(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】ウエハーのブレイク方法並びにブレイク装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230901BHJP
B28D 7/04 20060101ALI20230901BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20230901BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20230901BHJP
C03B 33/033 20060101ALI20230901BHJP
H05K 3/00 20060101ALN20230901BHJP
【FI】
H01L21/78 T
B28D7/04
H01L21/78 X
B28D5/00 A
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
C03B33/033
H05K3/00 X
H05K3/00 J
(21)【出願番号】P 2019085341
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】田村 健太
(72)【発明者】
【氏名】武田 真和
(72)【発明者】
【氏名】市川 克則
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-074931(JP,A)
【文献】特開2013-058671(JP,A)
【文献】特開2016-040079(JP,A)
【文献】特開2016-043505(JP,A)
【文献】特開平11-274653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B28D 7/04
B28D 5/00
B26F 3/00
C03B 33/033
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハーの片面に互いに直交するX方向、Y方向の格子状のスクライブラインが加工され、厚さ方向がZ方向とされ、粘着性のあるダイシングテープに貼り付けて固定されたウエハーのブレイク方法であって、
前記スクライブラインは、前記ウエハーをX方向のスクライブラインに沿ってブレイクした後でY方向のスクライブラインに沿ってブレイクする前の長尺状基板のときに前記ウエハーの基板厚さであるZ方向長さとY方向の長さとの比であるY/Z比が1.5/1~3/1となるようにY方向のスクライブライン幅が加工され、
前記ウエハーのブレイクに先立って、当該ウエハーの前記ダイシングテープを貼り付けた面とは反対側の面に粘着性のある被覆テープを貼り付けて、前記ウエハーを前記被覆テープと前記ダイシングテープとによって上下両面から挟みつけて固定し、
次いで、前記スクライブライン
を形成した面とは反対側の面の上方からブレイクバーを押しつけてウエハーを撓ませることにより、前記スクライブラインに沿ってウエハーをブレイクするようにしたウエハーのブレイク方法。
【請求項2】
前記被覆テープは、前記ウエハーの周囲を取り囲むようにリング状の接合部分を介して前記ダイシングテープに接合されている請求項1に記載のウエハーのブレイク方法。
【請求項3】
前記ダイシングテープ並びに被覆テープが、リング状のダイシングフレイムに保持されている請求項1または請求項2に記載のウエハーのブレイク方法。
【請求項4】
前記被覆テープが、ウエハーの前記スクライブラインを形成した面に貼り付けられている請求項1~請求項3の何れかに記載のウエハーのブレイク方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやシリコン等の脆性材料からなるウエハー(基板ともいう)のブレイク方法並びにブレイク装置に関する。特に本発明は、ガラスやシリコン等の脆性材料基板の表面又は内部に、電子回路や電子部品を組み込んだMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用のウエハーをその表面に加工されたスクライブラインに沿って分断して個々のチップ(素子)に切り出すブレイク方法並びにブレイク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にマザー基板となるウエハーからチップを切り出す工程では、先ず、ウエハーの表面にカッターホイールやレーザを用いて、互いに直交するX方向並びにY方向のスクライブライン(基板厚み方向に浸透したクラック)を形成する。その後、スクライブラインの反対側の面からブレイクバーを押しつけてウエハーを撓ませることにより、方形または矩形状のチップ(単位製品)に分断する(特許文献1参照)。
【0003】
ブレイクされるウエハーは、多くの場合、
図1に示すように、リング状のダイシングフレイム1に保持された粘着性のある樹脂製のダイシングテープ2に貼り付けて固定されている。ウエハーWの上面には互いに直交するX方向(縦方向)スクライブラインS1並びにY方向(横方向)のスクライブラインS2が先行するスクライブ工程で加工されている。
【0004】
ブレイクに際して、ウエハーの開放された上面が傷つかないように薄い樹脂製の保護フィルム(特許文献1における保護シート(8))でカバーした状態でウエハーWを反転させ、スクライブラインS1が作業ステージの中間に設けた左右一対の受刃の間に位置するようにして作業ステージに載置する。
