(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】熱膨張係数の評価方法及び座標測定機の温度補正方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20230901BHJP
【FI】
G01B21/00 G
(21)【出願番号】P 2020030891
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019034852
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年度精密工学会秋季大会学術講演会 講演論文集 CD-ROM 令和1年8月20日 2019年度精密工学会秋季大会学術講演会 静岡大学 浜松キャンパス(静岡県浜松市中区城北3-5-1) 令和1年9月5日(開催期間 令和1年9月4日~令和1年9月6日)
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-37068(JP,A)
【文献】特開2018-128345(JP,A)
【文献】特開2018-105654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケールの熱膨張係数をα
S、スケールの温度をt
S、目盛誤差をE
Cとした場合、
基準温度(20℃±0.5℃)において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値L
W1、および、測定値L
W1の目盛誤差E
C1により下記式(1)を用いてスケールオフセット誤差dt
S0を算出する、又は校正された温度計で測定された前記スケールの温度と前記スケールの温度計で測定された温度との差を前記スケールオフセット誤差dt
S0とするステップと、
前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値L
W2、および、測定値L
W2の目盛誤差E
C2により下記式(2)を用いて等価スケール温度係数誤差dK
Sを算出するステップと、
複数の温度T
S1、T
S2の環境下において、熱膨張係数α
SNが既知の寸法L
αのワークの目盛誤差E
Cα1、E
Cα2を測定し、下記式(3)を用いて目盛誤差E
Cα1、E
Cα2に含まれる倍率誤差u(α
es)を算出し、下記式(4)を用いて前記熱膨張係数α
SNの補正値α
SCを算出する
ことを特徴とする熱膨張係数の評価方法。
dt
S0=E
C1/α
SL
W1・・・(1)
dK
S=(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/α
S(t
S-20)L
W2・・・(2)
u(α
es)={(E
Cα1-E
Cα2)/(T
S1-T
S2)}(1000/L
α)・・・(3)
α
SC=α
SN+u(α
es)-α
SdK
S・・・(4)
【請求項2】
前記測定値L
W1を、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lが異なる複数の測定値L
W1L1、L
W1L2、および、前記目盛誤差E
C1を、前記測定値L
W1L1に対応したE
C1L1、前記測定値L
W1L2に対応したE
C1L2とした場合、上記式(1)は下記式(5)で表され、
前記測定値L
W2を、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lが異なる複数の測定値L
W2L1、L
W2L2、および、前記目盛誤差E
C2を、前記測定値L
W2L1に対応したE
C2L1、前記測定値L
W2L2に対応したE
C2L2とした場合、上記式(2)は下記式(6)で表される
ことを特徴とする請求項1記載の熱膨張係数の評価方法。
dt
S0=(E
C1L1-E
C1L2)/(L
W1L1-L
W1L2)α
S・・・(5)
dK
S={(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/α
S(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)・・・(6)
【請求項3】
スケールの熱膨張係数をα
S、スケールの温度をt
S、目盛誤差をE
Cとした場合、
基準温度(20℃±0.5℃)において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値L
W1、および、測定値L
W1の目盛誤差E
C1により下記式(1)を用いてスケールオフセット誤差dt
S0を算出する、又は校正された温度計で測定された前記スケールの温度と前記スケールの温度計で測定された温度との差を前記スケールオフセット誤差dt
S0とするステップと、
前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値L
W2、および、測定値L
W2の目盛誤差E
C2により下記式(2)を用いて等価スケール温度係数誤差dK
Sを算出するステップと、
前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数α
W、呼び寸法L
Gのワークの目盛誤差E
CGにより、下記式(7)を用いてワークオフセット誤差dt
w0を算出するステップとを含む
ことを特徴とする座標測定機の温度補正方法。
dt
S0=E
C1/α
SL
W1・・・(1)
dK
S=(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/α
S(t
S-20)L
W2・・・(2)
dt
w0=(E
CG-α
Sdt
S0L
G-dK
S(t
S-20)L
G)/α
W・・・(7)
【請求項4】
前記測定値L
W1を、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lが異なる複数の測定値L
W1L1、L
W1L2、および、前記目盛誤差E
C1を、前記測定値L
W1L1に対応したE
C1L1、前記測定値L
W1L2に対応したE
C1L2とした場合、上記式(1)は下記式(5)で表され、
前記測定値L
W2を、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lが異なる複数の測定値L
W2L1、L
W2L2、および、前記目盛誤差E
C2を、前記測定値L
W2L1に対応したE
C2L1、前記測定値L
W2L2に対応したE
C2L2とした場合、上記式(2)は下記式(6)で表される
ことを特徴とする請求項3記載の座標測定機の温度補正方法。
dt
S0=(E
C1L1-E
C1L2)/(L
W1L1-L
W1L2)α
S・・・(5)
dK
S={(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/α
S(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)・・・(6)
【請求項5】
さらに各スケールの温度t
Sを下記式(8)を用いて算出した補正後温度t
S
*に変更するステップを備えることを特徴とする請求項3又は4記載の座標測定機の温度補正方法。
