(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20230901BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230901BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230901BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230901BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/02
A61Q19/00
A61K47/10
(21)【出願番号】P 2018246292
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2017251319
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高
(72)【発明者】
【氏名】阿部 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 塁
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】土倉 豊樹
(72)【発明者】
【氏名】岩井 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】堀住 輝男
(72)【発明者】
【氏名】青崎 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】宇田 晶宏
(72)【発明者】
【氏名】中道 眞人
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-031126(JP,A)
【文献】特開2015-205873(JP,A)
【文献】特表2015-533170(JP,A)
【文献】特開2000-325043(JP,A)
【文献】特開2015-120656(JP,A)
【文献】特開2016-199483(JP,A)
【文献】特開2016-199535(JP,A)
【文献】特開2014-139164(JP,A)
【文献】特開2016-056200(JP,A)
【文献】特開2013-144670(JP,A)
【文献】特開2013-124225(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0250129(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で50℃以上100℃未満の温度で加熱処理して、0~35℃に冷却後に難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加えて、(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃の(B)ポリオールに対する溶解度が5g/L以上の芳香族化合物であり、
前記(B)ポリオールが、二価アルコール及びこれらの縮合物から選択される1種又は2種以上であり、
前記工程(1)において、
加熱処理原料における(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、0.45~0.98、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が実質的に0質量%であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満であり、
前記工程(1-2)において、Yは溶解状態指数、Zはy軸に溶解状態指数Yを、x軸に加熱時間をプロットすることによって決定された、沈殿が発生しない領域間の境界を表すとき、Y<Zが満たされるような温度及び時間にて加熱処理原料を加熱する、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
【請求項2】
(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で50℃以上100℃未満の温度で加熱処理して、0~35℃に冷却後に難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む難水溶性芳香族化合物溶液1の製造方法であって、
前記(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃の(B)ポリオールに対する溶解度が5g/L以上の芳香族化合物であり、
前記(B)ポリオールが、二価アルコール及びこれらの縮合物から選択される1種又は2種以上であり、
前記工程(1)において、
加熱処理原料における(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、0.45~0.98、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が実質的に0質量%であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満であり、
前記工程(1-2)では、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が25℃における飽和溶解度超となるように難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加えて希釈した難水溶性芳香族化合物溶液において(A)難水溶性芳香族化合物の析出が抑制されるように、Yは溶解状態指数、Zはy軸に溶解状態指数Yを、x軸に加熱時間をプロットすることによって決定された、沈殿が発生しない領域間の境界を表すとき、Y<Zが満たされるような温度及び時間にて加熱処理原料を加熱する、難水溶性芳香族化合物溶液1の製造方法。
【請求項3】
前記工程(1-1)において、加熱処理原料における(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、
0.51~0.95である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程(1-1)において、加熱処理原料における(A)難水溶性芳香族化合物に対する(B)ポリオールの含有質量比[(B)/(A)]が1以上80以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃の水に対する溶解度が3.0g/L以下の芳香族化合物である請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃のポリオールに対する溶解度が
10g/L以上の芳香族化合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
(A)難水溶性芳香族化合物が、フェノール系抗菌剤である請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
フェノール系抗菌剤が、
イソプロピルメチルフェノール及びパラオキシ安息香酸エステルから選ばれる1種又は2種以上である請求項7
に記載の製造方法。
【請求項9】
(B)ポリオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、平均分子量が400以下のポリエチレングリコール及び平均分子量が400以下のポリプロピレングリコールから選ばれる1種又は2種以上である請求項1~8のいずれか1
項に記載の製造方法。
【請求項10】
(C)水性媒体が、水又は一価アルコールの水溶液である請求項1~9のいずれか1
項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(1-2)での加熱処理時間が6分以上120時間以内である請求項1~10のいずれか1
項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程(1-1)における成分(A)がイソプロピルメチルフェノール、成分(B)が1,3-ブタンジオールかつ成分(C)が水のとき、成分(A)の溶解効率をE、成分(A)の濃度をC
0、成分(A)の飽和溶解度をC
S、成分(B)+成分(C)中の成分(B)の濃度をC
BG、前記工程(1-2)における加熱温度をT、加熱処理時間をtとしたとき、前記工程(1-2)において、次の(式8)で示す溶解状態指数Yと、tとの関係が、次の(式9)が成り立つ条件で加熱処理原料を加熱する、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【数1】
【請求項13】
請求項1、3~12のいずれか1項記載の製造方法により得られた難水溶性芳香族化合物含有組成物、若しくは請求項2~12のいずれか1項記載の製造方法により得られた難水溶性芳香族化合物溶液1を配合する工程を含む化粧料の製造方法。
【請求項14】
請求項1、3~12のいずれか1項記載の製造方法により得られた難水溶性芳香族化合物含有組成物が化粧料である、化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物は、香粧品、医薬品、食品、日用品等の製品に広く利用されている。芳香族化合物には常温において固体であり、水に難溶性のものが多く、その利用形態は、アルコールに溶解させて用いるのが一般的であるが、アルコールの皮膚への刺激により使用感を損ないやすい。また、適用できる組成物が制限されてしまう。
【0003】
そこで、難水溶性の抗菌性物質を水に可溶化させる技術が検討され、例えば、イソプロピルメチルフェノールにグルコース等の糖を結合させたイソプロピルメチルフェノール配糖体(特許文献1)や、界面活性剤と湿潤剤を併用してイソプロピルメチルフェノールを可溶化させる方法(特許文献2)が報告されている。
