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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】着用甲冑
(51)【国際特許分類】
   A63H 3/52 20220101AFI20230901BHJP
   A41D 1/00 20180101ALI20230901BHJP
   A63H 3/00 20060101ALI20230901BHJP
   A63H 37/00 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A63H3/52 H
A41D1/00 Z
A41D1/00 101F
A63H3/00 B
A63H37/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022003975
(22)【出願日】2022-01-13
(65)【公開番号】P2023103103
(43)【公開日】2023-07-26
【審査請求日】2022-09-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523279545
【氏名又は名称】株式会社アトレイアー企画
(73)【特許権者】
【識別番号】501400161
【氏名又は名称】丸武産業 株式会社
(74)【上記1名の代理人】
【識別番号】100170014
【弁理士】
【氏名又は名称】蓼沼 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】田ノ上 賢一
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3083936(JP,U)
【文献】特開2020-033670(JP,A)
【文献】実開昭56-065925(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2020/0246716(US,A1)
【文献】刀剣ワールド,甲冑の部位 小札(こざね)と縅(おどし),[online],2021年07月29日,web.archive.oorg/web/20210729015224/https://www.touken-world.jp/tips/58058/
【文献】刀剣ワールド,[刀剣ワールド]甲冑の着用方法 当世具足編|甲冑YouTube動画,[online],2021年02月26日,https://www.youtube.com/watch?v=ZbBm7GZ1zdI
【文献】自由甲冑クラブしげ部,しげ部販売コーナー,[online],2019年11月02日,https://web.archive.org/web/20191102121835/https://shigebu.minibird.jp/sale.html
【文献】有限会社カジタニ金属,甲冑レンタルセット内容のご紹介,[online],2021年04月20日,https://web.archive.org/web/20210420222958/https://kajiyan.com/newproducts/rental/set
【文献】ほんまさんの手作り甲冑,[online],2022年06月25日,https://web.archive.org/web/20200625215022/https://honmas.sakura.ne.jp/kt/tr_02.htm
【文献】戦国クリエーター・jami,甲冑のつくり方、公開します!,[online],2018年04月28日,https://jaminism.hatenablog.com/entry/2018/04/28/142934
【文献】ギャクヨガ工房YOGA Prop,コスプレ鎧の着方[コスプレ甲冑の構造や装着方法を勉強しよう],[online],2018年03月02日,https://www.youtube.com/watch?v=E23ObTSv87M
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 3/00-3/52
A41D 1/00
A41D 13/00-13/12
A63H 33/00-33/42
A63H 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
兜部、胴部、袖部、籠手部、佩楯部、および脛部を備え、
前記胴部の胴回りは、縦方向にスリットを有する筒状であって、当該スリットの幅を拡張可能な可撓性を有するとともに、当該スリットを挟んで対向する端部に当該端部同士を連結する面ファスナーを有し、
前記兜部、前記胴部、前記袖部、および前記佩楯部それぞれが、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸により、板状体である板札が複数枚部分的に重ね合うように連結される構造を含み、