このようにして、上方からブレイクバーをスクライブラインS1に向かって押し下げることにより、基板Wを左右の受刃との間で3点支持曲げ方式により撓ませて先ずX方向のスクライブラインS1に沿ってブレイクして長尺状の基板に分断し、次いで、同様な手段によりY方向のスクライブラインS2に沿ってブレイクして方形状または矩形状のチップに分断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の方法では、ウエハーWは粘着性のあるダイシングテープ2に貼り付けて固定されているが、保護フィルムは単に面接触でカバーしているだけであり、かつ、非常に薄いフィルム(一般的に20~30μm)であるので、ブレイクの際の基板保持が不安定であり、分断面の一部が傾斜する「ソゲ」や、縁部が欠ける「カケ」などの不具合がしばしば発生することがあった。特に、ウエハーWがX方向スクライブラインS1に沿って長尺状に分断された後、Y方向のスクライブラインS2をブレイクする際、長尺状のウェハー(長尺状基板)のX方向に沿った左右両辺は既に切り離されているため非常に不安定であり、そのため、上記した「ソゲ」や「カケ」が多発して商品品質を著しく劣化するといった問題点があった。
【0007】
そこで本発明は、ブレイク時にウエハーを安定した状態で保持して分断面での「ソゲ」や「カケ」などの発生を低減し、高品質のチップを得ることのできるブレイク方法並びにブレイク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち本発明のブレイク方法は、ウエハーの片面に互いに直交するX方向、Y方向の格子状のスクライブラインが加工され、厚さ方向がZ方向とされ、粘着性のあるダイシングテープに貼り付けて固定されたウエハーのブレイク方法であって、前記スクライブラインは、前記ウエハーをX方向のスクライブラインに沿ってブレイクした後でY方向のスクライブラインに沿ってブレイクする前の長尺状基板のときに前記ウエハーの基板厚さであるZ方向長さとY方向の長さとの比であるY/Z比が1.5/1~3/1となるようにY方向のスクライブライン幅が加工され、 前記ウエハーのブレイクに先立って、当該ウエハーの前記ダイシングテープを貼り付けた面とは反対側の面に粘着性のある被覆テープを貼り付けて、前記ウエハーを前記被覆テープと前記ダイシングテープとによって上下両面から挟みつけて固定し、次いで、前記スクライブラインを形成した面とは反対側の面の上方からブレイクバーを押しつけてウエハーを撓ませることにより、前記スクライブラインに沿ってウエハーを分断するようにした。
ここで、前記ダイシングテープ並びに被覆テープは、リング状のダイシングフレイムに保持するようにするのがよい。
【0009】
また別の観点からの発明で、片面にスクライブラインが加工されたウエハーを粘着性のあるダイシングテープに貼り付けて固定されたウエハーのブレイク装置であって、前記ウエハーの前記ダイシングテープに貼り付けた面とは反対側の面に粘着性のある被覆テープを貼り付けて固定する被覆テープ貼り付け部と、前記スクライブラインの上方からブレイクバーを押しつけてウエハーを撓ませることにより、前記スクライブラインに沿ってウエハーをブレイクするブレイク部とを備えたウエハーのブレイク装置も特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ウエハーは、粘着性のあるダイシングテープと被覆テープとによって上下両面から挟まれて安定よく固定保持されるので、ブレイク時に「ソゲ」や「カケ」などの不具合の発生を軽減して高品質のチップを得ることができる。
【0011】
本発明において、被覆テープをウエハーの周囲を取り巻くようにリング状接合部分を介してダイシングテープに接合するようにするのがよい。
これにより、ウエハーをダイシングテープと被覆テープとの間で真空パックのように挟み付けて更に安定よく固定保持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の加工対象物となるウエハーをダイシングテープに取り付けた状態を示す斜視図。
【
図2】
図2(a)は、上記ウエハーの開放された上面に被覆テープを取り付けた状態を示す断面図であり、
図2(b)は、被覆テープ貼り付け手段の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細を図に示した実施形態に基づき説明する。本発明のブレイク方法では、主としてガラスやシリコン等の脆性材料基板の表面又は内部に、電子回路や電子部品を組み込んだMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)用のウエハーがブレイク対象となる。ここでは、母材となる一枚のガラスウエハーWから、1.25mm四方のチップを20000個程度切り出すことができる直径200mm、厚み0.80mmのガラスウエハーを実施対象とした。
【0014】
ガラスウエハーWは、
図1に示すように、周縁部分でリング状のダイシングフレイム1に張設保持されたダイシングテープ2に取り付けられている。ダイシングテープ2は、厚み90~120μm、好ましくは95μmのポリ塩化ビニルやポリオレフインなどの引伸ばし可能な樹脂で形成され、その上面が粘着性のある接着面に形成されており、この接着面にガラスウエハーWが接合されている。
【0015】
ガラスウエハーWの上面には、先行するスクライブ工程でカッターホイールやレーザなどを用いて、互いに直交するX方向(縦方向)のスクライブラインS1並びにY方向(横方向)のスクライブラインS2が格子状に加工される。この縦、横のスクライブラインS1、S2によって囲まれたマス目の一つ一つが1.25mm四方のチップとなる。スクライブラインS1、S2の加工は、ガラスウエハーWをダイシングテープ2に取り付けたあとに実施するのが一般的であるが、取り付ける前に加工する場合もある。
【0016】
本発明方法では、ガラスウエハーWの開放された上面、即ち、スクライブラインS1、S2が加工された上面に、上記ダイシングテープ2と同様な材質の粘着性のある被覆テープ3を貼り付ける。被覆テープ3は、
