(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】微小光学構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20230901BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20230901BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20230901BHJP
【FI】
G02B3/00 Z
G02B3/00 A
B29C39/10
B29L11:00
(21)【出願番号】P 2019093886
(22)【出願日】2019-05-17
【審査請求日】2022-04-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 惟人
(72)【発明者】
【氏名】山岡 英彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 晃基
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-283362(JP,A)
【文献】特開2014-089228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00
B29C 39/10
B29L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光学材料からなる基板と、前記第1光学材料とは異なる第2光学材料からなる光学素子と、を有する微小光学構造体の製造方法であって、
一面に凸部と第1平坦部とを有するモールドを用いて前記第1光学材料に転写することで、表面に凹部と第2平坦部とを有する前記基板を作製するステップと、
前記基板の前記表面に前記第2光学材料をコーティングして、前記基板の前記凹部に対応する凸部と前記基板の前記第2平坦部に対応する第3平坦部とを有する薄層を形成するステップと、
前記薄層の前記第2光学材料の表面張力の効果によって、前記基板の前記凹部に、最表面が凸曲
面の前記光学素子を形成するステップと、
を有する、微小光学構造体の製造方法。
【請求項2】
前記モールドは、各々が前記凸部と同一構造を有する複数の凸部が、前記一面にマトリクス状に配列された構造を有し、
前記基板を作製するステップは、前記モールドを用いて、各々が前記凹部と同一構造を有する複数の凹部が、前記表面にマトリクス状に配列された前記基板を作製する、請求項1に記載の微小光学構造体の製造方法。
【請求項3】
前記モールドは、前記複数の凸部のうち隣接する凸部の間に前記第1平坦部を有し、
前記基板を作製するステップは、前記モールドを用いて、前記複数の凹部のうち隣接する凹部の間に前記第2平坦部を有する前記基板を作製する、請求項2に記載の微小光学構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第1光学材料と前記第2光学材料は屈折率が異なる、請求項1~3の何れか1項に記載の微小光学構造体の製造方法。
【請求項5】
前記基板を作製するステップは、前記基板としてフレキシブル基板を作製する、請求項1~4の何れか1項に記載の微小光学構造体の製造方法。
【請求項6】
前記第2光学材料をコーティングするステップは、前記第2光学材料として液状の樹脂をコーティングし、
前記光学素子を形成するステップは、前記液状の樹脂を硬化させ、表面張力の効果によって、前記第2光学材料の濃度に応じて最表面が凸曲
面の前記光学素子を形成する、請求項1~5の何れか1項に記載の微小光学構造体の製造方法。
【請求項7】
前記光学素子を形成した後、前記基板に残留した前記第2光学材料の残渣を除去するステップを更に有する、請求項1~6の何れか1項に記載の微小光学構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小光学構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在利用されている一般的なフレキシブル材料によるマイクロレンズは、単一材料による成形品である。そのため、光学設計が制限され、集光効率や焦点深度といったパラメータが限定されている。
【0003】
これらの課題を解決するため、複数の材料からなるマイクロレンズも存在している。このようなマイクロレンズの製造方法として、ミクロン球をフレキシブル樹脂シートに埋め込む手法や、基板上に設けられた凹部に樹脂材料の液滴を充填するといった手法がとられている。
【0004】
例えば、特許文献1では、成形型(例えば、金属製の成形型)にキャビティ凹部を設け、キャビティ凹部に液状のレンズ用樹脂材料(例えば、シリコーン樹脂組成物)を表面張力により凸面をなす液滴となるように充填し、レンズ用樹脂材料の液滴を加熱して硬化させることによってレンズを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなレンズの製造方法では、キャビティ凹部に液状のレンズ用樹脂材料を、インクジェットやディスペンサロボット等の装置で充填しているため、アライメントを行うための高精度の装置が必要となり、製造方法が複雑である上に、一括製造(大量生産)に不向きであるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、複数の材料からなるマイクロレンズ等の微小光学構造体を簡便に製造可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る微小光学構造体の製造方法は、第1光学材料からなる基板と、第1光学材料とは異なる第2光学材料からなる光学素子と、を有する微小光学構造体の製造方法であって、一面に凸部を有するモールドを用いて第1光学材料に転写することで、表面に凹部を有する基板を作製するステップと、基板の表面に第2光学材料をコーティングするステップと、第2光学材料の表面張力の効果によって、基板の凹部に、最表面が凸曲面又は平坦面の光学素子を形成するステップと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1光学材料からなる基板の表面に第2光学材料をコーティングし、第2光学材料の表面張力の効果によって、基板の凹部に、最表面が凸曲面又は平坦面の光学素子を形成することで、微小光学構造体を簡便に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】モールドを用いて第1光学材料からなる基板を作製するステップを表す模式図である。
