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  • 特許-穿刺応力検出装置。 図1
  • 特許-穿刺応力検出装置。 図2
  • 特許-穿刺応力検出装置。 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】穿刺応力検出装置。
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/34 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
A61B17/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019112592
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020202980
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒船 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】八尾 武憲
【審査官】神ノ田 奈央
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-081852(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0310052(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心嚢に穿刺して心嚢液を吸入する術具を有する心嚢穿刺応力検出装置であって、
穿刺針と、
該穿刺針の穿刺方向の抵抗を電気信号として取得する計測手段と、
該計測手段の信号から、施術する対象の心臓の拍動に応じた周波数成分を除去する周波数成分除去手段と、
該周波数成分除去手段によって処理された信号を応力に変換する応力変換手段と、
該応力の時間的な推移に応じて穿刺状態を判定する判断評価手段と、を備えることを特徴とする心嚢穿刺応力検出装置。
【請求項2】
前記判断評価手段は、
心臓の部位に応じた応力の範囲を予め格納した記憶手段と、
該応力の時間的推移を記録する記録手段と、
選択した前記心臓の部位に対応する応力範囲に前記応力が到達したときに報知する報知手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の心嚢穿刺応力検出装置。
【請求項3】
前記周波数成分除去手段は、
心電図から取得した前記周波数成分に応じてカットオフ周波数帯を設定し、
前記カットオフ周波数帯を除去するバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の心嚢穿刺応力検出装置。
【請求項4】
前記記憶手段には、前記穿刺針の先端が、心膜、心筋のそれぞれに到達したときのそれぞれの応力範囲が格納されており、
前記報知手段は、前記心膜、前記心筋の順で、それぞれの前記応力範囲に前記応力が到達したときに報知することを特徴とする請求項に記載の心嚢穿刺応力検出装置。
【請求項5】
前記記憶手段には、前記穿刺針の先端が、胸壁に到達したときのそれぞれの応力範囲がさらに格納されており、
前記報知手段は、前記胸壁の前記応力範囲に前記応力が到達したときに報知することを特徴とする請求項4に記載の心嚢穿刺応力検出装置。
【請求項6】
前記穿刺針は、
大径の第1穿刺針と、
該第1穿刺針の針管内に挿抜自在に備えられた小径の第2穿刺針と、からなり、
該第1穿刺針は前記心膜まで到達したときに留置され、該第2穿刺針が挿入されることを特徴とする請求項5に記載の心嚢穿刺応力検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺応力検出装置に係り、詳しくは心嚢穿刺応力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は全身へ血液を送り出すポンプとしての働きを担っているが、通常は心膜という2枚の薄い膜に包み込まれている。この2枚の膜の間のスペースは心嚢(しんのう)と呼ばれ、その中には心嚢液という液体で充填されている。心嚢液には心臓が摩擦なくスムーズに収縮と拡張を繰り返すことができるよう潤滑油としての役割がある。
【0003】
何らかの原因で心嚢液が大量に、あるいは急速に増加して貯留してしまったために、心嚢内圧が上昇して心臓が十分に拡張することができない状態となり、これを心タンポナーデという。その結果、心臓はポンプとして機能できなくなり、急速にショック状態となる心タンポナーデは、緊急を要する疾患であり、進行すると急速に死に至ることになる。救命のためには、緊急入院の上、まずはショック状態からの離脱を図ることが先決となる。この処置としては、心嚢液が貯留しているスペースに向かって胸壁から針を刺す心嚢穿刺術を行い、心嚢液の排液と心嚢の減圧を行う。詳しくは、一時的に柔らかいチューブを挿入する治療(心嚢穿刺、心嚢ドレナージ)を行うことで、患者をショック状態から救うことができる。
