(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】YKL-40標的ヒト単一クローン抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230901BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20230901BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230901BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20230901BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20230901BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230901BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230901BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230901BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230901BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61K39/395 T
A61K39/395 N
(21)【出願番号】P 2022516421
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 KR2020012036
(87)【国際公開番号】W WO2021049830
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】10-2019-0112572
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522099434
【氏名又は名称】セネリックス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】カン,キョン ジェ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユン ジ
(72)【発明者】
【氏名】イ,セ ラ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジン テ
【審査官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-531608(JP,A)
【文献】特表平09-502096(JP,A)
【文献】特表平10-513348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0002586(US,A1)
【文献】Mol. Cancer Ther.,2011年,10(5),pp.742-751
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
YKL-40に特異的に結合する単一クローン抗体
又はその断片であって、前記単一クローン抗体又はその断片は、下記の領域を含むことを特徴とする、単一クローン抗体又はその断片:
(a)配列番号5のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号6のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号7のアミノ酸配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び
(b)配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号13のアミノ酸配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域。
【請求項2】
前記単一クローン抗体
又はその断片は、下記の領域を含むことを特徴とする、請求項1に記載の単一クローン抗体
又はその断片:
(a)
配列番号1のアミノ酸
配列からなる重鎖可変領域;及び
(b)
配列番号3のアミノ酸
配列からなる軽鎖可変領域。
【請求項3】
前記単一クローン抗体は、ヒト化抗体であることを特徴とする、請求項1に記載の単一クローン抗体
又はその断片。
【請求項4】
請求項1の単一クローン抗体
又はその断片をコーディングする核酸分子。
【請求項5】
前記核酸分子は、下記の領域を含むことを特徴とする、請求項
4に記載の核酸分子。
(a)
配列番号21の塩基
配列からなるCDR1、
配列番号22の塩基
配列からなるCDR2、及び
配列番号23の塩基
配列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び
(b)
配列番号27の塩基
配列からなるCDR1、
配列番号28の塩基
配列からなるCDR2、及び
配列番号29の塩基
配列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域。
【請求項6】
前記核酸分子は、下記の領域を含むことを特徴とする、請求項
4に記載の核酸分子。
(a)
配列番号17の塩基
配列からなる重鎖可変領域;及び
(b)
配列番号19の塩基
配列からなる軽鎖可変領域。
【請求項7】
請求項
4の核酸分子を含む組換え発現ベクター。
【請求項8】
請求項
7の組換え発現ベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
請求項1の単一クローン抗体
又はその断片を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬学的組成物。
【請求項10】
前記癌は、乳房癌、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、脳癌、子宮癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、頭頸部癌、結腸癌、卵巣癌、直腸癌、膣癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、尿管癌、尿道癌、前立腺癌、気管支癌、膀胱癌、腎臓癌及び骨髓癌からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1の単一クローン抗体
又はその断片を有効成分として含む癌の診断用組成物。
【請求項12】
前記癌は、乳房癌、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、脳癌、子宮癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、頭頸部癌、結腸癌、卵巣癌、直腸癌、膣癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、尿管癌、尿道癌、前立腺癌、気管支癌、膀胱癌、腎臓癌及び骨髓癌からなる群から選ばれるいずれか一つであることを特徴とする、請求項
