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特許7340693圧電アセンブリおよび圧電アセンブリを形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】圧電アセンブリおよび圧電アセンブリを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20230831BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20230831BHJP
   H10N 30/079 20230101ALI20230831BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20230831BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20230831BHJP
   H10N 30/078 20230101ALI20230831BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/88
H10N30/079
H10N30/30
H10N30/20
H10N30/078
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022513419
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2021064775
(87)【国際公開番号】W WO2021249844
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-03-25
(31)【優先権主張番号】102020115315.5
(32)【優先日】2020-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518379278
【氏名又は名称】テーデーカー エレクトロニクス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヴラベリ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】レドルフィ,ゼバスティアン
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-001662(JP,A)
【文献】特開2007-273799(JP,A)
【文献】特開2006-058180(JP,A)
【文献】特開2009-054994(JP,A)
【文献】特開2016-152237(JP,A)
【文献】特開2018-198315(JP,A)
【文献】特表2012-533274(JP,A)
【文献】特開2003-282988(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021614(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/88
H10N 30/079
H10N 30/30
H10N 30/20
H10N 30/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電アセンブリであって、
主基板表面を有するベース金属基板と、
前記主基板表面上に配置された第1の配向層であって、
前記第1の配向層の少なくとも90重量%を構成する結晶質ペロブスカイト構造の第1の材料を有し、
相対ポロシティが最大70%の多孔質構造を有する多孔質配向サブ層を有する、
第1の配向層と、
前記第1の配向層の上に配置された第1の圧電層であって、
鉛を含む結晶ペロブスカイト構造の圧電材料を有し、
前記圧電材料は、(100)方向に沿って、前記第1の配向層の前記第1の材料よりも大きな長手方向の圧電係数を有し、
前記第1の圧電層の前記圧電材料の配向度oは、90%以上であり、
前記配向度oは、前記主基板表面の局部的な表面法線Nに対する、前記圧電材料の単位セルの前記(100)方向の配列の平均度である、
第1の圧電層と、
を有し、
前記第1の配向層は、少なくとも1つの緻密な配向サブ層を有し、
前記多孔質配向サブ層は、前記緻密な配向サブ層と比べて少なくとも2倍高い濃度のポアを有し、
前記少なくとも1つの緻密な配向サブ層は、前記主基板表面上に直接配置され、
前記多孔質配向サブ層は、前記緻密な配向サブ層上に配置される、圧電アセンブリ。
【請求項2】
前記基板は、前記主基板表面と反対側の第2の基板表面を有し、
前記主基板表面における前記第1の配向層上の前記第1の圧電層と同様、前記第2の基板表面上に、前記配向層上に圧電層を有する層状構造が配置される、請求項1に記載の圧電アセンブリ。
【請求項3】
前記第1の圧電層の上方に、前記第1の材料からなる第2の配向層が配置され、
前記第2の配向層上に、第2の圧電層が配置され、
前記第2の圧電層は、前記第1の圧電層と同様の90%以上の配向度oの圧電材料を有する、請求項1または2に記載の圧電アセンブリ。
【請求項4】
前記多孔質配向サブ層上に、別の緻密な配向サブ層が配置される、請求項1に記載の圧電アセンブリ。
【請求項5】
前記多孔質配向サブ層の平均ポアサイズは、100nm以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項6】
前記第1の配向層の前記第1の材料は、LaNiO3、SrRuO3、およびPbTiO3からなる群から選択される、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項7】
前記第1の配向層の前記第1の材料は、前記第1の圧電層の前記結晶質ペロブスカイト構造と同様の少なくとも90%以上の配向度oを有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項8】
前記第1の配向層は、10nmから500nmの厚さを有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項9】
前記基板は、チタン、アルミニウム、ニッケル、銅、または鋼である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項10】
前記圧電材料は、一般式[Pb1-yS1 y][(ZrxTi1-x)1-zS2 z]O3によって表され、
ここで、
S1は、第1の置換基であり、
S2は、第2の置換基であり、
0.40≦x≦0.95、
y<0.3、
z<0.15である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項11】
前記第1の圧電層は、0.1μmから5μmの厚さを有する、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の圧電アセンブリ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の圧電アセンブリを備える装置であって、
前記圧電アセンブリは、当該装置の表面に取り付けられ、前記表面で触覚信号を形成するように構成される、装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の圧電アセンブリと、エネルギー貯蔵素子とを備える装置であって、
前記圧電アセンブリは、前記圧電アセンブリの機械的変形の間に前記圧電アセンブリにおいて生じる電気エネルギーを収集するように構成され、
前記エネルギー貯蔵素子は、前記圧電アセンブリによって収集された前記電気エネルギーを貯蔵するように構成される、装置。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の圧電アセンブリを備えるマイクロミラーであって、
圧電アセンブリ上のミラー表面を有し、
前記圧電アセンブリは、前記圧電アセンブリへの電圧印加の際に、当該マイクロミラーを曲げるように構成される、マイクロミラー。
【請求項15】
圧電アセンブリを形成する方法であって、
主基板表面を有するベース金属基板を提供するステップと、
前記主基板表面に、一般式がABO3で表される結晶質ペロブスカイト構造の第1の材料を含む、第1のシード層を形成するステップであって、
前記主基板表面に、AおよびBのイオンを含む第1のシード層溶液を堆積させるステップであって、前記第1のシード層は、層状構造として調製され、以下、
AおよびBのイオンを含む第1のシード層溶液を堆積させるステップ、
