(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】車両用熱媒体加熱装置及び車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/03 20060101AFI20230901BHJP
B60H 1/22 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
B60H1/03 C
B60H1/22 611C
(21)【出願番号】P 2019176904
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
(72)【発明者】
【氏名】坂原 耕二
(72)【発明者】
【氏名】荒木 大典
(72)【発明者】
【氏名】安本 健二
【審査官】大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-131331(JP,A)
【文献】特開2017-217059(JP,A)
【文献】特開2012-136154(JP,A)
【文献】特開2003-048422(JP,A)
【文献】特開2014-184882(JP,A)
【文献】特開2014-034297(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109693515(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00- 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒーターと、前記ヒーターを収容して内部で熱媒体を加熱するヒーターケースと、前記ヒーターに電力供給を行うヒーター電力供給部とを備え、
前記ヒーターケースには、前記ヒーター電力供給部のシール構造が設けられると共に、当該ヒーターケースを保護するヒーターケース保護部が設けられ、
前記ヒーターケース保護部は、
前記ヒーターケースから流出した熱媒体を貯留する容器であり、前記ヒーターケースよりも耐熱温度の高い部材で構成され、前記ヒーターケースとの間にシール構造が形成されていることを特徴とする車両用熱媒体加熱装置。
【請求項2】
前記ヒーター電力供給部のシール構造が前記ヒーターケースの上側に配備され、前記ヒーターケース保護部は、前記ヒーターケースの下側に配備されていることを特徴とする請求項1記載の車両用熱媒体加熱装置。
【請求項3】
前記ヒーターケース保護部の容積が、熱媒体の循環経路に設けられる一時貯留タンクの容量より小さいことを特徴とする請求項
1又は2記載の車両用熱媒体加熱装置。
【請求項4】
前記ヒーターケース保護部の容積は、前記一時貯留タンクの最低水量から熱媒体の循環経路に空気が入る状態になる前記一
時貯留タンクの水量までの差分容量より小さいことを特徴とする請求項
3記載の車両用熱媒体加熱装置。
【請求項5】
前記ヒーターケース保護部は、貯留された熱媒体を特定された方向に排出する排出孔を有することを特徴とする請求項
1又は2記載の車両用熱媒体加熱装置。
【請求項6】
前記ヒーター電力供給部のシール構造は、前記ヒーター電力供給部を囲む電力供給部カバーを備え、
前記電力供給部カバーと前記ヒーターケースの周縁部にシール部が形成されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項記載の車両用熱媒体加熱装置。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項記載の車両用熱媒体加熱装置によって加熱された熱媒体が循環する空調用熱交換器を備えた車両用空調装置。
【請求項8】
請求項
7に記載された車両用空調装置を備えた車両であって、
熱媒体の排水方向には、熱媒体との接触が問題になる部品が排除されていることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の熱媒体加熱装置及びこれを備えた車両用空気調和装置(空調装置)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の空気調和装置は、エンジン車、EV車、ハイブリッド車等に拘わらず、空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置を備えている。
【0003】
