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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】好中球貪食能増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/14 20060101AFI20230901BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230901BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230901BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20230901BHJP
【FI】
A61K38/14 ZNA
A61K47/68
A61P43/00 107
C07K19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020527352
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022812
(87)【国際公開番号】W WO2020003978
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2018123626
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医療分野研究成果展開事業 産学連携医療イノベーション創出プログラム「敗血症治療のためのHRG血液製剤の創出」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西堀 正洋
(72)【発明者】
【氏名】和氣 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 陽平
(72)【発明者】
【氏名】森 秀治
(72)【発明者】
【氏名】阪口 政清
【審査官】松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/183494(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/14
A61K 47/68
A61P 43/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含む好中球貪食能増強剤。
【請求項2】
有効成分としてのヒスチジンリッチ糖タンパク質が、ヒスチジンリッチ糖タンパク質と抗体のFc領域とを融合させたFc融合タンパク質の形態で存在する、請求項1に記載の好中球貪食能増強剤。
【請求項3】
抗体のFc領域が、IgG2由来のFc領域である、請求項2に記載の好中球貪食能増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好中球貪食能増強剤に関する。より詳しくは、ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含む好中球貪食能増強剤に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本国出願の特願2018-123626号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
好中球は遊走、貪食、殺菌の各機能を有するが、貪食能(phagocytosis)は微生物浸入に対する生体の最初のバリアーであり、免疫系の基本的機能としても重要視されている。好中球の主な役割は生体防御機能であり、体内に侵入してきた病原微生物を中心とする異物を貪食し、自らが発生させた活性酸素によってそれを殺菌する。好中球は体内に侵入する物質を排除しようとする非特異免疫能を有する。免疫グロブリンや補体などが異物に接着しオプソニン(Op)化されると、好中球は異物を認識し貪食する。しかしながら好中球等の細菌貪食活性を高める治療薬は未だ存在しない。好中球の細菌貪食能低下による細菌クリアランス障害を改善するための方法が望まれている。
【0004】
ヒスチジンリッチ糖タンパク質(Histidine-rich glycoprotein; HRG)は、Heimburger et al. (1972)によって同定された分子量約80kDaの血漿タンパク質である。合計507個のアミノ酸より構成され、そのうちヒスチジンが66個存在する高ヒスチジン含有タンパク質であり、主として肝臓で合成され、約100~150μg/mLという非常に高いと考えられる濃度でヒト血漿中に存在する。HRGは、凝固線溶系の調節や血管新生の制御に関与していることが知られている(非特許文献1)。さらに、HRGポリペプチドを投与することによる血管形成を阻害する方法、HRGポリペプチド、HRGポリペプチドに結合する抗体及び受容体、HRG欠乏性血漿及びポリヌクレオチド、HRGポリペプチドをコードするベクター及び宿主細胞を含む、製薬的組成物及び製品が開示されている(特許文献1)。また、血管新生の分野に関し、HRGの中央領域に由来するサブフラグメントを含む抗血管新生活性のある実質的に純粋な連続ポリペプチドの使用に関する開示がある(特許文献2)。さらに、HRGを有効成分とする好中球‐血管内皮細胞接着抑制剤についても開示がある(特許文献3)。特許文献3ではHRGを有効成分とする好中球活性化調節作用について開示があるが、好中球等の細菌貪食活性については報告されていない。