11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、YKL-40に特異的に結合する単一クローン抗体、これをコーディングする核酸分子、前記単一クローン抗体を含む癌の予防又は治療用薬学的組成物、及び前記単一クローン抗体を含む癌の診断用組成物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
抗体は、特定の抗原と結合する免疫タンパク質である。ヒト及びマウスを始めとしたほとんどの哺乳動物において、抗体は、重鎖ポリペプチドと軽鎖ポリペプチドが対をなして形成される。それぞれの鎖は、可変領域(Fv)及び不変領域(Fc)と呼ばれる2個の領域からなっている。軽鎖及び重鎖可変領域は、分子の抗原結合決定基を含み、標的抗原との結合に関与する。不変領域は、抗体の群(又は同基準標本型)を限定し(例えば、IgG)、効果器作用と呼ばれる一連の重要な機能上の各特性を付与する、多数のFc受容体及びFcリガンドとの結合に関与する。例えば、標的に対する特異性、免疫作用機序を媒介する能力及び長い血清半減期などのいくつかの重要な抗体の特性により、抗体は強力な治療剤として使用されている。
【0003】
ファージディスプレイ技術は、英国の医学研究会議(Medical Research Council)で1990年に初めて開発されたものであって、ヒト抗体ライブラリ(library)を製造し、抗体切片(Fab、ScFv)の形態でバクテリオファージの表面に発現させ、特定の抗原に対する各抗体クローンを選別する技術である。抗原と特異的に反応するほぼ全ての種類のヒト組換え単一クローン抗体を単一ポット(pot)抗体ライブラリシステムから選別できる可能性が提案されており、これにより、ファージディスプレイ抗体技術を活用する場合、体内診断や治療に応用できる多様な抗体断片(Fab又はScFv形態)を獲得することができる。
【0004】
関連先行技術文献としては、米国登録特許第7,670,599号がある。
【0005】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明の目的は、YKL-40に特異的に結合する単一クローン抗体を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、前記単一クローン抗体をコーディングする核酸分子を提供することにある。
【0007】
本発明の更に他の目的は、前記核酸分子を含む組換え発現ベクターを提供することにある。
【0008】
本発明の更に他の目的は、前記組換え発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供することにある。
【0009】
本発明の更に他の目的は、前記単一クローン抗体を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0010】
本発明の更に他の目的は、前記単一クローン抗体を有効成分として含む癌の診断用組成物を提供することにある。
【0011】
〔課題を解決するための手段〕
前記目的を達成するために、本発明は、YKL-40に特異的に結合する単一クローン抗体を提供する。
【0012】
本発明の一実施例において、前記単一クローン抗体は、(a)序列番号5のアミノ酸序列からなるCDR1、序列番号6のアミノ酸序列からなるCDR2、及び序列番号7のアミノ酸序列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び(b)序列番号11のアミノ酸序列からなるCDR1、序列番号12のアミノ酸序列からなるCDR2、及び序列番号13のアミノ酸序列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域;を含むものであったり、(a)序列番号8のアミノ酸序列からなるCDR1、序列番号9のアミノ酸序列からなるCDR2、及び序列番号10のアミノ酸序列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び(b)序列番号14のアミノ酸序列からなるCDR1、序列番号15のアミノ酸序列からなるCDR2、及び序列番号16のアミノ酸序列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域;を含むものであり得る。
【0013】
本発明の一実施例において、前記単一クローン抗体は、(a)序列番号1のアミノ酸序列からなる重鎖可変領域;及び(b)序列番号3のアミノ酸序列からなる軽鎖可変領域;を含むものであったり、(a)序列番号2のアミノ酸序列からなる重鎖可変領域;及び(b)序列番号4のアミノ酸序列からなる軽鎖可変領域;を含むものであり得る。
【0014】
本発明の一実施例において、前記単一クローン抗体はヒト化抗体であり得る。
【0015】
また、本発明は、前記単一クローン抗体をコーディングする核酸分子を提供する。
【0016】
本発明の一実施例において、前記核酸分子は、(a)序列番号21の塩基序列からなるCDR1、序列番号22の塩基序列からなるCDR2、及び序列番号23の塩基序列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び(b)序列番号27の塩基序列からなるCDR1、序列番号28の塩基序列からなるCDR2、及び序列番号29の塩基序列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域;を含むものであったり、(a)序列番号24の塩基序列からなるCDR1、序列番号25の塩基序列からなるCDR2、及び序列番号26の塩基序列からなるCDR3を含む重鎖可変領域;及び(b)序列番号30の塩基序列からなるCDR1、序列番号31の塩基序列からなるCDR2、及び序列番号32の塩基序列からなるCDR3を含む軽鎖可変領域;を含むものであり得る。
【0017】
本発明の一実施例において、前記核酸分子は、(a)序列番号17の塩基序列からなる重鎖可変領域;及び(b)序列番号19の塩基序列からなる軽鎖可変領域;を含むものであったり、(a)序列番号18の塩基序列からなる重鎖可変領域;及び(b)序列番号20の塩基序列からなる軽鎖可変領域;を含むものであり得る。
【0018】
また、本発明は、前記核酸分子を含む組換え発現ベクターを提供する。
【0019】
また、本発明は、前記組換え発現ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記単一クローン抗体を有効成分として含む癌の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0021】
本発明の一実施例において、前記癌は、乳房癌、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、脳癌、子宮癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、頭頸部癌、結腸癌、卵巣癌、直腸癌、膣癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、尿管癌、尿道癌、前立腺癌、気管支癌、膀胱癌、腎臓癌及び骨髓癌からなる群から選ばれるいずれか一つであり得る。
【0022】
また、本発明は、前記単一クローン抗体を有効成分として含む癌の診断用組成物を提供する。
【0023】