第1の熱分解温度T1および該第1の熱分解温度T1での第1の保持時間t1を特徴とする第1の熱分解過程を含む、緻密なシードサブ層を形成するステップ、
AおよびBのイオンを含む第2のシード層溶液を堆積させるステップ、
第2の熱分解温度T2、および該第2の熱分解温度T2での第2の保持時間t2を特徴とする第2の熱分解過程を含む、多孔質シードサブ層を形成するステップ、ならびに
第1の熱処理過程により、前記ペロブスカイト構造を結晶化させるステップ、
を有する、ステップと、
鉛を含む結晶質ペロブスカイト構造の圧電材料を含む、第1の圧電層を形成するステップであって、以下、
鉛イオンおよび前記圧電材料の別のイオンを含む圧電層溶液を堆積するステップ、および
第2の熱処理過程により、鉛を含む前記ペロブスカイト構造を結晶化させるステップ
を有する、ステップと、
を有する、ステップと、
を有する、方法。
【請求項16】
前記緻密なシードサブ層は、前記主基板表面上に直接調製され、前記多孔質シードサブ層は、前記緻密なシードサブ層の上部に調製される、請求項15に記載の圧電アセンブリを形成する方法。
【請求項17】
T2<T1および/またはt2<t1である、請求項15または16に記載の圧電アセンブリを形成する方法。
【請求項18】
前記第2のシード層溶液は、ポリマーを含み、
前記第2の熱分解過程は、前記ポリマーが分解せず、完全に消失しないように実施される、請求項15乃至17のいずれか一項に記載の圧電アセンブリを形成する方法。
【請求項19】
少なくとも前記第1のシード層溶液または前記圧電層溶液は、スピンコーティング法で堆積される、請求項15乃至18のいずれか一項に記載の圧電アセンブリを形成する方法。
【請求項20】
少なくとも前記第1のシード層溶液または前記圧電層溶液は、印刷法によって堆積される、請求項15乃至19のいずれか一項に記載の圧電アセンブリを形成する方法。
【請求項21】
圧電アセンブリであって、
主基板表面を有するベース金属基板と、
前記主基板表面上に配置された第1の配向層であって、該第1の配向層の少なくとも90重量%を構成する結晶質ペロブスカイト構造の第1の材料を有する、第1の配向層と、
第1の配向層上に配置された、第1の圧電層と、
を有し、
前記第1の配向層は、多孔質配向サブ層および少なくとも1つの緻密な配向サブ層を有し、
前記多孔質配向サブ層は、相対ポロシティが最大70%の多孔質構造を有し、前記緻密な配向サブ層と比べて少なくとも2倍高い濃度のポアを有し、
前記少なくとも1つの緻密な配向サブ層は、前記主基板表面上に直接配置され、前記多孔質配向サブ層は、前記緻密な配向サブ層上に配置され、
前記第1の圧電層は、鉛を含む結晶質ペロブスカイト構造の圧電材料を有し、
前記圧電材料は、(100)の方向に沿って、前記第1の配向層の前記第1の材料よりも大きな長手方向の圧電係数を有し、
前記第1の圧電層の前記圧電材料の配向度oは、90%以上であり、
前記配向度oは、前記主基板表面の局所的な表面法線Nに対する、前記圧電材料の単位セルの前記(100)方向の配列の平均度であり、
前記基板は、前記主基板表面と対向する第2の基板表面を有し、
前記主基板表面における前記第1の配向層上の前記第1の圧電層と同様、配向層上に圧電層を有する層状構造が、前記第2の基板表面上に配置される、圧電アセンブリ。
【請求項22】
圧電アセンブリであって、
主基板表面を有するベース金属基板と、
前記主基板表面上に配置された第1の配向層であって、
前記第1の配向層の少なくとも90重量%を構成する結晶質ペロブスカイト構造の第1の材料を有する、第1の配向層と、
前記第1の配向層上に配置された第1の圧電層と、
を有し、
前記第1の配向層は、多孔質配向サブ層および少なくとも1つの緻密な配向サブ層を有し、
前記多孔質配向サブ層は、相対ポロシティが最大70%の多孔質構造を有し、前記緻密な配向サブ層と比べて少なくとも2倍高い濃度のポアを有し、
前記少なくとも1つの緻密な配向サブ層は、前記主基板表面上に直接配置され、前記多孔質配向サブ層は、前記緻密な配向サブ層上に配置され、
前記第1の圧電層は、鉛を含む結晶質ペロブスカイト構造の圧電材料を有し、前記圧電材料は、(100)の方向に沿って、前記第1の配向層の前記第1の材料よりも大きな長手方向の圧電係数を有し、
前記第1の圧電層の前記圧電材料の配向度oは、90%以上であり、前記配向度oは、前記主基板表面の局所的な表面法線Nに対する、前記圧電材料の単位セルの前記(100)方向の配列の平均度であり、
前記第1の圧電層の上には、前記第1の材料からなる第2の配向層が配置され、
前記第2の配向層上には、第2の圧電層が配置され、
前記第2の圧電層は、前記第1の圧電層と同じ90%以上の配向度oを有する圧電材料を有する、圧電アセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、圧電アセンブリおよび圧電アセンブリを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電膜および圧電アセンブリは、直接圧電効果または逆圧電効果を利用する、多くの用途で使用される。
【0003】
例えば、圧電アセンブリは、圧電活性材料または圧電層の変形により電気エネルギーが生じる、エネルギー収集用の装置に使用され得る。また、圧電アセンブリは、触覚コンタクトの際に電気信号が生じる触覚検出器に適用され得る。他の例は、圧電素子に電圧を印加することにより仕事が実施される、マイクロメカニカル用途またはマイクロモータである。
【0004】
その広範な適用のため、安価で、高特性の圧電デバイスまたはアセンブリに対して需要がある。また、アセンブリは、ロバストで柔軟な用途に適合する必要がある。
【0005】
しかしながら、この要望は、本発明以前の圧電アセンブリまたは層では、十分に満たされていない。
【0006】
結晶質圧電活性材料の調製、特に溶液からの圧電ペロブスカイト材料の調製は、文献に詳細に記載されている。例えば、米国特許第4,946,710A号明細書には、ある記載が認められる。
【0007】
ペロブスカイト圧電膜は、通常、複数のシリコンウェハ基板上に形成される。シリコンウェハ基板は、通常単結晶材料で構成されるため、いずれも高価である。さらに、シリコンウェハは脆くて壊れやすく、従って、僅かなレベルの曲げしか維持できない。
【0008】
にもかかわらず、例えば、非特許文献1に開示されているように、シリコンウェハ基板上に、高い圧電応答値を有する圧電層が製造されている。
【0009】
例えば、高特性圧電膜は、圧電ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)薄膜から調製することができる。これらのPZT膜は、ペロブスカイト結晶ユニットセルの(100)方向に沿って、最大の圧電応答を示す。これは、d33値で表される長手方向の圧電効果が、膜中の(100)結晶方位で最大となることを意味する。
【0010】
例えば、平坦な基板表面上のPZT膜では、高い圧電応答を達成するために、表面法線でのPZT結晶子の(100)方向の高い配向度が達成される必要がある。
【0011】
PZT膜の下側の基板にシード層を設置することは、高配向PZT膜を形成するための一般的なアプローチである。シード層は、通常、合成および処理パラメータに依存して、定められた配向で優先的に成長する材料である。その後、この定められた配向は、上部に成長する層のテンプレートとして機能することができる。通常、ニッケル酸ランタン、ルテニウム酸ストロンチウム、チタン酸鉛、またはチタニア膜が適用され、配向されたPZT膜が形成される。
【0012】
これらのシード層は、ゾル-ゲル成膜のような溶液系の技術により、シリコン基板に、これらを高品質かつ高い優先配向で製造できるという特性を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Davide Balma,Andrea Mazzalai,Nachiappan Chidambaram,Cosmin S.Sandu,Antonia Neels,Alex Dommann,Peter Hess,Dieter Binz,Paul Murat;ゾルゲルPZT薄膜マルチレイヤにおける高圧電の長手方向の係数.American Ceramic Society、2014年、第97巻、2069-2075頁
【文献】Sung Sik Won,Hosung Seo,Masami Kawahara,Sebastjan Glinsek,Jinkee Lee,Yunseok Kim,Chang Kyu Jeong,Angus I.Kingo,Seung-Hyun Kim;歪みエンジニアリングペロブスカイト圧電薄膜を用いた柔軟な振動エネルギー収集装置;Nano Energy,2019;Volume 55;182-192頁
