(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】横置型電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/02 20060101AFI20230901BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
F04B39/02 Y
F04C29/02 C
F04C29/02 361A
(21)【出願番号】P 2019163785
(22)【出願日】2019-09-09
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】角田 和久
(72)【発明者】
【氏名】戸部 隆久
(72)【発明者】
【氏名】小和田 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】大木 達也
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127980(JP,A)
【文献】特開2009-167830(JP,A)
【文献】特開2013-249737(JP,A)
【文献】特開昭63-050695(JP,A)
【文献】特開2004-060533(JP,A)
【文献】特開2002-242871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 39/02
F04C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に回転軸を回転させる電動機部と前記回転軸を介して駆動される圧縮機構部とを有し、前記回転軸を回転自在に支持する前記回転軸の軸受部が前記電動機部と前記圧縮機構部との間に設けられている横置型電動圧縮機であって、
前記電動機部を収容する第1収容室と前記圧縮機構部を収容すると共に前記第1収容室の圧力よりも高い圧力を有する第2収容室とに前記ハウジング内を区画する隔壁部と、
前記軸受部に潤滑油を供給する油供給通路であって、一方の端部が前記第2収容室内に位置すると共に他方の端部側が前記軸受部を介して前記第1収容室に連通し、前記第2収容室と前記第1収容室との圧力差を利用して前記潤滑油を前記軸受部に供給するように構成された前記油供給通路と、
を有し、
前記圧縮機構部は、吸入通路を介して前記第1収容室内の低圧冷媒を吸入し、圧縮して前記第2収容室に吐出するように構成され、
前記軸受部を通過した潤滑油を前記第1収容室に開口する前記吸入通路の入口側端部へと導く油戻し部材が前記軸受部の前記第1収容室側の端部に隣接して設けられて
おり、
前記油戻し部材は、前記軸受部を通過した潤滑油を捕捉する捕捉部を有し、前記捕捉部で捕捉された潤滑油を前記吸入通路の入口側端部へと導いて前記第1収容室内の低圧冷媒と共に前記圧縮機構部に吸入させるように構成されている、
横置型電動圧縮機。
【請求項2】
前記油戻し部材は、前記軸受部の前記第1収容室側の端部と前記吸入通路の入口側端部とを連通する連通路を有する、請求項1に記載の横置型電動圧縮機。
【請求項3】
前記吸入通路の入口側端部は、前記第1収容室の最下部近傍に配置されている、請求項
1又は2に記載の横置型電動圧縮機。
【請求項4】
前記軸受部は、前記回転軸が挿通される軸孔であり、
前記油供給通路の前記他方の端部側は、前記回転軸の外周面と前記軸孔の内周面との間に形成される微小隙間を介して前記第1収容室に連通し、
前記油供給通路は、前記潤滑油を前記微小隙間に供給するように構成され、
前記油戻し部材は、前記微小隙間を通過した潤滑油を前記吸入通路の入口側端部へと導くように構成されている、
請求項1~
3のいずれか一つに記載の横置型電動圧縮機。
【請求項5】
前記油供給通路は、前記回転軸の内部を前記回転軸の軸線に沿って延びる回転軸内通路と、前記回転軸内通路と前記微小隙間とを連通する連通孔と、を含む、請求項
4に記載の横置型電動圧縮機。
【請求項6】
前記隔壁部は、前記第1収容室側に突出するボス部を有し、
前記軸孔は、前記ボス部の先端面から前記隔壁部の前記第2収容室側の面まで貫通する貫通孔として形成され、
前記油戻し部材は、前記ボス部の先端部に取り付けられている、
請求項
4又は
5に記載の横置型電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横置型電動圧縮機に関し、特に、自動車などの移動体に設置される圧縮機として好適に用いられ得る横置型電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の横置型電動圧縮機の一例として特許文献1に記載された横形ロータリ圧縮機が知られている。前記横形ロータリ圧縮機において、密閉容器内は仕切り部材によって圧縮機構部が位置する油貯留部空間と電動機部が位置する電動機側空間とに仕切られている。また、前記横形ロータリ圧縮機は、回転軸に設けられたセンター孔と、前記センター孔と前記圧縮機構部の各摺動部とを連通する油案内孔と、油吸い上げ管と、からなる給油路を有している。前記給油路は、前記油貯留部空間と前記センター孔との圧力差を利用して前記油貯留部空間の潤滑油を吸い上げて前記圧縮機構部の各摺動部に供給するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記横形ロータリ圧縮機においては、前記油貯留部空間と前記電動機側空間とは前記仕切り部材の下部に設けられた油連通孔を介して連通している。