【0004】
係る心嚢穿刺術治療の安全性を高めるために、現在は、エコーで心臓や心嚢液の貯留部位を確認しながら、またはカテーテル検査室でレントゲン装置を使用しながら手技を行っている。しかしながら、これらの装置・器具を用いて慎重に行ったとしても、心嚢穿刺(心嚢ドレナージ含む)はリスクの高い処置・治療となる。すなわち、この処置・治療は、動いている心臓に向かって針を進めることから、穿刺しすぎると心臓を傷つけ大出血を起こしたり、気胸(肺に傷をつける)を合併したりする可能性がある。また、心タンポナーデの患者は、すでに循環動態(血圧、心拍数、心臓の収縮力など)が非常に不安定であり、常に急変する可能性は高い状態となっている。そのため、心嚢穿刺を行ったとしても残念ながら救命できないケースもあり、心タンポナーデ治療は、難易度の高い術式となっている。
【0005】
この難易度の高い心タンポナーデ治療のような治療において、穿刺の際の状況把握を支援するため、荷重センサや圧力計により、穿刺針部の負荷量を計測して、針部の動作状態を検出して、針部が生体組織の組織境界部に対応する位置にある旨の判定を行う技術が開示されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-081852
【文献】特表2013-523408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2にて開示された穿刺装置の技術は、心嚢を対象とした場合に心臓の拍動による外乱の影響で正確な負荷量を計測することが困難な場合が生じた。また、どの部位まで針部が到達したかを判定する指標が開示されておらず、穿刺状況の視覚化を行う技術は開示されていなかった。そのため、術者の熟練に依存する部分が多く存在し、特に緊急性を有する心タンポナーデ治療において穿刺術の困難性を緩和することが求められていた。
【0008】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、難易度の高い心嚢穿刺術において、エコーやレントゲンのみに依存せず、かつ穿刺しすぎて心臓や肺に傷つけることのない安全な穿刺術を支援するために、穿刺応力検出装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、心嚢に穿刺して心嚢液を吸入する術具を有する心嚢穿刺応力検出装置である。本発明の一態様は、穿刺針と、該穿刺針の穿刺方向の抵抗を電気信号として取得する計測手段と、該計測手段の信号から、施術する対象の心臓の拍動に応じた周波数成分を除去する周波数成分除去手段と、該周波数成分除去手段によって処理された信号を応力に変換する応力変換手段と、該応力の時間的な推移に応じて穿刺状態を判定する判断評価手段と、を備える構成としている。
【0010】
本構成は、ロードセルや歪みゲージ等の穿刺方向の抵抗を測定できる計測手段と、心臓の拍動に応じた周波数成分を除去するであるフィルター等の周波数成分除去手段備えることで、計測手段で取得した抵抗から外乱を除去して、正確な穿刺時の応力を計測することができる。この構成によれば、穿刺しすぎて心臓や肺に傷つけることのない安全な心嚢穿刺術を支援することができる。
【0011】
前記態様の心嚢穿刺応力検出装置において、前記判断評価手段は、心臓の部位に応じた応力の範囲を予め格納した記憶手段と、該応力の時間的推移を記録する記録手段と、選択した前記心臓の部位に対応する応力範囲に前記応力が到達したときに報知する報知手段と、を備える構成とすることができる。
【0012】
この構成によれば、心臓の部位に応じた応力の範囲を予め格納したクライテリアテーブル等を備えた記憶手段で、穿刺の到達部位を取得した応力によって把握できることから、エコーやレントゲンに依存せずに穿刺を行うことができる。
【0013】
前記態様の心嚢穿刺応力検出装置において、前記周波数成分除去手段は、心電図から取得した前記周波数成分に応じてカットオフ周波数帯を設定し、前記カットオフ周波数帯を除去するバンドパスフィルタである構成とすることができる。
【0014】
この構成によれば、施術の際に患者の心電図から心臓の拍動を取得できるため、確実に拍動による外乱を除去でき、より正確な穿刺時の応力を計測することできる。
【0015】
前記態様の心嚢穿刺応力検出装置において、前記記憶手段には、前記穿刺針の先端が、心膜、心筋のそれぞれに到達したときのそれぞれの応力範囲が格納されており、前記報知手段は、前記心膜、前記心筋の順で、それぞれの前記応力範囲に前記応力が到達したときに報知する構成とすることができる。
【0016】