【文献】Hong Goo Yeo,Susan Trolier-McKinstry;Ni箔上に化学溶液成膜により調製された{001}配向圧電膜;Journal of Applied Physics;2014;Volume 16;014105頁
【文献】Aleksander Matavz,Andraz Bradesko,Tadej Rojac,Barbara Malic,Vid Bobnar;圧電応答性が大幅に向上した自己組織化多孔質強誘電体薄膜;Applied Materials Today,2019;Volume 1;83-89頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
シリコンウェハ基板の問題のため、安価な金属基板上へのペロブスカイト材料に基づく圧電膜の調製が試されており、いくつかの例は、文献に認められる。
【0015】
例えば、WO2017/202652A1号には、透明圧電装置のゾルゲル由来の調製が開示されている。透明基板、例えば、ガラスまたは溶融シリカ上に、透明PZT膜が成長される。透明基板と透明PZT層との間には、金属酸化物、例えば、TiO2、ZrO2、またはAl2O3等からなる、薄くて透明な核形成層が配置される。開示のPZT膜は、結晶質であるが、安価な基板に対し、圧電特性は報告されていない。装置の強誘電特性、および小さな誘電損失のみが報告されている。
【0016】
例えば、EP1282901B1号には、異なる金属箔、例えば黄銅、白金、チタンおよびステンレス鋼上におけるPZT膜のゾルゲル由来の調製が開示されている。基板とPZT膜との間にバリア層を適用することが報告されている。開示のPZT膜は、結晶性であるものの、安価なステンレス鋼基板に対する圧電特性は報告されていない。ゼロ直流電界強度において、150未満の低い誘電率のみが報告されている。
【0017】
例えば、WO2020/084066A1号には、例えばPZT、PLZT、またはLNOなどからなる圧電膜のインクジェット印刷由来の調製が開示されている。PZT膜は、貴金属基板上、例えば、Pt、Au、Pd等、または貴金属で被覆された基板上、例えば、めっきされたシリコン、ガラスまたは鋼上に、印刷される。基板の貴金属表面での過剰な濡れによる圧電膜印刷インクの好ましくない拡散を回避するため、貴金属基板表面と印刷圧電膜との間に、有機チオール、例えば1-ドデカンチオールからなるSAM層が配置される。SAM層は、熱処理後の最終装置にもはや存在せず、また、圧電膜に全く影響を及ぼさないように意図される。開示のPZT膜は、結晶質であるが、圧電特性は、報告されていない。
【0018】
非特許文献2には、ニッケルクロム系のオーステナイト鋼箔上に、PZT薄膜を形成することが記載されており、ニッケル酸ランタンバッファ層が設置される。しかしながら、PZT膜は、混合された結晶学的配向を有する。
【0019】
非特許文献3には、優先的(100)配向を有する、ハフニウム酸化物被覆ニッケル基板へのPZT膜の形成が記載されている。高い配向度は、PZT膜形成の前に、酸化ハフニウム被覆基板上に成膜される、高配向ニッケル酸ランタン膜によっても達成される。
【0020】
これらのアプローチにもかかわらず、追加の別の支持層または構造を必要とせずに、ペロブスカイト構造のシード層によりテンプレート化された安価な金属基板上に、高い配向を有するペロブスカイト圧電材料が形成されるアプローチは知られていない。
【0021】
さらに、安価な金属基板の場合も、圧電ペロブスカイト膜と基板の異なる熱膨張係数は、関連する問題である。
【0022】
圧電膜の調製中のこの熱膨張係数の差により、圧電膜に高い機械的応力が生じる可能性があり、結果的に、膜の破損が生じたり、または基板のクランプ効果により、少なくとも圧電特性が低下したりする可能性がある。
【0023】
本記載において、非特許文献4には、シリコン基板上に多孔質PZT膜を形成し、これにより、膜応力における局所的な弾性緩和により、応力デカップリングがもたらされることが開示されている。
【0024】
しかしながら、安価な金属基板上で多孔質構造を使用することに関する報告は、本願よりも前には報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の問題は、本願の請求項1の主題によって解決される。さらに有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。また、前述の問題を解決する圧電アセンブリを形成するプロセスが特許請求される。
【0026】
第1の態様として、主基板表面を有するベース金属基板を含む圧電アセンブリが提供される。第1の配向層が主基板表面上に配置され、第1の配向層は、第1の配向層の少なくとも90重量%を構成する結晶性ペロブスカイト構造の第1の材料を有する。さらに、第1の配向層上に、第1の圧電層が配置され、第1の圧電層は、鉛を含む結晶ペロブスカイト構造の圧電材料を有し、圧電材料は、(100)方向に沿って、第1の配向層の第1の材料よりも大きな長手方向の圧電係数(d33)を有する。第1の圧電層の結晶性ペロブスカイト構造の配向度oは、90%以上である。配向度oは、局部的な表面法線Nまたは主基板表面に対する、結晶質圧電材料の単位セルの(100)方向の配列の平均度である。
【0027】
このアセンブリは、安価なベース金属基板上に、鉛を含むペロブスカイト材料をベースとする高特性の圧電膜を提供する。典型的には、これらの基板は、優先的な結晶方位を有さず、すなわち、これらは、多結晶または非晶質であり得る。基材は、例えば、膜または材料の小板であってもよい。
【0028】
これらの曲げ可能なまたは可撓性の基板により、曲げ可能なまたは可撓性の圧電アセンブリの調製が可能になり、例えば、20mmの長さで、最大90°の屈曲に耐えることができる。
【0029】
このアセンブリの基板は、通常、導電性の配向層と共に、第1の電極として機能することができる。
【0030】
好ましくは、結晶性ペロブスカイト構造の第1の材料は、第1の配向層の少なくとも95重量%を構成し、より好ましくは99重量%を構成し、理想的には、第1の配向層は、第1の材料全体を構成する。
【0031】
通常、第1の配向層は、圧電アセンブリの全体的な圧電応答性にはあまり寄与しない。例えば、第1の配向層は、圧電的に不活性であってもよい。
【0032】
ただし、第1の配向層は、装置の製造プロセスにおけるシード層であり得る。ペロブスカイト材料からなるシード層として、第1の配向層は、テンプレートとして機能し、その配向を、上部に配置された第1の圧電層に伝達することができる。例えば、第1の配向層は、ペロブスカイト材料の優先(100)配向で成長させることができ、これが第1の圧電層に転写される。
【0033】
従って、第1の配向層を導入することによって、第1の圧電層の結晶ペロブスカイト構造の圧電材料を整列させることにより、圧電アセンブリの圧電応答性を高めることができる。
【0034】
さらに、第1の配向層は、基板と第1の圧電層との間のイオン反応または化学反応の混合を防止するバッファ層として機能できる。これにより、熱処理のような加熱プロセス中の化学変化による圧電層の劣化を防止することができる。
【0035】
ここで、以下の配向度oは、主基板表面の局所的な表面法線Nに対する、第1の圧電層のペロブスカイト結晶子の(100)方向の平均配列として定義される。局所的な表面法線Nは、主基板表面のある点における主基板表面の接線平面の表面法線である。
【0036】
一実施形態では、圧電アセンブリの基板は、主基板表面と対向する第2の表面を有し、配向層上には、主基板表面上に構成された第1の配向層上の第1の圧電層と同様、第2の基板表面上に、圧電層を有する層状構造が配置される。
【0037】
これは、基板が平坦な膜または板状の場合、対称構造が形成され、鏡面が主基板表面と第2の基板表面の中間に配置されることを意味する。
【0038】
基板が平坦ではない場合、通常、対称性は、主基板表面の局所的な表面法線Nの方向に沿って維持される。
【0039】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の配向層と同じ結晶ペロブスカイト構造の第1の材料を含む第2の配向層が、第1の圧電層の上方に配置される。さらに、この実施形態では、第2の圧電層は、第2の方向層上に配置され、第2の圧電層は、第1の圧電層と同じ圧電材料を有し、90%以上の同じ配向度oを有する。
