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特許7340983振動信号生成装置および振動信号生成用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】振動信号生成装置および振動信号生成用プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20230901BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230901BHJP
   H04R 1/00 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
H04R3/00 310
G01H17/00 C
H04R1/00 310G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019138744
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021022854
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118094
【弁理士】
【氏名又は名称】殿元 基城
(72)【発明者】
【氏名】橋本 武志
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康弘
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-144377(JP,U)
【文献】特開2009-094561(JP,A)
【文献】特開2016-202486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G10L 21/16
H04R 1/00- 1/08
H04R 1/12- 1/14
H04R 1/42- 1/46
H04R 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号の振幅の絶対値を検出することにより絶対値信号を生成する絶対値信号生成手段と、
該絶対値信号生成手段により生成された前記絶対値信号の包絡線を検波して、包絡線信号を生成する包絡線信号生成手段と、
該包絡線信号生成手段により生成された前記包絡線信号に対して微分処理を行う微分処理手段と、
該微分処理手段により微分処理された前記包絡線信号の振幅値がゼロ以上となるように、前記微分処理された前記包絡線信号の振幅を制限して振幅制限信号を生成する振幅制限手段と、
前記包絡線信号生成手段により生成された前記包絡線信号の振幅変化に対してスムージングフィルタを適用することにより、前記包絡線信号にスムージング処理を行うスムージング処理手段と、
前記振幅制限手段により生成された前記振幅制限信号に対して、前記スムージング処理手段によりスムージング処理された前記包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号を生成する乗算手段と、
前記乗算手段により生成された前記波形整形信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することによって、振動信号を生成する振動信号生成手段と
を有することを特徴とする振動信号生成装置。
【請求項2】
振動として強調したい周波数範囲であって、人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、前記音響信号にフィルタ処理を行うフィルタ処理手段を有し、
前記絶対値信号生成手段は、前記フィルタ処理手段によりフィルタ処理された前記音響信号の振幅の絶対値を検出することにより、前記絶対値信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の振動信号生成装置。
【請求項3】
前記振動信号生成手段は、マイスナー小体によって人間が振動を体感することが可能な周波数からなる正弦波を、前記基本信号として用いること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の振動信号生成装置。
【請求項4】
振動出力手段より振動を出力するための振動信号を生成する振動信号生成装置の振動信号生成用プログラムであって、
制御手段に、
音響信号の振幅の絶対値を検出することにより絶対値信号を生成させる絶対値信号生成機能と、
該絶対値信号生成機能に基づいて生成された前記絶対値信号の包絡線を検波して、包絡線信号を生成させる包絡線信号生成機能と、
該包絡線信号生成機能に基づいて生成された前記包絡線信号に対して微分処理を行わせる微分処理機能と、
該微分処理機能に基づいて微分処理された前記包絡線信号の振幅値がゼロ以上となるように、前記微分処理された前記包絡線信号の振幅を制限して振幅制限信号を生成させる振幅制限機能と、
前記包絡線信号生成機能に基づいて生成された前記包絡線信号の振幅変化に対してスムージングフィルタを適用することにより、前記包絡線信号に対してスムージング処理を行わせるスムージング処理機能と、
前記振幅制限機能に基づいて生成された前記振幅制限信号に対して、前記スムージング処理機能に基づいてスムージング処理された前記包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号を生成させる乗算機能と、
前記乗算機能に基づいて生成された前記波形整形信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することによって、振動信号を生成させる振動信号生成機能と
を実現させることを特徴とする振動信号生成用プログラム。
【請求項5】
前記制御手段に、振動として強調したい周波数範囲であって、人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、前記音響信号に対してフィルタ処理を行わせるフィルタ処理機能を有し、
前記絶対値信号生成機能は、前記フィルタ処理機能に基づいてフィルタ処理された前記音響信号の振幅の絶対値を検出することにより、前記制御手段に前記絶対値信号を生成させる
ことを特徴とする請求項に記載の振動信号生成用プログラム。
【請求項6】
