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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】低層風情報提供システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 15/58 20060101AFI20230901BHJP
   G01S 13/95 20060101ALI20230901BHJP
   G01W 1/00 20060101ALI20230901BHJP
   G01S 15/88 20060101ALI20230901BHJP
   G01P 13/00 20060101ALI20230901BHJP
   B64F 1/36 20170101ALI20230901BHJP
【FI】
G01S15/58
G01S13/95
G01W1/00 C
G01S15/88
G01P13/00 E
B64F1/36
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019135305
(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公開番号】P2021018201
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-05-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成30年7月28日、鳥取砂丘コナン空港グランドオープンイベント、鳥取空港 (2)平成30年11月14日、第56回飛行機シンポジウム講演予稿集、講演番号2D08、一般社団法人日本航空宇宙学会及び公益社団法人日本航空技術協会 (3)平成30年11月15日、第56回飛行機シンポジウム、山形テルサ (4)平成30年11月14日、世界発信コンペティション2018年受賞企業パンフレット、東京ビックサイト (5)平成30年11月14日、産業交流展2018、東京ビックサイト (6)平成30年11月28日、国際航空宇宙展2018東京、東京ビックサイト
(73)【特許権者】
【識別番号】303057044
【氏名又は名称】株式会社ソニック
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】林 孝明
(72)【発明者】
【氏名】平井 重雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162514(JP,A)
【文献】特開2005-114416(JP,A)
【文献】特開2010-217077(JP,A)
【文献】特開2013-054005(JP,A)
【文献】特開2006-133203(JP,A)
【文献】特開2003-172778(JP,A)
【文献】特開2002-214346(JP,A)
【文献】特開平11-258358(JP,A)
【文献】特開平10-332727(JP,A)
【文献】米国特許第05105191(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
B64F 1/36
G01W 1/00
G01P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測場所における地表から所定の高さまでの領域における風についての情報を提供する低層風情報提供システムであって、
前記観測場所における高さごとの3次元風向及び風速を観測する風リモート観測装置と、
前記風リモート観測装置からの観測データを提供用のデータに変換する情報提供サーバーと、
を有し、
前記提供用のデータは、風の水平成分の変化及び鉛直流成分の強さをしきい値と比較して前記しきい値以上であるときに、前記しきい値以上の値が観測された高さとともに、前記しきい値以上の水平成分の変化及び鉛直流成分の強さが観測されたことを示す情報を含んでいる、低層風情報提供システム。
【請求項2】
前記提供用のデータは、第1の平均化時間で平均化された風の水平成分における高さごとの風向及び風速のデータを含み、
前記鉛直流成分の強さは、前記第1の平均化時間よりも短い第2の平均化時間によって平均化されて前記しきい値を比較される、
請求項1に記載の低層風情報提供システム。
【請求項3】
前記第1の平均化時間は2分以上であり、前記第2の平均化時間は30秒以上2分以下である、請求項2に記載の低層風情報提供システム。
【請求項4】
前記提供用のデータは、前記鉛直流成分が上昇流であるか下降流であるかを示す情報と航空機の上昇率または降下率を表すときと同じ単位で表した前記鉛直流成分の強さを示す情報とを含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の低層風情報提供システム。
【請求項5】
前記情報提供サーバは、前記観測データに基づいて航空無線用のテキスト文の形式で前記提供用のデータを生成する電文生成部を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の低層風情報提供システム。
【請求項6】
前記情報提供サーバは、前記観測データに基づいて端末の表示装置にグラフィカルユーザインタフェース形式で表示するための画面データとして前記提供用のデータを生成する画面生成部を有し、生成した前記画面データを前記端末に向けて送信する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の低層風情報提供システム。
