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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】移乗装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 7/14 20060101AFI20230901BHJP
   A61G 5/14 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A61G7/14
A61G5/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020051192
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146060
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】511258167
【氏名又は名称】カネタコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】市原 晴夫
【審査官】瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154773(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011838(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090248(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/10- 7/14
A61G 5/14
F16H 31/00,35/10
F16D 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャスタを有する基台と、
前記基台から上方に延びる支柱と、
前記支柱に対して水平な揺動軸心周りで初期位置から移送位置まで揺動可能に設けられ、被介護者を保持する保持部材と、
介護者の手動力によって前記保持部材を揺動させる操作機構とを備え、
前記保持部材は、前記被介護者の胸部を受け得る中央部材と、前記中央部材に対して水平な第1方向における前記被介護者の右側に位置するとともに、前記第1方向と直交しながら前記中央部材から離間する第2方向に延びて前記被介護者の右脇を載せ得る右側部材と、前記中央部材に対して前記第1方向における前記被介護者の左側に位置するとともに、前記第2方向に延びて前記被介護者の左脇を載せ得る左側部材とを有し、
前記初期位置では、前記中央部材がほぼ垂直な状態になり、
前記移送位置では、前記中央部材がほぼ水平な状態になり、
前記中央部材と前記右側部材との間には、前記初期位置で前記右脇が前記右側部材に載せられていない状態では、手動力によって前記右側部材を前記中央部材に対して前記第1方向に平行移動可能とし、前記初期位置及び前記移送位置で前記右脇が前記右側部材に載せられた状態では、前記右側部材を前記中央部材に対して前記第1方向で固定する右側機構が設けられ、
前記中央部材と前記左側部材との間には、前記初期位置で前記左脇が前記左側部材に載せられていない状態では、手動力によって前記左側部材を前記中央部材に対して前記第1方向に平行移動可能とし、前記初期位置及び前記移送位置で前記左脇が前記左側部材に載せられた状態では、前記左側部材を前記中央部材に対して前記第1方向で固定する左側機構が設けられていることを特徴とする移乗装置。
【請求項2】
前記右側部材は、前記右脇が載せられる右側本体と、前記右側本体から前記中央部材に向かって延びる右側アームとを有し、
前記左側部材は、前記左脇が載せられる左側本体と、前記左側本体から前記中央部材に向かって延びる左側アームとを有し、
前記中央部材は、前記右側アームを挿入させて前記第1方向で案内する右案内室と、前記左側アームを挿入させて前記第1方向で案内する左案内室とが形成されたガイドを有し、
前記右側機構は、前記右側アームの上面の先端に形成された右側係合部と、前記右案内室の上面に前記第1方向に延びて形成され、前記右側係合部と係合する右側被係合部とからなり、
前記左側機構は、前記左側アームの上面の先端に形成された左側係合部と、前記左案内室の上面に前記第1方向に延びて形成され、前記左側係合部と係合する左側被係合部とからなる請求項1記載の移乗装置。
【請求項3】
前記右側アームの下面の先端には、前記右側係合部と前記右側被係合部との非係合時に前記右案内室の下面を転動する右側ローラが設けられ、
前記左側アームの下面の先端には、前記左側係合部と前記左側被係合部との非係合時に前記左案内室の下面を転動する左側ローラが設けられている請求項2記載の移乗装置。
【請求項4】
前記ガイドと前記右側アームとの間には、前記右側アームが前記ガイドから抜けないようにする右側ストッパ機構が設けられ、
前記ガイドと前記左側アームとの間には、前記左側アームが前記ガイドから抜けないようにする左側ストッパ機構が設けられている請求項2又は3記載の移乗装置。
【請求項5】
前記右側ストッパ機構は、前記ガイド内に設けられ、前記第2方向に延びる右側ピンと、前記右側アームに前記第1方向に延びて形成され、前記右側ピンを挿通する右側スリットとを有し、
