IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人同志社の特許一覧

<>
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図1
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図2
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図3
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図4
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図5
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図6
  • 特許-エムリカサンを含む製剤 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】エムリカサンを含む製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/05 20060101AFI20230901BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20230901BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230901BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230901BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230901BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
A61K38/05
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/10
A61P27/02
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/19
A61K47/02
A61K47/26
【請求項の数】 45
(21)【出願番号】P 2020527701
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025945
(87)【国際公開番号】W WO2020004652
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018125234
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小泉 範子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 直毅
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/110094(WO,A1)
【文献】特表2017-515854(JP,A)
【文献】特表2017-507165(JP,A)
【文献】国際公開第2017/129585(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/160501(WO,A1)
【文献】特表2015-501828(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222370(WO,A1)
【文献】医薬品添加物事典 2016,第1刷,2016年,p.155,536,537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)緩衝剤と
を含む製剤であって、
(a)該非イオン性界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
製剤
【請求項2】
前記界面活性剤が、約0.05重量%~約5重量%で前記製剤中に存在する、請求項に記載の製剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が、約0.1重量%~約4重量%で前記製剤中に存在する、請求項1または2に記載の製剤。
【請求項4】
前記ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体からなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物が、約0.05重量%~約5重量%で前記製剤中に存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項6】
前記エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物が、約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、およびポロキサマー407からなる群から選択される界面活性剤であって、約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在する界面活性剤と
(iii)緩衝剤と
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
製剤。
【請求項8】
エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で該製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60と
(iii)pHを約.0~約7.0に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
【請求項9】
エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で該製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)
(iii)pHを約4.~約7.0に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
【請求項10】
前記製剤が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項1~に記載の製剤。
【請求項11】
前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。
【請求項12】
前記製剤が、眼科用製剤である、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項13】
前記製剤が、角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための製剤である、請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記製剤が点眼用製剤または前房内への注射のための製剤である、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項15】
前記製剤が水溶液である、請求項1~1のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項16】
エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物を含む、請求項1に記載の製剤を用時調製するための組成物であって、該組成物は、固体形態であり、再構成用媒体により再構成されることを特徴とする、組成物。
【請求項17】
前記組成物は、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)緩衝剤と
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
前記再構成用媒体は、必要に応じて、さらに防腐剤、安定化剤、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項1618のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記固体形態は乾燥粉末形態である、請求項1619のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記再構成用媒体は、必要に応じて、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択される界面活性剤を含む、請求項16~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
(a)前記界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、前記緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、前記緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである
請求項16~2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記再構成用媒体が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項16~2に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項16~22に記載の組成物。
【請求項25】
前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
請求項1に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む固形物
(ii)再構成用媒体
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである
キット。
【請求項27】
前記固形物は、エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む乾燥粉末である、請求項2に記載のキット。
【請求項28】
前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項2または27に記載のキット。
【請求項29】
前記再構成用媒体は、必要に応じて、さらに防腐剤、安定化剤、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤、および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項228のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
請求項1に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の固形物
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)緩衝剤と
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである
キット。
【請求項31】
請求項1に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の固形物
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む再構成用媒体と
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、キット。
【請求項32】
前記固形物乾燥粉末である、請求項30または3に記載のキット。
【請求項33】
前記再構成用媒体が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項2~3に記載のキット。
【請求項34】
前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、請求項3に記載のキット。