【0040】
これは、第2の圧電層が第1の圧電層と同一であり得ることを意味する。通常、第2の圧電層は、少なくとも90%の配向度oを有する。
【0041】
基板上、第2の表面または第1の圧電層の上に、別の圧電層を配置することは、1つの圧電層の厚さを過度に高めることなく、アセンブリの全体的な圧電強度を高めることができるという利点を有する。比較的厚い圧電層は、逆圧電効果または直接圧電効果の間に、強く変形する傾向がある。
【0042】
非圧電性活性層、この場合、配向層による圧電材料の層の分離は、装置または圧電アセンブリのこの強い全体的な変形を抑制することに役立つ。
【0043】
第2の配向層が導電性である場合、そのような構造では、第2の配向層は、内部電極として機能できる。
【0044】
原理的には、第1の圧電層と第2の配向層との間に、さらに別の金属電極層を配置することもできる。
【0045】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の配向層は、最大70%の相対ポロシティを有する多孔質構造を有する、多孔質配向サブ層を含む。
【0046】
ポロシティは、多孔質配向サブ層が、第1の材料およびポアを有し、多孔質配向サブ層内のポアの体積率が最大70%であってもよいことが理解され、これは、多孔性質配向サブ層の体積の最大70%がポアで構成され得ることを意味する。従って、この定義は、バルク材料の相対密度の定義と同様に考えることができる。例えば、多孔質配向サブ層は、好ましくは最大50%のポロシティを有してもよい。
【0047】
原理上、第1の配向層の全体が多孔質配向サブ層で構成され得る。
【0048】
多孔質配向サブ層により、第1の圧電層と基板の異なる熱膨張係数により生じる圧縮応力または引張応力が補償できる。従って、基板クランプ効果による圧電効果の劣化を低減することができる。
【0049】
これは、配向層がテンプレート効果、バッファリング効果、および応力緩和効果を有し得ることを意味する。
【0050】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の配向層は、多孔質配向サブ層に加えて、少なくとも1つの緻密な配向サブ層を有する。この実施形態では、多孔質配向サブ層は、緻密な配向サブ層よりも少なくとも2倍高い濃度のポアを有する。
【0051】
そのような構成では、緻密な配向サブ層は、その緻密な形態のため、基板と第1の圧電層との間のイオン相互拡散を防止する、効率的なバッファとして機能することができる。
【0052】
多孔質配向サブ層は、応力緩和機能を提供できる。
【0053】
また、通常、緻密な配向サブ層は、必ずしも100%の密度を必要としない。これは、溶液からの成膜技術に基づく調製手順から得られてもよい。ただし、緻密な配向サブ層の密度は、通常、多孔質配向サブ層の密度よりも少なくとも2倍高い。
【0054】
圧電アセンブリの別の実施形態では、少なくとも1つの緻密な配向サブ層が、主基板表面上に直接配置され、多孔質配向サブ層は、緻密な配向サブ層上に配置される。
【0055】
緻密な配向サブ層を主基板表面に直接配置することにより、主基板表面で直接、基板からのイオンの拡散を防止することができる。従って、バッファ効果が有効となり得る。
【0056】
別の実施形態では、多孔質配向サブ層上に、別の緻密な配向サブ層が配置される。
【0057】
これは、多孔質配向サブ層が、2つの緻密な配向サブ層間に挟まれることを意味する。
【0058】
これにより、緻密な閉止表面が第1の圧電層と直接接触するという、追加の利点がもたらされる。これにより、緻密な配向サブ層は、第1の圧電層の有効なテンプレートとして機能できる。
【0059】
アセンブリが2つ以上の配向層を含む場合、これらの追加の配向層は、第1の配向層と同様に構造化されてもよい。
【0060】
圧電アセンブリの一実施形態では、多孔質配向サブ層の平均孔径は、100nm以下である。
【0061】
100nm未満のポアサイズにより、多孔質配向サブ層上に閉止層を調製することができる。
【0062】
好ましくは、平均ポアサイズは、1nmから20nmの範囲であり得る。この場合、多孔質配向サブ層上の閉止層および緻密層の調製が、さらに効果的となる。
【0063】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の材料は、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、およびチタン酸鉛(PbTiO3)からなる群から選択される。
【0064】
これらの材料は、例えば、化学溶液成膜に基づく製造方法の間のコーティング溶液の濃度または処理パラメータに応じて、高い配向度で調製することができる。従って、これらの材料は、テンプレートとして有効に機能できる。
【0065】
これらの材料では、緻密なおよび多孔質配向のサブ層の両方の調製が可能になる。さらに、これらは、基板と第1の圧電層との間を効果的にバッファする。また、特に、圧電材料の(100)配向において、優先配向の効率的なテンプレートが可能となる。
【0066】
これらの第1の材料のうち、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)が特に有利である。
【0067】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の配向層の第1の材料は、第1の圧電層の結晶質ペロブスカイト構造と同様、少なくとも90%以上の配向度oを有する。
【0068】
配向度oが90%を超えると、第1の配向層は、効率的なテンプレートとなることができ、これにより、圧電層の結晶子が(100)配向で成長することが促進され、その結果、第1の圧電層において、(100)配向度oが90%以上の圧電材料が得られる。
【0069】
第1の配向層の第1の材料の配向度は、であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。
【0070】
層状配向層の場合、通常、すべてのサブ層は、それぞれ、90%以上の配向度oを有する。
【0071】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の配向層は、10nmから500nmの厚さを有する。
【0072】
この厚さ範囲内において、第1の配向層は、圧電層と基板との間の効率的なバッファとして機能することができる。より薄い膜の場合、特に、多孔質のより薄い配向層の場合、バッファ効果が有効でない場合がある。
【0073】
さらに、この厚さの膜は、高い配向度oで調製することができ、またこの範囲の厚さは、化学溶液成膜に基づく技術により、効率的に調製することができる。
【0074】
前述の厚さよりも厚い場合、長時間の調製努力が必要となり、その結果、調製プロセスが非効率になる。さらに、500nmを超える厚さの膜では、膜の品質が劣化する可能性がある。
【0075】
圧電アセンブリの別の実施形態では、基板は、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)であり、または好ましくは鋼である。
【0076】
これらの材料は、安価であり、その上に第1の配向層を調製することができる。
【0077】
ニックルクロム系のオーステナイト鋼は、基板材料として特に好ましい。これらは、結晶質で、安価で、有効な耐酸化性を有するからである。これは、通常、酸素含有雰囲気下で行われる通常の配向層の材料の調製に関連する。また、通常、これは、腐食性環境での適用を可能にし得る。
【0078】
この意味で、ニッケル-クロム系オーステナイト鋼は、特に、酸素抵抗率が低いニッケルまたは銅系材料よりも好ましい。
【0079】
さらに、ニッケルクロム系オーステナイト鋼は、可逆的に可撓性で曲げが可能であるため、特に適する。
【0080】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の圧電層は、ほぼ[Pb1-yS1 y][(ZrxTi1-x)1-zS2 z]O3で表される圧電材料で構成され、ここで、S1は、第1の置換基であり、S2は、第2の置換基である。xは、0.40から0.95の間で選択され、yは、0.30より小さく、zは、0.15より小さい。好ましくは、yは、0.25よりも小さい。好ましくは、yおよびzの少なくとも1つは、0よりも大きい。さらに好ましくは、yおよびzは、0よりも大きい。
【0081】