前記左側ストッパ機構は、前記ガイド内に設けられ、前記第2方向に延びる左側ピンと、前記左側アームに前記第1方向に延びて形成され、前記左側ピンを挿通する左側スリットとを有する請求項4記載の移乗装置。
【請求項6】
前記右側被係合部は、歯元から開口側の歯先に向かう歯面が右側被係合噛合面をなす歯であり、
前記右側被係合噛合面は、前記第1方向及び前記第2方向と直交する第3方向を仮定するとともに、前記第1方向と前記第3方向とでなす座標を仮定する場合、前記座標において、前記右側被係合噛合面と前記第1方向とが原点によって交差し、前記右側被係合噛合面の歯先側が前記第1方向と直角又は鋭角をなし、
前記右側係合部は、歯元から奥側の歯先に向かう歯面が右側係合噛合面をなす歯であり、
前記右側係合噛合面は、前記座標において、前記右側係合噛合面と前記右側アームが延びる延伸方向とが原点によって交差し、前記右側係合噛合面の歯先側が前記延伸方向と直角又は鋭角をなし、
前記左側被係合部は、歯元から開口側の歯先に向かう歯面が左側被係合噛合面をなす歯であり、
前記左側被係合噛合面は、前記座標において、前記左側被係合噛合面と前記第1方向とが原点によって交差し、前記左側被係合噛合面の歯先側が前記第1方向と直角又は鋭角をなし、
前記左側係合部は、歯元から奥側の歯先に向かう歯面が左側係合噛合面をなす歯であり、
前記左側係合噛合面は、前記座標において、前記左側係合噛合面と前記左側アームが延びる延伸方向とが原点によって交差し、前記左側係合噛合面の歯先側が前記延伸方向と直角又は鋭角をなしている請求項2乃至5のいずれか1項記載の移乗装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移乗装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の移乗装置が開示されている。この移乗装置は、基台と、支柱と、保持部材と、操作機構とを備えている。基台には4つのキャスタが設けられている。支柱は、基台から上方に向かって延びている。保持部材は、支柱に対して水平な揺動軸心周りで初期位置から移送位置まで揺動可能に設けられ、被介護者を保持する。操作機構は、介護者の手動力によって保持部材を揺動させる。
【0003】
保持部材は、中央部材と右側部材と左側部材とを有している。中央部材は、被介護者の胸部を受けることが可能となっている。右側部材は、中央部材に対して水平な第1方向における被介護者の右側に位置しており、第1方向と直交しながら中央部材から離間する第2方向に延びている。右側部材は、被介護者の右脇を載せることが可能となっている。左側部材は、中央部材に対して第1方向における被介護者の左側に位置しており、第2方向に延びている。左側部材は、被介護者の左脇を載せることが可能となっている。
【0004】
初期位置では、中央部材がほぼ垂直な状態になり、移送位置では、中央部材がほぼ水平な状態になる。右側部材及び左側部材は、第1方向及び第2方向と直交する第3方向に移動することにより、拡大位置と縮小位置とに変位可能である。縮小位置での右側部材と左側部材との間隔は、拡大位置での右側部材と左側部材との間隔より狭い。右側部材の拡大位置から縮小位置への変位は、右側部材に被介護者の右脇が載置されることにより行われる。左側部材の拡大位置から縮小位置への変位は、左側部材に被介護者の左脇が載置されることにより行われる。
【0005】
この移乗装置で例えばベッドに腰掛けた被介護者を車椅子や便器等に移乗する場合、まず、介護者が操作機構を手動力によって操作し、保持部材を初期位置まで揺動させる。この状態において、被介護者が中央部材に胸部を当接させつつ、右側部材に右脇を載置し、左側部材に左脇を載置する。これにより、右側部材及び左側部材は、それぞれ拡大位置から第3方向に移動して縮小位置に変位する。ここで、縮小位置では、右側部材及び左側部材が拡大位置にあるときに比べて、双方がより中央部材に近接する状態となる。これにより、縮小位置では、右側部材と左側部材との間隔が狭くなる。このため、この移乗装置では、被介護者は、中央部材に胸部を当接させた状態で、右側部材及び左側部材によって胴体が両脇から挟持される。こうして、被介護者は、胸部、胴体、右脇及び左脇がそれぞれ中央部材、右側部材及び左側部材によって保持される。そして、介護者は、操作機構を手動力によって操作し、保持部材を移送位置まで揺動させる。これにより、被介護者は、ベッドからお尻が持ち上げられ、移乗装置に全身が移されることとなる。
【0006】
次いで、介護者は、被介護者が車椅子や便器等に降りられるように、基台を車椅子や便器等に向かって移動させた後、操作機構を手動力によって操作し、保持部材を初期位置までゆっくり揺動させる。これにより、被介護者は、お尻が車椅子や便器等に降ろされ、移乗装置から全身が車椅子や便器等に移されることとなる。こうして、介護者は、被介護者を別の場所に移送したり、被介護者を保持部材に保持させた状態で着替え等を行ったりする介護を行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-154773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来の移乗装置は、移送位置において、被介護者の自重に基づく力によって被介護者の胴体を右側部材と左側部材とが挟持するため、被介護者が窮屈であるとの意見がある。
【0009】