t
S
*=(1+dK
S)t
S+dt
S0・・・(8)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張係数の評価方法及び座標測定機の温度補正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ISO1は、ワークの幾何特性仕様及び検証のための標準基準温度を定めており、当該標準基準温度を20℃としている。測定時の温度と、標準基準温度との偏差がある場合、ワークと測定機の温度が等しくても、測定された長さには誤差が発生する。このようなワークの長さを測定する座標測定機として例えば三次元測定機(CMM;Coordinate Measuring Machine)においては、測定精度を維持するために、温度補正が行われている(例えば、特許文献1)。温度補正を行うには、三次元測定機における三次元空間を構成する各軸に沿って配置されたスケール及び測定対象であるワークの、熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)及び温度を知る必要がある。例えば23℃で1000mmの鋼製のワークを測定する場合、ワークのCTEは約(10±1)×10-6/℃であるが、CTEの不確かさが±1×10-6/℃程度存在する。このため、CTEの不確かさによる測定寸法の不確かさは、3μmとなる。この不確かさは、23℃で測定する限り、補正することができず、20℃からの偏差が大きいほど大きくなる。
【0003】
特許文献1には、呼び寸法Lが異なる複数のワークの目盛誤差に基づいて、スケールの誤差を算出する温度補正方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、被測定物の相対向する端面間の寸法を求める光波干渉測定手段と、前記被測定物を複数の所定温度に制御可能な温度制御手段と、を備える熱膨張係数測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-37068号公報
【文献】特開2004-69380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製造現場においては、製品の高精度化に伴い、当該製品を評価することができるより高精度な三次元測定機が求められている。
【0007】
また特許文献2に係る熱膨張係数測定装置は、高精度な測定が可能であるが、構成が複雑であり、測定に熟練を要するため、一般のユーザが実施するのは困難である。
【0008】
本発明は、より容易に熱膨張係数を評価することができる評価方法を提供することを第1の目的とする。
【0009】
本発明は、目盛誤差をより容易に低減することができる座標測定機の温度補正方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱膨張係数の評価方法は、スケールの熱膨張係数をαS、スケールの温度をtS、目盛誤差をECとした場合、基準温度(20℃±0.5℃)において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値LW1、および、測定値LW1の目盛誤差EC1により下記式(1)を用いてスケールオフセット誤差dtS0を算出する、又は校正された温度計で測定された前記スケールの温度と前記スケールの温度計で測定された温度との差を前記スケールオフセット誤差dtS0とするステップと、前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値LW2、および、測定値LW2の目盛誤差EC2により下記式(2)を用いて等価スケール温度係数誤差dKSを算出するステップと、複数の温度TS1、TS2の環境下において、熱膨張係数αSNが既知の寸法Lαのワークの目盛誤差ECα1、ECα2を測定し、下記式(3)を用いて目盛誤差ECα1、ECα2に含まれる倍率誤差u(αes)を算出し、下記式(4)を用いて前記熱膨張係数αSNの補正値αSCを算出することを特徴とする。
dtS0=EC1/αSLW1・・・(1)
dKS=(EC2-αSdtS0LW2)/αS(tS-20)LW2・・・(2)
u(αes)={(ECα1-ECα2)/(TS1-TS2)}(1000/Lα)・・・(3)
αSC=αSN+u(αes)-αSdKS・・・(4)
【0011】
本発明に係る座標測定機の温度補正方法は、スケールの熱膨張係数をαS、スケールの温度をtS、目盛誤差をECとした場合、基準温度(20℃±0.5℃)において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値LW1、および、測定値LW1の目盛誤差EC1により下記式(1)を用いてスケールオフセット誤差dtS0を算出する、又は校正された温度計で測定された前記スケールの温度と前記スケールの温度計で測定された温度との差を前記スケールオフセット誤差dtS0とするステップと、前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lの測定値LW2、および、測定値LW2の目盛誤差EC2により下記式(2)を用いて等価スケール温度係数誤差dKSを算出するステップと、前記基準温度と異なる温度環境下において、熱膨張係数αW、呼び寸法LGのワークの目盛誤差ECGにより、下記式(7)を用いてワークオフセット誤差dtw0を算出するステップとを含むことを特徴とする。
dtS0=EC1/αSLW1・・・(1)
dKS=(EC2-αSdtS0LW2)/αS(tS-20)LW2・・・(2)
dtw0=(ECG-αSdtS0LG-dKS(tS-20)LG)/αW・・・(7)
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱膨張係数の評価方法によれば、座標測定機由来の誤差を補正して、ワークの熱膨張係数の補正値を算出することによってワークの熱膨張係数を評価することができるので、ワークのより正確な熱膨張係数を容易に得ることができる。
【0013】
本発明の座標測定機の温度補正方法によれば、基準温度(20±0.5℃)における目盛誤差又は校正された温度計で測定された前記スケールの温度と前記スケールの温度計で測定された温度との差から直ちにスケールオフセット誤差を算出し、さらに熱膨張係数が既知のワークを測定した結果からワークオフセット誤差を算出するので、より容易に目盛誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る測定機本体の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態の変形例に係る測定機本体の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図4】レーザー干渉測長器で測定した測定値に基づいて算出した位置決め誤差を示すグラフである。
【
図5】
図4に示すグラフから19.65℃の測定値を取り出したグラフである。
【
図6】16.50℃、26.44℃の測定値におけるスケールオフセット誤差を補正した位置決め誤差を示すグラフである。
【
図7】
図6の結果に基づき、20℃の時の位置決め誤差を算出した結果を示すグラフである。
