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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】防災器具及び防災設備
(51)【国際特許分類】
   A62C 2/10 20060101AFI20230831BHJP
   E06B 5/16 20060101ALI20230831BHJP
   G08B 17/00 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A62C2/10
E06B5/16
G08B17/00 E
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022501919
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005828
(87)【国際公開番号】W WO2021166929
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020026421
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】梅原 寛
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-321628(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203191(JP,U)
【文献】特開平06-070991(JP,A)
【文献】特開2007-209634(JP,A)
【文献】実公昭62-043568(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/10
E06B 5/16
G08B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え
前記冷却剤含浸部は、
前記シートに設けられた冷却剤流通経路と、
前記冷却剤流通経路に設けられ、前記冷却剤流通経路に供給された冷却剤を、前記シートに流して前記冷却剤含浸層を形成する開口と、
を備え、
前記冷却剤流通経路は、前記開口を有する潰し変形自在なシート配管であり、
前記シートは、布状体の間に前記シート配管が配置されたことを特徴とする防災器具。
【請求項2】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え、
前記冷却剤含浸部は、
前記シートに設けられた冷却剤流通経路と、
前記冷却剤流通経路に設けられ、前記冷却剤流通経路に供給された冷却剤を、前記シートに流して前記冷却剤含浸層を形成する開口と、
を備え、
前記冷却剤流通経路は、前記開口を有する潰し変形自在なシート配管であり、
前記シートは、布状体の片面又は両面に前記シート配管が露出して固定されたことを特徴とする防災器具。
【請求項3】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え、
前記冷却剤含浸部は、
前記シートに設けられた冷却剤流通経路と、
前記冷却剤流通経路に設けられ、前記冷却剤流通経路に供給された冷却剤を、前記シートに流して前記冷却剤含浸層を形成する開口と、
を備え、
前記冷却剤流通経路は、前記開口を有する潰し変形自在な合成樹脂チューブであり、
前記シートは、布状体の間に前記合成樹脂チューブが配置されたことを特徴とする防災器具。
【請求項4】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え、
前記冷却剤含浸部は、
前記シートに設けられた冷却剤流通経路と、
前記冷却剤流通経路に設けられ、前記冷却剤流通経路に供給された冷却剤を、前記シートに流して前記冷却剤含浸層を形成する開口と、
を備え、
前記冷却剤流通経路は、前記開口を有する潰し変形自在な合成樹脂チューブであり、
前記シートは、布状体の片面又は両面に前記合成樹脂チューブが露出して固定されたことを特徴とする防災器具。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の防災器具に於いて、
前記冷却剤含浸部は、さらに、前記シートの表面に前記冷却剤の冷却剤膜を形成することを特徴とする防災器具。
【請求項6】
請求項1又は2記載の防災器具に於いて、
前記シート配管は、前記シートの冷却剤の流下方向に沿って複数の段を並べた梯子形を呈するように、敷設されたことを特徴とする防災器具。
【請求項7】
請求項1又は2記載の防災器具に於いて、
前記シート配管は、前記シートの冷却剤の流下方向に沿って波状を呈するように、屈曲して敷設されたことを特徴とする防災器具。
【請求項8】
請求項記載の防災器具に於いて、
前記シートは、前記シート配管を挟んで前記布状体を重ね合わせており、
所定箇所で縫合されたことを特徴とする防災器具。
【請求項9】
請求項1記載の防災器具に於いて、
前記シートは、前記シート配管を挟んで前記布状体を重ね合わせており、
所定箇所で接着されたことを特徴とする防災器具。
【請求項10】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え、
前記シートは、布状体を重ね合わせており、
前記冷却剤含浸部は前記シートに冷却剤流通経路を相互に隣接して複数形成し、前記冷却剤流通経路の各々に対して冷却剤を供給して流下することを特徴とする防災器具。
【請求項11】
請求項1、3又は10の何れかに記載の防災器具に於いて、
前記シートは、冷却剤を含侵する含浸体を挟んで前記布状体を重ね合わせることを特徴とする防災器具。
【請求項12】
請求項11記載の防災器具に於いて、
前記シートの前記含浸体は、起毛構造を有する布地であることを特徴とする防災器具。
【請求項13】
柔軟性を有するシートと、
冷却剤を前記シートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備え、
前記シートは、1枚の布状体であり、
前記冷却剤含浸部は、前記布状体の上端部に配置したシート配管の開口から、冷却剤を前記布状体の少なくとも何れか一方の表面に流下することを特徴とする防災器具。
【請求項14】
請求項1乃至4、10又は13の何れかに記載の防災器具に於いて、
前記シートの前記布状体は、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性、遮煙性又は難燃性を有することを特徴とする防災器具。
【請求項15】
請求項1乃至4、10又は13の何れかに記載の防災器具に於いて、
防護区画の所定位置に、前記シートを展開状態で固定設置し、火災発生時に、前記シートに冷却剤を供給して前記冷却剤含浸層を形成することを特徴とする防災器具。
【請求項16】
