(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ガラスパネルユニットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 27/06 20060101AFI20230901BHJP
C03C 17/36 20060101ALI20230901BHJP
E06B 3/677 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C03C27/06 101H
C03C17/36
E06B3/677
(21)【出願番号】P 2021513543
(86)(22)【出願日】2020-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2020012475
(87)【国際公開番号】W WO2020209033
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019076001
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石橋 将
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 英一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野中 正貴
(72)【発明者】
【氏名】清水 丈司
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056418(WO,A1)
【文献】特開2002-371350(JP,A)
【文献】国際公開第2013/172033(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/06-27/12
C03C17/00-17/44
C23C14/00-14/58
E06B3/66-3/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組立工程と、接合工程と、排気工程と、封止工程と、を含み、
前記組立工程は、組立て品を用意する工程であり、
前記組立て品は、
第1ガラス板と、
前記第1ガラス板に対向する第2ガラス板と、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間にある枠状の周壁と、
前記第1ガラス板と前記第2ガラス板と前記周壁とで囲まれた内部空間と、
前記内部空間を第1空間と第2空間とに仕切る仕切りと、
前記第2空間と外部空間とをつなぐ排気口と、
前記第1空間と前記第2空間とをつなぐ通気路と、
を備え、
前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板のうち一方又は両方は、低放射膜を備え、
前記低放射膜は、前記第1空間内にあり、
前記接合工程は、前記周壁を溶融させて前記周壁で前記第1ガラス板と、前記第2ガラス板とを気密に接合する工程であり、
前記排気工程は、前記通気路と前記第2空間と前記排気口とを介して前記第1空間を排気する工程であり、
前記封止工程は、前記仕切りの軟化点以上の温度で前記仕切りを変形させて前記通気路を塞ぐ工程であり、
前記
組立工程で用いられる前記低放射膜を備える前記第1ガラス板及び/又は前記第2ガラス板は、前記低放射膜を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量に対する、前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量の比
が、2.0以下
のものが選別されたものである、
ガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項2】
100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量に対する、前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量の比は、1.5以下である、
請求項1に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項3】
100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量に対する、前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量の比は、1.0以下である、
請求項2に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項4】
前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量は、100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量よりも少ない、
請求項3に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項5】
前記希ガスは、アルゴンを含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項6】
前記仕切りの軟化点は、前記周壁の軟化点と同じである、
請求項1~5のいずれか1項に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【請求項7】
除去工程を更に含み、
前記除去工程は、前記第2空間を有する部分を除去することで、前記第1空間を有する部分であるガラスパネルユニットを得る工程である、
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラスパネルユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラスパネルユニットの製造方法、及びガラスパネルユニットの組立て品に関し、詳細には断熱用のガラスパネルユニットを製造する方法、及び前記ガラスパネルユニットを作製するための組立て品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1パネルと、第2パネルと、前記第1パネルと前記第2パネルとを気密に接着する枠状の封止材と、前記第1パネルと前記第2パネルとの間の減圧空間(真空空間)に設けられたスペーサとを備えるガラスパネルユニットが開示されている。このガラスパネルユニットでは、スペーサは、樹脂製の本体と、前記本体の表面に設けられた少なくとも1つの紫外線防御層とを含む。
【0003】
特許文献1によると、スペーサが紫外線防御層を含むことにより、本体を構成する樹脂成分が紫外線により分解されることを抑制し、この分解によるガスを真空空間内に発生させにくくしている。
【0004】
しかし、紫外線による樹脂成分の分解を抑制しただけでは、ガラスパネルユニットの製造時に真空空間の品質を向上させることは困難であり、これにより、ガラスパネルユニットの断熱性は向上しにくい傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の課題は、ガラスパネルユニットの断熱性を向上させることができる、ガラスパネルユニットの製造方法、及びガラスパネルユニットの組立て品を提供することである。
【0007】
本開示の一態様に係るガラスパネルユニットの製造方法は、組立工程と、接合工程と、排気工程と、封止工程と、を含む。前記組立工程は、組立て品を用意する工程である。前記組立て品は、第1ガラス板と、第2ガラス板と、周壁と、内部空間と、仕切りと、排気口と、通気路と、を備える。前記第2ガラス板は、前記第1ガラス板に対向する。前記周壁は、枠状であり、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間にある。前記内部空間は、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板と前記周壁とで囲まれている。前記仕切りは、前記内部空間を第1空間と第2空間とに仕切る。前記排気口は前記第2空間と外部空間とをつなぐ。前記通気路は前記第1空間と前記第2空間とをつなぐ。前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板のうち一方又は両方は、低放射膜を備える。前記低放射膜は、前記第1空間内にある。前記接合工程は、前記周壁を溶融させて前記周壁で前記第1ガラス板と、前記第2ガラス板とを気密に接合する工程である。前記排気工程は、前記通気路と前記第2空間と前記排気口とを介して前記第1空間を排気する工程である。前記封止工程は、前記仕切りの軟化点以上の温度で前記仕切りを変形させて前記通気路を塞ぐ工程である。前記周壁を溶融させる前の前記低放射膜を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量に対する、前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量の比は、2.0以下である。