【請求項35】
請求項1に記載の製剤を用時調製するための方法であって、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む固形物を提供するステップと
(ii)該固形物を、再構成用媒体により再構成するステップと
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
方法。
【請求項36】
前記固形物は、エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む乾燥粉末である、請求項3に記載の方法。
【請求項37】
前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項3または3に記載の方法。
【請求項38】
前記再構成用媒体は、必要に応じて、さらに防腐剤、安定化剤、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤、および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項337のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
請求項1に記載の製剤を用時調製するための方法であって、
(i)エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の固形物を提供するステップと
(ii)該固形物を、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および緩衝剤を含む再構成用媒体により再構成するステップと
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
方法。
【請求項40】
前記固形物乾燥粉末である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記再構成用媒体が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項43】
エムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の固形物を再構成するための、あるいはエムリカサンまたはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の結晶またはその固形物を溶解するための媒体または溶液であって、該媒体または溶液は、
(i)溶媒と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)緩衝剤と
を含み、
(a)該界面活性剤が、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)であり、該緩衝剤が、pHを約4.5~約8.5に維持するものであるか、あるいは
(b)該界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-60、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油-100、ポリオキシエチレンヒマシ油-35、モノステアリン酸ポリエチレングリコール-40およびポロキサマー407から成る群から選択され、該緩衝剤が、pHを約6.0~約8.5に維持するものである、
媒体または溶液。
【請求項44】
前記媒体または溶液が、必要に応じて、糖類をさらに含む、請求項4に記載の媒体または溶液。
【請求項45】
前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、請求項4に記載の媒体または溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有効成分としてエムリカサンまたはその誘導体を含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エムリカサンは汎カスパーゼ阻害剤として知られておりアポトーシス抑制等の効果を有する。エムリカサンは、エタノールやDMSO等の有機溶媒には良く溶けるが、水には溶けにくく、点眼剤等の水に溶かして使用される製剤としては用いられにくい。しかしながら、様々な疾患に対する製剤としての有効性は期待されている。例として、角膜内皮細胞を障害する疾患の一つであるフックス角膜内皮ジストロフィ(Fuchs Endothelial Corneal Dystrophy:FECD)が挙げられる。FECDは、角膜内皮細胞が進行的に減少する疾患で、進行すると失明に至る。現在のFECDに対する唯一の治療法は、角膜移植のみであるが手術侵襲やドナー不足の問題から新規治療法の開発が望まれている。エムリカサンはin vitroにおいてこの疾患に対する有効性を示している(特許文献1)。これらのことを踏まえると、エムリカサンの水溶性製剤に対する需要は大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/110094号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、薬効が期待できる濃度のエムリカサンまたはその誘導体が溶液中(特に水溶液中)で可溶化する条件を見出した。さらに、本発明者らは、エムリカサンまたはその誘導体が溶液中(特に水溶液中)で安定化する条件も見出した。具体的には、本発明者らは、エムリカサンまたはその誘導体は、製剤における可溶化剤(例えば、界面活性化剤)およびpH条件を調節することによって、エムリカサンまたはその誘導体の溶液中の可溶性および/または安定性が最適化されることを見出した。
【0005】
したがって、本開示は、例えば、以下を提供する。
(項目1)(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
(項目2)前記緩衝剤がpHを約3.5~約8.0に維持する、項目1に記載の製剤。
(項目3)前記緩衝剤がpHを約4.0~約7.0に維持する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目4)前記緩衝剤がpHを約4.5~約6.5に維持する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目5)前記界面活性剤が、約0.05重量%~約5重量%で前記製剤中に存在する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目6)前記界面活性剤が、約0.1重量%~約4重量%で前記製剤中に存在する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目7)前記ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体からなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目8)前記ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤が、HCO-20、HCO-40、HCO-60、HCO-80、HCO-100、CO-35、MYS-40、Tween80、およびポロキサマー407からなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目9)前記エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物が、約0.05重量%~約5重量%で前記製剤中に存在する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目10)前記エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物が、約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在する、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目11)エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)HCO-20、HCO-40、HCO-60、HCO-80、HCO-100、CO-35、MYS-40、Tween80、およびポロキサマー407からなる群から選択される界面活性剤であって、約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在する界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.0に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
(項目12)エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で該製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するHCO-60と
(iii)pHを約4.0~約7.0に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
(項目13)エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で該製剤中に存在するエムリカサンと
(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するTween80と
(iii)pHを約4.0~約7.0に維持する緩衝剤と
を含む製剤。
(項目14)前記製剤が、必要に応じて、糖類をさらに含む、上記項目に記載の製剤。
(項目15)前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、上記項目に記載の製剤。
(項目16)前記製剤が、眼科用製剤である、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目17)前記製剤が、角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための製剤である、項目16に記載の製剤。
(項目18)前記製剤が点眼用製剤または前房内への注射のための製剤である、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目19)前記製剤が水溶液である、上記項目のいずれか一項に記載の製剤。
(項目20)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物を含む、上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するための組成物であって、該組成物は、粉末形態であり、再構成用媒体により再構成されることを特徴とする、組成物。
(項目21)前記組成物は、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目22)前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝液またはこれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目23)前記再構成用媒体は、さらに防腐剤、安定化剤および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目24)前記粉末形態は、凍結乾燥粉末形態である、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目25)前記再構成用媒体はポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目26)前記再構成用媒体はpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目27)前記再構成用媒体が、必要に応じて、糖類をさらに含む、上記項目に記載の組成物。
