(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】着色分散液、インクジェット捺染用インク、インクセット、捺染した疎水性繊維、および疎水性繊維の捺染方法。
(51)【国際特許分類】
C09B 67/46 20060101AFI20230901BHJP
C09D 11/40 20140101ALI20230901BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20230901BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230901BHJP
C09D 11/32 20140101ALI20230901BHJP
【FI】
C09B67/46 A
C09D11/40
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
C09D11/32
(21)【出願番号】P 2019224251
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018233065
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 由昌
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 桂丈
(72)【発明者】
【氏名】花里 秋津
(72)【発明者】
【氏名】樋口 比呂子
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021133(JP,A)
【文献】特開平07-278482(JP,A)
【文献】特開2008-201977(JP,A)
【文献】特開平08-295824(JP,A)
【文献】特開平08-295823(JP,A)
【文献】特開2018-123181(JP,A)
【文献】特開平10-298477(JP,A)
【文献】特開2014-095009(JP,A)
【文献】特開平09-291235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
C09B 1/00-69/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料、分散剤、水、フィトステロール化合物を含み、
前記分散剤が、下記式(1)で表される
化合物を1以上と
、下記式(1)で表される化合物以外のアニオン分散剤を1以上含み、
下記式(1)で表される化合物の含有量の総量は、前記分散染料総量に対して、10~100質量%である、
着色分散液。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。nは1~500の整数を表す。Mはそれぞれ独立に、水素、金属イオン、アンモニウムイオンを表す。)
【請求項2】
上記分散染料が、クマリン骨格を有する分散染料、アゾ骨格を有する分散染料、アントラキノン骨格を有する分散染料、から選択される少なくとも一種の分散染料である、請求項
1に記載の着色分散液。
【請求項3】
上記分散染料が、クマリン骨格を有する分散染料である、請求項2に記載の着色分散液。
【請求項4】
上記クマリン骨格を有する分散染料が、下記式(2)で表される分散染料である、請求項3に記載の着色分散液。
【化2】
(式(2)中、R
3は置換基を表す。mは0~3の整数を表す。)
【請求項5】
上記式(2)で表される分散染料が、C.I.DisperseYellow232である、請求項4に記載の着色分散液。
【請求項6】
上記分散染料が、アゾ骨格を有する分散染料である、請求項1に記載の着色分散液。
【請求項7】
上記アゾ骨格を有する分散染料が、下記式(3)で表される分散染料である、請求項6に記載の着色分散液。
【化3】
(式(3)中、R
4は置換基を表す。nは0~6の整数を表す。)
【請求項8】
上記式(3)で表される分散染料が、C.I.DisperseOrange25である、請求項7に記載の着色分散液。
【請求項9】
上記分散染料が、アントラキノン骨格を有する分散染料である、請求項1に記載の着色分散液。
【請求項10】
上記アントラキノン骨格を有する分散染料が、下記式(4)で表される染料である、請求項9に記載の着色分散液。
【化4】
(式(4)中、R
5は置換基を表す。pは0~6の整数を表す。)
【請求項11】
上記式(4)で表される分散染料が、C.I.DisperseRed60である、請求項10に記載の着色分散液。
【請求項12】
上記式(1)で表される化合物が、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物である、請求項11に記載の着色分散液。
【請求項13】
上記ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物である、請求項12に記載の着色分散液。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の着色分散液を含む、インクジェット捺染用インク。
【請求項15】
請求項14に記載のインクジェット捺染用インクと、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクからなる群から選択される少なくとも1つのインクとを含む、インクセット。
【請求項16】
請求項14に記載のインクジェット捺染用インク、または請求項15に記載のインクセットを用いて捺染した疎水性繊維。
【請求項17】
請求項14に記載のインクジェット捺染用インク、あるいは請求項15に記載のインクセットのいずれかを用い、インクジェットプリンタにより疎水性繊維に付着させる工程Aと、工程Aにより付着させたインク組成物の液滴中の着色剤を熱により繊維に固着させる工程Bと、繊維中に残存する未固着の着色剤を洗浄する工程Cと、を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色分散液、インクジェット捺染用インク、インクセット、捺染した疎水性繊維、及び疎水性繊維の捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリントは情報のデジタル化が進む中で、オフィス、家庭用の印刷機として広く普及しているが、近年では更に商業印刷やテキスタイルプリント等への応用展開も数多く進められている。そしてインクジェットのプリントの用途が広がっていくのに伴い、インクに用いる着色材も従来の酸性染料あるいは直接染料などの水溶性染料から、分散染料や顔料等の水不溶性色材など用途に応じて様々な色材が使用されるようになってきた。
【0003】
一方、分散染料はポリエステル等の疎水性繊維の工業染色に広く利用されており、水不溶性の染料を染浴中あるいは色糊中に分散させ、染色に使用される。染料は高温条件下、繊維内部へ浸透拡散し、繊維染料間の水素結合や分子間力等により染着する。染料の分散性、特に高温での分散性が劣ると、高温染浴中で染料の凝集が生じ、繊維上でスペックを発生しやすい。
【0004】
そして分散染料を用いたポリエステル繊維のインクジェットプリントも行われており(例えば非特許文献1、非特許文献2参照)、主に繊維へ染料インクを付与(プリント)した後、スチーミング等の熱処理により染料を染着させるダイレクトプリント法と、中間記録媒体(専用の転写紙)に染料インクを付与(プリント)した後、熱により染料を中間記録媒体側から繊維側へ昇華転写させる熱転写プリント法が実用化されている。
【0005】
これらのプリントに用いる分散染料のインクの着色成分である着色分散液分散化には、分散化工程でビーズミルなどにより数十nm~サブミクロンサイズに粉砕した水不溶性又は難溶性の分散染料を、分散剤を用いて水系溶媒中へ分散させる。水系溶媒中で分散染料が沈降したり、分散染料由来の異物を生じたりせずに良好な分散状態を維持するためには分散剤が必要となる。近年、分散染料を用いたインクの保存安定性向上が非常に求められている。そのためには、着色成分である着色分散液の保存安定性向上とインク化耐性が求められる。インク化耐性とは、着色分散液にインクに使用される着色分散液以外の成分を加えた際に、着色分散液の極性と異なる極性の成分が加えられることによるショックにより、分散安定性が著しく低下することを言う。
【0006】
分散染料の分散剤としては、これまでアニオン系分散剤(例えば特許文献1、特許文献2参照)や、直鎖アルキルのエチレンオキサイド付加物(例えば特許文献3)などが用いられていたが、着色分散液、インク組成物の沈降安定性、保存安定性およびインク組成物のプリンタからの吐出安定性を満足できるものはなかった。また、これら以外に、ナフタレンスルホン酸やリグニンスルホン酸などの分散剤も用いられている。これらの分散剤は、ナフタレンやアントラセン、フェナントレンなどの石炭由来の化合物をスルホン化処理し、ホルムアルデヒドによりホルマリン縮合物を形成し、高分子化して分散剤として使用してきた(特許文献1参照)が、近年求められているインクのライフを達成するために必要なインクの保存安定性や、着色分散液の保存安定性、インク化耐性をクリアできないのが現状である。
【0007】
しかしながら、このような高分子の構成単位がスルホン化のみの分散剤では、種々の極性値に制御することは困難であり、種々の極性値を有する分散染料に対して、長期間高温保存下に曝された場合における分散安定性を十分に維持することが困難であった。