前記振動信号生成機能は、マイスナー小体によって人間が振動を体感することが可能な周波数からなる正弦波を、前記基本信号として用いること
を特徴とする請求項4又は請求項5に記載の振動信号生成用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムに関し、より詳細には、音響信号に基づいて振動信号を生成する振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動出力手段で出力させた振動をユーザに体感させることにより、所定の報知を行ったり、臨場感のある音響環境を提供したりする方法が提案されている。例えば、シートのヘッドレスト付近にフルレンジスピーカを設置し、シートの背もたれ部や座面部にサブウーハを設置したシートオーディオシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フルレンジスピーカは、入力される信号(音響信号)に基づいて、中域から高域までの広い帯域の音を出力することが可能である。フルレンジスピーカから音を出力することにより、ユーザの聴覚を刺激することが可能となっている。
【0004】
一方で、サブウーハは、入力信号に基づいて、低域の音あるいは振動の一方あるいは両方を出力することが可能である。サブウーハから音を出力することにより、ユーザの聴覚を刺激することができ、また、サブウーハから振動を出力することにより、ユーザの触覚を刺激することができる。
【0005】
シートに設置されるスピーカの一例として、コーン紙などを用いるダイナミック型のスピーカを用いることができる。またダイナミック型のスピーカの他に、接触面を振動させるエキサイタなどのリニア共振アクチュエータ(Linear Resonant Actuator)を用いることも可能である。リニア共振アクチュエータを用いることにより、音と振動とを1つの出力手段として出力することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-201671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
サブウーハから音と振動との両方を出力する場合、ユーザは聴覚により音を体感し、触覚により振動を体感することができる。ここで、人間が認識可能な触覚の周波数範囲は、人間が認識可能な聴覚の周波数範囲に比べて狭いという特徴がある。人間が振動を体感する場合には、皮膚等の触覚受容器の一種であるマイスナー小体によって振動を認識する。マイスナー小体で認識可能な振動の周波数範囲は、約10Hzから約150Hzまでの範囲となっており、この周波数範囲よりも高い周波数範囲では、振動を認識することができない。
【0008】
一方で、人間が音を認識することが可能な周波数範囲は、約20Hzから約20kHzまでの範囲といわれており、振動を認識可能な周波数範囲(約10Hz~約150Hz)よりも、周波数が高い傾向がある。例えば、ピアノの音の周波数範囲は、約30Hzから約4kHz程度までの範囲であるため、150Hz以上となるピアノの中高域音を、サブウーハから再生させても、ユーザはピアノの音を振動として体感することができない。
【0009】
このように、振動を出力させることが可能な振動出力手段(サブウーハ等)に対し、どのような周波数特性を備えた信号が入力されるかによって、ユーザが振動を体感することができるか否かが左右されてしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、音響信号の周波数特性に関わらずに、振動を出力することが可能な振動信号を生成する振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る振動信号生成装置は、音響信号の振幅の絶対値を検出することにより絶対値信号を生成する絶対値信号生成手段と、該絶対値信号生成手段により生成された前記絶対値信号の包絡線を検波して、包絡線信号を生成する包絡線信号生成手段と、該包絡線信号生成手段により生成された前記包絡線信号に対して微分処理を行う微分処理手段と、該微分処理手段により微分処理された前記包絡線信号の振幅値がゼロ以上となるように、前記微分処理された前記包絡線信号の振幅を制限して振幅制限信号を生成する振幅制限手段と、該振幅制限手段により生成された前記振幅制限信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することによって、振動信号を生成する振動信号生成手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る振動信号生成用プログラムは、振動出力手段より振動を出力するための振動信号を生成する振動信号生成装置の振動信号生成用プログラムであって、制御手段に、音響信号の振幅の絶対値を検出することにより絶対値信号を生成させる絶対値信号生成機能と、該絶対値信号生成機能に基づいて生成された前記絶対値信号の包絡線を検波して、包絡線信号を生成させる包絡線信号生成機能と、該包絡線信号生成機能に基づいて生成された前記包絡線信号に対して微分処理を行わせる微分処理機能と、該微分処理機能に基づいて微分処理された前記包絡線信号の振幅値がゼロ以上となるように、前記微分処理された前記包絡線信号の振幅を制限して振幅制限信号を生成させる振幅制限機能と、該振幅制限機能に基づいて生成された前記振幅制限信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することによって、振動信号を生成させる振動信号生成機能とを実現させることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムは、音響信号の振幅の絶対値を示す絶対値信号に基づいて包絡線信号を生成する。包絡線信号は、音響信号の振幅の絶対値における包絡線を示しているため、音響信号のプラス側の振幅変化を示す。包絡線信号に対して微分処理を行い、振幅値がゼロ以上となるように振幅を制限した振幅制限信号を生成することにより、包絡線の振幅が大きく増加したときだけ、振幅制限信号の振幅が大きくなる。一方で、包絡線の振幅に変化がない場合や、振幅が低減されたときには、振幅制限信号の振幅がゼロになる。ここで、包絡線の振幅が大きく増加したときとは、音響信号の振幅が大きく増加した場合に該当する。また、包絡線の振幅に変化がない場合や、振幅が低減されたときとは、音響信号の振幅に変化がない場合や低減された場合に該当する。