(項目28)前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の組成物。
(項目29)上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む粉末と
(ii)再構成用溶媒と
を含む、キット。
(項目30)前記粉末は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む溶液を凍結乾燥して得られた粉末である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目31)前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝液またはこれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目32)前記再構成用媒体は、さらに防腐剤、安定化剤および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目33)上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末と
(ii)必要に応じて、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)必要に応じて、pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む、キット。
(項目34)上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む再構成用媒体と
を含む、キット。
(項目35)前記粉末が、凍結乾燥粉末である、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目36)前記再構成用媒体が、必要に応じて、糖類をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目37)前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載のキット。
(項目38)上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するための方法であって、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む粉末を提供するステップと
(ii)該粉末を、再構成用媒体により再構成するステップと
を含む方法。
(項目39)前記粉末は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む溶液を凍結乾燥して得られた粉末である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)前記再構成用媒体は、精製水、生理食塩水、緩衝液またはこれらの任意の組み合わせを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)前記再構成用媒体は、さらに防腐剤、安定化剤および等張化剤からなる群より選択される少なくとも一つを含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)上記項目のいずれか一項に記載の製剤を用時調製するための方法であって、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末を提供するステップと
(ii)該粉末を、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約6.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む再構成用媒体により再構成するステップと
を含む方法。
(項目43)前記粉末が、凍結乾燥粉末である、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)前記再構成用溶媒が、必要に応じて、糖類をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目45)前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の凍結乾燥粉末を再構成するための、あるいはエムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の結晶またはその粉末を溶解するための媒体または溶液であって、該媒体または溶液は、
(i)溶媒と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む媒体または溶液。
(項目47)前記媒体または溶液が、必要に応じて、糖類をさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の媒体または溶液。
(項目48)前記糖類が、マンニトール、ショ糖およびトレハロースからなる群から選択される、上記項目のいずれか一項に記載の媒体または溶液。
(項目49)エムリカサンを含む製剤の有効量をそれを必要とする被験体に投与する工程を包含する、該被験体におけるエムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するため方法であって、該製剤は、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む、
方法。
(項目50)項目2~19の1つまたは複数に記載の特徴をさらに含む項目49に記載の方法。
(項目51)被験体におけるエムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するため方法であって、該方法は
a)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物を含む粉末形態の組成物を、再構成用媒体により再構成する工程と、
b)該再構成によって調製されたエムリカサンを含む製剤の有効量をそれを必要とする被験体に投与する工程を包含する工程を
包含し、
該製剤は、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む、
方法。
(項目52)項目21~28の1つまたは複数に記載の特徴をさらに含む項目51に記載の方法。
(項目53)前記用時調製は、項目29~37のいずれかまたは複数の記載の特徴を有するキットを用いて行われる、項目51または52に記載の方法。
(項目54)前記用時調製は、項目38~45のいずれかまたは複数に記載の特徴を有する工程によって実施される、項目51~53のいずれかに記載の方法。
(項目55)エムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するための製剤であって、該製剤は、
(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と
(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と
(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と
を含む、
製剤。
(項目56)項目2~19の1つまたは複数に記載の特徴をさらに含む項目55に記載の製剤。
【0006】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の製剤は、特定の条件を有しており、エムリカサンまたはその誘導体の製剤中の可溶性および/または安定性を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、種々のpHにおける界面活性剤(Tween80、HCO-60、MYS-40)のエムリカサンの溶解性に対する影響を示す。
図2図2は、低pHにおける界面活性剤(HCO-100、HCO-60、HCO-40、HCO-20、HCO-20、MYS-40、Poloxamer407)のエムリカサンの溶解性に対する影響を示す。
図3図3は、HCO-60を用いたエムリカサンの安定性のグラフを示す。縦軸は、エムリカサン溶液を調製した直後のエムリカサン量を100とした場合のエムリカサンの残存量の割合を示し、横軸は、エムリカサン溶液の調製後の保存期間を示す。保存はそれぞれ、4℃で行い、エムリカサン溶液は、pHは、pH6、pH6.5、pH7およびpH8となるようにそれぞれ調製した。
図4図4は、Tween80を用いたエムリカサンの安定性のグラフを示す。縦軸は、エムリカサン溶液を調製した直後のエムリカサン量を100とした場合のエムリカサンの残存量の割合を示し、横軸は、エムリカサン溶液の調製後の保存期間を示す。保存はそれぞれ、4℃で行い、エムリカサン溶液は、pHは、pH6、pH6.5、pH7およびpH8となるようにそれぞれ調製した。
図5図5は、酸性領域下でのTween80を用いたエムリカサンの安定性のグラフを示す。縦軸は、エムリカサン溶液を調製した直後のエムリカサン量を100とした場合のエムリカサンの残存量の割合を示し、横軸は、エムリカサン溶液の調製後の保存期間を示す。保存はそれぞれ、4℃および25℃で行い、エムリカサン溶液は、pHは、pH4.5およびpH5.5となるようにそれぞれ調製した。
図6図6は、エムリカサン点眼液の凍結乾燥試験の結果を示す。左の写真は、エムリカサン点眼液の凍結乾燥物を示し、右の写真は、エムリカサン点眼液の凍結乾燥物を水で溶解した溶液を示している。
図7図7は、エムリカサン点眼液の凍結乾燥粉末の安定性のグラフを示す。縦軸は、エムリカサン溶液を調製した直後のエムリカサン量を100とした場合のエムリカサンの残存量の割合を示し、横軸は、エムリカサン溶液の調製後の保存期間を示す。保存はそれぞれ、4℃、25℃および37℃で行った。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
本明細書において、「約」とは、後に続く値の±10%を意味する。
【0011】
本明細書において「カスパーゼ」とは、システインを活性中心に持ち、アスパラギン酸のC末端側でペプチド結合を加水分解するエンドペプチダーゼの総称である。カスパーゼは、サイトカイン(インターロイキン1β等)のプロセッシングに機能しており、プログラム細胞死の実行や炎症反応に関与していることが知られている。すべてのカスパーゼは酵素前駆体として翻訳され、活性化は自分自身、または他のカスパーゼによる分解によって活性化され、カスケードの形式で機能する。カスパーゼは、発見された順に番号が付けられており、現在に至るまで哺乳類においてカスパーゼ1からカスパーゼ14までが知られている。ヒトの細胞においては10種類程度発見されている。例えば、カスパーゼ1はサイトカインのプロセシングによる炎症誘導に機能し、カスパーゼ3はプログラム細胞死の実行に直接関与し、カスパーゼ8はカスケードの上流に位置しプログラム細胞死のシグナル伝達を担っている。
【0012】
本明細書において、「カスパーゼ阻害剤」とは、任意のカスパーゼのシグナル伝達を阻害する任意の薬剤をいう。したがって、カスパーゼ阻害剤は、カスパーゼファミリーのうちのいずれか1つまたは複数を阻害することができる化合物である。エムリカサンは、すべてのカスパーゼを阻害することができる汎(pan)カスパーゼ阻害剤である。
【0013】
本明細書において「iFECD」(immortalized Fuchs’ endothelial corneal dystrophy)は、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞の略称である。
【0014】
本明細書において「HCEC」(human corneal endothelial cells)とは、ヒト角膜内皮細胞の略称である。「iHCEC」は、不死化(immortalized)ヒト角膜内皮細胞の略称である。
【0015】
本明細書において、「誘導体」とは、そのコア構造が親化合物のそれと同じかまたはよく似ているが、異なる官能基または付加的な官能基などの化学的修飾を有するような化合物を指す。誘導体は、親化合物と同一または類似の生物学的活性を有する。
