(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20230901BHJP
H01M 10/0562 20100101ALN20230901BHJP
【FI】
C01G23/00 C
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2019159634
(22)【出願日】2019-09-02
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池上 潤
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156941(JP,A)
【文献】特開平11-079746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(I)~(V):
(I)ランタン化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーと、水とを混合して、水100質量部に対してセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを0.1質量部~40質量部含有する混合液(a-1)を調製する工程、
(II)リチウム化合物と、水とを混合して、混合液(a-2)を調製する工程、
(III)得られた混合液(a-1)と混合液(a-2)とを混合して、25℃におけるpHが8~11である混合液(A)を調製する工程、
(IV)得られた混合液(A)を100℃以上の水熱反応に付した後、得られた水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、前駆体混合物を得る工程、及び
(V)得られた前駆体混合物を
大気雰囲気下又は酸素雰囲気下にて400℃~1000℃で焼成する工程
を備える、固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法
であって、
工程(I)において、ランタン化合物が硝酸ランタン、硫酸ランタン又は塩化ランタンであり、かつチタン化合物が硫酸チタニル又は塩化チタンであり、
固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を構成するチタン酸ランタンリチウム結晶粒子が、下記式(1):
Li
3x
La
2/3-x
TiO
3
・・・(1)
(式(1)中、xは0<x<0.3を満たす数を示す。)
で表される、固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法。
【請求項2】
工程(III)での混合において、混合液(a-1)と混合液(a-2)との質量比((a-1):(a-2))が、20:1~1:4である、請求項1に記載の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法。
【請求項3】
工程(III)において得られる混合液(A)が、セルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを0.01質量%~40質量%含有する、請求項1又は2に記載の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法。
【請求項4】
工程(III)における混合を、混合液(a-1)に混合液(a-2)を滴下することにより行う、請求項1~3のいずれか1項に記載の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法。
【請求項5】
平均粒径が5nm~50nmであり、かつBET比表面積が
40m
2/g以上である複数のチタン酸ランタンリチウム結晶粒子が、鎖状に集結してなる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を得るための、請求項1~
4のいずれか1項に記載の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に用いるための、固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されているリチウムイオン二次電池は、電解液に可燃性の有機溶媒を用いているため、液漏れや発火等に対する安全対策を充分に講じる必要があり、また電池の小型化や薄膜化の難易度も高い。ところが、酸化物系や硫化物系の固体電解質を備えた全固体リチウムイオン二次電池であると、エネルギー密度が高い上に、可燃物を用いることなく製造することができるため、安全対策を講じる負担が軽減されて製造コストや生産性を容易に高めることが可能となる。
なかでも、高い有用性に期待がかかる固体電解質材料、特にペロブスカイト型結晶構造を持つチタン酸ランタンリチウムLi3xLa2/3-xTiO3(0<x<0.3)のように高いリチウムイオン伝導度を有する固体電解質材料については、種々の開発が徐々に活発化しつつある。
【0003】
チタン酸ランタンリチウムは、圧縮成形により所望の形状に成形されることが多いものの非常に硬度が高いため、チタン酸ランタンリチウム粒子同士の接触が不十分となって粒界抵抗が高くなり、成形品のリチウムイオン伝導度が低下してしまう傾向にある。一方、圧縮成形後に1000℃以上の温度で焼結すれば、チタン酸ランタンリチウム粒子間における粒界抵抗を改善し得るものの、チタン酸ランタンリチウムからリチウムが揮発して、リチウムイオン伝導率が低下するおそれがある。