【0008】
特許文献5では、所望の極性(リテンションタイム)を有する分散剤を複数組み合わせて、分散染料の極性(リテンションタイム)の範囲を包含することで、長期間高温保存下に曝された場合における分散安定性を向上させる検討がされているが、それでも近年強く要望されているライフを向上させるためには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-291235号公報
【文献】特開平8-333531号公報
【文献】特開2003-246954号公報
【文献】特開平8-291266号公報
【文献】特開2018-154790号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】日本画像学会誌第41巻第2号第68頁~第74頁(2002)
【文献】染織経済新聞2004年1月28日号18頁~21頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、優れた初期粒子径、経時粒子径を有する着色分散液、優れた保存安定性を有するインクジェット捺染用インク、インクセット、捺染した疎水性繊維、及び疎水性繊維の捺染方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、水不溶性着色剤、特定の構造を有する分散剤、水、を含み、前記分散剤を1以上含有する着色分散液が、上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち本発明は、1)~21)に関する。
1)
水不溶性着色剤、分散剤、水、を含み、
前記分散剤が、下記式(1)で表される化合物を1以上含む、着色分散液。
【0014】
【0015】
式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。nは1~500の整数を表す。Mはそれぞれ独立に、水素、金属イオン、アンモニウムイオンを表す。
2)
上記水不溶性着色剤が、水不溶性染料である、1)に記載の着色分散液。
3)
上記水不溶性染料が、分散染料である、2)に記載の着色分散液。
4)
上記分散染料が、クマリン骨格を有する分散染料、アゾ骨格を有する分散染料、アントラキノン骨格を有する分散染料、から選択される少なくとも一種の分散染料である、3)に記載の着色分散液。
5)
上記分散染料が、クマリン骨格を有する分散染料である、3)に記載の着色分散液。
6)
上記クマリン骨格を有する分散染料が、下記式(2)で表される分散染料である、5)に記載の着色分散液。
【0016】
【0017】
式(2)中、R3は置換基を表す。mは0~3の整数を表す。
7)
上記式(2)で表される分散染料が、C.I.Disperse Yellow 232である、6)に記載の着色分散液。
8)
上記分散染料が、アゾ骨格を有する分散染料である、3)に記載の着色分散液。
9)
上記アゾ骨格を有する分散染料が、下記式(3)で表される分散染料である、8)に記載の着色分散液。
【0018】
【0019】
式(3)中、R4は置換基を表す。nは0~6の整数を表す。
10)
上記式(3)で表される分散染料が、C.I.Disperse Orange 25である、9)に記載の着色分散液。
11)
上記分散染料が、アントラキノン骨格を有する分散染料である、3)に記載の着色分散液。
12)
上記アントラキノン骨格を有する分散染料が、下記式(4)で表される染料である、11)に記載の着色分散液。
【0020】
【0021】
式(4)中、R5は置換基を表す。pは0~6の整数を表す。
13)
上記式(4)で表される分散染料が、C.I.Disperse Red 60である、12)に記載の着色分散液。
14)
さらに、アニオン分散剤を含む、1)乃至13)のいずれか一項に記載の着色分散液。
15)
上記アニオン分散剤が、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物である、14)に記載の着色分散液。
16)
上記ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物が、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物である、15)に記載の着色分散液。
17)
さらに、フィトステロール化合物を含む、1)乃至16)のいずれか一項に記載の着色分散液。
18)
1)乃至17)のいずれか一項に記載の着色分散液を含む、インクジェット捺染用インク。
19)
18)に記載のインクジェット捺染用インクと、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクからなる群から選択される少なくとも1つのインクとを含む、インクセット。
20)
18)に記載のインクジェット捺染用インク、または19)に記載のインクセットを用いて捺染した疎水性繊維。
21)
18)に記載のインクジェット捺染用インク、あるいは19)に記載のインクセットのいずれかを用い、インクジェットプリンタにより疎水性繊維に付着させる工程Aと、工程Aにより付着させたインク組成物の液滴中の着色剤を熱により繊維に固着させる工程Bと、繊維中に残存する未固着の着色剤を洗浄する工程Cと、を含む疎水性繊維の捺染方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、優れた初期粒子径、経時粒子径を有する着色分散液、優れた保存安定性を有するインクジェット捺染用インク、インクセット、インクセットを用いて捺染した疎水性繊維、及び疎水性繊維の捺染方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(着色分散液)
本発明の着色分散液は少なくとも水不溶性着色剤、分散剤、水、を含み、前記分散剤が、上記式(1)で表される化合物を1以上含む、着色分散液である。分散剤として、上記式(1)で表される化合物を1以上含ませることにより、着色分散液の初期分散性(初期粒子径)、保存安定性(経時粒子径)を向上させることができる。
【0025】
上記式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-オクチル基等の直鎖アルキル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の分岐鎖アルキル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基等が挙げられ、炭素数1~5の直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1~4の直鎖アルキル基であることがさらに好ましい。
【0026】
上記式(1)中、nは1~500の整数を表し、1~300であることが好ましく、1~150であることがさらに好ましく、1~100であることが特に好ましく、1~75であることが殊に好ましく、1~70であることが極めて好ましい。また、上記式(1)で表される化合物は、一種単独、あるいは二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
上記式(1)中、Mはそれぞれ独立に、水素、金属イオン、アンモニウムイオンを表し、Mはそれぞれ同じであってもよく、異なっていても良い。例えば、Mが水素の場合は、スルホン酸(-SO3H)となる。
【0028】
上記金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、等が挙げられ、ナトリウムイオンであることが好ましい。Mがナトリウムイオンの場合は、スルホン酸ナトリウム塩(-SO3Na)となる。
【0029】
上記アンモニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラ-n-ブチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
上記式(1)で表される化合物としては、市販されたものを用いても、合成したものを用いてもよく、市販されているものとしては、例えば、モルウェット(登録商標)D-425パウダー、モルウェット(登録商標)D-400パウダー、モルウェット(登録商標)D-809パウダー(以上、ライオン・アクゾ株式会社製)、ポリティ(登録商標)N-100K(ライオン株式会社製)、Supragil(登録商標)MNS/90、Supragil(登録商標)RM/210-EI(以上、ローディア日華株式会社製)などが挙げられる。上記式(1)で表される化合物は、単独、あるいは複数種を混合して用いることが可能である。
上記モルウェット(登録商標)D-425パウダーは、上記式(1)で表される化合物におけるnが1~67のいずれか整数で表される化合物を複数含む混合物である。
【0031】
上記式(1)で表される化合物の合成方法としては、特に限定されないが、例えば、スルホ基、炭素数が1~6のアルキル基、及びこれらの塩のような置換基を有する芳香族化合物に対してホルムアルデヒドを添加し、前記芳香族化合物をホルムアルデヒドで重合する工程とを有する方法が挙げられる。
【0032】
