(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】タイル取付用ブラケットレール及びそれを用いた乾式タイルの施工法並びに乾式タイル壁面構造
(51)【国際特許分類】
E04F 13/08 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
E04F13/08 101U
(21)【出願番号】P 2019201457
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019087808
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509298562
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】原 裕之
【審査官】荒井 隆一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/234772(WO,A1)
【文献】特開2006-214129(JP,A)
【文献】特開2001-027031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00-13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上のタイルと下のタイルとの間に配置されるようにタイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ設置されて上下1組で用いられることにより、建物躯体に前記タイルを取り付けるタイル取付用ブラケットレールにおいて、
上のタイルのタイル下端を受け支え
て前記建物躯体から一定距離以上離れるのを
上規制部で規制する上受け部と、
下のタイルのタイル上端側が前記建物躯体から一定距離以上離れるのを
下規制部で規制する下受け部と、前記上受け部と前記下受け部とを支持し前記建物躯体に取り付けるレール本体と、前記
下のタイルのタイル上端の近傍をタイル裏面側から前に押し出す水平方向ばね部とを備え、
かつ、前記下受け部の前記下規制部は、前記下のタイルのタイル上端部の表面と接触する後側稜線部と前記上のタイルのタイル下端部の裏面に接触する前側稜線部とを有し、
前記後側稜線部と前記前側稜線部とが前記下のタイルの前記タイル上端部の表面と前記上のタイルの前記タイル下端部の裏面とに同時に接触することによって、前記上のタイルと前記下のタイルとの間の前後への動きを弾力的に拘束すると共に前記水平方向ばね部との間で前記タイル上端部を弾力的に挟み付け、
前記上のタイルと前記下のタイルとの間の前後方向への動きを前記下規制部と前記上規制部と前記水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束させるものである
ことを特徴とするタイル取付用ブラケットレール。
【請求項2】
前記上受け部と前記下受け部と前記水平方向ばね部及び前記レール本体とは1枚のばね鋼板によって一体成形されていることを特徴とする
請求項1記載のタイル取付用ブラケットレール。
【請求項3】
前記下受け部には、
前記下のタイルの前記タイル上端を押下して
前記タイル下端部に配置された組を成す他のタイル取付用ブラケットの前記上受け部に前記タイル下端を密着させる
鉛直方向ばね部を備えることを特徴とする請求項1または2記載のタイル取付用ブラケットレール。
【請求項4】
前記水平方向ばね部は、前記レール本体の一部を切り欠いて形成したばね性を有する爪あるいは前記レール本体とは別体のガスケットであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のタイル取付用ブラケットレール。
【請求項5】
前記
鉛直方向ばね部は、前記上受け部のタイル下端を受け支える水平部の一部を切り欠いて形成した爪あるいは前記水平部とは別体のガスケットであり、前記タイル上端を押し下げるように付勢するものである請求項
3記載のタイル取付用ブラケットレール。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載のタイル取付用ブラケットレールを建物躯体の外壁面の縦胴縁あるいはその他の下地材に
タイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ配置される間隔を上下方向にあけて水平方向に複数列取り付ける工程と、
上下の前記タイル取付用ブラケットレールを1組として、下側の前記タイル取付用ブラケットレールの前記上受け部の上にタイル下端
部を載せ
、組を成す上側の前記タイル取付用ブラケットレールの
前記下受け部
の前記下規制部と前記水平方向ばね部
との間の空間にタイル上端
部を
それぞれ嵌合させて、前記下規制部の前記前側稜線部で上のタイルのタイル下端部の裏面が受け支えられると同時に、前記下規制部の前記後側稜線部が下のタイルのタイル上端部の前面に押しつけられると共に前記水平方向ばね部との間で前記タイル上端部が弾力的に挟み付けられるようにタイルを装入する工程とを有し、
前記上のタイルの前記タイル下端部と前記下のタイルの前記タイル上端部との間の前後への動きを前記下規制部と前記上規制部と前記水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束しつつ摩擦抵抗により前記タイルが上に持ち上がることを抑制し
、上下の前記タイル取付用ブラケットレール間に前記タイルを係止させる
ことを特徴とする乾式タイルの施工法。
【請求項7】
前記後側稜線部が押し当てられる前記タイル
上端部の表面を前記後側稜線部が引っ掛かる粗面とし、前記後側稜線部の動きに逆らった抵抗を与えて前記タイルの持ち上がりの動きを制動することを特徴とする請求項
6記載の乾式タイルの施工法。
【請求項8】
建物躯体に
タイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ配置される間隔を上下方向にあけて水平方向に複数列取り付けられる
請求項1~5のいずれか1つに記載のタイル取付用ブラケットレールと、
前記タイル取付用ブラケットレール
の前記上規制部と前記下規制部とに上端部と下端部とが保持されるタイルとを含み、
上下の前記タイル取付用ブラケットレールを1組として、下側の前記タイル取付用ブラケットレールの前記上受け部の上にタイル下端部を載せ、組を成す上側の前記タイル取付用ブラケットレールの前記下受け部の前記下規制部と前記水平方向ばね部との間の空間にタイル上端部をそれぞれ嵌合させて、前記下規制部の前記前側稜線部で上のタイルのタイル下端部の裏面が受け支えられると同時に、前記下規制部の前記後側稜線部が下のタイルのタイル上端部の前面に押しつけられると共に前記水平方向ばね部との間で前記タイル上端部が弾力的に挟み付けられるようにタイルを装入し、