【0016】
本明細書において、「薬学的に許容され得る塩」とは、比較的非毒性の、本開示の化合物の塩(例えば、酸性塩、塩基性塩など)をいう。これらの塩は、化合物の最終的な単離および精製の間に一時的に、またはその遊離塩基型で精製された化合物を適切な有機もしくは無機の酸と別々に反応させること、およびそのように形成された塩を単離することによって調製することができる。
【0017】
本開示の化合物の薬学的に許容され得る塩基性塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、メグルミン塩、ジエタノールアミン塩またはエチレンジアミン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン、ベネタミン塩等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等のヘテロ環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0018】
本開示の化合物の薬学的に許容され得る酸性塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0019】
本明細書において、「溶媒和物」とは、本開示の化合物またはその薬学的に許容される塩の溶媒和物を意味し、例えば有機溶媒との溶媒和物(例えば、アルコール(エタノールなど)和物)、水和物等を包含する。水和物を形成する時は、任意の数の水分子と配位していてもよい。水和物としては、1水和物、2水和物等を挙げることができる。
【0020】
本明細書において、「界面活性剤」とは、分子内に親水性部分と疎水性部分とを有し、液体に溶解して表面張力を著しく低下させる作用を有する物質をいう。本明細書において、「非イオン性界面活性剤」とは、水に溶解したときに電離してイオンにならない界面活性剤をいう。「ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤」としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポロキサマーが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本明細書において、「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」は、硬化(水素添加された)ヒマシ油に、ポリオキシエチレンが付加重合した化合物を指し、以下の構造を有する。
【0022】
【化1】
【0023】
式中、l、m、n、x、yおよびzの合計は、通常5~120であるがこれらに限定されない。例えば、l、m、n、x、yおよびzの合計が20であるポリエチレン硬化ヒマシ油をポリエチレン硬化ヒマシ油-20(HCO-20)という。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、例えば、HCO-20、HCO-40、HCO-60、HCO-80、およびHCO-100が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本明細書において、「ポリオキシエチレンヒマシ油」とは、硬化(水素添加)されていないヒマシ油にポリオキシエチレンが付加重合した化合物を指す。例えば、CO-3、CO-10、およびCO-35が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書において「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」とは、下記の構造:
RCOO-(CHCHO)
を有するものをいう。式中、Rは、炭素数が通常12~18のアルキル基もしくは炭素数が通常12~18のアルケニル基であり、当該アルキル基およびアルケニル基は直鎖または分岐鎖であってもよく、nは通常10~70であるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、モノラウリン酸ポリエチレングリコール10(MYL-10;n=10)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール10(MYS-10;n=10)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール25(MYS-25;n=25)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40;n=40)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール55(MYS-55;n=55)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書において「ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル」とは、以下の構
造:
【0027】
【化2】
【0028】
を有するものをいう。式中、Rは、炭素数が通常12~18のアルキル基、炭素数が通常12~18のアルケニル基または炭素数が通常12~18のアルキニル基であり、当該アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は直鎖又は分岐鎖であってもよく、k、l、m及びnの合計は通常20であるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)(Tween80とも称される)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート)(Tween60とも称される)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート)(Tween40とも称される)、ポリオキシエチレンモノラウリレート、ポリエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65(ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート)(Tween65とも称される)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書において、「ポロキサマー」とは、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体をいい、一般に分子量が約2000~約15,000ダルトンの範囲であり、以下の一般式を有する
HO(CO)(CO)(CO)
(式中、特定のグレードに応じて、aは約10~約150であり、ポリオキシエチレンの繰り返し単位のブロック(以下、PEO部分と呼ぶ)を表し、bは約20~約60であり、ポリオキシプロピレンの繰り返し単位のブロック(以下、PPO部分と呼ぶ)を表す。)。具体的なポロキサマーとしては、例えば、表1に示されるポロキサマー124、ポロキサマー188(PLURONIC F68)、ポロキサマー237(PLURONIC F87)、ポロキサマー338(PLURONIC F108)、ポロキサマー407(PLURONIC F127)、およびそれらのポロキサマーの混合物が挙げられる。
【0030】
【表1】
【0031】
本明細書において、「緩衝剤」とは、ある溶液に添加された場合、その溶液が、所定のpHからほとんどまたは全く変化させない能力を示す1種もしくは複数種の化合物、またはその化合物が溶解した水溶液をいう。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、トロメタモールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本明細書において、「角膜内皮の症状、障害または疾患」とは、角膜内皮において生じる任意の症状、障害または疾患をいう。例えば、角膜内皮の症状、障害または疾患としては、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0033】
本明細書において、「用時調製」とは、エムリカサンを被験体に投与する直前に、エムリカサンを含む凍結乾燥粉末を、再構成用媒体(例えば、精製水、生理食塩水、または他の成分を含む再構成用の溶液等)に溶解して、エムリカサンを含む投与に適した製剤を調製することをいう。また、「用時調製」は、エムリカサンの投与毎にその投与直前に調製されることを指してもよく、製剤を調製した後、短期間(例えば、数日、数週間)、室温、冷所または冷蔵で保存して使用する場合の最初の投与の直前の製剤の調製を指してもよい。したがって、用時調製は、投与毎に使い切ることも、調製された製剤を短期間保存して繰り返し使用されることも企図される。本明細書において、用時調製用に調製された製剤を用時調製製剤という。
【0034】
本明細書において「被験体」とは、本開示の製剤の投与対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル等)があげられるが、霊長類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0035】
本明細書において、「再構成」とは、凍結乾燥粉末などの乾燥粉末に水または溶液を添加することによって、乾燥状態を液体状態に戻すことをいう。
【0036】
本明細書において「再構成用媒体」とは、凍結乾燥粉末などの乾燥粉末に加えて液体状態にするための溶液をいい、精製水(例えば、滅菌精製水)、生理食塩水、緩衝剤、または薬学的に許容され得る再構成のための任意の無菌の溶液、あるいはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。上記に加えて、本開示において使用され得る再構成用媒体としては、緩衝剤、界面活性剤、防腐剤などを含む。防腐剤は、二次汚染を防止するために含まれ得る。再構成用媒体として含まれ得る界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤を挙げることができるが、これに限定されず、本明細書で開示された任意の界面活性剤を利用することができ、緩衝剤としては、本明細書において開示された任意の緩衝剤を用いることができるが、好ましくは例えば、pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を使用することができる。防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、パラベン類、ソルビン酸塩、ベンジルアルコール、グルコン酸クロルヘキシジンなどの製剤(例えば、眼科用製剤)に汎用されているものが挙げられるが、これらに限定されない。再構成用媒体は、再構成溶液ともいう。あるいは、これらの用語は、省略して媒体または溶液ということもある。
【0037】
本明細書において、「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬、抗体、標識、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。あるいは、溶液状態では不安定な化合物を提供する際、使用直前に凍結乾燥した粉末を適切な溶媒で溶解して用時調製する必要がある場合に、キットの形態が好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分(例えば、検査薬、診断薬、治療薬)をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。
【0038】
(好ましい実施形態の説明)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本開示の例示であり、本開示の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本開示の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0039】
(製剤)