特に、被介護者の中には、脳梗塞によって半身不随になっている者もいる。その者は、右脇及び左脇の一方は自己の意思で動かせるものの、他方は自己の意思で動かせず、他方側の腕は自重によって垂れ下がったままの状態であったり、拘縮した状態となっている。上記従来の移乗装置では、その者の移乗を行うことが困難である。
【0010】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、移乗の際に被介護者が窮屈でなく、従来品では困難であった半身不随の被介護者であっても容易に移乗を行うことができる移乗装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の移乗装置は、キャスタを有する基台と、
前記基台から上方に延びる支柱と、
前記支柱に対して水平な揺動軸心周りで初期位置から移送位置まで揺動可能に設けられ、被介護者を保持する保持部材と、
介護者の手動力によって前記保持部材を揺動させる操作機構とを備え、
前記保持部材は、前記被介護者の胸部を受け得る中央部材と、前記中央部材に対して水平な第1方向における前記被介護者の右側に位置するとともに、前記第1方向と直交しながら前記中央部材から離間する第2方向に延びて前記被介護者の右脇を載せ得る右側部材と、前記中央部材に対して前記第1方向における前記被介護者の左側に位置するとともに、前記第2方向に延びて前記被介護者の左脇を載せ得る左側部材とを有し、
前記初期位置では、前記中央部材がほぼ垂直な状態になり、
前記移送位置では、前記中央部材がほぼ水平な状態になり、
前記中央部材と前記右側部材との間には、前記初期位置で前記右脇が前記右側部材に載せられていない状態では、手動力によって前記右側部材を前記中央部材に対して前記第1方向に平行移動可能とし、前記初期位置及び前記移送位置で前記右脇が前記右側部材に載せられた状態では、前記右側部材を前記中央部材に対して前記第1方向で固定する右側機構が設けられ、
前記中央部材と前記左側部材との間には、前記初期位置で前記左脇が前記左側部材に載せられていない状態では、手動力によって前記左側部材を前記中央部材に対して前記第1方向に平行移動可能とし、前記初期位置及び前記移送位置で前記左脇が前記左側部材に載せられた状態では、前記左側部材を前記中央部材に対して前記第1方向で固定する左側機構が設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の移乗装置では、右側機構は、初期位置で右脇が右側部材に載せられていない状態では、手動力によって右側部材を中央部材に対して第1方向に平行移動可能とする。また、右側機構は、初期位置及び移送位置で右脇が右側部材に載せられた状態では、右側部材を中央部材に対して第1方向で固定する。一方、左側機構は、初期位置で左脇が左側部材に載せられていない状態では、手動力によって左側部材を中央部材に対して第1方向に平行移動可能とする。また、左側機構は、初期位置及び移送位置で左脇が左側部材に載せられた状態では、左側部材を中央部材に対して第1方向で固定する。
【0013】
このため、この移乗装置は、移送位置において、被介護者の自重に基づく力によって右側部材と左側部材とをそれぞれ独立して第1方向の任意の位置で固定できる。このため、被介護者が窮屈に感じ難い。
【0014】
特に、被介護者が脳梗塞によって半身不随になっている者である場合、その者は、右脇及び左脇の一方を自己の意思で動かすことによって、右側部材及び左側部材の一方の第1方向の位置を自己で決定し、他方は介護者が右側部材及び左側部材の他方の第1方向の位置をその者に合わせて決定できる。
【0015】
したがって、この移乗装置によれば、移乗の際に被介護者が窮屈でなく、従来品では困難であった半身不随の被介護者であっても容易に移乗を行うことができる。
【0016】
右側部材は、右脇が載せられる右側本体と、右側本体から中央部材に向かって延びる右側アームとを有し得る。左側部材は、左脇が載せられる左側本体と、左側本体から中央部材に向かって延びる左側アームとを有し得る。中央部材は、右側アームを挿入させて第1方向で案内する右案内室と、左側アームを挿入させて第1方向で案内する左案内室とが形成されたガイドを有し得る。右側機構は、右側アームの上面の先端に形成された右側係合部と、右案内室の上面に第1方向に延びて形成され、右側係合部と係合する右側被係合部とからなり得る。そして、左側機構は、左側アームの上面の先端に形成された左側係合部と、左案内室の上面に第1方向に延びて形成され、左側係合部と係合する左側被係合部とからなり得る。この場合、簡易な構造で本発明を具体化可能である。
【0017】
右側アームの下面の先端には、右側係合部と右側被係合部との非係合時に右案内室の下面を転動する右側ローラが設けられていることが好ましい。また、左側アームの下面の先端には、左側係合部と左側被係合部との非係合時に左案内室の下面を転動する左側ローラが設けられていることが好ましい。この場合、右脇が右側部材に載せられていなかったり、左脇が左側部材に載せられていなかったりしている状態において、右側部材や左側部材を容易に第1方向に平行移動できるため、介護者の操作性が向上する。
【0018】
ガイドと右側アームとの間には、右側アームがガイドから抜けないようにする右側ストッパ機構が設けられていることが好ましい。また、ガイドと左側アームとの間には、左側アームがガイドから抜けないようにする左側ストッパ機構が設けられていることが好ましい。この場合、右側アームがガイドから抜けたり、左側アームがガイドから抜けたりすることを防止できるため、介護者の操作性が向上する。
