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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-31
(45)【発行日】2023-09-08
(54)【発明の名称】車両開閉体の開閉装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/63 20150101AFI20230901BHJP
   E05F 11/54 20060101ALI20230901BHJP
【FI】
E05F15/63
E05F11/54 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019192351
(22)【出願日】2019-10-22
(65)【公開番号】P2021067064
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000138462
【氏名又は名称】株式会社ユーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】堂本 真史
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184740(JP,A)
【文献】特開2016-089456(JP,A)
【文献】特開2003-301661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0017311(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の開口部を開閉する車体開閉体を開閉駆動する開閉駆動部と、
前記開閉駆動部の回転数を検出する回転センサと、
前記回転センサからの入力信号に基づいて得られる前記開閉駆動部の回転数から、前記車体開閉体の開閉駆動位置を検出する位置検出部と、
前記回転センサからの入力信号に基づいて前記開閉駆動部の回転速度を検出する速度検出部と、
前記開閉駆動部を制御する開閉制御部と
を備え、
前記開閉制御部は、
前記車体開閉体が第1開閉位置から第2開閉位置に移動するまでの前記開閉駆動部の目標速度を設定し、前記目標速度は、前記第1開閉位置から始まる加速域と、前記加速域に続く定速域とを備える、目標速度設定部と、
前記位置検出部で検出された前記車体開閉体の開閉位置における前記速度検出部で検出された前記開閉駆動部の回転速度を、前記目標速度設定部に設定された前記目標速度に追従させるフィードバック制御における、前記開閉駆動部に供給されるパルス幅変調信号のデューティ比を算出する第1デューティ比算出部と、
前記車体開閉体の開閉位置毎に設定された、前記デューティ比に対するオフセット値を記憶し、前記オフセット値は前記第1開閉位置から前記加速域の終了位置に向かって減少するように設定されている、オフセット値算出部と、
第1デューティ比算出部で算出された前記デューティ比に前記オフセット値算出部で算出された前記オフセット値を加算した補正デューティ比を算出する第2デューティ比算出部と、
前記補正デューティ比を前記開閉駆動部に出力するデューティ比出力部と
を備える、車両開閉体の開閉装置。
【請求項2】
前記オフセット値は、前記加速域の終了位置よりも前記第1開閉位置側で零になるように設定されている、請求項1に記載の車両開閉体の開閉装置。
【請求項3】
前記オフセット値初期値は前記第1開閉位置に応じて異なる、請求項1又は2に記載の開閉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両開閉体の開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の開口部を開閉する車両開閉体を開閉駆動するための開閉駆動部(動力源として電動モータを備える)に対して、目標速度と入力速度の差分に基づいて、フィードバック制御を行うことが知られている。より具体的には、環境温度、路面傾斜、車両開閉体の開度によるトルク変動があった場合でも車両開閉体を既定の速度で動作させるために、PID制御等のフィードバック制御により速度制御を行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、PID制御は、比例(P)・積分(I)・微分(D)制御(これらの3つの要素(P,I,D)によって行う制御)である。