【
図8】スケールの温度t
Sを補正後温度t
S-corrに置換して算出した位置決め誤差を示すグラフである。
【
図9】三次元測定機に付属のワーク温度計と校正された温度センサーで測定された結果の相関を示すグラフである。
【
図10】スケールとワーク温度計の温度補正を行った結果を示すグラフである。
【
図11】熱膨張係数の評価方法を検証する実施例に係るグラフであり、熱膨張係数が既知のブロックゲージの目盛誤差を示すグラフである(スケールオフセット誤差及びワークオフセット誤差補正済)。
【
図12】三次元測定機に付属のスケール温度計と校正された温度センサーで測定された結果の相関を示すグラフである。
【
図13】16.50℃、26.44℃の測定値におけるスケールオフセット誤差を補正した位置決め誤差を示すグラフである。
【
図14】
図13の結果に基づき、20℃の時の位置決め誤差を算出した結果を示すグラフである。
【
図15】スケールの温度t
Sを補正後温度t
S-corrに置換して算出した位置決め誤差を示すグラフである。
【
図16】スケールとワーク温度計の温度補正を行った結果を示すグラフである。
【
図17】ワーク温度計の温度補正を検証する実施例に係るグラフであり、熱膨張係数が既知のブロックゲージの目盛誤差を示すグラフである。
【
図18】熱膨張係数の評価方法を検証する実施例に係るグラフであり、熱膨張係数が既知の鋼製(500mm)ブロックゲージの目盛誤差を示すグラフである。
【
図19】熱膨張係数の評価方法を検証する実施例に係るグラフであり、熱膨張係数が既知の鋼製(400mm)ブロックゲージの目盛誤差を示すグラフである。
【
図20】熱膨張係数の評価方法を検証する実施例に係るグラフであり、熱膨張係数が既知のセラミックス製(500mm)ブロックゲージの目盛誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.実施形態
(1)全体構成
座標測定機としての三次元測定機は、
図1に示す測定機本体10と、後述する制御装置とを備える。測定機本体10は、基台12、Y軸レール14、Y軸移動体16、X軸移動体18、及びZ軸移動体19を備える。Y軸レール14は、基台12上のY軸に沿って設けられている。Y軸移動体16は、一対の脚部15と、脚部15の上端間に掛け渡された梁部17とを有し、脚部15がY軸レール14に沿って走行することにより、基台12上をY軸方向に移動することができる。X軸移動体18は、Y軸に対し直交するX軸方向に移動可能に、Y軸移動体16の梁部17に支持されている。Z軸移動体19は、X軸及びY軸に対し直交するZ軸方向に移動可能に、X軸移動体18に支持されている。Z軸移動体19は、先端にプローブ20を保持している。
【0016】
測定機本体10は、プローブ20のY軸方向の移動量を測定するY軸スケール22と、プローブ20のX軸方向の移動量を測定するX軸スケール24と、プローブ20のZ軸方向の移動量を測定するZ軸スケール26とを備える。Y軸スケール22はY軸レール14に、X軸スケール24は梁部17に、Z軸スケール26はZ軸移動体19にそれぞれ設けられている。実際には、測定機本体10は、X軸スケール24、Y軸スケール22、及びZ軸スケール26の値をそれぞれ読み取る検出器(図示しない)を備えている。当該検出器は、読み取った結果を示す座標信号を後述する制御装置に出力する。
【0017】
測定機本体10は、X軸スケール24、Y軸スケール22、Z軸スケール26、ワークWの温度を測定する温度計としての温度センサー28が設けられている。温度センサー28xはX軸スケール24に、温度センサー28yはY軸スケール22に、温度センサー28zはZ軸スケール26に、温度センサー28wはワークWにそれぞれ設けられている。各温度センサー28は、検出した温度信号を後述する制御装置に出力する。なお、温度センサー28x、28y、28z、28wは、特に区別しない場合、総称して温度センサー28とする。
【0018】
図2は制御装置30の構成を示すブロック図である。制御装置30は、温度算出部32、温度補正部34、変位算出部37、基本温度補正部35、及び熱膨張係数評価部36を備える。制御装置30は、予め格納されている基本プログラムや温度補正処理プログラムなどの各種プログラムを読み出して、これら各種プログラムに従って全体を制御するようになされている。
【0019】
制御装置30には、各温度センサー28と、測定機本体10とが電気的に接続されている。制御装置30は、各温度センサー28から出力された温度信号と、測定機本体10から出力された座標信号とが入力される。本図に示すように、三次元測定機1は、測定機本体10、制御装置30、及び各温度センサー28を備える。また温度補正装置38は、各温度センサー28と、温度算出部32、温度補正部34、基本温度補正部35、及び熱膨張係数評価部36を有する。
【0020】
温度算出部32は、入力された温度信号を温度データに変換し、スケールの温度tSやワークWの温度tWを算出する。変位算出部37は、入力された座標信号に基づいて、プローブ20の変位量、すなわち長さ(以下、「スケールの読み」ともいう)LSを算出する。例えば、ワークWのX軸方向の長さ、すなわち2点間距離を測定する場合、プローブ20の先端の接触部がワークWに接触したときに、当該接触部の座標に係る座標信号を測定機本体10が出力する。制御装置30は、このようにして得られた2点の座標信号に基づき、プローブ20の変位量であるワークWのX軸方向の長さを算出する。
【0021】
スケールの温度tSは、測定機本体10に設置された温度センサー28で測定された温度を用いることができる。
【0022】
基本温度補正部35は、温度算出部32で得られた各箇所の温度データに基づき、スケールの読みLSに対して基本温度補正処理を行う。基本温度補正処理は、スケールの読みLSに対して、熱膨張係数αS、αWに基づく基本温度補正を行ったワークWの長さの測定値LWを算出する。ワークWの長さの測定値LWは、スケールの熱膨張係数をαS、ワークWの熱膨張係数をαW、スケールの温度をtS、ワークWの温度をtWとすると、下記式(10)で表すことができる。
【0023】
LW=LS(1+αS(tS-20)-αW(tW-20))・・・(10)
【0024】
温度補正部34は、温度算出部32で得られた各箇所の温度データに基づき、温度センサー28を補正する。まず温度補正部34は、ワークWとして熱膨張係数が小さい(ゼロとみなせる)ステップゲージ(以下、「低熱膨張係数のステップゲージ」という)の複数の長さにおける目盛誤差ECから、各スケールに設けられた温度センサー28x、28y、28zの補正を行い、次いで、別途用意した校正された温度センサーを用いてワークWの温度センサー28wの補正をする。
【0025】
まず、温度センサー28x、28y、28zを補正する場合について説明する。ワークWの長さの校正値をLCとすると、目盛誤差ECは、下記式(11)で表すことができる。
【0026】
EC=LW-LC=LS(1+αS(tS-20)-αW(tW-20))-LC・・・(11)
【0027】