【0019】
右側ストッパ機構は、ガイド内に設けられ、第2方向に延びる右側ピンと、右側アームに第1方向に延びて形成され、右側ピンを挿通する右側スリットとを有し得る。また、左側ストッパ機構は、ガイド内に設けられ、第2方向に延びる左側ピンと、左側アームに第1方向に延びて形成され、左側ピンを挿通する左側スリットとを有し得る。この場合、簡易な構造で右側アームや左側アームがガイドから抜けることを防止できる。
【0020】
右側被係合部は、歯元から開口側の歯先に向かう歯面が右側被係合噛合面をなす歯であり得る。この右側被係合噛合面は、第1方向及び第2方向と直交する第3方向を仮定するとともに、第1方向と第3方向とでなす座標を仮定する場合、この座標において、右側被係合噛合面と第1方向とが原点によって交差し、右側被係合噛合面の歯先側が第1方向と直角又は鋭角をなしていることが好ましい。また、右側係合部は、歯元から奥側の歯先に向かう歯面が右側係合噛合面をなす歯であり得る。この右側係合噛合面は、座標において、右側係合噛合面と右側アームが延びる延伸方向とが原点によって交差し、右側係合噛合面の歯先側が延伸方向と直角又は鋭角をなしてることが好ましい。同様に、左側被係合部は、歯元から開口側の歯先に向かう歯面が左側被係合噛合面をなす歯であり得る。この左側被係合噛合面は、座標において、左側被係合噛合面と第1方向とが原点によって交差し、左側被係合噛合面の歯先側が第1方向と直角又は鋭角をなしてることが好ましい。また、左側係合部は、歯元から奥側の歯先に向かう歯面が左側係合噛合面をなす歯であり得る。この左側係合噛合面は、座標において、左側係合噛合面と左側アームが延びる延伸方向とが原点によって交差し、左側係合噛合面の歯先側が延伸方向と直角又は鋭角をなしていることが好ましい。この場合、右側アームや左側アームが抜ける方向に作用する力に対して噛合面同士が当接して対抗し、右側アームや左側アームが抜け難くなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の移乗装置によれば、移乗の際に被介護者が窮屈でなく、従来品では困難であった半身不随の被介護者であっても容易に移乗を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例の移乗装置に係り、保持部材が初期位置にある状態を示す斜視図である。
図2図2は、実施例の移乗装置に係り、保持部材が移送位置にある状態を示す斜視図である。
図3図3は、実施例の移乗装置に係り、保持部材が移送位置にある状態を示す上面図である。
図4図4は、実施例の移乗装置に係り、右側部材及び左側部材が拡大位置にある状態の右側機構及び左側機構の断面図である。
図5図5は、実施例の移乗装置に係り、右側部材及び左側部材が縮小位置にある状態の右側機構及び左側機構の断面図である。
図6図6は、実施例の移乗装置に係り、右側部材が拡大位置にあり、左側部材が縮小位置にある状態の右側機構及び左側機構の断面図である。
図7図7は、実施例の移乗装置に係り、右側部材が拡大位置で初期位置にある右側機の要部拡大断面図である。
図8図8は、実施例の移乗装置に係り、右案内室の上面の歯と、水平延長部の歯との拡大断面図である。
図9図9は、実施例の移乗装置に係り、右側部材が縮小位置で初期位置にある右側機の要部拡大断面図である。
図10図10は、実施例の移乗装置に係り、右側部材が縮小位置で移送位置にある右側機の要部拡大断面図である。
図11図11は、実施例の移乗装置に係り、右側部材が拡大位置で移送位置にある右側機の要部拡大断面図である。
図12図12は、変形例の移乗装置に係り、右案内室の上面の歯と、水平延長部の歯との拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
実施例の移乗装置は、図1~3に示すように、基台1と、支柱3と、保持部材5と、操作機構7とを備えている。操作機構7は、ハンドル70と支持機構71とを有している。以下の図において、支柱3の長手方向を移乗装置の上下方向として規定している。また、ハンドル70が配置される側を移乗装置の後方として、移乗装置の前後方向を規定している。さらに、図3に示すように、前方側から移乗装置を見た場合を基準として、移乗装置の左右方向を規定している。この左右方向は、後述する中央部材51に対して水平であり、本発明における第1方向90に相当する。
【0025】
図1及び図2に示すように、基台1は略矩形の板状に形成されている。基台1の後端には、右後端部1aと、左後端部1bと、傾斜部1cとが形成されている。右後端部1a及び左後端部1bは、それぞれ基台1の上方に向かって段状に屈曲されることによって形成されている。右後端部1aの下方にはキャスタ13aが取り付けられており、左後端部1bの下方にはキャスタ13bが取り付けられている。傾斜部1cは、右後端部1aと左後端部1bとの間に位置しており、下方に向かって傾斜する形状をなしている。また、基台1の後端には、上方に向かって延びる一対の支持板1d、1eが固定されている。
【0026】
一方、基台1の前端は平坦に形成されている。また、基台1の前端縁は一直線状に形成されている。図3に示すように、基台1の前端には、基台1に対して被介護者が両足を乗せる際の位置を示す印1fが付されているとともに、滑り止め加工(図示略)が施されている。また、基台1の前端において、右下方にはキャスタ13cが取り付けられており、左下方にはキャスタ13dが取り付けられている。