請求項1乃至4、10又は13の何れかに記載の防災器具に於いて、
通常時は、防護区画の所定位置に、前記シートを非展開状態に保持し、火災発生時に、前記シートの保持を解除して展開するシート展開部を備えたことを特徴とする防災器具。
【請求項17】
請求項1乃至4、10又は13の何れかに記載の防災器具に於いて、
火災時に、前記冷却剤として消火用水を供給することを特徴とする防災器具。
【請求項18】
請求項1乃至4、10又は13の何れかに記載の防災器具を設けた防災設備に於いて、
前記防災器具へ冷却剤を供給する冷却剤配管と、
前記冷却剤配管へ冷却剤を供給する冷却剤供給源と、
を備え、
前記冷却剤配管の一端側を、前記防災器具の冷却剤供給口に接続し、他端側を、遠隔制御又は手動により配管流路を開閉する配管開閉部を介して前記冷却剤供給源に接続し、
火災発生時に、前記冷却剤供給源からの冷却剤を、前記冷却剤供給口に供給して冷却剤含浸層を形成することを特徴とする防災設備。
【請求項19】
請求項18記載の防災設備に於いて、配管開閉部は、
防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により開放する遠隔開閉弁と、
前記遠隔開閉弁に並列接続し、手動操作により開放する手動開閉弁と、
を備えたことを特徴とする防災設備。
【請求項20】
請求項19記載の防災設備に於いて、
前記遠隔開閉弁を開度調整自在な制御弁とし、制御部により、前記制御弁の開度を制御
して前記防災器具に対する冷却剤の供給量を変化させることを特徴とする防災設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災発生時に部屋の出入口等を閉鎖して火災の延焼拡大を抑制する防災器具及び防災設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視区域で発生した火災を抑制消火する防災設備としては、火災報知設備(特許文献1)やスプリンクラー消火設備(特許文献2)が知られている。火災報知設備は、火災感知器で火災を検出した場合に、防火シャッターを閉鎖することにより防火区画を形成して火災の拡大を抑制する。スプリンクラー消火設備は、火災による熱気流を受けてスプリンクラーヘッドが開放作動することで、消火用水を散布して火災を抑制消火する。
【0003】
また、地下街等で火災が発生した場合に、通路の上部で通路を横切る方向に設けた散水ヘッド列からの散水により水膜を形成し、避難経路を損なうことなく、火災の拡大や煙の拡散を抑制する防火区画形成システムも知られている(特許文献3)。
【0004】
また、機械式駐車場を対象とした防災カーテン消火システムが知られている(特許文献4)。この防災カーテン消火システムは、駐車部の開口部に防災カーテンが設けられ、火災感知器により駐車部の火災を検出すると防災カーテンが降下して開口部を閉鎖し、消火ノズルから消火ガスを噴出して消火するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-211780号公報
【文献】特開2015-146840号公報
【文献】特開2007-181554号公報
【文献】特開平5-154216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に金属製の防火シャッターにあっては、遮熱性が十分ではなく、設備構造が大がかりであり、火災後の改修等も容易ではない。加えて、重量物であるため運搬コストも嵩む。
【0007】
また、防火区画形成システムにあっては、大量の煙が発生した場合には、水膜(水滴)の隙間を通って煙が拡散し、十分な遮煙性が得られない場合がある。
【0008】
また、火災時に降下して駐車部等の防護区画を仕切る防火カーテンにあっては、火災の炎や輻射熱を受けて継続的に高温に晒された場合には、焼損により閉鎖機能が失われる可能性がある。
【0009】
本発明は、設置や火災後の改修が容易であり、避難経路を損なうことなく、火災の炎や輻射熱を受けても閉鎖機能を継続して維持可能とする防災器具及び防災設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(防災器具)
本発明は、防災器具であって、
柔軟性を有するシートと、
冷却剤をシートに供給して少なくとも冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
(シート表面の冷却剤膜)
冷却剤含浸部は、さらに、シートの表面に冷却剤の冷却剤膜(水膜)を形成する。
【0012】
(第1の冷却剤含浸部)
冷却剤含浸部は、
シートに設けられた冷却剤流通経路と、
冷却剤流通経路に設けられ、冷却剤流通経路に供給された冷却剤をシートに流下して冷却剤含浸層を形成する開口と、
を備える。
【0013】
(シート構造)
シートは、布状体を重ね合わせており、
冷却剤流通経路は、開口を有する潰し変形自在なシート配管であり、
シートは、布状体の間にシート配管を配置する。
【0014】
(シート配管の梯子形敷設)
シート配管は、シートの冷却剤の流下方向に沿って複数の段を並べた梯子形を呈するように、敷設される。
【0015】
(シート配管の波状敷設)
シート配管は、シートの冷却剤の流下方向に沿って波状を呈するように、屈曲して敷設される。
【0016】
(シート配管の縫合固定)
シートは、シート配管を挟んで布状体を重ね合わせており、
所定位置で縫合される。
【0017】
(第2の冷却剤含浸部)
シートは布状体を重ね合わせており、
冷却剤含浸部は、
冷却剤流通経路を相互に隣接して複数形成し、
冷却剤流通経路の各々に対して冷却剤を供給して流下する。
【0018】
(含浸強化構造)
シートは、冷却剤を含浸する含浸体を挟んで布状体を重ね合わせる。
【0019】
ここで、含浸体には、例えば起毛構造を有するタオル布地を用いる。
【0020】
(第3の冷却剤含浸部)
シートは、1枚の布状体であり、
冷却剤含浸部は、布状体の上端部に配置したシート配管の開口から、冷却剤を布状体の少なくとも何れか一方の表面に流下する。
【0021】
(シートの布状体)
シートの布状体は、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性、遮煙性又は難燃性を有する。
【0022】
(シート固定設置)
シートを、展開状態で防護区画の所定位置に位置するように設置する。
【0023】
(シート展開部)
通常時は、防護区画の所定位置にシートを非展開状態に保持し、火災発生時に、シートの保持を解除して展開する、シート展開部を備える。
【0024】
(消火用水)
火災時に、冷却剤として、消火用水(冷却水)を供給する。
【0025】
(防災器具を用いた防災設備)
前述した防災器具を用いた防災設備であって、
防災器具へ冷却剤を供給する冷却剤配管と、
冷却剤配管へ冷却剤を供給する冷却剤供給源と、
を備え、
