(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】熱反射部材及び熱反射層付きガラス部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20230901BHJP
C03B 33/08 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
C03B20/00 G
C03B20/00 E
C03B20/00 K
C03B33/08
(21)【出願番号】P 2019179740
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】山口 和宏
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】原田 義弘
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 智則
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531799(JP,A)
【文献】特開2004-67456(JP,A)
【文献】特開2008-63207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B20/00
C03B33/08-33/085
B23K26/00-26/70
B32B17/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材であり、
前記熱反射部材の端部の前記シリカ質焼結粉体層部分に、少なくとも該シリカ質焼結粉体層の1/2の厚みより厚い、気体又は液体を浸透しない非透過層と、
該非透過層と該シリカ質焼結粉体層の間に、非透過層から焼結体粉体層に向かって密度が変化する緩衝層と、を有することを特徴とする熱反射部材。
【請求項2】
前記シリカ質焼結粉体層を複数含み、前記シリカ質焼結粉体層及び前記石英ガラス層が交互に積層されてなり、
前記複数のシリカ質焼結粉体層の端部にはそれぞれ前記緩衝層と前記非透過層が形成され、前記シリカ質焼結粉体層が外部に露出しない構造であることを特徴とする請求項1記載の熱反射部材。
【請求項3】
前記複数のシリカ質焼結粉体層それぞれが、相互に異なる粒径分布の粉体から構成されることを特徴とする請求項2記載の熱反射部材。
【請求項4】
前記石英ガラス層の形状が平面、曲面又は円筒形状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の熱反射部材。
【請求項5】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造する工程と、
前記中間ガラス積層体を、レーザーで所定の形状に切り抜くと同時に切り抜き端部の焼結粉体層に非透過層と緩衝層を同時に生成し、熱反射層付きガラス部材を製造する工程と、
を含むことを特徴とする熱反射層付きガラス部材の製作方法。
【請求項6】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造する工程と、
前記中間ガラス積層体を所定の形状に切り抜く部位に沿って、切断しない程度のパワーのレーザー又はバーナー火炎にて外表面の石英ガラス層側から前記焼結粉体層を加熱し焼締めることにより緩衝層からなる又は緩衝層と非透過層からなる焼締め部位を形成せしめる工程と、
前記焼締め部位の形成位置をさらにレーザーにて切り抜くことにより、より強固な緩衝層と非透過層からなる端部構造を形成せしめ、熱反射層付きガラス部材を製造する工程と、
を含むことを特徴とする熱反射層付きガラス部材の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い反射率を有する熱反射部材及び熱反射層付きガラス部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気炉など高温雰囲気を必要とする場合、内部の熱を外部に逃がさないために、例えばアルミナ断熱材等の断熱素材で加熱雰囲気を覆うのが、一般的である。これらは、半導体工業で使用される熱処理炉であっても同様である。このような断熱材は、自らも熱を吸収することにより、高温雰囲気とその中の被処理物の保温、均熱性に寄与している。このため、電気炉の温度制御において、断熱材の保温性が、電気炉内で処理される製品の温度制御応答性を鈍くしていた。特に半導体工業の熱処理工程は、スループットをあげるために、熱を内部から逃がさずに、かつ、熱吸収の少ない(熱容量の小さい)断熱手段が必要となっている。
【0003】
従来、これらの対策のために、多数の微細気泡を有する、不透明石英ガラスの板や円筒リングなどが、遮熱手段として使用されているが、効果的な遮熱を行うためには、例えば炉入り口に、円盤状の当該不透明石英ガラス板を、何枚も並べて配置する必要があり、結果的に熱容量を大きくしてしまっている。このため、特に炉の内部からの熱線を遮蔽し、かつ効率よく反射し、熱容量の小さい(体積が小さい)、断熱手段が必要であった。
【0004】
このため、例えば石英ガラス板に金コートを行うものや、特許文献1にみられるような、シリカスラリーを塗布した反射層を利用するものが考案されている。しかしながら、例えば金など金属系の反射素材は性能が高いものの、特に半導体工業用などの金属不純物を嫌う用途では使用が困難であった。
【0005】
また、シリカスラリーなどを利用する方法は、高反射性能を得るためにはシリカ粒子同士が部分的に融着して塊となった粒塊構造が必要であるが、この構造は、粒子相互の接触面積が限られるので強度が不安定で、水分や薬液による洗浄でも溶けたり、剥離したりする問題や、多孔質である為、汚れが付着すると除去が難しかったりする問題が有り、高純度を要求する半導体工業用途では使用が難しかった。
【0006】