【0008】
本開示の一態様に係るガラスパネルユニットの組立て品は、ガラスパネルユニットを作製するための組立て品である。前記組立て品は、第1ガラス板と、第2ガラス板と、周壁と、内部空間と、仕切りと、排気口と、通気路と、を備える。前記第2ガラス板は、前記第1ガラス板に対向する。前記周壁は、枠状であり、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板との間にある。前記内部空間は、前記第1ガラス板と前記第2ガラス板と前記周壁とで囲まれている。前記仕切りは、前記内部空間を第1空間と第2空間とに仕切る。前記排気口は前記第2空間と外部空間とをつなぐ。前記通気路は前記第1空間と前記第2空間とをつなぐ。前記第1ガラス板及び前記第2ガラス板のうち一方又は両方は、低放射膜を備える。前記低放射膜は、前記第1空間内にある。前記周壁を溶融させる前の前記低放射膜を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量に対する、前記仕切りが変形する温度において前記低放射膜が希ガスを放出する放出量の比は、2.0以下である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態の仕掛り品の概略平面図である。
【
図3】
図3は、上記実施形態の組立て品の概略平面図である。
【
図4】
図4は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図5】
図5は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図6】
図6は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図7】
図7は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図8】
図8は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図9】
図9は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図10】
図10は、上記実施形態のガラスパネルユニットの製造方法の説明図である。
【
図11】
図11は、上記実施形態のガラスパネルユニットの概略平面図である。
【
図13】
図13は、ガラス板から低放射膜を採取する方法を示す概略斜視図である。
【
図15】
図15は、低放射膜の評価結果の一例であって、加熱によって低放射膜から放出されたアルゴンの分圧と加熱温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本開示に至った理由を説明する。
【0011】
ガラスパネルユニットは、二つのガラス板の間に真空空間を形成することで、断熱性を有する。このようなガラスパネルユニットの断熱性は、二つのガラス板の間に真空空間があっても、次の(1)~(3)のいずれかにより低下してしまうと考えられる。
【0012】
(1)ガラス板に設けられた低放射膜が赤外線を透過しやすい、
(2)二つのガラス板の間の距離を維持するスペーサが熱伝達してしまう、
(3)スペーサが劣化して真空空間内にガスを放出する。
【0013】
一方、発明者らは、鋭意研究の結果、上記(1)~(3)以外に、低放射膜に残存するガスが、ガラスパネルユニットの製造時に、低放射膜から真空空間に放出されることを見出した。しかも、このガスにゲッタ材が吸着しにくい希ガスが含まれていることを発見した。真空空間内に希ガスが存在すると、この希ガスが熱伝達することにより、ガラスパネルユニットの断熱性が向上しにくい傾向がある。
【0014】
そこで、発明者らは、低放射膜から少なくとも希ガスを真空空間内に放出させにくくして、ガラスパネルユニットの断熱性を向上させるため、本開示に至った。
【0015】
<実施形態>
次に、本実施形態に係るガラスパネルユニット10の製造方法の概要を説明する。
【0016】
ガラスパネルユニット10の製造方法は、組立工程(
図4~
図6参照)と、接合工程(第1溶融工程、
図7参照)と、排気工程(
図7参照)と、封止工程(第2溶融工程、
図7参照)と、を含む。組立工程は、
図3に示す組立て品100を用意する工程である。組立て品100は、第1ガラス板200と、第2ガラス板300と、周壁410と、内部空間500と、仕切り420と、排気口700と、通気路600と、を備える。第2ガラス板300は、第1ガラス板200に対向する。周壁410は枠状であり、第1ガラス板200と第2ガラス板300との間にある。内部空間500は、第1ガラス板200と第2ガラス板300と周壁410とで囲まれている。仕切り420は、内部空間500を第1空間510と第2空間520とに仕切る。排気口700は第2空間520と外部空間とをつなぐ。通気路600は第1空間510と第2空間520とをつなぐ。第1ガラス板200及び第2ガラス板300のうち一方又は両方は、低放射膜22を備える。低放射膜22は、第1空間510内にある。接合工程は、周壁410を溶融させて周壁410で第1ガラス板200と、第2ガラス板300とを気密に接合する工程である。排気工程は、通気路600と第2空間520と排気口700とを介して第1空間510を排気する工程である。封止工程は、仕切り420の軟化点以上の温度で仕切り420を変形させて通気路600を塞ぐ工程である。周壁410を溶融させる前の低放射膜22を100℃よりも低い温度から4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において低放射膜22が希ガスを放出する放出量に対する、仕切り420が変形する温度において低放射膜22が希ガスを放出する放出量の比は、2.0以下である。
【0017】
上記の製造方法によれば、仕切り420が変形して通気路600を塞いだ後に、低放射膜22が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間510内の希ガスの量を低減でき、第1空間510内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット10の断熱性を向上させることができる。
【0018】
次に、本実施形態に係るガラスパネルユニット10の製造方法(以下、製造方法という場合がある)を、
図1~
図15を参照して詳細に説明する。この製造方法は、ガラスパネルユニット10を製造する方法である。
【0019】
製造方法は、準備工程と、除去工程とを含む。
【0020】
準備工程は、
図1及び
図2に示す仕掛り品110を用意する工程である。仕掛り品110は、
図3に示す組立て品100から形成される。すなわち、仕掛り品110はガラスパネルユニット10(
図11参照)を作製するための中間生成物であり、組立て品100は仕掛り品110を作製するための中間生成物である。
【0021】
準備工程は、組立工程(
図4~
図6参照)と、第1溶融工程(
図7参照)と、排気工程(
図7参照)と、第2溶融工程(
図7参照)とを含む。
【0022】
組立工程は、組立て品100を用意する工程である。
【0023】
組立て品100は、
図3に示すように、第1ガラス板200と、第2ガラス板300と、周壁410と、仕切り420と、を備える。また、組立て品100は、第1及び第2ガラス板200,300と周壁410とで囲まれた内部空間500を有する。さらに、組立て品100は、内部空間500内に、ガス吸着体60と、複数のスペーサ(ピラー)70と、を備える。さらに、組立て品100は、排気口700を備える。
【0024】
第1ガラス板(第1ガラス基板)200は、後述の第1ガラス板20の基礎となる部材であり、第1ガラス板20と同じ材料で形成されている。第2ガラス板(第2ガラス基板)300は、後述の第2ガラス板30の基礎となる部材であり、第2ガラス板30と同じ材料で形成されている。第1及び第2ガラス板200,300は同じ平面形状である。本実施形態では、第1ガラス板200は、後述の第1ガラス板20を少なくとも1つ形成可能な大きさを有し、第2ガラス板300は、後述の第2ガラス板30を少なくとも1つ形成可能な大きさを有する。
【0025】
第1及び第2ガラス板200,300はいずれも多角形(本実施形態では長方形)の平板状である。
【0026】
第1ガラス板200は、本体203と、低放射膜22とを含む。
【0027】
低放射膜22は、内部空間500内にあり、本体203を覆う。低放射膜22は、本体203に接している。低放射膜22は、赤外線反射膜とも呼ばれ、透光性を有するものの、赤外線を透過させにくい。このため、低放射膜22は、ガラスパネルユニット10の断熱性を向上させることができる。低放射膜22は、例えば、金属製の薄膜である。低放射膜22は、例えば、銀を含有する。低放射膜22の一例は、Low-E膜である。
【0028】
