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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】心電計およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/346 20210101AFI20230901BHJP
【FI】
A61B5/346
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019141666
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021023434
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000112602
【氏名又は名称】フクダ電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(72)【発明者】
【氏名】神馬 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】米山 達哉
(72)【発明者】
【氏名】橋本 遼太朗
(72)【発明者】
【氏名】打田 博則
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-233513(JP,A)
【文献】特表2018-510013(JP,A)
【文献】特開平08-206088(JP,A)
【文献】特開2009-261723(JP,A)
【文献】国際公開第2017/001981(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/318ー5/367
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の胸部電極を含んだ電極群を用いる心電計であって、
前記複数の胸部電極のうち、隣接して装着される2つの電極が取り違えて装着されているか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、前記2つの電極の取り違えについて報知する報知手段と、を有し、
前記判定手段は、前記2つの電極により取得された同一計測に係る心電図波形データから検出された棘波に関する特徴パラメータの大小関係が予め定められた条件を満たす場合に、前記2つの電極が取り違えて装着されていると判定する、
ことを特徴とする心電計。
【請求項2】
前記2つの電極が、V1誘導用の電極とV2誘導用の電極、およびV5誘導用の電極とV6誘導用の電極の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の心電計。
【請求項3】
前記特徴パラメータが、R波、S波、およびT波の振幅を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の心電計。
【請求項4】
前記判定手段は、
V1誘導のR波の振幅≧V2誘導のR波の振幅
V1誘導のT波の振幅≧V2誘導のT波の振幅
の両方を満たす場合に、前記複数の胸部電極のうちV1誘導用の電極とV2誘導用の電極が取り違えて装着されていると判定する、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の心電計。
【請求項5】
前記判定手段は、
V5誘導のR波の振幅≦V6誘導のR波の振幅
V5誘導のS波の振幅≦V6誘導のS波の振幅
の両方を満たす場合に、前記複数の胸部電極のうちV5誘導用の電極とV6誘導用の電極が取り違えて装着されていると判定する、ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の心電計。
【請求項6】
前記判定手段は、心電図波形データの1拍分ごとに前記判定を行い、
前記報知手段は、前記判定手段による複数回の判定結果のうち、取り違えて装着されていると判定された割合が所定割合以上の場合に前記報知を行う、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の心電計。
【請求項7】
前記判定手段は、前記心電図波形データのうち、異常心拍と判定された拍については前記判定を行わないことを特徴とする請求項6に記載の心電計。
【請求項8】
複数の胸部電極を含んだ電極群を用いる心電計の制御方法であって、
判定手段が、前記複数の胸部電極のうち、隣接して装着される2つの電極が取り違えて装着されているか否かを判定する判定工程と、
報知手段が、前記判定工程における判定結果に基づいて、前記2つの電極の取り違えについて報知する報知工程と、を有し、
前記判定工程において前記判定手段は、前記2つの電極により取得された同一計測に係る心電図波形データから検出された棘波に関する特徴パラメータの大小関係が予め定められた条件を満たす場合に、前記2つの電極が取り違えて装着されていると判定する、
ことを特徴とする心電計の制御方法。
【請求項9】
