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  • 特許-食肉用鶏の育成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】食肉用鶏の育成方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/75 20160101AFI20230901BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230901BHJP
【FI】
A23K50/75
A23K10/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020026376
(22)【出願日】2020-02-19
(65)【公開番号】P2021129516
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-05-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月20日及び22日に山形大学農学部内で開催された卒業研究発表会で発表,令和1年8月27日~28日に山形テルサアプローズ3階(山形県山形市双葉町一丁目2番3号)で開催された第69回東北畜産学会(山形大会)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】519318432
【氏名又は名称】株式会社アイオイ
(73)【特許権者】
【識別番号】520059247
【氏名又は名称】堀口 健一
(73)【特許権者】
【識別番号】591175918
【氏名又は名称】清水港飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 忠一
(72)【発明者】
【氏名】堀口 健一
(72)【発明者】
【氏名】松山 裕城
(72)【発明者】
【氏名】浦川 修司
(72)【発明者】
【氏名】田川 伸一
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-198478(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103250897(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103431251(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103875951(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104286483(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102511675(CN,A)
【文献】国際公開第2012/118993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸含有量増加を目的とした飼料を給与する食肉用鶏の育成方法であって、
前記育成方法は、
孵化日から屠殺直前まで、スターター飼料、グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料、グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料の順番で給与するものであり、
前記スターター飼料は、食用落花生の可食部が添加されておらず、一方の前記グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料およびグルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料は、植物性由来の飼料、動物性由来の飼料のいずれか一方または双方によって構成される配合飼料であり、これらの配合飼料は、重量比0.5%以上、3%以下になるように添加要素として食用落花生の可食部が添加されていることを特徴とする食肉用鶏の育成方法。
【請求項2】
前記グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料およびグルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料は、その重量比20%以下になるように飼料用米が混合されていることを特徴とする前記請求項1記載の食肉用鶏の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉、主に鶏肉中のうまみ成分であるグルタミン酸量等のアミノ酸の増加を促進させるための飼料、並びに当該飼料の効果的な給餌方法を用いた食肉用鶏の育成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成29年度、国内における鶏肉の生産量は1,588,154トン(非特許文献1)であった。鶏肉を生産する鶏(ブロイラー)には、チャンキー種、コッブ種等があるが、それぞれに飼育のための指標があり、例えばチャンキー種の場合、ブロイラー用飼料は、0~10日齢においては「スターター飼料」、11~24日齢においては「グロワー飼料」、25~47日齢またはそれ以降においては「フィニッシャー飼料」の3つの分類される飼料を給与することとなっている(非特許文献2)。