本実施形態の場合、測定値LWが有する誤差は、X軸スケール24、Y軸スケール22、及びZ軸スケール26の誤差として、各スケール固有の熱膨張係数αSの誤差、各スケールに設けられた温度センサー28x、28y、28zによって測定された温度tSの誤差、各スケールの読みLSの倍率誤差が含まれると考えられる。さらに各スケールの測定温度tSの誤差は、倍率誤差と、オフセット誤差とで構成される。
【0028】
ワークWの誤差には、ワークWの熱膨張係数αWの誤差、ワークWに設けられた温度センサー28wによって測定された温度tWの誤差、校正値LCの誤差が含まれると考えられる。さらに、ワークWの測定温度tWの誤差は、倍率誤差と、オフセット誤差とで構成される。
【0029】
ここで倍率誤差とオフセット誤差について説明する。誤差がない理想的な温度センサーの場合、三次元測定機1に設けられた温度センサーで測定された結果は、校正された温度センサーで測定された結果と一致するので、三次元測定機1に設けられた温度センサーで測定された結果を横軸、校正された温度センサーで測定された結果を縦軸にプロットしたグラフを作成した場合、測定結果は原点を通り傾きが1の直線となる。一方、三次元測定機1に設けられた温度センサーに誤差がある場合、測定結果は、傾きが異なる直線であったり、原点を通らない直線となったりする。このうち直線の傾きに現れる誤差を、倍率誤差と呼ぶ。また原点のずれに表れる誤差を、オフセット誤差と呼ぶ。実際の誤差には、上記倍率誤差及び上記オフセット誤差が組み合わさっている。
【0030】
X軸スケール24、Y軸スケール22、及びZ軸スケール26に関する誤差のうち、各スケールの熱膨張係数αSの誤差及び各スケールの温度tSの倍率誤差は温度が変化したとき、同じように生じるので区別できない。各スケールの読みLSの倍率誤差と各スケールの温度tSのオフセット誤差も同様に区別できない。ワークWに関する誤差のうち、ワークWの熱膨張係数αWの誤差とワークWの温度tWの倍率誤差、及び校正値LCの誤差とワークWの温度tWのオフセット誤差も、区別できない。
【0031】
また、校正値LC及びワークWの熱膨張係数αWの値が高精度で既知とみなせる場合、誤差はないと仮定できるので、温度センサーの誤差は、以下の4つが考えられる。すなわち、各スケールの温度tSの倍率誤差と各スケールの熱膨張係数αSの誤差で構成される誤差dKS(以下、「等価スケール温度係数誤差」と呼ぶ)、各スケールの温度tSのオフセット誤差と各スケールの読みLSの倍率誤差で構成される誤差dtS0(以下、「スケールオフセット誤差」と呼ぶ)、ワークWの温度tWの倍率誤差とワークWの熱膨張係数αWの誤差で構成される誤差dKW(以下、「等価ワーク温度係数誤差」と呼ぶ)、ワークWの温度tWのオフセット誤差とワークWの校正値LCの誤差で構成される誤差dtW0(以下、「ワークオフセット誤差」と呼ぶ)である。
【0032】
ここで、等価スケール温度係数誤差dKSはスケール側の倍率誤差、スケールオフセット誤差dtS0はスケール側のオフセット誤差、等価ワーク温度係数誤差dKWはワーク側の倍率誤差、ワークオフセット誤差dtW0はワーク側のオフセット誤差である。
【0033】
各スケールの温度tS及びワークWの温度tWを各スケール及びワークWの正しい温度とすると、各スケールの測定温度tS
*及びワークWの測定温度tW
*は、下記式(12)、(13)で表すことができる。
【0034】
tS
*=(1+dKS)tS+dtS0・・・(12)
tW
*=(1+dKW)tW+dtW0・・・(13)
【0035】
熱膨張係数が既知であるワークWとして低熱膨張係数のステップゲージを用いた場合、ワークWの熱膨張係数αWは0であるから、上記式(11)で示される目盛誤差ECは、ワークWの測定値をLWとすると、下記式(14)で表すことができる。
【0036】
EC=LW-LC=LS(1+αS(tS
*-20))-LC
≒αSdtS0LW+αSdKS(tS-20)LW・・・(14)
【0037】
ここで、tS=20±0.5℃の場合、αSdKS(tS-20)LWは0.3未満で、目盛誤差ECに対し十分に小さいので、上記式(14)のαSdKS(tS-20)LWを無視する。そうすると、基準温度(20±0.5℃)で測定した測定値LW1から算出した目盛誤差EC1によりスケールオフセット誤差dtS0は、下記式(15)で表すことができる。
【0038】
dtS0=EC1/αSLW1・・・(15)
【0039】
低熱膨張係数のステップゲージの基準温度(20±0.5℃)で測定した測定値LW1から算出した目盛誤差EC1は、下記式(16)で表すことができる。
【0040】
EC1=LW1-LC・・・(16)
【0041】
なお、測定値LW1を複数の測定値LW1L1、LW1L2とし、目盛誤差EC1を複数の目盛誤差、すなわち測定値LW1L1に対応したEC1L1、測定値LW1L2に対応したEC1L2と置き換えると、式(15)は下記式(17)で表すことができる。なおdtS0は、3つ以上の測定値LW1に基づき、最小二乗法により求めてもよい。
【0042】
dtS0=(EC1L1-EC1L2)/(LW1L1-LW1L2)αS・・・(17)
【0043】
基準温度と異なる温度環境下において、低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lの測定値LW2により等価スケール温度係数誤差dKSは、下記式(18)で表すことができる。
【0044】
dKS=(EC2-αSdtS0LW2)/αS(tS-20)LW2・・・(18)
【0045】
基準温度と異なる温度環境下において、低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lの測定値LW2から算出した目盛誤差EC2は、下記式(19)で表すことができる。
【0046】
EC2=LW2-LC・・・(19)
【0047】
測定値LW2を複数の測定値LW2L1、LW2L2とし、目盛誤差EC2を複数の目盛誤差EC2L1、EC2L2と置き換えると、式(18)は下記式(20)で表すことができる。なおdKSは、3つ以上の測定値LW2に基づき、最小二乗法により求めてもよい。
【0048】
dKS={(EC2L2-EC2L1)-αSdtS0(LW2L1-LW2L2)}/αS(LW2L1-LW2L2)(tS-20)・・・(20)
【0049】
このようにして温度補正部34は、低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lにおける異なる温度での目盛誤差EC1およびEC2から、スケールオフセット誤差dtS0と等価スケール温度係数誤差dKSを得る。
【0050】
熱膨張係数評価部36は、ワークWα(熱膨張係数αSNが既知(公称値)、呼び寸法Lα)の測定値LWαに基づき目盛誤差を算出し、当該目盛誤差に基づき、等価スケール温度係数誤差dKSを用いて、当該ワークWαの熱膨張係数αSNの補正値αSCを算出する。
【0051】
まず複数の温度TS1、TS2の環境下において、測定された測定値LWα(LWα1、LWα2)から、下記式(21)を用いて、目盛誤差ECα(ECα1、ECα2)をそれぞれ算出する。なお、測定値LWαは、上記温度補正がされていないものとする。
【0052】
ECα=LWα-Lα・・・(21)
【0053】