複数枚の前記板札が、軽量合金がなる板札と軽量樹脂からなる板札との組み合わせで構成される着用甲冑。
【請求項2】
前記兜部、前記袖部、および前記佩楯部が含む前記構造の複数枚の前記板札が、軽量合金がなる板札と軽量樹脂からなる板札とに加えて、ファイバー紙からなる板札を含む請求項1に記載の着用甲冑。
【請求項3】
前記複数枚の前記板札が金属からなる板札のみで構成された場合と比較して、全体重量が半分以下である請求項1または請求項2に記載の着用甲冑。
【請求項4】
前記籠手部は、腕部と甲部とを備え、前記腕部は、肩側の開口部の周縁に対向する位置に、一端側が開口部に固定され、他端側が自由端とされた2本の籠手帯状体を有し、
前記佩楯部は、腰に巻き付ける佩楯帯状体を有し、
前記脛部は、対向する両端を重ね合わせると筒状になる板状体であって、
前記籠手帯状体の自由端、前記佩楯帯状体の両端、および脛部の板状体の前記両端に、面ファスナーを有する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の着用甲冑。
【請求項5】
前記兜部は、着脱可能な前立て部を備える請求項1から請求項のいずれか一項に記載の着用甲冑。
【請求項6】
前記籠手部は、腕部にスリットを有し、当該スリットを弾性素材で係合する請求項1から請求項のいずれか一項に記載の着用甲冑。
【請求項7】
前記着用甲冑の下に着用する袴の脛部に面ファスナーを備え、
前記脛部の前面裏側に設けられた面ファスナーと前記袴の脛部の面ファスナーとが係合する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の着用甲冑。
【請求項8】
軽量の樹脂製サンダルのアッパー部に毛皮を有する毛靴を更に備える請求項1から請求項のいずれか一項に記載の着用甲冑。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用甲冑に関する。
【背景技術】
【0002】
日本では、女の子を祝う行事としてひな祭りがあり、ひな人形や羽子板など成長を願い家に飾るという風習がある。同様に男の子は、こいのぼりや鎧兜、弓矢などを飾る風習がある。ところで、節句にとらわれず記念撮影やイベントにおいて甲冑(兜と鎧とからなる武具)を着用したいというニーズが老若男女問わずにある。しかしながら、本物の甲冑は、「重たい」、「着用に時間がかかる」、特に子供の場合には「じっとしておらず着用できない」という、声があり、気軽に着用できるものではなかった。
【0003】
また、近年の戦国武将の人気や全国各地のお城の人気、日本に興味を持ち、侍に憧れる外国人等の増加などに合わせ、簡易的に甲冑の着付け体験や販売などのサービスも行われている。しかしながら、着付け体験用や販売用の甲冑は、着用しやすくされている一方、着用しやすくしたために損なわれた重厚感や存在感を、煌びやかさでごまかしているものが多い。そのため、着付け体験用や販売用の甲冑は、見た目はよくとも、時代と共に甲冑が変化し、何世代にも渡って受け継がれてきたという歴史の重みによる本物が持つ魅力を感じられるものではなく、サービスを受けるユーザを十分に満足させるものではなかった。
【0004】
特許文献1には、背中部に開閉部を備える衣装本体に、胴部の前面および肩部、袖部の表面、ならびに脚部の正面に、着脱可能に装飾具を装着させることで簡易に装着可能な、仮装用衣装セットとその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-33670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の仮装用衣装セットは、本物の甲冑とは構造が全く異なるものであって、かつ装着方法も全く異なるものである。また、特許文献1の仮装用衣装セットは、背中部に装飾具がないため、背面や横から見た際に不格好である。そのため、外装体を着用して背中部を隠すことが必要であり、甲冑のみの姿を楽しむことはできない。このように、特許文献1の仮装用衣装セットは、本物の甲冑と比較すると貧弱感が否めなく、重厚感や存在感はなく、本格感が乏しい。