一態様において、本開示は、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と、(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と、(iii)pHを約4.5~約8.5に維持する緩衝剤とを含む製剤を提供する。
【0040】
いくつかの実施形態において、緩衝剤は、pHを約3.0~約8.5、約3.5~約8.0、約3.5~約7.5、約3.5~約7.0、約3.5~約6.5、約3.5~約6.0、約4.0~約7.0、約4.0~約6.5、約4.0~約6.0、約4.0~約5.5、約4.0~約5.0、約4.5~約5.0、約4.5~約5.5、約4.5~約6.0、約4.5~約6.5、約4.5~約7.0、約4.5~7.5、約4.5~8.0、約5.0~約5.5、約5.0~約6.0、約5.0~約6.5、約5.0~約7.0、約5.0~約7.5、約5.0~約7.5、約5.0~約8.0、約5.0~約8.5、約5.5~約6.0、約5.5~約6.5、約5.5~約7.0、約5.5~約7.5、約5.5~約8.0、約5.5~約8.5、約6.0~約6.5、約6.0~約7.0、約6.0~約7.5、約6.0~約8.0、約6.0~約8.5、約6.5~約7.0、約6.5~約7.5、約6.5~約8.0、約6.5~約8.5、約7.0~約7.5、約7.0~約8.0、約7.0~約8.5、約7.5~約8.0、約7.5~約8.5、または約8.0~約8.5に維持する緩衝剤であり得る。
【0041】
特定の実施形態では、緩衝剤は、約6.0~約8.0、約6.0~約7.0、または約6.0~約6.5に維持する緩衝剤であり得る。別の好ましい実施形態では、緩衝剤は、約3.5~約8.0、約4.0~約7.0、約4.0~約6.0、または、約4.5~約7.0に維持する緩衝剤である。具体的な実施形態において、緩衝剤は、pHを約3.0、約3.5、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5、約8.0、または約8.5に維持する緩衝液であり得る。
【0042】
したがって、いくつかの実施形態において、本開示の製剤のpHは、約3.0~約8.5、約3.5~約8.0、約3.5~約7.5、約3.5~約7.0、約3.5~約6.5、約3.5~約6.0、約4.0~約7.0、約4.0~約6.5、約4.0~約6.0、約4.0~約5.5、約4.0~約5.0、約4.5~約5.0、約4.5~約5.5、約4.5~約6.0、約4.5~約6.5、約4.5~約7.0、約4.5~7.5、約4.5~8.0、約5.0~約5.5、約5.0~約6.0、約5.0~約6.5、約5.0~約7.0、約5.0~約7.5、約5.0~約7.5、約5.0~約8.0、約5.0~約8.5、約5.5~約6.0、約5.5~約6.5、約5.5~約7.0、約5.5~約7.5、約5.5~約8.0、約5.5~約8.5、約6.0~約6.5、約6.0~約7.0、約6.0~約7.5、約6.0~約8.0、約6.0~約8.5、約6.5~約7.0、約6.5~約7.5、約6.5~約8.0、約6.5~約8.5、約7.0~約7.5、約7.0~約8.0、約7.0~約8.5、約7.5~約8.0、約7.5~約8.5、または約8.0~約8.5であり得る。具体的な実施形態において、本開示の製剤のpHは、pHを約3.0、約3.5、約4.0.約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0、約7.5、約8.0、または約8.5であり得る。当業者であれば、本開示の製剤のpHを上記緩衝剤を用いて適宜調節することができる。
【0043】
最終的な製剤のpHが、上記pHの範囲に包含される限り、異なる緩衝剤を組み合わせて使用してもよく、凍結乾燥時の溶液に含まれる緩衝剤(ある場合)と、再構成用溶媒に含まれる緩衝剤(ある場合)とが異なっていてもよく、凍結乾燥時の溶液または再構成用溶媒に複数の異なる緩衝剤が含まれていてもよい。
【0044】
エムリカサンの溶解度を考慮すると、中性付近のpH(約4.0~約8.0、約5.0~約7.0、好ましくは約6.0)であることが好ましく、エムリカサンの安定性を考慮すると酸性側のpH(約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)が好ましい。エムリカサンの安定性を考慮すると、エムリカサンは、凍結乾燥により調製されることが好ましい。酸性側のpHでは中性付近のpHと比べてエムリカサンの溶解度が低下するが、有効濃度を超える(すなわち、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞(iFECD)を用いたin vitro試験(国際公開第2017/110094号)において薬理活性を示した濃度10μmol/Lの100倍以上)約0.1重量%のエムリカサンが少なくとも溶解する。
【0045】
用時調製製剤は、安定性の観点から酸性側(約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)のpHで短期間保存してもよく、投与時に中性側のpH(約4.0~約8.0、約5.0~約7.0、好ましくは約6.0)に調整されてもよい。
【0046】
いくつかの実施形態において、界面活性剤は、約0.05重量%~約5重量%、約0.1重量%~約5重量%、好ましくは、約0.1重量%~約4重量%、より好ましくは、約0.1重量%~約2重量%で本開示の製剤中に存在し得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ポリエチレングリコール)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロキサマー)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、例えば、HCO-20、HCO-40、HCO-60、HCO-80、およびHCO-100が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、HCO-60である。
【0049】
ポリオキシエチレンヒマシ油としては、例えば、CO-3、CO-10、およびCO-35が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は、CO-35である。
【0050】
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、モノラウリン酸ポリエチレングリコール10(MYL-10)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール10(MYS-10)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール25(MYS-25)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40)、およびモノステアリン酸ポリエチレングリコール55(MYS-55)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、MYS-40である。
【0051】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリソルベート80(Tween80)、ポリソルベート60(Tween60)、ポリソルベート40(Tween40)、ポリオキシエチレンモノラウリレート、ポリエチレンソルビタントリオレート、およびポリソルベート65(Tween65)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、ポリソルベート80(Tween80)である。
【0052】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロキサマー)としては、ポロキサマー124、ポロキサマー188、ポロキサマー237、ポロキサマー338、およびポロキサマー407が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体(ポロキサマー)は、ポロキサマー407である。
【0053】
いくつかの実施形態において、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物は、約0.05重量%~約5重量%、約0.1重量%~約2重量%、好ましくは、約0.1重量%~約1重量%、より好ましくは、約0.1重量%~約0.5重量%で製剤中に存在し得る。
【0054】
好ましい一態様において、本開示は、エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、
(i)約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在するエムリカサンと、(ii)HCO-20、HCO-40、HCO-60、HCO-80、HCO-100、CO-35、MYS-40、Tween80、およびポロキサマー407からなる群から選択される界面活性剤であって、約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在する界面活性剤と、(iii)pHを約3.0~約8.0、好ましくは約4.0~約7.0に維持する緩衝剤とを含む製剤を提供する。
【0055】
好ましい別の態様において、本開示は、エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、(i)約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在するエムリカサンと、(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するHCO-60と、(iii)pHを約4.0~約7.0に維持する緩衝剤とを含む製剤を提供する。
【0056】
好ましい別の態様において、エムリカサンを含む製剤であって、該製剤は、(i)約0.1重量%~約1重量%で前記製剤中に存在するエムリカサンと、(ii)約0.1重量%~約4重量%で該製剤中に存在するTween80と、(iii)pHを約4.0~約7.0に維持する緩衝剤とを含む製剤を提供する。
【0057】
本開示の製剤は、必要に応じて、製剤(例えば、点眼剤などの眼科用製剤)に通常用いられる防腐剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、凍結乾燥補助剤などの薬剤をさらに含んでもよい。
【0058】
いくつかの実施形態において、本開示の製剤は、眼科用製剤である。特定の実施形態では、本開示の製剤は、角膜内皮の角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防するための製剤であり得る。特に、本開示の製剤に含まれるエムリカサンは、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)に起因する角膜内皮の症状、障害または疾患に対して非常に有効であり(参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2017/110094号)、例えば、角膜内皮における、フックス角膜内皮ジストロフィ、角膜移植後障害、角膜内皮炎、外傷、眼科手術後の障害、眼科レーザー手術後の障害、加齢、後部多形性角膜ジストロフィ(PPD:posterior polymorphous dystrophy)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED:congenital hereditary endothelial dystrophy)、および特発性角膜内皮障害等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
いくつかの実施形態において、本開示の製剤の利用法としては、例えば点眼剤が挙げられるが、これに限定されず、前房内への注射、徐放剤への含浸、結膜下注射、全身投与(内服、静脈注射)などの投与方法も挙げることができる。
【0060】
本開示の製剤の形態は、粉末、固体または液体のいずれの形態であってもよいが、好ましくは、液体、特に水溶液の形態であることが好ましい。