【0027】
支柱3は、長尺の板材によって形成された一対の右側支柱31及び左側支柱32によって構成されている。図1及び図2に示すように、右側支柱31及び左側支柱32は、それぞれ下端が基台1の略中央に固定されており、各上端が基台1の上方に向かって延びている。
【0028】
図3に示すように、右側支柱31には右膝保持部材15aが取り付けられており、左側支柱32には左膝保持部材15bが取り付けられている。右膝保持部材15aは、前方が湾曲しつつ凹む形状をなすクッション材を有している。左膝保持部材15bも、前方が湾曲しつつ凹む形状をなすクッション材を有している。
【0029】
また、右側支柱31及び左側支柱32の上端には、後述する揺動板56を覆うカバー33が取り付けられている。カバー33は、右側支柱31及び左側支柱32の前方に突出しつつ、右後端が右側支柱31の上端と固定されているとともに、左後端が左側支柱32の上端と固定されている。つまり、右側支柱31と左側支柱32とは、カバー33によって互いに連結されている。また、図1及び図2に示すように、右側支柱31及び左側支柱32は、後方に下り傾斜して延びる連結板1gによって、上記の支持板1d、1eと連結されている。これにより、右側支柱31及び左側支柱32は連結板1gによって支持板1d、1eに支持されている。
【0030】
保持部材5は、揺動板56と、連結ロッド55と、中央部材51と、右側部材52と、左側部材53とを有している。
【0031】
揺動板56は、右側支柱31と左側支柱32との間に挿入され、基端が揺動ピン61によって右側支柱31及び左側支柱32に揺動可能に連結されている。揺動ピン61は、右側支柱31及び左側支柱32に対して水平な方向、つまり、第1方向90に延びている。これにより、揺動板56は、揺動ピン61周り、すなわち、右側支柱31及び左側支柱32に対して水平な揺動軸心O1周りで揺動可能となっている。揺動板56の先端には連結ロッド55の基端が固定されている。
【0032】
中央部材51は、中央台座51aと、中央台座51aの初期位置で前面に固定されたクッション材51bとを有している。中央台座51aの後面には連結ロッド55の先端が固定されている。クッション材51bは、表面に図示しない被介護者の胸部が当接することにより、被介護者の胸部を受けることが可能となっている。
【0033】
中央部材51は、中央台座51aとクッション材51bとの間にガイド51cを有している。ガイド51cには、図4~6に示すように、水平に延び、右端が開口42aによって開放された四角柱状の空間である右案内室42と、水平に延び、左端が開口43aによって開放された四角柱状の空間である左案内室43とが形成されている。右案内室42と左案内室43との間には、水平に延びる壁45が存在する。
【0034】
図7図9~11に示すように、右案内室42は、上面の左半分に歯42aが形成され、他の面は平坦面となっている。歯42aが右側被係合部である。歯42aは、図8に示すように、右案内室42の奥である左に位置する歯先Aと、歯先Aよりも開口42a側の歯元Bとの間が第1方向90に対して傾斜した傾斜面81で接続され、歯先Aより開口42a側の歯先Cと歯元Bとの間は右側被係合噛合面82で接続されている。この右側被係合噛合面82は、第1方向90及び第2方向(紙面の厚さ方向)と直交する第3方向92を仮定するとともに、第1方向90と第3方向92とでなす座標を仮定する場合、この座標において、右側被係合噛合面82と第1方向90とが原点Oによって交差し、右側被係合噛合面82の歯先C側が第1方向90と直角をなしている。
【0035】
右案内室42のやや右側部分には、中央台座51aから直角、つまり第2方向に延びる右側ピン42bが固定されている。
【0036】
左案内室43は右案内室42とは勝手違いである。このため、図7~11において、右案内室42の歯42a及び右側ピン42bの図示をもって左案内室43の歯43a及び左側ピン43bを図示する。左案内室43は、上面の右半分に歯43aが形成され、他の面は平坦面となっている。歯43aが左側被係合部である。左案内室43のやや左側部分には、中央台座51aから直角、つまり第2方向に延びる左側ピン43bが固定されている。
【0037】
図4~6に示すように、右側部材52は、右側台座52aと、右側台座52aの左面に固定されたクッション材52bとを有している。右側台座52aには右側アーム52cが固定されている。右側アーム52cは、右側台座52aから初期位置で後方に延びる四角柱状の後方延長部52dと、後方延長部52dから左方向に直角に屈曲して左方向に延びる四角柱状の水平延長部52eとからなる。水平延長部52eはガイド51cの右案内室42内に挿入されている。水平延長部52eは、右案内室42内において、初期位置で上下にはやや大きな隙間があるものの、前後には水平延長部52eが移動できる程度の隙間しか存在しない。
【0038】
図7図9~11に示すように、水平延長部52eの上面の先端には歯52fが形成されている。歯52fは、図8に示すように、水平延長部52eの後方延長部52d側である右に位置する歯先Dと、歯先Dよりも奥側の歯元Eとの間が第1方向90に対して傾斜した傾斜面83で接続され、歯先Dより奥側の歯先Fと歯元Eとの間は右側係合噛合面84で接続されている。この右側係合噛合面84は、座標において、右側係合噛合面84と右側アーム52cの水平延長部52eが延びる延伸方向とが原点Oによって交差し、右側係合噛合面84の歯先F側が延伸方向と直角をなしている。傾斜面81と傾斜面83とは長さが等しく、右側被係合噛合面82と右側係合噛合面84とは長さが等しい。なお、水平延長部52eが第1方向90と平行であれば、延伸方向は第1方向90と一致する。延伸方向と第1方向90とが一致すれば、歯52fの傾斜面84は歯42aの傾斜面81と平行である。歯52fは、右案内室42の歯42aと係合する右側係合部である。歯52f及び歯42aが右側機構に相当する。