このため、例えば前記油貯留部空間側よりも前記電動機側空間が低くなる方向に前記横形ロータリ圧縮機が傾斜した場合、潤滑油が前記電動機側空間に偏ってしまうおそれがある。また、前記横形ロータリ圧縮機においては、潤滑油が前記電動機部の回転子に接触した場合、前記回転子により前記密閉容器内の潤滑油が攪拌され、吐出冷媒と共に前記横形ロータリ圧縮機から冷凍サイクルへ流出してしまう。このため、前記密閉容器内の潤滑油が不足し、前記圧縮機構部の各摺動部や前記主軸受けに十分な給油が行えなくなり、前記圧縮機構部においてかじりや焼き付きが生じるおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、傾斜時等においても圧縮機構部側に十分な量の潤滑油を確保することができると共に圧縮機構部の各摺動部や回転軸の軸受部への給油を十分に行うことができる横置型電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、横置型電動圧縮機が提供される。前記横置型電動圧縮機は、ハウジング内に回転軸を回転させる電動機部と前記回転軸を介して駆動される圧縮機構部とを有し、前記横置型電動圧縮機において、前記回転軸を回転自在に支持する前記回転軸の軸受部が前記電動機部と前記圧縮機構部との間に設けられている。また、前記横置型電動圧縮機は、前記電動機部を収容する第1収容室と前記圧縮機構部を収容すると共に前記第1収容室の圧力よりも高い圧力を有する第2収容室とに前記ハウジング内を区画する隔壁部と、前記軸受部に潤滑油を供給する油供給通路であって、一方の端部が前記第2収容室内に位置すると共に他方の端部側が前記軸受部を介して前記第1収容室に連通し、前記第2収容室と前記第1収容室との圧力差を利用して前記潤滑油を前記軸受部に供給するように構成された前記油供給通路と、を有する。前記圧縮機構部は、吸入通路を介して前記第1収容室内の低圧冷媒を吸入し、圧縮して前記第2収容室に吐出するように構成され、横置型電動圧縮機には、前記軸受部を通過した潤滑油を前記第1収容室に開口する前記吸入通路の入口側端部へと導く油戻し部材が前記軸受部の前記第1収容室側の端部に隣接して設けられており、前記油戻し部材は、前記軸受部を通過した潤滑油を捕捉する捕捉部を有し、前記捕捉部で捕捉された潤滑油を前記吸入通路の入口側端部へと導いて前記第1収容室内の低圧冷媒と共に前記圧縮機構部に吸入させるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一側面によれば、傾斜時等においても圧縮機構部側に十分な量の潤滑油を確保することができると共に圧縮機構部の各摺動部や回転軸の軸受部への給油を十分に行うことができる横置型電動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る横置型電動圧縮機の断面図である。
【
図8】
図7において油戻し部材を省略した状態を示す図である。
【
図9】前記油戻し部材を示す図であり、(a)は油戻し部材80の正面図であり、(b)は(a)のF-F断面図である。
【
図10】前記横置型電動圧縮機における冷媒(ガス)の流れを示す図である。
【
図11】前記横置型電動圧縮機における潤滑油の流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る横置型電動圧縮機の断面図である。実施形態に係る横置型電動圧縮機(以下単に「電動圧縮機」という)100は、ハウジング110を有している。ハウジング110は、円筒状のセンターハウジング110aと、開口端側がセンターハウジング110aの前端(
図1における左端)に接合された有底円筒状のフロントハウジング110bと、開口端側がセンターハウジング110aの後端(
図1における右端)に接合された有底円筒状のリアハウジング110cと、を含む。
【0010】
ハウジング110内は、センターハウジング110aに一体に設けられた隔壁部111によって、フロントハウジング110b側の第1収容室113とリアハウジング110c側の第2収容室115とに区画されている。第1収容室113は、センターハウジング110aとフロントハウジング110bとによって形成され、第2収容室115は、センターハウジング110aとリアハウジング110cとによって形成されている。
【0011】
隔壁部111の径方向中央部には、第1収容室113側に突出するボス部111aが形成されている。また、隔壁部111には、ボス部111aの先端面から第2収容室115側の面まで貫通する第1軸孔111bが形成されている。
【0012】
第1軸孔111bには、水平方向(前後方向)に延びる回転軸200の中間部が回転自在に挿通されている。回転軸200の一端(前端)側は第1収容室113内に位置し、回転軸200の他端(後端)側は第2収容室115内に位置している。第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間には微小隙間(クリアランス)CLが形成されている。この微小隙間CLは、回転軸200が回転可能であり、且つ、後述する潤滑油Oによって密封(シール)され得るように設定されている。
