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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】環境制御システム
(51)【国際特許分類】
   H05B 47/10 20200101AFI20230901BHJP
【FI】
H05B47/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019183602
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021061129
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 達也
(72)【発明者】
【氏名】薮亀 順平
(72)【発明者】
【氏名】原田 和樹
【審査官】塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-154483(JP,A)
【文献】特開平08-180707(JP,A)
【文献】特開2013-007911(JP,A)
【文献】特開平06-175666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 39/00-39/10
H05B 45/00-45/59
H05B 47/00-47/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の机が配置されている室内における前記机の上面を照明するための1以上のタスクライトと、
前記室内において前記上面よりも広範囲な領域を照明するための1以上のベースライトと、
前記室内に音を出力する1以上のスピーカと、
1以上の制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が大きくなる集中制御領域と前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が小さくなる非集中制御領域とがバッファ領域を間に挟んだ状態で生じるように、前記1つ以上のタスクライト及び前記1以上のベースライトを調光・調色制御するゾーニング制御を行い、
前記ゾーニング制御では、前記バッファ領域内の平均照度が前記集中制御領域の平均照度及び前記非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、前記バッファ領域内の平均音量が前記集中制御領域の平均音量及び前記非集中制御領域の平均音量よりも下回り、
前記ゾーニング制御において、前記1つ以上のタスクライト及び前記1以上のベースライトにおける互いに異なる複数の調光・調色制御を行うことができ、
前記複数の調光・調色制御の夫々における前記1つ以上のタスクライト及び前記1以上のベースライトの夫々の色温度及び調光率が予め設定されており、
前記調光・調色制御を、デジタル情報を用いて行う、環境制御システム。
【請求項2】
複数の机が配置されている室内における前記机の上面を照明するための1以上のタスクライトと、
前記室内において前記上面よりも広範囲な領域を照明するための1以上のベースライトと、
前記室内に音を出力する1以上のスピーカと、
1以上の制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が大きくなる集中制御領域と前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が小さくなる非集中制御領域とがバッファ領域を間に挟んだ状態で生じるように、前記1つ以上のタスクライト及び前記1以上のベースライトを調光・調色制御するゾーニング制御を行い、
前記ゾーニング制御では、前記バッファ領域内の平均照度が前記集中制御領域の平均照度及び前記非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、前記バッファ領域内の平均音量が前記集中制御領域の平均音量及び前記非集中制御領域の平均音量よりも下回り、
前記ゾーニング制御において、前記集中制御領域内で最大の音量で出力されている音のコンテンツが、前記非集中制御領域内で最大の音量で出力されている音のコンテンツと異なる、環境制御システム。
【請求項3】
複数の机が配置されている室内における前記机の上面を照明するための1以上のタスクライトと、
前記室内において前記上面よりも広範囲な領域を照明するための1以上のベースライトと、
前記室内に音を出力する1以上のスピーカと、
1以上の制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が大きくなる集中制御領域と前記ベースライトの照度より前記タスクライトの照度が小さくなる非集中制御領域とがバッファ領域を間に挟んだ状態で生じるように、前記1つ以上のタスクライト及び前記1以上のベースライトを調光・調色制御するゾーニング制御を行い、
前記ゾーニング制御では、前記バッファ領域内の平均照度が前記集中制御領域の平均照度及び前記非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、前記バッファ領域内の平均音量が前記集中制御領域の平均音量及び前記非集中制御領域の平均音量よりも下回り、
前記ゾーニング制御において、前記集中制御領域内で最大の音量で出力されている音における高速フーリエ変換におけるスペクトル幅が、前記非集中制御領域内で最大の音量で出力されている音における高速フーリエ変換におけるスペクトル幅よりも広い、環境制御システム。
【請求項4】
前記集中制御領域及び前記非集中制御領域の夫々の平均照度が、前記バッファ領域の平均照度の1.8倍以上である、請求項1から3のいずれか1つに記載の環境制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、環境制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
働き方改革に発端し、ABW(Activity Based Working)オフィスが台頭している。ABWオフィスは、例えば、ワーカーが1人で集中ワークをしたい時、複数人でグループワークをしたい時、休憩・リラックスをしたい時など、時々刻々変化するワークの種類・量、あるいはワーカー自身の情動・動機に基づく意思などに対応し、設計主旨の異なるスペースをワーカー自身が選択することで、ワーカーや組織のパフォーマンスを効率化させる形式のオフィスである。設計主旨の異なるスペースの作り方として、例えば、特許文献1に記されるような、什器や家具を用いて集中ワークの効率を高める主旨のスペースを作り、ゾーニングを行う手段が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-131572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ABWオフィスは、ワーカーや組織の流動的なワークパフォーマンスや各スペースに対するニーズ応じて、継続的にゾーニングの変更が行われることが理想である。例えば、前述のブース型什器・家具は、設置後も利用率の過不足に対応して、配置や個数を変化させることでゾーニングの変更が可能である。ところが、ワーカーや組織のワークパフォーマンスや各スペースに対するニーズは、時間毎、日毎、月毎などのサイクルでも生じうることに対し、什器・家具の運搬や再設置、倉庫への収納などの作業を前述のサイクルで継続的に実施することは、その手間や労力から鑑みれば困難であり、設計変更の柔軟性という側面においては、ABWオフィスの実現手段として課題があった。
【0005】
そこで、本開示の目的は、時間毎、日毎、月毎などのサイクルで生じる人(ワーカー等)や組織の流動的なワークパフォーマンスや各スペースに対するニーズに対しても容易に対応するアクティブゾーニングを可能とする環境制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本開示に係る環境制御システムは、複数の机が配置されている室内の机の上面を照明するための1以上のタスクライトと、室内において上記上面よりも広範囲な領域を照明するための1以上のベースライトと、室内に音を出力する1以上のスピーカと、1以上の制御装置と、を備え、制御装置は、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる集中制御領域とベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる非集中制御領域とがバッファ領域を間に挟んだ状態で生じるように、1つ以上のタスクライト及び1以上のベースライトを調光・調色制御するゾーニング制御を行い、ゾーニング制御では、バッファ領域内の平均照度が集中制御領域の平均照度及び非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、バッファ領域内の平均音量が集中制御領域の平均音量及び非集中制御領域の平均音量よりも下回る。