こうした不具合を改善すべく、チタン酸ランタンリチウム粒子を微細化することにより、粒子同士の接触性を向上させる方法が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ペルオキソチタン酸水溶液にキレート剤、リチウムを含む水溶性の塩及び架橋剤を加えて水溶液をゲル化させ、300℃以上500℃以下の温度で加熱する工程を含む、固体電解質の製造方法が開示されており、Li3xLa2/3-xTiO3結晶粒子の微細化を図っている。また、特許文献2には、複合金属酸化物の前駆体溶液を2000℃~4000℃で反応させる火炎噴霧熱分解方法を用いた複合金属酸化物粒子の製造方法が開示されており、得られる複合金属酸化物のナノ粒子化を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-188312号公報
【文献】韓国公開特許10-2015-0055799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法では、非常に煩雑な製造方法である上、得られるチタン酸ランタンリチウムに良好なイオン伝導性が付与されないおそれがある。また、上記特許文献2に記載の製造方法であっても、2000℃~4000℃もの超高温域での焼成が必要であり、特殊な装置での実施を余儀なくされる。
【0007】
したがって、本発明の課題は、優れたリチウムイオン伝導性を発現するチタン酸ランタンリチウム結晶粒子を用い、簡便な方法でありながら、固体電解質に有用なチタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を得るための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、所定の原料化合物とともにセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを用い、水熱反応を活用した工程を経ることにより、複数のチタン酸ランタンリチウム結晶粒子が鎖状に集結してなり、リチウムイオン二次電池の固体電解質として優れた特性を有するチタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体が簡便に得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
したがって、本発明は、次の工程(I)~(V):
(I)ランタン化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーと、水とを混合して、水100質量部に対してセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを0.1質量部~40質量部含有する混合液(a-1)を調製する工程、
(II)リチウム化合物と、水とを混合して、混合液(a-2)を調製する工程、
(III)得られた混合液(a-1)と混合液(a-2)とを混合して、25℃におけるpHが8~11である混合液(A)を調製する工程、
(IV)得られた混合液(A)を100℃以上の水熱反応に付した後、得られた水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、前駆体混合物を得る工程、及び
(V)得られた前駆体混合物を400℃~1000℃で焼成する工程
を備える、固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、過度な温度負荷を要することのない簡便な方法でありながら、チタン酸ランタンリチウム結晶粒子が鎖状に集結してなる特異な形状を呈し、優れたイオン伝導性を発現する鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を得ることができ、これを固体電解質用として用いることにより、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体を示すTEM像である。
【
図2】実施例1で得られた鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体を構成するチタン酸リチウムランタン結晶粒子のX線回折パターンである。
【
図3】比較例1で得られたチタン酸リチウムランタン結晶粒子を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の固体電解質用の鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体の製造方法は、次の工程(I)~(V):
(I)ランタン化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーと、水とを混合して、水100質量部に対してセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを0.1質量部~40質量部含有する混合液(a-1)を調製する工程、
(II)リチウム化合物と、水とを混合して、混合液(a-2)を調製する工程、
(III)得られた混合液(a-1)と混合液(a-2)とを混合して、25℃におけるpHが8~11である混合液(A)を調製する工程、
(IV)得られた混合液(A)を100℃以上の水熱反応に付した後、得られた水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、前駆体混合物を得る工程、及び
(V)得られた前駆体混合物を400℃~1000℃で焼成する工程
を備える。
【0013】
かかる本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体は、複数のチタン酸ランタンリチウム結晶粒子が鎖状に集結してなり、あたかもチタン酸ランタンリチウム結晶粒子が直線的に連続して配列しているような、特異な形状を呈している。鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を構成するチタン酸ランタンリチウム(以下、「LLTO」とも称する。)結晶粒子は、下記式(1)で表される粒子である。