冷却剤配管の一端側を、防災器具の冷却剤供給口に接続し、他端側を、遠隔制御又は手動により配管流路を開閉する配管開閉部を介して、冷却剤供給源に接続し、
火災発生時に、冷却剤供給源からの冷却剤を、冷却剤供給口に供給して冷却剤含浸層を形成する。
【0026】
(配管開閉部の構成)
防災設備において、配管開閉部は、
防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により開放する遠隔開閉弁と、
遠隔開閉弁に並列接続し、手動操作により開放する手動開閉弁と、
を備える。
【0027】
(冷却剤供給量の制御)
遠隔開閉弁を開度調整自在な制御弁とし、制御部により、制御弁の開度を制御して防災器具に対する冷却剤の供給量を変化させる。
【発明の効果】
【0028】
(基本的な効果)
本発明の防災器具によれば、防護区画の開口部(区画境界)、例えば部屋の出入口等に設置した状態で、火災が発生したときに、シートに冷却剤、例えば冷却水の供給による冷却剤含浸層が形成され、火災の炎や輻射熱を受けても、防護区画の閉鎖機能を維持可能とし、防護区画の外部に対する遮炎性、遮煙性、遮熱性の確保により、延焼防止や煙拡散防止の効果が期待できる。
【0029】
また、シートは柔軟性を有することから、防護区画の開口部(区画境界)となる部屋の出入口等を閉鎖していても、シートを開いて容易に避難することができ、避難経路を損なうことなく、防護区画を閉鎖することができる。
【0030】
また、シートは、金属製に比べて軽量の布状体であり、また、例えば、ドアなどの開口、壁面、窓等ごとの大きさに対応した適宜のサイズのものを容易に製作することができる。
【0031】
(シート表面の冷却剤膜の効果)
また、冷却剤の供給によりシートに冷却剤含浸層を形成した場合には、シート表面に冷却水が滲み出して流下することで、シート表面に沿って冷却剤膜として水膜が形成され、遮炎性、遮煙性、遮熱性を更に高めることができる。
【0032】
(第1の冷却剤含浸部の効果)
また、シートに設けられた冷却剤流通経路に冷却剤を供給すると、冷却剤流通経路の各所に設けた開口から冷却剤、例えば冷却水をシートに流下して冷却剤含浸層と水膜を形成することができる。
【0033】
(シート構造の効果)
また、冷却剤流通経路として、潰し変形自在なシート配管を布状体で挟んで配置することで、シートを簡単且つ容易に低コストで製作可能とする。
【0034】
(シート配管の梯子形敷設の効果)
また、シートに、シート配管を冷却剤の流下方向に沿って複数の段を並べた梯子形を呈するように敷設し、シート配管の各所に設けた複数の開口からシートに冷却剤を流下することで、シートの略全面にわたって冷却剤含浸層と水膜を略均一に形成可能とする。
【0035】
(シート配管の波状敷設の効果)
また、シートに、シート配管を冷却剤の流下方向に沿って波状を呈するように屈曲して敷設し、シート配管の各所に設けた複数の開口からシートに冷却剤を流下することで、梯子形の敷設に比べシート配管の総長さを短くし、シート全域に冷却剤含浸層と水膜を略均一に形成可能とする。
【0036】
(シート配管の縫合固定の効果)
また、シートは、シート配管を挟んで布状体を重ね合わせており、所定箇所で縫合することで、簡単に、シート内部にシート配管を固定配置することができる。
【0037】
(第2の冷却剤含浸部の効果)
また、布状体を重ね合わせてシートを構成し、重ね合わせた布状体を、左右方向の所定の分割位置ごとに上下方向に縫合して、上下方向の冷却剤流通経路を相互に隣接して複数形成することで、シート配管を必要とすることなく、冷却剤流通経路の各々に対して冷却剤を供給して流下することで、簡単な構造でシートに冷却剤含浸層と水膜を形成することができる。
【0038】
(含浸強化構造の効果)
また、シートは、冷却剤を含侵する含浸体、例えば起毛構造を有するタオル地等を挟んで布状体を重ね合わせることで、供給した冷却剤、例えば冷却水の保水性を高め、厚みのある冷却水含浸層を形成し、シート表面の水膜の形成と併せて、シートの遮炎性、遮煙性、遮熱性をさらに高めることができる。
【0039】
(第3の冷却剤含浸部の効果)
また、シートを1枚の布状体とし、布状体の上端辺に配置したシート配管の開口から冷却剤を、布状体の両方の表面又は何れか一方の表面に流下することで、シートが布状体一枚で済み、シート配管や縫合等による冷却剤流通経路も必要としないことから、構造を簡単にして、製作コストを低減可能とする。
【0040】
(シートの布状体の効果)
また、シートに用いる布状体は、防火性、耐火性、耐熱性、遮熱性、遮炎性、遮煙性又は難燃性を有することから、火災発生時に、シートに冷却剤含浸層と水膜が形成されることと相俟って、火災による炎や輻射熱を受けても耐えることができ、防護区画を確実に閉鎖して、外部に対する遮炎、遮熱、遮煙により、延焼防止と避難経路の確保が可能になる。
【0041】
(シート固定設置の効果)
また、防護区画の開口部(区画境界)、例えば、部屋等の出入口等にシートを広げた状態で固定設置し、火災発生時に、シートに冷却剤を供給して冷却剤含浸層と水膜を形成した場合にも、避難経路を妨げることなく、防護区画を確実に閉鎖して、外部に対する遮炎、遮煙、遮熱を行うことができる。
【0042】
(シート展開部の効果)
また、シート展開部により、防護区画の開口部(区画境界)、例えば、部屋の出入口の上部天井側の所定位置に、通常時は、シートを非展開状態に保持し、火災発生時に保持を解除してシートを上方から下方に展開することで、例えば、火災が発生した防護区画の開口部(区画境界)を仕切る防火戸として機能させることができる。また、防災器具の設置場所に物が置かれていても、布状体であるシートは柔軟性があるので、長めに採寸しておくと、すき間の発生を抑制することができ、消火、延焼防止等の低減度合いが抑制できる。
【0043】
(消火用水の効果)
また、火災発生時に、冷却剤として消火用水(冷却水)を供給することで、シートに冷却剤含浸層と水膜を形成して、防護区画を確実に閉鎖して、外部に対する遮炎、遮煙、遮熱をおこなうことができる。
【0044】
(防災設備の効果)
また、火災発生時に、遠隔制御又は手動操作により、冷却剤供給源から冷却剤を防災器具に供給してシートに冷却剤含浸層と水膜を形成し、火災が発生している防護区画を閉鎖することができる。
【0045】
(配管開閉部の構成による効果)
また、防災設備において、防護区画の火災発生に伴う火災検出設備からの制御信号に基づく遠隔制御により、遠隔開閉弁を閉状態から開状態とすることで、火災検出に連動して防災器具のシートを展開して冷却剤含浸層と水膜を形成し、また、手動開閉弁の人的な開操作によっても、防災器具のシートを展開して冷却剤含浸層と水膜を形成可能とする。
【0046】
(冷却剤供給量の制御による効果)