前記上のタイルの前記タイル下端部と前記下のタイルの前記タイル上端部との間の前後への動きを前記下規制部と前記上規制部と前記水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束しつつ摩擦抵抗により前記タイルが上に持ち上がることを抑制し
、上下の前記タイル取付用ブラケットレール間に前記タイルを係止させて外壁面を構成する
ことを特徴とする乾式タイル壁面構造。
【請求項9】
前記タイルの
前記上端部及び
前記下端部に、前記取付用ブラケットレールの前記上受け部の
前記上規制部と前記下受け部の
前記下規制部とに引っ掛けられる部分を備え、前記タイル取付用ブラケットレールの前記上受け部の前記
上規制部と前記下受け部の前記
下規制部とを前記タイルの上端及び下端の前記引っ掛けられる部分に引っ掛けて、前記タイルを建物躯体に弾力的に保持させるものである
ことを特徴とする請求項
8記載の乾式タイル壁面構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁材としてのタイルを建物躯体に金具を使って固定する乾式タイル工法及びそれに用いられる金具たるタイル取付用ブラケットレール並びに乾式タイル壁面構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、外壁用タイルの施工法として、窯業製のサイディングボードや爪を有する金属板製のタイル取付板等の下地材を建物の壁面に固着し、該下地材にタイルを係止したり或いは接着剤で止着して取り付ける乾式工法が知られている。
【0003】
ところが、窯業製のサイディングボードは、耐用年数が20~30年程度とタイルの耐用年数と比べて寿命が比較的短い上に、温度変化に伴う伸縮が大きいため、タイルが破損したり、剥離が発生する欠点がある。また、接着剤でタイルを固着する工法では、内部の点検が出来ず、住宅寿命の長期化に対応できないと共に、接着剤の劣化によって脱落が起こるなどの問題もある。
【0004】
乾式工法におけるかかる問題点を解決するために、サイディングボードに代わってアルミニウム製の下地材を使用する工法(特許文献1)や、接着剤に代わって、金属製の弾性クリップや金属製の取付用ブラケットレールを使ってタイルを止着する工法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第32662369号公報
【文献】特許第4566280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サイディングボードに代わるほどのアルミニウム製の下地材は、高価であり施工コストを上げる要因となると共に、温度変化に伴う伸縮が大きいため、サイディングボードと同様にタイルの破損や剥離の問題を有しており、耐久性の向上を図ることはできない。
【0007】
また、接着剤に代わる金属製の取付用ブラケットレールと弾性クリップとの併用は、下地材であるサイディングボードの凹凸に対して金属製取付用ブラケットレールを取付け、その上で取付用ブラケットレールとタイルの上端との間に弓形の弾性クリップを変形させながらタイルを装入させるという煩わしいタイル取付作業を必要として、作業効率の悪いものとなってしまう問題がある。また、弾性クリップを押さえながら圧縮しつつ下地材に嵌め込まれた取付用ブラケットレールのダブテール状の斜面に係止させるため、弾性クリップの手による圧縮・挿入が作業者の指に大きな負担と痛みをもたらすことになる。
【0008】
しかも、タイルとレール間の隙間に挿入した弾性クリップが地震時などに外れる可能性がある他、弾性クリップをタイルとレールの間の隙間に挿入し難いという欠点がある。弾性クリップによって上下方向に押しつけているだけなので、地震時などに建物躯体の外壁面から離れる方向の力を受けた際に弾性クリップの力が脱落させる方向に作用するため、タイルの中間部分裏面側に取付用ブラケットレールのダブテール状の斜面と係合するアリ溝(引っ掛かりとなる楔状の凸部)を形成する必要があり、使用するタイルの形状に制約を受ける。
【0009】
本発明は、タイルを長期的に安定して固定し、かつ改修時や解体時には容易にタイルを脱着できる乾式タイル施工のためのタイル取付用ブラケットレール並びにそれを用いた乾式タイル施工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成する発明は、上のタイルと下のタイルとの間に配置されるようにタイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ設置されて上下1組で用いられることにより、建物躯体にタイルを取り付けるタイル取付用ブラケットレールにおいて、上のタイルのタイル下端を受け支えて建物躯体から一定距離以上離れるのを上規制部で規制する上受け部と、下のタイルのタイル上端側が前記建物躯体から一定距離以上離れるのを下規制部で規制する下受け部と、上受け部と下受け部とを支持し建物躯体に取り付けるレール本体と、下のタイルのタイル上端の近傍をタイル裏面側から前に押し出す水平方向ばね部とを備え、かつ、下受け部の下規制部は、下のタイルのタイル上端部の表面と接触する後側稜線部と上のタイルのタイル下端部の裏面に接触する前側稜線部とを有し、後側稜線部と前側稜線部とが下のタイルのタイル上端部の表面と上のタイルのタイル下端部の裏面とに同時に接触することによって、上のタイルと下のタイルとの間の前後への動きを弾力的に拘束すると共に水平方向ばね部との間でタイル上端部を弾力的に挟み付け、上のタイルと下のタイルとの間の前後方向への動きを下規制部と上規制部と水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束させるようにしている。
【0011】
ここで、上受け部と下受け部と水平方向ばね部及びレール本体とは一体化され1枚のばね鋼板によって一体成形されていることが好ましい。また、下受け部には、下のタイルのタイル上端を押下してタイル下端部に配置された組を成す他のタイル取付用ブラケットの上受け部にタイル下端を密着させる鉛直方向ばね部を備えることが好ましい。
【0012】
また、水平方向ばね部は、タイル取付用ブラケットレールのレール本体の一部を切り欠いて形成したばね性を有する爪あるいはレール本体とは別体のガスケットであることが好ましい。
【0013】