【0007】
ここで、上記集中制御領域を次のように定義する。詳しくは、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する2以上の机が連続して隣り合うように配置されている場合、鉛直方向を含む平面で、上記2以上の机のうちで少なくとも1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している1以上の机における1以上の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、上記集中制御領域として定義する。
【0008】
また、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する机が連続して隣り合うように配置されていなくて、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する机が一つで孤立している状態になっている場合、その1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している机の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、上記集中制御領域として定義する。
【0009】
また、上記非集中制御領域を次のように定義する。詳しくは、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する2以上の机が連続して隣り合うように配置されている場合、鉛直方向を含む平面で、上記2以上の机のうちで少なくとも1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している1以上の机における1以上の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、上記非集中制御領域として定義する。
【0010】
また、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する机が連続して隣り合うように配置されていなくて、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する机が一つで孤立している状態になっている場合、その1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している机の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、上記非集中制御領域として定義する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る環境制御システムによれば、時間毎、日毎、月毎などのサイクルで生じる人や組織の流動的なワークパフォーマンスや各スペースに対するニーズに対しても容易に対応するアクティブゾーニングを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施例に係る環境制御システムが設置されたABWオフィスにおいて可能な複数の作業机の配置のレイアウトの実施例を示す図面であり、上方から複数の作業机を見たときの配置とABWオフィスの天井部に取り付けられたベースライト、通電用のダクトレール、スポットライト、及びスピーカの配置図を作業机の配置に重畳させる形で記載したレイアウト配置図である。
図2】上記環境制御システムにおいて再現可能な4つのシーンについて説明する図である。
図3】上記環境制御システムの主要構成を示すブロック図である。
図4】変形例の環境制御システムにおける図3に対応するブロック図である。
図5】シーン1を再現しているときに各照明機器が照射している照射光の情報と、各スピーカが出力している音の情報とを説明する模式図である。
図6】上記ABWオフィスにおいて、シーン1を再生したときに、デスクD12からD03を横断するように配置した照度計および騒音計で空間の照度および音量を測定したときの一試験例の結果を示すグラフである。
図7】(a)は、実施例の変形例の環境制御システムにおける制御装置が実行可能な制御の一例を示すフローチャートであり、(b)は、実施例の他の変形例の環境制御システムの制御装置が実行可能な制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて新たな実施形態を構築することは当初から想定されている。また、以下の実施例では、図面において同一構成に同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、複数の図面には、模式図が含まれ、異なる図間において、各部材における、縦、横、高さ等の寸法比は、必ずしも一致しない。また、以下で説明される構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素であり、必須の構成要素ではない。また、本明細書で、「略」という文言を用いた場合、「大雑把に言って」という文言と同じ意味合いで用いており、「略~」という要件は、人がだいたい~のように見えれば満たされる。例を挙げれば、略円形という要件は、人がだいたい円形に見えれば満たされる。また、本開示は、下記実施例およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項およびその均等な範囲において種々の改良や変更が可能である。
【0014】
図1は、本開示の一実施例に係る環境制御システム10が設置された室の一例としてのABWオフィス20において可能な複数の作業机D01~D14の配置のレイアウトの実施例を示す図面であり、上方から複数の作業机D01~D14を見たときの配置とABWオフィス20の天井部に取り付けられたベースライト3、通電用のダクトレール4、スポットライト5、及びスピーカ9の配置図を作業机D01~D14の配置に重畳させる形で記載したレイアウト配置図である。
【0015】
本開示における環境制御システム10は、ベースライト3、スポットライト5、及びスピーカ9を用いて、照明光と音の両面から、ABWオフィス20の一部領域を、人が特に作業に集中し易い優れた集中制御領域とする一方、ABWオフィス20の他の一部領域を、人が特にリラックス感を感じ易くて複数人がコミュニケーションを行うことにも長ける優れた非集中制御領域(共創領域)とし、二つの領域を分断し、ゾーニングする。以下、二つの領域のゾーニングを実現する手法を、照明光の観点と音の観点から詳細に説明する。
【0016】
[1.照明光を用いたゾーニング]
図1に示すように、ABWオフィス20の1形態においては、一般的な事務用机である計14台の作業机D01~D14をデスクグループ1およびデスクグループ2に分類し、その上方に、ABWオフィス20を照明するためのアンビエント照明としての28台のLED調光調色式ベースライト(例えば、NNLK41515+NNL4600EXDK9:パナソニック)を等間隔に設置し、その近傍に通電用のダクトレール4を3列分設置した。詳しくは、計14台の作業机D01~D14を4列に配置し、3つの通電用のダクトレール4を、4列の作業机D01~D14うちの3列の作業机D01~D14の近傍に列の延在方向に略平行な方向に延在するように配置した。
【0017】
更には、各ダクトレール4には、タスクライトの一例としてのLED調光式スポットライト(例えば、NTS05121W:パナソニック)5を計14台設置した。併せて、各スポットライト5の開口部には波長変換フィルタを貼り付け、スポットライト5からの出力光の色温度を6000Kに調整した。そして、計14台の作業机D01~D14と、計14台のスポットライト5を、一対一に対応させ、各スポットライト5が対応する作業机D01~D14の中央部を照射するように、各スポットライト5の設置位置、及び設置方向を調整した。
【0018】
また、28台のベースライト3および14台のスポットライト5は、制御装置の一例としてのマルチマネージャー(例えば、NQ51101:パナソニック) 、LS/PD信号変換インターフェース(例えば、NK51111:パナソニック)、PD/調光信号変換インターフェース(例えば、NK51012:パナソニック)、PiPit+セパレートセルコンAタイプ(例えば、NQ23171Z:パナソニック)に調光信号線を介して順次接続した。なお、スポットライト5は2台用意したPiPit+セパレートセルコンAタイプに対して7台ずつペアリングした。
【0019】
次に、マルチマネージャーの操作アプリケーションを用いて、28台のベースライト3のマッピング作業により各ベースライト3の位置情報を記憶し、図1に示すように、12台のベースライト3と8台のスポットライト5を照明グループ1に所属する照明機器として設定し、4台のベースライト3を照明グループ2に所属する照明機器として設定し、12台のベースライト3と6台のスポットライト5を照明グループ3に所属する照明機器として設定した。さらに、図2に示すように、各照明グループ1~3の夫々に対して、4つのシーンを設定し、各シーンにおいて、各グルーブで色温度および調光率の値を設定した。
