(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】固体表面の改質方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230901BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20230901BHJP
C08J 7/18 20060101ALI20230901BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230901BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230901BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230901BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230901BHJP
B32B 27/38 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C03C17/30 B
C08J7/18 CEY
B32B27/36
B32B27/00 103
B32B27/34
B32B27/40
B32B27/38
(21)【出願番号】P 2020542827
(86)(22)【出願日】2019-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2019053115
(87)【国際公開番号】W WO2019154978
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-10-19
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519044494
【氏名又は名称】シュールフィックス ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】リジョー ダ コスタ カルヴァーリョ ルイ ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ-トゥリリン アンケ クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル メール アードリアーン マルティン ヒューベルト ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】ザイルホフ ヨハンネス トゥーニス
(72)【発明者】
【氏名】クノーベン ヴァウト
(72)【発明者】
【氏名】スヘレス リューク マリア ウィルヘルムス
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/046699(WO,A1)
【文献】特表2011-506755(JP,A)
【文献】特開2011-252142(JP,A)
【文献】特開2017-132853(JP,A)
【文献】特開2016-121340(JP,A)
【文献】特開2003-020570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C03C 15/00- 23/00
C08J 7/00- 7/02、 7/12- 7/18
C09D 1/00- 10/00、101/00-201/10
B29C 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料の表面の改質方法であって、200~800nmの範囲内の波長の光の照射下、場合により光開始剤の存在下で、前記表面を表面改質組成物に接触させるステップを含み、前記固体材料は、C-OH基、Si-OH基、C=O基、及びC-O-C基から選択される表面基を有し、前記表面改質組成物は、少なくともヒドロシランと、前記ヒドロシラン以外の少なくとも1つの反応性化合物(A)とを含み、
前記反応性化合物(A)は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシル、カルボン酸、アルケン、アルキン、及びエポキシから選択される少なくとも2つの官能基を含み、
前記組成物中のヒドロシランの量は0.5~99体積%の間の範囲であり、前記反応性化合物(A)の量が1~50体積%の間の範囲であり、
ヒドロシラン及び反応性化合物(A)を合わせた量が前記表面改質組成物の10~100体積%の間であり、
前記体積%は、前記表面改質組成物の合計を基準にして20℃において求められ、
ヒドロシランは、前記ヒドロシランが、式I)、II)又はIII)によるいずれかのヒドロシランによって表される、
方法。
【化1】
(式中、R
c=H又はメチルであり、
式中、R
aは、H、置換されていてもよいC
1-30アルキル、置換されていてもよいC
2-30アルケニル、置換されていてもよいC
2-30アルキニル、置換されていてもよいC
6-20アラルキル、置換されていてもよいC
6-10アリール、又は約1000~約100,000の分子量を有するポリマー部分であり、
式中、R
b及びXのそれぞれは、独立して、置換されていてもよいC
1-30アルキル、置換されていてもよいC
2-30アルケニル、置換されていてもよいC
2-30アルキニル、置換されていてもよいC
6-20アラルキル、置換されていてもよいC
6-10アリール、又は約1000~約100,000の数平均分子量を有するポリマー部分であり、
式中、前記ポリマー部分は、炭化水素ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリウレタン、エポキシド、ポリメタクリレート、及びポリシロキサン(例えばポリ(メチルヒドロシロキサン))からなる群から選択され、
式中、l=2~10、好ましくは2~4であり、
k=3~6、好ましくは3~4である)
【請求項2】
前記光開始剤の量が、前記表面改質組成物を基準として0~5.0重量%の間の範囲、より好ましくは0.001~1重量%の範囲内、さらにより好ましくは0.01~0.2重量%の範囲内、特に0.01~0.1重量%の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体材料が、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、多価アルコール、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミドポリマー、ポリエーテルイミド、並びにシリカを含有する固体から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
20℃における表面改質組成物の合計体積を基準として、ヒドロシランの量が50~99体積%の範囲であり、前記反応性化合物(A)が1~50体積%の範囲であり、溶媒の量が0~30体積%の範囲であり、前記反応性化合物(A)が、脂肪族置換基又はフッ素化置換基を有する疎水性化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
20℃における表面改質組成物の合計体積を基準として、ヒドロシランの量が1~50体積%の間の範囲であり、反応性化合物(A)の量が5~50体積%の間の範囲であり、溶媒の量が5~85体積%の範囲であり、前記反応性化合物(A)がPEG化される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
1つのヒドロシリル基を有する前記ヒドロシランが、
【化2】
(式中、R
a、R
bの少なくとも1つは、以下のリストの置換基100~194から選択される式によって表される基であり、残りのR
a、R
bは、独立して、前述の基(例えばC
1~C
30アルキル)から選択され、前記リストが:
【化3】
から選択される)
で表される化合物を含む請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも2つのヒドロシリル基を有する前記ヒドロシランが、参照番号200~
242、251、252、254~263の以下のリスト:
【化4】
のヒドロシランから選択される化合物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応性化合物(A)が少なくとも2つのヒドロキシル基を含む、又は前記反応性化合物(A)が、第1の種類の反応性基として少なくとも1つの(メタ)アクリレート及び/又は1つの(メタ)アクリルアミドと、第2の種類の反応性基として少なくとも1つのヒドロキシル基とを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記反応性化合物(A)が、以下のリストの化合物300~375:
【化5】
から選択され、式中、nは1~20の間の範囲であり、mは1~1000の間の範囲である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記表面改質組成物が、
a.式100、182
-1、182-2、200~202、230~23
2、251、又はそれらの混合物によるヒドロシランと、式300、301、303、350、360~365、又はそれらの混合物による反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
b.式120、121、150~155、180、181、240~242、
251、252、261のいずれか1つによるヒドロシランと、式306、310~312、345、351、370、371、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