また、水性媒体の存在下、イソプロピルメチルフェノール等のフェノール系抗菌剤とポリオールを110~180℃で加熱処理してフェノール系抗菌剤を可溶化する方法が報告されている(特許文献3)。特許文献3では、100℃より低い温度での加熱処理では、冷却後、室温下においてイソプロピルメチルフェノールの溶解性は維持されないことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-82506号公報
【文献】特開2011-98919号公報
【文献】特開2014-139164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、イソプロピルメチルフェノール配糖体のような難水溶性の芳香族化合物自身に糖を付加した所謂配糖体は水への溶解性が高いものの、製造工程が複雑であるためコストが高い。そのため、イソプロピルメチルフェノールに替えてイソプロピルメチルフェノール配糖体を使用することは経済的に好ましくない。また、界面活性剤を用いて難水溶性芳香族化合物を可溶化させる方法では、十分な溶解性と芳香族化合物の効果が得られない場合がある。これに対して、水性媒体の存在下に100~180℃に加熱処理する方法は難水溶性芳香族化合物の可溶化の促進にかかる技術であるが、工業的生産においては耐圧設備が必要になり、また熱変質性、揮発性又は昇華性物質への適用には工夫が必要等、コスト等に改善の余地があった。
したがって、本発明は、難水溶性芳香族化合物の溶解性に優れる難水溶性芳香族化合物含有組成物を製造する新たな方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、難水溶性芳香族化合物の可溶化技術について種々検討したところ、難水溶性芳香族化合物とポリオールと水性媒体を含む加熱処理原料を、常圧で100℃未満の温度で加熱した場合でも加熱処理原料の組成を特定範囲とし、かつ十分な熱履歴が与えられれば、水を用いて希釈した際においても難水溶性芳香族化合物の析出が抑制される難水溶性芳香族化合物含有組成物を得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加えて、(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含み、
前記工程(1-2)では、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が飽和溶解度超となるように水を用いて希釈された難水溶性芳香族化合物溶液2において(A)難水溶性芳香族化合物の析出が抑制されるように加熱処理原料を加熱する、難水溶性芳香族化合物溶液1の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が飽和溶解度超の溶液において、難水溶性芳香族化合物の析出が抑制された難水溶性芳香族化合物含有組成物を得ることができる。ここで、「析出が抑制される」か否かは、次のように判別できる。すなわち、本発明の方法により難水溶性芳香族化合物含有組成物を製造後、24時間の時点で難水溶性芳香族化合物の析出や沈殿物の発生が目視によって確認できなければ、「析出が抑制される」と判別できる。
本発明の製造方法において、難水溶性芳香族化合物が飽和溶解度超であっても難水溶性芳香族化合物の析出が抑制される理由は定かではないが、以下のように考えられる。ポリオール中に水を含む水性媒体が若干存在し、かつ熱が加わることにより、難水溶性芳香族化合物が、ポリオール及び水との溶媒和による安定したネットワーク構造を形成し、水で希釈した際にも当該構造が維持されるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)難水溶性芳香族化合物の析出や沈殿物の発生の有無を判断する判断基準線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法は、(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加えて、(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、製造方法である。
また、本発明の難水溶性芳香族化合物溶液1の製造方法は、(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含み、前記工程(1-2)では、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が飽和溶解度超となるように水を用いて希釈された難水溶性芳香族化合物溶液2において(A)難水溶性芳香族化合物の析出が抑制されるように加熱処理原料を加熱する、製造方法である。
本明細書において、難水溶性芳香族化合物溶液1は「溶液1」、難水溶性芳香族化合物溶液2は「溶液2」とも云う。
【0012】
〔工程(1-1)〕
本工程は、(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程である。
本明細書において(A)難水溶性芳香族化合物とは、25℃の水に対する溶解度が3.0g/L以下の芳香族化合物を意味する。本発明では、25℃の水に対する溶解度が2.5g/L以下、更に1.0g/L以下である芳香族化合物が好ましく適用できる。
また、(A)難水溶性芳香族化合物として、25℃の(B)ポリオールに対する溶解度が5g/L以上、更に10g/L以上、更に20g/L以上である芳香族化合物が好ましく適用できる。
ここで溶解度は、溶液1L中に溶解している溶質のグラム数を表し、単位は[g/L]である。
更に、本発明における(A)難水溶性芳香族化合物は、熱により変質するものや、揮発性又は昇華性等により、100℃以上で取り扱うのが困難であるものが、本発明の利益を有効に得られる観点から好ましい。
【0013】
(A)難水溶性芳香族化合物としては、上記の条件以外は特に限定されず、例えば、抗菌成分、美白成分、育毛成分が挙げられる。(A)難水溶性芳香族化合物は、1種であっても、2種以上の混合物であってもよい。
抗菌成分として用いられる難水溶性芳香族化合物としては、フェノール系抗菌剤が挙げられる。フェノール系抗菌剤は、例えば、トリクロサン、クロルチモール、カルバクロル、クロロフェン、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、クロロキシレノール、クロロクレゾール等のクロロフェノール系抗菌剤;パラオキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)、パラオキシ安息香酸エチル(エチルパラベン)、パラオキシ安息香酸プロピル(プロピルパラベン)、パラオキシ安息香酸イソプロピル(イソプロピルパラベン)、パラオキシ安息香酸ブチル(ブチルパラベン)、パラオキシ安息香酸イソブチル(イソブチルパラベン)、パラオキシ安息香酸ベンジル(ベンジルパラベン)等のパラオキシ安息香酸エステル(アルキルパラベン);O-フェニルフェノール、イソプロピルメチルフェノール等が挙げられる。なかでも、昇華性が高く、本発明の効果を有効に得られる観点から、メチルパラベン、エチルパラベン、イソプロピルメチルフェノールが好ましく、イソプロピルメチルフェノールがより好ましい。
【0014】
芳香族の美白成分としては、例えば、クロモン誘導体等が挙げられる。
クロモン誘導体は、クロモン、すなわち4H-1-ベンゾピラン-4-オンの2位に炭素数1~15の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有し、7位に水素原子、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を有する化合物が好ましい。
このようなクロモン誘導体の例としては、2-ブチルクロモン、2-ペンチルクロモン、2-ヘプチルクロモン、2-ノニルクロモン、2-ヘキサデシルクロモン、2-(1-エチルペンチル)クロモン、2-ブチル-7-メトキシクロモン、2-ペンチル-7-メトキシクロモン、2-ヘプチル-7-メトキシクロモン、2-ノニル-7-メトキシクロモン、2-ペンタデシル-7-メトキシクロモン、2-(1-エチルペンチル)-7-メトキシクロモン、7-ヒドロキシ-2-メチルクロモン、7-ヒドロキシ-2-ブチルクロモン、7-ヒドロキシ-2-ペンチルクロモン、7-ヒドロキシ-2-ヘプチルクロモン、7-ヒドロキシ-2-ノニルクロモン、7-ヒドロキシ-2-ペンタデシルクロモン、7-ヒドロキシ-2-(1-エチルペンチル)クロモン等が挙げられる。なかでも、熱変性や分解の懸念があり、本発明の効果を有効に得られる観点から、2-(1-エチルペンチル)-7-メトキシクロモンが好ましい。
クロモン誘導体は、公知の方法、例えば、特開平7-188208号公報に記載の方法により製造することができる。
【0015】
芳香族の育毛成分としては、例えば、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン等のフラバノノール誘導体;ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸トコフェロール、ニコチン酸β-ブトキシエチル等のニコチン酸類;α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、天然ビタミンE等のビタミンE類;ミノキシジル、ビマトプロスト、タフルプロスト、ノニル酸バニリルアミド、オトギリ草抽出物、トウガラシチンキ等が挙げられる。
なかでも、熱変性や分解の懸念があり、本発明の効果を有効に得られる観点から、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノン、ニコチン酸トコフェロール、α-トコフェロール、酢酸dl-α-トコフェロール、天然ビタミンEが好ましく、トランス-3,4’-ジメチル-3-ヒドロキシフラバノンがより好ましい。フラバノノール誘導体は、公知の方法、例えば、特開2000-198779号公報に記載の方法により製造することができる。