【0020】
ここで、各シーンの設定は、既存のシーン設定のアプリケーションがインストールされた情報端末、例えば、スマートフォン、タブレット又はリモコン等を用いて容易に実行できる。そして、実際に各シーンを再現した。詳しくは、ABWオフィス20の窓のブラインドカーテンを閉め切ったうえで、操作部64(図3参照)を用いて、シーン1を再生したところ、外観上、デスクグループ1とデスクグループ2が分割された。続いて、操作部64(図3参照)を用いて、シーン3、シーン4など他のシーンを順次再生したところ、各シーンは数秒程度で切り替わった。
【0021】
シーン1のデスクグループ1は、作業机D07~D014の中央部のみ照度が高く、中央部から離れるほど照度が低くなる、不均一な照度分布であった。また、作業机周辺の床や壁などの照度も低く、明るさ感が低い空間であった。一方、シーン1のデスクグループ2は、作業机D01~D06の照度はデスクグループ1と比較し均一性の高い照度分布であり、作業机周辺の床や壁などの照度も高く、明るさ感が高い空間であった。
【0022】
このとき、デスクグループ1にワーカーが着席した場合、ワーカーがより注視すべき作業机D07~D014の中央部のみ照度が高いため、周辺視野の認知的なノイズ要因が低減されることから、ワーカーが作業に没頭しやすく、集中ワークの効率を高め易い。更に、本手法では、ベースライト3の調光率を低く設定していることにより、壁や床などの周辺視野の視認性を低下させているため、より作業机D07~D014および作業への没頭効果を高め易い。また、ベースライト3の調光率を低く設定していることにより、デスクグループ1で作業しているワーカーは、外部から他のワーカーが見たとき、顔の表情がよく見えなかったり、顔に陰がかかることで不機嫌な様子に見えたりするため、話しかけにくい。つまり、このデスクグループ1で作業しているワーカーは、他ワーカーから話しかけられ、作業が中断する確率が低下し易いため、結果として、集中ワークの効率を高め易い。以上より、シーン1が再現された場合、デスクグループ1は、集中スペースとして機能し易い空間であり、本開示における集中制御領域に該当するものとして扱うことができる。一方、シーン1では、デスクグループ2は、色温度が低く、リラックス感や複数人でのコミュニケーション量を高め易いため、共創スペースとして機能し易い空間であり、本開示における非集中制御領域に該当するものとして扱うことができる。
【0023】
デスクグループ1とデスクグループ2は、空間の照度分布が大きく異なる。とくに、デスクグループ1において、作業机周辺の床や壁などの照度がより低い点が特徴であり、それが要因となり2つのデスクグループの、外観上の空間の分割感が高い。さらに、デスクグループ1とデスクグループ2は、照明の色温度が大きく異なることから、外観上の空間の分割感が高い。以上より、什器や家具などを用いずとも、ゾーニング効果を有する。
【0024】
ゾーニング効果とは、例えば、空間の認知上の区切れ感を意味し、人から見た外観上複数の空間が確かに異なる空間であると認知しやすい効果を含みうる。あるいは、その認知を以て、ゾーニングの意図通りにワーカーの行動や動線の変化を促しやすくする効果を含みうる。例えば、集中スペースを意図するゾーニングをした場合、それを見たワーカーが確かに集中作業を行うことを主目的とし、該空間を使用するような効果である。または、ワーカーが実際に目的的にそれらの空間を利用した場合の主観的な効果実感や生理・心理・生体的作用が主旨に応じた傾向を示す効果を含みうる。例えば、集中スペースを意図するゾーニングで、その場所をワーカーが利用した場合、ワーカー自身が確かに集中できたという実感が得られるとか、心理生体作用として集中をしていたことを示唆する指標・データが得られることである。ゾーニング効果の高いオフィス空間は、ワーカー自身の情動・動機に基づく意思などに対応し、設計主旨の異なるスペースをワーカー自身が選択するABWオフィスとして好適である。
【0025】
ゾーニング効果は、各グループの照度分布や、色温度の差、あるいは音響の音量やコンテンツの差が大きいほどその効果を高め易い。この手段によれば、什器・家具を用いることなく空間をゾーニングできるので空間の意匠性を高めやすく、かつ調光調色などの照明制御をデジタル化した場合、照明制御により瞬時にレイアウトを変化させるアクティブゾーニングが可能となるため、好ましい。さらに、デスクグループ1とデスクグループ2の間に、バッファ領域が存在する。この領域は、ワーカーが何か目的的に作業をすることを意図した空間ではなく、通常のオフィスでは通路などとして用いられる空間である。バッファ領域は、デスクグループ1とデスクグループ2のいずれに対しても、照明や音響を異ならせることで、デスクグループ1とデスクグループ2を隣接させるよりも、ゾーニング効果を高める効果を有する。バッファ領域の最大の幅は、とくに限定されないが、0.5m~5mの範囲であればオフィス空間の機能密度を保ちながらゾーニング効果も高めやすいので、好ましい。
【0026】
また、デスクグループ1とデスクグループ2は、それぞれワーカーに促す作業内容が異なり、例えば、本実施例のデスクグループ1では集中ワークを促し、デスクグループ2ではリラックスやコミュニケーションを促すことから、外観上のみならず、各空間の機能的な使われ方にも差がつくため、この効果もゾーニング効果に寄与するものである。
【0027】
そして、この手法によりゾーニングを行う場合、各シーンの切り替えは数秒で完了するため、結果としてオフィスのレイアウトを数秒で変更することが可能である。例えば、オフィスの繁忙日など集中スペースのニーズが高い日には、シーン1からシーン3に切り替えれば、オフィスの集中スペース席数が8席から14席に増席し、ワーカーの集中スペースのニーズを満たすことで、結果としてワーカーや組織のワークパフォーマンスを高め易くなる。あるいは、休閑日の場合は、シーン4に切り替えれば、集中スペースの席数が0席となり共創スペースが14席となるので、組織のストレス低減や、コミュニケーション量を高め易い効果がある。さらに、ある日の午前中の集中スペースの利用率を参考に、午後の集中スペース席数を昼休み中に調整することも可能である。本手法によれば、上記のような、什器・家具を用いる手法では困難な、時間毎、日毎、月毎などのサイクルでレイアウトを変化させるアクティブゾーニングが可能である。従来のオフィスシーンにとって、作業机や通路などの領域は、色温度や照度分布の均一性の高い照明を行うことが一般的であった。これに対し、本願はかような照明手法と制御方法を用いているので、とくにABWオフィスシーンにおいて、従来の照明の知見では予見しえなかった顕著な効果を実現できるのである。
【0028】
[2.音を用いたゾーニング]
再度、図1を参照して、環境制御システム10では、ダクトレール4に4つの第1~第4スピーカ9a~9dが取り付けられ、各スピーカ9a~9dを、無線でステレオ接続した。本実施例では、各スピーカ9a~9dを、LSPX-103E26(ソニー)で構成したが、スピーカは、それ以外の如何なるものを採用してもよい。また、第1スピーカ9aと第2スピーカ9bがスピーカ群1を構成し、第3スピーカ9cと第4スピーカ9dがスピーカ群2を構成するようにした。そして、スピーカ群1に所属する第1及び第2スピーカ9a,9bが同一の第1音声コンテンツを出力し、スピーカ群2に所属する第3及び第4スピーカ9c,9dが同一の第2音声コンテンツを出力するようにした。スピーカ群1に所属する第1及び第2スピーカ9a,9bは、デスクグループ1の領域に存在する人に音を出力し、スピーカ群2に所属する第3及び第4スピーカ9c,9dは、デスクグループ2の領域に存在する人に音を出力する。なお、スピーカ群1に所属するスピーカの数は、如何なる数でもよく、スピーカ群2に所属するスピーカの数も、如何なる数でもよい。また、スピーカ9として、指向性スピーカ、例えば、パラメトリック・スピーカー等を採用してもよい。パラメトリック・スピーカーでは、超音波が使われるため、音の出力方向に顕著な指向性を持たせることができる。
【0029】
係る構成で、例えば、デスクグループ1の上部にあるスピーカ群1から、小川のせせらぎの音を録音したサウンドコンテンツをスマートフォン経由で無線による制御信号をスピーカ群1に送信することで、再生した。同時に、デスクグループ2の上部にあるスピーカ群2から、ジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツを前述とは別のスマートフォン経由で再生した。ここで、デスクグループ1に属するデスクに着席すると、小川のせせらぎ音が聞こえ、ジャズやボサノバ音楽は、わずかに聞こえるばかりであった。一方、デスクグループ2に属するデスクに着席すると、ジャズ・ボサノバ音楽が聞こえ、小川のせせらぎ音は、わずかに聞こえるばかりであった。以上より、例えば、かような構成にすると、異なるデスクグループ単位で、異なるコンテンツをある程度選択的に提供可能であることが確認できた。