この構成によれば、穿刺針が到達する心膜、心筋の順序を明確にすることで、応力範囲が幅を有するときにでも、穿刺針の到達状況を正確に把握することができる。また、心膜による抵抗が減少したときが心嚢に穿刺したものと見なすことができるため、心筋を傷つけることなく穿刺を行うことを可能とし、さらに心筋に到達したと見なされたときには、警告を発生させる等の処理をすることで心臓への損傷を軽減させることができる。
【0017】
前記態様の心嚢穿刺応力検出装置において、前記記憶手段には、前記穿刺針の先端が、胸壁に到達したときの応力範囲がさらに格納されており、前記報知手段は、前記胸壁の前記応力範囲に前記応力が到達したときに報知する構成とすることができる。
【0018】
この構成によれば、心臓部位の切開手術を行わず、胸壁から直接穿刺する場合であっても、穿刺針が到達する胸壁を応力的に明確にすることで、応力範囲が幅を有するときにでも、穿刺針の到達状況を正確に把握することができる。なお、胸壁とは肋骨、横隔膜などを含む心臓より外側の構造全体をさすが、心嚢穿刺の際には、肋骨等の骨を回避して穿刺している。したがって、ここでは、皮膚および皮膚と心膜の間の筋肉を対象としている。
【0019】
前記態様の心嚢穿刺応力検出装置において、前記穿刺針は、大径の第1穿刺針と、該第1穿刺針の針管に挿抜自在に備えられた小径の第2穿刺針と、からなり、該第1穿刺針は前記心膜まで到達したときに留置され、該第2穿刺針が挿入される構成とすることができる。
【0020】
市販されている心膜および胸腔穿刺用胸部ドレナージ用カテーテルは、通常18G(18ゲージ例:外径1.25mm±0.02、内径0.82mm±0.03)が使われ、この穿刺針を使用して胸壁から心膜まで穿刺している。係る構成の場合には、胸壁における抵抗力が大きく、測定される応力値が、計測システムに対して過大となって、計測できない可能性がある。
【0021】
この構成によれば、胸壁による抵抗力は第1穿刺針が負担し、胸壁の影響を受けない第2穿刺針によって、心膜、心嚢液が存在する心嚢、心筋の穿刺応力を計測することができる。
【0022】
また、従来技術では、大径の穿刺針を使って心嚢穿刺を行っており、患者の負担が大きくなるおそれがあった。この構成によれば、胸壁から心膜に到達するまでは太い穿刺針を用い、到達したときその太い穿刺針を留置して、その後の心嚢穿刺については、患者の負担が少ない細い穿刺針とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、難易度の高い心嚢穿刺術において、エコーやレントゲンのみに依存せず、かつ穿刺しすぎて心臓や肺に傷つけることのない安全な穿刺術を支援するために、穿刺応力検出装置を提供する提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る全体構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る周波数成分除去の一実施例である。
図3】本発明の一実施形態に係る穿刺針の変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の心嚢穿刺応力検出装置に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0026】
本発明に係る一実施態様は、心嚢に穿刺して心嚢液を吸入する術具を有する心嚢穿刺応力検出装置であって、穿刺針と、該穿刺針の穿刺方向の抵抗を電気信号として取得する計測手段と、該計測手段の信号から、施術する対象の心臓の拍動に応じた周波数成分を除去する周波数成分除去手段と、該周波数成分除去手段によって処理された信号を応力に変換する応力変換手段と、該応力の時間的な推移に応じて穿刺状態を判定する判断評価手段と、を備える構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0027】
はじめに本発明の第1実施形態に係る全体構成について図1の全体構成図に基づいて説明する。
【0028】
心タンポナーデとは、心臓10を取り囲む袋状となった心膜12,13の間の心嚢14に心嚢液20である体液などの血液が貯留して、心臓10の内部である心筋16、心腔18を圧迫するものである。このため、心臓10は完全に拡張することができず、血圧の低下、心拍数の上昇、脈圧の狭小化、冠動脈の血流減少等を引き起こす。その結果として体内の組織への血流や酸素供給が低下して、心原性ショックを生じさせる。そのため、心タンポナーデと診断されると、早急に心嚢に貯留した体液などの血液を吸入・排出する必要がある。
【0029】
現状は心嚢14に穿刺して心嚢液20を吸入する術具(穿刺針110等)のみによって、心嚢14に貯留した心嚢液20である体液などの血液を吸入・排出している。しかし、穿刺針110が心嚢14に到達したか否かは、術者の感覚とエコーやレントゲンを併用することで判断していたが、緊急度が高い治療であること、術者には高い熟練度が要求されること、等から困難性が高い手術であった。
【0030】