これら成分のうち、熱変性や分解の懸念があり、本発明の効果を有効に得られる観点から、抗菌成分として用いられるものが好ましく、フェノール系抗菌成分がより好ましく、パラオキシ安息香酸エステル、イソプロピルメチルフェノールがより好ましく、なかでも、昇華性が高く、本発明の効果を有効に得られる観点から、メチルパラベン、エチルパラベン、イソプロピルメチルフェノールが更に好ましく、イソプロピルメチルフェノールがより更に好ましい。
【0016】
本発明において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する飽和溶解度(25℃)未満である。加熱処理原料に(A)難水溶性芳香族化合物が飽和溶解度(25℃)未満で含有されることにより、工程(1-2)により得られる加熱処理液を冷却した後の溶液1において(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性が高まる。加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、飽和溶解度(25℃)の98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。また、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、1バッチあたりの生産性の観点から、飽和溶解度(25℃)の52質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、76質量%以上が更に好ましい。
加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、飽和溶解度(25℃)の、好ましくは52~98質量%、より好ましくは60~95質量%、更に好ましくは76~90質量%である。
【0017】
加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、その種類によって異なるが、1バッチあたりの生産性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、また、加熱処理後の(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性の観点、加熱処理時間を短くする観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは17質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量は、1~30質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましく、3~20質量%が更に好ましく、4~17質量%がより更に好ましく、4~15質量%がより更に好ましい。
【0018】
本発明で用いられる(B)ポリオールは、炭化水素の2以上の水素を水酸基で置換したアルコール類の総称である。ポリオールは、25℃の水に対する溶解度が3.0g/L以上、更に3.5g/L以上、更に4.0g/L以上であるものが好ましく、水といかなる比率でも溶解するものがより更に好ましい。
(B)ポリオールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコール、これらの縮合物が挙げられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール等の二価アルコールであるアルキレングリコール類;ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の二価アルコールの縮合物であるポリアルキレングリコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリン及びグリセリン縮合物;1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等のトリオール類等が挙げられる。なお、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールにおいて、平均分子量は好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、更に好ましくは400以下である。なかでも、(A)難水溶性芳香族化合物の可溶化量を多くし、工程(1)において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物を未飽和状態とする観点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量400)、グリセリン、ジグリセリンがより好ましく、更にプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量400)、グリセリンが好ましい。
(B)ポリオールは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
加熱処理原料中の(B)ポリオールの含有量は、後述する(C)水性媒体の種類によって調整することができる。
(C)水性媒体が一価アルコールを含まない場合、加熱処理原料中の(B)ポリオールの含有量は、(A)難水溶性芳香族化合物の可溶化量を多くし、工程(1)において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物を未飽和状態にできる点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。また、経済性の観点から(B)ポリオールの使用量は少ないほど好ましいため、上限は好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
(C)水性媒体が一価アルコールを含まない場合、加熱処理原料中の(B)ポリオールの含有量は、好ましくは40~95質量%、より好ましくは50~90質量%、更に好ましくは60~85質量%である。
一方、(C)水性媒体が一価アルコールを含む場合、加熱処理原料中の(B)ポリオールの含有量は、(A)難水溶性芳香族化合物の可溶化量を多くし、工程(1)において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物を未飽和状態にできる点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは45質量%以上である。また、経済性の観点から(B)ポリオールの使用量は少ないほど好ましいため、上限は好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
(C)水性媒体が一価アルコールを含む場合、加熱処理原料中の(B)ポリオールの含有量は、好ましくは30~95質量%、より好ましくは35~90質量%、更に好ましくは45~85質量%である。
【0020】
本発明において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物に対する(B)ポリオールの含有質量比[(B)/(A)]は、(A)難水溶性芳香族化合物の可溶化量を多くし、工程(1)において、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物を未飽和状態にできる点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは4以上、より更に好ましくは5以上である。また、経済性の観点から、好ましくは80以下、より好ましくは40以下、より好ましくは25以下である。
加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物に対する(B)ポリオールの含有質量比[(B)/(A)]は、好ましくは1~80、より好ましくは1.5~40、更に好ましくは2.0~40、より更に好ましくは4~25、より更に好ましくは5~25である。
【0021】
本発明で用いられる(C)水性媒体とは、水、及び一価アルコールの水溶液をいう。水としては、水道水、蒸留水、イオン交換水、精製水が例示される。
一価アルコールは、水と均一に混合するものであれば特に限定されないが、化粧料原料として使用可能で汎用性が高い点から、エタノール、プロパノールがより好ましく、エタノールが更に好ましい。
加熱処理原料中の成分(C)としての水の含有量は、溶液1で成分(A)が、成分(B)及び成分(C)との溶媒和によるネットワーク構造(以下、「分子会合体」という)を形成し、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈し、溶液2とした際における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点から、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは5.0質量%以上であり、また、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈し、溶液2とした際における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点、工程(1-2)において加熱時間を短縮できる点、加熱温度を低くできる点から、好ましくは55質量%以下、より好ましくは48質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、より更に好ましくは30質量%以下である。
加熱処理原料中の成分(C)としての水の含有量は、好ましくは2.0~55質量%、より好ましくは2.5~48質量%、更に好ましくは3.0~40質量%、より更に好ましくは5.0~30質量%である。
【0022】