また、それぞれ期間に給与される飼料ごとにエネルギー、アミノ酸、ミネラル、ビタミンの添加量などの飼育用飼料成分の指標が詳細に挙げられている(非特許文献2)。
【0003】
このため鶏肉を生産するブロイラー用飼料は、「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(平成26年6月13日法律第69号)」に定められた範囲内で飼料製造業者が生産する配合飼料が用いられ、その適合する範囲内で飼料製造業者は目的の飼料に合わせて栄養水準を決定し、配合飼料を構成する原料の割合を決定している。
【0004】
一方鶏肉の生産者には、流通業者等を含む消費者からの要求に応えるべく、鶏肉中のうまみ成分の高いものなどの、いわゆる美味しい鶏肉の生産が求められている。
この「うまみ」には、食肉中に含まれるグルタミン酸と5-イノシン酸の量が大きく寄与するとみられる(非特許文献4)。これまで、このような要望に応えるものとして、食肉のうまみ成分量又は風味の増加方法と、並びにそのための飼料及び飲水方法について(特許文献1)、また食肉中の遊離グルタミン酸料の増加方法及びそのための飼料についても開示されている(特許文献2)。
【0005】
しかし、アミノ酸単体の飼料添加物は価格が高く、このため安価でグルタミン酸を増加する方法の案出が求められていた。すなわち、食品残さ等を利用した畜産物の高付加価値化技術が求められた。
【0006】
加えて鶏肉として高く評価される「名古屋コーチン(登録品種名:名古屋種)」、「合鴨」などのいわゆるブランド鶏においては、うまみや香りのほかに通常のブロイラーの鶏肉に比べて適度な肉の硬さ(噛みごたえ)を具えており、この噛みごたえも相俟って美味しい鶏肉として認識されている。
このような噛みごたえは、そもそも品種に由来する筋肉膜中にある細網繊維の太さ、量や、形成状態などに起因する。またブランド鶏の「名古屋コーチン」は、一般のブロイラーの飼育が8週齢程度であることに比べて、約20週齢と極めて長い肥育期間となっていることがわかる(非特許文献5)。ブロイラーでこのような噛みごたえ感を得ようとするならば、名古屋コーチンのように飼育期間を長くすることで幾分かの噛みごたえを増すことは可能ではあるかもしれないが、育成効率を著しく低下することとなり、生産者としては甘受しがたいものでもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特願2007-509158号公報
【文献】特願2005-513237号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】国内統計資料、畜産物の需給関係の諸統計データ、https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_00073.html
【文献】「ブロイラーマニュアル」 日本チャンキー協会発行
【文献】監修 香川芳子、「食品成分表2013」資料編、女子栄養大学出版部 ISBN978-4-7895-1013-4
【文献】沖谷明紘著、「食肉のおいしさの決定要因」、栄養学雑誌Vol.60、No.3、頁119.129(2002)
【文献】松石昌典 共著、「名古屋コーチン,ブロイラー及び合鴨に区の食味特性の比較」 日本畜産学会報 76(4),項423-430,2005
【文献】日本標準飼料成分表(2009年版)、中央畜産会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、落花生の可食部(以下、落花生Pと称する。)に含まれる栄養成分に着目し、食肉中のうまみ成分であるグルタミン酸等の含有量の増加を促進させる栄養素として活用することができるであろうとの着想の下、安価に美味しい肉質に改良させることができる飼料の提供とともに、これらの飼料を給餌し、食肉中のうまみ成分の含有量を高めるための飼育方法を案出することを技術課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の食肉用鶏の育成方法は、
グルタミン酸含有量増加を目的とした飼料を給与する食肉用鶏の育成方法であって、
孵化日から屠殺直前まで、スターター飼料、グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料、グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料の順番で給与するものであり、
前記スターター飼料は、食用落花生の可食部が添加されておらず、一方の前記グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料およびグルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料は、植物性由来の飼料、動物性由来の飼料のいずれか一方または双方によって構成される配合飼料であり、これらの配合飼料は、重量比0.5%以上、3%以下になるように添加要素として食用落花生の可食部が添加されていることを特徴として成るものである。