【0039】
また、水平延長部52eの下面の先端には右側ローラ52gが設けられている。右側ローラ52gは、第2方向に延びる回転軸周りに回転できるようになっており、歯52fと歯42aとの非係合時に右案内室42の下面を転動する。
【0040】
さらに、水平延長部52eには、第1方向90に延びる右側スリット52hが形成されている。右側スリット52hは右側ピン42bを挿通している。右側ピン42b及び右側スリット52hが右側ストッパ機構に相当する。
【0041】
図4~6に示すように、左側部材53は、左側台座53aと、左側台座53aの右面に固定されたクッション材53bとを有している。左側台座53aには左側アーム53cが固定されている。左側アーム53cは、左側台座53aから初期位置で後方に延びる四角柱状の後方延長部53dと、後方延長部53dから右方向に直角に屈曲して右方向に延びる四角柱状の水平延長部53eとからなる。水平延長部53eはガイド51cの左案内室43内に挿入されている。水平延長部53eは、左案内室43内において、初期位置で上下にはやや大きな隙間があるものの、前後には水平延長部53eが移動できる程度の隙間しか存在しない。
【0042】
水平延長部53eは水平延長部52eとは勝手違いである。このため、図7~11において、水平延長部52eの歯52f、右側ローラ52g及び右側スリット52hの図示をもって水平延長部53eの歯53f、左側ローラ53g及び左側スリット53hを図示する。水平延長部53eの上面の先端には歯53fが形成されている。歯53fは、左案内室43の歯43aと係合する左側係合部である。歯53f及び歯43aが左側機構に相当する。
【0043】
また、水平延長部53eの下面の先端には左側ローラ53gが設けられている。左側ローラ53gは、第2方向に延びる回転軸周りに回転できるようになっており、歯53fと歯43aとの非係合時に左案内室43の下面を転動する。
【0044】
さらに、水平延長部53eには、第1方向90に延びる左側スリット53hが形成されている。左側スリット53hは左側ピン43bを挿通している。左側ピン43b及び左側スリット53hが左側ストッパ機構に相当する。
【0045】
図1~3に示すように、ハンドル70は、第1ハンドルバー70aと、第2ハンドルバー70bとを有している。第1ハンドルバー70aは、図3に示すように、上端側が左右に分岐する略Y字形状をなしている。第1ハンドルバー70aの右上端には第1グリップ701が設けられており、第1ハンドルバー70aの左上端には第2グリップ702が設けられている。また、第1ハンドルバー70aの下端の左右にもそれぞれ第3、4グリップ(第3グリップ703のみを図示)が設けられている。
【0046】
図1及び図2に示すように、第2ハンドルバー70bは、後端が第1ハンドルバー70aの下端と一定角度で接続され、前端が連結ロッド55と一定角度で接続されている。これにより、保持部材5とハンドル70とが接続されている。第2ハンドルバー70bの左右にも、それぞれ第5、6グリップ(第5グリップ705のみを図示)が設けられている。
【0047】
支持機構71は、上記の支持板1d、1eとダンパ11とを有している。ダンパ11は、軸方向に伸縮可能なダンパ本体11aと、ダンパ本体11aの下端に固定されたエンドハウジング11bと、操作ペダル9とを有している。ダンパ11は、ダンパ本体11aの上端が揺動板56の先端と連結されることにより、揺動板56に揺動可能に連結されている。また、ダンパ11は、エンドハウジング11bを介して上記の支持板1d、1eと連結されている。
【0048】
図1に示すように、ダンパ11は、介護者が操作ペダル9を踏むことにより、保持部材5が移送位置から初期位置に揺動する際に軸方向に縮小する一方、図2に示すように、保持部材5が初期位置から移送位置に揺動する際に軸方向に伸張する。ダンパ11は、伸縮に際して一定の抵抗が生じるように、内部の油圧が調整されている。また、ダンパ11は、保持部材5が初期位置と移送位置との間で揺動している際に、介護者が操作ペダル9から足を外すことにより、任意の揺動角度で保持部材5を固定することが可能となっている。
【0049】
以上のように構成された移乗装置の作用について、図示しないベッドに腰掛けた被介護者を車椅子や便器等に移乗する場合を例に具体的に説明する。被介護者には、高齢者や傷病人の他、身体障がい者等が含まれる。
【0050】
まず、介護者は、操作ペダル9を足で踏込む。これにより、ダンパ11は、ダンパ本体11aが軸方向に伸縮可能となり、保持部材5の揺動が可能となる。この状態において、介護者は、図1に示すように、ハンドル70を上方側に押し上げ、保持部材5を初期位置に揺動させる。初期位置では、中央部材51がほぼ垂直な状態になっている。
【0051】