【0061】
本開示の製剤は、必要に応じて、マンニトール、ショ糖およびトレハロースなどの糖類をさらに含んでもよい。
【0062】
別の態様では、本発明は、エムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するための製剤を提供する。この製剤は、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む。
【0063】
(保存方法)
本開示の製剤は、長期保存する場合は、脱水された状態(例えば、粉末形態、特に凍結乾燥粉末形態)で保存されるのが好ましい。本開示の製剤は、エムリカサンの安定性のために、約4℃~約25℃で保存され得る。特定の実施形態において、製剤を溶液として保存する場合は、低温(約4℃)で保存することが好ましく、より好ましくは、溶液のpHを酸性側(pH約3.0~約5.5)に維持して、製剤が保存される。
【0064】
したがって、本開示の別の態様において、本開示は、エムリカサンを保存するための方法であって、エムリカサンは、脱水された状態(例えば、粉末形態、特に凍結乾燥粉末形態)で保存されることを特徴とする方法を提供する。さらに別の態様において、本開示は、エムリカサンを溶液状態で保存する方法であって、溶液を低温(約4℃)かつ酸性側のpH(pH約4.5~約5.5)を維持するように保存することを特徴とする方法を提供する。好ましい実施形態では、溶液状態の製剤は、約4℃かつpH約4.5を維持するように保存される。
【0065】
(用時調製のための組成物)
エムリカサンは、溶液中で非常に不安定であるところ、凍結乾燥形態では、非常に安定することが明らかになった。また、エムリカサンの凍結乾燥粉末の再構成後も、特定の条件下で比較的安定化させることができることが明らかになった。このように、エムリカサンの凍結乾燥粉末を含む本開示の用時調製のための組成物により、安定して、エムリカサンの製剤を提供することができる。したがって、本開示の別の態様において、本開示は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物を粉末形態(例えば、凍結乾燥粉末形態)で含む組成物であって、再構成用媒体(例えば、精製水、生理食塩水、緩衝液またはこれらの任意の組み合わせ)に溶解して調製されることを特徴とする、組成物を提供する。本開示の組成物は、必要に応じて、防腐剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、凍結乾燥補助剤などの薬剤をさらに含んでもよい。
【0066】
好ましい実施形態において、本開示の組成物は、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と、(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と、(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤と、を含む。好ましい実施形態では、本開示で用いられる再構成用媒体は、例えば、精製水、生理食塩水、緩衝剤またはこれらの任意の組み合わせであり、本開示の組成物はこれらの再構成用媒体に溶解して調製される。
【0067】
1つの実施形態において、再構成用媒体は、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤を含み得る。別の実施形態において、再構成用媒体はpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含み得る。再構成用媒体として好ましいpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。再構成時には、涙液に近いpHが好ましくあり得ることから、採用され得るpHは中性付近(例えば、pH約6.0~約8.0)であってもよい。
【0068】
凍結乾燥時(凍結乾燥直前の溶液)のpHと再構成用媒体のpHは異なっていてもよく、凍結乾燥時のpHは、安定性の観点から酸性側(pH約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)であってよく、再構成時には、溶解性および/または投与に適した中性のpH(約4.0~約8.0、好ましくは約6.0)であってもよい。
【0069】
再構成用溶媒は、必要に応じて、防腐剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤などの薬剤をさらに含んでもよい。
【0070】
本開示で使用される再構成用媒体は、必要に応じて、マンニトール、ショ糖およびトレハロースなどの糖類をさらに含んでもよい。
【0071】
(キット)
別の態様において、本開示は、上記製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末(例えば、凍結乾燥粉末)と、(ii)必要に応じて、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と、(iii)必要に応じて、pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む、キットを提供する。ここで採用され得るpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態では、本開示のキットは、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および/または緩衝剤を含んでも、含んでなくてもよく、本開示のキットの使用者は、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤および/または緩衝剤を、別の提供者から入手してもよい。いくつかの実施形態において、本開示のキットは、使用説明書を含んでもよい。
【0073】
さらなる態様において、上記製剤を用時調製するためのキットであって、該キットは、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末(例えば、凍結乾燥粉末)と、(ii)必要に応じて、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む再構成用媒体とを含む、キットを提供する。ここで採用され得るpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。再構成時には、涙液に近いpHが好ましくあり得ることから、採用され得るpHは中性付近(例えば、pH約6.0~約8.0)であってもよい。
【0074】
(用時調製方法)
別の態様において、本開示は、上記製剤を用時調製するための方法であって、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む粉末を提供するステップと(ii)該粉末を、再構成用媒体により再構成するステップとを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、粉末は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む溶液を凍結乾燥して得られた粉末であり得る。
【0075】
さらなる別の態様において、本開示は、上記製剤を用時調製するための方法であって、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の粉末(例えば、凍結乾燥粉末)を提供するステップと、(ii)該粉末を、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤およびpHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤を含む再構成用媒体により再構成するステップとを含む方法を提供する。ここで採用され得るpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。
【0076】
凍結乾燥時(凍結乾燥直前の溶液)のpHと再構成用媒体のpHは異なっていてもよく、凍結乾燥時のpHは、安定性の観点から酸性側(pH約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)であってよく、再構成時には、溶解性および/または投与に適した中性のpH(約4.0~約8.0、好ましくは約6.0)であってもよい。
【0077】
(再構成用溶液)
別の態様において、本開示は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の凍結乾燥粉末を再構成するための溶液であって、該組成物は、(i)溶媒と、(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と、(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む溶液を提供する。
【0078】
いくつかの実施形態において、溶媒は、精製水、生理食塩水、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。ここで採用され得るpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。再構成時には、涙液に近いpHが好ましくあり得ることから、採用され得るpHは中性付近(例えば、pH約6.0~約8.0)であってもよい。
【0079】
凍結乾燥時(凍結乾燥直前の溶液)のpHと再構成用媒体のpHは異なっていてもよく、凍結乾燥時のpHは、安定性の観点から酸性側(pH約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)であってよく、再構成時には、溶解性および/または投与に適した中性のpH(約4.0~約8.0、好ましくは約6.0)であってもよい。
【0080】
(溶解用溶液)
別の態様において、本開示は、エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物の結晶またはその粉末を溶解するための溶液であって、該組成物は、(i)溶媒と、(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と、(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む溶液を提供する。ここで採用され得るpHは、本明細書において他の箇所において記載される緩衝剤のpHの好ましい数値と同様であり得、例えば、pH約4.0~約7.0(例えば、約4.0、約4.5、約5.0、約5.5、約6.0、約6.5、約7.0など)であり得る。再構成時には、涙液に近いpHが好ましくあり得ることから、採用され得るpHは中性付近(例えば、pH約6.0~約8.0)であってもよい。
【0081】
凍結乾燥時(凍結乾燥直前の溶液)のpHと溶解用溶液のpHは異なっていてもよく、凍結乾燥時のpHは、安定性の観点から酸性側(pH約3.5~約5.5、好ましくは約4.5)であってよく、溶解時には、溶解性および/または投与に適した中性のpH(約4.0~約8.0、好ましくは約6.0)であってもよい。
【0082】
いくつかの実施形態において、溶媒は、精製水、生理食塩水、またはこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0083】
本開示の溶液は、必要に応じて、防腐剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤などの薬剤をさらに含んでもよい。
【0084】
(治療および予防)
その他の態様において、治療有効量の本開示の製剤を被験体に投与するステップを含む、角膜内皮の症状、障害または疾患を治療または予防する方法が提供され得る。上記1または複数の実施形態および/または特徴は、本開示の態様に適宜採用され得る。
【0085】