上記ホルムアルデヒドの使用量は、特に限定されないが、例えば、前記置換基R1を有する芳香族化合物(例えば、メチルナフタレンスルホン酸)及び前記置換基R2を有する芳香族化合物(例えば、メチルナフタレンスルホン酸)の合計1molに対して、0.5~1.5molとすることができる。
【0033】
ホルムアルデヒドを用いた重合の反応温度は、特に限定されないが、例えば、90~100℃とすることができる。また、ホルムアルデヒドの添加時間は、特に限定されないが、例えば、2~3時間とすることができる。さらに、反応時間は、特に限定されないが、例えば、10時間程度とすることができる。
【0034】
反応後の分散剤の回収・精製方法としては、特に限定されないが、例えば、減圧下で未反応成分及び溶媒を除去する方法、その他、公知の精製方法を用いることができる。
【0035】
(併用可能な分散剤)
上記式(1)で表される分散剤と、上記式(1)で表される分散剤以外の分散剤を併用することもできる。前記分散染料に対する分散剤総量の質量比(分散剤総量/分散染料)は、1/10~10の範囲であることが好ましく、1/5~5がより好ましく、1/5~3がさらに好ましい。上記範囲内であることにより、分散染料と溶媒の両方に対する親和性の向上効果が適切に発揮され、長期間高温保存下に曝されても分散染料の分散安定性がより向上する傾向にある。
【0036】
さらに、上記着色分散液中の分散剤総量は、水不溶性着色剤総量に対して、好ましくは1~120質量%であり、より好ましくは10~100質量%であり、さらに好ましくは20~80質量%である。
【0037】
上記式(1)で表される分散剤以外の分散剤としては、水不溶性着色剤、インクジェット捺染用インクが含有する染料を分散できる物質であれば特に制限されない。そのような物質の例としては公知の分散剤、界面活性剤、及び樹脂分散剤等が挙げられる。また、分散剤と界面活性剤は単に呼称のみが異なり、具体的には同じ物質を指すこともある。分散剤の種類としては、アニオン分散剤、ノニオン分散剤、カチオン分散剤、両性分散剤等が挙げられる。これらの分散剤は、いずれも単独で使用することも、複数を併用することもできる。これらの中では、アニオン分散剤及びノニオン分散剤から選択される、少なくとも1種類の分散剤が好ましく、アニオン分散剤を含むことがさらに好ましく、アニオン分散剤とノニオン分散剤をそれぞれ含むことが特に好ましい。
【0038】
アニオン分散剤としては、例えば、高分子スルホン酸、好ましくは芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸のホルマリン縮合物又はこれらの塩、若しくはそれらの混合物(以下、特に断りの無い限り「スルホン酸のホルマリン縮合物」と記載したときは、「これらの塩、若しくはそれらの混合物」も含む意味とする。)等が好ましい。「これらの塩」としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等の塩が挙げられる。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としては、例えば、クレオソート油スルホン酸;クレゾールスルホン酸;フェノールスルホン酸;β-ナフタレンスルホン酸;β-ナフトールスルホン酸;β-ナフタリンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸;クレゾールスルホン酸と2-ナフトール-6-スルホン酸;リグニンスルホン酸;等のホルマリン縮合物が挙げられる。これらの中では、クレオソート油スルホン酸;β-ナフタレンスルホン酸;リグニンスルホン酸;の各ホルマリン縮合物が好ましい。これらは様々な商品名の市販品として入手することができる。その一例として、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールN;クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールC;特殊芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物としてはデモールSN-B(いずれも花王株式会社製);等が挙げられる。クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンWシリーズ;メチルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物としては、ラベリンANシリーズ(いずれも第一工業製薬株式会社製);等が挙げられる。これらの中ではデモールN、ラベリンANシリーズ、ラベリンWシリーズが好ましく、デモールN、ラベリンWがより好ましく、ラベリンWがさらに好ましい。リグニンスルホン酸としては、例えばバニレックスN、バニレックスRN、バニレックスG、パールレックスDP(いずれも日本製紙株式会社製)等が挙げられる。これらの中ではバニレックスRN、バニレックスN、バニレックスGが好ましい。
【0039】
ノニオン分散剤としては、例えば、フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物、コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、及び、これらの置換誘導体等が挙げられる。これらの中では、フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物、コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物が好ましい。フィトステロール類のアルキレンオキサイド付加物としては、フィトステロール類のC2-C4アルキレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド付加物がより好ましい。本明細書において「フィトステロール類」と記載したときは、フィトステロール及び/又は水添フィトステロールの両者を含む意味である。例えばフィトステロール類のエチレンオキサイド付加物としては、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物及び/又は水添フィトステロールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。コレスタノール類のアルキレンオキサイド付加物としては、コレスタノール類のC2-C4アルキレンオキサイド付加物が好ましく、エチレンオキサイド付加物がより好ましい。本明細書において「コレスタノール類」と記載したときは、コレスタノール類及び/又は水添コレスタノール類の両者を含む意味である。例えばコレスタノール類のエチレンオキサイド付加物としてはコレスタノールのエチレンオキサイド付加物及び/又は水添コレスタノールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。フィトステロール類又はコレスタノール類1モル当たりのアルキレンオキサイド(好ましくはC2-C4アルキレンオキサイド、より好ましくはエチレンオキサイド)の付加量は、10~50モル程度で、HLBが13~20程度のものが好ましい。これらの具体例としては、例えば、NIKKOL BPS-20、NIKKOL BPS-30(フィトステロールのエチレンオキサイド付加物);NIKKOL BPSH-25(水素添加フィトステロールのエチレンオキサイド付加物);及び、NIKKOL DHC-30(コレスタノールのエチレンオキサイド付加物);等が挙げられる。
【0040】
カチオン分散剤としては、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0041】
両性分散剤としては、例えば、カルボキシベタイン類、スルホベタイン類、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。
【0042】
樹脂分散剤としてはアニオン分散剤として使用できる共重合体が挙げられる。樹脂分散剤の好ましいものとしては、芳香族炭化水素基を含む化合物と(メタ)アクリル酸(エステル)との共重合体;芳香族炭化水素基を含む化合物と、(メタ)アクリル酸(エステル)、及び(無水)マレイン酸の共重合体;等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸(エステル)」とは、本明細書においてアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及びメタクリル酸エステルを含む意味として、また「(無水)マレイン酸」とは、無水マレイン酸とマレイン酸を含む意味として、それぞれ用いる。芳香族炭化水素基を含む化合物と(メタ)アクリル酸(エステル)の共重合体としては、親水性部分と疎水性部分とを分子中に有する共重合体が好ましく挙げられる。芳香族炭化水素基を含む化合物と(メタ)アクリル酸(エステル)とを共重合するとき、後者としては単一の化合物を使用することもできるし、複数の化合物を併用することもできる。また、共重合を行うときに、(無水)マレイン酸を加えて、芳香族炭化水素基を含む化合物、(メタ)アクリル酸(エステル)、及び(無水)マレイン酸の共重合体とすることもできる。染料との相互作用を強くする目的で、共重合体が分子中に有する疎水性部分としては芳香族炭化水素基を含む化合物を用いるのが好ましい。