【0014】
このようにして求められた振幅制限信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することにより生成された振動信号は、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる信号である。このため、生成された振動信号を用いて振動出力手段から振動を出力させた場合には、ユーザが音響信号の振幅変化を振動として体感することが可能になる。
【0015】
特に振動信号は、包絡線の振幅が大きく増加したとき、つまり音響信号の振幅が大きく増加したときに、振幅が大きくなる。また、振動信号は、包絡線の振幅に変化がない場合や、振幅が低減されたとき、つまり音響信号の振幅に変化がない場合や低減されたときに、振幅がゼロとなる。このため、音響信号の振幅が大きく変化した瞬間の振動をより大きくすることができ、振動に対して抑揚を付加することができる。さらに、音響信号の振幅が大きく変化しない場合には、振動を低減させることにより、振動がいつまでも継続して発生してしまうことを防止することができる。
【0016】
また、音響信号の振幅値が一様となるような振幅特性を有する場合であっても、音響信号の振幅が大きく変化した瞬間に振動を増加させて振動に抑揚を付加することができ、振動にメリハリを付加することが可能になる。
【0017】
また、上述した振動信号生成装置は、振動として強調したい周波数範囲であって、人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、前記音響信号にフィルタ処理を行うフィルタ処理手段を有し、前記絶対値信号生成手段は、前記フィルタ処理手段によりフィルタ処理された前記音響信号の振幅の絶対値を検出することにより、前記絶対値信号を生成するものであってもよい。
【0018】
さらに、上述した振動信号生成用プログラムは、前記制御手段に、振動として強調したい周波数範囲であって、人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、前記音響信号に対してフィルタ処理を行わせるフィルタ処理機能を有し、前記絶対値信号生成機能は、前記フィルタ処理機能に基づいてフィルタ処理された前記音響信号の振幅の絶対値を検出することにより、前記制御手段に前記絶対値信号を生成させるものであってもよい。
【0019】
本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムでは、音響信号に対して、振動として強調したい周波数範囲であって、人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するようにフィルタ処理を行って、振動信号を生成する。人間が振動として体感することが可能な周波数範囲を超えた周波数を含む周波数範囲を抽出するようにフィルタ処理を行うことによって、音響信号をそのまま振動出力手段に出力させた場合に、振動として体感することができない周波数帯域の信号出力を、振動信号の信号出力に含めることができる。
【0020】
さらに、本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムでは、振動として強調したい周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、音響信号に対するフィルタ処理を行う。例えば、ピアノの音の周波数範囲は約30Hz~約4kHzとなり、シンバルの音の周波数範囲は約4kHz~約16kHzとなる。
【0021】
このため、ピアノの音の振幅変化(信号レベル変化)を振動として体感したい場合には、音響信号の30Hzから4kHzまでの周波数範囲をフィルタ処理により帯域抽出することにより、ピアノの音の振幅変化(信号レベル変化)を振動として体感することが可能になる。また、シンバルの音の振幅変化(信号レベル変化)を振動として体感したい場合には、音響信号の4kHzから16kHzまでの周波数範囲をフィルタ処理により帯域抽出することにより、シンバルの音の振幅変化(信号レベル変化)を振動として体感することが可能になる。
【0022】
このように、振動として強調したい周波数範囲を抽出するためのカットオフ周波数を設定して、音響信号に対してフィルタ処理を行うことにより、音響信号の所望の信号成分を、振動としてユーザに体感させることが可能になる。
【0023】
また、上述した振動信号生成装置は、前記包絡線信号生成手段により生成された前記包絡線信号の振幅変化に対してスムージングフィルタを適用することにより、前記包絡線信号にスムージング処理を行うスムージング処理手段と、前記振幅制限手段により生成された前記振幅制限信号に対して、前記スムージング処理手段によりスムージング処理された前記包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号を生成する乗算手段とを有し、前記振動信号生成手段は、前記乗算手段により生成された前記波形整形信号に対して、前記基本信号を乗算することにより、前記振動信号を生成するものであってもよい。
【0024】
さらに、上述した振動信号生成用プログラムは、前記制御手段に、前記包絡線信号生成機能に基づいて生成された前記包絡線信号の振幅変化に対してスムージングフィルタを適用することにより、前記包絡線信号に対してスムージング処理を行わせるスムージング処理機能と、前記振幅制限機能に基づいて生成された前記振幅制限信号に対して、前記スムージング処理機能に基づいてスムージング処理された前記包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号を生成させる乗算機能とを有し、前記振動信号生成機能は、前記乗算機能に基づいて生成された前記波形整形信号に対して、前記基本信号を乗算することにより、前記制御手段に前記振動信号を生成させるものであってもよい。
【0025】
本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムでは、振幅制限信号に対して、スムージング処理された包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号の振幅値を包絡線信号の振幅変化に対応して増減させることが可能になる。このため、波形整形信号に基づいて振動信号を生成することにより、振動の振幅変化を音響信号の振幅変化(信号レベル変化)に対応づけることが可能になる。