これらの解決のためさまざまな工夫がなされている。例えば、特許文献1では、スラリー由来の粉体の焼結体層の表面に透明なシリカ層を形成することが試みられた。これらの方法では、透明なシリカ層を形成するために、少なくともシリカが溶融または生成するための熱を加える必要があり、その際に反射層である粒塊層の粒子同士が融着し、反射性能が低下したり、透明層形成の際の体積の変化や、透明層と粒塊層の膨張収縮の差異による歪ができ、クラックなどの発生や破損に至ってしまったりするという加熱制御の難しさの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い反射率を維持しながら、製作時および使用時の高温環境でも破損せず、使用時にダスト発生がなく、薬液による洗浄が可能な熱反射部材、及び該熱反射部材として好適な熱反射層付きガラス部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の反射部材は、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材であり、前記熱反射部材の端部の前記シリカ質焼結粉体層部分に、少なくとも該シリカ質焼結粉体層の1/2の厚みより厚い、気体又は液体を浸透しない非透過層と、該非透過層と該シリカ質焼結粉体層の間に、非透過層から焼結粉体層に向かって密度が変化する緩衝層と、を有することを特徴とする。
【0010】
前記反射部材が、前記シリカ質焼結粉体層を複数含み、前記シリカ質焼結粉体層及び前記石英ガラス層が交互に積層されてなり、前記複数のシリカ質焼結粉体層の端部にはそれぞれ前記緩衝層と前記非透過層が形成され、前記シリカ質焼結粉体層が外部に露出しない構造とすることができる。
前記複数のシリカ質焼結粉体層それぞれが、相互に異なる粒径分布の粉体から構成されていても良い。
【0011】
前記石英ガラス層の形状が平面、曲面又は円筒形状であることが好適である。
【0012】
本発明の熱反射層付きガラス部材の製作方法の第一の態様は、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造する工程と、前記中間ガラス積層体を、レーザーで所定の形状に切り抜くと同時に切り抜き端部の焼結粉体層に非透過層と緩衝層を同時に生成し、熱反射層付きガラス部材を製造する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の熱反射層付きガラス部材の製作方法の第二の態様は、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造する工程と、前記中間ガラス積層体を所定の形状に切り抜く部位に沿って、切断しない程度のパワーのレーザー又はバーナー火炎にて外表面の石英ガラス層側から前記焼結粉体層を加熱し焼締めることにより緩衝層からなる又は緩衝層と非透過層からなる焼締め部位を形成せしめる工程と、前記焼締め部位の形成位置をさらにレーザーにて切り抜くことにより、より強固な緩衝層と非透過層からなる端部構造を形成せしめ、熱反射層付きガラス部材を製造する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い反射率を維持しながら、製作時および使用時の高温環境でも破損せず、使用時にダスト発生がなく、薬液による洗浄が可能な熱反射部材、及び該熱反射部材として好適な熱反射層付きガラス部材の製造方法を提供することができる。
【0015】
また、本発明方法によれば、熱線を遮蔽し、かつ効率よく反射し、熱容量の小さい(体積が小さい)、断熱(遮熱)に優れたシリカ質焼結粉体層を、石英ガラス層で挟み込む構造である中間ガラス積層体をレーザー加工により、緩衝層と非透過層を形成しながら、完全封止と共に、形状加工を同時に、容易に実現する事が出来る。
【0016】
本発明は、高い反射性能を有し、複数層でも形成できることから、幅広い、或いは、選択的な波長での反射率の向上が期待でき、耐久力が向上する事で、高温下で使用しても破損する事が無く、焼結粉体自体や粉体にトラップされた物質からのダストが出ない、HF洗浄等の薬液洗浄が可能となり、高純度用途に使用出来る熱反射層付きガラス部材を製作する事が出来る。
【0017】
また、本発明によれば、石英ガラス層に容易に熱反射層を挟みこんだ構造が、複数層でも実現する事が出来、レーザー加工により、緩衝層と非透過層を形成しながら、完全封止と共に、形状加工を同時に、容易に実現する事が出来、反射層面(シリカ質焼結粉体層)を、粒子間や石英ガラス層との融着を最小限に抑制する事で、反射性能を劣化させること無く製作出来、そういった反射層を複数層でも有する熱反射部材を製作する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の熱反射部材の第一の態様を示す概略模式図であり、(a)は、一部断面概略模式図であり、(b)は(a)のA部分の拡大図である。
【
図2】本発明の熱反射部材の第二の態様を示す概略模式図であり、(a)は、一部断面概略模式図であり、(b)は(a)のB部分の拡大図である。
【
図3】本発明の熱反射部材の第三の態様を示す概略模式図であり、(a)は、一部断面概略模式図であり、(b)は(a)のC部分の拡大図である。
【
図4】本発明の熱反射部材の使用方法の一例を示す概略説明図であり、(a)は側面図、(b)は斜視図、(c)は(b)のD部分の拡大図をそれぞれ示す。
【
図5】本発明の熱反射層付きガラス部材の製作方法に用いられる中間ガラス積層体の製造方法の一例を示す概略模式図である。
【
図6】実施例1の厚さ測定の測定点を示す平面図である。
【
図7】実施例1の結果を示す図であり、(a)は実施例1で得られた熱反射部材の外周部の断面写真を示し、(b)はその模式図を示す。
【
図8】実施例4で得られた熱反射部材の非透過層の幅の結果を示すグラフである。
【
図9】比較例1の石英ガラス板状部材の製造方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0020】
図1は、本発明の熱反射部材の第一の態様を示す概略模式図であり、
図1(a)は、本発明の熱反射部材10Aの一部断面概略模式図であり、
図1(b)は
図1(a)の熱反射部材10Aの符号Aで示した部分の拡大図である。