一方、これら3つの要素のうちの1つ、又は2つの要素の組み合わせによる制御については、以下では、例えば、比例制御(P制御)、比例・微分制御(PD制御)、比例・積分制御(PI制御)と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-089456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両開閉体がバックドアである場合、環境温度、路面傾斜、車両開閉体の開度によるトルク変動があった場合でも開閉駆動部に対してフィードバック制御を行い、開閉駆動部に出力するPWM信号のデューティ比を調整することにより、車両開閉体を既定の速度で動作させることが可能である。しかし、1種類のみの比例ゲイン、積分ゲイン、及び微分ゲインを使用し、定速域における振動を抑制するように、これらのゲインを調節した場合、バックドアの開閉開始時、つまり電動モータ始動時には、電動モータのコギングトルク、バックドアの開閉動作による反力等の外乱により、バックドアの動作が安定しないことがある。詳細には、バックドアの速度の過度な上昇や、バックドアが動かないという状態が起こりえる。
【0005】
本発明は、車両開閉体の開閉装置において、開閉開始時の車両開閉体の安定した動作を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体の開口部を開閉する車体開閉体を開閉駆動する開閉駆動部と、前記開閉駆動部の回転数を検出する回転センサと、前記回転センサからの入力信号に基づいて得られる前記開閉駆動部の回転数から、前記車体開閉体の開閉駆動位置を検出する位置検出部と、前記回転センサからの入力信号に基づいて前記開閉駆動部の回転速度を検出する速度検出部と、前記開閉駆動部を制御する開閉制御部とを備え、前記開閉制御部は、前記車体開閉体が第1開閉位置から第2開閉位置に移動するまでの前記開閉駆動部の目標速度を設定し、前記目標速度は、前記第1開閉位置から始まる加速域と、前記加速域に続く定速域とを備える、目標速度設定部と、前記位置検出部で検出された前記車体開閉体の開閉位置における前記速度検出部で検出された前記開閉駆動部の回転速度を、前記目標速度設定部に設定された前記目標速度に追従させるフィードバック制御における、前記開閉駆動部に供給されるパルス幅変調信号のデューティ比を算出する第1デューティ比算出部と、前記車体開閉体の開閉位置毎に設定された、前記デューティ比に対するオフセット値を記憶し、前記オフセット値は前記第1開閉位置から前記加速域の終了位置に向かって減少するように設定されている、オフセット値算出部と、第1デューティ比算出部で算出された前記デューティ比に前記オフセット値算出部で算出された前記オフセット値を加算した補正デューティ比を算出する第2デューティ比算出部と、前記補正デューティ比を前記開閉駆動部に出力するデューティ比出力部とを備える、車両開閉体の開閉装置を提供する。
【0007】
前記オフセット値は、前記加速域の終了位置よりも前記第1開閉位置側で零になるように設定されている。
【0008】
車体開閉体の開閉開始時には、フィードバック制御のデューティ比そのものではなく、デューティ比にオフセット値を加えた補正デューティ比が開閉駆動部に供給される。そのため、モータ始動時には、コギングトルク、車両開閉体の開閉動作による反力等の外乱によって開閉駆動部が発生する必要があるトルクが増大した場合でも、トルクの増大をオフセット値で相殺できる。その結果、車両開閉体の不安定な動作、つまり速度の過度な上昇、動き出しの遅れ、故障誤検知により車両開閉体が動かない等の不具合を回避できる。
【0009】
前記オフセット値初期値は前記第1開閉位置に応じて異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両開閉体の開閉装置は、開閉開始時の車両開閉体の安定した動作を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るバックドア開閉装置が搭載された車体の後方から見た斜視図。
図2図1のバックドア開閉装置が備えるスピンドルドライブ機構の縦断面図。
図3図1のバックドア開閉装置のブロック図。
図4図3の開閉制御部のブロック図。
図5】バックドアを全閉位置から全開位置まで駆動する場合の目標速度を示す模式的なグラフ。
図6】本発明の実施形態におけるデューティ比に対するオフセット値を示す模式的なグラフ。
図7図3の開閉制御部により実行される制御を説明するためのブロック図。
図8】本発明の実施形態に係るバックドア開閉装置により実行される制御を説明するためのフローチャート。
図9図8の開閉処理の詳細を示すフローチャート。