低放射膜22は、スパッタリング等の薄膜形成法により本体203の表面に形成することができる。低放射膜22の形成にスパッタリングが採用される場合、低放射膜22は、アルゴン等の希ガス雰囲気下で、例えば、銀を含有する金属層と、酸化亜鉛等の金属酸化物を含有する誘電体層とを交互に積層した複層膜として形成される。また、希ガスの他例として、ヘリウム、クリプトン、及びキセノンが挙げられるが、アルゴンは、安価であり、かつスパッタリングに有用とされている。
【0029】
一方、低放射膜22に所定量以上の希ガスが混入していると、低放射膜22を加熱する際に低放射膜22は多量の希ガスを後述の真空空間50に放出してしまう場合がある。この場合、希ガスは、ガス吸着体60に吸着されにくい成分であるため、後述の真空空間50の真空度が低下しやすい。これにより、希ガスが熱伝達することで、ガラスパネルユニット10の断熱性が低下しやすくなる。このため、本実施形態の低放射膜22は下記の放出量(c1)及び放出量(c2)の関係を満たす性質を有する。
【0030】
周壁410を溶融させる前、すなわち第1溶融工程よりも前で低放射膜22を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、放出量(c2)に対する、放出量(c1)の比は、2.0以下である。放出量(c1)は、仕切り420が変形する温度において低放射膜22が希ガスを放出する放出量である。放出量(c2)は、100℃において低放射膜22が希ガスを放出する放出量である。仕切り420が変形する温度は、後述の第2溶融温度Tm2である。第2溶融温度Tm2は、100℃よりも高い。低放射膜22が放出量(c1)及び放出量(c2)の関係を満たす性質を有することで、仕切り420が変形して通気路600を塞いだ後に、低放射膜22から希ガスを放出させにくくできる。すなわち、後述の真空空間50中の希ガスの量を低減できる。
【0031】
これにより、真空空間50内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット10の断熱性を向上させることができる。放出量(c2)に対する、放出量(c1)の比は、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.5以下であり、更により好ましくは1.3以下であり、また更により好ましくは1.0以下である。放出量(c1)は、特に好ましくは放出量(c2)よりも少ない。放出量(c1)及び放出量(c2)の測定方法は、後述の実施例に記載の通りである。なお、放出量(c1)及び放出量(c2)を測定するにあたって、本体203が露出するまで採取した低放射膜22を検体とする。すなわち、放出量(c1)及び放出量(c2)のいずれもが、この検体全体から放出された希ガスの量である。
【0032】
第1ガラス板200は、上記の通り、本体203を含む。本体203は、第1ガラス板200の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。本体203の材料は、例えば、ソーダライムガラス、高歪点ガラス、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ネオセラム、物理強化ガラスである。
【0033】
第2ガラス板300は、本体303を含む。本体303は、第2ガラス板300の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。本体303は、本体203と同形状である。第2ガラス板300は、本実施形態では、本体303のみからなるが、本体303に加えて低放射膜22と同様の低放射膜を備えてもよい。第2ガラス板300が低放射膜を備える場合、この低放射膜は、内部空間500内で、本体303を覆い、かつ本体303に接する。本体303の材料は、例えば、ソーダライムガラス、高歪点ガラス、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ネオセラム、物理強化ガラスである。
【0034】
周壁410は、第1封着材(第1熱接着剤)を含む。周壁410は、第1ガラス板200と第2ガラス板300との間に配置される。周壁410は、
図6に示すように、枠状である。特に、周壁410は、矩形の枠状である。周壁410は、第1及び第2ガラス板200,300の外周に沿って形成されている。これにより、組立て品100では、周壁410と第1ガラス板200と第2ガラス板300とで囲まれた内部空間500が形成される。
【0035】
第1熱接着剤は、例えば、ガラスフリットである。ガラスフリットの例としては、低融点ガラスフリットが挙げられる。低融点ガラスフリットの例としては、ビスマス系ガラスフリット、鉛系ガラスフリット、バナジウム系ガラスフリットが挙げられる。また、第1熱接着剤は、ガラスフリットに限定されず、例えば、低融点金属、又はホットメルト接着材であってもよい。
【0036】
仕切り420は、第2封着材(第2熱接着剤)を含む。仕切り420は、内部空間500内に配置される。仕切り420は、内部空間500を、第1空間510と、第2空間(通気空間)520とに仕切る。このため、第1空間510は排気工程で排気される空間であり、第2空間520は第1空間510の排気に使用される空間である。仕切り420は、第1空間510が第2空間520よりも大きくなるように、第2ガラス板300の中央よりも第2ガラス板300の長さ方向(
図3における左右方向)の第1端側(
図3における右端側)に形成される。仕切り420は、第2ガラス板300の幅方向(
図3における上下方向)に沿う直線状である。ただし、仕切り420の長さ方向の両端は、周壁410と接していない。
【0037】
第2熱接着剤は、例えば、ガラスフリットである。ガラスフリットの例としては、低融点ガラスフリットが挙げられる。低融点ガラスフリットの例としては、ビスマス系ガラスフリット、鉛系ガラスフリット、バナジウム系ガラスフリットが挙げられる。また、第2熱接着剤は、ガラスフリットに限定されず、例えば、低融点金属、またはホットメルト接着材であってもよい。なお、本実施形態では、第1熱接着剤と第2熱接着剤とは同じものを使用している。つまり、第1封着材と第2封着材とは、同じ材料である。
【0038】
通気路600は、
図3に示すように、内部空間500内で第1空間510と第2空間520とをつなぐ。通気路600は、第1通気路610と、第2通気路620と、を含む。第1通気路610は、仕切り420の第1端(
図3の上端)と周壁410との間に介在する隙間である。第2通気路620は、仕切り420の第2端(
図3の下端)と周壁410との間に介在する隙間である。
【0039】
排気口700は、第2空間520と外部空間とをつなぐ孔である。排気口700は、第2空間520および通気路600(第1通気路610及び第2通気路620)を介して第1空間510を排気するために用いられる。したがって、通気路600と第2空間520と排気口700とは、第1空間510を排気するための排気路を構成する。排気口700は、第2空間520と外部空間とをつなぐように第2ガラス板300に形成されている。具体的には、排気口700は、第2ガラス板300の角部分にある。
【0040】
ガス吸着体60及び複数のスペーサ70は第1空間510内に配置されている。特に、ガス吸着体60は、第2ガラス板300の長さ方向の第2端側(
図4における左端側)に、第2ガラス板300の幅方向に沿って形成されている。つまり、ガス吸着体60は、第1空間510(真空空間50)の端に配置される。このようにすれば、ガス吸着体60を目立たなくすることができる。また、ガス吸着体60は、仕切り420および通気路600から離れた位置にある。そのため、第1空間510の排気時に、ガス吸着体60が排気を妨げる可能性を低くできる。
【0041】
組立工程は、組立て品100を得るために、第1ガラス板200、第2ガラス板300、周壁410、仕切り420、内部空間500、通気路600、排気口700、ガス吸着体60、及び複数のスペーサ70を形成する工程である。組立工程は、第1~第6工程を有する。なお、第2~第5工程の順番は、適宜変更してもよい。
【0042】
第1工程は、第1ガラス板200及び第2ガラス板300を形成する工程(基板形成工程)である。例えば、第1工程では、第1ガラス板200及び第2ガラス板300を作製する。第1工程の際に、低放射膜22が放出量(c1)及び放出量(c2)の関係を満たすかを評価することが好ましい。また、第1工程では、必要に応じて、第1ガラス板200及び第2ガラス板300を洗浄する。
【0043】
第2工程は、排気口700を形成する工程である。第2工程では、
図3に示すように、第2ガラス板300に、排気口700を形成する。また、第2工程では、必要に応じて、第2ガラス板300を洗浄する。
【0044】
第3工程は、スペーサ70を形成する工程(スペーサ形成工程)である(
図4参照)。第3工程では、複数のスペーサ70を予め形成しておき、チップマウンタなどを利用して、複数のスペーサ70を、第2ガラス板300の所定位置に配置する。複数のスペーサ70は、組立て品100が仕掛り品110となった状態で、第1及び第2ガラス板200,300間の間隔を所定間隔に維持するために用いられる。このようなスペーサ70を構成する材料として、例えば、金属、ガラス、及び樹脂が挙げられる。スペーサ70は、これらの材料のうち、1種又は複数種含むことができる。