本発明の熱反射部材10Aは、シリカ質焼結粉体層12の上面及び下面に石英ガラス層18が形成されてなる積層構造を有する熱反射部材であり、前記熱反射部材の端部の前記シリカ質焼結粉体層12部分に、少なくとも該シリカ質焼結粉体層12の1/2の厚みより厚い、気体又は液体を浸透しない非透過層16と、該非透過層16と該シリカ質焼結粉体層12の間に、非透過層16から焼結粉体12層に向かって密度が変化する緩衝層14と、を有するものである。
【0021】
本発明の熱反射部材10Aにおいて、前記シリカ質焼結粉体層は熱反射材として作用する。前記シリカ質焼結粉体層12としては、不透明なシリカ質焼結粉体層が好ましく、白色不透明な不透明シリカ質焼結粉体層がより好ましく、実質的に光を透過せず、例えば波長400~2000nmにおける光の透過率が1%以下である不透明シリカ質焼結粉体層がさらに好ましい。
熱線は、一般に赤外の範囲が想定されるが、熱処理空間からのエネルギー漏洩を抑制するには、できるだけ可視域から赤外までの広範囲に高い反射能を有するほうが有利である。本発明の反射部材は、波長1000nm~2000nmにおける反射率が60%以上であることが好適である。また、特定波長に対する反射率の部材の面内分布が±5%以下であることが好適である。
【0022】
前記シリカ質焼結粉体層12は、明確な粒塊構造を成したものであれば良い。粒塊構造とは、シリカ粒子同士が部分的に融着して塊となった構造を言う。熱線の反射は空隙と粒子の界面にて発生する為、逆に適度に空隙があった方が熱線反射には好適であるが、あまりに空隙が大きいと、粒子間の融着部分が少なくなり、層としての強度が保てなくなり、層内で剥離したりする。また、空隙が少なく融着部分が多いと反射界面が減少し、熱の反射効率が低下する。粒子と空隙の体積比率は5:5~8:2の範囲が好適である。
【0023】
また、前記シリカ質焼結粉体層12のかさ密度が1.3~1.5g/cm3であることが好適である。
反射される波長は、粒塊の粒径等に依存するので、粒子の径も重要な要素となる。粒塊の50%が0.1~5μmの範囲に分布していることが好適である。
なお、シリカ質でなくても同様な効果は得られるが、高温で使用するには、それ自身が不純物とならず、かつ、熱膨張率が小さく、耐熱性も高いシリカが最も適している。
【0024】
前記シリカ質焼結粉体層12の厚さtは、100μm以上が好適であり、200μm~1000μmがより好適である。シリカ質焼結粉体層が薄いと、熱の反射効率は低下する。熱線の遮熱・断熱特性には、高い反射率がよい。金など金属系の反射素材や既存のシリカスラリーを用いた反射層、あるいは気泡を含有する不透明石英ガラスと同程度以上の反射率が効果的であり、反射率は60%を下回らないのがよく、80%以上がより好ましい。
【0025】
前記シリカ質焼結粉体層12の形成方法は特に制限はなく、公知の方法を使用することができるが、例えば、石英ガラス層18に、シリカガラス粒子及び水を含むスラリーを塗布し、乾燥したシリカ粉体層を加熱し、シリカ質焼結粉体層12を形成することが好適である。また、粉を吹き付けたり、直接粉を載せて層状にプレス成型してシリカ粉体層を形成し、加熱によりシリカ質焼結粉体層を形成してもよい。
【0026】
前記石英ガラス層18としては、シリカ質焼結粉体層12と熱膨張率が同じように小さい透明石英ガラス層が好ましい。気泡を多く含む不透明石英ガラスであると、熱反射層であるシリカ質焼結粉体層12に熱線が届かず、不透明石英ガラスで散乱されるおそれがある。
【0027】
また、当該シリカ質焼結粉体層12と石英ガラス層18の接着界面で、シリカ質焼結粉体層12を構成する粒塊中の粒子と石英ガラス層18の融着部が大きいと、粒塊側の粒子と空隙の間の界面が減少し、反射効率が落ちる。逆に融着部が少ないと、使用時に接着界面で両層が剥離してしまう危険がある。接着界面の面積の内、大よそ10%~50%程度が粒塊中の粒子と融着している事が好適である。
【0028】
石英ガラス層18の厚さは、シリカ質焼結粉体層12には空隙が必要なため、挟み込む石英ガラス層18で強度を保つ必要があるため、シリカ質焼結粉体層12より厚いことが好適である。
【0029】
図1では、円板状の石英ガラス層18の例を示したが、石英ガラス層18の形状及び本発明の熱反射部材10Aの形状に特に制限はなく、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成可能な形状であれば良い。石英ガラス層18の形状に応じて熱反射部材10Aが形成される為、必要に応じて、適宜、石英ガラス層18及び熱反射部材10Aの形状を選択すればよい。石英ガラス層18の形状としては、例えば、平面、曲面又は円筒形状が好適である。
図2に、円筒形状の石英ガラス層18を有する熱反射部材10Bの一例を示し、
図3に、曲面形状の石英ガラス層18を有する熱反射部材10Cの一例を示す。
【0030】
図4に、本発明の熱反射部材10を熱処理炉用の熱反射部材として用いた例を示す。
図4に示した如く、平面形状の熱反射部材10を用い、反応炉の上部又は下部に平面形状の熱反射部材10を置いて、ヒータ22からの熱を炉内にとどめることができる。また、
図4に示した如く、曲面又は円筒形状の熱反射部材10を用い、反応炉の周囲部に円周状に、分割或いは一体型で熱反射部材10を配して、ヒータ22からの熱を炉内にとどめることができる。
【0031】
前記熱反射部材10Aの端部に形成される前記非透過層16は、気体又は液体が浸透せず、シリカ質焼結粉体層12よりも密度が高く、強固な非透過層である。該非透過層16により、脆弱なシリカ質焼結粉体層12を挟み込む石英ガラス層18の端部から、当該シリカ質焼結粉体層12が剥離する事を防ぎ、また、その端部から、シリカ質焼結粉体層12への気体や液体の透過を防止することができる。
前記非透過層16としては、気体又は液体が浸透するような空隙がない層が好適である。
【0032】
前記熱反射部材10Aは、該非透過層16と該シリカ質焼結粉体層12の間に、非透過層16から焼結粉体層12に向かって密度が変化する緩衝層14を有する。
シリカ質焼結粉体層12には多くの空隙を含むため、端部を非透過層16で覆った場合、粉体層12の空隙に残留する気体の膨張や、粉体表面に吸着した成分の気化により、石英ガラス層18と非透過層16で囲まれたシリカ質焼結粉体層12の内圧が上がる可能性がある。そうなると端部の非透過層16とシリカ質焼結粉体層12、および石英ガラス層18の接合部に、応力が集中し、クラッキングや破損を発生するリスクとなる。