例えば、1つの態様では、本発明は、エムリカサンを含む製剤の有効量をそれを必要とする被験体に投与する工程を包含する、該被験体におけるエムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するため方法を提供する。この方法において、該製剤は、i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む。
【0086】
本明細書において、「エムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状」とはエムリカサンにより治療および/予防し得る任意の疾患、障害または症状を挙げることができ、例えば、がん、フックス角膜ジストロフィ等を挙げることができる。この方法では、(製剤)(保存方法)(用時調製のための組成物)(キット)(用時調製方法)(再構成用溶液)(溶解用溶液)のいずれかまたは複数のセクションにおいて説明した任意の特徴を1つまたは組み合わせて適用することができる。
【0087】
別の態様において、本開示は、被験体におけるエムリカサンによって治療および/または予防し得る疾患、障害または症状の治療および/または治療するため方法を提供する。この方法はa)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物を含む粉末形態の組成物を、再構成用媒体により再構成する工程と、b)該再構成によって調製されたエムリカサンを含む製剤の有効量をそれを必要とする被験体に投与する工程を包含する工程を包含し、該製剤は、(i)エムリカサンもしくはその誘導体、またはその薬学的に許容され得る塩、あるいはその溶媒和物と(ii)ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤と(iii)pHを約3.0~約8.5に維持する緩衝剤とを含む。この方法でもまた、(製剤)(保存方法)(用時調製のための組成物)(キット)(用時調製方法)(再構成用溶液)(溶解用溶液)のいずれかまたは複数のセクションにおいて説明した任意の特徴を1つまたは組み合わせて適用することができる。
【0088】
1つの実施形態では、本開示の方法は、本開示で提供されるキットを用いて行われもよい。
【0089】
1つの実施形態において、本開示の製剤は、用時調製で行われても、そうでなくてもよい。
【0090】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0091】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明する。本実施例において用いられる各種試薬は、具体的に示したもののほか、Sigma-Aldrich、BASFジャパン株式会社などから入手されるものも用いることができることが理解される。
【0092】
(実施例1:界面活性剤およびpH値のエムリカサンの溶解性に対する影響)
エムリカサンは難溶性であり、生理的食塩水、リン酸緩衝液、精製水などには点眼薬として使用するための濃度では溶解することが出来ない。そこで、各種の界面活性剤を用いてエムリカサンを溶解することができるかについて試験した。
【0093】
(材料および方法)
本実施例では、エムリカサンの目標溶解濃度として、フックス角膜内皮ジストロフィの不死化細胞(iFECD)を用いたin vitro試験(国際公開第2017/110094号)において薬理活性を示した濃度10μmol/Lの1000倍となる10mmol/Lとした。エムリカサン粉末(Chemscene社)を正確に目標濃度分である28mgを電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール100μlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。その後、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80(Tween80:Polysorbate 80、NIKKOL)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 60、NIKKOL)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40:Polyetylene Glycol Monostearate 40、NIKKOL)を終濃度2%になるようにそれぞれ添加し十分に撹拌させた。この溶液にリン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)を全量5mlになるように添加し十分に撹拌させ溶解性を目視により確認した。
【0094】
(結果)
結果を図1に示す。エムリカサンは酸性化合物であるため溶液のpH値が塩基性側ほど溶解性は高くなる。すなわち、酸性物質の場合、pHが塩基性になることでイオン形濃度が上昇し分子形濃度が減るので、溶解度が高くなる。界面活性剤を用いない条件ではpH値7.0~8.0の条件では沈殿を起こし溶解は確認できなかった。ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤としてTween80、HCO-60、MYS-40を用いたものでは、pH7条件において全て溶解することが確認できた。また、pH5.0の条件では界面活性剤を用いることでわずかに溶けたが、沈殿を起こし完全な溶解は確認できなかった。一方、HCO-60を用いたものは懸濁状態を維持し他の界面活性剤と比較し良好な結果であることが確認できた。10mmol/Lを目標溶解濃度として設定した場合、目視により溶解が確認できた溶媒の最低のpH値はpH6.0であった。したがって、本実施例における目標溶解濃度を達成するためには、終濃度2%のポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤を用いることにより、最終pH6.0以上でエムリカサンを溶解させることができた。
【0095】
(実施例2:低pH値における種々の界面活性剤のエムリカサンの溶解性に対する影響)
エムリカサンは塩基性条件では分解される可能性があることが予測されるため、pH7.0よりも低いpHにおいての溶解性について試験した。
【0096】
(材料および方法)
本実施例では、実施例1と同様に、エムリカサンの目標溶解濃度を10mmol/Lとした。エムリカサンを正確に28mgを電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール100μlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。その後、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油100(HCO-100:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 100、NIKKOL)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 60、NIKKOL)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40(HCO-40:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 40、NIKKOL)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20(HCO-20:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 20、NIKKOL)、ポリオキシエチレンヒマシ油35(CO-35:Polyoxyethylene Castor Oil 35、NIKKOL)、モノステアリン酸ポリエチレングリコール40(MYS-40:Polyetylene Glycol Monostearate 40、NIKKOL)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール407(Poloxamer407:Polyoxyethylene Polyoxypropylene Glycol 407、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。この溶液にリン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)を全量5mlになるように添加し十分に撹拌させ溶解性を目視により確認した。
【0097】
(結果)
結果を図2に示す。本実施例において使用した界面活性剤間で、エムリカサンの溶解性は同様の傾向を示した。界面活性剤の終濃度が0.5%である場合で、最終pHが6.5以上で溶解が確認できた。したがって、エムリカサンの溶解性はpHによる影響を受けやすいことが明らかになった。
【0098】
(実施例3:HCO-60を用いたエムリカサンの安定性)
実施例1および2において、ポリオキシエチレン基を含む非イオン性界面活性剤を用いて、特定のpH範囲で、エムリカサンが可溶化することが明らかになった。本実施例では、溶液中のエムリカサンの安定性を試験した。
【0099】
(材料および方法)
エムリカサンをHCO-60を界面活性剤として用いて終濃度0.5%に溶解した際の安定性について試験した。エムリカサンを正確に500mg電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール2mlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60(HCO-60:Polyoxyethylene Hydrogenated Castor Oil 60、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。その後、エタノールを窒素気流により留去した。浸透圧を調整するため、この溶液に終濃度1%になるよう濃グリセリンを添加した。リン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)をpH8に調整し全量100mlになるように添加した。その溶液を十分に撹拌させ、20mlを採取し0.22μmGVフィルター(メルクミリポア)で濾過した。最初の濾液5mlは廃棄し、次の15mlを採取した。この濾液を4℃、25℃、37℃用に5mlずつガラス製試験管に分け入れ、パラフィルムとアルミホイルで遮光し各温度条件に保存した。高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid
Chromatography:HPLC、島津製作所)によりこのサンプルの安定性を検討した。HPLC条件は、移動相に0.05%トリフルオロ酢酸を含有させたアセトニトリルと水を60:40で使用し、VR-ODSカラム(4.6×150mm、株式会社島津製作所)の温度を40℃、流速を1.0ml/分、検出波長を254nm、注入量を10μl、検出時間を10分とした。今回、調製直後のHPLC測定結果を100%とし、2週間後、4週間後との結果を比較し経時的に安定性を評価した。また、pH7、pH6.5、pH6条件も上記同様の方法で調製し検討した。
【0100】
(結果)
結果を図3に示す。4℃条件では、分解せずに存在しているエムリカサンは4週間では90%を下回ることはなかった。しかし、25℃および37℃条件では、エムリカサンの分解が見られ、25℃および37℃では、エムリカサンが溶液中で不安定である可能性が示唆された(データは示さず)。また、試験した範囲内では、pHが高いほど安定性が低い結果になった。
【0101】
(実施例4:Tween80を用いたエムリカサンの安定性)
(材料および方法)
