(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】レーザ焼入れ方法
(51)【国際特許分類】
C21D 1/09 20060101AFI20230901BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20230901BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C21D1/09 M
C21D9/32 A
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2018056792
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】牧添 義昭
(72)【発明者】
【氏名】栩川 佑樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102017004455(DE,A1)
【文献】特開2015-052294(JP,A)
【文献】特開平04-203515(JP,A)
【文献】特開昭57-085931(JP,A)
【文献】特開2002-129239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/00- 9/44
C21D 1/09
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動歯車に形成されたクランク軸用孔の内周にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、
前記クランク軸用孔は、前記揺動歯車に少なくとも2つ以上設けられ、
前記クランク軸用孔の内周の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記クランク軸用孔の内周の領域の中で、前記クランク軸用孔の内周への負荷が低い領域内とし、
前記クランク軸用孔の内周への負荷が低い領域は、前記クランク軸用孔の内周の領域の内で、前記揺動歯車の中心方向側である、レーザ焼入れ方法。
【請求項2】
部材にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、
該部材の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記部材の領域の中で、該部材への負荷が低い領域内とすることを特徴とし、
前記レーザが照射される前記部材は、運転時に押圧部材により押圧されるものであって、前記負荷は、該押圧部材により前記部材が押圧される負荷であり、
前記部材は第1の歯車であり、前記押圧部材が第2の歯車であり
、
該レーザの照射が開始される
照射開始位置、及び、該レーザの照射が終了する
照射終了位置を、前記第1の歯車の歯山と
し、
該レーザは、前記照射開始位置から前記照射終了位置まで前記第1の歯車の周方向であって一方向に連続して照射される、ことを特徴とするレーザ焼入れ方法。
【請求項3】
前記第1の歯車が揺動歯車であり、前記第2の歯車が該第1の歯車と噛合う内歯であり、該揺動歯車の歯は、トロコイド歯であって、該部材の該レーザが照射される領域の内、該レーザの照射が開始される位置、及び、該レーザの照射が終了する位置は、該トロコイド歯の歯山とする、請求項2に記載のレーザ焼入れ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材にレーザを照射し、焼入れを行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物にレーザ光を照射することにより、被加工物に焼入れを行う方法が知られている。例えば、レーザ光は、レーザ照射装置により被加工物に向けられ、レーザ照射装置と被加工物とを相対的に回転させることにより、環状の焼入れ領域が形成される。
【0003】
従来より、被加工物にこうした焼入れを行う場合、レーザ光の照射開始部分又は照射終了部分において、焼き戻しにより被加工物の硬度が低下することが知られている。
【0004】
特許文献1では、レーザ照射の始端と終端が重なる場合に、焼き戻しによる組織の軟化を防止するため、被加工物の環状の焼入れ面に対し、周回するごとに中心から遠ざかる又は中心に近づくように渦巻き状にレーザを照射して照射領域の温度をA3変態点以上に加熱し、第1周回部の温度がマルテンサイト変態開始温度以下になる前に、第1周回部に続く第2周回部の一部が第1周回部に重なるようにレーザを照射するレーザ焼入れ方法を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る方法においても、レーザ光の照射開始部分又は照射終了部分において、焼き戻しにより被加工物の硬度が低下するという問題を十分に解決することは困難であり、被加工物の強度を設計仕様通りに確保することが必ずしもできていないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、部材にレーザ照射による焼入れを行うものであって、使用時に該部材の受ける負荷の状況と、該部材のレーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置と、を考慮したレーザ焼入れ方