【0011】
請求項2記載の食肉用鶏の育成方法は、前記要件に加えて、
前記グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料およびグルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料については、その重量比20%以下になるように飼料用米が混合されていることを特徴として成るものである
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料を給与する食肉用鶏の育成方法によれば、食肉中の鶏肉中のうまみ成分であるグルタミン酸の量を増加促進する成分を効率的に含んだ落花生を重量比0.5%以上、3%以下の範囲で含有させているので、効率的に食肉中のグルタミン酸量を増加させることができるうえに、加えてこれらの飼料を安価に提供することができる。
またブロイラー用飼料のうちの「グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料」と「グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料」として給与することから、一部の期間のみにグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料を用いることだけで、安価で付加価値の高い食肉用鶏を出荷することができる
【0013】
また更に請求項2記載のグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料を給与する食肉用鶏の育成方法によれば、重量比20%以下になるように飼料用米が混合されていることから、飼料用米に起因する栄養素によって、アミノ酸の一部の含有量を高めることができる。結果として落花生と飼料用米のそれぞれに起因する栄養素により食肉中のアミノ酸の含有量を相乗的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の落花生を含有するグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の最良の形態は、以下の実施例1から3に述べるとおりである。本発明の説明に当たっては、食肉用の家畜として鶏を対象して、各発明である飼料の配合並びに給与方法に特徴を有する飼育方法を説明する。
明細書中において、飼料を構成する各要素を「混合」すると表現を用いている。これは飼料を構成する各要素の多くは、粉粒状に形成されているものが多く、それらを粉粒状のまま混ぜ合わせることが多く、化学的な結合といった微少な視点での混ざり合う状態を指すものではないことから、このような表現に統一した。また「添加」とは、加えて混合する意味で用いている。
【実施例1】
【0016】
本発明のグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fは、市販されている配合飼料などで構成される主要構成素材fと、食肉中のグルタミン酸などを増加促進させる栄養素が含まれる添加要素Dとによって構成されたものである。なおグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fを、飼育時期における飼料として区別する場合には、グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料Fi 、グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料Fiiとして表記する。
次にこの主要構成素材fについて説明すると、一例として市販されている製品名「ブロフィード(清水港飼料株式会社製造)」などであり、植物性由来の素材と動物性由来の素材と構成されたものである。その詳細は、配合については省略するが、主に穀物類であるとうもろこし、小麦と、植物性油かす類である大豆由来の「大豆油かす」、更には動物質性飼料のポークチキンミール、魚粉が適宜比率で混合されているものである。
この主要構成素材fに対して添加される添加要素Dは、食肉部中のうまみ成分であるグルタミン酸を増加させるための特定のアミノ酸などを添加させるものである。具体的には、添加要素Dの成分である特定アミノ酸などの有用成分をバランス良く含み、且つその単価の低廉な素材である落花生Pを適用する。
【0017】
まず本実施例1においては、一例としてグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fに対して重量比3%となるように添加要素Dの落花生Pを混合させることとした。
この添加要素Dである落花生Pの化学組成は、非特許文献3に表された「らっかせい(100g当り)」を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
(添加要素Dである落花生Pによるグルタミン酸等のアミノ酸の増加、噛みごたえの増大促進効果の検証について)