図1を参照すると、図の左上には上述した心タンポナーデとなった心臓10の模式図を、そして四角い枠で囲った心嚢穿刺応力検出装置100の構成を表すブロック図を含む模式図を示している。
【0031】
心嚢穿刺応力検出装置100は、心臓10に穿刺する穿刺針110と、この穿刺針110の抵抗を計測する計測手段120と、計測手段120からの信号を受信して心臓10の拍動成分を除去する周波数成分除去手段130と、拍動成分を同定するための心電計170と、拍動成分が除去された信号を応力に変換する応力変換手段140と、応力変換手段140によって変換された応力によって穿刺状態を判断する判断評価手段150と、判断評価手段150の判断結果を報知する報知手段160と、から構成されている。
【0032】
穿刺針110は、鋭利に尖った先端とこの先端を生体内に挿入するための把持部115を備えている。穿刺針110としては、市販されている心膜および胸腔穿刺用胸部ドレナージ用カテーテル等を適用することができる。
【0033】
手順の一例としては、内套を備えた穿刺針110の先端を心嚢14内に刺入し、穿刺針の内套を取り除き、ガイドワイヤーを穿刺針110に挿入し、心嚢内へ進める。ガイドワイヤーはそのまま残して穿刺針110を抜去する。ドレナージカテーテル、もしくはドレナージカテーテルと挿入用カニューラが一体になったものをガイドワイヤーに被せて挿入し、ドレナージカテーテルの先端が心膜12の後方に来るまで進める。ドレナージカテーテルとガイドワイヤーを保持したまま、挿入用カニューラを回転させながら取り除く。ドレナージカテーテルを心嚢14内に進める。ガイドワイヤーを取り除く。接続チューブ等をドレナージカテーテルに取り付けて貯留した血液の吸引を行う。なお、ドレナージ用カテーテルのサイズは、例えばポリウレタン製で外径1.67~2.83mm、長さ15~40cmである。
【0034】
計測手段120は、穿刺針110の先端の抵抗力を計測するものであり、例えば、ロードセルを適用することができる。ロードセルは、力の大きさを電気信号に変える変換器であり、力に比例して変形する起歪体とその変形量であるひずみを測定するひずみゲージから構成される。ひずみの検出方法は特に限定されないが、ベンディング型、コラム型、シェア型などから選択することができる。計測手段120は、抵抗力を表すひずみに比例した電気信号を周波数成分除去手段130へ送出する。
【0035】
周波数成分除去手段130は、心電計170の心電図から取得した拍動の周波数成分に応じてカットオフ周波数帯を設定し、カットオフ周波数帯を除去するバンドパスフィルタを適用することができる。バンドパスフィルタは、必要な周波数である抵抗力に係る電気信号のみを通し、他の周波数である拍動に係る信号を通さない、もしくは、減衰させるものである。心タンポナーデを発症した患者の心拍数は心臓への圧迫によって上昇するが、患者個々の状態によって心拍数の乱れ等が生ずることから、心電計170の心電図から拍動周波数を取得することが望ましい。
【0036】
ここで本実施形態に係る周波数成分除去の一実施例を表した図2を参照する。図2は縦軸に穿刺応力、横軸に時間をとった応力の時間的推移を表している。ここで、実線のOriginalは、計測手段120によって取得された力の大きさを表す電気信号である。一点鎖線のNoise componentは、心電計170から取得した心拍数によるノイズである。破線のShear Stressは、心電計170の心電図から取得した拍動の周波数成分に応じてカットオフ周波数帯を設定し、カットオフ周波数帯を除去するバンドパスフィルタを適用した応力となる。このように周波数成分除去手段130は、施術の際に患者の心電図から心臓の拍動を取得できるため、確実に拍動による外乱を除去でき、より正確な穿刺時の応力を計測することできる。
【0037】
応力変換手段140は、拍動による周波数成分が除去された計測手段120の電気信号を要すれば増幅させて、穿刺針110の先端の抵抗力を穿刺応力として出力する。計測手段120をロードセルとしたときには、ひずみゲージの校正、信号の増幅を行うロードセル用アンプを適用することができる。応力変換手段140が出力した穿刺応力の電気信号は、判断評価手段150へ送出される。
【0038】
判断評価手段150は、マイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサCPU、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップを格納するROM、およびCPUによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。判断評価手段150は、不揮発性のメモリを備えており、必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。
【0039】
判断評価手段150は、心膜12,13、心筋16の応力範囲が格納されたクライテリアテーブル154を備える記憶手段152および応力変換手段140から送出された穿刺応力を蓄積して穿刺応力の応力時間的推移157を記録する記録手段155を備えている。
