク軸に作用するトルクに応じて補助動力を出力するため、トルクを検出するトルクセンサを組み付ける必要がある。このトルクセンサに用いられるトルクセンサ軸として、クランク軸の外周に磁歪部が設けられたトルクセンサ軸が知られている。この磁歪部を、クランク軸の外周に磁歪箔を巻き付けて、接着剤で止着して形成する場合、磁歪部とクランク軸との密着性が高くないため、十分なトルクの検出特性が得られず、また、短寿命の問題も生じる。
【0003】
このような状況の中、特許文献1では、トルクの検出特性を向上させ、かつ、製造コストを低減することができるトルクセンサの製造方法が提案されている。具体的には、外周面にアモルファス合金皮膜(金属ガラス皮膜を含む)を含む磁歪部を有するトルクセンサ軸を製造するにあたり、磁歪部を形成するアモルファス合金皮膜を、金属粉末を含む火炎を噴射して金属粉末を溶融させるとともに、火炎が回転軸の外周面に達する前より外側からの冷却ガスにて冷却する方式の溶射によって、回転軸の外周面に磁歪部を形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、トルクセンサ軸には、防錆を目的として亜鉛等のめっきがなされている。そのため、特許文献1で提案されている様に、トルクセンサ軸の磁歪部を磁性材料の溶射により形成すると、亜鉛めっきが高温状態となり、一般的な亜鉛めっきでは熱で溶融してしまう。この対応策として、トルクセンサ軸に亜鉛めっきを行わなかったり、磁性材料の溶射の後に亜鉛めっきをおこなったり、等が考えられる。しかしながら、トルクセンサ軸に亜鉛めっきがなされていない場合、錆により出力が変化してしまう。また、磁性材料の溶射の後に亜鉛めっきを行うと、磁歪部に亜鉛めっきが形成されることになるため、出力感度が低下したり、亜鉛めっきの厚みのバラツキにより、出力感度がバラついたり、といった問題が生じてしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、このような問題を解消し、耐食性を有し、かつ、安定した出力感度を有するトルクセンサ軸が得られる電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、外周上に磁歪部を設けたトルクセンサ軸を製造するにあたって、回転軸上に磁歪部を溶射により形成する前に、回転軸に所定のめっきを施すことにより、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法は、電動アシスト自転車のクランク軸に作用するトルクを検出するために、該クランク軸となる回転軸の外周に磁歪部が形成された電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法において、
前記回転軸の外周に不動態被膜を形成することで耐食性を維持でき、かつ、融点が500℃以上である金属のめっきを施すめっき工程と、前記回転軸の前記磁歪部を形成する位置に磁性材料を溶射する溶射工程と、を有し、
前記めっき工程にて、前記回転軸の回転摺動部に、前記回転軸の外周と同時にめっきを施すことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法においては、前記めっきが、ニッケル-リンめっきであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性を有し、かつ、安定した出力感度が得られるトルクセンサ軸が得られる電動アシスト自転車用トルクセンサ軸の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るトルクセンサ軸の製造方法で得られるトルクセンサ軸の概略平面図である。
【
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るトルクセンサ軸の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のトルクセンサ軸の製造方法について、詳細に説明する。
本発明のトルクセンサ軸の製造方法は、回転軸の外周に磁歪部を有するトルクセンサ軸の製造方法であり、
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るトルクセンサ軸の製造方法で得られるトルクセンサ軸の概略平面図である。図示するトルクセンサ軸10は、回転軸1の外周に、磁歪効果を持つ磁歪部2が形成されており、この磁歪部2の外周に、回転軸方向と直交する方向に配置された、回転軸方向に対して45°の角度をなす複数のスリット3aが設けられている。図示例においては、スリット3aは、周方向に沿ってほぼ平行に複数配置されるとともに、これらが回転軸方向に3列配置されている。これらの3列の複数のスリット3aの右隣りには、3列のスリットと略左右対称に配置された3列の複数のスリット3bが設けられている。なお、図示例においては、スリット3a、3bは、3列ずつ配置されているが、本発明のトルクセンサ軸の製造方法に係るトルクセンサ軸10においてはこれに限定されず、例えば、1列ずつであってもよい。