[Pb1-yS1 y][(ZrxTi1-x)1-zS2 z]O3において、第1の置換基S1は、ペロブスカイト単位セル(一般式ABO3)のAサイトを占め、部分的に鉛と置換される。第2の置換基S2は、ペロブスカイト単位セルのBサイトを占め、部分的にジルコニウムまたはチタンイオンと置換される。
【0082】
例えば、S1は、Na、K、Ag、Ba、La、Sr、Ca、Nd、Y、Eu、Gd、Tb、およびDyからなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0083】
例えば、S2は、Cu、Ni、Co、Hf、Mg、Mn、Fe、Nb、VおよびWからなる群より選択された1つ以上であってもよい。
【0084】
ドープされたチタン酸鉛材料は、特に好ましいペロブスカイト圧電材料である。
【0085】
特に、モルフォトロピック相境界の近傍では、これらの材料は、最大の誘電率、および長手方向の圧電係数(d33)のような、圧電定数を示す。
【0086】
置換基の置換の度合いと性質に応じて、室温でのモルフォトロピック相境界は、x値が0.45と0.6の間にあることが好ましい範囲であることが認められている。
【0087】
値yは、好ましくは、0.10未満、例えば、0.05未満または0.02以下であることが好ましい。特に好ましいドーパントは、マンガン、ニオブまたはランタンである。
【0088】
圧電アセンブリの別の実施形態では、第1の圧電層は、0.1μmから5μmの厚さを有することができる。
【0089】
この厚さ範囲は、化学溶液成膜に基づく技術により、対処できる。
【0090】
別の態様として、前述の圧電アセンブリを含む装置が提供され、該圧電アセンブリは、装置の表面に取り付けられ、該表面で触覚信号を形成するように構成される。
【0091】
有意には、前述の圧電アセンブリは、触覚信号を検出する装置に適用することができ、これは、例えば、タッチスクリーン用途であってもよい。
【0092】
別の態様として、前述のような圧電アセンブリを有する装置が提供され、この装置は、エネルギー貯蔵素子を有し、圧電アセンブリは、圧電アセンブリの機械的変形の間に圧電アセンブリ内で生じた電気エネルギーを収集するように構成され、エネルギー貯蔵素子は、圧電アセンブリによって収集された電気エネルギーを貯蔵するように構成される。
【0093】
別の態様として、前述のような圧電アセンブリを有するマイクロミラーが提供される。このマイクロミラーは、鏡面を含む。鏡面は、圧電アセンブリの反射的に調製された表面であってもよい。別の実施形態では、鏡面と、この鏡面に対向する背面とを有する鏡が提供され、圧電アセンブリは、背面に取り付けられる。両方の場合において、圧電アセンブリは、圧電アセンブリに電圧が印加された際に、マイクロミラーを曲げるように構成される。
【0094】
特に、このような用途では、曲げ可能なミラーとともに曲げられるため、可撓性の曲げ可能な圧電アセンブリが有意である。従って、圧電装置の高い精度により、そのようなマイクロミラー構成により、光を焦点化し、または焦点をずらすことが可能となる。
【0095】
別の態様として、前述の圧電アセンブリを形成するプロセスが提供される。本方法は、主基板表面を有するベース金属基板を提供するステップを有する。さらに、この方法は、主基板表面に、一般式ABO3で表される結晶質ペロブスカイト構造の第1の材料を有する第1のシード層を形成するステップを有する。このステップは、主基板表面に、AおよびBのイオンを含む第1のシード層溶液を堆積するステップと、第1の熱処理過程により、ペロブスカイト構造を結晶化するステップと、を有する。さらに、本方法は、鉛を含む結晶質ペロブスカイト構造の圧電材料を有する第1の圧電層を形成するステップを有する。このステップは、鉛イオンおよび圧電材料の別のイオンを含む圧電層溶液を堆積するステップと、第2の熱処理過程により、鉛を含むペロブスカイト構造を結晶化するステップと、を有する。
【0096】
例えば、ニッケル酸ランタンは、第一の材料であり得る。この場合、ABO3結晶構造において、AはLaであり、BはNiである。
【0097】
そのような化学溶液成膜に基づく技術は、シード層および圧電層の両方に対して、容易に適用され、コスト効率の良いペロブスカイト層の形成方法である。
【0098】
通常、例えば、シード層の個々の形成手順は、いくつかの成膜ステップを有し得る。例えば、これは、薄いサブ層の繰り返し成膜、および熱処理を有し得る。これらにより、結晶質ペロブスカイトの第1シード層が形成される。圧電層についても、同じ原理が成り立つ。
【0099】
通常、第1のシード層および第1の圧電層の調製は、さらに、乾燥ステップ、および熱分解ステップを有し得る。
【0100】
シード層は、90%以上の高い配向度oで調製することができる。従って、第1のシード層上に第1の圧電層を調製することにより、配向されたシード層は、(100)方向において、ペロブスカイト結晶子の結晶化が促進され得る。
【0101】
このプロセスを含む圧電アセンブリの完成後、第1のシード層は、第1の配向層として識別され得る。
【0102】
圧電アセンブリを形成するプロセスの一実施形態として、層状構造として第1のシード層を調製することができる。これは、AおよびBのイオンを含む第1のシード層溶液を堆積するステップと、次に、第1の熱分解過程を有する、緻密なシードサブ層を形成するステップと、を有し得る。この第1の熱分解過程は、第1の熱分解温度T1、および該第1の熱分解温度T1での第1の保持時間t1により特徴付けることができる。さらに、この過程は、AおよびBのイオンを含む第2のシード層溶液を成膜させるステップと、第2の熱分解過程により、多孔質シードサブ層を形成するステップと、を有する。第2の熱分解過程は、第2の熱分解温度T2、および該第2の熱分解温度T2での第2の保持時間t2により特徴付けることができる。
【0103】
これは、第1のシード層が層状構造として調製され、該層状構造が緻密なシードサブ層および多孔質シードサブ層を有することを意味する。緻密なシードサブ層は、第1のシード層溶液を直接、主基板表面上に堆積することにより調製できる。これは、緻密なシードサブ層が主基板表面上に直接調製されることを意味する。この場合、次に、多孔質シードサブ層は、緻密なシードサブ層の上に調製され得る。従って、前述のような緻密な配向サブ層は、多孔質配向サブ層が上部に形成された主基板表面上に、直接形成される。従って、効率的なバッファ効果が達成され得る。
【0104】
ただし、原理上、順序を逆にしてもよく、多孔質シードサブ層を、主基板表面に直接接触させて調製することができる。
【0105】
さらに、通常、熱分解過程は、熱処理過程に先立って適用されることが留意される。例えば、シード層溶液中に存在し得る有機成分は、熱分解過程により、少なくとも一部が除去される。従って、非晶質の予備シードサブ層を形成することができる。熱処理の間、材料が結晶化され、結晶性のシードサブ層を形成することができる。
【0106】
圧電アセンブリを形成するプロセスの別の態様として、以下の関係が定められる:T2は、T1よりも小さく、および/またはt2は、t1よりも小さい。
【0107】
第2の熱分解温度T2が第1の熱分解温度T1よりも低い場合、通常、第2のシード層溶液中に存在し得る有機成分は、完全には分解せず、形成層から完全に逸散する傾向がある。従って、一部が固体であるものの、主として気体状の残留物により、多孔質シードサブ層は、緻密なシードサブ層よりも高いポロシティを有することができる。
【0108】
t1よりも短い熱分解保持時間t2では、同様の効果を得ることができる。第2の熱分解温度T2での保持時間t2の間の簡単なフラッシングのみの場合、比較的長い第1の保持時間t1での有機成分の残留物および分解生成物の逸散および除去に比べて、効率が低くなる。
【0109】
t2<t1の場合、T1およびT2は、同じであってもよく、T1およびT2が異なる値に設定されている場合のように、あまり複雑ではないプロセス管理が支援されてもよい。
【0110】
T2<T1およびt2<t1の両方の場合、効果が重畳され、緻密なシードサブ層に比べて、多孔質シードサブ層のポロシティは、増加してもよい。
【0111】
サブ層または第1のシード層全体を、所望の厚さに到達させるため、緻密なシードサブ層および多孔質シードサブ層の両方は、繰り返し成膜、乾燥、熱分解、および熱処理サイクルにより、形成されてもよい。
【0112】
圧電アセンブリを形成するプロセスの別の実施形態では、第2のシード層溶液は、ポリマーを有し得る。さらに、ポリマーが完全に分解され、消失しないように、第2の熱分解過程が実施されてもよい。
【0113】