【請求項7】
前記情報提供サーバは、過去の前記観測データを蓄積する記憶部を有し、
前記端末から要求があったときに、前記画面生成部は、前記要求で指定された期間における、風の水平成分における高さごとの風速の時間変化を示す第1のグラフと、風の水平成分における高さごとの風向の時間変化を示す第2のグラフと、高さごとの前記鉛直流成分の強さの時間変化を示す第3のグラフとを含む履歴画面のデータを生成し、
前記履歴画面のデータを前記端末に送信する、請求項6に記載の低層風情報提供システム。
【請求項8】
前記第3のグラフは、縦軸を高さ、横軸を時刻として、前記鉛直流成分が上昇流であるか下降流であるかを色の違いで示すとともに、前記鉛直流成分の強さの絶対値に応じて色濃度が変化するグラフである、請求項7に記載の低層風情報提供システム。
【請求項9】
前記風リモート観測装置は、遠隔からの指令に応じて前記風リモート観測装置の動作パラメータの設定を行う第1の制御部を備え、
前記情報提供サーバは、遠隔からの指令に応じて前記提供用のデータを提供するときのしきい値を変更する第2の制御部を備える、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の低層風情報提供システム。
【請求項10】
前記風リモート観測装置はドップラーソーダー観測装置である、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の低層風情報提供システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低層風に関する情報を提供する低層風情報提供システムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の離着陸経路上にウインドシアや乱気流などの気流の乱れ(擾乱)が存在すると、安全な離着陸の妨げとなる。特に、着陸空港において着陸経路上に大きな気流の擾乱が存在する場合には、着陸をいったん断念する着陸復行(ゴーアラウンド)などが発生することがあり、航空機の円滑な運航が妨げられる。滑走路近傍での比較的高さの低い領域(低層領域)での気流の擾乱は離着陸に大きな影響を与えるので、こうした擾乱に関する情報を航空機のパイロットなどに的確に提供することが望まれる。的確な情報がパイロットなどに提供されるようになれば、着陸復行の回数を減らすことが可能になるとともに就航率の向上も見込まれ、大きな経済的な利点が得られる。本発明は運航中の航空機に対する情報提供に関するものであるので、本明細書では、航空機運航に関して常用されている単位に基づき必要に応じて、高さ及び距離に関する単位としてフィート(ft:1ftは30.48cm)を使用し、速さに関する単位としてノット(kt:1ktは1.852km/h)を使用する。
【0003】
空港周辺の気流を測定する技術としては、従来から、空港敷地内に高さ10m程度の観測塔を設けて風向及び風速を観測するものがある。しかしながらこの方法では、上空の風の状態を知ることはできず、特に、風の擾乱についての情報を得ることが難しい。空港において風の擾乱を観測する手段としては、マイクロ波を使用するドップラーレーダーやレーザー光を使用するドップラーライダーによるものがあるが、これらはいずれも設置費用が高く、離着陸回数の多い大規模空港にしか設置できない。またドップラーレーダーは晴天時には観測が難しく、一方でドップラーライダーは降雨時の観測が難しいので、天候によらずに風の擾乱の観測を行うためにはドップラーレーダーとドップラーライダーとを組み合わせる必要があるが、レーダーからのデータとライダーからのデータとを整合させることが難しく、2台の観測機器を用いることから設置費用もさらに高額なものとなる。
【0004】
音波すなわち音響ビームを利用したドップラーソーダーは、設置費用が安く、小規模空港にも導入が可能であるという利点がある。特許文献1は、いずれもフェーズドアレイ型のものである1台の送受波器と少なくとも2台の受波器とを組み合わせたバイスタティック方式のドップラーソーダーシステムであって、例えば高さ200m(約660ft)までの範囲での風向及び風速を3次元的に求めることを可能にしたシステムを開示している。特許文献1に記載のドップラーソーダーシステムは、滑走路周辺に配置した場合には、ウインドシアやダウンバースト、後方乱気流の発生の監視を行うことができる。また特許文献2は、ドップラーソーダーによって上空の風の鉛直方向の速度を求め、高さごとの風の速度に基づき、大気中における乱流の程度を表す指標であるEDR(渦消散率:Eddy Dissipation Rate)を簡便かつ実時間で算出することを開示している。ドップラーレーダー、ドップラーライダー及びドップラーソーダーは、風の向きや速さをリモートで計測できるものであるから、以下では、風リモート観測機器と総称する。
【0005】
特許文献3は、低層風に関する情報を飛行中の航空機のコックピットなどに提供してその航空機の着陸判断を支援するシステムを開示している。特許文献3の着陸判断支援システムは、着陸経路上における滑走路方向に沿った風速の正対風成分の高度に対する変化を示すグラフを含むグラフ画面と、着陸経路上における所定高度ごとの風速の正対風成分を示す表を含む表形式画面とを生成してコックピットの表示装置などに表示させる。表示されるグラフ及び表は、ドップラーレーダーなどの気象センサによって取得された着陸経路上の複数の所定高度における風向データ及び風速データを基に生成されて、指定高度以下における最新及び過去の正対風成分の変化を表すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-58193号公報