【0026】
また、上述した振動信号生成装置は、前記振動信号生成手段は、マイスナー小体によって人間が振動を体感することが可能な周波数からなる正弦波を、前記基本信号として用いるものであってもよい。
【0027】
さらに、上述した振動信号生成用プログラムにおいて、前記振動信号生成機能は、マイスナー小体によって人間が振動を体感することが可能な周波数からなる正弦波を、前記基本信号として用いるものであってもよい。
【0028】
人間が振動を体感する器官としてマイスナー小体という触覚受容器が知られている。例えば、マイスナー小体で振動を検出する場合には、約10Hz~約150Hzの周波数範囲で振動を検出する。本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムでは、マイスナー小体によって人間が振動を体感することが可能な周波数からなる正弦波を、基本信号として用いて、振動信号を生成する。このようにして振動信号を生成することにより、振動信号に基づいて出力される振動の周波数を、人間が振動を体感することが可能な周波数にすることができる。従って、振動信号に基づいて出力される振動を、ユーザに確実に体感させることが可能になる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムおいて、振幅制限信号に対して、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる基本信号を乗算することにより生成された振動信号は、人間が振動として体感することが可能な周波数からなる信号である。このため、生成された振動信号を用いて振動出力手段から振動を出力させた場合には、ユーザが音響信号の振幅変化を振動として体感することが可能になる。
【0030】
特に振動信号は、包絡線の振幅が大きく増加したとき、つまり音響信号の振幅が大きく増加したときに、振幅が大きくなる。また、振動信号は、包絡線の振幅に変化がない場合や、振幅が低減されたとき、つまり音響信号の振幅に変化がない場合や低減されたときに、振幅がゼロとなる。このため、音響信号の振幅が大きく変化した瞬間の振動をより大きくすることができ、振動に対して抑揚を付加することができる。さらに、音響信号の振幅が大きく変化しない場合には、振動を低減させることにより、振動がいつまでも継続して発生してしまうことを防止することできる。
【0031】
また、音響信号の振幅値が一様となるような振幅特性を有する場合であっても、音響信号の振幅が大きく変化した瞬間に振動を増加させて振動に抑揚を付加することができ、振動にメリハリを付加することが可能になる
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施の形態に係る振動出力装置の概略構成を示したブロック図である。
図2】実施の形態に係る振動信号生成部におけるハードウェア構成の概略を示したブロック図である。
図3】実施の形態に係る帯域抽出部で用いられる帯域通過フィルタのフィルタ特性を示した図である。
図4】(a)は、帯域抽出部によってフィルタ処理された信号の周波数特性を示した図であり、(b)は、振幅特性を示した図である。
図5】(a)は、包絡線検波部の概略構成を示したブロック図であり、(b)は、波形整形部の概略構成を示したブロック図である。
図6】実施の形態に係る低域通過フィルタ部により求められた包絡線信号の振幅変化状態を示した図である。
図7】(a)は、実施の形態に係る高域通過フィルタにより振幅制限処理された振幅制限信号の振幅変化状態を示している。(b)は、実施の形態に係るスムージングフィルタ部により平滑化処理された包絡線信号の振幅変化状態を示している。
図8】実施の形態に係る乗算部により波形整形処理が行われた波形整形信号の振幅変化状態を示した図である。
図9】(a)は、周波数変換部により生成された振動信号の周波数特性を示した図であり、(b)は、その振幅特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る振動信号生成装置を備えた振動出力装置の一例を示し、図面を用いて詳細に説明を行う。図1は、振動出力装置の概略構成を示したブロック図である。
【0034】
[振動出力装置]
また、振動出力装置1は、図1に示すように、音源再生部10と、第1音量調節部20と、第2音量調節部30と、第1増幅部40と、第2増幅部50と、振動信号生成部(振動信号生成装置)60と、フルレンジスピーカSP1,SP2と、サブウーハ(振動出力手段)SWとを有している。
【0035】
音源再生部10によって再生された音響信号は、ユーザが聴覚により体感することが可能な音として、フルレンジスピーカSP1,SP2より出力される。また、音源再生部10によって再生された音響信号は、振動信号生成部60によって振動出力用の振動信号に変換され、ユーザが触覚により体感することが可能な振動として、サブウーハSWより出力される。なお、サブウーハSWでは、振動信号の周波数特性に応じて、振動だけでなく、低域の音を出力することも可能となっている。
【0036】
[音源再生部]
音源再生部10は、振動出力装置1において音響信号を出力する装置である。音源再生部10として、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に記録された音響信号を出力するCDプレーヤや、DVDプレーヤ等が一例として該当する。
【0037】
音源再生部10より出力される音響信号は、第1音量調節部20と振動信号生成部60とへ、それぞれ出力される。なお、音源再生部10より出力される音響信号は、右チャンネル用の音響信号と、左チャンネル用の音響信号との2チャンネル分の信号により構成される。それぞれのチャンネル用の音響信号は、最終的にフルレンジスピーカSP1,SP2と、サブウーハSWとのそれぞれに対して出力される。
【0038】
[第1音量調節部および第2音量調節部]
第1音量調節部20は、音源再生部10により出力された音響信号の信号レベルを調節する装置である。また、第2音量調節部30は、振動信号生成部60で生成された振動信号の信号レベル(振動レベル)を調節する装置である。第1音量調節部20および第2音量調節部30として、例えば、一般的な音量調節用のつまみ機構などが用いられる。第1音量調節部20で音量を設定することによって、フルレンジスピーカSP1,SP2より出力される音の音量を調節することが可能になる。また、第2音量調節部30で音量(信号レベル、振動レベル)を調節することによって、サブウーハSWより出力される音の音量や振動の振動レベルを調節することが可能になる。