【0013】
図2に、本発明の一好適な実施の形態に係るトルクセンサ軸の製造方法のフローチャートを示す。図示するフローチャートにおいては、回転軸1の外周にめっきを施すめっき工程と、磁歪部2を形成する位置のめっきをショットブラストにて除去するショットブラスト工程と、回転軸1を予熱する予熱工程と、磁性材料を回転軸1に溶射して磁歪部2を形成する溶射工程と、回転軸1が所定の温度まで上昇したら、回転軸1を所定の温度まで冷却する冷却工程と、回転軸1の外周上の磁歪部2に、スリット3を形成する位置以外を覆うマスキング工程と、磁歪部2にショットブラストによりスリット3を形成するスリット形成工程と、上記マスキングを除去するマスキング除去工程と、からなっている。
【0014】
本発明のトルクセンサ軸の製造方法は、回転軸1の材料として、鉄系の材料を使用する。鉄系の材料は安価で加工が容易であるという利点を有しており、例えば、通常の炭素鋼等を用いることができる。また、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、めっき工程にて、回転軸1の外周に、不動態被膜を形成することで耐食性を維持でき、かつ、融
点が500℃以上である金属のめっきを施す。このように、回転軸1の外周に不動態被膜を形成する金属をめっきすることで、トルクセンサ軸10の錆を防止し、トルクセンサ軸10の耐食性を向上させることができる。このような、不動態被膜を形成する金属としては、ニッケル、クロム、アルミニウム、チタン、銅等が挙げられる。また、本発明のトルクセンサ軸の製造方法では、磁歪部2は溶射工程にて形成するが、この溶射工程では回転軸1が高温になるため、回転軸1の外周に、一般的な亜鉛めっきが施されていると、亜鉛めっきが溶融してしまう。そのため、回転軸1上のめっきには、耐熱性の高い金属を用いる必要がある。かかる観点から、めっき工程で用いるめっきとしては、融点が500℃以上の金属を用いる。
【0015】
本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、めっき工程におけるめっき方法については特に制限はなく、電解めっきでも、無電解めっきでもよいが、膜厚を調整しやすいことと、後述する理由により、無電解ニッケル-リンめっき(無電解Ni-Pめっき)が好ましい。なお、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、無電解Ni-Pめっきの条件等については、特に制限はなく、既知の条件等を採用することができる。
【0016】
本発明のトルクセンサ軸の製造方法は、上述のめっき工程の後に、回転軸1の磁歪部2を形成する位置に、磁性材料を溶射する溶射工程を有する。この溶射工程は、例えば、磁性材料の粉末を含む火炎を噴射して金属粉末を溶融させ、火炎と溶融した磁性材料とを回転軸1に噴射することにより行うことができる。そのため、磁歪部2は接着剤等を介在させることなく、回転軸1に直接溶着されているので、トルクセンサ軸10への応力が磁歪部2に良好に伝達され、これにより、トルクセンサの感度が良好なものになる。ここで、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、溶射工程における回転軸1の温度は、300~500℃に調整することが好ましい。本発明のトルクセンサ軸の製造方法では、回転軸1に施されているめっきは、融点が500℃以上の金属であるため、かかる条件で溶射工程を行うことにより、溶射工程中に回転軸1上のめっきが溶融することを防止することができる。
【0017】
また、回転軸1の外周のめっきを、無電解Ni-Pめっきにて形成した場合、リン含有率によっても異なるが、400℃程度の熱処理により、無電解Ni-Pめっきは、最も高い硬さを示す。そのため、回転軸1のめっきを無電解Ni-Pめっきで行い、溶射工程における回転軸1の温度を300~500℃の範囲で行うことで、トルクセンサ軸10の回転摺動部の耐摩耗性が向上するという効果も得ることができる。
【0018】
本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、磁歪部2を形成する磁性材料としては特に制限はなく、従来、用いられている磁歪効果を有する磁性材料を適宜用いることができる。磁性材料としては、例えば、鉄系アモルファス合金、ニッケル系合金、クロム系合金等の磁歪効果を有する磁性材料を挙げることができる。また、溶射工程における溶射装置としても特に制限はなく、既知の溶射装置を用いることができる。例えば、溶射装置としては、溶射する磁性材料の粉末を、窒素のような搬送ガスとともに供給する管と、燃料とするアセチレンおよび酸素の各供給管と、が接続されている溶射ガンを用いることができる。これを用いて、火炎と溶融した磁性材料とをトルクセンサ軸10に噴射することで、回転軸1上に磁歪部2を形成することができる。