本発明の一実施例において、前記癌は、乳房癌、大腸癌、肺癌、胃癌、肝臓癌、血液癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、脳癌、子宮癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、頭頸部癌、結腸癌、卵巣癌、直腸癌、膣癌、小腸癌、内分泌癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、尿管癌、尿道癌、前立腺癌、気管支癌、膀胱癌、腎臓癌及び骨髓癌からなる群から選ばれるいずれか一つであり得る。
【0024】
〔発明の効果〕
本発明のYKL-40は、癌の増殖及び転移と関連しており、YKL-40に特異的に結合する単一クローン抗体は、癌の増殖及び転移を抑制するという効果を有し、本発明の単一クローン抗体は、癌の診断、予防又は治療に有用に使用可能である。
【0025】
〔図面の簡単な説明〕
図1aは、ファージディスプレイを通じてヒトYKL-40との有意的な結合能を示す抗体を選別する過程を示す模式図で、
図1b乃至
図1dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定(panning titration)結果を示した図である。
【0026】
図2a及び
図2bは、ファージディスプレイから選別された7個のヒトYKL-40に対する抗体を示した図である。
【0027】
図3aは、ファージディスプレイを通じてマウスYKL-40との有意的な結合能を示す抗体を選別する過程を示す模式図で、
図3b乃至
図3dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定結果を示した図である。
【0028】
図4は、ファージディスプレイから選別された6個のマウスYKL-40に対する抗体を示した図である。
【0029】
図5a乃至
図5cは、ヒトYKL-40抗体を有する6個のクローン(H1、H2、H4、H5、H6及びH7)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【0030】
図6a及び
図6bは、6個のヒトYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【0031】
図7は、6個のヒトYKL-40抗体に対してELISAを通じてEC50値を測定した結果を示した図である。
【0032】
図8a及び
図8bは、マウスYKL-40抗体を有する4個のクローン(M2、M3、M4及びM5)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【0033】
図9a及び
図9bは、4個のマウスYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【0034】
図10は、4個のマウスYKL-40抗体に対してELISAを通じてEC50値を測定した結果を示した図である。
【0035】
図11a及び
図11bは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)クローンがヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に交差結合するかどうかをELISAを通じて確認した結果を示した図である。
【0036】
図12a乃至
図12cは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)のヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に対する抗原親和性を測定した結果を示した図である。
【0037】
図13a乃至
図13dは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2、H4、H5、H6及びH7をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数(migrated cell number)を測定した結果を示した図である。
【0038】
図14a乃至
図14dは、候補抗体としてマウスYKL-40抗体であるM2、M3、M4及びM5をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数を測定した結果を示した図である。
【0039】
図15a及び
図15bは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2及びH4;及びマウスYKL-40抗体であるM2及びM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺表面の腫瘍面積(tumor area)を測定した結果を示した図である(n=3)。
【0040】
図16a乃至
図16cは、ヒトYKL-40抗体であるH1及びマウスYKL-40抗体であるM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺組織で腫瘍結節(tumor nodule)の数を測定した結果を示した図である(n=8)。
【0041】
〔発明を実施するための形態〕
本発明における「抗体」という用語は、免疫学的に特定の抗原との反応性を有する免疫グロブリン分子を含み、多クローン抗体及び単一クローン抗体を全て含む概念である。また、前記用語は、キメラ抗体(例えば、ヒト化ミュリン抗体)及び異種結合抗体(例えば、二重特異性抗体)などの遺伝工学によって生産された形態を含む。
【0042】
本発明における「単一クローン抗体」という用語は、当該分野に公知となった用語であって、単一抗原性部位に対して指示される高度の特異的な抗体を意味する。通常、相違する各エピトープ(抗原決定基)に対して指示される相違する各抗体を含む多クローン抗体とは異なり、単一クローン抗体は、抗原上の単一決定基に対して指示される。単一クローン抗体は、抗原-抗体結合を用いる診断及び分析学的分析法の選択性と特異性を改善させるという長所を有し、また、ハイブリドーマ培養によって合成されるので、他の免疫グロブリンによって汚染しないという長所も有する。
【0043】
典型的に、免疫グロブリンは重鎖及び軽鎖を有し、それぞれの重鎖及び軽鎖は、不変領域及び可変領域(前記部位は、「ドメイン」としても知られている)を含む。軽鎖可変領域及び重鎖可変領域は、「相補性決定領域」(complementarity determining region、以下、「CDR」という)と呼ばれる3個の可変領域及び4個の「構造領域」(framework region)を含む。前記CDRは、主に抗原のエピトープ(epitope)に結合する役割をする。それぞれの鎖のCDRは、典型的にN-末端から始めて順次CDR1、CDR2、CDR3と呼ばれ、また、特定のCDRが位置している鎖によって識別される。
【0044】
前記「重鎖」という用語は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域序列を有するアミノ酸序列を含む可変領域ドメインVH及び3個の不変領域ドメインCH1、CH2及びCH3を含む全長重鎖及びその断片を全て意味する。前記「軽鎖」という用語は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域序列を有するアミノ酸序列を含む可変領域ドメインVL及び不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖及びその断片を全て意味する。