【0030】
なお、各スピーカ群1,2による再生は、スマートフォン以外の情報端末(例えば、タブレット、パーソナルコンピュータ等)を用いて実行してもよく、ABWオフィス20の壁面に設置された操作部を用いて実行してもよい。また、各スピーカ群1,2による再生は、無線信号による制御信号でなくて、有線による制御信号に実行してもよい。
【0031】
スピーカ群1,2による音の再生は、事前のシーン設定によるシーンの再現により行った。詳しくは、図2に示すように、各シーンにおいて各照明機器が出力する音の情報は、予め記憶部61d(図3参照)に格納しておいた。例えば、上述のシーン1を再生した場合、上述の照明光を出射すると同時に、スピーカ群1から小川のせせらぎ音を出力し、スピーカ群2からジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツを出力した。
【0032】
小川のせせらぎ音は、全周波数領域に強度をもつ、いわゆるホワイトノイズ、ブラウンノイズと呼称される音の特性に近い。この特性は、周波数対強度のフーリエ変換スペクトルとしてグラフで表現した場合において、全周波数領域に強度をもたないフーリエ変換スペクトルのグラフ、例えば、ピアノの特定の音階音の周波数対強度のフーリエ変換スペクトルのグラフとの比較において、グラフ中の音の周波数特性がブロードであると言及することができる。この特性をもつ音は、周波数領域に強度をもたない傾向のある音と比較して、様々な周波数を持ってデスクグループ1以外の場所から外来する集中ワークの効率を低めうるノイズ、例えば、物音、話し声等を、キャンセルし易いという顕著な作用効果を有する。したがって、デスクグループ1で作業するワーカーは、外来のノイズが聞こえにくくなる。よって、デスクグループ1のゾーンをよりワーカーが作業に集中し易くて作業に没頭し易い領域にできる。つまり、本開示において集中制御領域の効果をさらに高める効果を有する。
【0033】
集中ワークの効率を高めうるサウンドのコンテンツとして、前述のホワイトノイズ、ブラウンノイズと呼称される特性に近いものが好適であるが、特にこの限りではない。例えば、小鳥のさえずり音、森の葉擦れ音、海の波音など自然環境音を主体とするものでも良いし、音楽用シンセサイザーなどで波形合成される電子音を主体に構成される音楽であっても良い。サウンドコンテンツは、自然音をそのまま録音したものでも良いし、人間が作曲したものでも良いし、コンピュータアルゴリズムやAIや人工知能が作曲したものでも良い。サウンドコンテンツは、以上の多種のサウンドがミックスされたものでも良い。
【0034】
一方、デスクグループ2の存在領域には、ジャズやボサノバの音楽を録音したサウンドコンテンツの出力に加えて、シーン1が再生されることになるので、実施例1で説明したように、色温度が低い照明光の照射に基づく、リラックス感や複数人による円滑なコミュニケーションを促進させ易い効果と、ジャズやボサノバ音楽によるリラックス感や複数人での円滑なコミュニケーションを促進させ易い効果が重畳することになる。したがって、その重畳による相乗効果でデスクグループ2のゾーンを、ワーカーが各段にリラックスできて複数人での円滑なコミュニケーションも各段に図り易い領域にできる。つまり、本開示において非集中制御領域の効果をさらに高める効果を有する。
【0035】
ジャズ・ボサノバ音楽は、前述のホワイトノイズやブラウンノイズと比べて、周波数対強度のフーリエ変換スペクトルのグラフにおける音の周波数特性がブロードでないという特性をもつ。これは、ジャズやボサノバを主体的に奏でるピアノ、サックス、ベースなどの楽器が、特定の単一音階、すなわちド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ドおよびその半音階の音を出力するように厳密的にチューニングされた状態で使用されることに起因する。したがって、前述の外来ノイズに対するノイズキャンセルの機能は、乏しくなり易いが、そもそもリラックスや複数人でのコミュニケーションを行うことを意図とする共創スペースには、ノイズキャンセルの機能に対するニーズは希薄であるため、ノイズキャンセルの機能を乏しくしても大きな弊害が生じることはない。
【0036】
更には、ジャズやボサノバなどは、カフェやリラクゼーション施設において好んで提供されているサウンドコンテンツであり、リラックスや複数人での円滑なコミュニケーションを促進させる場合に頻繁に用いられている。したがって、そのことからも明らかなように、これらのサウンドコンテンツを用いれば、ワーカーがリラックス感や安らぎ感を感じることができ、円滑なコミュニケーションを実現させることができる。
【0037】
なお、リラックス感や複数人による円滑なコミュニケーションを促進できるサウンドのコンテンツとして、ジャズやボサノバと呼称される特性に近いものを採用すると好適であるが、特にこの限りではない。例えば、リラックス感や複数人による円滑なコミュニケーションを促進できるサウンドのコンテンツとして、クラシック音楽、ヒーリング音楽、自然環境音等を採用してもよい。そのようなサウンドコンテンツは、自然音をそのまま録音したものでも良いし、人間が作曲したものでも良いし、コンピュータアルゴリズムやAIや人工知能が作曲したものでも良い。サウンドコンテンツは、以上の多種のサウンドがミックスされたものでも良い。
【0038】
[3.照明光によるゾーニングと、音によるゾーニングの相乗効果]
本実施例では、照明制御とサウンド制御は連動し、各デスクグループ1,2に支配的に提供されうる照明およびサウンドコンテンツの主旨が一致する。詳しくは、例えば、シーン1が再現された場合、デスクグループ1の領域では、上述した人が集中力を発揮し易い照明光が照射され、更には、スピーカ群1が集中ワークの効率を高め易い小川のせせらぎ音を出力する。したがって、デスクグループ1の領域では、照明による集中ワークの効率を高め易い効果と、音による集中ワークの効率を高め易い効果を重畳させることができ、その重畳の相乗効果によって、デスクグループ1の領域を、集中ワークの効率を各段に高め易い領域に変えることができる。
【0039】
他方、デスクグループ2の領域では、上述した人がリラックス感や複数人でのコミュニケーション量を高め易い照明光が照射され、更には、スピーカ群2がリラックス感や複数人での円滑なコミュニケーションを促進させ易いジャズやボサノバを出力する。したがって、デスクグループ2の領域では、照明によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果と、音によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果を重畳させることができ、その重畳の相乗効果によって、デスクグループ2の領域を、リラックス感を各段に感じやすくて、コミュニケーションも格段に取り易い領域に変えることができる。よって、各デスクグループ1,2の領域が意図する主旨の効果を顕著なものにできる。
【0040】
なお、照明制御とサウンド制御が連動する場合、厳密にその動作が同期している必要はなく、例えば照明のシーン切替えの開始時間もしくは終了時間と、サウンドコンテンツの切替えの開始時間もしくは終了時間が、多少ずれていても、前述の作用効果は失われない。また、そのようなずれが生じている場合において、照明のシーン切替えの開始時間もしくは終了時間と、サウンドコンテンツの切替えの開始時間もしくは終了時間においてずれた時間は、如何なる時間でもよいが、30分以内であると好ましく、10分以内であるより好ましく、1分以内であるとさらに好ましく、10秒以内であると最も好ましい。当該ずれた時間が30分以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して十分早く、かつ省労力でレイアウト変更を達成できる。
【0041】
[環境制御システム10の全体概要と、各主要構成の詳細な説明]
次に、環境制御システム10の全体概要と、各主要構成の詳細な説明を行う。詳しくは、先ず、環境制御システム10の全体概要について説明し、その後、位置情報及び機器識別情報と、環境制御システム10が備える各構成について詳細に説明する。なお、サウンドコンテンツに関しては、上で詳細に説明したので、説明を省略する。
【0042】
<環境制御システム10の全体概要>