【0033】
またシリカ質焼結粉体層12自身が、石英ガラス層18に比較して、外部からの熱による収縮や膨張などの体積変化を起こしやすい。これらはすべて、端部の非透過層16と焼結粉体層12、および石英ガラス層18の接合部に、応力として集中し、クラッキングや破損を発生するリスクとなる。
【0034】
このため、本発明では密度の高い非透過層16と密度の低い焼結粉体層12の間に、非透過層16から粉体層12へ向かって密度傾斜のある緩衝層14を設けるものである。具体的には、焼結粉体層12から非透過層16に向かって泡の数が減少する緩衝層14が好適である。この緩衝層14によって、端部への応力の集中を避け、破損リスクをなくすことが可能となる。
【0035】
前記非透過層16の厚み(幅W1)は、各層を結合する強度と非透過性を維持するため、シリカ質焼結粉体層12の厚みtの50%以上は必要である。その場合、緩衝層14の厚さ(幅W2)は焼結粉体層12の厚みtの10%以上あることが望ましい。もし、非透過層16の厚みが不足して、粉体層12に液体や気体が進入した状態で加熱されると、急激な内圧の高まりで、板状態は破壊されるので注意が必要である。
【0036】
本発明の熱反射部材は、シリカ質焼結粉体層12を1層以上含むものであり、シリカ質焼結粉体層12を複数層含み、シリカ質焼結粉体層12及び石英ガラス層18が交互に積層されていてもよい。シリカ質焼結粉体層12を複数層含む場合は、それぞれのシリカ質焼結粉体層12は同一でもよく、異なっていてもよい。反射波長はシリカ質焼結粉体層中の粒径に依存する為、異なった粒塊の粒径分布を持った層を複数配置することにより、効率よく、広範囲の反射が可能となる。
【0037】
本発明の熱反射部材を製造する方法は特に制限はないが、シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体を製造した後、レーザー等で所定の形状に切り抜き、シリカ質焼結粉体層12の端部に緩衝層14と非透過層16が形成された熱反射部材を製造することが好適である。緩衝層14及び非透過層16の形成は、切断と同時でも良く、予め緩衝層14や非透過層16を形成した後、切断しても良い。
【0038】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体は、レーザー等で溶断することにより、所定の形状に切り抜くことができるが、このときレーザービームの移動を適度な速度とすることにより、レーザーで所定の形状に切り抜くと同時に切り抜き端部の焼結粉体層に非透過層と緩衝層を同時に生成することができる。レーザービームの移動速度は、使用するレーザーの出力等に応じて、適宜、適切な移動速度を選択することが好適である。
【0039】
レーザービームの熱で、シリカ質焼結粉体層の一部が焼き締め、および部分融解していくが、そのプロセスで、焼結粉体層の融解が進み、溶断された部分近傍に非透過層が形成される。この一部の焼締められた焼結粉体層から部分融解した部分が、焼締められていない焼結粉体層と、非透過層の間の、適度に密度が傾斜した緩衝層となる。
この方法によって、積層された、異なる密度の石英ガラス層とシリカ質焼結粉体層の端部に、強固で気密性の高い非透過層と緩衝層を有する、熱反射部材が容易に製造できる。
【0040】
予め緩衝層14や非透過層16を形成した後、切断する方法としては、例えば、切り抜きに先立って、前記中間ガラス積層体の端部の切り抜き予定の位置に、切断しない程度のパワーの弱いレーザーの熱や弱いバーナー火炎により、外表面の石英ガラス層側から前記焼結粉体層を加熱し焼締めることにより緩衝層からなる焼締め部位又は緩衝層と非透過層からなる焼締め部位を形成せしめ、その後、強いレーザーで当該部分を切り抜くことにより、より強固な緩衝層と非透過層からなる端部構造を形成せしめ、シリカ質焼結粉体層12の端部に緩衝層14と非透過層16が形成された熱反射部材を製造することができる。
【0041】
緩衝層又は緩衝層と非透過層を形成するステップと、当該部分を切り抜くステップを2段階で行うことにより、それぞれのステップでの位置の設定や投入熱量の設定の組合せの自由度が上がる。また、この予備的熱処理で、発生する水蒸気等のガスが段階的に抜ける為か、焼結粉体層の端部の密度が上がり、引き続く端部切抜き用の高強度のレーザー照射の際の体積変化が小さく済む為か、レーザーによる切り抜き作業後の歪による破損が起こり難いという利点もある。
【0042】
切断に用いられるレーザーは、特に制限はないが、例えば、炭酸ガスレーザー等が好適である。
【0043】
シリカ質焼結粉体層の上面及び下面に石英ガラス層が形成されてなる積層構造を有する中間ガラス積層体の製造方法は特に制限はないが、シリカ粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が形成されてなる積層構造を有する中間積層体を形成した後、該中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層をシリカ質焼結粉体層とすると共に前記中間積層体を一体化し、中間ガラス積層体を形成することが好適である。また、予め石英ガラス層上にシリカ質焼結粉体層を形成した後、シリカ質焼結粉体層上に別の石英ガラス層を形成し、焼成することにより、両者を貼り合わせ、中間ガラス積層体を作製してもよい。
【0044】
図5は、中間ガラス積層体の製造方法の一例を示す概略模式図である。
前述のシリカ粉体層の上面及び下面に石英ガラス部材が形成されてなる積層構造を有する中間積層体の製造方法としては、例えば、
図5に示した如く、シリカガラス粒子26及び水28を含むスラリー30を、第一の石英ガラス部材32aの表面に塗布し[
図5(a)]、塗布膜34を形成する工程と[
図5(b)]、該塗布膜34を乾燥させ、シリカ粉体層36とする工程と、前記第一の石英ガラス部材32a上のシリカ粉体層36に、第二の石英ガラス部材32bを載せ[
図5(c)]、中間積層体を形成する工程と、を含むことが好適である。該中間積層体を加熱することにより、前記シリカ粉体層36をシリカ質焼結粉体層12とすると共に前記中間積層体を一体化し、中間ガラス積層体38を形成することができる[