【0005】
特別な構造からなる遺伝子発現カセットを用いて目的タンパク質を作製したことが開示されている(特許文献4)。ここでは、当該遺伝子発現カセットを用いることで、目的タンパク質を安定かつ高産生可能な細胞が得られることが示されており、作製したタンパク質の例としてHRGやHRG-Fc融合タンパク質等が実施例に示されている。IgGのFcドメインと特定の物質との融合物として、受容体、サイトカイン、ペプチドや酵素等に分類されるタンパク質との融合物が公知であり、それらは、血中半減期の延長を期待して人工的に設計されてきた。しかしながらHRG-Fc融合タンパク質の作用についてはまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Blood, Vol.117, No.7, 2093-2101 (2011)
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2004-527242号公報
【文献】特表2007-528710号公報
【文献】特許第5807937号公報(国際公開2013/183494号)
【文献】国際公開2017/061354号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、好中球貪食能増強剤を提供することを課題とする。さらには、各種細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、寄生生物感染症やこれらの混合感染症の治療剤又は治療補助剤としての好中球貪食能増強剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
HRGを有効成分として含む好中球貪食能増強剤による。本願発明者らは、上記課題を解決するためにHRGが好中球活性の制御機能を有することに着目し、鋭意検討を重ねた結果、好中球活性のうち細菌、ウイルス、真菌、寄生生物等に起因する病原体や異物に対する貪食能についてHRGが増強効果を示すことを初めて見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.ヒスチジンリッチ糖タンパク質を有効成分として含む好中球貪食能増強剤。
2.有効成分としてのヒスチジンリッチ糖タンパク質が、ヒスチジンリッチ糖タンパク質と抗体のFc領域とを融合させたFc融合タンパク質の形態で存在する、前項1に記載の好中球貪食能増強剤。
3.抗体のFc領域が、IgG2由来のFc領域である、前項2に記載の好中球貪食能増強剤。
4.感染症治療剤又は感染症治療補助剤としての前項1~3のいずれかに記載の好中球貪食能増強剤。
5.感染症が、細菌、ウイルス、真菌、及び寄生生物から選択されるいずれか1種又は複数種由来の病原体に起因する感染症である、前項4に記載の好中球貪食能増強剤。
6.感染症が、呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、消化管感染症、及び中枢神経系感染症から選択されるいずれかの感染症である、前項4又は5に記載の好中球貪食能増強剤。
【0011】
A.HRGを好中球貪食能増強剤の有効成分として使用する好中球貪食能増強方法。
B.HRGを好中球貪食能増強剤の有効成分として使用する感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法。
C.有効成分としてのHRGが、HRGと抗体のFc領域とを融合させたFc融合タンパク質の形態である、前項Aに記載の好中球貪食能増強方法あるいはBに記載の感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法。
D.抗体のFc領域が、IgG2由来のFc領域である、前項Cに記載の好中球貪食能増強方法あるいは感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法。
E.感染症が、細菌、ウイルス、真菌、及び寄生生物から選択されるいずれか1種又は複数種由来の病原体に起因する感染症である、前項Dに記載の感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法。
F.感染症が、呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、消化管感染症、及び中枢神経系感染症から選択されるいずれかの感染症である、前項D又はEに記載の感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHRGを有効成分として含む好中球貪食能増強剤(以下、本発明の「好中球貪食能増強剤」と略記することがある。)は、正常な状態にある好中球に作用させたとき、好中球の、細菌等の異物に対する貪食能を効果的に増強する作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】遺伝子組換えヒトHRGの産生に必要なHRG搭載コンストラクトの構造を示す図である。(実施例2)