複数の胸部電極を含んだ電極群を接続可能な電子機器のプロセッサを、請求項1から7のいずれか1項に記載の心電計が有する判定手段および報知手段として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心電計およびその制御方法に関し、特には電極の誤装着を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
心電計は、心臓の電気的活動を体表面に取り付けた電極で検出し、心電図として表示や印刷などにより可視出力したり、データ化して保存したりする機能を有する装置である。心電図は電極の取り付け位置に応じた複数の誘導波形で構成され、3種類の双極肢誘導波形、3種類の単極肢誘導波形及び6種類の胸部誘導波形を同時に取得した標準12誘導心電図が一般的である。
【0003】
標準12誘導心電図を取得するには、四肢に1つずつ、また胸部に6つの合計10個の電極を正しい位置に、かつ十分な電気的接触が得られるように取り付ける必要がある。電極を取り違えて装着して取得された心電図は誤った所見につながる可能性がある。また、取得後に気付いた場合であっても、再取得のための手間や時間がかかる(再取得のために被検者が通院する必要がある場合には特に手間が大きくなる)。このような観点から、特許文献1では、左右の手に装着する電極について、取り違え(取り付けるべき手と逆の手に装着したこと)を検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5080348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
標準12誘導心電図の取得に用いる電極のうち、被検者の胸部に装着する電極(胸部電極)は数が多く、また隣接する電極の装着位置が接近している。特に、V1誘導からV6誘導用の胸部電極のうち、最初または最後に装着することが多いV1とV2誘導用電極、およびV5とV6誘導用電極は、特に取り違えが起こりやすい。しかしながら、従来は胸部電極の取り違えを検出する技術が存在しなかった。
【0006】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、胸部電極の取り違えを検出可能な心電計およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、複数の胸部電極を含んだ電極群を用いる心電計であって、複数の胸部電極のうち、隣接して装着される2つの電極が取り違えて装着されているか否かを判定する判定手段と、判定手段の判定結果に基づいて、2つの電極の取り違えについて報知する報知手段と、を有し、判定手段は、2つの電極により取得された同一計測に係る心電図波形データから検出された棘波に関する特徴パラメータの大小関係が予め定められた条件を満たす場合に、2つの電極が取り違えて装着されていると判定する、ことを特徴とする心電計によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、胸部電極の取り違えを検出可能な心電計およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る心電計の機能構成例を示すブロック図である。
図2】実施形態に係る心電計の動作に関するフローチャートである。
図3】実施形態に係る心電計の動作に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明をいかなる意味においても限定しない。また、実施形態で説明される構成の全てが本発明に必須とは限らない。また、明らかに不可能である場合や、それが否定されている場合を除き、異なる実施形態に含まれる構成を組み合わせたり、入れ替えたりしてもよい。また、重複した説明を省略するために、添付図面においては全体を通じて同一もしくは同様の構成要素には同一の参照番号を付してある。
【0011】
本発明の説明および理解を容易にするため、ここでは専ら心電図の計測や記録を行う心電計に本発明を適用した構成について説明する。しかし、本発明は標準12誘導心電図を計測可能な任意の電子機器に適用可能である。したがって、本明細書において「心電計」という用語は、心電計の機能を有する電子機器を包含する意味で用いる。
【0012】
(心電計の構成)
図1は、本発明の実施形態に係る心電計100の構成例を示すブロック図である。
電極群110は、例えば四肢電極(4つ)および胸部電極(6つ)からなる。電極群110が有する電極の種類や数は、心電計100で計測する心電図信号(誘導)の種類および数によって決まる。
【0013】
電極群110(心電図電極)は心電計100の入力部111が備えるコネクタに接続される。入力部111は例えば保護回路、誘導選択器、増幅回路などを有し、予め設定された種類と数の心電図信号を出力する。
A/D変換部112は、入力部111から出力される、各電極で検出された心電図信号(誘導波形)のそれぞれを所定のサンプリング周波数でサンプリングして時系列デジタルデータである心電図波形データとして出力する。入力部111とA/D変換部112はアナログフロントエンド(AFE)とも呼ばれる。
【0014】
フィルタ処理部113は、A/D変換部112を通じて入力される心電図波形データに対し、制御部120からの設定に従ってノイズ除去フィルタを適用する。本実施形態において、フィルタ処理部113は、一例として、筋電ノイズ除去フィルタ、ACノイズ除去フィルタ、およびドリフトノイズ除去フィルタを選択的に適用可能であるものとするが、フィルタ処理の種類や数はこれらに限定されない。