また、制御弁の開度を制御して消火器具に対する冷却剤の供給量を変化させるようにしたため、例えば、火災が発生してシートを展開した直後は、冷却剤の供給量を増加し、シート12の略全面にわたって冷却剤含浸層と水膜を速やかに形成して、遮炎性、遮煙性及び遮熱性を確保し、所定時間後に、シートに沿って形成された冷却剤含浸層と水膜を維持可能な冷却水の供給量に低下し、必要以上に冷却水がシートの表面を流下して床面に広がることを抑制し、水損被害の発生が低減可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】防災器具の実施形態を示した説明図である。
図2図1の防災器具の構造を組立分解状態で示した説明図である。
図3】冷却剤流通経路を構成するシート配管を取り出して示した説明図であり、図3(A)に一部を取出して示し、図3(B)に通常時のシート配管を示し、図3(C)に冷却剤供給時のシート配管を示す。
図4】防災器具の側面図であり、図4(A)に通常時の側面を示し、図4(B)に冷却剤供給時の側面を示し、図4(C)に冷却剤含浸層の形成状態を示す。
図5】梯子形を呈するようにシート内にシート配管を敷設した防災器具を模式的に示した説明図である。
図6】矩形波状を呈するようにシート内にシート配管を敷設した防災器具を模式的に示した説明図である。
図7】三角波状を呈するようにシート内にシート配管を敷設した防災器具を模式的に示した説明図である。
図8】シートの縦方向の縫合により縦方向の冷却剤流通経路を相互に隣接して複数形成した防災器具の実施形態を示した説明図であり、図8(A)に正面を示し、図8(B)に図8(A)のa-a'矢視断面を示す。
図9】シート内部に含浸体を配置した防災器具の実施形態を示した説明図であり、図9(A)にシート構造を組立分解状態で示し、図9(B)にシートの断面構造を示す。
図10】シートを一枚の布状体で構成した防災器具の実施形態を示した説明図である。
図11】防災器具に設けられたシート展開部の構成を示した説明図であり、図11(A)に通常状態の正面を示し、図11(B)に通常状態の側面を示し、図11(C)に火災時にシートを展開した正面を示し、図11(D)に火災時にシートを展開した側面を示す。
図12図11のシート保持解除部の構成を示した説明図であり、図12(A)にホルダー片側の外観を示し、図12(B)にホルダー片側の断面を示す。
図13】防災器具を用いた防災設備の実施形態を示した説明図であり、防護区画を透視状態で示している。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明に係る防災設備の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、この発明が限定されるものではない。
【0049】
[実施の形態の基本的な概念]
まず、実施の形態の基本的概念について説明する。実施の形態は、概略的に、防災器具及び防災設備に関するものである。
【0050】
ここで、「防災器具」とは、火災等から人や物を守って防護する器具であり、一例として、防護区画境界の開口部等に設置し、火災時に当該開口部を閉鎖して、火災の拡大や延焼を抑制するものであり、また、火災の炎や輻射熱を受けても、閉鎖機能を継続して維持可能とするものであり、防火戸等を含む概念である。なお、「閉鎖」とは、開口部(区画境界)の一部または全部を塞ぐ概念である。また、「防災設備」とは、防災器具を設けて火災等から人や物を守って防護する設備であり、一例としては、防護区画境界の開口部等に設置している防災器具を火災検出に連動して作動することで、開口部等を閉鎖させる設備を含むものである。また、「防護区画」とは、防災器具により防護の対象とする区画であり、一定の広がりをもった屋外或いは屋内の区画であり、例えば、建物の部屋、廊下、階段等の区画を含む概念である。また、「防護区画境界の開口部」とは、区画の任意の境界であって、防護区画に設けられている開口部であり、より具体的には例えば、人や物が通過する部分であって、ドア部、ガラス引き戸、窓等を含む概念である。
【0051】
実施の形態による防災器具は、シート及び冷却剤含浸部を備えるものである。ここで、「シート」とは、柔軟性を有する薄くて広いものであり、かぶせたり、覆ったりするために使用することができるものであり、一例としては、非展開状態に保持したり、非展開状態の保持を解除して展開状態とすることのできる布状体を含む概念である。「シート」は、例えば1枚又は複数枚の布状体からなるものであり、ここで言う「枚」は取扱単位を示す。即ち、例えば予め複数の布状体を合わせて1枚(単位枚)として形成した場合はこれを「1枚」と言う。
【0052】
また、「冷却剤含浸部」とは、シートの構成要素の一部であり(シートの一部を成すものであり)、冷却剤をシートに供給して冷却剤含浸層と冷却剤膜を形成するものであり、一例としては、冷却剤流通経路とその各所に開口を設けたものである。ここで、「冷却剤含浸層」とは、シートの冷却剤流通経路に供給されて各所の開口からシートに流下した冷却剤、例えば冷却水がシートに含浸し、シートを構成する布状体の布織目構造や繊維のすき間を塞ぐように形成される層である。また「冷却剤膜」とは、シートに冷却剤を供給して冷却剤含浸層を形成した場合に、シート表面に冷却剤が滲み出して流下することで、シート表面に沿って冷却剤を薄い膜が形成されることであり、冷却水の流下によりシート表面に形成される水膜を含む概念である。
【0053】
また、「冷却剤流通経路」とは、シートの構成要素の一部を成し、シートに設けられた冷却剤が流れる通り道であり、一例としては、布状体の間に配置されるシート配管を含む概念である。ここで、「シート配管」とは、潰し変形自在であり、通常は、前述の「シート」内に扁平な状態で押し潰されているが、冷却剤が供給されると、膨らんで流路を形成する可撓性の配管をいう。また、「開口」とは、シートの構成要素の一部を成し、冷却剤流通経路の各所に設けられた冷却剤の流出口であり、冷却剤流通経路に供給された冷却剤、例えば冷却水をシートに流下して冷却剤含浸層と水膜を形成するものである。
【0054】
また、防災器具は、シート展開部を備えるものである。ここで、「シート展開部」とは、通常時は、防護区画境界の所定位置にシートを非展開状態に保持し、火災発生時に、非展開状態にあるシートの保持を解除して展開するものである。一例として、通常時は、シートをロール状に巻いて防護区画境界の開口部、例えば部屋の出入口の上部天井側等に保持し、火災発生時に、シートの保持を解除することで、一端辺(上端辺)が固定された状態で、他端辺(下端辺)が自重により落下して、上方から下方へ展開することで、開口部を塞ぐものである。
【0055】
また、防災器具を用いた防災設備は、冷却剤配管と冷却剤供給源を備える。ここで、「冷却剤配管」とは、防災器具へ冷却剤を供給する配管であり、一例としては、防災器具に消火用水を冷却水として供給するものである。また、「冷却剤供給源」とは、冷却剤配管へ冷却剤を供給する源となるものであり、一例としては、加圧送水装置、高架水槽、水道配管等を含む概念である。