【
図2】モールドの各パターンの配置を示す模式図である。
【
図4】基板の表面に第2光学材料をコーティングするステップを表す模式図である。
【
図5】第2光学材料の表面張力のスケール効果によってレンズを形成するステップを表す模式図である。
【
図6】第2光学材料の残渣を除去するステップを表す模式図である。
【
図7】本実施形態の製造方法によって得られたマイクロレンズ構造体の断面図である。
【
図8】本実施形態の製造方法によって得られたマイクロレンズ構造体の走査型電子顕微鏡の画像を示す図である。
【
図9】レンズの表面が平坦なマイクロレンズ構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図面において、同一又は同様の構成要素には同一の符号を付している。図面は模式的なものであり、平面寸法と厚さとの関係、及び各部材の厚さの比率は現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
本実施形態に係る製造方法は、第1光学材料からなる基板と、第1光学材料とは異なる第2光学材料からなる光学素子と、を有する微小光学構造体を製造する方法である。以下の本実施形態に係る微小光学構造体の製造方法は、本発明の単なる例示にすぎず、本発明を限定するものではない。
【0013】
まず、ナノインプリント装置により、一面に半球形状の凸部11及び第1平坦部12を有するモールド1(
図1)を用いて第1光学材料に転写することで、表面に半球形状の凹部31及び第2平坦部32を有するフレキシブル基板3を作製する(ステップS1)。
【0014】
モールド1は、例えば、ニッケル(Ni)からなるナノインプリント用の金型である。モールド1は、
図2のように、4つのパターン1A、1B、1C及び1Dが2×2のマトリクス状に配列された構造を有する。パターン1A~1Dの各々は、例えば、一辺がL=4mmの正方形状であり、隣接するパターン間の距離P1は2mmである。
【0015】
パターン1A~1Dの各々は、
図3に示すように、同一構造の複数の凸部11がマトリクス状に配列されており、隣接する凸部11の間に第1平坦部12が存在する。パターン1A~1Dは、凸部11の直径Rと、隣接する凸部11間のピッチ間隔Pが互いに異なる。パターン1Aの凸部11の直径Rとピッチ間隔Pは、それぞれ、3μm、20μmである。パターン1Bの凸部11の直径Rとピッチ間隔Pは、それぞれ、5μm、20μmである。パターン1Cの凸部11の直径Rとピッチ間隔Pは、それぞれ、10μm、30μmである。パターン1Dの凸部11の直径Rとピッチ間隔Pは、それぞれ、15μm、35μmである。パターン1A~1Dの各々において、凸部11の第1平坦部12からの高さHは、直径Rの1/2である。なお、
図3では、1つのパターンに、7×7個の凸部11が配列されている例を模式的に示しているが、1つのパターンを構成する凸部11の数は限定されない。
【0016】
パターン1A~1Dからなるモールド1を用いることで、直径が3μm、5μm、10μm、及び15μmの凹部31を有するフレキシブル基板3が作製される。
【0017】
本実施形態では、フレキシブル基板3を構成する第1光学材料として、紫外線硬化タイプのシリコーンゴム(Polydimethylsiloxane:PDMS)を採用する。このようなPDMSとしては、例えば、KER-4690-A/B(信越シリコーン社製;AとBの混合比は1:1)がある。PDMSに対して撹拌脱泡器にて撹拌脱泡を5分行うことにより(公転2,000rpm;自転800rpm)、PDMSを調製する。
【0018】
次に、モールド1の一面(凸部11及び第1平坦部12を有する面)に、調製したPDMSを滴下し、紫外線露光装置にて紫外線を照射することで(23mW/cm2;80秒)、PDMSを硬化させる。
【0019】
PDMSに紫外線を照射して24時間静置した後、モールド1からPDMSを剥離する。このようにして、モールド1の凸部11及び第1平坦部12に対応して、表面に凹部31及び第2平坦部32をそれぞれ有するフレキシブル基板3が作製される。すなわち、同一構造の複数の凹部31がマトリクス状に配列され、隣接する凹部31の間に第2平坦部32を有するフレキシブル基板3が作製される。
【0020】
次に、
図4に示すように、フレキシブル基板3の表面(凹部31及び第2平坦部32を有する面)に第2光学材料をコーティングして薄層5を形成する(ステップS2)。薄層5は、フレキシブル基板3の凹部31に対応する凸部51と、フレキシブル基板3の第2平坦部32に対応する第3平坦部52とを有する。
【0021】
本実施形態では、第2光学材料として液状の樹脂、例えば、アクリル樹脂(Polymethyl methacrylate:PMMA)を採用する。第2光学材料としてのPMMAと、第1光学材料としてのPDMSとは、屈折率が異なる。
【0022】