【0045】
本実施形態の第3工程では、上記の通り、スペーサ70を予め形成して第2ガラス板300に配置しているが、周知の薄膜形成技術を利用して複数のスペーサ70を第2ガラス板300に形成してもよい。また、スペーサ70が樹脂を含む場合、複数のスペーサ70は、上記の形成方法と異なる方法として、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を利用して形成されていてもよい。この場合、複数のスペーサ70は、光硬化性材料などを用いて形成することができる。
【0046】
なお、スペーサ70の大きさ、スペーサ70の数、スペーサ70の間隔、スペーサ70の配置パターンは、適宜選択することができる。各スペーサ70は、上記所定間隔とほぼ等しい高さを有する円柱状である。例えば、スペーサ70は、直径が1mm、高さが100μmである。なお、各スペーサ70は、角柱状や球状などの所望の形状であってもよい。
【0047】
第4工程は、ガス吸着体60を形成する工程(ガス吸着体形成工程)である(
図4参照)。第4工程では、ディスペンサなどを利用して、ゲッタ材の粉体が分散された溶液を第2ガラス板300の所定位置に塗布し、乾燥させることで、ガス吸着体60を形成する。
【0048】
ガス吸着体60は、ゲッタ材を有する。ゲッタ材は、所定の大きさより小さい分子を吸着する性質を有する材料である。ゲッタ材は、例えば、蒸発型ゲッタ材である。蒸発型ゲッタ材は、所定温度(活性化温度)以上になると、吸着された分子を放出する性質を有している。そのため、蒸発型ゲッタ材の吸着能力が低下しても、蒸発型ゲッタ材を活性化温度以上に加熱することで、蒸発型ゲッタ材の吸着能力を回復させることができる。蒸発型ゲッタ材は、例えば、ゼオライトまたはイオン交換されたゼオライト(例えば、銅イオン交換されたゼオライト)である。ガス吸着体60は、このゲッタ材の粉体を備えている。具体的には、ガス吸着体60は、ゲッタ材の粉体を含む液体(例えばゲッタ材の粉体を液体に分散して得られた分散液や、ゲッタ材の粉体を液体に溶解させて得られた溶液)を塗布して固形化することにより形成される。この場合、ガス吸着体60を小さくできる。したがって、第1空間510が狭くてもガス吸着体60を配置できる。
【0049】
第5工程は、周壁410、及び仕切り420を配置する工程(封着材配置工程)である。第5工程では、ディスペンサなどを利用して、第1封着材を第2ガラス板300上に塗布し、その後第1封着材を乾燥させて周壁410を形成する(
図4参照)。また、ディスペンサなどを利用して、第2封着材を第2ガラス板300上に塗布し、その後第2封着材を乾燥させて仕切り420を形成する(
図5参照)。
【0050】
第1工程から第5工程が終了することで、
図5に示されるような、第2ガラス板300が得られる。この第2ガラス板300には、周壁410、仕切り420、通気路600、排気口700、ガス吸着体60及び複数のスペーサ70が形成されている。
【0051】
第6工程は、第1ガラス板200と第2ガラス板300とを配置する工程(配置工程)である。第6工程では、
図6に示すように、第1ガラス板200と第2ガラス板300とは、互いに平行かつ対向するように配置される。
【0052】
上述した組立工程によって、
図3に示す組立て品100が得られる。そして、組立工程の後には、
図7に示すような、第1溶融工程(接合工程)と、排気工程と、第2溶融工程(封止工程)とが実行される。
【0053】
第1溶融工程は、周壁410を一旦溶融させて周壁410で第1ガラス板200と、第2ガラス板300とを気密に接合する工程である。具体的には、第1ガラス板200及び第2ガラス板300は、溶融炉内に配置され、第1溶融温度Tm1で所定時間(第1溶融時間)tm1だけ加熱される(
図7参照)。本実施形態では、第1封着材と第2封着材とが、上記の通り、同じ材料であるため、第1封着材の軟化点(第1軟化点)は、第2封着材の軟化点(第2軟化点)と同じである。このため、第1溶融温度Tm1は、第1及び第2軟化点以上に設定される。第1溶融温度Tm1が第1及び第2軟化点以上であっても、排気工程は第1溶融工程後に開始されるため(
図7参照)、第1溶融工程では仕切り420は通気路600を塞がない。すなわち、第1溶融工程では通気路600を確保している。第1溶融工程において、例えば、第1及び第2軟化点が434℃である場合、第1溶融温度Tm1は、440℃に設定される。また、第1溶融時間tm1は、例えば、10分である。
【0054】
本実施形態において、第1軟化点が第2軟化点と同じである態様は、第1軟化点が第2軟化点と厳密に同じである態様だけでなく、第1軟化点が第2軟化点と略同じである態様も含む。
【0055】
第1溶融温度Tm1で周壁410を加熱することにより、仕切り420の変形を抑制しながらも、周壁410を軟化させることができる。これにより、周壁410によって第1ガラス板200と第2ガラス板300とを気密に接合しやすくなる。
【0056】
排気工程は、通気路600と第2空間520と排気口700とを介して第1空間510を排気して第1空間510を真空空間50とする工程である。排気は、例えば、真空ポンプを用いて行われる。真空ポンプは、
図8に示されるように、排気管810と、シールヘッド820と、により組立て品100に接続される。排気管810は、例えば、排気管810の内部と排気口700とが連通するように第2ガラス板300に接合される。そして、排気管810にシールヘッド820が取り付けられ、これによって、真空ポンプの吸気口が排気口700に接続される。第1溶融工程と排気工程と第2溶融工程とは、組立て品100を溶融炉内に配置したまま行われる。そのため、排気管810は、少なくとも第1溶融工程の前に、第2ガラス板300に接合される。
【0057】
排気工程では、第2溶融工程の開始前までに、排気温度Te以上で所定時間(排気時間)te以上、通気路600と第2空間520と排気口700とを介して第1空間510を排気する(
図7参照)。排気温度Teは、ガス吸着体60のゲッタ材(ゲッタ材微粉末)の活性化温度(例えば、350℃)より高く、かつ、第2封着材の第2軟化点(例えば434℃)より低く設定される。例えば、排気温度Teは、390℃である。このようにすれば、排気工程でも仕切り420は変形しない。また、ガス吸着体60のゲッタ材が活性化し、ゲッタ材が吸着していた分子(ガス)がゲッタ材から放出される。さらに低放射膜22から少なくとも希ガスが放出される。そして、ゲッタ材及び低放射膜22から放出されたガスが、第1空間510、通気路600、第2空間520、及び、排気口700を通じて排出される。ゲッタ材から放出されたガスを排気工程により排気することで、ガス吸着体60の吸着能力が回復する。排気時間teは、所望の真空度(例えば、0.1Pa以下の真空度)の真空空間50が得られるように設定される。例えば、排気時間teは、120分に設定される。
【0058】
第2溶融工程は、仕切り420を変形させて少なくとも通気路600を塞ぐことで隔壁42を形成して仕掛り品110を得る工程である。つまり、第2溶融工程では、仕切り420を変形させて、通気路600を塞ぐ。言い換えると、変形した仕切り420により第1空間510が塞がれて、第1空間510と第2空間520とが分離される。これにより、真空空間50を囲む枠体40が形成される(
図9参照)。本実施形態では、仕切り420の長さ方向の両端が周壁410に接して一体となるように、仕切り420を変形させている。これによって、
図9に示すように、内部空間500を第1空間510(真空空間50)と第2空間520とに気密に分離する隔壁42が形成される。より詳細には、第2封着材の第2軟化点以上の所定温度(第2溶融温度)Tm2で仕切り420を一旦溶融させることで、仕切り420を変形させる。具体的には、第1ガラス板200及び第2ガラス板300は、溶融炉内で、第2溶融温度Tm2で所定時間(第2溶融時間)tm2だけ加熱される(
図7参照)。第2溶融温度Tm2及び第2溶融時間tm2は、仕切り420が軟化し、通気路600が塞がれるように設定される。第2溶融温度Tm2の下限は、第2軟化点(例えば434℃)である。第2溶融温度Tm2は、例えば、460℃に設定される。また、第2溶融時間tm2は、例えば、30分である。
【0059】
本実施形態では、
図7に示すように、排気工程は、第1溶融工程の後に開始され、第2溶融工程の終了とともに終了している。このため、第2溶融工程の際に、通気路600と第2空間520と排気口700とを介して第1空間510が排気されている。そのため、組立て品100の内外の圧力差が生じ、この圧力差によって、第1及び第2ガラス板200,300が互いに接近するように移動させられる。これにより、第2溶融工程では、第2溶融温度Tm2で、通気路600と第2空間520と排気口700とを介して第1空間510を排気しながら、仕切り420を変形させて通気路600を塞ぐ隔壁42を形成する。
【0060】