【0013】
第1収容室113には、回転軸200を回転させる電動機部10が収容されている。また、第1収容室113は、フロントハウジング110bに形成された吸入口117を介して図示省略の外部冷媒回路の低圧側に連通している。吸入口117は、回転軸200の軸線方向においては電動機部10を挟んで隔壁部111とは反対側の位置に、高さ(上下)方向においては回転軸200に対応する位置(すなわち、回転軸200とほぼ同じ高さの位置)に設けられている。
【0014】
電動機部10は、ステータ11とロータ12とを含む。
【0015】
ステータ11は、ハウジング110の内周面に固定されている。具体的には、ステータ11は、センターハウジング110aの隔壁部111よりもフロントハウジング110b側の部位の内周面に固定されている。ステータ11は、磁性体で円筒状に形成されたステータコア11aと、ステータコア11a(のティース部)に例えば集中巻きで巻回されたステータコイル11bと、を有している。
【0016】
ロータ12は、ステータ11の径方向内側に所定の隙間を有して配置されている。ロータ12には永久磁石が組み込まれている。ロータ12は、円筒状に形成されており、その中空部に回転軸200の前端側が挿通された状態で回転軸200に固定されている。
【0017】
電動機部10は、フロントハウジング110bに設けられた気密端子部20を介してステータ11(ステータコイル11b)に電力が供給されることによってロータ12が回転し、これにより、回転軸200を回転させるように構成されている。
【0018】
また、第1収容室113には、第2収容室115側から第1収容室113に向かって第1軸孔111bを通過した潤滑油Oを第2収容室115側へと戻すため油戻し部材80が設けられている。本実施形態において、油戻し部材80は、第1軸孔111bの第1収容室113側の端部に隣接して設けられている。より具体的には、油戻し部材80は、隔壁部111に形成されたボス部111aに取り付けられている。油戻し部材80については後述する。
【0019】
第2収容室115には、回転軸200を介して駆動される圧縮機構部30が収容されている。圧縮機構部30はロータリ圧縮機として構成されている。但し、これに限られるものではなく、圧縮機構部30がロータリ圧縮機以外の圧縮機として構成されてもよい。第2収容室115は、リアハウジング110cに形成された吐出口119を介して前記外部冷媒回路の高圧側に連通している。吐出口119は、回転軸200の軸線方向においては後述する吐出孔53よりも隔壁部111側の位置に、高さ方向においては吸入口117と同様に回転軸200に対応する位置に設けられている。
【0020】
第2収容室115の底部は、潤滑油Oが貯留される潤滑油貯留部を構成している。換言すれば、本実施形態において、潤滑油Oは主に第2収容室115に貯留され、第1収容室113にはほとんど貯留されないようになっている。
【0021】
圧縮機構部30は、ハウジング110の内径よりも小さい外径を有する。また、圧縮機構部30の下部は、潤滑油Oに浸漬されている(すなわち、潤滑油Oの油面よりも下方に位置している)。
【0022】
圧縮機構部30は、中間仕切板40を挟んでその両側に配置された第1圧縮機構部30A及び第2圧縮機構部30Bを含む。第1圧縮機構部30Aは、中間仕切板40の隔壁部111側(すなわち、前側)に配置されており、第2圧縮機構部30Bは、中間仕切板40の隔壁部111側とは反対側(すなわち、後側)に配置されている。中間仕切板40の径方向中央部には、回転軸200が挿通される挿通孔が形成されている。
【0023】
図2は、
図1の要部拡大図であり、主に圧縮機構部30を示している。
図3は、
図1のA-A断面図であり、主に第1圧縮機構部30Aの構成を示している。
図4は、
図1のB-B断面図であり、主に第2圧縮機構部30Bに構成を示している。
【0024】
図2及び
図3に示されるように、第1圧縮機構部30Aは、第1シリンダ31Aと、第1偏心ローラ33Aと、第1ベーン35Aと、を含む。
【0025】
第1シリンダ31Aの一方の面(前側の面)は、隔壁部111の第2収容室115側の面に密着しており、第1シリンダ31Aの他方の面(後側の面)は、中間仕切板40に密着している。第1シリンダ31Aは、径方向中央部に断面円形の第1シリンダ室37Aを有している。
【0026】
第1偏心ローラ33Aは、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室37A内に位置する回転軸200の第1偏心部201に取り付けられている。第1偏心ローラ33Aは、回転軸200の回転に伴って第1シリンダ31Aの第1シリンダ室37A内を偏心回転する。
【0027】
第1ベーン35Aは、第1付勢部材(コイルスプリング)39Aによって第1偏心ローラ33Aに向かって付勢されている。第1ベーン35Aは、第1偏心ローラ33Aの外周面に当接して第1シリンダ室37A内を第1吸入ポート41Aが位置する低圧室と第1吐出ポート43Aが位置する高圧室とに区画する(
図3参照)。第1吸入ポート41A及び第1吐出ポート43Aは、回転軸200よりも下方に設けられている。
【0028】