【0045】
本発明における「可変」という用語は、各抗体間で特定の領域の序列が大きく異なり、特定の抗原に対してそれぞれの特定の抗体の結合特異性を示すのに使用されることを意味する。抗体の可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布するのではなく、CDRに集中する。単一クローン抗体の重鎖及び軽鎖は、それぞれ3個のCDRを有し、これらの領域がニキビ菌の表面抗原を認識することによって抗原-抗体複合体を形成する。このようなCDRは、それぞれの単一クローン抗体ごとに特徴的な序列を有し、一つの単一クローン抗体が特定のエピトープを認識するために、これらの6個のCDRの一部又は全てが相互作用し得る。
【0046】
本発明における「ファージディスプレイ技術」という用語は、ファージライブラリから標的抗原との有意的な結合能を示すファージのみを選別することを通じて、抗原との結合能を示す抗体を選別する技術を示す。前記技術において、「パンニング(panning)」は、ファージの外壁(coat)にペプチドを発現(display)するファージライブラリから、標的分子(抗体、酵素、細胞表面受容体など)と結合する性質を有するペプチドを表面に発現しているファージのみを選択する過程を示す。このような過程を3回乃至10回繰り返し、標的抗原に対して有意的な結合能を示す抗体を選別することができ、選別された抗体をヒト化単一クローン抗体として製造することができる。
【0047】
本発明の単一クローン抗体は、YKL-40に特異的に結合できる範囲内で添付の序列リストに記載されたアミノ酸序列の変異体を含むことができる。例えば、単一クローン抗体の結合親和性及び/又はその他の生物学的特性を改善させるために、単一クローン抗体のアミノ酸序列に変化を与えることができる。このような変形は、例えば、単一クローン抗体のアミノ酸序列残基の欠失、挿入及び/又は置換を含む。このようなアミノ酸の変異は、アミノ酸側鎖置換体の相対的類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、大きさなどに基づいて構成される。アミノ酸側鎖置換体の大きさ、形状及び種類に対する分析により、アルギニン、リシン及びヒスチジンはいずれも陽電荷を帯びた残基で;アラニン、グリシン及びセリンは類似する大きさを有し;フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは類似する形状を有することが分かる。よって、このような考慮事項に基づいて、アルギニン、リシン及びヒスチジン;アラニン、グリシン及びセリン;そして、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンは生物学的に機能均等物であると言える。変異を導入するにおいて、アミノ酸の疎水性インデックス(hydropathy index)が考慮され得る。それぞれのアミノ酸には、疎水性及び電荷によって疎水性インデックスが付与されている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスタイン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);トレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リシン(-3.9);及びアルギニン(-4.5)。タンパク質の相互的な生物学的機能(interactive biological function)を付与するにおいて、疎水性アミノ酸インデックスは非常に重要である。類似する疎水性インデックスを有するアミノ酸に置換したとき、類似する生物学的活性を保有できることは公知の事実である。疎水性インデックスを参照して変異を導入させる場合、好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内、さらに好ましくは±0.5以内の疎水性インデックスの差を示すアミノ酸間の置換を行う。
【0048】
一方、類似する親水性値(hydrophilicity value)を有するアミノ酸間の置換が、均等な生物学的活性を有するタンパク質をもたらすこともよく知られている。米国特許第4,554,101号に開示されたように、次の親水性値がそれぞれのアミノ酸残基に付与されている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.01);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);トレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。親水性値を参照して変異を導入させる場合、好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内、さらに好ましくは±0.5以内の親水性値の差を示すアミノ酸間の置換を行う。分子の活性を全体的に変更させないタンパク質におけるアミノ酸の交換は、当該分野に公知となっている(H.Neurath,R.L.Hill,The Proteins,Academic Press,New York,1979)。最も通常的に起こる交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。上述した生物学的均等活性を有する変異を考慮すると、本発明の単一クローン抗体又はこれをコーディングする核酸分子は、序列リストに記載された序列と実質的な同一性(substantial identity)を示す序列も含むものと解釈される。前記実質的な同一性は、上述した本発明の序列と任意の他の序列とを最大限対応するようにアラインし、当業界で通常的に利用されるアルゴリズムを用いてアラインされた序列を分析した場合、少なくとも61%の相同性、より好ましくは70%の相同性、さらに好ましくは80%の相同性、最も好ましくは90%の相同性を示す序列を意味する。
【0049】
本発明における「核酸分子」という用語は、DNA(gDNA及びcDNA)及びRNA分子を包括的に含む意味を有し、核酸分子において基本構成単位であるヌクレオチドは、自然のヌクレオチドのみならず、糖又は塩基部位が変形した類似体(analogue)も含む(Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980);Uhlman及びPeyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990))。本発明の単一クローン抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコーディングする核酸分子の塩基序列は変形可能である。前記変形は、ヌクレオチドの追加、欠失、又は非保存的置換又は保存的置換を含む。
【0050】
本発明で製作されるベクターは、宿主細胞で所望の遺伝子を発現できるように構築される。一般に、前記ベクターのアップストリーム(upstream)及びダウンストリーム(downstream)にそれぞれ作動的に結合されたプローモーター及びターミネーターが位置する。
【0051】
本発明における「プローモーター」という用語は、コーディング序列又は機能的RNAの発現を調節するDNA序列を意味する。本発明の組換えベクターにおいて、目的塩基序列は前記プローモーターに作動的に連結される。