本発明において、(B)ポリオールに加えて、成分(C)として一価アルコールを併用すると、工程(2)で水を用いて希釈し、溶液2とした際における難水溶性芳香族化合物の析出が、より効果的に抑制される。一価アルコールによって、工程(1-2)において分子会合体の形成が促進され、成分(A)が安定して溶解状態で存在することを助長するためと考えられる。このため、難水溶性芳香族化合物含有組成物中の(A)難水溶性芳香族化合物を高濃度化する場合や加熱処理条件を緩和化する場合に有益である。
成分(C)としてエタノールを用いる場合、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点から、加熱処理原料中のエタノールの含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、更に好ましくは13質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、また、経済性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは22質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
加熱処理原料中のエタノールの含有量は、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点、経済性の観点から、3~40質量%が好ましく、5~30質量%がより好ましく、8~25質量%が更に好ましく、13~22質量%がより更に好ましい。成分(C)としてエタノール以外の一価アルコールを用いる場合も、加熱処理原料中の一価アルコールの含有量は、同様の範囲が好ましい。
一方、エタノールは皮膚への刺激があるため、皮膚への刺激を低減する観点よりエタノールの使用量を少なくする場合、加熱処理原料中のエタノールの含有量は、好ましくは0~40質量%、より好ましくは0~10質量%、更に好ましくは0~1質量%であり、更に実質的に0質量%、すなわちエタノールを含まないのが好ましい。
【0023】
本発明において、加熱処理原料中の(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]は、分子会合体を形成し、成分(A)が安定して溶解状態で存在することができる点、工程(1-2)において加熱時間を短縮できる点、加熱温度を低くできる点から、0.45~0.98であることが好ましく、0.48~0.96であることがより好ましく、0.51~0.95であることが更に好ましい。
また、同様の観点から、(C)水性媒体が一価アルコールを含まない場合、加熱処理原料中の(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]は、0.55~0.98であることが好ましく、0.60~0.96であることがより好ましく、0.65~0.95であることが更に好ましい。
(C)水性媒体が一価アルコールを含む場合、加熱処理原料中の(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]は、同様の観点から、0.53~0.80であることが好ましく、0.55~0.75であることがより好ましく、0.59~0.67であることが更に好ましい。
【0024】
加熱処理原料には、上記成分(A)~(C)の他に、本発明の効果を損なわない範囲において他の成分が適宜含有されていてもよいが、(A)難水溶性芳香族化合物の機能を維持する観点、皮膚への刺激を少なくする観点から、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量は0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0~0.05質量%、更に好ましくは0~0.01質量%であり、より更に好ましくは実質的に0質量%、すなわち界面活性剤を含まないのが好ましい。
【0025】
〔工程(1-2)〕
本工程は、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程である。工程(1-2)は、前記工程(1-1)の後に行っても良く、また前記工程(1-1)と同時に行っても良い。加熱処理を加圧せずに常圧で行えば、耐圧耐熱容器等の特殊な装置を必要とせず、また、100℃未満で行えば難水溶性芳香族化合物の熱による変質や、揮発性又は昇華性の難水溶性芳香族化合物への適用に好適である。
加熱温度は100℃未満であるが、加熱処理時間を短くできる点、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上、更に好ましくは60℃以上、更に好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上である。また、難水溶性芳香族化合物の熱による変質を抑制する観点から、好ましくは98℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下、より更に好ましくは80℃以下である。
加熱温度は、好ましくは50~100℃未満、より好ましくは55~98℃、更に好ましくは60~95℃、より更に好ましくは65~90℃、より更に好ましくは70~85℃である。
加熱温度は、なかでも、加熱処理時間を短くできる点、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性の観点から、好ましくは50~100℃未満、より好ましくは60~98℃、更に好ましくは70~95℃、より更に好ましくは80~95℃であり、また、なかでも、難水溶性芳香族化合物の熱による変質を抑制する観点から、好ましくは50~98℃、より好ましくは55~90℃、更に好ましくは60~85℃、より更に好ましくは65~80℃である。
【0026】
加熱処理時間は、加熱温度等によって異なり一概に規定することはできないが、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性の観点から、好ましくは6分以上、より好ましくは12分以上、更に好ましくは18分以上、更に好ましくは24分以上であり、また、生産性の観点から、好ましくは120時間以内、より好ましくは48時間以内、更に好ましくは24時間以内、更に好ましくは8時間以内である。
加熱処理時間は、好ましくは6分以上120時間以内、より好ましくは12分以上48時間以内、更に好ましくは18分以上24時間以内、更に好ましくは24分以上8時間以内である。
本発明において加熱処理時間とは、加熱処理原料の温度が所定の加熱温度にある時間の長さである。
【0027】
本工程(1-2)の加熱処理条件は、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2、すなわち(A)難水溶性芳香族化合物濃度が飽和溶解度超となるように水を用いて希釈された溶液1の希釈液において、(A)難水溶性芳香族化合物の析出が抑制されるように加熱処理原料を加熱する。(A)難水溶性芳香族化合物と(B)ポリオールと(C)水性媒体とが共存した状態に十分な熱が加わると、工程(2)で溶液1に水を加えて希釈した溶液2において、(A)難水溶性芳香族化合物が析出しにくい状態が実現すると考えられる。よって、加熱処理原料を加熱処理して得られた溶液1に、工程(2)で水を加えて希釈し溶液2とした際に、(A)難水溶性芳香族化合物が析出することなく溶解状態をより安定化させるためには、加熱処理原料に対して十分な熱履歴を与えることが必要である。加熱処理原料に対して十分な熱履歴を与える手段としては、加熱処理原料の組成に応じて、加熱温度を高くしたり、加熱時間を長くしたりすること等が挙げられる。
【0028】
例えば、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が同じで、且つ(B)ポリオール及び(C)水性媒体の種類並びに含有量が同じであれば、加熱温度が低い(例えば、50℃以上75℃未満)ときは、高いときより加熱時間は長めとでき、加熱温度が高い(例えば、75℃以上100℃未満)ときは、低いときより加熱時間は短めとできる。
また、加熱温度が同じで、且つ(B)ポリオール及び(C)水性媒体の種類並びに含有量が同じであれば、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が多い(例えば、13質量%超)ときは、少ないときより加熱時間を長くすれば良く、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が中程度(例えば、8質量%超13質量%以下)のときは、加熱時間を少ないときよりは長いが、多いときより短くすれば良く、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が少ない(例えば、8質量%以下)ときは、多いときより加熱時間を短くすれば良い。
また、加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が同じで、且つ(B)ポリオールの種類及び含有量、並びに加熱温度が同じであれば、(C)水性媒体が水のときは、一価アルコールの水溶液のときより加熱時間は長めとでき、(C)水性媒体が一価アルコールの水溶液のときは、水のときより加熱時間は短めとできる。
【0029】
工程(1-2)においては、前述の通り成分(A)~(C)の組成、加熱温度及び加熱時間の兼ね合いにより、工程(2)で得られる溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の析出をより抑制する点からみた最適条件が異なってくる。成分(A)~(C)の組成に応じて、加熱処理温度及び加熱処理時間を適宜調整することが好ましいが、各種変数を整理することにより、工程(1-2)の範囲を明確化することができる。具体的には、当該組成及び加熱処理条件に関する因子を特定し、溶液1において分子会合体が形成され、水を用いて希釈した溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性の観点から加熱処理条件の好ましい範囲を、パラメータにて規定する。そこで、パラメータ規定の構築の手順を以下に説明する。