スピーカ114は、制御部120が例えば警告音や音声メッセージを出力するために用いる。
【0015】
制御部120は例えばROM(不揮発性メモリ)、RAMおよびプログラマブルプロセッサを含み、ROMに記憶された制御プログラムをRAMに展開してプログラマブルプロセッサが実行することにより、心電計100全体の動作を制御する。ROMには制御プログラムのほか、各種の設定値やGUIデータなどが記憶されており、制御プログラムの実行時に適宜用いられる。また、ROMの少なくとも一部は書き換え可能であってよい。
【0016】
なお、例えばフィルタ処理部113は、制御部120が有するプログラマブルプロセッサがプログラムを実行することによって実現してもよいし、ASICやASSPなどのハードウェアで実現してもよい。フィルタ処理部113はハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより実現してもよい。
【0017】
カードスロット116にはメモリカードを着脱可能であり、制御部120は装着されたメモリカードに心電図検査データを記録したり、装着されたメモリカードから記録済みの心電図検査データを読み出したりすることができる。なお、心電図検査データは、心電図波形データおよび被検者情報のデータを含む。心電図検査データは所定のデータ形式で検査ごとに生成される。なお、心電図検査データは関連づけられた複数のデータファイルで構成されてもよいし、1つのデータファイルで構成されてもよい。
【0018】
操作部117はユーザ(医療関係者)が心電計100に各種設定や指示を入力する入力デバイスであり、ボタン、キー、タッチパネル(ソフトウェアキー)などが一般的に用いられるが、これらに限定されない。音声入力のような物理的な入力操作を必要としない入力方法がサポートされてもよい。操作部117は通常記録の開始指示・終了指示を与えるための通常記録ボタンと、レビュー記録指示を与えるためのレビュー記録ボタンとを有する。
【0019】
表示部118は、LCDなどの表示装置であり、制御部120の制御に従い、計測中の心電図、あるいはカードスロット116に装着されたメモリカードに記憶された心電図検査データに基づく心電図および/または解析レポートや、メニュー画面などを表示する。本実施形態において表示部118はタッチディスプレイであるものとする。
【0020】
プリンタ119は、例えばサーマルプリンタであり、搬送モータ、搬送ローラ、記録ヘッドとその駆動回路などを有する。プリンタ119は制御部120の制御に従い、心電図波形や解析レポートを所定のフォーマットで印刷出力する。なお、プリンタ119を内蔵することは本発明おいて必須ではなく、プリンタ119は外付けプリンタであってもよい。心電計100は内蔵若しくは外付けのプリンタに心電図を出力可能であればよい。
【0021】
電源部121は例えば二次電池や商用電源(ACアダプタ)であり、心電計100の各部へ電力を供給する。
【0022】
外部I/F123は外部機器と直接またはネットワーク経由で通信する通信インタフェースである。外部I/F123の設定および動作は、制御部120が制御する。本実施形態において外部I/F123はUSB、イーサネット(登録商標)、無線LAN(IEEE802.11シリーズ)、ブルートゥース(登録商標)など、有線や無線の通信規格に準拠したインタフェースであってよい。
【0023】
(全体動作)
次に、図2に示すフローチャートを用いて、本実施形態の心電計100の全体的な動作について説明する。まず、心電計の電源がONされている状態で、ユーザは電極群110に含まれる複数の電極を被検者の体表面の所定部位に順次装着していく。入力部111には、電極群110に含まれる電極のうち、装着されたものから信号が入力される。A/D変換部120は、各電極からの信号について所定の周波数でサンプリングし心電図波形データとして出力する。フィルタ処理部113は、心電図波形データにフィルタ処理を適用して制御部120に供給する。制御部120は、表示部118に表示されている、予め定められたフォーマットの心電図表示画面に、フィルタ処理部113から供給される心電図波形データに基づく誘導波形を表示する。
【0024】
S101で制御部120は、全ての電極が装着されたか否かを判定する。制御部120は、フィルタ処理部113から供給される心電図波形データを監視し、例えば各電極について有意なデータが入力され始めたと判定されれば、全ての電極が装着されたと判定する。制御部120は、電極ごとに予め定められた閾値を超えるデータを有意なデータと見なすことができる。制御部120は、全ての電極が装着されたと判定されればS103へ処理を進め、判定されなければS101を繰り返し実行する。
【0025】
S103で制御部120は、1拍分の心電図波形データについて電極誤装着判定処理を実行する。電極誤装着判定処理では、電極誤装着として、6つの胸部電極のうち、隣接して装着される第1電極と第2電極の取り違えとして、V1誘導用の電極とV2誘導用の電極の取り違えと、V5誘導用の電極とV6誘導用の電極の取り違えに関する判定を行う。制御部120は、電極誤装着判定処理の判定結果をRAMに一時記憶する。なお、特許文献1に記載されているような、左右の手に装着する電極の取り違えなど、他の電極の取り違えに関する判定も合わせて実行することができる。電極誤装着判定処理の詳細については、後で詳述する。