図3は、環境制御システム10の主要構成を示すブロック図である。図3に示すように、環境制御システム10は、ベースライト3、スポットライト5、及びマルチマネージャーで構成される制御装置61の他、操作部64を有し、制御装置61は、制御部61aと、調光調色信号送信部61bと、音信号送信部61cと、記憶部61dを含む。制御装置61は、コンピュータ、例えば、マイクロコンピュータによって好適に構成され、制御部61a、すなわち、プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。また、記憶部61cは、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリや、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリで構成される。CPUは、記憶部61dに予め記憶されたプログラム等を読み出して実行する。また、不揮発性メモリは、制御プログラムや所定の閾値等を予め記憶する。また、揮発性メモリは、読み出したプログラムや処理データを一時的に記憶する。記憶部61dには、事前に設定された1以上のスポットライト5及び複数のベースライト3の夫々に関する位置情報及び機器識別情報が記憶されている。また、記憶部61dには、上述のシーン1からシーン4を再現する調光調色のデータが記憶されている。また、記憶部61dには、上述のシーン1からシーン4の夫々で、スピーカ群1,2から出力されるコンテンツ及び各スピーカ9が出力するコンテンツの音量が記憶されている。制御装置61の音信号送信部61cは、複数のスピーカ9に音情報を含む信号を出力する。
【0043】
なお、環境制御システム10の音制御部は、如何なる情報機器に内蔵されていてもよく、例えば、パソコン、タブレット、スマートフォン、シングルボードコンピュータ等に内蔵されていてもよい。また、図1に示す実施例では、8つの作業机D07~D014がデスクグループ1に所属し、6つの作業机D01~D06がデスクグループ2に所属したが、デスクグループ1やデスクグループ2に所属する作業机の数は、実施例の場合に限らない。また、照明グループの数も実施例のように3つに限らず、2以上の如何なる数の照明グループが存在してもよい。
【0044】
(情報について)
<位置情報>
位置情報とは、空間における実際の位置など座標の絶対値に類するような情報であっても良いし、あるスポットライトやベースライト、あるいは空間に既設の柱などを基準にした相対的な位置関係の情報でも良い。また、記憶部61cに格納される位置情報は、実際に設置されたスポットライトやベースライトの位置や位置関係を完全に再現できる必要はなく、一部のみ再現(定義)できる情報でもよい。また、位置情報は、ユーザの入力によって記憶部に記録されても良いし、AIやコンピュータのアルゴリズムによって記録されても良い。また、位置情報は、別途記憶部などに保存された図面データを参照にしたり、関連付けられながら設定・記録されてもよい。また、位置情報は、環境制御システムに含まれる全ての機器に付与もしくは関連付けられている必要はなく、ユーザの事情に応じて適宜選択可能でもよい。
【0045】
<機器識別情報>
機器識別情報とは、スポットライトやベースライトの機器が識別できる情報であり、例えば、製造ナンバー、MACアドレス、IPアドレス、品番等で構成される。機器識別情報は、前述の位置情報や、グループ、シーンを設定・記録する際、あるいは機器の出力パラメータ(調色率・調光率など)を個別に設定・記録する際など、各機器が環境制御システムの中で、異なる機器が意図せずに同一のものと判断されないように用いられる。機器識別情報は、環境制御システムに含まれる全ての機器に付与もしくは関連付けられている必要はなく、付与もしくは関連付けられる機器はユーザの事情に応じて適宜選択可能である。
【0046】
(各構成の具体的な態様)
<タスクライト>
タスクライトの機器形態は特に限定されるものではなく、タスクライトとしては、上述のスポットライト5の他、デスクライト、ダウンライト等を採用可能であるが、タスクライトとして、スポットライトのように特定領域に光を集めるような配光制御がなされたものであると、作業机の照明範囲を制御しやすいため好ましい。より詳しくは、スポットライト5は、人が外力を付与することでスポットライト5の照射方向を調整する構造を有してもよく、リモコンで二つの回転軸をモータ等で自在に回転させることで、スポットライト5の照射方向を下方のいずれの方向にも自動で調整できる構造のものでもよい。少なくとも1つのスポットライト5が、設置位置において照明光の出射方向をいずれの方向にも変更可能であると、集中スペースにおける長手方向の作業机間の隙間の自由度を高くできると共に、集中スペースにおける幅方向の作業机間の隙間の自由度も高くでき、集中スペースのレイアウトの自由度を高くできる。また、少なくとも1つのスポットライト5が、スポットライト5の照射方向をリモコンで自在に調整できる場合、脚立等を用いずに地上から安全にスポットライト5の照射方向を調整できる。更に述べると、上述のように、タスクライトとして、調光調色式のスポットライトを採用すると好ましい。
【0047】
タスクライトは、作業者の作業、例えばパソコン操作作業、筆記作業、読書作業などの作業効率を高めるための照明であり、作業机の視対象領域に選択的に照射される照明である。視対象領域とは、作業机で作業をする際、一般的に視野に入り得る領域であり、例えば作業机の中心の奥側にパーソナルコンピュータ(以下、単にパソコンという)を置いて操作をする場合は、作業机の中央部が視対象領域の中心である。このとき、生理的要因であったり偶発的に生じる体勢や目線変化による視対象の変化は勘案しない。つまり、一時的な考え事や背伸びのために天井を見上げたり、壁際に目線を移したり、くしゃみや咳で床に目線を移したり、誰かに話しかけられたため目線を移したり、といった事象は、作業机D01~D14における視対象領域の有意な変化として考慮しない。
【0048】
タスクライトの照明範囲は、視対象領域の一部に限定されていることが好ましく、例えば、作業机の面積に対して30%~90%が照明範囲であることが好ましい。タスクライトの照明範囲は、特に限定されるものではないが、略円形もしくは略多角形であることが好ましい。このようにすることで、視対象領域の明るさが、視対象領域ではない領域の明るさに対して明るくなり、周辺視野の認知的なノイズが低減する。よって、ワーカーの意識が、作業机側に向き、作業効率を高め易い。
【0049】
ここで、照明範囲とは、作業机に到達する単位面積あたりの光量の最大値が半減する位置として算出可能であり、一般的には半値幅とよばれる範囲である。照明範囲は、公知の照度計を用いることで測定及び算出が可能である。タスクライトの色温度は、特に限定されるものではないが、4000K~6500Kであれば、認知上集中力を高め易くて好ましい。
【0050】
<ベースライト>
ベースライトは室内の明るさを高めるための照明であり、室内を均一的に照射する照明である。ベースライトの配光分布は、室内を均一に照射するためにスポットライトと比べて広範囲であることが好ましい。ベースライトの色温度は特に限定されるものではない。ベースライトは調光調色式であることが好ましい。ベースライトの機器形態は特に限定されるものではなく、シーリングライト、ラインライト、ペンダントライト、スポットライト、ライトバーなど任意のものを使用可能である。
【0051】
<スピーカ>
如何なるスピーカが用いられてもよいが、スピーカ9として、指向性スピーカ、例えば、パラメトリック・スピーカ等を採用されると好ましい。パラメトリック・スピーカでは、超音波が使われるため、音の出力方向に顕著な指向性を持たせることができる。各スピーカが出力した音が主に到達することを想定したデスクの数は、如何なる数でもよく、一つのみでもよく、2以上でもよい。
【0052】
<制御装置>
制御装置61は、タスクライトや、ベースライトを制御するための装置である。ここで、制御には、ON・OFF制御や調光調色制御が含まれる。制御装置61の機器形態は特に限定されるものではないが、制御装置61の機器形態としては、例えば、上述の照明制御デバイスおよび照明制御デバイスの制御アプリケーションを好適に採用できる。デバイスの制御アプリケーションは、図3に例示するタブレットの他、パソコン、スマートフォン等の別端末にインストールされていてもよく、この場合、ユーザにとって照明制御デバイスの設定・管理・運用がしやすいため好ましい。
【0053】
図3に示す例では、制御装置61が、タブレット60に内包されているが、制御装置は、必ずしもタブレット等の操作端末に内包されている必要はなく、図4に示すように、環境制御システム70の制御装置71は、タブレット72等の操作端末とは別の端末やデバイスであってもよい。ここで、制御装置71は、その筐体が天井や壁面に埋め込まれる態様であってもよいし、地面や収納棚などに据置きされていてもよい。また、制御装置71は、タブレット72等の情報端末と有線で信号通信をして制御されても良いし、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)など無線で信号通信をして制御されても良い。この場合、図4には特に図示することはないが制御装置71に通信用の信号線を結線するためのポートや無線LANのアクセスポイントを有する通信装置が含まれていても良い。さらに、このとき、タブレット72などがスポットライト5やベースライト3と直接通信を行なわなくても良い。このとき、タブレット72の操作部75を使って設定したマッピング、シーン、グループ、制御スケジュール等、環境制御システム70を構成する器具の位置や制御条件の情報を、制御装置71へ送信し、制御装置71の記憶部76へ記録してもよい。この場合、タブレット72の電源をオフにした状態であったり、タブレット72をスポットライト5やベースライト3との通信範囲外の場所へ保管した場合でも、意図した環境制御を行うことができる。また、制御装置71は、液晶ディスプレイのような操作用のユーザーインタフェースを有していなくても良い。この場合、制御装置71は、小型化しやすくなり、設置容易性や意匠性が高まるので好ましい。なお、図4には、特に図示することはないが、タブレット72等の操作端末は、記憶部を有していても良い。また、特に図示することはないが、制御装置71は、照明制御とスピーカ制御の系列別に、別々の端末であってもよい。例えば、照明制御の系列の制御装置はマルチマネージャー、スピーカ制御の系列の制御装置はスマートフォン、のような形態でも良い。また、図4に示す環境制御システム70は、図3に示す環境制御システム10の変形例であるが、図4に示す環境制御システム70以外で実現可能で着想容易な態様の変形例の環境制御システムが多数存在することは明らかである。