通常、ポリマーは、有機成分とみなすことができ、これは、一般にシード層溶液中に存在する、他の小さな有機分子よりも分解することが難しい。
【0114】
このアプローチでは、第1の熱分解過程および第2の熱処理過程が同一である場合であっても、多孔質シードサブ層の形成が可能となる。
【0115】
ポリマーを含む第2のシード層溶液から多孔質シードサブ層が形成される場合、ポアの形成に2つの効果が関与してもよい。第1は、ポリマーは、空間を予備占有し、これが、熱分解および熱処理の後にポアとなることである。第2の、おそらくより関連性のあることは、第2の熱処理過程中にポリマーからガス状分解生成物が形成され、これが形成される多孔質シードサブ層中に捕捉され、その結果、ポアが形成されることである。
【0116】
通常、ポリマー含有溶液を使用すると、ポリマーのない場合のように、高いポロシティの多孔質シードサブ層の形成が支援される。
【0117】
しかしながら、T2<T1および/またはt2<t1を追加することにより、さらに高いポロシティが達成され得る。
【0118】
一般に、第2の熱分解温度が極端に高くなり、および/または第2の保持時間が極端に長くなると、ポリマーの完全な分解および散逸が生じ、通常、ポアの形成が抑制される。
【0119】
圧電アセンブリを形成する方法の一実施形態では、少なくとも第1のシード層溶液または圧電層溶液は、スピンコーティング法で成膜される。
【0120】
スピンコーティング法は、ペロブスカイト膜で各種基板を容易に被覆することが可能な、普通に適用される技術である。これにより、回転速度により、成膜層またはサブ層の厚さを調整することができる。これにより、高い均一性、および高い配向性のペロブスカイト膜を形成することができる。
【0121】
圧電アセンブリを形成する方法の別の態様では、インクジェット印刷のような印刷方法により、圧電層溶液上に、少なくとも第1のシード層溶液が成膜される。
【0122】
高い空間的定義が可能な印刷方法では、前述の溶液の正確な成膜が可能となる。これにより、構造または構造化膜を大規模に製造することができる。
【0123】
以下、例示的な実施形態および関連する図面に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0124】
図面は、単に本発明を説明するためのものであり、従って、単に概略的に示されており、正確なスケールではない。個々の部分は、寸法に関して拡大され、または湾曲した方法で図示され得る。従って、図からは絶対的な寸法も相対的な寸法も推測されない。同一のまたは同様の作用部分には、同一の参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0125】
図1】概略的断面図における圧電アセンブリの第1の例示的な実施形態を示した図である。
図2】概略的断面図における圧電アセンブリの第2の例示的な実施形態を示した図である。
図3】概略的断面図における圧電アセンブリの第3の例示的な実施形態を示した図である。
図4】圧電アセンブリの第3の例示的な実施形態の一部の断面の走査型電子顕微鏡像を示した図である。
図5】概略的な断面図における圧電アセンブリの第4の例示的な実施形態を示した図である。
図6】曲がった状態の概略的な断面における圧電アセンブリの第4の例示的な実施形態を示した図である。
図7】概略的な断面図における圧電アセンブリの第5の例示的な実施形態を示した図である。
図8】概略的な断面図における圧電アセンブリの第6の例示的な実施形態を示した図である。
図9】厚さ20μmの基板上および厚さ500μmの基板上の圧電アセンブリのX線回折パターンを示した図である。
図10】厚さ20μmのステンレス鋼基板を有する圧電アセンブリの電気分極(図10A)および異なるDCバイアス電場における誘電率の実部(図10B)の電場依存性を示した図である。
図11】500μmの厚さの基板(図11A)および20μmの厚さの基板(図11C)についての相対歪み(S)の電場依存性と、500μmの基板(図11B)および20μmの厚さの基板(図11D)上の圧電膜についての異なるDCバイアス場における長手方向の圧電係数(d33)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0126】
図1には、圧電アセンブリ1の第1の例示的な実施形態の概略的な断面図を示す。
【0127】
圧電アセンブリ1は、ニッケル-クロム系のオーステナイト鋼基板2を有する。基板2は、例えば、EN1.4310、EN1.4404、EN1.4541またはEN1.4845のような鋼であってもよい。これらの鋼は、好ましい耐酸化性を有する。基板2は、主基板表面21を有し、これは、200nmまたはそれ以下の表面粗さの算術平均偏差(Ra)を有することが好ましい。
【0128】
第1の配向層3は、主基板表面21上に直接配置される。第1の配向層3は、該第1の配向層3の第1の材料として、ニッケル酸ランタン(LaNiO3)を含む。第1の材料のペロブスカイト結晶子は、90%以上、好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の配向度oを有する。
【0129】
図1に示すように、主基板表面は、平坦であり、従って、すべての局所的表面法線の方向は、同じである。
【0130】
テンプレートの第1の配向層3の配向度が高いほど、第1の配向層3上に構成された第1の圧電層4の配向度oが高くなる。
【0131】
第1の配向層3の全体の厚さは、10nmから500nmの範囲であってもよい。例えば、配向層の厚さは、100から200nm、例えば、150nmの範囲であってもよい。
【0132】
第1の圧電層4は、結晶質ペロブスカイト構造の圧電材料で構成される。本実施形態の圧電材料は、ジルコン酸チタン酸鉛系の材料であり、例えば、(La0.02Pb0.98)(Zr0.52Ti0.48)O3のような、ランタンドープジルコン酸チタン酸鉛である。
【0133】
第1の圧電層4の圧電材料は、90%以上の配向または配向度oを有する。より好ましくは、第1の圧電層4の圧電材料の配向または配向度oは、95%以上、または99%以上である。
【0134】
配向度または配向oが高いほど、層全体の長手方向の圧電係数d33の値は、高くなり得る。最大300pm/Vのd33の値を、99%の範囲の配向度または配向oで達成することができる。
【0135】
第1の圧電層の厚さは、100nmから5μmであってもよく、例えば、厚さは、600から900nmの範囲であり得る。
【0136】
第1の圧電層の上部には、上部電極5が配置される。上部電極5は、任意の好適な導電性材料から構成されてもよく、例えば、金属、または導電性酸化物もしくは導電性セラミック材料から構成されてもよい。例えば、上部電極は、銅、ニッケル、金、銀、白金、またはニッケル酸ランタンで構成されてもよく、またはCr/Ni/Ag、Cr/Ni/Au、Ni/Au、Cr/Au、またはTi/Auのような層状電極であってもよい。
【0137】
基板2は、導電性の第1配向層3と共に、外部で電気的に接続された場合、ベース電極として機能することができる。
【0138】
圧電アセンブリ1の例示的な第1の実施形態は、任意の好適なプロセスによって製造することができる。これは、例えば、以下のプロセスにより製造することができる。
【0139】
まず、オーステナイト鋼基板2が提供される。主基板表面21は、アセトン、イソプロパノールおよび脱イオン水中で、超音波洗浄法により洗浄される。これは、窒素流中で乾燥される。続いて、UVおよびオゾンの下で処理され、有機成分が除去される。他の洗浄方法を適用してもよい。シード層溶液によって好適な濡れ性を示す、原子的にほぼ清浄な表面を得ることが重要である。
【0140】
次に、主基板表面21上に、例えばスピンコーティング法またはスクリーン印刷法により、第1シード層3が調製される。完全に処理されたアセンブリにおいて、得られた層は、第1の配向層3として識別することができる。
【0141】
第1のシード層3は、繰り返し成膜、乾燥、熱分解、および熱処理の手順により、形成することができる。
【0142】
例えば、厚さ150nmのシード層は、次のように調製することができる:まず、酢酸ランタンおよび硝酸ニッケルを2-エトキシエタノールに溶解し、LaおよびNiイオンに関して0.5mol/Lの溶液を形成する。還流下、80℃で2時間、混合物を加熱し、透明な溶液を得る。室温まで冷却した後、溶媒を加えて、0.2mol/lの濃度の第1のシード層溶液を形成する。
【0143】