c.式110、194、210~212、230~23
2、251、262のいずれか1つによるヒドロシランと、式330、331、352、372、373、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
d.式110、111、194、220~22
2、251、263のいずれか1つによるヒドロシランと、式332、333、353、374、375、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
e.式100、182
-1、182-2、200~202、230~23
2、251、又はそれらの混合物によるヒドロシランと、式300、301、303、305、350、360~365、又はそれらの混合物による反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
f.式120、121、150~155、180、181、240~242、
251、252、261のいずれか1つによるヒドロシランと、式306、310~312、345、351、370、371、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;
g.式110、194、210~212、230~23
2、251、262のいずれか1つによるヒドロシランと、式330、331、352、372、373、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む;又は
h.式110、111、194、220~22
2、251、263のいずれか1つによるヒドロシランと、式332、333、353、374、375、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【化6】
【請求項11】
前記表面改質組成物がマイクロ粒子及び/又はナノ粒子を含み、好ましくは、前記マイクロ粒子及びナノ粒子が、SEMにより測定して0.1nm~10μm、1nm~1μm、又は10nm~100nmの数平均直径を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体材料の表面の改質方法に関する。本発明はさらに、その用法によって得ることができる表面改質された固体材料、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体認識、防汚性、及び/又は(耐)ぬれ性などの重要な性質を有する材料及び装置が得られるので、マイクロテクノロジー及びナノテクノロジーにおいて表面改質は有用な役割を果たしている。多くの用途では、これらの性質の局所的な制御が行われること、すなわち表面上に種々の機能性のパターンを有することが有益となる。例としては、バイオセンサー、マイクロフルイディクス、及びマイクロアレイ若しくはセルの研究のための基板が挙げられる。しかしながら、(クロロ-又はアルコキシ)シラン又はチオールの自己組織化単層などの周知の表面改質技術を使用すると、パターン化は、複雑で時間のかかるリソグラフィー方法によってのみ実現可能である。
【0003】
パターン化された表面を形成するためには、フォトマスクを介して基板に照射することによる直接構成パターン化が可能となるという理由で、光化学的表面改質方法が望ましい。光化学的表面改質のための数種類の代替方法が周知である。例えば、H末端の(エッチングされた)シリコン上のアルケン及びアルキンの有機単層の光開始による形成が、米国特許第5429708号明細書によって周知である。後に、米国特許第8481435号明細書及び米国特許第8221879号明細書に記載されるように、Si3N4及びSiCなどの別のエッチングされたシリコン(及びゲルマニウム)をベースとする材料も同様の方法で改質できることが分かった。また、アルケン/アルキンをヒドロキシル末端表面(例えばガラス)に光化学的に結合させることが可能なことが、米国特許第8993479号明細書に示されている。
【0004】
これらの方法はパターン化された表面の形成に有用であるが、アルケン/アルキンの単層による光化学的表面改質には幾つかの欠点が存在する。最も重要なことには、高品質の単層の形成は遅く(10時間を超える)、したがってその方法の実際的な応用性は限定される。さらにこれらの改質は、O2及びH2Oの非存在下で行うべきであり、そのためこの方法の実際的な利用は減少する。さらに、光開始剤の非存在下での酸化物表面の改質には275nm未満の波長のUV放射線が必要であり(典型的には254nmが使用される)、これによって生体分子及び基板材料との適合性の問題が生じうる。
【0005】
最近では、2段階表面改質経路が報告されており、水素末端ガラス(H-ガラス)上にアルケン単層を形成するために、より長い波長(302nm)の光を使用することができる(R.Rijo Carvalho,S.P.Pujari,S.C.Lange,R.Sen,E.X.Vrouwe,and H.Zuilhof,“Local Light-Induced Modification of the Inside of Microfluidic Glass Chips”,Langmuir 32(2016)2389-2398)。しかし、表面におけるSi-H基の導入には追加のステップが必要であり、したがってより複雑になる。さらに、アルケンの反応は遅く、16時間を要する。
【0006】
従来のクロロ-又はアルコキシシランをベースとする方法の代案として、ヒドロシラン(ヒドリドシラン又は水素化ケイ素とも呼ばれる)を使用する表面改質が提案されている。ヒドロシランは周囲条件においてより安定であり、したがって精製及び取り扱いがより容易である。さらに、これらは、より広範囲の末端官能基に適合している。米国特許第6331329号明細書、米国特許第6524655号明細書、及び米国特許第6673459号明細書に記載されるように、種々の金属酸化物表面の上にヒドロシラン層が形成されている。しかし、高品質の層を得るためには、高温における長い反応時間が必要である。さらに、金属酸化物表面は触媒の役割を果たすことが判明し、したがってヒドロシランは、室温においてSiO2、カーボンブラック、及び有機ポリマーなどの非金属表面とは反応しないことが分かっている(R.Helmy,R.W.Wenslow,and A.Y.Fadeev,“Reaction of Organosilicon Hydrides with Solid Surfaces:An example of Surface-Catalyzed Self-Assembly”,J.Am.Chem.Soc.126(2004)7595-7600)。
【0007】
国際公開第2015136913号パンフレットには、表面改質された基板の製造方法であって、ボラン触媒の存在下で、表面上に極性基が存在する基板と、水素原子がケイ素原子に結合するSi-H基を有するヒドロシラン化合物とを接触させるステップと、Si-OH基を有する基板と上記化合物との間で脱水素縮合反応を進行させるステップとを含む、方法が開示されている。この方法を使用すると、シリカ表面の改質は室温において数分で実現することができる。しかし、反応には均一触媒が必要であるので、表面改質は表面全体で起こり、1~2nmの範囲内の厚さを有する非常に薄い単層のタイプの層のみが得られる。したがって、この方法は、パターン化された層及び/又は例えば2~500nmの間のより厚い表面改質層の形成には適していない。
【0008】
化学的表面改質の分野以外では、バルクラジカル光重合法におけるある種のヒドロシランの使用が記載されている。Macromolecules 2017,50,7448-7457には、空間分解された有機ケイ素化合物に対するシラン-アクリレート化学が記載されている。この刊行物では、バルクポリマーネットワークが(0.5重量%の光開始剤濃度において)合成される。重合中に連鎖移動剤として機能する、2つの嵩高いトリメチルシリル基でそれぞれ取り囲まれた2つのSi-H基を有する有機ケイ素化合物が使用される。単に、バルク重合の例が示されているが、このようなバルク重合法は基板の表面改質には適していない。ヒドロシランの化学的表面カップリングのため、及び/又は基板の表面改質及び/又は基板の表面特性の変化のための例は示されていない。
【0009】
Macromolecules 2008,41,2003-2010には、空気を含む媒体中のラジカルバルク重合の共開始剤としての多数のヒドロシランが開示されている。単に、光開始剤(1.0重量%)を励起させることによるジアクリレートのバルク重合の例が示されている。ヒドロシランの化学的表面カップリングのため、及び/又は基板の表面改質及び/又は基板の表面特性の変化のための例は示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、改善された光化学的表面改質方法の開発が必要とされている。これらの改善は、低い光学濃度の表面改質組成物を用いる反応時間が短く再現性のある光誘導反応であってよい。他の改善は、改質された表面と改質されていない表面との間の大きな差異、及びフォトマスクによって局所的に照射される場合の良好な横方向分解能であってよい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、固体材料の表面の改質方法であって、200~800nmの範囲内の波長の光の照射下、場合により光開始剤の存在下で、表面を表面改質組成物に接触させるステップを含み、上記固体材料は、C-OH基、Si-OH基、C=O基、及びC-O-C基から選択される表面基を有し、表面改質組成物は、少なくともヒドロシランと、ヒドロシラン以外の少なくとも1つの反応性化合物(A)とを含む、方法を提供する。この固体材料の表面改質は、表面改質層の接着性を改善するためのさらなるプライマー又は接着促進剤を表面に塗布することなく行うことができる。