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、本格感を感じさせる重厚感や存在感を損なわず、軽量かつ着脱容易である着用甲冑を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、兜部、胴部、袖部、籠手部、佩楯部、および脛部を備え、前記胴部の胴回りは、縦方向にスリットを有する筒状であって、当該スリットの幅を拡張可能な可撓性を有するとともに、当該スリットを挟んで対向する端部に当該端部同士を連結する面ファスナーを有し、前記兜部、前記胴部、前記袖部、前記籠手部、前記佩楯部、および前記脛部それぞれが、軽量合金からなる部品および軽量樹脂からなる部品を有する着用甲冑を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記兜部、前記胴部、前記袖部、および前記佩楯部は、複数枚の板状体である板札が部分的に重ね合うように、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸により連結される構造を含む着用甲冑を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記籠手部は、開口部の周縁に対向する位置に、一端側が開口部に固定され、他端側が自由端とされた2本の籠手帯状体を有し、前記佩楯部は、腰に巻き付ける佩楯帯状体を有し、前記脛部は、対向する両端を重ね合わせると筒状になる板状体であって、前記籠手帯状体の自由端、前記佩楯帯状体の両端、および脛部の板状体の前記両端に、面ファスナーを有する着用甲冑を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記兜部は、着脱可能な前立て部を備える着用甲冑を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記籠手部は、腕部にスリットを有し、当該スリットを弾性素材で係合する着用甲冑を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記甲冑の下に着用する袴の脛部に面ファスナーを備え、前記脛部の前面裏側に設けられた面ファスナーと前記袴の脛部の面ファスナーとが係合する着用甲冑を提供する。
【0014】
また、本発明は、軽量の樹脂製サンダルのアッパー部に毛皮を有する毛靴を更に備える着用甲冑を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記兜部、前記袖部、前記籠手部、前記佩楯部、および前記脛部それぞれが、ファイバー紙からなる部品を有する着用甲冑を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本格感を感じさせる重厚感や存在感を損なわず、軽量かつ着脱容易である着用甲冑および着用甲冑の制作方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る甲冑を装着した斜視図である。
図2(A)】本発明の実施形態に係る甲冑の胴部および袖部の表側展開図である。
図2(B)】本発明の実施形態に係る甲冑の胴部の裏側展開図である。
図2(C)】本発明の実施形態に係る甲冑の胴部の断面図である。
図3(A)】本発明の実施形態に係る甲冑の籠手部の装着時外側を示す図である。
図3(B)】本発明の実施形態に係る甲冑の籠手部の装着時内側を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る甲冑の佩楯部を示す図である。
図5(A)】本発明の実施形態に係る甲冑の脛部の展開図である。
図5(B)】本発明の実施形態に係る甲冑の脛部を筒状にした時の裏側図である。
図6】本発明の実施形態に係る甲冑の兜部を上部から見た図を示す。
図7】本発明の実施形態に係る飾り襟を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る袴を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る毛靴を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以降の図においては、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号または符号を付している。
【0019】
(甲冑1の全体構成)
図1図9を用いて、本発明の実施形態に係る甲冑について説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る甲冑を装着した斜視図である。図1に示すように、甲冑Sは、胴部10と、袖部11と、籠手部30と、佩楯部40と、脛部50と、兜部20と、飾り襟60と、袴70と、毛靴80と、を備える。
【0021】
(胴部)
図2は、(A)本発明の実施形態に係る甲冑の胴部および袖部の表側展開図、(B)本発明の実施形態に係る甲冑の胴部の裏側展開図、(C)本発明の実施形態に係る甲冑の胴部の断面図である。図2に示すように、胴部10は、胴本体部100と、腰紐104と、草摺108B~Fとを備え、腰紐104を挟んで、胴本体部100と草摺(くさずり)108A~Eとに分かれている。
【0022】
