(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】対向ピストン内燃機関
(51)【国際特許分類】
F01B 1/10 20060101AFI20230901BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20230901BHJP
F01L 1/04 20060101ALI20230901BHJP
F01L 1/14 20060101ALI20230901BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
F01B1/10
F02B75/32 C
F01L1/04 D
F01L1/14 Z
F02F11/00 Q
(21)【出願番号】P 2022100714
(22)【出願日】2022-06-06
【審査請求日】2022-07-04
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】522249338
【氏名又は名称】坂口 英二
(72)【発明者】
【氏名】坂口 英二
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04170978(US,A)
【文献】米国特許第02158532(US,A)
【文献】特開平03-246325(JP,A)
【文献】特開昭60-132030(JP,A)
【文献】特開昭58-122325(JP,A)
【文献】特開平05-163914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0055443(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01B 1/10
F02B 75/32
F01L 1/04
F01L 1/14
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
請求項2に記載の動弁機構においてカム接触ローラー9をカム接触球14とした請求項1に記載の対向ピストン内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は対向ピストンクランク機構を用いた内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
対向ピストンクランク機構は燃焼ガスの圧力を対向するピストンで運動エネルギーへ変換できる。従来の熱機関においてシリンダヘッドおよびその構成部品へ熱として逃げていたエネルギーを運動エネルギーとして回収するので熱効率向上につながる。しかし、対向ピストンクランク機構では従来機関が有するシリンダヘッドに当たる部分は対応側のピストンとなるため広く採用されているオーバーヘッド型動弁機構を形成できない。対向ピストン機構を構成するには従来内燃機関でシリンダヘッドが有する吸排気バルブ、点火プラグ、燃料噴射器の配置や構造を大きく変える必要がある。
【0003】
消費燃料削減に対し低回転での機関運転は時間当たりの燃焼回数を減らすので効果あるものになる。しかし、低回転での運転はピストン、コンロッドの不平衡慣性力に起因する振動が機関運転時の不快感や機関へのダメージにつながる。この不平衡慣性力に対しては対向するピストンやクランクやコンロッドを追加し対称配置することで往復運動を回転運動際に発生する慣性偶力を打ち消す方法が考案されている。しかし、構成部品が多くなり、対称性確保のための部品や部品間の高い寸法精度が必要で、機構も複雑なものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来機構では同一シリンダで吸気、圧縮、燃焼、膨張、排気の各工程を行っているため、各工程で必要な動弁機構や点火プラグ、燃料噴射器などの部品がシリンダヘッドに集中している。シリンダヘッドの無い対向ピストン機構の場合、これらの機器の効率的な配置が重要になる。
【0006】
コンロッド、クランクを対称に配置し、さらにそれらを対向に配置した慣性の均衡を図った機構は、機関の構成部品が持つ寸法ばらつきや部品間の寸法ばらつき、ギヤ隙間などによりピストンがコンロッドと連接する位置にずれが生じる。このずれはピストンの円滑な運動を妨げてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