【文献】特開2013-185850号公報
【文献】特開2017-162514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
安全な離着陸のためには、滑走路近傍での比較的低い高さでの風の状態、特に、鉛直流(下降流及び上昇流)の存在の有無とその強さとを知ることも重要である。特許文献3に開示される着陸判断支援システムにおいても、鉛直流に関する情報は提供されない。
【0008】
本発明の目的は、鉛直流に関する情報も含めて低層風に関する情報を提供することが可能な低層風情報提供システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の低層風情報提供システムは、観測場所における地表から所定の高さまでの領域における風についての情報を提供する低層風情報提供システムであって、観測場所における高さごとの3次元風向及び風速を観測する風リモート観測装置と、風リモート観測装置からの観測データを提供用のデータに変換する情報提供サーバーと、を有し、提供用のデータは、風の水平成分の変化及び鉛直流成分の強さをしきい値と比較してしきい値以上であるときに、しきい値以上の値が観測された高さとともに、しきい値以上の水平成分の変化及び鉛直流成分の強さが観測されたことを示す情報を含んでいる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3次元風向及び風速を観測することにより滑走路方向に沿った風速の正対風成分及び滑走路方向に直交する横風成分と、さらには鉛直流に関する情報も含めて、低層風に関する情報を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の一形態の低層風情報提供システムの構成を示すブロック図である。
図2】運航支援用端末における画面表示の一例を示す図である。
図3】航空機に送信されるテキスト文の内容の一例を示す図である。
図4】履歴画面の一例を示す図である。
図5】履歴画面における鉛直流についてのグラフを説明する図であって、(a),(b)は、それぞれ上昇流と下降流の変化を示すグラフである。
図6図5の履歴画面に対応した、高さごとの鉛直流の強さの変化を示すグラフである。
図7】履歴画面を用いた評価例を示す図である。
図8】平均化時間の違いによる鉛直流の強さの違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明に基づく低層風情報提供システムの構成を示している。この低層風情報提供システム10は、航空機の運航に役立てるために、滑走路の端部における地表から着陸決心高(DH; Decision Hight)を含む所定の高さ(例えば300ft)までの範囲の高さごとの低層風の状況に関する情報を航空機のパイロットや航空会社の地上スタッフが用いる運航支援用端末42などに対して提供するものである。提供される情報には、鉛直流に関する情報が含まれるようにする。高さごとの風の状況を観測するために、本実施形態の低層風情報提供システムは、風リモート観測装置を使用する。風リモート観測装置としては、ドップラーレーダーやドップラーライダーを使用することが可能である。しかしながらドップラーレーダーやドップラーライダーは、通常、航空機の滑走路への一般的な進入角度に合わせて約3度の仰角でマイクロ波ビームやレーザー光を照射して気流を観測するので、空港近傍の数kmの範囲での水平風における擾乱の検出には適しているものの滑走路近傍での低層での鉛直流の検出には必ずしも適していない。ドップラーレーダーやドップラーライダーを用いて鉛直流の観測を行うためには、航空機の進入経路上での気象の状態を監視するためのドップラーレーダーやドップラーライダーのほかに、鉛直流を観測するための気象センサを別途設けることが必要となり、コスト面では不利となる。そこで本実施形態では、低層風情報提供システムにも設けられる風リモート観測装置としてドップラーソーダー観測装置20を用いる場合を説明する。
【0013】
図1に示す低層風情報提供システム10は、空港において滑走路の端部の近傍に配置されるドップラーソーダー観測装置20と、ドップラーソーダー観測装置20で得られた観測データに基づき提供用のデータを生成する情報提供サーバー30とから構成されている。ドップラーソーダー観測装置20と情報提供サーバー30との間は、低層風情報提供システム10には含まれなくてもよいネットワーク41を介して接続されている。ネットワーク41としては、専用線ネットワークのほかにインターネットを利用することができる。提供用のデータは、航空会社の地上スタッフが用いる運航支援用端末42に対しては、グラフィカルユーザインタフェース形式で、すなわち運航支援用端末42の表示画面に表示される画面データの形態でネットワーク41を介して送信され、航空機のパイロットに対しては例えばテキスト文として生成されてネットワーク41を介して例えばACARS(automatic communications addressing and reporting system)である航空無線システム43に送られ、航空無線システム43から航空機に送信される。運航支援用端末42は、例えばパーソナルコンピュータなどによって構成されてインタラクティブな操作が可能であり、情報提供サーバー20からの画面データを表示するほか、情報提供サーバー20に対してグラフィカルユーザインタフェースを用いてコマンドを入力することなども可能である。さらに本実施形態では、遠隔地にいる管理者がこの低層風情報提供システム10を制御できるように、ドップラーソーダー観測装置20及び情報提供サーバー30に対し、ネットワーク41を介して同一の制御用PC(パーソナルコンピュータ;personal computer)40が接続されるようにしてもよい。なお図1においてネットワーク41は複数個所に分散して描かれているが、図1に示されるネットワーク41は、全体として単一のネットワークであっでもよい。なお、運航支援用端末42及び航空無線システム43は既存のものであってよく、既存のものであれば運航支援用端末42から航空無線システム43を介して航空機側にメッセージなどを直接送ることができるようになっている。