目盛誤差ECαには、オフセット誤差と倍率誤差が含まれる。熱膨張係数の誤差は倍率誤差であるため、目盛誤差ECαに含まれる倍率誤差に着目する。目盛誤差ECαに含まれる倍率誤差は、測定温度TS1、TS2の変化量に対する目盛誤差ECαの変化量の比ECα/Tとして表すことができる(下記式(22))。
【0054】
ECα/T=(ECα1-ECα2)/(TS1-TS2)・・・(22)
【0055】
上記比ECα/Tを無次元化することによって、倍率誤差u(αes)が得られる(下記式(23))。
【0056】
u(αes)={(ECα1-ECα2)/(TS1-TS2)}(1000/Lα)・・・(23)
【0057】
上記倍率誤差u(αes)には、ワークWαの倍率誤差である熱膨張係数の公称値αSNの誤差と、スケール側の倍率誤差が含まれる。スケール側の倍率誤差は、スケールの熱膨張係数αSと等価スケール温度係数誤差dKSを用いてαSdKSで表される。したがって倍率誤差u(αes)からスケール側の倍率誤差αSdKSを除くことによってワークWαの熱膨張係数の誤差が得られる。すなわち、熱膨張係数の補正値αSCは、ワークWαの熱膨張係数の公称値αSN、倍率誤差u(αes)、スケール側の倍率誤差αSdKSに基づき、下記式(24)で表すことができる。
【0058】
αSC=αSN+u(αes)-αSdKS・・・(24)
【0059】
(2)動作及び効果
上記のように構成された三次元測定機1を用いて、ワークWの熱膨張係数を評価する手順を説明する。まず、ワークWとして低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lが異なる2つ以上の長さを、基準温度(20±0.5℃)、および基準温度と異なる温度環境下において測定する。具体的には、基台12上に上記ステップゲージをX軸に平行に設置し、当該ステップゲージのX軸方向の2点の座標を上記2条件で検出する。検出結果は、座標信号として測定機本体10から制御装置30へ出力される。制御装置30は、得られた2点の座標信号に基づき、基本温度補正をすることにより、上記ステップゲージのX軸方向の測定値LWを算出する。基準温度(20±0.5℃)における測定値をLW1L1、LW1L2、基準温度と異なる温度環境下における測定値をLW2L1、LW2L2、とする。
【0060】
次いで、制御装置30は、上記式(16)により、基準温度(20±0.5℃)における目盛誤差EC1(EC1L1、EC1L2)を算出する。さらに制御装置30は、上記式(17)により、スケールオフセット誤差dtS0を算出する。
【0061】
続いて制御装置30は、上記式(19)により、基準温度と異なる温度環境下における目盛誤差EC2(EC2L1、EC2L2)を算出する。さらに制御装置30は、上記式(20)により、等価スケール温度係数誤差dKSを算出する。
【0062】
続いて制御装置30は、複数の温度TS1、TS2の環境下において、ワークWαとして熱膨張係数αSNが既知であるブロックゲージの、長さを測定した測定値LWαから目盛誤差ECα(ECα1、ECα2)を算出する。次いで制御装置30は、目盛誤差ECαから、無次元化した倍率誤差u(αes)を、上記式(23)を用いて算出する。さらに制御装置30は、ブロックゲージの熱膨張係数の補正値αSCを、上記式(24)を用いて算出する。
【0063】
上記のように制御装置30は、目盛誤差ECα1、ECα2から算出した倍率誤差u(αes)に対し、三次元測定機1由来の誤差を補正して、ブロックゲージの熱膨張係数の補正値を算出することによって公称値αSNを評価することができる。したがって三次元測定機1は、ブロックゲージのより正確な熱膨張係数を容易に得ることができる。ユーザは、上記補正値αSCが付与されたブロックゲージを用いることによって、例えば他の座標測定機をより高精度に校正することができる。
【0064】
ワークWとして低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lが異なる2つ以上の長さを、基準温度(20±0.5℃)、および基準温度と異なる温度環境下において測定する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。ゼロ点比例式を用いて、1つの呼び寸法Lの長さを測定することによって温度補正をしてもよい。すなわち、ワークWとして低熱膨張係数のステップゲージの呼び寸法Lの長さを、基準温度(20±0.5℃)で測定した測定値LW1、および基準温度と異なる温度環境下において測定した測定値LW2に基づき、上記式(15)、及び式(18)により、スケールオフセット誤差dtS0と等価スケール温度係数誤差dKSとを算出してもよい。
【0065】
熱膨張係数が既知であるワークWとして低熱膨張係数のステップゲージを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、熱膨張係数付ステップゲージを用いてもよい。この場合、上記式(11)で示される目盛誤差ECは、ワークWの測定値をLWとすると、下記式(25)で表すことができる。
【0066】
EC≒αSdtS0LW+αSdKS(tS-20)LW-αWdtW0LW-αWdKW(tW-20)LW・・・(25)
【0067】
ここで、熱膨張係数付ステップゲージを測定する場合、ワークWの熱膨張係数の誤差はないと仮定できるので、等価ワーク温度係数誤差dKW=0とみなせるから、αWdKW(tW-20)LW=0となる。さらに校正された温度計と三次元測定機1に付属のワーク温度計を比較することによりdtW0を補正することによって、αWdtW0LW=0となる。したがって上記式(25)は、上記式(14)のように表すことができる。
【0068】
(3)変形例
(変形例1)レーザー干渉測長器を用いた例
上記実施形態の場合、基準温度(20±0.5℃)で測定した測定値L
W1L1、L
W1L2、および基準温度と異なる温度環境下において測定したL
W2L1、L
W2L2は、ワークWとして低熱膨張係数のステップゲージを用いて測定した値としたが、本発明はこれに限らない。例えば、測定値L
W1L1、L
W1L2、L
W2L1、L
W2L2は、
図3に示すように、レーザー干渉測長器40により測定した長さと同じ長さを三次元測定機1で測定した値としてもよい。
【0069】
レーザー干渉測長器40は、レーザー光源42、干渉ミラー44、反射ミラー46を備える。本図の場合、レーザー光源42は、Y軸方向にレーザー光を出射するように配置される。干渉ミラー44は、レーザー光の光路上に配置され入射光の第1偏光成分を側方であるX方向に反射するとともに第2偏光成分を反射して再入射させる。反射ミラー46は、プローブに替えてZ軸移動体19の先端に固定されており、干渉ミラー44でX方向に反射された第1偏光成分を反射する。レーザー光源42は、受光器(図示しない)を備えており、演算処理部48(例えばパーソナルコンピュータ)に電気的に接続されている。演算処理部48は、受光器の出力信号から干渉縞による明暗の変化を検出して、測長を行う。
【0070】
レーザー光源42から出射されたレーザー光は、干渉ミラー44に入射すると、スプリッタ面(図示しない)において第1偏光成分がX方向に反射され、測定光として反射ミラー46に向けて出射される。測定光は反射ミラー46の反射面に垂直に入射して反射され、逆進する。測定光は、干渉ミラー44によって反射され、受光器に入射する。第2偏光成分は、干渉ミラー44で反射され、参照光として、受光器に入射する。干渉ミラー44は入射光の光軸を平行移動した光として反射する。このためレーザー光源42から出射されるレーザー光の光軸と、受光器に入射する参照光の光軸とは、互いに離間した平行線になっている。