図2】遺伝子組換えヒトHRG又はHRG-Fc融合タンパク質の作製に必要な、HRGのコーディング領域をコードするDNAの塩基配列(EcoR1-HRG-Xho1:配列番号3)を示す図である。(実施例2)
図3】HRG-Fc融合タンパク質の作製に必要な、ヒトIgG2のFc領域をコードする塩基配列(XhoI-GPG-hIgG2 Fc-Xba1:配列番号4)を示す図である。(実施例3)
図4】大腸菌及び黄色ブドウ球菌について、各濃度のHRGによる好中球の貪食能解析結果を示す図である。(実験例1)
図5】大腸菌に対する好中球の貪食に関し、各濃度のhHRG、rHRG又はHRG-Fcによる好中球の貪食能画像解析結果を示す図である。(実験例2)
図6】大腸菌に対する好中球の貪食に関し、hHRG、rHRG、HRG-Fc又はHBSS若しくはHSA等の対照による好中球の貪食能画像解析結果を示す図である。(実験例2)
図7】大腸菌に対する好中球の貪食に関し、hHRG、rHRG又はHRG-Fcによる好中球の貪食能解析結果を示す図である。(実験例2)
図8】黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、各濃度のhHRG、rHRG又はHRG-Fcによる好中球の貪食能画像解析結果を示す図である。(実験例2)
図9】黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、hHRG、rHRG、HRG-Fc又はHBSS若しくはHSA等の対照による好中球の貪食能画像解析結果果を示す図である。(実験例2)
図10】黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、hHRG、rHRG又はHRG-Fcによる好中球の貪食能解析結果を示す図である。(実験例2)
図11】大腸菌に対する好中球の貪食能について、IL-8、fMLP、LPS又はC5a等による好中球の貪食能解析結果を示す図である。(比較例1)
図12】黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、IL-8、fMLP、LPS又はC5a等による好中球の貪食能解析結果を示す図である。(比較例1)
図13】HRG刺激による好中球貪食作用増強作用について確認試験を行った結果を示す図である。大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、抗HRG抗体を用いてHRGの作用について確認した結果を示す図である。(実験例3)
図14】HRG含有又は不含血清を用いてオプソニン(Op)化されたZymosanを好中球に貪食させることにより、オプソニン(Op)化時のHRGの影響を確認した結果を示す図である。(実験例4)
図15】HSA、HRG又は5倍希釈ヒト血清で前処理(ヒト血清時はオプソニン(Op)化)した大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、HRGの有無による貪食能の違いを確認した結果を示す図である。図15Aは大腸菌に対する好中球の貪食作用を示し、図15Bは黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食作用を示した。(実験例5)
図16】5倍希釈ヒト血清で前処理した大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食作用を示す写真図である。(実験例5)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、HRGを有効成分として含む好中球貪食能増強剤に関する。
【0015】
好中球の主な役割は生体防御機能であり体内に侵入してきた病原微生物を中心とする異物を貪食し、自らが発生させた活性酸素によってそれを殺菌する。好中球は体内に侵入する物質を排除しようとする非特異免疫能を有する。免疫グロブリンや補体などが異物に接着しオプソニン(Op)化されると、好中球は異物を認識し貪食する。しかしながら好中球等の細菌貪食活性を高める治療薬というものは未だ存在せず、好中球の細菌貪食能低下による細菌クリアランス障害を改善するための方法が望まれている。
【0016】
本発明の「好中球貪食能増強剤」に含まれる有効成分としてのHRGは、生体成分から単離・精製する方法、遺伝子組換え技術を用いて調製する方法、あるいは合成により調製することができ、その純度は、必ずしも、最高純度のものに限定されない。HRGは、例えば血漿、血清等の血液、脊髄液、リンパ液等の生体成分から精製され/若しくは単離することができる。好適な生体成分は、血漿、血清等の血液成分である。生体成分から単離・精製する方法は、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、Ni-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アガロース樹脂を用いて調製したアフィニティカラムに血漿を通すことによって調製することもできる。