【0014】
ドップラーソーダー観測装置20は、滑走路の端部の近傍での地表から例えば300ftの高さまでの範囲での風の擾乱を観測するために設けられている。情報提供サーバー30は、空港の立ち入り制限区域内に設置されるドップラーソーダー観測装置20に対してネットワーク41を介して接続されており、空港におけるターミナルビルや管理棟などのほか、ネットワーク41としてインターネットを使用する場合であれば、空港外の外部サーバーなどに設けることが可能である。ドップラーソーダー観測装置20としては、例えば特許文献1に記載されたような、フェーズドアレイ型の送受波器及び受波器を有するバイスタティック型のドップラーソーダーシステムを好ましく用いることができる。ドップラーソーダー観測装置20として特許文献1に記載されたバイスタティック型のドップラーソーダーシステムを使用するものとして、ドップラーソーダー観測装置20は、上空に音響ビームを放射しこの音響ビームからの散乱波を受信する送受波器21と、送受波器から放射された音響ビームからの散乱波を受信する少なくとも2つの受波器22,23と、ドップラーソーダー観測装置20の全体の制御を行う制御部24と、送受波器21及び受波器22,23での観測結果から観測データをネットワーク41を介して情報提供サーバー30に送信するデータ変換部25と、与えられた動作パラメータに基づいて送受波器21及び受波器22,23からなる観測ユニットを駆動するソーダー駆動部26と、を備えている。制御用PC40は、ネットワーク41を介して制御部24に接続される。遠方の管理者は、制御用PC40からネットワーク41を経由してドップラーソーダー観測装置20の制御部24にアクセスすることができ、ドップラーソーダー観測装置20の運転制御や観測データの監視・回収などを行うことができる。特に、制御部24はソーダー駆動部26を制御することができるので、管理者は、制御用PC40からドップラーソーダー観測装置20の動作パラメータを変更することができる。動作パラメータについては後述する。
【0015】
図示した例では、ドップラーソーダー観測装置20は、空港において滑走路50の01端に近接して、航空機の運航に支障を与えないように地上に設置される。滑走路50において航空機の着陸する方向が定まっている場合には、滑走路50の着陸進入側の端部に近接してドップラーソーダー観測装置20は設けられる。図示したものでは、2つの受波器22,23が、それらによって送受波器21を挟んで形成される角が例えば90°となるように配置されている。
【0016】
本実施形態では、特許文献1に記載されるように、ドップラーソーダー観測装置20は、例えば高さ30ft刻みでその設置場所の上空の3次元での風向及び風速を例えば3秒間隔で観測することができる。特にフェーズアレイ型の構成であることにより、音響ビームの収束位置や発射及び受波方向の制御によって、滑走路50の端部の位置の上空での3次元風向及び風速を所定の高さ(例えば30ft)ごとに観測することができる。以下では、ドップラーソーダー観測装置20の設置場所あるいは滑走路50の端部であって、その場所の上空での3次元風向及び風速が観測される場所を観測場所と呼ぶ。本実施形態では、滑走路50の端部の上方の、例えば70ft、100ft、130ft、160ft、200ft、230ft、260ft及び300ftの各高さ(観測高さという)での3次元風向及び風速を観測するものとする。これとは別に、観測場所における高さ6ftでの水平方向での風向及び風速も計測する。3次元での風向及び風速とは、水平面内での風向及び風速だけではなく、風の流れの鉛直成分すなわち鉛直流を測定して上昇方向(上昇流)及び下降方向(下降流)の風速を求めることを意味する。ドップラーソーダー観測装置20からは、高さごとに、風の水平成分における風向及び風速の観測データと、鉛直流の向き(上昇流か下降流か)及び大きさの観測データとが情報提供サーバー30に定期的に送られる。鉛直流の向きを含めて鉛直流の強さを表すときは、正の値で上昇流を表し、負の値で下降流を表す。
【0017】
ドップラーソーダー観測装置20は、滑走路50の端部の上空での高さごとの3次元風向及び風速を観測することはできるが、空港の周囲の例えば数kmの領域の気象の状況を知ることはできない。航空会社などにおいてフライトプランを検討する際には空港の周囲の気象の状況も有用であるから、本実施形態の低層風情報提供システム10では、情報提供サーバー30が空港の周囲の気象の状況についての外部データを取得し、それを運航支援用端末42に表示できるようにしている。外部データとしては、気象庁から提供されるメッシュ形式での降水強度分布データなどを用いることができる。
【0018】