このように落花生Pは、有用な成分であるリジン、グルタミン酸含量が多く、さらに脂質含量が高いことから、飼料中に落花生Pを混合して家畜に給与することで鶏肉中のグルタミン酸等の量を上げると予想される。
しかし一方で添加要素Dである落花生Pは、マメ科に属するものであり、すでに配合飼料である主要構成素材fの1つである、同じマメ科の大豆から生じた「大豆油かす」が大量に含まれている。
この大豆油かすは、落花生Pよりもアミノ酸を多く含んでいる(非特許文献6)ことに加えて、飼料全体に対して占める割合も大きいので、結果的に落花生Pに含まれるアミノ酸の含量は、飼料全体に対して微少である。このように僅かに含有された落花生P起因の栄養素であるアミノ酸が、鶏肉にどの程度の影響を及ぼすかどうかは不明であった。
【0020】
これに加えてこのような落花生Pを含有させた効果が発現した場合において、飼料中の落花生Pと他の原料との割合が及ぼす影響、また落花生Pを含有させた飼料の給与期間の始期と終期、及び落花生Pが給与する適切な期間を見出すことが課題となった。
そこで本実施例1においては、種々の構成要素を組み合わせてブロイラー用飼料を作成し、それらの飼料を給与させることにより得られた食肉である鶏肉中のグルタミン酸含量の増加を観察した。その結果、一定の効果が得られる飼料の配合を案出することができた。うまみ成分の増加についての詳細なデータは、飼育方法の説明の際にあわせて説明する。
【0021】
このような試行錯誤により得られたグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fについて説明すると、落花生Pを添加要素Dとして、市販されている配合飼料(主要構成素材f)の重量比0.5%以上、3%以下となるように混合させたものが適していることがわかった。
【0022】
また添加要素Dとされる落花生Pについて説明する。このものは、食品用または食品加工用の落花生としても活用できない、いわゆる規格外品を用いることが好ましい。もちろん「基準を満たさないものとして除外された」とは、食品としての毒性、衛生安全面などの基準を満たすことは当然であり、形状、色、サイズなどの外見上の基準を満たしていないことを意味するものであって、食品成分としては、食用の規格を満たすものとほぼ同等の有効成分を含んだものである。
【実施例2】
【0023】
次に、実施例2においては、実施例1のグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fに対して、その重量比で約20%になるように飼料用米r(以下、明細書の表中の一部では、「米」と略して示す。)を混合させた。
検証で用いた飼料用米rは、一例として「ふくひびき(登録品種)」であるが、もちろんこの品種に限られることなく、飼料用米rとして用いることができる品種であれば、何れの品種を用いても差し支えない。
飼料用米rを更に加えることで飼料用米rに起因する栄養素によって、詳細については後述するが脂肪酸量の一部の含有量を高めることができる。結果として落花生Pと飼料用米rのそれぞれに起因する栄養素により食肉中の脂肪酸量の含有量を相乗的に高めることができる。
【実施例3】
【0024】
実施例3は、実施例1、2で説明したグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fを食肉用鶏(一例としてチャンキー種雄ブロイラー)に給与する育成方法である。
本願発明の課題である食肉中のうまみ成分であるグルタミン酸等の含有量を高めることであるので、実施例1、2で説明した飼料を必要最小限の量、期間で給与することが好ましい。
本発明者は、以下の条件の給与方法で食肉用鶏を飼育し、その結果育成された鶏の食肉中のうまみ成分の量を測定した。
【0025】
本実施例3では、測定試験をするに当たって、群10羽の食肉用鶏であるチャンキー種雄ブロイラーを1.0m×1.8mの広さの4区画でそれぞれ異なる飼料を給与して飼育し、屠殺後の食肉部の成分を測定することとした。
以下、具体的な飼料の給与方法について説明する。
【0026】
まず通常の食肉用鶏の一例であるブロイラーの飼料の給与方法について説明し、その後本願発明である新規な育成方法であるグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fの利用した給与方法を説明する。
(通常のブロイラー飼料の給与方法)
通常のブロイラーの飼料の給与方法は、日齢に応じた飼料を適宜給与し、具体的には孵化後10日齢まではスターター飼料fsを給与し、その後11日齢から24日齢までグロワー飼料fgを給与し、最後に25日齢から屠殺直前(47日齢)までフィニッシャー飼料ffを給与することが多い。
【0027】
(本願発明の育成方法:グルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fの給与方法)
このような一般的な飼料の給与方法に対して、本願発明の飼料の給与方法は、一例としてグルタミン酸含有量増加用グロワー飼料Fi を21日齢から28日齢まで、グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料Fiiを29日齢から屠殺直前(40日齢)まで、それぞれの期間に異なるグルタミン酸含有量増加を目的とした飼料Fを給与する。