図5(d)]。
図5において、符号39は、スラリー30を含む容器である。
【0045】
前記スラリーに用いられるシリカガラス粒子としては、公知のシリカガラス粒子を用いることができるが、平均粒子径が0.1~5μmのシリカガラス粒子が好適である。また、水溶液において熱的要因によるゲル化可能な有機物バインダを添加してもよい。スラリー中のシリカガラス粒子の含有量は特に制限はないが、50~80質量%が好適である。
【0046】
前記石英ガラス部材としては、公知の石英ガラス製の部材を用いることができ、特に制限はないが、透明石英ガラス部材が好適である。前記透明石英ガラス部材としては、無色透明な石英ガラス部材が好ましく、厚さ2mm、波長400~2000nmにおける光の透過率が80%以上である無色透明な石英ガラス部材がより好ましい。
また、石英ガラス部材の形状等も特に制限はないが、例えば、板状、円板状、半球状、円筒形状等の厚みが均一な部材が好適である。
【0047】
石英ガラス部材の厚みは、強度の点からシリカ粉体層よりも厚いことが好ましく、具体的には、0.5mm以上が好ましい。石英ガラス部材の厚みの上限値は特に制限はないが、加工等の点から10mm以下が実用的である。
また、シリカ粉体層と接する石英ガラス部材の表面は、平面度0.1mm以下であることが好適である。平面度は、平坦な定盤の上に測定する材料を載せ、レーザー変位計で測定することができる。
【0048】
前記スラリーの塗布方法としては、石英ガラス部材の表面に塗布可能であれば特に制限はないが、スクレイバー等を用いて、スクレイピング法により平坦な塗布膜を形成することが好適である。本願明細書において、平坦に塗布とは、塗布厚の分布の小さい塗布を意味する。具体的には、塗布膜を乾燥させたシリカ粉体層の厚さの分布を0.1mm(±0.05)以内になるように、平坦な塗布膜を形成することが好適である。平坦な塗布膜を形成することにより、平坦なシリカ粉体層を形成することができ、石英ガラス層との密着性が向上し、加熱による一体化が容易となる。乾燥後の塗布膜は、平面度0.1mm以下のシリカ粉体層であることが好適である。シリカ粉体層の平面度は、シリカ粉体層の高さの面内分布から求めることができる。
【0049】
スラリーの塗布膜を乾燥させてシリカ粉体層とすることにより、以後の工程で扱いやすくなる為、スラリー中の水分を十分に乾燥させることが好適である。
前記塗布膜の乾燥方法は特に制限はないが、例えば、乾燥用の加熱炉内で行ってもよい。乾燥温度はシリカ粉体層のシリカガラス粒子が固定される温度より低いのが望ましく、具体的には、乾燥温度は常温(5~35℃)~100℃程度が好ましい。
【0050】
前記乾燥後のシリカ粉体層に、第二の石英ガラス部材を載せ、中間積層体を形成する。
【0051】
前記中間積層体を加熱する工程において、加熱温度が低温すぎると、粒子が固定されずに剥がれ易くなり、加熱温度が高温すぎると、シリカ質焼結粉体層のかさ密度が高くなり、焼結度合が進んで部分的に透明化し、反射率が低下するため、加熱温度は800~1350℃が好適であり、1100~1300℃がより好適である。加熱雰囲気は特に制限はないが、大気雰囲気が好ましい。
【0052】
また、中間積層体の加熱の際により強固に貼り合せるため、重り(押し圧)を利用しても良く、1cm2あたり1g以上の重り(押し圧)を使用することが好適である。
【0053】
得られるシリカ質焼結粉体層のかさ密度が1.3~1.5g/cm3であることが好ましい。
前記シリカ質焼結粉体層の厚さは0.1mm以上が好ましく、200μm~1000μmがより好ましい。シリカ質焼結粉体層が厚過ぎると、加熱により、シリカ粉体層の粒子が固定されたシリカ質焼結粉体層とし、同時にシリカ粉体層と石英ガラス部材を一体化する工程において、シリカ粉体層の焼結時の収縮量が、石英ガラス部材に対して大きくなり、一体化できず、剥がれたり、シリカ質焼結粉体層にクラック(ひび割れ)が発生し易くなる。また、シリカ質焼結粉体層の膜厚の分布が±0.05mm以下であることが好ましい。
【0054】
なお、本発明の熱反射部材において、シリカ質焼結粉体層は1層でもよく、複数層含んでいてもよい。
シリカ質焼結粉体層を複数層含む熱反射部材の製造方法としては、例えば、前述の中間積層体を形成する工程において、前記第二の石英ガラス部材として、乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材を用い、第一の石英ガラス部材上のシリカ粉体層と、前記第二の石英ガラス部材上のシリカ粉体層を合わせる形で中間積層体を形成する方法や、乾燥したシリカ粉体層が形成された第一の石英ガラス部材を複数用い、且つ前記第二の石英ガラス部材として、乾燥したシリカ粉体層を有しない石英ガラス部材を用い、前記複数の第一の石英ガラス部材をシリカ粉体層同士が接しない形で積層し、且つ最上部の前記第一の石英ガラス部材の前記シリカ粉体層上に、前記第二の石英ガラス部材を配置して、中間積層体を形成する方法、第二の石英ガラス部材の上部にさらに乾燥したシリカ粉体層が形成された石英ガラス部材をシリカ粉体層が第二の石英ガラス部材に接するように積層し、中間積層体を形成する方法等が挙げられる。シリカ質焼結粉体層を複数層含む場合、それぞれのシリカ質焼結粉体層は同一でもよく、異なっていても良い。例えば、シリカガラス粒子の粒径分布が異なる複数のシリカ質焼結粉体層を含んでいても良い。
【0055】
また、予め石英ガラス層の表面に形成するシリカ粉体層は、焼結粉体層の形状が維持できる程度の弱い焼結の程度にとどめ、重ねあわせの際、または、その後、より温度を上げて完全に焼結させて、貼り合わせ側の石英ガラス板と貼り合わせ、一体化しても良い。
さらにシリカ粉体層を形成した石英ガラス部材同士を、粉体層同士で合わせる形で張り合わせることも有用である。
【0056】
前記方法により、剥がれやクラック、変形等が生じず、シリカ質焼結粉体層と石英ガラス層の間に、両者の中間の透明度を有する半透明な部分が実質ない、石英ガラス層の境目まで反射率の良いシリカ質焼結粉体層を含む積層構造を容易に製造することができる。