図2(a)に示すように、周縁部でダイシングフレイム1に保持するとともに、ガラスウエハーWの周囲を取り囲むようにリング状の接合部分3aでダイシングテープ2に接合する。これにより、ガラスウエハーWがダイシングテープ2と被覆テープ3との間で真空パックのように挟み付けられて安定よく固定される。なお、被覆テープ3の厚みは70~90μm、好ましくは80μmとするのがよい。
上記の被覆テープ3をガラスウエハーWに貼り付けるには、例えば
図2(b)に示すように、被覆テープ貼り付け装置Aの台盤7上にガラスウエハーWを載置し、その上面に粘着面を下向きにして被覆テープ3を載置し、その上方から押し型8で軽く押しつけることにより行うことができる。
【0017】
このようにして被覆テープ3を貼り付けたガラスウエハーWを次のブレイク装置BでスクライブラインS1、S2に沿って分断する。具体的には、
図3に示すように、スクライブラインS1を加工した面、即ち、被覆テープ3が下側になるようにガラスウエハーWを反転させて、スクライブラインS1がブレイク装置Bのテーブル4の中間に設けた左右一対の受刃5、5の間に位置するようにしてテーブル4に載置する。
次いで、上方から先端を細くしたブレイクバー6をスクライブラインS1に向かって押し下げることにより、基板Wを受刃5、5の間で三点支持曲げ方式により撓ませて先ずX方向のスクライブラインS1に沿ってブレイクして長尺状の基板に分断する。次いで、テーブル4を90度回転させて、上記と同様な手段によりY方向のスクライブラインS2をブレイクして1.25mm四方のチップに分断する。尚、上記した受け刃とブレイクバーによる3点支持曲げ方式のブレイク手段は周知であるので、ここではブレイクバー昇降機構などの詳細な説明は省略する。
【0018】
このブレイクの際、ガラスウエハーWは、粘着性のあるダイシングテープ2と被覆テープ3とによって上下両面から保持されるとともに、被覆テープ3を、ガラスウエハーWの周片部分でリング状接合部分3aを介してダイシングテープ2に接合することにより、ガラスウエハーWをダイシングテープ2と被覆テープ3との間で真空パックのように挟み付けられて安定よく固定されているので、切り出されるチップが1.25mm四方といった小さなサイズであっても、厚さ0.8mmの基板をスクライブラインに沿って精度良く分断することができる。
特に、ガラスウェハーWをX方向スクライブラインS1に沿って分断された長尺状の基板を、Y方向のスクライブラインS2に沿ってブレイクする際に、従来では長尺状基板のX方向に沿った左右両辺が切り離されていることで基板が不安定となり、「ソゲ」や「カケ」などの不具合が多発していたが、本発明方法では安定した固定保持により上記のような不具合の発生を抑制して高品質のチップを得ることができる。
【0019】
分断後は、被覆テープ3を取り除いたあと、ダイシングテープ2を引き延ばすことにより、各チップの間に隙間を発生させてダイシングテープ2からチップをピックアップして取り出す。
【0020】
上記実施例において、ガラスウエハーWのスクライブラインを加工した面を被覆テープ3側に向けて構成したが、
図4に示すように、ガラスウエハーWをダイシングテープ2に貼り付ける前にスクライブラインS1、S2を加工しておいてこのスクライブラインを加工した面を下側に向けてダイシングテープ2に貼り付け、反対側の面に被覆テープ3を貼り付けるようにしてもよい。この場合は、上記した実施例のようにガラスウエハーWを反転させないでそのままの姿勢でブレイクバー6によりブレイクすることができる。
【0021】
本発明方法によって分断されるチップのサイズとして、上記実施例では厚み0.8mmで、1.25mm四方の場合を示したが、その数値は限定されない。また、ウエハーの厚みが薄ければこれに比例して更に小さなサイズまで基板をブレイクすることが可能である。
更に、分断されるチップの形状は方形に限らず、矩形状であってもよいことは勿論である。
また、(微細孔加工のアスペクト比(深さZ/穴径D)と同様の)加工の困難さに関係するY/Z比(基板厚さ(Z方向)と、長尺状基板に切り出した後にブレイクする側であるY方向の長さとの比)は、1.5/1~3/1の範囲で選択される。一般に、このY/Z比が3以下になると加工の困難度が増し、従来の基板固定方法(片面は粘着テープ貼り付けで固定、片面は保護フィルムのみ)ではソゲが多発し、加工品質が悪くなっていたが、本発明方法の採用により3以下でもソゲを大きく低減することができ、加工品質を向上させることが可能となった。
【0022】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでない。例えば、上記実施例では、ダイシングテープ2並びに被覆テープ3をダイシングフレイム1で保持するようにしたが、ダイシングフレイムに代えて、テーブル近傍に配置したクリップなどの保持機構で挟着保持するようにしてもよい。
また、上記実施例では、左右一対の受け刃とブレイクバー(ブレイクプレートともいう)とによる3点支持曲げ方式で基板を撓ませてブレイクするようにしたが、受け刃に代えてクッション材を基板下方に配置してブレイクバーの押付により基板を撓ませるようにすることも可能である。また、ガラスウェハーに代えてシリコンウェハーであってもよい。
その他本発明では、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明方法は、ダイシングテープに貼り付けられたウエハーをブレイクバーでブレイクするのに利用される。
【符号の説明】
【0024】
S1 X方向のスクライブライン
S2 Y方向のスクライブライン
A 被覆テープ貼り付け装置
B ブレイク装置
W ウエハー
1 ダイシングフレイム
2 ダイシングテープ
3 被覆テープ
4 テーブル
5 受刃
6 ブレイクバー