【0017】
遺伝子組換え技術を用いてHRGを作製する方法も自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、HRGをコードする全長cDNA、又はHRGの活性を有する部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、調製することもできる。例えば、GenBank Accession No.NM000412で特定されるヌクレオチドの全体又は部分から生合成されるタンパク質であっても良い。例えば、成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号1)をコードする全長cDNA、又は部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、調製することもできる。本発明の「好中球貪食能増強剤」に含まれる有効成分としてのHRGは、HRGタンパク質そのものであっても良いし、HRG活性を有する部分タンパク質又はペプチドであっても良い。さらに、糖鎖を含むものであってもよいし糖鎖が付加されていないものであっても良い。成熟HRGは、タンパク質分解酵素によってシグナルペプチドが切断されたのち、(1)シスタチン様領域1、(2)シスタチン様領域2、(3)His/Pro領域、及び(4)C末端領域、の主要な4つの領域から構成されている。His/Pro領域は、プロリン残基及びヒスチジン残基に非常に富んでおり、配列番号1で特定されるアミノ酸配列の第330位~第389位に示すアミノ酸配列で特定することができる。
【0018】
成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号1)
VSPTDCSAVEPEAEKALDLINKRRRDGYLFQLLRIADAHLDRVENTTVYYLVLDVQESDCSVLSRKYWNDCEPPDSRRPSEIVIGQCKVIATRHSHESQDLRVIDFNCTTSSVSSALANTKDSPVLIDFFEDTERYRKQANKALEKYKEENDDFASFRVDRIERVARVRGGEGTGYFVDFSVRNCPRHHFPRHPNVFGFCRADLFYDVEALDLESPKNLVINCEVFDPQEHENINGVPPHLGHPFHWGGHERSSTTKPPFKPHGSRDHHHPHKPHEHGPPPPPDERDHSHGPPLPQGPPPLLPMSCSSCQHATFGTNGAQRHSHNNNSSDLHPHKHHSHEQHPHGHHPHAHHPHEHDTHRQHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHGHHPHCHDFQDYGPCDPPPHNQGHCCHGHGPPPGHLRRRGPGKGPRPFHCRQIGSVYRLPPLRKGEVLPLPEANFPSFPLPHHKHPLKPDNQPFPQSVSESCPGKFKSGFPQVSMFFTHTFPK
【0019】
HRGを遺伝子組換え技術を用いて作製する方法として、具体的には、特許文献4に示す方法を適用することができる。例えばHRGをコードする全長cDNA、又はHRGの活性を有する部分をコードするcDNA、例えば、成熟HRGのアミノ酸配列(配列番号1)をコードする全長cDNA、又は部分をコードするcDNAを、発現ベクターにクローニングし、所望のHRG発現ベクターを調製する。例えば、図1に示すHRG搭載コンストラクトを用いてHRGタンパク質を調製することができる。
【0020】
HRG-Fc融合タンパク質を作製する場合は、HRGのC'末端側をコードする部位にFcをコードするcDNAを結合させるのが好適である。本発明のHRG-Fc融合タンパク質を構成するHRGタンパク質は、成熟HRGの全体であっても良く、糖鎖を含むものであってもよいし糖鎖がなくても良い。成熟HRGのうちHRG活性を有する部分タンパク質又はペプチドであっても良い。
【0021】
HRG-Fc融合タンパク質を構成するFcは、抗体のFc領域を特定するポリペプチドであればよい。抗体は、重鎖(H鎖)及び軽鎖(L鎖)と呼ばれるポリペプチドより構成される。また、H鎖はN末端側より可変領域(VH)、定常領域(CH)、L鎖はN末端側より可変領域(VL)、定常領域(CL)により、それぞれ構成される。CHはさらに、N末端側よりCH1、ヒンジ、CH2、CH3の各ドメインより構成される。また、CH2とCH3の両領域をFc領域という。抗体のクラスとしては、例えばIgG、IgA、IgE及びIgMが挙げられる。IgGのサブクラスとしては、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4が挙げられる。本発明のHRG-Fc融合タンパク質に用いられるFc領域はIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4の何れのサブクラス由来であってもよいが、特に好適にはIgG2由来が好ましい。IgG2のFc領域を用いることで、補体活性が低く、副作用となる炎症反応が緩和されると考えられる。ヒトIgG2 Fc領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示した。