【0012】
ヒドロシランのケイ素原子に結合した水素原子によって、固体材料の表面上のC-OH基、Si-OH基、C=O基、又はC-O-C基との光開始化学的表面カップリング反応が起こると考えられる。基板表面に近いヒドロシランのSi-H結合の光活性化が起こると考えられる。活性化したヒドロシランは基板表面と反応し、それによって局所的に改質された表面が形成される。
【0013】
本発明による方法は、周知の化学的表面改質方法に対して多数の改善が得られる。
【0014】
驚くべきことに、本発明による表面改質は、種々の異なる基板材料上に行うことが可能なことが分かった。特に、化学的表面カップリング反応を伴う表面改質は、光の照射下で接触ステップを行うことによって、室温において触媒、プライマー、及び接着促進剤の非存在下で起こることが分かった。J.Am.Chem.Soc.126(2004)7595-7600に記載されるように、ヒドロシランと非金属表面との間の化学的表面カップリング反応が室温で起こることは知られていなかったということから考えると、このことは特に驚くべきことである。
【0015】
本発明による方法は、触媒を使用せず、例えばマスク、例えばフォトマスクの使用による光の選択的照射によって空間選択的な表面改質が可能である。したがって、本発明の方法の幾つかの好ましい実施形態では、表面のあらかじめ決定された部分で、選択的に照射が行われる。好ましくは、固体材料と直接接触することができるフォトマスク又はマスクによって、表面のあらかじめ決定された部分が照射から選択的に遮断され、その結果、マスクによって遮断されない表面部分の選択的改質、すなわち表面のパターン化が行われる。
【0016】
本発明による光化学的表面改質を行う能力によって、上記表面のパターン化が可能となる。さらに好ましい一実施形態では、本発明による方法は、固体材料の表面の上又は下の空間的に限定されたマイクロチャネルの表面のあらかじめ決定されたパターンを有する選択的改質に使用される。したがって、一実施形態では、改質された表面は、固体材料の外面の上及び/又は下の空間的に制限されたマイクロチャネルの表面である。
【0017】
さらに、表面改質組成物中に反応性化合物(A)が存在することで、周知の化学的表面改質方法によって得られる分子単層より厚い表面改質層(例えば2~500nmの間、好ましくは5~250nmの間)を形成可能である。
【0018】
ヒドロシランの低いモル吸収係数にもかかわらず、低い光学濃度の場合、光開始剤を使用しない場合でさえも、周知の光化学的表面改質方法(例えば米国特許第8993479号明細書に記載の方法)の反応時間と比較して反応時間が驚くほど短くなる。
【0019】
本発明による方法は、200~800nmの範囲内の波長の光の照射下、場合により光開始剤の存在下で、表面を表面改質組成物に接触させるステップを含む。
【0020】
照射
固体材料と表面改質組成物との接触は、200~800nmの範囲内の波長の光の照射下で行われる。これは、光開始剤の存在下、又は光開始剤の非存在下で行うことができる。表面改質組成物の光学濃度が依然として低いのであれば、光開始剤の存在は、必要な場合には反応の開始又はさらなる加速に適している。これは、光化学的表面カップリングが生じるのを妨げうる内部フィルター効果及びバルク重合を最小限にするために必要である。例えば、光300~800nmの範囲内の波長を有する場合、照射は好ましくは光開始剤の存在下で行われる。
【0021】
本発明の幾つかの好ましい実施形態では、照射は、光開始剤の非存在下で行われ、光は、好ましくは260nm~300nm、より好ましくは280nm~300nmの範囲内の波長を有する。これによって有利には、低い光学濃度の表面改質組成物が得られ、生体分子及び基板材料との適合性の問題が回避される。
【0022】
本発明の幾つかの好ましい実施形態では、照射は、光開始剤の存在下、及び300~800nmの範囲内の波長の光、好ましくは700nm未満、又は600nm未満、又は500nm未満、又は400nm未満、より好ましくは380nm未満、さらにより好ましくは350nm未満、特に330nm未満の波長を有する光の照射下で行われる。
【0023】
表面改質組成物及び表面の種類によって左右されるが、望ましい結果は、光開始剤の非存在下で、300~800nmの範囲内の波長を有する光を照射することによって得ることもできる。
【0024】
適切な光開始剤の例としては、有機過酸化物、プロピオフェノン、臭化アルキル、ヨウ化ベンジル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ベンゾフェノンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。反応混合物中に存在する光開始剤の量は、表面改質組成物を基準として、0~5.0重量%の範囲内、より好ましくは0.001~1重量%の範囲内、さらにより好ましくは0.01~0.2重量%の範囲内、特に0.01~0.1重量%の範囲内であってよい。
【0025】
表面改質組成物は、種々の堆積方法、例えばピペッティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、又はスピンコーティングによって固体材料と接触させることができる。
【0026】
本発明による方法は、さまざまな種類の固体材料に適用できる。固体材料は、周囲温度、例えば20℃において固体である材料として定義される。固体材料は基板として定義することができる。
【0027】
本発明による方法は、平面状及び曲面の両方のさまざまな異なる種類の表面に適用可能であり、例としては、粒子(例えばマイクロ粒子又はナノ粒子)、粉末、結晶、フィルム、又は箔が含まれる。
【0028】
固体材料
本発明による方法において表面改質される固体材料は、C-OH基、C=O基、C-O-C基、又はSi-OH基から選択される表面基を有する。
【0029】
C=O基の例は、ケトン基、エステル基、カーボネート基、アミド基、及びウレタン基である。C-OH基、C=O基、C-O-C基、又はSi-OH基から選択される表面基を有する固体材料の例は、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂(epoxyresin)、多価アルコール、(メタ)アクリレート及びメタ)アクリルアミドポリマー、ポリエーテルイミド、並びにシリカを含有する固体である。
【0030】
Si-OH基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、シリカ及びガラス(合成石英ガラス及びホウケイ酸ガラスなど)、石英、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、並びにシリカ、ガラス、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、又は酸炭化ケイ素の膜を有する表面上に設けられたプラスチック及びポリマーが挙げられる。
【0031】
固体材料の表面は、Si-OH基を含むように活性化させることができる。
【0032】
C-OH基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、エッチングされた炭化ケイ素、並びに多糖(例えば(ニトロ)セルロース)及び紙などの天然ポリマー、並びにポリ(ビニルアルコール)などの合成ポリマーが挙げられる。HFでエッチングすることによって形成されるC-OH末端表面を有する炭化ケイ素の一例が、Langmuir 2013,29,4019-4031に記載されている。
【0033】
C-O-C基、すなわちエーテル及びエポキシ基を有する表面を有する適切な固体材料の例としては、エポキシシラン化合物で処理された固体材料、並びにエポキシポリマー、例えばネガ型フォトレジストのSU-8、並びにポリエーテル、例えばポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール(PPG)、及びポリエーテルスルホン(PES)が挙げられる。
【0034】
適切な固体材料の例は、C=O基、すなわちエステル基、カーボネート基、ケトン基、ウレタン基を有する表面を有し、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、(メタ)アクリル及び(メタ)アクリルアミドポリマー、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、例えばナイロン及びアラミド(aramide)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトン(PEEK)などが挙げられる。
【0035】
本来の状態ではC-OH、C=O又はC-O-Cの表面基を有さない適切な固体材料の例、それはダイヤモンド、黒鉛、グラフェン、又はプラスチック及び有機ポリマー、例えばポリエテン、ポリプロピレン、及び環状オレフィンコポリマーである。これらの固体材料の表面は、C-OH基及び/又はC=O基及び/又はC-O-C基を含むように活性化させることができる。
【0036】
表面の前処理
固体材料は、照射ステップの前に前処理ステップを行うことができる。Si-OH基、及び/又はC-OH基及び/又はC=O基及び/又はC-O-C基の濃度を高めるために、固体材料の表面を活性化することができるが、表面活性化をまったく行わない固体材料を使用することも可能である。場合により、前処理ステップは、O2プラズマへの曝露、及び/又はピラニア溶液(硫酸及び過酸化水素の混合物)などの酸化性溶液の塗布、及び/又は表面と酸、及び/又は有機溶媒を含む混合物との接触を含む。