その芳香族炭化水素基としてはフェニル基、フェニレン基、ナフチル基、ナフタレン-ジイル基が好ましく、フェニル基又はフェニレン基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。これらの共重合体の具体例としては、(α-メチル)スチレン-アクリル酸共重合体、(α-メチル)スチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリル酸共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、(α-メチル)スチレン-(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、(α-メチル)スチレン-アクリル酸エステル-(無水)マレイン酸共重合体、アクリル酸エステル-アリルスルホン酸エステル共重合体、アクリル酸エステル-スチレンスルホン酸共重合体、(α-メチル)スチレン-メタクリルスルホン酸共重合体、ポリエステル-アクリル酸共重合体、ポリエステル-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、ポリエステル-メタクリル酸共重合体、ポリエステル-メタクリル酸-アクリル酸共重合体エステル;等が挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素基を含む化合物がスチレンのものが好ましい。なお(α-メチル)スチレンとは本明細書においてα-メチルスチレン、及びスチレンを含む意味として用いる。これらの共重合体の具体例としては、例えばBASF社製の、ジョンクリル67、68、586、611、678、680、682、683、690等が挙げられる。これらの中ではジョンクリル68、678、682、683、690が好ましい。
【0043】
前記以外の樹脂分散剤としては、スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマール酸及びその誘導体、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選択される、少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性又は水溶性単量体)からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びグラフト共重合体、及び/又はこれらの塩等が挙げられる。
【0044】
(水不溶性着色剤)
本発明で用いられる水不溶性着色剤は、水不溶性の着色剤として使用できるものであれば特に制限はなく使用できる。例えば、公知の分散染料、油溶性染料、カーボンブラック及び有機顔料などを用いることができるが、好ましくは水不溶性染料、最も好ましくは分散染料を用いる。
【0045】
具体的には、C.I.Disperse Yellow 3、4、5、7、8、9、13、23、24、30、33、34、39、42、44、49、50、51、54、56、58、60、63、64、66、68、71、74、76、79、82、83、85、86、88、90、91、93、98、99、100、104、114、116、118、119、122、124、126、135、140、141、149、160、162、163、164、165、179、180、182、183、186、192、198、199、200、202、204、210、211、215、216、218、224、232、237、C.I.Disperse Orange 1、1:1、3、5、7、11、13、17、20、21、23、25、29、30、31、32、33、37、38、42、43、44、45、47、48、49、50、53、54、55、56、57、58、59、60、61、66、71、73、76、78、80、86、89、90、91、93、96、97、118、119、127、130、139、142、C.I.Disperse Red 1、4、5、7、11、12、13、15、17、27、43、44、50、52、53、54、55、55:1、56、58、59、60、65、70、72、73、74、75、76、78、81、82、86、88、90、91、92、93、96、103、105、106、107、108、110、111、113、117、118、121、122、126、127、128、131、132、134、135、137、143、145、146、151、152、153、154、157、158、159、164、167、169、177、179、181、183、184、185、188、189、190、191、192、200、201、202、203、205、206、207、210、221、224、225、227、229、239、240、257、258、277、278、279、281、283、288、298、302、303、310、311、312、320、323、324、328、359、364、C.I.Disperse Violet 1、4、8、11、17、23、26、27、28、29、31、33、35、36、38、40、43、46、48、50、51、52、56、57、59、61、63、69、77、97、C.I.Disperse Green9、C.I.Disperse Brown 1、2、4、9、13、19、C.I.Disperse Blue 3、5、7、9、14、16、19、20、26、26:1、27、35、43、44、54、55、56、58、60、62、64、64:1、71、72、72:1、73、75、77、79、79:1、82、83、87、91、93、94、95、96、102、106、108、112、113、115、118、120、122、125、128、130、131、139、141、142、143、145、146、148、149、153、154、158、165、165:1、165:2、167、171、173、174、176、181、183、185、186、187、189、197、198、200、201、205、207、211、214、224、225、257、259、266、267、270、281、284、285、287、288、291、293、295、297、301、315、330、333、341、353、354、358、359、360、364、365、366、368、C.I.Disperse Brack 1、3、10、24、C.I.Solvent Yellow 114、C.I.Solvent Orange 67、C.I.Solvent Red 146、C.I.Solvent Blue 36、63、83、105、111、C.I.Reactive Yellow 2、3、18、81、84、85、95、99、102、C.I.Reactive Orange5、9、12、13、35、45、99、C.I.Reactive Brown 2、8、9、17、33、C.I.Reactive Red 3、3:1、4、13、24、29、31、33、125、151、206、218、226、C.I.Reactive Violet 1、24、C.I.Reactive Blue 2、5、10、13、14、15、15:1、49、63、71、72、75、162、176、C.I.Reactive Green 5、8、19、C.I.Reactive Black 1、8、23、39、C.I.Direct Yellow2、3、4、9、10、11、12、13、15、16、50、66、73、84、86、87、88、89、91、110、127、128、129、130、132、138、139、141、142、145、C.I.Direct Orange 20、25、35、38、39、41、C.I.Direct Brown 187、195、196、202、208、209、210、213、C.I.Direct Red 76、88、89、92、101、209、220、222、224、225、226、227、234、235、238、240、243、245、247、C.I.Direct Blue52、55、57、76、80、84、86、87、92、102、105、106、108、110、112、197、199、200、202、205、220、231、233、235、237、238、240、245、248、250、C.I.Direct Green 55、57、59、60、77、80、82、90、C.I.Direct Black 12、19、20、22、23、105、107、110、112、115、117、120、125、129、132、135、136等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
上記顔料とは、水、有機溶剤等に不溶の白色または有色の紛体であり、有機顔料と無機顔料がある。本発明においては、有機顔料であっても無機顔料であっても良いが、有機顔料である場合が好ましい。具体的には、C.I.Pigment Yellow 74、120、128、138、151、185、217、C.I.Pigment Orange 13、16、34、43、C.I.Pigment Red122、146、148、C.I.Pigment Violet 19、23、C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:5、15:6、C.I.Pigment Green 7、8等を挙げることができる。