【0022】
ヒトIgG2 Fc領域のアミノ酸配列(配列番号2)
ERKCCVECPPCPAPPVAGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVQFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQFNSTFRVVSVLTVVHQDWLNGKEYKCKVSNKGLPAPIEKTISKTKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDISVEWESNGQPENNYKTTPPMLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG
【0023】
一般的に体内での安定性が低く薬効が得にくいと考えられるタンパク質やぺプチド等とFc領域と融合させることにより、製剤の安定性を向上させることができ、より効果的に薬効を発揮することができる。さらにヒトIgG2のFc領域を用いることで、補体活性が低く、副作用となる炎症反応が緩和された医薬品製剤となると考えられる。
【0024】
本発明の「好中球貪食能増強剤」は、好中球等の細菌貪食活性を高めることができる。上記説明した本発明の「好中球貪食能増強剤」は、HRGを有効成分として含み、HRGとしてHRGそのもの、及び/又はHRG-Fc融合タンパク質と、薬理学的に許容しうる担体を含むものを例示できる。該薬理学的に許容しうる担体としては、例えば、賦形剤、崩壊剤若しくは崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤若しくは溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0025】
本発明の「好中球貪食能増強剤」は、細菌、ウイルス、真菌又は寄生生物に起因する病原体や異物に対して好中球の貪食能を増強させることができる。これにより、本発明の「好中球貪食能増強剤」は、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、寄生生物感染症やこれらの混合感染症の治療剤又は治療補助剤として使用することができる。本発明において適用可能な感染症は、上記の各種感染症を例示でき、更には、例えば呼吸器感染症、尿路感染症、胆道感染症、消化管感染症、中枢神経系感染症等を例示できる。本発明は、これらの疾患の治療剤又は治療補助剤にも及ぶ。
【0026】
本発明は、HRGを好中球貪食能増強剤の有効成分として使用する好中球貪食能増強方法にも及ぶ。さらには、HRGを好中球貪食能増強剤の有効成分として使用する感染症治療方法若しくは感染症治療補助方法にも及ぶ。
【0027】
本発明の「好中球貪食能増強剤」は、上記疾患の治療剤又は治療補助剤として使用する場合、局所的に投与してもよいし、全身的に投与してもよい。治療及び/又は予防剤の剤形としては、経口投与製剤、非経口投与製剤を例示できる。非経口投与製剤としては、例えばローション剤、軟膏剤、テープ剤やパップ剤などの外用剤として経皮的に投与することができるもの、更には、注射等による局所投与、静脈内注射投与や、経管投与のできる形態にあるものを例示できる。非経口投与製剤には、滅菌した水性の、又は非水性の溶液、懸濁液及び乳濁液を含んでいてもよい。非水性希釈剤の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油及び有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートであり、これらは注射用に適している。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水及び緩衝化媒体が含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、リンゲル乳酸及び結合油が含まれていてもよい。注射等による局所投与、静脈内注射投与や、経管投与できる形態にある非経口投与製剤にあっては、担体として、例えば、液体用補充物、栄養剤(単糖類、オリゴ糖、多糖類、澱粉、澱粉部分分解物を含む)或いは電解質(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれていてもよい。本発明の「好中球貪食能増強剤」は、保存剤及び他の添加剤、例えば抗微生物化合物、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどを含むことができる。
【0028】