【0037】
幾つかの実施形態では、この方法は、照射ステップの前に、マイクロスケール及び/又はナノスケールの表面粗さを有するように表面を処理するステップを含む。これは、表面上にマイクロメートル及びナノメートルのオーダーの粗さを形成するための多くの方法、例えば(ナノ)粒子溶液のキャスティング、ゾル-ゲル法、及び化学蒸着(CVD)によって実現することができる。
【0038】
すでに親水性である表面にある程度の粗さを導入することによって、表面が超親水性になることができ、すなわち表面は15°未満、より好ましくは5°未満の水接触角を有する。このような超親水性表面が、本発明による照射ステップにおいて疎水性表面改質組成物で処理される場合、照射された表面は高疎水性になることができ、すなわち照射された表面は140°を超える水接触角を有し、より好ましくは150°を超える水接触角を有する超疎水性となる。したがって、照射された表面と照射されてない表面との間で非常に大きなぬれ性の差を得ることができる。
【0039】
マイクロスケール及び/又はナノスケールの表面粗さを導入するステップでは、表面に結合する分子の数/分立/表面密度が増加することによって、生体分子の固定の増加、及び改善された防汚特性などの他の表面特性の改善も可能である。
【0040】
表面改質組成物
本発明による方法では、表面改質組成物が使用される。表面改質組成物は、少なくともヒドロシランと、少なくとも2つの反応性基を有する反応性化合物(A)とを含む。反応性化合物(A)は、ヒドロシラン以外の化合物であり、ヒドロシランに対して反応性である。
【0041】
表面改質組成物は、異なるヒドロシランの混合物を含むことができる。表面改質組成物は、異なる反応性化合物(A)の混合物を含むことができる。
【0042】
組成物中のヒドロシランの量は、20℃における組成物の体積を基準として0.5~99体積%の間の範囲である。好ましくはヒドロシランの量は、(20℃において)1~99体積%の間、より好ましくは4~98体積%の間の範囲である。
【0043】
反応性化合物(A)の量は好ましくは1~50体積%の間の範囲である。0~95体積%の間の範囲内、好ましくは40~90体積%の間の範囲内で、溶媒が存在することができる。
【0044】
ヒドロシランと化合物(A)とを合わせた量は、好ましくは表面改質組成物の10~100体積%の間、より好ましくは20~60体積%の間の範囲である。
【0045】
他の記載がなければ、成分の体積%は、20℃において求められ、表面改質組成物の全体積を基準として計算される。
【0046】
表面改質組成物は、ヒドロシラン及び反応性化合物(A)以外の反応性成分を含むことができる。これらの別の成分の例は、アルコール、モノアクリレート、モノアルケン、モノアルキン、モノエポキシなどである。
【0047】
場合により、表面改質組成物は、組成物の全重量を基準として0~10重量%の間の量の添加剤を含み、場合によりマイクロ粒子及びナノ粒子も含み、場合により溶媒も含む。
【0048】
表面改質組成物は、前述の光開始剤を含むこともできる。
【0049】
表面改質組成物は、適切な不活性溶媒を含むことができる。この場合、表面改質組成物中の溶媒の量は、広い範囲内、例えば表面改質組成物の0.5~99.5体積%、10~90体積%、又は25~75体積%の範囲内で選択することができる。疎水性の表面改質の場合、同等の極性を有する溶媒、例えば脂肪族溶媒、塩素化溶媒、又はフッ素化溶媒が望ましい。親水性の表面改質の場合、同等の極性を有する溶媒、例えばイソプロピルアルコール、プロパノール、メタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及び水が望ましい。好ましくは、固体基板は溶解させず、表面改質組成物のすべての成分を溶解させる溶媒が使用される。
【0050】
表面改質組成物は、マイクロ粒子及び/又はナノ粒子を含むことができる。好ましくは、マイクロ粒子及びナノ粒子は、SEMにより測定して0.1nm~10μm、1nm~1μm、又は10nm~100nmの数平均直径を有する。これらの粒子は、Si-OH末端又はC-OH末端を有することができるか、又は表面改質組成物に対して反応性の化合物を用いて改質される。このような粒子の量は、広い範囲内、例えば表面改質組成物0.1~99.9重量%、10~90重量%、又は25~75重量%の範囲内で選択することができる。
【0051】
ヒドロシラン及び反応性化合物(A)の組成及び相対量は、所望の表面特性、及び改質されるべき固体の表面によって異なりうる。
【0052】
例えば疎水性表面改質層が形成される場合、ヒドロシランは50~99体積%の範囲であってよく、例えば70~99体積%の範囲であってよい。反応性化合物(A)は、1~50体積%、好ましくは1~25体積%の間の範囲であってよい。これらの系において、溶媒の量は通常は少なく、例えば0~30体積%の間である。希釈された系で実施することもでき、及び溶媒、例えば最大90体積%までさらに溶媒を加えることもできることが分かっている。その場合、ヒドロシランの量は8~50体積%の間であってよく、化合物(A)の量は1~20体積%の範囲であってよい。疎水性のヒドロシラン及び反応性化合物(A)の例は、脂肪族置換基又はフッ素化置換基を有する化合物である。
【0053】
例えば親水性表面改質層が形成される場合、ヒドロシラン化合物の量は1~50体積%の間、反応性化合物(A)の量は5~50体積%の間、溶媒の量は5~85体積%の間の範囲であってよい。親水性ヒドロシラン及び反応性化合物(A)の例は、PEG化ヒドロシラン及びPEG化反応性化合物(A)である。
【0054】
ヒドロシラン
ヒドロシランは、少なくとも1つのヒドロシリル基を含む分子である。ヒドロシリル基はケイ素原子と、Siに結合した少なくとも1つの水素原子とを含む基である。Si-Hは水素化ケイ素と呼ばれる。1つのHがSiに結合する場合、これは一水素化ケイ素である。二水素化ケイ素は、2つの水素原子に結合したSi原子(Si-H2)であり、三水素化ケイ素は3つの水素原子二結合したSi原子(Si-H3)である。
【0055】
ヒドロシランは、それぞれが少なくとも1つの一水素化ケイ素(Si-H)、二水素化ケイ素(Si-H2)、又はさらには三水素化ケイ素(Si-H3)を有する2つ以上のヒドロシリル基、例えば2つ、3つ、4つ、又はさらに多くのヒドロシリル基を有することができ。
【0056】
好ましくは、ヒドロシランは、それぞれが少なくとも1つの一水素化ケイ素(Si-H)又は二水素化ケイ素(Si-H2)又は三水素化ケイ素(Si-H3)有する1つ以上のヒドロシリル基を有する。ヒドロシランは、少なくとも2つの水素化Siを有するべきである。これは、ヒドロシランが少なくとも2つの一水素化ケイ素(Si-H)又は少なくとも1つの二水素化ケイ素(Si-H2)を有することを意味する。
【0057】
ヒドロシランは、式I)、II)又はIII)
【化1】
によるいずれかのヒドロシランで表すことができ、
式中、R
c=H又はメチルであり、
式中、R
aは、H、置換されていてもよいC
1~
30アルキル、置換されていてもよいC
2~
30アルケニル、置換されていてもよいC
2~
30アルキニル、置換されていてもよいC
6~
20アラルキル、置換されていてもよいC
6~
10アリール、又は約1000~約100,000の分子量を有するポリマー部分であり、
式中、R
b及びXのそれぞれは、独立して、置換されていてもよいC
1~
30アルキル、置換されていてもよいC
2~
30アルケニル、置換されていてもよいC
2~
30アルキニル、置換されていてもよいC
6~
20アラルキル、置換されていてもよいC
6~
10アリール、又は約1000~約100,000の数平均分子量を有するポリマー部分であり、
式中、l=2~10、好ましくは2~4であり、
k=3~6、好ましくは3~4である。
【0058】
ポリマー部分は、炭化水素ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリアクリレート、ポリウレタン、エポキシド、ポリメタクリレート、及びポリシロキサン(例えばポリ(メチルヒドロシロキサン))からなる群から選択される。Ra、Rb、Xのそれぞれは、-F、-Cl、-Br、-CN、-NO2、=O、-N=C=O、-N=C=S、エポキシ、チオールエーテル、-N3、-NReRf、-SRg、-ORh、-CO2Ri、-PRjRkRl、-P(ORm)(ORn)(ORp)、-P(=O)(ORq)(OR8)、-P(=O)2ORt、-OP(=O)2ORu、-S(=O)2Rv、-S(=O)Rw、-S(=O)2ORx、及び-C(=O)NRyRzからなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。Re、Rf、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm、Rn、Rp、Rq、Rs、Rt、Ru、Rv、Rw、Rx、Ry、及びRzのそれぞれは、独立して、H、C1~10アルキル、C2~10アルケニル、C2~10アルキニル、C6~12アラルキル、又はC6~10アリールであり、-F、-Cl、及び-Brからなる群から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0059】
1つのヒドロシリル基を有するヒドロシランの例としては、
【化2】
で表される化合物が挙げられ、
式中、R
a、R
b少なくとも1つ、以下のリストAの置換基100~194から選択される式によって表される基、残りのR
a、R
bは、独立して、前述の基(例えばC