Li3xLa2/3-xTiO3 ・・・(1)
(式(1)中、xは0<x<0.3である数を示す。)
【0014】
上記式(1)で表されるLLTO結晶粒子は、リチウム及びランタンを含むチタン酸化合物であり、かかる粒子としては、より具体的には、例えば、Li0.33La0.56TiO3、Li0.81La0.40TiO3、Li0.12La0.63TiO3が挙げられる。
【0015】
工程(I)は、ランタン化合物、チタン化合物、セルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーと、水とを混合して、水100質量部に対してセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーを0.1質量部~40質量部含有する混合液(a-1)を調製する工程である。得られる混合液(a-1)は、後述する工程(II)により得られる混合液(a-2)と混合して、後に水熱反応に付す混合液(A)を得るためのものである。すなわち、本発明では、混合液中における各化合物の溶解性又は分散性、特にセルロースナノファイバー及び/又はリグノセルロースナノファイバーの分散性を高める観点、及びLLTO結晶粒子における化学組成の均質性を高めつつ、LLTO粒子の結晶微細化に大いに寄与させる観点から、混合液(a-1)と混合液(a-2)とに分けて調製するものである。
なお、混合液(a-1)を得るための工程(I)と、後述する混合液(a-2)を得るための工程(II)は、かかる順にて行ってもよく、工程(II)の後に工程(I)を経てもよい。
【0016】
工程(I)において用いるランタン化合物は、チタン化合物及びリチウム化合物とともにLLTO結晶粒子を形成させるための原料化合物である。かかるランタン化合物としては、水溶性であれば特に限定されず、ハロゲン化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、六ホウ化ランタン、水酸化ランタン、塩化ランタン、炭酸ランタン、硫酸ランタン、セレン酸ランタン、ギ酸ランタン、酢酸ランタン、シュウ酸ランタン、臭素酸ランタン、硝酸ランタン等が好ましく、硝酸ランタン、硫酸ランタン、塩化ランタンがより好ましい。
【0017】
工程(I)において用いるチタン化合物は、チタン化合物及びリチウム化合物とともにLLTO結晶粒子を形成させるための原料化合物である。かかるチタン化合物としては、特に限定されず、例えば、チタンの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。具体的には、例えば、硫酸チタニル、硫酸チタン、塩化チタン、酢酸チタン等が好ましく、硫酸チタニル、塩化チタンがより好ましい。
【0018】
工程(I)において、上記原料化合物とともに用いるセルロースナノファイバー(x1)及び/又はリグノセルロースナノファイバー(x2)(以下、これらを「CNF(X)」とも総称する。)は、後述する工程(IV)での水熱反応において、水熱反応生成物の核生成や結晶成長の場として機能する。そして、かかる工程(IV)において、化学組成の均質性が高い微細な水熱反応生成物(チタン酸リチウムランタン結晶の前駆体)を生成させた後、後述する工程(V)を経ることによりほぼ全てのCNF(X)が焼失するため、本発明で得られる鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体内にはほとんど残存しない。また、本発明により得られる鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体を形成するチタン酸リチウムランタン結晶粒子が、微細な粒子であることは、CNF(X)を用いることによって微細なチタン酸リチウムランタン結晶の前駆体が得られ、CNF(X)が障壁となってチタン酸リチウムランタン結晶粒子の焼結を抑制することによる。
【0019】
また、CNF(X)は、後述する工程(V)においてほぼ全てが焼失することから、本発明で得られる鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体は電子伝導性を有さないため、リチウムイオン二次電池の固体電解質として用いた際に正極-負極間で短絡が生じることはない。
【0020】
セルロースナノファイバー(x1)は、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維である。また、リグノセルロースナノファイバー(x2)は、リグニンを除去する精製を行わずに得られたセルロースナノファイバーであって、セルロースナノファイバー(x1)がリグニンで被覆されてなるものである。
セルロースナノファイバー(x1)とリグノセルロースナノファイバー(x2)は、共に優れた水への分散性を有している。工程(I)では、これらセルロースナノファイバー(x1)及びリグノセルロースナノファイバー(x2)を一方のみ用いてもよく、双方併用してもよい。
【0021】
CNF(X)の平均繊維径は、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。下限値については特に制限はないが、通常1nm以上である。また、CNF(X)の平均長さは、ハンドリングの観点から、好ましくは100nm~100μmであり、より好ましくは1μm~100μmであり、さらに好ましくは5μm~100μmである。
【0022】