本発明の「好中球貪食能増強剤」を、上記疾患の治療剤又は治療補助剤として使用する場合、他の医薬品製剤と共に併用して投与してもよい。併用可能な他の医薬品製剤としては特に限定されず、既に市販されている治療剤や予防剤、又は今後開発される治療剤や予防剤の何れであってもよい。当該別の他の医薬品製剤は、本発明の「好中球貪食能増強剤」とは作用機序の異なる医薬品製剤が好適である。例えば抗生物質、抗菌剤、ウイルス剤等による自体公知の感染症治療剤及び/又は予防剤と同時に、あるいは前後して使用することができる。本発明の「好中球貪食能増強剤」と併用することにより、他の医薬品製剤の投与量を軽減化させることも可能である。他の医薬品製剤が副作用を有する場合は、本発明の「好中球貪食能増強剤」を併用することで、他の医薬品製剤の投与量/投与頻度などを軽減化することができ、他の医薬品製剤の副作用を軽減化できる実益を有する。本発明の「好中球貪食能増強剤」に配合される、有効成分としてのHRG以外の他の各成分は、本発明の所期の目的を妨げない範囲で適量配合すればよい。
【実施例
【0029】
本発明を以下の実施例、実験例、比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等によってなんら限定されるものでないことは言及するまでもない。
【0030】
(実施例1) ヒト血漿由来HRGの精製
ヒト血漿を出発原料とし、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィ及び高性能液体クロマトグラフィ(陰イオン交換カラム(単分散系親水性ポリマービーズ:Mono Q))を用いてヒト血漿由来HRG(以下「hHRG」)を精製した。分子量約80kDa画分にhHRG精製試料を得た。本実施例のhHRGは、特許文献3(国際公開2013/183494号)の実施例1に示す方法で作製した。各濃度のhHRG試料は、Hanks液(Hanks' Balanced Salt Solution:HBSS)で希釈して作製した。
【0031】
(実施例2)遺伝子組換えヒトHRGの産生
本実施例の遺伝子組換えヒトHRG(以下「rHRG」)は、特許文献4(国際公開2017/061354号)の実施例3に示す方法で作製した。10% FCS含有GIBCO(TM) Dulbecco's Modified Eagle Medium/ Nutrient Mixture F-12(DMEM/F-12)で培養したCHO細胞(Chinese Hamster Ovary cells)に、HRG発現ベクター、トランスポゼース発現ベクター、薬剤耐性遺伝子発現ベクター(図1参照)をコトランスフェクトした。遺伝子導入後、培養48時間から、Puromycin(抗生物質)10μg/mLを添加して、3日に1回培地交換を行いながら3週間薬剤選択培養を行った。遺伝子組換えヒトHRGの作製に必要な、HRGのコーディング領域をコードするDNAの塩基配列(EcoR1-HRG-Xho1)を配列番号3(図2)に示した。
【0032】
前記選択培養後、rHRGを含む培養上清を回収した。PBS(-) 30 mLで予め洗浄したQIAGEN(TM) Ni-NTAアガロースゲル(Sepharose CL-6B支持体にNi-NTAを結合したゲル)を前記培養上清に加え、4℃で2時間回転インキュベートし、rHRGをQIAGEN(TM) Ni-NTAアガロースゲルに結合させた。QIAGEN(TM) Ni-NTAアガロースゲルを精製用カラムに移した後、洗浄液1(30 mM イミダゾールを含むPBS(-)(pH7.4))、洗浄液2(1M NaCl +10 mM PBS (pH7.4))、洗浄液3(PBS(-) (pH7.4))で順次カラムを洗浄した。500 mM イミダゾールを含むPBS(-) (pH7.4)、4℃でrHRGを溶出した。各濃度のrHRG試料は、HBSSで希釈して作製した。
【0033】
(実施例3)HRG-Fc融合タンパク質の作製
本実施例では、HRG+ヒトIgG2のFc融合タンパク質(以下「HRG-Fc」)を作製した。HRGのコーディング領域をコードするDNA(GenBank Accession No. BC069574 (NCBI))で特定される塩基配列を含む核酸へヒトIgG2のFc領域をコードする塩基配列を含む核酸を結合させ、特許文献4(国際公開2017/061354号)の実施例12に示す方法で作製した。各濃度のHRG-Fc試料は、HBSSを用いて希釈して作製した。HRG-Fc融合タンパク質の作製に必要な、HRGのコーディング領域をコードするDNAの塩基配列(EcoR1-HRG-Xho1)を実施例2と同様に配列番号3(図2)に示し、ヒトIgG2のFc領域をコードする塩基配列(XhoI-GPG-hIgG2 Fc-Xba1)を配列番号4(図3)に示した。医薬品候補となるタンパク質は、すべて抗体の一部であるヒトIgGの Fc領域と融合させることにより、タンパク質製剤の安定性を向上させ、さらにヒトIgG2のFc領域を用いることで、補体活性が低く、副作用となる炎症反応が緩和される医薬品となると考えられる。
【0034】
(実験例1)HRG刺激による好中球貪食能確認試験1
好中球について、E.coli(グラム陰性菌)又はS.aureus(グラム陽性菌)に対する貪食能をpHrodoTMインジケーターを用いて測定した。pHrodoTM 染色試薬により好中球内のファゴゾームを蛍光染色し、貪食能を測定することができる。全血からヒト好中球を血球分離溶液 PolymorphprepTM(ポリモルホプレップ)を用いて分離し、細胞液をPBSで洗浄し、懸濁した。細胞数を調節し、Hoechst33342(核染色:青)及びcalcein-AM(細胞質:緑)でCO2下、37℃で15分間インキュベーションして染色した。好中球液をHBSSで再懸濁し、細胞数を調整した(2×106 個/mL)。