従来の熱媒体加熱装置は、熱媒体の流入口と流出口を有して内部に熱媒体の流通路が形成されたヒーターケースを備え、ヒーターケース内には、前述した熱媒体の流通路に沿ってヒーター(発熱体)が配置されている。また、ヒーターケース上には、ヒーターに供給される電力を制御する電子部品が実装された基板等が配備されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両用の電気機器において、フェールセーフという設計思想は不可欠であり、故障・誤操作・誤動作による障害が発生した場合に、最悪の事態が起きるのを避けるための対策が求められている。このような観点で、車両用の熱媒体加熱装置において起こりうる障害を想定してみると、起こる確率は極めて低いものの、車両事故などで制御系やセンサ(サーモ)が故障した場合などに起こりうるヒーターの暴走を想定しておく必要がある。
【0006】
ヒーターが暴走すると、熱媒体が異常高温になるので、熱媒体の流通路を形成しているヒータカバーの熱損や変形によって、熱媒体の密封性が確保できなくなることが想定される。このような場合に、最悪の事態は、液体である熱媒体がヒーターの給電系統に接触することであるが、ヒーターの給電系統が防水シールされていることを前提にすると、熱媒体の車両内漏洩を避ける又は制限する対策が必要になる。
【0007】
熱媒体の漏洩は、車両内の電子機器への悪影響が懸念されるが、熱媒体がクーラントの場合には、エンジンの冷却ができなくなるので、車両の走行に悪影響が及ぶことになる。このため、仮にヒーターが暴走するなどして、熱媒体が異常高温になった場合であっても、熱媒体の漏洩を抑止する或いは制限することが求められている。
【0008】
本発明は、このような事情に対処することを課題としており、フェールセーフの観点で、より安全性の高い車両用熱媒体加熱装置を提供すること、などを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明の車両用熱媒体加熱装置は、ヒーターと、前記ヒーターを収容して内部で熱媒体を加熱するヒーターケースと、前記ヒーターに電力供給を行うヒーター電力供給部とを備え、前記ヒーターケースには、前記ヒーター電力供給部のシール構造が設けられると共に、当該ヒーターケースを保護するヒーターケース保護部が設けられ、前記ヒーターケース保護部は、前記ヒーターケースよりも耐熱温度の高い部材で構成され、前記ヒーターケースとの間にシール構造が形成されている。
【0010】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーター電力供給部のシール構造が前記ヒーターケースの上側に配備され、前記ヒーターケース保護部は、前記ヒーターケースの下側に配備されている。
【0011】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーターケース保護部は、前記ヒーターケースから流出した熱媒体を貯留する容器である。
【0012】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーターケース保護部の容積が、熱媒体の循環経路に設けられる一時貯留タンクの容量より小さい。
【0013】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーターケース保護部の容積は、前記一時貯留タンクの最低水量から熱媒体の循環経路に空気が入る状態になる前記一貯留タンクの水量までの差分容量より小さい。
【0014】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーターケース保護部は、貯留された熱媒体を特定された方向に排出する排出孔を有している。
【0015】
また好適には、前述した車両用熱媒体加熱装置において、前記ヒーター電力供給部のシール構造は、前記ヒーター電力供給部を囲む電力供給部カバーを備え、前記電力供給部カバーと前記ヒーターケースの周縁部にシール部が形成されている。
【発明の効果】
【0016】
このような特徴を有する車両用熱媒体加熱装置によると、熱媒体が異常高温になった場合であっても、熱媒体の漏洩を抑止する或いは制限することができるので、フェールセーフの観点で、より安全性の高い車両用熱媒体加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用熱媒体加熱装置を示した分解斜視図。
【
図2】本発明の実施形態に係る車両用熱媒体加熱装置を示した断面図。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る車両用熱媒体加熱装置を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。図に示したX-Y-Zの方向は、X-Y方向が平面方向を示し、Z方向が鉛直方向を示している。
【0019】
ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0020】