また、鉛直方向ばね部は、上受け部のタイル下端を受け支える水平部の一部を切り欠いて形成した爪あるいは水平部とは別体のガスケットであり、タイル上端を押し下げるように付勢するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明にかかる乾式タイルの施工法は、請求項1~5のいずれか1つに記載のタイル取付用ブラケットレールを建物躯体の外壁面の縦胴縁あるいはその他の下地材にタイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ配置される間隔を上下方向にあけて水平方向に複数列取り付ける工程と、上下のタイル取付用ブラケットレールを1組として、下側のタイル取付用ブラケットレールの上受け部の上にタイル下端部を載せ、組を成す上側のタイル取付用ブラケットレールの下受け部の下規制部と水平方向ばね部との間の空間にタイル上端部をそれぞれ嵌合させて、下規制部の前側稜線部で上のタイルのタイル下端部の裏面が受け支えられると同時に、下規制部の後側稜線部が下のタイルのタイル上端部の前面に押しつけられると共に水平方向ばね部との間でタイル上端部が弾力的に挟み付けられるようにタイルを装入する工程とを有し、上のタイルのタイル下端部と下のタイルのタイル上端部との間の前後への動きを下規制部と上規制部と水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束しつつ摩擦抵抗により前記タイルが上に持ち上がることを抑制し、上下のタイル取付用ブラケットレール間に前記タイルを係止させるようにしている。
【0017】
さらには、後側稜線部が押し当てられるタイル上端部の表面を後側稜線部が引っ掛かる粗面とし、後側稜線部の動きに逆らった抵抗を与えてタイルの持ち上がりの動きを制動することが好ましい。
【0018】
また、本発明にかかる乾式タイル壁面構造は、建物躯体にタイルの上端部及び下端部の近傍にそれぞれ配置される間隔を上下方向にあけて水平方向に複数列取り付けられる請求項1~5のいずれか1つに記載のタイル取付用ブラケットレールと、タイル取付用ブラケットレールの上規制部と下規制部とに上端部と下端部とが保持されるタイルとを含み、上下のタイル取付用ブラケットレールを1組として、下側のタイル取付用ブラケットレールの上受け部の上にタイル下端部を載せ、組を成す上側のタイル取付用ブラケットレールの下受け部の下規制部と水平方向ばね部との間の空間にタイル上端部をそれぞれ嵌合させて、下規制部の前側稜線部で上のタイルのタイル下端部の裏面が受け支えられると同時に、下規制部の後側稜線部が下のタイルのタイル上端部の前面に押しつけられると共に水平方向ばね部との間でタイル上端部が弾力的に挟み付けられるようにタイルを装入し、上のタイルのタイル下端部と下のタイルのタイル上端部との間の前後への動きを下規制部と上規制部と水平方向ばね部との協働によって弾力的に拘束しつつ摩擦抵抗によりタイルが上に持ち上がることを抑制し、上下のタイル取付用ブラケットレール間にタイルを係止させて外壁面を構成するようにしている。
【0019】
ここで、タイルの上端部及び下端部に、取付用ブラケットレールの上受け部の上規制部と下受け部の下規制部とに引っ掛けられる部分を備え、タイル取付用ブラケットレールの上受け部の上規制部と下受け部の下規制部とをタイルの上端及び下端の引っ掛けられる部分に引っ掛けて、タイルを建物躯体に弾力的に保持させるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載のタイル取付用ブラケットレール及び乾式タイルの施工法並びに乾式タイル壁面構造によれば、タイル取付用ブラケットレールの上受け部でタイルの下端を受け支える一方、下受け部の規制部と水平方向ばね部でタイルの上端付近を保持しているので、接着剤による固定のように経時劣化することなく、タイルを長期的に安定して固定し、かつ改修時や解体時には容易にタイルをタイル取付用ブラケットレールから脱着できる。
【0022】
しかも、タイル取付用ブラケットレールは建物躯体の下地あるいは胴縁にリベット止めやビス止めなどで固定することで簡単に取り付けでき、かつ上側の段のタイル取付用ブラケットレールの下受け部の規制部と水平方向ばね部の間にタイルの上端部分を挟み込みながら下側の段のタイル取付用ブラケットレールの上受け部にタイルの下端を嵌め込むだけでタイルを固定できるので、タイル取付け施工の作業性が改善される。
【0023】
また、タイル取付用ブラケットレールに取り付けされたタイルは、タイル取付用ブラケットレールのタイルの裏面側から前に押し出す水平方向ばね部と下受け部の規制部とによって上部が常時挟み付けらて押え付けられているので、タイル面に外力が作用しても動き難く、タイル取付用ブラケットレールとの接触による騒音や雑音を発生しない優れた壁面を得ることができる。即ち、タイルの裏面側から前に押し出す機構によって、摩擦抵抗が発生して、タイルが上に持ち上がることを防止できる。
【0024】
さらに、タイルの固定に接着剤を使用していないので、改修時や解体時にタイルをタイル取付用ブラケットレールから容易に脱着できるばかりでなく、タイル取付用ブラケットレールとタイルとの分別が容易となり再使用が可能となる。
【0025】
本発明のタイル取付用ブラケットレールは、加えて、上からタイルを押し下げるための爪やガスケットなどの上から押さえる鉛直方向ばね部が設けられれば、さらに脱落し難くなり、安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のタイル取付用ブラケットレールの一実施形態を示す側面図である。
【
図2】同タイル取付用ブラケットレールの第二の実施形態を示す側面図である。
【
図3】同タイル取付用ブラケットレールの第三の実施形態を示す側面図である。
【
図4】同タイル取付用ブラケットレールの第四の実施形態を示す側面図である。
【
図5】第四の実施形態にかかるタイル取付用ブラケットレールの斜視図である。
【
図6】同タイル取付用ブラケットレールの第五の実施形態を示す側面図である。
【
図7】第五の実施形態にかかるタイル取付用ブラケットレールの正面図である。
【
図8】同タイル取付用ブラケットレールの第六の実施形態を示す側面図である。
【
図9】同タイル取付用ブラケットレールの第七の実施形態を示す側面図である。
【
図10】同タイル取付用ブラケットレールの第八の実施形態を示す図で、(A)は側面図、(B)はブラケットと爪との関係を示す斜視図である。
【
図11】同タイル取付用ブラケットレールの第九の実施形態を示す斜視図である。
【
図12】同タイル取付用ブラケットレールの第十の実施形態を示す側面図である。
【
図13】同タイル取付用ブラケットレールの第十一の実施形態を示す側面図である。
【
図14】
図2のタイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の一実施形態を示す説明図である。
【
図15】
図9と
図13のタイル取付用ブラケットレールを組み合わせて使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図16】
図6のタイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図17】
図10のタイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図18】