図10】電動モータの回転回数の推移に対する、電動モータの目標速度、電動モータの回転速度の検出値、オフセット値、デューティ比、及び補正ディーティ比の変化を示す模式的なグラフ。
図11】時間推移に対する、電動モータの目標速度、電動モータの回転速度の検出値、オフセット値、デューティ比、及び補正ディーティ比の変化を示す模式的なグラフ。
図12】オフセット値の第1の代案を示す模式的なグラフ。
図13】オフセット値の第2の代案を示す模式的なグラフ。
図14】オフセット値の第3の代案を示す模式的なグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態のバックドア開閉装置17(図3に示す)が搭載された車体1の後部を示す概略図である。
【0014】
車体1の後部には開口部2が設けられている。この開口部2は、車体開閉体の一例としてのバックドア3によって開閉される。
【0015】
バックドア3の上側端部は、回動軸(図示せず)を介して開口部2の上側縁部に取り付けられている。バックドア3は、この回動軸を中心にして、開口部2を全閉する全閉位置と、開口部2を全開にする全開位置との間を上下方向に回動可能である。バックドア3は、一対のスピンドルドライブ機構(開閉駆動部)4で駆動されて回動する。
【0016】
バックドア3の外側の表面には、バックドア3を開放するときに操作されるドア開スイッチ19が設けられている。また、バックドア3の下側端部の中央には、バックドア3を閉鎖するときに操作されるドア閉スイッチ18が設けられている。さらに、バックドア3の下側端部の中央には、ドア閉スイッチ18に隣接して、ドアラッチ装置20が設けられている。
【0017】
ドアラッチ装置20のラッチ(図示せず)は、バックドア3の閉鎖時、開口部2の下側縁部に設けられたストライカ50に係合して、バックドア3の開方向の回動を禁止する。バックドア3の開放時には、ラッチとストライカ50の係合は解除される。
【0018】
図2を参照すると、各スピンドルドライブ機構4は、電動モータ5等が収容された第1ハウジング6と、スピンドル9等が収容される第2ハウジング7とを備える。
【0019】
第1ハウジング6の一端(図2において右端)には、ドア側連結部材51が固定されている。ドア側連結部材51は、バックドア3に設けたジョイントボール3aと回動可能に連結されている。第1ハウジング6内には電動モータ5が収容されている。電動モータ5の回転軸5aは、減速ギア機構8を介して第2ハウジング7内のスピンドル9に接続されている。
【0020】
第1ハウジング6に収容された回転センサ15は、電動モータ5の回転、より具体的には電動モータ5の回転軸5aの回転を検出する。回転センサ15には、ホール素子を使用する磁気センサ、LED(発光ダイオード)及びPD(フォトダイオード)を使用する光学センサ等が使用できる。回転センサ15の出力信号は、電動モータ5の回転軸5aの回転回数と回転速度の検出のために、制御装置31(図3参照)に入力される。
【0021】
第2ハウジング7は、第1ハウジング6の他端(図2において左端)に連結されている。第2ハウジング7には、スピンドル9とスピンドルナット10が収容されている。スピンドル9にはスピンドルナット10が螺合している。スピンドルナット10は、スピンドル9の正逆回転により第2ハウジング7内を軸方向に往復移動する。スピンドルナット10には、筒状のプッシュロッド11の後端(図2において右端)が固定されている。プッシュロッド11の前端(図2において左端)には、外筒13の前端が固定されている。プッシュロッド11と外筒13は、同軸に配置されている。プッシュロッド11と外筒13の間には、径方向外側にコイルスプリング12が、径方向内側に内筒14がそれぞれ配置されている。内筒14の後端(図2において右端)は第2ハウジング7に固定されている。プッッシュロッド11の前端(図2において右端)には車体側連結部材52が固定されている。車体側連結部材52は車体1に設けたジョイントボール1aと回動可能に連結されている。
【0022】
スピンドルドライブ機構4では、電動モータ5を駆動して回転軸5aを正転させると、スピンドル9が正転し、スピンドルナット10が第2ハウジング7の他端側(図2では左側)へと移動する。これにより、第2ハウジング7に対する外筒13及びプッシュロッド11の突出量が増加し、バックドア3が全開位置に向かって回動する。また、電動モータ5を駆動して回転軸5aを逆転させると、スピンドル9も逆回転し、スピンドルナット10が第2ハウジング7の一端側(図2において右側)へと移動する。これにより、第2ハウジング7に対する外筒13及びプッシュロッド11の突出量が減少し、バックドア3が全閉位置に向かって回動する。