【0057】
また、上記方法により、優れた強度を有する熱反射部材を形成することができる。本発明の熱反射部材は、前記積層構造の上面及び下面の石英ガラス層に、積層構造と平行な方向で荷重をかけた時、破壊する荷重が1cm2あたり5N以上であることが好ましく、20N以上であることがより好ましい。
【0058】
本発明の熱反射部材は、半導体工業用の熱処理工程において、ダスト発生や金属不純物が少なく、温度即応性を求められる高温熱処理炉用の断熱手段に好適に使用される。
図4は、本発明の熱反射部材の使用方法の一例を示す概略説明図である。
図4(a)によく示される如く、チャンバ20内に本発明の熱反射部材10(円板形状や円筒形状等)を設置することにより、チャンバ20に設置されるヒータ22の熱を反射し、熱効率を高めることができる。また。
図4(b)によく示される如く、円筒チャンバの円筒体部分を本発明の熱反射部材10(円筒形状)とし、チャンバ内からの放熱をこの熱反射部材10により抑制し、効率的にウェハ24を加熱する加熱治具として用いることが好適である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0060】
(実施例1)
図5に示す方法により、中間ガラス積層体を製造した後、レーザー加工を行い、
図1に示されるような円板状の熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を製造した。
【0061】
まず、外径300mm、板厚3mmの透明石英ガラス円板32aと外径280mm、板厚1.5mmの透明石英ガラス円板32bとを準備した。また、平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子26を60%、メチルセルロース1%となるように純水28中で混合したシリカスラリー30を作成した。
【0062】
前記シリカスラリー30を、前述の外径300mm、板厚3.0mmの透明石英ガラス円板32aの片面に平坦に塗布し、室温(23℃)で5時間以上乾燥し、シリカ粉体層36を0.4mmの膜厚で形成した。その透明石英ガラス板32aのシリカ粉体層36側に、前述の外径280mm、板厚1.5mmの透明石英ガラス円板32bを乗せ、5g/cm2の荷重を掛けながら、大気雰囲気炉にて、1100℃×3時間で加熱し、シリカ質焼結粉体層12(平均0.4mm厚)を有した板状部材(中間ガラス積層体)38を形成した。
【0063】
前記得られた中間ガラス積層体38に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて外周の切断加工を行い、シリカ質焼結粉体層12を有し且つ外周部に非透過層16及び緩衝層14を有する、外径250mm、板厚4.9mmの熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)10Aを形成した。
【0064】
得られた石英ガラス板状部材10Aについて、下記測定を行った。
<1.浸漬試験>
得られた板状部材10Aを水に1時間浸漬し、水の浸漬状況を目視にて確認した。
実施例1で得られた石英ガラス板状部材10Aは、非透過層12により水が浸透せず、シリカ質焼結粉体層12への液浸は確認されなかった。
【0065】
<2.各層の厚さ又は幅測定試験>
得られた板状部材10A中のシリカ質焼結粉体層12の厚さt、非透過層の幅W
1及び緩衝層の幅W
2の測定点を
図6に示す。
図6に示した如く、測定点は、円板中心(S1)1点と、レーザー加工を行った外周部の90°毎の4点(S2)、及び中心と外周の中間点の90°毎の4点(S3)の計9点で行った。測定用サンプルを幅5mmで切出し、断面を顕微鏡又はマイクロスコープで拡大観察して膜厚計測し、平均値を算出した。また、外周部の測定用サンプルの断面を、マイクロスコープを用いて観察し、非透過層の幅W
1及び緩衝層の幅W
2を測定し、平均値を算出した。
実施例1で得られた板状部材10Aのシリカ質焼結粉体層の厚さtは、平均400μm(最小値375μm、最大値420μm)であった。また、レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層:平均291μmと、非透過層から焼結粉体層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層:平均約60μmが確認された。実施例1で得られた熱反射部材の外周部の断面写真を
図7(a)に示し、その模式図を
図7(b)に示す。
【0066】
<高温環境での耐久試験>
得られた板状部材に対して、1,100℃に加熱し1時間保持した後、室温(23℃)まで冷却した。これを10回繰り返す耐久試験を行った所、破損や剥がれ、クラックは発生しなかった。
【0067】
<反射率測定>
得られた板状部材に対し、反射率測定用サンプルを切出し、反射率を測定した。
反射率の測定は、得られた板状部材に対し、前記シリカ質焼結粉体層の厚さ測定の測定点と同じ位置からサンプリングして反射率測定用サンプルを切り出した。測定器LAMBDA950(パーキンエルマー社製)に積分球を取り付けて反射率を測定した。反射率測定にはスペクトラロン反射材(ラブスフェア社製)を標準反射材として使用し、相対反射率を測定した。以下の反射率測定も同様の方法で行っている。
その結果、波長2000nmでの反射率は78~83%であり、波長1000~2000nmにおける反射率は78%を下回らなかった。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。
得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工を行う前に、レーザー加工を行う外径250mmの位置を、酸水素バーナーの火炎にて、予備的に加熱を行った。予備加熱は、シリカ質焼結粉体層が若干透明化する程度の加熱であった。その板状部材に対して、レーザー加工機で、出力500(W)、送り速度140(mm/分)の条件で切断加工を行い、外径250mm、板厚4.9mmのシリカ粉体焼結層を有した熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を形成した。