本実施形態では、溶融炉内の温度が第2溶融温度Tm2に到達する前も第1ガラス板200は加熱されているため、低放射膜22は希ガスを第1空間510に放出している。しかし、通気路600を塞ぐまで、第1空間510は排気されるため、希ガスも排気される。その一方、通気路600を塞いだ後、第1空間510は、真空空間50となって、排気されなくなるものの、低放射膜22は溶融炉内で加熱される。このため、低放射膜22が放出量(c1)及び放出量(c2)の関係を満たす性質を有することで、第1空間510に希ガスが放出されにくくなり、真空空間50の真空度が低下しにくくなる。したがって、真空空間50内の希ガスによる熱伝達が低減されるため、ガラスパネルユニット10の断熱性を向上させることができる。
【0061】
また、
図7に示す第2溶融工程では、第2溶融時間tm2が経過した後、溶融炉内の温度を室温まで等速で冷却する。そして、シールヘッド820を取り外すことで、第2溶融工程及び排気工程を終了する。通気路600を塞いだ後に低放射膜22が溶融炉内で加熱されて希ガスを放出する放出量(c3)は、第1及び第2ガラス板200,300間の間隔が50μm以下である場合、5.0×10
-5Pa・m
3/m
2以下であることが好ましい。放出量(c3)は、第1及び第2ガラス板200,300間の間隔が50μmよりも広く100μm以下である場合、1.0×10
-4Pa・m
3/m
2以下であることが好ましい。放出量(c3)は、第1及び第2ガラス板200,300間の間隔が100μmよりも広く200μm以下である場合、2.0×10
-4Pa・m
3/m
2以下であることが好ましい。放出量(c3)は、第1及び第2ガラス板200,300間の間隔が200μmよりも広く300μm以下である場合、3.0×10
-4Pa・m
3/m
2以下であることが好ましい。放出量(c3)は、低放射膜22が単位時間あたりに希ガスを放出する量ではなく、通気路600を塞いでから第2溶融工程が終了するまでに低放射膜22が希ガスを放出する積算量に比例する。放出量(c3)が上記の好ましい量であることにより、通気路600を塞いだ後に低放射膜22が希ガスを放出しても、真空空間50の真空度が低下しにくくなる。このため、真空空間50内の希ガスによる熱伝達を低減でき、これにより、ガラスパネルユニット10の断熱性を向上させることができる。なお、放出量(c3)の単位である[Pa・m
3/m
2]は、体積1m
3の真空空間50に面積1m
2の低放射膜22から放出される希ガスの分圧を示す。
【0062】
上述の準備工程によって、
図1及び
図2に示す仕掛り品110が得られる。仕掛り品110は、
図1及び
図2に示すように、第1ガラス板200と、第2ガラス板300と、周壁410と、隔壁42と、を備える。また、仕掛り品110は、真空空間50と、第2空間520とを有する。さらに、仕掛り品110は、真空空間50内に、ガス吸着体60と、複数のスペーサ(ピラー)70と、を備える。さらに、仕掛り品110は、排気口700を備える。
【0063】
第1及び第2ガラス板200,300はいずれも矩形の平板状である。第1及び第2ガラス板200,300は同じ平面形状である。
【0064】
第1ガラス板200は、本体203と、低放射膜22とを含む。低放射膜22は、真空空間50内にあり、本体203を覆う。低放射膜22は、本体203に接している。本体203は、第1ガラス板200の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。
【0065】
第2ガラス板300は、本体303を含む。本体303は、第2ガラス板300の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。本体303は、本体203と同形状である。第2ガラス板300は、本実施形態では、本体303のみからなるが、本体303に加えて低放射膜22と同様の低放射膜を備えてもよい。第2ガラス板300が低放射膜を備える場合、この低放射膜は、真空空間50内で、本体303を覆い、かつ本体303に接する。
【0066】
隔壁42は、真空空間50を第2空間520から(空間的に)分離する。言い換えれば、仕掛り品110の第2空間520は排気口700を介して外部空間と(空間的に)繋がっているため、隔壁42は、真空空間50と外部空間とを分離する。そして、隔壁42と周壁410とが一体となって、真空空間50を囲む枠体40を構成する。枠体40は、真空空間50を完全に囲むとともに、第1ガラス板200と第2ガラス板300とを気密に接合する。
【0067】
ガス吸着体60は、真空空間50内に配置される。具体的には、ガス吸着体60は、長尺の平板状であり、第2ガラス板300に配置されている。ガス吸着体60は、不要なガス(残留ガス等)を吸着するために用いられる。不要なガスは、例えば、枠体40となる熱接着剤(第1熱接着剤、及び第2熱接着剤)が加熱される際に、熱接着剤から放出されるガス、及び低放射膜22から放出される希ガス以外のガスがある。なお、本実施形態では、希ガスも不要なガスではあるが、希ガス以外の不要なガスと比べてガス吸着体60に吸着されにくい。
【0068】
複数のスペーサ70は、真空空間50内に配置されている。複数のスペーサ70は、第1及び第2ガラス板200,300間の距離を所望の値に維持するために使用される。
【0069】
真空空間50は、上記の通り、第2空間520及び排気口700を介して第1空間510を排気することで形成される。換言すれば、真空空間50は、真空度が所定値以下の第1空間510である。所定値は、たとえば、0.1Paである。真空空間50は、第1ガラス板200と第2ガラス板300と枠体40とで完全に密閉されているから、第2空間520及び排気口700から分離されている。
【0070】
除去工程は、準備工程の後に実行される。除去工程は、
図10に示すように、仕掛り品110から第2空間520を有する部分11を除去することで、真空空間50を有する部分であるガラスパネルユニット10を得る工程である。
【0071】
ガラスパネルユニット10は、第1ガラス板20と、第2ガラス板30と、を備える。第1ガラス板20は、第1ガラス板200のうち第1空間510(真空空間50)に対応する部分であり、第2ガラス板30は、第2ガラス板300のうち第1空間510(真空空間50)に対応する部分である。
【0072】
一方、不要な部分11は、第1ガラス板200のうち第2空間520に対応する部分21と、第2ガラス板300のうち第2空間520に対応する部分31と、を含む。さらに、不要な部分11は、周壁410のうち第2空間520に対応する部分411と、を含んでいる。なお、ガラスパネルユニット10の製造コストを考慮すれば、不要な部分11は小さいほうが好ましい。
【0073】
除去工程では、具体的には、溶融炉から取り出された仕掛り品110は、
図1に示される切断線900に沿って切断され、真空空間50を有する部分(ガラスパネルユニット)10と、第2空間520を有する部分(不要な部分)11と、に分割される。なお、切断線900の形状は、ガラスパネルユニット10の形状によって定まる。ガラスパネルユニット10は矩形状であるから、切断線900は、隔壁42の長さ方向に沿った直線となっている。特に、本実施形態では、切断線900は、隔壁42上を通る。具体的には、切断線900は、隔壁42の長さ方向に沿って隔壁42の幅方向の中心を通る。つまり、除去工程では、隔壁42は、その幅方向において二分され、一方がガラスパネルユニット10の枠体40の一部となり、他方が不要な部分11とともに除去される。なお、切断線900は、必ずしも隔壁42上を通らなくてもよい。例えば、切断線900が隔壁42と排気口700との間を通っていれば、排気口700のないガラスパネルユニット10が得られる。ただし、切断線900が隔壁42上にあれば、第1及び第2ガラス板200,300を隔壁42とともに切断することができるから、仕掛り品110を切断する作業が容易になるという利点がある。
【0074】
上述の、準備工程及び除去工程を経て、
図11及び
図12に示すガラスパネルユニット10が得られる。
【0075】
図11及び
図12は、本実施形態のガラスパネルユニット(ガラスパネルユニットの完成品)10を示す。ガラスパネルユニット10は、第1ガラス板20と、第2ガラス板30と、枠体40と、を備える。また、ガラスパネルユニット10は、第1及び第2ガラス板20,30と枠体40とで囲まれた真空空間50を有する。さらに、ガラスパネルユニット10は、真空空間50内に、ガス吸着体60と、複数のスペーサ(ピラー)70と、を備える。
【0076】
第1及び第2ガラス板20,30はいずれも矩形の平板状である。第1及び第2ガラス板20,30は同じ平面形状である。
【0077】
第1ガラス板20は、本体23と、低放射膜22とを含む。低放射膜22は、真空空間50内にあり、本体23を覆う。本体23は、第1ガラス板20の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。また、第1ガラス板20は除去工程により第1ガラス板200の不要な部分21が除去されたものであるため、本体23の材料は、本体203と同じである。
【0078】