この状態において、被介護者はまだ右脇を右側部材52に載せていないため、右側アーム52cには被介護者の体重Wが作用していない。このため、右側部材52は、図7に示すように、歯52fが歯42aに係合しておらず、右側ローラ52gが右案内室42の下面に当接している。このため、右側部材52は、中央部材51に対して第1方向90に自由に平行移動させることが可能である。このため、介護者は、まず右側アーム52cを右案内室42から抜く方向に引き、右側部材52を中央部材51から遠ざけて拡大位置にする。この際、右側ローラ52gが右案内室42の下面を転動するため、右側部材52を容易に拡大位置にすることができる。また、水平延長部52eでは、右側ピン42bがスリット52hの左端に当接し、右側アーム52cがガイド51cから抜けることが防止される。
【0052】
また、被介護者はまだ左脇も左側部材53に載せていないため、左側アーム53cには被介護者の体重Wが作用していない。このため、左側部材53は、歯53fが歯43aに係合しておらず、左側ローラ53gが左案内室43の下面に当接している。このため、左側部材53も、中央部材51に対して第1方向90に自由に平行移動させることが可能である。介護者は、左側アーム53cも左案内室43から抜く方向に引き、左側部材53を中央部材51から遠ざけて拡大位置にする。この際、左側ローラ53gが左案内室43の下面を転動するため、左側部材53を容易に拡大位置にすることができる。また、水平延長部53eでは、左側ピン43bがスリット53hの右端に当接し、左側アーム53cがガイド51cから抜けることが防止される。
【0053】
こうして、図4に示すように、右側部材52及び左側部材53を拡大位置とし、介護者は、操作ペダル9から足を外し、キャスタ13a~13dによって移乗装置を移動させて、中央部材51の表面を被介護者に対面させる。被介護者は、基台1の印1f上に両足を乗せるとともに、右膝保持部材15aと左膝保持部材15bとに右膝と左膝とをそれぞれ保持させる。そして、被介護者は、中央部材51の表面に胸部を当接する。
【0054】
介護者は、手動力によって右側部材52を中央部材51に対して第1方向90に平行移動し、図8に示すように、被介護者の胴の右側面にクッション材52bを適度な強さで当接する。右腕が動く被介護者が自ら右側部材52を中央部材51に対して第1方向90に平行移動し、自己の胴の右側面にクッション材52bを適度な強さで当接することもある。これらの際、右側ローラ52gが右案内室42の下面を転動するため、右側部材52を容易に任意の縮小位置にすることができる。
【0055】
そして、被介護者が右脇を右側部材52上に載せれば、図9に示すように、右側アーム52cに被介護者の体重Wが作用し、右側部材52は歯52fが歯42aに係合する。このため、右側部材52は、中央部材51に対して第1方向90で固定される。より詳細には、右側部材52の水平延長部52eの先端部分の歯52fにおける右側係合噛合面84が右案内室42の歯42aにおける右側被係合噛合面82と当接し、歯52fにおける傾斜面83が右案内室42の歯42aにおける傾斜面81と当接する。この際、右側係合噛合面84が右側被係合噛合面82と当接し、右側アーム52cが抜ける方向に作用する力に対して右側係合噛合面84と右側被係合噛合面82とが対抗し、右側アーム52cが抜け難くなっている。左側アーム53cも同様である。
【0056】
被介護者が肥満であったり、右脇を開きながら右側部材52上に載せることしかできない場合には、図11に示すように、右側部材52を中央部材51から開いた任意の縮小位置にし、歯52fを歯42aに係合させる。この際も、右側係合噛合面84と右側被係合噛合面82とが当接し、右側アーム52cが抜ける方向に作用する力に対して右側係合噛合面84と右側被係合噛合面82とが対抗し、右側アーム52cが抜け難くなっている。左側アーム53cも同様である。
【0057】
一方、介護者は、手動力によって左側部材53を中央部材51に対して第1方向90に平行移動し、被介護者の胴の左側面にクッション材53bを適度な強さで当接する。左腕が動く被介護者が自ら左側部材53を中央部材51に対して第1方向90に平行移動し、自己の胴の左側面にクッション材53bを適度な強さで当接することもある。これらの際、左側ローラ53gが左案内室43の下面を転動するため、左側部材53を容易に任意の縮小位置にすることができる。
【0058】
そして、被介護者が左脇を左側部材53上に載せれば、左側アーム53cに被介護者の体重Wが作用し、左側部材53は歯53fが歯43aに係合する。このため、左側部材53は、中央部材51に対して第1方向90で固定される。この際も、左側係合噛合面84と左側被係合噛合面82とが当接し、左側アーム53cが抜ける方向に作用する力に対して左側係合噛合面84と左側被係合噛合面82とが当接して対抗し、左側アーム53cが抜け難くなっている。右側アーム52cも同様である。
【0059】
被介護者が肥満であったり、左脇を開きながら左側部材53上に載せることしかできない場合には、左側部材53を中央部材51から開いた任意の縮小位置にし、歯53fを歯43aに係合させる。この際も、左側係合噛合面84と左側被係合噛合面82とが当接し、左側アーム53cが抜ける方向に作用する力に対して左側係合噛合面84と左側被係合噛合面82とが当接して対抗し、左側アーム53cが抜け難くなっている。右側アーム52cも同様である。
【0060】
こうして、保持部材5は図5又は図6のような状態となる。こうして、被介護者は、胸部、胴体、右脇及び左脇がそれぞれ中央部材51、右側部材52及び左側部材53によって保持される。
【0061】