【0052】
本発明における「作動的に結合された(operatively linked)」という用語は、核酸発現調節序列(例:プローモーター序列、シグナル序列、又は転写調節因子結合位置のアレイ)と他の核酸序列との間の機能的な結合を意味し、これによって、前記調節序列は、前記他の核酸序列の転写及び/又は翻訳を調節するようになる。
【0053】
本発明のベクターシステムは、当業界に公知となった多様な方法を通じて構築され得る。また、これに対する具体的な方法は、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に開示されている。本発明のベクターは、典型的に発現のためのベクターとして構築され得る。
【0054】
本発明のベクターを形質転換体である宿主細胞内に運搬する方法は、熱ショック方法、CaCl2方法(Cohen,S.N.et al.,Proc.Natl.Acac.Sci.USA,9:2110-2114(1973))、ハナハン方法(Cohen,S.N.et al.,Proc.Natl.Acac.Sci.USA,9:2110-2114(1973);及びHanahan,D.,J.Mol.Biol.,166:557-580(1983))及び電気穿孔方法(Dower,W.J.et al.,Nucleic.Acids Res.,16:6127-6145(1988))などによって実施され得る。
【0055】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができる。本発明における「薬学的に許容可能な」という用語は、前記組成物に露出する細胞やヒトに毒性のない特性を示すことを意味する。前記担体は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤、基剤、賦形剤、潤滑剤などの当業界に公知となったものであれば制限なく使用することができる。
【0056】
また、本発明の薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾールなどの経口型剤形、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の形態で剤形化して使用することができ、さらに、軟膏剤、ローション剤、スプレー剤、パッチ剤、クリーム剤、散剤、懸濁剤、ゲル剤又はゲルの形態の皮膚外用剤の形態で使用することができる。本発明の組成物に含まれ得る担体、賦形剤及び希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及び鉱物油を挙げることができる。製剤化する場合は、通常的に使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調剤される。
【0057】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記ボチョウジ抽出物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)又はラクトース(lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの各潤滑剤も使用される。経口のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などがあるが、頻繁に使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に、様々な賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、オレイン酸エチルなどの注射可能なエステルなどが使用され得る。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使用され得る。
【0058】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明における「投与」という用語は、適切な方法で個体に所定の物質を導入することを意味し、前記組成物の投与経路は、目的組織に到逹し得る限り、如何なる一般的な経路であってもよい。前記組成物の投与経路としては、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与があり得るが、これに制限されない。
【0059】
前記「個体」という用語は、ヒトを含むラット、マウス、家畜などの全ての動物を意味し、好ましくは、ヒトを含む哺乳動物であり得る。
【0060】
前記「薬学的に有効な量」という用語は、医学的治療に適用可能な合理的な受益/危険割合で疾患を治療するのに十分で、且つ副作用を起こさない程度の量を意味し、有効容量水準は、患者の性別、年齢、体重、健康状態、疾病の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路、排出割合、治療期間、配合又は同時に使用される薬物を含む要素及びその他の医学分野によく知られている要素によって当業者が容易に決定することができる。投与は、前記推奨投与量を1日に一度行うこともでき、数回に分けて行うこともできる。
【0061】
以下では、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることはない。
【0062】
〔実施例〕
実施例1.ファージディスプレイライブラリパンニング(Phage display library panning)
YKL-40(Chitinase-3-like protein 1)は、CHI3L1遺伝子によってコーディングされる約40kDaの分泌糖タンパク質(secreted glycoprotein)であって、大食細胞(macrophage)などの多様な細胞で発現されて分泌されるものと知られている。また、最近の研究によると、YKL-40は、癌細胞の増殖、生存及び転移で重要な役割をするものと推定されている。さらに、先行研究において、YKL-40は、49個の疾病のうち38個が癌と関連することから発現が抑制され、このうち8個が肺癌と関連していることを確認した。そこで、本発明者等は、YKL-40の発現を抑制できる抗体を発掘するための実験を行った。
【0063】
YKL-40に対する抗体としては、ファージディスプレイ(phage display)技術を通じてヒトYKL-40(hYKL-40)との有意的な結合能を示す抗体を選別した(
図1a乃至
図1d)。hYKL-40との結合能は、hYKL-40ファージに対するELISAを通じて確認した。簡単に、hYKL-40抗原は、1ウェル当たり30ngずつ固定され、抗原が固定されたウェルは、MPBS(PBS内の5%のスキムミルク)でブロッキング処理した後、hYKL-40ファージ及びmYKL-40ファージを添加して反応させた。結合されたファージを検出するために、PBST(PBS内の0.05%のTween20)で4回洗浄した後、Anti-M13-HRP(1:5,000)を添加して反応させた。最後に、PBSTで4回洗浄した後、TMB(3,3',5,5'-Tetramethylbenzidine)基質を添加することによって発色反応を誘導し、2NH2SO4を添加することによって反応を終決させた後、波長450nmで各ウェルの吸光度を測定した。
【0064】