第2ガラス板30は、本体33を含む。本体33は、第2ガラス板30の主な形状を構成するため、矩形の平板状である。本体33は、本体23と同形状である。第2ガラス板30は除去工程により第2ガラス板300の不要な部分31が除去されたものであるため、本体33の材料は、本体303と同じである。なお、第2ガラス板30は、本実施形態では、本体33のみからなるが、本体33に加えて低放射膜22と同様の低放射膜を備えてもよい。第2ガラス板30が低放射膜を備える場合、この低放射膜は、真空空間50内で、本体33を覆い、かつ本体33に接する。
【0079】
枠体40は、第1ガラス板20と、第2ガラス板30との間にあり、第1ガラス板20と第2ガラス板30とを気密に接合する。これによって、真空空間50は、第1ガラス板20と、第2ガラス板30と、枠体40とで囲まれている。枠体40は、第1及び第2ガラス板20,30と同様の多角形(本実施形態では四角形)の枠状である。枠体40は、第1及び第2ガラス板20,30の外周に沿って形成されている。
【0080】
複数のスペーサ70は、真空空間50内に配置されている。複数のスペーサ70は、第1及び第2ガラス板20,30間の距離を所望の値に維持するために使用される。
【実施例】
【0081】
以下、本実施形態を実施例によって具体的に説明する。
【0082】
<実施例1~3及び比較例1>
まず、
図13に示す第1ガラス板200として、低放射膜(Low-E膜)22が異なるガラス板A、B、C、Dを用意した。実施例1~3及び比較例1は、それぞれ、ガラス板A、B、C、Dを用いて実施された。ガラス板A、B、C、Dの各々のLow-E膜22は、銀を含有する薄膜であって、スパッタリングにより形成されたものである。
【0083】
[実施例1]
図13のように金属製ブレードB1を用いて、大きさが幅200mm×長さ300mmのLow-E膜22をガラス板Aから採取した。そして、このLow-E膜22を、
図14に示す施設により評価した。
図14に示す施設は、ガラスパネルユニットの製造施設F1に測定装置F2を取り付けたものである。
【0084】
製造施設F1は、溶融炉H1と、シールヘッド820と、排気路821~826と、バルブV1~V6と、ポンプP1~P3と、マニホールドM1とを備える。排気路821は、溶融炉H1内にあり、シールヘッド820と溶融炉H1が有する配管とをつなぐ。排気路822は、溶融炉H1外にあり、排気路823と溶融炉H1が有する前記配管とをつなぐ。排気路823は、ポンプP1と排気路822とをつなぐ。さらに排気路823の途中に、バルブV1と、マニホールドM1と、バルブV2とが設けられている。排気路824は、ポンプP1とバルブV1との間の排気路823と、バルブV2と排気路822との間の排気路823とをつなぐ。さらに、排気路824の途中にバルブV3,V4が設けられている。排気路825はポンプP2とマニホールドM1とをつなぎ、この排気路825の途中にバルブV5が設けられている。排気路826はポンプP3とポンプP2とをつなぎ、排気路826の途中にバルブV6が設けられている。排気路821は、柔軟性を有する配管により構成され、外径が8.5mmで、長さが500mmである。排気路822は、柔軟性を有する配管により構成され、外径が16.5mmで、長さが800mmである。ポンプP1は、ドライポンプ(三菱重工業株式会社製「DS251L」)である。ポンプP2は、ターボ分子ポンプ(株式会社大阪真空機器製作所製「TG220F」)である。ポンプP3は、ロータリーポンプ(コスモ・テック株式会社製「GLD-136A」)である。なお、排気路823~826のうち、バルブV1~V6及びマニホールドM1以外の排気路は、配管により構成される。
【0085】
製造施設F1と測定装置F2との間にバルブV7が設けられ、このバルブV7と排気路822とを排気路827がつなぐ。排気路827は、外径が40mmで、長さが200mmである配管により構成される。
【0086】
測定装置F2は、測定部M2と、ポンプP4と、排気路828、829を備える。排気路828は、バルブV7と排気路829とをつなぐ。排気路829は、排気路829と測定部M2とをつなぐ。ポンプP4は、測定部M2と排気路828との間の位置で排気路829に接続する。排気路828は、柔軟性を有する配管により構成され、外径が50mmで、長さが600mmである。排気路829は、外径が40mmで、長さが150mmである配管により構成される。ポンプP4は、ターボ分子ポンプ(Pfeiffer Vacuum社製「TMU071P」)である。測定部M2は、四重極形質量分析計(Q-massスペクトロメータ、ULVAC社製「BGM-202」)である。
【0087】
ガラス板Aから採取した上記のLow-E膜22を、一端が閉じたソーダガラス管811(外径5mm、内径3mm、長さ70mm)内に封入した(
図14参照)。この封入後、ソーダガラス管811をシールヘッド820に取り付けて、シールヘッド820を溶融炉H1内に配置した。この配置後、バルブV3~V7を閉じ、ポンプP1を作動させることでソーダガラス管811を排気した。ポンプP1の作動後、ポンプP2を作動させ、バルブV5を開けてバルブV1を閉じた。これにより、ソーダガラス管811を更に排気した。ポンプP2の作動後、マニホールドM1の気圧計が表示する気圧が1.0×10
-5Paに到達したことを確認した。この確認後、ポンプP4を作動させ、バルブV7を開けた。ポンプP4の作動後、測定部M2により、排気路829内にある窒素及び酸素の各々の分圧を測定した。これらの分圧から窒素と酸素との分圧比を算出することで、ソーダガラス管811と測定部M2とをつなぐ排気路821,822,827,828,829に大気が流入していないことを判断した。この判断後、排気路829内の気圧が1.0×10
-
5Paに到達していることを確認した。そして、溶融炉H1内の温度を室温から490℃にかけて4℃/minの昇温速度で等速昇温させながら、排気路829内にあるアルゴンの分圧を測定部M2により連続して測定した。測定部M2による測定結果を
図15に示し、この測定結果のうち、溶融炉H1内の温度が100℃である場合のアルゴンの分圧と、460℃である場合のアルゴンの分圧とを後掲の表1に示す。
【0088】
[実施例2]
図13に示す第1ガラス板200としてガラス板Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、Low-E膜22を溶融炉H1内で加熱し、排気路829内にあるアルゴンの分圧を測定部M2により測定した。この測定結果を
図15と後掲の表1とに示す。
【0089】
[実施例3]
図13に示す第1ガラス板200としてガラス板Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、Low-E膜22を溶融炉H1内で加熱し、排気路829内にあるアルゴンの分圧を測定部M2により測定した。この測定結果を
図15と後掲の表1とに示す。
【0090】
[比較例1]
図13に示す第1ガラス板200としてガラス板Dを用いた以外は、実施例1と同様にして、Low-E膜22を溶融炉H1内で加熱し、排気路829内にあるアルゴンの分圧を測定部M2により測定した。この測定結果を
図15と後掲の表1とに示す。
【0091】
【0092】
表1に示される実施例1~3及び比較例1において、460℃におけるアルゴンの分圧を本実施形態の放出量(c1)とし、100℃におけるアルゴンの分圧を本実施形態の放出量(c2)とした。
【0093】
表1の結果から、実施例1~3は、100℃においてLow-E膜22がアルゴンを放出する放出量に対する、460℃においてLow-E膜22がアルゴンを放出する放出量の比が2.0以下であることを示した。また、比較例1は、100℃においてLow-E膜22がアルゴンを放出する放出量に対する、460℃においてLow-E膜22がアルゴンを放出する放出量の比が2.0よりも大きいことを示した。
【0094】
<製造例1~4>
下記に示す各部材を用いてガラスパネルユニットの、製造例1~4を行った。
・ガラス板A(実施例1、サイズ;幅×長さ×厚さ=300mm×300mm×3mm)、
・ガラス板B(実施例2、サイズ;幅×長さ×厚さ=300mm×300mm×3mm)、
・ガラス板C(実施例3、サイズ;幅×長さ×厚さ=300mm×300mm×3mm)、
・ガラス板D(比較例1、サイズ;幅×長さ×厚さ=300mm×300mm×3mm)、
・第2ガラス板(サイズ;幅×長さ×厚さ=300mm×300mm×3mm)、
・スペーサ(サイズ;直径×高さ=1mm×100μm、樹脂製)、
・第1封着材;ビスマス系ガラスフリット(軟化点;434℃)、
・第2封着材;ビスマス系ガラスフリット(軟化点;434℃)。
【0095】
[製造例1]
まず、ゲッタ材である銅イオン交換ゼオライトと水とを混合して混合物を得た。その後、排気口を有する第2ガラス板の一面に、第1封着材からなる周壁と、第2封着材からなる仕切りと、通気路と、前記混合物からなるガス吸着体と、複数のスペーサとを設けた。次に、第1ガラス板としてガラス板Aを用い、Low-E膜が第2ガラス板と対向するようにしてガラス板Aを配置させた。これにより、ガラス板Aと第2ガラス板との間に内部空間が形成された組立て品が得られた。また、スペーサを設ける際、隣り合うスペーサ同士の間隔が20mmとなるようにして複数のスペーサをチップマウンタにより第2ガラス板に配置した。