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、部材にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該部材の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記部材の領域の中で、該部材への負荷が低い領域内とするよう構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記レーザが照射される前記部材は、運転時に押圧部材により押圧されるものであって、前記負荷は、該押圧部材により前記部材が押圧される負荷であるよう構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記部材は孔を有し、該孔の内周にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該孔の内周の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記孔の内周の領域の中で、該孔の内周への負荷が低い領域内とするよう構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記部材が揺動歯車であり、前記押圧部材がクランク軸の偏心部であり、前記孔は、前記揺動歯車に形成され、前記クランク軸が挿通されるクランク軸用孔であって、該クランク軸用孔は、前記揺動歯車に少なくとも2つ以上設けられ、該部材の該レーザが照射される領域の内、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置は、クランク軸用孔の内周の領域の内、前記揺動歯車の中心方向側であるよう構成される。
【0012】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法における前記部材は第1の歯車であり、前記押圧部材が第2の歯車である。
【0013】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記第1の歯車が揺動歯車であり、前記第2の歯車が該第1の歯車と噛合う内歯であり、該揺動歯車の歯は、トロコイド歯であって、該部材の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置は、該トロコイド歯の歯山とするよう構成される。
【0014】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記第1の歯車が揺動歯車であり、前記第2の歯車が該第1の歯車と噛合う内歯であり、該揺動歯車の歯は、トロコイド歯であって、該部材の該レーザが照射される領域の内、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置は、該トロコイド歯の歯底とするよう構成される。
【0015】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、部材にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該部材は第1の歯車であり、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、前記第1の歯車の歯面以外とするよう構成される。
【0016】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、レーザの照射が前記第1の歯車の歯幅方向に沿って行われ、レーザの照射幅は歯山から歯山、または歯底から歯底、または、歯山から歯底であるよう構成される。
【0017】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、レーザの照射が前記第1の歯車の周方向に沿って行われ、レーザの照射幅は歯山から歯山、または歯底から歯底、または、歯山から歯底であるよう構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法によれば、部材の使用時に受ける負荷の状況に応じたレーザ焼入れを行うことで、該部材の使用時における負荷に十分耐え得る強度を備えるよう部材を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る駆動力伝達装置の断面図である。
【
図3】
図2の駆動力伝達装置の減速機のA-A断面図である。
【
図4】
図3の第1トロコイド歯車のクランク軸用孔の拡大図である。
【
図5】
図3の第1トロコイド歯車の歯面の拡大図である。
【
図6】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図7】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図8】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図9】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図10】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【
図11】本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ装置1による焼入れ方法の一例を説明する概略図である。