【0035】
前記細胞濃度の好中球液に、hHRG溶液を加え、96ウェルプレートに分注し、CO2下、37℃で30分間インキュベーションした。その後、大腸菌(pHrodoTM E.coli)又は黄色ブドウ球菌(pHrodoTM S.aureus)を加えて96ウェルプレートに添加し、CO2下、37℃でインキュベーションした。この場合の細胞液の最終濃度は2×104 個/ウェル(2×105 個/mL)、HRGの最終濃度は0.01~3.0μM、pHrodoTM E.coli又はpHrodoTM S.aureusの最終濃度は25μg/ウェル(250μg/mL)であった。インキュベーションはE.coliで60分、 S.aureusで120分間行った。
【0036】
InCell Analyzer(GEヘスルケア社)を用いて、好中球に取り込まれ赤色に発色したpHrodoの量を画像解析及び定量化で解析し、好中球の貪食能を確認した。大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能解析結果を図4A、Bに示した。
【0037】
HRGは好中球の大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する貪食能を促進していることが明らかとなった。通常、血中にHRGは約1μM程度存在しており、本実施例でのHRGの貪食促進能は0.3μMからプラトーに達していることから、健常者においては血中における好中球の細菌貪食能は保たれており、HRGが低下する病態、例えば敗血症などではその貪食能が低下することが示唆される。
【0038】
(実験例2)HRG刺激による好中球貪食能確認試験2
前記細胞濃度(2×106 個/mL)の好中球液に、実験例1と同手法によりhHRG、rHRG又はHRG-Fc各溶液を添加して大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能を確認した(HRG最終濃度0.01~3.0μM)。確認実験として、各種抗HRG抗体又は対照抗体を各々添加したときの大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能を確認した。好中球に取り込まれ赤色に発色したpHrodoの量を画像及び定量化し、好中球の貪食能を確認することができる。
【0039】
大腸菌に対する好中球の貪食能について、画像解析結果を図5及び図6に示し、各HRG濃度における貪食能の変化、解析結果を図7に示した。同様に、黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能について、画像解析結果を図8及び図9に示し、各HRG濃度における貪食能の変化、解析結果を図10に示した。
【0040】
rHRGはhHRGと同程度、好中球の大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する貪食能を促進していたが、HRG-Fcはその貪食促進能が弱いことが明らかとなった。
【0041】
(比較例1)各種刺激による好中球貪食能確認試験
前記細胞濃度(2×106 個/mL)の好中球液に、実験例1と同手法によりhHRG 1.0μMを添加した場合と、比較例としてIL-8、fMLP、C5aを1.0μM又はLPSを10μM、各々添加したときの、大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能を確認した。その画像解析結果を図11及び図12に示した。
【0042】
(実験例3)HRG刺激による好中球貪食能確認試験3
前記細胞濃度(2×106 個/mL)の好中球液に、実験例1と同手法によりhHRG 1.0μMを添加した場合と、確認実験として、各種抗HRG抗体又は対照抗体を各々10μg/mL添加したときの大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能を確認した。その解析結果を図13に示した。
【0043】
HRGにより大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能は増強するが、各HRG抗体を添加した場合には、貪食能が抑制された。一方、対照抗体を添加した場合では、HRGによる大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能は維持されていた。このことより、HRGには、好中球の貪食能を増強する作用があることが確認された。
【0044】
(実験例4)HRG刺激によるオプソニン効果1
本実施例では、HRGを含む血清又はHRGを含まない血清を用いてHRGのオプソニン(Op)化に対する影響について確認した。オプソニン(Op)化に用いた血清には健常ヒト血清を用いた。本実験例において、「HRGを含む血清」とは未処理の健常ヒト血清をいう。本実験例において「HRGを含まない血清」とは、ヒト血清にNi-NTAアガロースゲルを添加して血清中のHRGを吸着させた後、遠心処理によりNi-NTAアガロースゲルを取り除いたものをいう。ウェスタンブロット法により、上記のHRGを含まない血清はHRGを検出しないことを確認している。