図10のタイル取付用ブラケットレールを異なるこば形状のタイルに使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図19】同タイル取付用ブラケットレールの第十二の実施形態と該レールを使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図20】同タイル取付用ブラケットレールの第十三の実施形態を示す図で、(A)は側面図、(B)は正面図である。
【
図21】同タイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図22】同タイル取付用ブラケットレールの第十四の実施形態を示す図で、(A)は側面図、(B)は正面図である。
【
図23】同タイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の実施形態を示す説明図である。
【
図24】同タイル取付用ブラケットレールを使った乾式タイル工法の他の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書において、前後左右の方向は建物躯体のタイルを貼り付ける外壁面を中心に定められるものとし、「前」又は「前方」とは外壁面から離れる方向であり、「裏面」又は「後方」とは外壁面に近づく方向である。また、水平方向とは外壁面の左右方向であり、上下方向とは外壁面に沿った鉛直方向である。さらに、上段または下段とは、水平に配列された複数列のタイル取付用ブラケットレールタイルの上下の配列の間に装入されるタイルを中心に定められるものとし、上側のタイル列を上段と、下側のタイル列を下段と呼ぶ。
【0028】
図1に、本発明の乾式タイル工法に用いるタイル取付用ブラケットレールの実施形態の一例を示す。この実施形態にかかるタイル取付用ブラケットレール1は、少なくともタイル下端(即ち、下側のこば)22を受け支え建物躯体から一定距離以上離れるのを規制する上受け部7と、タイル上端(即ち、上側のこば)21側が建物躯体から一定距離以上離れるのを規制するように係合する下受け部6と、上受け部7と下受け部6とを支持し建物躯体に取り付けるレール本体4と、タイル上端21の近傍をタイル裏面側から前に押し出す水平方向ばね部8とを備えるものであり、上受け部7と下受け部6とばね部8及びレール本体4とが一体化されている。
【0029】
また、本発明のタイル取付用ブラケットレール及びそれを用いた乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造は、相決り(あいじゃくり)のタイル(上段のタイルと下段のタイルとの間あるいは左右のタイルの間がそれぞれの縁を前後に組み合わされるタイプのタイル)に適用して好適なものであるが、必ずしも相決りのタイルにしか適用できないというものではなく、少なくともタイル20の端部に上受け部7の規制部3と下受け部6の規制部5と係合する部分例えば溝が存在すれば適用可能であることは言うまでもない。本明細書では、相決りのタイルに適用した実施形態を挙げて主に説明する。
【0030】
このタイル取付用ブラケット1は、本実施形態の場合、1枚の金属板を連続的に曲げ加工することによって一体的に形成されている。即ち、水平方向ばね部8とレール本体4と上受け部7及び下受け部6は、1枚の金属板の折り曲げで一筆書きのように構成されている。ここで、金属板は、特定の材質に限定されるものではないが、例えばばね鋼としても広く使われているSUS304やその他のばね鋼材(SUP材)、ZAM(溶融亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金メッキ鋼板/日鉄日新製鋼株式会社の登録商標)などのある程度のばね性を呈する高耐食性の鋼板の使用が好ましい。この鋼板は、折り曲げ加工のし易さとタイルを支持する強度及びばね性を呈する可撓性とを兼ね備える厚さ、例えばSUS304の場合には0.3mm~1.0mm程度、ZAM(登録商標)の場合には0.3mm~1.0mm程度とすることが好ましい。
【0031】
上受け部7は、タイル下端22を受け支える水平部2と、建物躯体の外壁面から一定間隔以上に離れないように規制する規制部(以下、上規制部3と呼ぶ)とで構成される。また、下受け部6は、例えば水平部2の先端縁を下向きに折り曲げる規制部(以下、下規制部5と呼ぶ)を備えることによって構成される。この下受け部6は、タイルと前後方向に係合して建物躯体の外壁面から一定間隔以上に離れないように規制する。
【0032】
他方、レール本体4の下部には、タイル20を裏面から表側に向けて付勢するばね部8が形成されている。ばね部8は、例えばレール本体4の一部を山形に折り曲げることで形成されている。
【0033】
また、タイル取付用ブラケットレール1は、上述の如く1枚の金属板で形成するばかりで無く、複数の板材を用いて形成しても良い。例えば、
図2に示すように、1枚の金属板でばね部8とレール本体4及び上受け部7を構成する水平部2と上規制部3とを連続的な曲げ加工で一連に形成する一方、他の金属板を上規制部3にかしめて下受け部6と下規制部5を形成するようにしても良い。この場合には、ばね部8とレール本体4及び上受け部7を形成する金属板は、剛性を必要とするため厚みのある金属板を折り曲げることとなるが、折り曲げ角度が最大で90°となるので曲げ加工が容易となる。他方、下受け部6と下規制部5を形成する金属板は、逆向きに折り返される曲げ加工が必要となるが、半分程度の厚みの薄板を用いて重畳されることで強度を確保するようにしているので、曲げ加工自体は容易なものとなる。例えば、1mmの厚みのステンレスを折り曲げて、レール本体4と爪状のばね部8と受け部2と上規制部3とを連続的に形成する一方、0.5mmのステンレスを折り返して上規制部3に被せてかしめることによって、下規制部5を含む下受け部6を組み込むようにしても良い。尚、下受け部6は、水平部2と下規制部5とによって構成され、タイル上端21を含む端部近傍を収めるスペースを確保する。
【0034】
また、図示していないが、場合によっては、1枚の金属板でレール本体4と上受け部7(即ち、水平部2と上規制部3)とを連続的な曲げ加工で一連に形成したものと、他の金属板でをばね部8とレール本体4と下受け部6(即ち、水平部2と下規制部5)とを連続的な曲げ加工で一連に形成したものとを、予め溶接や接着、リベット締結などで一体化しても良いし、レール本体4部分で重ね合わせてリベット31や締結用ビスによって縦胴縁あるいは下地に固着することで一体化するようにしても良い。
【0035】
タイル取付用ブラケットレール1は、
図14に示すように、レール本体4の部分がリベット31や締結用ビスによって縦胴縁30あるいは下地に直接取り付けられるように設けられている。このレール本体4には、リベットあるいはビスを通すための孔15が設けられている。この孔15は、例えば
図5あるいは