また、本実施形態において、隔壁部111の第1収容室113側の面には、ボス部111aを囲繞するように第1凹部111cが形成されている。そして、この第1凹部111cの開口が隔壁部111の第1収容室113側の面に密着する第1閉塞板121によって閉塞され、これによって、第1収容室113から区画された第1吐出消音室45Aが形成されている。すなわち、本実施形態においては、隔壁部111に第1吐出消音室45Aが設けられている。第1吐出消音室45Aは、隔壁部111に形成された第1連通孔111dを介して、第1シリンダ31Aの第1シリンダ室37A内の高圧室に位置する第1吐出ポート43A(
図3参照)に連通している。
【0029】
第2圧縮機構部30Bは、第1圧縮機構部30Aと同様の構成を有する。すなわち、第2圧縮機構部30Bは、第2シリンダ31Bと、第2偏心ローラ33Bと、第2ベーン35Bと、を含む。
【0030】
第2シリンダ31Bの一方の面(前側の面)は、中間仕切板40に密着している。第2シリンダ31Bの他方の側面(後側の面)には、吐出消音室形成部材47の一方の面が密着している。第2シリンダ31Bは、径方向中央部に断面円形の第2シリンダ室37Bを有している。
【0031】
第2偏心ローラ33Bは、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室37B内に位置する回転軸200の第2偏心部202に取り付けられている。第2偏心ローラ33Bは、回転軸200の回転に伴って第2シリンダ31Bの第2シリンダ室37B内を偏心回転する。なお、第2偏心部202は、第1偏心部201に対して回転軸200に軸線まわりに約180°ずらして(約180°の位相差を有して)設けられている。
【0032】
第2ベーン35Bは、第2付勢部材(コイルスプリング)39Bによって第2偏心ローラ33Bに向かって付勢されている。第2ベーン35Bは、第2偏心ローラ33Bの外周面に当接して第2シリンダ室37B内を第2吸入ポート41Bが位置する低圧室と第2吐出ポート43Bが位置する高圧室とに区画する(
図4参照)。第2吸入ポート41B及び第2吐出ポート43Bは、第1吸入ポート41A及び第1吐出ポート43Aと同様、回転軸200よりも下方に設けられている。
【0033】
吐出消音室形成部材47の径方向中央部には、第2軸孔47aが形成されている。第2軸孔47aには、回転軸200の後端部及びその近傍が回転自在に挿通されている。つまり、回転軸200は、隔壁部111に形成された第1軸孔111bと吐出消音室形成部材47に形成された第2軸孔47aとによって回転自在に支持されており、これら第1軸孔111b及び第2軸孔47aがそれぞれ回転軸200の軸受部を構成している。なお、第1軸孔111bの場合と同様、第2軸孔47aの内周面と回転軸200の外周面との間には微小隙間が形成されている。
【0034】
また、吐出消音室形成部材47の第2シリンダ31B側とは反対側の面(すなわち、後側の面)には、第2軸孔47aを囲繞するように第2凹部47bが形成されている。そして、この第2凹部47bが吐出消音室形成部材47の第2シリンダ31Bとは反対側の面に密着する第2閉塞板49によって閉塞されることによって第2吐出消音室45Bが形成されている。第2吐出消音室45Bは、吐出消音室形成部材47に形成された第2連通孔47cを介して、第2シリンダ31Bの第2シリンダ室37B内の高圧室に位置する第2吐出ポート43Bに連通している。
【0035】
ここで、本実施形態において、第1閉塞板121、第1シリンダ31A、中間仕切板40、第2シリンダ31B、吐出消音室形成部材47及び第2閉塞板49は、複数の締結部材(例えば通しボルト)60によって締結されると共に隔壁部111に固定されている。換言すれば、本実施形態において、圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)は、隔壁部111に取り付けられ且つ固定されている。
【0036】
図5は、
図3のC-C断面図であり、
図6は、
図5のD-D断面図であり、
図7は、
図1のE-E断面図であり、
図8は、
図7において油戻し部材80を省略した状態を示している。
【0037】
本実施形態において、第1吐出消音室45Aと第2吐出消音室45Bとは、回転軸200よりも上方に設けられた吐出連通路51を介して連通している。吐出連通路51は、第1吐出消音室45Aを形成する第1凹部111cの底壁部、第1シリンダ31A、中間仕切板40、第2シリンダ31B、及び、第2吐出消音室45Bを形成する第2凹部47bの底壁部を水平方向に貫通して延びる通路として形成されている。また、第2吐出消音室45Bは、第2閉塞板49に形成された吐出孔53を介して第2収容室115に連通している(
図5、
図6参照)。
【0038】
第1シリンダ31Aの第1シリンダ室37A内の低圧室に位置する第1吸入ポート41Aは、回転軸200よりも下方に設けられた第1吸入通路55を介して第1収容室113に連通している。本実施形態において、第1吸入通路55は、第1吸入ポート41Aから第1シリンダ31A内を周方向下向きに延びた後にハウジング110内の底部近傍を水平方向に隔壁部111及び第1閉塞板121を貫通して第1収容室113に至る通路として形成されている。また、第1収容室113に開口する第1吸入通路55の入口側端部55aは、第1軸孔111bの鉛直下方であって且つ第1収容室113の底部近傍(つまり、第1収容室113の最下部近傍)に位置している(
図2、
図3、
図5及び
図8参照)。
【0039】