【0023】
図3は、バックドア開閉装置17の構成を説明するためのブロック図である。図3では、図1及び図2の同一の要素には符号を付している。
【0024】
バックドア開閉装置17は、制御装置31を備えている。制御装置31は、CPU、ROM、RAM等のハードウエアと、それに実装されたプログラムによって構築される。この制御装置31には、スピンドルドライブ機構4、ドアラッチ装置20、ドア閉スイッチ18、ドア開スイッチ19、BCM(Body Control Module:ボディコントロールモジュール)25等が電気的に接続されている。また、制御装置31は、BCM25を介して電子キー26と通信し、後述する認証処理を実行する。なお、ドア閉スイッチ18及びドア開スイッチ19に代えて、開閉操作可能なドア開閉操作スイッチを設けてもよい。その他、運転席にあるドライバ用スイッチ、電子キー26にある操作スイッチ等にドア開閉のトリガースイッチとしての機能を持たせてもよい。
【0025】
ドアラッチ装置20は、ラッチを正逆回転駆動するラッチモータ21と、フルラッチスイッチ22と、ハーフラッチスイッチ23と、リリーススイッチ24とを有している。フルラッチスイッチ22、ハーフラッチスイッチ23、及びリリーススイッチ24は、ラッチの位置を検出する。ラッチの位置とは、ラッチがストライカ50に完全に係合する位置(フルラッチ位置)と、ラッチがストライカ50に完全に係合しない位置(リリース位置)と、これらの位置の中間の位置(ハーフラッチ位置)とのうちのいずれかを指す。これらのスイッチ21~24の検出状態は、制御装置31に入力される。
【0026】
ドア閉スイッチ18は、バックドア3を全閉位置に移動させるためのドア閉操作信号を制御装置31へ出力する。ドア閉操作信号が入力され制御装置31は、スピンドルドライブ機構4にPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)信号を出力して、バックドア3を閉方向へ回動させる。
【0027】
ドア開スイッチ19は、バックドア3を全開位置に移動させるためのドア開操作信号を制御装置31へ出力する。ドア開操作信号が入力された制御装置31はスピンドルドライブ機構4にPWM信号を出力して、バックドア3を開方向へ回動させる。
【0028】
制御装置31は、位置検出部101、速度検出部102、及び開閉制御部103を備える。
【0029】
位置検出部101は、回転センサ15からの入力信号に基づいて、電動モータ5の回転回数Cn(n=0,1,2,3・・・)を算出ないし検出する。回転回数Cnは、電動モータ5の回転軸5aが基準の状態から正転又は逆転した回数を意味する。例えば、回転回数Cnはバックドア3の全閉位置を基準として電動モータ5の回転軸5aが正転方向に何回回転しているかを示す。従って、回転回数Cnは、バックドア3が全開位置と全閉位置との間のいずれの開閉位置にあるのかを示す。つまり、位置検出部101は、バックドア3が全開位置から全閉位置までの間のどの開閉位置にあるのかを、回転センサ15からの入力信号に基づいて、算出ないし検出する。以下の説明では、バックドア3の全閉位置に相当する電動モータ5の回転回数を回転回数C1で表し、バックドア3の全開位置に相当する電動モータ5の回転回数を回転数C4で表す。
【0030】
速度検出部102は、回転センサ15からの入力信号に基づいて、電動モータ5の回転速度を検出する。つまり、速度検出部102は、バックドア3が全開位置又は全閉位置に向かって回動する速度を、回転センサ15からの入力信号に基づいて、電動モータ5の回転速度を算出ないし検出する。後述する目標速度Vtagと区別するためには、以下の説明では、速度検出部102によって検出される電動モータ5の回転速度を符号Vdetで表す。
【0031】
開閉制御部103は、一対のスピンドルドライブ機構4を制御する。具体的には、開閉制御部103は、電動モータ5の駆動回路30にPWM信号を供給し、PWM信号のデューティ比を変更することで、電動モータ5の発生するトルクを制御する。より具体的には、開閉制御部103は、速度検出部102で検出されたバックドア3の回転速度Vdetが、目標速度設定部111に記憶された目標速度Vtagに追従するように、スピンドルドライブ機構4の電動モータ5をフィードバック制御の一例であるPID制御により制御する。
【0032】