【0039】
[フルレンジスピーカSP1,SP2およびサブウーハSW]
フルレンジスピーカSP1,SP2およびサブウーハSWは、シートに設置される。フルレンジスピーカSP1,SP2は、中域から高域までの音を出力するスピーカであり、例えば、シートのヘッドレスト付近に左右対称になるようにして設置される。サブウーハSWは、低域の音および振動を出力するスピーカであり、例えば、シートの座面部の内部に設置される。実施の形態に係る振動出力装置1では、サブウーハSWによって、低域の音と振動との両方を出力する場合について説明するが、少なくとも振動を出力することが可能であれば十分であり、必ずしも振動に加えて低域音を出力させる構成には限定されない。ただし、後述するように、振動信号生成部60で生成された振動信号に基づいて、サブウーハSWから振動と低域の音とを出力するため、サブウーハSWの基本的な構成は、リニア共振アクチュエータ等の構造に基づくものであることが好ましい。
【0040】
[第1増幅部および第2増幅部]
第1増幅部40は、第1音量調節部20によって音量の調整が行われた音響信号の増幅処理を行い、増幅処理された音響信号をフルレンジスピーカSP1およびフルレンジスピーカSP2に出力する。また、第2増幅部50は、第2音量調節部30によって音量(信号レベル、振動レベル)の調整が行われた振動信号の増幅処理を行い、増幅処理された振動信号をサブウーハSWへ出力する。
【0041】
[振動信号生成部]
振動信号生成部60は、図1に示すように、帯域抽出部(フィルタ処理手段)100と、帯域選択部200と、包絡線検波部300と、波形整形部400と、周波数変換部500(振動信号生成手段)とを有している。図1に示す各機能部100~500は、振動信号生成部60のCPUがソフトウェアによって所定の処理を実行するための機能ブロックを示したものである。
【0042】
図2は、振動信号生成部60におけるハードウェア構成の概略を示したブロック図である。振動信号生成部60は、CPU(Central Processing Unit:中央処理部、制御手段)61と、ROM(Read Only Memory)62と、RAM(Random Access Memory)63と、記憶部64とを備えている。ROM62には、振動信号生成部60においてCPU61が実行する処理内容を示したプログラムが記録されている。RAM63はCPU61が処理を実行する場合に用いられるワークエリアとして利用される。
【0043】
記憶部64は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などを一例として用いることができる。記憶部64には、CPU61の処理に必要なデータ等が記憶される。実施の形態に係る記憶部64では、図示を省略したA/D(アナログ/デジタル)変換部によりデジタルデータ化された音響信号の情報や、後述する音源情報や、包絡線検波部300で生成される包絡線信号の情報や、波形整形部400で生成される振幅制限信号および波形整形信号等の情報や、周波数変換部500で生成される振動信号の情報等が、適宜記憶される。記憶部64に記憶された振動信号は、図示を省略したD/A(デジタル/アナログ)変換部によりアロナグデータに変換されて、第2音量調節部30へ出力される。
【0044】
なお、CPU61が処理を実行する場合に用いられるプログラムは、ROM62でなく、記憶部64に記憶されていてもよい。CPU61がROM62等に記録されているプログラムに基づいて処理を実行することによって、図1に示した振動信号生成部60の機能部100~500として、それぞれの処理が実行される。
【0045】
[帯域抽出部]
帯域抽出部100は、帯域選択部200から取得したカットオフ周波数情報に基づいて、所定の帯域通過フィルタの設定(作成)を行い、音源再生部10より取得した音響信号に対して、フィルタ処理を行う。図3は、帯域抽出部100においてフィルタ処理に用いられる帯域通過フィルタの一例を示した周波数特性である。図3に示した帯域通過フィルタは、低域カットオフ周波数を30Hz、高域カットオフ周波数を4kHzとした4次のバタワースフィルタを示している。低域のカットオフ周波数と、高域のカットオフ周波数とは、カットオフ周波数情報として、帯域選択部200から帯域抽出部100へ出力される。帯域抽出部100は、帯域通過フィルタを用いてフィルタ処理(帯域抽出処理)された音響信号を、包絡線検波部300へ出力する。
【0046】
[帯域選択部]
帯域選択部200は、音響信号の特性等に応じて、カットオフ周波数を選択あるいは決定し、カットオフ周波数情報として帯域抽出部100へ出力する。帯域選択部200において選択あるいは決定されるカットオフ周波数は、上述したように、低域のカットオフ周波数と高域のカットオフ周波数からなる情報である。帯域選択部200は、低域のカットオフ周波数と高域のカットオフ周波数とからなるカットオフ周波数情報を、帯域抽出部100へ出力する。
【0047】
帯域選択部200によってカットオフ周波数の選択処理が行われる一例として、ユーザがカットオフ周波数を選択する場合が該当する。例えば、ユーザが、音源再生部10で再生される音響信号の種類を確認し、音響信号の種類に応じて好適なカットオフ周波数を選択する。音響信号の種類は、例えば、MP3(MPEG-1 Audio Layer-3)のID3タグのジャンル番号の情報などにより確認することができる。ID3タグのジャンル番号によって、ブルース、ジャズ、ポップ、ロック、ボーカル、クラッシックなど100以上のジャンル情報を記録することができる。このため、ユーザは、ジャンル番号によって音響信号の種類を判断することが可能である。また、ID3タグには、曲名やアーティスト名、アルバム名などを記録することもできるため、音楽情報の曲名やアーティスト名から、音響信号の種類を判断することも可能である。このような音響信号の種類を示す情報を、音源情報と称する。
【0048】