エムリカサンをTween80を界面活性剤として用いて終濃度0.5%に溶解した際の安定性について試験した。エムリカサンを正確に500mg電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール2mlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。界面活性剤であるポリソルベート80(Tween80:Polysorbate 80、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。その後、エタノールを窒素気流により留去した。浸透圧を調整するため、この溶液に終濃度1%になるよう濃グリセリンを添加した。リン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)をpH8に調整し全量100mlになるように添加した。その溶液を十分に撹拌させ、20mlを採取し0.22μmGVフィルター(メルクミリポア)で濾過した。最初の濾液5mlは廃棄し、次の15mlを採取した。この濾液を4℃、25℃、37℃用に5mlずつガラス製試験管に分け入れ、パラフィルムとアルミホイルで遮光し各温度条件に保存した。高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC、島津製作所)によりこのサンプルの安定性を検討した。HPLC条件は、移動相に0.05%トリフルオロ酢酸を含有させたアセトニトリルと水を60:40で使用し、VR-ODSカラム(4.6×150mm、株式会社島津製作所)の温度を40℃、流速を1.0ml/分、検出波長を254nm、注入量を10μl、検出時間を10分とした。今回、調製直後のHPLC測定結果を100%とし、2週間後、4週間後との結果を比較し経時的に検討した。また、pH7、pH6.5、pH6条件も上記同様の方法で調製し検討した。
【0102】
(結果)
結果を図4に示す。4℃条件では、分解せずに存在しているエムリカサンは4週間では90%を下回ることはなかった。しかし、25℃および37℃条件では、エムリカサンの分解が見られ、25℃および37℃では、エムリカサンが溶液中で不安定である可能性が示唆された(データは示さず)また、pHが高いほど安定性が低い結果になった。これらの結果はHCO-60を用いた結果(実施例3)と同様の傾向であったが、Tween80がHCO-60と比較するとやや安定化傾向であった。
【0103】
(実施例5:酸性領域下での安定性の検討)
酸性領域下では酸性化合物であるエムリカサンの安定性が向上し、エムリカサンが分子型の形態をとることで眼内移行が向上し、反対にアルカリ性領域下ではエムリカサンがイオン型の形態をとることで眼内移行が低下することが予測される。したがって、酸性領域下におけるエムリカサンの安定性について検討した。
【0104】
(材料および方法)
エムリカサンをTween80を界面活性剤として用いて終濃度0.1%に溶解した際の安定性について試験した。
【0105】
エムリカサンを正確に45mg電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール0.9mlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。界面活性剤であるポリソルベート80(Tween80:Polysorbate 80、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。その後、エタノールを窒素気流により留去した。浸透圧を調整するため、この溶液に終濃度1%になるよう濃グリセリンを添加した。リン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)をpH5.5に調整し全量45mlになるように添加した。その溶液を十分に撹拌させ、20mlを採取し0.22μmGVフィルター(メルクミリポア)で濾過した。最初の濾液5mlは廃棄し、次の15mlを採取した。この濾液を4℃、25℃、37℃用に5mlずつガラス製試験管に分け入れ、パラフィルムとアルミホイルで遮光し各温度条件に保存した。高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC、島津製作所)によりこのサンプルの安定性を検討した。HPLC条件は、移動相に0.05%トリフルオロ酢酸を含有させたアセトニトリルと水を60:40で使用し、VR-ODSカラム(4.6×150mm、株式会社島津製作所)の温度を40℃、流速を1.0ml/分、検出波長を254nm、注入量を10μl、検出時間を10分とした。今回、調製直後のHPLC測定結果を100%とし、2週間後、4週間後との結果を比較し経時的に検討した。また、pH4.5条件も上記同様の方法で調製し検討した。
【0106】
(結果)
結果を図5に示す。終濃度0.1%では、エムリカサンは、pH4.5およびpH5.5のいずれのpHでも溶解した。終濃度0.1%に溶解した場合には、4℃条件では、分解せずに存在しているエムリカサンはどのpHにおいても4週間では90%を下回ることはなかった。pH5.5では25℃条件において2週間で分解せずに存在しているエムリカサンは90%を下回ったが、4週間経過しても、50%を下回ることはなかった。一方、pH4.5では25℃条件において2週間で分解せずに存在しているエムリカサンは90%を下回ることはなかった。また、37℃での条件では、エムリカサンは、pH4.5およびpH5.5において分解を示し、低いpH条件下でも不安定である可能性が示唆された。したがって、pH4.5では他のpHと比較し安定性が良好であった。
【0107】
(実施例6:エムリカサン点眼液の凍結乾燥試験)
エムリカサン点眼液はpH6以上の領域では長期的に室温保存すると分解される可能性があることが示された。点眼薬としてエムリカサンを調製するためには長期的に安定化させる手法を開発することで、臨床における使用において利点がある。そこで、凍結乾燥製剤の開発を検討した。
【0108】
(材料および方法)
エムリカサンを正確に7mg電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール140μlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。界面活性剤であるポリソルベート80(Tween80:Polysorbate 80、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。その後、エタノールを窒素気流により留去した。この溶液に終濃度4.5%になるようD-マンニトール(和光純薬工業)をリン酸緩衝液(Phosphate buffered saline:PBS)に溶解させ、pH4.5に調整し全量7mlになるように添加した。その溶液を十分に撹拌させ、-83℃の冷凍庫で1日保存した。凍結後、凍結乾燥機(FDU-1200、東京理化器械株式会社)に12時間かけて完全に水分を飛ばした。
【0109】
その後、水を加えて再溶解性を検討した。また、このサンプルを0.22μmGVフィルター(メルクミリポア)で濾過後、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC、島津製作所)によりエムリカサンの再溶解度を測定した。HPLC条件は、移動相に0.05%トリフルオロ酢酸を含有させたアセトニトリルと水を60:40で使用し、VR-ODSカラム(4.6×150mm、株式会社島津製作所)の温度を40℃、流速を1.0ml/分、検出波長を254nm、注入量を10μl、検出時間を10分とした。
【0110】
(結果)
凍結乾燥直後のサンプルは、白色の粉末状であった。水を添加後、速やかに溶解したが淡白色であった。0.22μmGVフィルターで濾過後、凍結乾燥前の約88%量のエムリカサンが溶解していた。したがって、エムリカサンは、凍結乾燥が可能であり、水の再溶解にも耐えうることが明らかになった。 (実施例7:凍結乾燥製させたエムリカサンより調製した点眼液の安定性試験)
(材料および方法)
エムリカサンを正確に15mg電子天秤(AUW220D、SHIMADZU)で測りガラス試験管に移した。そこに99%エタノール300μlを添加し溶解させた。完全に溶解させるため、ボルテックスで十分に撹拌させた。界面活性剤であるポリソルベート80(Tween80:Polysorbate 80、NIKKOL)を終濃度0.5%になるように添加し十分に撹拌させた。その後、エタノールを窒素気流により留去した。この溶液に終濃度4.5%になるようD-マンニトール(和光純薬工業)をリン酸緩衝液(Phosphate buffered saline : PBS)に溶解させ、pH4.5に調整し全量15mlになるように添加した。その溶液を十分に撹拌させ、13mlを採取し0.22μmGVフィルター(メルクミリポア)で濾過した。最初の濾液4mlは廃棄し、次の8mlを採取し初期値、4℃、25℃、37℃用に2mlずつガラス製試験管に分け入れ、-83℃の冷凍庫で1日保存した。凍結後、凍結乾燥機(FDU-1200、東京理化器械株式会社)に12時間かけて完全に水分を飛ばした。パラフィルムとアルミホイルで遮光し、凍結乾燥粉末を各温度条件に保存した。高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography:HPLC、島津製作所)によりこのサンプルの安定性を検討した。HPLC条件は、移動相に0.05%トリフルオロ酢酸を含有させたアセトニトリルと水を60:40で使用し、VR-ODSカラム(4.6×150mm、株式会社島津製作所)の温度を40℃、流速を1.0ml/分、検出波長を254nm、注入量を10μl、検出時間を10分とした。今回、調製直後のHPLC測定結果を100%とし、2週間後との結果を比較し経時的に検討した。
【0111】
(結果)
本実施例で測定した結果から、凍結乾燥した状態の処方であれば安定性が保たれることがわかった。したがって、凍結乾燥製剤でのエムリカサン点眼液は製剤として成り得る。
【0112】
(実施例8:点眼液の調製例)
点眼液は、凍結乾燥したエムリカサンおよびその再構成用溶媒として提供される。使用直前に凍結乾燥したエムリカサンを再構成用溶媒にて点眼容器内で混和することによりエムリカサン点眼液を調製する。エムリカサン点眼液調製後、例えば2週間室温保存して使用することができる。再構成用溶媒はpH4.5に調整された0.2%リン酸緩衝液点眼薬用基剤を用いる。再構成用溶媒は、生理食塩水を含んでもよく、防腐剤をさらに含んでもよい。
【0113】
(実施例9:in vivo試験)
(マウスへの点眼試験)
フックス角膜内皮ジストロフィモデルマウスとして8型コラーゲンの変異を有するマウスを用いる(Col8a2Q455K/Q455K)。点眼試験前の角膜内皮像からフックス角膜内皮ジストロフィの重症度のグレーディングを行い、同程度の症状を持つ生後20~24週齢のフックス角膜内皮ジストロフィモデルマウスを用いる。凍結乾燥製したエムリカサンをリン酸緩衝液で溶解して調製したエムリカサン点眼液(0.1%(pH4.5)、0.5%(pH7.0))を、マウス45匹に対し毎日朝夕の2回、左右の眼に2μlずつ点眼する。コントロールにはpH4.5あるいはpH7.0リン酸緩衝液を用いる。点眼期間は3ヶ月としその間、実験担当者はエムリカサン点眼液およびコントロール点眼液についてブラインドの状態で実験を行う。
【0114】
(点眼液の有用性の評価)
点眼試験開始前に、接触式角膜内皮スペキュラーで角膜内皮像を観察し、グレーディングを行う。点眼試験開始後4週間おきに、接触式角膜内皮スペキュラーを用いてマウスの角膜内皮像を観察し、エムリカサン点眼液の有用性を評価する。
【0115】
(期待される結果)
フックス角膜内皮ジストロフィモデルマウスにおける接触式角膜内皮スペキュラーにより観察される角膜内皮細胞密度の減少が、コントロールと比べてエムリカサン点眼液を投与した個体では抑制されることが期待される。また、コントロールと比べてエムリカサン点眼液を投与した個体では、guttaeの面積の割合が減少することが期待される。
【0116】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、2018年6月29日に出願された日本国特許出願第2018-125234号の優先権の利益を請求し、その内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
エムリカサンが可溶化/安定化された製剤が提供される。エムリカサンは、角膜内皮障害に対する治療効果が期待されており、特に眼科用製剤に関連する技術分野において利用可能な技術が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7