その結果、Fab-Iライブラリ及びFab-IIライブラリでは7個のhYKL-40に対する抗体を有するクローンが選別され、scFvライブラリではクローンが形成されなかった(
図2a及び
図2b)。Fab-Iライブラリにおける2個のクローンは3A10-F1(H1)及び3B12-F1(H2)と記載し、KFab-IIライブラリにおける5個のクローンは、それぞれ3A11-F2(H3)、3B7-F2(H4)、3D12-F2(H5)、3E12-F2(H6)及び3G7-F2(H7)と記載した。
【0065】
また、マウスYKL-40(mYKL-40)との有意的な結合能を示す抗体を選別し(
図3a乃至
図3d)、mYKL-40との結合能は、mYKL-40ファージに対するELISAを通じて確認したが、簡単に、mYKL-40抗原は、1ウェル当たり30ngずつ固定され、抗原が固定されたウェルは、MPBS(PBS内の5%のスキムミルク)でブロッキング処理した後、hYKL-40ファージ及びmYKL-40ファージを添加して反応させた。結合されたファージを検出するために、PBST(PBS内の0.05%のTween20)で4回洗浄した後、Anti-M13-HRP(1:5,000)を添加して反応させた。最後に、PBSTで4回洗浄した後、TMB(3,3',5,5'-Tetramethylbenzidine)基質を添加することによって発色反応を誘導し、2NH2SO4を添加することによって反応を終決させた後、波長450nmで各ウェルの吸光度を測定した。その結果、Fab-IIライブラリでは6個の抗体が選別され、Fab-I又はscFvライブラリではクローンが形成されなかった(
図4)。Fab-IIライブラリにおける6個のクローンは、それぞれ4A12-F2(M1)、4E12-F2(M2)、4E3-F2(M3)、4D10-F2(M4)、4A7-F2(M5)及び4A1-F2(M6)と記載した。
【0066】
実施例2.IgG生産及び特性分析
本発明者等は、選別されたYKL-40ファージをヒト抗体のIgG形態に転換させ、これを検証する実験を行った。簡単に、選別されたYKL-40ファージは、Expi293細胞株に形質感染させた後で培養し、培養されたExpi293細胞株の細胞培養液300mlからIgGを精製した。精製されたIgGに対しては、SDS-PAGEを通じて分子量及び純粋分離度を確認した。
【0067】
その結果、hYKL-40抗体を有する6個のクローンでIgGを生産したが、3A10-F1(H1)では最終的に0.237mgのIgGが生産され、3B12-F1(H2)では最終的に1.84mgのIgGが生産され、3B7-F2(H4)では最終的に6.5mgのIgGが生産され、3D12-F2(H5)では最終的に0.3mgのIgGが生産され、3E12-F2(H6)では最終的に0.8mgのIgGが生産され、3G7-F2(H7)では最終的に5.3mgのIgGが生産された(
図5a乃至
図5c)。
【0068】
また、本発明者等は、SEC(size-exclusion chromatography)を通じて単一抗体の有無を確認し、ELISAを通じて各抗体に対するEC50値によって抗原親和性(affinity)を測定する実験を行った。その結果、3A10-F1(H1)、3B12-F1(H2)、3B7-F2(H4)、3D12-F2(H5)、3E12-F2(H6)及び3G7-F2(H7)は、いずれもSECで単一ピーク(peak)を示すことから単一抗体であることが確認された(
図6a及び
図6b)。ELISA結果により、3A10-F1(H1)におけるEC50値が582pM(0.582nM)として最も低いEC50値であることが確認された(
図7)。
【0069】
本発明者等は、選別されたマウスYKL-40ファージに対しても同一の実験を行った。その結果、4E12-F2(M2)では最終的に1.6mgのIgGが生産され、4E3-F2(M3)では最終的に3.6mgのIgGが生産され、4D10-F2(M4)では最終的に6.3mgのIgGが生産され、4A7-F2(M5)では最終的に0.7mgのIgGが生産された(
図8a及び
図8b)。
【0070】
また、SEC結果により、4E12-F2(M2)、4E3-F2(M3)、4D10-F2(M4)及び4A7-F2(M5)は、いずれも単一ピークを示すことから単一抗体であることが確認された(
図9a及び
図9b)。ELISA結果により、4E3-F2(M3)におけるEC50値が67pM(0.067nM)として最も低いEC50値であることが確認された(
図10)。
【0071】
また、本発明者等は、hYKL-40及びmYKL-40に対してそれぞれ最も低いEC50値を示した3A10-F1(H1)と4E3-F2(M3)クローンがhYKL-40とmYKL-40に交差結合するかどうかを調査するために、各抗体のFabタンパク質を用いたELISAを行った。その結果、3A10-F1(H1)はhYKL-40にのみ結合することが確認され、4E3-F2(M3)はhYKL-40とmYKL-40に交差結合することが確認された(
図11a及び
図11b)。
【0072】
ELISAで得られたEC50値を再確認するために、オクテット(Octet)装備を用いて4E3-F2(M3)と3A10-F1(H1)に対する抗原親和性を測定した。二つの抗体に対して、hYKL-40とmYKL-40を用いて交差結合実験を進めた。AR2G(Amine Reactive 2
nd Generation)センサーを用いて各抗原タンパク質を固定し、各抗体を濃度別(0μM~1μM)に結合させる直接固定化方法(direct immobilization method)を使用した。その結果、4E3-F2(M3)の場合は、mYKL-40及びhYKL-40に対してそれぞれ6.7×10
-8M及び5.7×10
-8MのK
D値であることを確認し、マウスとヒト抗原タンパク質がいずれも類似する水準で結合することを確認した。3A10-F1(H1)の場合は、mYKL-40とは結合しないことを確認し、hYKL-40では5.0×10
-11MのK
D値であることを確認した(
図12a乃至
図12c)。
【0073】
実施例3.試験管内(in vitro)での候補抗体の抗癌効能分析
本発明者等は、YKL-40に対する各候補抗体を肺癌細胞株に処理した場合、癌転移を抑制する効果があるかどうかを確認する実験を行った。簡単に、ヒト肺癌細胞株であるA549細胞株及びH460細胞株の移動を透過性挿入物(8μm pore trans-well;Corning Inc.)で定量的に行った。候補抗体として、hYKL-40抗体である3A10-F1(H1)、3B12-F1(H2)、3B7-F2(H4)、3D12-F2(H5)、3E12-F2(H6)及び3G7-F2(H7);及びmYKL-40抗体である4E12-F2(M2)、4E3-F2(M3)、4D10-F2(M4)及び4A7-F2(M5)をそれぞれ肺癌細胞株であるA549細胞株及びH460細胞株に1μg/mlの濃度で処理した後、候補抗体が処理されたA549及びH460細胞をそれぞれ1ウェル当たり2.0×104細胞になるように入れ、加湿インキュベーターで37℃、5%CO2の条件で17時間にわたって培養した。培養後、細胞を3.7%ホルムアルデヒドで2分間固定させた後、1×PBSで2回洗浄した。その後、細胞を15分間100%のメタノールで透過させ、20分間トリパンブルーで染色した。ウェル内部の移動していない細胞を綿棒で除去し、×200倍率で光学顕微鏡(Olympus)によってキャプチャーしたイメージをNIH ImageJソフトウェアを用いて分析した。