図7に示すように、長尺なタイル取付用ブラケットレール1の場合には、例えば縦胴縁30が配置される場合には、縦胴縁30のピッチと同じ間隔で、あるいは少なくとも両端と中央にそれぞれ設けられることによって、強固に縦胴縁30あるいは下地に取り付けられるように配慮されている。また、短尺なタイル取付用ブラケットレール1例えばタイル毎のタイル取付用ブラケットレール1とする場合には、両端に設けることで足りる。
【0036】
また、下受け部6の規制部即ち下規制部5は、タイル20を裏から押し出す水平方向ばね部8との間でタイル20の上端21の近傍を保持するため、ばね性を高めることが好ましい。例えば、
図3に示すように、下規制部5の先端(下端)側を建物躯体側にオフセット(偏倚)させた構造としても良い。この場合、直角三角形をしているばね部8が変形し難いのに対して、下規制部5が変形し易い形状となるので、タイル20の位置決めと固定がより確実なものとなる。
【0037】
また、上規制部3と下規制部5とは、
図7や
図11に示すように端から端まで連続して形成される場合に限られず、例えば
図5に示すように断続的に形成されても良い。
図5に示す実施形態の場合、水平部2の先端縁をフォーミング加工で山折り、谷折りに交互に折り返すことによって、上規制部3と下規制部5とが断続的に交互に形成される。
【0038】
また、ばね部8は、場合によっては、
図2あるいは
図4及び
図5に示すように、レール本体4の下端縁を例えば谷折りすることにより、建物躯体から離れる方向に斜めに起こした辺から成る爪のような形態で構成しても良い。この爪から成るばね部8は、タイル20を押しつけて壁面側に押しつぶすことでばね性を発揮する。さらに、ばね部8は、
図6及び
図7あるいは
図8に示すように、下端縁を下受け部6に向けてレ形に折り返した爪として構成しても良い。これらの爪から成るばね部8は、タイル取付用ブラケットレール1の全幅に連続的に形成しても良いが、長尺なタイル取付用ブラケットレール1の場合、
図7に示すように、断続的に形成するようにしても良い。タイル20に対して偏り無く付勢力を与えることができる配置であれば、連続的であると断続的であるとは問わない。
【0039】
さらに、ばね部8は、
図3に示すように、レール本体4の下端縁側を直角三角形状に折り曲げて、タイルの裏面26を受け支えるようにしても良い。また、タイル20の表面側でタイルの前面位置を規制する下規制部5についても、先端側を内側に向けて僅かに屈曲させまることによって構造的なばね性を強化させることで、規制板でタイルの上端付近を建物躯体側に押しつけるようにしても良い。この場合においても、ばね性のある規制板と折り返し部との間でがたつき無く固定することができる。
【0040】
ばね部8は、上述の形状に限られるものでは無く、例えば
図6に示すように反転するように下受け部6に向けて折り返される爪、あるいはさらには
図8に示すようにタイル20から離れる方向に湾曲した形状の爪とすることも可能である。この場合には、例えば
図16に示すように、タイル20の凸部側端部23に傾斜面が存在する場合にも、ばね部8が当接してタイル20を前方に向けて押し出すように付勢する力を効率的に生み出すことができる。
【0041】
さらには、ばね部8は、例えば
図9あるいは
図13に示すように、レール本体4の下端縁寄りの部位を切り抜く切り起こしによって形成される爪によって構成するようにしても良い。切り起こしによって形成される爪状のばね部8は、必ずしても上下方向に配置されるものに限られず、場合によっては左右方向に配置されても良い。例えば、コの字形の切り抜きによりコの字形の爪が左右方向に並べて切り起こされる。この場合、レール本体の下端縁を前側へ折り返してフランジ14を形成して、タイル20の建物躯体側への位置規制を図るためのスペーサとして機能させることが好ましい。同時に、このフランジ14は、リブとしても機能し、曲げ強度の確保を図ることができる。
【0042】
また、ばね部8は、必ずしも
図1~
図9あるいは
図13に示すように、金属板の一部を切り欠いてあるいは折り曲げて構成する必要はなく、別部材例えばゴム弾性を呈するガスケット11で形成しても良い。ガスケット11としては、耐久性、耐候性などに優れるゴム弾性を呈する材料であることが好ましく、特定の材料に限られないが、より好ましくは例えばエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)の使用である。このガスケット11は形状においても特定のものに限られものではないが、例えば
図10に示すような平坦面部分を有するD形の筒形とすることが好ましい。この場合、平坦面部分を接着面として利用し、図示していない接着剤や接着シールなどを用いて金属板・レール本体4に接着させることによって安定して保持させることができる。
【0043】
ガスケット11は、より好ましくはレール本体4の下端縁を折り曲げてスペーサを兼ねるフランジ14を形成すると共にレール本体4の一部を切り起こした爪13を設け、爪13とフランジ14との間にガスケット11を接着剤や接着テープで接着させることで、剥離し難い取付構造とすることが好ましい。ここで、ガスケット11の高さと爪13及びフランジ14の高さとは、ガスケット11の高さの方が高く、爪13及びフランジ14にタイル20が当たる前にガスケット11と当接してガスケット11を押しつぶすように設けられている。
【0044】
上規制部3と下規制部5とは、同じ長さ(即ち高さ)に形成しても良いが、同じ長さである必要はなく、むしろ下規制部5の方が長く形成されることが好ましい。例えば、上受け部7にはタイル20が直に載置されるので、上規制部3がタイル20に当接する位置は自ずと定まり一定している。つまり、上規制部3は確実にタイルに当たる存在となり得る。また、上下のタイル取付用ブラケットレール1の間にタイルを装入する際に、下側のタイル取付用ブラケットレール1の上規制部3をタイル下端22が乗り越えなければならないので、必要以上に高くすると好ましくない。他方、下規制部5は、嵌合されるタイルの上端21と下受け部6の天井面たる水平部2との間にタイルを装入する際に下側のタイル取付用ブラケットレール1の上規制部3を乗り越えさせなければならないので、遊びとなる隙間が必要である。そして、タイル20は下受け部6に装入後にタイル下端22を下側のタイル取付用ブラケットレール1の上受け部7の上に密着させて受け支えられるため、タイル上端21と水平部2との間には再び隙間が発生するため、下規制部5が確実にタイルに当たる存在となり得るには、長めに形成されることが好ましい。
【0045】
また、上規制部3と下規制部5とは、
図1~
図12に示す実施形態では同じ位置で逆方向に折り曲げられることによって形成されているが、これに特に限られず上向きの上規制部3と下向きの下規制部5とが必要に応じて異なる位置に形成されることもある。例えば、
図13に示すように、上向きの上規制部3に対して下向きの下規制部5を奥側(つまり、建物躯体の壁面側)に形成しても良い。このオフセットした上下の規制部3,5は、タイル上端21とタイル下端22とでそれぞれの規制部3,5が係合する位置が異なるタイル(