【0045】
Zymosan(pHrodoTM Red Zymosan, Thermo Fisher社製)を4℃で、HRGを含む血清又はHRGを含まない血清と混和し、さらに超音波破砕でよく撹拌した。撹拌後、4℃、15000rpmで15分間遠心処理を行った。上清を捨て、HBSSで懸濁した。この洗浄操作を2回繰り返したのち、ZymosanをHBSSで懸濁した。このときのZymosan濃度は1.0 mg/mLであった。
【0046】
好中球液に、hHRG溶液を加え、96ウェルプレートに分注し、CO2下、37℃で30分間インキュベーションした。その後、上記Zymosan溶液を96ウェルプレートに添加し、CO2下、37℃で120分間インキュベーションした。このときの細胞液の最終濃度は2×104 個/ウェル(2×105 個/mL)、HRGの最終濃度は1.0μM、Zymosanの最終濃度50μg/ウェル(500μg/mL)であった。InCell Analyzer(GEヘスルケア社)を用いて、好中球に取り込まれ赤色に発色したpHrodoの量を画像解析及び定量化で解析し、好中球の貪食能を確認した。
【0047】
その結果を図14に示した。HRGを含む血清又はHRGを含まない血清でZymosanを処理した場合、HRGを含む血清で処理したZymosanの方が好中球による貪食量が多いことが確認され、HRGによるオプソニン(Op)増強効果が認められた。
【0048】
(実験例5)HRG刺激によるオプソニン効果2
大腸菌(pHrodoTM E.coli)又は黄色ブドウ球菌(pHrodoTM S.aureus)を、予めヒト血清アルブミン(HSA, 1.0μM)、hHRG(1.0μM)、5倍希釈ヒト血清(1/5 Serum)を37℃で15分間インキュベートしたのち、大腸菌又は黄色ブドウ球菌をHBSSで2回洗浄した。その後、実験例1と同じ手法により上記洗浄した大腸菌又は黄色ブドウ球菌に対して、HRGによるオプソニン(Op)増強効果を確認した。
【0049】
好中球液に、hHRG溶液を加え、96ウェルプレートに分注し、CO2下、37℃で30分間インキュベーションした。その後、上記HSA、HRG溶液、又は5倍希釈ヒト血清で前処理した大腸菌又は黄色ブドウ球菌を加えて96ウェルプレートに分注し、CO2下、37℃で120分間インキュベーションした。このときの細胞液の最終濃度は2×104 個/ウェル(2×105 個/mL)、HSA又はHRGの最終濃度は1.0μM、Zymosanの最終濃度は25μg/ウェル(250μg/mL)であった。InCell Analyzer(GEヘスルケア社)を用いて、好中球に取り込まれ赤色に発色したpHrodoの量を画像解析及び定量化で解析し、好中球の貪食能を確認した。
【0050】
各前処理した大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対するHRGによる好中球の貪食能解析結果を図15A、Bに示した。5倍希釈ヒト血清で前処理した大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対する好中球の貪食能解析結果を図16A、Bに示した。
【0051】
本実験例の結果より、HRG前処理では大腸菌と黄色ブドウ球菌に対してオプソニン(Op)増強効果を示さなかった。一方、5倍希釈ヒト血清による処理は、大腸菌と黄色ブドウ球菌に対して強いオプソニン(Op)増強効果を発揮した。HRG前処理を行った菌体では、好中球の貪食能の増強を認めなかったことより、HRGは菌体ではなく好中球に作用し、その貪食能を増強させたことが推測される。またヒト血清にてオプソニン(Op)化された菌体が、オプソニン(Op)化されていない菌体(UnOp)と比べ、HRGを添加することで大幅に好中球の貪食能が増強されたことより、生体内でオプソニン(Op)化された菌体にあっては、HRG存在下でさらに好中球の貪食作用が促進されることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上詳述したように、本発明の「好中球貪食能増強剤」は好中球貪食能を増強することにより、各種細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、寄生生物感染症やこれらの混合感染症の治療剤又は治療補助剤として使用することができる。本発明の「好中球貪食能増強剤」を他の医薬品製剤、例えば既に市販されている治療剤、又は今後開発される治療剤と併用することにより、他の医薬品製剤の投与量/投与頻度を軽減化させることができる。他の医薬品製剤が副作用を有する場合は、本発明の「好中球貪食能増強剤」を併用することで、他の医薬品製剤の投与量/投与頻度を軽減化することができ、有用である。
図1
図2
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【配列表】
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