【0030】
1.因子の特定
本発明は、工程(1-2)を経ることにより、溶液1中に成分(A)が安定して溶解した状態を形成することが必要であり、その溶解状態の指標として「溶解状態指数:Y」を設定する。Yは対象である成分(A)の溶解状態に関わる因子を網羅したパラメータである。Yに大きく関わる因子として、工程(1-1)により得られる加熱処理原料中の「成分(A)の濃度:C0」、及び成分(B)及び(C)の溶媒に対する「成分(A)の飽和溶解度:CS」がある。更に、CSは温度変化により大きく変動することから、工程(1-2)における「加熱処理温度:T」の影響も考慮する。温度変化は主に成分(A)の溶解性及び成分(A)が溶解した溶液の粘性、すなわち、成分(A)の分散性に影響を与えることから、温度変化による成分(A)の溶解性と分散性を「溶解効率:E」(Tを含む因子)として設定する。以上から、YはC0、CS及びEにより表現できると判断される。
また、加熱処理条件には「処理時間:t」があり、その長さにより前記Yが変化すると考えられるため、本発明の態様においては、前記Yとtとの関係を整理することにより、最適な加熱処理条件についてパラメータ規定する。
【0031】
2.溶解効率Eの構築
溶解効率には、溶解性と分散性が影響するため、溶解性の項としてEsolを、分散性の項としてEdisをそれぞれ設定する。ここで、i)成分(A)としてイソプロピルメチルフェノール、成分(B)として1,3-ブタンジオール、成分(C)として水を用いた場合について溶解効率Eの構築を説明する。
2-1.Esolの構築
Esolは成分(A)を溶解する溶媒中の成分(B)の比率と処理温度により決定する。まず、成分(A)の溶解度を、溶媒中の成分(B)の比率及び温度を種々変化させて測定する。横軸に溶媒濃度:CBG(成分(B)+成分(C)中の成分(B)の濃度)、縦軸に当該溶媒に対する成分(A)の溶解度をとり、溶媒濃度及び処理温度を変化させ、温度別に溶解度のグラフを描く。近似式を用いると溶解度:Sは、次の(式1)で表すことができる(式中のA、Bは定数)。
【0032】
【0033】
A及びBを共に温度の関数として整理すると、成分(A)の溶解度をCBGと処理温度Tから次の(式2)のように、推定溶解度:S’を導くことが可能となる。
【0034】
【0035】
ここで、Esolは、S’を元の溶解量、すなわち室温における成分(A)の溶解度S’’で除したものとして表現できる。S’’=0.086e^(0.085CBG)であるから、これよりEsolは次の(式3)にて表すことができる。
【0036】
【0037】
2-2.Edisの構築
EdisについてもEsolと同様に、成分(A)を溶解する溶媒中の成分(B)の比率と処理温度により決定する。まず、溶媒の分散性として粘度を評価することとし、溶媒中の成分(B)の比率及び温度を種々変化させて溶媒粘度を測定する。横軸に溶媒濃度:CBG(成分(B)+成分(C)中の成分(B)の濃度)、縦軸に溶媒粘度をとり、温度別に粘度のグラフを描く。近似式を用いると分散性:Dは、次の(式4)で表すことができる(式中のA、Bは定数)。
【0038】
【0039】
A及びBを共に温度の関数として整理すると、溶媒粘度をCBGと処理温度Tから次の(式5)のように、推定分散性:D’を導くことが可能となる。
【0040】
【0041】
ここで、Edisは、D’を想定される最も低い溶液粘度、すなわち最も溶媒濃度の低い溶媒の最大温度における粘度の値で除したものとして表現できる。D’’=0.003であるから、これよりEdisは次の(式6)にて表すことができる。
【0042】
【0043】
2-3.Eの構築
前記Esolは温度が高いほど高い値を示し、Edisは温度が高いほど低い値を示すため、一つの溶解効率Eとしては、E=Edis/Esolと定義できる。前記(式3)及び(式6)からEは次の(式7)のように表すことができる。
【0044】
【0045】
3.溶解状態指数Yの構築
成分(A)が溶液中に安定的に溶解していることを判断するには「飽和比(C0/CS)」を指標とすることができる。また、難水溶性素材のような結晶性の高い素材においては、仕込み濃度であるC0が大きく溶解状態に影響を及ぼすことが考えられるため、飽和比に更にC0を乗じて補正することとする。以上から、溶解状態指数Yを前記E、C0及びCSをもって表現すると、次の(式8)で表すことができる。
【0046】
【0047】
4.パラメータ規定の構築
次に、溶解状態指数Yと加熱処理時間との関係を求める。実際に、成分(A)であるイソプロピルメチルフェノール、成分(B)である1,3-ブタンジオール、成分(C)である水の各組成、温度を変えた実験を行い、約10~20の実験データから関係式を求めることができる。
【0048】
図1に示すように、成分(A)~(C)の組成、加熱処理温度及び加熱処理時間を種々変化させた実験を行い、溶液2における(A)難水溶性芳香族化合物の析出や沈殿物の発生の有無の結果を、加熱処理時間をX軸、溶解状態指数YをY軸としたグラフ上にプロットする。
図1の結果から、本発明の効果が得られる領域、すなわち、析出や沈殿物が発生しない領域と発生する領域の境界Zを次の(式9)で示すことができる。
【0049】
【0050】
Y<Zであれば、本発明の効果が得られ、Y≧Zであれば、本発明の効果が得られないことになる。
このように、一旦最初の実験によりYとZを求めれば、成分(A)~(C)の各組成において、本発明の効果が得られる加熱処理温度及び加熱処理時間を選択することができる。そして、成分(A)イソプロピルメチルフェノール、成分(B)1,3-ブタンジオール、成分(C)水の組み合わせ以外の場合も、同様の方法により、Y及びZを求めることができ、本発明の効果が得られる適切な加熱処理温度、加熱処理時間を選択することができる。
【0051】
なお、成分(A)にイソプロピルメチルフェノールを用い、成分(B)に1,3-ブタンジオール以外のポリオールを含む場合及び/又は成分(C)に一価アルコールの水溶液を用いた場合、簡易的に上記成分(B)1,3-ブタンジオール及び成分(C)水で求めた(式9)を導く際に使用したEを用いてY’を求めることもできる。下記に示す組成において、Y’より導いたZをそれぞれ下記に示す。
ii)成分(B)が1,3-ブタンジオールかつ成分(C)が水及びエタノールの場合
【0052】
【0053】
iii)成分(B)が1,3-ブタンジオール以外のポリオールを含みかつ成分(C)が水の場合
【0054】
【0055】
iv)成分(B)が1,3-ブタンジオール以外のポリオールを含みかつ成分(C)が水及びエタノールの場合
【0056】
【0057】
以下に、(A)難水溶性芳香族化合物としてフェノール系抗菌剤を用いた場合の本工程(1-2)の好適例を示す。
・フェノール系抗菌剤を1~7.5質量%、(B)ポリオールを60~95質量%、及び(C)水を1~39質量%含有する加熱処理原料を、70~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~6.0質量%、(B)ポリオールを65~95質量%、及び(C)水を1~34質量%含有する加熱処理原料を、75~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~5.5質量%、(B)ポリオールを70~95質量%、及び(C)水を1~29質量%含有する加熱処理原料を、80~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
【0058】
・フェノール系抗菌剤を1~7.5質量%、(B)ポリオールを60~95質量%、及び(C)水を1~39質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~6.0質量%、(B)ポリオールを65~95質量%、及び(C)水を1~34質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~5.5質量%、(B)ポリオールを70~95質量%、及び(C)水を1~29質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
【0059】
・フェノール系抗菌剤を5.5~12.5質量%、(B)ポリオールを60~93.5質量%、及び(C)水を1~34.5質量%含有する加熱処理原料を、70~99℃、10分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を5.5~12.0質量%、(B)ポリオールを65~93.5質量%、及び(C)水を1~29.5質量%含有する加熱処理原料を、75~99℃、10分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を5.5~11.5質量%、(B)ポリオールを70~93.5質量%、及び(C)水を1~24.5質量%含有する加熱処理原料を、80~99℃、10分以上で加熱処理を行う。
【0060】
・フェノール系抗菌剤を5.5~12.5質量%、(B)ポリオールを60~93.5質量%、及び(C)水を1~34.5質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を5.5~12.0質量%、(B)ポリオールを65~93.5質量%、及び(C)水を1~29.5質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を5.5~11.5質量%、(B)ポリオールを70~93.5質量%、及び(C)水を1~24.5質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
【0061】