【0026】
S105で制御部120は、電極誤装着判定処理を所定時間分もしくは所定拍数分の心電図波形データに対して適用したか否かを判定する。制御部120は、適用したと判定されればS107に処理を進め、判定されなければS103を繰り返し実行する。
【0027】
S107において制御部120は、所定時間もしくは所定拍数分の心電図波形データに対する判定結果に基づき、電極誤装着の疑いがあるか否かを判定する。例えば制御部120は、所定時間もしくは所定拍数分の心電図波形データに対して実施した判定処理の総回数(異常心拍と判定された拍に対する処理の回数を除く)のうち、電極誤装着の条件を満たしているとの判定結果の割合が所定値(例えば2/3)以上であれば、電極誤装着の疑いありと判定する。制御部120は、電極誤装着の疑いがあると判定されればS109へ、判定されなければS111へ、処理を進める。また、制御部120は、RAMに格納された判定結果を初期化する。
【0028】
S109で制御部120は、表示部118に例えばメッセージを表示して、電極誤装着が疑われることをユーザに通知する。制御部120は、例えば「V1(V5)電極とV2(V6)電極が逆に取り付けられている可能性があります。確認してください。」等のメッセージを表示することができる。なお、通知方法はメッセージの表示に限定されず、音声出力やアイコンの表示、ランプの点灯など、任意の方法で行うことができる。ユーザへの通知を終えると、制御部120は処理をS111に進める。
【0029】
心電図の記録開始前に、かつリアルタイムに電極誤装着判定処理を行うため、ユーザは、電極誤装着の疑いがあることについて、記録開始前に知ることができ、適切な対処を取った上で記録処理を開始することが可能である。従って、従来の心電計のように、一旦記録した心電図を解析し、その結果ノイズ混入や電極誤装着について判定する場合に比べ、再計測が必要となる可能性を抑制し、安定した計測を支援することができる。
【0030】
なお、ここではS109で通知を行った後、処理をS111に進めるものとした。しかし、S109を実行した場合(すなわち、S107で電極誤装着の疑いありと判定された場合)には、点線で示すように処理をS101に戻してもよい。例えば、電極誤装着の疑いありと判定されなくなるまで記録開始指示の入力を無効にすることで、より確実に電極の誤装着を防止することができる。
【0031】
S111で制御部120は操作部117から記録開始指示が入力されたか調べる。記録開始指示が入力されていなければ、S111を繰り返し実行する。
【0032】
記録開始指示が入力された場合、制御部120は処理をS113に進め、フィルタ処理部113から供給される誘導波形の記録処理を行う。具体的には、誘導波形を所定のフォーマットでプリンタ119に出力して印刷出力したり、カードスロット116に装着されているメモリカードに心電図検査データを保存したりする。なお、制御部120は、記録処理中も表示部118には継続して誘導波形の表示を行う。
【0033】
(判定処理の詳細)
図2は、図1のS103で行う電極誤装着判定処理の詳細に関するフローチャートである。
S201で制御部120は、フィルタ処理部113から供給される心電図波形データを、RAMに順次格納する。RAMには常に直近の所定時間分の心電図波形データが格納される。なお、制御部120は、フィルタ処理部113から供給される心電図波形データのうち、単極肢誘導についてはそのまま誘導波形データとしてRAMに格納する。一方、双極子誘導であるI、II、III誘導については、1対の電極から得られる心電図波形データから誘導波形データを生成したのち、それぞれRAMに格納する。
【0034】
そして、制御部120は、RAMに格納された誘導波形データについて、1拍分の区間を特定する。誘導波形データを1拍ごとに区分する方法に特に制限は無く、制御部120は公知の任意の方法を用いることができる。制御部120は例えばII誘導の誘導波形データについてR波を検出し、R波を基準に時間軸前方に探索することでP波を、時間軸後方に探索することでT波を検出する。そして、制御部120は、P波のピーク位置から所定時間前を始点とし、T波のピーク位置から所定時間後を終点とする1拍区間を決定し、処理をS203に進める。なお、II誘導以外を用いてR波、P波、T波を検出してもよい。
【0035】
S203で制御部120は、誘導波形データから特徴パラメータを検出する。例えば、特徴パラメータは、心電図に含まれる棘波、例えばQRS波、P波、T波の、区分点(開始及び/又は終了点)、各波の振幅及び向き(基線に対して上向きか下向きか)、RR間隔、STレベル、PQ、QRS幅、QT等であってよい。区分点の検出は、例えば誘導波形を微分して変曲点を求めるなど、周知の方法を用いて行うことができる。検出したパラメータは、誘導波形データと同様、制御部120が有するメモリに一時記憶しておく。
【0036】
次に、S205で制御部120は、特徴パラメータに基づいて、対象の拍が異常心拍であるか否かを判定する。
具体的には、制御部120は以下の条件を1つでも満たす場合、対象の拍を異常心拍と判定する。なお、本明細書において、符号付きであることが明示されている場合を除き、振幅は絶対値つきの大きさである。