1-C
30アルキル)から選択され、リストAは以下のものからなる:
【化3】
【0060】
疑いを回避するため、リストAの置換基100~194は、破線(---)によってSiに結合していることに留意されたい。したがって、例えば、基
【化4】
は、nが1の場合Si-CH
2CH
3としてSiに結合しており、nが5の場合Si-(CH
2)
5CH
3としてSiに結合している。
【0061】
少なくとも2つのヒドロシリル基を有するヒドロシランの例は、以下の参照番号200~263の化合物である:
【化5】
【0062】
すべての式100~263において、nは1~20の間の範囲であり、mは1~1000の間の範囲である。好ましくはnは1~18の間、より好ましくは1~16の間又は1~12の間の範囲である。好ましくはmは5~500の間、又はより好ましくは10~400の間の範囲である。
【0063】
反応性化合物(A)
表面改質組成物は、ヒドロシラン以外の反応性化合物(A)をも含む。
【0064】
反応性化合物(A)は、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシル、カルボン酸、アルケン、アルキン、及びエポキシから選択される少なくとも2つの官能基を含む。
【0065】
好ましくは、反応性化合物(A)は、第1の種類の反応性基としての少なくとも1つの(メタ)アクリレート及び/又は1つの(メタ)アクリルアミドと、第2の種類の反応性基としての少なくとも1つのヒドロキシル、カルボン酸、アルケン、アルキン、又はエポキシ基とを含む。
【0066】
より好ましくは、反応性化合物(A)は少なくとも2つのヒドロキシル基を含み、又は反応性化合物(A)は、第1の種類の反応性基としての少なくとも1つの(メタ)アクリレート及び/又は1つの(メタ)アクリルアミドと、第2の種類の反応性基としての少なくとも1つのヒドロキシル基とを含む。驚くべきことに、基板上の表面改質層の形成は、反応性化合物(A)中の反応性基のこの組み合わせが存在する場合に調整可能であることが分かり、特に、表面改質層の厚さの増加及び制御が可能であり、及び/又は表面改質層の密度及び多孔度を変化させることが可能である。さらに、表面改質層の性質は、さらに改善され、層の疎水性又は親水性をさらに高めることができ(反応性化合物(A)及びヒドロシランの上に使用される置換基による)、表面改質層は改善された防汚挙動を示すことができ、表面改質層は、例えばより多い使用量の生体分子で機能化させることができる。さらに、層を架橋させることができ、化学的表面カップリングを増加させることができ、それによって表面改質層の化学的安定性及び機械的安定性を増加させることができる。
【0067】
複数の反応性化合物(A)の混合物の使用が可能であり、反応性化合物(A)と、別の反応性化合物、例えばモノ(メタ)アクリレート、モノ(メタ)アクリルアミド、モノアルコール、モノアルケン、モノアルキンなどとの使用も可能である。
【0068】
反応性化合物(A)の具体例は式300~375による化合物であり、式中のnは1~20の間の範囲であり、mは1~1000の間の範囲である:
【化6】
【0069】
実施形態
本発明の好ましい一実施形態では、表面改質組成物は、ヒドロシラン及び反応性化合物(A)を含み、これらは互いに十分に混合されて均一溶液を形成することができる。
【0070】
一実施形態では、表面改質組成物は、式100、182、200~202、230~232、250、251、又はそれらの混合物によるヒドロシランと、式300、301、303、305、350、360~365、又はそれらの混合物による反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む。溶媒として、例えば脂肪族溶媒又は塩素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン、及びジクロロエタンである。
【0071】
別の一実施形態では、表面改質組成物は、式120、121、150~155、180、181、240~242、250~253、261のいずれか1つによるヒドロシランと、式306、310~312、345、351、370、371、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む。溶媒として、例えば極性溶媒を使用することができ、極性溶媒のより具体的な例は、イソプロピルアルコール、プロパノール、メタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及び水である。
【0072】
別の一実施形態では、表面改質組成物は、式110、194、210~212、230~232、250、251、262のいずれか1つによるヒドロシランと、式330、331、352、372、373、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む。溶媒として、例えば脂肪族溶媒、塩素化溶媒、又はフッ素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン、ジクロロエタン、及びトリフルオロトルエン、Fluorinert(例えばFC40及びFC70)、パーフルオロヘキサン、及びパーフルオロオクタンである。
【0073】
別の一実施形態では、表面改質組成物は、式110、111、194、220~222、250、251、263のいずれか1つによるヒドロシランと、式332、333、353、374、375、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む。溶媒として、例えば脂肪族溶媒、塩素化溶媒、又はフッ素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン、ジクロロエタン、及びトリフルオロトルエン、Fluorinert(例えばFC40及びFC70)、パーフルオロヘキサン、及びパーフルオロオクタンである。
【0074】
本発明は、上記定義のヒドロシラン及び反応性化合物(A)を含む表面改質組成物にも関する。
【0075】
本発明は、式100、182、200~202、230~232、250、251、又はそれらの混合物によるヒドロシランと、式300、301、303、305、350、360~365、又はそれらの混合物による反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む表面改質組成物に関する。溶媒として、例えば脂肪族溶媒又は塩素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン及びジクロロエタンである。
【0076】
別の一実施形態では、本発明は、式120、121、150~155、180、181、240~242、250~253、261のいずれか1つによるヒドロシランと、式306、310~312、345、351、370、371、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む表面改質組成物に関する。溶媒として、例えば極性溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、イソプロピルアルコール、プロパノール、メタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、及び水である。
【0077】
別の一実施形態では、本発明は、式110、194、210~212、230~232、250、251、262のいずれか1つによるヒドロシランと、式330、331、352、372、373、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む表面改質組成物に関する。溶媒として、例えば脂肪族溶媒、塩素化溶媒、又はフッ素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン、ジクロロエタン、及びトリフルオロトルエン、Fluorinert(例えばFC40及びFC70)、パーフルオロヘキサン、及びパーフルオロオクタンである。
【0078】
別の一実施形態では、本発明は、式110、111、194、220~222、250、251、263のいずれか1つによるヒドロシランと、式332、333、353、374、375、又はそれらの混合物の中の1つによる反応性化合物(A)と、場合により光開始剤、ナノ粒子、及び溶媒とを含む表面改質組成物に関する。溶媒として、例えば脂肪族溶媒、塩素化溶媒、又はフッ素化溶媒を使用することができ、溶媒のより具体的な例は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、並びにジクロロメタン、ジクロロエタン、及びトリフルオロトルエン、Fluorinert(例えばFC40及びFC70)、パーフルオロヘキサン、及びパーフルオロオクタンである。
【0079】
表面改質組成物の使用
ヒドロシランと、反応性化合物(A)と、場合により1つ又は別の成分とを含む表面改質組成物は、固体材料の表面に接触させることができる。表面改質組成物は、種々の堆積方法、例えばピペッティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、又はスピンコーティングによって固体材料に接触させることができる。接着性を改善するためにプライマー又は接着促進剤を固体材料の表面に塗布する必要はない。
【0080】
本発明による方法によって、固体材料の表面上に表面改質層が形成される。表面改質層は、0.1nm~100μm、例えば1nm~10μm、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは10nm~1μmの間、又は10~100nmの間の範囲内の厚さを有することができる。