・フェノール系抗菌剤を11.5~18質量%、(B)ポリオールを60~87.5質量%、及び(C)水を1~28.5質量%含有する加熱処理原料を、85~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~17質量%、(B)ポリオールを65~87.5質量%、及び(C)水を1~23.5質量%含有する加熱処理原料を、87.5~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~16質量%、(B)ポリオールを70~87.5質量%、及び(C)水を1~18.5質量%含有する加熱処理原料を、90~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
【0062】
・フェノール系抗菌剤を11.5~18質量%、(B)ポリオールを60~87.5質量%、(C)水を1~28.5質量%含有する加熱処理原料を、75~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~17質量%、(B)ポリオールを65~87.5質量%、(C)水を1~23.5質量%含有する加熱処理原料を、77.5~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~16質量%、(B)ポリオールを70~87.5質量%、(C)水を1~18.5質量%含有する加熱処理原料を、80~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
【0063】
・フェノール系抗菌剤を11.5~18質量%、(B)ポリオールを60~87.5質量%、(C)水を1~28.5質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、120分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~17質量%、(B)ポリオールを65~87.5質量%、(C)水を1~18.5質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、120分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~16質量%、(B)ポリオールを70~87.5質量%、(C)水を1~13.5質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、120分以上で加熱処理を行う。
【0064】
・フェノール系抗菌剤を1~7.5質量%、(B)ポリオールを30~95質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを1~25質量%及び水を1~40質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~6.0質量%、(B)ポリオールを35~90質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを2~25質量%及び水を1~40質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を1~5.5質量%、(B)ポリオールを40~85質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを3~25質量%及び水を1~40質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、10分以上で加熱処理を行う。
【0065】
・フェノール系抗菌剤を5.5~12.0質量%、(B)ポリオールを35~90質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを3~25質量%及び水を1~40質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を5.5~11.5質量%、(B)ポリオールを40~85質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを5~25質量%及び水を1~40質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
【0066】
・フェノール系抗菌剤を11.5~18質量%、(B)ポリオールを30~85質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを1~25質量%及び水を1~30質量%含有する加熱処理原料を、70~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~17質量%、(B)ポリオールを35~80質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを5~25質量%及び水を1~25質量%含有する加熱処理原料を、75~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~16質量%、(B)ポリオールを40~75質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを10~25質量%、及び(C)水を1~20質量%含有する加熱処理原料を、80~99℃、1分以上で加熱処理を行う。
【0067】
・フェノール系抗菌剤を11.5~18質量%、(B)ポリオールを30~85質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを1~25質量%及び水を1~30質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、7分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~17質量%、(B)ポリオールを35~80質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを5~25質量%及び水を1~25質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、10分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を11.5~16質量%、(B)ポリオールを40~75質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを10~25質量%、及び(C)水を1~20質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、15分以上で加熱処理を行う。
【0068】
・フェノール系抗菌剤を16~36質量%、(B)ポリオールを30~80質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを1~25質量%及び水を1~30質量%含有する加熱処理原料を、70~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を16~32質量%、(B)ポリオールを35~75質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを5~25質量%及び水を1~25質量%含有する加熱処理原料を、75~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を16~28質量%、(B)ポリオールを40~70質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを10~25質量%及び水を1~20質量%含有する加熱処理原料を、80~99℃、5分以上で加熱処理を行う。
【0069】
・フェノール系抗菌剤を16~36質量%、(B)ポリオールを30~80質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを1~25質量%及び水を1~30質量%含有する加熱処理原料を、50~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を16~32質量%、(B)ポリオールを35~75質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを5~25質量%及び水を1~25質量%含有する加熱処理原料を、55~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
・フェノール系抗菌剤を16~28質量%、(B)ポリオールを40~70質量%、並びに(C)水性媒体としてエタノールを10~25質量%及び水を1~20質量%含有する加熱処理原料を、60~99℃、30分以上で加熱処理を行う。
【0070】
本工程(1-2)では、溶液1を得るに際し、加熱処理原料を加熱処理した後の加熱処理液を冷却する工程を含むことが好ましい。冷却温度は、溶液1を安定に得る観点、溶液1に水を加えて希釈した溶液2における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点から、好ましくは0~50℃、より好ましくは0~35℃、更に好ましくは10~25℃である。
加熱温度から25℃まで低下するのに要した時間から算出される加熱処理液の冷却速度は、溶液1を安定に得る観点、溶液1に水を加えて希釈した溶液2における難水溶性芳香族化合物の析出をより効果的に抑制する観点から、好ましくは0.01℃/s以上、より好ましくは0.1℃/s以上であり、更に好ましくは0.3℃/s以上である。
【0071】
また、本工程(1-2)では、溶液1を得るに際し、加熱処理原料を加熱処理した後の加熱処理液から、溶解せずに残留する固形物を除去する工程を含むことが好ましい。固形物を除去する方法としては、特に制限されず、例えば、遠心分離、デカンテーション、濾過が挙げられる。
【0072】