図15のタイル下部参照)に適用する場合に好適である。例えば、相決り加工を施したタイルの凸部側端部23と凹部側端部24との間には、干渉を避けるための隙間
38が設定されるので、下向きの下規制部5を嵌合させる溝27あるいは上向きの上規制部3を嵌合させる溝25の研削位置あるいは押し出し加工時の位置が隙間
38の範囲内で適宜設定される。つまり、タイル20の溝25の位置は特定の位置に限られるものではなく、必要に応じて適宜変更しても良い。
【0046】
さらに、上規制部3と下規制部5とは、内側に折り曲げる、あるいは外側に折り曲げることで、前後方向へのばね性をより高めるようにしても良い。例えば、
図19の上側に図示するタイル取付用ブラケットレール1に示すように、上向きの上規制部3が折り返されて下向きの下規制部5に連続する部分を含めて、奥側(つまり、建物躯体の壁面側)並びに前側(つまり、建物躯体の壁面から離れる方向側)に膨らむように形成しても良い。この上下の規制部3,5は、例えば相決り加工を施したタイル20の凸部側端部23と上のタイル20の凹部側端部24との間で、前後方向に広がって上のタイルと下のタイルとの間の前後への動きを拘束するように機能する。他方、
図19の下側に図示するタイル取付用ブラケットレール1に示すように、上規制部3と下規制部5とは、下向きに延びた下規制部5が折り返されて上向きの上規制部3側に延びる部分が奥側(つまり、建物躯体の壁面側)に傾き且つ上向きの上規制部3の位置で再度前側(つまり、建物躯体の壁面から離れる方向側)に傾斜するように略くの字形に膨らむように形成しても良い。この上下の規制部3,5においても、例えば相決り加工を施したタイル20の凸部側端部23と上のタイル20の凹部側端部24との間で、前後方向に広がるばね性を呈するので上のタイルと下のタイルとの間の前後への動きを拘束するように機能する。タイルの上下方向の寸法が大きくなると、上側が固定できても下側が不安定となり、後ろ(建物壁面側)へ引っ込んでしまう虞がある。そこで、上のタイルと下のタイルとの間の遊びを吸収してがたつきあるいは後退を防止するため、上下の規制部3,5そのものに角度をつけてばね効果を与えることで、上下のタイルの間の重なり部分の間に差し込むことによって、上側のタイルと下側のタイルの前後への動きを同時に拘束することができる。
【0047】
また、
図20に示すように、下受け部6の下規制部5は、タイル20の凸部側端部23の表面と上段のタイル20の凹部側端部24の裏面とに同時に接触させて、タイル20の凸部側端部23と上段のタイル20の凹部側端部24との間で、前後方向に広がって上段のタイル20と当該タイル20との間の前後への動きを弾力的に拘束するように機能させるようにしても良い。例えば、
図20(A)及び(B)に示すように、下規制部5は、フォーミング加工などで水平部2の先端縁の一部を下に折り曲げながら途中で内側へ折り返すと共に再び先端縁付近を外側に折り返して、外側に向けて略くの字形に膨らみ上段のタイル20の凹部側端部24の裏面と接する前側稜線部28と当該タイル20の凸部側端部23の表面と接する後側稜線部29とを備えるように形成されている。後側稜線部29は、必ずしも設けることが要求されるものではないが、凸部側端部23の表面に対して下規制部5が引っ掛かることなく滑動させ得るので、タイル20を下受け部6に収めるときに障害となることを未然に防ぐ上で好ましい。他方、水平部2の先端縁の一部は上に折り曲げられて上規制部3が形成されている。
【0048】
他方、タイル20の裏面に押し当てられるばね部8も下規制部5と同様に、外側に向けて略くの字形に膨らみかつ先端縁付近が外側に折り返されている。このばね部構造の場合、通常のばね支持力が弱めであっても、建物躯体側へタイルが強く押されてばね部8が内側へ変形させられるときに折り返された先端縁付近が縦胴縁30に当接することにより、タイルの支持力を高めるように機能させることができる。
【0049】
上述のタイル取付用ブラケットレール1を用いる場合、タイル20は、
図21に示すように、上受け部7の水平部2で上段のタイルの下こば22の部分が受け支えられると共に、同レール1の上規制部3と下規制部5とによってタイル20が保持されて前後方向の位置が固定される。つまり、外側に向けて略くの字形に膨らむ下規制部5によって、上段のタイル20の凹部側端部24の裏面が前方へ押し出されるように付勢される一方で、上規制部3によって上段のタイル20の前方への移動が規制されるので、上段のタイル20の下こば22の部分が上規制部3に当たる位置に位置決めされて保持される。他方、下受け部6に挿入された凸部側端部23は、下規制部5で前方から押されると共にばね部8で後方から押されることで、弾力的に挟持されて保持される。ここで、下規制部5は、タイル20の凸部側端部23の表面と上段のタイル20の凹部側端部24の裏面とに同時に前側稜線部28,後側稜線部29を接触させ、上段のタイルの凹部側端部24で受け支えられた状態で先端の後側稜線部29を凸部側端部23の前面に押しつける。したがって、ばね部8との間でタイル20の端部例えば凸部側端部23を弾力的に挟み付けて支持することができる。このようにして、上のタイル20と下のタイル20との間の前後方向への動きを下規制部5と上規制部3とばね部8との協働によって拘束するので、上のタイル20と下のタイル20との間の遊びを吸収してがたつきを防止することができる。したがって、タイル20は、上端及び下端を支える一組のタイル取付用ブラケットレール1によって、縦胴縁4あるいはその他の下地材に対して一定間隔を開けてがたつきなく保持される。
【0050】
また、
図20に示す実施形態では、上規制部3と下規制部5とを独立した部位として交互に形成しているが、このことは本質的なことではなく、
図22に示すように、1枚のばね材例えばばね鋼板を連続的に曲げ加工することによって、レールの端から端まで連続して形成しても良いことは言うまでもない。
【0051】
この実施形態のタイル取付用ブラケットレール1の場合も、
図20の実施形態のタイル取付用ブラケットレール1と同様に、タイル20は、上端及び下端を支える一組のタイル取付用ブラケットレール1によって、縦胴縁4あるいはその他の下地材に対して一定間隔を開けてがたつきなく保持される。
【0052】
さらに、下規制部5の先端の後側稜線部29が押しつけられるタイルの表面例えば凸部側端部23の表面には、粗面加工が施される(ギザギザを設ける)ことで規制部5の後側稜線部29即ち爪を引っ掛け易くすることが好ましい。粗面としては、例えば
図24に示すように、縦断面半円形状の凸部(換言すれば、銀杏の葉形の溝)37が連続的に形成されたものが好ましい。この場合、凸部(換言すれば、銀杏の葉形の溝)37と下規制部5の後側稜線部29との間に制動機構を構成することができる。この制動機構は、動きに逆らった抵抗を与えるものであり、下規制部5の後側稜線部29が凸部37の間の溝に嵌まり込んでタイル20が持ち上げらないように抵抗を与え、タイル20の持ち上がりを抑制する。他方、後側稜線部29が凸部37を乗り越えることでタイル20の動きを許容するので、強い外力が作用したときにはタイル20の動きを許容するが、そうでないときにはばねの力で動きが阻止される、即ち持ち上げられることがない。尚、