なお、本発明においては、染料がより好ましい。
【0047】
上記着色材は、粉末状あるいは塊状の乾燥着色材でも、ウエットケーキやスラリーでも良く、色材合成中や合成後に色材粒子の凝集を抑える目的で界面活性剤等の分散剤が少量含有されたものであっても良い。市販のこれらの着色材には、工業染色用、樹脂着色用、インキ用、トナー用、インクジェット用などのグレードがあり、製造方法、純度、顔料の粒径等がそれぞれ異なる。粉砕後の凝集性を抑えるには着色材としてはより粒子の小さいものが好ましく、また分散安定性及びインクの吐出精度への影響からできるだけ不純物などの少ないものが好ましい。染料においてはブルー系染料を主体にオレンジ系染料及びレッド系染料を配合する事でブラック用の着色材として用いることができる。また色調調整の範囲内で他の水不溶性着色材を少量含んでも良い。
【0048】
上記水不溶性着色剤は配合しても良く、例えば、ブラックインクの調製においては、ブルー水不溶性着色剤を主体にオレンジ水不溶性着色剤、及びレッド水不溶性着色剤を適宜配合してブラック色に調色し、これをブラック水不溶性着色剤として用いることができる。また、例えばブルー、オレンジ、レッド、バイオレット、又はブラック等の色調を、より好みの色調に微調整する目的で複数の水不溶性着色剤を配合しても良い。
【0049】
上記分散染料は、クマリン骨格を有する分散染料、アゾ骨格を有する分散染料、アントラキノン骨格を有する分散染料、キノフタロン骨格を有する分散染料、チオインジゴ骨格を有する分散染料から選択される少なくとも一種の分散染料であることが好ましく、クマリン骨格を有する分散染料、アゾ骨格を有する分散染料またはアントラキノン骨格を有する分散染料から選択される少なくとも一種の分散染料であることがさらに好ましい。
【0050】
(クマリン骨格を有する分散染料)
上記分散染料の好ましい形態として、クマリン骨格を有する分散染料であり、かつ、上記式(2)で表されることが挙げられる。
【0051】
上記式(2)中、R3は置換基を表し、mは0~3の整数を表す。
【0052】
上記式(2)中、R3としては、例えば、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ハロゲン原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基、複素環基、置換あるいは非置換アミノ基、アルコキシル基、アリールオキシ基等が挙げられる。炭素数1~8のアルキル基としては、上記式(1)で述べたものと同じで良い。
【0053】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられ、塩素原子であることが好ましい。
【0054】
上記炭素数6~24の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレセニル基、アントラセニル基、等が挙げられる。また、上記炭素数6~24の芳香族炭化水素基は、さらに任意の置換基を有していても良い。
【0055】
上記複素環基としては、例えば、チオフェニル基、フラン基、ピリジニル基、ピペラジ二ル基、チアゾール基、チアジアゾール基、アゾール基等の複素環基が挙げられる。また、上記複素環基は、さらに任意の置換基を有していても良い。
【0056】
上記置換あるいは非置換アミノ基としては、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基等が挙げられ、ジエチルアミノ基であることが好ましい。また、上記のうち置換アミノ基は、さらに任意の置換基を有していても良い。
【0057】
上記アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等が挙げられる。また、上記アルコキシル基は、さらに任意の置換基を有していても良い。
【0058】
上記アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられる。また、上記アリールオキシ基は、さらに任意の置換基を有していても良い。
【0059】
上記式(2)中、mは1~3であることが好ましく、2~3であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0060】
上記式(2)で表される分散染料が、C.I.Disperse Yellow 232であることが、極めて好ましい。
【0061】
(アゾ骨格を有する分散染料)
上記分散染料の好ましい形態として、アゾ骨格を有する分散染料であり、かつ、上記式(3)で表されることが挙げられる。
【0062】
上記式(3)中、R4は置換基を表し、nは0~6の整数を表す。
【0063】
上記式(3)中、R4としては、上記式(2)で述べたR3と同じで良く、ニトロ基または置換基を有していても良いジエチルアミノ基であることが好ましく、ニトロ基またはシアノ基1つを置換基として有するジエチルアミノ基であることがさらに好ましい。
【0064】
上記式(3)中、nは1~4であることが好ましく、1~3であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
【0065】
上記式(3)で表される分散染料が、C.I.Disperse Orange 25であることが、極めて好ましい。
【0066】
(アントラキノン骨格を有する分散染料)
上記分散染料の好ましい形態として、アントラキノン骨格を有する分散染料であり、かつ、上記式(4)で表されることが挙げられる。
【0067】
上記式(4)中、R5は置換基を表し、pは0~6の整数を表す。
【0068】
上記式(4)中、R5としては、上記式(2)で述べたR3と同じで良く、アミノ基、ヒドロキシ基、フェノキシ基であることが好ましい。
【0069】
上記式(4)中、pは1~4であることが好ましく、2~4であることがさらに好ましく、3であることが特に好ましい。
【0070】
上記式(4)で表される分散染料が、C.I.Disperse Red60であることが、極めて好ましい。
【0071】
上記着色分散液に用いる分散染料としては、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Disperse Yellow 232、C.I.Disperse Red 60、C.I.Disperse Red 364、C.I.Disperse Orange 25、C.I.Disperse Orange 60、C.I.Disperse Blue 359、C.I.Disperse Blue 360であることが好ましい。
【0072】
上記着色剤は、単独、あるいは複数を配合して用いることが可能であり、目的に応じて配合調製することも可能である。
【0073】
上記分散剤(1)の含有量の総量は、上記水不溶性着色剤総量に対して、好ましくは1~120質量%であり、より好ましくは10~100質量%であり、さらに好ましくは20~80質量%である。また、上記着色分散液は水を含む。
【0074】
(その他成分)
上記着色分散液は、その他成分として、後述する防腐防黴剤や消泡剤等の添加物をさらに含んでいても良い。
【0075】
(インクジェット捺染用インク)
上記着色分散液を含むインクジェット捺染用インクも本願発明に含まれる。インクジェット捺染用インクには、上記着色分散液以外として、必要に応じてインク調製剤を含有することができる。インク調製剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、表面張力調整剤、消泡剤、水等の公知の添加剤が挙げられる。これらのうち、水溶性有機溶剤の含有量は合計で、インクの総質量に対して通常0%~60%、好ましくは5%~40%、より好ましくは10%~35%、さらに好ましくは10%~20%である。水溶性有機溶剤以外のインク調製剤の含有量は合計で、インクの総質量に対して通常0~10%程度であり、好ましくは0.05~5%程度である。
【0076】
水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1-C4アルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジン-2-オン又は1,3-ジメチルヘキサヒドロピリミド-2-オン等の複素環式ケトン;アセトン、メチルエチルケトン、2-メチル-2-ヒドロキシペンタン-4-オン等のケトン又はケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオジグリコール等のC2-C6アルキレン単位を有するモノ、オリゴ、若しくはポリアルキレングリコール又はチオグリコール;グリセリン、ヘキサン-1,2,6-トリオール、トリメチロールプロパン等のポリオール(好ましくはトリオール);エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールのC1-C4モノアルキルエーテル;γ-ブチロラクトン;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0077】