【0056】
以下に示す具体的な実施の形態では、「防護区画」が「建物の部屋」であり、「開口部」が「部屋の出入口」であり、「冷却剤」が「冷却水」である場合について説明する。
【0057】
[実施の形態の具体的内容]
防災器具及び防災器具を設けた防災設備の実施の形態の具体的内容について、より詳細に説明する。その内容については以下のように分けて説明する。
a.防災器具
a1.構成
a2.シート
a3.シート配管
a4.防災器具の機能
b.シート配管の他の敷設形態
b1.矩形波状を呈するシート配管の敷設
b2.三角波状を呈するシート配管の敷設
c.シート配管を用いない防災器具
d.含浸体を備えた防災器具
e.シートを一枚の布状体で構成した防災器具
f.防災器具のシート展開部
f1.シート展開部の構造
f2.シート保持解除部
g.防災設備
h.シートを展開状態で固定設置した防災設備
i.冷却水供給量の制御
j.本発明の変形例
【0058】
[a.防災器具]
図1に示すように、本実施形態の防災設備は、防災器具10、冷却剤供給源22、配管開閉弁24を設けた冷却剤配管26を備える。以下の説明では、図1に示す防災器具10の図示の横方向を左右方向、図示の縦方向(つまり展開方向)を上下方向と称する。
【0059】
(a1.構成)
防災器具10は、防護区画境界の開口部等に設置され、火災発生時に、火災の拡大や延焼を抑制して人や物を火災から防護するものであり、例えば、図1に示すように、シート12、ホルダー14、冷却剤流通経路16、縫合部18、及び冷却剤供給口20で構成される。冷却剤流通経路16はシート12の構成要素の一部となる。
【0060】
シート12は、柔軟性を有する布状体であり、冷却剤の供給を受けて冷却剤含浸層を形成する冷却剤含浸部を備える。冷却剤含浸部は、シート12の構成要素となる冷却剤流通経路16とこれに設けられる不図示の開口で構成され、シート12に対する「第1の冷却剤含浸部」を成す。冷却剤流通経路16は、冷却剤供給口20から供給された冷却剤ここでは冷却水(消火用水)をシート12の内部に送る通路である。また、不図示の開口は、冷却剤流通経路16の各所に設けられた冷却剤の流出口であり、冷却剤流通経路16に供給された冷却水をシート12に流下して含浸させ、冷却剤含浸層を形成するものであり、さらに、冷却剤含浸層の形成でシート12の表面に滲み出した冷却水を流下することで、シート12の表面に冷却剤膜として水膜を形成するものである。
【0061】
シート12は、一例として、ホルダー14により防護区画の区画境界における開口部、例えば部屋の出入口の上部天井側の所定位置に設置されるものであり、本実施の形態にあっては、展開した状態で開口部を閉鎖するに十分な縦横所定のサイズを有するものである。
【0062】
ホルダー14には、シート展開部が設けられている。シート展開部は、通常時は、シート12を非展開状態に保持し、火災発生時に、シート12の保持を解除して展開するものである。
【0063】
また、ホルダー14には冷却剤供給口20が設けられ、そこに冷却剤供給源22から配管開閉弁24を経由して冷却剤配管26が接続され、冷却水を供給可能としている。冷却剤供給源22は、火災発生時に冷却水を供給するものであり、具体的には任意であるが、例えば、ポンプを備えた加圧送水装置、高架水槽、水道配管等の適宜の構成を用いることができる。
【0064】
(a2.シート)
防災器具10のシート12について、より詳細に説明する。このシート12の構成や構造は任意であるが、例えば、図1に示すように、シート12の内部に冷却剤流通経路16が設けられている。冷却剤流通経路16は、一例として、冷却剤の流下方向(上から下へ向かう方向)に沿って複数の段、例えば4つの段を並べた梯子形を呈するように敷設され、各段に複数の開口(不図示)を形成している。
【0065】
冷却剤流通経路16は、シート12の左右両側及び所定間隔に設けた上下方向の縫合部18で固定されている(冷却剤流通経路16の部分を除く)。縫合部18は防水糸を用いたミシンによる縫い目である(図示の二点鎖線)。
【0066】
更に詳細に説明すると、図2に示すように、シート12は布状体である2枚のカバーシート28,30を重ね合わせている。カバーシート28,30の間には、図1に示した冷却剤流通経路16を構成するものとして、例えば、シート配管32を配置し、この状態で、例えば、図1に示したように、上下方向の縫合部18を縫合することで一体化している。
【0067】
カバーシート28,30は、防火性、耐火性、耐熱性又は難燃性を有する布状体であり、例えば1200℃の高熱に耐えることができ、耐火シート、耐火カーテン、耐火膜等と呼ばれるものが適用できるが、これに限定されない。また、カバーシート28,30は遮熱性、遮炎性、遮煙性等も有する。
【0068】
(a3.シート配管)
シート12の構成要素の一部となるシート配管32について、より詳細に説明する。シート配管32は、潰し変形自在であり、冷却剤が流通することで膨らむ可撓性の配管である。このシート配管32の構造や種類は任意であるが、例えば、図3(A)に一部を取り出して示すように、例えば傘張りに使用するポリエステル等の防水性の布状体をパイプ状に形成して梯子形を呈するように接続し、梯子形の各段の下側に開口34を複数形成している。
【0069】
また、シート配管32は潰し変形自在であることから、通常時は、図3(B)に示すように、シート12内で押し潰され扁平状態となり、冷却剤36を供給すると、図3(C)に示すように膨らんで冷却剤36を流通し、各所に設けた開口34から冷却剤36、例えば冷却水をシート12内に流下し、シート12に含浸して冷却剤含浸層を形成し、さらに、シート12の表面に水膜を形成する。
【0070】
図4(A)は通常時のシート12を左右方向の一側面から見て示しており、冷却剤供給口20に対する冷却剤の供給はないことから、図3(B)に示したように、シート配管32はシート12内で押し潰された扁平状態となっている。
【0071】
火災発生時には、図4(B)に示すように、冷却剤供給口20から供給される冷却剤が流通することによりシート配管32が膨らんで各所の開口から冷却剤をシート12内に流下し、図4(C)に示すように、カバーシート28,30及びこれらの間に冷却剤36(ここでは冷却水としての消火用水)が浸み込むことで冷却剤含浸層40が形成される。
【0072】
また、図4(B)に矢印で示すように、シート配管32の各所の開口からシート12内に流下した冷却剤は、その下に位置するシート配管32の部分で遮られ、シート12の表面に冷却剤が滲み出して流下することで水膜31を形成する。このように冷却剤がカバーシート28,30に含浸して冷却剤含浸層40を形成し、且つ又、表面に漏れ出した冷却剤の流下によりシート12の表面に水膜31を形成する。
【0073】
図5はシート12の構成要素の一部となるシート配管32の敷設の形態を詳細に示している。なお、シート配管32を線で示し、シート配管32の開口34を三角マークとして模式的に示している。