【0054】
<調光調色信号送信部>
調光調色信号送信部61bとは、タスクライト、及びベースライトに調光調色信号を送信し、調光及び調色の少なくとも一方を実行させる部分であり、制御装置61に含まれるものである。信号形式は特に限定されるものではなく、公知の調光信号、Wi-Fi、BlueTooth(登録商標)など任意のものが使用可能である。なお、上述の調光調色制御では、デジタル制御方式の調光調色制御について説明し、ライトコントロールからデジタル信号(PDCL)を送信する制御方式について説明した。ここで、この制御方式では、電源線に加え、デジタル制御用の信号線の配線が必要となる。このデジタル制御では、詳細情報の通信が可能である為多くの情報を用いた制御を行うことが可能になり、無線信号による制御もこの方式に含まれる。
【0055】
しかし、調光調色制御を行うに際し、位相制御方式を採用してもよく、照明機器への電力を直接調節することで調光制御を実行してもよい。この方式では、照明機器への電源電流を直接制御するため、電圧変動の影響を受けやすいものの、専用信号線を別途引く必要が無いため、施工性に優れる。又は、調光調色制御を行うに際し、信号線式方式を採用してもよく、ライトコントロールから調光信号(デューティ信号)を送り、機器側の電源ユニットでLED等の発光部の明るさを制御してもよい。この方式では、電源線に加え、調光信号線の配線が必要になるが、電線電圧の影響を受けにくい為、チラツキのないスムーズな調光制御が可能になる。なお、タスクライトやベースライトのON・OFFのみの制御も、調光制御に含まれる。
【0056】
<音信号送信部>
音信号送信部61cとは、スピーカ9に音制御信号を送信し、コンテンツの変更やスピーカが出力する音の音量を適切に変更させる部分であり、制御装置61に含まれるものである。信号形式は特に限定されるものではなく、公知のWi-Fi、BlueTooth(登録商標)など任意のものが使用可能である。
【0057】
<記憶部>
記憶部を構成するデバイスは、公知の如何なるものが採用されてもよい。また、記憶部は、図3に示す構成と異なり制御装置の内部に組み込まれていなくてよく、例えば、制御装置を含む情報端末とは別の情報端末、例えば、スマートフォン、タブレット、又はパソコン等、若しくは、クラウド上のサーバーやワークステーション、若しくは、外付け記憶媒体等で構成されてもよい。記憶部は、ユーザが基本設定するが、クラウドやAIで機械が書き換えて設定してもいい。
【0058】
<複数機器のグループ情報>
複数の照明機器のグループ情報は、例えばアプリケーションで管理される。グループ化は、例えば、タブレット端末を操作することで、設定・保存されてもよい。グループ化された複数機器には、同じ命令が一斉に飛び、例えば、同様の調光調色制御が施される。なお、グループ化された複数機器の調光調色制御、すなわち群制御に関し、信号遅延は許容され、機器の動作のばらつきも許容される。たとえば、許容される機器の動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、グループ化されている複数機器の挙動に含まれる。機器の動作ばらつきが上記時間以内である場合、一般的な什器や家具の運搬や再設置を伴うレイアウト変更に比較して十分早く、かつ省労力でレイアウト変更が達成し易いため好ましい。グループの設定は、制御装置を操作するアプリケーションの機能として含まれている場合もあるが、必ずしも「グループ」という名称で定義されるとは限らない。制御装置を操作するアプリケーションあるいは制御装置に含まれる記憶部に、グループの設定をしておくと、ユーザにとって照明やその制御パラメータの管理・変更がし易くなるため好ましい。
【0059】
<制御シーン情報>
複数の照明機器に対して、各機各様の調光率・調色率などの制御パラメータを設定し、再生することは、ユーザにとって大変煩雑な作業である。なぜなら、一般的なABWオフィスでは、照明機器を10台以上、ないしは30台以上、多い場合であれば100台以上使用するためである。そこで、複数の照明機器の制御パラメータを一括で記憶部に格納し、管理する手法が知られており、これを本願ではシーンと呼称する。このようにすることで、ユーザにとって、複数の照明機器に対する制御パラメータの条件の管理がしやすいだけでなく、所望のタイミングで、瞬時にそれらの条件を複数の照明機器へ反映させること(以下、再生と呼称する)も容易となるため、好ましい。さらに、ユーザは、複数種類のシーンをあらかじめ記憶部に格納しておくことによって、意図した2つ以上の設定条件を瞬時に切り替えることが可能である。各シーンの設定は、使用ニーズによって、如何なるように設定されてもよく、例えば、図2に示す例とは異なり、例えば、シーン1に10台のベースライトの調光率を100%に設定し記憶部に保存し、さらにシーン2に前述の10台のベースライトの調光率を30%に設定し記憶部に保存してもよい。そして、シーン1を再生すれば、瞬時に10台のベースライトの調光率が100%に設定された状態に遷移するし、この状態からシーン2を再生すれば、瞬時に10台のベースライトの調光率が30%に設定された状態に遷移するようにしてもよい。このようにすると、毎回10台の照明機器の調光率を設定し直す作業より、はるかに短時間かつ省労力で多数の照明機器の調光制御を実現できて好ましい。なお、シーンの設定は、制御装置を操作するアプリケーションの機能として含まれている場合もあるが、必ずしも「シーン」という名称で定義されるとは限らない。また、各シーンの設定は、次のようにグループ1、2のシーンを設定してもよい。例えば、シーン1では、グループ1:調光率0%、グループ2:調光率50%に設定されてもよく、シーン2では、グループ1:調光率50%、グループ2:調光率0%に設定されてもよい。このようにシーンを設定すれば、ワーカーが集中し易いゾーンと、ワーカーがリラックスし易くて他のワーカーとコミュニケーションをとり易いゾーンとを瞬時に交換させることができ、二つのゾーンの規模が異なる場合に、ニーズによって、各ゾーンの規模を瞬時に変更させることができる。なお、シーン化された複数機器の調光調色制御、すなわち群制御に関し、信号遅延は許容され、機器の動作のばらつきも許容される。たとえば、許容される機器の動作のばらつきは30分以内であり、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、最も好ましくは10秒以内であり、この範囲に収まる信号あるいは命令の遅延は、シーン化されている複数機器の挙動に含まれる。
【0060】
(一試験例によるゾーニングの効果の評価)
本発明者は、上述の照明光の照射とサウンドコンテンツの出力を行ってシーン1を再現してゾーニングを行った。そして、領域の分断効果、すなわち、ゾーニングの評価を行った。次に、その一試験例の結果について説明する。
【0061】
<シーン1における空間の照度および音量の評価結果>
シーン1における空間の照度および音量の一試験結果について説明する。図5は、シーン1を再現しているときに各照明機器3,5が照射している照射光の情報と、各スピーカ9a~9dが出力している音の情報とを説明する模式図である。また、図6は、ABWオフィス20において、シーン1を再生したときに、デスクD12からD03を横断するように配置した照度計(CL-200:コニカミノルタ)および騒音計(SD-2200:FUSO)で空間の照度および音量を測定したときの一試験例の結果を示すグラフである。
【0062】