帯域選択部200は、振動として強調したい信号成分(周波数範囲)をユーザが選択できるように、予め低域のカットオフ周波数および高域のカットオフ周波数を選択肢として(あるいは、低域のカットオフ周波数および高域のカットオフ周波数からなる複数の周波数範囲の組み合わせ候補を選択肢として)用意し、図示を省略した表示部にリスト状に表示させるようにしてもよい。このカットオフ周波数は、サブウーハSWにおいて振動を出力することが可能な周波数範囲に限定されることはない。
【0049】
カットオフ周波数の選択肢を、リスト状に表示させることにより、ユーザは簡易かつ迅速にカットオフ周波数を選択・設定することが可能になる。例えば、音響信号がピアノの音が主体となる信号である場合、ユーザは、ID3タグのジャンル情報等(音源情報)から、音響信号が、ピアノが主体の音楽(例えば、クラッシック)であると判断することができる。帯域選択部200において、ピアノが主体となる音響信号用のカットオフ周波数を、リスト状にして表示させることにより、ユーザは、ピアノに適した低域のカットオフ周波数として30Hzを選択し、高域のカットオフ周波数として4kHzを選択することができる。
【0050】
また、ID3タグのジャンル情報等(音源情報)から、音響信号が、シンバルが主体の音楽であると判断した場合には、帯域選択部200において、シンバルが主体の音響信号用のカットオフ周波数を、リスト状にして表示させる。ユーザは、シンバルに適した低域のカットオフ周波数として4kHzを選択し、高域のカットオフ周波数として16kHzを選択することができる。
【0051】
このように、音響信号の種類(音源情報)に応じてカットオフ周波数を選択・設定する構成とすることによって、帯域選択部200は、音響信号毎に最適なカットオフ周波数情報を帯域抽出部100へ出力することができ、帯域抽出部100は、最適な帯域通過フィルタを作成することが可能になる。
【0052】
また、振動として強調したい信号成分(周波数範囲)をカットオフ周波数として設定して、最適な帯域通過フィルタを、帯域抽出部100で作成することにより、サブウーハSWから出力される振動にメリハリを加えることが可能になる。例えば、帯域選択部200でカットオフ周波数を設定せず、帯域抽出部100で音響信号にフィルタ処理を行わない場合には、音響信号が無音となる場合を除いて、常にサブウーハSWから振動が発生してしまうおそれがある。常にサブウーハSWから振動が発生してしまう場合には、定常的に出力される振動によって、ユーザが振動にメリハリを感じられなくなり、臨場感を感じにくくなってしまうおそれがある。
【0053】
しかしながら、振動として強調したい信号成分(周波数範囲)だけを抽出して音響信号にフィルタ処理を行うことによって、ユーザが振動として体感したい音響特性だけを振動として出力することが可能となり、所望の音響環境を振動によって実現することができる。
【0054】
さらに、上述したように、帯域選択部200において選択・設定されるカットオフ周波数は、サブウーハSWにおいて振動を出力することが可能な周波数範囲に限定されない。このため、後述する包絡線検波部300、波形整形部400、周波数変換部500の各処理を経て生成された振動信号に基づいて振動を出力させることにより、振動として体感することができない信号成分(周波数範囲)の信号レベル変化を、ユーザに振動として体感させることが可能になる。
【0055】
図3に示す帯域通過フィルタは、上述したピアノが主体となる音響信号に基づいて設定されたフィルタを一例として示している。具体的に、図3に示す帯域通過フィルタでは、サンプリング周波数が48kHzの場合であって、低域のカットオフ周波数を30Hz、高域のカットオフ周波数を4kHzに設定した4次のバタワースフィルタのフィルタ特性を示している。また、図4(a)は、図3に示す帯域通過フィルタを用いて、音源再生部10より入力された音響信号に対してフィルタ処理を行った後の信号の周波数特性を示し、図4(b)は、その振幅特性を示している。
【0056】
なお、帯域選択部200において、音響信号の信号解析を行う手段を備える場合には、音響信号における音楽のジャンルや音源信号に含まれる楽器音等の周波数を自動的に解析することにより、最適なカットオフ周波数の決定を行う構成とすることも可能である。
【0057】
[包絡線検波部]
包絡線検波部300は、図5(a)に示すように、絶対値検出部(絶対値信号生成手段)310と、低域通過フィルタ部(包絡線信号生成手段)320とを有している。絶対値検出部310は、帯域抽出部100によって帯域抽出処理(フィルタ処理)された音響信号の絶対値を検出する。包絡線検波部300に入力される音響信号はリニア信号であるため、絶対値検出部310によって絶対値の検出が行われた信号(絶対値信号)の振幅は正となる。絶対値検出部310により絶対値の検出が行われた信号(絶対値信号)は、低域通過フィルタ部320へ出力される。
【0058】
低域通過フィルタ部320は、絶対値検出部310によって絶対値の検出処理が行われた信号に対して、低域通過フィルタを適用することによって積分処理を行い、包絡線信号を生成(検出)する。低域通過フィルタ部320では、低域通過フィルタとして2次のバタワースフィルタを用いる。
【0059】
図6は、低域通過フィルタ部320が、カットオフ周波数を20Hzとする低域通過フィルタを用いて生成した包絡線信号の振幅変化状態を示している。図6は、図4(b)に示した音響信号(帯域抽出処理された音響信号)に基づいて生成された包絡線信号が示されている。絶対値検出部310によって、音響信号の絶対値検出が行われているため、包絡線信号は、直流成分を含むベースバンド信号になっている。低域通過フィルタ部320は、生成された包絡線信号を、波形整形部400へ出力する。
【0060】
[波形整形部]
波形整形部400は、包絡線検波部300によって生成された包絡線信号の波形整形処理を行う。波形整形部400は、図5(b)に示すように、高域通過フィルタ部(微分処理手段)410と、振幅制限部(振幅制限手段)420と、スムージングフィルタ部(スムージング処理手段)430と、乗算部(乗算手段)440とを有している。高域通過フィルタ部410は、包絡線検波部300によって波形整形部400へ出力された包絡線信号に対して、高域通過フィルタを適用して微分処理を行う。実施の形態に係る高域通過フィルタ部410では、微分処理用の高域通過フィルタの一例として、1次のバタワースフィルタを用いる。高域通過フィルタ部410によって微分処理された包絡線信号は、振幅制限部420へ出力される。
【0061】