【0074】
シート12は、図2に示すように、カバーシート28,30の間にシート配管32を配置した状態で、図5に示すように、シート展開状態における左右方向の所定の分割位置ごとに、上下方向の縫合部18を縫合している(シート配管32の部分を除く)。これによりシート12の内部に簡単にシート配管32を固定配置することができる。分割位置同士の間には、少なくとも1つの開口34が形成され、冷却剤を流下している。
【0075】
(a4.防災器具の機能)
図1に示した防災器具10の防災機能について、より詳細に説明する。防災器具10は、防護区画境界の開口部、例えば部屋の出入口等に設置されている。この状態で火災が発生したとすると、配管開閉弁24を閉状態から開状態とすることで、冷却剤供給源22から冷却剤配管26を経由して消火剤供給口20に冷却剤ここでは冷却水としての消火用水が供給される。冷却剤供給口20を介してシート12に供給された冷却水は、冷却剤流通経路16を構成するシート配管32内を流通し、シート配管32の各所に設けた開口34からシート12に冷却水を流下し、シート12に沿って冷却剤含浸層40が形成され、且つ又、シート12の表面に水膜が形成される。そして、シート12が防火性、耐火性、耐熱性又は難燃性等を有する布状体としていることと相俟って、火災による炎や輻射熱に対する耐久性を増して防護区画を確実かつ継続的に閉鎖することが可能になる。そのうえで外部に対する遮炎性、遮煙性、遮熱性を増して延焼防止、煙拡散防止性能を向上するので、より一層安全な避難行動や初期消火活動が可能になる。
【0076】
また、シート12は柔軟性を有することから、防護区画境界の開口部、例えば部屋の出入口等を閉鎖していても、シート12を開いて閉鎖区画内から容易に避難することができ、避難経路を損なうことなく防護区画を閉鎖することができる。同様に、閉鎖区画外から容易に閉鎖区画内へ入って消火活動をすることもできる。
【0077】
また、シート12は、金属性の防火戸に比べて軽量な布状体とすることで、軽量且つ簡易なものとすることができる。
【0078】
また、シート12内にシート配管32を冷却剤の流下方向に沿って複数の段を並べた梯子形を呈するように敷設し、各段のシート配管32に設けた複数の開口34からシート12に冷却水を流すことで、シート12の略全面にわたって冷却剤含浸層と水膜を略均一に形成することが可能になる。
【0079】
[b.シート配管の他の敷設形態]
シート12内に冷却剤流通経路16を形成するシート配管32の敷設形態について、他の例を、詳細に説明する。
【0080】
(b1.矩形波状を呈するシート配管の敷設)
図6に示すように、この防災器具10は、シート12内にシート配管32が冷却剤の流下方向に沿って矩形波状を呈するように敷設されている。シート配管32は、左右方向の所定の分割位置ごとに、上下方向に縫合している(シート配管32の部分を除く)。シート配管32には、隣接する分割位置の間ごとに少なくとも1つの開口34が形成され、冷却剤を流下している。
【0081】
図6のシート配管の敷設によれば、図5のシート配管の梯子形を呈した敷設に比べ、シート配管32の総長さを短くすることができる。
【0082】
(b2.三角波状を呈するシート配管の敷設)
図7に示すように、この防災器具10は、シート12内にシート配管32が冷却剤の流下方向に沿って三角波状を呈するように敷設されている。シート配管32は、左右方向の所定の分割位置ごとに上下方向に縫合されている(シート配管32の部分を除く)。シート配管32には、隣接する分割位置の間ごとに少なくとも1つの開口34が形成され、冷却剤を分割位置の間に流下している。
【0083】
図7のシート配管の三角波状を呈した敷設によれば、図5のシート配管の梯子形を呈した敷設に比べ、シート配管32の総長さを短くすることができる。なお、シート12におけるシート配管32の敷設形態は、上述した梯子形、矩形波状、三角波状に限定されず、任意である。
【0084】
[c.シート配管を用いない防災器具]
シート配管を用いることなくシート12に冷却剤含浸層を形成する防災器具10について、詳細に説明する。この防災器具10は、シート配管を用いず、縫合部のみによりシート12内に冷却剤流通経路を構成するものであり、シート12に対する「第2の冷却剤含浸部」を成すものである。
【0085】
図8(A)に示すように、シート12は、図2に示したと同様に、2枚のカバーシート28,30を重ね合わせた状態で、左右方向の所定の分割位置ごとに、上下方向の縫合部18を縫合し、上下方向の冷却剤流通経路44を相互に隣接して複数形成している。また、冷却剤流通経路44の各々に、冷却剤を供給する三角マークで模式的に示す開口42を設け、ホルダー14を介して冷却剤供給口20からの冷却剤供給配管45を接続している。
【0086】
火災発生時に冷却剤供給口20に冷却水を供給すると、各冷却剤流通経路44の開口42から冷却剤が矢印で示すように流下する。これにより図8(B)のa-a矢視断面に示すように、冷却剤流通経路44の中を冷却剤36例えば冷却水が流下してカバーシート28,30に含浸して冷却剤含浸層が形成され、且つ又、カバーシート28,30の表面に漏れ出した冷却水が流下して水膜(図示せず)が形成される。
【0087】
本実施形態によれば、シート配管を必要とすることなく、シート12の縫合部18により、複数の冷却剤流通経路44を相互に隣接して形成する、という簡単な構造であり、製作コストを低減できる。
【0088】
[d.含浸体を備えた防災器具]
次に、含浸体を備えた防災器具10について、詳細に説明する。図9(A)に示すように、この防災器具10のシート12は、図2に示したと同様に、カバーシート28,30の間にシート配管32を配置すると共に、更に、含浸体として機能する吸水布46を配置したことを特徴とする。
【0089】
吸水布46は、例えば、タオル布地のように起毛構造を有する含浸体であり、起毛構造により冷却剤、例えば冷却水を吸水して保持することで、高い保水性が得られる。
【0090】
図9(B)に示すように、カバーシート28,30の間に冷却剤が含浸した吸水布46が位置することで、図4の実施形態の場合に比べて厚みのある冷却剤含浸層40が形成され、シート表面に形成される水膜31と併せて、シート12の遮炎性、遮煙性、遮熱性をさらに高めることができる。
【0091】
なお、図6乃至図8に示す防災器具10の実施形態についても、シート12を構成する2枚のカバーシート28,30の間に、含浸体として吸水布46を配置しても良い。
【0092】
[e.シートを一枚の布状体で構成した防災器具]