【0071】
干渉ミラー44で分岐された参照光と測定光とが合成されることにより、それぞれの間の光路差に応じた干渉が起こる。受光器は、干渉に応じた明暗の変化を検出する。この明暗変化は、演算処理部48によってカウントされ、予め設定された測定原点からの距離変化に換算され、レーザー干渉測長器40による出力値として出力される。
【0072】
例えば、測定機本体10において、Z軸移動体19の先端に設けられた反射ミラー46をX軸方向に所定距離だけ移動させる。そのとき制御装置30から出力される送り位置、すなわちX方向変位量を測定値LWとする。同時に、上記レーザー干渉測長器40で得られた出力値を校正値LCとする。当該測定値LW及び校正値LCは、上記実施形態における温度補正方法にそのまま適用することができる。送り位置である測定値LWとレーザー干渉測長器40で得られた校正値LCより求めた誤差(LW-LC)を、位置決め誤差ECと呼ぶ。したがって本変形例に係る温度補正方法は、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0073】
上記実施形態における基準温度(20±0.5℃)で測定した測定値LW1L1、LW1L2は、必ずしも実際に基準温度(20±0.5℃)で測定した値に限られず、基準温度以外の温度で測定した測定値からシミュレーションにより得た値を用いてもよい。
【0074】
(変形例2)校正された温度センサーを用いた例
上記実施形態の場合、式(15)又は式(17)を用いてスケールオフセット誤差dtS0を算出する場合について説明したが、本発明はこれに限らない。上述の通り、スケールオフセット誤差dtS0を構成する各スケールの温度tSのオフセット誤差と各スケールの読みLSの倍率誤差のうち、各スケールの読みLSの倍率誤差はごく小さい値であることが、これまでの実験結果からわかっている。すなわちスケールオフセット誤差dtS0は、各スケールの温度tSのオフセット誤差の影響が大きい。したがって各スケールの温度tSと、校正された温度センサーで測定された温度との差をスケールオフセット誤差dtS0としてもよい。これによって、基準温度(20℃±0.5℃)において、熱膨張係数が既知の呼び寸法Lが異なる複数の測定値LW1L1、LW1L2を測定する必要がなく、より簡便に補正をすることができる。
【0075】
2.第2実施形態
次に、座標測定機としての三次元測定機1の温度補正方法について説明する。上記スケールオフセット誤差dtS0と上記等価スケール温度係数誤差dKSに加え、以下の手順でワークオフセット誤差dtW0を求めることによって、三次元測定機1の温度補正をすることができる。ワークオフセット誤差dtW0は、スケール側の温度補正がされた三次元測定機1によって、熱膨張係数が既知のブロックゲージを測定した測定値に基づき、算出することができる。
【0076】
まず、基準温度と異なる温度環境下で、熱膨張係数αW、呼び寸法LGのワークWGの長さを測定し、目盛誤差ECGを求める。目盛誤差ECGには、スケール側の誤差と、ワーク側の誤差が含まれるので、目盛誤差ECGから、スケール側の誤差を減算することによって、ワーク側の誤差を求めることができる。なお、ワークWの熱膨張係数αWの値が高精度で既知とみなせる場合、誤差はないと仮定できるので、この場合、等価ワーク温度係数誤差dKWについては無視できる。したがって、上記ワーク側の誤差は、ワークオフセット誤差dtW0によるものと見なせる。すなわち、ワークオフセット誤差dtW0は、スケール側の誤差である上記スケールオフセット誤差dtS0と、上記等価スケール温度係数誤差dKSとによって、下記式(26)で表される。
【0077】
dtw0=(ECG-αSdtS0LG-dKS(tS-20)LG)/αW・・・(26)
【0078】
得られたワークオフセット誤差dtW0から、上記式(13)により、補正後温度tW-corrを算出し、温度センサー28wを補正する。
【0079】
また、得られたスケールオフセット誤差dtS0、等価スケール温度係数誤差dKS、及び上記式(12)から温度tS
*を算出する。このように算出された温度を補正後温度tS-corrと呼ぶ。補正後温度tS-corrをスケールごとに算出することにより、各スケールの温度センサー28x、28y、28zを補正することができる。具体的には、温度センサー28x、28y、28zの設定を、補正後温度tS-corrにそれぞれ変更することにより、補正することができる。
【0080】
三次元測定機1は、上記のようにして補正された温度センサー28x、28y、28z、28wを用い、tSを補正後温度tS-corrとし、tWを補正後温度tW-corrとし、上記式(10)を用いて、各スケールの読みLSに対し補正された温度を適用することによって、より誤差のない測定値LWを算出することができる。
【0081】
本実施形態に係る温度補正装置38は、基準温度(20±0.5℃)における目盛誤差EC1から直ちにスケールオフセット誤差dtS0を算出するので、より容易に目盛誤差ECを低減することができる。
【0082】
等価スケール温度係数誤差dKSとスケールオフセット誤差dtS0は、標準基準温度に対する偏差によって生じ、種々の誤差が含まれる。したがって温度補正装置38は、等価スケール温度係数誤差dKSとスケールオフセット誤差dtS0を算出することにより、測定値LWに含まれる誤差を温度補正によって、取り除くことができる。
【0083】
3.実施例
(実施例1)
(温度補正)
実際に、レーザー干渉測長器を用いて、等価スケール温度係数誤差dK
Sとスケールオフセット誤差dt
S0を算出した。測定日を変えて測定温度が異なる3条件で、0~700mmを50mmピッチで測定し、位置決め誤差を算出した。スケール温度t
Sは、温度センサー28xで測定した温度とした。その結果を
図4に示す。
図4は、横軸が測定位置(mm)であり、縦軸が位置決め誤差(μm)である。位置決め誤差E
Cは、レーザー干渉測長器による出力値を校正値L
C、三次元測定機による変位量を測定値L
Wとすると、E
C=L
W-L
Cで表すことができる。
【0084】
図5は、
図4のグラフから基準温度(19.65℃)における位置決め誤差E
C1のみを取り出したグラフである。本図に基づき、上記式(15)、又は式(17)により、スケールオフセット誤差dt
S0を求めることができる。本実施例では、最小二乗法により求めた直線を用いてスケールオフセット誤差dt
S0を求める場合について説明する。本図における直線は、最小二乗法により求めた。上記式(15)におけるE
C1/L
W1、又は式(17)における(E
c1L1-E
c1L2)/(L
w1L1-L
w1L2)を当該直線の傾き(0.001)、スケールの熱膨張係数α
Sを8.00×10
-6/℃とすると、上記式(15)、又は式(17)により、スケールオフセット誤差dt
S0は、0.125℃と算出される。スケールオフセット誤差dt
S0を補正することにより、位置決め誤差E
C1を0.5μm以下にすることができた(