振幅制限部420は、高域通過フィルタ部410により微分処理された包絡線信号に対して、包絡線信号の振幅がゼロ以上となるように信号の振幅制限を行う。図7(a)は、カットオフ周波数を24Hzに設定した1次のバタワースフィルタを用いて振幅制限処理された信号(振幅制限信号と称する)の振幅変化状態を示している。図7(a)に示す振幅制限信号では、図6に示した包絡線信号における振幅の立ち上がり変化量に対応して、信号の振幅が増加する様子が表れている。
【0062】
例えば、図6に示すように、時間0.4秒および0.5秒あたりで包絡線信号の振幅が急激に増加する場合(立ち上がりの振幅変化量が大きい場合)に、図7(a)の対応する時間0.4秒および0.5秒あたりで、振幅制限信号の振幅が大きく上昇する。同様に図6の時間1.14秒および1.48秒あたりで、包絡線信号の振幅が増加する場合に、図7(a)の対応する時間1.14秒および1.48秒あたりで、振幅制限信号の振幅が上昇する。
【0063】
一方で、図6に示す包絡線信号の振幅が急激に低減する場合(立ち下がりの振幅変化量が大きい場合)や、包絡線信号の振幅に変化がない場合には、対応する時間における図7(a)の振幅制限信号の振幅値は、ゼロになる。振幅制限部420によって振幅制限処理された振幅制限信号は、乗算部440へ出力される。
【0064】
高域通過フィルタ部410で包絡線信号に微分処理を行うことによって、包絡線信号の振幅が大きく増加したときだけ、振動信号の振幅を大きくすることができる。包絡線信号の振幅は、音響信号の振幅が大きく増加する場合に、対応して大きく増加する。このため、包絡線信号に微分処理・振幅制限処理を行った信号に基づいて振動信号を生成することにより、音響信号の振幅が大きく変化したタイミングで、振動の振動レベルをより大きくすることが可能になり、振動に対して抑揚を付加することができる。
【0065】
一方で、包絡線信号の振幅に変化がない場合や振幅が急激に低減する場合になどには、微分処理された包絡線信号の振幅値がゼロになるため、サブウーハSWより出力される振動が低減される。このため、サブウーハSWより振動が定常的・継続的に出力されてしまうことがない。
【0066】
このように、音響信号の振幅が大きく増加したときに振幅の大きな振動を発生させ、その後に音響信号の振幅値が維持された場合や低下したときに振動の発生を抑制することにより、振動にメリハリを与えることができ、振動による臨場感を高めることが可能になる。特に、音響信号の信号レベル変化が少ない場合、つまり、音響信号の振幅値が一様となる振幅特性を有する場合であっても、振動において抑揚を付加することができ、音響効果を向上させることが可能になる。
【0067】
スムージングフィルタ部430は、包絡線検波部300によって生成された包絡線信号を平滑化する処理を行う。具体的に、スムージングフィルタ部430は、包絡線信号に対してスムージングフィルタを適用することにより、包絡線信号の振幅変化を平滑化にする処理を行う。図7(b)は、スムージングフィルタ部430により平滑化処理された包絡線信号の振幅変化状態(出力波形)を示している。図7(b)に示す平滑化処理後の包絡線信号は、図6に示す平滑化処理前の包絡線信号に比べて、振幅変化が滑らかになっている。具体的には、図6において包絡線信号の振幅が急激に立ち上がる部分や急激に立ち下がる部分の振幅量が、図7(b)では低減されている。スムージングフィルタ部430で平滑化された包絡線信号は、乗算部440へ出力される。
【0068】
乗算部440は、振幅制限部420によって振幅制限処理された振幅制限信号に対して、スムージングフィルタ部430によって平滑化処理された包絡線信号を乗算することにより、振幅制限信号の波形整形処理を行う。図8は、乗算部440により波形整形処理が行われた信号(波形整形信号と称する)の振幅変化状態(出力波形)を示した図である。
【0069】
図8に示す波形整形信号では、図7(a)に示した振幅制限信号に比べて、振幅変化に対して抑揚が付加されることになる。また、図7(a)および図8に示すように、振幅制限信号の振幅に比べて、波形整形信号の振幅の方がより大きく変動している。このため、振幅変化における躍動感を向上させることが可能になる。
【0070】
従って、波形整形信号に基づいて振動信号を生成し、サブウーハSWから振動を出力させることにより、振動に対して躍動感等を付加することができる。また、ユーザに振動を体感させることによって、音響信号に対する演出効果を高めることが可能になる。乗算部440によって波形整形処理された波形整形信号は、周波数変換部500へ出力される。
【0071】
[周波数変換部]
周波数変換部500は、波形整形部400により波形整形処理された波形整形信号に基づいて振動信号を生成する。具体的には、周波数変換部500が、波形整形信号に対して正弦波信号(基本信号)を乗算することによって周波数変換を行い、振動信号を生成する。
【0072】
図9(a)は、一例として、80Hzの正弦波信号(基本信号)を用いて、周波数変換部500により生成された振動信号の周波数特性を示した図である。図9(b)は、振動信号の振幅特性を示した図である。図9(a)(b)で用いられる正弦波信号は、±1の最大振幅値に対して、振幅(信号レベル)を846倍(45dB)に増幅した信号を示している。また、図9(a)に示す振動信号の周波数特性および図9(b)に示す振幅特性は、図4(a)に示した周波数特性および図4(b)に示した振幅特性の音響信号に基づいて、周波数変換処理を行った場合を示している。
【0073】
図4(a)(b)に示す帯域抽出後の音響信号は、中高域を含む広帯域の周波数成分を含んでいる。しかしながら、図9(a)(b)に示す振動信号では、ユーザが振動として認識することが可能な低域の周波数範囲に収まるように、信号の周波数変換が行われている。
【0074】
なお、正弦波信号の周波数を80Hzに設定した理由は、皮膚の触覚受容器の一種であるマイスナー小体で認識可能な周波数範囲が、約10Hzから約150Hzまでの範囲であるため、この周波数範囲の中間の値を正弦波信号の周波数として用いたからである。従って、周波数変換部500において、図9(a)(b)に示す振動信号よりも「より低域」の周波数帯域へ、振動信号の周波数を変換したい場合には、乗算させる正弦波信号の周波数の値を、10Hzに近い周波数の値に設定すればよい。また、周波数変換部500において、図9(a)(b)に示す振動信号よりも「より高域」の周波数帯域へ、振動信号の周波数を変換したい場合には、乗算させる正弦波信号の周波数の値を、150Hzに近い周波数の値に設定すればよい。