図24に例示するような凹凸の粗面は、押し出し成形によってタイル1が製造される湿式製法の場合、押し出しと同時に成形されるので、押し出し方向に貫通した溝・凸部37となる。湿式製法は、水分を含んだ粘土状の素地原料を、押し出し成形機で板状に押し出して、所定の寸法に切断してタイルを成形するため、凸部(換言すれば、溝)37も任意の断面形状とすることができる。
【0053】
以上のように構成されたタイル取付用ブラケットレール1によれば、上受け部7によってタイル下端22が受け支えられると共に建物躯体から一定距離以上離れるのが規制される一方、タイル上端21の側では下規制部5によりタイル上端側が建物躯体から一定距離以上離れるのを規制されると共にタイル20の裏面側からタイル20を前(建物躯体から離れる方向)に押し出す水平方向ばね部としてのばね部8によりタイル20の前面側を下規制部5に押しつけられることで摩擦抵抗を与えてタイル20が持ち上がることを防ぐようにしている。さらに、
図21及び
図23のタイル壁面構造によれば、タイル20の上下端部近傍に設置された一対のタイル取付用ブラケットレール1によって、タイル下こば22が上受け部7で受け支えられると共に、上規制部3と下規制部5とでタイル20の凸部側端部23の表面と上段のタイル20の凹部側端部24の裏面とに同時に下規制部5の前側稜線部28,後側稜線部29を接触させて上段のタイルの凹部側端部24で受け支えられた下規制部5の先端の後側稜線部29をタイル20の前方から押しつけ、ばね部8との間でタイル20の端部例えば凸部側端部23を弾力的に挟み付けて支持する。また、
図24のタイル壁面構造によれば、タイルの凸部側端部23の表面の粗面(凸部37)に下規制部5の後側稜線部29が引っ掛かることで、タイル20の持ち上げがさらに阻止される。
【0054】
図6及び
図7にタイル取付用ブラケットレールの他の実施形態を示す。このタイル取付用ブラケットレール1は、上受け部7にタイル上端21を押さえつけて持ち上がり防止を図る鉛直方向ばね部をさらに備えたものである。本発明のタイル取付用ブラケットレール1においては、タイルの上部がばね部8によって裏から押されて下規制部5に押しつけられることで生ずる摩擦抵抗でタイルが上に持ち上がるのを防止していることから、鉛直方向ばね部が設けられることでより確実にはタイルの持ち上がりを防ぐことができる。
【0055】
鉛直方向ばね部は、例えばばね性を有する爪9あるいはゴム弾性素材から成るガスケット12などによって構成されている。本実施形態の場合、上受け部7の水平部2の一部を切り起こしてタイル上端21に向けて突出する爪9を予め形成することによって、あるいはタイル20を嵌め込んでから折り曲げられる爪9を設けることによって、一体的に構成されている。勿論、タイル20の裏面26側を前へ押し出す水平方向ばね部8と同様に、ゴム弾性素材例えばガスケット12を介在させることで、常時タイル上端21を押さえつける弾性力を付勢するような構造としても良い。ゴム弾性素材としてはEPDMなどの弾性素材ばかりでは無く、弾性接着剤のようなゴム弾性を保持し得る接着材を利用しても良い。これによって、タイル20の製造誤差に起因するがたつきを吸収することができる。
【0056】
垂直方向ばね部としての爪9は、予め折り曲げられていても良いし、タイルセット後に折り曲げるようにしても良い。本実施形態の場合、爪9は例えば切り起こしによって形成される。このため、水平部2に爪9を切り起こすと同時にその後が孔となるので、水切り孔を兼ねることとなる。これによって、タイルを伝わって流下する雨水が存在する場合には、水切り孔から下に落ちることとなる。
【0057】
他方、
図10に示すように、別部材のガスケット12を用いる場合には、タイル20の上端(こば)21に押し当てられるガスケット12は、タイル20の上端21に押し当てられると共に受け支えられるので、タイル20の上端21で常時受け支えられることから、特に爪13,14のような保護部材が存在しなくともガスケット12が脱落する虞が少ない。このため、ガスケット12は接着剤や接着テープなどで接着させるだけで、剥離し難い取付構造とすることができる。
【0058】
爪9あるいはガスケット12などから成る鉛直方向ばね部は、タイル挿入時には変形してタイル20の挿入を容易にすると共に、挿入後はタイル上端21を押し下げてタイル下端22が下のタイル取付用ブラケットレール1の上受け部7に密着させる。このため、タイル20の脱落が防止される。また、爪9あるいはガスケット12から成る鉛直方向ばね部にはバネ性があるため、仮りにタイル20が上方に動いたとしても、直ちにタイル20を下に押し下げるので下のタイル取付用ブラケットレール1から外れることもない。
【0059】
尚、ガスケット11,12はタイル取付用ブラケットレール1の全幅に相当する長さの通し材としても良いが、タイル20に対して偏在していなければ局部的に存在させても良い。即ち、タイル20の裏面を均等に前へ押し出せるように分散配置されても良い。また、ガスケット11,12は、例えば図示の如き中空構造とすることにより、容易に弾性変形しやすいものとすることができるが、これに特に限られるものでは無く、中実構造であっても良い。
【0060】
また、上述の実施形態のタイル取付用ブラケットレール1は、ステンレススティールあるいはZAM(溶融亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金メッキ鋼板/日鉄日新製鋼株式会社の登録商標)などの板材の曲げ加工品で構成した例を上げて主に説明したが、これに特に限られるものでは無く、例えばアルミニウム合金の押し出し成形品であっても良い。アルミニウム押し出し成形品の場合には、上述の金属板に比べてばね性に乏しい上に例えば1.5mm程度の厚みで形成されるため、一部を切り起こしてばねとすることは難しいことから、ガスケット11,12を用いることで、タイル20の上端21と裏面26とを付勢する機構を構成するように設けられている。例えば
図12に示すように、矩形あるいはあり溝状の係合溝10を押し出し加工の際に一体成形することで、ガスケット11,12のフランジ状の基部を嵌合させることが好ましい。ここで、アルミニウム押し出し成形品の場合には、アルマイト処理などで任意の色に着色することが容易であるため、タイル20と同じ色にすることも可能である。このため、
図18に示すように、タイル20の端部形状が相決り加工ではなく、端部が重ねられない場合でも、アルミニウム押し出し成形品がタイルと同系色で着色されていることでタイル取付用ブラケットレール1が目立たないようにできる。
【0061】
タイル20の形状並びに端部形態は特定のものに限られるものではないが、少なくともタイル20の端部には上受け部7と下受け部6のそれぞれの上下の規制部3,5と係合する部分例えば凹凸や溝があることが望まれる。例えば、本実施形態の場合、