混合液(a-1)は、ランタン化合物、チタン化合物、CNF(X)と水と混合することにより、水100質量部に対してCNF(X)が0.1質量部~40質量部となるよう調製する。CNF(X)の含有量は、LLTO結晶粒子の微細化を有効に図る観点、及び鎖状チタン酸リチウムランタン結晶粒子集合体の形成を促進する観点から、混合液(a-1)中の水100質量部に対し、0.1質量部~40質量部であって、好ましくは0.5質量部~30質量部であり、より好ましくは1質量部~20質量部である。
【0023】
混合液(a-1)におけるランタン化合物及びチタン化合物の合計含有量は、後述する混合液(a-2)との混合によって生じる反応生成物において、化学組成の均質性を良好に高める観点から、混合液(a-1)中の水100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~40質量部であり、より好ましくは0.5質量部~30質量部であり、さらに好ましくは1質量部~20質量部である。
また、混合液(a-1)を調製するにあたり、ランタン化合物及びチタン化合物の混合割合は、モル比(La:Ti)で、好ましくは0.38:1~0.66:1であり、より好ましくは0.41:1~0.63:1であり、さらに好ましくは0.44:1~0.60:1である。
【0024】
混合液(a-1)は、各成分をより均一に分散させる観点から、後述する工程(III)において混合液(a-2)と混合する前に、予め撹拌してもよい。混合液(a-1)を撹拌する時間は、好ましくは5分間~3時間であり、より好ましくは10分間~2時間であり、さらに好ましくは15分間~90分間である。撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(a-1)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒であり、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0025】
工程(II)は、リチウム化合物と、水とを混合して、混合液(a-2)を調製する工程である。
工程(II)で用いるリチウム化合物は、工程(I)で用いたチタン化合物及びリチウム化合物とともにLLTO結晶粒子を形成させるための原料化合物である。かかるリチウム化合物としては、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化リチウム又はその水和物、過酸化リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等が好ましく、水酸化リチウム又はその水和物、塩化リチウム、硫酸リチウムがより好ましい。
【0026】
混合液(a-2)におけるリチウム化合物の含有量は、混合液(a-2)中の水100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~20質量部であり、より好ましくは0.5質量部~15質量部であり、さらに好ましくは1質量部~10質量部である。
【0027】
混合液(a-2)の25℃におけるpHは、後述する工程(III)で得られる混合液(A)の25℃におけるpHを8~11に調整する観点から、好ましくは10~13であり、より好ましくは10.5~12.5であり、さらに好ましくは11~12である。混合液(a-2)のpHを上記範囲に調整する上で、さらにpH調整剤を用いてもよい。かかるpH調整剤は、特に限定されるものではないが、混合液(a-2)のpH調整を容易に行う観点から、水酸化リチウム、又はアンモニア水溶液を用いるのが好ましい。
【0028】
混合液(a-2)は、各成分をより均一に溶解又は分散させる観点から、後述する工程(III)において混合液(a-1)と混合する前に、予め撹拌してもよい。混合液(a-2)を撹拌する時間は、好ましくは1分間~30分間であり、より好ましくは2分間~20分間であり、さらに好ましくは2分間~10分間である。また撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(a-2)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0029】
工程(III)は、工程(I)で得られた混合液(a-1)と、工程(II)で得られた混合液(a-2)とを混合して、25℃におけるpHが8~11である混合液(A)を調製する工程である。すなわち、上記混合液(a-1)と上記混合液(a-2)とを混合して、混合液(A)とする。混合液(a-1)と混合液(a-2)の混合方法は、特に限定されるものではないが、撹拌している混合液(a-1)に混合液(a-2)を滴下するのが好ましい。このように、ランタン化合物、チタン化合物、及びCNF(A)を含む混合液(a-1)に、リチウム化合物を含む混合液(a-2)を滴下して少量ずつ加えることにより、反応生成物の化学組成の均質性を一層高めることができる。
この際、混合液(a-2)の混合液(a-1)への滴下速度は、10質量部の混合液(a-1)に対し、好ましくは0.1質量部/分~0.4質量部/分であり、より好ましくは0.15質量部/分~0.4質量部/分であり、さらに好ましくは0.2質量部/分~0.35質量部/分である。混合液(a-2)を滴下する際の混合液(a-1)の撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(a-1)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0030】
混合液(A)を得るにあたり、混合する混合液(a-1)と混合液(a-2)との質量比((a-1):(a-2))は、好ましくは20:1~1:4であり、より好ましくは10:1~1:3であり、さらに好ましくは5:1~2:3である。