【0074】
その結果、hYKL-40に対する6個の抗体を処理した場合、A549細胞株及びH460細胞株のいずれにおいても、対照群に比べて移動した細胞数が減少したことを確認し、特に、3A10-F1(H1)、3B12-F1(H2)及び3B7-F2(H4)抗体を処理した場合は、移動した細胞数が著しく減少したことを確認した(
図13a乃至
図13d)。同様に、mYKL-40に対する4個の抗体を処理した場合、A549細胞株及びH460細胞株のいずれにおいても、対照群に比べて移動した細胞数が減少したことを確認し、特に、4E12-F2(M2)及び4E3-F2(M3)抗体を処理した場合は、移動した細胞数が著しく減少したことを確認した(
図14a乃至
図14d)。
【0075】
前記結果により、選別された3A10-F1(H1)、3B12-F1(H2)、3B7-F2(H4)、4E12-F2(M2)及び4E3-F2(M3)抗体の場合、YKL-40タンパク質を抑制し、肺癌細胞の転移を抑制する効果があることを確認した。
【0076】
実施例4.動物実験(in vivo)での候補抗体の抗癌効能分析
本発明者等は、細胞株実験で選別された5個の候補抗体を肺転移動物モデルに処理した場合、癌転移を抑制するという効果があるかどうかを確認する実験を行った。簡単には、マウス1匹当たりB16F10マウス黒色腫細胞(3.75×104cells)を尾静脈注射(tail vein injection)方式で入れることによって肺転移させた後、一週間に1回ずつ合計3週間にわたって、マウスにhYKL-40抗体である3A10-F1(H1)、3B12-F1(H2)及び3B7-F2(H4);及びmYKL-40抗体である4E12-F2(M2)及び4E3-F2(M3)を0.5mg/kgずつ投与した。黒色腫細胞を投与してから3週後に肺を摘出し、肺表面に存在する腫瘍面積を測定した。
【0077】
その結果、hYKL-40抗体のうち3A10-F1(H1)、及びmYKL-40抗体のうち4E3-F2(M3)を処理した場合、対照群に比べて肺表面の腫瘍面積が著しく減少したことを確認した(
図15a及び
図15b)。これは、細胞株でのEC50値を測定した結果と一貫した結果であって、H1及びM3抗体が肺癌の転移を抑制する効果を有することを確認した。
【0078】
また、本発明者等は、前記結果から選別されたYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及び4E3-F2(M3)に対する検証のために実験動物の数を増加させ、癌転移を抑制する効果があるかどうかを確認する実験を行った。その結果、3A10-F1(H1)及び4E3-F2(M3)のいずれも、対照群に比べて肺組織の表面で腫瘍結節の数が減少し、肺癌の転移を抑制する効果を有し、特に、3A10-F1(H1)抗体は、最も著しく腫瘍結節の数を抑制する効果を有することを確認した(
図16a乃至
図16c)。
【0079】
前記結果により、YKL-40に対する3A10-F1(H1)抗体は、肺癌を抑制する著しい効果を有することを確認した。
【0080】
実施例5.抗体序列分析
本発明者等は、前記結果から癌を抑制する効果を有する3A10-F1(H1)抗体及び4E3-F2(M3)抗体の序列を分析した。3A10-F1(H1)抗体及び4E3-F2(M3)抗体に対する重鎖可変領域のアミノ酸序列は下記の表1の通りであって、軽鎖可変領域のアミノ酸序列は下記の表2の通りである。また、重鎖可変領域のうちCDR1乃至CDR3のアミノ酸序列は下記の表3の通りであって、軽鎖可変領域のうちCDR1乃至CDR3のアミノ酸序列は下記の表4の通りである。
【0081】
また、前記抗体をコーディングする核酸分子に対する重鎖可変領域の塩基序列は下記の表5の通りであって、軽鎖可変領域の塩基序列は下記の表6の通りである。また、重鎖可変領域のうちCDR1乃至CDR3をコーディングする塩基序列は下記の表7の通りであって、軽鎖可変領域のうちCDR1乃至CDR3をコーディングする塩基序列は下記の表8の通りである。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【図面の簡単な説明】
【0090】
【
図1a】
図1aは、ファージディスプレイを通じてヒトYKL-40との有意的な結合能を示す抗体を選別する過程を示す模式図である。
【
図1b】
図1b乃至
図1dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定(panning titration)結果を示した図である。
【
図1c】
図1b乃至
図1dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定(panning titration)結果を示した図である。
【
図1d】
図1b乃至
図1dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定(panning titration)結果を示した図である。
【
図2a】
図2a及び
図2bは、ファージディスプレイから選別された7個のヒトYKL-40に対する抗体を示した図である。
【
図2b】
図2a及び
図2bは、ファージディスプレイから選別された7個のヒトYKL-40に対する抗体を示した図である。
【
図3a】
図3aは、ファージディスプレイを通じてマウスYKL-40との有意的な結合能を示す抗体を選別する過程を示す模式図で、
図3b乃至
図3dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定結果を示した図である。
【
図3b】
図3b乃至
図3dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定結果を示した図である。
【
図3c】
図3b乃至
図3dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定結果を示した図である。
【
図3d】
図3b乃至
図3dは、それぞれFab-I、Fab-II及びscFvに対するパンニング滴定結果を示した図である。
【
図4】
図4は、ファージディスプレイから選別された6個のマウスYKL-40に対する抗体を示した図である。
【
図5a】
図5a乃至
図5cは、ヒトYKL-40抗体を有する6個のクローン(H1、H2、H4、H5、H6及びH7)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【
図5b】
図5a乃至
図5cは、ヒトYKL-40抗体を有する6個のクローン(H1、H2、H4、H5、H6及びH7)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【
図5c】
図5a乃至
図5cは、ヒトYKL-40抗体を有する6個のクローン(H1、H2、H4、H5、H6及びH7)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【
図6a】
図6a及び
図6bは、6個のヒトYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【
図6b】
図6a及び
図6bは、6個のヒトYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【