第2シリンダ31Bの第2シリンダ室37B内の低圧室に位置する第2吸入ポート41Bは、第2吸入ポート41Bから第2シリンダ31B内を周方向下向きに延びた後に水平方向に中間仕切板40を貫通して第1吸入通路55に接続する第2吸入通路56と、第1吸入通路55と、を介して第1収容室113に連通している(
図5及び
図8参照)。
【0040】
また、電動圧縮機100は、回転軸200の軸受部(第1軸孔111b、第2軸孔47a)及び圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)の各摺動部に潤滑油を供給するための油供給通路70を有している。本実施形態において、油供給通路70は、第2閉塞板49の内部に形成された第1油通路71と、回転軸200の内部を回転軸200の軸線方向に延びる第2油通路72と、回転軸200の内部を径方向に延びる第1~第4油案内孔73~76と、を含む(
図1、
図2及び
図6参照)。
【0041】
第1油通路71は、一端(下端)が第2閉塞板49の底部に開口すると共に上方に延びた後に回転軸200の後端面に向かって屈曲し、他端(上端)が第2軸孔47a内に開口する通路として形成されている。具体的には、本実施形態において、第1油通路71は、第2閉塞板49の底部から回転軸200に相当する位置まで垂直に延びる垂直穴と、第2閉塞板49の吐出消音室形成部材47側の面の第2軸孔47aに対応する部位から水平に延びて前記垂直穴に接続する水平穴と、で構成されている。第1油通路71の前記一端(下端)、すなわち、前記垂直穴の開口部は、第2収容室115の底部近傍、より具体的には、第2収容室115の底部に貯留された潤滑油Oの液面よりも下方に位置しており、油吸込口として機能する。
【0042】
第2油通路72は、一端が回転軸200の前記後端面に開口すると共に回転軸200内を回転軸200の軸線に沿って第1シリンダ31Aを超えた位置(換言すれば、第1軸孔111b内に相当する位置)まで延びて他端が閉塞されている。第2油通路72の前記一端は第1油通路71の前記他端(上端)に接続しており、第1油通路71と第2油通路72とは一つの通路を構成している。なお、第2油通路72が本発明の「回転軸内通路」に相当する。
【0043】
第1油案内孔73は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を径方向に延びて他端が第2軸孔47a内に位置する回転軸200の外周面に開口している。より具体的には、第1油案内孔73の前記他端は、第2軸孔47a内における第2シリンダ31Bに隣接する部位に位置する回転軸200の外周面に開口している。換言すれば、第1油案内孔73は、第2油通路72と、回転軸200の外周面と第2軸孔47aの内周面との間に形成される微小隙間と、を連通している。ここで、第2軸孔47a内に位置する回転軸200の外周面のうち第1油案内孔73の前記他端が開口する部位は、他の部位に比べて僅かに縮径されており、潤滑油溜まり部として機能する。
【0044】
第2油案内孔74は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を径方向に延びて他端が回転軸200の第2偏心部202の外周面に開口している。ここで、第2偏心部202の外周面のうち第2油案内孔74の前記他端が開口する部位は、平坦面になっており、第2偏心部202の外周面と第2偏心ローラ33Bの内周面との間には微小隙間が形成されている。すなわち、第2油案内孔74は、第2油通路72と、第2偏心部202の外周面と第2偏心ローラ33Bの内周面との間に形成される微小隙間と、を連通している。
【0045】
第3油案内孔75は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を径方向に延びて他端が回転軸200の第1偏心部201の外周面に開口している。ここで、第2偏心部202と同様に、第1偏心部201の外周面のうち第3油案内孔75の前記他端が開口する部位は、平坦面になっており、第1偏心ローラ33Aの内周面との間に僅かな隙間が形成されている。すなわち、第3油案内孔75は、第2油通路72と、第1偏心部201の外周面と第1偏心ローラ33Aの内周面との間に形成される微小隙間と、を連通している。
【0046】
第4油案内孔76は、一端が第2油通路72に開口すると共に回転軸200内を径方向に延びて他端が第1軸孔111b内に位置する回転軸200の外周面に開口している。より具体的には、第4油案内孔76の前記他端は、第1軸孔111b内における第1シリンダ31Aに隣接する部位に位置する回転軸200の外周面に開口している。換言すれば、第4油案内孔76は、第2油通路72と、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CLと、を連通している。ここで、第1軸孔111b内に位置する回転軸200の外周面のうち第4油案内孔76の前記他端が開口する部位は、他の部位に比べて僅かに縮径されており、潤滑油溜まり部として機能する。なお、第4油案内孔76が本発明の「連通孔」に相当する。
【0047】
ここで、主に
図2、
図7及び
図9を参照して油戻し部材80について説明する。本実施形態において、油戻し部材80は、第1軸孔111bを通過した潤滑油O、より具体的には、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CLを通過した潤滑油Oを第1吸入通路55の入口側端部55aへと導くように構成されている。