本実施形態では、一対のスピンドルドライブ機構4のうちの一方が備える回転センサ15の入力信号から回転回数Cnを位置検出部101が検出し、それと並行して速度検出部102が回転速度Vdetを検出し、これらを開閉制御部103でPID制御に使用している。代案としては、一対のスピンドルドライブ機構4の両方の回転センサ15からの入力信号に基づいて位置検出部101が2つの回転回数Cnを、速度検出部102が2つの回転速度Vdetをそれぞれ検出し、これらの平均値を開閉制御部103でPID制御に使用してもよい。
【0033】
図4を併せて参照すると、開閉制御部103は、目標速度設定部111、オフセット値算出部112、第1ディーティ比算出部113、第2デューティ比算出部114、及びデューティ比出力部115を備える。
【0034】
目標速度設定部111は、電動モータ5のPID制御に使用される目標速度Vtag、より具体的には電動モータ5の回転回数Cn(前述のようにバックドア3の開閉位置に相当)と目標速度Vtagの関係を管理している。(全開位置から全閉位置への閉駆動、全閉位置から全開位置への開駆動については、電動モータ5の回転回数Cnと目標速度Vtagの関係を記憶している。一方、途中位置から全開位置へ開方向へ駆動する場合、全閉位置への閉方向に駆動する場合には、電動モータ5の回転回数Cnと目標速度Vtagの関係を算出している。)
【0035】
図5は、目標速度設定部111に記憶されている、回転回数C1から回転回数C4まで回動する場合の目標速度Vtagを示す。バックドア3は回転回数C1で回動を開始し、回転回数C1から回転回数C2の加速域Zaでは、目標速度Vtagは回転回数Cnの増加に伴って増加する。加速域Zaに続く定速域Zc(回転回数C2から回転回数C3)では、目標速度Vtagは回転回数Cnが増加しても一定に保持される。定速域Zcに続く減速域Zd(回転回数C3から回転回数C4)では、目標速度Vtagは回転回数Cnの増加に伴って減少する。バックドア3は回転回数C4で回動を終了する。
【0036】
バックドア3が開方向に回動する場合、回動開始時の回転回数(バックドア3の第1開閉位置)を回転回数C11で表し、全閉位置では回転回数C1に相当する。また、全閉位置と全開位置の間の位置では、回転回数C11で表す。一方、バックドア3の回動終了時の回転回数(バックドア3の第2開閉位置)を回転回数C14で表し、この場合には、回転回数C14は、バックドア3の全開位置に相当する。また、バックドア3が閉方向に回動する場合、回動開始時の回転回数C11は全開位置では、回転回数C4に相当する。又は全閉位置と全開位置の間の位置では、回転回数C14で表す。バックドア3の回動終了時の回転回数C14はバックドア3の全閉位置C1に相当する。
【0037】
第1デューティ比算出部113は、回転センサ15からの入力信号に基づいて、速度検出部102によって検出された電動モータの回転速度Vdet(バックドア3の開閉速度に対応)を、目標速度設定部111で設定された目標速度Vtagを追従させるPID制御における、電動モータ5の駆動回路30に供給されるPWM信号のデューティ比を算出する。後述する補正デューティ比Duty_amと区別するために、第1デューティ比算出部113で算出されるデューティ比について符号Duty_orgを使用する。
【0038】
PID制御の概念は、以下の式(1)で表すことができる。
【0039】
【数1】
u(t):時刻tにおけるPWM デューティ比の操作量
e(t):時刻tにおける目標速度に対する検出された回転速度の差分
kp:比例ゲイン
Ki:積分ゲイン
Kd:微分ゲイン
【0040】
第1デューティ比算出部113で算出されるデューティ比Duty_orgは、前回のデューティ比Duty_orgに、式(1)の時刻tにおけるPWM デューティ比の操作量u(t)を加算したものに相当する。つまり、デューティ比Duty_orgについて以下の式(2)が成立する。
【0041】
【数2】
【0042】
デューティ比Duty_orgの初期値、つまりPID制御による電動モータ5の駆動開始時のデューティ比Duty_org0は、予め定められた固定値である。
【0043】
オフセット値算出部112は、デューティ比Duty_orgに対するオフセット値Duty_ostを設定している。オフセット値Duty_ostは電動モータ5の回転回数Cn毎に設定されている。
【0044】