情報提供サーバー30は、図1に示すように、情報提供サーバー30の全体の制御を行う制御部31と、ドップラーソーダー観測装置20から受信した観測データを格納する記憶部33と、運航支援用端末42からのコマンドを受けるとともに運航支援用端末42に表示する画面データを生成する画面生成部34と、航空無線システム43を介して航空機に送信すべきテキスト文を生成する電文生成部35とを備えている。情報提供サーバー30は、運航支援用端末42に対しては、運航支援用端末42からの求めに応じてドップラーソーダー観測装置20による現在及び過去の観測データや外部から入手した降水強度分布データを提供するウェブサーバーとして機能するものである。制御用PC40は、ネットワーク41を介して制御部31に接続される。制御部31は、情報提供サーバ30によって運航支援用端末42や航空機に対して情報を提供するときの提供用データ作成のためのしきい値パラメータの変更などを行うことができる。したがって、遠方の管理者は、特に航空機に対し、風速などで規定されるしきい値に応じてアラート(注意喚起)情報を含むデータを提供するときに、制御用PC40からの操作により、データ提供時のしきい値を変更することができる。
【0019】
図2は、画面生成部34が生成して運航支援用端末42の表示装置に表示される画面61の一例を示している。図2では丸付き文字を使用して画面を説明しているが、本明細書中では、文字を“[”と“]”とを挟むことによって丸付き文字を表現するものとする。例えば丸付き文字の“X”を“[X]”と表す。図2に示す画面61では空港コードがRJXXである空港の滑走路番号01の滑走路(RWY)についての情報が表示されている。滑走路の両側にドップラーソーダー観測装置20が設けられている場合には、同じ滑走路の19端についての情報も提供可能であるから、[A]で示すプルダウンメニューで滑走路番号の選択を行うことができる。複数の滑走路を有する空港であれば、同様に、他の滑走路についても選択可能である。
【0020】
図2に示す画面61では、ドップラーソーダー観測装置20によって観測された風(WIND)についての情報が表示されているが、[B]で示すプルダウンメニューで雨(RAIN)を選択すれば、その選択が画面生成部34に伝えられ、それに応じて画面生成部34は降水強度データを取り込んで空港周辺の例えば250mメッシュでの降水強度分布の画像を運航支援用端末42に表示させる。画面61の領域[C]は、観測時刻(OBS. TIME)を示している。図示したものでは協定世界時(UTC)により時刻が表示されているが、適切な地方時での表示も可能である。[D]は自動更新(Auto Update)モードとするかどうかを選択するトグルボタンである。自動更新モードのときは、最新の観測データが画面61に表示され、時間の経過とともに画面61が更新される。一方、自動更新モードが解除されているときは、領域[C]の時刻が表示されている入力枠内に過去の日付及び時刻を入力すれば、その入力が画面生成部34に受け付けられ、画面生成部34は、入力された日付及び時刻の風の観測データを記憶部33から呼び出して、呼び出した観測データに基づく表示画面を生成して運航支援用端末42に表示させる。領域[E]は、画面61において風況の時間変化をアニメーションにより表示するためのアイコンボタンなどを表示している。アニメーション表示を実行させると、例えば、60分前(-60Min)から最新(Latest)の観測時刻までの風の変化が画面61に表示されることになる。
【0021】
画面61において[1]は、観測場所での高さ(AGL)ごとの水平風の状態、具体的には風向(DIR)と風速(SPD)と正対風成分の速度(HW)と横風成分の速度(XW)とが示されている。「GND」は観測場所での高さ6ftでの風向及び風速を示している。これらの観測値は、航空気象での通常の取り扱いに基づき、2分間の平均値として示されている。図示した例には含まれていないが、例えば正対風成分または横風成分の速さの最大値がそれらの平均値より例えば10kt以上大きい場合には、その旨がガストとして表示される。同様に、高さあたりの正対風成分あるいは横風成分の変化量が所定の値以上となる場合には、例えば高さが100ft異なるときに正対風成分あるいは横風成分の速さの平均値が例えば10kt以上異なるときに、その旨がウインドシア(高度シア)として表示される。[2]は観測場所での正対風成分の高さ分布をグラフとして示したものであり、[3]は横風成分の高さ分布をグラフとして示したものである。[2]及び[3]において、細い実線は0ktを示し、太い実線は平均値を示し、点線は最大値および最小値を示している。実際の画面61では、実線であるか点線であるかが異なるだけでなく、表示色も異なっており、容易に識別できるようになっている。また、[2]や[3]のグラフにおいて、ガストやウインドシアの発生が検出された高度帯については、その高度帯に該当する部分の地の色を変えて強調表示を行うことが好ましい。ガストやウインドシア(高度シア)として検出するときのしきい値は、上述のように、制御用PC40からの制御によって変更することができる。なお、[1]において高さ(AGL)を示す数値の上下方向での表示位置は、地上からの高さに応じた位置となっており、[2]及び[3]、そして以下に説明する[4]のグラフでの高さ軸での各高さにも対応している。
【0022】