本発明の工程(1)により得られる溶液1は極めて安定であり、保存中に(A)難水溶性芳香族化合物が析出することはない。そこで、工程(1)の後、直ぐに続けて次の工程(2)を行わず、溶液1の状態で中間原料として保存しておき、用時工程(2)を行うことができる。また、工程(2)は(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる溶液2を得るために溶液1に水を加える工程であるため、本発明により製造された難水溶性芳香族化合物含有組成物は容量が大きくなる。そこで、工程(1)により得られる溶液1の状態で中間原料として輸送することで、前記効果に加え、輸送コストを低減できるという効果もある。よって、前記効果の観点から、本発明の実施態様として、本発明の工程(1)により得られる溶液1を中間原料として取り扱い、本発明により得られる難水溶性芳香族化合物含有組成物を製造する際、又は当該組成物を配合する製品を製造する際に工程(2)を行うことにより、本発明を実施することが好ましい。従って、本発明は、難水溶性芳香族化合物溶液1の製造方法である。
【0073】
なお、本発明の工程(1)により得られる溶液1は極めて安定であるが、保存中に温度変化した際(特に低温条件に晒される等)に、(A)難水溶性芳香族化合物が析出することを抑制するために、成分(B)に相当する成分及び/又は成分(C)としての一価アルコールを配合することが好ましい。
【0074】
〔工程(2)〕
本工程は、前記難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加えて、(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる溶液2を得る工程である。加える水の量は、(B)ポリオール、(C)水性媒体及び加えた水からなる溶媒中において、25℃で(A)難水溶性芳香族化合物が飽和状態となる量以上となる量である。すなわち、その量は、溶液1中の(A)難水溶性芳香族化合物の量、(B)ポリオールと(C)水性媒体の比率によって変化するが、溶液1中の各成分の組成における難水溶性芳香族化合物の実測値と、水を配合する溶液2中の(A)難水溶性芳香族化合物の濃度から、加える水の量を算出する。また、加える水の量は、(A)難水溶性芳香族化合物が析出しない範囲内の量とする。
具体的には、(A)難水溶性芳香族化合物の高い機能発現が期待できる点から、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する飽和溶解度(25℃)に対して、好ましくは1.5~6.0倍、より好ましくは1.5~5.0倍、更に好ましくは1.5~4.0倍となるように、溶液1を水で希釈することが好ましい。
【0075】
かくして難水溶性芳香族化合物含有組成物が得られる。当該難水溶性芳香族化合物含有組成物は(A)難水溶性芳香族化合物濃度が飽和溶解度超の濃度で存在するため、当該組成物を用いることにより、(A)難水溶性芳香族化合物の高い機能発現が期待できる。
【0076】
〔化粧料等の製造方法〕
本発明の工程(2)により得られた溶液2に、その他の原料を加えることにより、化粧料、医薬品、医薬部外品、飲食品等の様々な分野の製品を製造することができる。
また、工程(2)において溶液1に水を添加する際に、その他の原料も同時に添加することにより、前記化粧料等の製品を製造することもできる。その場合、工程(1)で得られた溶液1を、例えば、ポリマーなどを含む水溶液等を用いて希釈し、更に必要に応じて有機溶媒、油剤等を配合し、(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度とすることができる。
化粧料等の製造においても、(A)難水溶性芳香族化合物の高い機能発現が期待できる点から、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する飽和溶解度(25℃)に対して、好ましくは1.5~6.0倍となるように、難水溶性芳香族化合物含有量を調整することが好ましい。
【0077】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0078】
<1>(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記溶液1に水を加えて(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記工程(1-1)において、加熱処理原料における(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、
0.45~0.98であり、(A)難水溶性芳香族化合物に対する(B)ポリオールの含有質量比[(B)/(A)]が1以上80以下であり、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
【0079】
<2>(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記溶液1に水を加えて(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記工程(1-1)において、加熱処理原料中の(C)水性媒体が一価アルコールを含まず、加熱処理原料における(B)ポリオールの含有量が40~95質量%であり、(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、0.55~0.98であり、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
【0080】
<3>(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記溶液1に水を加えて(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記工程(1-1)において、加熱処理原料中の(C)水性媒体が一価アルコールを含まず、加熱処理原料における(B)ポリオールの含有量が40~95質量%であり、加熱処理原料における(A)難水溶性芳香族化合物に対する(B)ポリオールの含有質量比[(B)/(A)]が1以上80以下であり、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
<4>(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記溶液1に水を加えて(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
前記工程(1-1)において、加熱処理原料における(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が1~20質量%であり、(C)水性媒体が一価アルコールを含まず、その含有量が2.0~55質量%であり、(B)ポリオールの含有量が40~95質量%であり、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
<5>(A)難水溶性芳香族化合物、(B)ポリオール及び(C)水性媒体を含有する加熱処理原料を調製する工程(1-1)と、前記加熱処理原料を常圧で100℃未満の温度で加熱処理して、難水溶性芳香族化合物含有加熱処理液を得る工程(1-2)とを含む、難水溶性芳香族化合物溶液1を得る工程(1)と;前記溶液1に水を加えて(A)難水溶性芳香族化合物が25℃における飽和溶解度超の濃度となる難水溶性芳香族化合物溶液2を得る工程(2)とを含み、
加熱処理原料中の(C)水性媒体が一価アルコールを含まず、その含有量が2.0~40質量%であり、加熱処理原料における(B)ポリオールの含有量が50~90質量%であり、(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、0.65~0.95であり、
前記工程(1)において、加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が0.1質量%以下であり、かつ加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する25℃における飽和溶解度未満である、難水溶性芳香族化合物含有組成物の製造方法。
【0081】
<6>(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃の水に対する溶解度が、1.0g/L以下の芳香族化合物である<1>~<5>のいずれかに記載の製造方法。
<7>(A)難水溶性芳香族化合物が、25℃のポリオールに対する溶解度が、20g/L以上である芳香族化合物である<1>~<6>のいずれかに記載の製造方法。
<8>(A)難水溶性芳香族化合物が、フェノール系抗菌剤である<1>~<7>のいずれかに記載の製造方法。
<9>加熱処理原料中の(A)難水溶性芳香族化合物の含有量が、飽和溶解度(25℃)の98質量%以下、60質量%以上である<1>~<8>のいずれかに記載の製造方法。
<10>(B)ポリオールが、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量400)及びグリセリンから選ばれる少なくとも1種である<1>~<9>のいずれかに記載の製造方法。
<11>(C)水性媒体が、エタノールの水溶液である<1>~<10>のいずれかに記載の製造方法。
<12>加熱処理原料中の界面活性剤の含有量が、実質的に0質量%、すなわち界面活性剤を含まない、<1>~<11>のいずれかに記載の製造方法。
<13>工程(1-2)での加熱処理時間が、6分以上120時間以内である<1>~<12>のいずれかに記載の製造方法。
<14>工程(1-2)での加熱温度が、55~98℃である<1>~<13>のいずれかに記載の製造方法。
<15>工程(1-1)における成分(B)が1,3-ブタンジオールかつ成分(C)が水であり、加熱処理原料における(C)水の含有量が2.0~40質量%であり、(B)ポリオールの含有量が50~90質量%であり、(B)ポリオール及び(C)水性媒体の合計質量に対する(B)ポリオールの質量比[(B)/((B)+(C))]が、0.65~0.95であり、成分(A)の濃度をC0、成分(A)の飽和溶解度をCS、前記工程(1-2)における加熱温度をT、加熱処理時間をtとしたとき、前記工程(1-2)において、次の(式8)で示す溶解状態指数Yと、tとの関係が、次の(式9)が成り立つ条件で加熱処理原料を加熱する、<1>~<14>のいずれかに記載の製造方法。