シートを一枚の布状体で構成した防災器具10について、詳細に説明する。図10に示すように、この防災器具10は、ホルダー14、一枚の布状体で構成したシート12、冷却剤供給口20、複数の開口34を備えたシート配管32で構成される。シート12の両側のシート面に冷却剤を流下させるための構造は任意であるが、例えば、シート12の上端辺側を所定の幅Lで下向きに二つ折りにし、二つ折りした内部の左右方向にシート配管32を直線状に配置して周囲を縫合部18で縫合している。シート配管32には、シート12の両側の表面に露出して複数の開口34が形成されている。このように設けられたシート配管32と複数の開口34は、一枚の布状体で構成したシート12に対する「第3の冷却剤含浸部」を成すものである。
【0093】
火災発生時には、冷却剤供給口20に供給された冷却剤、ここでは冷却水はシート配管32に流れ込み、矢印で示すように、開口34からシート12の両側のシート面の各々に沿って流下し、シート12の表面に沿って水膜を形成するとともに、シート12を構成する布状体に冷却水が含浸し、冷却剤含浸層を形成する。冷却水がシート配管32(冷却剤流通経路16)に流通することによってもシート12の展開が補助される。
【0094】
なお、シート配管32の開口34から上記のように両側のシート面に冷却水を流下しても良いし、何れか一方のシート面に冷却水を流下しても良い。
【0095】
[f.防災器具のシート展開部]
図1乃至図10に示した防災器具10に設けられるシート展開部について、より詳細に説明する。シート展開部は、防災器具10のシート12を、通常時は防護区画境界の所定位置に非展開状態に保持し、火災発生時に保持を解除して展開するものである。このシート展開部の構造は任意であるが、例えば、図11(A)(B)に示すように、ホルダー14、シート固定部63、シート保持部材64、シート保持解除部66で構成される。
【0096】
(f1.シート展開部の構造)
ホルダー14は、左右方向を長手方向とする箱型の収容物であり、部屋の出入口等の天井側上部に取り付ける固定部を成すものである。シート12は、ホルダー14にその一端辺をシート固定部63で固定し、通常時、シート12はロール状に巻き回した非展開状態でホルダー14の下側にワイヤ又はロープを用いたシート保持部材64により複数箇所で吊下げ状態で保持している。
【0097】
シート保持部材64は、一端をホルダー14に固定し、他端をシート12の巻き取り外周下側を通してホルダー14の反対側(固定しているのと反対側)のシート保持解除部66に着脱自在に保持している。シート保持解除部66は、冷却剤配管26からの冷却剤の供給を受けて作動し、シート保持部材64の保持を解除するものである。
【0098】
シート保持解除部66がシート保持部材64の保持を解除すると、図11(C)(D)に示すように、シート12の一端辺(上端辺)がホルダー14に固定された状態で、他端辺(下端辺)側が自重により落下して上下方向(高さ方向)に展開する。なお、シート12の下端辺側には所定の重り部材を設けても良く、このようにすれば、シート12の下端辺側の落下、またシート12の展開後の安定を補助することができる。
【0099】
(f2.シート保持解除部)
シート12の非展開状態の保持を解除して展開するシート保持解除部66について、より詳細に説明する。このシート保持解除部66の構成や構造は任意であるが、例えば、図12に示すように、ホルダー14内に、冷却剤の供給を受けて動作するアクチュエータ68を設けている。
【0100】
アクチュエータ68は、冷却剤の供給を受けて作動し、シート12の保持を解除して展開させるものである。このアクチュエータ68の構造や種類は任意であるが、例えば、シリンダ70にリターンばね76を介してピストン72を摺動自在に組込み、ピストン72の片側にシリンダ室70aを形成し、冷却剤供給ポート78に冷却配管26を分岐接続している。シリンダ室70aに対しては自動排水弁73を設けている。自動排水弁73は所定圧力を超える消火剤の供給を受けて閉鎖し、圧力が所定圧力以下に低下すると開放するものである。
【0101】
ピストン72は同軸にロッド74を備える。ホルダー14の正面部には開口82が設けられ、ロッド74の一部が視認可能に、またロッド74に設けた操作スティック80が操作可能に露出されている。
【0102】
ロッド74にシート保持部材64を保持するときは、操作スティック80によりロッド74を左側に移動した状態で、例えばワイヤを用いたシート保持部材64の先端をループ状に結んだ止め輪64aをロッド74に通し、非展開状態としたシート12を保持する。
【0103】
火災発生時には、冷却剤配管26から冷却水がシリンダ室70aへ供給され、リターンばね76に抗してピストン72を左方向にストロークし、これによりロッド74が止め輪64aから抜け、シート保持部材64の保持を解除し、シート12が他端辺側から自重により落下して上方から下方へ展開する。
【0104】
なお、シート保持解除部66は、上記に限定されず、任意である。例えば、シート保持解除部66は、受信機からの制御信号による電磁ソレノイド等の駆動により、シート保持部材64の保持を解除してシート12を展開しても良い。
【0105】
また、防災器具10のシート展開構造としては、他の適宜の構造を適用できる。例えば、シート12を回転軸に巻き、回転軸のラッチを解除してシート12を展開する構造としても良いし、モータ駆動により巻出し巻き取りする構造としても良い。また、シート12を蛇腹状に折り畳んだ状態で保持し、保持を解除して展開する構造としても良い。
【0106】
[g.防災設備]
図1乃至図12に示した防災器具10を用いた防災設備について、詳細に説明する。この防災設備の構成や構造は任意であるが、例えば、図13に示すように、防災器具10、冷却剤配管26、遠隔開閉弁24a、手動開閉弁24b及び冷却剤供給源(不図示)で構成される。
【0107】
防災器具10は、防護区画48の開口部、例えば、部屋の出入口50の上部天井側に設置され、通常時、シート12は、図11及び図12に示したシート展開構造により、非展開状態に保持している。
【0108】
防護区画48には、火災検出設備として火災感知器52が設置され、受信機54に接続されている。防災器具10の冷却剤供給口20には、冷却剤配管26の一端側が接続され、他端側は配管開閉部として機能する遠隔開閉弁24aと手動開閉弁24bの並列接続を介して、図示しない冷却剤供給源、本実施形態においては例えば、水道配管に接続されていることとする。
【0109】
受信機54で火災感知器52から火災信号を受信して火災警報を出力したときに、制御線で接続した遠隔開閉弁24aへ開制御信号を出力して閉状態から開状態に駆動すると、水道水の供給により、非展開状態にあるシート12の保持が解除され、図示のようにシート12を上方から下方へ展開して部屋の出入口50を閉鎖する。また、シート12に供給された水道水により、シート12に冷却剤含浸層と水膜が形成される。このため、火災による炎や輻射熱に対する耐久性を増して防護区画48を確実かつ継続的に閉鎖することが可能となる。そのうえで外部に対する遮炎性、遮煙性、遮熱性を増して延焼防止、煙拡散防止性能を向上するので、より一層安全な避難行動や初期消火活動が可能になる。また、部屋の出入口50を閉鎖していても、シート12は柔軟性を有することから、シート12を開いて閉鎖した防護区画48から容易に避難することができる。同様に、閉鎖した防護区画48の外から閉鎖区画内に入って消火活動をすることもできる。また、例えば、別に消火ヘッド等の消火剤散布部を設けて、閉鎖した防護区画48内に消火剤を散布してもよい。散布する消火剤は冷却剤と同じであってもよく、例えば水道水であってもよい。