ステップS2では、まず、PMMA粉末をアニソールに混合し、加熱スターラー(約90℃)にて120分~180分撹拌することで、PMMA溶液を調製する。ここで、アニソールは、予め非線形光学分子(2-Aminofluorene,5-Nitrouracil等)を溶解させたアニソールでもよい。なお、本実施形態においてPMMA溶液は、分子量が約80万で、濃度が5.0、7.5、10.0、及び12.5wt%のものをそれぞれ準備した。
【0023】
次に、ガラス基板(図示略)上にフレキシブル基板3の裏面を貼り付け、フレキシブル基板3の表面にPMMA溶液を滴下して、スピンコータによるスピンコート(例えば、5,000rpm)を行う。スピンコートの代わりに、ヘラ(例えば、シリコーン製)を用いてバーコーティングを行ってもよい。
【0024】
第2光学材料のコーティングにより薄層5が形成されると、
図5に示すように、第2光学材料の表面張力の効果によって、フレキシブル基板3の凹部31に、最表面が半球形状でフレキシブル基板3の表面から突出した凸曲面のレンズ55(光学素子)が形成される(ステップS3)。
【0025】
具体的には、薄層5がコーティングされたフレキシブル基板3をホットプレートにてベークして(例えば、110℃で60秒)、薄層5を構成するPMMA溶液を硬化させる。このとき、
図4に示すように、薄層5において、凸部51の膜厚は、第3平坦部52の膜厚よりも大きいため、凸部51は第3平坦部52よりもPMMA溶液の揮発速度が遅くなり、表面張力のスケール効果によって、凸曲面が形成される。
【0026】
レンズ55が形成されると、
図5に示すように、フレキシブル基板3上に第2光学材料の残渣56が残留している。このため、
図6に示すように、レンズ55の形成後にフレキシブル基板3上に残留した残渣56をエアブロー70(例えば、0.2~0.4MPa程度)にて除去する(ステップS4)。これにより、
図7に示すように、フレキシブル基板3とレンズ55とを有する微小光学構造体としてのマイクロレンズ構造体100が作製される。
【0027】
実験では、PMMA溶液の濃度が7.5及び10.0wt%において、最表面が凸曲面のレンズ55が形成された。
図8に、本実施形態の製造方法によって作製されたマイクロレンズ構造体100の走査型電子顕微鏡(SEM)の画像の一例を示す。
【0028】
図7及び
図8では、最表面が凸曲面のレンズ55が形成された場合を示したが、実験条件によっては、最表面が平坦面のレンズが形成されることもある。例えば、PMMA溶液の濃度を12.5wt%として、バーコーティングのプロセスを経ることで、
図9に示すように、フレキシブル基板3の凹部31に平坦にPMMAが埋め込まれたレンズ60(光学素子)が形成され、フレキシブル基板3とレンズ60とを有する微小光学構造体としてのマイクロレンズ構造体200が作製される。
図9に示すように、レンズ60の平坦な最表面は、フレキシブル基板3の表面と、ほぼ同一面にある。このように、PMMA溶液の濃度が相対的に大きいとき、最表面が平坦面のレンズが形成され得る。
【0029】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、フレキシブル基板3の表面に第2光学材料をコーティングし、第2光学材料の表面張力の効果によって、フレキシブル基板3の凹部31に、最表面が凸曲面のレンズ55又は最表面が平坦面のレンズ60を形成するようにした。これにより、従来のようなアライメントを行うための高精度の装置が不要となり、微小光学構造体としてのマイクロレンズ構造体を簡便に一括で製造することができる。また、マイクロレンズ構造体の大面積化や量産も可能となる。
【0030】
また、本実施形態の製造方法によって得られたマイクロレンズ構造体は、互いに屈折率が異なる第1光学材料と第2光学材料とからなっており、単一材料からなるマイクロレンズ構造体よりも、長い焦点深度(例えば、3~4μm)を得ることができる。これにより、本実施形態のマイクロレンズ構造体は、微細な立体構造観察用のデバイスに応用することができる。
【0031】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形が可能である。
【0032】
例えば、フレキシブル基板3を構成する第1光学材料として、PDMSの代わりに、ポリエチレンフィルム又はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを採用してもよい。また、レンズ55又はレンズ60を構成する第2光学材料として、PMMAの代わりに、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はAcrylonitrile Butadiene Styrene(ABS)樹脂を採用してもよい。
【0033】
また、本実施形態では、ステップS2において、PMMA粉末を、予め非線形光学分子(2-Aminofluorene,5-Nitrouracil等)を溶解させたアニソールに混合する例を挙げたが、第1光学材料又は第2光学材料を構成する高分子ポリマーに、他の材料(機能性ナノ粒子、導電性ナノ粒子、又は有機光学色素分子等)を混合又は分散させることも考えられる。このような材料としては、例えば、二酸化バナジウム、酸化タングステン等の相転移材料、二酸化チタン等の光触媒、ITO、銀ナノ粒子等の導電性金属、Alexa Fluor系、Pacific Blue系、Super Brigh系、Cy系等の蛍光色素が挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
1 モールド
1A、1B、1C、1D パターン
3 フレキシブル基板
5 薄層
11 凸部
12 第1平坦部
31 凹部
32 第2平坦部
51 凸部
52 第3平坦部
55、60 レンズ
56 残渣
70 エアブロー
100、200 マイクロレンズ構造体