画面61において[4]は、観測場所の上空での鉛直流の状態をグラフ表示している。水平方向での風成分ではないので、時間当たりの距離を表す単位であるkt(ノット)によって鉛直流を表すことは運航乗務員にとって直観的ではなく、ここでは航空機の上昇率または下降率の単位に合わせてft/分(あるいはfpm(feet per minute))を単位として鉛直流を表現している。鉛直流の強さは、水平風と同様に2分間の平均値で表すことができる。しかしながら後述するように、鉛直流については平均化の時間を短くする方が、パイロットの着陸動作の支援するためのよりよい情報となることが分かっている。例えば1分間の平均で鉛直流の強さを表すことが好ましい。図2に示す例では、鉛直流の強さが例えば300ft/分以上となった場合に、注意喚起のため、その鉛直流が下降流であれば下向きの例えば赤色の矢印が示され、上昇流であれば上向きの例えば青色の矢印が示される。一般的なジェット旅客機の着陸時の降下率は700ft/分程度であり、降下率が1000ft/分以上となれば安定した進入(stabilized approach)とは言えなくなるので、1000ft/分と700ft/分との差である300ft/分を、強い鉛直流成分があることを示すための矢印表示を行うか否かのしきい値とすることができる。このしきい値は、空港の地形的状況や運航する航空機の大きさなどに応じて変化させることができる。
【0023】
画面61において[5]の領域には、ガスト、ウインドシアあるいは強い鉛直流成分を検出したときに、注意を喚起するために、風変化を示す情報文が表示される。この情報文の表示は、注意喚起のためのものであるので、新たな事象が発生しない限り、ガストなどの発生を検出してから少なくとも所定の時間(例えば10分間)は継続する。図示した例は、協定世界時で5:46(0分前)に、高さ300ftから100ftの間において、-500ft/分の下降流(DN DFT)が観測されたことを示している。
【0024】
[6]の「ACARS」と記載されたボタンは、航空無線システム(ACARS)43に対応したテキスト文(電文)を作成し、表示するためのものである。画面61において「ACARS」のボタンをクリックすることによって、その旨が情報提供サーバー30において画面生成部34から電文生成部35に伝えられ、電文生成部35は、現在の風の状態に関するテキスト文を自動的に作成する。このテキスト文は、航空無線システム43を介して送信可能な形式となっている。作成されたテキスト文は、画面生成部34を介して運航支援用端末42に送信され、運航支援用端末42において別画面として表示される。図3は、作成されたテキスト文の一例を示している。このテキスト文の内容は、基本的には図2に示す画面61における[1]、[2]、[3]、[4]及び[5]の表示内容をテキスト形式で表したものであり、[2]、[3]のグラフについても等幅文字を用いることによって図形的に表している。鉛直流に関連して画面61の[4]の領域における下向きの矢印が表示されていることは、テキスト文では「DN」で示されている。図3には示されていないが、[4]の領域において上向きの矢印が表示されていることは、テキスト文では「UP」で示される。
【0025】
航空無線システム43に対応するテキスト文が運航支援用端末42に表示されたら、そのテキスト文を運航者が有するACARS用の情報送信ソフトウェアにコピー・アンド・ペーストすることによって、航空無線システム43を介して飛行中の航空機に対してこのテキスト文を送信することが可能になる。さらに、現在の風の状態に関するテキスト文を電文生成部35から航空機に対して航空無線システム43を介して直接送信することも可能である。テキスト文を航空機に対して直接送信できるようにすれば、航空機側からの要求により、航空会社の地上スタッフを介さずに、風の状態に関するテキスト文をその航空機に即時に送信することが可能になる。航空機においてインターネットに接続した機内Wi-Fiシステムを使用できる場合には、その航空機の操縦席において画面61を見ることも可能である。本実施形態の低層風情報提供システム10では、ドップラーソーダー観測装置20による上空の風の鉛直流成分の観測データに基づいて、航空機の一般的な着陸降下率に応じて定められるしきい値に基づき鉛直流成分が上昇流であるか下降流であるかを示す情報(上向き矢印及び下向き矢印での表示、あるいは「UP」及び「DN」の表示)と航空機の上昇率または降下率を表すときと同じ単位(すなわちft/分またはfpm)で表した鉛直流成分の強さを示す情報とを含むようにデータ提供を行うので、航空機の運航、特に着陸時における運航に役立つ形態で航空機や運航支援用端末42に対して情報提供を行うことができる。
【0026】
図2に示す画面61において[7]の領域では、過去5分間の1分ごと高さごとの水平風に関する数値表示がなされる。ここに示される数値は、風向、風速、正対風成分及び横風成分の2分間平均値である。ガストやウインドシアが観測された場合には、該当する数値を含む表示セルを例えば色を異ならせることによって強調表示する。[8]に示す「History」のボタンは、過去の所定時間(例えば12時間)にわたる風の情報を示す履歴画面を運航支援用端末42に表示するためのものである。履歴画面については後述する。[9]の領域には、低層風情報提供システム10が設けられた空港の周辺の地図が表示される。この地図において、ドップラーソーダー観測装置20の設置場所が「Obsevation Point」として示されている。
【0027】
次に、履歴画面について説明する。図2の画面61の「History」ボタンをクリックしたときに、図4に一例を示す履歴画面62が表示される。履歴画面62は、情報提供サーバー30の画面生成部34が、記憶部33から観測データを読み出して生成するものであり、自動更新モードであれば現在時刻を終了時点とする過去の所定時間にわたる風の情報を示すものである。自動更新モードが解除されているときは、その時点で画面61の領域[C]において指定されている時刻を終了時点とする過去の所定時間にわたる風の情報が表示される。ここで所定時間は、履歴画面62上のボタン63をクリックすることによって、例えば1時間(1 hour)、3時間(3 hour)、6時間(6 hour)及び12時間(12 hour)の中から選択することができる。「BACK」と記載されたボタン63は、元の画面61に戻るために用いられる。