水溶性有機溶剤としては、例えば、常温で固体の物質も含まれる。すなわち、室温では固体であっても水溶性を示す物質であって、その物質を含有する水溶液が水溶性有機溶剤と同様の性質を示し、同じ効果を期待して使用することができる物質は、本明細書においては水溶性有機溶剤とする。そのような物質としては、例えば、固体の多価アルコール類、糖類、及びアミノ酸類等が挙げられる。
【0078】
防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソジウムピリジンチオン-1-オキサイド、ジンクピリジンチオン-1-オキサイド、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、1-ベンズイソチアゾリン-3-オンのアミン塩、アーチケミカルズ社製プロクセルGXL(S)等が挙げられる。
【0079】
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを6.0~11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。pH調整剤としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の元素の周期表における第1族元素の炭酸塩;タウリン等のアミノスルホン酸等が挙げられる。
【0080】
キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0081】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0082】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物が挙げられる。また、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤等も使用できる。
【0083】
粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。
【0084】
染料溶解剤としては、例えば、尿素、ε-カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0085】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類等が挙げられる。金属錯体系としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。
【0086】
表面張力調整剤としては、界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の種類としては、例えば、アニオン、カチオン、両性、ノニオン、シリコーン系、及びフッ素系等が挙げられる。
【0087】
アニオン界面活性剤としては、アルキルスルホカルボン酸塩;α-オレフィンスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩;N-アシルアミノ酸又はその塩;N-アシルメチルタウリン塩;アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩;アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩;ロジン酸石鹸;ヒマシ油硫酸エステル塩;ラウリルアルコール硫酸エステル塩;アルキルフェノール型燐酸エステル;アルキル型燐酸エステル;アルキルアリールスルホン酸塩;ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等のスルホ琥珀酸系;等が挙げられる。これらの界面活性剤は、多様な種類が市販されている。その一例としては、例えば、ライオン株式会社製、商品名リパール835I、同860K、同870P、同NTD、同MSC;アデカ株式会社製、商品名アデカコールEC8600;花王株式会社製 商品名ペレックスOT-P、同CS、同TA、同TR;新日本理化株式会社製、リカマイルドES-100、同ES-200、リカサーフP-10、同M-30、同M-75、同M-300、同G-30、同G-600;東邦化学工業株式会社製、コハクノールL-300、同L-40、同L-400、同NL-400;等が挙げられる。
【0088】
カチオン界面活性剤としては、2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0089】
両性界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0090】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物が挙げられ、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物であることが好ましい。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学社製、商品名サーフィノール104、105、82、465、オルフィンSTG等;ポリグリコールエーテル系(例えばSIGMA-ALDRICH社製のTergitol 15-S-7等)等が挙げられる。
【0091】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、いずれもビックケミー社製の、BYK-347(ポリエーテル変性シロキサン);BYK-345、BYK-348(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)等が挙げられる。
【0092】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、Zonyl TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、Capstone FS-30、FS-31(DuPont社製);PF-151N、PF-154N(オムノバ社製)等が挙げられる。
【0093】
消泡剤としては、例えば、高酸化油系、グリセリン脂肪酸エステル系、フッ素系、シリコーン系化合物等が挙げられる。
【0094】
上記インクジェット捺染用インクは、水を含有する。インクの調製に用いる水は、イオン交換水、蒸留水等の不純物が少ないものが好ましい。また、調製したインクに対してメンブランフィルター等を用いた精密濾過を行うことができる。上記インクをインクジェットインクとして使用するときは、ノズルの目詰まり等を防止する目的で、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は通常1μm~0.1μm、好ましくは0.8μm~0.1μmである。
【0095】
上記インクジェット捺染用インクの調製方法は特に制限されないが、例えば、着色剤の分散溶液又は溶液を調製した後に、水溶性有機溶剤等のインク調製剤を加える方法等が挙げられる。着色剤の水性分散液を調製する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて、分散液を構成する各成分を撹拌混合する等の公知の方法が挙げられる。着色剤の分散液を調製するときに、発泡が生じることがある。このため、必要に応じてシリコーン系;アセチレンアルコール系;等の消泡剤を、分散液の調製時に添加してもよい。但し、消泡剤には染料等の分散・微粒子化を阻害するものもあるため、微粒子化や分散液の安定性等に影響を及ぼさないものを使用するのが好ましい。好ましい消泡剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製のオルフィンシリーズ(SK-14等);エアープロダクツジャパン株式会社製のサーフィノールシリーズ(104、DF-110D等);等が挙げられる。
【0096】
上記インクジェット捺染用インクを調製する方法としては、例えば、上記の水性分散液、水溶性有機溶剤、及び必要に応じてインク調製剤等を加えて混合する方法等が挙げられる。これらを混合する順番は特に制限されない。これらインク調製剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で添加してもよい。
【0097】
上記インクジェット捺染用インク中に含有する水性分散液の含有量としては、水性インク組成物の総質量に対して、いずれも質量基準で通常2~35%、好ましくは3~30%、より好ましくは5~30%である。また、同様に水性有機溶剤の含有量は通常10~50%、好ましくは15~50%、より好ましくは20~50%、さらに好ましくは30~50%である。また、同様にインク調製剤の含有量としては、水性インク組成物の総質量に対して、インク調整剤の合計で通常0~25%、好ましくは0.01~20%である。
【0098】
上記インクジェット捺染用インクは、高速での吐出応答性の点より25℃における粘度はE型粘度計にて測定したときに通常3~20mPa・s程度であるのが好ましい。また表面張力は、プレート法にて測定したときに通常20~45mN/mの範囲が好ましい。なお、実際には、使用するプリンタの吐出量、応答速度、インク液滴飛行特性などを考慮し適切な物性値に調整することが好ましい。
【0099】
(インクセット)