この状態において、介護者は再度操作ペダル9を踏込むことにより、保持部材5を揺動が可能な状態としつつ、ハンドル70を下方に押し下げることにより、保持部材5を図1に示す初期位置から図2に示す移送位置まで揺動させる。この際、中央部材51はほぼ水平な状態になるが、被介護者の体重Wはお尻側に残っているため、右側部材52及び左側部材53にはその体重Wが作用している。なお、移送位置において、中央部材51を尻側がやや下方になるような状態にすることも可能である。これにより、被介護者は、ベッドからお尻が持ち上げられ、移乗装置に全身が移されることとなる。保持部材5を移送位置まで揺動させた後、介護者は操作ペダル9から足を離すことにより、保持部材5を移送位置で固定する。この間、この移乗装置は、被介護者の自重に基づく力によって右側部材52と左側部材53とをそれぞれ独立して第1方向90の任意の位置で固定しているため、被介護者が窮屈に感じ難い。
【0062】
特に、被介護者が脳梗塞によって半身不随になっている者である場合、その者は、健側である右脇及び左脇の一方を自己の意思で動かすことによって、右側部材52及び左側部材53の一方の第1方向90の位置を自己で決定し、他方の患側は介護者が右側部材52及び左側部材53の他方の第1方向90の位置をその者に合わせて決定できる。
【0063】
そして、被介護者を移乗装置に乗せた状態で、移乗装置を車椅子や便器等の近傍まで移動するとともに、介護者は、被介護者が車椅子や便器等に降りられるように、基台1の前端側を車椅子や便器等に向ける。その後、介護者は、ハンドル70及び操作ペダル9によって、保持部材5を移送位置から初期位置へ揺動させる。この際、介護者は、必要に応じて第1~6グリップ701~706を適宜持ち替えてハンドル70を上方に押し上げる。また、保持部材5を移送位置から初期位置へ揺動させるに当たっては、ダンパ本体11aが一定の抵抗を生じさせつつ、軸方向に伸縮する。これにより、被介護者は、お尻が車椅子や便器等に降ろされ、移乗装置から全身が車椅子や便器等に移されることとなる。こうして、移乗装置による被介護者のベッドから車椅子や便器等への移乗が完了する。
【0064】
したがって、この移乗装置によれば、移乗の際に被介護者が窮屈でなく、従来品では困難であった半身不随の被介護者であっても容易に移乗を行うことができる。
【0065】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0066】
例えば、ガイド51cの右案内室42と左案内室43は、壁45によって仕切られておらず、一体に形成されていてもよい。この際、右案内室42と左案内室43とは、第1方向で前後で重ねられて存在する必要は必ずしもなく、中央部材51の左右の幅が比較的大きければ、中央部材51に左右に延びる単一の空間を形成し、その空間の1/2ずつを右案内室42と左案内室43とにすることができる。
【0067】
また、図12に示すように、右側被係合噛合面82及び左側被係合噛合面82並びに右側係合噛合面84及び左側係合噛合面84の歯先C、F側が第1方向90と鋭角θをなしていてもよい。この場合、右側アーム52cや左側アーム53cがより抜け難くなる。
【0068】
さらに、被介護者の体格に応じて揺動板56と中央部材51との距離を変更できるように、連結ロッド55の長さを調整できるようにすることも可能である。同様に、被介護者の体格に応じて右膝保持部材15a及び左膝保持部材15bを前後に移動できるように構成することも可能である。
【0069】
また、操作機構7、右側機構52f、42a、左側機構53f、43a、右側係合部52f、右側被係合部42a、左側係合部52f、左側被係合部42a、右側ストッパ機構42b、52h、左側ストッパ機構43b、53h等は、上記の構造に限られず、適宜設計することが可能である。
【0070】
また、移送状態で歯52fが歯42aと確実に噛合しているように、水平延長部52eの先端下面と右案内室42の下面との間に付勢部材としてのばねを設けてもよく、初期状態で歯52fと歯42aとの噛合が外れるように、水平延長部52eの先端上面と右案内室42の上面との間に付勢部材としてのばねを設けてもよい。これらの付勢部材としては、互いに引き合う永久磁石と磁性体又は永久磁石とであってもよく、互いに反発し合う永久磁石と永久磁石とであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は移乗装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
13a~13d…キャスタ
1…基台
3…支柱
O1…揺動軸心
5…保持部材
7…操作機構
51…中央部材
90…第1方向
52…右側部材
53…左側部材
52f、42a…右側機構(52f…右側係合部(歯)、42a…右側被係合部(歯))
53f、43a…左側機構(52f…左側係合部(歯)、42a…左側被係合部(歯))
52c…右側アーム
53c…左側アーム
42…右案内室
43…左案内室
51c…ガイド
52g…右側ローラ
53g…左側ローラ
42b、52h…右側ストッパ機構(42b…右側ピン、52h…右側スリット)
43b、53h…左側ストッパ機構(43b…右側ピン、53h…右側スリット)
92…第3方向
82、84…右側被係合噛合面、左側被係合噛合面、右側係合噛合面、左側係合噛合面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12