図6は、本実施形態における、バックドア3を全閉位置C1から開方向C4に回動する場合のオフセット値Duty_ostを示す。この場合、回転回数C11(バックドア3の第1の開閉位置)は回転回数C1に相当し、回転回数C14(バックドア3の第2の開閉位置)は回転回数C4に相当する。図5も併せて参照すると、オフセット値Duty_ostは、回転回数C1において初期値Duty_ost0に設定されている。オフセット値Duty_ostは、回転回数C1から加速域Zaの終了位置、つまり回転回数C2に向かって減少するように設定されている。また、オフセット値Duty_ostは加速域Zaの終了位置、つまり回転回数C2よりも回転回数C1側の回転回数C21において零になるように設定されている。オフセット値Duty_ostは、回転回数C21においていったん零となった後、つまり補正域Zaの終了後は、回転回数C4まで零に維持される。本実施形態では、オフセット値Duty_ostは、回転回数C1の初期値Duty_ost0から回転回数C20(回転回数C21よりも回転回数C1側)まで、回転回数Cnの変化に対して一定の割合で減少し、回転回数C20から回転回数21までは、より小さい一定の割合で減少している。
【0045】
回転回数C1における初期値Duty_ost0が零になるまでの補正域Zaの長さは、加速域Zaの長さに応じて適宜設定できる。例えば、下限値を0.1倍とし、上限値は0.9倍と設定してもよい。
【0046】
第2デューティ比算出部114は、第1デユーティ比算出部113で算出されたデューティ比Duty_orgにオフセット値算出部112に記憶されたオフセットDuty_ostを加算した補正デューティ比Duty_amを算出する。
【0047】
デューティ比出力部115は、第2デューティ比算出部114で算出された補正デューティ比Duty_amを、スピンドルドライブ機構4、より具体的には電動モータ5の駆動回路30に出力する。
【0048】
前述のように補正域Zamを超えると、オフセット値Duty_ostは零に維持される。従って、補正域Zamを超えると、補正デューティ比Duty_amは第1デューティ比算出部113で算出されたデューティ比Duty_orgと等しい。言い換えれば、補正域Zamを超えると、第1デューティ比算出部113で算出されたデューティ比Duty_orgが、そのままスピンドルドライブ機構4に出力される。
【0049】
図7を参照すると、第1デューティ比算出部113で算出されたデューティ比Duty_orgにオフセット値Duty_ostを加算した補正デューティDuty_amは、スピンドルドライブ機構4には出力されるが、速度検出部102で検出された電動モータ5の回転速度Vdetと目標速度Vtagの差分に基づいたデューティ比Duty_orgの算出には使用されない。
【0050】
次に、図8及び図9のフローチャートを参照して、制御装置31により実行されるスピンドルドライブ機構4の制御を説明する。
【0051】
図8のステップS101において、ドア開スイッチ19からのドア開操作信号が入力されると、ステップS102において電子キー26の認証処理が実行される。この認証処理では、制御装置31がBCM25に電子キー26の認証を要求する。BCM25は、電子キー26に対して認証コードの送信要求を行った後、図示しない照合手段が、電子キー26から受信した認証コードと、予め登録されている正規コードとを比較し、この比較の結果を制御装置31に送信する。制御装置31は、上記比較の結果に基づいて、認証コードが正規コードと一致していれば認証処理を成功とし、使用者がドア開スイッチ19を操作したと判定して、認証処理が完了し、次のステップに進む。なお、認証処理が失敗に終わったとき、または、上記認証コードが上記正規コードと不一致であるとき、制御が終了する。
【0052】
認証処理が成功した場合、ステップS103で、ラッチとストライカ50との係合を解除するためのラッチリリース信号をドアラッチ装置20に出力する。これにより、ラッチモータ21が駆動する。
【0053】
次に、ステップS104で、ラッチがストライカ50に完全に係合しない位置(リリース位置)にあるか否か、つまりバックドア3は安全に開放できる状態であるか否かが判定される。
【0054】
ステップS104でリリース位置が検出されると、ステップS105において、開閉制御部104によるバックドア3の開方向の回動処理(ドア開駆動処理)が実行される。
【0055】
ドア開駆動処理では、フィードバック制御を行うため、まず、図9のステップS201において、駆動回路30に供給するPWM制御のデューティ比が決定され、ステップS202において、そのPWM信号が駆動回路30に供給され、電動モータ5が駆動される。
【0056】
次に、図9のステップS203において、位置検出部101が、回転センサ15から入力される信号に基づいて、電動モータ5の回転回数Cn(バックドア3の開閉位置に相当)を検出する。また、ステップS204において、速度検出部102が、同じく回転センサ15から入力される信号に基づいて、電動モータ5の回転速度Vdet(バックドア3の速度に相当)を検出する。