上記インクジェット捺染用インクと他のインクとのインクセットも本願発明に含まれる。上記インクジェット捺染用インクのインクセットとしては、上記インクジェット捺染用インクと異なる色調のインクとのインクセットとすることが好ましく、例えば、上記インクジェット捺染用インクと、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクからなる群から選択される少なくとも1つのインクとを含むインクセットが好ましい。
【0100】
(疎水性繊維)
上記インクジェット捺染用インク、または上記インクセットを用いて捺染した疎水性繊維も本願発明に含まれる。上記疎水性繊維の具体例としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド等の各樹脂、及びこれらの樹脂を2種類以上含有する樹脂等が挙げられる。疎水性樹脂を含有する繊維としては、前記の樹脂からなる繊維、及び、これらの繊維とレーヨン等の再生繊維、木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡繊維も、本明細書においては疎水性樹脂を含有する繊維に含まれる。繊維の中には、インク受容層(滲み防止層)を有するものも知られており、そのような繊維も前記の捺染方法に使用することができる。インク受容層を有する繊維は公知の方法で調製することも、また、市販品として入手することもできる。インク受容層の材質や構造等は特に限定されず、目的等に応じて適宜使用することができる。疎水性樹脂を含有する繊維の構造物である布帛の具体例としては、例えば、サテン、トロピカル、ダブルピケ、マイクロファイバー等が挙げられる。疎水性樹脂を含有するフィルム、及びシートとしては、PETフィルム、PETシート;疎水性樹脂がコーティングされた布帛、ガラス、金属、陶器;等が挙げられる。なお、「PET」は「ポリエチレンテレフタレート」を意味する。
【0101】
(疎水性繊維の捺染方法)
前記の染色方法は、繊維又は物質の染色方法であり、2つの種類に大別される。1つ目の方法は、ダイレクトプリント又はダイレクト捺染等と呼称される繊維の染色方法である。この方法は、前記インクの液滴を、インクジェットプリンタにより疎水性樹脂を含有する繊維に付着させ、文字及び絵柄等の画像情報を繊維に形成する工程Aと、前記工程Aにより付着させたインクの液滴中の染料を熱により該繊維に固着させる工程Bと、該繊維中に残存する未固着の染料を洗浄する工程Cと、の3工程を少なくとも含む、繊維の染色方法である。工程Bは、一般的には公知のスチーミング又はベーキングによって行われる。スチーミングとしては、例えば高温スチーマーで通常170~180℃、通常10分程度;また、高圧スチーマーで通常120~130℃、通常20分程度;それぞれ繊維を処理することにより、染料を繊維に染着する方法が挙げられる。ベーキング(サーモゾル)としては、例えば通常190℃~210℃、通常60秒~120秒程度、繊維を処理することにより、染料を繊維に染着する方法が挙げられる。工程Cは、得られた繊維を、温水、及び必要に応じて水により洗浄する工程である。洗浄に使用する温水や水は、界面活性剤を含むことができる。洗浄後の繊維を、通常50~120℃で、5~30分乾燥することも好ましく行われる。
【0102】
前記の捺染方法は、にじみ等を防止する目的で、繊維の前処理工程をさらに含んでもよい。この前処理工程としては、1種類以上の糊材を少なくとも含有し、必要に応じてアルカリ性物質、還元防止剤及びヒドロトロピー剤を含有する水溶液を、インクを付着させる前の繊維に付与する工程が挙げられる。前処理を施す工程としては、糊剤を少なくとも含有する前処理剤の水溶液を前処理液として用い、繊維を前処理液に塗工又は含浸させて付与するのが好ましい。
【0103】
前記糊剤としては、グアー、ローカストビーン等の天然ガム類、澱粉類、アルギン酸ソーダ、ふのり等の海藻類、ペクチン酸等の植物皮類、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉等の加工澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸エステル等の合成糊等があげられる。好ましくはアルギン酸ソーダが挙げられる。
【0104】
前記アルカリ性物質としては、例えば、無機酸又は有機酸のアルカリ金属塩;アルカリ土類金属の塩;並びに加熱した際にアルカリを遊離する化合物が挙げられ、無機又は有機の、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属塩が好ましく、ナトリウム化合物及びカリウム化合物等が挙げられる。具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機化合物のアルカリ金属塩;蟻酸ナトリウム、トリクロル酢酸ナトリウム等の有機化合物のアルカリ金属塩;等が挙げられる。好ましくは、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0105】
前記還元防止剤としては、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。前記ヒドロトロピー剤としては、尿素、ジメチル尿素等の尿素類等が挙げられる。好ましくは尿素である。
【0106】
前記糊剤、アルカリ性物質、還元防止剤、及びヒドロトロピー剤は、いずれも単一の化合物を使用することも、それぞれ複数の化合物を併用することもできる。前処理液の総質量中における各前処理剤の混合比率は、例えば、糊剤が0.5~5%、炭酸水素ナトリウムが0.5~5%、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが0~5%、尿素が1~20%、残部が水である。前処理剤の繊維への付与は、たとえばパディング法が挙げられる。パディングの絞り率は40~90%程度が好ましく、より好ましくは60~80%程度である。
【0107】
2つ目の方法は、昇華転写プリント、昇華転写染色等と呼称される方法である。この方法は、前記インクの液滴を、インクジェットプリンタにより中間記録媒体に付着させ、文字及び絵柄等の画像情報が記録された中間記録媒体を得た後、該中間記録媒体のインクの液滴の付着面と、疎水性樹脂を含有する繊維、フィルム及びシートから選択される物質とを接触させて加熱することにより、中間記録媒体に付着したインクの液滴中の染料を、繊維に昇華転写させて染色を行う物質の染色方法である。中間記録媒体としては、中間記録媒体に付着したインクの液滴中の染料が、その表面で凝集せず、且つ昇華転写を行うときに染料の昇華を妨害しないものが好ましい。そのような中間記録媒体の一例としては、シリカ等の無機微粒子でインク受容層が表面に形成されている紙が挙げられ、インクジェット記録用の専用紙等を用いることができる。中間記録媒体から繊維へ、記録画像を転写するときの加熱方法としては、通常190~200℃程度で乾熱処理する方法が挙げられる。
【0108】
前記の中間記録媒体としては、特に制限はなく、「紙・板紙及びパルプ用語[JIS P 0001:1998(2008年 確認、平成10年3月20日 改正、財団法人日本規格協会 発行)]」中、第28頁~第47頁の「3.分類 f)紙・板紙の品種及び加工製品」に記載された紙・板紙の品種及び加工製品(番号6001~6284。但し、番号6235の「耐油性」、6263「フルート,段」、6273「パルプ成型品」、6276「カーボン紙」、6277「マルチコピーフォーム用紙」、6278「裏カーボンフォーム用紙」を除く);及び、セロハン(以下、「紙・板紙の品種及び加工製品;及び、セロハン」を「紙等」という。)の中から適宜選択することができる。これらの紙等のうち、昇華転写に使用できるものであれば、いずれも中間記録媒体として使用することができる。なお、前記したように、昇華転写を行うときは通常190℃~210℃程度の加熱処理を行う。従って、前記の中間記録媒体のうち、加熱処理のときに安定なものが好ましい。
【0109】
上記インクジェット捺染用インク組成物は、各種分野において使用することができるが、筆記用水性インク、水性印刷インク、情報記録インク、捺染等に好適であり、インクジェット捺染用インクとして用いることが特に好ましい。
【0110】
本発明により、色糊等を用いる従来の捺染方法のように染料の種類や数を無制限に使用せずとも、従来のインクジェット捺染と比較して色再現範囲を拡大することができる。
本発明の分散液は、長期に保管しても固体の凝集や沈殿等を生じることなく、保存安定性が良好である。また、粘度、平均粒子径等の物性の変化も極めて少ない。
また、本発明のインク組成物は発色性に優れるだけでなく、耐光性、耐擦性、耐ガス性、耐塩素性、耐汗性、洗濯堅牢度等の、各種の堅牢性にも優れる。
【0111】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。実施例において特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ意味する。
また以下本文、及び表1中、実施例2~4は、参考例1~3と読み替えるものとする。
【0112】
[製造例1 分散剤1の合成]
特開2018-154790に記載の合成例に従い、メチルベンゼンスルホン酸と、メチルベンゼンと、を等モル比(1:1)で混合し、全体を1モルとした混合物を調整した。調整した混合物に対し、滴下するホルマリン量が1モルとなるように、還流条件下で、100℃で3時間かけて30%ホルマリン水溶液を滴下した。その後、10時間縮合反応を行い、最後に0.5気圧、150℃の条件下で、未反応成分及び水を除去して、分散剤1を得た。