更に、本明細書に添付する図面は、図示の理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現された場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係る熱媒体加熱装置1は、車両用空調装置における空調用熱交換器(ヒーターコア)を経由して循環する熱媒体を加熱するものであり、車両としては、エンジン車、EV車、ハイブリッド車などの何れであっても良い。この熱媒体加熱装置1は、エンジン車のように他に熱源を有する車両では、補助的な熱源として利用することができ、EV車のように熱源を持たない車両では、冷暖房における温度制御用の熱源として用いることができる。熱媒体加熱装置1が加熱する熱媒体は、クーラントに限らず、水、オイルなどが対象になる。
【0022】
図1~
図3に示すように、熱媒体加熱装置1は、ヒーター20と、ヒーター20を収容して内部で熱媒体を加熱するヒーターケース10と、ヒーター20に電力供給を行うヒーター電力供給部30と、ヒーターケース10を保護するヒーターケース保護部40とを備えている。
【0023】
図示の例では、ヒーター20は、一対の円筒状をなす第1発熱体21と第2発熱体22を備えており、ヒーターケース10は、第1収容凹部11aを有する上側ケース11と、第2収容凹部12aを有する下側ケース12とを備えおり、第1収容凹部11aと第2収容凹部12aとを合わせて形成された空間内に、第1発熱体21と第2発熱体22が収容されている。
【0024】
また、図示の例では、ヒーターケース10に流入部13と流出部14が設けられている。流入部13は、ヒーターケース10内に熱媒体を流入させる流入口13aを有しており、流出部14は、ヒーターケース10内で加熱された熱媒体を流出する流出口14aを有している。
【0025】
ヒーター20が収容されるヒーターケース10の内部には、ヒーター支持部16が設けられており、このヒーター支持部16に支持されたヒーター20(第1発熱体21,第2発熱体22)の外周面と、ヒーターケース10の内面との間の間隙が、熱媒体が流れる熱媒体流路15になっている。熱媒体流路15は、図示の例では、第1発熱体21の周囲に第1流通路15Aが形成され、第2発熱体22の周囲に第2流通路15Bが形成されていて、第1流通路15Aと第2流通路15Bは、流入部13と流出部14が設けられているヒーターケース10の端部とは逆側の端部で連通している。
【0026】
ヒーター電力供給部30は、ヒーター20の給電系を構成するものであり、電子部品31などが接続される基板33などを備えている。基板33には、給電端子35の配線が接続されると共に、ヒーター20への給電線などが接続されている。図示の例では、ヒーター電力供給部30における基板33は、ヒーターケース10上に配備されており、ヒーターケース10における上側ケース11は、基板33を支持する基板支持部17を備えている。また、図示の例では、ヒーターケース10の上側ケース11上には、電子部品31を冷却するヒートシンク32が設けられている。
【0027】
そして、ヒーターケース10には、ヒーター電力供給部30のシール構造が設けられている。図示の例では、上側ケース11の上にシール構造が形成されており、このシール構造は、上側ケース11の上に、ヒーター電力供給部30を囲む電力供給部カバー34を備えている。
【0028】
なお、ヒーター電力供給部30のシール構造は、このような例に限定されるものではない。他の例としては、上側ケース11とヒーター電力供給部30との間に、他のシール部材(Oリングや液ガスなど)を介在させたものや、ヒーター電力供給部30自体がシール材でモードされているようなものであっても構わない。
【0029】
ヒーターケース保護部40は、熱媒体の異常高温時に熱損したヒーターケース10やヒーターケース10から流れ出た熱媒体を捕捉するためのものであり、図示の例では、保護カバー41によって構成されている。保護カバー41(ヒーターケース保護部40)は、ヒーターケース10よりも耐熱温度の高い部材で構成されている。具体的には、ヒーターケース10が樹脂材で形成されている場合には、保護カバー41は、金属材(板金)などで形成される。
【0030】
また、保護カバー41は、通常使用時は、ヒーターケース10の一部を覆って2重構造を形成することで、断熱層として機能させることができる。このような機能を積極的に得るためには、保護カバー41は、耐熱性が高く且つ断熱性の高い材料(例えば、セラミック材など)を用いることが好ましい。このように、保護カバー41を断熱層として機能させることで、通常使用時の熱媒体加熱装置1の加熱性能を高めることができる。
【0031】
そして、電力供給部カバー34とヒーターケース保護部40の保護カバー41は、ヒーターケース10との間にシール構造を形成している。この際、図示の例では、ヒーター電力供給部30のシール構造である電力供給部カバー34は、ヒーターケース10の上側に配備され、ヒーターケース保護部40の保護カバー41は、ヒーターケース10の下側に配備されている。