【0081】
本発明は、本発明の方法によって得られる、又は得ることができる、表面改質された固体材料をさらに提供する。
【0082】
一実施形態では、材料は、疎水性表面改質層で表面改質され、100~180°の間、好ましくは120~179°の間、又は130~178°の間の水接触角(WCA)を有する。
【0083】
別の一実施形態では、材料は、親水性の表面改質層で表面改質され、80°未満、好ましくは40°未満、又は30°未満、又は20°未満のWCAを有する。
【0084】
好ましくは、本発明の方法によって得られる材料は、パターン化された表面を有し、それによって、表面の一部は表面改質されず、表面の一部は表面改質組成物によって表面改質される。これは、例えばフォトマスクを使用することによって、表面の一部のみに照射することによって実現される。表面の非照射部分では表面改質は行われず、これは照射されていない表面が、表面改質組成物の化合物を含まないことを意味する。
【0085】
表面改質された材料は、(楕円偏光法で測定して)好ましくは少なくとも5nmの厚さ、より好ましくは10~100nmの間の厚さを有する層を少なくとも部分的に含む。
【0086】
選択性に関して、本発明によるパターン化された表面の2つの重要なパラメータは、
1)(化学的)コントラスト-表面改質反応の有効性の(最大の)差。疎水性を誘発する表面改質の場合、これは例えば、照射領域と非照射領域との間の水接触角(WCA)の差によって測定される。親水性を誘発する表面改質の場合、これは例えば、照射領域と非照射領域との間の水接触角(WCA)の差によって測定される。防汚性を誘発する表面改質の場合、これは例えば、照射領域と非照射領域との間のタンパク質及び/又は細胞の吸着の差によって測定される。これは例えば、両方の領域に蛍光標識タンパク質を接触させることによって行うことができ、(緩衝液で十分に洗浄した後に)照射領域及び非照射領域の上の(吸着したタンパク質の)蛍光強度を測定することができる。生体固定化を誘発する表面改質の場合、これは例えば、照射領域と非照射領域との間で固定化できる生体分子の量によって測定される。これは例えば、生体固定化のための蛍光標識したタンパク質を用いて行うことができ、(緩衝液で十分に洗浄した後に)照射領域及び非照射領域の上の(固定化したタンパク質)の蛍光強度を測定することができる。
【0087】
2)(横方向)分解能-表面改質の有効性が最大値から最小値まで変化する距離、すなわち照射領域と非照射領域との間の界面の「鮮鋭度」。鮮鋭度は、例えばAFMトポグラフィー測定又は高分解能SEM測定又はイメージング楕円偏光法によって測定することができる。
【0088】
一般に、ヒドロシラン中のヒドロシリル基の数が多く、ヒドロシランのヒドロシリル基中の水素化ケイ素の数が多く、表面改質組成物中のヒドロシランの濃度が高く、反応性化合物(A)中の反応性基の数が多いと、反応時間が短くなる。さらに、ヒドロシランのヒドロシリル基中の水素化ケイ素の数は、(化学的)コントラストに影響を与える。
【0089】
本発明は、本発明による表面改質された固体材料を含む物品をさらに提供する。場合により、この物品はマイクロ構造又はナノ構造を有する。本発明による物品の好ましい例としては、マイクロアレイ用途及び細胞培養用途などのバイオチップ用の基板、lab-on-a-chipデバイス又はorgan-on-a-chipデバイスなどのマイクロ流体デバイスが挙げられる。
【0090】
本発明は、本明細書に記載の特徴のあらゆる可能な組み合わせに関し、特に、請求項に示される特徴の組み合わせが好ましいことに留意されたい。したがって、本発明による組成物に関する特徴のあらゆる組み合わせ、本発明による方法に関する特徴のあらゆる組み合わせ、及び本発明による組成物に関する特徴と本発明による方法に関する特徴とあらゆる組み合わせが、本明細書に記載されることを理解されよう。
【0091】
「含む(comprising)」という用語は、他の要素の存在を排除するものではないことにさらに留意されたい。しかし、特定の成分を含む生成物/組成物に関する記述は、これらの成分からなる生成物/組成物も開示していることも理解すべきである。これらの成分からなる生成物/組成物は、その生成物/組成物のより単純でより経済的な調製方法が得られるという点で有利となりうる。同様に、特定のステップを含む方法に関する記述は、これらのステップからなる方法も開示していることも理解すべきである。これらのステップからなる方法は、より単純でより経済的な方法が得られるという点で有利となりうる。
【0092】
あるパラメータの下限及び上限に関する値が言及される場合、下限の値と上限の値との組み合わせによって形成される範囲も開示されるものと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】ガラス上の幅50μmの表面改質層の線のAFM高さ画像(a)及び対応する高さプロファイル(b)である。
【
図2】2.500倍(a)及び100,000倍(b)の倍率におけるガラス上の幅50μmの表面改質層の線のSEM画像である。
【
図3】ガラス上の幅50μmの表面改質層の線の楕円偏光法の高さ画像(a)及び対応する高さプロファイル(b)。
【発明を実施するための形態】
【0094】
これより以下の実施例により本発明を説明するが、それらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0095】
概要
材料
市販のヒドロシラン及び溶媒は、Sigma-Aldrich又はGelestから入手した。必要な場合、Kugelrohr減圧蒸留を用いて化合物を精製した。市販されていないヒドロシランは、文献から対応させた手順を用いて、対応するクロロシランをLiAIH4で還元することによって合成した。
【0096】
表面改質
適切な溶媒中での洗浄及び超音波処理によって、試料を清浄にした。場合により、試料を低圧酸素プラズマに曝露して、表面上にヒドロキシル基及び/又はその他の酸化種(例えばアルデヒド、ケトン、カルボン酸)を形成した。試料を特別注文の試料ホルダー上に配置し、ある体積の表面改質組成物を表面上に堆積した。次に、試料をフォトマスクで覆って、試料とフォトマスクとの間に均一な液膜を形成した。光化学的表面改質の原理を示すために、試料の半分が照射され、残りの半分が照射されない非常に単純なフォトマスクを使用した。次に、平行光源を使用して試料に10~15mW/cm2の強度のUV光を照射した。反応終了後、試料を洗浄して過剰の表面改質組成物を除去し、適切な溶媒を用いて超音波処理した。最後に、試料を窒素流中で乾燥させた。
【0097】
表面の特性決定
Kruess DSA-100ゴニオメーターを使用して静的水接触角(WCA)測定によって試料を分析した。自動分配ユニットを使用して、3μLの水滴を表面上に堆積し、デジタルカメラを用いて画像を取り込み、表面のぬれ性によって、適切なフィッティングアルゴリズムを用いて解析した。
【0098】
EP4楕円偏光計(Accurion GmbH)を使用して分光イメージング楕円偏光法によって表面改質層の厚さを測定した。400~900nmの間のスペクトル範囲内で50°の入射角において楕円偏光パラメータΔ及びψを求めた。層厚さの計算のため、試料の光学モデルを形成して実験データにフィットさせる必要がある。(1)基板と、(2)表面改質層と、(3)空気(環境)とからなる三層モデルを使用した。改質していない基板のΔ及びψを求めることによって、基板の光学特性を実験的に求めた。薄い非吸収性有機膜のモデル化のために、楕円偏光法ではCauchyモデルが一般に使用されている。このモデルでは、層の波長依存性屈折率n(λ)は:
【数1】
で表される。
【0099】
幾つかの場合では、単純なCauchyモデルによって良好なフィット結果が得られ、An=1.50±0.05となり、Bnが103~104nm2の間となった。他の試料の場合は、Cauchy層中に50±10%の空気分率が存在できる多孔質材料のモデル(Bruggeman有効媒質近似)を用いて表面改質層をモデル化した場合にのみ良好なフィット結果が得られた。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
実施例1~3:ガラスの疎水性表面改質
顕微鏡のスライドガラスを、アセトン及びイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、表面におけるシラノール基の数を増加させるためにピラニア溶液及びプラズマ酸化によって活性化させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを種々の濃度及び比率で使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0106】
実施例1a~dでは、種々の組成物の場合で、15分間のUV照射が、表面の疎水性を大きく増加させるために十分であり(すべての組成物でWCA>120°、F17-OH-Acrの濃度が1%を超える場合>130°)、試料の非照射部分は依然として親水性である(WCAは約30°)ことが示される。
【0107】
実施例1e~f中は、国際出願PCT/EP2017/069608号明細書に開示される発明に類似している、又はその発明をベースとしている。実施例1eでは、純粋なジヒドロ-F17を使用すると、すなわち反応性化合物(A)及び光開始剤を加えないと、15分間のUV照射によって、108°のWCAを有する疎水性表面が得られ、一方、試料の非照射部分は親水性のままであることが示される。実施例1fは実施例1cに類似しており、唯一の違いは、多反応性のF17-OH-Acrの代わりに一反応性のF17-Acrを使用していることである。これは、驚くほど異なる表面改質結果を明確に示している。F17-Acr(実施例1f)を用いると、114°のWCAが得られ、F17-OH-Acrを用いると、はるかに大きい142°のWCAが得られ、両方の非照射の表面は親水性のままである。