胴本体部100は、着用者の胸・腹・背を覆うものであって、図2(B)に示すように下地109の上に装飾具101が重ね合されている。詳細には、装飾具101は、下地109の肩上(わだかみ)110A,110B(以下、110A,110Bを区別しない場合には、単に110という)、胸板111、脇板112A,112B(以下、112A,112Bを区別しない場合には、単に112という)に当たる部分を除いて、下地109の胴回りに重ね合わされている。ここで、肩上110とは、胴部10を着用した時に両肩に当たる部分である。また、胸板111は、胴本体部100の正面の最上部に位置する部分であって、中央が凹形状になっている。さらに、脇板112は、胴本体部100の両脇の最上部に位置する部分であって、中央が凹形状になっている。
【0023】
装飾具101は、複数枚の横長の板状体である板札(いたざね)102が部分的に重ね合うように、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸(おどしいと)103により連結される構造となっている。
【0024】
板札102は、軽量合金または軽量合成樹脂からなり、その表面は塗装されている。好ましくは、板札102は、装飾具がしなやかさを持つ厚みに形成された軽量合金または軽量合成樹脂であって、例えば、0.4mm程度のアルミニウム板である。なお、板札102は、ファイバー紙で形成されないのが望ましい。ファイバー紙が湿気を含んだ場合に、よれてしまい、見栄えが悪くなってしまうためである。
【0025】
装飾具101は、軽量合金からなる板札102と軽量合成樹脂からなる板札102とを組み合わせることで、軽量合金からなる板札102のみで構成した場合と比較して軽量にすることができ、一方、軽量樹脂からなる板札102のみで構成した場合と比較して、本来の甲冑と比較して重厚感や存在感を損なわない。
【0026】
また、塗装は、ラッカー、ウレタン、アクリルなどを用いた粉体焼付塗装が望ましいが、その他の塗装方法であってもよい。なお、粉体焼付塗装は、焼成温度170℃、焼成時間は季節に応じて変動するが1時間程度が望ましい。
【0027】
胴本体部100は、図2(C)に示すように、背中部に縦方向にスリット113を有する筒状であって、着用者の身体に沿う形状となっている。胴本体部100は、スリット113の幅を拡張可能な可撓性を有する。それにより、胴部10を、プルオーバーのように頭からかぶって着脱することができ、着脱が容易である。胴本体部100は、スリット113を挟んで対向する端部それぞれに面ファスナー105を備える。面ファスナー105同士を係合することで、スリット113を閉じ、胴本体部100を着用者の身体に固定することができる。なお、端部において、一方端の面ファスナーは雄型面ファスナー、他方端の面ファスナーは雌型面ファスナーである。以下、係合する面ファスナーは、一方は雄型面ファスナーであり、他方は雌型面ファスナーとする。
【0028】
腰紐104は、胴本体部100と揺絲(ゆるぎいと)113との間に位置し、胴本体部100の下部に重ね合わされている。腰紐104の両端は、面ファスナー106を備え、面ファスナー106同士を係合することで、腰紐を着用者の身体に固定することができる。
【0029】
草摺108A~Eは、胴本体部100に揺絲(ゆるぎいと)113で吊り下げられ、装着時に着用者の腰から上脚部分を覆う。草摺108A~Eは、図においては5間であるが、複数枚で構成されればよく、5間に限定されず任意の数であってよい。草摺108A~Eのそれぞれは、胴本体部100の装飾具101と同様に、複数枚の横長の板状体である板札102´が、部分的に重ね合うように、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸103により連結されている。板札102´は、装飾具101の板札102と同様に、軽量合金または軽量合成樹脂からなってもよいし、ファイバー紙からなってもよい。ファイバー紙を用いることでより軽量化でき、また、コストも削減できる。塗装については、胴本体部100の装飾具101の板札102にて説明した通りである。
【0030】
(袖部)
袖部11は、装着者の肩先から上腕部を覆い、こはぜ107で肩上110に取付けられる。なお、肩上110にもこはぜ107が備えられている。ここで、こはぜとは、ボタンのような形状をした留め具である。袖部11も、草摺108と同様に、複数枚の横長の板状体である板札102´が、部分的に重ね合うように、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸103により連結されている。板札102´については草摺108A~Eにて、塗装については、装飾具101の板札102にて説明した通りである。なお、袖部11は、装着する際には、予め胴部10に取り付けられている。
【0031】
(籠手部)