約150nmの厚さを有する第1のシード層3を調製するため、スピンコーティング成膜、乾燥、熱分解、および熱処理の手順を6回繰り返し実施する。1回の調製サイクルは、以下を含む:回転速度3000rpmで30秒間のスピンコーティング処理において、主基板表面21に第1のシード層溶液を設置する。その後、100から200℃付近で乾燥させ、溶媒を除去する。続いて、熱分解ステップ(第1の熱分解工程)を実施し300℃から450℃の第1の熱分解温度で他の有機成分を除去する。第1の熱分解温度における第1の保持時間は、0.1分から10分の範囲であり、通常、0.5分から5分であってもよい。これにより、アモルファスの予備シード層が形成される。その後、600から750℃の温度で膜が熱処理され、結晶化される。第1の温度上昇速度は、通常、10K/s以上であり、好ましくは、例えば、30K/sである。これにより、100の結晶配向において第1のシード層の成長が促進される。熱処理は、窒素対酸素比が4:1の窒素と酸素の混合ガス中で実施され、シード層において、化学量論的な酸素含有量が確保される。
【0144】
成膜サイクルの回数を適合させることにより、第1のシード層3の厚さを変化させることができる。
【0145】
調製後に、高い配向性のシード層3、さらには高い配向性の第1の圧電層4を調製することができる。
【0146】
第1の圧電層4の調製は、原則として、第1のシード層3の調製とよく似ている。また、これは、圧電層溶液の繰り返し堆積、乾燥、熱分解、および熱処理の手順に基づいてもよい。
【0147】
圧電層溶液は、最初に、ジルコン酸チタン酸鉛の圧電材料のイオンを含む溶液を調製することにより、調製できる。例えば、組成が(La0.02Pb0.98)(Zr0.52Ti0.48)O3の圧電材料の場合、ジルコニウムn-プロポキシド(0.52mol/L)、チタンイソプロポキシド(0.48mol/L)、無水酢酸鉛(1.127mol/L)、および無水酢酸ランタン(0.02mol/L)の溶液を、2-メトキシエタノール中で調製する。この溶液中では、圧電材料における所望の化学量論比に対して、モル過剰の15%の鉛が存在し、調製手順における加熱工程中の鉛損失が補償される。還流下、約120℃で2時間、加熱し、その後蒸留することにより、透明な溶液が製造される。(La0.02Pb0.98)(Zr0.52Ti0.48)O3に関し、15%のモル過剰の鉛を含む0.5mol/Lの圧電層溶液が、溶媒の添加により調製される。
【0148】
圧電層は、繰り返し成膜、乾燥、熱分解、および熱処理の手順で製造できる。例えば、780nmのオーダーの層厚さの場合、以下の方法が適用できる:最初に、
スピンコーティング処理において、30秒間、3000rpmの回転速度を与え、圧電層溶液を堆積する。その後、堆積された溶液を100から200℃の間の温度で乾燥させる。次に、300から450℃の間の温度で熱分解ステップが適用され、有機成分が除去される。これにより、アモルファス予備圧電サブ層が形成される。ここまでの手順が最大3回まで繰り返される。これは、3つのアモルファス部分層が互いに構成されることを意味する。続いて、窒素:酸素比が4:1の窒素と酸素の混合ガス中で、500から700℃での熱処理手順が15分未満で実施される。例えば、熱処理時間は、1から5分とすることができる。この手順は、4回繰り返されてもよく、これは、780nmの最初の圧電層全体が、12の予備サブ層から形成されることを意味する。
【0149】
成膜サイクルの回数を適合させることにより、第1の圧電層4の厚さを変化させることができる。
【0150】
任意の好適な技術、例えば、スパッタリングまたはバーンイン法により、外側電極5が成膜できる。
【0151】
図2には、圧電アセンブリ1の第2の例示的な実施形態の概略的な断面図を示す。
【0152】
第2の例示的な実施形態は、層状構造を有する第1の配向層3を除き、第1の例示的な実施形態と同じであり得る。
【0153】
第1の配向層3は、緻密な配向サブ層31および多孔質の配向サブ層32で構成される。両方とも、第1の例示的な実施形態における第1の配向層3と同じ第1の材料で構成される。
【0154】
しかしながら、緻密な配向サブ層31は、多孔質な配向サブ層32よりも少なくとも2倍高い密度、または換言すれば、2倍低いポロシティを有する。
【0155】
多孔質な配向サブ層32は、平均ポア直径が100nm未満、好ましくは1nmから20nmの間の範囲の多孔質材料で構成される。
【0156】
このアセンブリは、オーステナイト鋼基板2上に直接構成された緻密な配向サブ層31が、有効なバッファ層となり、第1の圧電層4と基板2との間の相互拡散が抑制されるという利点を有する。
【0157】
多孔質配向サブ層32は、基板2と第1の圧電層4との間に応力緩和を提供することができる。これにより、基板クランプ効果が低減できる。
【0158】
そのようなアセンブリでは、圧電材料の相対歪みSは、0.7%を超え得る。これは、高価なシリコンウェハ基板上で達成される圧電薄膜に匹敵する値である。
【0159】
ただし、第2の例示的な実施形態の調製手順は、第1の例示的な実施形態の手順と同じであり得るが、第1のシード層3に対する適合性が必要となる。
【0160】
通常、緻密なシードサブ層31は、第1の実施形態の第1のシード層3全体の調製用に記載された成膜、乾燥、熱分解、および熱処理の手順により、調製することができる。この手順は、例えば、3回繰り返すことができる。
【0161】
多孔質シードサブレイヤ32の場合、2つの主要な調製技術が適用できる。第1の選択肢では、まず、NiおよびLaイオンに関し、0.1から0.15mol/Lの範囲の低濃度を除き、第1のシード層溶液と同様に、第2のシード層溶液が調製される。成膜、乾燥、および熱処理は、緻密なシードサブ層31の調製と同じであり得る。多孔質シード副層32の場合、第2の熱分解手順が適用される。第2の熱分解手順は、第2の熱分解温度T2および第2の保持時間t2によって特徴付けられる。多孔質シードサブ層32のポロシティを緻密なシードサブ層31のポロシティよりも高くするため、第2の熱分解温度T2は、第1の熱分解温度より低くされ、または第2の保持時間t2は、第1の保持時間より短くなるように選択される必要がある。例えば、T1=T2の場合、t2は、2分未満であり、例えば、0.5分未満であってもよく、t1は、2分超であり、例えば、5分であってもよい。
【0162】
この手順が繰り返され、の所望の厚さの多孔質シードサブ層32が得られる。
【0163】
多孔質シードサブ層32を製造するための第2の選択肢は、ポリマーを使用することに基づく。ポリマーは、上記の第2のシード層溶液に添加することができる。ポリマーは、例えば、ポリビニリピロリドンであってもよく、これは、1g/5mlの量で添加され得る。調製された溶液は、24時間撹拌され、0.2μmフィルターで濾過されてもよい。原則として、例えば、溶媒中の溶解度および熱分解工程の条件に応じて、ポリメチルメタクリレートまたはポリエチレングリコールのような他のポリマーを使用することも可能である。
【0164】
多孔質シードサブ層32は、第1のサブ層溶液と同様の、ポリマーを含有する第2のシードサブ層溶液を使用して形成することができる。ただし、熱分解ステップの温度は、ポリマーが分解したり、完全に消失したりしないように選択する必要がある。ポリマーの残留物は、形成されたアモルファス多孔性シードサブ層中に残留する。これらの残留物は、密閉された緻密なシードサブ層の形成を妨げる。第3の熱処理過程の間においてのみ、ポリマーは完全に解離し、消散する。これらの温度で、ペロブスカイト材料は、効率的に結晶化することができる。ただし、これらの条件下では、焼結はほとんど起こらない。
【0165】
完成した圧電アセンブリにおいて、緻密なシードサブ層31は、緻密な配向サブ層31として識別され、多孔質シードサブ層32は、多孔質配向サブ層32として識別され得る。
【0166】
図3には、圧電アセンブリ1の第3の例示的な実施形態を示す。これは、第1の配向層3を除き、圧電アセンブリの第1の例示的な実施形態と同じである。
【0167】
第1の配向層3は、主基板表面21に直接取り付けられた緻密な配向サブ層31を有する。これは、緻密な配向サブレイヤ31の直上に、多孔質配向サブレイヤ32を有する。さらに、これは、多孔質配向サブレイヤ32上に直接配置された、別の緻密な配向サブレイヤ33を有する。多孔質および緻密な配向サブ層の調製手順は、図2に示した第2の例示的な実施形態の記載と同様に実施され得る。
【0168】