(1)QRS幅≧130ms(心室ペーシング)
(2)V5またはV6のR波振幅+V1またはV2のS波振幅≧3.5mV、かつV5またはV6のR波振幅≧2.6mV(左室肥大)
(3)V3~V6の1つ以上でR波が検出されない、またはQ波振幅/R波振幅≧0.3 (異常Q波)
(4)V3~V6の1つ以上でT-a≦-0.5mV(陰性T波)
(5)V3~V6の1つ以上でSTj≦-0.1mV(ST-T異常)
なお、T-aは陰性T波の符号付きの振幅であり、STjはQRS終点の電位である。(1)~(5)の条件は単なる例示であり、同じ異常を検出するために他の条件を用いてもよいし、他の異常の検出を含めてもよい。また、(1)~(5)の条件全てについて判定することは必須ではない。
【0037】
対象の拍が異常心拍と判定された場合、制御部120は、対象の拍については誤装着判定を行わない。これにより、異常心拍の心電図を電極の誤装着と判定することを抑制する。そして、制御部120は処理をS209に進め、判定結果として「異常心拍」を表す値をRAMに格納する(あるいは、RAMに格納されている「異常心拍」の数を1増やす)。
【0038】
一方、対象の拍が異常心拍と判定されない場合、制御部120は処理をS207に進め、誤装着判定を実行する。具体的には、制御部120は以下の様にしてV1誘導用の電極とV2誘導用の電極の取り違えに関する判定と、V5誘導用の電極とV6誘導用の電極の取り違えに関する判定とを行う。
【0039】
(1)V1誘導用の電極とV2誘導用の電極の取り違え
V1誘導用の電極と、V2誘導用の電極が適切に装着されている場合、V1誘導よりもV2誘導の方がR波、T波の振幅が大きくなる。そのため、制御部120は、V1誘導とV2誘導のR波およびT波の振幅の大小関係によって電極の誤装着有無を判定する。
【0040】
本実施形態において制御部120は、
(a)V1誘導のR波振幅≧V2誘導のR波振幅
(b)V1誘導のT波振幅≧V2誘導のT波振幅
の両方が満たされる場合に、V1誘導用の電極とV2誘導用の電極とが取り違えて装着されている(誤装着)と判定する。
【0041】
(2)V5誘導用の電極とV6誘導用の電極の取り違え
V5誘導用の電極と、V6誘導用の電極が適切に装着されている場合、V5誘導よりもV6誘導の方がR波、S波の振幅が小さくなる。そのため、制御部120は、V5誘導とV6誘導のR波およびS波の振幅の大小関係によって電極の誤装着有無を判定する。
【0042】
本実施形態において制御部120は、
(a)V5誘導のR波振幅≦V6誘導のR波振幅
(b)V5誘導のS波振幅≦V6誘導のS波振幅
の両方が満たされる場合に、V5誘導用の電極とV6誘導用の電極とが取り違えて装着されている(誤装着)と判定する。
なお、特許文献1に記載されるような左右の手の電極の取り違えなど、他の電極の誤装着についても判定するように構成してもよい。
【0043】
制御部120は処理をS209に進め、判定結果に応じて、「V1/V2誤装着」や「V5/V6誤装着」を表す値をRAMに格納する(あるいは、RAMに格納されている「V1/V2誤装着」や「V5/V6誤装着」の数を1増やす)。
上述したように、制御部120は、
誤装着と判定された拍数/(所定拍数-異常心拍と判定された拍数)≧閾値(例えば2/3)であれば、ユーザに電極の誤装着の疑いがあることを報知する。なお、所定拍数ではなく所定時間を用いる場合、所定時間内に電極誤装着判定処理を行った総回数(総拍数)を用いればよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態によれば、取り付け位置が近接しており、取り違えが起こりやすい胸部電極の取り違えを検出可能とした。そのため、適切な心電図の計測、記録を支援することができる。また、記録開始前に電極誤装着についての判定を行い、電極誤装着の可能性があるとの判定がなされた場合にはユーザに通知するので、無駄な計測や記録を回避することができ、被検者およびユーザ(医療関係者)の負担を軽減するとともに、時間の浪費を抑制することができる。
【0045】
(他の実施形態)
なお、本発明に係る心電計は、一般的に入手可能な、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末のようなプログラムを実行可能な電子機器に電極群111を接続した構成でも実現できる。このような場合、電子機器が有するプロセッサで、図2図3に示したフローチャートの動作を実行することによっても実現できる。したがって、複数の胸部電極を含んだ電極群を接続可能な電子機器が有するプロセッサを、制御部120として機能させるプログラム(アプリケーションソフトウェア)および、プログラムを格納した記憶媒体(CD-ROM、DVD-ROM等の光学記録媒体や、磁気ディスクのような磁気記録媒体、半導体メモリカードなど)もまた本発明を構成する。
【0046】
本発明は上述した実施形態の内容に制限されず、発明の精神および範囲から離脱することなく様々な変更及び変形が可能である。したがって、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0047】
100…心電計、111…電極群、113…フィルタ処理部、118…表示部、120…制御部
図1
図2
図3