図5中○印)。
【0085】
図6は、基準温度以外の温度における位置決め誤差E
C2について、スケールオフセット誤差dt
S0を補正した位置決め誤差E
rを示すグラフである。本図は、横軸が測定位置(mm)であり、縦軸が位置決め誤差(μm)である。スケールオフセット誤差dt
S0による補正は、上記式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/L
W2、又は上記式(20)における{(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/(L
W2L1-L
W2L2)に相当する。
【0086】
次いで、上記位置決め誤差E
rを20℃のときの位置決め誤差E
r20に置換した。位置決め誤差E
r20は、
図6のそれぞれの傾きを20℃からの偏差で除算することにより、算出した。その結果を
図7に示す。位置決め誤差E
r20を得る計算は、上記式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/(t
S-20)L
W2、又は上記式(20)における{(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)に相当する。したがって上記スケールの熱膨張係数α
Sで除算することにより、等価スケール温度係数誤差dK
Sを求めることができる。
【0087】
本実施例では、最小二乗法により等価スケール温度係数誤差dK
Sを求める場合について説明する。
図7に示すグラフは、測定温度の2条件に応じた2つのグラフから、最小二乗法により求めた1つの直線が示されている。上記直線の傾き(0.00015)を上記スケールの熱膨張係数α
Sで除算することにより、等価スケール温度係数誤差dK
Sは、0.019と算出される。等価スケール温度係数誤差dK
Sを得る計算は、式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/α
S(t
S-20)L
W2、又は上記式(20)の{(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/α
S(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)に相当する。位置決め誤差E
r20に対し等価スケール温度係数誤差dK
Sを補正した位置決め誤差を
図8に示す。上記したように、スケールオフセット誤差dt
S0および等価スケール温度係数誤差dK
Sを補正することにより、位置決め誤差を0.5μm以下とすることができた。
【0088】
次いで、基台12上に設置した低熱膨張係数のステップゲージの温度t
Wを測定する温度センサー28wと、校正された温度センサーを隣に設置し、温度データを取得した。温度センサー28wと、校正された温度センサーで測定した温度データの相関図を
図9に示す。
図9は横軸が温度センサー28wの20℃からの偏差、縦軸が校正された温度センサーの20℃からの偏差を示す。本図から、ワークオフセット誤差dt
W0は0.0576℃であることが確認できた。
【0089】
次に、上記のように補正された温度センサー28xの有効性を、ワークWとして鋼製のブロックゲージを用いて確認した。ブロックゲージは、呼び寸法500mmのものを用い、測定日を変えて測定温度が異なる5条件で、X軸方向の長さを測定し、目盛誤差を算出した。その結果を
図10に示す。
図10は、横軸が20℃からの偏差(℃)、縦軸が目盛誤差(μm)を示す。目盛誤差E
MXは、校正値をL
C、測定値をL
Wとして、E
MX=L
W-L
Cで求めた。目盛誤差E
MX-S-corrは、補正されたX軸スケール24の温度センサー28xを用いて温度補正をした結果であって、上記式(10)のt
Sに補正後温度を用いて得た測定値をL
Wとして算出した。さらに目盛誤差E
MX-corrは、補正されたワークWの温度センサー28wを用いて温度補正をした結果であって、上記式(10)のt
S、及びt
Wに補正後温度を用いて得た測定値L
Wから算出した。
【0090】
図中、●は目盛誤差EMX、黒塗り△は目盛誤差EMX-S-corr、○は目盛誤差EMX-corrを示す。本図から20℃からの偏差に応じて目盛誤差が変化していることが分かる。またX軸スケール24とワークWの温度センサー28x、28wを補正する前において最大目盛誤差が-2.7(μm)、標準偏差が0.59(μm)であったのに対し、補正後において最大目盛誤差が-0.8(μm)、標準偏差が0.27(μm)に減少することが確認できた。
【0091】
(熱膨張係数の測定)
上記のようにして得られた等価スケール温度係数誤差dKSを用いて、ブロックゲージの熱膨張係数を評価できることを確認した。
【0092】
ブロックゲージは、熱膨張係数の公称値が10.8±0.5×10
-6/℃、呼び寸法L
αが500mmのものを用い、測定日を変えて測定温度が異なる3条件で、X軸方向の長さを測定し、目盛誤差E
Cαを算出した。その結果を
図11に示す。
図11は、横軸が20℃からの偏差(℃)、縦軸が目盛誤差(μm)を示す。
【0093】
図中■は測定値から求めた目盛誤差ECαを示す。目盛誤差ECαから最小二乗法によって求めた直線の傾きECα/T(上記式(22))は、0.043であった。また、αSは8.00×10-6/℃、dKSは0.019であるから、αSdKSは0.152である。
【0094】
上記ECα/Tを上記式(23)によって無次元化したu(αes)は、0.086である。したがって熱膨張係数αSNの補正値αSCは、上記式(24)より、10.734×10-6/℃である。なお、図中△はu(αes)からαSdKSを補正した補正値であり、補正値から最小二乗法によって求めた直線の傾きは、0.033であった。図中■は、スケールオフセット誤差dtS0とワークオフセット誤差dtW0が補正されている。
【0095】
なお、光波干渉測定機で測定した上記ブロックゲージの正確な熱膨張係数は10.69×10-6/℃であった。すなわち上記ブロックゲージの正確な熱膨張係数と、上記補正値αSCとの差は0.044×10-6/℃であった。上記ブロックゲージの熱膨張係数の不確かさが±0.5×10-6/℃とされているところ、本実施例に係る方法を用いることによって、ブロックゲージの不確かさを±0.1×10-6/℃以下に向上できることが示された。
【0096】
(実施例2)
実施例1の
図4に示す測定結果に基づき、スケールの温度t
Sと、校正された温度センサーで測定された温度との差をスケールオフセット誤差dt
S0とした場合の温度補正を検証した。X軸スケール24に校正された温度センサーを貼り付け、温度データを取得した。温度センサー28xと、校正された温度センサーで測定した温度データの相関図を
図12に示す。
図12は、横軸が温度センサー28xの20℃からの偏差、縦軸が校正された温度センサーの20℃からの偏差を示す。本図から、スケールオフセット誤差dt
S0は-0.1315℃とした。
【0097】
図13は、基準温度以外の温度における位置決め誤差E
C2について、スケールオフセット誤差dt
S0を補正した位置決め誤差E