【0031】
混合液(a-1)と混合液(a-2)を混合する際の混合液(a-1)の温度は、好ましくは10℃~80℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、さらに好ましくは20℃~60℃である。また混合液(a-2)の温度は、好ましくは10℃~80℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、さらに好ましくは20℃~60℃である。
【0032】
混合液(a-1)と混合液(a-2)を混合する時間は、好ましくは10分間~24時間であり、より好ましくは15分間~18時間であり、さらに好ましくは30分間~12時間である。またこの際、各成分をより均一に溶解又は分散させる観点から、撹拌してもよい。撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(A)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0033】
工程(III)において、混合液(a-1)と混合液(a-2)を混合することにより、チタン酸リチウム及びLa(OH)3とともに、CNF(X)を含有する混合液(A)が得られる。これらチタン酸リチウム及びLa(OH)3は、平均粒径が100nm以下の微粒子であり、後述する工程(IV)において水熱反応に付す工程を経ることにより、チタン酸リチウムランタン結晶粒子の前駆体とセルロースナノファイバーとを含む前駆体混合物(B)を良好に生成する。かかる混合液(A)中におけるチタン酸リチウム及びLa(OH)3の合計含有量は、混合液(A)中に、好ましくは0.1質量%~60質量%であり、より好ましくは0.5質量%~45質量%であり、さらに好ましくは1質量%~30質量%である。CNF(X)の含有量は、混合液(A)中に、好ましくは0.01質量%~40質量%であり、より好ましくは0.1質量%~30質量%であり、さらに好ましくは0.2質量%~20質量%である。また、混合液(A)の25℃におけるpHは、8~11であって、好ましくは8.5~10.5であり、より好ましくは9~10である。かかる範囲内となるよう混合液(A)のpHを調整するにあたり、必要に応じて上記pH調整剤を用いてもよい。
【0034】
工程(IV)は、工程(III)で得られた混合液(A)を100℃以上の水熱反応に付した後、CNF(X)が混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥して、CNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)を得る工程である。かかる工程(IV)における水熱反応は、混合液(A)を充填した反応容器を圧力容器等に格納して加圧下で行う。
【0035】
なお、工程(IV)に移行する前に、予め工程(III)で得られた混合液(A)を撹拌する場合、かかる撹拌は反応容器内で行えばよく、次いで反応容器を圧力容器等に格納すればよい。かかる撹拌は、CNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)を効率的に生成させる観点から、圧力容器等に格納された反応容器内において工程(IV)における水熱反応が完了するまで継続するのが好ましい。この際における混合液(A)の撹拌速度は、反応容器内壁面での混合液(A)の流速に換算して、好ましくは15cm/秒以上であり、より好ましくは15cm/秒~80cm/秒であり、さらに好ましくは15cm/秒~70cm/秒である。撹拌方法としては、この撹拌速度が実現可能であれば特に限定されないが、例えば撹拌羽根を用いる方法、又は特開2014-118328号公報に記載のポンプを使用して合成容器中のスラリーを撹拌する方法等を好適に使用することができる。
【0036】
さらに、上記撹拌方法を用いる際に、混合液(A)全体において均一に水熱反応を生じさせる観点から、反応容器内に邪魔板を設置したり、撹拌翼の回転方向やポンプの送液方向を間欠的に逆転したりすることによって、混合液(A)の流れに擾乱を生じさせるのが有効である。
【0037】
水熱反応に付す際の混合液(A)の温度(反応温度)は、100℃以上であればよく、好ましくは150℃~250℃であり、より好ましくは160℃~240℃である。この際の圧力及び反応時間は、反応温度が100℃以上の場合は0.5MPa以上で10分間以上が好ましく、160℃~240℃で反応を行う場合は0.5MPa~4.0MPaで10分間~24時間が好ましく、160℃~240℃で反応を行う場合は0.6MPa~3.4MPaで10分間~18時間が好ましい。
【0038】
また、水熱反応における反応容器内の雰囲気は限定されるものではないが、雰囲気の調整の容易性の観点から、空気下又は水蒸気下が好ましい。
【0039】
次いで、混合液(A)を上記水熱反応に付した後、CNF(X)が混在してなる水熱反応生成物を洗浄し、次いで乾燥する。かかるCNF(A)が混在してなる水熱反応生成物は、水熱反応後の混合液(A)を固液分離すればよく、得られるCNF(X)が混在してなる水熱反応生成物は、チタン酸リチウム(Li1.81,H0.19)Ti2O5・2H2O)とランタン化合物(非晶質)と、CNF(X)との混合物、すなわちLLTO結晶粒子の前駆体とCNF(X)とが混在してなる前駆体混合物(B)が含有されてなる。固液分離に用いる装置としては、例えば、フィルタープレス機、遠心濾過機等が挙げられる。なかでも、効率的にセルロースナノファイバーが混在してなる水熱反応生成物を得る観点から、フィルタープレス機を用いるのが好ましい。
【0040】