【0082】
【0083】
<16>工程(2)において、(A)難水溶性芳香族化合物濃度が、(A)難水溶性芳香族化合物の同一組成の溶媒に対する飽和溶解度(25℃)に対して、1.5~6.0倍となるように、難水溶性芳香族化合物溶液1に水を加える<1>~<15>のいずれかに記載の製造方法。
<17><1>~<16>のいずれかに記載の製造方法により得られた難水溶性芳香族化合物含有組成物を配合する工程を含む化粧料の製造方法。
<18><1>~<16>のいずれかに記載の製造方法により得られた難水溶性芳香族化合物含有組成物が化粧料である、化粧料の製造方法。
【実施例】
【0084】
[原材料]
イソプロピルメチルフェノール(IPMP、大阪化成株式会社製、純度100%)
p-ヒドロキシ安息香酸メチル(MP、和光純薬工業株式会社製、純度99.0%)
1,3-ブタンジオール(1,3-BG、KHネオケム株式会社製、純度100%)
ポリエチレングリコール400(PEG400、和光純薬工業株式会社製、純度100%)
ジプロピレングリコール(DPG、旭硝子株式会社製、純度100%)
プロピレングリコール(PG、株式会社ADEKA製、純度100%)
グリセリン(GLY、花王株式会社製、純度100%)
エタノール(EtOH、和光純薬工業株式会社、純度99.5%)
【0085】
[イソプロピルメチルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸メチルの測定]
日立製作所製高速液体クロマトグラフを用い、インタクト社製カラムCadenza CD-C18(4.6mmφ×150mm、3μm)を装着し、カラム温度40℃でグラジエント法により行った。移動相A液は0.05mol/L酢酸水溶液、B液はアセトニトリルとし、1.0mL/分で送液した。グラジエント条件は以下のとおりである。
時間(分) A液(%) B液(%)
0 85 15
20 80 20
35 10 90
50 10 90
50.1 85 15
60 85 15
試料注入量は10μL、検出はイソプロピルメチルフェノールにおいては波長283nmの吸光度、p-ヒドロキシ安息香酸メチルにおいては波長254nmの吸光度により定量した。
【0086】
[イソプロピルメチルフェノール、p-ヒドロキシ安息香酸メチルの溶解度の測定]
所定濃度のポリオールを添加した水溶液を調製した後、イソプロピルメチルフェノール又はp-ヒドロキシ安息香酸メチルを懸濁状態となるまで添加し、該スラリーを室温(25℃)で3日間攪拌(スターラー、500r/min)後、孔径0.2μmのPTFEフィルターで固形物を濾別し、溶液中の濃度を測定した。
【0087】
[溶液2の溶解性の評価]
透明なガラス製の容量30mLのスクリュー管に、イソプロピルメチルフェノール組成物(25℃)を、工程(2)の後の溶液2中のイソプロピルメチルフェノール濃度が0.1質量%になるように秤とり、そこに所定量の水(25℃)を添加した後、手で60秒振とうすることによって、イソプロピルメチルフェノール組成物と水とが均一になるように混合して溶液2を得た。当該溶液2を25℃で保存した。工程(2)から24時間経った時点で、目視にて溶液2中における沈澱物の析出状況を観察した。
p-ヒドロキシ安息香酸メチル組成物についても、上記の操作と同様に、溶液2中のp-ヒドロキシ安息香酸メチル濃度が0.5質量%になるように水で希釈し、目視にて溶液2の沈澱物の析出状況を観察した。
清澄な場合を「○」、沈殿が確認される場合を「×」とした。
なお、イソプロピルメチルフェノール及びp-ヒドロキシ安息香酸メチルの各成分への25℃における溶解度は以下の通りである。
・イソプロピルメチルフェノール
水:0.15g/L
1,3-ブタンジオール:400g/L
プロピレングリコール:182g/L
グリセリン:0.8g/L
・p-ヒドロキシ安息香酸メチル
水:2.5g/L
【0088】
実施例1~13、参考例1及び2
イソプロピルメチルフェノール、1,3-ブタンジオール及び精製水をそれぞれ表1-1に記載した組成となるように配合し、得られた加熱処理原料を内容積190mLのステンレス製回分式反応器(日東高圧(株)製)に投入し、表1-1に記載した加熱処理条件にて加熱処理を行った。表記した温度に達した後、表記した時間保持し、速やかに反応器を氷浴に浸すことによって室温(25℃)まで冷却を行った(冷却速度0.3℃/s)。速やかに冷却した加熱処理液を抜き出し、孔径0.2μmのPTFEフィルターで濾過し、イソプロピルメチルフェノール組成物の溶液1を得た。実施例1~13では溶液1を室温(25℃)で60分静置保存した後、参考例1及び2では溶液1を室温(25℃)で5分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表1-1に示す。
【0089】
比較例1~10
イソプロピルメチルフェノール、1,3-ブタンジオール及び精製水をそれぞれ表1-2に記載した組成となるように配合し、その他は実施例1と同じ操作を行って、イソプロピルメチルフェノール組成物の溶液1を得た。溶液1を室温(25℃)で5分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表1-2に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
実施例1~13、参考例1、2、比較例1、2及び8~10の溶液1における溶解状態指数Yを前記(式8)に従って求め、それぞれの溶液1を得る際の加熱処理時間をX軸、前記YをY軸とし、結晶が析出しないものと結晶が析出したものをグラフ上にプロットすることにより、境界Zを表す前記(式9)を導いた。また、比較例3~7の水を含まないものについては、溶解状態が良好でY<Zであるにも関わらず、溶液2において結晶が析出することを確認した。結果を
図1に示す。
【0093】
実施例14~17
成分(C)水性媒体として精製水及びエタノールを用い、それぞれ表2に記載した組成となるように配合し、表2に示す加熱処理条件を用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表2に示す。
【0094】
比較例11及び12
成分(C)水性媒体として精製水及びエタノールを用い、それぞれ表2に記載した組成となるように配合し、その他は実施例1と同じ操作を行って、イソプロピルメチルフェノール組成物の溶液1を得た。溶液1を室温(25℃)で5分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表2に示す。
【0095】
【0096】
実施例18~25
成分(B)ポリオールとして表3に記載したものを用い、それぞれ表3に記載した組成となるように配合し、表3に示す加熱処理条件を用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表3に示す。
【0097】
比較例13~16
成分(B)ポリオールとして表3に記載したものを用い、それぞれ表3に記載した組成となるように配合し、その他は実施例1と同じ操作を行って、イソプロピルメチルフェノール組成物の溶液1を得た。溶液1を室温(25℃)で5分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
実施例26~29
成分(B)ポリオールとして1,3-ブタンジオール及びグリセリン、成分(C)として精製水及びエタノールを用い、それぞれ表4に記載した組成となるように配合し、表4に示す加熱処理条件を用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表4に示す。
【0100】
比較例17及び18
成分(B)ポリオールとして1,3-ブタンジオール及びグリセリン、成分(C)として精製水及びエタノールを用い、それぞれ表4に記載した組成となるように配合し、表4に示す加熱処理条件を用いた以外は実施例1と同じ操作を行って、イソプロピルメチルフェノール組成物の溶液1を得た。溶液1を室温(25℃)で5分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。溶液2の組成及び評価結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
実施例30
p-ヒドロキシ安息香酸メチルと1,3-ブタンジオールをそれぞれ100g/L、800g/Lとなるように精製水に加えスラリーを得た。得られたスラリーを内容積190mLのステンレス製回分式反応器(日東高圧(株)製)に仕込み加熱処理を行った。80℃に達温後1分間保持し、速やかに反応器を氷浴に浸すことによって室温(25℃)まで冷却を行った(冷却速度0.3℃/s)。速やかに冷却した加熱処理液を抜き出し、孔径0.2μmのPTFEフィルターで濾過し、p-ヒドロキシ安息香酸メチル組成物の溶液1を得た。溶液1を室温(25℃)で60分静置保存した後、水希釈し溶液2を得た。
溶液2の組成及び評価結果を表5に示す。
【0103】
【0104】
表1~5より明らかなように、実施例1~29で得られたイソプロピルメチルフェノール組成物又は実施例30で得られたp-ヒドロキシ安息香酸メチル組成物の溶液1を飽和溶解度超となるように水希釈して溶液2としても、沈殿が析出することなく、安定な溶解状態を保っていた。また、溶液2を室温で1ヶ月保存したところ、安定な溶解状態は保たれた。
また、溶液1がイソプロピルメチルフェノールを飽和溶解度(25℃)未満で含有するよう調製された実施例1~29では、飽和溶解度(25℃)を超えて含有するよう調製された参考例1及び2より、加熱処理を経て室温(25℃)まで冷却した後の溶液1における(A)難水溶性芳香族化合物の溶解状態の安定性が高いことが確認された。