【0069】
得られた板状部材に対し、実施例1と同様の方法により各測定を行った。
浸漬試験では、シリカ質焼結粉体層への浸透は確認されなかった。
各層の厚さ測定では、シリカ質焼結粉体層の厚さは平均400μm、レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層:平均310μm、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層:平均約80μmが確認された。
高温環境での耐久試験では、破損や剥がれ、クラックは発生しなかった。
反射率測定では、波長1000~2000nmにおける反射率は、78%を下回らなかった。
【0070】
(実施例3)
実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。
得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工を行う前に、レーザー加工を行おうとする位置を、レーザー出力50(W)、送り速度300(mm/分)にて走行し、レーザー出力による予備的加熱を行った。
次いで、その板状部材の外周部に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて切断加工を行い、外径250mm、板厚4.9mmのシリカ粉体焼結層を有した熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を形成した。
【0071】
得られた板状部材に対し、実施例1と同様の方法により各測定を行った。
浸漬試験では、シリカ質焼結粉体層への浸透は確認されなかった。
各層の厚さ測定では、シリカ質焼結粉体層の厚さは平均400μm、レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層:平均360μm、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層:平均約90μmが確認された。
高温環境での耐久試験では、破損や剥がれ、クラックは発生しなかった。
反射率測定では、波長1000~2000nmにおける反射率は、78%を下回らなかった。
【0072】
(実施例4)
実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。
得られた中間ガラス積層体の外周部に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)より出力の大きい800(W)、1000(W)、送り速度140(mm/分)、100(mm/分)、50(mm/分)と、それぞれレーザー切断加工を行い、外径250mm、板厚4.9mmのシリカ質粉体焼結層を有した熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を形成した。
【0073】
得られた板状部材に対し、実施例1と同様の方法により各測定を行った。
浸漬試験では、シリカ質焼結粉体層への液浸は確認されなかった。
各層の厚さ測定では、シリカ質焼結粉体層の厚さは平均400μm、レーザー加工を行った外周部に、液体や気体が浸透しない非透過層と、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層が確認された。各レーザー加工条件における非透過層の幅(平均値)の結果を表1及び
図8に示す。
【0074】
【0075】
(実施例5)
外径300mm、板厚3mmの第一の透明石英ガラス円板と、外径280mm、板厚1.5mmの第二の透明石英ガラス円板と、外径270mm、板厚1.5mmの第三の透明石英ガラス円板を準備した。平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子60%、メチルセルロース1%となるように純水中で混合したシリカスラリーを作成した。
【0076】
シリカスラリーを、前述の外径300mm、板厚3.0mmの第一の透明石英ガラス円板の片面に平坦に塗布し、室温(23℃)で5時間以上乾燥しシリカ粉体層を0.2mmの膜厚で形成した。
同様の方法で、シリカスラリーを、前述の外径280mm、板厚1.5mmの第二の透明石英ガラス円板の片面に平坦に塗布し、室温で5時間以上乾燥し、シリカ粉体層を0.2mmの膜厚で形成した。
前述の外径300mmの第一の透明石英ガラス円板のシリカ粉体層に、前述の外径280mmの第二の透明石英ガラス円板のシリカ粉体層の無い面を重ね合せ、さらに該第二の透明石英ガラス円板のシリカ粉体層に、前述の外径270mmの第三の透明石英ガラス円板を重ね合せ、5g/cm2の荷重を掛けながら、大気雰囲気炉にて、1100℃×3時間で加熱し、シリカ質焼結粉体層(平均0.2mm厚)を2層有した板状部材(中間ガラス積層体)を形成する。
【0077】
前記得られた中間ガラス積層体の外周部に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて切断加工を行い、外径250mm、板厚6.4mmのシリカ質粉体焼結層を有した熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を形成した。
【0078】
得られた板状部材に対し、実施例1と同様の方法により各測定を行った。
浸漬試験では、シリカ質焼結粉体層への浸透は確認されなかった。
各層の厚さ測定では、シリカ質焼結粉体層の1層の厚さはそれぞれ平均200μm、レーザー加工を行った外周部の2層あるシリカ質焼結粉体層の各外周に、それぞれ、液体や気体が浸透しない非透過層:平均290μm、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層:平均約60μmが確認された。
高温環境での耐久試験では、破損や剥がれ、クラックは発生しなかった。
反射率測定では、波長2000nmにおける赤外線反射率は、シリカ質焼結粉体層0.4mm厚1層(実施例1)に比べ、5%大きかった
【0079】
(実施例6)