【0022】
図示のように、例えば、レーザ焼入れ装置1により、円筒状の部材2にレーザ照射による焼入れ処理を施すことで、部材の焼入れ処理が施された部分の硬度を向上させることが意図されている。部材2は、環状の焼入れ面13を有する。この環状の焼入れ面13に対して、フォーカスレンズ14で集光されるレーザ光L1が照射される。レーザ光L1は、焼入れ面13にレーザスポットを形成する。
【0023】
焼入れ面13に対しレーザスポットを相対的に移動させることにより、焼入れ処理を行う。本発明の一実施の形態では、
図1に示すように、環状の焼入れ面13に沿ってレーザ光L1のレーザスポットを開始位置S1から終了位置E1まで円弧状に移動させる。なお、レーザ光L1のレーザスポットが周回するごとに中心に近づくように渦巻き状にレーザを照射してもよい。これにより、レーザ照射の始端と終端とが重複せず、環状の焼入れ面21の全面に焼入れ領域を形成することができる。なお、周回するごとに中心から遠ざかるように渦巻き状にレーザを照射してもよい。
【0024】
部材2とレーザ光L1のレーザスポットとの相対位置は、部材2を図示しない移動機構により回転させながら移動させることにより変化させてもよく、レーザ光L1のレーザスポットを図示しない移動機構により移動させることにより変化させてもよい。また、部材2とレーザ光L1のレーザスポットの両方を移動させるように構成してもよい。
【0025】
しかしながら、部材2の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、若しくは、該レーザの照射が終了する位置、又はレーザ照射開始位置及び終了位置の重なる場合における当該位置において、焼き戻しによる組織の軟化が発生し、必ずしも十分な強度を確保することができないという問題がある。
【0026】
そこで、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、部材2にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該部材2の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される該部材2の領域の中で、該部材への負荷が低い領域内とするよう構成される。上記位置には、レーザ照射開始位置及び終了位置の重なる場合における当該位置が含まれ得ることはいうまでもない(以下同様とする)。
【0027】
また、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、レーザが照射される部材2が、運転時に押圧部材により押圧され負荷を受ける場合、該部材2の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される該部材2の領域の中で、該部材への負荷が低い領域内(運転時に押圧部材により押圧され負荷を受ける領域以外の領域内)とするよう構成される。
【0028】
本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法によれば、部材の使用時に受ける負荷の状況に応じたレーザ焼入れを行うことで、該部材の使用時における負荷に十分耐え得る強度を備えるよう部材を構成することが可能となる。
【0029】
図示のレーザ焼入れ装置1による焼入れ方法には、様々な構成が考えられ、特定の構成に限定されない。
【0030】
次に、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法が適用され得る部材のより具体的な例につき説明する。
図2は、駆動力伝達装置3の概略的な断面図である。
【0031】
駆動力伝達装置3は、モータ4と、減速機(偏心揺動減速機)5と、を備える。駆動力伝達装置3は、取付筒400を備え、取付筒400は、モータ4を減速機5に取り付けるために用いてもよい。
【0032】
モータ4は、筐体210と、モータシャフト220と、を含む。筐体210内には、一般的なモータに用いられる様々な部品(たとえば、コイルやステータコア)が配置される。本実施形態の原理は、筐体210内の特定の構造に限定されない。
【0033】
モータシャフト220は、減速機5に向けて延出する。モータシャフト220の先端には、ギア部221が形成される。ギア部221は、減速機5と噛み合う。この結果、モータ4が生成したトルクは、減速機5へ伝達される。
【0034】
図2に示すように、減速機5は、外筒50と、キャリア600と、歯車部700と、3つの駆動機構800(
図2は、3つの駆動機構800のうち1つを示す)と、2つの主軸受900(図示しない)と、を備える。
【0035】
図2に示すように、3つの駆動機構800それぞれは、入力歯車810と、クランク軸820と、2つのジャーナル軸受830と、2つのクランク軸受840と、を含む。入力歯車810は、モータシャフト220のギア部221に噛み合い、モータ200Cからトルクを受け取る。第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720とは異なり、入力歯車810は、平歯車である。代替的に、入力歯車810として、他の種類の歯車部品が用いられてもよい。本実施形態の原理は、入力歯車810として用いられる特定の種類の歯車部品に限定されない。