次いで、回収されたCNF(X)が混在してなる水熱反応生成物は、原料由来のアニオン成分等の水溶性不純物を効果的に除去する観点から、洗浄する。かかる洗浄には水を用いればよく、その水の量は、CNF(X)が混在してなる水熱反応生成物の乾燥質量1質量部に対し、好ましくは5質量部~50質量部であり、より好ましくは7質量部~50質量部であり、さらに好ましくは9質量部~50質量部である。かかる水の温度は、水溶性不純物を効果的に除去する観点から、好ましくは5℃~70℃であり、より好ましくは20℃~70℃である。
【0041】
洗浄したCNF(X)が混在してなる水熱反応生成物は、次に乾燥する。乾燥手段としては、噴霧乾燥、恒温乾燥、流動床乾燥、外熱式乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられるが、なかでも、後述する工程(V)における焼成を経ることによって集合体を形成してなるチタン酸リチウムランタン結晶粒子が、必要以上に成長するのを有効に制御して充分に微細化を図る観点から、噴霧乾燥又は恒温乾燥とするのが好ましい。
【0042】
乾燥後に得られるCNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)は、チタン酸リチウム(Li1.81,H0.19)Ti2O5・2H2O)とランタン化合物(非晶質)と、CNF(X)との混合物である。かかるCNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)の平均粒径は、レーザー回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、好ましくは5nm~100nmであり、より好ましくは5nm~80nmである。ここで、粒度分布測定におけD50値とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。したがって、乾燥手段として噴霧乾燥を採用する場合、用いるスプレードライヤーの運転条件を適宜最適化することにより、かかるCNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)の粒径を調整すればよい。
【0043】
工程(V)は、工程(IV)で得られたCNF(X)が混在してなる前駆体混合物(B)を400℃~1000℃で焼成する工程である。かかる工程(V)を経ることにより、CNF(X)のほぼ全てが焼失し、極めて微細な粒子であって高純度であるチタン酸リチウムランタン結晶粒子が鎖状に集結し、固体電解質として非常に有用な鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を得ることができる。
【0044】
工程(V)における焼成温度は、鎖状に集結するLLTO結晶粒子の結晶性を高めつつ、有効に粒子の微細化を図る観点から、400℃~1000℃であって、好ましくは450℃~950℃であり、より好ましくは500℃~900℃である。また焼成時間は、同様の観点から、好ましくは0.5時間~48時間であり、より好ましくは1時間~24時間であり、さらに好ましくは1時間~18時間である。
【0045】
上記焼成における雰囲気は、CNF(X)のほぼ全てを焼失させる観点から、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下が好ましい。かかる焼成に用いる装置としては、上記雰囲気下において温度の調整が可能な物であれば特に限定されず、バッチ式、連続式、加熱方式(間接又は直接)のいずれの方式のものも使用することができ、例えば、外熱キルンやローラーハース等の焼成炉が挙げられる。
CNF(X)のほぼ全てが焼失したことは、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した炭素量で確認することができる。本発明のチタン酸リチウムランタン結晶粒子の炭素量は、電子伝導性を低くしてリチウムイオン二次電池の固体電解質として用いても正極-負極間に短絡を生じさせない観点から、炭素・硫黄分析装置による測定値で、好ましくは0質量%~0.5質量%であり、より好ましくは0質量%~0.3質量%であり、さらに好ましくは0質量%~0.1質量%である。
【0046】
このように、本発明の製造方法によれば、粒径が有効に微細化されつつ高いBET比表面積を有し、かつ水溶性不純物の含有量が十分に低減されてなる、高結晶度のチタン酸リチウムランタン結晶粒子が、鎖状に集結し、直線的に連続して配列してなる、鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を得ることができる。したがって、優れた充放電特性を発現し得る全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質を、簡便に製造することができる。
【0047】
具体的には、本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を構成するチタン酸リチウムランタン結晶粒子の平均粒径は、優れたリチウムイオン伝導性を発現させる観点から、好ましくは5nm~50nmであり、より好ましくは5nm~40nmであり、さらに好ましくは5nm~30nmである。ここで、チタン酸リチウムランタン結晶粒子の平均粒径とは、SEM又はTEMの電子顕微鏡を用いた観察における、数十個の粒子の粒径(長軸の長さ)の測定値の平均値を意味する。
【0048】
また、本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を構成するチタン酸リチウムランタン結晶粒子のBET比表面積は、チタン酸リチウムランタン結晶粒子同士又はチタン酸リチウムランタン結晶粒子と電極材料間の接触確率を充分に確保する観点から、好ましくは40m2/g以上であり、より好ましくは45m2/g以上であり、さらに好ましくは50m2/g以上である。