好ましくは、緻密な配向サブレイヤ31および33は、多孔質配向サブレイヤ32よりも薄い。これにより、緻密性の低い配向サブ層31により、化学的緩衝(バッファ)を達成することができる。さらに、高品質の圧電膜が形成され得る上部の緻密な配向サブレイヤ33により、平滑な連続表面が形成される。さらに、比較的厚い多孔質配向サブ層32により、基板2と第1の圧電層4との間で、十分な応力解放が可能となる。例えば、下側の緻密な配向サブ層31、多孔質配向サブ層32、および上側の緻密な配向サブ層33の間の厚さ比は、1:4:1であってもよい。例えば、全体の厚さは、150nmであってもよい。
【0169】
図4には、図3に示したような圧電アセンブリ1の断面走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。ただし、外側電極5は、SEM像のサンプルには存在しない。
【0170】
図4のSEM画像において、圧電アセンブリ1の層は、明確に識別でき、それに応じてラベル付けされる。興味深いことに、主基板表面21の近傍には、クロムリッチ層22が形成され、これは、圧電アセンブリ1において暗い層として視認される。クロムの富化は、熱分解または熱処理の過程で生じていると考えられる。エネルギー分散X線分光法(EDX)により、第1の圧電層において基板の側からは、Crまたは他の元素が存在しないことが判明した。従って、EDXにより、第1の配向層は、効率的なバッファ機能を示し得ることが証明された。
【0171】
図5には、圧電アセンブリ1の第4の例示的な実施形態の概略的な断面図を示す。
【0172】
基板2の主基板表面21の上部に構成された層は、図1に示した第1の例示的な実施形態と同じであってもよい。さらに、原則として、配向層3は、第2または第3の例示的な実施形態と同様に実現され得る。
【0173】
この第4の例示的な実施形態では、基板2は、主基板表面21とは反対側の第2の基板表面21’を有する。第2の基板表面21’には、第1の配向層3と同じであり得る配向層3’が組み立てられる。さらに、配向層3’には、第1の圧電層4と同じであってもよい圧電層4’が組み立てられる。さらに、圧電層4’上には、第2の外部電極5’が組み立てられる。
【0174】
これは、主基板表面21上および第2基板表面21’上に、対称積層が実現されることを意味する。
【0175】
この構成において、基板2および配向層3、3’は、内部電極を形成することができる。
【0176】
調製手順は、図1に示した第1の例示的な実施形態について記載された調製手順と同じであってもよい。
【0177】
図6には、曲がった状態での圧電アセンブリの第4の例示的な実施形態を示す。これは、曲がった基板上で実現でき、あるいはそれが曲がる用途において配置できる。これは、図5に示した実施形態で説明した対称性が、主基板表面の局部的な表面法線に沿ってのみ維持されることを意味し、これは、局部的な表面法線の方向に沿った各点に対して、各層が基板2の両側で鏡面等価であることを意味する。
【0178】
図7には、概略的な断面における圧電アセンブリの第5の例示的な実施形態を示す。
【0179】
これは、図1に示した圧電アセンブリの第1の実施形態に基づく。ただし、第1の実施形態では、外側電極5であった電極5の上に、別の層が配置される。
【0180】
第2の配向層6は、電極5の上に直接配置され、従って、内部電極となる。原理的に、第2の配向層6は、第1の配向層3と等しくできる。第2の配向層6には、第1の圧電層4と同じであってもよい、第2の圧電層7が配置される。これは、特に、第2の配向層6および第2の圧電層7の組成、および配向度oが、それぞれ、第1の配向層3および第1の圧電層4と等しくてもよいことを意味する。外部電極8は、第2の圧電層7の上に配置される。
【0181】
調製手順は、図1に示した第1の例示的な実施形態について記載された調製手順と類似していてもよい。
【0182】
そのようなアセンブリでは、第1の配向層3を有する基板2は、ベース電極として機能することができる。電極5は、第2の配向層6と共に、内部電極として機能することができる。
【0183】
図8には、圧電アセンブリ1の第6の例示的な実施形態を示す。これは、図7に示す圧電アセンブリの例示的な第5の実施形態と同様であるが、例示的な第6の実施形態には、内部電極5は存在しないを点で異なる。その代わり、第2の配向層6は、第1の圧電層4の直上に配置される。
【0184】
そのような構成では、第2の配向層6は、電気的に接触した際に、内部電極として機能することができる。
【0185】
図9には、図4に示したものと同様の圧電層アセンブリのX線回折パターンを示す。両試料は、ニッケル-クロム系のオーステナイト鋼基板を有し、一方は、厚さが20μmであり、第2のものは、厚さが500μmである。
【0186】
両試料の(100)および(200)の回折ピークの強度を、(110)および(111)のピークの強度と比較し、ロットゲーリングファクター(LF100)により評価した。ロットゲーリングファクター(LF100)は、両試料で99%以上であることがわかった。これは、99%またはそれを超える、第1の圧電層の結晶質ペロブスカイト構造の配向度oに相当する。
【0187】
これは、前述の手順で、高配向の圧電膜が調製できることを示した。
【0188】
図10には、20μmの厚さの基板を有する、図9について説明したアセンブリの電気的特性の分析を示す。測定のため、第1の圧電層3上に、直径500μmのスパッタ金電極5を形成した。
【0189】
測定は、Aixacct TF2000FEにより、100Hzの正弦波試験信号を用いて行った。
【0190】
図10Aには、異なるDCバイアス場での電気分極の電場依存性を示す。
【0191】
分極電場測定において、典型的な強誘電性の正方形ヒステリシスループが観察され、飽和分極は、40μC/cm2超であった。50kV/cmの保磁力場が観測される。
【0192】
図10Bには、DCバイアス磁場に対する誘電率の実部の依存性を示す。
【0193】
ゼロDC場での複素誘電率の実部は、600に近づき、保磁力場では700に近づく。
【0194】
これらの値は、金属箔上に調製された圧電薄膜について過去に報告されている値よりもかなり大きく、例えば、150近傍の誘電率のみが測定されている、EP1282901B1号の薄膜と比較される。これは、前述の方法で、優れた圧電アセンブリが形成できることを示す。
【0195】
図11には、図9の記載において対処された両方の試料について、1kHzの周波数で記録された二重ビームレーザ干渉法測定の結果を示す。20μmおよび500μmの両基板試料は、第1の圧電層上に配置された直径500μmの金電極を有する。
【0196】
図11Aには、500μmの厚さの基板を有する圧電アセンブリの相対歪み(S)の電場依存性を示す。図11Bには、厚さが500μmの基板上の圧電アセンブリの電場に依存する、長手方向の圧電係数d33を示す。
【0197】
20μmの厚さの基板を有する試料の等価曲線を、それぞれ図11Cおよび11Dに示す。
【0198】
相対歪み(S)は、膜法線に対して垂直な、圧電アセンブリ内の電場により誘導される相対変位として理解できる。Sは、100Hzの正弦波試験信号で測定した。1kHzで0.5VのAC信号を用いた電界誘導変位測定から、長手方向の圧電係数d33が抽出される。
【0199】
500μmの厚さの基板を有するアセンブリでは、S値は、0.15%を超える。これは、70pm/Vを超える長手方向の圧電係数d33のピーク値と等しい。
【0200】
20μmの厚さの基板上のアセンブリでは、さらに高い値が達成される。相対歪みSは、0.7%を超える。これは、約300pm/Vのd33値と等しい。
【0201】
低電場または高電場に向かう、図11Dのヒステリシス曲線について測定された波形の信号は、基板の厚さのわずかなずれによって引き起こされた可能性があり、従って、これは、基板の圧電曲げの間、測定に影響を及ぼすことが留意される。
【0202】
これらの値は、著者の知る限り、鋼基板上の圧電薄膜について報告された最も高い値である。ここでは、例えば、非特許文献2と比較される。得られた値は、希な電極材料を含む標準的なシリコンウェハ基板上に調製された圧電薄膜素子にも匹敵する。ここでは、例えば、非特許文献1と比較される。
【符号の説明】
【0203】
1 圧電アセンブリ
2 基板
21 主基板表面
21’ 第2の基板表面
3 第1の配向層
3’ 配向層
31 緻密な配向サブ層
32 多孔質配向サブ層
33 緻密な配向サブ層
4 第1の圧電層
4’ 圧電層
5 電極
5’ 電極
6 第2の配向層
7 第2の圧電層
8 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10a
図10b
図11