【0057】
次に、ステップS205において、第1デューティ比算出部113は、ステップS201で検出した回転回数Cnにおける目標速度Vtagを目標速度設定部111から取得する。また、ステップS204において、第1デューティ比算出部113は、ステップS202で検出した回転速度VdetとステップS203で取得した目標速度Vtagを使用し、デューティ比Durty_orgを算出する。
【0058】
次に、ステップS207において、第2デューティ比算出部114は、ステップS201で検出した回転回数Cnにおけるオフセット値Duty_ostをオフセット値算出部112から取得する。また、第2デューティ比算出部114は、取得したオフセット値Duty_ostをステップS206で算出したデューティ比Durty_orgに加算して補正デューティ比Duty_amを算出する。なお、駆動開始時は、電動モータ5は回転していないため、回転回数Cn及び回転速度Vdetは零であり、補正デューティ比Duty_amは、Duty_org0にDuty_ost0が加算された数値となる。
【0059】
ステップS208において、ステップS205で算出された補正デューティ比Duty_amがデューティ比出力部115から駆動回路30に供給され、電動モータ5が駆動される。
【0060】
次に、ステップS209において、回転センサ15から入力される信号に基づいて、電動モータ5の回転回数Cn(バックドア3の開閉位置に相当)が検出される。
【0061】
ステップS210において、ステップS207で検出した電動モータ5の回転回数Cnが回転回数C4(バックドア3の全開位置に相当)に達したと判断されるまで、ステップS204~S209の処理が繰り返される。
【0062】
図10及び図11のグラフは、本実施形態のバックドア開閉装置17の動作の、全閉から開方向に駆動した場合の概念的な一例を示す。図10のグラフの横軸は電動モータ5の回転数である。図10では、電動モータ5の回転開始、つまりバックドア3の回動開始位置である全閉位置の回転回数C1から加速域Zaの終了(回転回数C2)までと、定速域Zcの一部を示している。図11のグラフは、図10のように電動モータ5が回転した場合について、横軸を時間として表している。
【0063】
図10を参照すると、第1デューティ比算出部113で算出されるPID制御のデューティ比Duty_orgは、加速域Zaの最初の領域では駆動開始時の初期値Duty_org0から徐々に増加する。この徐々に増加するデューティ比Duty_orgに対して、補正域Zamではオフセット値Duty_ostが加算された補正デューティ比Duty_amが電動モータ5の駆動回路30に供給される。オフセット値Duty_ostは駆動開始時の初期値Duty_ost0が最も大きく、その後は徐々に減少する。そのため、検出速度Vdetは電動モータ5の始動時は、目標速度Vdetを比較的大きな差分で上回るが、その後、速やかに目標速度Vdetに追従する。
【0064】
図11を参照すると、時刻t0~t1の期間、例えばコギングトルクの影響で電動モータ5は回転していない。この時刻t0~t1の期間の期間も第1デューティ比算出部113で算出されるPID制御のデューティ比Duty_orgは徐々に増加する。一方、この時刻t0~t1の期間、電動モータ5は回転していないのでオフセット値Duty_ostは初期値Duty_ost0に維持される。つまり、時刻t0~t1の期間、徐々に増加するデューティ比Duty_orgにオフセット値の初期値Duty_ost0を加えたものが補正デューティ比Duty_amとして電動モータ5の駆動回路30に出力される。
【0065】
時刻t1を経過すると電動モータ5が回転を開始し、時刻t1~t2の期間に回転回数C1から回転回数C20まで低速で回転する。時刻t2以降、電動モータ5の回転速度が上昇する。時刻t3に電動モータ5が回転回数C21に達するとオフセット値Duty_ostが零になるので(図6及び図10参照)、それ以降は、電動モータ5の駆動回路30に出力される補正デューティ比Duty_amは、デューティ比Duty_orgと等しくなる。
【0066】
バックドア3の開閉開始時、つまり電動モータ5の始動時に、電動モータ5のコギングトルク、バックドア3の開閉動作による反力等の外乱によりバックドア3を回動させるために電動モータ5が発生すべきトルクが増大している場合がある。この場合、