図14~
図16に示すような、タイル20の上端側と下端部が互いに組み合わされる凹凸、即ち「相決り(あいじゃくり)加工」と呼ばれる凹凸に形成されていることが好ましい。相決り加工は、例えば、
図14に示すように、タイルの上側の端部が凸部となる雄実(おざね。以下、凸部側端部23と呼ぶ)に、下側の端部が凹部となる雌実(めざね。以下、凹部側端部24と呼ぶ)にそれぞれ形成されて、凹部側端部24の上に凸部側端部23が重なるように組み合わせて用いられる。
【0062】
上述のタイル取付用ブラケットレールを用いた乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造は、相決り(あいじゃくり)のタイル(上段のタイルと下段のタイルとの間あるいは左右のタイルの間がそれぞれの縁を前後に組み合わされるタイプのタイル)に適用して好適なものであるが、必ずしも相決りのタイルにしか適用できないというものではなく、少なくともタイル20の端部に上受け部7の規制部3と下受け部6の規制部5と係合する部分例えば溝が存在すれば適用可能であることは言うまでもない。そして、本実施形態にかかる乾式タイル施工法並びに乾式タイル壁面構造は、タイル取付用ブラケットレール1を建物躯体
36の縦胴縁あるいはその他の下地材に予め取り付け、該タイル取付用ブラケットレール1の上受け部6の上規制部3と下受け部7の下規制部5とをタイルの上端及び下端の凹凸や溝に引っ掛けて、外壁材としてのタイル1を建物躯体
36に取り付けて外壁を構成するものである。即ち、例えば、
図14~
図17に示すように、相決り加工の一方の端部例えば凸部側端部23と凹部側端部24の溝25を設けることによって上下の規制部3,5を嵌合させることで係合させるようにしても良いし、例えば
図18に示すように、タイル上端21とタイル下端22とにそれぞれ溝25,27を設けることによって上下の規制部3,5を嵌合させることで係合させるようにしても良い。
【0063】
また、タイル20は上下の規制部3,5と係合する部分を除いて、その間の形状については特に限定されるものではなく、中空であったり、無垢材であったり、中間裏面側が抉られていたり、角部分の裏面側もフラット(垂直)であったり、あるいはテーパーが付されていても可能である。
【0064】
次に、本発明にかかるタイル取付用ブラケットレール1を用いたタイル施工法の作業手順について説明する。
【0065】
まず、建物躯体の外壁の図示しない下地に直接にまたは縦胴縁を介在させて、墨出しなどで予め決められた位置にタイル取付用ブラケットレール1を、例えばリベット止めあるいはビス止めにて取り付ける。例えば、
図21あるいは
図23に示すように、建物躯体36の外壁に墨出しなどで予め決められた位置に縦胴縁30を所定のピッチで、例えば高さ調整可能なボルト33・ナット34,35にて取り付ける。この縦胴縁30は、例えばハット形鋼板であり、コンクリート用アンカーナット32を建物躯体36に打ち込んだ上に調整ボルト33と2個のナット34,35で挟み付けるようにして、不陸調整の上、固定するようにしている。タイル取付用ブラケットレール1は縦横に所定間隔を空けて必要数だけ配置される。
【0066】
次に、上下のタイル取付用ブラケットレール1を1組として、それらの間にタイル20を装入してタイル20を取り付ける。タイル20の取り付けは、横に並べながら下から上へと組み込まれる。例えば、
図14のタイルの場合、上側のタイル取付用ブラケットレール1の下受け部6にタイル20の凸部側端部23をタイル取付用ブラケットレール1の水平方向ばね部8のばねと下受け部6の下規制部5との間の空間に斜め前下から押し込み、その状態でタイル20を持ち上げて下段のタイル取付用ブラケットレール1の上受け部7の上規制部3をタイル下端22を乗り越えさせてから、下段のタイル取付用ブラケットレール1の上受け部7にタイル下端22を落とし込むようにして嵌合させる。このタイル装着作業は極めて簡易且つ迅速に実施できる。そして、落とし込みによる嵌合によりタイル20の下端11はタイル取付用ブラケットレール1に受け支えられて係止される。それと同時に該タイル20の上端21は、上段のタイル取付用ブラケットレール1のタイル20の裏面側から前に押し出す水平方向ばね部8と下受け部6の下規制部5とによって挟み付けられて押え付けられる。
【0067】
同様にして、タイル20を順次横に並べるようにして組み込む。組み込みが完了してから、上の段に移る。同じ手順で上段のタイル取付用ブラケットレール1に順次タイルを取り付けると、取り付けられたタイルの前垂れ部24が下段のタイル20の段部23の手前側に重さなることでタイル取付用ブラケットレール1で固定されている部分を遮蔽する。そして、タイル20は、タイル取付用ブラケットレール1により強固に固定される。
【0068】
一組のタイル取付用ブラケットレール1の間に装入されるタイルは、下側のタイル取付用ブラケットレール1の上受け部7によってタイル下端22が受け支えられると共に、上側のタイル取付用ブラケットレール1の下受け部6によってタイル上端21付近が保持され、建物躯体から一定距離以上離れないように位置規制されて建物躯体に取り付けられる。そして、タイル20に外力が作用しても動き難く、タイル取付用ブラケットレール1との接触による騒音や雑音を発生しない優れたタイル外壁面を得ることができる。即ち、水平方向ばね部8によって、摩擦抵抗が発生して、タイル20が上に持ち上がることを防止できる。さらに、上からタイル20を押し下げるための鉛直方向ばね部を構成する爪9あるいはガスケット12が設けられれば、さらに安全性が高まる。また、タイル20はタイル取付用ブラケットレール1によって脱落しないように保持されているが、タイル取付用ブラケットレール1に固着されていないので、タイル取付用ブラケットレール1が外気温の変化で伸縮してもタイル20には何ら外力が及ぶことはない。
【0069】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態は建物躯体の下地の上に胴縁を介してレールを取り付ける例を上げて主に説明したが、これに特に限られず、下地材に直接ねじ止めなどでタイル取付用ブラケットレール1を固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 タイル取付用ブラケットレール
2 水平部
3 上受け部の規制部(上規制部)
4 レール本体
5 下受け部の規制部(下規制部)
6 下受け部
7 上受け部
8 タイルを前に押し出す水平方向ばね部
9 タイル上端を上から押さえる鉛直方向ばね部
10 ブラケットを取り付ける係合溝
11 ブラケット
12 ブラケット
13 ブラケットを保持する爪
14 ブラケットを保持するフランジ
28 前側稜線部
29 後側稜線部
37 タイル上端部の表面の粗面としての凸部(換言すれば、銀杏の葉形の溝)