【0075】
また、周波数変換部500において乗算処理される正弦波信号は、異なる周波数の値からなる複数の正弦波信号を、予め用意しておき、ユーザが好みに応じて異なる周波数値の正弦波信号を選択できるようにしてもよい。
【0076】
周波数変換部500は、生成された振動信号を、第2音量調節部30へ出力する。第2音量調節部30は、振動信号の信号レベル(振動レベル)を調節して第2増幅部50へ出力する。第2増幅部50は、第2音量調節部30より取得した振動信号の増幅処理を行い、増幅処理された振動信号をサブウーハSWへ出力する。サブウーハSWは、第2増幅部50から取得した振動信号を用いて、振動や低域音を出力する。サブウーハSWは、シートの座面部の内部に設置されているため、シートの座面部に着座するユーザは、振動信号に基づく振動を臀部や太股部分で体感することが可能となる。
【0077】
ユーザが体感する振動は、振動信号生成部60の帯域抽出部100によって帯域抽出された音響信号の信号レベル変化を、振動として表したものである。より詳細には、ユーザ等が音響信号において振動として強調したいと判断した周波数範囲の信号の信号レベルを、振動として体感可能な10Hz~150Hzの周波数範囲の振動レベルに変換させたものである。このため、音源再生部10より出力される音響信号が、振動として体感可能な周波数範囲の上限の周波数(150Hz)よりも高い周波数であっても、振動信号生成部60により、音響信号の信号レベルを、振動として体感可能な10Hz~150Hzの周波数範囲の振動レベルに変換して、振動として体感させることが可能になる。
【0078】
このため、ユーザは、音源再生部10から出力される音響信号の周波数特性(周波数範囲)に依存することなく、音響信号における信号レベル変化を、振動として触覚により体感することが可能になる。
【0079】
また、サブウーハSWは、振動信号生成部60により生成される振動信号に基づいて、振動だけでなく低域音も出力する。このため、ユーザは、低域音の変化を聴覚によって体感することが可能になる。特に、音源再生部10から出力された音響信号は、フルレンジスピーカSP1およびSP2によって、聴覚として体感されるため、ユーザは、フルレンジスピーカSP1,SP2により出力される音によって聴覚的に音響信号を体感し、サブウーハSWより出力される低域音および振動によって、触覚的・聴覚的に音響信号を体感することができる。このため、臨場感のある音響環境を実現することができ、ユーザは、聴覚・触覚により立体的な音響効果を体感することが可能になる。
【0080】
以上、本発明に係る振動信号生成装置および振動信号生成用プログラムについて、振動出力装置を一例として示し、詳細に説明を行った。しかしながら、本発明に係る振動生成装置および振動信号生成用プログラムは、実施の形態に示した例には限定されない。
【0081】
例えば、実施の形態に係る振動出力装置1では、波形整形部400の乗算部440において、振幅制限部420で生成された振幅制限信号に対してスムージングフィルタ部430によりスムージング処理された包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号を生成する場合について説明した。
【0082】
しかしながら、乗算部440において、振幅制限信号に対してスムージング処理された包絡線信号を乗算することなく、振幅制限信号を波形整形信号として周波数変換部500へ出力する構成にすることも可能である。
【0083】
振幅制限信号に対して、スムージング処理された包絡線信号を乗算することにより、波形整形信号の振幅値を包絡線信号の振幅変化に対応して増減させることが可能になり、振動の振幅変化を音響信号の信号レベル変化に対応づけることが可能になる。しかしながら、振幅制限信号は、微分処理された包絡線信号に基づいて生成された信号であるため、振幅制限信号の振幅値は、包絡線信号の振幅変化が反映されたものである。
【0084】
このため、振幅制限信号に対して、スムージング処理された包絡線信号を乗算しなくても、振幅制限信号の振幅変化は音響信号の振幅変化に対してある程度対応づけられている。振幅制限信号を波形整形信号として用いて生成された振動信号をサブウーハSWから出力した場合には、フルレンジスピーカSP1,SP2より出力される音の信号レベル変化に対応する振動特性の振動を出力することができる。従って、ユーザは振動と音との一体感を十分に体感することが可能になる。
【0085】
また、実施の形態に係る振動出力装置1では、帯域抽出部100において音響信号に対して帯域抽出処理を行う場合について説明した。しかしながら、振動信号生成部60に入力される音響信号が、予め低域成分だけを抽出した効果音等からなる信号であったり、無音部分となる時間が多い(振幅がゼロとなる時間が多い)信号等であったりする場合には、帯域抽出部100で帯域抽出処理を行う必要性が低い。このため、帯域抽出部100および帯域選択部200を、振動出力装置1の振動信号生成部60の構成から削除する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 …振動出力装置
10 …音源再生部
20 …第1音量調節部
30 …第2音量調節部
40 …第1増幅部
50 …第2増幅部
60 …振動信号生成部(振動信号生成装置)
61 …CPU
62 …ROM
63 …RAM
64 …記憶部
100 …帯域抽出部(フィルタ処理手段)
200 …帯域選択部
300 …包絡線検波部(絶対値信号生成手段、包絡線信号生成手段)
310 …(包絡線検波部の)絶対値検出部(絶対値信号生成手段)
320 …(包絡線検波部の)低域通過フィルタ部(包絡線信号生成手段)
400 …波形整形部(微分処理手段、振幅制限手段、スムージング処理手段、乗算手段)
410 …(波形整形部の)高域通過フィルタ部(微分処理手段)
420 …(波形整形部の)振幅制限部(振幅制限手段)
430 …(波形整形部の)スムージングフィルタ部(スムージング処理手段)
440 …(波形整形部の)乗算部(乗算手段)
500 …周波数変換部(振動信号生成手段)
SP1,SP2 …フルレンジスピーカ
SW …サブウーハ(振動出力手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9