吸気圧縮用のシリンダ1と膨張排気用のシリンダ2を平行に設ける。また、吸気圧縮用のシリンダ1と膨張排気用のシリンダ2の間に圧縮空気を導入密閉するための回転有孔円柱弁3と点火燃焼室4を設ける。吸気圧縮用のシリンダ1および点火燃焼室4は導入孔27を有す。回転有孔円柱弁3が開いた状態で吸気圧縮用のシリンダ1で圧縮された高圧の空気は導入孔27と回転有孔円柱弁3を通過し点火燃焼室4へ導入される。回転有孔円柱弁3は導入孔の外周を密閉する切れ目のないリング状のシール5およびシール6と回転有孔円柱弁3の円柱側面面の凹形状に配置されるリングシール20およびリングシール21により気密性を持たせる。シール5およびシール6は背面より板バネ22と潤滑油圧により円柱側面に密着させる。回転有孔円柱弁3は気密性確保と潤滑および冷却のため、リングシール20、リングシール21を保持するリング溝23を有する。溝内部に潤滑油供給孔24を有し、リングシール20、シールリング21へ潤滑油を供給する。点火燃焼室3には燃料噴射装置25と点火プラグ26を設定する。点火燃焼室4の燃焼室内で発生した燃焼ガスを膨張排気シリンダ2へ導入するための燃焼ガス噴出孔44を有する。必要時、多段燃料噴射に対応する場合は膨張排気用のシリンダ2に多段燃料噴射装置28を設定する。この機構による燃焼はクランク回転1に対し1回となり、出力確保に貢献する。
【0008】
吸気、排気の動弁機構のために、クランク軸と同期して回転する円柱の円盤面に凹凸形状をもつ円盤カム7を有する。この凹凸量は円周方向に加え直径方向にも凹凸形状をもつ。ロッカーアーム8は円盤カム7との接触点に接触ローラー9を有し、円盤カム7の凹凸応じてこの原理で揺動する。ロッカーアーム8を保持するロッカーアームホルダー11はロッカーアームを揺動運動させるときの支点の役割を果たすロッカーアームピン12を有し、吸気や排気の調整のため作動する入力ギヤ13に噛み合うギヤ形状を有しガイドレール29上を直線的に移動する。入力ギヤ13の作動により円盤カム7と接触ローラー9の接触点が移動し、円盤カムは直径方向でも凹凸量が変化しているので、これ従いロッカーアームの揺動量は変化する。同時にバルブ接触点と支点間距離も変化するので、これもバルブの移動量を変化させる効果を持つ。入力ギヤ13を操作することによりバルブ開閉量を変化させることができる。
【0009】
ピストンピンはピストンピン18およびピストンピン30に2分割され、ピン中心軸の両端に配置する。またコンロッド連接ピン17、コンロッド連接ピン32と接合する2つの円孔を有し、2つの対称配置されたコンロッド16、コンロッド31と連接する。コンロッドは同じく対称の配置クランク19、クランク35と連接する。ピストンピン18および30の外周は円形状でピストンに対し回転する。連接する2つのコンロッドはそれぞれ動力の出力軸まで伝達する過程で関連する部品が異なる部分があるため各部品の寸法ばらつきや機関内の歯車の寸法ばらつきなどでコンロッド連接ピン17と連接ピン31の位置にずれが生じるが、ピストンピン18,およびピストンピン30の回転によりこのずれを吸収し前述のばらつきの影響を最小限にする。
【発明の効果】
【0010】
回転有孔円柱弁3は回転動作にて圧縮空気の導入遮断を行うので、簡単な構造でかつわずかな動力損失で吸気圧縮用のシリンダ1と膨張排気用のシリンダ2の分離が可能となる。各シリンダは必要機関出力に対しそれぞれで最適な容積とすることができ、複雑な機構や制御を用いず吸気側、排気側の容積の設定が可能になり、燃焼効率向上につながる。また、クランク1回転あたり燃焼回数が1回となるので出力向上、低回転運転時の出力の脈動も軽減される。
【0011】
点火燃焼室4は球状の形状を取ることが可能になり、燃焼は理想的な火焔伝搬となる。未燃焼燃料を低減し、高出力、排気ガスの清浄化に貢献する。燃焼室は小型で簡素な構造となり、必要時この部分の材料を耐熱耐圧性材料や耐蝕性材料、高断熱材料へ置換することが容易にできるので、高温高圧燃焼や様々な燃料への対応が容易にできるようになる。
【0012】
可動支点式ロッカーアームの動弁機構はアクセル操作や、機関の負荷状況に合わせバルブの開閉タイミングとバルブのリフト量を変更でき、燃料消費低減と必要時の出力確保を両立する。シンプルでコンパクトな機構はシリンダ側面側にバルブ開閉機構の配置を容易にし、対向ピストンクランク機構の成立に貢献する。
【0013】
一つのピストンに対しコンロッドを複数持つ機関では各部品の寸法の許容差、内部ギヤの隙間などの要因でコンロッドのピストン連接ポイントに生じる位置ずれを生じるが、ピストンに対しピストンピン18、ピストンピン30が回転により吸収することでピストンはシリンダに対し前述のばらつきに影響なく従来機関同様に滑らかに直線運動できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】 本発明に関する機構配置概念図。シリンダ中心軸を縦にした図である。クランク角度はピストン上死点状態で、回転有孔円柱弁3の孔が吸気圧縮シリンダ2と点火燃焼室4の導通孔27と一致し圧縮気体を点火燃焼室4に導入している状態である。
【
図2】 回転円柱有孔弁3が開いた時の
図1におけるA―A断面図である。吸気圧縮シリンダ1により加圧された空気が点火燃焼室4に導入されている。黒線矢印は高圧空気の流れを表す。
【
図3】
図2の状態から工程が進んだ状態で、点火燃焼状態時の