【0108】
実施例1gでは、表面改質を行うためにヒドロシランの存在が必要であることが示される。ヒドロシラン(この場合はジヒドロ-F17)の代わりに不活性フッ素化溶媒FC-70を使用すると、顕著な表面改質は生じず、表面は基板全体で親水性のままである(<35°のWCA)。
【0109】
実施例2では、結果に大きな変化を生じさせることなく、F17-OH-Acrの代わりに対応するメタクリレートのF17-OH-MAcrも使用できることが示される。
【0110】
実施例3aでは、追加の成分を表面改質組成物に加えることが可能なことが示される。この場合、1重量%の光開始剤が組成物に加えられ、照射時間は5分まで短縮される。この組成物でも、試料の照射部分で高い疎水性の表面が得られ、非照射部分は親水性のままである。
【0111】
実施例3bでは、1重量%の光開始剤が存在する場合でさえも、表面改質を行うためにヒドロシランの存在が必要であることが示される。ヒドロシラン(この場合はジヒドロ-F
17)の代わりに、不活性フッ素化溶媒FC-70と1体積%の光開始剤とを使用すると、顕著な表面改質は起こらず、表面は基板全体で親水性(<38°のWCA)のままである。
【化11】
【0112】
また、国際出願PCT/EP2017/069608号明細書によるジヒドロ-F17及びF17-Acrを用いた表面改質では、非常に薄い疎水性層(XPSデータに基づくと<5nm)が得られる。対照的に、本発明によるジヒドロ-F17及びF17-OH-Acrを用いた表面改質では、はるかに厚い疎水性層が得られ高度の表面粗さ及び多孔度を有する。これは、AFM、SEM、及び楕円偏光法による試料のさらなる分析によって示された。これらの実験の場合、線のパターンを有するフォトマスクを表面改質に使用し、その結果、100μmの距離だけ離れた幅50μmの平行な表面改質層の線が得られた。
【0113】
図1aは、AFMによって測定した表面改質層の線(幅50μm)のトポグラフィー画像を示している。この画像は、表面改質層の線の幅が、フォトマスクの設計による照射領域の幅によく対応していることを示しており、本発明による方法によって良好な空間分解能でパターン化された表面改質が実現できることを示している。
図1bは、
図1a中に示される破線に沿って測定した高さプロファイルを示している。このプロファイルは、線の中央で測定して表面改質層の厚さが約90nmであることを示している。線の端付近では、表面改質層は20~30nmだけ厚い。また、このプロファイルは、改質層の表面は平滑ではなく、かなりの量の粗さを含むことを示している。
図1a中に長方形で示される領域の場合、表面粗さ(R
a)は11nmであると計算された。
【0114】
SEMイメージング中の充電の問題を回避するため、スパッタリングによって試料上にタングステンの薄層を堆積した。
図2aは、2,500倍の倍率における表面改質層の線(幅50μm)のSEM画像を示している。この画像は、本発明による方法による良好な空間分解能のパターン化された表面改質層の形成を裏付けており、
図1a中に示されるAFM画像とよく一致している。さらに、この画像は、顕微鏡レベルで表面改質層が均一及び緻密ではなく、微細構造を含むことを示している。このことは、100,000倍の倍率で同じ線のより小さな領域を示す
図2bにおいてより明確に見ることができる。この画像は、高度な表面粗さ及び多孔度が存在することを明確に示しており、AFMの結果と一致している。
【0115】
分光イメージング楕円偏光法でも試料を調べた。
図3aは、幅50μmの3本の線の楕円偏光法の高さ画像を示している。
図3bは対応する高さプロファイルを示している。この場合も、結果は、空間分解能を有するパターン化された表面改質の形成を裏付けている。
【0116】
図3b中に示される高さプロファイルは、線の中央で測定した層の厚さが約85nmであることを示している。線の端付近では、表面改質層は約10nmだけ厚い。AFM(
図1b)及び楕円偏光法(
図3b)によって得られた高さプロファイルを比較すると、両方の技術から得られる結果は妥当な一致を示していると結論づけることができる。
【0117】
実施例4~5:PEGによるガラスの表面改質
顕微鏡のスライドガラスを、アセトン及びイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、表面におけるシラノール基の数を増加させるためにプラズマ酸化によって活性化させた。2つの異なるヒドロシランと反応性化合物(A)としてのPEG9-OH-Acrとの組み合わせを用いて、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0118】
実施例4では、トリヒドロ-PEG、PEG9-OH-Acr、及びDGDEの表面改質組成物が使用される。15分間のUV照射後、表面の照射部分はWCAが44°であり、これはPEGで改質された表面の典型的な値である。非照射部分はWCAが31°であり、これは顕著な表面改質は起こっていないことを示している。
【0119】
実施例5では、ヒドロシランのTMCTSが、さらにPEG9-OH-Acr及びDGDEからなる表面改質組成物中に使用される。15分間のUV照射後、表面の照射部分はWCAが38°であり、これはPEGで改質された表面の典型的な値である。非照射部分はWCAが25°であり、これは顕著な表面改質は起こっていないことを示している。
【0120】
実施例6:酸化シリコン(111)の疎水性表面改質
シリコン(111)基板を、アセトン及びイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、表面におけるシラノール基の数を増加させるためにプラズマ酸化によって活性化させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17、反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acr、及び1重量%ベンゾフェノン(BP)のからなる表面改質組成物を使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。15分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは132°まで増加した。試料の非照射部分のWCAは75°である。試料の非照射部分も疎水性が高くなったが、照射領域と非照射領域との間の疎水性には依然として大きな差が存在する。
【0121】
実施例7~8:エポキシド基を有する表面の疎水性表面改質
実施例7では、エポキシド基を有するガラス表面を作製した。このために、文献から適合させたシラン処理手順により、顕微鏡のスライドガラスをエポキシシランで処理した。試料を、アセトン中で5分間超音波処理することによって清浄にした。窒素流を用いて試料を乾燥させ、続いて140℃のオーブン中に5分間入れた。次に、試料を低圧O2プラズマに5分間曝露し、直ちにヘキサン中の(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシランの2%(v/v)溶液中に2時間浸漬した。シラン処理後、試料をアセトン中の5分間の超音波処理によって清浄にして、窒素流中で乾燥させた。このシラン処理手順の後、得られたエポキシド末端表面のWCAは55°である。
【0122】
ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrからなる表面改質組成物を使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。5分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは140°まで増加し、非照射部分の上のWCAは56°で変化しないままとなった。
【0123】
実施例8では、基板としてSU-8を使用した。SU-8は表面上にエポキシ基を有するポリマーである。SU-8試料をイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、窒素流を用いて乾燥させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrからなる表面改質組成物を使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。30分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは130°まで増加し、改質されていないSU-8のWCA(75°)よりもはるかに大きい。
【0124】
実施例9:COCの疎水性表面改質
COC試料をアセトン中の超音波処理によって清浄にし、続いて表面上にヒドロキシル基を形成するために低圧O2プラズマに曝露した。脱イオン水で十分に洗浄した後、窒素流を用いて試料を乾燥させた。ヒドロシランとしてのトリヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを種々の濃度及び比率で使用して、前述の一般手順により表面改質を行った(実施例9a~e)。
【0125】
30分間のUV照射後、試料の照射部分のWCAは105~115°の間であり、非照射領域上のWCA(60~65°)よりもはるかに大きい。非照射側の比較的小さいWCAはプラズマ酸化によって生じ、その結果として、COCのWCAが約95°から65°まで減少していることに留意されたい。したがって、表面改質によって、酸化されていないCOCと比較しても疎水性の顕著な増加が得られた。