図7】
図7は、6個のヒトYKL-40抗体に対してELISAを通じてEC50値を測定した結果を示した図である。
【
図8a】
図8a及び
図8bは、マウスYKL-40抗体を有する4個のクローン(M2、M3、M4及びM5)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【
図8b】
図8a及び
図8bは、マウスYKL-40抗体を有する4個のクローン(M2、M3、M4及びM5)からIgG生産を確認するためのSDS-PAGE結果及びIgG生産量の測定結果を示した図である。
【
図9a】
図9a及び
図9bは、4個のマウスYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【
図9b】
図9a及び
図9bは、4個のマウスYKL-40抗体に対するSEC(size exclusion chromatography)結果を示した図である。
【
図10】
図10は、4個のマウスYKL-40抗体に対してELISAを通じてEC50値を測定した結果を示した図である。
【
図11a】
図11a及び
図11bは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)クローンがヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に交差結合するかどうかをELISAを通じて確認した結果を示した図である。
【
図11b】
図11a及び
図11bは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)クローンがヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に交差結合するかどうかをELISAを通じて確認した結果を示した図である。
【
図12a】
図12a乃至
図12cは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)のヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に対する抗原親和性を測定した結果を示した図である。
【
図12b】
図12a乃至
図12cは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)のヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に対する抗原親和性を測定した結果を示した図である。
【
図12c】
図12a乃至
図12cは、ヒトYKL-40抗体である3A10-F1(H1)及びマウスYKL-40抗体である4E3-F2(M3)のヒトYKL-40抗原及びマウスYKL-40抗原に対する抗原親和性を測定した結果を示した図である。
【
図13a】
図13a乃至
図13dは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2、H4、H5、H6及びH7をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数(migrated cell number)を測定した結果を示した図である。
【
図13b】
図13a乃至
図13dは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2、H4、H5、H6及びH7をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数(migrated cell number)を測定した結果を示した図である。
【
図13c】
図13a乃至
図13dは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2、H4、H5、H6及びH7をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数(migrated cell number)を測定した結果を示した図である。
【
図13d】
図13a乃至
図13dは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2、H4、H5、H6及びH7をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数(migrated cell number)を測定した結果を示した図である。
【
図14a】
図14a乃至
図14dは、候補抗体としてマウスYKL-40抗体であるM2、M3、M4及びM5をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数を測定した結果を示した図である。
【
図14b】
図14a乃至
図14dは、候補抗体としてマウスYKL-40抗体であるM2、M3、M4及びM5をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数を測定した結果を示した図である。
【
図14c】
図14a乃至
図14dは、候補抗体としてマウスYKL-40抗体であるM2、M3、M4及びM5をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数を測定した結果を示した図である。
【
図14d】
図14a乃至
図14dは、候補抗体としてマウスYKL-40抗体であるM2、M3、M4及びM5をA549細胞株及びH460細胞株に処理した後、移動した細胞数を測定した結果を示した図である。
【
図15a】
図15a及び
図15bは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2及びH4;及びマウスYKL-40抗体であるM2及びM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺表面の腫瘍面積(tumor area)を測定した結果を示した図である(n=3)。
【
図15b】
図15a及び
図15bは、候補抗体としてヒトYKL-40抗体であるH1、H2及びH4;及びマウスYKL-40抗体であるM2及びM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺表面の腫瘍面積(tumor area)を測定した結果を示した図である(n=3)。
【
図16a】
図16a乃至
図16cは、ヒトYKL-40抗体であるH1及びマウスYKL-40抗体であるM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺組織で腫瘍結節(tumor nodule)の数を測定した結果を示した図である(n=8)。
【
図16b】
図16a乃至
図16cは、ヒトYKL-40抗体であるH1及びマウスYKL-40抗体であるM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺組織で腫瘍結節(tumor nodule)の数を測定した結果を示した図である(n=8)。
【
図16c】
図16a乃至
図16cは、ヒトYKL-40抗体であるH1及びマウスYKL-40抗体であるM3を肺転移動物モデルに処理した後、肺組織で腫瘍結節(tumor nodule)の数を測定した結果を示した図である(n=8)。