【0048】
図9は、油戻し部材80を示している。
図9(a)は油戻し部材80の正面図であり、
図9(b)は
図9(a)のF-F断面図である。
【0049】
図9(a)、(b)に示されるように、油戻し部材80は、有底円筒状に形成され且つ底部に回転軸200が挿通される挿通孔81aを有する捕捉部81と、捕捉部81から径方向外側に延在し且つ捕捉部81の開口端面81bと同一平面となる平坦面82aを有する棒状の延在部82と、を有する。また、油戻し部材80には、捕捉部81の内底面、捕捉部81の内周面(内側面)及び延在部82の平坦面82aにわたって形成されて、捕捉部81の挿通孔81aの周縁部から延在部82の先端部近傍まで連続して延びる溝83が設けられている。
【0050】
油戻し部材80は、
図2に示されるように、例えば延在部82を下側にした状態で捕捉部81の内周面が隔壁部111に形成されたボス部111aの外周面に嵌合される。すなわち、油戻し部材80は、ボス部111aの先端部に取り付けられる。このとき、捕捉部81の開口端面81b及び延在部82の平坦面82aは、第1閉塞板121の第1収容室113側の面に密着し、また、延在部82の先端部は、第1吸入通路55の入口側端部55aの上縁よりも下側に位置する(
図2、
図7参照)。
【0051】
これにより、主に溝83によって、第1軸孔111bの第1収容室113側の端部、より具体的には、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CLの第1収容室113側の端部と、第1収容室113に開口する第1吸入通路の入口側端部55aと、を連通する連通路90が形成される。なお、油戻し部材80の延在部82の先端部は、第1吸入通路55の入口側端部55aの上縁側に位置しており、第1吸入通路55の入口側端部55aは、十分な開口面積を有している(
図2、
図7参照)。すなわち、第1吸入通路55の入口側端部55aは、油戻し部材80の延在部82によって圧縮機構部30が吸入する低圧冷媒の量が減少して圧縮性能の低下が生じることがないような開口面積を有している。
【0052】
次に、
図10及び
図11を参照しつつ電動圧縮機100の動作を説明する。
図10は、電動圧縮機100における冷媒(ガス)の流れを示し、
図11は、電動圧縮機100における潤滑油Oの流れを示している。
【0053】
電動機部10を収容する第1収容室113には、前記外部冷媒回路の低圧側の冷媒(低圧冷媒)がフロントハウジング110bに形成された吸入口117を介して流入する。つまり、第1収容室113は、外部から低圧冷媒が流入する「吸入室」を構成しており、第1収容室113の圧力は、前記外部冷媒回路の低圧側の圧力とほぼ同等である。
【0054】
電動機部10に電力が供給されると回転軸200が回転し、第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室37Aでは第1偏心ローラ33Aが偏心回転し、第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室37Bでは第2偏心ローラ33Bが偏心回転する。
【0055】
図10において三角矢印で示されるように、吸入口117から第1収容室113に流入した低圧冷媒は、電動機部10におけるステータ11とロータ12との隙間を通過し、これによって、電動機部10が冷却される。そして、第1収容室113から第1吸入通路55及び第1吸入ポート41A(
図3参照)を通過した低圧冷媒が第1シリンダ室37Aに吸入され、第1収容室113から第1吸入通路55、第2吸入通路56及び第2吸入ポート41Bを通過した低圧冷媒が第2シリンダ室37Bに吸入される。このとき、第1収容室113の底部に貯留されている潤滑油Oも低圧冷媒と共に第1シリンダ室37A及び第2シリンダ室37Bに吸入され得る(
図11参照)。
【0056】
第1シリンダ室37Aに吸入された低圧冷媒は、第1偏心ローラ33Aの偏心回転によって第1シリンダ室37A内で圧縮されて高圧冷媒となる。高圧冷媒は、
図10において開いた矢印で示されるように、第1シリンダ室37Aから第1吐出ポート43A(
図3参照)及び第1連通孔111dを介して第1吐出消音室45Aに吐出され、その後、吐出連通路51を通過して第2吐出消音室45Bに流入する。
【0057】
第2シリンダ室37Bに流入した低圧冷媒は、第2偏心ローラ33Bの偏心回転によって第2シリンダ室37B内で圧縮されて高圧冷媒となり、高圧冷媒が第2シリンダ室37Bから第2吐出ポート43B(
図4参照)及び第2連通孔47cを介して第2吐出消音室45Bに吐出される。
【0058】
第1シリンダ室37Aから吐出された高圧冷媒及び第2シリンダ室37Bから吐出された高圧冷媒は第2吐出消音室45Bで合流し、合流した高圧冷媒が吐出孔53を介して第2収容室115に吐出される。つまり、第2収容室115は、圧縮機構部30で圧縮された高圧冷媒が吐出される「吐出室」を構成しており、第2収容室115の圧力は、高圧冷媒の圧力(前記外部冷媒回路の高圧側の圧力)とほぼ同等である(第1収容室113の圧力よりも高い)。
【0059】