【0028】
本願発明の効果を確認すべく比較検証実験を行った。本実験においては、飼料区A(比較検証用)、飼料区B(比較検証用)、飼料区C(請求項1の発明)、飼料区D(請求項2の発明)の食肉用鶏に対して、比較対照のための市販の配合飼料のみとする飼料を含めた4パターンの配合飼料を作成して継続的に給与した。
なお20日齢までの飼料は、10日齢までスターター飼料fsである市販配合飼料の製品名「ブロフィードA餌付用」を給与し、11日齢から20日齢まではスターター(後期)飼料fsである市販配合飼料の製品名「ブロフィードA」を給与した。
以下、その後21日齢から28日齢まで給与した各グロワー飼料と、29日齢から屠殺(40日齢)までに給与した各フィニッシャー飼料の飼料区ごとの飼料の配合について詳細に説明をする。
【0029】
《前半の21日齢から28日齢までの4つの配合の飼料》
まず21日齢から28日齢までの飼料区AからDごとに、下表2に示すそれぞれ以下のような飼料をグロワー飼料・フィニッシャー飼料として給与した。
【0030】
【表2】
【0031】
《後半の29日齢から屠殺(40日齢)までの4つの配合の飼料》
次に29日齢から屠殺(40日齢)までの飼料区AからDごとに、下表3に示すような4つの配合の飼料をフィニッシャー飼料として給与した。
【0032】
【表3】
【0033】
4つの各飼料区で育成したそれぞれの鶏は、平均7日齢で体重が188gであり、屠殺直前(40日齢)の平均体重は3050gであった。またそれぞれの鶏の採食量は、平均で5490gであった。
【0034】
40日齢まで育成した後に屠殺し、速やかに凍結して食肉内の成分分析を詳細に行った。
各飼育区AからDまでで得られた食肉の成分分析の結果を、表4から表8に示す。
まず鶏肉(ムネ)の水分、粗タンパク質、粗脂肪及び粗灰分含量を調べた。この結果を表4に示す。
【0035】
【表4】
【0036】
表4の結果からわかるように、これらの分析値に差はみられなかった。すなわち、飼料区A、Cを比較すると、市販の配合飼料に添加要素Dである落花生Pを加えても、市販の配合飼料のみと比べても一般成分がほぼ同等に維持されていることがわかる。
【0037】
【表5】
【0038】
表5に鶏肉の脂肪酸組成に及ぼす飼料用米rと落花生Pの給与効果を示す。
表5が示すように鶏肉の脂肪酸組成は飼料用米r及び落花生P給与による改質効果が僅かではあるが認められた。
【0039】
【表6】
【0040】
表6に鶏肉の官能評価に及ぼす飼料用米rと落花生Pの給与効果を示した。表6が示すように官能評価では鶏肉に大きな差が認められなかったが、詳細を見てみると「味の濃さ」、「うまみの強さ」、「コクの強さ」で評価が向上していることがわかる。一見すると僅かな違いではあるものの、後述する肉の硬さ(噛みごたえ)の付加、食肉中のアミノ酸の増加と相俟って、チャンキー種雄ブロイラーでありながら、高級な鶏肉のような風味食感を再現した鶏肉を提供することにつながる。
【0041】
【表7】
【0042】
表7には、鶏肉の物理的評価に及ぼす飼料用米rと落花生Pの給与効果を示した。
この表7が示すように、鶏肉の美味しさを構成する肉の適度な硬さ(噛みごたえ)を示す剪断力価(N)が飼料用米r、落花生Pを給与したことにより、これらを含まない対照区の鶏肉に比べて向上していることがわかる。特に飼料用米rと落花生Pとを併用した場合には、飼料用米r、落花生Pの一方のみを含めたものに比べても向上している。
このことは、「名古屋コーチン」と言った高級な鶏肉特有の「噛みごたえ」を、本発明の飼料を給与することで短い肥育期間に得られ、鶏肉の食味特性を近似させられることがわかる。
また肉色についても検証すると、飼料用米rを給与した飼料区B、飼料区Dでは、対照区(飼料区A)に比べて、特に高級な鶏肉に共通するように赤色度が約2倍程度向上し、食肉の見た目も高級な鶏肉に近似させることができた。
【0043】
【表8】
【0044】
表8には、鶏肉のアミノ酸組成に及ぼす飼料用米rと落花生Pの給与効果を示す。この表8が示すように、本願発明の飼料を給与した飼料区B~Dにあっては、対照区(飼料区A)に比べて、フェニルアラニン、リジンに限っては、その含有量の減少が見られた。
一方でそれ以外、特にうまみの強弱に影響を与えるとされるグルタミン酸にあっては、落花生Pを給与した場合は、対照区と比べて42~46%も増加していることがわかる。またプロリンにあっては、飼料用米rと落花生Pを含めた飼料を給与することで対照区に比べて約2倍程度の含有量まで高めていることがわかる。
その他の多くのアミノ酸についても対照区に比べて含有量が上昇していることがわかる。即ちこのように食肉中のアミノ酸の総量が上昇することは、スープ等に調理された際のうまみを構成する遊離アミノ酸が増大されることとなり、美味しい鶏肉と評価される。
【符号の説明】
【0045】
F グルタミン酸含有量増加を目的とした飼料
Fi グルタミン酸含有量増加用グロワー飼料
Fii グルタミン酸含有量増加用フィニッシャー飼料

f 主要構成素材(市販の配合飼料)
fs (市販の)スターター飼料
fg (市販の)グロワー飼料
ff (市販の)フィニッシャー飼料
D 添加要素
P 落花生(落花生の可食部)
r 飼料用米
B 食肉用鶏
図1