【0096】
続いて、排気口と排気管の内部とが連通するようにして第2ガラス板に接合された排気管にシールヘッドを取り付けることで内部空間と真空ポンプとを接続させた。そして、組立て品を溶融炉内に配置した。この配置後、組立て品を440℃(第1溶融温度)で10分間加熱することで、周壁を一旦溶融させた。この溶融時に通気路は塞がれていなかった。
【0097】
周壁の溶融後、溶融炉内の温度を排気温度である390℃まで降温させた。そして、真空ポンプを作動させることにより、内部空間を390℃で120分間排気させた。
【0098】
その後、真空ポンプを作動させたまま、溶融炉内の温度を第2溶融温度である460℃まで昇温させ、この温度で組立て品を30分間加熱した。この加熱時に、仕切りを変形させて通気路を塞いで隔壁を形成した。
【0099】
隔壁の形成後、溶融炉内の温度を室温まで降温させた。この降温後、真空ポンプを停止してシールヘッドを脱着させた。シールヘッドの脱着後、切断により不要な部分を取り除くことで、ガラスパネルユニットを作製した。
【0100】
[製造例2]
第1ガラス板としてガラス板Bを用いた以外は、製造例1と同様にしてガラスパネルユニットを作製した。
【0101】
[製造例3]
第1ガラス板としてガラス板Cを用いた以外は、製造例1と同様にしてガラスパネルユニットを作製した。
【0102】
[製造例4]
第1ガラス板としてガラス板Dを用いた以外は、製造例1と同様にしてガラスパネルユニットを作製した。
【0103】
(評価)
[熱コンダクタンス]
各製造例のガラスパネルユニットの熱コンダクタンスを下記の手順で評価した。測定装置の高温部と低温部とがガラスパネルユニットにより仕切られた状態にし、第1ガラス板の外面に第1温度計を配置し、第2ガラス板の外面に第2温度計及びセンサとを配置した。この配置後、ガラスパネルユニットを介して加温部から冷却部に伝えられた熱の流束をセンサで検出し、第1温度計で第1ガラス板の表面温度を測定し、第2温度計で第2ガラス板の表面温度が測定した。
【0104】
そして、熱流束と、第1ガラス板の表面温度と、第2ガラス板の表面温度と、を下記式(1)に導入することで、ガラスパネルユニットの熱コンダクタンスを算出した。
Q=C(T1-T2) ・・・(1)
式(1)中、Qは熱流束(W/m2)を示し、T1は第1ガラス板の表面温度(K)を示し、T2は第2ガラス板の表面温度(K)を示し、Cは熱コンダクタンス(W/m2K)を示す。
【0105】
製造例1の熱コンダクタンスは0.8~0.9W/m2Kであり、製造例2の熱コンダクタンスは1.13W/m2Kであり、製造例3の熱コンダクタンスは0.7W/m2Kであり、製造例4の熱コンダクタンスは1.74W/m2Kであった。
【0106】
また、ガラス板A、B、C、Dの各々を460℃で加熱し、この加熱後のガラス板A、B、C、Dの各々の放射率を測定した。その結果、ガラス板Aの放射率は0.055~0.065であり、ガラス板Bの放射率は0.116であり、ガラス板Cの放射率は0.03~0.04であり、ガラス板Dの放射率は0.062であった。そして、ISO/DIS 19916-1:2017 Annex Cに準拠して、これらの放射率から各製造例の熱コンダクタンスの予測値を算出した。その結果、製造例1の予測値は0.80~0.85W/m2Kであり、製造例2の予測値は1.10W/m2Kであり、製造例3の予測値は0.68~0.73W/m2Kであり、製造例4の予測値は0.85W/m2Kであった。
【0107】
以上より、製造例1~3では熱コンダクタンスの実測値と予測値とに大きな差がなかったが、製造例4では熱コンダクタンスの実測値と予測値とに1W/m2K程度の差があった。この結果から、製造例4で熱コンダクタンスの実測値と予測値とに大きな差が生じたのは、通気路が塞がった後でも溶融炉内で加熱されることでLow-E膜がアルゴンガスを放出してしまうことに起因すると考えられる。そして、Low-E膜が放出したアルゴンは、ガス吸着体に吸着されず、真空空間にアルゴンが存在していると考えられる。一方、製造例1~3では熱コンダクタンスの実測値と予測値とに大きな差がなかったため、通気路が塞がった後に溶融炉内で加熱されてもLow-E膜はアルゴンガスを放出しにくいと考えられる。このため、真空空間中のアルゴンの量は、製造例4よりも低減できていると考えられる。したがって、熱コンダクタンスの実測値に示される通り、製造例1~3のガラスパネルユニットは、製造例4よりも断熱性が優れている。
【0108】
(変形例)
本開示の実施形態は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施形態の変形例を列挙する。
【0109】
上記実施形態では、第1及び第2ガラス板200、300のうち、第1ガラス板200だけが低放射膜22を備えているが、変形例では第2ガラス板300も低放射膜を備えてもよい。すなわち、第1及び第2ガラス板200、300の両方が低放射膜を備えてもよい。このため、第1及び第2ガラス板20、30の両方も低放射膜を備えてもよい。
【0110】
上記実施形態では、第1及び第2ガラス板200、300のうち、第1ガラス板200は低放射膜22を備え、第2ガラス板300は低放射膜を備えていない。しかし、変形例では第2ガラス板300が低放射膜を備え、第1ガラス板200が低放射膜22を備えなくてもよい。このため、変形例のガラスパネルユニット10でも、第2ガラス板30が低放射膜を備え、第1ガラス板20が低放射膜22を備えなくてもよい。
【0111】
上記実施形態では低放射膜22が放出するガスとして希ガスを挙げたが、変形例では低放射膜22は、加熱時に、希ガス以外に、水素、窒素、炭化水素、及び二酸化炭素等のガスを放出してもよい。このガスはガス吸着体60により吸着されるため、ガラスパネルユニット10の断熱性は低下しにくい。
【0112】
上記実施形態では、排気工程は第1溶融工程後に開始しているが、変形例では、第1溶融時間tm1が経過した後で、かつ溶融炉内の温度が第1軟化点よりも低ければ、排気工程は第1溶融工程の途中で開始してもよい。
【0113】
上記実施形態では、排気工程は第2溶融工程の終了とともに終了しているが、変形例では、排気工程は、第1溶融工程の後に開始し、第2溶融工程の前に終了してもよい。
【0114】
上記実施形態では、ガラスパネルユニット10は矩形状であるが、変形例では、ガラスパネルユニット10は、円形状や多角形状など所望の形状であってもよい。つまり、第1ガラス板20、第2ガラス板30、及び枠体40は、矩形状ではなく、円形状や多角形状など所望の形状であってもよい。なお、第1ガラス板200、第2ガラス板300、周壁410、及び仕切り420のそれぞれの形状は、上記実施形態の形状に限定されず、所望の形状のガラスパネルユニット10が得られるような形状であればよい。なお、ガラスパネルユニット10の形状や大きさは、ガラスパネルユニット10の用途に応じて決定される。
【0115】
第1及び第2ガラス板20,30は同じ平面形状および平面サイズを有していなくてもよい。また、第1ガラス板20の本体23は、第2ガラス板30の本体33と同じ厚みを有していなくてもよい。また、本体23と、本体33とは同じ材料で形成されていなくてもよい。これらの点は、第1及び第2ガラス板200,300についても同様である。
【0116】
周壁410は、第1及び第2ガラス板200,300と同じ平面形状を有していなくてもよい。
【0117】
周壁410は、第1封着材に加えて、芯材等の他の要素を備えていてもよい。仕切り420(隔壁42)は、第2封着材に加えて、芯材等の他の要素を備えていてもよい。
【0118】
また、組立て品100では、周壁410は第1及び第2ガラス板200,300の間にあるだけでこれらを接合していない。しかしながら、組立て品100の段階で、周壁410が第1及び第2ガラス板200,300同士を接合していてもよい。要するに、組立て品100では、周壁410は第1及び第2ガラス板200,300の間にあればよく、これらを接合していることは必須ではない。
【0119】
また、上記実施形態では、仕切り420は、周壁410に接していない。これによって、仕切り420の両端と周壁410との隙間が、通気路610,620を形成している。ただし、仕切り420は、その両端の一方のみが周壁410に連結されていてもよく、この場合、仕切り420と周壁410との間に一つの通気路600が形成されうる。あるいは、仕切り420は、その両端が周壁410に連結されていてもよい。この場合、通気路600は、仕切り420に形成された貫通孔であってもよい。あるいは、通気路600は、仕切り420と第1ガラス板200と間の隙間であってもよい。あるいは、仕切り420は、間隔をあけて配置された2以上の仕切りで形成されていてもよい。この場合、通気路600は、2以上の仕切りの間に介在する隙間であってもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、内部空間500は、一つの第1空間510と一つの第2空間520とに仕切られている。ただし、内部空間500は、仕切り420によって、1以上の第1空間510と1以上の第2空間520とに仕切られていてもよい。内部空間500が2以上の第1空間510を有する場合、1つの仕掛り品110から2以上のガラスパネルユニット10を得ることができる。