【0049】
本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を構成するチタン酸リチウムランタン結晶粒子のタップ密度は、0.5g/cm3~3.0g/cm3であり、好ましくは0.6g/cm3~2.8g/cm3であり、より好ましくは0.7g/cm3~2.6g/cm3である。集合体を構成することにより固体電解質として用いられることとなるチタン酸リチウムランタン結晶粒子が、かかるタップ密度を有することは、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質相を形成する際にチタン酸リチウムランタン結晶粒子の充填性を効率的かつ効果的に高めることができ、これによって緻密な固体電解質層を得ることが可能となり、全固体リチウムイオン二次電池として優れた充放電特性を発現することに大きく寄与するものと考えられる。
【0050】
こうして本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を固体電解質として適宜適用できるリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであって、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層の順に積層配置された積層体が形成されるものであれば特に限定されない。
【0051】
ここで、正極活物質層については、リチウムイオンを充電時には放出し、かつ放電時には吸蔵することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料化合物を水熱反応させることにより得られる各種ポリアニオン型正極活物質からなる正極活物質層を好適に用いることができる。
【0052】
また、負極活物質層については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料を水熱反応させることにより得られるチタンニオブ酸化物やチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物からなる負極活物質層を好適に用いることができる。
【0053】
また、本発明の製造方法により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を用いてリチウムイオン二次電池を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、特開2017-10816号公報に記載されるように、正極活物質層、及び負極活物質層に内包される固体電解質粒子として本発明により得られる鎖状チタン酸ランタンリチウム結晶粒子集合体を用い、固体電解質層には、かかる固体電解質粒子以外の固体電解質を用いてもよい。
【0054】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型、角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0056】
[製造例1](LiMn1.5Ni0.5O4正極活物質粒子の製造)
MnSO4・H2O 25.35g、NiSO4・6H2O 13.14g、及び水100mLを混合して、スラリー(x-1)を得た。得られたスラリー(x-1)を、25℃の温度に保持しながら撹拌しつつ48質量%のNaOHを、スラリー(x-1)のpHが11になるまで滴下してスラリー(x-2)を得た。次に、得られたスラリー(x-2)を1時間撹拌して前駆体(x-3)を得た後、得られた前駆体(x-3)1質量部に対して12質量部の水で洗浄した。
前駆体(x-3)全量、LiOH・H2O 4.20g、及び水100mLを混合した後、遊星型ボールミル(P-5、フリッチェジャパン株式会社製)で15分間混合して、スラリー(x-4)を得た。次に、得られたスラリー(x-4)を80℃で12時間乾燥した後、得られた乾燥物を大気雰囲気下800℃×1時間焼成して、LiMn1.5Ni0.5O4正極活物質粒子(一次粒子の平均粒子径100nm)を得た。
【0057】
[実施例1](Li0.33La0.56TiO3結晶粒子の製造)
水40mLにTiSO4・1.5H2O 2.24g、La(NO3)3・6H2O 2.89g、及びセルロースナノファイバー(KY-100G、スダイセルファインケム製、含水率10%)3.89gを混合して、混合液(a-1)1を得た。
次いで、水20mLにLiOH・H2O 2.08gを溶解して、混合液(a-2)1を得た。得られた混合液(a-2)1の25℃におけるpHは13であった。
得られた混合液(a-1)1を25℃の温度に保持しながら、撹拌速度200rpmで10分間撹拌した後、そのまま撹拌を継続している混合液(a-1)1に、混合液(a-2)110質量部に対して0.3質量部/分の速度で混合液(a-2)1の全量を滴下して混合した。その後、さらに撹拌速度200rpmで10分間撹拌して混合液(A)1を得た。かかる混合液(A)1の25℃におけるpHは10であった。
【0058】
得られた混合液(A)1をオートクレーブに投入し、170℃、0.8MPaでの水熱反応を10時間行った。生成した固形分を吸引ろ過し、次いで得られた固形分を固形分1質量部に対して5質量部の水で洗浄した後、80℃で12時間恒温乾燥して前駆体混合物(B)1を得た。得られた前駆体混合物(B)1は、チタン酸リチウム(Li1.81,H0.19)Ti2O5・2H2O)とランタン化合物(非晶質)と、CNF(X)との混合物であった。
【0059】