【0019】
本発明のトルクセンサの製造方法においては、めっき工程の後であって、溶射工程の前に、回転軸1上の磁歪部2を形成する位置のめっきを、ショットブラストにて除去するショットブラスト工程を有することが好ましい。このショットブラスト工程にて、回転軸10上の磁歪部2を形成する位置の外周面を荒らすことで、後の溶射工程にて溶射する磁性材料を、アンカー効果により、さらに強固に溶着させることができる。なお、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、ショットブラスト工程におけるショットブラスト装
置やショットブラスト条件等については特に制限はなく、従来、用いられているショットブラスト装置やショットブラスト条件にて行うことができる。
【0020】
また、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、溶射工程の前に、回転軸1を予熱する予熱工程を設けることが好ましい。溶射工程の前に、回転軸1を予熱することで、後の溶射工程において、溶射した磁性材料を回転軸1に良好に溶着させることができる。この予熱工程は、例えば、後に続く溶射工程で用いる溶射ガンの炎を回転軸1に当て、回転軸1の温度を、例えば、300~500℃とすることによって行うことができる。
【0021】
さらに、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、溶射工程の後に、冷却工程を設けることが好ましい。冷却工程を設けることで、回転軸1の温度が上がりすぎることによる、回転軸1上のめっきの溶融を防止することができる。なお、冷却手段については特に制限はないが、例えば、追加設備等が不要な空冷を採用することができる。なお、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、溶射工程と冷却工程とを交互に数回繰り返してもよい。すなわち、溶射工程にて回転軸1の温度が所定の温度を超えた場合、冷却工程にて回転軸1の温度を下げ、回転軸1の温度が所定の温度まで低下したら、再度溶射工程を行ってもよい。上述のとおり、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、回転軸1の温度は、300~500℃に調整することが好ましいが、溶射工程と冷却工程とを交互に繰り返すことにより、回転軸1の温度を300~500℃に調整することができる。
【0022】
さらにまた、本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、回転軸1に磁歪部2を形成した後、この磁歪部2にスリット3a、3bを形成するスリット形成工程を行うことが好ましい。スリット3a、3bは、例えば、ショットブラストにて形成することができる。この場合、スリット形成工程の前に、磁歪部2のスリット3a、3bの不形成部にマスキングを行うマスキング工程と、スリット形成工程の後に、上記マスキングを除去するマスキング除去工程と、を設けてもよい。本発明のトルクセンサ軸の製造方法においては、スリット形成工程においても、ショットブラスト装置やショットブラスト条件等については特に制限はなく、従来、用いられているショットブラスト装置やショットブラスト条件を採用することができる。
【0023】
本発明のトルクセンサ軸の製造方法は、回転軸1の外周に不動態被膜を形成することで耐食性を維持でき、かつ、融点が500℃以上である金属のめっきを施すめっき工程と、回転軸1の磁歪部2を形成する位置に磁性材料を溶射する溶射工程と、を有し、めっきが、回転軸の回転摺動部に施されていることのみが重要であり、これ以外については特に制限はない。
【0024】
例えば、本発明のトルクセンサ軸の製造方法におけるスリット形成工程は、ショットブラストに限られず、既知の手法にて行うことができる。ショットブラスト以外に、例えば、磁歪部2に樹脂等を被覆した後にエッチング等の化学処理でスリット3a、3bを形成してもよく、切削等の機械加工でスリット3a、3bを形成してもよい。また、スリット3a、3bの形状についても特に制限はないが、
図1に示すように、長手方向が回転軸1の軸方向に対し±45゜となる、シェブロン形状とすることが好ましい。さらに、スリット形成工程をショットブラストで行う場合のマスキング工程におけるマスキング等についても、特に制限はなく、従来の手法を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 クランク軸
2 磁歪部
3 スリット
10 トルクセンサ軸