【0126】
実施例10:PEGによるCOCの表面改質
COC試料をアセトン中の超音波処理によって清浄にし、続いて表面上にヒドロキシル基を形成するために低圧O2プラズマに曝露した。脱イオン水で十分に洗浄した後、窒素流を用いて試料を乾燥させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-PEGと、反応性化合物(A)としてのPEG9-OH-Acr及びPEG3-OH-Acrとの組み合わせを使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0127】
実施例10aでは、ジヒドロ-PEG、PEG9-OH-Acr、及びDGDEの表面改質組成物が使用される。30分間のUV照射後、表面の照射部分のWCAは44°であり、これはPEGで改質された表面の典型的な値である。非照射部分のWCAは66°であり、これは顕著な表面改質は起こっていないことを示している。非照射側の比較的小さいWCAはプラズマ酸化によって生じ、その結果として、COCのWCCAが約95°から65°まで減少していることに留意されたい。
【0128】
実施例10bでは、ジヒドロ-PEG、PEG3-OH-Acr、及びDGDEの表面改質組成物が使用される。30分間のUV照射後、表面の照射部分のWCAは37°であり、これはPEGで改質された表面の典型的な値である。非照射部分のWCAは66°であり、これは顕著な表面改質は起こっていないことを示している。非照射側の比較的小さいWCAはプラズマ酸化によって生じ、その結果として、COCのWCCAが約95°から65°まで減少していることに留意されたい。
【0129】
実施例11:ポリカーボネートの疎水性表面改質
ポリカーボネート試料をイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、窒素流を用いて乾燥させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0130】
実施例11aでは、30分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは>130°であり、処理されていないポリカーボネート(WCAは78°)と比較して疎水性が大きく増加することが示される。
【0131】
この実施例では、表面改質の前にO2プラズマによる表面活性化は行われず、そのため表面にヒドロキシル基は形成されなかった。ポリカーボネート自体はC-OH基を有しない。さらに、表面は首尾よく改質され、このことは、表面上のC-OH基の存在は、本発明による光化学的表面改質の必要条件ではないことを示している。
【0132】
二官能性反応性化合物のF17-OH-Acrの代わりに一官能性添加剤のF17-Acrを使用する対照実験を行い、実施例11b(対照)として表中に示した。この場合、表面改質は行われず、WCAは基板全体の上で変化しないままである。
【0133】
実施例11cでは、表面改質を行うためにヒドロシランの存在が必要なことが示される。ヒドロシラン(この場合はジヒドロ-F17)の代わりに不活性フッ素化溶媒FC-70を使用すると、顕著な表面改質は起こらず、基板全体の上で同様の値のWCAが得られる。
【0134】
実施例12:PMMAの疎水性表面改質
PMMA試料をイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、窒素流を用いて乾燥させた。ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0135】
30分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは>130°であり、処理されていないPMMA(WCAは75°)と比較して疎水性が大きく増加している。
【0136】
この実施例では、表面改質の前にO2プラズマによる表面活性化は行われず、そのため表面にヒドロキシル基は形成されなかった。PMMA自体はC-OH基を有しない。さらに、表面は首尾よく改質され、このことは、表面上のC-OH基の存在は、本発明による光化学的表面改質の必要条件ではないことを示している。
【0137】
実施例13:PEEKの疎水性表面改質
PEEK試料をイソプロパノール中の超音波処理によって清浄にし、窒素流を用いて乾燥させた。ヒドロシランとしてのトリヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを使用して、前述の一般手順により表面改質を行った。
【0138】
15分間のUV照射後、試料の照射部分の上のWCAは>120°であり、処理されていないPEEK(WCAは70°)と比較して疎水性が大きく増加している。
【0139】
この実施例では、表面改質の前にO2プラズマによる表面活性化は行われず、そのため表面にヒドロキシル基は形成されなかった。PEEK自体はC-OH基を有しない。さらに、表面は首尾よく改質され、このことは、表面上のC-OH基の存在は、本発明による光化学的表面改質の必要条件ではないことを示している。
【0140】
実施例14~15:(ニトロ)セルロースの疎水性表面改質
ヒドロシランとしてのジヒドロ-F17及び反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrを使用して、前述の一般手順によりセルロース及びニトロセルロースの表面改質を行った。
【0141】
実施例14では、15分間のUV照射後、セルロースが高い疎水性(WCA>130°)となったことが示される。試料の非照射領域上では、多孔質親水性基板(WCA<10°)によって吸収されるので、WCAを測定できない。
【0142】
実施例15aでは、光開始剤として1重量%のBP-F10を表面改質組成物に加える場合に、1分未満のUV照射後にニトロセルロースはすでに高い疎水性(WCA>130°)となることが示される。この場合も、試料の非照射領域上ではWCAを測定できない。
【0143】
実施例15bでは、光開始剤を添加しなくても、ニトロセルロースを疎水性にできることが示される。しかし、これには45分間のはるかに長いUV照射時間が必要となる。非照射領域は、水滴が多孔質基板に吸収されるので、高い親水性のままである。
【0144】
実施例15cでは、表面改質を行うためにヒドロシランの存在が必要なことが示される。ヒドロシラン(この場合はジヒドロ-F17)の代わりに不活性フッ素化溶媒FC-70及び1重量%の光開始剤を使用すると、顕著な表面改質は起こらず、表面は親水性のままであり、水滴は多孔質基板(WCA<10°)に吸収される。
【0145】
実施例16~25:ガラスの疎水性表面改質
実施例16~19は、表面改質組成物が種々の溶媒を含むことができることを示す。DMPが溶媒として使用されると、最も大きなWCAが得られる。しかし、TFT及びDGDEなどの別の溶媒も使用することができる。水で飽和させたTFT(表中ではTFT(aq)と示される)が使用される場合でさえも、110°のWCAが得られ、これは、表面改質組成物中の水の存在が、疎水性表面改質層の形成を妨害しないことを示している。実施例20~23では、種々のヒドロシランを表面改質に使用できることが示される。反応性化合物(A)としてのF17-OH-Acrとの組み合わせにおいて、ヒドロシランが疎水性基を含まない場合でも、使用されるすべてのヒドロシランで、数十nmの厚さで>130°のWCA値の表面改質層が得られる。実施例24及び25は、表面改質組成物が多量の溶媒を含むことができ、依然として疎水性表面改質層を形成できることを示している。
【0146】
実施例26~28:PEGによるガラスの表面改質
実施例26~28では、すべてが反応性化合物(A)としてHO-PEG9-MAcrを含む種々の表面改質組成物を使用してガラス表面が改質される。楕円偏光法は、表面改質層の存在を明確に示している。PEG9-OH-Acrが使用される実施例4及び5と比較すると、これらの実施例は、反応性化合物(A)中の第2の種類の反応性基、この場合はヒドロキシ基が、第1の種類の反応性基、この場合は(メタ)アクリレート基に対して、分子内の異なる位置に存在できることを示している。さらに、これらの実施例は、異なるヒドロシラン及び異なる溶媒を含む表面改質組成物中に、HO-PEG9-MAcrを使用できることを示している。
【0147】
実施例29~30:COC及びPPの親水性表面改質
反応性化合物(A)としてアクリル酸を使用する実施例29及び30に記載の表面改質では、2つの疎水性ポリマーのCOC及びPPに使用した場合に、WCAが大幅に減少する結果が得られる。
【0148】
実施例31~32:アクリレート基を有しない反応性化合物(A)
実施例31は、反応性化合物(A)としてPEG-ジエポキシドを使用するCOC上への表面改質層の形成を示している。基板と表面改質層との非常に類似した光学特性のため、楕円偏光法による層厚さの正確な測定は不可能であった。しかし、改質された表面のXPS分析では、Si及びエーテル炭素(C-O-C)の存在が示され、これはTMCTS及びPEG-ジエポキシドの両方が表面改質層中に含まれることを示している。
【0149】
実施例32では、反応性化合物(A)としてアミノトリアルキンを使用して、石英基板上に表面改質層を形成する。表面改質層は17nmの厚さ(楕円偏光法によって測定)を有する。これらの実施例は、エポキシド基又はアルキン基のみを含み重合可能な不飽和基(アクリレート基など)を含まない反応性化合物(A)を使用して、表面改質層を形成できることを示している。