外径300mm、板厚3mmの第一の透明石英ガラス円板と、外径280mm、板厚1.5mmの第二の透明石英ガラス円板と、外径270mm、板厚1.5mmの第三の透明石英ガラス円板を準備した。
平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子60%、メチルセルロース1%となるように純水中で混合した第一のシリカスラリーを作成した。また、平均粒径1.0μmの合成シリカガラス粒子60%、メチルセルロース1%となるように純水中で混合した第二のシリカスラリーを作成した。
【0080】
前記第一のシリカスラリーを、外径300mm、板厚3.0mmの第一の透明石英ガラス円板の片面に平坦に塗布し、室温(23℃)で5時間以上乾燥しシリカ粉体層を0.2mmの膜厚で形成した。
同様の方法で、第二のシリカスラリーを、外径280mm、板厚1.5mmの第二の透明石英ガラス円板の片面に平坦に塗布し、室温で5時間以上乾燥し、シリカ粉体層を0.2mmの膜厚で形成した。
外径300mmの第一の透明石英ガラス円板のシリカ粉体層に、外径280mmの第二の透明シリカガラス円板のシリカ粉体層の無い面を重ね合せ、さらに、該第二の透明石英ガラス円板のシリカ粉体層に、外径270mmの第三の透明石英ガラス円板を重ね合せ、5g/cm2の荷重を掛けながら、大気雰囲気炉にて、1100℃×3時間で加熱し、シリカ質焼結粉体層(平均0.2mm厚)を2層有した板状部材(中間ガラス積層体)を形成する。
【0081】
前記得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工機にて、出力500(W)、送り速度140(mm/分)にて切断加工を行い、外径250mm、板厚6.4mmのシリカ質粉体焼結層を有した熱反射層付き石英ガラス板状部材(本発明の熱反射部材)を形成した。
【0082】
得られた板状部材に対し、実施例1と同様の方法により各測定を行った。
浸漬試験では、シリカ質焼結粉体層への浸透は確認されなかった。
各層の厚さ測定では、シリカ質焼結粉体層の1層の厚さはそれぞれ平均200μm、レーザー加工を行った外周部の2層あるシリカ質焼結粉体層の各外周に、それぞれ、液体や気体が浸透しない非透過層:平均290μm、非透過層から焼結層に向かって徐々に密度が変化する緩衝層:平均約60μmが確認された。
高温環境での耐久試験では、破損や剥がれ、クラックは発生しなかった。
反射率測定では、波長2000nmにおける赤外線反射率はシリカ質焼結粉体薄膜層0.4mm厚1層(実施例1)に比べ、8%大きかった。
【0083】
(比較例1)
図9に示す方法により、シリカ質焼結粉体層を有する石英ガラス板状部材の製造を試みた。外径250mm、板厚3mmの透明石英ガラス円板(40a,40b)を2枚準備した。
図9(a)に示す如く、1枚目の透明石英ガラス円板40aの片面に、直径240mm×深さ0.4mmのザグリ加工と、周囲径方向4.5mm、高さ方向2mmの面取りを施し、面取り部42を形成した。
図9(b)に示す如く、2枚目の透明石英ガラス円板40bの片面に、周囲径方向4.5mm、高さ方向2mmの面取りを施し、面取り部42を形成した。
【0084】
平均粒径1.5μmの合成シリカガラス粒子60%、メチルセルロース1%となるように純水中で混合したシリカスラリーを作成した。
【0085】
ザグリ加工した透明石英ガラス円板40aのザグリ面側の凹部に、前述したシリカスラリーを平坦に塗布し、室温で5時間以上乾燥し、シリカ粉体層を平均0.4mmの膜厚で形成した。
前記シリカ粉体層を片面に形成した透明石英ガラス円板40aを、大気雰囲気炉にて、1100℃×3時間で加熱し、ガラス円板の片面にシリカ質焼結粉体層44(平均0.4mm厚)を有した板状部材を形成した。
【0086】
図9(b)に示した如く、前記得られた板状部材40aの上に、前記面取りした透明石英ガラス円板40bを載せた後、
図9(c)に示した如く、両者の周囲を一体化し封止する為に、板状部材の外周のくさび状開口部を、石英ガラス製溶接棒を用いて肉盛り溶接した。全周の溶接終了後、電気炉での歪取りアニールを行い、シリカ質焼結粉体層44を有する石英ガラス板状部材50の製造を行った。
図9(d)は、
図9(c)のE部分の拡大図である。
図9において、符号46は肉盛溶接部を示し、符号48はアンダーカット部を示す。
【0087】
上述した一連の製造作業を3例実施したが、1例目と2例目では、加熱加工による歪みの影響により、約3/4周程度溶接したところで破損し、3例目では、歪取りアニール後の観察で、溶接部に大きなクラックが発見された。
さらに、3例目で得られた石英ガラス板状部材に対し、実施例1と同様の耐久試験を行った所、部材の破損が確認された。耐久試験で破損した部材の破損しなかった部分を歪検査器で観察したところ、アンダーカット部48に歪みが確認され、応力集中が認められた。
【0088】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。
得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工によって形成される非透過層の幅を更に大きくする事を目的として、その中間ガラス積層体の外周部を酸水素バーナの火炎により加熱加工を行った。
加熱加工による歪みの影響により、3/4周程度焼いたところで破損した。
【0089】
(比較例3)
実施例1と同様の方法により、中間ガラス積層体を形成した。
得られた中間ガラス積層体に対して、レーザー加工によって形成される非透過層の幅を更に大きくする事を目的として、その外周側面を「ガラスの肉盛り溶接」する事を試みたが、溶接加工中1/2周したところで破損した。
【符号の説明】
【0090】
10,10A,10B,10C:熱反射部材、12、44:シリカ質焼結粉体層、14:緩衝層、16:非透過層、18,40a,40b:石英ガラス部材、20:チャンバ、22:ヒータ、24:ウェハ、26:シリカガラス粒子、28:水、30:スラリー、34:塗布膜、36:シリカ粉体層、38:中間ガラス積層体、39:容器、42:面取り部、46:肉盛溶接部、48:アンダーカット部、50:石英ガラス板状部材、S1,S2,S3:測定点、t:シリカ質焼結粉体層の厚み、W1:非透過層の幅、W2:緩衝層の幅。