図1におけるA―A断面図である。回転有孔円柱弁3は閉まり、燃料噴射装置25、点火プラグ26が作動し、点火燃焼の状態。黒線矢印は燃焼中の燃料を表す。
【
図4】
図3の状態から工程が進んだ状態で、吸気、膨張行程および多段燃料噴射時の
図1におけるA―A断面図。白抜きの矢印は吸気を表す。黒線矢印は燃焼中の燃料を表す。
【
図5】
図4の状態から工程が進んだ状態で、クランク角度はピストン下死点を通過し、圧縮、排気工程となった時の
図1におけるA―A断面図である。白抜きの矢印は排気を表す。この後、
図2に戻り、クランク1回転で1サイクルとなる。
【
図6】 回転有孔円柱弁、点火燃焼室の構成図。点火燃焼室は理解しやすくするため中心より半分を省略。
【
図7】 回転有孔円柱弁、点火燃焼室の分解図。点火燃焼室は理解しやすくするため中心より半分を省略。
【
図8】 動弁機構の構成図。円盤カム7はギヤ38と一体化させている。
【
図9】 カム接触ローラー9を使用時の動弁機構の分解図
【
図10】 カム接触球14を使用した時の動弁機構の分解図
【
図11】 バルブ開度が大ききなるクランク角度でかつカム接触ローラー9が円盤カム7の最も大きい凸部に接触している時の動弁機構図。
【
図12】
図11の状態に対し、入力ギヤ13の作動によりロッカーアームホルダー11が移動することでカム接触位置も移動し円盤カム7のカム突出量が少ないところでカム接触ローラー9が円盤カム7に接触している。
図11と同じクランク角においてバルブ開閉量が小さくなった状態の動弁機構図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は自動車や発電機などの内燃機関を用いる動力として実施が可能である。実施形態を以下の実施例で示す。
【実施例】
【0016】
図15および
図16に実施例を表す。構成を理解しやすくするためクランクケースとそれが形成するシリンダは省略している。吸気圧縮シリンダと膨張排気シリンダは水平に配置。対向配置で吸気ピストン15が2個、同じく対向配置で膨張排気工程用にピストン37を2個配置していて、各ピストンはそれぞれ2個のコンロッドと連接している。クランクは対称および対向位置に合計4本あり、ギヤ38、39にて連動している。クランクの端末に円盤カム7,40を配置し、動弁機構はシリンダ側面側に配置している。入力ギヤ13は機関運転コントロール機器で動作される。運転環境が単調な場合はスロットル操作と連結して動作させる。従来機関で振動の原因になるピストン、コンロッドの不均衡慣性による振動は本実施例では対称配置となって打ち消されるので、バランサーは設置していない。出力軸は出力軸41と出力軸42の2本確保可能で、一方を走行駆動軸の負荷などに接続し、もう一方を余剰出力を電力変換する発電機に接続する構成も容易に可能になる。また、従来機構がベルトやチェーンにて動力連結しているコンプレッサや発電機などの機関補機は、本発明では従来機構より多くあるクランク軸に直接連結することが可能で、部品数や機関運転抵抗の削減になる。本発明により内燃機関はコンパクトで効率の良い構成が可能となる。
【符号の説明】
【0017】
1 吸気圧縮用シリンダ 2 膨張排気用シリンダ
3 回転有孔円柱弁 4 点火燃焼室
5 シール 6 シール
7 円盤カム 8 ロッカーアーム
9 カム接触ローラー 10 往復開閉弁
11 ロッカーアームホルダー 12 ロッカーアームピン
13 入力ギヤ 14 カム接触球
15 ピストン 16 コンロッド
17 コンロッド連接ピン 18 ピストンピン
19 クランク 20 リングシール
21 リングシール 22 板バネ
23 リング溝 24 潤滑油供給孔
25 燃料噴射装置 26 点火プラグ
27 導入孔 28 多段燃料噴射装置
29 ガイドレール 30 ピストンピン
31 コンロッド 32 コンロッド連接ピン
33 吸気バルブ 34 排気バルブ
35 クランク 36 クランク
37 ピストン 38 ギヤ
39 ギヤ 40 円盤カム
41 出力軸 42 出力軸
43クランク 44 燃焼ガス噴出孔
【要約】 (修正有)
【課題】コンパクトで効率の良い構成の対向ピストン内燃機関を提供する。
【解決手段】対向ピストン機構において吸気圧縮用シリンダ1と膨張排気用シリンダ2を個別に設け、その間に回転有孔円柱バルブ3と点火燃焼室4を構成する。動弁機構はシリンダ2側面側に配置し、クランク回転に連動する円盤カムにて可動支点式のロッカーアームを介しシリンダ2側面の吸気バルブ33、排気バルブ34を作動させる。機関の運転状況に合わせた吸気バルブ33、排気バルブ34の開閉量もロッカーアームの可動構造により実現する。ピストンピンは一つのピストン15、37に2つのコンロッド16が連接する場合に生じる機関のばらつきを吸収できるので、容易に1つのピストン15、37に対し2つのコンロッド16の連接ができるようになる。さらにピストン15、37同様にコンロッド16も対向配置することで不均衡慣性を打ち消す。
【選択図】
図1