図3は、(A)本発明の実施形態に係る甲冑の籠手部の装着時外側を示す図、(B)本発明の実施形態に係る甲冑の籠手部の装着時内側を示す図である。籠手部30は、装着者の手の甲から肩を覆うものであって、肩先から上腕部においては袖部11の下に位置する。籠手部30は、腕部310と、甲部311とを備える。
【0032】
腕部310は、腕部310の装着時内側に、縦方向にスリット312を有する筒状であって、スリット312はゴムといった弾性素材302で係合されている。スリット312を弾性素材302で係合することで、腕部310に伸縮性を持たせることができ、籠手部30を装着しやすくなる。また、腕部310と甲部311との間、すなわち装着時の手首部分のスリット312を挟んで対応する端部に面ファスナー304が備えられる。この面ファスナー304は、籠手部30を装着者の手首に固定するためのものである。
【0033】
更に、腕部310は、肩側の開口部313の周縁に対応する位置に、一端側が開口部313に固定され、他端側が自由端とされた2本の籠手帯状体301を備える。2本の籠手帯状体301は、面ファスナー(図示せず)を備える。2本の籠手帯状体301を、籠手部30が装着された腕と反対の肩付近で面ファスナーによって係合することで、籠手部30を着用者の身体に固定する。腕部310の装着時外側には、小さな短冊状の板である小札や鎖が綴じ付けられている。
【0034】
甲部311は、親指だけが分離した二股の手型であって、親指部分の先と他指部分の先中央にそれぞれ、親指と中指を挿入する環303を備える。環303それぞれに親指と中指を挿入することで、甲部311を装着者の手の甲に固定することができる。
【0035】
(佩楯部)
図4は、本発明の実施形態に係る甲冑の佩楯部40を示す図である。佩楯部40は、装着者の太ももと膝とを覆う。佩楯部40は、佩楯帯状体400と佩楯本体部401とで構成される。佩楯帯状体400は、佩楯部40を装着者の腰に巻きつけて装着させるためのものであって、両端に面ファスナー403を備える。佩楯帯状体400の面ファスナー403同士を係合することで、佩楯部40を装着車の身体に固定できる。
【0036】
佩楯本体部401は、中央で2枚に分かれた布地406A,406Bに、板札402が威糸405で綴じ付けられている。布地406A,406Bの上部404は、板札402が威糸405で綴じ付けられておらず、布地がそのまま見えるため、見栄えをよい金襴であるのが望ましい。板札402は、草摺108A~Eの板札102´にて、塗装については、装飾具101の板札102にて説明した通りである。なお、板札402は、装飾具101の板札102や草摺108A~Eの板札102´とは形状が異なってもよい。
【0037】
図5は、(A)本発明の実施形態に係る甲冑の脛部の展開図、(B)本発明の実施形態に係る甲冑の脛部を筒状にした時の裏側図である。脛部50は、装着者の脛を覆い、対向する両端を重ね合わせると筒状になる板状体である。脛部50の縦方向両端は、面ファスナー502を備える。脛部50は、面ファスナー502同士を係合した筒状で、装着者の脛に固定される。脛部50中央、すなわち装着時に前面となる部分には、籠手部30と同様に、小さな短冊状の板である小札501や鎖503が綴じ付けられている。
【0038】
(兜部)
図6は、本発明の実施形態に係る甲冑の兜部を上部から見た図を示す。兜部20は、兜本体部204と、錣部205とから構成される。兜本体部204は、略半球状であって、軽量合金または軽量合成樹脂素材で製作される。兜本体部204の内側には、図示しないが、装着の際にズレなどを防止するために、円形状に布の内張があり、内張には顎に掛けるための兜の緒209が取り付けられている。
【0039】
兜本体部204は、着脱可能な前立て(図示せず)を装着するための角元203を備える。前立てとは、兜の真正面に付ける装飾具であって、戦国武将毎に特徴あるものである。前立てを着脱可能とすることにより、兜部20の印象を変えることができ、また、戦国武将の前立てにすることで、戦国武将のいでたちを再現することができる。
【0040】
錣部205は、兜本体部204の側部から後部に、兜本体部204下端から広がって延伸している。錣部205も、胴本体部100の装飾具101、草摺108、袖部11と同様に、複数枚の横長の板状体である板札102が、部分的に重ね合うように、一本または複数本の縦向きで多数列に並ぶ威糸103により連結されている。板札および塗装については、胴本体部100の装飾具101にて説明した通りである。図6において、錣部205は、板札102が3枚連結された3段構造であるが、3段に限らず任意の段数であってよい。
【0041】
錣部205は、左右両端を正面に向けて折り返した吹返部206を備える。具体的には、吹返部206は、前方に延びて左右に開くように曲成され、正面から見える部分には、革208や金属製の装飾具207が取付けられている。図6において、吹返部206は、錣部205の上から一、二段目を折り返した構造となっているが、錣部205の段数を超えなければ任意の段数であってよい。