【0028】
図4に示す履歴画面62は、ある日の協定世界時で2:30から3:30までの1時間の風の状態を観測した結果を示したものである。一番上のグラフ71は、高さごとの水平成分の風速を示し、2番目のグラフ72は高さごとの水平成分の風向を示している。図示される観測結果では、西北西から北西の風が吹き、風速も高さ200ftにおいて20から25ktと大きかった。この時間帯ではガストの発生が確認されている。
【0029】
一番下のグラフ73は、縦軸を高さ、横軸を時刻として、鉛直流の強さの高さ分布を示しており、鉛直流が強いほど、濃色で表示されている。実際の画面では上昇流が青色、下降流が赤色で示されるが、図4はカラー画像をグレースケールで表現したものであるので、この図からは上昇流か下降流かが区別できない。そこで図4に示すグラフ73の青成分を抜き出したものを図5(a)に示し、赤成分を抜き出したものを図5(b)に示す。図5に示したものでは、時刻2:47(図示矢印a)、時刻2:57(矢印b)及び時刻3:29(矢印c)において強い上昇流が観測されている。図6は、図4に示すグラフの元となるデータであって、図4に表示されている時間範囲のうちの最初の10分間を除いた時間範囲における高さごとの鉛直流の強さの時間変化を示している。図6における矢印a~cは、それぞれ図4で矢印a~cで表す時刻と同じ時刻を示している。なお図6に示すグラフは、2分平均で鉛直流の強さを示したものである。特に、時刻2:56及び時刻3:30には、空港に進入する航空機が強い上昇流を感じて操縦の修正操作が行われたことが報告されている。本実施形態の低層風情報提供システム10で得られる鉛直流の強さは、実際に航空機を操縦しているパイロットの体感に概ね一致していることが分かった。
【0030】
本実施形態の低層風情報提供システム10によれば、空港に離着陸する航空機の運航に大きな影響を与える低層での鉛直流の状態についての情報を取得することができ、航空機の運航における鉛直流の影響を的確に評価することができるようになる。鉛直流の強さがあるしきい値(例えば300ft/分)以上となったときに注意喚起を行うことによって、この低層風情報提供システム10は、航空機のより安全な運航に寄与することができる。また、着陸復行などとなった場合に履歴画面62から復行当時の風の状況を定量的に知ることができるから操縦操作の妥当性の検証などにも役立ち、操縦訓練などに際しても低層風情報提供システム10は有効である。
【0031】
図7は、海岸近くに位置するある空港において、晴天の日中の風の状態を履歴画面62として表示させた例を示している。ここでは時刻は地方時で表されており、7:00から13:00までの6時間の風の状態が示されている。ここでも一番上のグラフは水平成分での風速を表し、2番目のグラフは水平成分での風向を示し、3番目のグラフは鉛直流の強さの高さ分布を示している。この空港は海陸風の影響を受けやすい空港であるが、全体として水平風は10kt程度以下であって穏やかである。風向が大きく変化していることからも分かるように、9:30から10:00の間に陸風から海風への風向変化が起きている。この風向変化のタイミングで鉛直流では、強い上昇下降流が観測されている。このことから、この空港は、海陸風の風向変化に伴って水平風が弱くても強い鉛直流が吹くという特徴を有することが分かる。空港ごとの特徴は、これまでは複数のパイロットの経験に基づいて定性的には知られていたが、本実施形態の低層風情報提供システム10によれば、履歴画面62を用いることにより、特に鉛直流について空港ごとの特徴を定量的に把握することが可能になる。
【0032】
次に、本実施形態の低層風情報提供システム10における鉛直流の強さの時間平均を求めるための平均化時間について説明する。上述したように、航空気象の分野では、水平風については風向及び風速ともに2分間平均値、すなわち平均化時間を2分とする移動平均値が広く用いられている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、鉛直流の強さを表すために用いる平均化時間は2分よりも短くすることが好ましいことが分かった。図8は、図4に示した履歴画面63を生成する際に用いた鉛直流の強さについての実観測データを異なる平均化時間で平均化した結果を示している。この例では、時刻2:57において強い上昇流が観測され、ほぼ同時刻である2:56には、着陸進入中の航空機においても上昇流を感じて操縦の修正が行われている。図8は、時刻2:56を含む時刻2:50から時刻3:00までの10分間の鉛直流の高さごとの強さを示すグラフであり、(a)は2分間平均で強さを表し、(b)は1分間平均で強さを表し、(c)は30秒平均で強さを表している。平均化時間が2分では平均化されて強い鉛直流とは言えないが、平均化時間が1分とするとしきい値である300ft/分を超える鉛直流として検出され、平均化時間が30秒であれば400ft/分を超える鉛直流として検出される。
【0033】