【0113】
[製造例2 分散剤2の合成]
メチルベンゼンスルホン酸と、メチルベンゼンとを、モル比(1:2)で混合し、滴下するホルマリン量が2モルになるよう変えたこと以外は、製造例1と同様にして、分散剤2を得た。
【0114】
[製造例3 分散剤3の合成]
メチルベンゼンスルホン酸と、メチルベンゼンとを、モル比(1:3)で混合し、滴下するホルマリン量が3モルになるよう変えたこと以外は、製造例1と同様にして、分散剤3を得た。
【0115】
[製造例4 分散剤4の合成]
メチルベンゼンスルホン酸を1モルに対し、滴下するホルマリン量が1モルとなるように、還流条件下で、100℃で3時間かけて滴下した。その後、10時間縮合反応を行い、最後に0.5気圧、150℃の条件下で、未反応成分及び水を除去して、分散剤4を得た。
【0116】
[実施例1~12]分散液1~12の調製
下記表1~2に記載の各成分に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて水冷下、約15時間分散処理を行った。得られた液をガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過し、染料の含有量がいずれも15%である着色分散液を得た。得られた着色分散液を、それぞれ分散液1~12とする。
【0117】
[比較例1~8]分散液14~21の調製
下記表3~4に記載の各成分に0.2mm径ガラスビーズを加え、サンドミルにて水冷下、約15時間分散処理を行った。得られた液をガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過し、染料の含有量がいずれも15%である調製例14~21の着色分散液を得た。得られた着色分散液を、それぞれ分散液14~21とする。
【0118】
下記表1~4中の略号等は、以下の意味を有する
DR60:C.I.Disperse Red 60
DY54:C.I.Disperse Yellow 54
DOR25:C.I.Disperse Orenge 25
DOR60:C.I.Disperse Orenge 60
DB359:C.I.Disperse Blue 359
DB360:C.I.Disperse Blue 360
DR364:C.I.Disperse Red 364
DY232:C.I.Disperse Yellow 232
モルウェットD425:モルウェットD-425パウダー(ライオン・アクゾ株式会社製)
ラベリンW40:ラベリンW40(第一工業製薬株式会社製)
BPS-30:ニッコールBPS-30(日光ケミカルズ株式会社製)
サーフィノール104:サーフィノール104(エアープロダクツジャパン株式会社社製)
プロクセルGXL(S):プロクセルGXL(S)(ロンザ社製)
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
〈着色分散液の評価〉
上記のようにして得られた分散液1~12、14~21について、分散液初期粒子径、分散液経時粒子径、分散液保存安定性を、後述する評価方法にて評価した。
【0124】
〈分散液初期粒子径〉
表1~4の実施例及び比較例の分散液1~12、14~21をそれぞれ1000倍に希釈し、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を用いて、体積平均粒子径(D50)の測定を行い、その値を分散液初期粒子径とした。評価基準は以下のとおりである。ランク2以下は、実用が極めて困難となる。
(評価基準)
ランク5:分散液初期粒子径が100nm未満である。
ランク4:分散液初期粒子径が100nm以上120nm未満である。
ランク3:分散液初期粒子径が120nm以上150nm未満である。
ランク2:分散液初期粒子径が150nm以上180nm未満である。
ランク1:分散液初期粒子径が180nm以上である。
【0125】
〈分散液経時粒子径〉
表1~4の実施例及び比較例の分散液1~12、14~21をそれぞれ100g、ガラス瓶内に密封し、60℃で14日間放置した。放置後に、分散液1~12、14~21をそれぞれ1000倍に水を用いて希釈し、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を用いて、体積平均粒子径(D50)の測定を行い、分散液経時粒子径とした。
評価基準は以下のとおりである。ランク2以下は、実用が極めて困難となる。
(評価基準)
ランク5:分散液初期粒子径が100nm未満である。
ランク4:分散液初期粒子径が100nm以上120nm未満である。
ランク3:分散液初期粒子径が120nm以上150nm未満である。
ランク2:分散液初期粒子径が150nm以上180nm未満である。
ランク1:分散液初期粒子径が180nm以上である。
【0126】
〈分散液保存安定性〉
表1~4の実施例及び比較例の分散液1~12、14~21をそれぞれ10000倍に希釈し、400nm~780nmにおける極大吸収波長の吸光度を測定した。次に、分散液1~12、14~21を、それぞれ100gを、ガラス瓶内に密封し、60℃で14日間放置した。放置後に、得られた分散液1~12、14~21をそれぞれ10000倍に希釈し、同様に極大吸収波長の吸光度を測定した。放置前の吸光度を100%として、放置後の吸光度を算出し、その値を用いて分散液保存安定性を評価した。評価基準は以下の通りである。ランク2以下は実用が極めて困難となる。
(評価基準)
ランク5:放置後の吸光度が95%以上である。
ランク4:放置後の吸光度が90%以上95%未満である。
ランク3:放置後の吸光度が80%以上90%未満である。
ランク2:放置後の吸光度が60%以上80%未満である。
ランク1:放置後の吸光度が60%未満である。
【0127】
表1~4の結果から、本発明の分散液は、粒子径経時安定性、保存安定性に優れた分散液であることが明らかである。
【0128】
[実施例14~25]インク1~12の調製
下記表5~6に記載の各成分を混合し、おおよそ30分間攪拌することにより、インク1~12を得た。得られた各インクをガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過することにより、染料の含有量がいずれも5%であるインクジェット記録に用いる試験用の各インク1~12を調製した。
【0129】
[比較例9~16]インク14~21の調製
下記表7~8に記載の各成分を混合し、おおよそ30分間攪拌することにより、インク14~21を得た。得られた各インクをガラス繊維ろ紙GC-50(ADVANTEC社製)で濾過することにより、染料の含有量がいずれも5%であるインクジェット記録に用いる試験用の各インク14~21を調製した。
【0130】
下記表5~8中の略号等は、以下の意味を有する
BYK348:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンBYK-348(ビックケミー社製)
Gly:グリセリン
TEGMME:トリエチレングリコールモノメチルエーテル(東京化成工業株式会社)
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
〈インクの評価〉
上記のようにして得られたインク1~12、14~21について、インク保存安定性を、後述する評価方法にて評価した。
【0136】
〈インク保存安定性〉
表5~8の実施例及び比較例のインク1~12、14~21をそれぞれ10000倍に希釈し、400nm~780nmにおける極大吸収波長の吸光度を測定した。次に、インク1~12、14~21を、それぞれ100gを、ガラス瓶内に密封し、60℃で14日間放置した。放置後に、得られたインク1~12、14~21をそれぞれ10000倍に希釈し、同様に極大吸収波長の吸光度を測定した。放置前の吸光度を100%として、放置後の吸光度を算出し、その値を用いてインク保存安定性を評価した。評価基準は以下の通りである。ランク2以下は実用が極めて困難となる。
(評価基準)
ランク5:放置後の吸光度が95%以上である。
ランク4:放置後の吸光度が90%以上95%未満である。
ランク3:放置後の吸光度が80%以上90%未満である。
ランク2:放置後の吸光度が60%以上80%未満である。
ランク1:放置後の吸光度が60%未満である。
【0137】
表5~8の結果から、本発明のインクは保存安定性に優れたインクであることが明らかである。
【0138】
[染布の調製]
各実施例及び比較例のインク1~12、14~21を使用し、インクジェットプリンタPX-105(セイコーエプソン社製)にてベタ柄を中間記録媒体である転写紙へ印刷した。この印刷された転写紙におけるインクの付着部分を35cm×40cmに裁断した。この裁断後の転写紙のインク付着面と、同じ大きさのポリエステル布(ポンジ)とを重ね合わせた後、太陽精機株式会社製トランスファープレス機TP-600A2を用いて200℃×60秒の条件にて熱処理し、転写紙からポリエステル布へ昇華転写染色を行ったところ、それぞれ所望の色彩を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のインク用分散液組成物及び水性インク組成物は、保存安定性が高く、特にインクジェット用水性インクにとして非常に有用である。