【0036】
入力歯車810とモータシャフト220のギア部221とによって決定される減速比は、上述の内歯環と歯車部700とによって決定される減速比よりも小さくてもよい。本発明の一実施形態において、第1減速比は、入力歯車810とモータシャフト220のギア部221とによって決定される減速比によって説明される。また、第2減速比は、内歯環と歯車部700とによって決定される減速比によって説明される。
【0037】
入力歯車810が回転すると、クランク軸820は、回転する。この結果、第1偏心部823及び第2偏心部824は、偏心回転する。この間、クランク軸受840を介して第1偏心部823に接続された第1トロコイド歯車710は、複数の内歯ピン520と噛み合いながら、外筒500内で周回移動することができる。同様に、クランク軸受840を介して第2偏心部824に接続された第2トロコイド歯車720は、複数の内歯ピン520と噛み合いながら、外筒500内で周回移動することができる。この結果、第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720それぞれは、外筒500内で、揺動回転を行うことができる。本実施形態において、クランク機構は、クランク軸820及び2つのクランク軸受840によって説明される。
【0038】
図2に示すクランク軸820は、第1ジャーナル821と、第2ジャーナル822と、第1偏心部823と、第2偏心部824と、を含む。第1ジャーナル821は、キャリア600の基板部611によって取り囲まれる。第2ジャーナル822は、キャリア600の端板部620によって取り囲まれる。2つのジャーナル軸受830のうち一方は、第1ジャーナル821と基板部611との間に配置される。2つのジャーナル軸受830のうち他方は、第2ジャーナル822と端板部620との間に配置される。加えて、上述の入力歯車810は、第2ジャーナル822に取り付けられる。
【0039】
減速機5の運転時、揺動歯車である第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720は、これらの揺動歯車のクランク軸用孔(クランク孔ともいう)を貫通するようにして接続されるクランク軸820の第1偏心部823及び第2偏心部824の偏心回転により、特に、当該揺動歯車のクランク軸用孔の内周面であって、第1トロコイド歯車710の中心軸CX1ないし第2トロコイド歯車720の中心軸CX2側の内周面(当該軸側の半円周面部分)の負荷は、当該内周面とは反対側の内周面(当該軸側とは反対側の半円周面部分)の負荷よりも小さくなる。
【0040】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、このような負荷の特性を利用し、揺動歯車が有するクランク軸用孔の内周にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該クランク軸用孔の内周の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される該クランク軸用孔の内周の領域の中で、該孔の内周への負荷が低い領域内とするよう構成される。
図2の例では、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法では、該レーザが照射される該クランク軸用孔の内周の領域の中で、該孔の内周への負荷が低い領域は、当該揺動歯車のクランク軸用孔の内周面であって、第1トロコイド歯車710の中心軸CX1ないし第2トロコイド歯車720の中心軸CX2側の内周面(当該軸側の半円周面部分)となる。
【0041】
図4にその一例を示す。
図4は、
図3の揺動歯車である第1トロコイド歯車710の一部を拡大したものである。同図には、揺動歯車である第1トロコイド歯車710のクランク軸用孔901が示されている。クランク軸用孔901は、第1トロコイド歯車710の中心軸側の部分901Aと、それとは反対側の部分901Bとに分けることができる。この場合、レーザ開始位置をクランク軸用孔901の中心軸側の部分901A(例えば、中心軸側の部分901Aの中央位置901X)とし、レーザ終了位置をクランク軸用孔901の中心軸側の部分901A(例えば、中心軸側の部分901Aの中央位置901X)とすることができる。本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、上記例に限られず、使用時ないし運転時に部材に形成された孔が押圧部材より負荷を受ける場合に、当該部材に対して適宜適用することができる。すなわち、本発明の一実施形態では、孔を有する部材において、該孔の内周にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該孔の内周の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記孔の内周の領域の中で、該孔の内周への負荷が低い領域内とするよう構成される。
【0042】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記部材が揺動歯車であり、前記押圧部材がクランク軸の偏心部であり、前記孔は、前記揺動歯車に形成され、前記クランク軸が挿通されるクランク軸用孔であって、該クランク軸用孔は、前記揺動歯車に少なくとも2つ以上設けられるよう構成される。後述する