【0110】
火災検出設備の受信機54は停電時にバッテリーを備えた予備電源により所定時間にわたり動作する。このため停電時に火災が発生しても、受信機54が遠隔開閉弁24aへ開制御信号を出力し、水道水の供給により防災器具10のシート12を展開して冷却剤含浸層と水膜を形成し、防護区画48を閉鎖することができる。
【0111】
なお、本実施の形態の防災設備においては、配管開閉部として遠隔開閉弁24aと手動開閉弁24bを備え、これらを並列に接続する場合を例にとっているが、任意であり、例えば、一方のみを備えるものとしても良い。即ち、遠隔開閉弁24aによってのみ開閉するものとしても良く、また、手動開閉弁24bによってのみ開閉するものとしても良い。もちろん、並列接続以外の接続方式を妨げない。
【0112】
[h.シートを展開状態で固定設置した防災設備]
シートを展開状態で固定設置した防災設備について、詳細に説明する。防災設備の他の実施の形態として、予めシートを展開した防災器具10を使用する。この場合、展開部を省略することができる。この防災器具10の防護区画における設置の形態は任意であるが、一例として、防護を必要とする壁面等に設置される。具体的には、例えば、防災器具10のホルダー14を壁面の上部天井側に固定し、ホルダー14に上端辺を固定したシート12の下端辺を下方に引き下ろして壁面に沿って展開し、展開したシート12の所定箇所を、壁面等にビス止めする。火災発生時には、シート12に冷却剤、ここでは冷却水を供給し、シート12に冷却剤含浸層を形成し、防護区画外部への延焼及び煙拡散を防止すると共に、シート12を固定している壁面等を火災から防護する。
【0113】
[i.冷却水供給量の制御]
防災器具のシートに供給する冷却剤の供給量を時間的に変化させる防災設備の実施の形態について、詳細に説明する。図13の防災設備において、受信機54は、火災発生時に展開した防災器具10のシート12に供給する冷却剤、ここでは冷却水(水道水)の供給量を時間的に変化させる制御部としての機能を備える。このため、冷却剤配管26に設けた遠隔開閉弁24aを、開度調整可能な制御弁、例えば電動弁とする。
【0114】
火災が発生した場合、例えば、受信機54は火災感知器52から火災信号を受信して火災警報を出力した時点から所定時間のあいだ、遠隔開閉弁24aの開度を全開とし、展開したシート12に冷却水を供給する。これによりシート12の略全面にわたって迅速に冷却剤含浸層と水膜が形成され、遮炎性、遮煙性及び遮熱性が確保される。
【0115】
その後所定時間が経過すると、受信機54は遠隔開閉弁24aの開度を絞って冷却水の供給量を低下し、シート12の冷却剤含浸層と水膜を維持可能な所定の供給量とする。これによりシート12の冷却を継続しつつ、必要以上に冷却水がシート12を流下して床面に広がることを抑制し、水損被害の発生を低減可能とする。
【0116】
また、火災が拡大してシート12が強い輻射熱や直接の火炎に曝される状態となった場合には、例えば受信機54に対する所定の操作等により、遠隔開閉弁24aの開度を増加し、シート12に供給する冷却水の供給量を増加する。これにより冷却剤含浸層と水膜が引き続き維持され、火災による炎や輻射熱に対する耐久性を損なうことなく防護区画48を確実かつ継続的に閉鎖することが可能となる。
【0117】
なお、シート12の冷却水供給量を制御する他の実施の形態として、例えばシート12又はその近傍に温度センサを設置し、受信機54は温度センサの検出温度に基づいて遠隔開閉弁24aの開度を調整し、冷却水の供給量を制御するようにしても良い。
【0118】
また、シート12の冷却水供給量を制御する他の実施の形態として、受信機54は遠隔開閉弁24aを所定周期で開閉するように制御し、シート12に冷却水を断続的に供給してもよい。例えば、火災による炎や輻射熱を受けても、シート12に形成している冷却剤含浸層と水膜が蒸発等で失われない程度に、冷却水を断続的に供給するように遠隔開閉弁24aを開閉制御する。このようなシート12に対する冷却水の断続的な供給により、シート12に対する冷却水の供給量を適切にし、また、シート12に冷却剤含侵層と水膜を形成したときに、床面側に流下する冷却水の量を低減し、水損被害の発生を抑制可能とする。
【0119】
[j.本発明の変形例]
(シート構造)
上記の実施形態は、シート12を構成するカバーシート28,30を縫合により相互に固定する場合を説明したが、これに限定されない。例えば、カバーシート28,30の固定方法及び固定構造は任意であり、例えば、縫合部18を縫合するのに代えて接着剤により接着しても良い。また上記実施形態では、それぞれ1枚のカバーシート28,30を重ね合わせる場合を説明したが、これに限らず、例えば、1枚のカバーシートを二つ折りにしても良い。
【0120】
(冷却剤流通経路)
上記の実施形態は、シート配管32や縫合部18により冷却剤流通経路16を形成する場合を説明したが、これに限定されず、他の構成により冷却剤流通経路を形成して良い。例えば、合成樹脂製等のチューブを用いた冷却剤流通経路としても良い。
【0121】
また、上記実施形態では、冷却剤流通経路をカバーシート28,30で挟んで配置する場合を説明したが、これに限らず、例えば、シート12の片面又は両面に露出して冷却剤流通経路16(例えばシート配管32)を固定するようにしても良い。
【0122】
(その他)
また、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0123】
10:防災器具
12:シート
14:ホルダー
16,44:冷却剤流通経路
18:縫合部
20:冷却剤供給口
22:冷却剤供給源
24:配管開閉弁
24a:遠隔開閉弁
24b:手動開閉弁
26:冷却剤配管
28,30:カバーシート
31:水膜
32:シート配管
34,42:開口
36:冷却剤
40:冷却剤含浸層
46:吸水布
48:防護区画
50:出入口
52:火災感知器
54:受信機
63:シート固定部
64:シート保持部材
64a:止め輪
66:シート保持解除部
68:アクチュエータ
70:シリンダ
70a:シリンダ室
72:ピストン
73:自動排水弁
74:ロッド
76:リターンばね
78:冷却剤供給ポート
80:操作スティック
82:開口

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