得られたセルロースナノファイバーが混在してなる前駆体混合物(B)1を、空気雰囲気下750℃で4時間焼成して、セルロースナノファイバーを完全に焼失させつつ、鎖状集合体を構成するチタン酸ランタンリチウム結晶粒子X1(Li0.33La0.56TiO3)を得た。
【0060】
得られた鎖状集合体を構成するLLTO結晶粒子X
1は、ペロブスカイト相に相当するX線回折パターンを示す単相であり、平均粒径は30nm、BET比表面積は49m
2/gであった。得られたLLTO結晶粒子X
1により形成されてなる鎖状集合体のTEM写真を
図1に、X線回折パターンを
図2に示す。
【0061】
[実施例2](Li0.81La0.40TiO3結晶粒子の製造)
La(NO3)3・6H2Oの添加量を2.07g、LiOH・H2Oの添加量を2.10g、セルロースナノファイバーの添加量を2.33gとした以外、実施例1と同様にしてLLTO酸化物粒子X2により形成されてなる鎖状集合体を得た。
得られた鎖状集合体を構成するLLTO酸化物粒子X2は、Li0.81La0.40TiO3単相であり、平均粒径は28nm、BET比表面積は52m2/gであった。
【0062】
[実施例3](Li0.12La0.63TiO3結晶粒子の製造)
La(NO3)3・6H2Oの添加量を3.26g、LiOH・H2Oの添加量を1.89g、セルロースナノファイバーの添加量を5.45gとした以外、実施例1と同様にしてLLTO酸化物粒子X3により形成されてなる鎖状集合体を得た。
得られた鎖状集合体を構成するLLTO酸化物粒子X3は、Li0.12La0.63TiO3単相であり、平均粒径は33nm、BET比表面積は47m2/gであった。
【0063】
[比較例1](Li
0.81La
0.40TiO
3結晶粒子の製造)
水100mLにCl
3La・7H
2O 31.2g、TiCl
4 19.09gを混合して、水溶液(y-1)
1を得た。得られた水溶液(y-1)
1に、28%のアンモニア水を370g滴下して、得られた沈殿物を分離、水洗浄後に、200℃×12時間乾燥して沈殿物(y―2)
1を得た。
次いで、水10mLに、得られた沈殿物(y-2)
1全量と、LiOH 3.49gを混合した後、オートクレーブに投入し、150℃、0.5MPaでの水熱反応を5時間行った。生成した固形分を吸引ろ過し、次いで得られた固形分を固形分1質量部に対して5質量部の水で洗浄した後、80℃で12時間恒温乾燥して前駆体混合物(y―3)
1を得た。
得られた前駆体混合物(y―3)
1を、空気雰囲気下850℃×12時間焼成してLLTO結晶粒子Y
1(Li
0.81La
0.40TiO
3)を得た。得られたLLTO結晶粒子Y
1(Li
0.81La
0.40TiO
3)は、ペロブスカイト相に相当するX線回折パターンを示す単相であり、平均粒径は67nm、BET比表面積は29m
2/gであった。
得られたLLTO結晶粒子Y
1のSEM写真を
図3に示す。
【0064】
[比較例2](Li0.12La0.63TiO3結晶粒子の製造)
Cl3La・7H2Oを31.2gから22.41gに、オートクレーブに投入する材料の水10mLを20mLに、LiOHを2.07gから5.08gに変更した以外、比較例1と同様にしてLLTO酸化物粒子Y2(Li0.12La0.63TiO3)を得た。得られたLLTO結晶粒子Y2(Li0.12La0.63TiO3)は、ペロブスカイト相に相当するX線回折パターンを示す単相であり、平均粒径は61nm、BET比表面積は31m2/gであった。
【0065】
[比較例3](混合液(A)のpHが範囲外の場合)
LiOH・H2Oの添加量を1.38gとした以外、実施例1と同様にしてLLTO酸化物粒子Y3を得た。この際、混合液(A)2の25℃におけるpHは7であった。
得られたLLTO酸化物粒子Y3は、ペロブスカイト相に相当するLi0.33La0.56TiO3以外に、夾雑相(La2Ti2O7など)を含んでいた。それら混合相の平均粒径は25nm、BET比表面積は57m2/gであった。
【0066】
《評価試験》
実施例1~3及び比較例1~3で得られた鎖状集合体又はLLTO結晶粒子を用い、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
具体的には、正極に製造例1で得られたLiMn1.5Ni0.5O4正極活物質粒子を用い、正極活物質:固体電解質(質量比)を75:25の配合割合で混合した後、プレス用冶具に投入して正極活物質層とした。さらに、その層上に実施例1~3及び比較例1~3で得られた鎖状集合体又はLLTO結晶粒子のみをさらに投入し、固体電解質層として積層させた後、ハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスして、φ14mmの円盤状の正極を得た。次いで、負極としてリチウム箔を固体電解質層側に取り付けることで、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0067】
作製した全固体リチウムイオン二次電池を用いて、充電条件を13mA/g、電圧5.0Vの定電流充電、放電条件を13mA/g、終止電圧3.0Vの定電流放電とした場合の放電容量を求めた。なお、充放電試験は全て60℃で行った。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
上記結果より、実施例の製造方法で得られた鎖状集合体は、比較例の製造方法で得られたLLTO結晶粒子に比して、優れた放電容量を示すことがわかる。これは、
図1及び
図3の比較からも分かるとおり、実施例1の製造方法で得られた鎖状集合体は、平均粒径が小さくBET比表面積が大きい粒子であり、かつ結晶度の高い微粒子であるLLTO結晶粒子が複数集合してなる集合体であるため、効率的かつ効果的に性能を高めることに寄与したものと考えられる。