図3に示すように、クランク軸用孔は、揺動歯車に3つ設けられるよう構成される。
【0043】
本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法によれば、部材の使用時に受ける負荷の状況に応じたレーザ焼入れを行うことで、該部材の使用時における負荷に十分耐え得る強度を備えるよう部材を構成することが可能となる。
【0044】
次に、
図3に示すように、外筒500は、略円筒状のケース510と、複数の内歯ピン520と、を含む。ケース510は、キャリア600、歯車部700及び駆動機構800が収容される円筒状の内部空間を規定する。複数の内歯ピン520は、ケース510の内周面に沿って環状に並べられ、内歯環を形成する。本実施形態において、内歯は、内歯ピン520によって例示される。
【0045】
図3は、キャリア600及びモータシャフト220の回転中心軸RCXを示す。内歯ピン520それぞれは、回転中心軸RCXの延出方向に延びる円柱状の部材である。内歯ピン520それぞれは、ケース510の内壁に形成された溝部に嵌入される。したがって、内歯ピン520それぞれは、ケース510によって適切に保持される。
【0046】
図3に示すように、複数の内歯ピン520は、回転中心軸RCX周りに略一定間隔で配置される。内歯ピン520それぞれの半周面は、ケース510の内壁から回転中心軸RCXに向けて突出する。したがって、複数の内歯ピン520は、歯車部700と噛み合う内歯として機能する。
【0047】
図2に示すように、キャリア600は、基部610と、端板部620と、を含む。端板部620は、基部610とモータ4との間に配置される。キャリア600は、全体的に、円筒状である。キャリア600は、外筒50内で回転中心軸RCX周りに回転する。
【0048】
基部610は、基板部611(
図2を参照)と、3つのシャフト部612(
図3を参照)と、を含む。3つのシャフト部612それぞれは、基板部611から端板部620に向けて延びる。端板部620は、3つのシャフト部612それぞれの先端面に接続される。端板部620は、リーマボルト、位置決めピンや他の態様によって、3つのシャフト部612それぞれの先端面に接続されてもよい。
【0049】
図2に示すように、歯車部700は、基板部611と端板部620との間に配置される。3つのシャフト部612は、歯車部700を貫通し、端板部620に接続される。
【0050】
図2に示すように、歯車部700は、第1トロコイド歯車710と、第2トロコイド歯車720と、を含む。第1トロコイド歯車710は、基板部611と第2トロコイド歯車720との間に配置される。第2トロコイド歯車720は、端板部620と第1トロコイド歯車710との間に配置される。
図3に示すように、第1トロコイド歯車710の複数の外歯の一部は、複数の内歯ピン520によって形成された内歯環と噛み合う。
【0051】
本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、前記レーザが照射される部材は、運転時に押圧部材により押圧され負荷を受けるものであって、該部材は第1の歯車であり、該押圧部材が第2の歯車であるように構成される。この場合、第1の歯車である部材にレーザを照射し、焼入れを行う方法であって、該第1の歯車である部材の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置を、該レーザが照射される前記第1の歯車である部材の領域の中で、該部材への負荷が低い領域内とするよう構成される。
【0052】
前述の通り、第1トロコイド歯車710の複数の外歯の一部は、複数の内歯ピン520によって形成された内歯環と噛み合うが、運転時、第1トロコイド歯車710の複数の外歯の歯底は、第1トロコイド歯車710の複数の外歯の歯山よりも大きな負荷を受ける。本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法は、当該第1の歯車が第1トロコイド歯車710(揺動歯車)であり、当該第2の歯車が該第1の歯車と噛合う内歯ピン520(内歯)であり、該揺動歯車の歯は、トロコイド歯であって、上述のように、第1トロコイド歯車710の複数の外歯の受ける負荷の特性を利用し、該揺動歯車の該レーザが照射される領域の内で、該レーザの照射が開始される位置、又は、該レーザの照射が終了する位置は、該揺動歯車の該トロコイド歯の歯山とするよう構成される。なお、本発明の一実施形態に係るレーザ焼入れ方法を適用する部材が歯車である場合、該歯車がインボリュート歯車により形成されていてもよい。本発明の一実施形態のレーザ焼入れ方法によれば、部材の使用時に受ける負荷の状況に応じたレーザ焼入れを行うことで、該部材の使用時における負荷に十分耐え得る強度を備えるよう部材を構成することが可能となる。
【0053】
図5にその一例を示す。
図5は、
図3の揺動歯車である第1トロコイド歯車710の一部を拡大したものである。第1トロコイド歯車710は、その歯面に複数の歯山710Aと、複数の歯底710Bとが形成される。このような歯面にレーザ照射を行う場合、レーザ開始位置を、複数の歯山710Aのいずれかとし、レーザ終了位置を、複数の歯山710Aのいずれかとする。この場合、レーザ照射は連続して行ってもよいし、各歯山で区切られるよう行ってもよい。また、レーザ照射を非連続で行ってもよい。
【0054】