【0121】
上記実施形態では、通気路600は二つの通気路610,620を備えているが、通気路600は、一つの通気路だけで構成されていてもよいし、3以上の通気路で構成されていてもよい。また、通気路600の形状は、特に限定されない。
【0122】
上記実施形態では、排気口700は、第2ガラス板300に形成されている。しかし、排気口700は、第1ガラス板200に形成されていてもよいし、周壁410のうちの第2空間520に対応する部分411に形成されていてもよい。要するに、排気口700は、不要な部分11に形成されていればよい。
【0123】
上記実施形態では、ガス吸着体60中のゲッタ材は蒸発型ゲッタであるが、ゲッタ材は非蒸発型ゲッタであってもよい。
【0124】
上記実施形態では、第1空間510を真空空間50としているが、真空空間50の代わりに、減圧空間としてもよい。減圧空間は、減圧状態となった第1空間510である。減圧状態とは、圧力が大気圧より低い状態であればよい。
【0125】
(まとめ)
上記実施形態及び変形例から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。
【0126】
第1態様は、ガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、組立工程と、接合工程と、排気工程と、封止工程と、を含む。組立工程は、組立て品(100)を用意する工程である。組立て品(100)は、第1ガラス板(200)と、第2ガラス板(300)と、周壁(410)と、内部空間(500)と、仕切り(420)と、排気口(700)と、通気路(600)と、を備える。第2ガラス板(300)は、第1ガラス板(200)に対向する。周壁(410)は、枠状であり、第1ガラス板(200)と第2ガラス板(300)との間にある。内部空間(500)は、第1ガラス板(200)と第2ガラス板(300)と周壁(410)とで囲まれている。仕切り(420)は、内部空間(500)を第1空間(510)と第2空間(520)とに仕切る。排気口(700)は第2空間(520)と外部空間とをつなぐ。通気路(600)は第1空間(510)と第2空間(520)とをつなぐ。第1ガラス板(200)及び第2ガラス板(300)のうち一方又は両方は、低放射膜(22)を備える。低放射膜(22)は、第1空間(510)内にある。接合工程は、周壁(410)を溶融させて周壁(410)で第1ガラス板(200)と、第2ガラス板(300)とを気密に接合する工程である。排気工程は、通気路(600)と第2空間(520)と排気口(700)とを介して第1空間(510)を排気する工程である。封止工程は、仕切り(420)の軟化点以上の温度で仕切り(420)を変形させて通気路(600)を塞ぐ工程である。周壁(410)を溶融させる前の低放射膜(22)を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量に対する、仕切り(420)が変形する温度において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量の比は、2.0以下である。
【0127】
第1態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0128】
第2態様は、第1態様のガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、100℃において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量に対する、仕切り(420)が変形する温度において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量の比は、1.5以下である。
【0129】
第2態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0130】
第3態様は、第2態様のガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、100℃において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量に対する、仕切り(420)が変形する温度において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量の比は、1.0以下である。
【0131】
第3態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0132】
第4態様は、第3態様のガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、仕切り(420)が変形する温度において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量は、100℃において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量よりも少ない。
【0133】
第4態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0134】
第5態様は、第1~第4態様のいずれか1つのガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、前記希ガスは、アルゴンを含む。
【0135】
第5態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0136】
第6態様は、第1~第5態様のいずれか1つのガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、仕切り(420)の軟化点は、周壁(410)の軟化点と同じである。
【0137】
第6態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0138】
第7態様は、第1~第6態様のいずれか1つのガラスパネルユニット(10)の製造方法であって、除去工程を更に含む。除去工程は、第2空間(520)を有する部分(11)を除去することで、第1空間(510)を有する部分であるガラスパネルユニット(10)を得る工程である。
【0139】
第7態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【0140】
第8態様は、ガラスパネルユニット(10)を作製するための組立て品(100)である。組立て品(100)は、第1ガラス板(200)と、第2ガラス板(300)と、周壁(410)と、内部空間(500)と、仕切り(420)と、排気口(700)と、通気路(600)と、を備える。第2ガラス板(300)は、第1ガラス板(200)に対向する。周壁(410)は、枠状であり、第1ガラス板(200)と第2ガラス板(300)との間にある。内部空間(500)は、第1ガラス板(200)と第2ガラス板(300)と周壁(410)とで囲まれている。仕切り(420)は、内部空間(500)を第1空間(510)と第2空間(520)とに仕切る。排気口(700)は第2空間(520)と外部空間とをつなぐ。通気路(600)は第1空間(510)と第2空間(520)とをつなぐ。第1ガラス板(200)及び第2ガラス板(300)のうち一方又は両方は、低放射膜(22)を備える。低放射膜(22)は、第1空間(510)内にある。周壁(410)を溶融させる前の低放射膜(22)を4℃/minの昇温速度で加熱するとき、100℃において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量に対する、仕切り(420)が変形する温度において低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量の比は、2.0以下である。
【0141】
第8態様によれば、仕切り(420)が変形して通気路(600)を塞いだ後に、低放射膜(22)が希ガスを放出する放出量を低減できる。これにより、排気後の第1空間(510)内の希ガスの量を低減でき、第1空間(510)内の希ガスによる熱伝達を低減できるため、ガラスパネルユニット(10)の断熱性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0142】
10 ガラスパネルユニット
100 組立て品
200 第1ガラス板
300 第2ガラス板
22 低放射膜
410 周壁
420 仕切り
500 内部空間
510 第1空間
520 第2空間
600 通気路
700 排気口