【0032】
図4は、電力供給部カバー34と保護カバー41のシール部Tを示した拡大断面図である。シール部Tは、電力供給部カバー34と上側ケース11の周縁部に形成されていると共に、保護カバー41と下側ケース12の周縁部に形成されている。ヒーターケース10は、上側ケース11の周縁部11Tと下側ケース12の周縁部12Tをシール接合することで形成されているが、上側ケース11の周縁部11Tに対して、電力供給部カバー34の周縁部34Tをシール接合することで、ヒーター電力供給部30のシール構造が形成されている。また、下側ケース12の周縁部12Tに対して、保護カバー41の周縁部41Tをシール接合することで、ヒーターケース保護部40のシール構造が形成されている。
【0033】
ヒーターケース保護部40の保護カバー41は、熱媒体の異常高温時にヒーターケース10から流出した熱媒体を貯留する容器になっている。この容器に流出した熱媒体が貯留されることで、車両内への熱媒体の漏洩を抑止することができる。
【0034】
この際、熱媒体を貯留する容器として機能する保護カバー41の容積(保護カバー41とヒーターケース10とで形成される密封空間内の容積)は、車両のエンジン冷却を含めた熱媒体の循環経路に設けられる一時貯留タンク(リザーバータンク)の容量より小さくすることが好ましい。
【0035】
保護カバー41の容積を大きくし過ぎると、前述した一時貯留タンク内の熱媒体(クーラント)が空になるまで熱媒体を貯め込んでしまうため、熱媒体の循環経路に空気が溜まるリスクが生じる。このリスクを避けるには、保護カバー41の容積は、一時貯留タンクの最低水量から実際に熱媒体の循環経路に空気が入る状態になる一貯留タンクの水量までの差分容量より小さいことが好ましい。
【0036】
図5には、熱媒体加熱装置1の他の実施形態を示している。
図5に示した例では、ヒーターケース保護部40の保護カバー41が、貯留された熱媒体を特定された方向に排出する排出孔42を有している。この例では、熱媒体の異常高温時にヒーターケース10から流出した熱媒体が、保護カバー41をオーバーフローして無制限に拡散されるのを抑止しており、排出孔42から特定の方向に熱媒体を排出することで、車両内における濡れ被害を限定的に抑えることができる。この場合、車両内の部品レイアウトとしては、熱媒体の排水方向に対して、熱媒体との接触が問題になる部品が排除されていることが好ましい。
【0037】
以上説明したように、本発明の実施形態にかかる熱媒体加熱装置1は、熱媒体の異常高温時に、熱媒体がヒーター20の給電系に接触する事態を避けるシール構造を備えると共に、車両内への熱媒体の漏洩を抑止又は制限することができるので、フェールセーフの観点からより安全性を高めることができる。そして、このような熱媒体加熱装置1は、車内への空気流路に配備される空調用熱交換器(ヒーターコア)に熱媒体を循環させる車両用空調装置の熱源(あるいは補助熱源)として高い安全性で採用することができる。
【0038】
なお、前述した実施形態において、ヒーター20は、第1発熱体21と第2発熱体22の一対とし、ヒーター収容部には、第1発熱体21に対応する第1収容空間と、第2発熱体22に対応する第2収容空間が設けられる構成を説明したが、ヒーター20の数は特に限定されず、1つ以上であれば良い。よって、ヒーター収容部を構成する収容凹部の形成数や、収容凹部によって形成される収容空間の数は、ヒーター収容部内に収容される発熱体の数によって決定され、ヒーターケース10内の熱媒体流通路の形態も、個々の熱媒体に対応して形成される。
【0039】
また、前述した実施形態において、流入部13と流出部14は、ヒーターケース10の一端側に並設した形態で説明したが、これに限定されない。流入部13の設置箇所は、流入される熱媒体がヒーター20の外周面に向かって流入可能な位置にあれば良く、流出部14の設置箇所は、流出される熱媒体がヒーター20の外周面から外方に向かって流出可能な位置にあれば良い。
【符号の説明】
【0040】
1:熱媒体加熱装置,10:ヒーターケース,
11:上側ケース,11a:第1収容凹部,
12:下側ケース,12a:第2収容凹部,
13:流入部,13a:流入口,
14:流出部,14a:流出部,
15:熱媒体流通路,15A:第1流通路,15B:第2流通路,
16:ヒーター支持部,17:基板支持部,
20:ヒーター,21:第1発熱体,22:第2発熱体,
30:ヒーター電力供給部,
31:電子部品,32:ヒートシンク,33:基板,34:電力供給部カバー,
35:給電端子,40:ヒーターケース保護部,
41:保護カバー,42:排出孔,
T:シール部,11T,12T,34T,41T:周縁部