モータシャフト220の回転は、駆動機構800により、第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720へ伝達される。この結果、第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720の揺動回転が引き起こされる。
【0055】
図2は、第1トロコイド歯車710の中心軸CX1と、第2トロコイド歯車720の中心軸CX2と、を示す。中心軸CX1,CX2は、キャリア600の回転中心軸RCXと略平行に延びる。
図3は、第1トロコイド歯車720の中心軸CX1を示す。上述の揺動回転の間、中心軸CX1,CX2は、キャリア600の回転中心軸RCX周りを周回する。したがって、第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720は、内歯ピン520に噛み合いながら、ケース510内を周回移動する。この間、第1トロコイド歯車710及び第2トロコイド歯車720は、キャリア600の3つのシャフト部612に接触し、キャリア600を回転中心軸RCX周りに回転させる。
【0056】
第2トロコイド歯車720の中心軸CX2は、第1トロコイド歯車710の中心軸CX1とは異なる位相で、キャリア600の回転中心軸RCX周りを周回してもよい。
【0057】
減速機5の基部610には、モータ4からの駆動力が出力として伝達される。
【0058】
最後に、
図6-11を参照して、本発明の一実施形態に係るトロコイド歯車へのレーザ焼入れ方法について説明する。
図6に示すように、レーザの照射方向は、歯山710Aから歯山710Aの範囲で、トロコイド歯車710の歯筋方向(歯幅方向)とされている。なお、トロコイド歯車710の歯の谷の曲線から山の曲線に変わる位置(変曲点)でレーザが2回照射されないように構成される。この場合、レーザの開始点はトロコイド歯車710の外にあり、トロコイド歯車710へ照射した後、トロコイド歯車710の外に抜けることとなるため、レーザの開始位置及び終了位置をトロコイド歯車710の外とすることができる。レーザの照射幅は、適宜設定することができ、例えば、歯山710Aから歯底710Bまでの範囲とすることができる。また、レーザの中心は、歯面となるが、トロコイド歯車710の変曲点若しくは変曲点付近とすることができる。
【0059】
次に、
図7に示すように、レーザの照射方向は、トロコイド歯車710の歯形方向(歯車の周方向)とされている。この場合、レーザの開始位置及び終了位置をトロコイド歯車710の歯山710A又は歯底710Bとすることができる。トロコイド歯車710では、変曲点あたりの負荷が高くなるため、このような方法によれば、変曲点においてレーザによる焼入れによる硬度への影響が回避できる。なお、トロコイド歯車710の歯山710A又は歯底710Bでは、レーザを2回照射しても良い。また、歯山710A又は歯底710Bにレーザが照射されないように、レーザの開始位置及び終了位置を適宜調整することができる。
【0060】
図8に示すように、レーザの照射方向は、トロコイド歯車710の歯形方向(歯車の周方向)とされているが、より具体的には、トロコイド歯車710の歯山710Aから歯底710Bへ、所定の間隔をあけて、歯底710Bから歯山710Aへ、歯形方向(歯車の周方向)で歯面のみにレーザ照射を行うものである。
【0061】
図9に示すように、レーザの照射方向は、トロコイド歯車710の歯筋方向(歯幅方向)とされているが、おり具体的には、トロコイド歯車710の歯山710Aから歯底710Bの範囲で歯筋方向に歯面のみにレーザ照射を行い、所定の間隔をあけて、歯底710Bから歯山710Aの範囲で歯筋方向に歯面のみにレーザ照射を行うものである。
【0062】
図10に示すように、レーザの照射方向は、歯底710Bから歯底710Bの範囲で、トロコイド歯車710の歯筋方向(歯幅方向)とされている。なお、トロコイド歯車710の歯の谷の曲線から山の曲線に変わる位置(変曲点)でレーザが2回照射されないように構成される。この場合、レーザの開始点はトロコイド歯車710の外にあり、トロコイド歯車710へ照射した後、トロコイド歯車710の外に抜けることとなるため、レーザの開始位置及び終了位置をトロコイド歯車710の外とすることができる。レーザの照射幅は、適宜設定することができる。
【0063】
次に、
図11に示すように、レーザの照射方向は、歯底710Bから歯底710Bの範囲で、トロコイド歯車710の歯形方向(歯車の周方向)とされている。この場合、レーザの開始位置及び終了位置をトロコイド歯車710の歯山710A又は歯底710Bとすることができる。また、歯山710A又は歯底710Bにレーザが照射されないように、レーザの開始位置及び終了位置を適宜調整することができる。
【0064】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。上述の様々な実施形態は、上記に説明したものに限定されず、様々な装置の構成部材に適用可能である。上述の様々な実施形態のうち1つに関連して説明された様々な特徴のうち一部が、他のもう1つの実施形態に関連して説明された装置に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 レーザ焼入れ装置
2 円筒状の部材
3 駆動力伝達装置
4 モータ
5 減速機
13 焼入れ面
14 フォーカスレンズ