第2収容室115に吐出された高圧冷媒は、ハウジング110の内面などに接触及び/又は衝突し、これによって、高圧冷媒からそこ含まれた潤滑油Oが分離される。高圧冷媒から分離された潤滑油Oは、主に重力によって下方に移動して第2収容室115の底部に貯留される。一方、潤滑油Oが分離された後の高圧冷媒は、リアハウジング110cに形成された吐出口119を介して前記外部冷媒回路の高圧側に流出する。
【0060】
上述のように、本実施形態において、油供給通路70は、第2閉塞板49の内部に形成された第1油通路71と、回転軸200の内部を回転軸200の軸線方向に延びる第2油通路72と、回転軸200の内部を径方向に延びる第1~第4油案内孔73~76と、を含む。また、隔壁部111のボス部111aの先端部には、第1軸孔111bの第1収容室113側の端部に隣接するように油戻し部材80が取り付けられている。
【0061】
油供給通路70の一方の端部を構成する第1油通路71の一端(下端)は、第2収容室115内に、さらに言えば、第2収容室115の底部に貯留された潤滑油O内に位置している。また、油供給通路70の他方の端部を構成する第4油案内孔76は、第1軸孔111bを介して、より具体的には、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CLを介して第1収容室113に連通している。そして、第1収容室113はその圧力が低圧冷媒と同等である低圧室を構成し、第2収容室115はその圧力が高圧冷媒と同等の圧力である高圧室を構成している。
【0062】
このため、
図11において矢印で示されるように、第2収容室(吐出室(高圧室))115と第1収容室(吸入室(低圧室))113との圧力差によって、第2収容室115の底部に貯留されている潤滑油Oが第1油通路71を介して吸い上げられて第2油通路72に導かれる。第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第4油案内孔76を介して第1軸孔111b(電動機部10と圧縮機構部30との間に位置する回転軸200の軸受部)に供給される。第1軸孔111bに供給された潤滑油Oは、第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間に形成される微小隙間CLを第1収容室113に向かって通過する。
【0063】
第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間に形成される微小隙間CLを通過した潤滑油Oの多くは、油戻し部材80の捕捉部81によって捕捉される。また、回転軸200の外周面と油戻し部材80の挿通孔81aの内周面との隙間は、回転軸200が回転可能であり、且つ、潤滑油Oによって密封(シール)され得るように設定されている。さらに、油戻し部材80の溝83によって形成される連通路90は、第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間に形成される微小隙間CLと第1吸入通路55の入口側端部55aとを連通している。
【0064】
このため、第1軸孔111bの内周面と回転軸200の外周面との間に形成される微小隙間CLを通過した潤滑油Oの多くが連通路90を介して第1吸入通路55の入口側端部55aへと導かれ、第1収容室113内の低圧冷媒と共に第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室37A及び第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室37Bに吸入される。なお、捕捉部81を通過した潤滑油Oは、第1収容室113に放出されることになるが、第1収容室113に放出された潤滑油Oは、その後に落下して第1収容室113の底部に貯留され、第1収容室113内の低圧冷媒と共に第1圧縮機構部30Aの第1シリンダ室37A及び第2圧縮機構部30Bの第2シリンダ室37Bに吸入され得る。
【0065】
また、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第1油案内孔73を介して第2軸孔47a(後端側の回転軸200の軸受部)に供給される。
【0066】
さらに、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第2油案内孔74を介して第2偏心ローラ33Bの内側に導かれ、そこから第2圧縮機構部30Bの各摺動部に供給される。同様に、第2油通路72に導かれた潤滑油Oは、第3油案内孔75を介して第1偏心ローラ33Aの内側に導かれ、そこから第1圧縮機構部30Aの各摺動部に供給される。
【0067】
本実施形態に係る電動圧縮機100によれば次のような効果が得られる。
【0068】
本実施形態に係る電動圧縮機100において、ハウジング110内は、隔壁部111によって、電動機部10を収容する第1収容室113と圧縮機構部30を収容する第2収容室115とに区画されている。また、第2収容室115の底部が潤滑油Oを貯留する潤滑油貯留部を構成しており、隔壁部111には、潤滑油Oを第1収容室113と第2収容室115との間で流通させる油流通口等が設けられていない。このため、電動圧縮機100が傾斜等した場合でも潤滑油Oが第2収容室115から第1収容室113に流入することがほとんどなく、圧縮機構部30側に十分な量の潤滑油Oが確保され得る。また、電動機部10の回転によって攪拌される潤滑油Oもほとんどないため、電動圧縮機100から高圧冷媒と共に前記外部冷媒回路に流出する潤滑油の量も大幅に低減される。したがって、従来に比べて少ない量の潤滑油によって圧縮機構部30の潤滑性とシール性とが確保され得る。