航空機において強い鉛直流を感じたという事象と、低層風情報提供システム10として強い鉛直流を検出したという事象との関係を調べると、平均化時間が2分であると、航空機側で感じた強い鉛直流を低層風情報提供システム10では検出できないことがあったが、平均化時間を1分とすることにより、航空機側で検出した強い鉛直流と低層風情報提供システム10で検出した強い鉛直流が概ね一致するようになった。航空機が小型である場合は、より小スケールの風の擾乱の影響を受けやすくなるので、小型機の操縦感覚に合わせて低層風情報提供システム10において強い鉛直流を検出するためには、より短い平均化時間、例えば30秒の平均化時間の方が好ましい可能性がある。したがって、旅客機サイズの航空機を対象として本実施形態の低層風情報提供システム10を運用する場合には、水平風については平均化時間は2分のままでよいと考えられるが、鉛直流については平均化時間を2分未満とし、例えば1分とすることが好ましい。
【0034】
次に、ドップラーソーダー観測装置20に設けられた制御部24及びソーダー駆動部26によるドップラーソーダー観測装置20の制御とその動作パラメータの設定とについて説明する。ドップラーソーダー観測装置20自体は、通常、滑走路50の端部近くに設けられるので、空港の運用時間中には近づくことが困難である。一方、ドップラーソーダー観測装置20は、フェーズドアレイ型の送受波器21及び受波器22,23を使用しており、測定高度や測定周波数、音響出力、音響パルス幅などの設定と制御が可能である。上述したように本実施形態では、ソーダー駆動部26は制御部24によって制御され、制御部24にはネットワーク41を介して制御用PC40が接続しており、制御用PC40からドップラーソーダー観測装置20を遠隔制御することができる。制御用PC40からの制御によって設定可能なパラメータや実行可能な制御の内容は以下の通りである。
【0035】
(1)測定高度の変化に音響出力及び音響パルス幅の最適化:
ドップラーソーダー観測装置20は音波を使用するので、周囲環境などによっては必要な高さまでの測定を行えないことがある。測定高度が不足する場合には、送信される音響ビームの出力を増大したり、パルス幅を広げことで探知能力を向上させる。通常時には、周辺への音漏れを低減するために、音響出力を小さくしたモード(パワーセーブモード)でドップラーソーダー観測装置20を運転する。
【0036】
(2)周波数変更による周囲音響雑音帯域と固定反射を回避した測定機能の維持
周辺雑音と同じ周波数を用いて測定を行うと精度の高い測定を行うことができない。また、ドップラーソーダー観測装置20の周辺の固定物体からの反射波による影響を軽減することが望まれる。音響ビームの周波数を変更することによって、周辺雑音の影響を低減することができ、またビームパターンが変化して固定物体から反射波の影響を低減することができる。
【0037】
(3)音響素子の感度変化及びエコー強度の変化に対応した受信機感度の適正化:
送受波器21や受波器22.23に用いる音響素子は経時変化によって感度が低下することがある。また、環境条件によっては上空の風からのエコーが弱い状態が続くことがある。このように音響素子の感度が低下したりエコーが弱い状態が続くときには、送受波器21及び受波器22,23における受信感度を上昇させる。
【0038】
(4)位相合成時のテーパー係数変更による最適なビームパターンへの変更:
特許文献1に記載されるように、フェーズドアレイ型のドップラーソーダー観測装置20では、送受波器21及び受波器22,23の各々ごとに信号の位相合成を行っている。位相合成では、テーパー(taper)係数(シェーディング係数ともいう)というパラメータを用いるが、テーパー係数を変化させることによって、より最適なビームパターンへの変更が可能であり、固定物体からの反射波の影響を回避したり、指向性を向上させることによるパワー増大が可能である。テーパー係数の変更によって音響ビームの中心の指向性が鋭くなり、例えば9dB程度のパワー増大が可能である。しかしながらこのようにしてパワーを増大した場合には、指向性におけるサイドローブが増大して周辺の固定物体からの反射を拾いやすくなることがある。
【0039】
(5)空港の運用時間等の変更に対応した装置運転時間の変更設定:
ドップラーソーダー観測装置20は、音波を発生する装置であることもあり、空港の運用時間外には運転を停止した方が好ましい場合がある。このため、あらかじめ内蔵タイマなどによりドップラーソーダー観測装置20の起動と停止とを制御することがあるが、空港の運用時間が変更になった場合には、ドップラーソーダー観測装置20の起動時刻と停止時刻とを変更しなければならない。そこで制御部24からの設定によって、ソーダー駆動部26の内蔵タイマによる起動時刻と停止時刻とを変更する。
【0040】
以上説明した低層風情報提供システム10を用いることにより、水平流だけでなく鉛直流の状態も含めて観測場所における低層風の状態を的確に知ることができるようになり、空港に設置した場合には、着陸復行の回数の減少や就航率の向上といった効果が得られるとともに、着陸復行やダイバートを行うことによって余計に消費されることとなる燃料を節約することも可能になる。
【符号の説明】
【0041】
10 低層風情報提供システム
20 ドップラーソーダー観測システム
21 送受波器
22,23 受波器
24,31 制御部
25 データ変換部
26 ソーダー駆動部
30 情報提供サーバ
33 記憶部
34 画面生成部
35 電文生成部
40 制御用PC
41 ネットワーク
42 運航支援用端末
43 航空無線システム(ACARS)
50 滑走路
61 画面
62 履歴画面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8