【0042】
図7は、本発明の実施形態に係る飾り襟を示す図である。飾り襟60は、甲冑S、具体的には、胴部10の下に着用する、襟601を備えた胸部までの貫頭衣である。襟601は、重なり合う部分に面ファスナー602を備え、飾り襟60を肩に掛けて面ファスナー602を係合して装着することができる。なお、襟601は、小袖同様に二重襟とすることで、気品ある飾り襟となる。
【0043】
図8は、本発明の実施形態に係る袴を示す図である。袴70は、甲冑S、具体的には、佩楯部40の下に着用するズボンである。袴70は、ウエスト部にゴムといった弾性素材を用い、履きやすくなっている。また、袴70は、脛部に面ファスナー701を備える。この面ファスナー701は、脛部50の裏側に備えられた面ファスナー(図示せず)と係合する。それにより、袴70に脛部50を固定することができる。
【0044】
図9は、発明の実施形態に係る毛靴を示す図である。毛靴80は、軽量の樹脂製サンダル(例えば、サボサンダル)のアッパー部および側面部に接着剤で毛皮を張り付けたものである。また、毛靴80は内張(図示せず)や縁の装飾に革を用いる。それにより、重厚感のある毛靴となる。
【0045】
(装着方法)
最初に、脛部50を袴70に取りつける。また、袖部11を胴部10に装着しておく。次に、飾り襟60を肩から羽織る等にして着用し、胸部の面ファスナー602で固定する。次に、袴70を履く。飾り襟60および袴70を着用後、籠手部30の腕部310に手を通して、甲部311の環303それぞれに親指と中指とを通す。次に、籠手部30を、籠手部30の面ファスナー304で手首に固定し、2本の帯状体の面ファスナー301で装着者の身体に固定する。
【0046】
左右両腕に籠手部30を装着後、佩楯部40をウエストに当て、背面にて面ファスナー403で固定する。次に、胴部10は、正面から背負うような形で、装着し、背面にあるファスナー105、腰紐104の面ファスナー106で装着者に固定する。兜部20を頭に被せて、兜の緒209を顎にかけて、兜部20を装着者の頭に固定する。最後に毛靴80を履くと、着用甲冑Sの着用が完了である。
【0047】
上述したように、着用甲冑Sは、従来の甲冑では紐や帯を結ぶことで固定していたのに対して、面ファスナーを係合することで固定できることで、装着に係る手間が省け、時間も短縮できる。上述した装着方法で着用甲冑Sを着用した際に係る時間は、平均して15分程度である。それに対し、時代劇やイベントにおいて着用される本来の甲冑の装着に係る時間は、慣れた人であっても45分程度要する。したがって、着用甲冑Sは、本来の甲冑よりも短時間で着用することができ、当然脱ぐのに要する時間も短時間である。
【0048】
以上説明したように、着用甲冑は、本来の甲冑と同様の構成部材、2部、胴部、袖部、籠手部、佩楯部、および脛部で構成することで、本格感を表現できる。その一方で、胴部に、可撓性を持たせるとともに、面ファスナーで閉じることができるスリットを設けることで、着脱が容易である。また、袖部、籠手部、佩楯部、および脛部も、胴部と同様に面ファスナーが用いられ、着脱が容易である。
【0049】
着用甲冑において、兜部、胴部、袖部、籠手部、佩楯部、脛部それぞれは、軽量合金からなる部品および軽量樹脂からなる部品を有し、軽量合金からなる板札のみで構成した場合と比較して軽量化することができる。更に、本来、鉄といった金属のみで製作されている甲冑と比較しても当然軽量化されており、本来の甲冑の半分以下、好ましくは、40%以下の重さにすることができる。例えば、従来の子供サイズの甲冑は約9kgであったのに対し、子供サイズの着用甲冑Sは約3.6kgである。
【0050】
一方、着用甲冑を軽量樹脂からなる板札のみで構成した場合と比較して、軽量合金によるほどよい重みが甲冑に備わり、本来の甲冑と比較して重厚感や存在感を損なわない。着用甲冑の、兜部、袖部、籠手部、佩楯部、および脛部それぞれには、ファイバー紙からなる部品を有することもでき、着用甲冑を更に軽量化することができる。
【0051】
このように、着用甲冑は、本格感を感じさせる重厚感や存在感を損なわず、軽量かつ着脱容易である。したがって、日本国内のみならず世界において、老若男女問わず誰でも、本格的な甲冑を、手軽に着用することができる。
【0052】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0053】
S 甲冑
10 胴部
11 袖部
20 兜部
30 籠手部
40 佩楯部
50 脛部
60 飾り襟
70 袴
80 毛靴
図1
図2(A)】
図2(B)】
図2(C)】
図3(A)】
図3(B)】
図4
図5(A)】
図5(B)】
図6
図7
図8
図9