【0069】
また、第1収容室113は吸入口117を介して外部からの低圧冷媒が流入する吸入室(低圧室)として構成され、第2収容室115は圧縮機構部30で圧縮された高圧冷媒が吐出される吐出室(高圧室)として構成されている。すなわち、圧縮機構部30は、第1収容室113内の低圧冷媒を吸入し、圧縮して第2収容室115に吐出するように構成されている。また、油供給通路70は第2収容室115と第1収容室113との圧力差を利用して第2収容室115に貯留されている潤滑油Oを吸い上げて第1軸孔111b(電動機部10と圧縮機構部30との間に位置する回転軸200の軸受部)に供給するように構成されている。このため、電動圧縮機100の動作中、第1軸孔111bへの給油が安定且つ確実に行われ得る。
【0070】
さらに、第1軸孔111b(具体的には、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CL)を通過した潤滑油Oを第1吸入通路55の入口側端部55aへと導く油戻し部材80が第1軸孔111bの第1収容室113側の端部に隣接して設けられている。このため、第1軸孔111bを通過した潤滑油Oの多くが、第1収容室113に放出される前に、第1収容室113内の低圧冷媒と共に圧縮機構部30に吸入される。したがって、第1軸孔111bへの給油を十分に行いつつ、第1軸孔111bを介して第1収容室113に流入して滞留してしまう潤滑油Oの量を低減でき、圧縮機構部30側に十分な量の潤滑油Oが確保され得る。
【0071】
また、本実施形態に係る電動圧縮機100において、第1収容室113内の低圧冷媒を圧縮機構部30(第1圧縮機構部30A、第2圧縮機構部30B)に導く吸入通路(第1吸入通路55、第2吸入通路56)は回転軸200よりも下方に配置されている。特に、本実施形態においては、第1収容室113に開口する前記吸入通路の入口側端部(第1吸入通路55の入口側端部55a)が第1収容室113の最下部近傍に配置されている。このため、第1収容室113(の底部)に潤滑油Oが貯留された場合であっても、当該潤滑油Oが速やかに圧縮機構部30に吸入され得る。したがって、第1収容室113に滞留する潤滑油Oの量が低減され、圧縮機構部30側に十分な量の潤滑油Oが確保され得る。
【0072】
さらに、吸入口117は、電動機部10を挟んで隔壁部111とは反対側であって且つ回転軸200に対応する高さ位置に設けられている。このため、吸入口117から第1収容室113に流入する低圧冷媒が、電動機部10の冷却と潤滑油Oの第1収容室113での滞留抑制とにバランスよく利用され得る。
【0073】
なお、図示は省略するが、第1軸孔111b内の内周面に又は第1軸孔111b内に位置する回転軸200の外周面に、回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に位置する潤滑油Oを第1収容室113側から第2収容室115側へと移動させるスパイラル溝が形成されていてもよい。このようにすれば、潤滑油Oが回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に滞留する時間が長くなり、第1軸孔111bにおける潤滑油不足が効果的に防止され得る。
【0074】
また、上述の実施形態において、隔壁部111は、ハウジング110(センターハウジング110a)に一体に設けられている。しかし、これに限られるものではない。隔壁部111は、ハウジング110とは別体で形成され、ハウジング110に例えば着脱可能に取り付けられるように構成されてもよい。
【0075】
さらに、油戻し部材80は、第1軸孔111b(回転軸200の外周面と第1軸孔111bの内周面との間に形成される微小隙間CL)を通過した潤滑油Oを第1吸入通路55の入口側端部55aへと導くことができればよく、上述の実施形態の形状に限られない。
【0076】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は、上述の各実施形態やその変形例に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0077】
10…電動機部、11…ステータ、12…ロータ、30…圧縮機構部、30A…第1圧縮機構部、30B…第2圧縮機構部、55…第1吸入通路、55a…開口端部(入口側端部)、56…第2吸入通路、51…吐出連通路、53…吐出孔、70…油供給通路、71…第1油通路、72…第2油通路(回転軸内通路)、73…第1油案内孔、74…第2油案内孔、75…第3油案内孔、76…第4油案内孔(連通孔)、80…油戻し部材、81…捕捉部、82…延在部、83…溝、90…連通路、100…横置型電動圧縮機、110…ハウジング、110a…センターハウジング、110b…フロントハウジング、110c…リアハウジング、111…隔壁部、111a…ボス部、111b…第1軸孔(軸受部)、113…第1収容室、115…第2収容室、117…吸入口、119…吐出口、200…回転軸、CL…微小隙間、O…潤滑油