仮にデューティ比Duty_org(初期値Duty_org0)をそのまま電動モータ5の駆動回路30に供給してPID制御を開始したとすると、電動モータ5の発生するトルクが不足し、それに起因して電動モータ5の回転(バックドア3の動作)が安定しない。詳細には、電動モータ5の回転速度の過度な上昇(バックドア3の速度の過度な上昇)、電動モータ5の回転開始の遅れ(バックドア3の動き出しの遅れ)、故障誤検知により電動モータ5が回転しない(バックドアが動かない)等の状態が起こりえる。
【0067】
これに対して、本実施形態では、電動モータ5の始動時にPID制御のデューティ比Duty_orgをそのまま電動モータ5の駆動回路30に供給するのではなく、PID制御のデューティ比Duty_orgにオフセット値Duty_ostを加算した補正デューティ比Duty_amを電動モータ5の駆動回路30に供給している。デューティ比Duty_orgに加算するオフセット値Duty_ostにより、電動モータ5のコギングトルク、バックドア3の開閉動作による反力等の外乱に起因する電動モータ5が発生すべきトルクの増大を相殺できる。その結果、電動モータ5の回転速度の過度な上昇(バックドア3の速度の過度な上昇)、電動モータ5の回転開始の遅れ(バックドア3の動き出しの遅れ)、故障誤検知により電動モータ5が回転しない(バックドアが動かない)等の不具合を回避できる。
【0068】
また、PID制御のデューティ比Duty_orgにオフセット値Duty_ostを加算した補正デューティ比Duty_amを電動モータ5の駆動回路30に出力する補正域Zamは、加速域Zaよりも短い。そのため、オフセット値Duty_ostの加算が、定速域Zcにおける振動や定常偏差の増大を招かない。
【0069】
図12から図14は、オフセット値Duty_ostの代案を示す。図12では、オフセット値Duty_ostは、回転回数C11(バックドア3の第1開閉位置)における初期値Duty_ost0から補正期間終了の回転回数C21で零になるまで一定の割合で減少している。図13では、オフセット値Duty_ostは、回転回数C11における初期値Duty_ost0から補正期間終了の回転回数C21で零になるまで、4段階で段階的に減少している。図14では、オフセット値Duty_ostは、回転回数C1における初期値Duty_ost0から補正期間終了の回転回数C21で零になるまで、凹曲線状の特性を示して減少している。
【0070】
オフセット値Duty_ostの初期値Duty_ost0は、バックドア3の回動開始時の回転回数C11(バックドア3の第1開閉位置)に応じて異ならせてもよい。回動方向に関係なく、バックドア3の回動開始時に回転回数C11が、全閉位置側となるにつれて電動モータ5が発生する必要のトルクが大きくなり、全開位置側になるにつれて小さくなる傾向がある。そのため、バックドア3の回動開始時の回転回数C11が全閉位置側の初期値Duty_ost0を、バックドア3の回動開始時の回転回数C11が全開位置側の初期値Duty_ost0よりも大きく設定することで、バックドア3を回動させる際の開閉開始時のバックドア3の動作をより安定させることができる。
【0071】
本発明は、バックドアに限定されず、ガルウィングドア、スライドドアのような他の車体開閉体の開閉装置や、蝶番を軸に開閉する開き戸、水平方向に旋回する引き戸のような一般的なドアの開閉装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0072】
1 車体
1a ボールジョイント
2 開口部
3 バックドア(開閉体)
3a ジョイントボール
4 スピンドルドライブ機構(開閉駆動部)
5 電動モータ
5a 回転軸
6 第1ハウジング
7 第2ハウジング
8 減速ギア機構
9 スピンドル
10 スピンドルナット
11 プッシュロッド
12 コイルスプリング
13 外筒
14 内筒
15 回転センサ
17 バックドア開閉装置(車両開閉体の開閉装置)
18 ドア閉スイッチ
19 ドア閉スイッチ
20 ドアラッチ装置
21 ラッチモータ
22 フルラッチスイッチ
23 ハーフラッチスイッチ
24 リリーススイッチ
25 BCM
26 電子キー
31 制御装置
50 ストライカ
51 ドア側連結部材
52 車体側連結部材
101 位置検出部
102 速度検出部
103 開閉制御部
111 目標速度設定部
112 オフセット値設定部
113 第1デューティ比算出部
114 第2デューティ比算出部
115 デューティ比出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図13
図14