図6において、y1は、照度に関する関数であり、y2は、音量に関する関数である。また、上述の説明のように、本開示では、集中制御領域を次のように定義する。本実施例のように、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する2以上の机が連続して隣り合うように配置されている場合、鉛直方向を含む平面で、上記2以上の机のうちで少なくとも1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している1以上の机における1以上の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、集中制御領域として定義する。また、本実施例とは異なり、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する机が連続して隣り合うように配置されていなくて、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が大きくなる上面を有する机が一つで孤立している状態になっている場合、その1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している机の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、集中制御領域として定義する。
【0063】
また、非集中制御領域を次のように定義する。本実施例のように、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する2以上の机が連続して隣り合うように配置されている場合、鉛直方向を含む平面で、上記2以上の机のうちで少なくとも1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している1以上の机における1以上の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、非集中制御領域として定義する。また、本実施例とは異なり、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する机が連続して隣り合うように配置されていなくて、ベースライトの照度よりタスクライトの照度が小さくなる上面を有する机が一つで孤立している状態になっている場合、その1つの机に交差する任意の平面を考えたとき、その平面が交差している机の上面の一端から他端までの線分領域(鉛直方向から見たとき線分に見える領域)を、非集中制御領域として定義する。
【0064】
また、バッファ領域は、集中制御領域と非集中制御領域の間にある領域として定義する。公知の照度計や騒音計を用いることによって、複数の照明器具やスピーカによってゾーニングがなされた空間において、集中制御領域と非集中制御領域とバッファ領域と、を明確に判定・定義することが可能である。また、本開示の評価方法においては、オフィスの典型的な什器である机を実物的に用いて評価を行ったが、必ずしも机を実物的に用いる必要はない。例えば、所定の高さが設定された仮想面の照度や色温度や音量などを評価し、前述の集中制御領域と非集中制御領域とバッファ領域の判定を行うこともできるし、仮設置の板などで判定を行うこともできる。かかる方法によれば、いわゆるワーカー作業用の机だけではなく、会議用の長机、コミュニケーション活動用の円卓、瞑想用の絨毯や畳、仮眠用のベッドやソファーなど、ABWオフィスの空間設計の主旨に応じて、いかなる家具・什器の前提においても本開示の環境制御システムはゾーニング効果を高める作用を普遍的に発現しうるものである。すなわち、前述評価で用いた集中制御領域は、机(デスクの一端から他端で定義したが、机が存在しない場合においても、集中制御領域、非集中制御領域、及びバッファ領域は、定義可能である。例えば、集中制御領域や非集中制御領域の定義は、円卓の一端から他端、絨毯や畳の一端から他端、ベッドやソファー一端から他端などで定義してもよく、それらの領域の判定に、任意の判定方法を適用可能である。なお、机、会議用の長机、コミュニケーション活動用の円卓、瞑想用の絨毯や畳、仮眠用のベッドやソファーは、全て、「所定の水平領域を画定する物体」の下位概念として規定されることができる。
【0065】
したがって、本実施例では、図6において、D12エッジからD11エッジまでの範囲が集中制御領域となり、D04エッジからD03エッジまでの範囲が非集中制御領域となる。また、D11エッジからD04エッジまでの範囲がバッファ領域となる。図6に示すように、本試験例では、集中制御領域(デスクグループ1)と非集中制御領域(デスクグループ2)との間に設けられるバッファ領域(通路)に関し、照度及び音量が最も小さくなっている。また、バッファ領域内の平均照度が集中制御領域の平均照度及び非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、バッファ領域内の平均音量が集中制御領域の平均音量及び非集中制御領域の平均音量よりも下回っている。特に、照度に関しては、集中制御領域及び非集中制御領域の夫々の平均照度が、バッファ領域の平均照度の1.8倍以上となった。そして、そのバッファ領域の両側の集中制御領域と非集中制御領域で、異なる照明光の照射と異なるサウンドコンテンツの再現が実行される。また、集中制御領域では、デスク面で照度が局所的に急激に大きくなる照明光を実現できている。更には、集中制御領域では、人の集中を促進するサウンドコンテンツが大音量で再現されており、非集中制御領域では、人にリラックス感や安らぎ感を与えるサウンドコンテンツが集中制御領域で出力されている音量の半分程度の音量で出力されている。このことから、本試験例では、集中制御領域の周辺領域と、非集中制御領域の周辺領域とを明確に分離(分断)でき、優れたゾーニングを実現できている。また、集中制御領域の周辺領域と、非集中制御領域の周辺領域の夫々で再現されている照明光とサウンドコンテンツにより、集中制御領域の周辺領域を、人が特に作業に集中し易い優れた集中スペースとでき、他方、非集中制御領域の周辺領域を、人が特にリラックス感を感じ易くて複数人がコミュニケーションを行うことにも長ける優れた共創スペースにできる。
【0066】
なお、集中制御領域及び非集中制御領域の夫々の平均照度が、バッファ領域の平均照度の1.5倍以上であれば、明確に領域を分断できるゾーニングを実行でき、集中制御領域及び非集中制御領域の夫々の平均照度が、バッファ領域の平均照度の2倍以上であれば更に明確にゾーニングを実行できて好ましく、バッファ領域の平均照度の3倍以上であれば最も明確にゾーニングを実行できて好ましい。また、図6に示すように、集中制御領域の最大の音量が、バッファ領域の最低の音量の2倍以上の音量であって、非集中制御領域の最大の音量が、集中制御領域の最大の音量よりも小さくバッファ領域の最大の音量よりも大きければより明確にゾーニングを実行できて好ましい。
【0067】
これは、集中制御領域と非集中制御領域を連続的に隣接させるのではなく、それらの間に、それらの照度や音量より比較的低い領域を意図的に設けることで、集中制御領域と非集中制御領域の認知的な区切れ感や実際着席したときの実感をより顕著に大きく異ならせること、つまり、優れたゾーニング効果を発現せしめることを見出したことによるものである。従来のオフィスシーンにとって、作業机や通路などの領域は、色温度や照度分布の均一性の高い照明を行うことが一般的であった。これに対し、本開示はかような照明手法と制御方法を用いているので、とくにABWオフィスシーンにおいて、従来の照明の知見では予見しえなかった顕著な効果を実現できるのである。
【0068】
なお、本開示の一試験例においては、かような集中制御領域・非集中制御領域を意図してゾーニングの実施を行ったが、必ずしも夫々の領域がそのような意図に限定されるものではなく、例えば会議領域、仮眠領域、など他の行動目的を意図とした空間に適用されてもよい。この場合、夫々の行動目的に対して好適な作用を有する照明条件や音響条件が選択されることが好ましい。適用される領域の種別が何であれ、前述のバッファ領域を設けることによる、ゾーニング効果への好適な効果作用が普遍的に発現しうることは自明である。
【0069】
また、本開示の実施例において、図6記載のy1のグラフにおいて、集中制御領域と非集中制御領域で、照度分布の特性が大きく異なっている点も特徴であり、すなわち、非集中制御領域では、台形型のグラフを描くような分布であることに対し、集中制御領域では、鋭いピークを2つ有するグラフを描くような分布である。この極端な差異は、特にこの空間の外観的な認知に大きく寄与し、前述のゾーニング効果を顕著に高めるものである。また、集中制御領域および非集中制御領域で、ベースライト3もしくはスポットライト5の色温度を異ならせる制御を用いても良い。この場合、外観的な認知に寄与し、前述のゾーニング効果を高めやすい。
【0070】
(本開示の環境制御システムの構成及び作用効果)
以上、環境制御システム10における制御、及び各構成の具体的な態様について説明した。本項目では、上述の説明から明らかになった、環境制御システム10の必須の構成とその作用効果、及び採用すると好ましい構成とその作用効果について説明する。
【0071】
<必須の構成とその構成から導かれる作用効果>