【0040】
判断評価手段150は、応力時間的推移157の応力をクライテリアテーブル154に照合して、測定値が心膜の応力範囲か、心筋の応力範囲か、もしくはいずれの応力範囲にも含まれていない小さい値かを判定する。これを図式的に表すと、判定例158に示すようになるが、実際はディジタル値を不等式によって判定している。
【0041】
本実施形態に基づき、試作機を製作して、豚の心臓を用いて応力データを取得する試験を実施した。この試験内容について説明する。試作機では、最大測定応力10Nのロードセルを作製し、硬膜外穿刺用の同軸針挿入補助器具に取り付け、動ひずみ計測機とブリッジボックスを接続し測定システムを構成した。穿刺評価対象としては豚の摘出心臓から切り分けた心膜と心室筋を37℃に保温したものを用い、素材固定冶具に固定した。固定された素材に対し、心膜,心筋に18Gの穿刺針を穿刺し,穿刺応力電圧と穿刺距離を測定している。
【0042】
試験結果を元にした判定に使う応力範囲の一例を以下に示す。
【表1】
【0043】
判定範囲に示すように、心筋の応力範囲と心膜の応力範囲とは重複しておらず、これらの判定基準をクライテリアテーブル154に格納することで、判定例158のように穿刺部位を把握することを可能としている。
【0044】
報知手段160は、判断評価手段150の判定結果に応じて、表示や音などを用いて報知する。例えば、心膜12に到達したときには青色のランプを点灯させ、そこから急激な応力の上昇が見られ、穿刺針110の先端が心筋16に達したと判断評価手段150が判断すると、赤色のランプを点灯させるとともに警戒音を発する等の報知を行う形態とすることができる。
【0045】
このように、本実施形態によれば、穿刺針110が到達する心膜12、心筋16の順序を明確にすることで、クライテリアテーブル154にて応力範囲を設定し、穿刺針の到達状況を正確に把握することができる。また、心膜12による抵抗が減少したときが心嚢14に穿刺したものと見なすことができるため、心筋16を傷つけることなく穿刺を行うことを可能とし、さらに心筋16に到達したと見なされたときには、報知手段160によって警告を発生させる等の処理をすることで心臓への損傷を軽減させることができる。
【0046】
次に図3を参照して本発明の一実施形態に係る穿刺針の変形例を説明する。図3(a)は穿刺前、(b)は穿刺後の状態を表している。なお、図3では人体に合わせて、胸壁30と心膜12に間に空隙を設けている。
【0047】
市販されている心膜および胸腔穿刺用胸部ドレナージ用カテーテルは、通常18G(18ゲージ例:外径1.25mm±0.02、内径0.82mm±0.03)が使われ、この穿刺針を使用して胸壁から心膜まで穿刺している。
【0048】
係る構成の場合には、胸壁における抵抗力が大きく、測定される応力値が、計測システムに対して過大となって、計測できない可能性がある。
【0049】
図3(a)を参照すると、本変形例は、断面視2重管状の穿刺針であって、外筒側が第1穿刺針111と、内筒側が第2穿刺針112と、から構成されている。胸壁30に穿刺する前は、第1穿刺針111と第2穿刺針112とは先端を一にさせている。
【0050】
次に、図3(b)に示すように、第1穿刺針111が胸壁30に接触して穿刺を行い、先端の鋭角部分が胸壁を越えて心膜12まで到達すると、胸壁30の抵抗力が減少する。ここで第1穿刺針111は留置させる。
【0051】
次に第1穿刺針111を留置させた状態で、内筒側の第2穿刺針112を穿刺方向に進める。このように構成することで、胸壁による抵抗力は第1穿刺針111が負担し、胸壁の影響を受けない第2穿刺針112によって、心膜、心嚢液、心筋の穿刺応力を計測することができる。
【0052】
以上説明したように、難易度の高い心嚢穿刺術において、エコーやレントゲンだけに依存せず、かつ穿刺しすぎて心臓や肺に傷つけることのない安全な穿刺術を支援するために、穿刺応力検出装置を提供する提供することができる。なお、具体的な判定基準となるクライテリアテーブルは、人間以外の生体を用いた試験結果の積み重ねとともに、実際の施術時のデータ蓄積を行うことで、より精度を向上させることが好ましい。また、本装置を心タンポナーデ施術のトレーニング装置として利用することもできる。
【符号の説明】
【0053】
10・・・心臓
12,13・・・心膜
14・・・心嚢
16・・・心筋
18・・・心腔
20・・・心嚢液
30・・・胸壁
100・・・心嚢穿刺応力検出装置
110,111,112・・・穿刺針
115・・・把持部
120・・・計測手段
130・・・周波数成分除去手段
140・・・応力変換手段
150・・・判断評価手段
152・・・記憶手段
154・・・クライテリアテーブル
155・・・記録手段
157・・・応力時間的推移
160・・・報知手段

図1
図2
図3