rを示すグラフである。本図は、横軸が測定位置(mm)であり、縦軸が位置決め誤差(μm)である。スケールオフセット誤差dt
S0による補正は、上記式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/L
W2、又は上記式(20)における(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)/(L
W2L1-L
W2L2)に相当する。
【0098】
次いで、上記位置決め誤差E
rを20℃のときの位置決め誤差E
r20に置換した。位置決め誤差E
r20は、
図13のそれぞれの傾きを20℃からの偏差で除算することにより、算出した。その結果を
図14に示す。位置決め誤差E
r20を得る計算は、上記式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/(t
S-20)L
W2、又は上記式(20)における{(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)に相当する。したがって上記スケールの熱膨張係数α
Sで除算することにより、等価スケール温度係数誤差dK
Sを求めることができる。
【0099】
本実施例では、最小二乗法により等価スケール温度係数誤差dK
Sを求める場合について説明する。
図14に示すグラフは、測定温度の2条件に応じた2つのグラフから、最小二乗法により求めた1つの直線が示されている。続いて上記直線の傾き(0.00016)を上記スケールの熱膨張係数α
Sで除算することにより、等価スケール温度係数誤差dK
Sは、0.020と算出される。等価スケール温度係数誤差dK
Sを得る計算は、式(18)における(E
C2-α
Sdt
S0L
W2)/α
S(t
S-20)L
W2、又は上記式(20)の{(E
C2L2-E
C2L1)-α
Sdt
S0(L
W2L1-L
W2L2)}/α
S(L
W2L1-L
W2L2)(t
S-20)に相当する。位置決め誤差E
r20に対し等価スケール温度係数誤差dK
Sを補正した位置決め誤差を
図15に示す。上記したように、スケールオフセット誤差dt
S0および等価スケール温度係数誤差dK
Sを補正することにより、位置決め誤差を実施例1と同じ0.5μm以下とすることができた。
【0100】
次に、上記のように補正された温度センサー28xの有効性を、実施例1で用いた鋼製のブロックゲージの測定データを用いて確認した。その結果を
図16に示す。
図16は、横軸が20℃からの偏差(℃)、縦軸が目盛誤差(μm)を示す。
【0101】
図中、●は目盛誤差EMX、黒塗り△は目盛誤差EMX-S-corr、○は目盛誤差EMX-corrを示す。本図から20℃からの偏差に応じて目盛誤差が変化していることが分かる。またX軸スケール24とワークWの温度センサー28x、28wを補正する前において最大目盛誤差が-2.7(μm)、標準偏差が0.59(μm)であったのに対し、補正後において最大目盛誤差が-1.0(μm)、標準偏差が0.33(μm)に減少し、実施例1と同等の結果が得られることが確認できた。
【0102】
(実施例3)
熱膨張係数付ブロックゲージを用いて、ワーク温度計の評価を行った。ブロックゲージは、熱膨張係数α
Wの公称値が10.8±0.5×10
-6/℃、呼び寸法L
Gが300mm、400mm、500mmの3種を用いた。上記ブロックゲージに、ワーク温度計として実施例1で用いた温度センサー28wを貼り付けた。測定温度が基準温度より高い条件で測定したX軸方向の長さから、目盛誤差E
CGを算出した。その結果を
図17に示す。
図17は、横軸がブロックゲージの呼び寸法(mm)、縦軸が目盛誤差(μm)を示す。
【0103】
上記式(26)を用いて算出したdt
W0は、0.05であった。この結果から、
図9に示した、温度センサー28wの校正された温度センサーから求めたワークオフセット誤差dt
W0(0.0576℃)と同等の結果が得られることが示された。なお本実施例においては、目盛誤差E
CGを無次元化するため、下記式(27)により求めたE
CG/Lを用い、さらに下記式(28)よりdt
W0を算出した。本実施例では、呼び寸法L
Gが異なる3種類の目盛誤差E
CGを用いているので、下記式(27)における(E
CG1-E
CG2)/(L
G1-L
G2)は、最小二乗法により求めた直線の傾き(0.0026)とした。
【0104】
ECG/L={(ECG1-ECG2)/(LG1-LG2)}×1000・・・(27)
dtw0=(ECG/L-αSdtS0-dKS(tS-20))/αW・・・(28)
【0105】
また、dtW0を0.05とし、実施例2におけるスケールオフセット誤差dtS0および等価スケール温度係数誤差dKSを用いて、実施例1で用いた鋼製のブロックゲージの測定データを補正したところ、実施例2と同じ最大目盛誤差が-1.0(μm)、標準偏差が0.33(μm)であった。すなわち、熱膨張係数付ブロックゲージを用いて、ワーク温度計の評価を行った場合でも、校正された温度計で測定したdtW0を用いた場合と同じ結果が得られることが確認された。
【0106】
(実施例4)
実施例1で得られた等価スケール温度係数誤差dKSを用いて、熱膨張係数付ブロックゲージの測定値から熱膨張係数の補正値を算出し、校正値と比較した。
【0107】
ブロックゲージは、材料と長さが異なる3種類(鋼製:500mm, 鋼製:400mm, セラミックス製:500mm)を用意した。測定日を変えて測定温度が異なる3条件(16.56℃,20.30℃,26.94℃)で、X軸方向の長さを測定し、目盛誤差E
Cαを算出した。その結果を
図18、
図19、及び
図20に示す。
図18は鋼製:500mmの結果、
図19は鋼製:400mmの結果、及び
図20はセラミックス製:500mmの結果であり、横軸が20℃からの偏差(℃)、縦軸が目盛誤差(μm)を示す。
【0108】
図中■は測定値から求めた目盛誤差ECαを示す。目盛誤差ECαから最小二乗法によって求めた直線の傾きECα/T(上記式(22))は、それぞれ0.069(鋼製:500mm)、0.061(鋼製:400mm)、0.087(セラミックス製:500mm)であった。また、αSは8.00×10-6/℃、dKSは0.019であるから、αSdKSは0.152である。
【0109】
上記ECα/Tを上記式(23)によって無次元化したu(αes)は、それぞれ0.138(鋼製:500mm)、0.1525(鋼製:400mm)、0.174(セラミックス製:500mm)0.086である。
【0110】
各ブロックゲージの熱膨張係数αSNの校正値、及び式(24)より求めた補正値αSCは、下記表1の通りである。表1の結果から、本実施例に係る方法を用いることによって、ブロックゲージの不確かさを±0.1×10-6/℃以下に向上できることが示された。なお図中△はu(αes)からαSdKSを補正した補正値であり、補正値から最小二乗法によって求めた直線の傾きは、それぞれ0.007(鋼製:500mm)、0.015(鋼製:400mm)、0.011(セラミックス製:500mm)であった。
【0111】
【符号の説明】
【0112】
1 三次元測定機
30 制御装置
32 温度算出部
34 温度補正部
36 熱膨張係数評価部
37 変位算出部
38 温度補正装置