環境制御システム10は、複数の机D01~D14が配置されているABWオフィス(室)20内における机D01~D14の上面を照明するための1以上のスポットライト(タスクライト)5と、ABWオフィス20内において上記上面よりも広範囲な領域を照明するための1以上のベースライト3と、ABWオフィス20内に音を出力する1以上のスピーカ9と、制御装置61を備える。ここで、環境制御システム10が、複数のタスクライト(スポットライト5)、複数のベースライト3、及び複数のスピーカ9を備えると好ましい。また、制御装置61は、ベースライト3の照度よりスポットライト5の照度が大きくなる集中制御領域とベースライト3の照度よりスポットライト5の照度が小さくなる非集中制御領域とがバッファ領域を間に挟んだ状態で生じるように、1つ以上のスポットライト5及び1以上のベースライトを調光・調色制御するゾーニング制御を行う。そして、そのゾーニング制御では、バッファ領域内の平均照度が集中制御領域の平均照度及び非集中制御領域の平均照度よりも下回ると共に、バッファ領域内の平均音量が集中制御領域の平均音量及び非集中制御領域の平均音量よりも下回っている。なお、環境制御システムは、1つのみの制御装置を備えてもよく、2以上の制御装置を備えてもよい。
【0072】
したがって、上で詳細に説明したように、集中制御領域を、非集中制御領域と分断でき、しかも、集中制御領域を、作業に集中し易い優れた集中スペースとでき、非集中制御領域の周辺領域を、人が特にリラックス感を感じ易くて複数人がコミュニケーションを行うことにも長ける領域にできる。
【0073】
<選択すると好ましい複数の構成と、その各構成から導かれる作用効果>
ゾーニング制御において、集中制御領域内で最大の音量で出力されている音のコンテンツが、非集中制御領域内で最大の音量で出力されている音のコンテンツと異なってもよい。こうすることで、よりゾーニング効果を高めることができる。また、各領域で用いられる音波波形のデータをフーリエ変換することで得られる、コンテンツの周波数特性を比較することで、コンテンツが異なっているかどうかを判定することが可能である。なお、本開示の音の出力は、人に好みの音楽を提供して、人のパフォーマンスを改善させるものではなく、イヤホンやヘッドフォンを用いて人に音を提供してはいけない。イヤホンやヘッドフォンを用いて人に音を提供しても、領域を分断させることができないからである。
【0074】
本構成によれば、集中制御領域で、ホワイトノイズ、ブラウンノイズと呼称される音の特性に近い、小川のせせらぎ音やテレビの砂嵐の音等のコンテンツを出力することで、集中制御領域を、更に作業に集中し易い領域にできる。また、非集中制御領域で、リラックス感や複数人での円滑なコミュニケーションを促進させ易いコンテンツ、例えば、ジャズやボサノバ音楽等を出力することで、非集中制御領域を、人が更にリラックス感を感じ易くて複数人がコミュニケーションを行うことにも長ける領域にできる。
【0075】
また、上記ゾーニング制御において、集中制御領域内で最大の音量で出力されている音における高速フーリエ変換におけるスペクトル幅が、非集中制御領域内で最大の音量で出力されている音における高速フーリエ変換におけるスペクトル幅よりも広くてもよい。ここで、スペクトル幅とは、スペクトル線の波長又は周波数の広がり幅のことを言い、強度が、最大値に比べて、ある所定の幅(例えば、1/2、1/10等)に低下する二つの波長間の波長の差であり、周波数で表してもよい。スペクトル幅を、スペクトル半値幅(光出力のスペクトル分布において、相対放射強度が、ピーク値の50%になる波長の幅)で定義してもよい。
【0076】
本構成によれば、照明による集中ワークの効率を高め易い効果と、音による集中ワークの効率を高め易い効果を重畳させることができ、その重畳の相乗効果によって、集中制御領域を、集中ワークの効率を各段に高め易い領域に変えることができる。また、非集中制御領域では、照明によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果と、音によるリラックス感やコミュニケーションを高め易い効果を重畳させることができる。よって、その重畳の相乗効果によって、非集中制御領域を、リラックス感を各段に感じやすくて、コミュニケーションも格段に取り易い領域に変えることができる。
【0077】
また、集中制御領域及び非集中制御領域の夫々の平均照度が、バッファ領域の平均照度の1.8倍以上でもよい。なお、本開示では、集中制御領域と非集中制御領域を、鉛直方向を含む平面で、かつ1以上の机に交差する任意の平面を用いて定義した。ここで、集中制御領域及び非集中制御領域の夫々の平均照度が、バッファ領域の平均照度の1.8倍以上であるという要件は、その要件を満たすような上記平面が少なくとも一つ存在すれば充足されるものとする。
【0078】
本構成によれば、バッファ領域による集中制御領域と非集中制御領域との領域分断効果を顕著なものにできる。
【0079】
[変形例等]
環境制御システムは、室内の人の位置情報、人の入退室情報、日時に対する情報、室内の人のバイタル情報、人の動きを検知するための加速度計の加速度情報、ID情報、室内に含まれるスペースの利用状況情報、室内に含まれるスペースの予約情報、室の温度情報、室の湿度情報、室内を照らす照明光の照度情報、室内に出力された音の音響情報、及び室内に含まれるスペースの利用状況の学習に基づく利用評価情報のうちの1以上を検知するための検知部を備えてもよい。また、環境制御システムは、その検知部の情報を記憶する検知情報記憶部と、その情報を分析する検知情報分析部と、を更に備えてもよい。そして、検知部の情報及び検知情報分析部の情報のうちの少なくとも一方を用いて、調光・調色が制御されてもよい。
【0080】
又は、環境制御システムは、室内の人の位置情報、人の入退室情報、日時に対する情報、室内の人のバイタル情報、人の動きを検知するための加速度計の加速度情報、ID情報、室内に含まれるスペースの利用状況情報、室内に含まれるスペースの予約情報、室の温度情報、室の湿度情報、室内を照らす照明光の照度情報、室内に出力された音の音響情報、及び室内に含まれるスペースの利用状況の学習に基づく利用評価情報のうちの1以上を検知するための検知部を備えてもよい。また、環境制御システムは、その検知部の情報を記憶する検知情報記憶部と、その情報を分析する検知情報分析部と、を更に備えてもよい。そして、検知部の情報及び検知情報分析部の情報のうちの少なくとも一方を用いて、サウンドコンテンツの制御スケジュール、及び音量のうちの少なくとも一方が制御されてもよい。
【0081】
例として、このうちの2つの場合のより詳しい説明を行うと、例えば、上述の実施例において、更に、全方位カメラがABWオフィス20における出入口付近の上方に設置されてもよい。そして、図7(a)に示す制御のフローチャートのように、制御装置61は、ABWオフィス20に環境制御システム10が設置されて駆動した時、ステップS1で全方位カメラからの無線又は有線による信号に基づいて、ABWオフィス20内の人の数が所定人数以上か否かを判定してもよい。
【0082】
そして、ステップS1で否定判定すると、ステップS2に移行して、図2に示すシーン1を再現する一方、ステップS1で肯定判定すると、ステップS3に移行して、図2に示すシーン3を再現し、その後、制御がリターンとなって、ステップS1以下が繰り返されてもよい。
【0083】
本制御によれば、例えば、オフィスの繁忙日など集中スペースのニーズが高い日に、シーン3を自動的に再現できて、オフィスの集中制御領域の席数を8席から14席に増席でき、ワーカーの集中スペースのニーズを満たすことで、結果としてワーカーや組織のワークパフォーマンスを高めやすくなる。
【0084】
また、上述の実施例において、更に、制御装置61の記憶部61cに、各スポットライト5及び各ベースライト3における所定期間(日時)の調光制御に関する光制御情報が記憶される記憶部を備えてもよい。そして、制御装置61が、その光制御情報に基づいて各スポットライト5及び各ベースライト3の調光制御を実行してもよい。
【0085】
より具体的には、例えば、図7(b)に示す制御のフローチャートのように、制御装置61は、ABWオフィス20に環境制御システム10が設置されて駆動した時、ステップS11で、内蔵するタイマからの情報に基づいて、所定期間であるか否かを判定してもよい。ここで、例えば、所定期間は、休閑日に設定できる。
【0086】
そして、ステップS11で否定判定すると、ステップS12に移行して、図2に示すシーン1を再現する一方、ステップS11で肯定判定すると、ステップS13に移行して、図2に示すシーン4を再現し、その後、制御がリターンとなって、ステップS11以下が繰り返されてもよい。
【0087】
本変形例によれば、休閑日の場合に、自動的にシーン4が再現される。よって、休閑日の場合に、集中制御領域の席数を0席にできると共に非集中制御領域を14席にできるので、組織のストレス低減を実現でき、コミュニケーションの量や質も高くできる。
【符号の説明】
【0088】
3 ベースライト、 5 スポットライト、 10,70 環境制御システム、 20 ABWオフィス、 61,71 制御装置、 61a 制御部、 61b 調光調色信号送信部、 61c 音信号送信部、 61d,76 記憶部、 9,9a,9b,9c,9d スピーカ。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7